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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】既設床版取替え方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20230502BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019171706
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021046767
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 博典
(72)【発明者】
【氏名】井口 進
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-186002(JP,A)
【文献】特開2000-346026(JP,A)
【文献】特開2006-214226(JP,A)
【文献】特開昭63-014906(JP,A)
【文献】特開平01-137006(JP,A)
【文献】実開平04-097915(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋の既設コンクリート床版を、デッキプレートと複数の支持桁を有する鋼床版に、取り替える方法であって、
前記支持桁は、前記デッキプレートの下面側に固定された鋼床版ウェブと、該鋼床版ウェブの下端に固定された鋼床版フランジと、を含んで形成され、
既設主桁の上フランジである支持フランジを穿孔することによって、ボルト挿通孔を形成する支持フランジ穿孔工程と、
前記支持フランジ穿孔工程の後に、前記既設コンクリート床版を切断して、該既設コンクリート床版と前記既設主桁を分離する既設床版切断工程と、
前記既設主桁から分離された前記既設コンクリート床版を撤去する既設床版撤去工程と、
前記鋼床版フランジと前記支持フランジとの間に離隔が形成されるように該鋼床版フランジを該支持フランジ上に配置するとともに、前記ボルト挿通孔に挿通した上下連結ボルトによって該鋼床版フランジと該支持フランジとを連結固定する鋼床版設置工程と、
前記離隔にモルタル又はコンクリートを充填する充填工程と、を備え、
前記離隔は、前記上下連結ボルトに取り付けられた調整ナットを前記支持フランジ上に載置することによって形成され、
前記鋼床版設置工程では、前記調整ナットを用いて前記離隔の寸法を調整しながら、前記鋼床版フランジを前記支持フランジ上に配置する、
ことを特徴とする既設床版取替え方法。
【請求項2】
前記支持フランジ穿孔工程では、前記既設床版撤去工程で残される前記既設コンクリート床版の層厚を含んで穿孔する、
ことを特徴とする請求項1記載の既設床版取替え方法。
【請求項3】
道路橋の既設コンクリート床版を、デッキプレートと複数の支持桁を有する鋼床版に、取り替える方法であって、
前記支持桁は、前記デッキプレートの下面側に固定された鋼床版ウェブと、該鋼床版ウェブの下端に固定された鋼床版フランジと、を含んで形成され、
既設主桁の上フランジである支持フランジを穿孔することによって、ボルト挿通孔を形成する支持フランジ穿孔工程と、
前記支持フランジ穿孔工程の後に、前記既設コンクリート床版を切断して、該既設コンクリート床版と前記既設主桁を分離する既設床版切断工程と、
前記既設主桁から分離された前記既設コンクリート床版を撤去する既設床版撤去工程と、
2以上の板状の調整板を重ねて、前記支持フランジ上に設置する調整板設置工程と、
前記鋼床版フランジを前記調整板の上に載置するとともに、前記ボルト挿通孔に挿通した上下連結ボルトによって該鋼床版フランジと前記支持フランジとを連結固定する鋼床版設置工程と、を備え、
前記支持フランジ上に重ねる前記調整板の数によって前記鋼床版フランジの設置高を調整することができる、
ことを特徴とする既設床版取替え方法。
【請求項4】
前記調整板設置工程では、前記上下連結ボルトと干渉しない位置に前記調整板を配置し、
前記鋼床版設置工程では、前記調整板に前記上下連結ボルトを挿通することなく、前記鋼床版フランジと前記支持フランジを連結固定する、
ことを特徴とする請求項3記載の既設床版取替え方法。
【請求項5】
既設コンクリート床版を、デッキプレートと複数の支持桁を有する鋼床版に、取り替える方法であって、
前記支持桁は、前記デッキプレートの下面側に固定された鋼床版ウェブと、該鋼床版ウェブの下端に固定された鋼床版フランジと、を含んで形成され、
前記既設コンクリート床版を切断して、該既設コンクリート床版と既設主桁を分離する既設床版切断工程と、
前記既設主桁から分離された前記既設コンクリート床版を撤去する既設床版撤去工程と、
縦桁ウェブと該縦桁ウェブの上端に固定された縦桁フランジとを含んで形成される新設縦桁を、前記既設主桁に取り付けられた横桁に設置する縦桁増設工程と、
前記鋼床版フランジを前記縦桁フランジ上に配置するとともに、上下連結ボルトによって該鋼床版フランジと該縦桁フランジとを連結固定する鋼床版設置工程と、を備えた、
ことを特徴とする既設床版取替え方法。
【請求項6】
前記鋼床版設置工程では、前記上下連結ボルトに取り付けられた調整ナットを前記縦桁フランジ上に載置することで、前記鋼床版フランジと該縦桁フランジとの間に離隔が形成されるように前記鋼床版を前記新設縦桁上に配置し、
前記調整ナットを用いて前記離隔の寸法を調整する高さ調整工程と、
前記離隔にモルタル又はコンクリートを充填する充填工程と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項5記載の既設床版取替え方法。
【請求項7】
1又は2以上の調整板を、前記縦桁フランジ上に設置する調整板設置工程を、さらに備え、
前記鋼床版設置工程では、前記鋼床版フランジを前記調整板の上に載置する、
ことを特徴とする請求項5記載の既設床版取替え方法。
【請求項8】
前記鋼床版フランジと該縦桁フランジとの間に形成された離隔に、モルタル又はコンクリートを充填する充填工程を、さらに備え、
前記離隔は、前記鋼床版フランジと該縦桁フランジとの間に設置された前記調整板によって形成される、
