IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アズビル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図1
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図2
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図3
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図4
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図5
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図6
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図7
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図8
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図9
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図10
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図11
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図12
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図13
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図14
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図15
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図16
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図17
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図18
  • 特許-温熱実感モデル生成装置および方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】温熱実感モデル生成装置および方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20230502BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230502BHJP
   F24F 11/61 20180101ALI20230502BHJP
   F24F 120/20 20180101ALN20230502BHJP
【FI】
F24F11/64
G06N20/00
F24F11/61
F24F120:20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019118176
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004691
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 眞由美
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062190(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0259469(US,A1)
【文献】特表2013-514510(JP,A)
【文献】特開2010-266975(JP,A)
【文献】特開平6-207734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象空間の居住環境指標と前記評価対象空間に対する居住者の温熱実感との関係をモデル化した第1のモデルの更新タイミングの情報と学習データ期間の情報とを記憶するように構成されたデータ期間管理部と、
前記更新タイミングになったときに、前記学習データ期間における前記居住環境指標と前記居住者の温熱実感情報とに基づいて前記第1のモデルを生成するように構成された第1のモデル生成部と、
複数の学習データ期間によってそれぞれ生成された複数の前記第1のモデルと前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値とに基づいて、前記第1のモデルの関数の形状を決定付けるモデル特性量と屋外温熱環境の代表値との関係を示す特性量修正関数を求めるように構成された季節依存管理部と、
前記居住者の温熱実感を推定したい未来の日時に対して設定されるべき未来の学習データ期間を決定して、この学習データ期間における屋外温熱環境の代表値に対応するモデル特性量を前記特性量修正関数に基づいて算出して、算出したモデル特性量に基づいて最新の前記第1のモデルを修正した第2のモデルを生成するように構成された第2のモデル生成部とを備えることを特徴とする温熱実感モデル生成装置。
【請求項2】
請求項1記載の温熱実感モデル生成装置において、
前記データ期間管理部は、前記更新タイミングの情報と前記学習データ期間の情報に加えて、オーバーラップ期間の情報を記憶し、
前記複数の学習データ期間は、連続する前後の学習データ期間が前記オーバーラップ期間の幅の分だけ重なるように設定されることを特徴とする温熱実感モデル生成装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の温熱実感モデル生成装置において、
前記評価対象空間が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報を記憶するように構成された屋外温熱環境情報管理部をさらに備え、
前記季節依存管理部は、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値を決定して、前記特性量修正関数を求め、
前記第2のモデル生成部は、前記未来の学習データ期間に対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得して、前記未来の学習データ期間に対応する屋外温熱環境の代表値を決定することを特徴とする温熱実感モデル生成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の温熱実感モデル生成装置において、
前記第2のモデル生成部は、前記特性量修正関数に基づいて算出したモデル特性量と最新の前記第1のモデルのモデル特性量とに基づいて、最新の前記第1のモデルを修正することを特徴とする温熱実感モデル生成装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の温熱実感モデル生成装置において、
前記居住環境指標は、PMVであり、前記居住者の温熱実感は、温熱環境に対する不満足を申告する居住者の割合であることを特徴とする温熱実感モデル生成装置。
【請求項6】
評価対象空間の居住環境指標と前記評価対象空間に対する居住者の温熱実感との関係をモデル化した第1のモデルの更新タイミングの情報と学習データ期間の情報とを記憶するデータ期間管理部を参照し、前記更新タイミングになったときに、前記学習データ期間における前記居住環境指標と前記居住者の温熱実感情報とに基づいて前記第1のモデルを生成する第1のステップと、
複数の学習データ期間によってそれぞれ生成された複数の前記第1のモデルと前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値とに基づいて、前記第1のモデルの関数の形状を決定付けるモデル特性量と屋外温熱環境の代表値との関係を示す特性量修正関数を求める第2のステップと、
前記居住者の温熱実感を推定したい未来の日時に対して設定されるべき未来の学習データ期間を決定して、この学習データ期間における屋外温熱環境の代表値に対応するモデル特性量を前記特性量修正関数に基づいて算出して、算出したモデル特性量に基づいて最新の前記第1のモデルを修正した第2のモデルを生成する第3のステップとを含むことを特徴とする温熱実感モデル生成方法。
【請求項7】
請求項6記載の温熱実感モデル生成方法において、
