(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】多段遠心流体機械
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
F04D29/44 E
F04D29/44 A
(21)【出願番号】P 2019028185
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-03-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平舘 澄賢
(72)【発明者】
【氏名】小林 博美
(72)【発明者】
【氏名】西岡 卓宏
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】田合 弘幸
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特許第142414(JP,C2)
【文献】国際公開第2014/115417(WO,A1)
【文献】特開2010-216456(JP,A)
【文献】特開2010-255619(JP,A)
【文献】特開平10-141290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の羽根車と、複数の前記羽根車がそれぞれ取り付けられている回転軸と、前記羽根車の径方向外側に設けられているディフューザと、該ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記羽根車へ流体を導く戻り流路と、該戻り流路に設けられ、周方向に沿って間隔をあけて配置された複数枚のリターンベーンとを備え、
前記戻り流路は、前記羽根車から径方向外側に送り出された前記流体を径方向内側へ向かって案内するリターンベンドを有し、前記リターンベンドは、該リターンベンドの上流側に位置するリターンベンド第1湾曲部と、該リターンベンド第1湾曲部の下流側に位置するリターンベンド第2湾曲部とから構成され、前記リターンベーンの前縁は、前記リターンベンドの出口の直下流に設置され、前記リターンベンド第2湾曲部の径方向内側の壁面の曲率半径は、前記リターンベンド第1湾曲部の径方向内側の壁面の曲率半径よりも大きく形成され、更に、前記リターンベンドの出口における流路断面積又は流路幅は、前記リターンベンドの入口における流路断面積又は流路幅より小さく設定され、
前記戻り流路の前記リターンベンドにおける前記リターンベンド第1湾曲部と前記リターンベンド第2湾曲部の間に位置する前記リターンベンドの中間部における流路断面積又は流路幅は、
前記リターンベンドの入口及び出口における流路断面積又は流路幅以下に設定されていることを特徴とする多段遠心流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の多段遠心流体機械であって、
前記戻り流路は、前記リターンベンドと前記リターンベーンから構成され、前記リターンベンドによって前記ディフューザを通過した流体を半径方向外向きから内向きへと転向させ、更に、前記リターンベーンによって流体の旋回成分を除去し、流体を整流しながら次段の前記羽根車へと流入させるものであることを特徴とする多段遠心流体機械。
【請求項3】
請求項2に記載の多段遠心流体機械であって、
前記リターンベンドは、子午面内において、周囲の構造物に囲まれたU字状の曲り流路として形成され、前記
リターンベンドの入口を、前記ディフューザの出口に相当する略円筒面で定義し、前記
リターンベンドの出口を、前記リターンベーンの前縁の直上流に位置する子午面曲り流路の終端に相当する略円筒面で定義した前記リターンベンドの入口から出口までの区間として定義することを特徴とする多段遠心流体機械。
【請求項4】
請求項3に記載の多段遠心流体機械であって、
前記リターンベーンは、前記回転軸まわりの周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼から構成されていることを特徴とする多段遠心流体機械。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多段遠心流体機械であって、
前記ディフューザは、周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼を有するベーン付きディフューザか、或いは前記翼を有さないベーンレスディフューザのいずれかが用いられることを特徴とする多段遠心流体機械。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多段遠心流体機械であって、
