(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
E04B1/94 A
E04B1/94 D
E04B1/94 E
E04B1/94 T
(21)【出願番号】P 2019036166
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016030(JP,A)
【文献】特開2014-169610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、
異種の耐火被覆材は、鋼材の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する鋼材の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に対して接離自在に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからな
り、
発泡性の耐火被覆材の厚さを1.75mm、非発泡性の耐火被覆材の厚さを20mmに設定した場合、前記重ね代は0~40mmに設定され、または、発泡性の耐火被覆材の厚さを4.80mm、非発泡性の耐火被覆材の厚さを40mmに設定した場合、前記重ね代は0~80mmに設定されることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
柱を構成する鋼材の表面の周方向に異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、
異種の耐火被覆材は、鋼材の表面の周方向の一方側の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に周方向に隣接し、鋼材の表面の周方向の他方側の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に対して接離自在に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項3】
発泡性の耐火被覆材が耐火塗料または耐火シートであり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであることを特徴とする請求項1
または2に記載の耐火被覆構造。
【請求項4】
非発泡性の耐火被覆材の端部は、発泡性の耐火被覆材の発泡変位を拘束しない位置で鋼材の表面に固定されることを特徴とする請求項1
~3のいずれか一つに記載の耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の柱や梁の表面を異種の耐火被覆材で被覆した耐火被覆構造に関し、特に、表面の一方側を耐火塗料で被覆し、所定の重ね代を介して他方側を耐熱ロックウールで被覆した耐火被覆構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材からなる建物の柱や梁には、耐火性能を向上させる目的で耐火被覆が施されている。耐火被覆の外観の美しさを確保するために、人目に触れない部位にロックウール被覆等を形成し、人目に触れる部分に発泡性の耐火塗料を塗布することがある。ロックウール被覆等と耐火塗料との境目において十分な耐火被覆が形成できなければ、建物の耐火性能が低下してしまう。こうした問題を解決するための技術として、例えば特許文献1の構造が知られている。
【0003】
特許文献1の構造では、鋼材の表面を、発泡性の耐火塗料からなるA領域と、ロックウール等の非発泡性の耐火材からなるB領域とに境界部を介して分け、この境界部の近傍における耐火塗料の厚みを局所的に厚くしている。こうすることで、耐火塗料が加熱されて発泡したときに、境界部付近での耐火塗料の厚みが薄くなってしまうことを防ぎ、境目の耐火性能を確保するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来の特許文献1のように、境界部の近傍における耐火塗料の厚みを局所的に厚くすることは、耐火塗料の塗装作業の複雑化を招き、施工コストを押し上げるおそれがある。このため、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することのできる構造が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することのできる耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐火被覆構造は、鋼材の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、鋼材の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する鋼材の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に対して接離自在に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