ことを特徴とする請求項7記載の既設床版取替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、既設の橋梁床版を新規の床版に取り替える技術に関し、より具体的には、主桁は残したまま既設のコンクリート床版を撤去して新たな鋼床版を設置する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。この定期点検要領では、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象としており、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。
【0004】
このような点検を実施するなか、鋼製の主桁には異常が見られないものの鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)床版には損傷や劣化がみられるといったケースもある。コンクリートの耐久性は50年とも100年ともいわれるが、仮に50年とすると多くのコンクリート構造物は何らかの対策を必要としていることになり、コンクリート製の部材が先行して劣化することも考えられる。実際、点検の義務化以降、コンクリート構造物の点検が網羅的に実施されており、多くのコンクリート部材に劣化や損傷が発見されている。
【0005】
他の部材に比して特にRC床版の劣化等がみられる場合、主桁など他の部材はそのまま継続して使用することとし、RC床版のみを新規なものに取り替える工事が行われることが多い。既設のRC床版を取り替えるにあたっては、これまで種々の技術が提案されており、例えば特許文献1では、新設床版に設けられる接合部材を利用して新設床版を既設橋主桁上に設置する技術を提案している。より詳しくは、あらかじめ新設床版の下面側に橋軸方向に連続するように接合部材(鉛直姿勢の2枚の板材)を取り付けておき、既設橋主桁上の床版コンクリートを橋軸方向に断続的に部分切除するとともに、この部分切除した箇所に新設床版の接合部材を載置し、既設橋主桁の上フランジと接合部材からなる閉断面空間に新設コンクリートを打設することによって、新設床版と既設橋主桁を一体化させるという技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-122353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、RC床版を撤去した後の既設主桁に新設の床版を設置するケースでは、新設床版の高さ調整が難しいという問題があった。特許文献1では、接合部材の下端にスペーサーを配置することで高さ調整を行うこととしているが、接合部材には相当の荷重(自重)が作用するうえ接合部材のように板状部材の先端に配置されたスペーサーは変形しやすく(潰れやすく)、高さ調整を行うことは容易ではない。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、RC床版撤去後の既設主桁に新設の鋼床版を設置するにあたって、容易に鋼床版の高さ調整を行うことができる既設床版取替え方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、鋼床版の下面側に複数の支持桁を設けるとともにこの支持桁を既設主桁上に載置することとし、支持桁の鋼床版フランジと支持フランジ(既設主桁の上フランジ)との間に離隔や調整板を設置することによって、あるいは新たに増設した縦桁の上に支持桁を載置することによって、鋼床版の設置高を調整する、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の既設床版取替え方法は、既設コンクリート床版を鋼床版に取り替える方法であって、既設床版切断工程と既設床版撤去工程、支持フランジ穿孔工程、鋼床版設置工程、充填工程を備えた方法である。なお、新たに設置される鋼床版はデッキプレートと複数の支持桁を有しており、この支持桁はデッキプレートの下面側に固定された鋼床版ウェブとその鋼床版ウェブの下端に固定された鋼床版フランジを含んで形成されるものである。既設床版切断工程では、既設コンクリート床版を切断して既設コンクリート床版と既設主桁を分離し、既設床版撤去工程では、既設主桁から分離された既設コンクリート床版を撤去し、支持フランジ穿孔工程では、支持フランジ(既設主桁の上フランジ)にボルト挿通孔を形成する。鋼床版設置工程では、鋼床版フランジと支持フランジとの間に離隔が形成されるように鋼床版フランジを支持フランジ上に配置するとともに、ボルト挿通孔に挿通した上下連結ボルトによって鋼床版フランジと支持フランジとを連結固定し、充填工程では、離隔に充填材を充填する。この充填材は、モルタルやコンクリートといったセメント系材料であり、特に無収縮モルタルといったモルタルが好適に用いられる。鋼床版フランジと支持フランジとの間の離隔は、上下連結ボルトに取り付けられた調整ナットを支持フランジ上に載置することによって形成され、また鋼床版設置工程では、調整ナットを用いて離隔の寸法を調整しながら、鋼床版フランジを支持フランジ上に配置する。なお、上下連結ボルトとして高力ボルトを用い、さらに支持フランジの下面側をナットで締め付けて上下連結ボルトに軸力を導入すれば、充填材を介して鋼床版フランジと支持フランジとの間に作用するせん断力を負担することができる。また、上下連結ボルトは、高力ボルトのほかスタッドボルトを用いることもできる。この場合、スタッドボルトを鋼床版フランジ下面に溶接固定するとよい。スタッドボルトを溶接固定したケースでも、支持フランジの下面側のナットを締め付けて上下連結ボルトに軸力を導入すれば、充填材を介して鋼床版フランジと支持フランジとの間に作用するせん断力を負担することができる。支持フランジ穿孔工程は、既設床版撤去工程の後に行うことも、既設床版撤去工程と既設床版切断工程との間に行うことも、あるいは既設床版切断工程の前に行うこともできる。
【0011】
本願発明の既設床版取替え方法は、残コンクリートに対して拡孔ボルト挿通孔を形成する方法とすることもできる。ここで残コンクリートとは、分離された既設コンクリート床版の一部が、支持フランジ上に残ったものであり、また拡孔ボルト挿通孔とは、支持フランジに形成された挿通孔より拡孔されたボルト挿通用の孔である。
【0012】
