(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/167 20060101AFI20230502BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20230502BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B23K9/167 D
B23K9/095 501F
B23K9/095 505C
B23K9/127 507L
(21)【出願番号】P 2019017205
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2022-01-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋嘉比 圭太
(72)【発明者】
【氏名】蘭 韋明
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-065052(JP,A)
【文献】特開2005-144458(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/167
B23K 9/095
B23K 9/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接処理を実行する溶接トーチと、
前記溶接トーチに溶接線に沿う前進動作および後進動作による往復動作を含む周期的動作をさせる駆動部とを備え、
前記周期的動作の1サイクルの経路は
、前記溶接トーチの進行順に従う前側の経路と後側の経路とで構成され、
前記前側の経路におけるアークを、前記後側の経路におけるアークより小さくするアーク制御部をさらに備える、溶接装置。
【請求項2】
前記駆動部は、前記溶接トーチに前記溶接線に対して垂直方向にウィービング動作させる、請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記ウィービング動作の1サイクルにおいて前記溶接トーチに前記溶接線に対して3回交差するようにウィービング動作させる、請求項2記載の溶接装置。
【請求項4】
前記駆動部による前記溶接トーチの前記ウィービング動作に従って描かれる軌跡は、リサージュ曲線である、請求項3記載の溶接装置。
【請求項5】
前記溶接線に対して垂直方向の幅を規定する第1パラメータと前記溶接線方向の長さを規定する第2パラメータとに基づいて前記軌跡を設定する設定部をさらに備える、請求項4記載の溶接装置。
【請求項6】
溶接電流を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて前記溶接線に対する前記溶接トーチのずれを補正する補正部とをさらに備える、請求項2記載の溶接装置。
【請求項7】
前記検出部は、
前記前側の経路における溶接電流を検出し、
前記後側の経路における溶接電流を検出しない、請求項6記載の溶接装置。
【請求項8】
前記アーク制御部は、
前記前側の経路における電流および電圧の少なくとも一方を、前記後側の経路における電流および電圧の少なくとも一方よりも小さくする、請求項1記載の溶接装置。
【請求項9】
溶接処理を実行する溶接トーチに溶接線に沿う前進動作および後進動作による往復動作を含む周期的動作をさせるステップと、
前記周期的動作の1サイクルの経路は
、前記溶接トーチの進行順に従う前側の経路と後側の経路とで構成され、
前記前側の経路におけるアークを、前記後側の経路におけるアークより小さくするステップとを備える、溶接方法。
【請求項10】
前記前側の経路におけるアークを、前記後側の経路におけるアークより小さくするステップは、前記前側の経路における溶接電圧を所定電圧以下にし、前記後側の経路における溶接電圧を前記所定電圧以上にするステップを含む、請求項9記載の溶接方法。
【請求項11】
前記周期的動作をさせるステップは、
前記前進動作時は前記溶接トーチと溶接処理対象の母材との距離を小さくするステップと、
前記後進動作時は前記溶接トーチと前記母材との距離を大きくするステップとをさらに含む、請求項9記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接欠陥を抑制するために凝固割れを抑制することが重要である。凝固割れは、凝固時の収縮ゆがみが作用して起こる割れである。
【0003】
この点で、凝固割れを抑制する方式として特開平6-71435号公報においては、溶接トーチを半月ループ状に移動させながら溶接する方式が提案されている。また、特開2005-144458号公報においては、溶接トーチの別の移動方式として溶接線方向に繰り返しスイッチバック(往復動作)する方式も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-71435号公報
