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特許7272912燃料電池システム及びアノードオフガス排出量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】燃料電池システム及びアノードオフガス排出量推定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0438 20160101AFI20230502BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230502BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20230502BHJP
【FI】
H01M8/0438
H01M8/04 Z
H01M8/04313
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019162718
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021044067
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑▲崎▼ 美保
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂樹
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103466(JP,A)
【文献】特開2005-302708(JP,A)
【文献】特開2005-243491(JP,A)
【文献】特開2016-103464(JP,A)
【文献】特開2004-012169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
アノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する燃料電池と、
前記アノードガスの供給源と前記燃料電池とを接続し、前記アノードガスが流れる供給流路と、
前記燃料電池に接続され、前記燃料電池と前記燃料電池システムの外部とを連通し前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流れる排出流路と、
前記排出流路上に設けられ、前記アノードオフガスから水を分離して貯留する気液分離器と、
前記気液分離器よりも下流の前記排出流路上に設けられ、開弁時に所定の流路断面積を有する排出弁と、
前記排出弁の上流側と下流側との差圧を検出する差圧検出部と、
前記差圧から、前記気液分離器に流入し前記排出弁から流出する水量によって減少する、前記アノードオフガスにとっての前記排出弁の有効断面積を推定し、前記有効断面積を用いて、前記排出弁からの前記アノードオフガスの排出量を推定する、推定処理を実行する制御部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、
前記燃料電池の発電量を用いて算出される前記排出流路から前記気液分離器に流入する水の速度と、前記差圧と、前記流路断面積のうち前記アノードオフガスが流れる面積の割合と、の予め定められた第1関係を用いて、前記流路断面積を補正するための第1係数を求め、
前記流路断面積を前記第1係数で補正することにより前記有効断面積を推定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、
前記気液分離器内の貯留水量と、前記流路断面積のうち前記アノードオフガスが流れる面積の割合と、の予め定められた第2関係を用いて、前記流路断面積を補正するための第2係数を求め、
前記流路断面積を前記第1係数と前記第2係数とで補正することにより前記有効断面積を推定する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記気液分離器内の貯留水量を、前記燃料電池の発電量と、前記差圧に関連付けられた、前記気液分離器内の貯留水が前記気液分離器から排出される速度と、を用いて算出する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記推定処理において、前記差圧が予め定められた閾値以上である場合には、前記流路断面積を前記有効断面積として前記アノードオフガスの排出量を推定する、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記推定処理を、前記排出弁が開かれてから前記排出弁が閉じられるまで、継続して実行する、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記排出弁を開いた後、推定した前記アノードオフガスの排出量の総量が目標値以上となった場合に前記排出弁を閉じる、燃料電池システム。
【請求項8】
燃料電池システムにおけるアノードオフガスの排出量推定方法であって、
前記燃料電池システムは、
アノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する燃料電池と、
前記アノードガスの供給源と前記燃料電池とを接続し、前記アノードガスが流れる供給流路と、
前記燃料電池に接続され、前記燃料電池と前記燃料電池システムの外部とを連通し前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流れる排出流路と、
前記排出流路上に設けられ、前記アノードオフガスから水を分離して貯留する気液分離器と、
前記気液分離器よりも下流の前記排出流路に設けられ開弁時に所定の流路断面積を有する排出弁と、を備え、
前記方法は、
前記排出弁の上流側と下流側の差圧を取得する工程と、
