(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】塗抹標本作製装置および塗抹標本作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/31 20060101AFI20230502BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20230502BHJP
G01N 1/28 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
G01N1/31
G01N35/04 E
G01N1/28 V
(21)【出願番号】P 2019118738
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】生田 純也
(72)【発明者】
【氏名】芝田 正治
(72)【発明者】
【氏名】中西 利志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 充生
(72)【発明者】
【氏名】高野 裕士
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130790(WO,A1)
【文献】特開2007-132903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/31
G01N 35/04
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、を備え
、
前記制御部は、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用しない前記染色槽に対して、染色処理に使用する前記染色槽に供給される染色液量よりも少ない量の染色液を供給するか、または染色液を供給しないように前記流体回路部を制御するように構成されている、塗抹標本作製装置。
【請求項2】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、を備え、
前記染色部は、同一種類の染色液が供給される前記染色槽を複数含み、
前記制御部は、同一種類の染色液が供給される複数の前記染色槽のうちで染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
前記制御部は、同一種類の染色液が供給される前記染色槽を複数使用する場合に、使用する複数の前記染色槽の各々で並行して染色処理を実施させるように、前記移送部を制御する
、塗抹標本作製装置。
【請求項3】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、を備え、
前記移送部は、前記スライドガラスを保持して移送し、前記染色槽に対して前記スライドガラスを1枚ずつ出し入れするように構成され、
前記制御部は、前記染色槽に対して前記スライドガラスを順次移送し、染色時間が経過した前記スライドガラスから順番に前記染色槽から取り出すように、前記移送部を制御するように構成され、
前記制御部は、ユーザの操作による前記染色時間の設定を受け付け、設定された前記染色時間の長さに応じて、染色処理に使用する前記染色槽を決定する
、塗抹標本作製装置。
【請求項4】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、を備え、
前記制御部は、ユーザの操作による前記検体に対する染色濃度の設定を受け付け、設定された前記染色濃度に応じて、染色処理に使用する前記染色槽を決定する
、塗抹標本作製装置。
【請求項5】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、を備え、
前記流体回路部は、前記染色部の前記複数の染色槽の各々へ洗浄液を供給可能に構成され、
前記制御部は、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用しない前記染色槽に供給される洗浄液量を、染色処理に使用する前記染色槽に供給される洗浄液量よりも少なくするよう前記流体回路部を制御する
、塗抹標本作製装置。
【請求項6】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能であり、かつ前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部と、
前記スライドガラスを保持して前記染色部に移送する移送部と、
前記染色部の前記複数の染色槽の各々への染色液の供給を行う流体回路部と、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定する制御部と、
表示部
と、を備え、
前記制御部は、染色処理に使用しない前記染色槽が存在する場合に、染色処理に使用する前記染色槽と染色処理に使用しない前記染色槽とが存在することを識別可能なように前記表示部に対する表示制御を行う
、塗抹標本作製装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記染色時間が短いほど、染色処理に使用する前記染色槽の数を少なくする、請求項
3に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項8】
前記染色部は、第1染色液を貯留する前記染色槽と、前記第1染色液とは異なる第2染色液を貯留する前記染色槽とを含み、前記第1染色液による第1染色処理の後、前記第2染色液による第2染色処理を行うように構成され、
前記第2染色処理の前記染色時間は、前記第1染色処理の前記染色時間よりも長く設定可能であり、
前記制御部は、前記第2染色処理の前記染色時間の長さに応じて、前記第2染色処理に使用される前記染色槽の数を決定する、請求項
3または7に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記染色濃度が薄いほど、染色処理に使用する前記染色槽の数を少なくする、請求項
4に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項10】
前記染色部において、前記複数の染色槽が、染色処理の順番に並んで配置されており、
前記制御部は、染色処理に使用しない前記染色槽に対して前記スライドガラスを移送せず、染色処理に使用する前記染色槽に対して前記スライドガラスを移送するように前記移送部を制御する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項11】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
前記複数の染色槽のうち、
染色処理に使用する前記染色槽に対して、所定量の染色液を供給し、
染色処理に使用しない前記染色槽に対して、染色処理に使用する前記染色槽に供給される染色液量よりも少ない量の染色液を供給するか、または染色液を供給せず、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行う、塗抹標本作製方法。
【請求項12】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
前記染色部は、同一種類の染色液が供給される前記染色槽を複数含み、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、同一種類の染色液が供給される複数の前記染色槽に対して、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行い、
前記染色処理において、同一種類の染色液が供給される前記染色槽を複数使用する場合に、使用する複数の前記染色槽の各々で並行して染色処理を実施する
、塗抹標本作製方法。
【請求項13】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行い、
前記染色処理は、
染色処理に使用する前記染色槽に対して前記スライドガラスを1枚ずつ保持して順次移送し、
保持した前記スライドガラスを1枚ずつ前記染色槽内に配置し、
染色時間が経過した前記スライドガラスから順番に、1枚ずつ前記染色槽から取り出すことを含み、
前記染色処理に使用する前記染色槽を決定することは、
ユーザの操作による前記染色時間の設定を受け付け、
染色処理に使用する前記染色槽を、設定された前記染色時間の長さに応じて決定する
ことを含む、塗抹標本作製方法。
【請求項14】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行い、
前記染色処理に使用する前記染色槽を決定することは、
ユーザの操作による前記検体に対する染色濃度の設定を受け付け、
染色処理に使用する前記染色槽を、設定された前記染色濃度に応じて決定する
ことを含む、塗抹標本作製装置。
【請求項15】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行い、
前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽に所定量の染色液を供給し、染色処理に使用しない前記染色槽に供給される洗浄液量を、染色処理に使用する前記染色槽に供給される洗浄液量よりも少なくする
、塗抹標本作製方法。
【請求項16】
検体が塗抹された複数のスライドガラスを配置可能かつ染色液を貯留可能に構成された複数の染色槽を有する染色部に貯留された染色液に、前記スライドガラスに塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、
ユーザの操作に応じて、前記複数の染色槽のうち、染色処理に使用する前記染色槽を決定し、
染色処理に使用する前記染色槽に前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行い、
染色処理に使用しない前記染色槽が存在する場合に、染色処理に使用する前記染色槽と染色処理に使用しない前記染色槽とが存在することを識別可能なように表示部に表示する
、塗抹標本作製方法。
【請求項17】
前記染色時間が短いほど、染色処理に使用する前記染色槽の数を少なく設定する、請求項1
3に記載の塗抹標本作製方法。
【請求項18】
前記染色部は、第1染色液を貯留する前記染色槽と、前記第1染色液とは異なる第2染色液を貯留する前記染色槽とを含み、
前記第1染色液による第1染色処理の後、前記第2染色液による第2染色処理を行い、
前記第2染色処理は、前記第1染色処理よりも長い前記染色時間を設定可能であり、前記第2染色処理の前記染色時間の長さに応じて、前記第2染色処理に使用される前記染色槽の数を決定する、請求項1
3または
17に記載の塗抹標本作製方法。
【請求項19】
前記染色濃度が薄いほど、染色処理に使用する前記染色槽の数を少なく設定する、請求項
14に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項20】
前記染色部において、前記複数の染色槽が、染色処理の順番に並んで配置されており、
染色処理に使用しない前記染色槽に対して前記スライドガラスを移送せず、染色処理に使用する前記染色槽に対して前記スライドガラスを移送することにより染色処理を行う、請求項1
1~
19のいずれか1項に記載の塗抹標本作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドガラス上の標本を染色する塗抹標本作製装置および塗抹標本作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図27に示すように、検体が塗抹された標本用のスライドガラス901に対して、検体を塗抹する塗抹処理と、検体が塗抹されたスライドガラス901の染色処理とを施し、塗抹標本の作成を自動的に行う塗抹標本作製装置が開示されている。塗抹標本作製装置は、染色槽902と、移送部903とを備える。染色槽902が第1染色槽902a~第5染色槽902eの5つの染色槽902を含んでいる。移送部903は、染色槽902に対してスライドガラス901を1枚ずつ出し入れするように構成されている。スライドガラス901は、第1染色槽902aから順に各槽に移送され、所定の設定時間の間、それぞれの槽に溜められた染色液に漬けられて処理される。各染色槽902において保持可能なスライドガラス901の数は、スライドガラス901を処理するための設定時間に応じた数に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の塗抹標本作製装置では、複数の染色槽のそれぞれに染色液が溜められ、スライドガラスが複数の染色槽へ順番に移送される。
【0005】
たとえば染色槽が保持可能なスライドガラスの枚数を減らして染色槽の容積を低減すれば、染色液の消費量を低減できる可能性がある。しかし、染色槽が保持可能な枚数が減ると、先に染色槽に配置されたスライドガラスの染色が完了するまで、後続のスライドガラスの染色を待機する必要が生じる結果、塗抹標本作製装置の処理速度が低下する可能性がある。そこで、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液の消費量を低減することが望まれている。
【0006】
この発明は、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液の消費量を低減することに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願発明者らが鋭意検討した結果、以下の知見が得られた。すなわち、塗抹標本作製装置では、検体の種類やユーザの好みに応じて、染色槽において染色処理を実施する染色時間や、実施する染色法などの染色条件が変更される。そして、染色条件によっては、複数の染色槽のうち一部を使用しなくても処理速度を維持することが可能となるという知見が得られた。そこで、この発明の第1の局面による塗抹標本作製装置は、
図1に示すように、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、を備え
、制御部(50)は、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用しない染色槽(21)に対して、染色処理に使用する染色槽(21)に供給される染色液量よりも少ない量の染色液(15)を供給するか、または染色液(15)を供給しないように流体回路部(40)を制御するように構成されている。
この発明の第2の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、を備え、染色部(20)は、同一種類の染色液(15)が供給される染色槽(21d、21e)を複数含み、制御部(50)は、同一種類の染色液(15)が供給される複数の染色槽(21d、21e)のうちで染色処理に使用する染色槽を決定し、制御部(50)は、同一種類の染色液(15)が供給される染色槽(21d、21e)を複数使用する場合に、使用する複数の染色槽(21d、21e)の各々で並行して染色処理を実施させるように、移送部(30)を制御する。
この発明の第3の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、を備え、移送部(30)は、スライドガラス(10)を保持して移送し、染色槽(21)に対してスライドガラス(10)を1枚ずつ出し入れするように構成され、制御部(50)は、染色槽(21)に対してスライドガラス(10)を順次移送し、染色時間が経過したスライドガラス(10)から順番に染色槽(21)から取り出すように、移送部(30)を制御するように構成され、制御部(50)は、ユーザの操作による染色時間の設定を受け付け、設定された染色時間の長さに応じて、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する。