本願発明の既設床版取替え方法は、充填工程に代えて調整板設置工程を備えた方法とすることもできる。この調整板設置工程では、1又は2以上の調整板を支持フランジ上に設置する。なお調整板は、板状のものであり、例えば鋼板やコンクリート板、モルタル板、FRP板、強化プラスチックなど所定の強度を有する様々な板材を利用することができる。この場合、鋼床版設置工程では、鋼床版フランジを調整板の上に載置するとともに、ボルト挿通孔に挿通した上下連結ボルトによって鋼床版フランジと支持フランジを連結固定する。この場合も、支持フランジ穿孔工程は、既設床版撤去工程の後に行うことも、既設床版撤去工程と既設床版切断工程との間に行うことも、あるいは既設床版切断工程の前に行うこともできる。支持フランジ上に調整板を設置し、鋼床版フランジを調整板の上に載置することから、充填材等の硬化を待つことなく、すなわちより早期に交通開放を行うことができる。つまり調整板が、交通荷重などの鉛直荷重を支持するわけである。また、支持フランジ下面側ナットをトルク管理して軸力を導入すれば、支持フランジ上面側に残されたコンクリートや鋼板の間に摩擦力が作用し、鋼床版と既設主桁の間に作用する供用後のせん断力を負担することができる。
【0013】
本願発明の既設床版取替え方法は、充填工程に代えて調整板設置工程を備え、さらに充填工程を備えた方法とすることもできる。この充填工程では、鋼床版フランジと支持フランジとの間に形成された離隔に、モルタル又はコンクリートを充填する。なお離隔は、鋼床版フランジと支持フランジとの間に設置された調整板によって形成される。この場合も、調整板が交通荷重などの鉛直荷重を支持することから、充填材等の硬化を待つことなく早期に交通開放を行うことができる。また、支持フランジ下面側ナットをトルク管理して軸力を導入すれば、支持フランジ上面側に残されたコンクリートや鋼板の間に摩擦力が作用し、鋼床版と既設主桁の間に作用する供用後のせん断力を負担することができる。
【0014】
本願発明の既設床版取替え方法は、新たに設置される鋼床版を、既設主桁に支持させることなく、増設された新設縦桁に支持させる方法とすることもできる。この場合、既設主桁に取り付けられた横桁に新設縦桁を設置する縦桁増設工程を備え、鋼床版設置工程では、鋼床版フランジを縦桁フランジ上に配置するとともに、上下連結ボルトによって鋼床版フランジと縦桁フランジとを連結固定する。
【0015】
本願発明の既設床版取替え方法は、新たに設置される鋼床版を新設縦桁に支持させるとともに、高さ調整工程と充填工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合、鋼床版設置工程では、上下連結ボルトに取り付けられた調整ナットを縦桁フランジ上に載置することで、鋼床版フランジと縦桁フランジとの間に離隔が形成されるように鋼床版を新設縦桁上に配置する。そして、高さ調整工程では、調整ナットを用いて離隔の寸法を調整し、充填工程では、離隔にモルタル又はコンクリートを充填する。
【0016】
本願発明の既設床版取替え方法は、新たに設置される鋼床版を新設縦桁に支持させるとともに、1又は2以上の調整板を縦桁フランジ上に設置する調整板設置工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合、鋼床版設置工程では、鋼床版フランジを調整板の上に載置する。
【0017】
本願発明の既設床版取替え方法は、新たに設置される鋼床版を新設縦桁に支持させるとともに、調整板設置工程と充填工程をさらに備えた方法とすることもできる。この充填工程では、鋼床版フランジと縦桁フランジとの間に形成された離隔に、モルタル又はコンクリートを充填する。なお離隔は、鋼床版フランジと縦桁フランジとの間に設置された調整板によって形成される。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の既設床版取替え方法には、次のような効果がある。
(1)鋼床版フランジと支持フランジの間に設ける離隔や調整板を利用することによって、あるいは新たに増設した縦桁上に支持桁を載置することによって、鋼床版の設置高を容易に調整することができる。この結果、適切かつ迅速に床版の取替え工事を行うことができ、例えば道路橋であれば早期に車両の通行を復旧させることができる。
(2)鋼床版フランジを支持フランジ上に載置することから、つまり面と面で荷重(主に自重)を伝達することから、新たに設置する鋼床版を既設主桁上に安定して設置することができる。
(3)RC床版に比して軽量な鋼床版を設置することによって、橋梁全体(特に下部工)の耐震性能が向上する。また、拡幅などの機能向上も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は既設の道路橋を側方から見た側面図、(b)は既設の道路橋を橋軸直角方向に切断した断面図。
図2】既設コンクリート床版を取り除いた後の既設主桁の支持フランジ上に新設鋼床版を設置する状況を示す断面図。
図3】本願発明の既設床版取替え方法の第1の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図。
図4】本願発明の既設床版取替え方法の第1の実施形態における主な工程を示すステップ図。
図5】支持フランジに形成されたボルト挿通孔と残コンクリートに形成された拡孔ボルト挿通孔を模式的に示す断面図。
図6】支持フランジ穿孔工程を既設床版切断工程の先行工程として行う場合の第1の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図。
図7】鋼床版フランジ下面に溶接固定されたスタッドボルト(上下連結ボルト)を示す断面図。
図8】上下連結ボルトで鋼床版フランジと支持フランジが連結固定されることによって形成された離隔を模式的に示す断面図。
図9】(a)は既設横桁に設けられた新設縦桁を示す断面図、(b)は上部に離隔が形成された既設主桁と新設縦桁に支持された新設鋼床版を示す断面図。
図10】本願発明の既設床版取替え方法の第2の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図。
図11】本願発明の既設床版取替え方法の第2の実施形態における主な工程を示すステップ図。
図12】離隔に充填材を充填する場合の第2の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図。