前記データ期間管理部は、前記更新タイミングの情報と前記学習データ期間の情報に加えて、オーバーラップ期間の情報を記憶し、
前記複数の学習データ期間は、連続する前後の学習データ期間が前記オーバーラップ期間の幅の分だけ重なるように設定されることを特徴とする温熱実感モデル生成方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の温熱実感モデル生成方法において、
前記第2のステップは、前記評価対象空間が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報を記憶する屋外温熱環境情報管理部を参照し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値を決定して、前記特性量修正関数を求めるステップを含み、
前記第3のステップは、前記未来の学習データ期間に対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得して、前記未来の学習データ期間に対応する屋外温熱環境の代表値を決定するステップを含むことを特徴とする温熱実感モデル生成方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の温熱実感モデル生成方法において、
前記第3のステップは、前記特性量修正関数に基づいて算出したモデル特性量と最新の前記第1のモデルのモデル特性量とに基づいて、最新の前記第1のモデルを修正するステップを含むことを特徴とする温熱実感モデル生成方法。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の温熱実感モデル生成方法において、
前記居住環境指標は、PMVであり、前記居住者の温熱実感は、温熱環境に対する不満足を申告する居住者の割合であることを特徴とする温熱実感モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未来の日時における評価対象空間に対する居住者の温熱実感を推定するための温熱実感モデルを生成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室内環境の空調制御や運用管理において、室内環境への居住者の満足度合いを精度良く把握する技術が求められている。
居住者自身からの申告や居住者の行動、画像、生理量計測等から、居住者の温熱実感情報を取得し、取得した温熱実感情報と、温熱実感情報発生時の居住者の環境に関する指標(以下、居住環境指標)との関係を学習した学習モデルを構築し、この学習済みモデルを個別温熱実感モデルとして、任意の環境に対する対象居住者の温熱実感を推定する技術がある。居住者の温熱実感情報は、暑い/寒いなどの全身温冷感の尺度や、温熱環境に起因する快適感/満足感など、である。居住環境指標としては、温度、湿度などの物理環境指標、あるいは物理環境指標を利用した指標であるPMV(Predicted Mean Vote)などがある。
【0003】
特許文献1には、居住者の温熱実感情報(特許文献1では温冷感申告)と、居住環境指標(特許文献1では室内温度)との関係を実質的に学習する方法が記載されている。
また、非特許文献1には、ユーザの温熱実感情報(非特許文献1では不快感申告)と、ユーザの居住環境指標(非特許文献1ではPMV)との関係を学習する方法が記載されている。
【0004】
居住者の温熱実感は、季節によって異なる着衣や代謝量の変化、睡眠時の自宅寝室の室温など、季節により推移する要素(以下、季節推移要素)の影響を受けて常に変化する(非特許文献2参照)。このため、過去のデータによる学習済みモデルを、学習時以降の温熱実感情報の推定に適用すると推定誤差が発生するという課題があり、推定精度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2713532号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】田中 規敏他,“既存オフィスのZEB化に関する研究 (第4報)個人の温冷感に配慮した空調制御手法の研究”,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,第10巻,pp213-216,2017/9
【文献】久保 博子他,“温冷感と快適感の季節差に関する実験的研究”,人間と生活環境,1巻1号,pp51-57,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、居住者の温熱実感の推定結果を実態に近づけることができる温熱実感モデル生成装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温熱実感モデル生成装置は、評価対象空間の居住環境指標と前記評価対象空間に対する居住者の温熱実感との関係をモデル化した第1のモデルの更新タイミングの情報と学習データ期間の情報とを記憶するように構成されたデータ期間管理部と、前記更新タイミングになったときに、前記学習データ期間における前記居住環境指標と前記居住者の温熱実感情報とに基づいて前記第1のモデルを生成するように構成された第1のモデル生成部と、複数の学習データ期間によってそれぞれ生成された複数の前記第1のモデルと前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値とに基づいて、前記第1のモデルの関数の形状を決定付けるモデル特性量と屋外温熱環境の代表値との関係を示す特性量修正関数を求めるように構成された季節依存管理部と、前記居住者の温熱実感を推定したい未来の日時に対して設定されるべき未来の学習データ期間を決定して、この学習データ期間における屋外温熱環境の代表値に対応するモデル特性量を前記特性量修正関数に基づいて算出して、算出したモデル特性量に基づいて最新の前記第1のモデルを修正した第2のモデルを生成するように構成された第2のモデル生成部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の温熱実感モデル生成装置の1構成例において、前記データ期間管理部は、前記更新タイミングの情報と前記学習データ期間の情報に加えて、オーバーラップ期間の情報を記憶し、前記複数の学習データ期間は、連続する前後の学習データ期間が前記オーバーラップ期間の幅の分だけ重なるように設定されることを特徴とするものである。
また、本発明の温熱実感モデル生成装置の1構成例は、前記評価対象空間が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報を記憶するように構成された屋外温熱環境情報管理部をさらに備え、前記季節依存管理部は、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値を決定して、前記特性量修正関数を求め、前記第2のモデル生成部は、前記未来の学習データ期間に対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得して、前記未来の学習データ期間に対応する屋外温熱環境の代表値を決定することを特徴とするものである。
また、本発明の温熱実感モデル生成装置の1構成例において、前記第2のモデル生成部は、前記特性量修正関数に基づいて算出したモデル特性量と最新の前記第1のモデルのモデル特性量とに基づいて、最新の前記第1のモデルを修正することを特徴とするものである。
また、本発明の温熱実感モデル生成装置の1構成例において、前記居住環境指標は、PMVであり、前記居住者の温熱実感は、温熱環境に対する不満足を申告する居住者の割合である。
【0010】
また、本発明の温熱実感モデル生成方法は、評価対象空間の居住環境指標と前記評価対象空間に対する居住者の温熱実感との関係をモデル化した第1のモデルの更新タイミングの情報と学習データ期間の情報とを記憶するデータ期間管理部を参照し、前記更新タイミングになったときに、前記学習データ期間における前記居住環境指標と前記居住者の温熱実感情報とに基づいて前記第1のモデルを生成する第1のステップと、複数の学習データ期間によってそれぞれ生成された複数の前記第1のモデルと前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値とに基づいて、前記第1のモデルの関数の形状を決定付けるモデル特性量と屋外温熱環境の代表値との関係を示す特性量修正関数を求める第2のステップと、前記居住者の温熱実感を推定したい未来の日時に対して設定されるべき未来の学習データ期間を決定して、この学習データ期間における屋外温熱環境の代表値に対応するモデル特性量を前記特性量修正関数に基づいて算出して、算出したモデル特性量に基づいて最新の前記第1のモデルを修正した第2のモデルを生成する第3のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の温熱実感モデル生成方法の1構成例において、前記データ期間管理部は、前記更新タイミングの情報と前記学習データ期間の情報に加えて、オーバーラップ期間の情報を記憶し、前記複数の学習データ期間は、連続する前後の学習データ期間が前記オーバーラップ期間の幅の分だけ重なるように設定されることを特徴とするものである。