前記多段遠心流体機械は、一軸多段式の遠心圧縮機か、或いは多段遠心ポンプであることを特徴とする多段遠心流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多段遠心流体機械に係り、特に、流体を半径方向外向きから内向きへと転向させるための曲り流路(リターンベンド)と、流体の羽根車の回転方向と同一方向の旋回成分(予旋回)を除去するために周方向に軸対象に配置された円形翼列要素(リターンベーン)とを備えているものに好適な多段遠心流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1つの回転軸に複数の遠心羽根車を搭載した多段遠心流体機械では、各段羽根車で昇圧された流体が旋回しながら径方向外側へ向かって吐き出されるため、回転軸方向の下流側で、かつ、径方向内側にある次段羽根車の入口へと流体を導くため、流体を半径方向外向きから内向きへと転向させるための曲り流路(リターンベンド)が設けられている。
【0003】
また、リターンベンドの下流側には、次段羽根車の入口に流入させる流体の羽根車の回転方向と同一方向の旋回成分(予旋回)を除去するため、周方向に軸対象に配置された円形翼列要素(リターンベーン)が設置されている。このリターンベーンで十分に予旋回が除去できない場合には、次段羽根車の効率や圧力上昇が低下することが一般的に知られている。
【0004】
一方、リターンベンドには、なるべく少ない圧力損失にて流れを径方向外向きから内向きへと転向すると共に、リターンベーンが予旋回の除去を十分に行えるよう、作動流体のリターンベーンへの流入状態を適切にコントロールすることが求められる。以下、リターンベンドとリターンチャネルを合わせて戻り流路という。
【0005】
多段遠心流体機械の戻り流路における圧力損失の低減を図った従来例が、特許文献1に記載されている。
【0006】
特許文献1では、リターンベンドの径方向内側の流路壁面において、下流側(リターンベンド第2湾曲部)壁面の曲率半径を、上流側(リターンベンド第1湾曲部)壁面の曲率半径より大きくすると共に、リターンベーン前縁が、リターンベンド第2湾曲部に位置するように構成されている。
【0007】
また、この際、リターンベンド出口の端部(リターンベーン入口の端部)における流路断面積が、リターンベンド入口の端部(ディフューザ出口の端部)における流路断面積と同一か、それより大きくなるように構成している。
【0008】
このように構成することで、リターンベンド第2湾曲部の内壁側において流体に作用する遠心力が低減すると同時に静圧が上昇するため、リターンベンド第2湾曲部の径方向内側において作動流体の流速が低下する。同時に、リターンベーン前縁を、従来よりも外径側に位置させることでリターンベーン入口の面積が増大し、リターンベーン入口における動圧が低減される。
【0009】
更に、リターンベンド出口の端部における流路断面積を、リターンベンド入口の端部における流路断面積と同一か、それより大きくしているため、リターンベーン入口における動圧が更に低減される。
【0010】
以上により、流体の流速の均一性が向上すると共に、戻り流路での流体の剥離が抑制され、遠心式流体機械の圧力損失が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、多段遠心流体機械の製作コスト低減を図るため、戻り流路を小径化しようとすると、リターンベーン入口の径を小さくすると共に、リターンベーンの長さを短くして行かざるを得ない。
【0013】
特許文献1に記載されたリターンベンド及びリターンベーンの構造は、リターンベーン入口の面積をなるべく大きく設定し、リターンベーン入口における流体の子午面方向流速Cmを低減することを狙っている。
【0014】
そのため、
図6に示すリターンベーン前縁12における速度三角形より、リターンベーン8への流体の流入角度βが小さくなる傾向にあり、絶対流速Cの方向を示すベクトルが、より周方向を向くような傾向を示す。
【0015】
リターンベーン8での流れの剥離等を抑制するため、リターンベーン8の入口角βb5は、リターンベーン8への流体の流入角βに合わせて設計をすることが多く、この場合、リターンベーン8の入口角βb5は小さくなる。一方、リターンベーン出口10では、流体の旋回を除去することを狙い、リターンベーン後縁8TEが回転軸方向を向くよう設計するのが一般的である。