前記差圧から、前記気液分離器に流入し前記排出弁から流出する水量によって減少する、前記アノードオフガスにとっての前記排出弁の有効断面積を推定し、前記有効断面積を用いて前記排出弁からの前記アノードオフガスの排出量を推定する工程と、を備える、
排出量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システム及び燃料電池システムにおけるアノードオフガス排出量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池から排出されるアノードオフガスから水を分離して貯留する気液分離器と、気液分離器に接続され気液分離器内の貯留水及びアノードオフガスを外部に排出する排出流路と、排出流路に設けられた排出弁と、を有する燃料電池システムが記載されている。このシステムでは、気液分離器内の貯留水の排出が完了した後に、排出弁の上流側と下流側との差圧と、排出弁の排出口において水が占める割合を除いたアノードオフガスが占める割合とに基づいて、アノードオフガスの排出量が推定される。気液分離器内の貯留水量は燃料電池の発電量から算出され、貯留水の排出が完了したことは、算出された貯留水量と差圧とを用いて推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-103466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のシステムにおいて、気液分離器内の貯留水の排出が完了した後、排出弁の排出口においてアノードオフガスが占める割合を用いてアノードオフガス排出量を推定するのは、以下の観点に基づく。すなわち、気液分離器内の貯留水の排出が完了した後であっても、燃料電池の発電に基づく生成水の発生が多い場合には、生成水とアノードオフガスが、同時に排出弁から流出する場合があるという観点である。しかし、発明者らは、発電による生成水が全て気液分離器に流入するのではなく、排出流路等に留まる場合があることを見出した。そのため、このような場合を考慮し、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この形態の燃料電池システムは、アノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する燃料電池と、前記アノードガスの供給源と前記燃料電池とを接続し、前記アノードガスが流れる供給流路と、前記燃料電池に接続され、前記燃料電池と前記燃料電池システムの外部とを連通し前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流れる排出流路と、前記排出流路上に設けられ、前記アノードオフガスから水を分離して貯留する気液分離器と、前記気液分離器よりも下流の前記排出流路上に設けられ、開弁時に所定の流路断面積を有する排出弁と、前記排出弁の上流側と下流側との差圧を検出する差圧検出部と、前記差圧から、前記気液分離器に流入し前記排出弁から流出する水量によって減少する、前記アノードオフガスにとっての前記排出弁の有効断面積を推定し、前記有効断面積を用いて、前記排出弁からの前記アノードオフガスの排出量を推定する、推定処理を実行する制御部と、を備える。
この形態によれば、排出弁の上流側と下流側との差圧から、気液分離器に流入し排出弁から流出する水量によって減少する、アノードオフガスにとっての排出弁の有効断面積を推定し、推定した有効断面積を用いてアノードオフガス排出量を推定する。そのため、排出弁よりも上流側において排出流路等に留まる水が考慮されてアノードオフガス排出量が算出されるので、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させることができる。
(2)上記形態において、前記燃料電池の発電量を用いて算出される前記排出流路から前記気液分離器に流入する水の速度と、前記差圧と、前記流路断面積のうち前記アノードオフガスが流れる面積の割合と、の予め定められた第1関係を用いて、前記流路断面積を補正するための第1係数を求め、前記流路断面積を前記第1係数で補正することにより前記有効断面積を推定してもよい。
この形態によれば、アノードオフガスにとっての有効断面積を、気液分離器に流入する流入水の速度と差圧と用いて推定される、アノードオフガスが流れる面積の割合に対応した第1係数を求めることにより推定することができる。
(3)上記形態において、前記制御部は、前記気液分離器内の貯留水量と、前記流路断面積のうち前記アノードオフガスが流れる面積の割合と、の予め定められた第2関係を用いて、前記流路断面積を補正するための第2係数を求め、前記流路断面積を前記第1係数と前記第2係数とで補正することにより前記有効断面積を推定してもよい。
この形態によれば、アノードオフガスにとっての有効断面積を、第1係数と、気液分離器内の貯留水を用いて推定される第2係数とを求めることにより推定し、推定した有効断面積を用いてアノードオフガス排出量を推定する。そのため、気液分離器内の貯留水がアノードオフガスとともに排出されることが考慮されるので、アノードオフガス排出量の推定精度をより向上させることができる。
(4)上記形態において、前記制御部は、前記気液分離器内の貯留水量を、前記燃料電池の発電量と、前記差圧に関連付けられた、前記気液分離器内の貯留水が前記気液分離器から排出される速度と、を用いて算出してもよい。
この形態によれば、発電による生成水量と差圧による排出速度とを用いて貯留水量を算出して第2係数を求め、アノードオフガス排出量を推定することができる。
(5)上記形態において、前記制御部は、前記推定処理において、前記差圧が予め定められた閾値以上である場合には、前記排出弁の流路断面積を前記有効断面積として前記アノードオフガスの排出量を推定してもよい。
この形態によれば、差圧が閾値以上である場合には、差圧を考慮せず、排出弁の流路断面積をアノードオフガスにとっての有効断面積として、アノードオフガス排出量を推定する。そのため、アノードオフガス排出量の推定精度をいっそう向上させることができる。