この発明の第4の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、を備え、制御部(50)は、ユーザの操作による検体に対する染色濃度の設定を受け付け、設定された染色濃度に応じて、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する。
この発明の第5の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、を備え、流体回路部(40)は、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々へ洗浄液(18)を供給可能に構成され、制御部(50)は、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用しない染色槽(21)に供給される洗浄液量を、染色処理に使用する染色槽(21)に供給される洗浄液量よりも少なくするよう流体回路部(40)を制御する。
この発明の第6の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能であり、かつスライドガラス(10)に塗抹された検体を染色する染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)と、スライドガラス(10)を保持して染色部(20)に移送する移送部(30)と、染色部(20)の複数の染色槽(21)の各々への染色液(15)の供給を行う流体回路部(40)と、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定する制御部(50)と、表示部(260)と、を備え、制御部(50)は、染色処理に使用しない染色槽(21)が存在する場合に、染色処理に使用する染色槽(21)と染色処理に使用しない染色槽(21)とが存在することを識別可能なように表示部(260)に対する表示制御を行う。
【0008】
第1~第6の局面による塗抹標本作製装置では、上記の構成によって、制御部(50)が、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうちから、染色処理に使用する染色槽(21)と、染色処理に使用しない染色槽(21)と、を決定できる。これにより、染色処理に使用しない染色槽(21)を用いることなく、染色処理に使用する染色槽(21)に所定の時間間隔でスライドガラス(10)を移送して染色処理を実施させることができる。そのため、染色処理に使用しない染色槽(21)には、染色処理に必要な量の染色液(15)を供給しなくても済み、染色処理に使用しない染色槽(21)への染色液量を低減できる。また、一部の染色槽(21)を使用しないように決定しても、染色槽(21)自体の数が減少するわけではないため、いずれかの染色槽(21)を使用しないことによって処理速度が低下する場合には、染色処理に使用する染色槽(21)の数を増加させれば、処理速度を維持できる。その結果、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液(15)の消費量を低減することができる。
【0009】
この発明の第
7の局面による塗抹標本作製方法は、
図1および
図2に示すように、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定
し、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)に対して、所定量の染色液(15)を供給し、染色処理に使用しない染色槽(21)に対して、染色処理に使用する染色槽(21)に供給される染色液量よりも少ない量の染色液(15)を供給するか、または染色液(15)を供給せず、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行う。
この発明の第8の局面による塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、染色部(20)は、同一種類の染色液(15)が供給される染色槽(21d、21e)を複数含み、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、同一種類の染色液(15)が供給される複数の染色槽(21d、21e)に対して、染色処理に使用する染色槽(21)を決定し、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行い、上記染色処理において、同一種類の染色液(15)が供給される染色槽(21d、21e)を複数使用する場合に、使用する複数の染色槽(21d、21e)の各々で並行して染色処理を実施する。
この発明の第9の局面による塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定し、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行い、上記染色処理は、染色処理に使用する染色槽(21)に対してスライドガラス(10)を1枚ずつ保持して順次移送し、保持したスライドガラス(10)を1枚ずつ染色槽(21)内に配置し、染色時間が経過したスライドガラス(10)から順番に、1枚ずつ染色槽(21)から取り出すことを含み、上記染色処理に使用する染色槽(21)を決定することは、ユーザの操作による染色時間の設定を受け付け、染色処理に使用する染色槽(21)を、設定された染色時間の長さに応じて決定することを含む。
この発明の第10の局面による塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定し、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行い、上記染色処理に使用する染色槽(21)を決定することは、ユーザの操作による検体に対する染色濃度の設定を受け付け、染色処理に使用する染色槽(21)を、設定された染色濃度に応じて決定することを含む。
この発明の第11の局面による塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定し、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行い、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)に所定量の染色液(15)を供給し、染色処理に使用しない染色槽(21)に供給される洗浄液量を、染色処理に使用する染色槽(21)に供給される洗浄液量よりも少なくする。
この発明の第12の局面による塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス(10)を配置可能かつ染色液(15)を貯留可能に構成された複数の染色槽(21)を有する染色部(20)に貯留された染色液(15)に、スライドガラス(10)に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法であって、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうち、染色処理に使用する染色槽(21)を決定し、染色処理に使用する染色槽(21)にスライドガラス(10)を移送することにより染色処理を行い、染色処理に使用しない染色槽(21)が存在する場合に、染色処理に使用する染色槽(21)と染色処理に使用しない染色槽(21)とが存在することを識別可能なように表示部(260)に表示する。
【0010】
第7~第12の局面による塗抹標本作製方法では、上記のように、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽(21)のうちから、染色処理に使用する染色槽(21)と、染色処理に使用しない染色槽(21)と、を決定できる。これにより、染色処理に使用しない染色槽(21)を用いることなく、染色処理に使用する染色槽(21)に所定の時間間隔でスライドガラス(10)を移送して染色処理を実施させることができる。そのため、染色処理に使用しない染色槽(21)には、染色処理に必要な量の染色液(15)を供給しなくても済み、染色処理に使用しない染色槽(21)への染色液量を低減できる。また、一部の染色槽(21)を使用しないように決定しても、染色槽(21)自体の数が減少するわけではないため、いずれかの染色槽(21)を使用しないことによって処理速度が低下する場合には、染色処理に使用する染色槽(21)の数を増加させれば、処理速度を維持できる。その結果、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液(15)の消費量を低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】塗抹標本作製方法を説明するためのフロー図である。
【
図3】塗抹標本作製装置の構成例を示した平面図である。
【
図5】染色部の各染色槽の構成例を示した模式図である。
【
図6】塗抹標本作製装置の制御的な構成を示したブロック図である。
【
図7】塗抹標本作製装置が実施する染色処理の例を示した図である。
【
図11】二重染色での染色処理に使用する染色槽の決定方法を説明する図である。
【
図12】単染色での染色処理に使用する染色槽の決定方法を説明する図である。
【
図13】使用しない染色槽がない場合の状態表示画面の例を示した図である。
【
図14】使用しない染色槽がある場合の状態表示画面の例を示した図である。
【
図15】塗抹標本作製装置の動作におけるメイン処理フローを示した図である。
【
図18】塗抹染色モードにおける動作を説明するためのフロー図である。
【
図20】スライドガラスの設置位置の決定処理を示すフロー図である。
【
図21】使用しない染色槽がある場合の設置位置の変化を示した模式図である。
【
図22】使用しない染色槽がない場合の設置位置の変化を示した模式図である。
【
図23】染色モードにおける動作を説明するためのフロー図である。
【
図24】塗抹モードにおける動作を説明するためのフロー図である。
【
図25】印字モードにおける動作を説明するためのフロー図である。
【
図26】シャットダウン処理を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1を参照して、一実施形態による塗抹標本作製装置100の構成について説明する。
【0015】
(塗抹標本作製装置の概要)
塗抹標本作製装置100は、検体が塗抹された標本用のスライドガラス10に対して染色処理を施し、塗抹標本の作成を自動的に行うための装置である。検体は、たとえば血液である。
【0016】
図1に示すように、塗抹標本作製装置100は、染色部20と、移送部30と、流体回路部40と、制御部50と、を備える。
【0017】
染色部20は、複数の染色槽21を有する。染色槽21は、スライドガラス10に塗抹された検体を染色する染色液15を貯留可能に構成されている。染色槽21は、容器形状に形成され、内部にスライドガラス10を浸せるように染色液15を溜められる。容器形状は、たとえば底部と底部の周縁から立ち上がる側面とを含み、底部と側面とに囲まれた液体の貯留空間を有する形状である。染色槽21は、スライドガラス10に塗布された検体の塗布領域が染色液15に漬かる深さまで、染色液15を溜められる。染色槽21は、スライドガラス10を上方から下方向へ挿入可能なように、上面の一部または全部が開放されている。染色槽21は、たとえば樹脂製の貯留容器である。
【0018】
また、染色槽21は、検体が塗抹された複数のスライドガラス10を配置可能である。スライドガラス10は、主として透明なガラス製で、長方形状の平板である。染色槽21は、たとえば、槽内で、複数のスライドガラス10を1枚ずつ立てた状態で配置可能である。立てた状態とは、平板状のスライドガラス10の表面が上下方向に沿っている状態である。染色槽21は、スライドガラス10を保持するように構成された保持部22を複数含む。保持部22は、スライドガラス10を挿入するための挿入領域23を形成している。スライドガラス10は、染色槽21の内部に配置された状態で、少なくとも検体の塗布領域以外の部分が、保持部22と接触して姿勢を保持される。染色槽21は、複数のスライドガラス10を、互いに間隔を隔てて並べて配置可能である。染色槽21内で保持部22に保持されたスライドガラス10を染色液15に所定時間浸しておくことにより、染色処理が行われる。
【0019】
保持部22については、様々な構成が採用できる。たとえば、複数の保持部22は、
図1に示すように互いに所定方向に間隔を隔てて配列される部材でありうる。この場合、隣り合う保持部22の間に、スライドガラス10が挿入される。スライドガラス10は、検体の塗布領域を除く表面および裏面の一部が、隣り合う保持部22とそれぞれ接触して保持される。保持部22は、たとえば染色槽21の底部において、1枚のスライドガラス10の下端部が嵌る凹部または溝部であってもよい。この場合、スライドガラス10が下端部で凹部または溝部に係合して、直立状態に保持される。保持部22は、たとえば染色槽21の対向する一対の側面に形成された上下方向の溝であってもよい。この場合、1枚のスライドガラス10の両方の縁部が一対の側面の溝の内側にそれぞれ挿入されることにより保持される。保持部22の数は、複数であればよく、装置構成に応じて設定すればよい。
【0020】
複数の染色槽21は、同一の構造を有していてもよいし、異なる構造を有していてもよい。複数の染色槽21の各々は、同時に保持可能なスライドガラス10の枚数(すなわち、挿入領域23の数)が同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0021】
染色槽21の数は、染色処理の工程の数に応じて決定されうる。異なる工程では、異なる染色液が用いられる。つまり、染色槽21の数は、染色処理に使用される染色液の種類の数に応じて決定されうる。1つの染色処理工程を実施する染色槽21が、複数設けられていてもよい。つまり、同一種類の染色液15を貯留する染色槽21が、複数設けられていてもよい。
【0022】
図1では、染色部20が、3つの染色槽21を備える例を示している。
図1では、染色槽21が、最大5枚のスライドガラス10を保持可能な例を示している。
【0023】
移送部30は、スライドガラス10を保持して染色部20に移送するように構成されている。移送部30は、検体が塗抹されたスライドガラス10を、複数の染色槽21のうち選択された染色槽21の内部に配置できる。移送部30は、染色槽21内の複数の挿入領域23のいずれかを選択して、スライドガラス10を挿入できる。移送部30は、複数の染色槽21のいずれかの内部に配置されたスライドガラス10を、外部に取り出すことができる。移送部30は、たとえば、検体が塗抹されたスライドガラス10を所定の時間間隔で染色部20に移送するように構成されうる。
【0024】
移送部30は、たとえば、検体が塗抹されたスライドガラス10を掴んで移送するように構成されている。移送部30は、たとえば、スライドガラス10を上方から下向きに吊り下げるように保持して、保持したスライドガラス10を水平方向に移動させる。移送部30は、保持したスライドガラス10を染色槽21の上方から下方向に移動させて、スライドガラス10を染色槽21内に配置する。移送部30は、染色槽21内に配置されたスライドガラス10を保持して上方に移動させることにより、スライドガラス10を染色槽21から取り出す。
【0025】
染色槽21に対してスライドガラス10を出し入れするための移送部30の構成についても、様々な構成が採用できる。たとえば、
図1に示したように、移送部30は、水平方向および上下方向(Z方向)に移動可能で、スライドガラス10を把持するためのハンド31を含む3軸直交ロボットである。移送部30が水平方向および上下方向の一方にのみ移動でき、染色槽21が水平方向および上下方向の他方に移動できてもよい。ハンド31は、たとえば、スライドガラス10を挟んで掴むことができる開閉機構でありうる。ハンド31は、スライドガラス10の所定部位を負圧により吸着して掴む吸引機構でありうる。
