IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポーラ化成工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-抗皮膚老化剤のスクリーニング方法 図1
  • 特許-抗皮膚老化剤のスクリーニング方法 図2
  • 特許-抗皮膚老化剤のスクリーニング方法 図3
  • 特許-抗皮膚老化剤のスクリーニング方法 図4
  • 特許-抗皮膚老化剤のスクリーニング方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230502BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230502BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230502BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230502BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230502BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230502BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
G01N33/50 Z ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/68
C12Q1/6851 Z
C12Q1/02
C12N15/12
C12N15/55
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K45/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019020683
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020128888
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 靖子
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】横田 絢
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112918(JP,A)
【文献】特開2010-151480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0238466(US,A1)
【文献】国際公開第2019/017356(WO,A1)
【文献】TSUKAHARA, K. et al.,Relationship Between the Depth of Facial Wrinkles and the Density of the Retinacula Cutis,JAMA DERMATOLOGY,2012年01月,Vol.148/No.1,p.39-46
【文献】田松裕一,顔のシワ深さと皮膚構造の関係,鹿児島大学歯学部紀要,2017年03月25日,Vol.37,p.9-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とし、
前記細胞骨格制御因子が、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)からなる群から選択される1又は2以上である、
Collagen Iの発現の増大及び/又は発現の減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が減ることを抑制する作用を有するものであることを特徴とする、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記抗皮膚老化剤が、生理老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記肌状態が、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
細胞に物質の投与を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞の前記細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、前記細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有し、
前記細胞が、皮膚支帯に存在する細胞であることを特徴とする、請求項1~の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞の細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
測定結果に基づき、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有し、
前記細胞が、皮膚支帯に存在する細胞であることを特徴とする、請求項1~の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とし、
前記細胞骨格制御因子が、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)からなる群から選択される1又は2以上である、
生理老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
細胞骨格制御因子の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)の数が少ないと判定することを特徴とし、
前記細胞骨格制御因子が、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)からなる群から選択される1又は2以上である、
皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法。
【請求項9】
細胞骨格制御因子の発現量を指標とし、
前記細胞骨格制御因子が、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)からなる群から選択される1又は2以上である、
皮膚における加齢の程度の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚老化は、その要因に基づき、生理老化、光老化などに分類することができる(特許文献1)。ここで、生理老化は年齢を原因とする老化現象であり、一般に赤みの減少、黄みの増加、角層水分量の減少、たるみ、皮脂減少などの表現形質を特徴とする(特許文献1 参照)。
【0002】
ところで、I型コラーゲン(Collagen I)は皮膚支帯(Retinacula cutis)の構成成分であり、皮膚支帯(Retinacula cutis)の疎密は年齢および皮膚のタルミ程度と相関関係を有することが知られている(特許文献2)。
【0003】
また、皮膚支帯(Retinacula cutis)と呼ばれる網目状の線維構造の疎密が顔のタルミとの関連性を有することが知られている(非特許文献1)。また、額及び目尻において、深いシワ部位直下の皮下組織では皮膚支帯密度が減少していることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-053789号公報