【0016】
従って、戻り流路を小径化する際に、特許文献1に記載のような戻り流路形状を採用すると、リターンベーン8の入口角βb5の方向から中心方向へと向かう非常に大きな流体の転向を実現するため、翼長が短く、かつ、翼の出入口間の羽根角の差が大きいリターンベーンとせざるを得ない。
【0017】
しかしながら、短い区間にて流体を大きく転向させようとすると、
図6に示す流線のように、流体がリターンベーン負圧面8Sに沿って流れることができず剥離が生じ、戻り流路での圧力損失が増大したり、リターンベーン8にて十分に流体の旋回成分を除去できなくなるという問題があった。
【0018】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、リターンベーンの長さが十分に確保できない際にも、リターンベーンにおける流体の剥離の発生を抑制して圧力損失の増大を抑制し、かつ、十分に流体の旋回成分を除去することが可能な多段遠心流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の多段遠心流体機械は、上記目的を達成するために、複数の羽根車と、複数の前記羽根車がそれぞれ取り付けられている回転軸と、前記羽根車の径方向外側に設けられているディフューザと、該ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記羽根車へ流体を導く戻り流路と、該戻り流路に設けられ、周方向に沿って間隔をあけて配置された複数枚のリターンベーンとを備え、
前記戻り流路は、前記羽根車から径方向外側に送り出された前記流体を径方向内側へ向かって案内するリターンベンドを有し、前記リターンベンドは、該リターンベンドの上流側に位置するリターンベンド第1湾曲部と、該リターンベンド第1湾曲部の下流側に位置するリターンベンド第2湾曲部とから構成され、前記リターンベーンの前縁は、前記リターンベンドの出口の直下流に設置され、前記リターンベンド第2湾曲部の径方向内側の壁面の曲率半径は、前記リターンベンド第1湾曲部の径方向内側の壁面の曲率半径よりも大きく形成され、更に、前記リターンベンドの出口における流路断面積又は流路幅は、前記リターンベンドの入口における流路断面積又は流路幅より小さく設定され、
前記戻り流路の前記リターンベンドにおける前記リターンベンド第1湾曲部と前記リターンベンド第2湾曲部の間に位置する前記リターンベンドの中間部における流路断面積又は流路幅は、前記リターンベンドの入口及び出口における流路断面積又は流路幅以下に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リターンベーンの長さが十分に確保できない際にも、リターンベーンにおける流体の剥離の発生を抑制して圧力損失の増大を抑制し、かつ、十分に流体の旋回成分を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来の多段遠心流体機械の一部を取り出して示す子午面断面図である。
【
図2】
図1に示した部分を含む従来の多段遠心流体機械の全体構成を示す子午面断面図である。
【
図3】本発明の多段遠心流体機械の実施例1を示すリターンベンド付近の子午断面図である。
【
図4】本発明の多段遠心流体機械の実施例1におけるリターンベーンへの流入流れベクトル及びリターンベーン間の流線を説明する図である。
【
図5】本発明の多段遠心流体機械の実施例1におけるリターンベンドの位置における流路断面積変化を説明する図である。
【
図6】従来の多段遠心流体機械の任意の段のリターンベーンにおけるリターンベーンへの流入流れベクトル及びリターンベーン間の流線を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の多段遠心流体機械を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【0023】
図1は、従来の多段遠心流体機械20の一部を取り出した子午面断面図、
図2は、
図1に示した部分を含む従来の多段遠心流体機械20の全体の子午面断面図であり、一軸多段式の遠心圧縮機の例である。
【0024】
まず、
図1を用いて従来の多段遠心流体機械20について説明する。
【0025】