また、本発明の温熱実感モデル生成方法の1構成例において、前記第2のステップは、前記評価対象空間が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報を記憶する屋外温熱環境情報管理部を参照し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得し、前記複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値を決定して、前記特性量修正関数を求めるステップを含み、前記第3のステップは、前記未来の学習データ期間に対応する過去の前記屋外温熱環境情報を前記屋外温熱環境情報管理部から取得して、前記未来の学習データ期間に対応する屋外温熱環境の代表値を決定するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の温熱実感モデル生成方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記特性量修正関数に基づいて算出したモデル特性量と最新の前記第1のモデルのモデル特性量とに基づいて、最新の前記第1のモデルを修正するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、データ期間管理部と第1のモデル生成部と季節依存管理部と第2のモデル生成部とを設け、季節推移が反映された屋外温熱環境状態に基づいて第1のモデルを修正して第2のモデルを生成することにより、季節推移要素による推定誤差を改善することができる。その結果、本発明では、居住者の温熱実感の推定結果を実態に近づけることができる。
【0013】
また、本発明では、更新タイミングの情報と学習データ期間の情報に加えて、オーバーラップ期間の情報をデータ期間管理部に記憶させ、連続する複数の学習データ期間がオーバーラップ期間の幅の分だけ重なるように設定することにより、モデルの信頼性を更に向上させることができる、
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る空調制御システムの例を示す図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の居住環境情報保持部と温熱実感情報保持部とデータ統合部の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の第1の実施例における温冷感申告情報と申告日時と申告者IDの1例を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施例における統合情報の1例を示す図である。
図6図6は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の過去モデル生成部の動作を説明するフローチャートである。
図7図7は、居住環境指標であるPMVと「暑い」という申告者数との関係を示す図である。
図8図8は、本発明の第1の実施例におけるモデリング情報の生成方法を説明するフローチャートである。
図9図9は、PMVとPPDとの関係を示す図である。
図10図10は、不満足度関数の例を示す図である。
図11図11は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の季節依存管理部の動作を説明するフローチャートである。
図12図12は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の季節依存管理部の特性量修正関数決定動作を説明するフローチャートである。
図13図13は、本発明の第1の実施例におけるモデル特性量を説明する図である。
図14図14は、本発明の第1の実施例における特性量修正関数の決定方法を説明する図である。
図15図15は、本発明の第1の実施例における別のモデル特性量を説明する図である。
図16図16は、本発明の第1の実施例に係る温熱実感モデル生成装置の未来モデル生成部の動作を説明するフローチャートである。
図17図17は、本発明の第1、第2の実施例の学習データ期間を説明する図である。
図18図18は、外気温の期間平均推移値の1例を示す図である。
図19図19は、本発明の第1、第2の実施例に係る温熱実感モデル生成装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
季節推移があると、学習用のデータが収集された時点で温熱実感の実態が変化していることに対応しなければならない。よって、発明者は、過去のデータによる学習済みの個別温熱実感モデル(以下、過去モデル)を、季節推移が反映された屋外温熱環境状態に基づいて修正し、未来モデルとすることに着眼した。季節推移が反映された屋外温熱環境状態で過去モデルを修正することにより、季節変動の影響をモデルに反映させることが可能である。
【0016】
季節推移が反映された屋外温熱環境状態としては、屋外の外気温などがある。例えば、過去モデル生成時の学習データ期間の外気温平均値と、居住者の温熱実感を推定したい未来の平年外気温や外気温予報値を利用して、学習済みの過去モデルから未来モデルを生成する。
【0017】
さらに発明者は、2日間、3日間などの短期的な変動が含まれる期間のデータを使用すると過去モデルおよび未来モデルの信頼性が保てない点に着目した。季節推移という年単位の変動を考慮するためには、この変動の周期に対応する、ある程度の期間幅のデータをモデルの学習用に確保する必要がある。この期間幅としては1か月程度が適当であるが、さらに、季節推移の連続性を維持するため、信頼できる期間(2週間など)を前期間と後期間でオーバーラップさせるオーバーラップ方式とするのが有効であることに想到した。
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。本発明の第1の実施例では、過去モデルから未来モデルを生成する基本手法について説明する。
本実施例は、月単位で各月のモデルを生成する例とし、過去モデルのデータ期間月の平年外気温と、予測したい未来が含まれる未来モデルデータ期間月の平年外気温に基づき、過去モデルのモデルパラメータを特性量修正関数で修正し、特性量修正関数を利用して過去モデルを修正し、未来モデルとする。
【0019】
本実施例では、説明の簡単のために、図1に示すように、対象とする1つの空調ゾーンに居住者2名が在席する居住者申告型空調制御システムの例で説明する。居住者申告型空調制御システムについては、例えば文献「大曲 康仁他,“温冷感申告対応空調システムの実証試験”,空気調和・衛生工学会学術講演論文集,第3巻,pp41-44,2016/9」に開示されている。
【0020】
図1において、100は居住者、101は評価対象空間(居住者の在席空間)、102は温冷感申告を受ける空調制御装置(コントローラ)、103は評価対象空間101の室温を計測する温度センサ、104は評価対象空間101の湿度を計測する湿度センサ、105は室内機、106は室外機である。空調制御装置102は、温度センサ103によって計測される室温が室温設定値と一致し、湿度センサ104によって計測される湿度が湿度設定値と一致するように空調機器(室内機105および室外機106)を制御する。
【0021】
図2は本実施例の温熱実感モデル生成装置の構成を示すブロック図である。温熱実感モデル生成装置は、過去モデル生成ユニット1と、未来モデル生成ユニット2とから構成される。
【0022】
過去モデル生成ユニット1は、データ収集部10と、評価対象空間101の居住環境指標と評価対象空間101に対する居住者の温熱実感との関係をモデル化した個別温熱実感モデルの更新タイミングの情報と学習データ期間の情報とを記憶するデータ期間管理部14と、更新タイミングになったときに、学習データ期間における居住環境指標と居住者の温熱実感情報とに基づいて過去モデル(第1のモデル)を生成する過去モデル生成部15(第1のモデル生成部)と、過去モデル生成部15によって生成された過去モデルを記憶する過去モデル記憶管理部16とを備えている。
