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  • 特許-空間線量率分布の計算方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】空間線量率分布の計算方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20230502BHJP
   G21F 1/04 20060101ALI20230502BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G01T1/16 A
G21F1/04
G21F1/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019137929
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021021619
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小迫 和明
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189516(JP,A)
【文献】特開2004-361240(JP,A)
【文献】特開2003-287589(JP,A)
【文献】特開2018-141669(JP,A)
【文献】特開2017-101962(JP,A)
【文献】特開2014-238358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0009711(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
G21F 1/00-7/06
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線遮蔽体を有する施設の空間線量率分布を計算する空間線量率分布の計算方法において、
前記施設のモデルを作成する工程と、
前記放射線遮蔽体に含まれる放射性核種を生成する親元素の含有量を前記放射線遮蔽体の総質量に対して0.01~1.0質量%に設定し、前記放射性核種から生成する放射線の挙動をモンテカルロ法により直接シミュレーションする工程と、
を有する、空間線量率分布の計算方法。
【請求項2】
前記親元素がコバルト、セシウム及びユーロピウムから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の空間線量率分布の計算方法。
【請求項3】
前記放射線遮蔽体がコンクリート及び鋼材から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の空間線量率分布の計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間線量率分布の計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種は、その核種に固有の半減期で崩壊し、より安定した状態の核種に壊変する。この崩壊時に、ガンマ線、X線、β線、中性子等の放射線が放出される。崩壊により放出された放射線は、原子炉や放射線使用施設等(以下、「放射線施設」ともいう。)での残留放射能による人体への被曝原因となる。この被曝は、放射線施設のメンテナンス作業や廃止措置における作業者の放射線安全防護上重要な問題である。
【0003】
放射線施設は、放射線の漏洩を防護するための放射線遮蔽体を有し、放射線遮蔽体で囲まれた内部空間を有する。放射線施設における空間線量率分布は、中性子輸送計算、放射化計算、及び崩壊ガンマ線輸送計算の3段階により計算される(従来法、図5参照)。従来法では、3段階で計算するため、空間線量率分布の計算に非常に時間と手間がかかる。
【0004】
こうした問題に対し、中性子輸送計算及び崩壊ガンマ線輸送計算を1回の計算により行う直接法が提案されている(例えば、非特許文献1~2参照)。直接法によれば、空間線量率分布の計算の効率化が図られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Davide Valenza et al., " Proposal of shutdown dose estimation method by MonteCarlo code", Fusion Engineering and Design 55 (2001) 411-418