図1に示すように、多段遠心流体機械20は、回転エネルギーを流体に付与する遠心羽根車1と、この遠心羽根車1が取り付けられる回転軸4と、遠心羽根車1の半径方向外側にあって遠心羽根車1から流出された流体の動圧を静圧へと変換するディフューザ5とから概略構成されている。また、ディフューザ5の下流には、後段の遠心羽根車1へ流体を導くための戻り流路6が設けられている。
【0026】
遠心羽根車1は、回転軸4に締結する円盤(ハブ)2と、ハブ2に対向して配置される側板(シュラウド)3と、ハブ2とシュラウド3間に位置し周方向(
図1の紙面と直角方向)に間隔をおいて配置された複数枚の羽根1Aとを有している。
【0027】
なお、
図1では、シュラウド3を有するクローズド型羽根車の場合を示しているが、シュラウド3のないオープン型羽根車を用いても構わない。
【0028】
ディフューザ5には、周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼を有するベーン付きディフューザと、
図1には図示していないが、翼を有さないベーンレスディフューザのいずれかが用いられる。
【0029】
戻り流路6は、リターンベンド7とリターンベーン8から構成されていると共に、リターンベンド7によってディフューザ5を通過した流体を半径方向外向きから内向きへと転向させ、更に、リターンベーン8によって流体の旋回成分を除去し、流体を整流しながら次段の遠心羽根車1へと流入させる役割を担っている。
【0030】
リターンベンド7は、子午面内において、周囲の構造物に囲まれたU字状の曲り流路として形成され、そのリターンベンド入口9を、ディフューザ5の出口に相当する略円筒面で定義し、そのリターンベンド出口10を、リターンベーン前縁12の直上流に位置する子午面曲り流路の終端に相当する略円筒面で定義したリターンベンド入口9からリターンベンド出口10までの区間として定義する。リターンベーン8は、回転軸4まわりに周方向にほぼ等ピッチに配置された複数枚の翼から構成されている。
【0031】
図2に、
図1に示した圧縮段を複数段軸方向に積層した形の多段遠心流体機械20を示す。
【0032】
図2に示すように、回転軸4を回転自在に支持するラジアル軸受17が回転軸4の両端側に配置され、回転軸4の一方の端部には、回転軸4を軸方向に支持するスラスト軸受18が配置されている。
【0033】
また、回転軸4には、多段の圧縮段の遠心羽根車(
図2では5枚の遠心羽根車)1が固定して取り付けられ、各遠心羽根車1の下流側には、
図1に示したと同様に、ディフューザ5及び戻り流路6が設けられている。
【0034】
これら遠心羽根車1とディフューザ5及び戻り流路6は、ケーシング19内に収容されている。また、ケーシング19の吸込み側には吸込流路15が設けられており、ケーシング19の吐出側には吐出流路16が設けられている。
【0035】
このように構成された多段遠心流体機械20においては、吸込流路15から吸引された流体が、各段の遠心羽根車1とディフューザ5及び戻り流路6を通過するごとに昇圧され、最終的に所定圧力になって吐出流路16から吐出される。
【実施例1】
【0036】
次に、
図3、
図4及び
図5を用いて、本実施例における多段遠心流体機械20の特徴点を説明する。
【0037】
図3は、本実施例における多段遠心流体機械20中の、リターンベンド7付近を取り出した子午断面図である。
【0038】
本実施例では、戻り流路6が、上述した遠心羽根車1から径方向外側に送り出された流体を径方向内側へ向かって案内するリターンベンド7を有し、このリターンベンド7は、リターンベンド7の上流側に位置するリターンベンド第1湾曲部13と、リターンベンド第1湾曲部13の下流側に位置するリターンベンド第2湾曲部14とから構成されている。
【0039】
そして、
図3に示すリターンベンド7の下流に搭載されるリターンベーン前縁12を、リターンベンド出口10の直下流に設置すると共に、リターンベンド7の径方向内側の流路壁面13A、14Aにおいて、リターンベンド第2湾曲部14のリターンベンド7の径方向内側の流路壁面14Aにおける曲率半径ρ2を、リターンベンド第1湾曲部13のリターンベンド7の径方向内側の流路壁面13Aにおける曲率半径ρ1より大きくし、更に、リターンベンド出口10における流路断面積を、リターンベンド入口9における流路断面積以下に設定している。
【0040】
上述した本実施例におけるリターンベンド7の構造とすることによる効果を、以下に説明する。
【0041】
図4は、本実施例を適用した際の、リターンベーン8の入口速度三角形及びリターンベーン8の流線を示したものである。
【0042】
