(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】滑り免震機構
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230502BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2019075573
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207005592(CN,U)
【文献】特開2018-178510(JP,A)
【文献】特開2016-038043(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0480952(KR,Y1)
【文献】特開2003-176850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持する滑り免震機構であって、
前記上部構造体の底部に固定される上沓と、前記下部構造体の上部に固定される下沓と、前記上沓と前記下沓との間に介装される摺動子と、を有する滑り免震装置を複数備え、
前記摺動子は、前記上沓に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに前記下沓に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、
複数の前記滑り免震装置は、互いに
ずらして配置され、
隣接する前記滑り免震装置の前記上沓どうしは、互いに前記水平一方向に
前記上沓の略幅分ずらした状態で配置され
るとともに、
隣接する前記滑り免震装置の前記下沓どうしは、互いに前記水平他方向に
前記下沓の略幅分ずらした状態で配置され、
前記下沓に対して前記上沓が相対移動する際に、互いの前記上沓どうしが干渉せずに滑動可能に構成されていることを特徴とする滑り免震機構。
【請求項2】
前記上沓における前記摺動子との摺動面は、前記水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上沓傾斜面として形成されているとともに、
前記摺動子における前記上沓との上部摺動面は、前記水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上部傾斜面として形成され、
前記下沓における前記摺動子との摺動面は、前記水平他方向に沿ってV形に傾斜する下沓傾斜面として形成されているとともに、
前記摺動子における前記下沓との下部摺動面は、前記水平他方向に沿ってV形に傾斜する下部傾斜面として形成されている請求項1に記載の滑り免震機構。
【請求項3】
前記摺動子は、上面側の前記水平他方向の両端部に沿って上方に突出した一対の上部ガイドと、下面側の前記水平一方向の両端部に沿って下方に突出した一対の下部ガイドと、を備え、
前記一対の上部ガイドの間に前記上沓が係合されるとともに、前記一対の下部ガイドの間に前記下沓が係合されている請求項1または請求項2に記載の滑り免震機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り免震機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内において巨大地震が頻発している。このような状況下、大変位と大加速度に対応できる免震機構が求められている。ここで、免震構造においては、自重を支持する支承として、積層ゴム支承や滑り支承が一般的に用いられている。
【0003】
積層ゴム支承は、高性能であるが、コストが高く、過大な変位に対処できる限界(約1000mm)がある。一方、滑り支承については、大きく2種類のものが提案されている。一つは、低コストで滑り支承に復元機能を加えたFPS(Friction Pendulum System)が実用化されている。FPSは、上下の構造体に固定される滑り面(摺動面)を球面とし、この間に可動子となる部材を挟んだもので、構造体の重量に関係なく球面半径を振り子長さとした周期が免震層の固有周期となる。また、滑り面が球面であるため、原位置への復元機能を有している。しかし、FPSは要求性能の設計荷重が大きいほどサイズも大きくなり、支承を特注製作しなければならず、それに対応して柱および基礎も大きくする必要がある。このため、支承の製作コストや柱・基礎の施工コスト(躯体コスト)が高額になるという問題がある。また、FPSは支承に浮き上がりが生じると可動子(摺動材)が原位置からずれてしまう虞がある。
【0004】
