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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】自動変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/16 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
F16H61/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019156147
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021032390
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】柿原 裕介
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-67209(JP,A)
【文献】特開2006-258125(JP,A)
【文献】特開平9-264417(JP,A)
【文献】特開平7-42820(JP,A)
【文献】特開平2-229954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、
前記手動変速モードが選択されているときに、運転者による変速操作を受け付ける変速操作手段と、
前記変速操作手段により受け付けられた変速操作に応じて前記自動変速機の変速比を変更する変速制御手段と、
車両の減速度を検出する減速度検出手段と、
前記車両が走行している走行路の路面勾配を取得する勾配取得手段と、
車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、前記車両の減速度、及び、前記路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可するエンジン回転数である減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する許可回転数設定手段と、を備え、
前記変速制御手段は、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、エンジン回転数が前記減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフトを実行することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、
前記手動変速モードが選択されているときに、運転者による変速操作を受け付ける変速操作手段と、
前記変速操作手段により受け付けられた変速操作に応じて前記自動変速機の変速比を変更する変速制御手段と、
車両の減速度を検出する減速度検出手段と、
車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、前記車両の減速度に基づいて、ダウンシフトを許可するエンジン回転数である減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する許可回転数設定手段と、
前記車両の運転状態に基づいて、減速状態から加速状態に遷移するか否かを判定する状態遷移判定手段と、を備え、
前記変速制御手段は、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、エンジン回転数が前記減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフトを実行するとともに、ダウンシフトを実行している途中で、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合には、実行中のダウンシフトを中止することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記状態遷移判定手段は、前記車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合、ブレーキの操作が解除された場合、及び/又は、アクセルが操作された場合に、減速状態から加速状態に遷移すると判定することを特徴とする請求項3に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項5】
前記自動変速機の油温を検出する油温検出手段と、
前記油温に応じて、ダウンシフトを中止可能な時間である中止可能時間を設定する中止可能時間設定手段と、をさらに備え、
前記変速制御手段は、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してからの時間が前記中止可能時間を超えていない場合には、実行中のダウンシフトを中止することを特徴とする請求項3又は4に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項6】
前記中止可能時間設定手段は、前記油温が高い程、前記中止可能時間が短いように設定することを特徴とする請求項5に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項7】
前記中止可能時間設定手段は、前記油温、及び、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せに応じて、前記中止可能時間を設定することを特徴とする請求項5又は6に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項8】
前記変速制御手段は、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してから前記中止可能時間が経過しており、かつ、エンジン回転数が所定回転数以上である場合には、エンジンの出力ダウン要求、及び/又は、前記自動変速機のアップシフトを行うことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項10】
スポーツ走行に適した変速制御を行うスポーツ走行モードの選択操作を受け付けるスポーツ走行モード受付手段をさらに備え、
前記変速制御手段は、前記スポーツ走行モードが選択されていないときには、前記車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項11】
車両を制動するブレーキの操作状態を検出するブレーキ操作検出手段をさらに備え、
前記変速制御手段は、前記ブレーキが操作されていないときには、前記車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関し、特に、自動変速モードと手動変速モードとを有する自動変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機では、予め設定された変速特性に従って変速比を自動的に切り換える自動変速モードの他に、運転者の手動操作に従って変速比を切り換える手動変速モードを備えたものが広く実用化されている。
【0003】
ところで、例えば、手動変速モードで走行しているときに、運転者が、ブレーキペダルを踏み込みつつ(すなわち減速しつつ)、シフトレバーやパドル等を操作してダウンシフトを実行しようとした際に、例えばエンジンの過回転(オーバーレブ)等を防止するため、高回転領域ではダウンシフトが許可されず、減速によりエンジン回転数がダウンシフト許可回転数以下に低下してから、すなわち遅れを持ってダウンシフトが開始されることがある。このような場合、運転者の意思との間にずれが生じ、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0004】