【文献】Satoshi Sato et al., " Evaluation of Shutdown Gamma-ray Dose Rates around the Duct Penetration by Three-Dimensional Monte Carlo Decay Gamma-ray Transport Calculation with Variance Reduction Method", Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 39, No. 11, p. 1237-1246 (November 2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
廃止措置における空間線量率分布の計算で重要な放射性核種の元になる元素(親元素)は、コバルトやユーロピウム等である。この親元素は、コンクリート等の放射線遮蔽体に不純物として含まれる。
しかしながら、直接法においては、放射線遮蔽体に含まれる親元素量が不純物であるため、成分分析値や標準値を見ても極めて微量であり、親元素が核反応を起こして放射性核種を生成する割合は、シミュレーション上は極めて少ない。このため、現状の直接法では、被曝線量の主因となる微量な親元素の影響を適切に評価できない。
【0007】
そこで、本発明は、放射線施設の空間線量率分布を適切に評価できる空間線量率分布の計算方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]放射線遮蔽体を有する施設の空間線量率分布を計算する空間線量率分布の計算方法において、前記施設のモデルを作成する工程と、前記放射線遮蔽体に含まれる放射性核種を生成する親元素の含有量を前記放射線遮蔽体の総質量に対して0.01~1.0質量%に設定し、前記放射性核種から生成する放射線の挙動をモンテカルロ法により直接シミュレーションする工程と、を有する、空間線量率分布の計算方法。
[2]前記親元素がコバルト、セシウム及びユーロピウムから選ばれる1種以上である、[1]に記載の空間線量率分布の計算方法。
[3]前記放射線遮蔽体がコンクリート及び鋼材から選ばれる1種以上である、[1]又は[2]に記載の空間線量率分布の計算方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空間線量率分布の計算方法によれば、放射線施設の空間線量率分布を適切に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の空間線量率分布の計算方法の対象の放射線施設の一例である原子炉施設を示す模式図である。
図2】本発明の空間線量率分布の計算方法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の一実施形態に係る中性子スペクトルの一例を示すグラフである。
図4】最適化操作を行わなかった場合の中性子スペクトルの一例を示すグラフである。
図5】従来の空間線量率分布の計算方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の空間線量率分布の計算方法について説明する。本実施形態では、放射線遮蔽体を有する施設(放射線施設)として、原子炉施設における空間線量率分布の計算方法について説明する。
【0012】
図1に示す原子炉施設1は、基礎スラブ2の上に円筒状のペデスタル3が配設され、このペデスタル3に支持されて原子炉圧力容器4が設けられている。また、原子炉圧力容器4を囲むように放射線遮蔽体5、格納容器6等が配設されている。また、基礎スラブ2、ペデスタル3を含め、特に放射線遮蔽体5や格納容器6は、普通コンクリートや重晶石コンクリートを用いて構築されている。さらに、ステンレス鋼板等を備えて放射線の遮蔽能力を高めるようにしている。また、放射線遮蔽体5で囲まれた各室には、適宜、例えば、蒸気発生器や加圧器、制御機器、配管等の原子炉機器が設けられている。
【0013】
本実施形態では、原子炉圧力容器4の領域を炉心構造領域Aとし、この炉心構造領域Aの周り、すなわち、炉心構造領域Aを除いた原子炉建屋(原子炉施設1)の内部領域で原子炉機器や放射線遮蔽体5等が存在する領域を遮蔽体領域Bとしている。
本実施形態において、「放射線遮蔽体を有する施設」とは、遮蔽体領域Bのことを指す。
【0014】
放射線遮蔽体5としては、例えば、コンクリート及び鋼材から選ばれる1種以上が挙げられる。コンクリートとしては、普通コンクリート(一般構造用コンクリート)、重晶石コンクリート(重量コンクリート)等が挙げられる。鋼材としては、ステンレス鋼板、炭素鋼等が挙げられる。
【0015】