【0023】
データ収集部10は、温熱環境情報から居住環境指標を算出する居住環境情報保持部11と、評価対象空間の居住者から申告された温熱実感情報を取得する温熱実感情報保持部12と、温熱実感情報の発生日時に対応する計測日時の温熱環境情報から算出された居住環境指標を抽出して、温熱実感情報と居住環境指標とを統合した統合情報を生成するデータ統合部13とから構成される。
【0024】
未来モデル生成ユニット2は、評価対象空間が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報を記憶する屋外温熱環境情報管理部20と、複数の学習データ期間によってそれぞれ生成された複数の過去モデルと複数の学習データ期間のそれぞれに対応する過去の屋外温熱環境の代表値とに基づいて、過去モデルの関数の形状を決定付けるモデル特性量と屋外温熱環境の代表値との関係を示す特性量修正関数を求める季節依存管理部21と、居住者の温熱実感を推定したい未来の日時に対して設定されるべき未来の学習データ期間を決定して、この学習データ期間における屋外温熱環境の代表値に対応するモデル特性量を特性量修正関数に基づいて算出して、算出したモデル特性量に基づいて最新の過去モデルを修正した未来モデル(第2のモデル)を生成する未来モデル生成部22(第2のモデル生成部)とを備えている。
【0025】
図3は居住環境情報保持部11と温熱実感情報保持部12とデータ統合部13の動作を説明するフローチャートである。
居住環境情報保持部11は、例えば評価対象空間101に設置された環境計測デバイス(温度センサ103や湿度センサ104など)から温熱環境情報(温度計測値や湿度計測値などの温熱環境計測値)を受信して、居住環境指標を算出する。そして、居住環境情報保持部11は、温熱環境計測値の計測日時と居住環境指標とを対応付けて居住環境情報(計測日時、居住環境指標)として記憶する(図3ステップS100)。
【0026】
居住環境情報保持部11には、居住環境指標の算出に必要な算出式およびパラメータ値、算出に利用する温熱環境計測値の種類の情報などが、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者により予め設定されている。
【0027】
居住環境情報保持部11は、データ統合部13からの情報送信要求に応じて、居住環境情報(計測日時、居住環境指標)をデータ統合部13に送信する(図3ステップS101)。
【0028】
居住環境指標は、居住環境の温熱的な環境指標であり、空調環境で一般的に計測される空気温度や湿度といった物理環境指標、あるいは物理環境指標を用いて算出される一般的な指標(例えば作用温度、SET*(Standard new Effective Temperature)、PMVなど)である。本実施例では、居住環境指標を国際標準化されているPMVとし、PMVの演算に通常必要となる6要素:空気温度Ta[℃]、湿度H[%]、平均放射温度Tr[℃]、気流速度v[m/s]、代謝量M[met]、着衣量Icl[clo]については各々、以下の値とする。つまり、空気温度Ta[℃]と湿度H[%]は対象建物の空気温度計測値と湿度計測値計測値とし、平均放射温度Trを空気温度Taと等しい値とし、気流速度vを0.1[m/s]、代謝量Mを1.0[met]、着衣量Iclを0.8[clo]としてPMVを求める例で説明する。これら以外でPMV演算に必要な情報はPMVの算出式と共に国際標準などを参照して設定されているとする。
【0029】
ここで、PMVの算出方法について説明する。PMVの算出方法は、ISO-7730で国際標準化されているので、この標準の算出方法に従えばよい。PMVは、以下の式(1)~式(3)を用いて求められる。算出プログラムは、ANSI/ASHRAE Standard 55-2010等においても公開されている。
PMV=Q(M)×L ・・・(1)
Q(M)=0.303exp-0.036M+0.028 ・・・(2)
L=M-(C+R+Ed+Es)-(Cre+Ere) ・・・(3)
【0030】
Mは代謝量[met]、Lは人体の熱負荷L[W/m2]、Cは対流熱損失量[W/m2]、Rは放射熱損失量[W/m2]、Edは不感蒸せつ量[W/m2]、Esは発汗による蒸発熱損失量[W/m2]、Creは呼吸による顕熱損失量[W/m2]、Ereは呼吸による潜熱損失量[W/m2]である。
【0031】
以下の式(4)~式(6)を収束計算し、対流熱損失量Cおよび放射熱損失量Rを算出する。tclは着衣外表面温度[℃]である。
C=fcl×hc×(tcl-Ta) ・・・(4)
R=3.96×10-8×fcl×{(tcl+273.15)4
-(Tr+273.15)4} ・・・(5)
tcl=ts-0.155×Icl×(C+R) ・・・(6)
【0032】
式(4)~式(6)において、Iclは着衣量[clo]である。fclは着衣面積増加係数であり、Icl<0.78の時、fcl=1+1.29×Icl、Icl≧0.78の時、fcl=1.05+0.645×Iclである。Trは平均放射温度[℃]である。tsは平均皮膚温度[℃]であり、次式により求められる。Wは機械的仕事量[W/m2]である(通常は0)。
ts=35.7-0.028×(M-W) ・・・(7)
【0033】
また、hcは人体の対流熱伝達率[W/(m2・℃)]であり、2.38×|tcl-ta|0.25または12.1×v0.5のうちの大きい方となる。vは気流速度[m/s]である。
【0034】
不感蒸せつ量Edは、次式により得られる。
Ed=3.05×(5.73-0.007×M-pa) ・・・(8)
発汗による蒸発熱損失量Esは、次式により得られる。
Es=0.42×(M-58.15) ・・・(9)
【0035】
呼吸による顕熱損失量Creは、次式により得られる。
Cre=0.0014×M×(34-Ta) ・・・(10)
呼吸による潜熱損失量Ereは、次式により得られる。paは水蒸気圧である。
Ere=0.0173×M×(5.87-pa) ・・・(11)
【0036】
以上により、居住環境情報保持部11は、居住環境指標としてPMVを算出することができる。本実施例では、1分周期で計測された温熱環境計測値が居住環境情報保持部11に送信され、居住環境情報保持部11が1分周期でPMVを算出するものとする。空調の制御装置や建物を管理する中央監視システムなどに周期的に温熱環境計測値が蓄積されている場合は、これら空調の制御装置や中央監視システムから温熱環境計測値を取得すればよい。
【0037】
一方、温熱実感情報保持部12は、評価対象空間101の居住者の温熱実感情報を受信し、この温熱実感情報の発生日時や温熱実感情報を申告した居住者の情報と関連付けて温熱実感情報を記憶する(図3ステップS102)。
【0038】
温熱実感情報保持部12は、データ統合部13からの情報送信要求に応じて、温熱実感情報と発生日時情報と居住者情報とをデータ統合部13に送信する(図3ステップS103)。
【0039】
温熱実感情報は、居住環境指標に対応する居住者の感じ方を示す量であり、暑い/寒いなどの全身温冷感の尺度や、温熱環境に起因する快適感/満足感などの情報を示す。対象空間の不満足者数や、不満足者数から算出される不満足者率などの指標も温熱実感情報に含まれる。温熱実感情報の入力端末としては、スマートフォン、PC(personal computer)などを適宜利用すればよい。
【0040】
本実施例では、居住者からの温冷感申告情報(暑い/寒い)を温熱実感情報とし、居住者が自由に暑い、あるいは寒いという温冷感申告を入力端末を通じて行うものとする。温冷感申告情報と申告日時(発生日時情報)と申告者ID(居住者情報)の1例を図4に示す。図4の例では、暑いを「hot」、寒いを「cold」で示している。
【0041】
申告者IDは、居住者が温冷感申告と合わせて入力して温熱実感情報保持部12に送信してもよいし、居住者個々人が入力端末を利用する場合は端末IDを申告者IDとして、温熱実感情報保持部12に送信してもよい。
また、申告日時は、入力端末が温熱実感情報保持部12に送信してもよいし、温熱実感情報保持部12が温冷感申告情報を受信した日時を申告日時としてもよい。
【0042】
次に、データ統合部13は、居住環境情報保持部11から居住環境指標を受信し、温熱実感情報保持部12から温熱実感情報を受信すると、温熱実感情報の発生日時に対応する計測日時の居住環境指標を抽出して、温熱実感情報と居住環境指標とを統合した統合情報(発生日時情報、居住者ID、温熱実感情報、居住環境指標)を記憶する(図3ステップS104)。
【0043】