また、特に車両の減速度が大きい場合(急減速時)には、ダウンシフトが開始されてからダウンシフトが完了するまでの間(変速中)にも車速が大きく低下するため、ダウンシフト完了時にエンジン回転数が低下し過ぎてしまうという問題が生じ得る。すなわち、例えばサーキット等でのスポーツ走行時において、運転者が所望する高エンジン回転数を維持することができないという問題が生じ得る。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1には、エンジンの回転数を高回転領域に維持しつつ変速を行なう変速機の制御装置が開示されている。より具体的には、この変速機の制御装置では、車両の減速度合いが大きい場合には、変速時間中に低下するエンジン回転数を考慮して、ダウンシフト許可回転数を上昇させ、ダウンシフト許可を前出し(すなわちダウンシフトの実行を前出し)する。そのため、この変速機の制御装置によれば、エンジンの回転数を高回転領域に維持しつつ変速を行なうことができる(すなわち、ダウンシフト変速後にエンジン許容回転数から大きく低下することがなくなる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-258125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の変速機の制御装置によれば、ダウンシフト変速後にエンジン許容回転数から大きく低下することがなくなる。しかしながら、特許文献1に記載の変速機の制御装置では、例えば、路面勾配等の走行条件(状況)や、ダウンシフト中に再加速された場合などについては何ら考慮されていない。そのため、例えば、下り坂を走行しているときや、再加速時などには、エンジンが過回転(オーバーレブ)してしまうおそれがある。一方、これらのケースをすべて考慮してエンジンの過回転(オーバーレブ)を防止しようとすると、ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、より大きなマージン(安全率)を見積もる必要があり、ダウンシフト許可回転数の高回転化が制限される。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、減速時に、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、手動変速モードが選択されているときに、運転者による変速操作を受け付ける変速操作手段と、変速操作手段により受け付けられた変速操作に応じて自動変速機の変速比を変更する変速制御手段と、車両の減速度を検出する減速度検出手段と、車両が走行している走行路の路面勾配を取得する勾配取得手段と、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度、及び、路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可するエンジン回転数である減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する許可回転数設定手段とを備え、変速制御手段が、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフトを実行することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置によれば、車両の減速度が検出されるとともに、車両が走行している走行路の路面勾配が取得され、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度、及び、路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可する減速時高回転ダウンシフト許可回転数が設定される。そして、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)が実行される。このように、車両減速度、すなわち、変速動作中の減速によるエンジン回転数の低下に加え、さらに、路面勾配を考慮して減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する構成としたため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。その結果、減速時に、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0011】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、許可回転数取得手段が、車両の減速度が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定し、路面の上り勾配が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定することが好ましい。
【0012】
この場合、車両の減速度が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高く設定され、また、路面の上り勾配が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高く設定される。ところで、例えばエンジン出力や制動力等の条件が同じであれば、登坂路では、変速動作中の減速によるエンジン回転数の低下が、平坦路や降坂路よりも大きくなる。また、ダウンシフトによりエンジン回転数が上昇した後、加速されたとしても自重によって加速が抑えられるため、エンジンが過回転(オーバーレブ)する可能性が低い。一方、降坂路では、変速動作中の減速によるエンジン回転数の低下が、平坦路や登坂路よりも小さくなる。また、ダウンシフトによりエンジン回転数が上昇した後、加速されると自重によって加速が促進されるため、エンジンが過回転(オーバーレブ)する可能性が高くなる。よって、車両の減速度が大きいほど減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定し、また、路面の上り勾配が大きいほど(下り勾配が小さいほど)減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定することにより、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0013】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、手動変速モードが選択されているときに、運転者による変速操作を受け付ける変速操作手段と、変速操作手段により受け付けられた変速操作に応じて自動変速機の変速比を変更する変速制御手段と、車両の減速度を検出する減速度検出手段と、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度に基づいて、減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する許可回転数設定手段と、車両の運転状態に基づいて、減速状態から加速状態に遷移するか否かを判定する状態遷移判定手段とを備え、変速制御手段が、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフトを実行するとともに、ダウンシフトを実行している途中で、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合には、実行中のダウンシフトを中止することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置によれば、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度に基づいて、ダウンシフトを許可する減速時高回転ダウンシフト許可回転数が設定される。そして、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)が実行される。一方、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)を実行している途中で、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合には、実行中のダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)が中止される。すなわち、エンジンが過回転(オーバーレブ)しそうなときには、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)を中止できるため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。その結果、減速時に、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0015】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、状態遷移判定手段が、車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合、ブレーキの操作が解除された場合、及び/又は、アクセルが操作された場合に、減速状態から加速状態に遷移すると判定することが好ましい。
