(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】硫化水素ガス吸着構造体及び電池パック
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20230502BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230502BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20230502BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20230502BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20230502BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20230502BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230502BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/20 B
B01J20/18 B
B01J20/10 D
B01J20/10 A
B01J20/06 A
B01J20/06 B
B01J20/06 C
B01J20/02 A
B01J20/02 B
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2019108917
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-089644(JP,A)
【文献】特開平07-061925(JP,A)
【文献】特開2009-183900(JP,A)
【文献】特開2014-059217(JP,A)
【文献】特開2014-049204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
B01D 53/14-53/18
H01M 10/05-10/0587
A61L 9/00-9/22
B01D 53/34-53/73;53/74-53/85;
53/92;53/96
F16L 59/00-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素ガスを吸着可能な吸着材が、非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きい包装材で気密に包囲されてな
り、
前記包装材は、JIS K 6275-1(2009)又はJIS K 7126-1(2006)に準拠して測定されるガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに10cc/cm
2
/mm/秒/cmHg×10
10
以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm
2
/mm/秒/cmHg×10
10
以上である、硫化水素ガス吸着構造体。
【請求項2】
前記包装材は
、ポリアミド、ポリアセタール
及び酢酸セルロー
スから選択される少なくとも一種から構成される、請求項
1に記載の硫化水素ガス吸着構造体。
【請求項3】
前記包装材の内部は、真空状態又は減圧状態である、請求項1
又は2に記載の硫化水素ガス吸着構造体。
【請求項4】
前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硫化水素ガス吸着構造体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の硫化水素ガス吸着構造体を、硫化物系固体電解質を用いた電池セルとともに電池ケースに収容した、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素ガス吸着構造体に関する。また、本発明は、この硫化水素ガス吸着構造体を、硫化物系固体電解質を用いた電池セルとともに電池ケースに収容した電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された電池パックが搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主として用いられている。そして、リチウムイオン二次電池の中でも、可燃性の有機溶媒からなる電解液を用いないことから、安全性の高い全固体型リチウムイオン二次電池が注目を集めている。この全固体型リチウムイオン二次電池では、有機溶媒を用いた電解液の代わりに、例えば硫化物系固体電解質が好適に用いられる。
【0004】
しかしながら、この硫化物系固体電解質を有する全固体型リチウムイオン二次電池では、電池外から流入した空気が硫化物系固体電解質と接触すると、空気中の水分により硫化水素ガス(H2S)が発生することがある。硫化水素ガスは、電極を腐食させるとともに、毒性が高いため人体への影響も懸念される。
【0005】
そこで、発生した硫化水素ガスを吸着する必要があり、例えば特許文献1では、全固体型リチウムイオン二次電池とともに多孔質吸着材を容器(電池ケース)に収容するとともに、容器内に、硫化水素の分子より大きい分子、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの気体を充填して加圧している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、硫化水素の分子径よりも大きく、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいことから、発生した硫化水素ガスを選択的に細孔内に捕獲する吸着機構となっている。しかしながら、多孔質吸着材は、気体が充填された容器内で露出しているとともに、容器内に充填された気体は加圧された状態である。また、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいとはいえ、細孔の孔径にも分布があることから、一部の細孔において、容器内に充填された気体の分子径よりも大きい場合もあるため、多孔質吸着材の細孔が、充填された窒素などの気体により閉塞され、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化するおそれがあった。また、多孔質吸着材の種類も、充填される気体の分子径により制限されるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、硫化水素ガスに対する吸着性能の経時的な劣化を防ぐとともに、多孔質吸着材の種類の制限がない硫化水素ガス吸着構造体を提供することを目的とする。また、本発明は、長期にわたり安全性を確保した電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、硫化水素ガス吸着構造体に係る下記(1)により達成される。