【文献】特開2005-144458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方式では、例えば部材間の狭い開先に対する溶接処理では凝固割れが生じる可能性があり、溶接品質が低下する。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接品質を向上させることが可能な溶接装置および溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の溶接装置は、溶接処理を実行する溶接トーチと、溶接トーチに溶接線に沿う往復動作を含む周期的動作をさせる駆動部とを備える。周期的動作の1サイクルの経路は、前側の経路と後側の経路とで構成される。溶接装置は、前側の経路におけるアークを、前記後側の経路におけるアークより小さくするアーク制御部をさらに備える。
【0008】
本開示の溶接方法は、溶接処理を実行する溶接トーチに溶接線に沿う往復動作を含む周期的動作をさせるステップと、周期的動作の1サイクルの経路は、前側の経路と後側の経路とで構成され、前側の経路におけるアークを、後側の経路におけるアークより小さくするステップとを備える。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本開示の溶接装置および溶接方法によれば、溶接品質を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に基づく溶接装置1を説明する図である。
【
図2】凝固割れのメカニズムについて説明する図である。
【
図3】溶接トーチ30の移動について説明する図である。
【
図4】溶接トーチ30の周期的動作に伴う溶接金属の状態を説明する図である。
【
図5】アーク制御のイメージを説明する概念図である。
【
図6】溶接条件としてアークが小さい場合の溶接トーチの周期的動作を説明する図である。
【
図7】溶接条件としてアークが大きい場合の溶接トーチの周期的動作を説明する図である。
【
図8】実施形態1に基づく溶接トーチ30のアーク制御について説明する図である。
【
図9】実施形態1に基づく溶接装置1の溶接処理について説明するフロー図である。
【
図10】実施形態2に従う溶接装置1のアークセンサ機能について説明する図である。
【
図11】実施形態2に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【
図12】部材100Aおよび部材100Bの部材間に溶接トーチ30が配置されて部材間を溶接する別の場合について説明する図である。
【
図13】実施形態2に従う設定部64による溶接トーチ30の設定軌跡について説明する図である。
【
図14】実施形態2に従う溶接トーチ30の溶接処理における移動軌跡を説明する図である。
【
図15】実施形態2に従う溶接トーチ30のウィービング動作の1サイクルにおける溶接電流の変化を説明する図である。
【
図16】実施形態2に基づく溶接装置1の溶接処理について説明するフロー図である。
【
図17】実施形態2に基づくアークセンサ処理のサブルーチンを説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
(実施形態1)
<溶接装置の全体構成>
図1は、実施形態1に基づく溶接装置1を説明する図である。
【0013】
図1を参照して、実施形態1に基づく溶接装置1は、工場内の床面などに据え付けられた溶接ロボット20と、溶接電源装置13と、溶接制御装置10と、ワイヤ送給装置40と、溶接電流計測器50とを備えている。ここで、溶接ロボット20は、溶接ワイヤWと部材100との間に発生させたアーク放電による熱を利用して溶接を行うためのアーク溶接ロボットである。溶接ロボット20は、各々が所定の方向に回動する複数の関節を介して連結された連結アーム21と、連結アーム21の先端部に取り付けられた溶接トーチ30と、連結アーム21を動作させて溶接トーチ30を移動させるアクチュエータ22とを備えた多関節型ロボットである。ワイヤ送給装置40は、アーク溶接が行われる際に、所定の速度で溶接ワイヤWを繰り出し、溶接トーチ30に供給されるように構成されている。
【0014】
溶接制御装置10は、溶接ロボット20および溶接電源装置13の動作制御を行うために設けられている。
【0015】
溶接制御装置10は、複数の機能ブロックを有する。具体的には、溶接制御装置10は、溶接電源制御部11と、溶接制御部14と、記憶部62と、ロボット動作制御部15と、アークセンサ制御部16と、A/D変換部12と、設定部64とを含む。
【0016】
記憶部62は、各種のプログラムおよびデータを記憶する。
設定部64は、外部から入力されるパラメータに従って溶接トーチ30の軌跡を設定する。
【0017】
溶接制御部14は、記憶部62に格納されているプログラムに基づいて溶接動作を実行する。溶接制御部14は、記憶部62に格納されている溶接条件および設定部64で設定された軌跡に基づいて溶接動作を実行するために各部に対する各種指示を出力する。
【0018】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対して、アークを制御するための指令信号を出力する。指令信号は、溶接ワイヤWの送給速度を規定する指令電流信号と、アークの両端間の電圧を規定する指令電圧信号とを含む。
【0019】
溶接電源装置13は、溶接制御装置10からの制御指令に基づいて所定の動作を行うように構成されている。
【0020】