【0016】
この場合、車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合、ブレーキの操作が解除された場合、及び/又は、アクセルが操作された場合に、減速状態から加速状態に遷移すると判定される。よって、より適確に、減速状態から加速状態に遷移することを判定することができる。
【0017】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、自動変速機の油温を検出する油温検出手段と、油温に応じて、ダウンシフトを中止可能な時間である中止可能時間を設定する中止可能時間設定手段とをさらに備え、変速制御手段が、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してからの時間が中止可能時間を超えていない場合には、実行中のダウンシフトを中止することが好ましい。
【0018】
この場合、油温に応じて、ダウンシフトを中止可能な中止可能時間が設定される。そして、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してからの時間が中止可能時間を超えていない場合には、実行中のダウンシフトが中止される。ところで、ダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから、油圧が供給/排出されて、実際にクラッチ等が動き出すまで(変速動作が始まるまで)には、遅れ時間がある。そして、ダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから当該遅れ時間が経過するまでの間であれば、ダウンシフトを中止する(ダウンシフト指令をキャンセルする)ことができる。また、上記遅れ時間は、油温(すなわち自動変速機油の粘度)と相関を有する(すなわち、油温の影響を受ける)。よって、油温に応じてダウンシフトを中止することができる中止可能時間を設定することにより、より適切に中止可能時間を設定でき、より適確にダウンシフトを中止することができる。
【0019】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、中止可能時間設定手段が、油温が高い程、中止可能時間が短いように設定することが好ましい。
【0020】
この場合、油温が高い程、中止可能時間が短いように設定される。ところで、油温が高くなる程、自動変速機油の粘度が低くなり、上記遅れ時間が小さくなる。よって、油温が高い程、中止可能時間が短いように設定することにより、より適切に中止可能時間を設定することができる。
【0021】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、中止可能時間設定手段が、油温、及び、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せに応じて、中止可能時間を設定することが好ましい。
【0022】
この場合、油温、及び、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せに応じて、中止可能時間が設定される。ところで、上記遅れ時間は、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せ(ダウンシフトパターン)に応じて変化することがある。よって、油温に加えて、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せ(ダウンシフトパターン)を考慮して、中止可能時間を設定することにより、さらに適切に中止可能時間を設定することが可能となる。
【0023】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、変速制御手段が、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してから中止可能時間が経過しており、かつ、エンジン回転数が所定回転数以上である場合には、エンジンの出力ダウン要求、及び/又は、自動変速機のアップシフトを行うことが好ましい。
【0024】
この場合、ダウンシフトの実行中に、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合に、ダウンシフト処理を開始してから中止可能時間が経過しており、かつ、エンジン回転数が所定回転数以上である場合には、エンジンの出力ダウン要求、及び/又は、自動変速機のアップシフトが行われる。ところで、ダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから上記遅れ時間(中止可能時間)が経過すると、実際にクラッチ等が動き出してしまうため(変速動作が始まるため)、ダウンシフトを中止する(ダウンシフト指令をキャンセルする)ことができなくなる。そのため、中止可能時間の経過後に、オーバーレブが生じる可能性があるときには、エンジンの出力ダウン、及び/又は、自動変速機のアップシフトにより、オーバーレブを回避する。これにより、エンジンが過回転(オーバーレブ)しそうなときには、エンジンの出力ダウン要求、及び/又は、自動変速機のアップシフトできるため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。
【0025】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、スポーツ走行に適した変速制御を行うスポーツ走行モードの選択操作を受け付けるスポーツ走行モード受付手段をさらに備え、許可回転数取得手段が、スポーツ走行モードが選択されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行することが好ましい。
【0026】
この場合、スポーツ走行モードが選択されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御が実行される。すなわち、スポーツ走行モードが選択されている場合にのみ、減速時高回転ダウンシフトが実行される。そのため、運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない減速時高回転ダウンシフト制御の実行)を防止することができる。
【0027】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、車両を制動するブレーキの操作状態を検出するブレーキ操作検出手段をさらに備え、許可回転数取得手段が、ブレーキが操作されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行することが好ましい。
【0028】