もう一つの滑り支承は、本願の発明者らが発案した傾斜面を利用した「傾斜滑り支承」を用いた滑り免震機構である(例えば、特許文献1参照)。これは、直角に交わる2本の案内滑り板(上沓と下沓)と、それらを連結しつつ滑り板上をスライドする摺動子と、で構成されている。摺動子の上下面には傾斜面に当接する摩擦板が配設されており、摺動子が摺動する際に発生する摩擦抵抗力を減衰力とし、構造物の自重で傾斜復元力を得ている。免震機構に必要な荷重支持、減衰、変位回復の三つの機能を一つの免震機構で実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、傾斜滑り支承においても巨大地震を想定した場合に問題があった。具体的には、傾斜滑り支承では、案内滑り板を長くすれば、巨大地震時の大変位に対応できるが、大荷重に対しては摩擦板の面圧に応じて摺動子を大きくする必要があるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、傾斜滑り支承を用いた滑り免震機構において、摺動子を大きくすることなく大荷重に対応することができる滑り免震機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の滑り免震機構は、免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持する滑り免震機構であって、前記上部構造体の底部に固定される上沓と、前記下部構造体の上部に固定される下沓と、前記上沓と前記下沓との間に介装される摺動子と、を有する滑り免震装置を複数備え、前記摺動子は、前記上沓に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに前記下沓に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、複数の前記滑り免震装置は、互いにずらして配置され、隣接する前記滑り免震装置の前記上沓どうしは、互いに前記水平一方向に前記上沓の略幅分ずらした状態で配置されるとともに、隣接する前記滑り免震装置の前記下沓どうしは、互いに前記水平他方向に前記下沓の略幅分ずらした状態で配置され、前記下沓に対して前記上沓が相対移動する際に、互いの前記上沓どうしが干渉せずに滑動可能に構成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、上沓、下沓および摺動子を備えた滑り免震装置を複数台用い、これら複数台の滑り免震装置を互いの動きに干渉させずに近接配置することにより、台数に比例した支持荷重を備えた滑り免震機構を実現することができる。また、同一の滑り免震装置を複数台近接配置するだけで大荷重に対応することができるため、安価で合理的な免震支承を容易に構築することができる。
【0011】
また、本発明の滑り免震機構においては、前記上沓における前記摺動子との摺動面は、前記水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上沓傾斜面として形成されているとともに、前記摺動子における前記上沓との上部摺動面は、前記水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上部傾斜面として形成され、前記下沓における前記摺動子との摺動面は、前記水平他方向に沿ってV形に傾斜する下沓傾斜面として形成されているとともに、前記摺動子における前記下沓との下部摺動面は、前記水平他方向に沿ってV形に傾斜する下部傾斜面として形成されていてもよい。
【0012】
本発明によれば、摺動子を上沓および下沓に対して水平二方向に摺動させるための上部摺動面および下部摺動面を水平面に対して傾斜する傾斜面(上部傾斜面および下部傾斜面)としたことにより、自ずと復元力が得られて残留変位を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明の滑り免震機構においては、前記摺動子は、上面側の前記水平他方向の両端部に沿って上方に突出した一対の上部ガイドと、下面側の前記水平一方向の両端部に沿って下方に突出した一対の下部ガイドと、を備え、前記一対の上部ガイドの間に前記上沓が係合されるとともに、前記一対の下部ガイドの間に前記下沓が係合されていてもよい。
【0014】