図13】(a)は支持フランジ上に調整板を設置することによって離隔が形成された状態を示す断面図、(b)は離隔内に充填材が充填された状態を示す断面図。
図14】上部に調整板が設置された既設主桁と新設縦桁に支持された新設鋼床版を示す断面図。
図15】本願発明の既設床版取替え方法の第3の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図。
図16】本願発明の既設床版取替え方法の第3の実施形態における主な工程を示すステップ図。
図17】(a)上部に離隔が形成された新設縦桁に支持された新設鋼床版を示す断面図、(b)は上部に調整板が設置された新設縦桁に支持された新設鋼床版を示す断面図。
図18】補強材によって既設主桁と新設鋼床版を連結した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.全体概要
本願発明の既設床版取替え方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。図1(a)は、既設の道路橋を側方から見た側面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す既設の道路橋を橋軸直角方向に切断した断面図である。本願発明の既設床版取替え方法は、この図に示すように主桁とコンクリート床版を含んで構成される既設橋梁を対象とするものであって、既設の主桁(以下、単に「既設主桁GR」という。)を残したまま、既設のコンクリート床版(以下、単に「既設コンクリート床版CS」という。)を新規の鋼床版(以下、単に「新設鋼床版MS」という。)に取り替える方法である。なお図1では道路橋を例示しているが、本願発明の既設床版取替え方法は、道路橋に限らず鉄道橋や管路橋などあらゆる用途の橋梁を対象とすることができる。
【0021】
図2は、既設コンクリート床版CSを取り除いた後の既設主桁GRの上フランジ(以下、「支持フランジ100」という。)の上に新設鋼床版MSを設置する状況を示す断面図である。なお、この図に示す支持フランジ100は、既設コンクリート床版CSを撤去した後のものであり、その上面には薄くコンクリートが残っている。図2に示すように本願発明の既設床版取替え方法に用いられる新設鋼床版MSは、デッキプレート200と支持桁300を含んで構成される。図2では、1つの支持桁300を示しているが、新設鋼床版MSには2以上の支持桁300が設けられ、これら支持桁300は橋軸直角方向に間隔をあけて並列配置される。
【0022】
図2に示すように支持桁300は、デッキプレート200の下面側に固定された鋼床版ウェブ310と、この鋼床版ウェブ310の下端に固定された鋼床版フランジ320とを含んで形成される。鋼床版ウェブ310は、橋軸方向(この図では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、新設鋼床版MSを設置したときに略鉛直(鉛直含む)姿勢となるように配置されている。一方の鋼床版フランジ320は、やはり橋軸方向(この図では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、新設鋼床版MSを設置したときに略水平(水平含む)姿勢となるように配置されている。デッキプレート200と鋼床版ウェブ310、そして鋼床版ウェブ310と鋼床版フランジ320は、それぞれ工場等で溶接して固定しておくとよい。
【0023】
本願発明の既設床版取替え方法は、新設鋼床版MSを設置する際に容易に高さ調整を行うことができるという特徴を備えており、この高さ調整の手法によって主に3つの形態に大別することができる。第1の形態は、図2に示す上下連結ボルト400によって支持フランジ100と鋼床版フランジ320を連結するもので、支持フランジ100と鋼床版フランジ320の間に形成される「離隔」を利用して新設鋼床版MSの設置高を調整する方法である。第2の形態は、やはり上下連結ボルト400によって支持フランジ100と鋼床版フランジ320を連結するもので、支持フランジ100と鋼床版フランジ320の間に敷設される「調整板」を利用して新設鋼床版MSの設置高を調整する方法である。そして第3の形態は、新たに増設する縦桁(以下、「新設縦桁」という。)と鋼床版フランジ320を連結するもので、この新設縦桁を利用した高さ調整を行うことによって新設鋼床版MSの設置高を調整する方法である。以下、第1の形態については「第1の実施形態」として、第2の形態については「第2の実施形態」として、第3の形態については「第3の実施形態」として、それぞれ実施形態ごとに順に説明していく。
【0024】
(第1の実施形態)
図3は、本願発明の既設床版取替え方法の第1の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図であり、図4は、その主な工程を示すステップ図である。以下、図3図4を参照しながら本願発明の既設床版取替え方法の第1の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態に使用される新設鋼床版MSは、既設主桁GRに対向する位置に支持桁300が設けられる。
【0025】
まず、図4(a)に示す既設の状態から、図4(b)に示すように既設コンクリート床版CSを切断する(図3のStep110)。より詳しくは、既設コンクリート床版CSのうち既設主桁GR上部のハンチ部分を、コアドリルで削孔した孔にワイヤーを挿入したうえでワイヤーソーを用いて切断し、図4(b)に示すように略水平な切断面を形成する。もちろん、既設橋梁のすべてのハンチ部分に対して切断面は形成され、切断面が形成されることで既設コンクリート床版CSは既設主桁GRから分離する。そして分離した既設コンクリート床版CSを、クレーン等を用いて吊り上げながら撤去する(図3のStep120)。このとき、既設コンクリート床版CSを橋軸方向や橋軸直角方向にも切断し、分割したブロック状の既設コンクリート床版CSを吊り上げて撤去していくとよい。
【0026】