この場合、ブレーキが操作されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御が実行される。すなわち、スポーツ走行モードが選択されている場合にのみ、減速時高回転ダウンシフトが実行される。そのため、運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない減速時高回転ダウンシフト制御の実行)、及び、オーバーレブを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、減速時に、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態に係る自動変速機の変速制御装置が適用された自動変速機を含むパワーユニットの構成を示すブロック図である。
図2】減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップの一例を示す図である。
図3】中止可能時間テーブルの一例を示す図である。
図4】実施形態に係る自動変速機の変速制御装置による減速時高回転ダウンシフト処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5】減速時高回転ダウンシフト許可回転数、及び、ダウンシフト時の車速、変速比、並びに、エンジン回転数の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
まず、図1を用いて、実施形態に係る自動変速機の変速制御装置1の構成について説明する。図1は、自動変速機の変速制御装置1が適用された自動変速機20を含むパワーユニットの構成を示すブロック図である。
【0033】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ15により検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ14が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0034】
上述したエアフローメータ15、スロットル開度センサ14に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサ12が取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサ11が取り付けられている。なお、クランク角センサ11としては、例えば電磁ピックアップ式のものなどが用いられる。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)40に接続されている。また、ECU40には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ16、及び、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0035】
エンジン10の出力軸には、エンジン10からの駆動力を変換して出力する自動変速機20が接続されている。自動変速機20は、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ25、及び、変速ギア列と油圧機構を含むトランスミッション部を有して構成され、油圧機構により自動変速可能に構成された有段自動変速機(ステップAT)である。なお、自動変速機20としては、例えば、無段変速機(CVT)やDCT等を用いることもできる。エンジン10から入力された駆動力は、自動変速機20で変換された後、自動変速機20の出力軸からディファレンシャルギヤ、ドライブシャフト等(図示省略)を介して車両の駆動輪に伝達される。
【0036】
自動変速機20の出力軸近傍には、該出力軸の回転数を検出するための出力軸回転センサ21が取り付けられている。また、自動変速機20には、シフトレバー(セレクトレバー)30と連動して動くように接続され、該シフトレバー30の選択位置を検出するレンジスイッチ22が取り付けられている。出力軸回転センサ21及びレンジスイッチ22等は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)50に接続されている。
【0037】
また、自動変速機20には、自動変速機20の作動油(ATF)の温度(以下、単に「油温」ともいう)Toを検出するための油温センサ23が取り付けられている。油温センサ23としては、例えばサーミスタなどが用いられる。すなわち、油温センサ23は、特許請求の範囲に記載の油温検出手段として機能する。油温センサ23も、TCU50に接続されている。
【0038】
ここで、車両のフロアやセンターコンソール等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)30が設けられている。なお、シフトレバー30では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。
【0039】
シフトレバー30には、該シフトレバー30が「M」レンジ側に位置するとき、すなわち手動変速モードが選択されたときにオンになり、シフトレバー30が「D」レンジ側に位置するとき、すなわち自動変速モードが選択されたときにオフになるMレンジスイッチ31が組み込まれている。Mレンジスイッチ31もTCU50に接続されている。
【0040】
一方、ステアリングホイール35の後側には、手動変速モード時に、運転者による変速操作(変速要求)を受付けるためのプラス(+)パドルスイッチ32及びマイナス(-)パドルスイッチ33が設けられている(以下、プラスパドルスイッチ32及びマイナスパドルスイッチ33を総称して「パドルスイッチ32,33」ということもある)。プラスパドルスイッチ32は手動でアップシフトする際に用いられ、マイナスパドルスイッチ33は手動でダウンシフトする際に用いられる。プラスパドルスイッチ32及びマイナスパドルスイッチ33それぞれは、特許請求の範囲に記載の変速操作手段として機能する。なお、パドルスイッチ32,33に代えて、シフトレバー30を「M」レンジの中立位置から前後に操作して変速操作を行う構成(シーケンシャルシフト)としてもよい。プラスパドルスイッチ32及びマイナスパドルスイッチ33は、TCU50に接続されており、パドルスイッチ32,33から出力されたスイッチ信号はTCU50に読み込まれる。
【0041】
自動変速機20は、シフトレバー30、及び、パドルスイッチ32,33を操作することにより選択的に切り換えることができる3つの変速モード、すなわち、自動変速モード、手動変速モード(以下「マニュアルモード」ともいう)、及び、一時的手動変速モード(以下「テンポラリマニュアルモード」ともいう)を備えている。
【0042】
より具体的には、自動変速モードは、シフトレバー30を「D」レンジに操作することにより選択され、予め設定された変速特性に従って自動的に変速するモードである。手動変速モードは、シフトレバー30を「M」レンジに操作することにより選択され、運転者の変速操作(パドルスイッチ32,33の操作)に応じて変速するモードである。また、テンポラリマニュアルモードは、自動変速モードが選択されている状態(すなわち「D」レンジが選択されている状態)において、運転者による変速操作(パドルスイッチ32,33の操作)が受付けられた場合に、所定の解除条件が成立するまで、一時的にマニュアルモードに移行するモードである。
【0043】
また、この車両は、エンジン10の出力特性および自動変速機20の変速特性を、運転者の操作により切り替え可能に構成されている。より詳細には、例えば、車両のセンターコンソールには、通常路走行に用いられる走行モードであるIモード(出力トルクを抑制してイージードライブ性と低燃費性とを両立させたモード)、Sモード(アクセル開度に対して出力トルクがほぼリニアに変化するように設定され、通常運転に適したモード)、S#モード(低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性としたパワー重視のモード)の選択操作を受け付ける走行モード切替スイッチ34が設けられている。
【0044】
ここで、Iモードでは、燃費及び静粛性を重視して、エンジン回転数がSモード、S#モードに対して比較的低くなるように変速制御が行われる。Sモードでは、エンジン10の回転数がIモードに対して比較的高くなるよう(ロー側)に変速制御が行われる。また、S#モード(特許請求の範囲に記載のスポーツ走行モードに相当)では、エンジン10の回転数がSモードに対しさらに高くなるよう(よりロー側)に変速制御が行われる。すなわち、走行モード切替スイッチ34は、特許請求の範囲に記載の、スポーツ走行に適した変速制御を行うスポーツ走行モードの選択操作を受け付けるスポーツ走行モード受付手段として機能する。