【0026】
移送部30は、少なくとも1枚のスライドガラス10を保持できる。移送部30は、複数枚のスライドガラス10を同時に保持可能であってもよい。
図1の例では、移送部30は、染色槽21に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように構成されている。
【0027】
流体回路部40は、染色部20の複数の染色槽21への染色液15の供給を行う。流体回路部40は、複数の染色槽21の各々に対して、個別に染色液15を供給可能である。流体回路部40は、複数の染色槽21の各々と接続するチューブなどの送液管を含む。流体回路部40は、染色槽21に対して送液するための圧力を発生するポンプを含むか、または染色槽21に対して送液するための圧力を供給する圧力源と接続されている。流体回路部40は、染色槽21に供給するための染色液15を貯留するチャンバを含むか、または染色液容器と接続されている。流体回路部40は、染色液15を定量して、いずれかの染色槽21に対して指定された液量の染色液15を供給できる。染色液15の定量は、シリンジポンプやダイヤフラムポンプなどの定量型のポンプや、容積が既知の定量チャンバなどにより行える。
【0028】
制御部50は、移送部30および流体回路部40を制御する。制御部50は、CPUなどのプロセッサ51と、揮発性および/または不揮発性のメモリ52とを備えたコンピュータである。コンピュータは、メモリ52に記憶されたプログラムをプロセッサ51が実行することにより、塗抹標本作製装置100の制御部として機能する。プロセッサ51は、制御部50の機能を果たすよう設計されたFPGA(field-programmable gate array)などであってもよい。
【0029】
本実施形態では、塗抹標本作製装置100は、染色部20が備える複数の染色槽21の一部のみを使用して、染色処理を実施することが可能である。つまり、染色部20が備える複数の染色槽21の全てが、染色処理に使用されるとは限らない。そして、制御部50は、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽を決定する。
【0030】
たとえば、移送部30によるスライドガラス10の移送時間間隔がA[秒]であるとする。染色槽21におけるスライドガラス10の保持可能枚数がB[枚]であるとする。各染色槽21における染色時間がC[秒]であるとする。本明細書において、染色時間とは、染色槽21内でスライドガラス10を染色液15に浸して保持する時間を意味する。この場合、1枚目のスライドガラス10が染色槽21内に配置されてから、C秒経過して取り出されるまでの間に、(C/A)枚のスライドガラス10が染色槽21内に移送される。
【0031】
染色時間の間に染色槽21に移送されるスライドガラス10の枚数(C/A)が、染色槽21の保持可能枚数Bよりも多い場合、制御部50は、複数の染色槽21を使用して同時並行で染色処理を行うよう制御する。たとえば、B<(C/A)≦2Bの場合、2つの染色槽21が使用される。2B<(C/A)≦3Bの場合、3つの染色槽21が使用される。
【0032】
逆に、染色時間の間に染色槽21に移送されるスライドガラス10の枚数(C/A)が、染色槽21の保持可能枚数B以下となる場合、制御部50は、1つの染色槽21を使用して染色処理を行うよう制御する。つまり、(C/A)≦Bの場合、1つの染色槽21が使用される。
【0033】
これにより、染色槽21の挿入領域23が全て埋まることによって、染色槽21へのスライドガラス10の移送待ちが発生することが回避されるので、処理速度を確保できる。一方、2つの染色槽21が使用される場合、残りの1つの染色槽21は染色処理に使用されない。1つの染色槽21が使用される場合、残りの2つの染色槽21は染色処理に使用されない。この場合、染色処理に使用されない染色槽21に対して、染色液15の供給量を減らすことができる。
【0034】
そこで、制御部50は、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用しない染色槽に対する染色液15の供給を抑制することにより、染色液15の使用量を低減する制御を行うように構成されてもよい。たとえば、制御部50は、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用しない染色槽に対して、染色処理に使用する染色槽に供給される染色液量(V1とする)よりも少ない量(染色液量V2とする)の染色液15を供給するか、または染色液15を供給しないように流体回路部を制御するように構成されている。流体回路部40は、制御部50の制御の下、染色処理に使用する染色槽には、予め設定された染色液量V1の染色液15を供給する。流体回路部40は、制御部50の制御の下、染色処理に使用しない染色槽に対して供給する染色液15の量を、予め設定された供給量よりも少なくするか、または染色処理に使用しない染色槽に対して染色液15を供給しない。つまり、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対して供給する染色液15の量V2を、0≦V2<V1とするように、流体回路部40を制御する。これにより、染色処理に使用しない染色槽への染色液量を低減できる。
【0035】
この制御処理の一例として、
図1では、3つの染色槽21のうち、2つが染色処理に使用される染色槽21であり、1つが染色処理に使用しない染色槽である例であって、染色処理に使用しない染色槽に対して、0<V2<V1となる染色液量V2で染色液15を供給する例を示している。
【0036】
染色液量V1は、染色槽21内に配置されたスライドガラス10において検体が塗布される領域が染色液15の液面よりも下側に配置される量として設定されている。染色液量V2は、染色槽21内に配置されたスライドガラス10において検体が塗布される領域が染色液15の液面よりも上側で、染色液15と接触しない量であってもよい。染色液量V2は、染色液量V1の半分以下でありうる。染色液量V2は、少ないほど、染色液15の消費量を低減する効果が向上するため好ましい。染色液量V2は、たとえばV2=0でありうる。
【0037】
一方、いずれかの染色槽21を、染色処理に使用されない染色槽に決定した後で、ユーザの操作に応じて、染色処理に使用する染色槽に変更することができる。この場合、制御部50は、染色液量V2と染色液量V1との差分に相当する量の染色液15を、該当する染色槽21へ供給するように流体回路部40を制御する。この場合、染色液量V2が多い程、染色液量V2と染色液量V1との差分が小さくなるため、染色槽21内に染色液15を供給するのに要する時間を短縮できる。
【0038】
染色液量V1および染色液量V2は、予め設定された固定値でありうる。制御部50は、ユーザの操作入力によって、0<V2<V1の範囲内で染色液量V2の設定値を任意に変更可能に構成されうる。
【0039】
以上の例は、スライドガラス10の移送時間間隔A、染色槽21におけるスライドガラス10の保持可能枚数B、および染色槽21における染色時間Cの関係によって、染色処理に使用する染色槽を決定する例である。制御部50は、染色槽21における染色時間Cの入力を、ユーザの操作によって受け付ける。そして、制御部50は、受け付けた染色時間Cに応じて、染色処理に使用する染色槽を決定する。
【0040】
なお、制御部50は、ユーザの操作によって受け付けた染色濃度に応じて、染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とを決定してもよい。この場合、制御部50は、染色濃度に対応した染色時間Cを演算することにより、染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とを決定する。たとえば、制御部50は、染色濃度が薄いほど、染色処理に使用する染色槽の数を少なくする。
【0041】
この他、制御部50は、たとえば染色処理に使用する染色槽の数を、ユーザの操作によって受け付けてもよい。制御部50は、受け付けた染色処理に使用する染色槽の数に応じて、染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とを決定する。この場合の染色時間Cは、たとえば染色処理に使用する染色槽の数に応じた上限値の範囲内で、ユーザにより設定されうる。
【0042】
また、制御部50は、たとえば染色法を、ユーザの操作によって受け付けてもよい。制御部50は、受け付けた染色法で使用される染色液15の種類および染色液15の数に応じて、染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とを決定する。たとえばある染色法では、異なる2種類の染色液15が使用される場合、3つの染色槽21のうち、2つが染色処理に使用される染色槽21であり、1つが染色処理に使用しない染色槽であると決定されうる。染色時間Cは、たとえば染色処理に使用する染色槽の数に応じた上限値の範囲内で、ユーザにより設定されうる。
【0043】
以上の構成により、本実施形態の塗抹標本作製装置100では、制御部50が、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうちから、染色処理に使用する染色槽と、染色処理に使用しない染色槽と、を決定できる。これにより、染色処理に使用しない染色槽を用いることなく、染色処理に使用する染色槽に所定の時間間隔でスライドガラス10を移送して染色処理を実施させることができる。そのため、染色処理に使用しない染色槽には、染色処理に必要な量の染色液15を供給しなくても済み、染色処理に使用しない染色槽への染色液量を低減できる。また、一部の染色槽21を使用しないように決定しても、染色槽21自体の数が減少するわけではないため、いずれかの染色槽21を使用しないことによって処理速度が低下する場合には、染色処理に使用する染色槽の数を増加させれば、処理速度を維持できる。その結果、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液15の消費量を低減することができる。
【0044】
(塗抹標本作成方法)
次に、
図1および
図2を参照して、本実施形態の塗抹標本作製方法を説明する。
【0045】
本実施形態の塗抹標本作製方法は、検体が塗抹された複数のスライドガラス10を配置可能かつ染色液15を貯留可能に構成された複数の染色槽21を有する染色部20に貯留された染色液15に、スライドガラス10に塗抹された検体を浸して染色処理を行う塗抹標本作製方法である。塗抹標本作製方法は、上記した塗抹標本作製装置100の染色動作によって実施される。
【0046】
本実施形態の塗抹標本作製方法は、少なくとも、下記のステップS1と、S3とを備える。本実施形態の塗抹標本作製方法は、下記のステップS2をさらに備えてもよい。(S1)ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽を決定する。(S2)複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽に対して、所定量の染色液15を供給し、染色処理に使用しない染色槽に対して、染色処理に使用する染色槽に供給される染色液量よりも少ない量の染色液15を供給するか、または染色液15を供給しない。(S3)染色処理に使用する染色槽にスライドガラス10を移送することにより染色処理を行う。
【0047】
具体的には、
図2に示すように、ステップS1において、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽が決定される。染色処理に使用する染色槽は、上記のように、染色時間C、染色処理に使用する染色槽の数、染色法の設定などについてのユーザの操作に応じて、決定される。この結果、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽と、染色処理に使用しない染色槽とが特定される。染色部20の複数の染色槽21は、染色処理に使用する染色槽と、染色処理に使用しない染色槽との2つに分類される。
【0048】
ステップS2を、ステップS2AとS2Bとに分けて説明する。ステップS2Aにおいて、複数の染色槽21のうち、ステップS1で染色処理に使用すると決定された染色槽21に、染色液量V1の染色液15が供給される。ステップS2Bにおいて、複数の染色槽21のうち、ステップS1で染色処理に使用しないと決定された染色槽21に供給される染色液量V2が、染色処理に使用する染色槽に供給される染色液量V1よりも少なくされる。染色液量V2は、0を含みうるため、ステップS2Bでは、染色処理に使用しない染色槽に、染色液15が供給されなくてもよい。これにより、染色処理に使用しない染色槽への染色液量を低減できる。
【0049】
ステップS3において、染色処理に使用すると決定され、染色液量V1の染色液15が供給された染色槽21に、所定の移送時間間隔Aでスライドガラス10を移送することにより染色処理が行われる。
【0050】
以上の構成により、本実施形態の塗抹標本作製方法では、上記のように、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうちから、染色処理に使用する染色槽と、染色処理に使用しない染色槽と、を決定できる。これにより、染色処理に使用しない染色槽を用いることなく、染色処理に使用する染色槽に所定の時間間隔でスライドガラス10を移送して染色処理を実施させることができる。そのため、染色処理に使用しない染色槽には、染色処理に必要な量の染色液15を供給しなくても済み、染色処理に使用しない染色槽への染色液量を低減できる。また、一部の染色槽21を使用しないように決定しても、染色槽21自体の数が減少するわけではないため、いずれかの染色槽21を使用しないことによって処理速度が低下する場合には、染色処理に使用する染色槽の数を増加させれば、処理速度を維持できる。その結果、塗抹標本作製の処理速度を維持しつつ、染色液15の消費量を低減することができる。
【0051】
(塗抹標本作製装置の構成例)
以下、
図3~
図14を参照して、本実施形態の塗抹標本作製装置100の具体的な構成例について説明する。
【0052】
〈全体構成〉
図3に示すように、塗抹標本作製装置100は、染色部20に加えて、スライド供給部110と、付着物除去部120と、印字部130と、塗抹部140と、第1乾燥部150と、スライド設置部160と、第2乾燥部170と、スライド収納部180とを備える。
図3の構成例では、塗抹標本作製装置100は、スライドガラス10を搬送するための機構として、移送部30に加えて、第1スライド搬送部210と、搬出機構220と、第2スライド搬送部230と、を備える。
図3の構成例では、塗抹標本作製装置100は、さらに、検体搬送部240と、吸引部250と、表示部260と、操作部270とを備える。塗抹標本作製装置100が備える各部は、制御部50により制御される。
【0053】
以下では、塗抹標本作製装置100の設置面に平行な面内(すなわち、水平面内)で直交する2方向をそれぞれX方向、Y方向とする。X方向を塗抹標本作製装置100の左右方向とし、Y方向を塗抹標本作製装置100の奥行き方向とする。Y1方向側が装置の手前側であり、Y2方向側が装置の奥側である。また、水平面と直交する上下方向をZ方向とする。
【0054】
検体搬送部240は、検体を収容する複数の検体容器241を、所定の取込位置に搬送する。検体搬送部240は、たとえば検体容器241を複数保持した検体ラック242を搬送する。吸引部250は、検体搬送部240により取込位置に搬送された検体容器241から血液、尿等の液体の検体を吸引する。吸引部250は、吸引した検体を塗抹部140へ供給する。
【0055】