溶接電源装置13は、ワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を制御する機能を有するとともに、給電ケーブルCB(+)およびCB(-)を用いて溶接トーチ30および部材100間に所定の大きさの電力(入熱)を供給する機能を有している。具体的には、溶接電圧印加用の給電ケーブルCB(+)がワイヤ送給装置40と接続され、給電ケーブルCB(-)が部材200と接続される。溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に対応して調整された電力をワイヤ送給装置40に出力して、溶接ワイヤWと部材100との間にアーク放電を発生させるように構成されている。
【0021】
溶接電流計測器50は、給電ケーブルCB(-)側に設けられ、溶接動作が行われている際の溶接電流を計測する。溶接電流計測器50は、計測結果を溶接制御装置10にフィードバックする。A/D変換部12は、溶接電流計測器50からのアナログ信号をデジタル信号に変換して、溶接制御部14に出力する。
【0022】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対してワイヤ送給装置40から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を調整するための指令電流信号を出力する。指令電流信号は電流値を指令する。溶接ワイヤWの供給速度は、指令の電流値により規定される。ワイヤ送給装置40は、溶接電源装置13からの指令電流信号に従って溶接ワイヤWの供給速度を調整する。
【0023】
アークセンサ制御部16は、アークセンサ機能によりロボット動作制御部15に対して所定の動作を実行するように指示する。
【0024】
ロボット動作制御部15は、溶接制御部14からの指示に従ってアクチュエータ22を制御する。ロボット動作制御部15は、アクチュエータ22に対して溶接トーチ30を位置制御するための動作指令を出力する。アクチュエータ22は、溶接制御装置10から送信された動作指令に基づいて連結アーム21および溶接トーチ30を動作させ、溶接トーチ30を所定の位置に動作させる。
【0025】
なお、溶接電源制御部11、溶接トーチ30、溶接電流計測器50、設定部64およびアクチュエータ22は、本開示の「アーク制御部」、「溶接トーチ」、「検出部」、「設定部」および「駆動部」の一例である。
【0026】
<凝固割れのメカニズム>
図2は、凝固割れのメカニズムについて説明する図である。
【0027】
図2(A)に示されるように、溶接金属は、凝固の過程で母材により急冷される。開先断面視で見た場合、溶接金属内部には、高さ方向に延び、かつ溶接線方向に延びる面状の液状部が発生する。液状部の凝固時には面に略直交する方向に引っ張り応力が加わる。
【0028】
図2(B)に示されるように、溶接金属内部が当該引っ張り応力に負けて剥離した場合に、凝固割れ(梨形ビード割れ)が生じる。
【0029】
<溶接の周期的動作>
図3は、溶接トーチ30の移動について説明する図である。
【0030】
図3(A)を参照して、供給された溶接ワイヤWは、溶接トーチ30の先端にあるコンタクトチップ31にガイドされ、母材(部材100Aおよび部材100B)に向けて送り出される。コンタクトチップ31は、溶接ワイヤWへ溶接電流を供給する。これにより、アークAが生じる。なお、溶接トーチ30の先端と母材との距離、換言するとコンタクトチップ31と母材との距離を突き出し距離Hという。
【0031】
本例においては、部材間の溶接線Lに沿って溶接トーチ30が所定の速度で進行方向に移動して往復動作を含みながら周期的に動作(周期的動作)する様子が示されている。
【0032】
周期的動作は、経路a-bあるいはd-eでの動作である前進動作と、経路b-c-dでの動作である後進動作とを含む。
【0033】
周期的動作の1サイクルの経路は、
図3(A)に示される経路a-b-c-d-eである。
本例においては、溶接線Lに対して垂直方向から視た(以下、側面視という)溶接トーチ30の先端動作が描かれている。溶接線Lに対して垂直方向とは、溶接線Lと溶接トーチ30の高さ方向とに対して垂直な方向を意味する。
【0034】
溶接トーチ30は、溶接線Lに沿う進退動作を行う際、前進では下方に傾斜して移動し、後進では上方に傾斜して移動する。溶接トーチ30が下方に傾斜して移動とは、溶接トーチ30が溶接線方向への移動とともに母材との距離が小さくなることを意味する。溶接トーチ30が上方に傾斜して移動とは、溶接トーチ30が溶接線方向への移動とともに母材との距離が大きくなることを意味する。なお、溶接トーチ30は、上下方向に傾斜することなく移動してもよい。
【0035】
溶接トーチ30が周期的動作することにより、作成した溶接金属の上に、溶接金属が重畳する。したがって、作成した溶接金属の表面を重畳した溶接金属が再度溶かすことになる。
【0036】
図3(B)には、部材100Aおよび100Bを上面視した場合の溶接トーチ30の移動軌跡が実線および点線で示されている。実線は前進方向の移動であり、点線は後進方向の移動を示している。
【0037】
本例においては、部材100Aおよび100Bの開先の中心である溶接線Lに沿って溶接トーチ30が周期的動作しながら進行方向に移動する軌跡が示されている。
【0038】