【0045】
自動変速機20の変速制御は、TCU50によって実行される。TCU50には、上述した出力軸回転センサ21、レンジスイッチ22、油温センサ23、Mレンジスイッチ31、パドルスイッチ32,33、及び、走行モード切替スイッチ34等が接続されている。
【0046】
ここで、TCU50は、CAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU40、ビークルダイナミクス・コントロールユニット(以下「VDCU」という)60等と相互に通信可能に接続されている。
【0047】
ECU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリなどによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。ECU40には、上述したクランク角センサ11、カム角センサ12、スロットル開度センサ14、エアフローメータ15、アクセルペダル開度センサ16等の各種センサが接続されている。
【0048】
ECU40では、カム角センサ12の出力から気筒が判別され、クランク角センサ11の出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU40では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。そして、ECU40は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに、スロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。また、ECU40は、エンジン10の回転数が上限回転数(レブリミット)を超えた場合等、所定の条件が満足された場合にエンジン10に対する点火や燃料供給を停止する。
【0049】
ECU40は、CAN100を介して、エンジン水温(冷却水温度)、エンジン軸トルク、エンジン回転数、及び、アクセルペダル開度等の情報をTCU50等に対して送信する。また、ECU40は、CAN100を介して、TCU50からの出力ダウン要求(エンジン出力の低下要求)を受信した場合に、例えば、点火時期をリタードしたり、スロットルバルブ13を閉じ側に駆動して吸入空気量を低減させる。すなわち、エンジン出力(エンジントルク)を低下させる。
【0050】
VDCU60には、ブレーキペダルが踏まれているか否かを検出するやブレーキスイッチ62(ブレーキ操作検出手段に相当)、ブレーキアクチュエータのマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ63(ブレーキ操作検出手段に相当)が接続されている。また、VDCU60には、車両の加速度を検出する加速度センサ61(減速度検出手段に相当)、車両の各車輪の回転速度(車速)を検出する車輪速センサ64、及び、操舵角センサ等も接続されている。車輪速センサ64は、車輪の中心に取り付けられた歯車の回転を磁気ピックアップ等によって検出することにより、車輪の回転状態を検出する。また、操舵角センサは、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪の操舵角(すなわちステアリングホイール35の操舵角)を検出する。
【0051】
VDCU60は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば、加速度センサ61、ブレーキスイッチ62、ブレーキ液圧センサ63、車輪速センサ64、操舵角センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン10のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。
【0052】
VDCU60は、検出したブレーキスイッチ62やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)、車輪速(車速)等を、CAN100を介してTCU50やECU40に送信する。
【0053】
TCU50は、CAN100を通して、ECU40から送信されたエンジン10の回転数、及び、アクセルペダル開度等を受信する。また、TCU50は、CAN100を通して、VDCU60から送信されたブレーキスイッチ62やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)、車輪速(車速)等を受信する。TCU50は、取得されたエンジン回転数、アクセルペダル開度、ブレーキスイッチ62やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)、車輪速(車速)、出力軸回転数(車速)、シフトレバー30のシフトポジション(レンジスイッチ22の状態)、Mレンジスイッチ31の状態、及び、パドルスイッチ32,33や走行モード切替スイッチ34の操作信号等の各種情報に基づいて、自動変速機20の変速制御を行う。
【0054】
そして、特に、TCU50は、減速時に、より高エンジン回転数、高レスポンスでのダウンシフト(可能な限り運転者の意思に沿ったダウンシフト)を可能としつつ、かつ、エンジンの過回転(オーバーレブ)をより確実に防止する機能を有している。
【0055】
そのため、TCU50は、変速制御部51、勾配取得部52、許可回転数設定部53、状態遷移判定部54、及び、中止可能時間設定部55を機能的に有している。TCU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。TCU50では、EEPROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、変速制御部51、勾配取得部52、許可回転数設定部53、状態遷移判定部54、及び、中止可能時間設定部55の各機能が実現される。
【0056】
変速制御部51は、例えば、シフトレバー30のシフトポジション(レンジスイッチ22の状態)、Mレンジスイッチ31の状態、及び、パドルスイッチ32,33や走行モード切替スイッチ34の操作信号等に応じて、自動変速機20の油圧機構を制御し、自動変速機20の変速比(変速段)を変更する。すなわち、変速制御部51は、特許請求の範囲に記載の変速制御手段として機能する。なお、詳細は後述する。
【0057】
勾配取得部52は、車両が走行している走行路の路面勾配を取得する。すなわち、勾配取得部52は、特許請求の範囲に記載の勾配取得手段として機能する。路面勾配は、例えば、車両の加速度(加速度センサ値)から車速の微分値を減算することにより求めることができる。
【0058】
より具体的には、勾配取得部52は、例えば、次式(1)(2)で示されるように、車両の加速度に0点学習値が加算された補正後加速度センサ値と、車速の微分値との差に基づいて、路面勾配を取得(推定)する。
路面勾配値=補正後加速度センサ値-車速の微分値 ・・・(1)
ただし、補正後加速度センサ値は次式(2)により算出される。
補正後加速度センサ値=加速度センサ値+0点学習値 ・・・(2)
ここで、上記車速は、出力軸回転センサ21により検出された自動変速機20の出力軸の回転数(又は、すべての車輪速の平均値)に基づき、取得することができる。
【0059】
なお、勾配取得部52は、エンジン10の出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められる車両の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定するとともに、推定された路面勾配が略ゼロの(所定勾配以下の)平坦路を略一定速度で走行しているときに、加速度センサ61のゼロ点を学習する。そして、上式(2)で示されたように、加速度センサ61の出力値を学習したゼロ点で補正(加算)する。