データ統合部13は、過去モデル生成部15からの情報送信要求に応じて、統合情報を過去モデル生成部15に送信する(図3ステップS105)。
【0044】
温熱実感情報発生日時情報(申告日時情報)と居住者ID(申告者ID)と温熱実感情報と居住環境指標(PMV)とからなる統合情報の1例を図5に示す。
温熱実感情報の発生日時に対応する計測日時の居住環境指標を抽出する際に、温熱実感情報の発生日時(申告日時)の分解能が例えば1分単位で、温熱環境計測値の計測日時の分解能が例えば10分単位などというように、温熱実感情報の発生と温熱環境計測値の計測の時間間隔が異なる場合がある。この場合には、予めソリューションプロバイダや設備管理者が抽出ルールを決定しておけばよい。
【0045】
例えば温熱実感情報の発生日時(申告日時)の分解能が1分単位で、温熱環境計測値が10分おきに計測される場合、温熱実感情報の発生日時の直近の計測日時、または温熱実感情報の発生日時を10分単位で繰り上げた日時を、温熱実感情報の発生日時に対応する計測日時とする、という抽出ルールを決定しておけばよい。
【0046】
14時50分、15時00分、15時10分、・・・・といったように温熱環境計測値が10分おきに計測される場合、温熱実感情報の発生日時15時03分に対応する計測日時は、直近の15時00分、または15時03分を10分単位で繰り上げた15時10分となる。
【0047】
居住環境情報保持部11と温熱実感情報保持部12とデータ統合部13とは、継続的に図3の処理を実行し、データ統合部13に統合情報が蓄積される。
【0048】
次に、データ期間管理部14には、個別温熱実感モデル(過去モデル)の更新タイミングと学習データ期間とを決定するためのデータ期間管理情報が室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者によって予め設定されている。
データ期間管理部14は、過去モデル生成部15または未来モデル生成部22からの情報送信要求に応じ、データ期間管理情報を送信する。
【0049】
本実施例では、個別温熱実感モデルの更新タイミングの情報と学習データ期間幅の情報とをデータ期間管理情報とする。具体的には、個別温熱実感モデルの更新タイミングを、毎月1日(X月1日、Xは任意の月)の0時00分とし、学習データ期間幅を、前回の更新タイミングから今回の更新タイミングまでの1か月とする。つまり、個別温熱実感モデルの更新タイミングが毎月1日であるので、この個別温熱実感モデルの更新のための学習データ期間の開始日時は前月の1日の0時00分、学習データ期間の終了日時は前月の末日の23時59分となる。
【0050】
データ期間管理情報から個別温熱実感モデルの更新タイミングと学習データ期間とを決定できればよいので、更新スタート日時と、その更新スタート日時から遡る学習データの期間幅(14日間毎や168時間毎など)とをデータ期間管理情報として設定してももちろん構わない。
【0051】
図6は過去モデル生成部15の動作を説明するフローチャートである。過去モデル生成部15は、データ期間管理部14から取得したデータ期間管理情報により、個別温熱実感モデルの更新タイミングになったことを認識すると(図6ステップS200においてYES)、今回のモデル更新に対応する学習データ期間の開始日時と終了日時とを決定する(図6ステップS201)。
【0052】
過去モデル生成部15は、決定した学習データ期間の統合情報をデータ統合部13から取得し(図6ステップS202)、取得した統合情報を利用して、個別温熱実感モデルを同定するための入出力データ(モデリング情報)を生成する(図6ステップS203)。過去モデル生成部15は、生成したモデリング情報を利用して、個別温熱実感モデルを同定し、この個別温熱実感モデルを最新の過去モデルとして更新する(図6ステップS204)。
【0053】
そして、過去モデル生成部15は、最新の過去モデルのモデリング結果とモデリングに利用した学習データ期間の情報とを過去モデル記憶管理部16に送信する(図6ステップS205)。
過去モデル生成部15は、図6の処理をモデルの更新タイミング毎に行う。
【0054】
本実施例では、上記のとおり個別温熱実感モデルの更新タイミングを、毎月1日の0時00分としている。例えば個別温熱実感モデルが2018年3月1日0時00分に更新される場合、学習データ期間は2018年2月1日0時00分から2月28日23時59分までとなる。また、個別温熱実感モデルが2019年8月1日0時00分に更新される場合、学習データ期間は2018年7月1日0時00分から7月31日23時59分までとなる。
【0055】
また、本実施例では、居住環境指標(PMV)と、「暑い」という申告者率PPVhとをモデリング情報とし、予測不満足者率PPD(Predicted Percentage Dissatisfied)の関数を個別温熱実感モデルの基本関数とする。PPDも国際標準化されており、ISO-7730でPMVを用いた演算式が示されている。
【0056】
次に、ステップS203のモデリング情報の生成方法について説明する。上記のとおり、過去モデル生成部15は、統合情報からモデリング情報を生成する。
任意のPMVにおける「暑い」という申告者率PPVhは、任意のPMVにおける「暑い」という申告者数をN、評価対象空間における居住者数をN_allとしたとき、次式により算出される。
PPVh=N/N_all ・・・(12)
【0057】
評価対象空間における居住者数N_allは、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者により予め設定されている。
ここで、式(12)における申告者数Nは、温冷感に対する生理的な妥当性を考慮して算出した申告者数としてもよい。この算出方法は、任意のPMVにおいて「暑い」という申告をした人は、その環境よりも更に暑い側のPMVではより暑く感じるという原理に基づくものである。
【0058】
具体的には、各々の申告者が、PMVが低い(暑さが弱い)ときに最初に申告を行ったPMVをラッチ開始点PMVstart(m)(mは正の整数、本実施例ではm=1~4)とし、ラッチ開始点PMVstart(m)よりも大きいPMV領域では「暑い」という申告の発生状態を維持して人数を算出する。この算出方法によれば、図7に示すように「暑い」という申告者の数は、より暑い環境になるに従って増加し、生理的な妥当性が高くなる。以降ではこの方法を申告ラッチ法と記述し、この申告ラッチ法によりモデリング情報を生成する例を説明する。
【0059】
図8に申告ラッチ法を用いて算出した申告者数から申告者率PPVhを算出して、モデリング情報を生成するフローチャートを示す。過去モデル生成部15は、ステップS202で取得した統合情報から「暑い」という申告の情報のみを抽出し(図8ステップS300)、抽出した情報に含まれる申告者IDが異なる申告者の数(「暑い」という申告をした居住者の人数)N_voteを求める(図8ステップS301)。図5に示したデータ例を、学習データ期間の統合情報とすると、「暑い」(hot)という申告をした申告者の数はN_vote=4である。
【0060】
次に、過去モデル生成部15は、申告者を数えるための変数m(mはN_vote以下の正の整数)1に初期化する(図8ステップS302)。
過去モデル生成部15は、m番目の申告者について、「暑い」という申告が行われたときのPMVのうち最小値をラッチ開始点PMVstart(m)として求める(図8ステップS303)。
【0061】
過去モデル生成部15は、m=N_vote、すなわち「暑い」という申告をした全申告者についてステップS303の処理を終えたかどうかを判定し(図8ステップS304)、変数mがN_vote未満の場合には処理を終えていないとして、変数mを1増やす(図8ステップS305)。こうして、「暑い」という申告をした申告者毎にステップS303の処理が行われる。
【0062】
過去モデル生成部15は、m=N_voteとなり、「暑い」という申告をした全申告者についてステップS303の処理を終えたときに(ステップS304においてYES)、任意のPMVとこれに対応する「暑い」という申告者率PPVhからなるモデリング情報を生成する(図8ステップS306)。
【0063】
任意のPMVに対する申告者P(m)の申告の有無の状態V_latch(m)は、PMV<PMVstart(m)のとき、V_latch(m)=0(申告無し)、PMVstart(m)≦PMVのとき、V_latch(m)=1(申告有り)となる。
このとき、任意のPMVに対する「暑い」という申告者率PPVhは次式により得られる。
【0064】
【数1】
【0065】