原子炉の炉心の状態は、核分裂性燃料の燃焼度、制御棒位置とそれらの配置により決まる。燃料棒は、新品への交換や配置の入れ替え等が行なわれ、かつ、燃焼度は原子炉の運転時間とともに増加するため、同一の状態で維持されることはない。
【0016】
本実施形態の空間線量率分布の計算方法は、原子炉施設1のモデルを作成する工程(モデル作成工程)と、放射線遮蔽体5に含まれる親元素の含有量を放射線遮蔽体5の総質量に対して0.01~1.0質量%に設定し、放射性核種から生成する放射線の挙動をモンテカルロ法により直接シミュレーションする工程(シミュレーション工程)と、を有する。
本実施形態の空間線量率分布の計算方法について、図2を用いて説明する。本実施形態の空間線量率分布の計算方法では、原子炉体系のモデルを作成し(モデル作成工程)、次いで、中性子及び崩壊ガンマ線の輸送計算をする(シミュレーション工程)。本実施形態のモデル作成工程では、原子炉施設1の運転履歴と、原子炉施設1の幾何形状データ、及び燃焼集合体と制御棒の配置履歴、燃料の燃焼度履歴と、物質組成(燃料組成分布も含む)のデータを予め取得する。このとき、原子炉施設1の炉心(原子炉圧力容器4)からの漏洩中性子が大きく変化する炉心構造を反映するように原子炉体系のモデル化を行う。
【0017】
次に、それらの炉心構造が放射線遮蔽体5で生じる放射能へ与える影響をモンテカルロ法によりシミュレーションする。
このとき、放射線遮蔽体5に含まれる放射性核種(娘核種)を生成する元素(親元素)の含有量を放射線遮蔽体5の総質量に対して0.01~1.0質量%に設定する(最適化操作)。
一般に、放射線遮蔽体5に含まれる親元素は、放射線遮蔽体5の総質量に対して、0.00001~0.001質量%(1×10-5~1×10-3質量%)と微量である。このため、親元素が核反応を起こす割合は、シミュレーション上は極めて少なく、遮蔽体領域Bに対する放射性核種の影響を適切に評価できない。例えば、親元素の含有量が1×10-5質量%とすると、モンテカルロ計算で扱える線源中性子数は10億個程度であるため、全ての線源中性子が親元素と核反応を起こして娘核種を生成したとしても、生成する崩壊ガンマ線の数は100個程度となる。実際には、放射線遮蔽体5に到達する中性子数は線源中性子数よりかなり少なく、親元素と核反応を起こす割合も小さい。加えて、親元素から核反応で娘核種が生成する割合も100%より小さいので、生成する崩壊ガンマ線の数は100個よりもかなり少ないものとなる。
そこで、親元素の含有量を放射線遮蔽体5の総質量に対して0.01~1.0質量%に設定することで、放射線と親元素とが核反応を起こす確率が上がり、生成する崩壊ガンマ線を増やすことができる。このため、遮蔽体領域Bに対する放射性核種の影響を適切に評価しやすくなる。
【0018】
最適化操作において、設定する親元素の含有量は、放射線遮蔽体5の総質量に対して0.01~1.0質量%であり、0.02~0.5質量%が好ましく、0.05~0.3質量%がより好ましい。設定する親元素の含有量が上記下限値以上であると、遮蔽体領域Bに対する放射性核種の影響を適切に評価しやすくなる。設定する親元素の含有量が上記上限値以下であると、遮蔽体領域Bを透過する中性子やガンマ線のエネルギースペクトルが過大に変化することを抑制できる。
【0019】
親元素としては、例えば、コバルト、セシウム、ユーロピウム、バリウム、ニッケル、マンガン等が挙げられる。含有量を設定する親元素としては、放射線遮蔽体5に主として含まれ、遮蔽体領域Bに対する親元素の影響を適切に評価しやすい観点から、コバルト、セシウム及びユーロピウムから選ばれる1種以上が好ましい。
【0020】
次に、最適化操作で含有量を調整した親元素から生成する放射性核種の崩壊ガンマ線の挙動をモンテカルロ法により直接シミュレーションする。ここで、モンテカルロ法では、モデル作成工程で取得したデータを用い、中性子スペクトル及び崩壊ガンマ線スペクトルを求める。
【0021】
次に、最適化操作で調整した親元素の含有量に基づいて、モンテカルロ法により直接シュミレーションした計算結果から、運転履歴と任意の冷却時間のデータを用いて崩壊ガンマ線による空間線量率分布を評価する。
【0022】
このようにして、本実施形態の空間線量率分布の計算方法では、放射線遮蔽体5に極めて微量に含まれる親元素の含有量を調整することにより、効率的に正確な空間線量率分布を求めることが可能になる。
【0023】
また、放射線施設の解体においては、例えば、原子力発電所の原子炉施設の廃止措置を行う際に、本実施形態の空間線量率分布の計算方法を用いることで、原子炉施設の空間線量率分布を効率良く、かつ、正確に評価できる。このため、信頼性と安全性とを確保しながら解体作業を行うことが可能になる。