図3(B)では、前進動作の経路と後進動作の経路とが異なっているが、両者の経路が同一であってよい。周期的動作の経路は、トーチ進行の順で前側の経路と後側の経路とより成る。
【0039】
図3(A)を参照して、前側の経路はa-b-cの経路であり、後側の経路はc-d-eの経路である。
【0040】
図3(C)には、溶接トーチ30の周期的動作に従うアーク制御に用いる指令電圧信号に従う溶接電圧の変化が示されている。
【0041】
縦軸が溶接電圧であり、横軸が経路の位置を指し示す。
本例においては、経路a-b-c-d-eにおける指令電圧信号に従う溶接電圧の変化が示されている。
【0042】
具体的には、周期的動作する際の前側の経路におけるアークを周期的動作する後側の経路におけるアークより小さくする。
【0043】
より具体的には、指令電圧信号を調整して前側の経路に対応する経路a-cにおける溶接電圧を所定電圧ET以下に設定し、後側の経路に対応する経路c-eにおける溶接電圧を所定電圧ET以上に設定する。
【0044】
図4は、溶接トーチ30の周期的動作に伴う溶接金属の状態を説明する図である。
図4(A)には、周期的動作の前側の経路で作成される溶接金属が示されている。
図2で説明したように、溶接金属は凝固の過程で母材により急冷される。開先断面視で見た場合、溶接金属内部には、高さ方向に延び、かつ溶接線方向に延びる面状の液状部が発生する。液状部の凝固時には面に略直交する方向に引っ張り応力が加わる。
【0045】
図4(B)には、周期的動作の後側の経路で作成される溶接金属が示されている。後側の経路の作成の際に前側の経路で作成した溶接金属の表面が溶かされる。したがって、溶接金属の凝固方向が、液状部に直交する横方向から上方向に変化する。当該凝固方向の変化により液状部の面に略直交する方向の引っ張り応力が弱まり、凝固割れを抑制することが可能である。
【0046】
しかしながら、溶接品質を向上させるためには、溶接トーチ30の周期的動作とともに溶接条件として溶接トーチ30のアークを制御する必要がある。
【0047】
<アーク制御の説明>
図5は、アーク制御のイメージを説明する概念図である。
【0048】
図5(A)には、アークAが小さい場合が示されている。
図5(B)には、アークAが大きい場合が示されている。アークAが小さいとは、溶接ワイヤWが伸びる方向に直交する方向のアークAの幅が小さいことを意味する。アークAが大きいとは、溶接ワイヤWが伸びる方向に直交する方向のアークの幅が大きいことを意味する。当該図に示されるようにアークAが小さい場合には、アークAが収縮し、アーク力が集中する。一方、アークAが大きい場合には、アークAが広がり、アーク力が分散する。
【0049】
従って、アークAが小さい場合には溶け込みが深くなりアンダーカットになりにくい。一方、アークAが大きい場合には溶け込みが浅くなり、アンダーカットになりやすい。
【0050】
図6は、溶接条件としてアークが小さい場合の溶接トーチの周期的動作を説明する図である。
【0051】
図6(A)には、溶接トーチ30の前側の経路においてアークが小さい場合の溶接金属が示されている。当該図に示されるように、溶け込みが深く、残留ルートは小さいため継ぎ手強度が上がる。
【0052】
図6(B)には、溶接トーチ30の後側の経路においてアークが小さい場合の溶接金属が示されている。当該図に示されるように、前側の経路で生成された溶接金属の上に後側の経路で生成された溶接金属が重畳される。したがって、前側の経路で生成された溶接金属の凝固割れは、凝固方向の変化により抑制される。一方で、アークが小さい場合には、アークが収縮するため溶接金属の形状が細くなる。これにより、溶接金属内部には、高さ方向に延び、かつ溶接線方向に延びる面状の液状部が発生し、引っ張り応力により凝固割れが生じる可能性がある。
【0053】
図7は、溶接条件としてアークが大きい場合の溶接トーチの周期的動作を説明する図である。
【0054】
図7(A)には、溶接トーチ30の前側の経路においてアークが大きい場合の溶接金属が示されている。当該図に示されるように、溶け込みが浅く、残留ルートは大きいため継ぎ手強度が下がる。
【0055】
図7(B)には、溶接トーチ30の後側の経路においてアークが大きい場合の溶接金属が示されている。当該図に示されるように、前側の経路で生成された溶接金属の上に後側の経路で生成された溶接金属が重畳される。したがって、前側の経路で生成された溶接金属の凝固割れは、凝固方向の変化により抑制される。一方で、アークが大きい場合には、アークが広がるため溶接金属の形状は太くなる。これにより、溶接金属内部には、幅方向に延び、かつ溶接線方向に延びる面状の液状部が発生する。この液状部の形状のため、凝固方向が上向きに変化するため引っ張り応力による凝固割れは生じにくい。
【0056】
図8は、実施形態1に基づく溶接トーチ30のアーク制御について説明する図である。
実施形態1の溶接装置1は、溶接トーチ30の周期的動作においてアークを制御する。具体的には、溶接トーチ30が周期的動作する前側の経路におけるアークの大きさを後側の経路におけるアークの大きさ以下の大きさとする。より具体的には、指令電圧信号を調整して前側の経路に対応する経路a-cにおける溶接電圧を所定電圧ET以下に設定し、後側の経路に対応する経路c-eにおける溶接電圧を所定電圧ET以上に設定する。