(1) 硫化水素ガスを吸着可能な吸着材が、非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きい包装材で気密に包囲されてなる、硫化水素ガス吸着構造体。
【0010】
また、硫化水素ガス吸着構造体に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(5)のいずれかであることを特徴とする。
(2) 前記包装材は、JIS K 6275-1(2009)又はJIS K 7126-1(2006)に準拠して測定されるガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに100cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以上である、上記(1)に記載の硫化水素ガス吸着構造体。
(3) 前記包装材は、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリブタジエン-アクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクロロプレンゴムから選択される少なくとも一種から構成される、上記(1)又は(2)に記載の硫化水素ガス吸着構造体。
(4) 前記包装材の内部は、真空状態又は減圧状態である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の硫化水素ガス吸着構造体。
(5) 前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の硫化水素ガス吸着構造体。
【0011】
また、本発明の目的は、電池パックに係る下記(6)により達成される。
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の硫化水素ガス吸着構造体を、硫化物系固体電解質を用いた電池セルとともに電池ケースに収容した、電池パック。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る硫化水素ガス吸着構造体によれば、硫化水素ガスに対する吸着性能の経時的な劣化を防ぎ、硫化水素ガスが発生した際に十分な吸着性能を発揮することができる。また、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材であれば、多孔質吸着材の種類の制限もない。
【0013】
また、本発明に係る電池パックによれば、このような硫化水素ガス吸着構造体とともに、硫化物系固体電解質を用いた電池セルを電池ケースに収容しているため、長期にわたり硫化水素ガスの吸着性能を維持でき、安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る硫化水素ガス吸着構造体の実施形態、及びその使用形態を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る電池パックの実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.硫化水素ガス吸着構造体>
図1は、本発明に係る硫化水素ガス吸着構造体の構成、及びその使用形態を模式的に示す図である。硫化水素ガス吸着構造体1は、硫化水素ガスの発生源10とともに、容器20に収容される。
【0016】
硫化水素ガスの発生源10としては、例えば硫化物系固体電解質を有する全固体型リチウムイオン二次電池セルを挙げることができる。この全固体型リチウムイオン二次電池セルは、正極と負極とで硫化物系固体電解質を挟み、セル全体を例えばシール部材11で気密に包囲したものであり、電池ケース等の容器20に収容されて自動車などの使用機器に装着される。そして、外的要因などにより、容器20、更には全固体型リチウムイオン二次電池セルなどの硫化水素ガスの発生源10が損傷し、それに伴ってシール部材11が破断して空気中などに含まれる水分が硫化物系固体電解質と接触すると、硫化水素ガスが発生する場合がある。
【0017】
そこで、発生した硫化水素ガスを吸着するために、容器20に硫化水素ガス吸着構造体1を同梱する。硫化水素ガス吸着構造体1は、硫化水素ガスを吸着する吸着材5を、後述するような特定の材料物性を有する包装材6で気密に包囲したものである。
【0018】
(1-1.吸着材)
吸着材5は、硫化水素ガスを吸着できる材料であれば制限はなく、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀等の金属、これら金属の酸化物、これら金属の水酸化物等を挙げることができる、また、これらを単独で使用してもよく、あるいは混合して使用してもよい。
【0019】
活性炭としては、特に種類が限定されるものではなく、例えば、ヤシガラ、石炭、木炭等を主原料としたものが挙げられる。
【0020】
金属ケイ酸塩としては、例えば、特許第6164900号公報に記載の、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属ケイ酸塩であることが好ましい。
【0021】
ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM-5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトA及びゼオライトL等が挙げられる。
【0022】
なお、吸着速度向上の観点からは、吸着材5として、活性炭、ゼオライト、シリカゲルのいずれかを用いることが好ましい。また、吸着力向上の観点からは、吸着材5として、金属ケイ酸塩、又は、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種のいずれかを用いることが好ましい。
【0023】