【文献】特開2017-218429号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sakata A., et al. :”Breakthrough in improving the skin sagging with focusing on the subcutaneous tissue structure, retinacula cutis”, 23rd IFSCC, Zurich (2015)
【文献】Tsukahara K. et al., Arch Dermatol. (2012), 148, 39-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の先行技術のあるところ、本発明は、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法である。すなわち、本発明は、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【0008】
上記課題を解決する本発明は、
細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、Collagen Iの発現の増大及び/又は発現の減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法である。
【0009】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞骨格制御因子がアクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の好ましい形態では、
前記抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が減ることを抑制する作用を有するものであることを特徴とする。
ここで、『皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が減ること』は、皮膚支帯(Retinacula cutis)の構成要素であるCollagen Iが減少することにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)が消滅する現象を指す。
【0011】
また、本発明の好ましい形態では、
前記抗皮膚老化剤が、生理老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の好ましい形態では、
前記肌状態が、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞が、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の好ましい形態では、
細胞に物質を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞の細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい形態では、
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞の細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
測定結果に基づき、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞が、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞は、皮膚支帯(Retinacula cutis)に存在する細胞であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、生理老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法でもある。
【0019】
また、本発明は、細胞骨格制御因子の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)の数が少ないと判定することを特徴とする、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法でもある。
【0020】
また、本発明は、細胞骨格制御因子の発現量を指標とする、皮膚における加齢の程度の推定方法でもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験1の結果を示す図である。
図2】生理老化と皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の関連を示す図である。
図3】試験2の結果を示す図である。
図4】試験3(1-1)の結果を示す図である。
図5】試験3(1-2)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0024】
<1>Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
【0025】
本発明のスクリーニング方法は、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする。
【0026】
指標とする細胞骨格制御因子としては、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)を好ましく挙げることができる。
【0027】
本発明のスクリーニング方法は、細胞の培養系に被験物質を添加し、細胞における細胞骨格制御因子の発現量を測定することを含む形態であることが好ましい。
ここで、細胞は、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることが好ましく、また、皮膚支帯に存在する細胞であることがより好ましい。
【0028】
具体的には、被験物質を添加して培養した細胞における細胞骨格制御因子の発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞における細胞骨格制御因子の発現量と比較して統計的に有意に大きい場合に、前記被験物質はCollagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤の候補として判定する形態であることが好ましい。
【0029】
また、被験物質を添加して培養した細胞における細胞骨格制御因子の発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞における細胞骨格制御因子の発現量の1倍より大きい場合に、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤の候補として選択する形態であってもよい。
【0030】
ここで、細胞骨格制御因子の発現量は、mRNA測定、免疫組織学化学的解析等の常法により測定することができる。
例えば、前記細胞骨格制御因子をコードする遺伝子の発現量は、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用いてPCRを行い、定量的な検出を行う。なお、前記細胞骨格制御因子をコードする遺伝子配列は、公開されているので、当業者は適宜プライマーを設計することが可能である。
【0031】
また、前記各細胞骨格制御因子の抗体についても市販品が存在するので、これを用いて、細胞における発現量を測定することができる。
【0032】
さらに具体的には、本発明は、
細胞に物質を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞の細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0033】
また、本発明は、