(6)上記形態において、前記制御部は、前記推定処理を、前記排出弁が開かれてから前記排出弁が閉じられるまで、継続して実行してもよい。
この形態によれば、推定処理は、排出弁が開かれてから閉じられるまで継続して実行されるので、アノードオフガス排出量として、気液分離器内の貯留水の排出が完了する前に、気液分離器内の貯留水とともに排出されるアノードオフガスが考慮される。そのため、気液分離器内の貯留水の排出が完了した後に、アノードオフガス排出量を算出する場合と比較して、アノードオフガス排出量の推定精度を向上することができる。
(7)上記形態において、前記制御部は、前記排出弁を開いた後、推定した前記アノードオフガスの排出量の総量が目標値以上となった場合に、前記排出弁を閉じてもよい。
この形態によれば、目標とする量のアノードオフガスを排出することができる。
(8)本開示の第2の形態によれば、燃料電池システムにおけるアノードオフガス排出量の推定方法が提供される。この形態において、前記燃料電池システムは、アノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する燃料電池と、前記アノードガスの供給源と前記燃料電池とを接続し、前記アノードガスが流れる供給流路と、前記燃料電池に接続され、前記燃料電池と前記燃料電池システムの外部とを連通し前記燃料電池から排出されるアノードオフガスが流れる排出流路と、前記排出流路上に設けられ、前記アノードオフガスから水を分離して貯留する気液分離器と、前記気液分離器よりも下流の前記排出流路に設けられ開弁時に所定の流路断面積を有する排出弁と、を備える。前記方法は、前記排出弁の上流側と下流側の差圧を取得する工程と、前記差圧から、前記気液分離器に流入し前記排出弁から流出する水量によって減少する、前記アノードオフガスにとっての前記排出弁の有効断面積を推定し、前記有効断面積を用いて前記排出弁からの前記アノードオフガスの排出量を推定する工程と、を備える。
この形態によれば、排出弁の上流側と下流側との差圧から、気液分離器に流入し排出弁から流出する水量によって減少する、アノードオフガスにとっての排出弁の有効断面積を推定し、推定した有効断面積を用いてアノードオフガス排出量を推定する。そのため、排出弁よりも上流側において排出流路等に留まる水が考慮されてアノードオフガス排出量が算出されるので、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させることができる。
本開示は、上述した燃料電池システム、アノードオフガスの排出量推定方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムにおける排出弁の開閉方法、当該方法を用いて燃料電池システムを制御する方法、燃料電池システムを備える車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料電池システムの概略構成図。
図2】排出弁が開かれた後における、排出弁の流路断面のイメージの例。
図3】排出弁が開かれた後における、排出弁の流路断面のイメージの他の例。
図4】差圧ごとの流入水速度と第1係数との関係を示す図。
図5】気液分離器内の貯留水量と第2係数との関係を示す図。
図6】排出弁の開閉処理を示すフローチャート。
図7】第2実施形態における排出弁の開閉処理を示すフローチャート。
図8】差圧と単位時間あたりのアノードオフガス排出量との関係を示す図。
図9】実験データと物理式とを比較するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.第1実施形態
図1は、本開示の一実施形態としての燃料電池システム100の概略構成図である。燃料電池システム100は、車両110に搭載され、運転者からの要求に応じて車両110の動力源となる電力を出力する。
【0009】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、制御装置20と、カソードガス供給排出部30と、アノードガス供給排出部50と、冷却媒体循環部70と、DC/DCコンバータ80と、パワーコントロールユニット(以下、「PCU」という)81と、負荷82と、を備える。制御装置20は、CPUと、メモリと、インターフェイスと、を備えるECUであり、メモリに記憶されたプログラムを展開して実行することにより、制御部21として機能する。
【0010】
燃料電池スタック10は、燃料電池セル11が積層されて構成されている。各燃料電池セル11は、電解質膜と、電解質膜の各々の面に配置されたアノード側電極及びカソード側電極と、を有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する1組のセパレータとを有し、アノードガスとカソードガスとの供給を受けて発電する。アノードガスは例えば水素であり、カソードガスは例えば空気である。
【0011】
カソードガス供給排出部30は、カソードガス配管31と、エアフローメータ32と、カソードガスコンプレッサ33と、第1開閉弁34と、バイパス配管35と、分流弁36と、カソードオフガス配管41と、第1レギュレータ42と、を備える。
【0012】
エアフローメータ32は、カソードガス配管31に設けられており、取り込んだ空気の流量を測定する。カソードガスコンプレッサ33は、カソードガス配管31を介して燃料電池スタック10と接続されている。カソードガスコンプレッサ33は、制御部21の制御により、外部から取り入れたカソードガスを圧縮し、燃料電池スタック10に供給する。
【0013】
第1開閉弁34は、カソードガスコンプレッサ33と燃料電池スタック10との間に設けられ、制御部21の制御により開閉する。バイパス配管35は、カソードガス配管31におけるカソードガスコンプレッサ33と第1開閉弁34の間と、カソードオフガス配管41における第1レギュレータ42の下流とを接続する配管である。分流弁36は、バイパス配管35に設けられており、制御部21の制御により、燃料電池スタック10とカソードオフガス配管41への空気の流量を調節する。