本発明によれば、摺動子に一対の上部ガイドおよび一対の下部ガイドを設けたため、上沓および下沓に対して摺動子を一方向、他方向に確実に摺動自在に保持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の滑り免震機構によれば、傾斜滑り支承を用いた滑り免震機構において、摺動子を大きくすることなく大荷重に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る滑り免震装置の分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る滑り免震装置の平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る滑り免震機構の斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る滑り免震機構(滑り免震装置2台使用)の平面図である。
【
図6】
図5の平面図であり、上部構造体の基礎サイズを示すものである。
【
図7】
図5の平面図であり、下部構造体の基礎サイズを示すものである。
【
図8】本発明の実施形態に係る滑り免震機構(滑り免震装置3台使用)の平面図である。
【
図9】
図8の平面図であり、上部構造体の基礎サイズを示すものである。
【
図10】
図8の平面図であり、下部構造体の基礎サイズを示すものである。
【
図11】本発明の実施形態に係る滑り免震機構(滑り免震装置4台使用)の平面図である。
【
図12】
図11の平面図であり、上部構造体の基礎サイズを示すものである。
【
図13】
図11の平面図であり、下部構造体の基礎サイズを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る滑り免震機構について図面を用いて説明する。ここで、本実施形態は、免震対象物である上部構造体をその支持構造物である下部構造体に対して水平各方向(X-X、Y-Y)に滑動自在に支持する滑り免震機構に関するものである。
【0018】
(滑り免震装置)
本実施形態で用いられる滑り免震装置20は、
図1から
図3に示すように、上部構造体の底部に固定される上沓21と、下部構造体の上部に固定される下沓22と、それら上沓21及び下沓22の間に介装される摺動子23とを備えて構成されている。
【0019】
具体的に、本実施形態において、上沓21および下沓22は、例えば、断面矩形の横長のブロック状の略同一形状、同一寸法の部材であり、長さ方向を互いに直交する向きに配設されている。上沓21がその長さ方向を水平の一方向(Y方向)に向け、下沓22がその長さ方向を一方向(Y方向)に直交する水平の他方向(X方向)に向けつつ、上下方向に間隔をあけて対向配置されている。また、上沓21および下沓22は、この状態で、且つ、互いの交差部分に摺動子23を介装した状態で、上部構造体の底部、下部構造体の上部にそれぞれ固定されている。
【0020】
上沓21と摺動子23とは、互いに当接する摺動面24,25、すなわち互いに当接して係合する上沓21の下面と摺動子23の上面(上部側の摺動面)がそれぞれ、一方向(Y方向)に沿ってΛ形(逆V形)に傾斜する上沓傾斜面24および上部傾斜面25として形成されている。
【0021】
下沓22と摺動子23とは、互いに当接する摺動面26,27、すなわち互いに当接して係合する下沓22の上面と摺動子23の下面(下部側の摺動面)がそれぞれ、他方向(X方向)に沿ってV形に傾斜する下沓傾斜面26および下部傾斜面27として形成されている。
【0022】
摺動子23の上面と下面にそれぞれ、例えばテフロン(登録商標)などの滑り材28が一体に貼設するなどして設けられ、この滑り材28によって摩擦抵抗を低減した(低摩擦係数の)上部側の摺動面(上部傾斜面)25と下部側の摺動面(下部傾斜面)27が形成されている。また、上沓21の摺動面(上沓傾斜面)24および下沓22の摺動面(下沓傾斜面)26にも滑り板(滑り材)28が固着されている。
【0023】
摺動子23における、上面側、且つ水平の一方向(Y方向)(上沓21の長さ方向)に沿う一対の側部側にそれぞれ、上方に突出する一対の上部ガイド30が設けられている。同様に、摺動子23における、下面側、且つ水平の他方向(X方向)(下沓22の長さ方向)に沿う一対の側部側にそれぞれ、下方に突出する一対の下部ガイド31が設けられている。また、本実施形態では、一対の上部ガイド30が水平の一方向(Y方向)の略全長に、一対の下部ガイド31が水平の他方向(X方向)の略全長にそれぞれ延設されている。
【0024】
一対の上部ガイド30における互いに対向した内面には、滑り材33が設けられている。また、上沓21の側面36には滑り材33と対向して滑り材38が設けられている。同様に、一対の下部ガイド31における互いに対向した内面には、滑り材35が設けられている。また、下沓22の側面37には滑り材35と対向して滑り材39が設けられている。なお、滑り材33は上部ガイド30におけるY方向全長に設けなくてもよく、部分的に配設する構成であってもよい。同様に、滑り材35は下部ガイド31におけるX方向全長に設けなくてもよく、部分的に配設する構成であってもよい。