【0057】
図8(A)に示されるように、溶接トーチ30が前側の経路にある時はアークを小さくする。これにより、
図6(A)で説明したように溶け込みを深くし、継ぎ手強度を上げることが可能である。
【0058】
図8(B)に示されるように、溶接トーチ30が後側の経路にある時はアークを大きくする。これにより、
図7(B)で説明したように、前側の経路で生成された溶接金属の上に後側の経路で生成された溶接金属が重畳されるため前側の経路で生成された溶接金属の凝固割れは、凝固方向の変化により抑制される。そして、アークが広がるため溶接金属の形状は太くなる。溶接金属内部には、幅方向に延び、かつ溶接線方向に延びる面状の液状部が発生する。この液状部の形状のため、凝固方向が上向きに変化するため引っ張り応力による凝固割れを抑制することが可能である。
【0059】
当該方式により、継ぎ手強度を上げるとともに、溶接金属の凝固割れを抑制し、溶接品質を向上させることが可能である。
【0060】
図9は、実施形態1に基づく溶接装置1の溶接処理について説明するフロー図である。
図9を参照して、溶接装置1は、溶接を開始する(ステップS0)。具体的には、溶接制御部14は、記憶部62に保存されている溶接条件に従って溶接処理を実行するために溶接電源制御部11およびロボット動作制御部15に対して指示する。
【0061】
溶接電源制御部11は、溶接制御部14からの指示に従って溶接電源装置13に対して溶接処理におけるアークを設定するための指令信号を出力する。アークの大きさは、溶接電流、或いは溶接電圧により設定される。溶接電流は溶接ワイヤWの供給速度に比例するので、溶接ワイヤ供給速度の調整により溶接電流調整を行う。従って、アークを設定するための指令信号は、溶接ワイヤWの供給速度を規定する指令電流信号と、溶接電圧を設定する指令電圧信号を含む。
【0062】
溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に従ってワイヤ送給装置40に対して溶接ワイヤWの供給速度を規定する指令電流を出力する。また、溶接電源装置13は、溶接電源制御部11からの指令信号に対応する電圧値を溶接ロボット20に出力して、溶接ワイヤWと部材100との間にアーク放電を発生させる。
【0063】
次に、溶接装置1は、溶接トーチ30の移動処理を実行する(ステップS2)。具体的には、溶接制御部14は、一定速度で溶接線Lに沿って進行方向に移動させる。
【0064】
次に、溶接装置1は、進行方向への移動開始と同時に溶接トーチ30の周期的動作処理を実行する(ステップS4)。具体的には、溶接制御部14は、周期的動作処理として、前進方向に進んだ後に後進方向に進み、その後、前進方向に進む処理を実行する。
図3(A)に示される例では、経路a-bを前進方向に進み、次に経路b-c-dを後進方向に進み、その後、経路d-eを前進方向に進む処理を実行する。
【0065】
次に、溶接装置1は、アーク調整処理を実行する(ステップS6)。具体的には、溶接制御部14は、溶接トーチ30が周期的動作経路(a-b-c-d-e)の前側の経路(a-b-c)にあるときはアークを小さくし、後側の経路(c-d-e)にあるときは、アークを大きくする処理を溶接電源制御部11に指示して実行する。溶接電源制御部11は、溶接電源装置13に指示して溶接トーチ30が周期的動作経路の前側の経路にあるときはアークを小さくし、後側の経路にあるときはアークを大きくする処理を実行する。
【0066】
例えば、アークを小さくするために供給する電圧あるいは電流の少なくとも一方を後側の経路よりも小さくし、アークを大きくするために供給する電圧あるいは電流の少なくとも一方を前側の経路よりも大きくしても良い。例えば、
図3(C)に示されるように、アーク調整処理は、周期的動作動作の経路(a-b-c-d-e)の前側の経路(a-b-c)では溶接電圧を所定電圧ET以下とし、後側の経路(c-d-e)では所定電圧ET以上とする処理であってよい。なお、前側の経路と後側の経路とを繋ぐ位置a、c、eでの溶接電圧は等しい。
【0067】
アーク調整処理は、溶接トーチ30の溶接線Lに沿う動作の方向に応じて、溶接トーチ30の高さ(母材との距離)を変える処理であってもよい。詳細には、
図3(A)に示されるように、溶接トーチ30は、溶接線Lに沿う周期的動作において、前進動作に伴って母材に近づくように動作され、後進動作に伴って母材から離れるように動作される。アークAは溶接ワイヤWの先端から母材に向かって末広がりの形状となるので、この処理により、前進動作ではアークAは小さく、後進動作ではアークAは大きくなる。
【0068】
そして、溶接装置1は、溶接処理が終了したか否かを判断する(ステップS8)。
ステップS8において、溶接装置1は、溶接処理が終了したと判断した場合(ステップS8においてYES)には、終了する(エンド)。
【0069】
一方、ステップS8において、溶接装置1は、溶接処理が終了しないと判断した場合(ステップS8においてNO)には、ステップS2に戻り、上記処理を繰り返す。
【0070】
(実施形態2)
実施形態2は、溶接装置1のアークセンサ機能について説明する。
【0071】
図10は、実施形態2に従う溶接装置1のアークセンサ機能について説明する図である。
【0072】