また、吸着材5は、粉末状でもよく、そのまま袋状の包装材6に収容してもよい。また、吸着材5の粉末を適当なバインダーで結着してシート状に加工してもよく、あるいは、適当な支持体の片面又は両面に吸着材5の粉末を層状に一体化してもよく、これらシートや支持体と一体化したものを包装材6で気密に包囲する形態であってもよい。
【0024】
なお、吸着材5が粉末状である場合の粉末の平均粒子径は、微小なほど単位質量当たりの表面積が大きくなることから好ましく、具体的には、0.5~100μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。
【0025】
バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリブタジエン等を用いることができる。中でも、硫化水素ガスの透過性が特に高いことから、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることがより好ましい。バインダーの使用量としては、吸着材5とバインダーとの合計量に対して0.5~5質量%が好ましい。
【0026】
支持体としては、吸着材5の粉末を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、樹脂などの有機系材料、金属やガラスなどの無機系材料を含めて様々なものを用いることができる。ただし、吸着材5と支持体との界面にも硫化水素ガスが到達しやすいように、後述する包装材6と同じ材料を用いることが好ましい。
【0027】
(1-2.包装材)
包装材6は、非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きい材料からなるシートやフィルム等である。ここで、大気中に多く存在する窒素ガスや酸素ガスは、比較的分子径が大きいとともに、いわゆる非極性分子であり、その一方で、硫化水素ガスの発生源10から発生し得る硫化水素ガスや、大気中などに存在する水蒸気は、窒素ガスや酸素ガスに比べ比較的分子径が小さいとともに、いわゆる極性分子である。よって、本実施形態に係る包装材6は、比較的に分子径の小さい硫化水素ガスや水蒸気を透過しやすく、比較的分子径の大きい窒素ガスや酸素ガスを透過し難い材料からなるといえる。具体的に、包装材6は、ガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに100cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以上であることが好ましい。
【0028】
なお、包装材6における窒素ガスや酸素ガスの透過を効果的に抑制するためには、ガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに50cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以下であることがより好ましく、10cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以下であることが更に好ましい。また、包装材6における水蒸気の透過を効果的に発揮させるためには(後述するように、本来の目的は硫化水素ガスを効果的に透過させること)、ガス透過率が、水蒸気に対してともに12000cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以上であることがより好ましく、15000cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010以上であることが更に好ましい。
【0029】
ここで、本発明に係る包装材6の材料物性を、非極性分子のガス透過率が低く、かつ、極性分子のガス透過率が高いものとする理由を以下に説明する。
【0030】
上述の通り、特許文献1では、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、硫化水素の分子径よりも大きく、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいことから、発生した硫化水素ガスを選択的に細孔内に捕獲する吸着機構となっているものの、一部の細孔においては、容器内に充填された気体の分子径よりも大きい場合もあるため、多孔質吸着材の細孔が、充填された窒素などの気体により閉塞され、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化するおそれがあった。また、多孔質吸着材の種類も、充填される気体の分子径により制限されるという問題があった。
【0031】
そこで、本発明者らは、吸着材5を気密に包囲する包装材6として、硫化水素ガスを比較的に容易に透過させつつ、吸着材5の細孔を閉塞し得るものとして空気中に多く存在する窒素ガスや酸素ガスを遮断する材料物性を有するものを採用すれば、硫化水素ガスが発生していないときにおいて、窒素ガスや酸素ガスが包装材6を透過して吸着材5の細孔を閉塞することを抑制できること、また、硫化水素ガスの発生源10から硫化水素ガスが発生した際には、包装材6が選択的に硫化水素ガスを透過させることで、吸着材5の細孔を閉塞することなく、効果的に硫化水素ガスを吸着できるのではないかと考えた。
【0032】
そして、硫化水素ガスを比較的に容易に透過させつつ、窒素ガスや酸素ガスを遮断可能な材料物性を規定する方法として、硫化水素ガスは極性分子であり、窒素ガスや酸素ガスは非極性分子であることに着目し、包装材6として非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きいものを採用することで本発明の課題を解決できることを見出した。
【0033】
なお、水蒸気(水分子)は、硫化水素ガスと分子径が近い極性分子であり、一般的なガス透過率の文献値においては、水蒸気のガス透過率により記載されていることが多いことから、本発明においては水蒸気に対するガス透過率で代替することにより規定する。また、ガスの透過率は、ゴムフィルムについてはJIS K 6275-1(2009)、プラスチックフィルムについてはJIS K 7126-1(2006)に規定されているため、本発明においては、これらJISに基づくガス透過率を採用する。
【0034】