既設コンクリート床版CSを撤去すると、図4(c)に示すように既設主桁GRのうち支持フランジ100に上下連結ボルト400を挿通するための小孔(以下、「ボルト挿通孔110」という。)を穿孔する(図3のStep130)。なお、既設コンクリート床版CSを撤去しても、図5に示すように支持フランジ100の上面には完全に除去されないコンクリートが残ることもある。この場合、残ったコンクリート(以下、「残コンクリート」という。)に対しても穿孔することとなる。この穿孔にあたっては、支持フランジ100と残コンクリートに同径のボルト挿通孔110を形成することもできるし、図5に示すように残コンクリートに対してさらに拡孔した拡孔ボルト挿通孔120を形成することもできる。残コンクリート部分を拡孔することによって、支持フランジ100上面の残コンクリート内に調整ナット400やワッシャを配置することができるわけである。あるいは、残コンクリートを除去したうえで、支持フランジ100のみにボルト挿通孔110を形成してもよい。
【0027】
図3図4では、既設コンクリート床版CSを切断し(図3のStep110)、既設コンクリート床版CSを撤去した(図3のStep120)後に、支持フランジ100にボルト挿通孔110を穿孔する(図3のStep130)手順を示している。すなわち支持フランジ穿孔工程が既設床版撤去工程の後続工程として行われる例を示しているが、これに限らず、支持フランジ穿孔工程を既設床版切断工程の先行工程として行うこともできる。より詳しくは、図6に示すように、まず支持フランジ100にボルト挿通孔110を穿孔し(図3のStep130)、その後、既設コンクリート床版CSを切断する(図3のStep110)とともに、既設コンクリート床版CSを撤去する(図3のStep120)。この場合、既設コンクリート床版CSを残した状態で、支持フランジ100にボルト挿通孔110を穿孔することとなる。そのため、既設コンクリート床版CSの撤去後に支持フランジ100の上面に残コンクリートが生じることも考慮し、支持フランジ100とともに既設コンクリート床版CSもある程度(支持フランジ100にコンクリートが残る程度)穿孔するとよい。さらに支持フランジ穿孔工程は、支持フランジ穿孔工程の後や、既設床版切断工程の前に行う場合に限らず、既設床版撤去工程と既設床版切断工程との間に行うこともできる。
【0028】
支持フランジ100を穿孔してボルト挿通孔110を形成すると、クレーン等によって新設鋼床版MSを吊上げ、図4(d)に示すように鋼床版フランジ320が支持フランジ100の上方となるように新設鋼床版MSを移動する。吊上げる新設鋼床版MSには、例えば工場等であらかじめ鋼床版フランジ320に上下連結ボルト400を固定しておくとよい。図4(d)では、鋼床版フランジ320に形成された挿通孔に上下連結ボルト400を挿通したうえで、鋼床版フランジ320の上下面からナットで締め付けることによって、上下連結ボルト400を鋼床版フランジ320に固定している。もちろん、ワッシャを介してナットで締め付けることもできる。また上下連結ボルト400は、図4に示すようなボルトのほか、スタッドボルトを用いることもできる。この場合、図7に示すようにスタッドボルト(上下連結ボルト400)を鋼床版フランジ320下面に当接した状態で溶接固定するとよい。
【0029】
鋼床版フランジ320が支持フランジ100の上方となるように新設鋼床版MSを移動させると、鋼床版フランジ320を降ろして支持フランジ100に連結固定する(図3のStep160)。より詳しくは、図4(e)に示すように上下連結ボルト400の下端をボルト挿通孔110に挿通したうえで、支持フランジ100の下面側からワッシャを介してナットを締め付けることによって鋼床版フランジ320と支持フランジ100を連結固定する。このとき、上下連結ボルト400には調整ナット410が取り付けられており、この調整ナット410が支持フランジ100の上面に載置される結果、図8に示すように鋼床版フランジ320と支持フランジ100との間には「離隔SP」が形成される。もちろん、調整ナット410と支持フランジ100の上面の間にワッシャを配置してもよい。
【0030】
鋼床版フランジ320を降ろして調整ナット410を支持フランジ100の上面に載置するにあたっては、上下連結ボルト400に取り付ける調整ナット410の位置(高さ)をあらかじめ調整しておくとよい(図3のStep150)。調整ナット410の位置を調整することによって離隔SPの寸法(上下の幅)が調整され、その結果、新設鋼床版MSの設置高を調整することができるわけである。なお、クレーン等で新設鋼床版MSを吊った状態で仮に調整ナット410を支持フランジ100の上面に載置し、その後必要に応じて調整ナット410の位置を調整することもできる。
【0031】
支持フランジ100の下面側に突き出た上下連結ボルト400にナットを取り付けて、鋼床版フランジ320を支持フランジ100に連結固定すると、モルタルやコンクリートといったセメント系材料の充填材500を離隔SP内に充填する(図3のStep170)。より詳しくは、図4(f)に示すように離隔SPの両側に型枠FMを設置し、この型枠FM内に例えば無収縮モルタルなどの充填材500を充填する。そして、充填した充填材500が硬化すると型枠FMを脱型する。充填材500の硬化後に、支持フランジ100の下面側のナットをトルク管理しながら締め付けることによって、上下連結ボルト400に軸力を導入することもできる。この場合、上下連結ボルト400として高力ボルトを用いるとよい。上下連結ボルト400に軸力を導入することによって支持フランジ100と上下連結ボルト400は強固に固定することができる。モルタルが硬化すれば充填材500にはずれ止め作用を期待することができるため、新設鋼床版MSと既設主桁GRの間に作用する供用後のせん断力に対抗することができるわけである。また軸力が導入された上下連結ボルト400は、新設鋼床版MSによる死荷重を負担することができ、硬化して圧縮強度を発現した充填材500は、新設鋼床版MS上の交通荷重等を負担することができる。
【0032】
ここまで説明したとおり第1の実施形態では、鋼床版フランジ320と支持フランジ100を連結する結果、既設主桁GRが新設鋼床版MSを支持する構造となる。また第1の実施形態では、既設主桁GRに加え、新たに増設する新設縦桁で新設鋼床版MSを支持する構造を構築する方法とすることもできる。なお新設縦桁600の増設は、状況に応じて省略することもできることから図3では破線でその工程(Step140)を示している。
【0033】