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞の細胞骨格制御因子の発現量を測定する測定工程と、
測定結果に基づき、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0034】
本発明のスクリーニング方法において、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は特に限定されず、たとえば、市販の化合物(ペプチドを含む)、公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術によって得られた化合物群、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などの物質を挙げることができる。
【0035】
ここで、動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。
また、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等を挙げることができる。
【0036】
ここで、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が減ることを抑制する作用を有するものであることが好ましい。
ここで、『皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が減ること』は、皮膚支帯(Retinacula cutis)の構成要素であるCollagen Iが減少することにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)が消滅する現象を指す。
【0037】
また、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は、生理老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることが好ましい。
ここで、生理老化に基づく肌状態としては、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下を好ましく挙げることができる。ここで、肌のタルミとは、皮膚および皮下組織の弾力性の低下によって生ずる肌の変形をさす。
【0038】
本発明は、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、生理老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法とすることもできる。
【0039】
また、本発明は、細胞骨格制御因子の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、肌状態の推定方法とすることもできる。
【0040】
<2>皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法
本発明は、細胞骨格制御因子の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が少ないと判定することを特徴とする、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法にも関する、
【0041】
本発明の皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法は、細胞における細胞骨格制御因子の発現量を測定することを含む形態であることが好ましい。
【0042】
ここで、細胞骨格制御因子の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が少ないと判定するための方法は特に限定されない。
【0043】
たとえば、統計学的に有意な人数に対して、従来の手法による細胞骨格制御因子の発現量の測定と、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数についての試験を行うことで、細胞骨格制御因子の発現量と皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の相関についてのデータベースを予め作成しておき、被験者の皮膚における細胞骨格制御因子の発現量を当該データベースと照合することにより被験者の皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数を推定する実施の形態が好ましく挙げられる。
【0044】
複数の被験者の皮膚における細胞骨格制御因子の発現量に基づき、被験者間での皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の多寡を推定する実施の形態としてもよい。
また、同一被験者から取得した複数の細胞骨格制御因子の発現量に基づき、相対的に皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数を推定する実施の形態としてもよい。
また、被験者から取得した細胞骨格制御因子の発現量に関する情報を、既に用意された指標と照らし合わせることにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数を推定する実施の形態としてもよい。
【0045】
ここで、<1>に記載の技術的事項のうち、<2>皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数の推定方法に妥当する技術的事項については、前述した説明を準用することができる。
【0046】
<3>皮膚における加齢の程度の推定方法
本発明は、細胞骨格制御因子の発現量を指標とする、皮膚における加齢の程度の推定方法にも関する。
【0047】
細胞骨格制御因子の発現量が多いほど、皮膚における加齢の程度が少ないと判定する形態であることが好ましい。
ここで、細胞骨格制御因子の発現量が多いほど、皮膚における加齢していないと判定するための方法は特に限定されない。
【0048】
たとえば、統計学的に有意な人数に対して、従来の手法による細胞骨格制御因子の発現量の測定と、皮膚における加齢の程度についての試験を行うことで、細胞骨格制御因子の発現量と皮膚における加齢の程度の相関についてのデータベースを予め作成しておき、被験者の皮膚における細胞骨格制御因子の発現量を当該データベースと照合することにより被験者の皮膚における加齢の程度を推定する実施の形態が好ましく挙げられる。
【0049】
複数の被験者の皮膚における細胞骨格制御因子の発現量に基づき、皮膚における加齢の程度を推定する実施の形態としてもよい。
また、同一被験者から取得した複数の細胞骨格制御因子の発現量に基づき、相対的に、皮膚における加齢の程度を推定する実施の形態としてもよい。
また、被験者から取得した細胞骨格制御因子の発現量を、既に用意された指標と照らし合わせることにより、皮膚における加齢の程度を推定する実施の形態としてもよい。
【0050】
また、皮膚における加齢の程度は、シワの本数、肌のタルミ、肌のハリ、肌の弾力性から選ばれる1又は2以上の皮膚の形態に基づくものであることが好ましい。
【0051】
ここで、シワの本数は、皮膚画像解析カウンセリングシステム(Canfield社製、VISIA-EVOLUTION)を用いて皮膚画像を採取し、画像解析の結果に基づくものであることが好ましい。
【0052】
肌のタルミは、特開2016-077755号公報の記載に従い、斜め45°の角度から顔面を写真撮影し、公知のタルミグレード基準(T. Ezure, et al., Skin Res. Technol., 15, 299-305(2009)参照)と照らし得た値であることが好ましい。
【0053】