【0014】
カソードオフガス配管41は、燃料電池スタック10から排出されたカソードオフガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。第1レギュレータ42は、制御部21の制御により、燃料電池スタック10のカソードガス出口の圧力を調整する。
【0015】
アノードガス供給排出部50は、アノードガス配管51と、アノードガスタンク52と、第2開閉弁53と、第2レギュレータ54と、インジェクタ55と、アノードオフガス配管61と、気液分離器62と、排出弁63と、循環配管64と、アノードガスポンプ65と、第1圧力センサ67と、第2圧力センサ68と、を備える。
【0016】
アノードガス配管51は、燃料電池スタック10にアノードガスを供給するための供給流路である。アノードガスタンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池スタック10のアノードガス入口に接続されており、内部に充填されているアノードガスを燃料電池スタック10に供給する。アノードガスタンク52を「アノードガス供給源」とも呼ぶ。第2開閉弁53、第2レギュレータ54、インジェクタ55は、アノードガス配管51に、この順序で上流側、つまりアノードガスタンク52に近い側、から設けられている。第2開閉弁53は、制御部21の制御により開閉する。第2レギュレータ54は、制御部21の制御により、インジェクタ55の上流側におけるアノードガスの圧力を調整する。インジェクタ55は、制御部21によって設定された駆動周期や開弁時間に応じて、電磁的に駆動する開閉弁であり、燃料電池スタック10に供給されるアノードガス供給量を調整する。インジェクタ55は、アノードガス配管51に複数設けられていてもよい。なお、インジェクタ55、第2レギュレータ54、第2開閉弁53は、「アノードガス供給源」として把握することができる。
【0017】
アノードオフガス配管61は、燃料電池スタック10のアノードオフガス出口に接続され、燃料電池スタック10と燃料電池システム100の外部とを連通する。アノードオフガス配管61は、燃料電池スタック10から排出されるアノードオフガスが流れる排出流路である。気液分離器62は、アノードオフガス配管61上に設けられている。気液分離器62は、発電反応に用いられることのなかったアノードガスや窒素ガスなどを含むアノードオフガスから、水を分離して貯留する。
【0018】
排出弁63は、アノードオフガス配管61上において気液分離器62の鉛直下方に設けられた開閉弁であり、開弁時に所定の流路断面積を有する。排出弁63は、制御部21の制御により開閉する。排出弁63が開かれると、排出弁63からは、気液分離器62内の水及びアノードオフガスが流出する。流出した水及びアノードオフガスは、カソードオフガス配管41を通じて外部へ排出される。排出弁63が閉じられている場合、アノードガスは発電で消費される一方、アノードガス以外の不純物は消費されない。不純物は、例えばカソード側からアノード側に透過した窒素などを含む。このため、アノードオフガス中の不純物濃度は徐々に増大する。このとき、排出弁63が開かれると、アノードオフガスは、カソードオフガスとともに、燃料電池システム100の外部に排出される。排出弁63の開弁中も、インジェクタ55によるアノードガスの供給が継続することにより、インジェクタ55の下流におけるアノードガス濃度が次第に高まる。
【0019】
循環配管64は、気液分離器62と、アノードガス配管51におけるインジェクタ55の下流とを接続する配管である。循環配管64には、アノードガスポンプ65が設けられている。アノードガスポンプ65は、制御部21の制御により駆動され、気液分離器62によって水が分離されたアノードオフガスを、アノードガス配管51へと送り出す。この燃料電池システム100では、アノードガスを含むアノードオフガスを循環させて、再び燃料電池スタック10に供給することにより、アノードガスの利用効率を向上させている。循環配管64は、燃料電池スタック10にアノードガスを供給するための供給流路でもある。
【0020】
第1圧力センサ67は、排出弁63よりも上流側のアノードオフガス配管61に設けられている。第1圧力センサ67は、インジェクタ55の下流におけるアノードガス配管51と、排出弁63よりも上流側のアノードオフガス配管61と、循環配管64とのいずれかに設けられていればよい。第2圧力センサ68は、排出弁63よりも下流側のアノードオフガス配管61に設けられている。第1圧力センサ67の測定値を「第1圧力値P1」とも呼び、第2圧力センサ68の測定値を「第2圧力値P2」とも呼ぶ。第1圧力センサ67及び第2圧力センサ68は、それぞれ、第1圧力値P1及び第2圧力値P2を、制御部21に送信する。第1圧力センサ67及び第2圧力センサ68は、差圧検出部として機能する。
【0021】
冷却媒体循環部70は、冷媒供給管71と、冷媒排出管72と、ラジエータ73と、冷媒ポンプ74と、三方弁75と、バイパス配管76と、温度センサ77と、を備える。冷却媒体循環部70は、燃料電池スタック10内に冷却媒体を循環させることにより、燃料電池スタック10の温度を調整する。冷媒としては、例えば、水、エチレングリコール、空気などが用いられる。
【0022】
冷媒供給管71は、燃料電池スタック10内の冷却媒体入口に接続され、冷媒排出管72は、燃料電池スタック10の冷却媒体出口に接続されている。ラジエータ73は、冷媒排出管72と冷媒供給管71とに接続されており、冷媒排出管72から流入する冷却媒体を、電動ファンの送風等により冷却してから冷媒供給管71へと排出する。冷媒ポンプ74は、冷媒供給管71に設けられており、冷媒を燃料電池スタック10に圧送する。三方弁75は、制御部21の制御により、ラジエータ73とバイパス配管76への冷媒の流量を調節する。温度センサ77は、燃料電池スタック10から排出される冷媒の温度を測定し、その測定値を制御部21へ送信する。