スライド供給部110は、第1供給部111と、第2供給部112とを含む。スライド供給部110は、第1供給部111および第2供給部112の各々に、検体の塗抹前の未使用のスライドガラス10を多数収納できる。スライドガラス10は、第1供給部111および第2供給部112の内部に、塗抹面が上方を向くように平置きで収納される。スライド供給部110は、スライドガラス10の平置きの姿勢のまま、スライドガラス10を1枚ずつY2方向に送り出し、スライドガラス10を第1スライド搬送部210へ受け渡すように構成されている。
【0056】
図3の構成例では、第1スライド搬送部210は、スライド供給部110、付着物除去部120、印字部130および塗抹部140の間で移動してスライドガラス10を搬送するように設けられている。第1スライド搬送部210は、1枚のスライドガラス10を上面に平置き状態で保持して搬送できる。第1スライド搬送部210は、スライド供給部110からスライドガラス10を受け取れる。第1スライド搬送部210は、水平方向(XY方向)および上下方向(Z方向)に移動可能に構成されている。第1スライド搬送部210は、保持したスライドガラス10を付着物除去部120、印字部130および塗抹部140の各々の処理位置に搬送できる。スライドガラス10は、第1スライド搬送部210により保持された状態で、付着物除去部120、印字部130および塗抹部140のそれぞれにおいて所定の処理に供される。
【0057】
付着物除去部120は、スライドガラス10の表面に付着した付着物を除去する機能を有する。たとえば、付着物除去部120は、エアを吐出することによりスライドガラス10の塗抹領域11および印字領域12の付着物を吹き飛ばす。付着物は、たとえば、ガラス粉末やほこりなどの小さい異物である。
【0058】
印字部130は、スライドガラス10の印字領域12に、検体情報などの各種情報を印字できる。印字部130は、第1スライド搬送部210の上面に保持された状態のスライドガラス10に対して印字を行う。印字部130は、たとえば熱転写プリンタやインクジェットプリンタなどの印字ヘッドを含む。
【0059】
塗抹部140は、スライドガラス10の塗抹領域11に検体を塗抹できる。塗抹部140は、第1スライド搬送部210の上面に保持された状態のスライドガラス10に対して検体の塗抹を行う。塗抹部140は、吸引部250から供給された検体をスライドガラス10の塗抹領域11に滴下し、引きガラスなどの塗抹部材を用いた塗抹方法(いわゆるウェッジ法)によりスライドガラス10に対する塗抹処理を実施する。塗抹部140は、検体を滴下するためのノズル、塗抹部材を動かすためのモータを含む駆動機構を備える。
【0060】
搬出機構220は、塗抹部140に搬送されたスライドガラス10を第1乾燥部150に搬出する機能を有する。搬出機構220は、塗抹部140に搬送されたスライドガラス10をY1方向に移動させて、第1乾燥部150の処理位置に位置付ける。
【0061】
第1乾燥部150は、検体が塗抹されたスライドガラス10を塗抹部140から受け取り、スライドガラス10の塗抹領域11に送風する機能を有する。第1乾燥部150は、ファンまたはブロワなどの送風機構を含む。第1乾燥部150は、送風により、スライドガラス10に塗抹された検体を乾燥させる。
【0062】
搬出機構220は、第1乾燥部150に搬出したスライドガラス10を、第1乾燥部150から第2スライド搬送部230に搬出するように構成されている。搬出機構220は、第1乾燥部150に搬送されたスライドガラス10をY1方向に移動させて、第2スライド搬送部230に受け渡す。
【0063】
第2スライド搬送部230は、Y方向において、第1乾燥部150および染色部20とスライド設置部160との間に配置され、X方向に延びるように設けられている。第2スライド搬送部230は、第1乾燥部150から、染色部20とスライド設置部160との間の取出位置410へ、X1方向にスライドガラス10を搬送するように構成されている。第2スライド搬送部230は、スライドガラス10を収容する収容部231を有し、収容部231をX方向に移動できる。第2スライド搬送部230は、設置面と略平行に寝かせた状態のスライドガラス10を収容部231内に受け入れ、設置面に対して略垂直に立てた状態にして、取出位置410へ搬送する。取出位置410では、スライドガラス10は、塗抹面が上下方向(Z方向)に沿うように立てられた状態で保持される。取出位置410に搬送されたスライドガラス10は、染色部20またはスライド設置部160に搬送される。
【0064】
染色部20は、第1乾燥部150に対してX1方向側に並んで配置されている。染色部20は、Y方向に延びるように設けられている。染色部20は、染色液を溜める染色槽21(
図4参照)に加えて、洗浄液を溜める洗浄槽25(
図4参照)を備える。染色部20では、塗抹済みのスライドガラス10に対して、染色槽21および洗浄槽25において染色処理および洗浄処理が実施される。
【0065】
スライド設置部160は、染色部20のY1方向側に配置され、スライドガラス10を出し入れ可能に保持するように構成されている。スライド設置部160には、複数のスライドガラス10を収納可能なスライド収納容器190を複数設置できる。スライド収納容器190は、スライド設置部160から取り外せる。スライド設置部160は、スライド設置部160に設置されたスライド収納容器190内でスライドガラス10を出し入れ可能に保持する。
【0066】
移送部30は、染色部20、スライド設置部160および取出位置410の間でスライドガラス10を搬送することができる。移送部30は、染色部20、スライド設置部160および取出位置410よりも上方の高さ位置において、X方向、Y方向およびZ方向の各方向に移動できる。移送部30は、染色部20、スライド設置部160および取出位置410の各々に配置されたスライドガラス10を把持して取り出したり、染色部20、スライド設置部160および取出位置410の各々にスライドガラス10を設置したりできる。
【0067】
移送部30は、第2乾燥部170およびスライド収納部180へスライドガラス10を搬送することができる。第2乾燥部170およびスライド収納部180へのスライドガラス10の搬送は、移送部30とは異なる別の搬送部によって実施してもよい。
【0068】
図3の構成例では、第2乾燥部170は、染色部20に対してY2方向側に並んで配置されている。第2乾燥部170は、染色部20から搬送される染色処理後のスライドガラス10を受け取る。第2乾燥部170は、送風により、染色部20による染色済みのスライドガラス10を乾燥させる機能を有する。第2乾燥部170は、ファンまたはブロワなどの送風機構を含む。移送部30は、乾燥したスライドガラス10をスライド収納部180に受け渡す。
【0069】
スライド収納部180は、処理が終了したスライドガラス10を受け取り、収納する機能を有する。
図3の構成例では、スライド収納部180は、第2乾燥部170に対してX1方向側に並んで配置され、第2乾燥部170から搬送されるスライドガラス10を受け取る。
【0070】
スライド収納部180には、スライド収納容器190が複数設置可能である。スライド収納部180は、スライド収納部180に設置されたスライド収納容器190内でスライドガラス10を保持する。スライド収納部180は、設置位置411に設置された空のスライド収納容器190を、収納位置412までY2方向に移動させる。収納位置412は、第2乾燥部170に対してX1方向側に隣接する位置である。移送部30が、第2乾燥部170から、収納位置412のスライド収納容器190にスライドガラス10を設置する。スライド収納部180は、スライドガラス10を収容したスライド収納容器190をX1方向に移動させた後、Y1方向に移動させて、回収位置413へ搬送する。染色処理および乾燥処理が終了したスライドガラス10を収容したスライド収納容器190が、回収位置413からY2方向に並んで保持される。
【0071】
制御部50は、塗抹標本作製装置100の各部の動作を制御する。制御部50は、操作部270を介してユーザの操作を受け付ける。制御部50は、設定画面や状態表示画面などの、塗抹標本作製装置100の動作に関わる各種画面を表示部260に表示させる。表示部260は、たとえば液晶モニタなどの表示デバイスである。操作部270は、たとえば表示部260に設けられたタッチパネルである。操作部270は、マウス、キーボードなどの入力デバイスを含んでもよい。
【0072】
このような構成によって、塗抹標本作製装置100は、スライドガラス10への印字処理、検体の塗抹処理、染色処理の各処理を実施して塗抹標本を自動作製できる。
【0073】
(染色部)
次に、染色部20の構成について具体的に説明する。
【0074】
図4の構成例では、染色部20は、5つの染色槽21a~21eを含む。また、染色部20は、2つの洗浄槽25aおよび25bをさらに含む。
【0075】
図4の構成例では、5つの染色槽21a~21eと2つの洗浄槽25aおよび25bとが、単一の構造体20aに一体形成されている。構造体20aは、5つの染色槽21a~21eと2つの洗浄槽25aおよび25bとをY方向に並べた大きさの液体容器であり、液体を貯留可能な凹状の貯留空間が形成されている。単一の構造体20aが、Y方向に配列された多数の保持部22を含んでいる。保持部22によって、スライドガラス10の挿入領域23が構成されている。構造体20aの凹状の貯留空間は、複数の仕切部材29によって、5つの染色槽21a~21eと2つの洗浄槽25aおよび25bとに区画されている。具体的には、各槽を仕切る板状の仕切部材29が、Y方向の所定位置に合計6つ設けられている。これにより、5つの染色槽21と2つの洗浄槽25とは、単一の構造体20aにおいてY方向に並ぶように一体形成されている。単一の構造体20aは、耐薬品性を有し、洗浄が容易な樹脂材料などによって形成されるのが好ましい。
【0076】
染色槽21内の保持部22は、染色槽21の挿入領域23を形成し、洗浄槽25内の保持部22は、洗浄槽25の挿入領域26を形成する。なお、染色槽21および洗浄槽25の数は、染色処理の工程数などに応じた数にすればよい。
【0077】
染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bは、仕切部材29によって個別に隔離されており、互いに液体が流通することはない。染色槽21a~21eおよび洗浄槽25aおよび25bの各々には、槽内に液体を供給するための供給ポート27aと、槽内から液体を排出するための排出ポート27bとが個別に設けられている。これにより、染色槽21a~21eおよび洗浄槽25aおよび25bの各々に対して、個別に染色液15または洗浄液16を供給または排出できる。これらの染色槽21a~21eおよび洗浄槽25aおよび25bは、それぞれ別体で個別に設けられていてもよい。
【0078】
このような構成により、洗浄槽25は、スライドガラス10に塗抹された検体を洗浄する洗浄液16を貯留可能に構成されている。洗浄槽25は、スライドガラス10を浸せるように洗浄液16を溜めることができる。洗浄槽25の構成は、染色槽21と共通の構成を採用できる。洗浄槽25は、容器形状に形成され、内部にスライドガラス10を浸せるように洗浄液16を溜められる。洗浄槽25は、複数の保持部22にスライドガラス10を保持できる。
【0079】
各染色槽21および各洗浄槽25は、Y2方向側から順に、染色槽21a、染色槽21b、染色槽21c、洗浄槽25a、染色槽21d、染色槽21e、洗浄槽25bの順で配列されている。スライドガラス10は、Y2方向側の染色槽21aから順に各槽に移送され、所定の時間の間、それぞれの槽に溜められた染色液15または洗浄液16に漬けられて処理される。各槽での処理のための時間は、各槽に溜められた染色液15または洗浄液16の種類に応じて異なる。
【0080】
図4の構成例では、移送部30は、第1移送部30aと第2移送部30bとを含む。移送部30の第1移送部30aおよび第2移送部30bは、共に染色槽21および洗浄槽25の上方(Z1方向)に配置される。第1移送部30aおよび第2移送部30bは、移動機構32によってそれぞれ水平方向(すなわち、X方向およびY方向)に移動できる。
【0081】
移動機構32は、Y方向のY軸レール33aおよびY軸スライダ33bと、X方向のX軸レール34aおよびX軸スライダ34bと、Y軸モータ33cおよびX軸モータ34cとを含む。X軸モータ34cおよびY軸モータ33cには、たとえばステッピングモータまたはサーボモータなどが採用できる。
【0082】
Y軸レール33aは、Y方向に直線状に延び、支持部材33dの下面に固定される。支持部材33dは、塗抹標本作製装置100の筐体の天井部または支持用の梁部材などである。Y軸スライダ33bは、Y軸レール33aの下面側(Z2方向側)に取り付けられ、Y軸レール33aに沿って移動できる。Y軸モータ33cは、図示しない伝達機構を介してY軸スライダ33bをY方向に移動させる。伝達機構には、たとえばベルト-プーリ機構またはラック-ピニオン機構などが採用できる。
【0083】
X軸レール34aは、X方向に直線状に延び、Y軸スライダ33bの下面に固定されている。X軸スライダ34bは、X軸レール34aの下面側(Z2方向側)に取り付けられ、X軸レール34aに沿って移動できる。X軸モータ34cは、図示しない伝達機構を介してX軸スライダ34bをX方向に移動させる。
【0084】
Y軸スライダ33b、X軸レール34a、X軸スライダ34b、X軸モータ34cおよびY軸モータ33cは、それぞれ一対設けられている。一対のX軸スライダ34bの下面側に、それぞれ、第1移送部30aと第2移送部30bとが取り付けられている。これにより、第1移送部30aおよび第2移送部30bは、個別のX軸レール34aに沿って互いに独立してX方向に移動できる。また、第1移送部30aおよび第2移送部30bは、共通のY軸レール33aに沿って互いに独立してY方向に移動できる。
【0085】
第1移送部30aおよび第2移送部30bの構成は、共通である。第1移送部30aおよび第2移送部30bは、それぞれ、ハンド31と、ハンド31を昇降させるためのZ軸モータ35aと、伝達機構35bとを含む。Z軸モータ35aは、伝達機構35bを介してハンド31を昇降させる。伝達機構35bには、たとえばベルト-プーリ機構またはラック-ピニオン機構などが採用できる。
【0086】
ハンド31は、1枚のスライドガラス10を把持できる。
図4では、ハンド31がスライドガラス10を挟んで把持する。ハンド31は、スライドガラス10の把持および把持解除を切り替えるためのアクチュエータを備える。アクチュエータは、エアシリンダ、モータ、ソレノイドなどが採用できる。
【0087】
図5に、染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bの各々の挿入領域23を模式的に示す。
図5の例では、染色槽21aは、7箇所の挿入領域23を有し、7枚のスライドガラス10を同時に保持可能である。染色槽21bは、7箇所の挿入領域23を有し、7枚のスライドガラス10を同時に保持可能である。染色槽21cは、7箇所の挿入領域23を有し、7枚のスライドガラス10を同時に保持可能である。洗浄槽25aは、1箇所の挿入領域26を有し、1枚のスライドガラス10を保持可能である。染色槽21dは、10箇所の挿入領域23を有し、10枚のスライドガラス10を同時に保持可能である。染色槽21eは、10箇所の挿入領域23を有し、10枚のスライドガラス10を同時に保持可能である。洗浄槽25bは、1箇所の挿入領域26を有し、1枚のスライドガラス10を保持可能である。
【0088】
第1移送部30aは、Y1方向側の染色槽21a、染色槽21b、染色槽21cおよび洗浄槽25aの各上方位置に移動できる。したがって、第1移送部30aは、染色槽21a、染色槽21b、染色槽21cおよび洗浄槽25aの各々の挿入領域23に対して、スライドガラス10を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0089】
また、第2移送部30bは、Y2方向側の洗浄槽25b、染色槽21e、染色槽21dおよび洗浄槽25aの各上方位置と、第2乾燥部170(
