(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】燃料電池の製造方法および燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0286 20160101AFI20230502BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/0284 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230502BHJP
【FI】
H01M8/0286
H01M8/0202
H01M8/0273
H01M8/0284
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019150109
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松廣 泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研二
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188346(JP,A)
【文献】特開2016-201183(JP,A)
【文献】特開2019-109964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の製造方法であって、
(a)電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体上に補強用樹脂を塗布する工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記補強用樹脂を半硬化させる工程と、
(c)前記工程(b)の後、ガス拡散層と両面に熱可塑性樹脂を有する樹脂フレームとの間に隙間を設けて、前記ガス拡散層と前記樹脂フレームとを、半硬化した前記補強用樹脂の上に並べて配置するとともに、前記ガス拡散層及び前記樹脂フレーム上にセパレータを配置する工程と、
(d)前記工程(c)の後、前記セパレータと前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとを、前記熱可塑性樹脂により
圧力を加えて熱接着し
、前記圧力を加える前記熱接着により、前記隙間における前記補強用樹脂が盛り上がる工程と、
(e)前記工程(d)の後、前記工程(b)において半硬化した前記補強用樹脂を硬化させる工程と、を備える製造方法。
【請求項2】
燃料電池であって、
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の一方面に設けられた補強用樹脂と、
前記補強用樹脂の前記膜電極接合体と反対側の面に設けられたガス拡散層と、
前記補強用樹脂の前記膜電極接合体と反対側の面に、前記ガス拡散層との間に予め定められた隙間を有するように、前記ガス拡散層と並べて設けられた樹脂フレームと、を備え、
前記樹脂フレームの一部は、熱可塑性樹脂を介して前記補強用樹脂に接着されており、
前記隙間には、
圧縮応力が付与された状態で前記補強用樹脂が盛り上がるように入り込んでいる、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記補強用樹脂の内部は、完全に硬化しきらない半硬化状態であ
り、
前記半硬化状態は、前記膜電極接合体と前記ガス拡散層および前記樹脂フレームとを十分に接着している状態である、燃料電池。
【請求項4】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記補強用樹脂の表面は、前記補強用樹脂の内部よりも硬化している、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造方法および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の製造方法として、例えば、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1に記載された技術では、膜電極接合体の上に塗布した補強用樹脂を予め硬化させてから、ガス拡散層や樹脂フレームを配置し熱接着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補強用樹脂を通じて膜電極接合体に、異物や繊維が刺さってピンホールが生じた場合、クロスリークが発生するおそれがある。そのため、クロスリークの発生を抑制できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、燃料電池の製造方法が提供される。この製造方法は、(a)電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体上に補強用樹脂を塗布する工程と、(b)前記工程(a)の後、前記補強用樹脂を半硬化させる工程と、(c)前記工程(b)の後、ガス拡散層と両面に熱可塑性樹脂を有する樹脂フレームとの間に隙間を設けて、前記ガス拡散層と前記樹脂フレームとを、半硬化した前記補強用樹脂の上に並べて配置するとともに、前記ガス拡散層及び前記樹脂フレーム上にセパレータを配置する工程と、(d)前記工程(c)の後、前記セパレータと前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとを、前記熱可塑性樹脂により圧力を加えて熱接着し、前記圧力を加える前記熱接着により、前記隙間における前記補強用樹脂が盛り上がる工程と、(e)前記工程(d)の後、前記工程(b)において半硬化した前記補強用樹脂を硬化させる工程と、を備える。前記工程(c)において、前記隙間における前記補強用樹脂が盛り上がる。