【0023】
DC/DCコンバータ80は、燃料電池スタック10の出力電圧を昇圧してPCU81に供給する。PCU81は、インバータを内蔵し、制御部21の制御によりインバータを介して負荷82に電力を供給する。燃料電池スタック10及び図示しない2次電池の電力は、PCU81を含む電源回路を介して、車輪(図示せず)を駆動するためのトラクションモータ(図示せず)等の負荷82や、カソードガスコンプレッサ33、アノードガスポンプ65、各種弁に供給される。電流センサ83は、燃料電池スタック10の出力電流値を測定し、その測定値を制御部21へ送信する。
【0024】
制御部21は、要求電力に応じて燃料電池システム100の各部を制御し、燃料電池スタック10の出力を制御する。要求電力には、燃料電池システム100が搭載される車両110の運転者などによる外的発電要求と、燃料電池システム100の補機類に対して電力を供給するための内的発電要求と、が含まれる。外的発電要求は、車両110の図示しないアクセルペダルの踏込量の増大につれ、増大する。
【0025】
制御部21は、排出弁63の開弁条件が満たされた場合に排出弁63を開き、排出弁63の閉弁条件が満たされた場合に排出弁63を閉じる、開閉処理を実行する。開弁条件は、例えば、気液分離器62に貯留された水が規定値に達したことや、インジェクタ55下流側の窒素濃度が規定値に達したことである。排出弁63が閉じられている間における、気液分離器62に貯留される水の量や、インジェクタ55下流側の窒素濃度は、例えば、燃料電池スタック10の発電量に基づいて算出される。閉弁条件は、排出弁63から流出するアノードオフガス排出量の総量が、目標値に達したことである。アノードオフガス排出量の目標値は、低減すべきアノードオフガス中の窒素濃度に基づいて定められる。
【0026】
制御部21は、排出弁63からのアノードオフガス排出量を推定する、推定処理を実行する。推定処理では、制御部21は、差圧から、気液分離器62に流入し排出弁63から流出する水量によって減少する、アノードオフガスにとっての排出弁63の有効断面積を推定する。制御部21は、推定した有効断面積を用いて、以下の式(1)により単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを推定する。制御部21は、排出弁63が開かれてからの単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを積算することで、アノードオフガス排出量の総量(総排出量)を推定する。
【0027】
【数1】
【0028】
式(1)におけるQ、A、K1、K2、P1、R、T、H1は以下のとおりである。
Q(mol/sec):単位時間あたりのアノードオフガス排出量
A(m):排出弁63の流路断面積
K1:第1係数
K2:第2係数
P1(Pa):第1圧力値
R(J/Kg・K):気体定数
(K):温度
H1:アノードオフガス係数
詳細は後述するが、本実施形態において、流路断面積Aに第1係数K1及び第2係数K2を乗算することで流路断面積Aを補正した値(A・K1・K2)は、アノードオフガスにとっての有効断面積である。本実施形態において、温度Tは、温度センサ77の測定値である。他の実施形態において、温度Tは、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスとカソードガスの温度でもよいし、アノードオフガスの温度でもよい。アノードオフガスの温度は、例えば、排出弁63の上流側におけるアノードオフガス配管61に温度センサ77を設けることで測定できる。H1は、アノードオフガスの気体としての性質により変化する、アノードオフガス排出量Qの補正項であり、本実施形態では、以下の式(2)により算出される。他の実施形態では、補正項H1は1であってもよい。
【0029】
【数2】
【0030】
式(2)におけるP2(Pa)は第2圧力値であり、γはアノードオフガスの比熱比である。なお、比熱比γは、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスの比熱比でもよいし、アノードガスとカソードガスを合わせたガスの比熱比でもよい。
【0031】
図2から図5を参照しつつ、式(1)における第1係数K1及び第2係数K2について説明する。図2及び図3は、排出弁63が開かれた後における、排出弁63の流路断面63hのイメージ図である。流路断面63hを、排出弁63の排出口と呼ぶこともできる。図2及び図3においてハッチングが付されていない部分は、排出弁63の流路断面63hにおいてアノードオフガスが占める割合のイメージを示し、ハッチングが付された部分は、排出弁63の流路断面63hにおいて水が占める割合のイメージを示す。図2及び図3において、ハッチングが付されていない部分の面積は、流路断面63hの面積(以下、流路断面積)のうち、アノードオフガスにとっての有効断面積である。流路断面63hにおいては、図2に示すように、アノードオフガスのみが流れ、流路断面積のうちの100%をアノードオフガスが占める場合と、図3に示すように、水とアノードオフガスとが流れ、例えば、流路断面積のうち約40%を水が占め、約60%をアノードオフガスが占める場合がある。第1係数K1及び第2係数K2は、流路断面積のうち、水が占める割合を除いたアノードオフガスが占める割合を示す係数である。第1係数K1、第2係数K2が大きいほど、流路断面積のうちアノードオフガスが流れる面積の割合は大きくなり、アノードオフガスにとっての有効断面積は大きくなる。
【0032】