【0025】
そして、本実施形態の滑り免震装置20では、一対の上部ガイド30の間に上沓21を係合させ、一対の下部ガイド31の間に下沓22を係合させて、摺動子23が上沓21と下沓22の間に介設されている。
【0026】
(滑り免震機構)
図4に示すように、本実施形態の滑り免震機構10は、上記した滑り免震装置20を複数台(
図4では2台)組み合わせて構成されている。滑り免震装置20の組み合わせ台数は、支持する荷重に応じて適宜変更することができる。滑り免震装置20を3台または4台組み合わせた構成は後述する。
【0027】
滑り免震機構10について図面を用いて具体的に説明する。なお、以下の説明では、平面視において、X方向における右側方向を+X方向とし、左側方向を-X方向とする。また、Y方向における上側方向を+Y方向とし、下側方向を-Y方向とする。
【0028】
図4は滑り免震装置20を2台組み合わせた場合の斜視図であり、
図5は
図4の平面図である。ここで、2台の滑り免震装置を、第一滑り免震装置20Aと、第二滑り免震装置20Bとし、各滑り免震装置の各部材にもそれぞれA,Bの符号を付して説明する。第一滑り免震装置20A、および第二滑り免震装置20Bは、同じ構成・寸法のものを採用している。
【0029】
図4,
図5に示すように、第一滑り免震装置20Aの下沓22Aと、第二滑り免震装置20Bの下沓22Bとは、X方向に位置をずらした状態で近接配置されている。下沓22Bは、下沓22Aに対して+X方向に所定距離ずれている。また、下沓22Bは、下沓22Aの-Y方向側に近接配置されている。同様に、第一滑り免震装置20Aの上沓21Aと、第二滑り免震装置20Bの上沓21Bとは、Y方向に位置をずらした状態で近接配置されている。上沓21Bは、上沓21Aに対して-Y方向に所定距離ずれている。また、上沓21Bは、上沓21Aの+X方向側に近接配置されている。つまり、第一滑り免震装置20Aの摺動子23Aと、第二滑り免震装置20Bの摺動子23Bとは、X方向およびY方向にそれぞれ所定距離ずつずれた位置に配置されている。
【0030】
このように2台の滑り免震装置20A,20Bを用いて滑り免震機構10を構成することにより、地震時などにおいてそれぞれの上沓21(21A,21B)および下沓22(22A,22B)は互いに干渉することなくスムーズに相対移動することができるとともに、1台の滑り免震装置を用いる場合よりも2倍の荷重を支えることが可能となる。また、
図6に示すように、上部構造物に必要な上沓21用の基礎は、破線C1で囲まれた領域のみである。同様に、
図7に示すように、下部構造物に必要な下沓22用の基礎は、破線C2で囲まれた領域のみである。つまり、本実施形態では、基礎の平面積を小さくすることができ、省スペース化を図ることができるとともに、基礎に生じる応力も小さくすることができる。
【0031】
図8は滑り免震装置20を3台組み合わせた場合の平面図である。ここで、3台の滑り免震装置を、第三滑り免震装置20Cと、第四滑り免震装置20Dと、第五滑り免震装置20Eとし、各滑り免震装置の各部材にもそれぞれC,D,Eの符号を付して説明する。第三滑り免震装置20C、第四滑り免震装置20D、および第五滑り免震装置20Eは、同じ構成・寸法のものを採用している。
【0032】
図8~
図10は、滑り免震装置20を3台組み合わせて滑り免震機構10を構成した図である。
図8に示すように、第三滑り免震装置20Cの下沓22Cと、第四滑り免震装置20Dの下沓22Dと、第五滑り免震装置20Eの下沓22Eとは、互いにX方向に位置をずらした状態で近接配置されている。具体的に、下沓22Dは、下沓22Cに対して-X方向に所定距離ずれている。また、下沓22Dは、下沓22Cの-Y方向側に近接配置されている。同様に、下沓22Eは、下沓22Cに対して+X方向に所定距離ずれている。また、下沓22Eは、下沓22Dの-Y方向側に近接配置されている。つまり、下沓22C、22D、22Eは、この順で-Y方向に並んで近接配置されている。
【0033】
同様に、第三滑り免震装置20Cの上沓21Cと、第四滑り免震装置20Dの上沓21Dと、第五滑り免震装置20Eの上沓21Eとは、互いにY方向に位置をずらした状態で近接配置されている。具体的に、上沓21Cは、上沓21Dに対して+Y方向に所定距離ずれている。上沓21Cは、上沓21Dの+X方向側に近接配置されている。同様に、上沓21Eは、上沓21Dに対して-Y方向に所定距離ずれている。また、上沓21Eは、上沓21Cの+X方向側に近接配置されている。つまり、上沓21D、21C、21Eは、この順で+X方向に並んで近接配置されている。