【0006】
本発明の一形態によれば、燃料電池の製造方法が提供される。この燃料電池の製造方法は(a)電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体上に補強用樹脂を塗布する工程と、(b)前記工程(a)の後、前記補強用樹脂を半硬化させる工程と、(c)前記工程(b)の後、ガス拡散層と両面に熱可塑性樹脂を有する樹脂フレームとの間に隙間を設けて、前記ガス拡散層と前記樹脂フレームとを、半硬化した前記補強用樹脂の上に並べて配置するとともに、前記ガス拡散層及び前記樹脂フレーム上にセパレータを配置する工程と、(d)前記工程(c)の後、前記セパレータと前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとを前記熱可塑性樹脂により熱接着する工程と、(e)前記工程(d)の後、前記工程(b)において半硬化した前記補強用樹脂を硬化させる工程と、を備える。この形態の燃料電池の製造方法によれば、補強用樹脂を半硬化させた後にセパレータと膜電極接合体と樹脂フレームとを熱接着しているため、補強用樹脂に圧縮応力を付与できる。そのため、膜電極接合体にピンホールが生じた場合であっても、圧縮応力により補強用樹脂が穴を塞ぎ、クロスリークの発生を抑制できる。
【0007】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、この形態の製造方法で製造された燃料電池や、この燃料電池を含んで構成される燃料電池システム、この燃料電池を搭載する車両等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】燃料電池の製造方法の一例を表わす工程図である。
【
図4】第2実施形態における燃料電池の断面図である。
【
図5】第3実施形態における燃料電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態における製造方法で製造された燃料電池100の概略構造を示す断面図である。燃料電池100は、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子型の燃料電池である。燃料電池100は、膜電極接合体10と、補強用樹脂20と、一対のガス拡散層30と、セパレータ40と、樹脂フレーム50と、を備える。
【0010】
膜電極接合体10は、電解質膜11と、電解質膜11の両面にそれぞれ隣接して形成された電極触媒層であるカソード側触媒層12a及びアノード側触媒層12bと、を備える。電解質膜11は湿潤状態において良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜である。電解質膜11はフッ素系樹脂のイオン交換膜によって構成される。カソード側触媒層12a及びアノード側触媒層12bは水素と酸素の化学反応を促進する触媒と、触媒を担持したカーボン粒子とを備える。
【0011】
補強用樹脂20は、膜電極接合体10のカソード側触媒層12a側の面の端部全周に隣接して設けられている。補強用樹脂20は、例えば、ポリイソブチレンのような紫外線硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を用いることができる。補強用樹脂20の剛性は、膜電極接合体10の剛性よりも低い事が好ましい。
【0012】
ガス拡散層30は、膜電極接合体10の両面にそれぞれ隣接して設けられている。ガス拡散層30は、電極反応に用いられる反応ガスを電解質膜11の面方向に沿って拡散させる層であり、多孔質の拡散層用基材により構成されている。拡散層用基材としては、炭素繊維基材や黒鉛繊維基材、発砲金属など、導電性及びガス拡散性を有する多孔質の基材が用いられる。なお、補強用樹脂20は、膜電極接合体10のカソード側触媒層12aの側の面の端部に設けられているため、膜電極接合体10の中央部においては、ガス拡散層30は補強用樹脂20上ではなくカソード側触媒層12aの上に配置される。
【0013】
セパレータ40は、ガス拡散層30の膜電極接合体10側とは反対側の面に隣接して設けられている。セパレータ40は例えば、ステンレスやチタン、あるいはそれらの合金からなる金属板をプレス成型することによって形成されている。
【0014】
樹脂フレーム50は、膜電極接合体10のカソード側触媒層12aの周縁部に設けられている。樹脂フレーム50としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂からなる絶縁性のフィルム状の部材を用いることができる。樹脂フレーム50の両面には、熱可塑性樹脂51が塗布又は接合されている。熱可塑性樹脂51として、例えば、シランカップリング剤を配合されたポリプロピレンやポリエチレン、ポリオレフィンに官能基を導入した変性ポリオレフィンを用いることができる。なお、熱可塑性樹脂51としてはシランカップリング剤を用いていない物や、熱可塑熱硬化エポキシ樹脂等を用いることも可能である。
【0015】
樹脂フレーム50は、熱可塑性樹脂51を介して補強用樹脂20に接着されている。樹脂フレーム50は、反応ガスが燃料電池100外部へ漏れ出ることがないようにシール部材としての役割を果たす。本実施形態では、樹脂フレーム50は、ガス拡散層30と所定の隙間Gを空けて、補強用樹脂20上にガス拡散層30と並べて設置されている。隙間Gには補強用樹脂20が盛り上がるように入り込んでいる。
【0016】
図2は、本実施形態の燃料電池100の製造方法の一例を表わす工程図である。まず、ステップS200において、カソード側触媒層12aの電解質膜11側とは反対側の面の端部全周に補強用樹脂20を塗布する。