料または耐火シートであり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、非発泡性の耐火被覆材の端部は、発泡性の耐火被覆材の発泡変位を拘束しない位置で鋼板に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る耐火被覆構造によれば、鋼材の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、鋼材の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する鋼材の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に対して接離自在に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなるので、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料または耐火シートであり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料とロックウールの境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、非発泡性の耐火被覆材の端部は、発泡性の耐火被覆材の発泡変位を拘束しない位置で鋼材の表面に固定されるので、発泡性の耐火被覆材の機能を阻害することなく境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る耐火被覆構造の他の実施の形態を示す概略斜視断面図である。
【
図3】
図3は、実験で用いた試験体の種類を示す図である。
【
図4】
図4は、実験で用いた耐火塗料と耐熱ロックウールの重ね代の仕様を示す図である。
【
図5】
図5は、実験で用いた試験体の形状および温度計測位置を示す図である。
【
図6】
図6は、耐熱ロックウール先端部および耐火塗料と無塗装部の境界における鋼板温度-時間関係を示す図(試験体番号1~4)である。
【
図7】
図7は、耐熱ロックウール先端部および耐火塗料と無塗装部の境界における鋼板温度-時間関係を示す図(試験体番号5~8)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態では、プレコート部材(あらかじめ発泡性の耐火被覆材で被覆した部材)で架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆することを想定している。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る耐火被覆構造10は、鋼板12(鋼材の表面)の異なる領域A(第一の領域)、領域B(第二の領域)をそれぞれ被覆する耐火塗料14と、耐熱ロックウール16(異種の耐火被覆材)を備える。
【0016】
耐火塗料14は、加熱により発泡し、図の破線のように増厚する発泡性のものである。耐熱ロックウール16は、非発泡性のものである。耐火塗料14の端部14Aと、耐熱ロックウール16の端部16Aどうしは境界部18の重ね代Wを介して重ね合されている。具体的には、耐熱ロックウール16の端部16Aは自由端となっており、鋼板12の表面に塗装された耐火塗料14の表面に対して接離自在に重ね合されている。また、この端部16Aは、耐火塗料14の発泡変位を拘束しない位置で鋼板12に溶接ピン20で固定される。
【0017】
重ね代Wは、大きくすれば耐火性能上は有利になると言えるが、例えば耐熱ロックウール16の厚さt2以下に設定することができる。また、溶接ピン20の位置は、耐火塗料14の端部14Aから距離D(例えば50mm)だけ離れた位置に設定することができる。ただし、本発明の重ね代、固定位置(溶接ピン20の位置)はこれに限るものではなく、本発明の作用効果を阻害しない範囲で適宜変更可能である。なお、耐火塗料14の厚さt1を1.75mm程度、耐熱ロックウール16の厚さt2を20mm程度に設定した場合、境界部18の重ね代Wを0~40mm程度に設定してもよい。また、耐火塗料14の厚さt1を4.80mm程度、耐熱ロックウール16の厚さt2を40mm程度に設定した場合、境界部18の重ね代Wを0~80mm程度に設定してもよい。このようにすれば、後述するように、優れた耐火性能を確保することができる。
【0018】
本実施の形態の耐火被覆構造10によれば、境界部18における発泡性の耐火被覆材の厚さを局所的に厚くすることなく、境界部18のみならず周辺全体の耐火性能を確保することができる。したがって、本実施の形態は、上記の従来の構造に比べて簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部18の耐火性能を確保することができる。また、耐熱ロックウール16の端部16Aは、耐火塗料14の発泡変位を拘束しない位置で鋼板12に固定されるので、耐火塗料14の機能を阻害することなく境界部18の耐火性能を確保することができる。本実施の形態は、プレコート部材で架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆する場合に境界部の耐火性能を確保するのに特に有効である。
