(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】巻回形コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/048 20060101AFI20230502BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20230502BHJP
H01G 13/02 20060101ALI20230502BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230502BHJP
【FI】
H01G9/048 C
H01G11/78
H01G13/02 301B
H01G11/26
(21)【出願番号】P 2019092816
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】川崎 友彦
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277348(JP,A)
【文献】特開2008-010242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/00-17/00
H01M 4/00-50/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子と、当該コンデンサ素子が電解質を含浸した状態で収納される外装ケースとを備える巻回形コンデンサであって、
前記コンデンサ素子は、陽極となる電極箔と陰極となる電極箔とをシート状のセパレータを介して巻回してなる巻回体と、当該巻回体の外周に巻き回されて、前記陽極となる電極箔、前記陰極となる電極箔及び前記セパレータの巻回状態を維持させる素子止めテープを有し、
前記素子止めテープの一端部において、前記陽極となる電極箔及び前記陰極となる電極箔のうち、前記巻回体の径方向内側に配置され
る電極箔の巻き終わり終端面に素子止めテープの巻き始め始端面が前記巻回体の巻回方向において
対向し、かつ前記巻回体の径方向外側に配置される電極箔の巻き終わり終端部に前記素子止めテープの巻き始め始端が前記セパレータを介して前記巻回体の径方向に対向するように配置され、他端部は前記素子止めテープの表面に固定されることを特徴とする巻回形コンデンサ。
【請求項2】
前記巻回体の巻回軸方向における前記素子止めテープの幅と、前記素子止めテープと前記巻回方向において対向する前記電極箔の幅とは等しいことを特徴とする請求項1記載の巻回形コンデンサ。
【請求項3】
前記素子止めテープの厚みと、前記素子止めテープと前記巻回方向において対向する前記電極箔の厚みとは等しいことを特徴とする請求項1又は2記載の巻回形コンデンサ。
【請求項4】
前記素子止めテープは、接着剤を塗布したシート部材からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の巻回形コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻回形コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻回形電気二重層コンデンサの素子として、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて巻回して、陽極箔を陰極箔で覆う構造のものが知られている(特許文献1)。
図8は、従来のコンデンサ素子101の構成部品を示す説明図である。
図8に示すように、コンデンサ素子101は、陽極箔102と、陰極箔103と、セパレータ104a、104bと、陽極端子105と、陰極端子106と、素子止めテープ107と、を有している。
【0003】
コンデンサ素子101は、セパレータ104a、陰極箔103、セパレータ104b、陽極箔102の順で重ねたものを、セパレータ104aが内側になるように巻回し、所定の部位に陽極端子105及び陰極端子106を介在させて更に巻回して巻回体を形成する。そして、この巻回体の外周に素子止めテープ107を巻くことによって製造される。
【0004】
図9は、
図8に示すコンデンサ素子101におけるセパレータ104a、陰極箔103、セパレータ104b及び陽極箔102を巻き回した態様を示す図である。