【0060】
ところで、路面勾配の推定は旋回で生じたスリップアングルにより加速度センサ61と車速の微分値にズレが生じるため、勾配取得部52は、舵角センサ値(操舵角)、又は横加速度センサ値(横G)に基づいて、車両が旋回中であるか否かを判定し、車両が旋回しているときには、路面勾配の推定を停止する。また、路面勾配の推定は、車輪がスリップしていると演算を誤るおそれがあるため、勾配取得部52は、4輪車輪速の偏差が所定値以上ある場合、もしくはTCS(トラクションコントロール)が作動している場合には、車輪がスリップしていると判断し、路面勾配の推定を停止する。同様に、勾配取得部52は、エンジン10の出力トルクから求められる駆動力に対し、車速の微分値から求められる車両の加速度が所定値以上に大きい場合には、車輪がスリップしていると判断し、路面勾配の推定を停止する。なお、勾配取得部52により取得された路面勾配は、許可回転数設定部53に出力される。
【0061】
許可回転数設定部53は、車両減速時、かつ、スポーツ走行モードが選択されているとき、及び/又は、ブレーキペダルが踏み込まれているときに、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度、及び、路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可するエンジン回転数である減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する。すなわち、許可回転数設定部53は、特許請求の範囲に記載の許可回転数設定手段として機能する。許可回転数取得部53は、車両の減速度が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定し、また、路面の上り勾配が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定する(図5の中段(減速度小/上り勾配小時の減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne1)、及び、下段(減速度大/上り勾配大時の減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne2)参照)。なお、車両の減速度は、加速度センサ61の検出値や車速の変化(微分値)から求めることができる。
【0062】
ここで、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定の仕方について説明する。例えば、TCU50のEEPROMには、車両の減速度(m/s)と、勾配(%)と、減速時高回転ダウンシフト許可回転数(rpm)との関係を定めたマップ(減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップ)が記憶されており、車両減速度と勾配とに基づいてこの減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップが検索されることにより減速時高回転ダウンシフト許可回転数が求められる。
【0063】
ここで、減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップの一例を図2に示す。図2において、横軸は勾配(%)であり、縦軸は減速度(m/s)である。減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップでは、車両減速度と勾配との組み合わせ(格子点)毎に減速時高回転ダウンシフト許可回転数(rpm)が与えられている。減速時高回転ダウンシフト許可回転数マップでは、車両減速度が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高いように設定されている。また、路面の上り勾配が大きいほど(下り勾配が小さいほど)、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高いように設定されている。なお、許可回転数設定部53は、例えば、スポーツ走行モードが選択されていない場合、ブレーキペダルが踏み込まれていない場合、及び、車両減速時以外は、予め設定された通常のダウンシフト許可回転数を設定する。なお、設定された減速時高回転ダウンシフト許可回転数は、変速制御部51に出力される。
【0064】
状態遷移判定部54は、車両の運転状態に基づいて、例えば、車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合に、減速状態から加速状態に遷移すると判定する。すなわち、状態遷移判定部54は、特許請求の範囲に記載の状態遷移判定手段として機能する。なお、状態遷移判定部54は、車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合に加えて、ブレーキペダルの踏み込みが解除された場合(すなわちブレーキの操作が解除された場合)、及び、アクセルペダルが踏み込まれた場合(アクセルが操作された場合)に、減速状態から加速状態に遷移すると判定することが好ましい。状態遷移判定部54により、車両が減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合、その情報(加速状態遷移情報)は、中止可能時間設定部55及び変速制御部51に出力される。
【0065】
中止可能時間設定部55は、ダウンシフトを中止可能な時間である中止可能時間を設定する。すなわち、中止可能時間設定部55は、特許請求の範囲に記載の中止可能時間設定手段として機能する。ところで、ダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから、油圧が供給/排出されて、実際にクラッチ等が動き出すまで(変速動作が始まるまで)には、遅れ時間がある。そして、ダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから当該遅れ時間が経過するまでの間であれば、ダウンシフトを中止する(ダウンシフト指令をキャンセルする)ことができる。また、上記遅れ時間は、油温(すなわち自動変速機油の粘度)と相関を有する(すなわち、油温の影響を受ける)。そのため、中止可能時間設定部55は、油温に応じて、ダウンシフトを中止可能な時間である中止可能時間を設定する。
【0066】
その際に、中止可能時間設定部55は、油温が高い程、中止可能時間が短いように設定する。また、その際に、中止可能時間設定部55は、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せ(ダウンシフトパターン)毎に、中止可能時間を設定する。
【0067】
ここで、中止可能時間の設定の仕方について説明する。TCU50のEEPROMには、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せ(ダウンシフトパターン)毎に、自動変速機20の油温To(℃)と中止可能時間(msec)との関係を定めたテーブル(中止可能時間テーブル)が記憶されており、自動変速機20の油温Toに基づいてこの中止可能時間テーブルが検索されることにより中止可能時間が設定される。
【0068】
ここで、中止可能時間テーブルの一例を図3に示す。図3において、横軸は自動変速機20の油温To(℃)であり、縦軸は中止可能時間(msec)である。中止可能時間テーブルは、自動変速機20の油温Toが高い程、中止可能時間が短いように設定されている。なお、設定された中止可能時間は、変速制御部51に出力される。
【0069】
変速制御部51は、車両減速時、かつ、スポーツ走行モードが選択されている場合、及び/又は、ブレーキペダルが踏み込まれている場合に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)を実行する。なお、変速制御部51は、スポーツ走行モードが選択されていない場合、ブレーキペダルが踏み込まれていない場合、及び、車両減速時以外は、通常のダウンシフトを実行する。すなわち、エンジン回転数が通常のダウンシフト許可回転数以下となったときに、通常のダウンシフトを実行する。