また、肌のハリ、肌の弾力性は、皮膚粘弾性測定装置(CK electronic GmbH社製Cutometer MPA580)を用いて皮膚を、吸引圧400mb、吸引時間2秒、開放時間2秒を1サイクルとする測定を1回行い、得られた「R0」~「R8」の結果のうちR7(戻り率:Ur/Uf)の結果に基づくものであることが好ましい。
【0054】
ここで、<1>及び<2>に記載の技術的事項のうち、<3>皮膚における加齢の程度の推定方法に妥当する技術的事項については、前述した説明を準用することができる。
【実施例
【0055】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
【0056】
<試験1>生理老化と、Collagen Iの関連
試験1では、生理老化と、Collagen Iとの関連を調べた。
【0057】
(1)実験操作
まず、若齢者(20-30代)及び老齢者(60-90代)のヒト正常非露光部組織を、凍結組織包理剤(OCTコンパウンド)で凍結処理し、組織切片を用意した。
【0058】
用意した組織切片を10%中性緩衝ホルマリンにて固定し、その後PBSで洗浄し、Block Aceを用い、ブロッキング処理した。
【0059】
ブロッキング処理した組織切片に一次抗体を添加し、4℃条件下で一晩静置した。
静置後PBSで洗浄し、VECTASTAIN Universal ABC-AP Kit(VECTOR Laboratories 社製)およびAlkaline Phosphatase Substrate KitI <VECTOR Red> (VECTOR Laboratories 社製)を用い、処理した。
【0060】
増感剤による処理後、PBSで洗浄しマイヤーヘマトキシリン染色溶液で核を染色した。染色後に流水洗水し、100%エタノールで脱水処理をした。脱水処理後、キシレンで透徹処理をし、非水溶性封入剤を用い封入した。
以上の工程により封入した組織切片について、Collagen Iの染色度合いの観察を行った。
【0061】
(2)結果及び考察
老齢者(生理老化の影響が大きい)の非露光部の皮膚支帯では若齢者(生理老化の影響が小さい)の非露光部の皮膚支帯に比して、Collagen Iの量少ないことがわかった(図1 参照)。
以上より、加齢による影響(生理老化)によって、Collagen Iが減少することが分かった。
【0062】
また、図2に示すように、老齢者(加齢による影響が比較的大きい被験者)では、加齢による影響(生理老化)によって皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が少なくなっていることがわかった。
【0063】
<試験2> 生理老化と細胞骨格制御因子の関連
試験2では、生理老化と細胞骨格制御因子と関連を調べた。
【0064】
(1)実験操作
ヒト正常皮下組織(若齢 (20-30代)、老齢 (60-80代))を、RNAlater(QIAGEN 社製)を用いて固定処理した。
【0065】
固定したヒト正常皮下組織(非露光部)から皮膚支帯(Retinacula cutis)のみを単離した。単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)を破砕し、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(QIAGEN 社製)を用いてRNAを回収した。回収したRNAについて、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen 社製)を用い、cDNAを合成した。
【0066】
QuantiTect Primer Assay (QIAGEN 社製)を用いて定量的RT-PCRを行い、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)の遺伝子発現量の遺伝子発現量を測定した。
ここで、遺伝子発現量は、内在性コントロールをβ-actinとし、比較CT法を用いて算出した。
【0067】
(2)結果及び考察
図3に示した通り、加齢によって、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)が減少することがわかった。
【0068】
ここで、試験1における図2では、加齢による影響(生理老化)によって皮膚支帯(Retinacula cutis)の本数が少なくなっていることが示されている。
すなわち、図2図3及び観察の結果、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)の減少によって、皮膚支帯(Retinacula cuti)の本数が少なくなることがわかった。
【0069】
<試験3>Collagen Iと細胞骨格制御因子の関連
試験3では、Collagen Iと細胞骨格制御因子の関連を調べた。
【0070】
(1)実験操作
(1-1)若齢由来の皮膚支帯細胞における、細胞骨格制御因子をノックダウンした際の細胞変化評価
【0071】
(1-1-1)操作
ヒト正常皮下組織から取得した細胞をOG(アウトグロース)法により培養した。培養した細胞から、皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞のみをCell Sorter SH800(SONY 社製)を用い、単離した。
【0072】
単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を4穴チャンバースライドに1.7×10cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。
【0073】
次に、Opti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Thermo Fisher Scientific 社製)を用い、Silence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を調製した。
調製したSilence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を、Lipofectammin RNAiMAX Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific 社製)を用い、培養後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞に導入した。
【0074】
ここで、使用したsiRNAについて、19塩基対の配列と3’末端オーバーハング部分の2塩基の配列とを、下記表1、表2、及び表3に示す。
なお、下記表1はSVILを標的とするsiRNA、下記表2はLIMK1を標的とするsiRNA、下記表3はACTR3Bを標的とするsiRNAの配列である。
また、各表中の配列番号は、19塩基対の配列番号を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
Silence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を導入した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を24時間培養した。
【0079】
培養後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞をPBSで洗浄し、4%PFAを用い、固定した。
【0080】
固定後、PBSで洗浄し、0.2%Triton-X/PBSを用い、処理した。
0.2%Triton-X/PBSによる処理の後、PBSで洗浄し、Alexa Fluor(登録商標) 568 Phallodin(Thermo Fisher Scientific 社製)を用い、染色した。
【0081】