図9に示すコンデンサ素子101においては、セパレータ104aは、陽極箔102、陰極箔103よりも若干長く、セパレータ104bは、セパレータ104aよりもさらに長く形成されている。また、陽極箔102と陰極箔103は同じ幅であり、セパレータ104aとセパレータ104bは同じ幅であり、セパレータ104aの幅は、陽極箔102の幅より大きく形成されている。このため、陽極箔102と陰極箔103との間に必ずセパレータ104a或いはセパレータ104bが介在するようになり、陽極箔102と陰極箔103とは直接的に接触しない構造となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図9に示すコンデンサ素子101は、陽極箔102の最外周終端部、すなわち
図9に示す矢印Aに示す部位においてセパレータ104aに段差が生じる構造となる。
【0007】
図10は、
図9の矢印Aに示す部位を示す拡大図である。
図10に示すように、従来のコンデンサ素子101は、陽極箔102の有無によって生じたセパレータ104aの段差の部位に陽極箔102のエッジが当接するようになる。このため、巻回形電気二重層コンデンサを充電すると電極箔が膨張することによって段差部位にせん断応力が働き、セパレータ104aが破れるおそれがある。セパレータ104aが破れると、陽極箔102と陰極箔103とが接触してショート状態となる場合があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、充電の際に電極箔が膨張することに起因する陽極箔と陰極箔との接触によるショート状態の発生を防止する巻回形コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、以下に記載する構成を備える。
【0010】
(1) コンデンサ素子と、当該コンデンサ素子が電解質を含浸した状態で収納される外装ケースとを備える巻回形コンデンサであって、
前記コンデンサ素子は、陽極となる電極箔と陰極となる電極箔とをシート状のセパレータを介して巻回してなる巻回体と、当該巻回体の外周に巻き回されて、前記陽極となる電極箔、前記陰極となる電極箔及び前記セパレータの巻回状態を維持させる素子止めテープを有し、
前記素子止めテープの一端部において、前記陽極となる電極箔及び前記陰極となる電極箔のうち、前記巻回体の径方向内側に配置される前記電極箔の巻き終わり終端面に素子止めテープの巻き始め始端面が前記巻回体の巻回方向において対向するように配置され、他端部は前記素子止めテープの表面に固定されることを特徴とする巻回形コンデンサ。
(2) (1)において、前記巻回体の巻回軸方向における前記素子止めテープの幅と、前記素子止めテープと前記巻回方向において対向する前記電極箔の幅とは等しいことを特徴とする巻回形コンデンサ。
(3) (1)、(2)において、前記素子止めテープの厚みと、前記素子止めテープと前記巻回方向において対向する前記電極箔の厚みとは等しいことを特徴とする巻回形コンデンサ。
(4) (1)~(3)において、前記素子止めテープは、接着剤を塗布したシート部材からなることを特徴とする巻回形コンデンサ。
【0011】
(1)~(4)の構成を有する本発明は、素子止めテープが巻回体の径方向内側に配置される電極箔の終端部の段差を緩衝するため、電極箔が膨張した時のセパレータへの負荷を軽減し、セパレータの破れを抑制することが可能になる。これにより、充電の際に電極箔が膨張することに起因する陽極箔と陰極箔との接触によるショート状態の発生を防止する巻回形コンデンサを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充電の際に電極が膨張することに起因する陽極箔と陰極箔との接触によるショート状態の発生を防止することを可能にした巻回形コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における巻回形コンデンサ1の外観を示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における巻回形コンデンサ1の構成部品を示す分解図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子10の構成部品を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子10の組立方法を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子10の組立方法を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子10の巻回態様を示す図である。
【
図7】
図6の矢印Bに示す部位を拡大した図である。
【
図8】従来のコンデンサ素子101の構成部品を示す説明図である。
【
図9】従来のコンデンサ素子101の巻回態様を示す図である。
【
図10】
図9の矢印Aに示す部位を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[巻回形コンデンサの構成]