【0017】
次に、ステップS210において、補強用樹脂20を半硬化させる。本実施形態において、「半硬化」とは、完全に硬化しきらない状態を示し、後述するステップS230の処理において燃料電池を破損させない程度の圧縮応力が補強用樹脂20にかかるように紫外線の照射や加熱を行い硬化することである。
【0018】
続いて、ステップS220において、ガス拡散層30と樹脂フレーム50とセパレータ40の配置を行なう。ガス拡散層30は、ステップS210において半硬化させた補強用樹脂20上と膜電極接合体10のアノード側触媒層12b側の面とにそれぞれ隣接して配置される。樹脂フレーム50は、膜電極接合体10の周縁部において
図1における下側の熱可塑性樹脂51を介して補強用樹脂20上に配置される。本実施形態では、ガス拡散層30と樹脂フレーム50とは、半硬化させた補強用樹脂20の上に並べて配置され、ガス拡散層30と樹脂フレーム50との間には隙間Gが設けられる。セパレータ40は、ガス拡散層30及び樹脂フレーム50上に配置される。このとき、セパレータ40は、樹脂フレーム50上に
図1における上側の熱可塑性樹脂51を介して配置される。
【0019】
なお、補強用樹脂20は、膜電極接合体10のカソード側触媒層12aの側の面の端部に設けられているため、膜電極接合体10の中央部においては、ガス拡散層30は補強用樹脂20上ではなくカソード側触媒層12aの上に配置される。
【0020】
続いて、ステップS230において、膜電極接合体10とセパレータ40と樹脂フレーム50とを、熱可塑性樹脂51により熱接着する。より具体的には、膜電極接合体10を、補強用樹脂20を介して、
図1における下側の熱可塑性樹脂51で樹脂フレーム50に熱接着し、セパレータ40を、
図1における上側の熱可塑性樹脂51で樹脂フレーム50に熱接着する。熱接着は、例えば、加熱プレス装置を用いて圧力を加えて行う。ステップS230の処理により、隙間G内の補強用樹脂20が盛り上がる。最後に、ステップS240において、補強用樹脂20を硬化させる。例えば、ステップS210における半硬化時よりも長い時間外線の照射や加熱を行い、補強用樹脂20を硬化させる。
【0021】
図3は、クロスリーク量を比較したグラフである。
図3は、100kPaの空気圧において、隙間Gにおける補強用樹脂20を通じて膜電極接合体10にファイバを突き刺して形成された穴におけるクロスリーク量を示す。
図3に示す比較例は、補強用樹脂20を備えない燃料電池を用いた場合である。条件1は、ファイバを突き刺して抜いた場合である。条件2は、ファイバを突き刺したままの場合である。条件3は、ファイバを突き刺したままで、膜電極接合体10および補強用樹脂20に差圧耐久を負荷した場合である。本実施形態では、補強用樹脂20が半硬化によって、内部に圧縮する応力を持っているため、ファイバにより穴が生じても、穴を塞ぐ方向に変形する。そのため、
図3に示すように、本実施形態では、比較例に比べてクロスリーク量を抑制することができる。
【0022】
以上で説明した本実施形態の燃料電池100の製造方法によれば、補強用樹脂20を半硬化させた後にセパレータ40と膜電極接合体10とをそれぞれ樹脂フレーム50に熱接着することで、補強用樹脂20に圧縮応力を付与できる。そのため、膜電極接合体10にピンホールが生じた場合であっても、圧縮応力により補強用樹脂20が穴を塞ぎ、クロスリークの発生を抑制できる。また、本実施形態では、補強用樹脂20を完全には硬化させず、半硬化させた後にセパレータ40と膜電極接合体10とをそれぞれ樹脂フレーム50に熱接着することで補強用樹脂20に圧縮応力を付与するため、補強用樹脂20を完全に硬化させた後に熱接着において圧縮応力を付与することで硬化した補強用樹脂20が膜電極接合体10の一部を破損させることを抑制できる。
【0023】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態における燃料電池100Aの断面図である。第1実施形態では、ステップS240において補強用樹脂20の全体を硬化させている。これに対して、本実施形態では、補強用樹脂20は、
図4に示すように、表面21のみが硬化し、内部は半硬化している。このような構成であっても、膜電極接合体10にピンホールが生じた場合に、圧縮応力により補強用樹脂20が穴を塞ぎ、クロスリークの発生を抑制できる。
【0024】
C.第3実施形態:
図5は、第3実施形態における燃料電池100Bの断面図である。第1実施形態において、補強用樹脂20は、カソード側触媒層12aの電解質膜11とは反対側の面の端部全周に形成されている。これに対して、本実施形態では、膜電極接合体10の端部の一部において電解質膜11が露出しており、その露出した部分に補強用樹脂20が形成されている。このような構成であっても、膜電極接合体10にピンホールが生じた場合に、圧縮応力により補強用樹脂20が穴を塞ぎ、クロスリークの発生を抑制できる。なお、本明細書において、
図5に示すように、一部にカソード側触媒層12aまたはアノード側触媒層12bが設けられていない部分があるものも「膜電極接合体」に含まれる。
【0025】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述した課題を解決するために、あるいは上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
10…膜電極接合体、11…電解質膜、12a…カソード側触媒層、12b…アノード側触媒層、20…補強用樹脂、21…表面、30…ガス拡散層、40…セパレータ、50…樹脂フレーム、51…熱可塑性樹脂、100、100A、100B…燃料電池、G…隙間