図10(A)には、溶接線Lとティーチング線との間のズレが示されている。
ティーチング線は、溶接線Lを狙って設定されるが、溶接中の部材の熱歪みあるいは設置精度に起因して、溶接線Lとティーチング線とがずれる可能性がある。
【0073】
図10(B)には、アークセンサ機能により、ティーチングした溶接トーチ30の移動軌跡と溶接線Lとのズレを検出して、補正する場合が示されている。本例においては、溶接線Lに倣うように、溶接トーチ30の移動軌跡を上側に補正する。
<ウィービング動作>
図11は、実施形態2に基づく溶接トーチ30のウィービング動作について説明する図である。
【0074】
図11(A)には、部材100Aおよび部材100Bの部材間に溶接トーチ30が配置されて部材間を溶接する場合が示されている。溶接トーチ30のウィービング動作は、溶接線Lが延びる方向に進みながら左右に揺動する動作をいう。溶接線Lが延びる方向とは、
図11(A)において紙面に直交する方向である。左右に揺動とは、溶接線Lと溶接トーチ30の高さ方向に直交する方向での揺動を意味する。
【0075】
本例においては、部材100Aおよび100Bを側面視した場合において、溶接トーチ30がウィービング動作中に左右に揺動する様子が描かれている。本例においては、溶接トーチ30が部材間の開先の中央と端の位置に移動する場合が示されている。
【0076】
図11(B)には、
図11(A)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との突き出し距離が長くなる。それゆえ、
図11(B)に示されるように中央領域において溶接電流が下がり、端領域により溶接電流が大きくなる電流波形となる。
【0077】
図12は、部材100Aおよび部材100Bの部材間に溶接トーチ30が配置されて部材間を溶接する別の場合について説明する図である。
【0078】
図12(A)には、部材100Aおよび100Bを側面視した場合において、溶接トーチ30がウィービング動作中に左右に揺動する様子が描かれている。本例においては、ウィービング動作中の中央に位置する溶接トーチ30と部材間の開先中心位置とがずれている場合が示されている。
【0079】
図12(B)には、
図12(A)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなり、溶接トーチ30が中央に近づくほど溶接トーチ30と中央領域との突き出し距離が長くなる。それゆえ、
図12(B)に示されるように中央領域において溶接電流が下がり、端領域により溶接電流が大きくなる電流波形となる。
【0080】
図12(C)には、部材100Aおよび100Bを側面視した場合において、本例においては、溶接トーチ30がウィービング動作中の左端に位置する場合が示されている。
【0081】
図12(D)には、
図12(C)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の左端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなる。それゆえ、
図12(D)に示されるように左端領域により溶接電流が大きくなる電流波形となる。
【0082】
図12(E)には、部材100Aおよび100Bを側面視した場合において、本例においては、溶接トーチ30がウィービング動作中の右端に位置する場合が示されている。
【0083】
図12(F)には、
図12(E)の場合における溶接電流の変化が示されている。
溶接電流は、溶接トーチ30から部材までの距離である突き出し距離が短いほど大きくなり、突き出し距離が長いほど溶接電流は小さくなる。したがって、ウィービング1周期の間において、溶接トーチ30が部材間の開先の端領域に近づくほど溶接トーチ30と端領域との突き出し距離が短くなる。
【0084】
一方で、溶接トーチ30のウィービング動作中の中央が開先中心位置に対して左にずれているため、溶接トーチ30と部材との距離に関して、部材の左端の方が部材の右端よりも突き出し距離が短い。
【0085】
それゆえ、左端の溶接電流の方が右端の溶接電流の値よりも大きくなる電流波形となる。これにより、溶接トーチ30のウィービング動作中の中央の位置が開先中心位置よりも左にずれていることを検出することが可能である。
【0086】
アークセンサ制御部16は、当該電流波形の検出結果により溶接トーチ30の先端が左側にずれていることを検出する。アークセンサ制御部16は、ロボット動作制御部15に指示し、溶接トーチ30の溶接線Lからのずれを補正するように指示する。具体的には、溶接トーチ30のウィービング動作中の中央位置を右側に補正する。
【0087】
これにより、溶接トーチ30のウィービング動作中の中央位置が溶接線Lに倣うように補正することが可能である。
【0088】
図13は、実施形態2に従う設定部64による溶接トーチ30の設定軌跡について説明する図である。
【0089】
図13(A)を参照して、溶接設定部64は、周期的動作の1サイクル期間におけるウィービング幅を規定するパラメータP1と、周期的動作の1サイクル期間の長さを規定するパラメータP2とに従って溶接トーチ30の軌跡を設定する。
【0090】
ウィービング動作は、溶接線Lに対して垂直方向に移動する動作である。