図3参照)の上方位置と、スライド収納部180への収納位置412(
図3参照)とに移動できる。したがって、第2移送部30bは、染色槽21dおよび染色槽21eと、洗浄槽25aおよび洗浄槽25bとの各々の挿入領域23、26に対して、スライドガラス10を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0090】
第1移送部30aと第2移送部30bとは、それぞれ並行して別々のスライドガラス10を移送できる。第1移送部30aと第2移送部30bとは、洗浄槽25aにおいて動作範囲が重複しており、この洗浄槽25aにおいてスライドガラス10の受け渡しが行われる。受け渡しの位置は、洗浄槽25a以外でもよい。
【0091】
このように、
図4および
図5の構成例では、移送部30は、1枚のスライドガラス10を保持して移送し、染色槽21に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように構成されている。そして、制御部50は、染色槽21に対してスライドガラス10を順次移送し、染色処理を行う染色時間が経過したスライドガラス10から順番に染色槽21から取り出すように、移送部30を制御する。
【0092】
ここで、たとえば複数枚のスライドガラス10をまとめて移送する構成の場合、その複数枚全てのスライドガラス10の準備が完了するまでは、染色処理を開始できず待機時間が発生する。これに対して、スライドガラス10を1枚単位で移送する上記構成によれば、染色処理が行われるスライドガラス10が1枚でも準備できれば、直ちに染色処理を開始できる。その結果、塗抹標本作製装置100が動作を開始してから、染色済みの塗抹標本が最初にユーザに提供されるまでの待ち時間を極力低減できる。
【0093】
(制御ブロック)
図6に示すように、制御部50は、記憶部55、操作部270、表示部260および通信部280と電気的に接続されている。制御部50は、記憶部55に記憶されたプログラムおよび設定情報に基づいて、通信部280を介して塗抹標本作製装置100が備える各機構の制御を行う。
【0094】
通信部280は、制御部50と、塗抹標本作製装置100が備える各機構との信号の入出力を行うI/Oインターフェースを含む。制御部50は、通信部280を介して、移送部30、流体回路部40、スライド供給部110、印字部130、塗抹部140、乾燥部(第1乾燥部150および第2乾燥部170)、スライド収納部180、検体搬送部240、吸引部250、および、移送機構(第1スライド搬送部210、搬出機構220、および第2スライド搬送部230)などの各機構と接続されている。制御部50は、通信部280を介して、流体回路部40による染色液15および洗浄液16の供給動作および排出動作を制御する。制御部50は、通信部280を介して、移送部30によるスライドガラス10の移送動作を制御する。
【0095】
(染色処理の例)
図3の例では、塗抹標本作製装置100は、複数種類の染色処理を実行可能に構成されている。これらの複数種類の染色処理は、使用する染色液の種類、染色処理の工程、染色時間などの少なくとも1つが異なる。
図7に示す例では、塗抹標本作製装置100は、3種類の染色処理が可能である。具体的には、塗抹標本作製装置100は、2種類の二重染色と、1種類の単染色ができる。二重染色を行う場合、染色液15は、第1染色液15aと、第1染色液15aとは異なる第2染色液15bとを含む。
【0096】
第1種類の染色処理は、二重染色のメイ・ギムザ染色である。二重染色のメイ・ギムザ染色を行う場合は、染色液15は、メタノール、メイグリュンワルド液およびギムザ液を含む。第1染色液15aがメイグリュンワルド液であり、第2染色液15bがギムザ液である。染色槽21aには、メタノールが供給され、染色槽21bには、メイグリュンワルド液の原液が供給され、染色槽21cには、メイグリュンワルド液の希釈染色液が供給される。つまり、染色槽21bおよび染色槽21cが、第1染色液15aを貯留する染色槽21である。洗浄槽25aには、リン酸バッファなどの緩衝液が洗浄液16として供給される。染色槽21dおよび21eには、ギムザ液の希釈染色液が供給される。つまり、染色槽21dおよび21eが、第2染色液15bを貯留する染色槽21である。洗浄槽25bには、純水が洗浄液16として供給される。
【0097】
第2種類の染色処理は、二重染色のライト・ギムザ染色である。二重染色のライト・ギムザ染色を行う場合は、染色液15は、メタノール、ライト液およびギムザ液を含む。第1染色液15aがライト液であり、第2染色液15bがギムザ液である。二重染色のライト・ギムザ染色を行う場合は、染色槽21aには、メタノールが供給され、染色槽21bには、ライト液の原液が供給され、染色槽21cには、ライト液の希釈染色液が供給される。つまり、染色槽21bおよび染色槽21cが、第1染色液15aを貯留する染色槽21である。洗浄槽25aには、洗浄液16としてリン酸バッファが供給され、染色槽21dおよび21eには、ギムザ液の希釈染色液が供給される。つまり、染色槽21dおよび21eが、第2染色液15bを貯留する染色槽21である。洗浄槽25bには、洗浄液16として純水が供給される。
【0098】
このように、染色部20は、第1染色液15aを貯留する染色槽21b、21cと、第1染色液15aとは異なる第2染色液15bを貯留する染色槽21d、21eとを含み、第1染色液15aによる第1染色処理の後、第2染色液15bによる第2染色処理を行うように構成されている。
【0099】
第3種類の染色処理は、単染色のライト染色である。単染色のライト染色を行う場合は、染色液15は、メタノールおよびライト液を含む。単染色のライト染色を行う場合は、染色槽21aには、メタノールが供給され、染色槽21bには、ライト液の原液が供給され、染色槽21c、染色槽21dおよび21eには、ライト液の希釈染色液が供給され、洗浄槽25bには、洗浄液16として純水が供給される。洗浄槽25aは洗浄液16が供給されず、使用されない。
【0100】
(流体回路部)
図8に、染色部20の各染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bに染色液15または洗浄液16を供給する流体回路部40の概略を示す。
【0101】
流体回路部40は、複数の送液管41、複数のポンプ42、複数のバルブ43および複数のチャンバ44を備える。染色液15は、ダイヤフラムポンプやシリンジポンプなどの定量型のポンプ42により定量されて染色槽21a~21eに供給される。染色液15は、希釈染色液として供給される場合、希釈チャンバにおいて染色液15の原液と希釈液とが希釈チャンバに供給され、所定の濃度に希釈される。洗浄液16は、定量型のポンプ42により定量されて洗浄槽25aおよび25bに供給される。
【0102】
具体的には、流体回路部40は、メタノールチャンバ44aに貯留されたメタノールを、バルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、染色槽21aに供給する。流体回路部40は、第1染色液チャンバ44bに貯留された第1染色液15aの原液を、バルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、染色槽21bに供給する。第1染色液15aは、上記の通り、メイグリュンワルド液またはライト液から選択される。流体回路部40は、第1染色液チャンバ44bに貯留された第1染色液15aの原液と、緩衝液チャンバ44cに貯留された緩衝液とを、それぞれバルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、第1希釈チャンバ44fに供給する。第1希釈チャンバ44fにおいて、第1染色液15aの希釈染色液が、定量される。流体回路部40は、バルブ43の切り替えにより陽圧源46から第1希釈チャンバ44fに陽圧を供給し、バルブ43を開閉することにより、第1希釈チャンバ44fに貯留された第1染色液15aの希釈染色液を染色槽21cに供給する。流体回路部40は、緩衝液チャンバ44cに貯留された緩衝液を、バルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、洗浄槽25aに供給する。緩衝液(リン酸バッファ)は、染色液15の希釈液としても、洗浄液16としても用いられる。
【0103】
流体回路部40は、第2染色液チャンバ44dに貯留された第2染色液15bの原液と、緩衝液チャンバ44cに貯留された緩衝液とを、それぞれバルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、第2希釈チャンバ44gに供給する。第2染色液15bは、上記の通り、ギムザ液またはライト液から選択される。第2希釈チャンバ44gにおいて、第2染色液15bの希釈染色液が、定量される。流体回路部40は、バルブ43の切り替えにより陽圧源46から第2希釈チャンバ44gに陽圧を供給し、バルブ43を開閉することにより、第2希釈チャンバ44gに貯留された第2染色液15bの希釈染色液を、染色槽21d、または染色槽21dおよび21eの両方に供給する。流体回路部40は、純水チャンバ44eに貯留された純水を、バルブ43の開閉およびポンプ42の動作により、洗浄槽25bに供給する。純水は、たとえばRO水である。
【0104】
流体回路部40は、バルブ43の開閉により、染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bに貯留された液体を、廃液チャンバ45に排出させる。
【0105】
なお、流体回路部40は、染色部20の複数の染色槽21の各々へ、槽洗浄用の洗浄液18を供給可能に構成されている。流体回路部40は、塗抹標本作製装置100のシャットダウン時等に、洗浄液チャンバ44hに貯留された槽洗浄用の洗浄液18を、染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bの各々に個別に供給できる。槽洗浄用の洗浄液18としては、たとえばメタノール、エタノール、次亜塩素酸水溶液などが採用できる。
【0106】
(染色液の供給)
次に、本実施形態による染色液15の供給について説明する。
【0107】
本実施形態では、上記のように、制御部50は、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽を決定する。そして、制御部50は、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用しない染色槽に供給される染色液量を、染色処理に使用する染色槽に供給される染色液量よりも少なくするか、または染色液を供給しないよう流体回路部40を制御するように構成されている。
【0108】
ここで、本実施形態では、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対して、染色液15を供給しないように流体回路部40を制御する。これにより、染色処理に使用しない染色槽に対する染色液15の供給液量を0にすることができるので、染色液15の消費量を最も効果的に低減できる。
【0109】
また、本実施形態では、染色部20は、同一種類の染色液15が供給される染色槽21を複数含む。たとえば、
図7に示した二重染色による染色処理を実施する場合、染色槽21dおよび21eの2つの槽に、同一種類の第2染色液15bが供給される。
図7に示した単染色による染色処理を実施する場合、染色槽21c、21dおよび21eの3つの槽に、同一種類の染色液15が供給される。そして、制御部50は、同一種類の染色液15が供給される複数の染色槽21のうちで染色処理に使用する染色槽を決定するように構成されている。
【0110】
これにより、同一種類の染色液15により染色処理を行う際に、同時に保持可能なスライドガラス10の枚数を、使用する染色槽21の数によって調節できる。その結果、同時並行で染色処理を行うスライドガラス10の枚数が少ない場合などには、必要な最小数の染色槽21だけを使用することができる。
【0111】
なお、
図7に示した二重染色および単染色のいずれの場合においても、染色部20において、複数の染色槽21a~21eが、染色処理の順番に並んで配置されている。制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対してスライドガラス10を移送せず、染色処理に使用する染色槽に対してスライドガラス10を移送するように移送部30を制御する。
【0112】
これにより、染色処理に使用しない染色槽に対するスライドガラス10の移送動作をスキップできる。その結果、染色処理に使用しない染色槽が存在する場合に、使用しない染色槽21に対する移送動作が発生することによる時間のロスが生じることを回避できる。
【0113】
本実施形態では、制御部50は、二重染色による染色処理を実施する場合、染色槽21dおよび21eのうち、染色槽21dのみを染色処理に使用する染色槽として決定するか、または染色槽21dおよび21eの両方を、染色処理に使用する染色槽として決定する。制御部50は、単染色による染色処理を実施する場合、染色槽21c~21eのうち、染色槽21cのみを染色処理に使用する染色槽として決定するか、染色槽21cおよび21dの2つを染色処理に使用する染色槽として決定するか、または、染色槽21c~21eの3つを染色処理に使用する染色槽として決定する。
【0114】
また、制御部50は、同一種類の染色液15が供給される染色槽21を複数使用する場合に、使用する複数の染色槽21の各々で並行して染色処理を実施させるように、移送部30を制御する。たとえば、二重染色による染色処理において染色槽21dおよび21eの両方を使用する場合、制御部50は、染色槽21dおよび21eの各々で並行して染色処理を実施させる。このように、染色処理に使用する染色槽が複数ある場合、同時並行で染色処理を実施可能なスライドガラス10の枚数を増大させることが可能であり、染色処理待ちになるスライドガラス10が発生することを回避できる。これにより、複数の染色槽21で同一の染色処理を行う場合には、それぞれの染色槽21で同時並行で染色処理を進行させることができるので、極力高い処理速度を確保できる。なお、並行して染色処理を実施させるとは、複数の染色槽21の各々に、異なるスライドガラス10が設置されることにより、それぞれのスライドガラス10に対する染色処理が別々の染色槽21で同時並行で進行する状態を意味する。並行して染色処理を実施する際、スライドガラス10の設置タイミングや取り出しタイミングが異なっていることは許容される。
【0115】
次に、ユーザの操作に応じて、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽を決定する決定方法の具体例を説明する。
【0116】
本実施形態では、制御部50は、ユーザの操作による染色時間の設定を受け付ける。制御部50は、設定された染色時間Cの長さ(
図11、
図12参照)に応じて、染色処理に使用する染色槽を決定する。
【0117】
染色時間Cの長さは、染色処理毎、すなわち染色液15毎に異なる。一定時間間隔でスライドガラス10が染色槽21に移送される場合に、染色時間が長い程、より多くの枚数のスライドガラス10が染色槽21内に保持される。そのため、染色時間の長さに応じて、染色処理に使用する染色槽を決定することによって、染色時間が長い場合には複数の染色槽21を使用し、染色時間が短い場合にはいずれかの染色槽21を使用しないようにして、同時に保持可能なスライドガラス10の枚数を調節できる。その結果、染色時間の長さに応じて、いずれかの染色槽21を使用しない場合には、染色液15の消費量を効果的に低減できる。
【0118】
制御部50は、表示部260(
図3参照)に設定画面を表示させ、設定画面を介してユーザの操作による染色時間の設定を受け付けるように構成されている。具体的には、制御部50は、
図9に示すメインメニュー画面300を表示部260に表示させる。ユーザが操作部270によりメインメニュー画面300に設けられた設定ボタン301を入力(タッチ)して、染色時間を設定可能な染色条件の設定画面を表示させることができる。