図1は、本発明の一実施形態における巻回形コンデンサ1の外観を示す正面図、
図2は、本発明の一実施形態における巻回形コンデンサ1の構成部品を示す分解図である。
図2に示すように、本実施形態の巻回形コンデンサ1は、コンデンサ素子10と、外装ケース21と、封口体22と、を備えている。
【0016】
コンデンサ素子10(
図2参照)は、静電容量により電荷を蓄えたり、放出したりする素子であり、外装ケース21の内部に収容される。
外装ケース21は、アルミニウム材からなる有底の円筒体であって、軸方向の一端側が開放されており、他端側が閉鎖されている。
【0017】
封口体22は、外装ケース21の開口を封止する絶縁性を有する円柱状の部材であり、例えば、ゴムや合成樹脂によって構成されている。
【0018】
そして、コンデンサ素子10に電解質を含浸した後、コンデンサ素子10を外装ケース21内に挿入して、外装ケース21の開口を封口体22によって封止する。その後、外装ケース21の開口部の側面に絞り加工を施して外装ケース21の内部を封口体22によって完全気密封止することにより、
図1に示すように、巻回形コンデンサ1が構成される。
【0019】
[コンデンサ素子の構成]
次に、電気二重層コンデンサを例として、コンデンサ素子10について説明する。
図3は、コンデンサ素子10の構成部品を示す説明図である。
図3に示すように、コンデンサ素子10は、陽極箔2と、陰極箔3と、2枚のセパレータ4と、陽極端子5と、陰極端子6と、素子止めテープ7と、を有している。
【0020】
陽極箔2及び陰極箔3は、アルミニウム等の金属箔からなる集電体の上に活性炭を含む分極性電極層が形成された長尺の帯状の電極箔である。陽極箔2及び陰極箔3は矩形であり、以下の説明の便宜上、矩形において、長尺方向に延びる幅を横幅と称し、長尺方向に対して垂直方向に延びる幅を縦幅と称することにする。陽極箔2及び陰極箔3の縦幅は同一であるが、横幅は陽極箔2よりも陰極箔3の方が若干大きく設定されている。
【0021】
セパレータ4は矩形の帯状であり、その両面には駆動用電解液及び/又は固体電解質が保持されている。本実施形態によれば2枚のセパレータ4が使用される。これら2枚のセパレータ4をそれぞれセパレータ4a、4bと称することにする。セパレータ4a、4bは縦幅が同一に設定されており、横幅はセパレータ4aよりもセパレータ4bが大きく設定されている。またセパレータ4a、4bの縦幅は、陽極箔2及び陰極箔3の縦幅よりも若干大きく、セパレータ4a、4bの横幅は陰極箔3よりも大きく設定されている。
【0022】
陽極端子5は、陽極箔2に接触する導電性を有する金属部材である。陽極端子5は、円柱部5aと、円柱部5aの一方の端面から円柱部5aと同軸に延びる円柱部5aよりも細い円柱状の陽極リード棒5bと、円柱部5aの他方の端面から円柱部5aと同軸方向に延びる平板部(図示せず)とによって構成されている。
陰極端子6は、円柱部6aと、陰極リード棒6bと、平板部(図示せず)とによって構成されている。陰極端子6は、陰極リード棒6bの長さが陽極リード棒5bよりも短いこと以外は陽極端子5と同形である。
素子止めテープ7は、矩形の帯状であり、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等の長尺のフィルムを基材とするものであり、その一方の面の少なくとも長尺方向両端部は接着面となっており、他方の面は非接着面となっている。素子止めテープ7の縦幅は、陽極箔2及び陰極箔3の縦幅に等しく、横幅は、巻回体9(
図4(b)参照)の外周よりも大きく設定されている。
【0023】
[コンデンサ素子の組立方法]
次に、コンデンサ素子10の組立方法について説明する。
まず、
図4(a)に示すように、セパレータ4a、陰極箔3、セパレータ4b、陽極箔2の順に始端部を積み重ねて、積層部8を形成する。この際、セパレータ4a、陽極箔2、陰極箔3の始端部は略揃えられており、セパレータ4bの始端部は、陽極箔2の始端部から突出している。この積層部8をセパレータ4bの始端部から巻き始めて、セパレータ4aが内側になるように巻き回す。更に、セパレータ4aと陽極箔2との間における予め定められた部位に陽極端子5の平板部を配置し、セパレータ4bと陰極箔3との間における予め定められた部位に陰極端子6の平板部を配置して、積層部8を更に巻き回すことにより、
図4(b)に示すように、巻回体9が形成される。巻回体9の巻回軸方向は、セパレータ4a、陰極箔3、セパレータ4b、陽極箔2の縦幅方向に平行である。この巻回体9の一方の端面から陽極リード棒5b及び陰極リード棒6bが突出する。なお、陽極リード棒5b及び陰極リード棒6bの位置は、