第1係数K1について詳細に説明する。発明者らは、燃料電池スタック10の発電による生成水の全てが気液分離器62内に流入するのではなく、その一部が排出流路等に留まる場合があることを見出した。排出流路等に留まる水は、排出弁63よりも上流側の排出流路や、燃料電池スタック10内等の排出弁63よりも上流側の燃料電池システム100における各部品に留まる水や、これらに付着する結露水を含む。また、発明者らは、差圧によって排出流路等に留まる水の量が異なることを見出した。
【0033】
図4は、気液分離器62に流入する流入水速度と、差圧と、第1係数K1との関係(以下、第1関係)を示す図である。図4に示すグラフLa、Lb、Lcは、それぞれ、第1圧力値P1と第2圧力値P2の差圧がPa、Pb、Pcである場合の流入水速度と第1係数K1との関係を示している。差圧は、Pa、Pb、Pcの順に大きくなる。第1係数K1は、排出弁63の流路断面積のうち、排出流路から気液分離器62へ流入する流入水速度と差圧とを用いて推定される、アノードオフガスが流れる面積の割合に対応した係数である。流入水速度は、燃料電池スタック10の発電量に基づく生成水量を用いて算出することができる。発電量は、電流センサ83から得られる燃料電池スタック10の出力電流値から算出することができる。第1関係は、燃料電池システム100における各部品の構成や配置を考慮した、実験やシミュレーションにより求めることができる。図4に示すように、流入水速度が大きいほど、第1係数K1は小さくなる。流入水速度が大きいほど気液分離器62に流入する水の量が増えて、流路断面積を水が占める割合が大きくなるためである。また、差圧が大きいほど、第1係数K1は大きくなる。差圧が大きいほど、水を押し出す力が大きくなるためである。推定処理において、第1係数K1を用いてアノードオフガスにとっての有効断面積を推定することで、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させることができる。
【0034】
次に、第2係数K2について詳細に説明する。発明者らは、排出弁63が開かれると、気液分離器62内の貯留水が全て排出されたか否かにかかわらず、気液分離器62内の貯留水とともにアノードオフガスが排出される場合があることを見出した。図5は、気液分離器62内の貯留水量と第2係数K2との関係(以下、第2関係)を示す図である。第2係数K2は、排出弁63の流路断面積のうち、気液分離器62内の貯留水量を用いて推定される、アノードオフガスが流れる面積の割合に対応した係数である。第2関係は、燃料電池システム100における各部品の構成や配置を考慮した、実験やシミュレーションにより求めることができる。貯留水量が図5に示す閾値Th1以上である場合には、排出弁63を開いてもアノードオフガスは流れず、第2係数K2は0となる。貯留水量が閾値Th1以下になると、排出弁63を開くことにより貯留水とともにアノードオフガスが流出する。貯留水量が閾値Th1よりも減少するにつれて、第2係数K2は増加する。推定処理において、第1係数K1に加え、第2係数K2用いてアノードオフガスにとっての有効断面積を推定することで、アノードオフガス排出量の推定精度をより向上させることができる。
【0035】
第2係数K2を算出するための気液分離器62内の貯留水量を求める方法の例について説明する。ある時点における貯留水量は、例えば、燃料電池スタック10の発電量と、差圧に関連付けられた、気液分離器62の貯留水が気液分離器62から排出される速度と、を用いて算出することができる。具体的には、制御部21は、電流センサ83から得られる燃料電池スタック10の出力電流値から算出される発電量に基づく生成水量を用いて、燃料電池スタック10の発電により気液分離器62内へ流入する水の速度V1を算出する。この際、温度センサ77から得られる燃料電池スタック10の温度Tが考慮されてもよい。また、制御部21は、差圧と、気液分離器62から排出される貯留水の速度との予め定められた関係を用いて、貯留水が排出される速度V2を算出する。そして、速度V1から速度V2を引くことで、気液分離器62の貯水速度を算出して、単位時間あたりの貯水量を算出する。単位時間当たりの貯水量と、現在の貯留水量を算出する前の貯水量を足すことで、現在の貯留水量を算出することができる。なお、他の実施形態において、気液分離器62に貯留水量を測定するセンサを設け、当該センサにより貯留水量を測定してもよい。制御部21は、貯留水量測定センサから得られた値と、第2関係とを用いて、第2係数K2を求めてもよい。
【0036】
図6は、制御部21が実行する排出弁63の開閉処理を示すフローチャートである。開閉処理は、燃料電池システム100の始動中、繰り返し実行される。ステップS10では、制御部21は、上述した排出弁63の開弁条件のいずれかが成立したか否かを判定する。開弁条件が成立している場合には、制御部21は、処理をステップS20に進め、排出弁63を開く。開弁条件が成立していない場合には、制御部21は、本ルーチンを抜ける。
【0037】
ステップS30からステップS70では、アノードオフガス排出量の推定処理が実行される。ステップS30では、制御部21は、排出弁63の上流側と下流側の差圧を取得し、図4を用いて説明した第1関係を用いて、第1係数K1を算出する。ステップS40では、制御部21は、気液分離器62内の貯留水量を算出し、図5を用いて説明した第2関係を用いて、第2係数K2を算出する。ステップS30とステップS40は同時に実行されてもよい。または、ステップS30とステップS40の順序は入れ替えられてもよい。
【0038】
第1係数K1及び第2係数K2を算出すると、ステップS50において、制御部21は、式(1)を用いて単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを算出する。式(1)を用いることで、流路断面積Aに第1係数K1及び第2係数K2が乗算される。すなわち、本実施形態では、式(1)を用いて単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを算出することで、同時に、有効断面積が推定される。他の実施形態では、事前に、第1係数K1及び第2係数K2を流路断面積Aに乗算して有効断面積を求めてもよい。