図9(a)は横桁SGに設けられた新設縦桁600を示す断面図、図9(b)は既設主桁GRと新設縦桁600に支持された新設鋼床版MSを示す断面図である。新設縦桁600も新設鋼床版MSを支持する構造とする場合、図4(a)に示す既設の状態で新設縦桁600を設置する(図3のStep140)。より詳しくは、図9(a)に示すように既設主桁GRに取り付けられた横桁SGに、新設縦桁600を取り付ける。なお、新設縦桁600を増設する工程(図3のStep140)は、既設コンクリート床版CSを撤去(図3のStep120)した後や、ボルト挿通孔110を穿孔(図3のStep130)した後に実施することもできるし、既設コンクリート床版CSを切断(図3のStep110)する前に実施することもできる。
【0034】
新設縦桁600は、縦桁ウェブ610と、この縦桁ウェブ610の上端に固定された縦桁フランジ620を含んで形成される。縦桁ウェブ610は、橋軸方向(図9では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、略鉛直(鉛直含む)姿勢となるように配置されている。一方の縦桁フランジ620は、やはり橋軸方向(図9では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、略水平(水平含む)姿勢となるように配置されている。新設縦桁600は、H形鋼やI形鋼、T形鋼などを利用することもできるし、山形鋼や溝型鋼を組み合わせて形成することもできるし、鋼板を溶接で固定することで形成することもできる。
【0035】
横桁SGは、橋軸直角方向に配置される部材であり、山形鋼や溝型鋼、H形鋼といった形鋼を利用してもよいし、ビルトアップで製作してもよい。この横桁SGは、ボルト接合や溶接等によって既設主桁GRに取り付けられ、また新設縦桁600は、やはりボルト接合や溶接等によって横桁SGに取り付けられる。なお、あらかじめ横桁SGが設置されている(つまり横桁SGが既設部材である)場合は、もちろん横桁SGを新たに設置する必要はない。
【0036】
新設縦桁600を新たに増設した場合、新設鋼床版MSには新設縦桁600に対向する位置にも支持桁300が設けられ、鋼床版設置工程(図3のStep160)では、図9(b)に示すように既設主桁GRと同様、新設縦桁600にも支持桁300が連結固定される。より詳しくは、上下連結ボルト400によって鋼床版フランジ320と支持フランジ100が連結固定されるとともに、上下連結ボルト400によって鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620が連結固定される。このとき、既設主桁GRと同様、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に離隔SPを形成することもできるし、調整ナット410を用いて離隔SPの寸法を調整することもできるし、離隔SP内に充填材500を充填することもできる。
【0037】
(第2の実施形態)
図10は、本願発明の既設床版取替え方法の第2の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図であり、図11は、その主な工程を示すステップ図である。以下、図10図11を参照しながら本願発明の既設床版取替え方法の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に使用される新設鋼床版MSは、既設主桁GRに対向する位置に支持桁300が設けられる。なお、図10に示す既設床版切断工程(Step210)~縦桁増設工程(Step240)は、図3に示す既設床版切断工程(Step110)~縦桁増設工程(Step140)と同様の手順で実施することができることから、繰り返しの説明はここでは省略する。
【0038】
まず第1の実施形態と同様、図11(a)に示す既設の状態から、図11(b)に示すように既設コンクリート床版CSを切断し(図10のStep210)、分離した既設コンクリート床版CSをクレーン等で吊り上げながら撤去する(図10のStep220)。既設コンクリート床版CSを撤去すると、図11(c)に示すように既設主桁GRのうち支持フランジ100にボルト挿通孔110を穿孔する(図10のStep230)。なおこの穿孔にあたっては、第1の実施形態で説明したとおり、支持フランジ100と残コンクリートに同径のボルト挿通孔110を形成することもできるし、残コンクリートに対してさらに拡孔した拡孔ボルト挿通孔120を形成することもできるし、残コンクリートを除去したうえで支持フランジ100のみにボルト挿通孔110を形成することもできる。また支持フランジ穿孔工程を、既設床版撤去工程の後に行うことも、既設床版撤去工程と既設床版切断工程との間に行うことも、あるいは既設床版切断工程の前に行うこともできることも、第1の実施形態と同様である。
【0039】
支持フランジ100を穿孔してボルト挿通孔110を形成すると、図11(d)に示すように支持フランジ100(あるいは残コンクリート)の上面に1又は2以上(図では5つ)の調整板700を設置する(図10のStep250)。この調整板700は、板状のものであり、例えば鋼板やコンクリート板、モルタル板、FRP板、強化プラスチックなど所定の強度を有する様々な板材を利用することができる。鋼床版フランジ320は、調整板700の上に載置されることから、支持フランジ100上に重ねる調整板700の数によって鋼床版フランジ320(つまり新設鋼床版MS)の設置高を調整することができる。したがって、調整板700の肉厚が小さいほど微調整が可能になり、調整板700の肉厚が大きいほど重ねる枚数を軽減することができる。もちろん、肉厚が異なる複数種類の調整板700を用意し、これらを適宜組み合わせながら支持フランジ100上に重ねることもできる。
【0040】