以上により、「暑い」という申告者率PPVhの算出が終了し、学習データ期間のPMVと、学習データ期間の「暑い」という申告者率PPVhとからなるモデリング情報の生成が終了する。図5のデータ例の場合、図7の縦軸を「暑い」という申告者の人数で除算し、「暑い」という申告者率としたものがモデリング情報となる。モデリング情報は、PMVを一定の刻みで生成しても良いし、PPVhが増加する点のみのデータとするなどとしても構わない。
【0066】
次に、ステップS204の個別温熱実感モデルの同定方法について説明する。上記のとおり、本実施例では、予測不満足者率PPDを個別温熱実感モデルの基本関数とする。PPDは、PMVの関数として以下の関係式で示される。
PPD=F(PMV)=100-95×exp(-0.03353×PMV4
-0.2179×PMV2)[%] ・・・(14)
【0067】
PMVとPPDとの関係は図9のようになる。個別温熱実感モデルは、PMVとPPDとを対応付けた、図9のようなV字型の分布関数として定義すればよい。あるいは、暑い側と寒い側の不満足度を分離して、不満足関数(個別温熱実感モデル)を定義することも可能である。
【0068】
図10は特開2015-4480号公報に開示された不満足度関数の例を示す図である。「暑い」という不満足度を求める場合には、図10の110で示す不満足度関数を使用すればよく、「寒い」という不満足度を求める場合には、図10の111で示す不満足度関数を使用すればよい。図10のような関数としては、例えばシグモイド関数などがあり、個別温熱実感モデルの関数はこのような一般的なモデルで構わない。
【0069】
本実施例では、式(14)の基本関数に居住者の温熱実感を反映させて関数を修正した、以下の式(15)のモデルを個別温熱実感モデル(不満足度モデル)とした例で説明する。この式(15)の個別温熱実感モデルの形状は、図10の110で示した関数と同様のものである。式(15)では、不満足度に相当する式(14)の予測不満足者率PPDを居住者の温熱実感を反映させた「暑い」という申告者率PPVhとしている。
【0070】
【数2】
【0071】
式(15)において、a,b,c,d,eは探索対象となるモデルのパラメータである。式(16)は、式(15)においてa=b(「暑い」という申告者率PPVhの最小値が0)としたものであり、これを個別温熱実感モデルのモデル関数とする場合、探索対象となるモデルのパラメータはa,c,d,eとなる。
【0072】
【数3】
【0073】
式(15)または式(16)のような個別温熱実感モデルのモデル関数と、探索するモデルのパラメータと、利用する最適化手法とが、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者により、予め設定されている。
【0074】
過去モデル生成部15は、ステップS203で生成したモデリング情報を利用して、ソリューションプロバイダや設備管理者により予め設定された個別温熱実感モデルのモデル関数に対し、同様に予め設定された探索対象のモデルパラメータを探索して個別温熱実感モデルを同定する。パラメータを探索する際に利用する最適化手法としては、最小二乗法やシンプレックス法など汎用的な手法を利用すればよい。
以上により、過去モデルの更新が終了する。
【0075】
過去モデル記憶管理部16は、過去モデル生成部15から受信した過去モデルのモデリング結果(探索したモデルのパラメータ値)と学習データ期間の情報とを記憶し、季節依存管理部21からのモデル情報の送信要求に応じて、記憶している情報を季節依存管理部21に送信する。
【0076】
屋外温熱環境情報管理部20は、評価対象空間101が含まれる建物の過去の屋外温熱環境情報と未来の屋外温熱環境情報を記憶している。過去の屋外温熱環境情報は、屋外温熱環境状態情報と、屋外温熱環境状態情報を取得した日時の情報とからなる。未来の屋外温熱環境情報は、未来の屋外温熱環境を推定するために必要な情報であり、屋外温熱環境状態情報と、屋外温熱環境状態情報の出現が推定される日時の情報とからなる。
【0077】
季節推移を反映する屋外温熱環境状態情報としては、屋外の気温や湿度、気温と湿度とを統合した不快指数などの指標、WBGT(湿球黒球温度)などがある。また、過去の屋外温熱環境情報は、平年のデータ(月平均気温、日平均気温等)などの統計量としてもよいし、屋外に設置された温度センサ等による計測値としてもよい。未来の屋外温熱環境情報は、本質的には未来の学習データ期間に対応する過去の屋外温熱環境情報であり、過去の屋外温熱環境情報が未来で再現するとして過去の屋外温熱環境情報と同様としてもよいし、気象予報などに基づいて推定される屋外温熱環境情報の推定値としてもよい。
【0078】
屋外温熱環境情報の取得方法については、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者によって予め設定されている。屋外温熱環境状態情報として月平均気温などの、予め入手可能なデータを用いる場合には、これらのデータを予め屋外温熱環境情報管理部20に設定しておくことで構わない。
本実施例では、平年の各月の月平均外気温を過去および未来の屋外温熱環境状態情報として使用する。
【0079】
次に、季節依存管理部21は、未来モデル生成部22からの要求により、特性量修正関数Gpmを決定し、この特性量修正関数Gpmと過去モデル記憶管理部16に記憶されている過去モデルのモデリング結果(探索したモデルのパラメータ値)とを未来モデル生成部22へ送信する。
【0080】
図11は季節依存管理部21の動作を説明するフローチャートである。季節依存管理部21は、最新のモデリング結果から(N_ref-1)回前のモデリング結果までのN_ref回(N_refは予め設定された参照モデル数)のモデリング結果と、これらN_ref回のモデリングに利用した学習データ期間の情報とを過去モデル記憶管理部16から取得する(図11ステップS400)。
【0081】
続いて、季節依存管理部21は、N_ref回のモデリングに利用した学習データ期間の各々に対応する過去の屋外温熱環境情報を屋外温熱環境情報管理部20から取得する(図11ステップS401)。
【0082】
そして、季節依存管理部21は、取得した過去の屋外温熱環境情報に基づいて、N_ref回のモデリングに利用した学習データ期間に対応する過去の屋外温熱環境代表値Eotを学習データ期間毎に算出する(図11ステップS402)。例えば、過去の屋外温熱環境情報管理部20から取得した屋外温熱環境状態情報が1時間毎に計測された外気温であり、学習データ期間が2018年8月1日0時00分から8月10日23時59分であれば、この学習データ期間の外気温の平均値(平均外気温)を算出して過去の屋外温熱環境代表値Eotとすればよい。
【0083】
ただし、上記のように、平年の各月の月平均外気温を過去の屋外温熱環境状態情報として使用する場合、季節依存管理部21は、学習データ期間を含む月の月平均外気温をそのまま過去の屋外温熱環境代表値Eotとすればよい。また、複数の月にわたって学習データ期間が設定されている場合には、これら複数の月の月平均外気温の平均値や日数に応じた重み付け平均値を過去の屋外温熱環境代表値Eotとすればよい。
【0084】
次に、季節依存管理部21は、過去の屋外温熱環境代表値Eotと過去モデルのモデル特性量SZとの関係を示す特性量修正関数Gpmを求める(図11ステップS403)。モデル特性量SZは、過去モデルの関数の形状を決定付ける量のひとつである。特性量修正関数Gpmが決定されれば、任意の屋外温熱環境代表値Eotに対応するモデル特性量SZが推定可能となる。
【0085】
図12は季節依存管理部21の特性量修正関数決定動作を説明するフローチャートである。以下の説明において、iは過去モデルを数えるための変数であり、1~N_refの整数とする。変数iが小さいほど、新しい過去モデルであることを示している。
【0086】
また、図13に示すように、モデル特性量SZを、「暑い」という申告者率PPVhの飽和値とし、特性量修正関数Gpmを、過去の屋外温熱環境代表値Eotとモデル特性量SZとの線形近似の関数とする。つまり、任意の屋外温熱環境代表値Eotが決定されれば、これに対応するモデル特性量SZの推定値が特性量修正関数Gpmによって算出できる。個別温熱実感モデルを式(15)、式(16)に設定した場合、申告者率PPVhの飽和値はモデルの探索パラメータa,b,c,d,eのうちのaに対応する。
【0087】