本実施例では、リターンベーン前縁12の直上流に位置するリターンベンド出口10において、流路断面積が小さく設定されているため、
図4に示すように、リターンベーン前縁12の速度三角形における子午面方向流速Cmが増大し、リターンベーン8への流体の流入角度βが、
図6に示した従来の多段遠心流体機械20におけるリターンベーン8への流体の流入角度βより大きくなる。
【0043】
従って、このリターンベーン8への流体の流入角度βにマッチングさせて設定するリターンベーン8の入口角βb5を大きくできる。また、リターンベーン後縁8TEを、流体の旋回を除去することを狙って回転軸4の方向を向くよう設定した場合に、上述した内容より、リターンベーン前縁12からリターンベーン後縁8TEにかけての流体の転向を小さくすることができる。
【0044】
結果として、
図4に示すように、
図6に示したリターンベーン8の入口面積をなるべく大きく設定した従来の戻り流路においては発生し易かったリターンベーン負圧面8S付近の流れの剥離の発生が、本実施例では抑制されることが分かる。
【0045】
また、リターンベンド出口10の流路断面積を小さく設定することで、リターンベンド第2湾曲部14における流体の流速が増大するが、本領域におけるリターンベンド7の径方向内側の流路壁面14Aの曲率半径ρ2を大きく設定していることで、流れの剥離が抑制されるため、リターンベーン前縁12への流入流れの一様性が確保され、圧力損失が低減されると共に、リターンベーン8にて流体の旋回成分が十分に除去される。
【0046】
多段遠心流体機械20の製作コスト低減のために、戻り流路6を小径化するには、リターンベーン前縁12の径を小さくして、リターンベーン8の長さを短くする必要がある。
【0047】
この際、従来の戻り流路においては、リターンベーン8の長さが短く、かつ、リターンベーン前縁12とリターンベーン後縁8TEの間の羽根角の差が大きいリターンベーン8にて、短い区間で流体を大きく転向させざるを得ず、リターンベーン負圧面8Sにおける流れの剥離が更に発生し易くなる。
【0048】
一方、本実施例の構造では、戻り流路6を小径化するため、リターンベーン8の長さを短くした場合でも、リターンベーン前縁12からリターンベーン後縁8TEにかけての流体の転向を小さく、かつ、リターンベンド第2湾曲部14におけるリターンベンド7の径方向内側の流路壁面14Aの流速が低減されるよう曲率半径ρ2を大きくしており、リターンベーン8における流れの剥離を防止できる。
【0049】
従って、本実施例の構造は、特に、戻り流路6を小径化する際に組み合わせて用いることが有効である。
【0050】
ここで、
図3に示すリターンベンド第1湾曲部13とリターンベンド第2湾曲部14の間に位置するリターンベンド中間部11における流路断面積は、
図5に示すリターンベンド7の位置(リターンベンド入口9、リターンベンド中間部11、リターンベンド出口10の各位置)における流路断面積変化図のように、リターンベンド入口9における流路断面積以下で、かつ、リターンベンド出口10における流路断面積以上に設定されても良いし(
図5中の実線)、リターンベンド入口9やリターンベンド出口10における何れの流路断面積以下に設定されても良い(
図5中の点線)。
【0051】
しかしながら、
図5中の点線のようなリターンベンド7内の流路断面積とする場合には、
図3に示すリターンベンド7の最外半径Rtopを同一に保持したまま、リターンベンド中間部11における流路幅bmを小さくすることになる。
【0052】
この際、リターンベンド第1湾曲部13における径方向内側の流路壁面13Aの曲率半径ρ1も同一値に保持すれば、リターンベンド入口9、つまり、ディフューザ5の出口の径を、より大きく設定できる。
【0053】
従って、リターンベンド7の最外半径Rtopは同一にしたまま、ディフューザ5の径方向長さを大きくすることができる。
【0054】
また、ディフューザ5にベーン付ディフューザを搭載する場合には、ディフューザ5の出口径が大きくなることで、リターンベーン8の長さも増大でき、ディフューザ5内での静圧回復量を増大させて、リターンベンド入口9における流速を低減できる。
【0055】
戻り流路6を小径化する際には、ディフューザ5の径方向長さも短くせざるを得ず、リターンベンド入口9における流速も増大する傾向になるが、
図5中の点線のような流路断面積とすることで、小径化時のリターンベンド7の最外半径Rtopは同一にしたまま、リターンベンド入口9における流速も低減できる。
【0056】