周期的動作は、溶接線Lに沿って前進方向(溶接進行方向)および後進方向に移動する動作である。
【0091】
前側の経路と後側の経路の境界は、1サイクル期間の軌跡の溶接線方向の長さを等分する位置であってよい。
【0092】
図13(A)には、周期的動作の1サイクル期間においてパラメータP1に従って溶接線に対して3回交差するウィービング動作と、パラメータP2に従う往復動作とが組み合わされることにより8の字状の軌跡を描く場合が示されている。
【0093】
この1サイクル期間の軌跡自体をウィービング動作による1サイクル期間の軌跡としてもよい。
【0094】
図13(B)には、周期的動作の1サイクル期間においてパラメータP1に従って溶接線に対して4回交差するウィービング動作と、パラメータP2に従う往復動作とが組み合わされることにより3つ円の軌跡を描く場合が示されている。
【0095】
図13(C)および(D)には、周期的動作の1サイクル期間においてパラメータP1に従って溶接線に対して3回交差するウィービング動作と、パラメータP2に従う往復動作とが組み合わされるとともに、ウィービング動作あるいは周期的動作の速度も調整することにより、種々のリサージュ曲線の軌跡を描くことが可能な場合が示されている。一例として、直線形状の8の字や、非対称の8の字状の軌跡を描く場合が示されている。
【0096】
パラメータP1,P2を調整することにより溶接ビードの形状を調整して、溶接品質を向上させることが可能である。
【0097】
図14は、実施形態2に従う溶接トーチ30の溶接処理における移動軌跡を説明する図である。
【0098】
図14に示されるように、進行方向の移動速度を考慮した溶接トーチ30の移動軌跡が示されている。一例として、
図13(A)の軌跡が設定されている場合について説明する。溶接トーチ30は、上記軌跡を描きながら進行方向に移動する。
【0099】
図15は、実施形態2に従う溶接トーチ30のウィービング動作の1サイクルにおける溶接電流の変化を説明する図である。
【0100】
図15(A)には、
図13(A)において設定部64で設定した8の字状の軌跡が示されている。本例においては、溶接トーチ30は、8の字状の軌跡の中心位置(1)から開始して、(2)~(9)の順番で軌跡を描く場合が示されている。なお、本例においては、進行方向の移動については考慮していない。
【0101】
図15(B)には、前側の経路である前半部における開先と溶接トーチ30との状態が示されている。前進動作である前半部において、溶接線Lに沿って溶接金属が最初に生成される。したがって、溶接トーチ30と開先との間には溶湯はない。
【0102】
図15(C)には、後側の経路である後半部における開先と溶接トーチ30との状態が示されている。後進動作である後半部において、溶接線Lに沿って前回の前進動作で作成された溶接金属の上に新たな溶接金属が重畳される。したがって、溶接トーチ30と開先との間には溶湯がある。
【0103】
図15(D)は、
図15(A)の軌跡に従う溶接電流の変化が示している。
当該図に示されるように、溶接トーチ30と開先との間に溶湯がない前側の経路(前半部)において、溶接トーチ30と開先との距離に応じた山形の溶接電流の波形が計測される。一方、溶接トーチ30と開先との間に溶湯がある後側の経路(後半部)において、溶接トーチ30と開先との距離に応じた山形の溶接電流の波形は計測されない。したがって、実施形態2においては、前半部において計測された溶接電流の波形を用いてアークセンサ機能を実行する。
【0104】
図16は、実施形態2に基づく溶接装置1の溶接処理について説明するフロー図である。
【0105】
図16を参照して、
図9と比較して、ステップS7におけるアークセンサ処理がさらに追加されている点が異なる。その他の点については同様であるのでその詳細な説明については繰り返さない。
【0106】
図17は、実施形態2に基づくアークセンサ処理のサブルーチンを説明するフロー図である。
【0107】
図17を参照して、アークセンサ制御部16は、溶接電流を計測する(ステップS10)。
【0108】
次に、アークセンサ制御部16は、周期的動作が1サイクル完了したかどうかを判断する(ステップS12)。
【0109】
ステップS12において、アークセンサ制御部16は、周期的動作が1サイクル完了しない場合(ステップS12においてNO)には、ステップS10に戻り溶接電流の計測を継続する。
【0110】
一方、ステップS12において、アークセンサ制御部16は、周期的動作が1サイクル完了したと判断した場合(ステップS12においてYES)には、電流データから前側の経路のみのデータを抽出する(ステップS14)。
図15(D)で説明したように前半部のみを抽出する。
【0111】
次に、アークセンサ制御部16は、補正方向を検出する(ステップS16)。具体的には、
図12で説明したように、電流波形の検出結果に基づいてウィービング動作中の溶接線に対する溶接トーチ30の中央位置のずれ方向を検出する。
【0112】
そして、アークセンサ制御部16は、位置を補正する(ステップS18)。アークセンサ制御部16は、ロボット動作制御部15に指示し、溶接トーチ30の溶接線Lからのずれを補正するように指示する。具体的には、溶接トーチ30のウィービング動作中の中央位置をずれ方向に応じて補正する。