【0039】
ステップS60では、制御部21は、ステップS20で排出弁63が開かれてからの単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを積算して、アノードオフガスの総排出量を算出する。ステップS70では、制御部21は、アノードオフガスの総排出量が目標値未満である場合には、処理をステップS30に戻し、推定処理を繰り返す。アノードオフガスの総排出量が目標値以上である場合には、制御部21は、処理をステップS80に進め、排出弁63を閉じる。
【0040】
この形態によれば、制御部21は、排出弁63の上流側と下流側との差圧から、気液分離器62に流入し排出弁63から流出する水量によって減少する、アノードオフガスにとっての排出弁63の有効断面積を推定し、推定した有効断面積を用いてアノードオフガス排出量を推定する。そのため、排出弁63よりも上流側において排出流路等に留まる水が考慮されてアノードオフガス排出量が算出されるので、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させることができる。
【0041】
この形態によれば、アノードオフガスにとっての有効断面積を、気液分離器62に流入する流入水の速度と差圧と用いて推定される、アノードオフガスが流れる面積の割合に対応した第1係数K1を求めることにより推定することができる。
【0042】
この形態によれば、アノードオフガス排出量の推定精度が向上するので、推定されるアノードオフガス排出量が実際の排出量よりも多くなることや少なくなることを抑制できる。そのため、実際の排出量が、推定されるアノードオフガス排出量よりも少ないことに起因して、発電反応に用いられるアノードガス中の窒素等の不純物濃度が目標とされる濃度よりも高い状態で、排出弁63が閉じられることを抑制できる。その結果、燃料電池セル11の劣化を抑制できる。また、実際の排出量が、推定されるアノードオフガス排出量よりも多いことによって、アノードガスが余剰に排出されることを抑制できる。
【0043】
この形態によれば、アノードオフガスにとっての有効断面積を、第1係数K1と、気液分離器62内の貯留水を用いて推定される第2係数K2とを求めることにより推定し、推定した有効断面積を用いてアノードオフガス排出量を推定する。そのため、気液分離器62内の貯留水がアノードオフガスとともに排出されることが考慮されるので、アノードオフガス排出量の推定精度をより向上させることができる。
【0044】
この形態によれば、推定処理は、排出弁63が開かれてから閉じられるまで継続して実行されるので、アノードオフガス排出量として、気液分離器62内の貯留水の排出が完了する前に、気液分離器62内の貯留水とともに排出されるアノードオフガスが考慮される。そのため、気液分離器62内の貯留水の排出が完了した後に、アノードオフガス排出量を算出する場合と比較して、アノードオフガス排出量の推定精度を向上することができる。
【0045】
この形態によれば、排出弁63を開いた後、推定したアノードオフガスの総排出量が目標値以上となった場合に排出弁63を閉じるので、目標とする量のアノードオフガスを排出することができる。
【0046】
2.第2実施形態
図7は、第2実施形態における排出弁63の開閉処理を示すフローチャートである。第2実施形態の開閉処理では、ステップS20とステップS30の間にステップS25を備える点と、ステップS25が肯定判定された場合にステップS27が実行される点とにおいて、上述の第1実施形態(図6参照)と異なる。第2実施形態では、ステップS25、S27、S30、S40、S50、S60、S70を合わせた処理が、推定処理に相当する。
【0047】
ステップS25では、制御部21は、差圧が予め定められた閾値Pth以上であるか否かを判定する。
【0048】
図8は、差圧と単位時間あたりのアノードオフガス排出量との関係を示す図である。図8におけるプロットは、燃料電池システム100において差圧を変化させた場合における、単位時間あたりのアノードオフガス排出量の測定値である。図8における実線Ldは、実験データから導き出された、差圧と単位時間あたりのアノードオフガス排出量との関係を示すグラフである。図8から明らかなように、差圧が閾値Pthに達するまでは、差圧が増加するにつれて単位時間あたりのアノードオフガス排出量は増加する。すなわち、差圧と単位時間あたりのアノードオフガス排出量とは比例関係を示す。差圧が閾値Pth以上になると、単位時間あたりのアノードオフガス排出量は差圧によらず、ほぼ一定の値を示す。すなわち、閾値Pth以上では、単位時間あたりのアノードオフガス排出量は差圧の影響を受けにくくなる。そのため、本実施形態では、差圧が閾値Pth未満であるか差圧が閾値Pth以上であるかにより、単位時間当たりのアノードオフガス排出量Qを推定するための物理式を、差圧に関連する第1係数K1を用いる式(1)と、差圧に関連しない式とで切り替えることで、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させる。
【0049】
図7に戻り、制御部21は、差圧が閾値Pth未満である場合には(ステップS25、NO)、第1実施形態における式(1)を用いて単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを算出し、アノードオフガスの総排出量を算出する(ステップS30~ステップS70参照)。差圧が閾値Pth以上である場合には(ステップS25、YES)、制御部21は、ステップS27において、アノードオフガスにとっての有効断面積として、流路断面積Aを用いた以下の式(3)により、単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを算出する。閾値Pthを「臨界差圧」とも呼ぶ。