季節依存管理部21は、ステップS400でN_ref回のモデリング結果Sp(i)、すなわち、i番目の過去モデルに対して探索された探索パラメータ値のセット(本実施例では、探索されたパラメータa(i),b(i),c(i),d(i),e(i)のセット)と、これらN_ref回のモデリングに利用した学習データ期間LP(i)の情報とを過去モデル記憶管理部16から取得した後、変数iを1に初期化する(図12ステップS500)。
【0088】
季節依存管理部21は、最新からi回目のモデリングに利用した学習データ期間LP(i)に対応する過去の屋外温熱環境代表値Eot(i)をステップS402で算出した値の中から取得する(図12ステップS501)。
【0089】
季節依存管理部21は、i=N_ref、すなわちN_ref個の全ての学習データ期間LP(i)についてステップS501の処理を終えたかどうかを判定し(図12ステップS502)、変数iがN_ref未満の場合には処理を終えていないとして、変数iを1増やす(図12ステップS503)。こうして、学習データ期間LP(i)毎にステップS501の処理が行われる。
【0090】
季節依存管理部21は、i=N_refとなり、N_ref個の全ての学習データ期間LP(i)についてステップS501の処理を終えたときに(ステップS502においてYES)、個別温熱実感モデルの関数とパラメータ探索値のセットであるモデリング結果Sp(i)より決定するモデル特性量SZ(i)と屋外温熱環境代表値Eot(i)との関係を線形近似した関数を求めて、この関数を特性量修正関数Gpmとする(図12ステップS504)。ここで、モデル特性量SZを「暑い」という申告者率PPVhの飽和値とした本実施例では、SZ(i)=a(i)である。
【0091】
図14(A)、図14(B)は特性量修正関数Gpmの決定方法を説明する図である。図14(A)、図14(B)の例では、N_ref=3とし、最新の過去モデルの関数をMp(1)、最新から1回前の過去モデルの関数をMp(2)、最新から2回前の過去モデルの関数をMp(3)としている。
【0092】
例えば最新の過去モデルのモデリングの際に利用した学習データ期間LP(1)を9月、1回前の過去モデルのモデリングの際に利用した学習データ期間LP(2)を8月、2回前の過去モデルのモデリングの際に利用した学習データ期間LP(3)を7月とすれば、過去の屋外温熱環境代表値Eot(1),Eot(2),Eot(3)は、それぞれ9月、8月、7月の平年外気温である。また、モデル特性量SZ(1),SZ(2),SZ(3)は、それぞれ関数Mp(1),Mp(2),Mp(3)の飽和値(パラメータa(1),a(2),a(3))である。
【0093】
そして、図14(B)に示すように、過去の屋外温熱環境代表値{Eot(1),Eot(2),Eot(3)}とモデル特性量{SZ(1),SZ(2),SZ(3)}との関係を線形近似した関数を特性量修正関数Gpmとする。特性量修正関数Gpmは、任意の月平年外気温から、これに対応するモデル特性量SZ(「暑い」という申告者率PPVhの飽和値)を推定する関数となる。
【0094】
なお、本実施例では、特性量修正関数Gpmを求める手法として線形近似を用いたが、特性量修正関数Gpmは、多項式近似や指数近似などの手法により、温熱実感への季節推移の影響を考慮して適宜決定すればよい。
【0095】
なお、本実施例では、「暑い」という申告者率PPVhの飽和値をモデル特性量SZとして特性量修正関数Gpmを決定したが、モデル特性量SZは過去モデルの関数の形状を決定付ける別の量でも良く、また、モデル特性量SZは複数種類設定してもよい。
【0096】
例えば「暑い」という申告者率PPVhの飽和値をモデル特性量SZ1(図13のSZ)、図15(A)に示すように申告者率PPVhの立上り位置のPMV値をモデル特性量SZ2、図15(B)に示すように申告者率PPVhが飽和値の50%に到達したときのPMV値をモデル特性量SZ3とする。
【0097】
図15(A)の例では、モデル特性量SZ2は、個別温熱実感モデルを式(15)、式(16)とした場合、モデル探索パラメータa,b,c,d,eのうちのeに対応する。
したがって、季節依存管理部21は、N_ref回のモデリング結果Sp(i)のそれぞれからモデル特性量SZ2(i)=e(i)を取得し、モデル特性量SZ1の場合と同様に、モデル特性量SZ2(i)=e(i)と過去の屋外温熱環境代表値Eot(i)との関係を線形近似した関数を求めて、この関数を特性量修正関数Gpm_2とすればよい(ステップS504)。
【0098】
また、図15(B)の例では、モデル特性量SZ3は、申告者率PPVhが飽和値の50%に到達したときのPMV値である。したがって、季節依存管理部21は、個別温熱実感モデルのモデル関数と、N_ref回のモデリング結果Sp(i)の各々からa(i)の50%の値a_50(i)を算出し、「暑い」という申告者率PPVhがa_50(i)となるPMV値を、式(16)(または式(15))とモデリング結果Sp(i)とから算出して、算出した結果をSZ3(i)とすればよい。
【0099】
そして、季節依存管理部21は、モデル特性量SZ1の場合と同様に、モデル特性量SZ3(i)と過去の屋外温熱環境代表値Eot(i)との関係を線形近似した関数を求めて、この関数を特性量修正関数Gpm_3とすればよい(ステップS504)。上記のモデル特性量SZ1(図13のSZ)から求めた特性量修正関数をGpm_1とする。
こうして、モデル特性量SZの種類毎に特性量修正関数を求めることができる。
【0100】
最後に、季節依存管理部21は、未来モデル生成部22からの情報送信要求に対して、特性量修正関数Gpm(Gpm_1,Gpm_2,Gpm_3)と最新の過去モデルのモデリング結果とを送信する(図11ステップS404)。
【0101】
なお、参照モデル数N_ref、過去の屋外温熱環境代表値Eotの決定方法、モデル特性量SZの決定方法、および各特性量に対応する特性量修正関数Gpmの決定方法は、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者によって予め設定されている。
【0102】
図16は未来モデル生成部22の動作を説明するフローチャートである。未来モデル生成部22は、評価対象空間101の居住者の温熱実感(評価対象空間101の温熱環境に対する不満足を申告する居住者の割合であり、「暑い」という申告者率PPVh)を推定したい未来の日時(推定未来日時Tm)をオペレータからの指示などで取得する(図16ステップS600)。
【0103】
未来モデル生成部22は、データ期間管理部14から個別温熱実感モデルの更新タイミングの情報を取得し、推定未来日時Tmを含む未来の学習データ期間LPFを決定する(図16ステップS601)。例えば、推定未来日時Tmを2019年10月15日とすると、個別温熱実感モデルの更新タイミングが毎月1日の0時00分、学習データ期間幅が1か月であるので、未来モデル生成部22は、未来の学習データ期間LPFを2019年10月と決定する。
【0104】
そして、未来モデル生成部22は、屋外温熱環境情報管理部20から、未来の学習データ期間LPFに対応する未来の屋外温熱環境情報を取得し(図16ステップS602)、取得した未来の屋外温熱環境情報に基づいて、未来の学習データ期間LPFに対応する未来の屋外温熱環境代表値Eotfを決定する(図16ステップS603)。例えば、未来の学習データ期間LPFが2019年10月の場合、未来モデル生成部22は、10月の平年月平均外気温を取得して未来の屋外温熱環境代表値Eotfとすればよい。
【0105】
次に、未来モデル生成部22は、季節依存管理部21から送信された特性量修正関数Gpm(ここではGpm_1)を利用して、未来の屋外温熱環境代表値Eotfに対応するモデル特性量SZ1=Gpm_1(Eoft)を算出し、算出した値を推定特性量SZestとする(図16ステップS604)。
【0106】
最後に、未来モデル生成部22は、算出した推定特性量SZestに基づいて最新の過去モデルを修正した個別温熱実感モデル(未来モデル)を生成する(図16ステップS605)。過去モデルを修正する方法は、室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者によって予め設定されている。
【0107】
本実施例では、推定特性量SZestと、最新の過去モデルのモデル特性量SZ1(1)=a(1)との比率をモデル補正パラメータηとする。
η=SZest/SZ1(1) ・・・(17)
【0108】
そして、未来モデル生成部22は、モデル補正パラメータηに基づいて、最新の過去モデルの関数Mp(1)を次式のように修正する。
【0109】
【数4】
【0110】
式(18)は、最新の過去モデル(式(16))のパラメータa(1),c(1),d(1),e(1)のうち、パラメータa(1)をモデル補正パラメータηに基づいて修正することを示している。