【0070】
また、変速制御部51は、減速時高回転ダウンシフトを実行している途中で(減速時高回転ダウンシフトの実行中に)、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合には、実行中の減速時高回転ダウンシフトを中止する(キャンセルする)。
【0071】
その際に、変速制御部51は、ダウンシフト処理を開始(すなわちダウンシフト指令(制御信号)を出力)してからの時間が中止可能時間を超えていない場合には、実行中の減速時高回転ダウンシフトを中止する。一方、減速時高回転ダウンシフト処理を開始してから中止可能時間が経過しており、かつ、エンジン回転数が所定回転数以上である場合には、エンジン10の出力ダウン要求、及び/又は、自動変速機20のアップシフトを行う。
【0072】
なお、変速制御部51は、スポーツ走行モードが選択されているときにのみ、上述した一連の減速時高回転ダウンシフト制御を実行することが好ましい。よって、変速制御部51は、スポーツ走行モードが選択されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行する。運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない減速時高回転ダウンシフト制御の実行)を防止するためである。
【0073】
同様に、変速制御部51は、ブレーキペダルが踏み込まれているとき(すなわち、ブレーキが操作されているとき)にのみ、上述した一連の減速時高回転ダウンシフト制御を実行することが好ましい。よって、変速制御部51は、ブレーキペダルが踏み込まれていないとき(すなわち、ブレーキが操作されていないとき)には、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御を実行する。運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない減速時高回転ダウンシフト制御の実行)、及び、オーバーレブを防止するためである。
【0074】
次に、図4を参照しつつ、自動変速機の変速制御装置1の動作について説明する。図4は、自動変速機の変速制御装置1による減速時高回転ダウンシフト処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU50において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0075】
まず、ステップS100では、車両減速時に、ダウンシフト操作が受け付けられたか否か、すなわち、ダウンシフト要求があるか否かについての判断が行われる。ここで、ダウンシフト操作が受け付けられていない場合には、本処理から一旦抜ける。一方、ダウンシフト操作が受け付けられたときには、ステップS102に処理が移行する。
【0076】
ステップS102では、スポーツ走行モードが選択されているか否かについての判断が行われる。ここで、スポーツ走行モードが選択されていない場合には、ステップS112において、通常のダウンシフト処理が実行される(図5の上段:通常ダウンシフト許可回転数Ne0参照)。一方、スポーツ走行モードが選択されているときには、ステップS104に処理が移行する。
【0077】
ステップS104では、ブレーキペダルが踏み込まれているか否か(例えばブレーキスイッチ62がオンであるか否か)についての判断が行われる。ここで、ブレーキペダルが踏み込まれていない場合には、ステップS112において、通常のダウンシフト処理が実行される(図5の上段:通常ダウンシフト許可回転数Ne0参照)。一方、ブレーキペダルが踏み込まれているときには、ステップS106に処理が移行する。
【0078】
ステップS106では、車両の減速度が読み込まれるとともに、走行路の路面勾配が取得される。なお、路面勾配の取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0079】
続いて、ステップS108では、車両の減速度、及び、路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可する減速時高回転ダウンシフト許可回転数が設定される。その際に、車両減速度が大きいほど、また、路面の上り勾配が大きい(下り坂が小さい)ほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高いように設定される。なお、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0080】
次に、ステップS110では、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数よりも高い場合には、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となるまで、本ステップが繰り返して実行される。一方、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下である場合には、ステップS114に処理が移行する。
【0081】
ステップS114では、ダウンシフト指令(制御信号)が出力され、その後、自動変速機20のダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)が開始される(図5の中段:減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne1、下段:減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne2参照)。
【0082】
次に、ステップ116では、減速状態から加速状態に遷移すると判定されたか否かについての判断が行われる。ここで、減速状態から加速状態に遷移すると判定されていない場合には、減速時高回転ダウンシフトが継続して実行されたのち、本処理から一旦抜ける。一方、減速状態から加速状態に遷移すると判定されたときには、ステップS118に処理が移行する。なお、減速状態から加速状態に遷移するか否かの判断方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0083】
ステップS118では、油温に応じて、減速時高回転ダウンシフトを中止可能な中止可能時間が設定される。なお、中止可能時間の設定方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0084】
そして、続いて、ステップS120では、減速時高回転ダウンシフト処理が開始されてから(すなわちダウンシフト指令(制御信号)が出力されてから)の経過時間が中止可能時間を超えているか否かについての判断が行われる。ここで、減速時高回転ダウンシフト処理が開始されてからの経過時間が中止可能時間を超えていない場合には、ステップS122において実行中の減速時高回転ダウンシフト処理が中止される。そして、その後、本処理から一旦抜ける。一方、減速時高回転ダウンシフト処理を開始してからの経過時間が中止可能時間を超えているときには、ステップS124に処理が移行する。
【0085】
ステップS124では、エンジン回転数が所定回転数以上であるか否か、すなわち、エンジン10が過回転(オーバーレブ)するおそれがあるか否かについての判断が行われる。ここで、エンジン回転数が所定回転数未満である場合には、本処理から一旦抜ける。一方、エンジン回転数が所定回転数以上であるときには、ステップS126に処理が移行する。
【0086】
ステップS126では、エンジン10の過回転(オーバーレブ)を回避すべく、ECU40に対するエンジン10の出力ダウン要求、及び/又は、自動変速機20のアップシフトが行われる。その後、本処理から一旦抜ける。