【0050】
【数3】
【0051】
上記式(3)において、H2は、差圧が閾値Pth以上の場合における、アノードオフガスの気体としての性質により変化する補正項である。本実施形態では、H2は、以下の式(4)により算出される。他の実施形態では、H2は1であってもよい。
【0052】
【数4】
【0053】
制御部21は、式(3)により単位時間あたりのアノードオフガス排出量Qを算出し、処理をステップS70に進める。第2実施形態の開閉処理及び推定処理におけるその他の工程は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0054】
図9は、単位時間あたりのアノードオフガス排出量と、圧力比の関係を示す図である。圧力比は、第2圧力値P2に対する第1圧力値P1の値である。図9に示すプロットは、燃料電池システム100において圧力比を変化させた場合における、単位時間あたりのアノードオフガス排出量の測定値である。図9に示す実線Leは、圧力比を変化させた場合に、式(1)及び式(3)において得られる、単位時間あたりのアノードオフガス排出量を示している。実線Leを導出する際には、差圧が閾値Pth未満では式(1)を用い、閾値Pth以上では式(3)を用いた。図9に示すように、実験データと式(1)及び式(3)により算出される単位時間あたりのアノードオフガス排出量とは、よく一致している。すなわち、閾値Pth未満では差圧に関連した式(1)を用い、閾値Pth以上では差圧に関連しない式(3)を用いることで、アノードオフガス排出量を精度良く推定できることが示された。
【0055】
この形態によれば、差圧が予め定められた閾値Pth未満である場合には、差圧に関連した第1係数K1を用いてアノードオフガスにとっての有効断面積を推定する式(1)を用いてアノードオフガス排出量を推定し、差圧が閾値Pth以上である場合には、差圧を考慮せず、排出弁63の流路断面積Aをアノードオフガスにとっての有効断面積とした式(3)によりアノードオフガス排出量を推定する。そのため、差圧が閾値Pth以上である場合に、アノードオフガス排出量が差圧に比例して増加する量として算出される場合と比較して、推定されるアノードオフガス排出量が実際の排出量よりも多くなることを抑制することができる。そのため、アノードオフガス排出量の推定精度をいっそう向上させることができる。
【0056】
3.他の実施形態
上記第2実施形態において、単位時間当たりのアノードオフガス排出量を式(1)を用いて算出して開閉処理を実行し、燃料電池セル11の劣化が抑制される範囲の上限の差圧を取得して、当該上限の差圧を閾値Pthとして定めてもよい。この形態によっても、第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0057】
上記実施形態において、制御部21は、気液分離器62内の貯留水の排出が完了したことを、例えば、気液分離器62に設けられたセンサにより判定してもよい。制御部21は、気液分離器62内の貯留水の排出が完了した後、気液分離器62内の貯留水量に関する第2係数K2を用いず、差圧に関連する第1係数K1により流路断面積を補正して、アノードオフガスにとっての有効断面積を推定してもよい。この形態によっても、排出弁63よりも上流側において排出流路等に留まる水が考慮されてアノードオフガス排出量が算出されるので、アノードオフガス排出量の推定精度を向上させることができる。
【0058】
上記実施形態において、アノードガス供給排出部50における循環配管64とアノードガスポンプ65とは設けられていなくてもよい。すなわち、燃料電池システム100の構成は、アノードオフガスを循環させない構成であってもよい。
【0059】
制御部21が実行する各種の制御や処理のうち、推定処理以外の処理は、制御部21以外の他の機能部が実行してもよい。例えば、制御装置20の備えるCPUは、メモリに記憶されたプログラムを展開して実行することで、開閉処理実行部として機能してもよい。または、上記推定処理以外の処理は、燃料電池システム100の備える他のECUにより実行されてもよい。
【0060】
上記実施形態において、燃料電池システム100は、車両110に搭載されているが、燃料電池システム100は、船舶、電車、ロボット等の車両110以外の移動体に搭載されてもよいし、定置されるものであってもよい。
【0061】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、他の実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組合せを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…燃料電池スタック、11…燃料電池セル、20…制御装置、21…制御部、30…カソードガス供給排出部、31…カソードガス配管、32…エアフローメータ、33…カソードガスコンプレッサ、34…第1開閉弁、35…バイパス配管、36…分流弁、41…カソードオフガス配管、42…第1レギュレータ、50…アノードガス供給排出部、51…アノードガス配管、52…アノードガスタンク、53…第2開閉弁、54…第2レギュレータ、55…インジェクタ、61…アノードオフガス配管、62…気液分離器、63…排出弁、63h…流路断面、64…循環配管、65…アノードガスポンプ、67…第1圧力センサ、68…第2圧力センサ、70…冷却媒体循環部、71…冷媒供給管、72…冷媒排出管、73…ラジエータ、74…冷媒ポンプ、75…三方弁、76…バイパス配管、77…温度センサ、80…DC/DCコンバータ、81…PCU、82…負荷、83…電流センサ、100…燃料電池システム、110…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9