【0034】
上記したように下沓22(22C~22E)および上沓21(21C~21E)が配置されることにより、第三滑り免震装置20Cの摺動子23Cと、第四滑り免震装置20Dの摺動子23Dと、第五滑り免震装置20Eの摺動子23Eとは、X方向およびY方向にそれぞれ所定距離ずつずれた位置に配置されている。
【0035】
このように3台の滑り免震装置20C,20D,20Eを用いて滑り免震機構10を構成することにより、地震時などにおいてそれぞれの上沓21(21C~21E)および下沓22(22C~22E)は互いに干渉することなくスムーズに相対移動することができるとともに、1台の滑り免震装置を用いる場合よりも3倍の荷重を支えることが可能となる。また、
図9に示すように、上部構造物に必要な上沓21用の基礎は、破線C3で囲まれた領域のみである。同様に、
図10に示すように、下部構造物に必要な下沓22用の基礎は、破線C4で囲まれた領域のみである。
【0036】
図11~
図13は、滑り免震装置20を4台組み合わせて滑り免震機構10を構成した図である。
図11は滑り免震装置20を4台組み合わせた場合の平面図である。ここで、4台の滑り免震装置を、第六滑り免震装置20Fと、第七滑り免震装置20Gと、第八滑り免震装置20Hと、第九滑り免震装置20Iとし、各滑り免震装置の各部材にもそれぞれF,G,H,Iの符号を付して説明する。第六滑り免震装置20F~第九滑り免震装置20Iは同じ構成・寸法のものを採用している。
【0037】
図11に示すように、第六滑り免震装置20Fの下沓22Fと、第七滑り免震装置20Gの下沓22Gとは、X方向に位置をずらした状態で近接配置されている。下沓22Gは、下沓22Fに対して+X方向に所定距離ずれている。また、下沓22Gは、下沓22Fの+Y方向側に近接配置されている。同様に、第六滑り免震装置20Fの上沓21Fと、第七滑り免震装置20Gの上沓21Gとは、Y方向に位置をずらした状態で近接配置されている。上沓21Gは、上沓21Fに対して+Y方向に所定距離ずれている。また、上沓21Gは、上沓21Fの+X方向側に近接配置されている。つまり、第六滑り免震装置20Fの摺動子23Fと、第七滑り免震装置20Gの摺動子23Gとは、X方向およびY方向にそれぞれ所定距離ずつずれた位置に配置されている。
【0038】
また、第八滑り免震装置20Hの下沓22Hと、第九滑り免震装置20Iの下沓22Iとは、X方向に位置をずらした状態で近接配置されている。下沓22Iは、下沓22Hに対して+X方向に所定距離ずれている。また、下沓22Iは、下沓22Hの+Y方向側に近接配置されている。同様に、第八滑り免震装置20Hの上沓21Hと、第九滑り免震装置20Iの上沓21Iとは、Y方向に位置をずらした状態で近接配置されている。上沓21Iは、上沓21Hに対して+Y方向に所定距離ずれている。また、上沓21Iは、上沓21Hの+X方向側に近接配置されている。つまり、第八滑り免震装置20Hの摺動子23Hと、第九滑り免震装置20Iの摺動子23Iとは、X方向およびY方向にそれぞれ所定距離ずつずれた位置に配置されている。
【0039】
図11に示すように、第六滑り免震装置20Fの下沓22Fと、第九滑り免震装置20Iの下沓22Iとは、X方向に連設するように配設されている。具体的には、下沓22Iは、下沓22Fの+X方向側に配設されている。つまり、下沓22G、22F(22I)、22Hは、この順で-Y方向に並んで近接配置されている。また、上沓21F、21G、21H、21Iは、この順で+X方向に並んで近接配置されている。つまり、第六滑り免震装置20Fの摺動子23F~第九滑り免震装置20Iの摺動子23Iは、X方向およびY方向にそれぞれ所定距離ずつずれた位置に配置されている。
【0040】
このように4台の滑り免震装置20F,20G,20H,20Iを用いて滑り免震機構10を構成することにより、地震時などにおいてそれぞれの上沓21(21F~21I)および下沓22(22F~22I)は互いに干渉することなくスムーズに相対移動することができるとともに、1台の滑り免震装置を用いる場合よりも4倍の荷重を支えることが可能となる。また、
図12に示すように、上部構造物に必要な上沓21用の基礎は、破線C5で囲まれた領域のみである。同様に、
図13に示すように、下部構造物に必要な下沓22用の基礎は、破線C6で囲まれた領域のみである。
【0041】