支持フランジ100の上面に調整板700を設置すると、クレーン等によって新設鋼床版MSを吊上げて鋼床版フランジ320が支持フランジ100の上方となるように新設鋼床版MSを移動する。なお第1の実施形態と同様、新設鋼床版MSを吊上げる前にあらかじめ鋼床版フランジ320に上下連結ボルト400を固定しておくとよい。鋼床版フランジ320が支持フランジ100の上方となるように新設鋼床版MSを移動させると、鋼床版フランジ320を調整板700の上面まで降ろして支持フランジ100に連結固定する(図10のStep260)。より詳しくは、図11(e)に示すように、上下連結ボルト400の下端をボルト挿通孔110に挿通したうえで、支持フランジ100の下面側からナットを締め付けることによって鋼床版フランジ320と支持フランジ100を連結固定する。この場合は、第1の実施形態と同様、支持フランジ100下面側のナットをトルク管理しながら締め付けることによって、支持フランジ100と鋼床版フランジ320との間を上下連結ボルト400でつないで軸力を導入することもできる。このとき、上下連結ボルト400と干渉しない位置に調整板700を配置したうえで、支持フランジ100(ボルト挿通孔110)のみに上下連結ボルト400を挿通することもできるし、あらかじめ調整板700にも挿通孔を形成したうえで、調整板700と支持フランジ100に上下連結ボルト400を挿通することもできる。
【0041】
第2の実施形態では、調整板700の上面に鋼床版フランジ320を載置した状態を完成形とすることもできるし、図13(b)に示すように、さらに鋼床版フランジ320と支持フランジ100との間に形成された離隔SPにモルタル又はコンクリートを充填した状態を完成形とすることもできる。より詳しくは、図13(a)に示すように支持フランジ100上に調整板700を設置することによって離隔SPが形成され、図13(b)に示すようにこの離隔SPに対してモルタルやコンクリートといったセメント系材料の充填材500を充填する(図12のStep270)。この場合も第1の実施形態と同様、離隔SPの両側に型枠FMを設置し、この型枠FM内に例えば無収縮モルタルなどの充填材500を充填する。したがってこのケースでは、充填材500の充填スペースを確保するため、寸法(特に幅)が小さい調整板700を設置するとよい。なお、離隔SP内に充填した充填材500が十分な強度を発揮した時点で交通開放を行うこともできるし、交通荷重による鉛直荷重を負担できるように調整板700を配置すれば充填材500が十分な強度の発揮を待つことなく交通開放を行うこともできる。
【0042】
第2の実施形態も第1の実施形態と同様、既設主桁GRに加え、新たに増設する新設縦桁600が新設鋼床版MSを支持する構造を構築する方法とすることもできる。この場合、第1の実施形態と同様、横桁SGを既設主桁GRに取り付け、そして新設縦桁600を横桁SGに取り付ける(図10のStep240)。もちろん、あらかじめ横桁SGが設置されている(つまり横桁SGが既設部材である)場合は、横桁SGを新たに設置する必要はない。なお新設縦桁600の増設は、状況に応じて省略することもできることから図10では破線でその工程(Step240)を示している。
【0043】
新設縦桁600を新たに増設した場合、鋼床版設置工程(図10のStep260)では、既設主桁GRと同様、新設縦桁600にも支持桁300が連結固定される。より詳しくは、図14に示すように上下連結ボルト400によって鋼床版フランジ320と支持フランジ100が連結固定されるとともに、上下連結ボルト400によって鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620が連結固定される。このとき、既設主桁GRと同様、1又は2以上の調整板700を縦桁フランジ620上に設置し、調整板700上に鋼床版フランジ320を載置したうえで、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結固定することもできるし、さらに鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620の間に形成された離隔SPに対してモルタル等を充填してもよい。
【0044】
(第3の実施形態)
図15は、本願発明の既設床版取替え方法の第3の実施形態における主な工程のながれを示すフロー図であり、図16は、その主な工程を示すステップ図である。以下、図15図16を参照しながら本願発明の既設床版取替え方法の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態に使用される新設鋼床版MSは、増設される新設縦桁600に対向する位置に支持桁300が設けられる。図15に示す既設床版切断工程(Step310)~既設床版撤去工程(Step320)は、図3に示す既設床版切断工程(Step110)~既設床版撤去工程(Step120)と同様の手順で実施することができることから、繰り返しの説明はここでは省略する。
【0045】
まず第1の実施形態と同様、図16(a)に示す既設の状態から、図16(b)に示すように既設コンクリート床版CSを切断し(図15のStep310)、分離した既設コンクリート床版CSをクレーン等で吊り上げながら撤去する(図15のStep320)。
【0046】
既設コンクリート床版CSを撤去すると、図16(c)に示すように新設縦桁600を取り付ける(図15のStep330)。なお、新設縦桁600を増設する工程は、既設コンクリート床版CSを撤去(図15のStep320)した後に実施することもできるし、既設コンクリート床版CSを切断(図15のStep310)する前に実施することもできる。
【0047】
新設縦桁600は、縦桁ウェブ610と、この縦桁ウェブ610の上端に固定された縦桁フランジ620を含んで形成される。縦桁ウェブ610は、橋軸方向(図16では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、略鉛直(鉛直含む)姿勢となるように配置されている。一方の縦桁フランジ620は、やはり橋軸方向(この図では紙面奥行方向)に相当の延長を有する板状のもの(例えば鋼板)であって、略水平(水平含む)姿勢となるように配置されている。新設縦桁600は、H形鋼やI形鋼、T形鋼などを利用することもできるし、山形鋼や溝型鋼を組み合わせて形成することもできるし、鋼板を溶接で固定することで形成することもできる。
【0048】
横桁SGは、橋軸直角方向に配置される部材であり、山形鋼や溝型鋼、H形鋼といった形鋼を利用してもよいし、ビルトアップで製作してもよい。この横桁SGは、ボルト接合や溶接等によって既設主桁GRに取り付けられ、また新設縦桁600は、やはりボルト接合や溶接等によって横桁SGに取り付けられる。なお、あらかじめ横桁SGが設置されている(つまり横桁SGが既設部材である)場合は、もちろんの横桁SGを新たに設置する必要はない。
【0049】