【0019】
なお、上記の実施の形態では、単純な鋼板を異種材料で耐火被覆する場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば
図2に示すように、角型鋼管柱30を周方向に異種の耐火被覆材32、34で被覆する場合にも適用可能である。この場合、角型鋼管柱30の一方の鋼板1とそれに連続する鋼板2、3の中間まで耐熱ロックウール32を設けるとともに、他方の鋼板4と鋼板2、3の中間まで耐火塗料34を設け、鋼板2、3に境界部36を形成してもよい。この境界部36の位置に仕切り壁などを配置し、耐火塗料34側を居室側に、耐熱ロックウール32側を室外側に設定してもよい。また、角型鋼管柱に限るものではなく、円型鋼管柱、H形鋼柱に適用してもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0020】
また、上記の実施の形態では、異種耐火被覆材が耐火塗料と耐熱ロックウールである場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、他の材質の耐火被覆材の組み合わせで構成してもよい。
【0021】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った実験および結果について説明する。
【0022】
本実験は、本発明に係る耐火被覆構造において、異種耐火被覆材の取合い部の耐火性能を調べたものである。試験体は、耐火塗料と耐熱ロックウールで被覆された鋼板で構成した。鋼板は、500mm×500mm×厚さ12mm、材質SS400のものを用いた。耐火塗料は、関西ペイント(株)社製のものを用いた。下塗は、商品名:エスコNBマイルドK(エスコは登録商標)(JIS K 5551:弱溶剤変性エポキシ系樹脂塗料)を用い、塗布量は240g/m2、膜厚(ウェット)は125μm、膜厚(ドライ)は60μm(目標値)とした。主材は、商品名:耐火テクト(登録商標)(ポリエーテル系樹脂塗料)を用い、塗布量、膜厚(ウェット)はコントロールせず、膜厚(ドライ)は1750、3000、4800μm(実膜厚測定)とした。中塗は、商品名:耐火テクトE(JIS K 5659:エポキシ系樹脂塗料)を用い、塗布量は140g/m2、膜厚(ウェット)は75μm、膜厚(ドライ)は30μm(目標値)とした。上塗は、商品名:耐火テクトF(JIS K 5659:フッ素系樹脂塗料)を用い、塗布量は120g/m2、膜厚(ウェット)は75μm、膜厚(ドライ)は25μm(目標値)とした。耐熱ロックウールは、ニチアス(株)社製の高耐熱ロックウール(商品名:マキベエ(登録商標))を使用した。
【0023】
図3に、試験体の種類を示す。試験体番号1~4は、耐火時間1時間とし、耐火塗料主材の厚さを1.75mm、耐熱ロックウールの厚さを20mmに設定した。境界部の重ね代は、それぞれ0、10、20、40mmに設定した。試験体番号5~8は、耐火時間2時間とし、耐火塗料主材の厚さを4.80mm、耐熱ロックウールの厚さを40mmに設定した。境界部の重ね代は、それぞれ0、20、40、80mmに設定した。
【0024】
図5に、試験体の形状・寸法(抜粋)を示す。
図5(1)は試験体番号1、(2)は試験体番号3、(3)は試験体番号5、(4)は試験体番号7である。各図には、鋼板の裏面側の正面図と、各図のA-A断面図を示している。
【0025】
各図に示すように、試験体には、鋼材温度を測定するため、14~18本の熱電対(K熱電対、φ0.65mm、クラス2)を取り付けた。各熱電対は、厚さ12mmの鋼板に対して裏面側(非加熱面側)から開けたφ1.5mm程度・深さ10mmの孔に熱接点を挿入して孔先端の鋼板に接触させた後、熱電対を挿入孔の縁をかしめて固定した。試験体の裏面は、鋼板からの放熱を抑制するために断熱材で被覆した。具体的には、鋼板の裏面の四周(鋼板面に対してロ形)に幅50mm×厚さ12mmのAESブランケットを無機系接着剤で接着し、さらに、四周に貼り付けたAESブランケットに無機系接着剤を塗布して、その上から500mm×500mm×厚さ20mmのけい酸カルシウム板を貼り付けた。
【0026】
耐熱ロックウールは、耐火塗装部と無塗装部の境界から50mm離れたところより以遠に溶接ピンを打ち込んで鋼板表面に固定した。そのことにより、重ね代と溶接ピンによる固定位置よりも外側の耐熱ロックウールの長さ(耐火塗料の発泡によって押し出される部分)の関係は
図4に示すようになる。
【0027】
各試験体について、小型壁炉を使用した加熱実験を行った。加熱は、ISO834-1に規定される標準加熱温度時間曲線に従って行い、試験体の鋼板温度の全測定点が600℃を超えるまで継続し、その後は炉に試験体を設置した状態で自然放冷とした。
【0028】
図6および
図7に、加熱実験により得られた鋼板温度-時間関係を示す。
図6は試験体番号1~4、