【0119】
具体的には、制御部50は、ユーザの操作に応じて、
図10に示す染色条件編集画面310を表示部260に表示させる。
図10は、二重染色を行う場合の画面例を示している。染色条件編集画面310は、染色槽21aによる「メタノール固定」の染色時間項目311a、染色槽21bによる「第1染色液原液」の染色時間項目311b、染色槽21cによる「第1染色液希釈」の染色時間項目311c、染色槽21dおよび21eによる「第2染色液希釈」の染色時間項目311d、洗浄槽25bによる水洗回数項目311e、および、第2乾燥部170による乾燥時間項目311f、の各々の設定項目を含む。第1染色液15aによる第1染色処理の染色時間が、染色時間項目311bおよび311cにおいて設定される。第2染色液15bによる第2染色処理の染色時間が、染色時間項目311dにおいて設定される。染色時間項目311dにおける第2染色処理の染色時間は、染色時間項目311bおよび311cにおける第1染色処理の染色時間よりも長く設定可能である。
【0120】
染色条件編集画面310は、設定項目毎に、スライダー形式の設定入力部312を含む。設定項目毎のスライダー313を「+」側に移動させることにより、設定値が増大し、スライダー313を「-」側に移動させることにより、設定値が減少する。これにより、染色条件編集画面310において、ユーザは、設定値の表示および設定変更ができる。
【0121】
二重染色を行う
図10の例では、制御部50は、染色処理に使用する染色槽を決定するためのユーザの操作として、第2染色処理の染色時間である染色時間項目311d(「第2染色液希釈」)の設定値を取得する。
図10の例では、染色時間項目311dの染色時間が、設定値「13分36秒」に設定されている。
【0122】
本実施形態では、制御部50は、染色時間が短いほど、染色処理に使用する染色槽の数を少なくする。二重染色を行う場合、染色処理に使用する染色槽の数は、「2(染色槽21dおよび21e)」または「1(染色槽21dのみ)」である。制御部50は、染色時間が閾値以下となる場合に、染色処理に使用する染色槽の数を1つにして、染色槽21dを染色処理に使用する染色槽として決定する。言い換えると、制御部50は、
図11に示すように、染色時間Cが閾値以下となる場合に、染色槽21eを、染色処理に使用しない染色槽として決定する。制御部50は、染色時間Cが閾値よりも大きい場合に、染色処理に使用する染色槽の数を2つにして、染色槽21dおよび21eを染色処理に使用する染色槽として決定する。
【0123】
これにより、染色時間が短いほど、複数の染色槽21によって同時に保持可能なスライドガラス10の枚数が少なくなるので、その分、使用する染色槽21の数を減らすことができる。その結果、染色液15の消費量を効果的に低減できる。
【0124】
制御部50は、染色槽21によるスライドガラス10の保持可能枚数Bの合計が、染色時間Cの間に染色槽21に移送されるスライドガラス10の枚数(C/A)以上の最小数となるように、染色処理に使用する染色槽の数を設定する。
【0125】
これにより、染色処理の順番待ちが発生することがない範囲で、染色処理に使用する染色槽の数を極力少なくすることができる。つまり、処理速度を維持できる範囲で、極力多い数の染色槽21を、染色処理に使用しない染色槽にすることができるので、染色液15の消費量を効果的に低減できる。
【0126】
たとえば、
図5に示した染色槽21dおよび21eの保持可能枚数Bは、ともに10[枚]である。そのため、染色時間Cの間に染色槽21に移送されるスライドガラス10の枚数(C/A)が1枚~10枚までは、制御部50は、染色処理に使用する染色槽の数を「1」にする。(C/A)が11枚~20枚までは、制御部50は、染色処理に使用する染色槽の数を「2」にする。ここで、移送部30によるスライドガラス10の移送時間間隔Aが48[秒]であるとする。この場合、染色時間Cが480秒(8分)以下の場合、(C/A)が10枚以下となり、染色時間Cが480秒よりも長い場合、(C/A)が11枚以上となる。従って、制御部50は、保持可能枚数Bと、移送時間間隔Aとに基づいて、
図11に示す閾値を480秒(8分)に設定する。
【0127】
このように、本実施形態では、二重染色を行う構成において、制御部50は、第2染色処理の染色時間Cの長さに応じて、第2染色処理に使用される染色槽21の数を決定する。つまり、制御部50は、
図10に示した染色時間項目311d(「第2染色液希釈」)の設定値に応じて、染色槽21dのみを使用するか、染色槽21dおよび21eの両方を使用するかを、決定する。メイ(メイグリュンワルド)・ギムザ染色や、ライト・ギムザ染色などの二重染色では、一般に、第2染色処理が第1染色処理よりも長時間になるため、第2染色処理の染色時間の長さに応じて、染色槽21によるスライドガラス10の保持枚数(C/A)の変化幅が大きくなる。そのため、第2染色処理の染色時間の長さに応じて、第2染色処理に使用される染色槽21の数を決定することによって、スライドガラス10の保持可能な最大枚数を確保しつつ、第2染色処理の染色時間が短い場合に、使用する染色槽21の数を減少させて、染色液15の消費量を効果的に低減できる。
【0128】
なお、単染色の場合、第1閾値および第2閾値の2つの閾値を設定しうる。
図12に示すように、制御部50は、染色時間Cが第1閾値以下の場合に、染色処理に使用する染色槽の数を「2(染色槽21cおよび21d)」にし、染色時間Cが第1閾値よりも長い場合に、染色処理に使用する染色槽の数を「3(染色槽21c~21e)」にする。移送時間間隔Aが48[秒]であり、第1移送部30aおよび第2移送部30bの間でのスライドガラス10の受け渡しに要する時間を考慮して、染色時間Cの第1閾値は、たとえば792秒(13分12秒)に設定される。
【0129】
制御部50は、染色時間Cが第2閾値(<第1閾値)以下の場合に、染色処理に使用する染色槽の数を「1(染色槽21c)」にする。
図5に示した染色槽21cの保持可能枚数Bは、7枚である。そのため、移送時間間隔Aが48[秒]であるとすれば、染色時間Cの第2閾値が336秒(5分36秒)に設定される。
【0130】
なお、以上の閾値の数値、移送時間間隔Aおよび保持可能枚数Bは、一例であって、これに限られないことは言うまでもない。
【0131】
〈状態画面表示〉
染色時間Cに応じて染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とが発生する場合、ユーザは、塗抹標本作製装置100の動作中において、染色処理に使用しない染色槽の有無を確認したい場合がある。
【0132】
そこで、本実施形態では制御部50は、染色処理に使用しない染色槽が存在する場合に、染色処理に使用する染色槽と染色処理に使用しない染色槽とが存在することを識別可能なように表示部260に対する表示制御を行う。
【0133】
具体的には、ユーザが操作部270によりメインメニュー画面300に設けられた状態表示ボタン302を入力(タッチ)すると、制御部50は、
図13および
図14に示す状態表示画面320を表示部260に表示させる。
【0134】
状態表示画面320は、塗抹標本作製装置100の主要な機構の配置を示したマップ321を含み、マップ321において、処理中のスライドガラス10の位置を示す表示要素325が色づけされて識別可能に表示される。染色部20については、染色部20の染色槽21a~21eの各挿入領域23および洗浄槽25a、25bの各挿入領域26を示す表示要素322が、マップ321中に表示される。
図13に示すように、制御部50は、たとえば二重染色において、染色槽21dおよび21eの両方を染色処理に使用すると決定した場合、染色槽21dを示す表示要素323および染色槽21eを示す表示要素324の両方に、挿入領域23を示す表示要素322が表示される。
【0135】
一方、
図14に示すように、制御部50が、二重染色において、染色槽21dを染色処理に使用すると決定し、染色槽21eを染色処理に使用しないと決定した場合、染色槽21dを示す表示要素323中に、挿入領域23を示す表示要素322が表示されるのに対して、染色槽21eを示す表示要素324には、挿入領域23を示す表示要素322が非表示とされる。
【0136】
この結果、ユーザは、染色槽21eが染色処理に使用されない槽であることを視覚的に認識できる。これにより、ユーザが、複数の染色槽21のうち、いずれが染色処理に使用しない染色槽であるかを表示部260の表示により把握できる。
【0137】
〈シャットダウン処理〉
図9に示すように、ユーザが操作部270によりメインメニュー画面300に設けられたシャットダウンボタン303を入力(タッチ)すると、制御部50は、シャットダウン処理を実行する。制御部50は、シャットダウン処理の一部として、槽洗浄用の洗浄液18(
図8参照)により、染色部20の各染色槽21および各洗浄槽25の洗浄動作を実行させる制御を行う。
【0138】
この際、制御部50は、
図11および
図12に示したように、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用しない染色槽に供給される洗浄液量V4を、染色処理に使用する染色槽に供給される洗浄液量V3よりも少なくするよう流体回路部40を制御する。染色処理に使用しない染色槽に供給される洗浄液量V4と、染色処理に使用する染色槽に供給される洗浄液量V3との大小関係は、染色液の場合と同様であってよい。つまり、洗浄液量V4は、洗浄液量V3の半分以下でありうる。洗浄液量V4は、少ないほど、洗浄液18の消費量を低減する効果が向上するため好ましい。洗浄液量V4は、たとえばV4=0でありうる。
【0139】
これにより、染色処理に使用しない染色槽については、槽内の染色液15が標本と接触することがなく、かつ、供給される染色液量が少ないことから、染色液量が少ない分、洗浄液18の供給液量も低減できる。その結果、染色液15のみならず、洗浄液18の消費量も低減できる。
【0140】
たとえば、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対して、洗浄液18を供給しないように流体回路部40を制御する。これにより、染色処理に使用しない染色槽に対する洗浄液18の供給液量を0にすることができるので、洗浄液18の消費量を最も効果的に低減できる。
【0141】
(塗抹標本作製装置の動作)
次に、塗抹標本作製装置100の動作を説明する。以下の説明において、塗抹標本作製装置100の各部については、
図3、
図4を参照するものとする。以下では、二重染色の染色処理を行う例について説明する。
【0142】
上記の通り、
図3に示した塗抹標本作製装置100は、スライド供給部110に貯留された未使用のスライドガラス10に対して、印字部130による印字処理、塗抹部140による塗抹処理、染色部20による染色処理、を実施できる。また、塗抹標本作製装置100は、スライド設置部160に設置されたスライド収納容器190から、塗抹済みのスライドガラス10を取り出して、染色部20による染色処理を、実施できる。塗抹標本作製装置100は、これらの各処理を組み合わせることにより、塗抹染色モード、染色モード、塗抹モード、および印字モードの、4つの動作モードで動作できる。塗抹標本作製装置100は、塗抹染色モードまたは染色モードの2つの動作モードで動作可能であってもよい。
【0143】
塗抹染色モードは、スライド供給部110に貯留された未使用のスライドガラス10に対して、吸引部250で吸引された検体を使用して塗抹処理を施し、スライドガラス10に対して染色処理を施すための動作モードである。
【0144】
染色モードは、ユーザがスライド設置部160に設置した塗抹済みのスライドガラス10に対して染色処理を施し、スライドガラス10に対して塗抹処理及び印字処理を施さない動作モードである。
【0145】
印字モードは、スライド供給部110に貯留された未使用のスライドガラス10に対して、印字処理を施し、スライドガラス10に対して塗抹処理及び染色処理を施さない動作モードである。
【0146】
塗抹モードは、スライド供給部110に貯留された未使用のスライドガラス10に対して、吸引部250で吸引された検体を使用して塗抹処理を施し、スライドガラス10に対して染色処理を施さない動作モードである。
【0147】
〈メイン処理フロー〉
次に、
図15を参照して塗抹標本作製装置100のメイン処理フローを説明する。ユーザが塗抹標本作製装置100を起動すると、制御部50が
図15に示したメイン処理フローを実行する。
【0148】
ステップS101において、制御部50は、染色部20の染色槽21a~21eに染色液15を供給する染色液充填処理を行うように、流体回路部40を制御する。染色液充填処理により、染色槽21a~21dまたは染色槽21a~21eにそれぞれ染色液15が供給され、洗浄槽25aおよび25bにそれぞれ洗浄液16が供給される。
【0149】
染色液充填処理が完了すると、塗抹標本作製装置100は、ユーザのモード選択を受け付けるスタンバイ状態に移行する。すなわち、ステップS102において、制御部50は、
図16に示すモード選択画面330を表示部260に表示させる。モード選択画面330は、塗抹染色モードボタン331、染色モードボタン332、印字モードボタン333、塗抹モードボタン334の4つのモード選択ボタンを含む。モード選択画面330は、OKボタン335と、キャンセルボタン336とを含む。ユーザが操作部270によりいずれかのモード選択ボタンを入力してOKボタン335を入力することにより、モード選択が受け付けられる。キャンセルボタン336が入力されるとモード選択画面330の表示がキャンセルされ、メインメニュー画面300に遷移する。
【0150】
図15のステップS103において、制御部50は、上記したモード選択画面330におけるユーザのモード選択操作を受け付ける。
【0151】
ステップS104において、制御部50は、選択された動作モードが、どのモードであるかを判断する。制御部50は、塗抹染色モードが選択された場合には、ステップS105に処理を進め、塗抹染色モードの動作制御を開始する。制御部50は、染色モードが選択された場合には、ステップS106に処理を進め、染色モードの動作制御を開始する。制御部50は、塗抹モードが選択された場合には、ステップS107に処理を進め、塗抹モードの動作制御を開始する。制御部50は、印字モードが選択された場合には、ステップS108に処理を進め、印字モードの動作制御を開始する。
【0152】
実行したモードの動作が終了した後、シャットダウンボタン303が入力されると、制御部50は、ステップS109において、シャットダウン処理を行い、処理を終了する。
【0153】
〈染色液充填処理〉
図17を参照して、
図15のステップS101に示した染色液充填処理について説明する。
【0154】
ステップS111において、制御部50は、記憶部55に記憶された染色時間の設定値を取得する。染色時間の設定値は、
図10に示した染色条件編集画面310において、ユーザの操作に基づいて設定され、記憶部55に記憶されている。制御部50は、たとえば二重染色を行う場合、第2染色処理の染色時間である染色時間項目311d(「第2染色液希釈」)の設定値を取得する。
【0155】
ステップS112において、制御部50は、取得した第2染色液15bによる染色時間の設定値が、予め設定された閾値(
図11参照)以下か否かを判断する。
【0156】
すなわち、第2染色処理の染色時間の設定値が閾値以下の場合、制御部50は、ステップS113に進み、第2染色液15bによる染色を行う複数の染色槽21dおよび21eのうち、染色槽21dを、染色処理に使用する染色槽として決定する。制御部50は、染色槽21eを、染色処理に使用しない染色槽として決定する。第2染色処理の染色時間の設定値が閾値よりも大きい場合、制御部50は、ステップS113に進み、第2染色液15bによる染色を行う複数の染色槽21dおよび21eのうち、染色槽21dおよび21eの両方を、染色処理に使用する染色槽として決定する。この場合、染色処理に使用しない染色槽は設定されない。