新設縦桁600を増設すると、クレーン等によって新設鋼床版MSを吊上げ、図16(d)に示すように鋼床版フランジ320が縦桁フランジ620の上方となるように新設鋼床版MSを移動する。なお、新設鋼床版MSを吊上げる前に、鋼床版フランジ320に設けられた挿通孔に上下連結ボルト400を挿通しておくとよい。
【0050】
鋼床版フランジ320が縦桁フランジ620の上方となるように新設鋼床版MSを移動させると、鋼床版フランジ320を降ろして支持フランジ100に連結固定する(図15のStep340)。より詳しくは図16(e)に示すように、縦桁フランジ620に設けられた挿通孔に上下連結ボルト400の下端を挿通したうえで、縦桁フランジ620の下面側からナットを締め付けることによって鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結固定する。この場合も、第1の実施形態と同様、縦桁フランジ620下面側のナットをトルク管理しながら締め付けることによって、上下連結ボルト400に軸力を導入することもできる。
【0051】
鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結固定するにあたっては、図16(e)に示すように鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620が直接当接(接触)した状態で連結固定することもできるし、第1の実施形態のように鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に離隔SPを形成した状態で連結固定することもできる。また第2の実施形態のように、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に調整板700を配置した状態で連結固定することもできるし、さらに図13に示すように鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620の間に形成された離隔SPに対してモルタル等を充填してもよい。
【0052】
図17(a)は、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に離隔SPを形成した状態で、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結固定した状態を示す断面図である。この図に示すケースでは、第1の実施形態と同様、上下連結ボルト400に調整ナット410が取り付けられており、この調整ナット410が縦桁フランジ620の上面に載置される結果、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に離隔SPが形成される。鋼床版フランジ320を降ろして調整ナット410を縦桁フランジ620の上面に載置するにあたっては、上下連結ボルト400に取り付ける調整ナット410の位置(高さ)をあらかじめ調整しておくとよい。調整ナット410の位置を調整することによって離隔SPの寸法(上下の幅)が調整され、その結果、新設鋼床版MSの設置高を調整することができるわけである。なお、クレーン等で新設鋼床版MSを吊った状態で仮に調整ナット410を縦桁フランジ620の上面に載置し、その後必要に応じて調整ナット410の位置を調整することもできる。また、鋼床版フランジ320を縦桁フランジ620に連結固定した後、モルタルやコンクリートといったセメント系材料の充填材500を離隔SP内に充填することもできる。
【0053】
図17(b)は、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620との間に調整板700を設置したうえで、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結固定した状態を示す断面図である。この図に示すケースでは、第2の実施形態と同様、縦桁フランジ620の上面に1又は2以上(図では5つ)の調整板700を設置する。この場合、上下連結ボルト400と干渉しない位置に調整板700を配置したうえで、縦桁フランジ620のみに上下連結ボルト400を挿通することもできるし、あらかじめ調整板700にも挿通孔を形成したうえで、調整板700と縦桁フランジ620に上下連結ボルト400を挿通することもできる。またこのケースでは、既述したとおりさらに鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620の間に形成された離隔SPに対してモルタル等を充填してもよい。
【0054】
既設主桁GRは、撤去することなくそのまま残しておく。この場合、山形鋼といった補強材LSによって既設主桁GRと新設鋼床版MSを連結するとよい。例えば図18に示すように、新設鋼床版MSの下面側に設けられたリブRBに補強材LSを固定するとともに、既設主桁GRの支持フランジ100に補強材LSを固定することによって、既設主桁GRと新設鋼床版MSを連結することができる。
【0055】
ここまで説明したとおり第3の実施形態では、鋼床版フランジ320と縦桁フランジ620を連結する結果、新設縦桁600が新設鋼床版MSを支持する構造となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明の既設床版取替え方法は、道路橋、鉄道橋、管路橋といったあらゆる用途の橋梁に利用でき、河川を跨ぐ橋、跨道橋、跨線橋など種々のものを越える橋梁に利用することができる。本願発明が、社会資本(建設インフラ)としての橋梁の長寿命化を図ることができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0057】
100 支持フランジ
110 ボルト挿通孔
120 拡孔ボルト挿通孔
200 デッキプレート
300 支持桁
310 (支持桁の)鋼床版ウェブ
320 (支持桁の)鋼床版フランジ
400 上下連結ボルト
410 調整ナット
500 充填材
600 新設縦桁
610 (新設縦桁の)縦桁ウェブ
620 (新設縦桁の)縦桁フランジ
700 調整板
CS 既設コンクリート床版
FM 型枠
GR 既設主桁
LS 補強材
MS 新設鋼床版
RB リブ
SG 横桁
SP 離隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18