【0113】
そして、処理を終了する(リターン)。
当該処理により、有効な溶接電流の波形を用いてアークセンサ機能を実行するため精度の高い補正処理を実行することが可能である。
【0114】
[作用効果]
次に、実施形態の作用効果について説明する。
【0115】
実施形態の溶接装置1には、
図1に示すように、溶接処理を実行する溶接トーチ30と、溶接トーチ30に溶接線に沿う往復動作を含む周期的動作させるためのアクチュエータ22と、溶接トーチ30のアークを制御する溶接電源制御部11とが設けられる。溶接電源制御部11は、溶接トーチ30が周期的動作する経路の前側の経路におけるアークの大きさを、周期的動作する経路の後側の経路におけるアークの大きさより小さい大きさとする。これにより、部材間の継ぎ手強度を上げるとともに、溶接金属の凝固割れを抑制するため、溶接品質を向上させることが可能である。アークの大小は、例えば、溶接電圧により制御される。アークの大小により、周期的動作の前側の経路と後側の経路とを区分しても良い。
【0116】
アクチュエータ22は、溶接トーチ30を溶接線Lに対して垂直方向にウィービング動作させてもよい。ウィービング動作させることによりアークセンサ機能による溶接線Lからの位置ずれを検出可能である。
【0117】
アクチュエータ22は、ウィービング動作の1サイクルにおいて溶接トーチ30を溶接線に対して3回交差するようにウィービング動作させてもよい。8の字状の軌跡を描くことにより溶接ビードの形状を調整して、溶接品質を向上させることが可能である。
【0118】
アクチュエータ22による溶接トーチ30のウィービング動作に従って描かれる軌跡は、リサージュ曲線であってもよい。溶接ビードの形状を調整して、溶接品質を向上させることが可能である。
【0119】
実施形態の溶接装置1には、溶接線に対して垂直方向の幅を規定するパラメータP1と溶接線方向の長さを規定するパラメータP2とに基づいて軌跡を設定する設定部64がさらに設けられてもよい。軌跡を調整することにより溶接ビードの形状を調整して、溶接品質を向上させることが可能である。
【0120】
実施形態の溶接装置1には、溶接電流を検出する溶接電流計測器50と、溶接電流計測器50の検出結果に基づいて溶接線に対する溶接トーチ30のずれを補正するアークセンサ制御部16とがさらに設けられても良い。アークセンサ機能による溶接線Lからの位置ずれを検出して、補正することにより精度の高い溶接が可能である。
【0121】
溶接電流計測器50は、周期的動作の前側の経路における溶接電流を検出し、周期的動作における後側の経路における溶接電流を検出しないようにしてもよい。有効な溶接電流の波形を用いてアークセンサ機能を実行するため精度の高い補正処理を実行することが可能である。
【0122】
溶接電源制御部11は、周期的動作の前側の経路における電流および電圧の少なくとも一方は、周期的動作の後側の経路における電流および電圧の少なくとも一方よりも小さくしてもよい。電流および電圧の少なくとも一方を調整することにより簡易な方式でアークを制御することが可能である。
【0123】
溶接装置1の溶接方法は、溶接処理を実行する溶接トーチ30に溶接線に沿う往復動作を含む周期的動作をさせるステップと、周期的動作の1サイクルの経路は、前側の経路と後側の経路とで構成され、前側の経路におけるアークを、後側の経路におけるアークより小さくするステップとを備える。これにより、部材間の継ぎ手強度を上げるとともに、溶接金属の凝固割れを抑制するため、溶接品質を向上させることが可能である。
【0124】
溶接電源制御部11において、周期的動作の前側の経路におけるアークを、周期的動作する後側の経路におけるアークより小さくするステップは、周期的動作の前側の経路における溶接電圧を所定電圧以下にし、周期的動作の後側の経路における溶接電圧を所定電圧以上にするステップを含んでもよい。これにより、電圧を調整することにより簡易な方式でアークを制御することが可能である。
【0125】
周期的動作は、前進動作と後進動作とを含んでもよい。周期的動作させるステップは、前進動作時は前記溶接トーチと溶接処理対象の母材との距離を小さくするステップと、後進動作時は溶接トーチと母材との距離を大きくするステップとをさらに含んでもよい。溶接トーチと母材との距離を調整することにより簡易な方式でアークを制御することが可能である。
【0126】
(その他実施形態)
上記の実施形態においては、多関節型ロボットである溶接ロボット20を用いてアーク溶接する方式について説明したが、溶接ロボット20は、溶接トーチ30をウィービング動作可能な駆動機構を有していればよく、特に多関節ロボットに限定されない。溶接ロボット20は、三軸マニピュレータよりなる直交型ロボットであってもよい。
【0127】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0128】
1 溶接装置、10 溶接制御装置、11 溶接電源制御部、12 A/D変換部、13 溶接電源装置、14 溶接制御部、15 ロボット動作制御部、16 アークセンサ制御部、20 溶接ロボット、21 連結アーム、22 アクチュエータ、30 溶接トーチ、40 ワイヤ送給装置、50 溶接電流計測器、62 記憶部、64 設定部、L 溶接線。