【0157】
なお、単染色の場合は、
図12に示した第1閾値および第2閾値に基づいて、染色処理に使用する染色槽を、染色槽21cの1つ、染色槽21cおよび21dの2つ、染色槽21c~21eの3つ、のいずれかに決定される。
【0158】
ステップS115において、制御部50は、染色処理に使用する染色槽に、それぞれ所定量の染色液15が供給されるように流体回路部40を制御する。そして、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽には、染色液15を供給しないように流体回路部40を制御する。ステップS113を経由した場合、制御部50は、染色槽21a~21dに、それぞれ対応する染色液15が供給されるように流体回路部40を制御し、染色槽21eには染色液15が供給されないように流体回路部40を制御する。ステップS114を経由した場合、制御部50は、染色槽21a~21eに、それぞれ対応する染色液15が供給されるように流体回路部40を制御する。染色槽21dおよび21eには同じ第2染色液15bの希釈染色液が供給される。また、制御部50は、洗浄槽25aおよび25bに、それぞれ、対応する洗浄液16が供給されるように流体回路部40を制御する。
【0159】
これにより、染色液充填処理が完了し、塗抹標本作製装置100がスタンバイ状態に遷移する。制御部50は、
図15のステップS102に処理を進める。
【0160】
なお、スタンバイ状態では、染色条件編集画面310における染色時間の設定値は、染色条件編集画面310において任意のタイミングで変更可能である。制御部50は、染色時間の設定値が変更されると、染色液充填処理を実施し、染色処理に使用する染色槽を決定する。たとえば染色時間の設定値の変更前は、第2染色液15bによる染色時間の設定値が閾値以下であり、染色時間の設定値の変更後は、第2染色液15bによる染色時間の設定値が閾値よりも大きい場合、制御部50は、染色槽21eを染色処理に使用する染色槽に決定して、所定量の染色槽21eに第2染色液15bを供給するように流体回路部40を制御する。
【0161】
〈塗抹染色モード〉
図18を参照し、
図15のステップS105に示した塗抹染色モードを説明する。
【0162】
塗抹染色モードが開始すると、ユーザは、塗抹標本作製装置100の所定位置に設けられた図示しないスタートボタンを押下することで、塗抹染色モードにおける動作の開始指示を塗抹標本作製装置100に与えることができる。ユーザは、検体容器241を収容した検体ラック242を検体搬送部240に設置し、スタートボタンを押下して塗抹染色モードの開始を指示する。制御部50は、塗抹染色モードの開始指示を受け付け、塗抹染色モードの動作を開始する。なお、動作開始指示の受け付けは、塗抹染色モード以外の、染色モード、印字モードおよび塗抹モードの各動作モードでも同様である。
【0163】
ステップS131において、制御部50は、ユーザが検体搬送部240に設置した検体容器241から検体を吸引するように、検体搬送部240および吸引部250を制御する。
【0164】
制御部50は、検体搬送部240上の検体ラック242に保持された1つの検体容器241が取り込み位置に位置付けられるように、検体搬送部240を制御する。制御部50は、取り込み位置に搬送された検体容器241中の検体を吸引するように、吸引部250を制御する。吸引部250により吸引された検体が、塗抹部140へ送られる。
【0165】
ステップS131と並行して、制御部50は、ステップS132~S135の処理を実行する。ステップS132において、制御部50は、未使用のスライドガラス10をスライド供給部110から第1スライド搬送部210上に送り出すように、スライド供給部110を制御する。そして、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、付着物除去部120まで移動するよう制御する。
【0166】
ステップS133において、制御部50は、付着物除去部120を動作させ、スライドガラス10の表面の付着物を除去させる。ステップS134において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、印字部130まで移動するよう制御する。ステップS135において、制御部50は、スライドガラス10の印字領域12に、検体情報を印字する印字処理を実行するよう印字部130を制御する。
【0167】
次に、ステップS136において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、塗抹部140まで移動するよう制御する。ステップS137において、制御部50は、スライドガラス10の塗抹領域11に、検体を塗抹する塗抹処理を実行するよう塗抹部140を制御する。
【0168】
次に、ステップS138において、制御部50は、印字および塗抹済みのスライドガラス10を、塗抹部140から第1乾燥部150まで搬送するよう搬出機構220を制御する。ステップS139において、制御部50は、スライドガラス10の塗抹領域11に対して送風し、検体を乾燥させる処理を実行するよう第1乾燥部150を制御する。
【0169】
次に、ステップS140において、制御部50は、印字処理、塗抹処理および乾燥処理が行われたスライドガラス10を、染色部20まで搬送させる制御を行う。具体的には、制御部50は、乾燥処理後のスライドガラス10を、第1乾燥部150から第2スライド搬送部230に受け渡すように、搬出機構220を制御する。制御部50は、取出位置410へスライドガラス10を搬送するよう第2スライド搬送部230を制御する。取出位置410にスライドガラス10が到達すると、制御部50は、取出位置410のスライドガラス10を把持して第2スライド搬送部230から取り出して、染色部20へ移送するように、移送部30の第1移送部30aを制御する。これにより、スライドガラス10が染色部20まで移送される。
【0170】
ステップS141において、制御部50は、染色部20による染色処理を実施するように、移送部30および流体回路部40を制御する。染色処理動作の詳細は、後述する。
【0171】
ステップS142において、制御部50は、染色処理後のスライドガラス10を染色部20から第2乾燥部170へ移送するように、移送部30の第2移送部30bを制御する。ステップS143において、制御部50は、スライドガラス10に対して送風し、スライドガラス10を乾燥させる処理を実行するよう第2乾燥部170を制御する。
【0172】
ステップS144において、制御部50は、乾燥済みのスライドガラス10を第2乾燥部170からスライド収納部180へ移送するように、第2移送部30bおよびスライド収納部180を制御する。制御部50は、スライド収納部180を制御して、設置位置411にスライド収納容器190を移動させる。制御部50は、第2乾燥部170からスライドガラス10を取り出して、設置位置411のスライド収納容器190内に設置するように第2移送部30bを制御する。
【0173】
以上により、未使用のスライドガラス10に対して、印字処理、塗抹処理、染色処理が順次施され、作製された塗抹標本(処理済みのスライドガラス10)がスライド収納部180に設置されたスライド収納容器190に収納される。
【0174】
制御部50は、検体搬送部240が順次検体ラック242を搬送し、吸引部250が検体ラック242から検体容器241を順次取り出し、検体容器241から検体を吸引するように検体搬送部240および吸引部250を制御する。また、制御部50は、順次吸引された検体を用いて未使用のスライドガラス10に対する印字処理、塗抹処理、染色処理が順次実行されるように、上記の塗抹染色モードの処理を繰り返す。このため、染色部20における染色処理は、塗抹標本作製装置100の動作サイクルに応じた所定時間間隔で、移送部30により移送される各スライドガラス10に対して1枚ずつ順番に実施される。
【0175】
〈染色処理〉
次に、
図19を参照し、
図18のステップS141における染色処理の詳細を説明する。染色時間の設定値については、
図10を参照する。
【0176】
図19のステップS151において、制御部50は、染色槽21aによる染色処理を実行させる制御を行う。制御部50は、保持したスライドガラス10を、染色槽21aの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第1移送部30aを制御する。染色槽21aには、染色液15としてメタノールが貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された染色時間(染色時間項目311aの設定値)の間、スライドガラス10が染色槽21aの染色液15に漬けられるように、移送部30を制御する。
【0177】
ステップS152において、制御部50は、染色槽21bによる染色処理を実行させる制御を行う。制御部50は、染色時間が経過したスライドガラス10を、染色槽21a内から取り出すように第1移送部30aを制御する。制御部50は、保持したスライドガラス10を、染色槽21bの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第1移送部30aを制御する。染色槽21bには、染色液15として第1染色液15aの原液が貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された染色時間(染色時間項目311bの設定値)の間、スライドガラス10が染色槽21bの染色液15に漬けられるように、移送部30を制御する。
【0178】
ステップS153において、制御部50は、染色槽21cによる染色処理を実行させる制御を行う。制御部50は、染色時間が経過したスライドガラス10を、染色槽21b内から取り出すように第1移送部30aを制御する。制御部50は、保持したスライドガラス10を、染色槽21cの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第1移送部30aを制御する。染色槽21cには、染色液15として第1染色液15aの希釈染色液が貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された染色時間(染色時間項目311cの設定値)の間、スライドガラス10が染色槽21cの染色液15に漬けられるように、移送部30を制御する。
【0179】
ステップS154において、制御部50は、洗浄槽25aによる洗浄処理を実行させる制御を行う。制御部50は、染色時間が経過したスライドガラス10を、染色槽21c内から取り出すように第1移送部30aを制御する。制御部50は、保持したスライドガラス10を、洗浄槽25aの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第1移送部30aを制御する。洗浄槽25aには、洗浄液16として緩衝液が貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された洗浄時間の間、スライドガラス10が洗浄槽25aの洗浄液16に漬けられるように、移送部30を制御する。制御部50は、洗浄時間の経過後、洗浄液16を洗浄槽25aから廃液チャンバ45へ排出するように、流体回路部40を制御する。
【0180】
ステップS155において、制御部50は、第2染色液15bにより染色処理を行う複数の染色槽21dおよび21eのうち、染色処理に使用する染色槽を取得する。染色処理に使用する染色槽が染色槽21dのみである場合(すなわち、染色槽21eが染色処理に使用しない染色槽である場合)、制御部50は、ステップS156に処理を進め、染色槽21dによる染色処理を実行させる。染色処理に使用する染色槽が染色槽21dおよび21eの両方である場合、制御部50は、ステップS157に処理を進め、染色槽21dおよび21eの両方でそれぞれ染色処理を実行させる。
【0181】
ステップS156の場合、制御部50は、染色槽21dによる染色処理を実行させる制御を行う。制御部50は、洗浄時間が経過したスライドガラス10を、洗浄槽25a内から取り出すように第2移送部30bを制御する。制御部50は、保持したスライドガラス10を、染色処理に使用する染色槽21dの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第2移送部30bを制御する。染色槽21dには、第2染色液15bの希釈染色液が貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された染色時間(染色時間項目311dの設定値)の間、スライドガラス10が染色槽21dの染色液15に漬けられるように、移送部30を制御する。
【0182】
ステップS157の場合、制御部50は、染色槽21dおよび21eの両方で染色処理をそれぞれ実行させる制御を行う。洗浄槽25a内から取り出された1枚のスライドガラス10は、染色槽21dおよび21eのいずれかに移送されて染色処理に供される。染色槽21dの全ての挿入領域23にスライドガラス10が設置されると、制御部50は、染色槽21eの挿入領域23にスライドガラス10を設置させる。第2染色液15bによる染色処理は、異なるスライドガラス10に対して、染色槽21dおよび21eの各々において並行して実行される。
【0183】
ステップS158において、制御部50は、洗浄槽25bによる洗浄処理を実行させる制御を行う。制御部50は、染色時間が経過したスライドガラス10を、染色槽21dまたは21e内から取り出すように第2移送部30bを制御する。制御部50は、保持したスライドガラス10を、洗浄槽25bの挿入領域23内に移送するよう、移送部30の第2移送部30bを制御する。洗浄槽25bには、洗浄液16として純水が貯留されている。制御部50は、記憶部55に記憶された洗浄時間の間、スライドガラス10が洗浄槽25bの洗浄液16に漬けられるように、移送部30を制御する。制御部50は、洗浄時間の経過後、洗浄槽25bからスライドガラス10を取り出すように第2移送部30bを制御する。制御部50は、洗浄液16を洗浄槽25bから廃液チャンバ45へ排出するように、流体回路部40を制御する。以上で、スライドガラス10に対する染色処理が終了する。
【0184】
単染色の場合には、ステップS155の処理がステップS153の前に実施され、染色処理に使用する染色槽が、染色槽21cの1つ、染色槽21cおよび21dの2つ、染色槽21c~21eの3つ、のいずれであるかに応じて、処理が3分岐する。洗浄槽25aは使用されないのでステップS154はスキップされる。
【0185】
〈染色槽内のスライドガラスの設置位置の決定処理〉
図20~
図22を参照して、染色槽21内のスライドガラス10の設置位置の決定処理を説明する。特に、ステップS156において、染色槽21dによる染色処理が実行される場合と、ステップS157において、染色槽21dおよび21eの両方で染色処理をそれぞれ実行させる場合とについて具体的に説明する。
【0186】
図20のステップS171において、制御部50は、染色処理に使用すると決定された染色槽21によるスライドガラス10の保持可能枚数Nmを取得する。
図5に示した例では、染色槽21dおよび21eは、いずれも、10枚のスライドガラス10を設置可能なように10箇所の挿入領域23を有する。
【0187】
そのため、ステップS156において、染色槽21dが染色処理に使用する染色槽であり、染色槽21eが染色処理に使用しない染色槽である場合、制御部50は、保持可能枚数Nmを10とする(Nm=10)。また、ステップS157において、染色槽21dおよび21eの両方が染色処理に使用する染色槽である場合、制御部50は、保持可能枚数Nmを20とする(Nm=20)。
【0188】
次に、
図21および