従って、戻り流路6が小径化の時には、
図5中の点線のような流路断面積とすることがより望ましい。
【0057】
なお、この際、リターンベンド中間部11における流速は増大する傾向になるが、前述の通り、本実施例では、曲率半径ρ2を大きくしているため、リターンベンド第2湾曲部14におけるリターンベンド7の径方向内側の流路壁面14A付近における剥離の発生は抑制される。
【0058】
このような本実施例の構成によれば、リターンベーン前縁12より上流側のリターンベンド出口10において流路断面積が小さく設定されるため、リターンベーン前縁12における子午面方向流速Cmが増大し、リターンベーン8への流体の流入角度βが大きくなる。従って、リターンベーン8の入口角βb5を大きく設定でき、リターンベーン入口9からリターンベーン出口10にかけての流体の転向を小さくすることができる。
【0059】
また、リターンベーン8の長さが十分に確保できない場合にも、リターンベーン前縁12をリターンベンド7内に延伸させ、リターンベーン8を3次元的な複雑形状にしてリターンベーン8の長さを確保することなく、リターンベーン8における流体の剥離の発生を抑制し、流体の旋回成分を十分に除去することが可能となる。
【0060】
この際、リターンベンド出口10の流路断面積を小さく設定することで、リターンベンド第2湾曲部14における流体の流速が増大するが、本領域におけるリターンベンド第2湾曲部14における径方向内側の流路壁面14Aの曲率半径を大きく設定していることで、流体の流れの剥離が抑制され、リターンベーン前縁12への流入流れの一様性が確保され、圧力損失が低減されると共に、リターンベーン8にて流体の旋回成分を十分に除去することが可能となる。
【実施例2】
【0061】
上述した実施例1では、リターンベンド7の流路断面積に基づいた説明を行ったが、流路断面積を、
図3に示すリターンベンド7の子午断面図における流路幅に置き換えて適用しても良い。
【0062】
即ち、リターンベンド入口9における流路幅をbs、リターンベンド出口10における流路幅をbeとすれば、リターンベンド7の下流に搭載されるリターンベーン前縁12を、リターンベンド出口10の直下流に設置すると共に、リターンベンド7の径方向内側の流路壁面13A、14Aにおいて、曲率半径ρ2を、曲率半径ρ1より大きくし、更に、リターンベンド出口10における流路幅beを、リターンベンド入口9における流路幅bs以下に設定しても良い。
【0063】
また、この際、リターンベンド中間部11における流路幅bmは、リターンベンド入口9における流路幅bs以下で、かつ、リターンベンド出口10における流路幅be以上に設定されても良いし、リターンベンド入口9やリターンベンド出口10における何れの流路幅bs、be以下に設定されても良い。
【0064】
このような本実施例の構成であっても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0065】
また、上述した各実施例では、多段遠心流体機械として、旋回除去要素を一軸多段式の遠心圧縮機を例に説明したが、本発明の多段遠心流体機械は、多段遠心ポンプ等の他の多段遠心流体機械にも適用が可能である。
【0066】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…遠心羽根車、1A…遠心羽根車の羽根、2…ハブ、3…シュラウド、4…回転軸、5…ディフューザ、6…戻り流路、7…リターンベンド、8…リターンベーン、8S…リターンベーン負圧面、8TE…リターンベーン後縁、9…リターンベンド入口、10…リターンベンド出口、11…リターンベンド中間部、12…リターンベーン前縁、13…リターンベンド第1湾曲部、13A…リターンベンド第1湾曲部における径方向内側の流路壁面、14…リターンベンド第2湾曲部、14A…リターンベンド第2湾曲部における径方向内側の流路壁面、15…吸込流路、16…吐出流路、17…ラジアル軸受、18…スラスト軸受、19…ケーシング、20…多段遠心流体機械、be…リターンベンド出口における流路幅、bm…リターンベンド中間部における流路幅、bs…リターンベンド入口における流路幅、C…絶対流速、Cm…子午面方向流速、Cu…絶対流速の周方向成分、Rtop…リターンベンドの最外半径、β…リターンベーンへの流入角、βb5…リターンベーンの入口角、ρ1…リターンベンド第1湾曲部における径方向内側の流路壁面の曲率半径、ρ2…リターンベンド第2湾曲部における径方向内側の流路壁面の曲率半径。