図7は試験体番号5~8である。
図6(1)、(2)、
図7(1)、(2)は耐熱ロックウール先端部における関係である。
図6(3)、(4)、
図7(3)、(4)は耐火塗料と無塗装部の境界部における関係である。また、
図6(1)、(3)、
図7(1)、(3)は試験体の中心線上に配置した熱電対で得られ、
図6(2)、(4)、
図7(2)、(4)は試験体の中心線から100mm離れた線上に配置した熱電対で得られている。
図6および
図7の凡例0mm~40mm、0mm~80mmは、それぞれ耐火塗料に対する耐熱ロックウールの重ね代である。
図6の0mmは試験体番号1、10mmは試験体番号2、20mmは試験体番号3、40mmは試験体番号4に相当する。
図7の0mmは試験体番号5、20mmは試験体番号6、40mmは試験体番号7、80mmは試験体番号8に相当する。なお、試験体番号1~4の耐火塗料主材厚さ1.75mmおよび耐熱ロックウール厚さ20mmは1時間耐火相当の被覆厚さであり、試験体番号5~8の耐火塗料主材厚さ4.80mm、耐熱ロックウール厚さ40mmは2時間耐火相当の被覆厚さである。
【0029】
図6(1時間耐火相当の被覆)について経過時間60分までの性状を見ると、(1)(2)[耐熱ロックウール先端部の鋼材温度]および(3)(4)[耐火塗装と無塗装部の境界における鋼板温度]は重ね代が大きいほど鋼材温度が低くなる傾向が見られるが、60分時の温度差は20℃程度であり、大きな差異ではないと言える。また、他の熱電対の測定結果より、0分から60分程度までの鋼材温度は[重ね代部から離れた耐熱ロックウール被覆部]<[重ね代部]<[重ね代部から離れた耐火塗装部]の順になることが確認された。重ね代部の温度は耐火塗装部よりも低くなっているため、重ね代部が耐火性能上の弱点にはなっていないと言える。なお、耐火塗装部の温度が高くなった理由は、耐火塗装が大きな断熱性能を発揮するのは耐火塗料が発泡してからであり、発泡温度である200~300℃に達するまでの断熱性能が低いためである。それに対して耐熱ロックウールは初期から断熱性能を発揮する。
【0030】
同様に、
図7(2時間耐火相当の被覆)について経過時間120分までの性状を見ると、[耐熱ロックウール先端部の鋼材温度]および[耐火塗装と無塗装部の境界における鋼板温度]は重ね代が大きいほど鋼材温度が低くなる傾向が見られる。120分時の温度差は50℃程度であり、1時間耐火相当の場合と比べると差異が大きくなっている。また、他の熱電対の測定結果より、0分から90分程度までの鋼材温度は、1時間耐火相当の被覆をした場合と同様に、[重ね代部から離れた耐熱ロックウール被覆部]<[重ね代部]<[重ね代部から離れた耐火塗装部]の順になることが確認された。また、90分から120分の間に順番が入れ替わり[重ね代部から離れた耐火塗装部]<[重ね代部]<[重ね代部から離れた耐熱ロックウール被覆部]の順になることが確認された。いずれにしても、重ね代部の温度は耐火塗装部あるいは耐熱ロックウール部よりも低くなっているため、耐火性能上の弱点にはなっていないと言える。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る耐火被覆構造によれば、鋼材の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、鋼材の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する鋼材の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に対して接離自在に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなるので、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料または耐火シートであり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料とロックウールの境界部の耐火性能を確保することができる。
【0033】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、非発泡性の耐火被覆材の端部は、発泡性の耐火被覆材の発泡変位を拘束しない位置で鋼材の表面に固定されるので、発泡性の耐火被覆材の機能を阻害することなく境界部の耐火性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る耐火被覆構造は、例えば、鋼材表面の異なる領域を被覆する耐火塗料と耐熱ロックウールなどの異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保するのに有用であり、特に、簡易に施工するのに適している。
【符号の説明】
【0035】
10 耐火被覆構造
12 鋼板(鋼材の表面)
14 耐火塗料
16 耐熱ロックウール
14A,16A 端部
18 境界部
20 溶接ピン
A 領域(第一の領域)
B 領域(第二の領域)
D 距離
t1,t2 厚さ
W 重ね代