図22に示すように、制御部50は、今回移送される1枚のスライドガラス10の設置位置を決定する。ここで、便宜的に、染色槽21d内の各挿入領域23を、Y1方向側からY2方向へ向けて順番に設置番号1~10とする。染色槽21e内の各挿入領域23を、Y1方向側からY2方向へ向けて順番に設置番号11~20とする。
【0189】
制御部50は、設置番号が小さい順から、順番にスライドガラス10を設置するように、移送部30を制御する。すなわち、制御部50は、染色処理が行われる1枚目のスライドガラス10に対して、ステップS172で設置番号N=1を設定する。つまり、制御部50は、1枚目のスライドガラス10の設置位置として、染色槽21d内の設置番号1番の挿入領域23を割り当てる。
【0190】
この結果、
図19のステップS156またはS157において、1枚目のスライドガラス10を設置番号1番の挿入領域23に移送される。制御部50は、ステップS173において、1枚のスライドガラス10の移送が完了したか否かを判断する。制御部50は、スライドガラス10の移送が完了するまでステップS173を繰り返す。スライドガラス10の移送が完了すると、制御部50は、ステップS174において、今回の設置番号NがN=Nmであるか否かを判断する。N=Nmでない場合、制御部50は、ステップS175において、設置番号Nをインクリメントする。つまり、制御部50は、次に移送されるスライドガラス10の設置番号NをN+1に設定する。
【0191】
制御部50は、1枚のスライドガラス10が染色槽21dまたは染色槽21eのいずれかに設置される度に、ステップS173~S175の処理を繰り返す。ステップS173~S175の処理が繰り返されて今回の設置番号Nが保持可能枚数Nmに一致すると、制御部50は、ステップS174において、今回の設置番号NがN=Nmであると判断して、処理をステップS172に戻す。これにより、制御部50は、次に移送されるスライドガラス10の設置番号NをN=1に設定する。
【0192】
以上の処理の結果、染色槽21内でのスライドガラス10の設置位置が決定される。
【0193】
図21は、ステップS156の場合のスライドガラス10の設置例を示し、
図22は、ステップS157の場合のスライドガラス10の設置例を示す。
【0194】
〈染色槽21dによる染色処理〉
図21に示すように、染色槽21dが染色処理に使用する染色槽であり、染色槽21eが染色処理に使用しない染色槽であるステップS156の場合、Nm=10であり、染色槽21eが染色処理に使用されないとともに染色槽21eに染色液15が供給されない。染色液15が供給されている挿入領域23に、ハッチングを付して図示している。染色液15が供給されていない挿入領域23は、ハッチングなしで示している。
【0195】
図21では、スライドガラス10の移送時間間隔Aに対して、染色時間Cが8A<C<9Aの範囲に設定された例を示している。ステップS156の場合、N=1から順番にスライドガラス10が設置され、タイミングt11において、8枚目のスライドガラス10が設置番号N=8の挿入領域23に設置される。9枚目が設置されるタイミングt12までに、1枚目のスライドガラス10の染色時間Cが経過するため、設置番号N=1のスライドガラス10が取り出されて、ステップS158以降の処理に供される。そして、タイミングt12において、9枚目のスライドガラス10が設置番号N=9の挿入領域23に設置される。タイミングt13において、10枚目のスライドガラス10が設置番号N=10の挿入領域23に設置される。このとき、今回の設置番号N=Nmとなる。そのため、制御部50は、次の11枚目のスライドガラス10の設置位置を、設置番号N=1とする。タイミングt14において、11枚目のスライドガラス10が設置番号N=1の挿入領域23に設置される。このようにして、ステップS156の場合に移送時間間隔Aで移送される各スライドガラス10が、染色槽21dおよび21eのうち、染色槽21dのみで処理される。
【0196】
〈染色槽21dおよび21eによる染色処理〉
図22に示すように、染色槽21dおよび21eの両方が染色処理に使用する染色槽であるステップS157の場合、Nm=20であり、染色槽21dおよび21eの両方に染色液15が供給される。
【0197】
図22では、スライドガラス10の移送時間間隔Aに対して、染色時間Cが14A<C<15Aの範囲に設定された例を示している。ステップS157の場合、N=1から順番にスライドガラス10が設置され、タイミングt21において、10枚目のスライドガラス10が、染色槽21dの設置番号N=10の挿入領域23に設置される。そして、タイミングt22において、11枚目が染色槽21eの設置番号N=11の挿入領域23に設置される。
【0198】
15枚目が設置されるタイミングt23までに、1枚目のスライドガラス10の染色時間Cが経過するため、設置番号N=1のスライドガラス10が取り出され、ステップS158以降の処理に供される。そして、タイミングt23において、15枚目のスライドガラス10が染色槽21eの設置番号N=15の挿入領域23に設置される。
【0199】
タイミングt24において、20枚目のスライドガラス10が染色槽21eの設置番号N=20の挿入領域23に設置される。このとき、今回の設置番号N=Nmとなる。そのため、制御部50は、次の21枚目のスライドガラス10の設置位置を、設置番号N=1とする。図示を省略するが、21枚目のスライドガラス10が染色槽21dの設置番号N=1の挿入領域23に設置される。このようにして、ステップS157の場合に移送時間間隔Aで移送される各スライドガラス10が、染色槽21dおよび21eの両方でそれぞれ並行して処理される。
【0200】
単染色の場合は、染色処理に使用する染色槽が、染色槽21cの1つ、染色槽21cおよび21dの2つ、染色槽21c~21eの3つ、のそれぞれの場合に応じて、保持可能枚数Nmが設定される。設置番号N=1は、染色槽21cの最初の挿入領域23に設定される。設置位置の決定処理におけるその他の処理は二重染色の場合と同様となる。
【0201】
〈染色モード〉
図23を参照し、
図15のステップS106に示した染色モードを説明する。
【0202】
染色モードでは、ユーザは、塗抹済みのスライドガラス10を収納したスライド収納容器190をスライド設置部160に設置して、染色モードの動作開始の指示を入力する。染色モードが開始すると、制御部50は、ステップS181において、第1移送部30aがスライド設置部160のスライド収納容器190から搬送対象のスライドガラス10を1枚ずつ取り出して染色部20へ移送するように、第1移送部30aを制御する。
【0203】
次に、制御部50は、染色部20において、第1移送部30aによって移送されたスライドガラス10に対して染色処理を施すように、第1移送部30aおよび流体回路部40を制御する。制御部50は、所定の移送時間間隔Aで染色部20にスライドガラス10が順次移送されるように、移送部30を制御する。染色処理の内容は、
図19と同様であるので説明を省略する。
【0204】
染色処理が終了すると、ステップS183において、制御部50は、染色処理後のスライドガラス10を、1枚ずつ、染色部20の洗浄槽25bから第2乾燥部170へ移送するように、第2移送部30bを制御する。ステップS184において、制御部50は、第2乾燥部170に設置されたスライドガラス10に送風するように第2乾燥部170を制御し、スライドガラス10を乾燥させる。第2乾燥部170による乾燥が完了すると、ステップS185において、制御部50は、乾燥されたスライドガラス10をスライド収納部180へ移送するように、第2移送部30bおよびスライド収納部180を制御する。ステップS182~ステップS185は、上述したステップS141~ステップS144と同様である。
【0205】
〈塗抹モード〉
図24を参照し、
図15のステップS107に示した塗抹モードを説明する。
【0206】
図24に示すように、塗抹モードにおけるステップS191~S199は、
図18に示す塗抹染色モードにおけるステップS131~ステップS139と同様である。塗抹モードでは、ステップS200が塗抹染色モードとは異なる。
【0207】
塗抹モードでは、制御部50は、ステップS191において、検体搬送部240および吸引部250による検体の吸引動作を実施させる制御を行う。
【0208】
ステップS192において、制御部50は、未使用のスライドガラス10をスライド供給部110から第1スライド搬送部210上に送り出し、第1スライド搬送部210を付着物除去部120まで移動するよう制御する。
【0209】
ステップS193において、制御部50は、付着物除去部120によりスライドガラス10の表面の付着物を除去させる。ステップS194において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、印字部130まで移動させ、ステップS135において、印字部130による印字処理を実行させる。
【0210】
次に、ステップS196において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、塗抹部140まで移動させ、ステップS197において、塗抹部140による塗抹処理を実行させる。
【0211】
次に、ステップS198において、制御部50は、搬出機構220により、印字および塗抹済みのスライドガラス10を第1乾燥部150まで搬送させ、ステップS139において、第1乾燥部150により、スライドガラス10上の検体を乾燥させる処理を実行させる。
【0212】
ステップS200において、制御部50は、第1乾燥部150による乾燥処理後のスライドガラス10を、第1乾燥部150からスライド設置部160に設置されたスライド収納容器190内に移送させる制御を行う。まず、制御部50は、乾燥処理後のスライドガラス10を、第1乾燥部150から第2スライド搬送部230に受け渡すように、搬出機構220を制御する。制御部50は、取出位置410へ、X1方向にスライドガラス10を搬送するよう第2スライド搬送部230を制御する。取出位置410にスライドガラス10が到達すると、制御部50は、取出位置410のスライドガラス10を把持して第2スライド搬送部230から取り出して、スライド設置部160に設置されたスライド収納容器190内に移送するように、移送部30の第1移送部30aを制御する。これにより、スライドガラス10がスライド設置部160まで移送される。以上で、塗抹モードが終了する。
【0213】
これにより、染色処理が施されず、塗抹処理が施されたスライドガラス10を染色部20に搬送せずにスライド設置部160に搬送することができる。ユーザは塗抹済みのスライドガラス10を装置から速やかに取り出すことができる。
【0214】
〈印字モード〉
図25を参照し、
図15のステップS108に示した印字モードを説明する。
【0215】
図25に示すように、印字モードにおけるステップS211~S216は、
図18に示す塗抹染色モードにおけるステップS132~ステップS139と同様である。印字モードでは、ステップS217において、印字処理が行われたスライドガラス10が、染色部20へ移送されずにスライド設置部160へ移送される。
【0216】
印字モードが開始されると、ステップS211において、制御部50は、未使用のスライドガラス10をスライド供給部110から第1スライド搬送部210上に送り出し、第1スライド搬送部210を付着物除去部120まで移動するよう制御する。
【0217】
ステップS212において、制御部50は、付着物除去部120によりスライドガラス10の表面の付着物を除去させる。ステップS213において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、印字部130まで移動させ、ステップS214において、印字部130による印字処理を実行させる。
【0218】
次に、ステップS215において、制御部50は、スライドガラス10を保持する第1スライド搬送部210を、塗抹部140まで移動させる。印字モードでは、塗抹部140における塗抹処理、および、第1乾燥部150における検体の乾燥処理が行われることなく、スライドガラス10が塗抹部140および第1乾燥部150を通過するだけである。すなわち、ステップS216において、制御部50は、搬出機構220により、印字済みのスライドガラス10を第1乾燥部150まで搬送させる。
【0219】
ステップS217において、制御部50は、スライドガラス10を第1乾燥部150から第2スライド搬送部230に受け渡すように、搬出機構220を制御する。制御部50は、取出位置410へスライドガラス10を搬送するよう第2スライド搬送部230を制御する。取出位置410にスライドガラス10が到達すると、制御部50は、取出位置410のスライドガラス10を把持して第2スライド搬送部230から取り出して、スライド設置部160に設置されたスライド収納容器190内に移送するように、移送部30の第1移送部30aを制御する。これにより、スライドガラス10がスライド設置部160まで移送される。以上で、印字モードが終了する。
【0220】
これにより、染色処理および塗抹処理が施されず、印字処理が施されたスライドガラス10を、染色部20に搬送せずにスライド設置部160に搬送することができる。ユーザは印字済みのスライドガラス10を装置から速やかに取り出すことができる。
【0221】
〈シャットダウン処理〉
次に、
図26を参照して、
図15のステップS109に示したシャットダウン処理における、洗浄動作の制御処理について説明する。
【0222】
ステップS221において、制御部50は、染色部20の全ての槽の液体を排出させるように、流体回路部40を制御する。制御部50は、染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bの各々と、廃液チャンバ45との間のバルブ43を開放させて、槽内の液体を廃液チャンバ45に排出させる。
【0223】
ステップS221において、制御部50は、染色処理に使用する染色槽を特定する。つまり、制御部50は、塗抹標本作製装置100が起動されてから、シャットダウン処理を実行するまでに、複数の染色槽21a~21eのうちで、染色処理に使用された染色槽と、染色処理に使用されなかった染色槽とを特定する。
図17のステップS112において、染色時間が閾値以下である場合(
図11参照)、染色槽21eが、染色処理に使用されなかった染色槽となる。
【0224】
ステップS222において、制御部50は、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用する染色槽に対して、槽洗浄用の洗浄液18を供給するように、流体回路部40を制御する。一方、制御部50は、複数の染色槽21のうち、染色処理に使用しない染色槽に対する洗浄液量V4を、染色処理に使用する染色槽に対する洗浄液量V3よりも少なくするように、流体回路部40を制御する。本実施形態では、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対する洗浄液量V4を0にする。つまり、制御部50は、染色処理に使用しない染色槽に対しては洗浄液18を供給しない。
【0225】
その後、ステップS223において、制御部50は、供給した洗浄液18を、染色部20の各槽から排出させるように、流体回路部40を制御する。制御部50は、染色槽21a~21e、洗浄槽25aおよび25bの各々と、廃液チャンバ45との間のバルブ43を開放させて、槽内の洗浄液18を廃液チャンバ45に排出させる。以上で、シャットダウン処理における洗浄動作の制御処理が終了する。
【0226】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0227】
10:スライドガラス、15:染色液、15a:第1染色液、15b:第2染色液、18:洗浄液、20:染色部、21、21a、21b、21c、21d、21e:染色槽、30:移送部、40:流体回路部、50:制御部、100:塗抹標本作製装置、260:表示部、270:操作部、A:移送時間間隔、B、Nm:保持可能枚数、C:染色時間、Nm:保持可能枚数、V1、V2:染色液量、V3、V4:洗浄液量