【0087】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、車両減速時に、ダウンシフトを要求する変速操作が受け付けられた場合に、車両の減速度、及び、路面勾配に基づいて、ダウンシフトを許可する減速時高回転ダウンシフト許可回転数が設定される。そして、エンジン回転数が減速時高回転ダウンシフト許可回転数以下となったときに、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)が実行される。このように、車両減速度、すなわち、変速動作中の減速によるエンジン回転数の低下に加え、さらに、路面勾配を考慮して減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する構成としたため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。その結果、減速時に、より高エンジン回転数、高レスポンスでのダウンシフト(運転者の意思に沿ったダウンシフト)を可能としつつ、かつ、エンジン10の過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0088】
本実施形態によれば、車両の減速度が大きいほど、また、路面の上り勾配が大きいほど(下り勾配が小さいほど)減速時高回転ダウンシフト許可回転数を高く設定することにより、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジン10の過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0089】
ここで、図5の上段に、通常のダウンシフト許可回転数Ne0を示す。また、中段に、減速度小/上り勾配小時の減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne1を示す。さらに、下段に、減速度大/上り勾配大時の減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne2を示す。なお、図5の横軸は車速(km/h)であり、縦軸はエンジン回転数(rpm)である。図5に示されるように、減速度及び勾配を考慮しない通常のダウンシフト許可回転数Ne0と比較して、減速度及び上り勾配が大きいほど、減速時高回転ダウンシフト許可回転数が高い(減速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne1<速時高回転ダウンシフト許可回転数Ne2)。その結果、ダウンシフトの開始タイミングが早まり、ダウンシフト後のエンジン回転数が高回転(略レブリミット)に維持される。
【0090】
また、本実施形態によれば、ダウンシフト(減速時高回転ダウンシフト)を実行している途中で、減速状態から加速状態に遷移すると判定された場合には、実行中のダウンシフトが中止される。すなわち、エンジン10が過回転(オーバーレブ)しそうなときには、ダウンシフトを中止できるため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。その結果、減速時に、より高エンジン回転数でのダウンシフトを可能としつつ、かつ、エンジン10の過回転(オーバーレブ)をより確実に防止することが可能となる。
【0091】
本実施形態によれば、車両の減速度の変化量が増加から減少に転じている場合、ブレーキの操作が解除された場合、及び/又は、アクセルが操作された場合に、減速状態から加速状態に遷移すると判定される。よって、より適確に、減速状態から加速状態に遷移することを判定することができる。
【0092】
本実施形態によれば、油温に応じてダウンシフトを中止することができる中止可能時間を設定することにより、より適切に中止可能時間を設定でき、より適確にダウンシフトを中止することができる。その際に、油温が高い程、中止可能時間が短いように設定することにより、より適切に中止可能時間を設定することができる。さらに、本実施形態によれば、油温に加えて、ダウンシフト開始時の変速比とダウンシフト終了時の変速比との組み合せ(ダウンシフトパターン)を考慮して、中止可能時間を設定することにより、さらに適切に中止可能時間を設定することが可能となる。
【0093】
本実施形態によれば、中止可能時間の経過後に、オーバーレブが生じる可能性があるときには、エンジン10の出力ダウン、及び/又は、自動変速機20のアップシフトにより、オーバーレブを回避できる。そのため、減速時高回転ダウンシフト許可回転数の設定にあたり、従来よりもマージン(安全率)を小さくすることができる。
【0094】
本実施形態によれば、スポーツ走行モードが選択されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御が実行される。そのため、運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない(減速)高回転ダウンシフト制御の実行)を防止することができる。
【0095】
同様に、本実施形態によれば、ブレーキが操作されていないときには、車両の減速度にかかわりなく予め設定された所定のダウンシフト許可回転数に基づいた通常のダウンシフト制御が実行される。そのため、運転者が意図しない制御介入(すなわち、意図しない(減速)高回転ダウンシフト制御の実行)、及び、オーバーレブを防止することが可能となる。
【0096】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、自動変速機20として有段自動変速機(ステップAT)を例にして説明したが、有段自動変速機に代えて、例えば、無段変速機(CVT)やDCT等でもよい。なお、無段変速機(CVT)に適用する場合には、上述したフローチャート中のステップS118、S120の処理は不要となる。したがって、ステップS116が肯定された場合には、ステップS122、及び/又は、ステップS124、S126が実行される。
【0097】
また、上記フローチャートではベストモードを示したが、例えば、ステップS102、S104の処理は省略してもよい。すなわち、ステップS100が肯定された場合に、ステップS106に移行する構成としてもよい。また、例えば、ステップS116~S126の処理を省略する構成としてもよい。さらに、ステップS106、S108において、車両減速度のみから減速時高回転ダウンシフト許可回転数を設定する構成としてもよい。なお、その場合には、ステップS116~S126の処理は必須となる。なお、ステップS126におけるエンジン出力ダウン要求とアップシフトとは、例えば、エンジン回転数やエンジン回転数の上昇速度等を考慮して、双方を実行してもよいし、いずれか一方のみを実行してよい。
【0098】
上記実施形態では、スポーツ走行中であるか否かの判断に走行モード切替スイッチ34の状態を利用したが、走行モード切替スイッチ34に代えて、例えば、運転者によるアクセルペダルの操作状態(例えば、操作量、操作頻度など)、及び、前後加速度センサ、横加速度センサにより検出された車両の前後加速度と横加速度の積算値に基づいて、スポーツ走行度合いを示す指標値を求め、当該スポーツ走行度合いを示す指標値が、所定のしきい値以上である場合に、スポーツ走行中であると判断し、該所定のしきい値未満のときに、スポーツ走行中ではないと判断する構成としてもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、エンジン10を制御するECU40と、自動変速機20を制御するTCU50とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 自動変速機の変速制御装置
10 エンジン
11 クランク角センサ
12 カム角センサ
13 スロットルバルブ
16 アクセルペダル開度センサ
20 自動変速機
21 出力軸回転センサ
22 レンジスイッチ
23 油温センサ
30 シフトレバー
31 Mレンジスイッチ
32 プラスパドルスイッチ
33 マイナスパドルスイッチ
34 走行モード切替スイッチ
40 ECU
50 TCU
51 変速制御部
52 勾配取得部
53 許可回転数設定部
54 状態遷移判定部
55 中止可能時間設定部
60 VDCU
61 加速度センサ
62 ブレーキスイッチ
63 ブレーキ液圧センサ
64 車輪速センサ
100 CAN
図1
図2
図3
図4
図5