染色後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を、再度、PBSで洗浄し、DAPI Fluoromount-G (SouthernBiotech 社製)を用い、封入した。封入後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞について、共焦点顕微鏡による観察を行った。
結果を図4に示す。
【0082】
(1-1-2)結果及び考察
図4に示した通り、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)のノックダウンによって、皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞内のアクチンが凝集することがわかった。
【0083】
(1-2)若齢由来の皮膚支帯細胞における、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)をノックダウンした際のCollagen I発現量の評価
【0084】
(1-2-1)操作
ヒト正常皮下組織から取得した細胞をOG(アウトグロース)法により培養した。培養した細胞から、皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞のみをCell Sorter SH800(SONY 社製)を用い、単離した。
【0085】
単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を24穴プレートに1.7×10cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。
【0086】
次に、Opti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Thermo Fisher Scientific 社製)を用い、Silence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を調製した。
調製したSilence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を、Lipofectammin RNAiMAX Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific 社製)を用い、培養後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞に導入した。
【0087】
Silence Select Pre-designed siRNA(Thermo Fisher Scientific 社製)を導入した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を24時間培養した。
【0088】
培養後の皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞をPBSで洗浄し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN 社製)を用いてRNAを回収した。回収したRNAについて、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen 社製)を用い、cDNAを合成した。
【0089】
QuantiTect Primer Assay (QIAGEN 社製)を用いて定量的RT-PCRを行い、Collagen Iの遺伝子発現量を測定した。
ここで、遺伝子発現量は、内在性コントロールをβ-actinとし、比較CT法を用い、算出した。
結果を図5に示す。
【0090】
(1-2-2)結果及び考察
図5に示した通り、アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)のノックダウンによって、Collagen Iの遺伝子発現量が減少することがわかった。
【0091】
<試験4> スクリーニング手法の検討
試験4では、上記知見を基にした、スクリーニング手法の検討を行った。
【0092】
(1)操作
(1-1)準備工程
ヒト正常皮下組織から取得した細胞をOG(アウトグロース)法により培養した。培養した細胞から、皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞のみをCell Sorter SH800(SONY 社製)を用い、単離した。
【0093】
単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を24穴プレートに1.7×10cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。
【0094】
(1-2)適用工程
別途、ヒト正常皮膚の皮下組織を除去し、処理した皮膚に15mm径の穴あけを行い、ポピドンヨード(povidone iodine)で洗浄後、PBSで洗浄した。
【0095】
洗浄後のヒト正常皮膚をセルカルチャーインサート(スタンディングタイプ: サーモフィッシャーサイエンティフィック 社製)に載せた。そして、10mm径にカットした濾紙にスクリーニング対象となる物質を染み込ませ、ヒト正常皮膚中心部に配置した。
ヒト正常皮膚中心部に配置したセルカルチャーインサート(スタンディングタイプ: サーモフィッシャーサイエンティフィック 社製)を、(1-1)で用意した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を播種した24穴プレートに設置し、24時間培養した。
【0096】
(1-3)測定工程
24時間培養後、培地を除いた後、PBSで洗浄した。その後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN 社製)を用いてRNAを回収し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen 社製)を用いてcDNAを合成した。
【0097】
QuantiTect Primer Assay(QIAGEN 社製)を用いて定量的RT-PCRを行い、皮膚支帯(Retinacula cutis)における、以下のアクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)の遺伝子発現量を測定した。ここで、遺伝子発現量は、内在性コントロールをβ-actinとし、比較CT法を用いて算出した。
【0098】
アクチン関連タンパク質3B(actin-related protein 3 homolog B、ACTR3B)、リムキナーゼ-1(LIM kinase-1、LIMK1)、及びスーパービリン(surpervillin、SVIL)の測定値を基に、スクリーニング対象となる物質についての、Collagen Iの発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤としての有用性についての評価をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、抗皮膚老化剤のスクリーニング方法に応用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号1 オーバーハングsiRNA
配列番号2 オーバーハングsiRNA
配列番号3 オーバーハングsiRNA
配列番号4 オーバーハングsiRNA
配列番号5 オーバーハングsiRNA
配列番号6 オーバーハングsiRNA
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
0007272808000001.app