図2に示すように、コンデンサ素子10を外装ケース21内に挿入して、外装ケース21の開口を封口体22によって封止した際に、封口体22に形成された2つの貫通孔(図示せず)に挿入されるように設定されている。
【0024】
積層部8を巻き回して行くことによって、陽極箔2の巻き終わりとなる終端部が巻回体9の外周側面に到達する。この際、
図4(b)に示すように、陽極箔2の終端部を巻回体9に密着させた状態を維持しながら、巻回体9の巻回方向に沿って陽極箔2の終端面に素子止めテープ7の始端面が対向するように、素子止めテープ7の巻き始めとなる始端部をセパレータ4aの所定部位に貼着する。このとき、陽極箔2の終端に素子止めテープ7の始端が近接するように貼着することが望ましい。また、素子止めテープ7は、厚さが陽極箔2と同一のものを用いることが望ましい。
【0025】
そして、
図5(a)に示すように、陰極箔3及びセパレータ4bを最後まで巻き回した後、
図5(b)に示すように、素子止めテープ7を巻回体9の外周を周回させて、素子止めテープ7の終端部を内周側の素子止めテープ7の所定部位に貼着する。素子止めテープ7の貼着は、素子止めテープ7の始端部と終端部とに接着剤を塗布したり、両面粘着テープを貼り付けたりすることによって行う。特に、接着剤を用いることにより、接着剤が乾く前に素子止めテープ7の位置を微調整することが可能になり、陽極箔2の終端に対して素子止めテープ7の始端を確実に近接させることが可能になる。以上により、コンデンサ素子10が製造される。
【0026】
ここで、陽極箔2の終端と素子止めテープ7の始端との距離は、陽極箔2の終端と素子止めテープ7の始端と隙間を介してセパレータ4aとセパレータ4bとが接触しない程度、例えば、陽極箔2の厚さ程度であればよい。また、陽極箔2の終端に素子止めテープ7の始端が当接してもよい。但し、陽極箔2の終端部及び素子止めテープ7の始端部のいずれか一方が他方に乗り上げないように素子止めテープ7の始端部を配置する必要がある。
【0027】
図6は、
図3に示すコンデンサ素子10におけるセパレータ4a、陽極箔2、セパレータ4b及び陰極箔3を巻き回した態様を示す図である。
図7は、
図6の矢印Bに示す部位を拡大した図である。
図6、
図7に示すように、コンデンサ素子10においては、陽極箔2の終端に素子止めテープ7の始端が当接又は近接しており、しかも、陽極箔2と素子止めテープ7とが同一の厚さであるため、陽極箔2と素子止めテープ7の内周面および外周面が略面一となる。このため、電気二重層コンデンサ1を充電しているときに、陽極箔2が膨張したとしても、陽極箔2のエッジがセパレータ4aに食い込みにくくなるため、セパレータ4aの破れを抑制することが可能になる。
【0028】
このように構成した本実施形態によれば、陽極箔2の終端面と素子止めテープ7の始端面とが対向しており、かつ、陽極箔2と素子止めテープ7とが同一の厚さであるため、陽極箔2と素子止めテープ7の内周面および外周面が略面一となる。このため、
図9の矢印Aで示した従来のコンデンサ素子101において形成される「段差」が緩和され、セパレータ4aに剪断応力がかかりにくくなる。このように、本実施形態によれば、陽極箔2が膨張した時のセパレータ4aへの負荷を軽減し、セパレータ4aの破れを抑制することが可能になる。これにより、充電の際に電極箔が膨張することに起因する陽極箔2と陰極箔3との接触によるショート状態の発生を防止することを可能にした電気二重層コンデンサ1を提供することができる。
【0029】
なお、上述した実施形態においては、素子止めテープ7の始端部と終端部に粘着性を持たせているが、素子止めテープ7の内側の面全体に粘着性を持たせてもよい。
【0030】
また、上述した実施形態においては、コンデンサ素子10の外周部において、陽極箔2の終端部が内側に、陰極箔3の終端部が外側に配置されているため、陽極箔2の終端面に素子止めテープ7の始端面を対向させている。しかしながら、コンデンサ素子の外周部において、陽極箔の終端部が外側に、陰極箔の終端部が内側に配置されているコンデンサ素子の場合には、陰極箔の終端面に素子止めテープ7の始端面を対向させてもよい。
【0031】
なお、上述した実施形態においては、電気二重層コンデンサについて説明したが、アルミニウム電解コンデンサ、リチウムイオンキャパシタなどの巻回形コンデンサにおいてもショート状態の発生を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 巻回形コンデンサ
2 陽極箔
3 陰極箔
4、4a、4b セパレータ
5 陽極端子
5b 陽極リード棒
6 陰極端子
6b 陰極リード棒
7 素子止めテープ
10 コンデンサ素子
21 外装ケース
22 封口体