このようなガス透過率を満足し得る材料として、例えば、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリブタジエン-アクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクロロプレンゴムを挙げることができる。なお、材料の種類によっては、ガス透過率の数値範囲に幅があり、一例として、ポリアミドのガス透過率は、窒素ガスに対しては0.1~0.2cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010、酸素ガスに対しては0.38cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010、水蒸気に対しては700~17000cc/cm2/mm/秒/cmHg×1010である(株式会社潤工社のホームページ;http://junkosha.co.jp/technical/tec8.html、「2-3 チューブ材料のガス透過性」を参照)。この場合、例えばポリマーの重合度、結晶化度の調整や、あるいは変性などの公知の手段により、上記の好ましいガス透過率を満足するように適宜調整することができる。
【0035】
なお、上記ガス透過率を満足し得る材料のうち、窒素ガス及び酸素ガスに対するガス透過率が相対的により低い、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタールのいずれかを採用することが好ましい。
【0036】
包装材6の厚さは特に制限されるものではなく、一般的な紙やシート、フィルムと同程度で構わず、例えば0.05mm~0.25mmが適当である。ただし、窒素ガスや酸素ガスの透過を効果的に抑制するための観点より、包装材6の厚さは0.08mm以上であることが好ましく、0.10mm以上であることがより好ましい。また、水蒸気ガスや硫化水素ガスの透過を効果的に発揮させるための観点より、包装材6の厚さは0.20mm以下であることが好ましく、0.15mm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、包装材6は、吸着材5を収容した状態で、その端部(四隅)をホットシールするなどして密封、すなわち気密に密封している。なお、密封の際、包装材6の内部に窒素ガスや酸素ガスが入り込まないよう、例えば、包装材6の内部を真空又は真空に近い状態にした状態(すなわち、真空状態又は減圧状態)で吸着材5を収容することが好ましい。このようにすることで、包装材6内に存在しうる窒素ガスや酸素ガスなどの気体を極力減らすことができ、包装材6内の気体が、吸着材5の細孔を閉塞してしまうことを抑制できるため、吸着材5がより高い硫化水素ガスの吸着効果を得ることができる。なお、「真空状態」とは気圧がゼロの状態を示し、「減圧状態」とは大気圧に比べて気圧が低い状態を示す。
【0038】
上記のようにして構成された、本発明に係る硫化水素ガス吸着構造体1は、硫化水素ガスの発生源10から硫化水素ガスが発生していない状態では、包装材6の内部に窒素ガスや酸素ガスが入り込めず、例え吸着材5の細孔が窒素ガスや酸素ガスの分子径よりも大きい場合であっても、吸着材5の細孔が閉塞されることがないため、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化せず、硫化水素ガス吸着構造体1の製造時に近い状態で維持されている。
【0039】
その一方で、硫化水素ガスの発生源10から硫化水素ガスが発生した際には、包装材6が選択的に硫化水素ガスを透過させるため、吸着材5により効果的に硫化水素ガスを吸着できる。
【0040】
<2.電池パック>
本発明はまた、上記の硫化水素ガス吸着構造体1を備える電池パックに関する。すなわち、本実施形態に係る電池パック100は、
図2に示すように、複数個で構成される、硫化物系固体電解質を用いた電池セル(全固体型リチウムイオン二次電池)101を直列又は並列に接続し(接続の状態は図示を省略)、硫化水素ガス吸着構造体1とともに電池ケース110に収容して構成される。なお、電池セル101は1つのみの場合であってもよい。また、電池ケース110内の硫化水素ガス吸着構造体1の配置には特に制限はなく、電池ケース110と電池セル101との隙間の空間に適宜設ければよい。例えば、図示されるように、電池ケース110の内壁に硫化水素ガス吸着構造体1を貼り付けることができる。図示は省略するが、電池ケース110の床面における電池セル101の設置部分以外の場所に、硫化水素ガス吸着構造体1を置くこともできる。なお、硫化水素は空気よりも重いため、硫化水素ガス吸着構造体1は、電池セル101よりも鉛直方向下側に設置することが好ましい。
【0041】
また、電池ケース110は外部から空気が浸入しない密封構造であってもよいが、本発明においては、例えば電池セル101の冷却などのために空気が流入する構造であってもよい。電池ケース110に流入した空気中の水分(水蒸気)も、硫化水素ガス吸着構造体1の包装材6を透過して吸着材5に吸着され得るが、吸着された水分は極性分子であり、硫化水素ガスとは親和性が高い。そのため、例えば、“Effects of Temperature and Humidity on the Removal of Hydrogen Sulfide by Active Carbon”;Junji MASUDA et al.、大気環境学会誌,J.Jpn.Soc.Atmos. Environ,33(1),10~15(1998)に記載されているように、水が存在することにより、硫化水素ガスの吸着が促進される効果が期待されるため、硫化水素ガスとともに水蒸気も包装材6を透過して吸着材5に吸着されることは、硫化水素ガスの吸着作用にとって好ましいことである。したがって、本発明の硫化水素ガス吸着構造体1のように、極性分子のガス透過率が大きい材料物性を有する包装材6を採用することで、硫化水素ガスとともに水蒸気を透過させることは、吸着材5の吸着性能の劣化には影響がほとんど無い。
【0042】
以上説明したように、硫化水素ガス吸着構造体1においては、吸着材5の吸着性能の経時的な劣化が抑えられているため、硫化水素ガスが発生した場合でも効果的に吸着することができる。また、電池パック100においては、このような硫化水素ガス吸着構造体1とともに、硫化物系固体電解質を用いた電池セル101を電池ケース110に収容しているため、長期にわたり硫化水素ガスの吸着性能を維持でき、安全性が高まる。
【符号の説明】
【0043】
1 硫化水素ガス吸着構造体
5 吸着材
6 包装材
10 硫化水素ガスの発生源
11 シール部材
20 容器
100 電池パック
101 電池セル
110 電池ケース