【0024】
また、遮蔽体領域Bの解体物を廃棄する際に、解体廃棄物の放射能レベルが正確に判別できるため、放射能レベルに応じて適切に解体廃棄物を処分することが可能になる。すなわち、本来放射性廃棄物としての処分が不要な廃棄物を放射性廃棄物として処分するようなことを確実に防止することも可能になる。
【0025】
次に、本発明の空間線量率分布の計算方法を適用するにあたって、最適化操作を行う前後の中性子スペクトルの一例について説明する。
図3は、放射線遮蔽体として普通コンクリートを用い、このコンクリートにウラン235の核分裂中性子が5cmの厚さの水を透過して入射した際の中性子スペクトルである。
図3では、普通コンクリート中の主要な親元素であるコバルト、セシウム、ユーロピウムの含有量を変化させている。
図3の最適化前の中性子スペクトルは、コバルトの含有量が0.0質量%の中性子スペクトルである。
図3の最適化後1の中性子スペクトルは、コバルトの含有量を0.3質量%、セシウムの含有量を0.1質量%、ユーロピウムの含有量を0.05質量%に設定した場合の中性子スペクトルである。
図3の最適化後2の中性子スペクトルは、コバルトの含有量を0.5質量%、セシウムの含有量を0.2質量%、ユーロピウムの含有量を0.05質量%に設定した場合の中性子スペクトルである。
【0026】
図3に示すように、最適化前後で、0.01~1eVの熱中性子ピークに差異が見られる。図3に示す程度の差異であれば、中性子スペクトルの変化を抑制できており、遮蔽体領域Bに対する放射性核種の影響を適切に評価できているといえる。
なお、最適化前後の中性子スペクトルの差異は、親元素が存在している領域における1cm当たりの中性子束の数(図3のグラフの縦軸の物理量)の差異の最大値で評価する。図3における中性子束の数の差異の最大値は、40%である。中性子束の数の差異の最大値が40%以下であれば、中性子スペクトルの変化を抑制できていると判断する。中性子束の数の差異の最大値は、40%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0027】
一方、図4は、放射線遮蔽体として炭素鋼を用い、炭素鋼にウラン235の核分裂中性子が5cmの厚さの水を透過して入射した際の中性子スペクトルである。
図4では、セシウムの含有量を変化させている。
図4の最適化前の中性子スペクトルは、セシウムの含有量が0.0質量%の中性子スペクトルである。
図4の最適化後の中性子スペクトルは、セシウムの含有量を2.0質量%に設定した場合の中性子スペクトルである。
【0028】
図4に示すように、最適化前後で、1~100eVでの中性子スペクトルに大きな差異が見られる。図4における中性子束の数の差異の最大値は、93%である。このため、本来の核反応とは、部分的に大きく異なる核反応をシミュレートしており、遮蔽体領域Bに対する放射性核種の影響を適切に評価できない。
【0029】
このように、放射線の中でも特に中性子のエネルギースペクトルに過度の影響を与えない範囲で親元素量を設定する必要がある。
親元素量を最適化して得られたシミュレーション結果は、親元素の割合を増加した分だけ過大な崩壊ガンマ線が生成する。親元素の増加分は、放射線遮蔽体の主要元素で調整するため、崩壊ガンマ線に与える影響は無視できる。親元素の増加による崩壊ガンマ線の増加は比例するため、親元素の増加割合で生成する崩壊ガンマ線の数を補正すればよい。
【0030】
以上、本発明に係る空間線量率分布の計算方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0031】
本実施形態では、放射線遮蔽体を有する施設として、原子炉施設の例を挙げたが、本発明はこれに限定されず、放射線遮蔽体を有する施設は、例えば、加速器施設や、放射線使用施設であってもよい。
【0032】
本発明の空間線量率分布の計算方法によれば、従来よりも短時間で効率よく精度の高い空間線量率分布の結果を得ることができる。これは、3段階の計算が1段階になること、最適化した親元素量とすることで微量な放射性核種による崩壊ガンマ線を効率よく得られることによるものと考えられる。
加えて、従来法では、崩壊ガンマ線の発生位置をある領域内で一様な分布として空間線量率分布を計算していたが、本発明の空間線量率分布の計算方法によれば、実際に親元素が存在している位置で崩壊ガンマ線を発生させられるので、位置精度を高められる。
【符号の説明】
【0033】
1 原子炉施設
2 基礎スラブ
3 ペデスタル
4 原子炉圧力容器
5 放射線遮蔽体
6 格納容器
A 炉心構造領域
B 遮蔽体領域
図1
図2
図3
図4
図5