本実施形態の滑り免震機構10は、免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持する滑り免震機構10であって、上部構造体の底部に固定される上沓21と、下部構造体の上部に固定される下沓22と、上沓21と下沓22との間に介装される摺動子23と、を有する滑り免震装置20を複数備え、摺動子23は、上沓21に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに下沓22に対して水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、複数の滑り免震装置20は、互いに近接して配置され、隣接する滑り免震装置20の上沓21どうしは、互いに水平一方向に所定距離ずらした状態で配置され、隣接する滑り免震装置20の下沓22どうしは、互いに水平他方向に所定距離ずらした状態で配置され、下沓22に対して上沓21が相対移動する際に、互いの上沓21どうしが干渉せずに滑動可能に構成されている。
【0042】
このように、上沓21、下沓22および摺動子23を備えた滑り免震装置20を複数台用い、これら複数台の滑り免震装置20を互いの動きに干渉させずに近接配置することにより、台数に比例した支持荷重を備えた滑り免震機構10を実現することができる。また、同一の滑り免震装置20を複数台近接配置するだけで大荷重に対応することができるとともに構造体に形成する滑り免震機構の基礎サイズを小さくすることができるため、安価で合理的な免震支承を容易に構築することができる。
【0043】
また、本実施形態の滑り免震機構10においては、上沓21における摺動子23との摺動面は、水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上沓傾斜面24として形成されているとともに、摺動子23における上沓21との上部摺動面は、水平一方向に沿ってΛ形に傾斜する上部傾斜面25として形成されている。また、下沓22における摺動子23との摺動面は、水平他方向に沿ってV形に傾斜する下沓傾斜面26として形成されているとともに、摺動子23における下沓22との下部摺動面は、水平他方向に沿ってV形に傾斜する下部傾斜面27として形成されている。
【0044】
このように、摺動子23を上沓21および下沓22に対して水平二方向に摺動させるための上部摺動面および下部摺動面を水平面に対して傾斜する傾斜面(上部傾斜面25および下部傾斜面27)としたことにより、自ずと復元力が得られて残留変位を抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施形態の滑り免震機構10においては、摺動子23は、上面側の水平他方向の両端部に沿って上方に突出した一対の上部ガイド30,30と、下面側の水平一方向の両端部に沿って下方に突出した一対の下部ガイド31,31と、を備え、一対の上部ガイド30,30の間に上沓21が係合されるとともに、一対の下部ガイド31,31の間に下沓22が係合されている。
【0046】
このように、摺動子23に一対の上部ガイド30,30および一対の下部ガイド31,31を設けたため、上沓21および下沓22に対して摺動子23を一方向、他方向に確実に摺動自在に保持することができる。
【0047】
以上、本発明に係る滑り免震機構の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0048】
例えば、本実施形態では、滑り免震装置20を2台~4台用いて滑り免震機構10を構成した場合の説明をしたが、使用する滑り免震装置は5台以上であってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、滑り免震装置20を複数台用いて滑り免震機構10を構成しているが、滑り免震機構10を構成する際の滑り免震装置20の配置は上記実施形態の配置に限られず、互いの上沓および下沓が干渉しない配置であればよい。
【0050】
また、本実施形態では上部ガイドおよび下部ガイドを設けた場合の説明をしたが、上部ガイドおよび下部ガイドはなくてもよい。また、本実施形態では摺動子側に上部ガイドおよび下部ガイドを設けたが、ガイドを上沓および下沓に設けてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 滑り免震機構
20(20A~20I) 滑り免震装置
21(21A~21I) 上沓
22(22A~22I) 下沓
23(23A~23I) 摺動子
24 上沓傾斜面
25 上部傾斜面
26 下沓傾斜面
27 下部傾斜面
30 上部ガイド
31 下部ガイド