【0111】
なお、本実施例の過去モデルの修正では、補正パラメータηによりPPVh軸についての倍率修正のみを行っているが、上記のモデル特性量SZ2,SZ3を用いることにより、申告者率PPVhの立上り位置の修正やPMV軸の倍率修正などを行うようにしてもよい。
【0112】
具体的には、未来モデル生成部22は、季節依存管理部21から送信された特性量修正関数Gpm_2を利用して、未来の屋外温熱環境代表値Eotfに対応するモデル特性量SZ2=Gpm_2(Eoft)を算出し、算出した値を推定特性量SZest_2とする。また、未来モデル生成部22は、特性量修正関数Gpm_3を利用して、未来の屋外温熱環境代表値Eotfに対応するモデル特性量SZ3=Gpm_3(Eoft)を算出し、算出した値を推定特性量SZest_3とする(図16ステップS604)。
【0113】
そして例えば、推定特性量SZest_2と、最新の過去モデルのモデル特性量SZ2(1)=e(1)との差をモデル補正パラメータδとする。
δ=SZest_2-SZ2(1) ・・・(19)
【0114】
さらに例えば、推定特性量SZest_3とSZest_2との差(SZest_3-SZest_2)と、最新の過去モデルのモデル特性量SZ3(1)とSZ2(1)との差(SZ3(1)-SZ2(1))との比率をモデル補正パラメータξとする。
ξ=(SZest_3-SZest_2)/(SZ3(1)-SZ2(1))
・・・(20)
【0115】
そして、未来モデル生成部22は、モデル補正パラメータη,δ,ξに基づいて、最新の過去モデルの関数Mp(1)を次式のように修正する。
【0116】
【数5】
【0117】
式(21)のように過去モデルの修正を行えば、モデル補正パラメータδによる申告者率PPVhの立上り位置の修正や、モデル補正パラメータξによるPMV軸の倍率修正が可能である。
【0118】
以上により、未来モデル生成部22の処理が終了する。本実施例によれば、季節推移が反映された屋外温熱環境状態に基づいて過去モデルを修正して未来モデルを生成することにより、季節推移要素による推定誤差を改善することができ、未来モデルに推定未来日時の推定PMV値を入力してやれば、推定未来日時における評価対象空間101に対する居住者の温熱実感(評価対象空間101の温熱環境に対する不満足を申告する居住者の割合であり、「暑い」という申告者率PPVh)を推定することが可能となる。その結果、本実施例では、居住者の温熱実感の推定結果を実態に近づけることができる。
【0119】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例においても、温熱実感モデル生成装置の構成は第1の実施例と同様であるので、図2の符号を用いて説明する。
短期的な変動が含まれる数日程度の期間に対応する学習データを使用すると、モデルの信頼性が保てないため、学習データ(統合情報)として一定の期間のデータを確保する必要がある。第1の実施例で説明したとおり、学習データ期間幅としては1か月程度が適当であるが、さらに季節推移の連続性を維持するため、個々の学習データ期間が重なり合うオーバーラップ期間を設ける。本実施例では、信頼できる一定の期間としてオーバーラップ期間を2週間とした例で説明する。
【0120】
本実施例の温熱実感モデル生成装置のデータ期間管理部14には、第1の実施例と同様に個別温熱実感モデル(過去モデル)の更新タイミングと学習データ期間とを決定するためのデータ期間管理情報が室内環境評価/制御等のソリューションプロバイダや設備管理者によって予め設定されている。
【0121】
第1の実施例と異なる点は、データ期間管理情報が個別温熱実感モデルの更新タイミングの情報と学習データ期間幅の情報の他に、オーバーラップ期間幅Loの情報を含むことである。
【0122】
図17(A)、図17(B)は第1、第2の実施例の学習データ期間を説明する図である。なお、図17(A)、図17(B)では、分かり易い説明とするため、各月を一律に30日として更新タイミングの日にちを示しており、2018年10月1日を最新の更新タイミングとして2018年8月1日の更新タイミングまで遡った各更新タイミングの学習データ期間を示している。また、図17(A)、図17(B)いずれも、更新スタート日時を2018年8月1日0時00分、学習データの期間幅を30日毎とし、図17(B)の例では、本実施例のオーバーラップ期間幅Loを15日としている。図17(A)のような連続する更新タイミングの学習データ期間に対して、オーバーラップ期間幅Loを設定する本実施例の図17(B)では、モデル更新の周期がオーバーラップ期間幅Loに対応して短くなる。
【0123】
第1の実施例に対応する本説明の例では、図17(A)に示すように、例えば2018年9月1日0時00分に更新される過去モデルMp(2)の学習データ期間SWは、8月1日0時00分を開始タイミングとして、8月30日(ここでは各月を一律に30日としているので8月末日に相当)23時59分を終了タイミングとする30日である。さらに、ひとつまえの過去モデルMp(3)の学習データ期間SWは、7月1日0時00分を開始タイミングとして、7月30日(ここでは各月を一律に30日としているので7月末日に相当)23時59分を終了タイミングとする30日であり、連続する更新タイミングの過去モデルMp(2)とMp(3)の学習データ期間SWは重複しない。
【0124】
一方、本実施例では、図17(B)に示すように、例えば2018年9月1日0時00分に更新される過去モデルMp(3)の学習データ期間SWは、8月1日0時00分を開始タイミングとして、8月30日(ここでは各月を一律に30日としているので8月末日に相当)23時59分を終了タイミングとする30日であり、図17(A)の過去モデルMp(2)の学習データ期間SWと同じであるが、図17(B)のひとつまえの過去モデルMp(4)の学習データ期間SWは、7月16日0時00分を開始タイミングとして、図17(B)の過去モデルMp(3)の学習データ期間SWと重複するオーバーラップ期間幅Loを含み(すなわち、8月1日から8月15日の15日間)、8月15日23時59分を終了タイミングとする30日であり、連続する更新タイミングの過去モデルMp(3)とMp(4)の学習データ期間SWはオーバーラップ期間幅Loだけ重複する。
【0125】
その他の構成は第1の実施例で説明したとおりである。なお、本実施例の学習データ期間幅としては1か月程度が適当であるが、この時、さらに、季節推移の連続性を維持するため、信頼できる期間幅を前後の学習データ期間でオーバーラップさせることが望ましい。オーバーラップ期間幅Loとしては、2週間以上の長い程度の期間とするのが適当である。
【0126】
ある建物で2017年7月から9月にかけて計測した外気温の、2週間平均の推移を図18(A)に、4週間平均の推移を図18(B)に示す。図18(A)、図18(B)の横軸は1週目からカウントした経過週の数である。
【0127】
図18(A)の例ではオーバーラップ期間を1週間、図18(B)の例ではオーバーラップ期間を2週間としている。図18(A)、図18(B)の比較から明らかなように、オーバーラップ期間を2週間として、4週間の平均値をとると、外気温平均値に短期的な変動が含まれ難いことが分かる。
【0128】
第1、第2の実施例で説明した温熱実感モデル生成装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図19に示す。
【0129】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インターフェース装置(以下、I/Fと略する)202とを備えている。I/F202には、環境計測デバイス等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の温熱実感モデル生成方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、未来の日時における居住者の温熱実感を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1…過去モデル生成ユニット、2…未来モデル生成ユニット、10…データ収集部、11…居住環境情報保持部、12…温熱実感情報保持部、13…データ統合部、14…データ期間管理部、15…過去モデル生成部、16…過去モデル記憶管理部、20…屋外温熱環境情報管理部、21…季節依存管理部、22…未来モデル生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19