IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイションの特許一覧 ▶ サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップの特許一覧

<>
  • 特許-原油の加熱方法 図1
  • 特許-原油の加熱方法 図2
  • 特許-原油の加熱方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】原油の加熱方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 7/00 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
C10G7/00
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019212917
(22)【出願日】2019-11-26
(62)【分割の表示】P 2016554253の分割
【原出願日】2014-12-23
(65)【公開番号】P2020045495
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2019-11-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】14156626.5
(32)【優先日】2014-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
【日本における営業所】アラブ首長国連邦
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ウィリゲンバーグ、ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】オプリンス、アーノ ヨハネス マリア
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】関根 裕
【審判官】蔵野 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-43244号公報(JP,B1)
【文献】特開昭49-90304号公報(JP,A)
【文献】(社)石油学会編、「石油精製プロセス」、株式会社講談社、2005年8月10日第6刷発行、第19~28頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1産業プラントで稼働する原油塔および減圧塔への流れの加熱方法であって、
原油予熱器で原油を予熱し、
前記原油予熱器で予熱された原油と、水蒸気分解装置充填ガス、プロパン脱水素化充填ガスおよびブタン脱水素化充填ガスの群から選択される、前記第1産業プラントから分離された第2産業プラントで稼働する装置による石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れとを第1熱交換器に送り、前記第1熱交換器内で前記石油化学プロセスからの流れの熱を前記原油予熱器で予熱された原油に伝達して加熱流を生成し、当該加熱流を原油加熱炉に送り、
前記加熱流を前記原油加熱炉でさらに加熱して前記原油塔に送り、
前記原油塔の底部流と、前記石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れとを第2熱交換器に送り、前記第2熱交換器内で前記石油化学プロセスからの流れの熱を前記底部流に伝達して前記底部流を加熱し、加熱した前記底部流を前記減圧塔に送ることを含み、
前記第1熱交換器における熱交換の前において、石油化学プロセスからの流れの温度は、前記原油予熱器で予熱された原油の温度より高く、
前記原油塔への流れが前記第1熱交換器内で前記水蒸気分解装置充填ガスからの熱が伝達されることによって加熱され、前記原油加熱炉内でさらに加熱されて、加熱された前記原油塔への流れが得られ、
前記減圧塔への流れである前記底部流が前記第2熱交換器内で前記水蒸気分解装置充填ガスからの熱を伝達されることによって加熱されて、加熱された前記減圧塔への流れが得られることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1熱交換器の入口での温度は、前記第1熱交換器の出口での温度より少なくとも10℃高い請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記石油化学プロセスからの流れの温度は、350~600℃の範囲にある請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製油プロセスからの1つまたは複数の流れの加熱方法に関する。より詳細には、石油精製プロセスと石油化学プロセス間の熱統合に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第US2012/024749号は、炭化水素供給物の分解方法に関しており、この方法は、炭化水素供給物を炭化水素熱分解装置に供給して分解流出物を生成するステップと;炭化水素熱分解装置からの分解流出物の少なくとも一部を第1の熱交換器に通すステップと;第1の熱交換器からの分解流出物の少なくとも一部をガス流出物と液流出物に分離するステップと;ガス流出物の少なくとも一部を第2の熱交換器に通すステップと;第2の熱交換器からの流出物の少なくとも一部を分留装置に通すステップと;ユーティリティ流体を第2の熱交換器に通すことによって、第2の熱交換器内の流出物の少なくとも一部から熱を回収するステップと;第2の熱交換器からのユーティリティ流体を第1の熱交換器に通すことによって、第1の熱交換器内の分解流出物の少なくとも一部から熱を回収するステップと、を備える。この文献は、石油化学プロセスからの流れ由来の熱を利用して別の流れ、すなわちユーティリティ流体を加熱することを教示している。
【0003】
欧州特許第EP0205205号は、移送ライン交換器と、分解反応生成物などの流体の冷却方法と、に関し、移送ライン熱交換器は、2つ以上の別個の熱交換部を有するが、入口と収集ヘッダはそれぞれ1つであるシェルアンドチューブ式熱交換器であり、別個の熱交換部は、中間チューブで連結されている。温度が750℃~900℃である分解された炭化水素生成物の冷却時には、第1の熱交換ゾーンで、沸点の水とそのゾーンでの冷却流体としての圧力とを用いて高圧蒸気を製造することができる。あるいは、第2の熱交換ゾーンで、温度が450℃~650℃である部分的に冷却された分解反応生成物はさらに冷却されて、低圧蒸気を製造することができる。この文献は、シェルアンドチューブ式の移送ライン熱交換器を用いて分解反応生成物を冷却することを教示している。
【0004】
米国特許第2,294,126号は、分留中の熱処理炭化水素生成物との熱交換で原油オイルを蒸留・分留するプロセスに関し、この方法は、炭化水素留出物を低沸点の炭化水素に分解して生成した高温生成物を触媒性吸着剤に接触させてクラッキング反応を終了させ、軽油より高沸点のタールと燃料油を沈殿させるステップと;気相中の残りの高温生成物を実質的に凝結させずに、常圧蒸留残油の非炭化分割処理で得た高温生成物に接触させて、揮発性物質を除去するステップと、を備える。この文献は、加熱生成物分離と供給原料の調製とを一体化して、部分的に分離した塔などの放熱容器と、分解システムで使用される通常膨大な装置配列に見られる多重接続と、を除去することを教示している。
米国特許4,127,389号は、高温加熱流体からの熱を複数のチューブ内を流れるプロセス流体に伝達する交換器リアクタに関する。この交換器リアクタは、一般に円筒状の中空シェル組立体と、中空シェル組立体にマウントされるチューブバンドル組立体であって、中空シェル組立体と連携して、加熱流体をシェル入口チャンバ→主要シェル加熱チャンバ→シェル出口チャンバ→外部に移動させるシェル入口チャンバ、主要シェル加熱チャンバおよびシェル出口チャンバを提供するチューブバンドル組立体と、を備える。
米国特許出願公開第2012/298552号は、ディレードコーキング装置内で原油をすべて熱分解させるディレードコーキングプロセスに関し、原油供給流はすべて、炉内で480℃~530℃の範囲のコーキング温度に加熱される。
米国特許出願公開第2010/025221号は、蒸留プロセスを含む、原油を5つの生成物流に分離するステップに関し、これによって、原油と同様の混合物とを分離するエネルギーの消費量が低減される。
【発明の概要】
【0005】
石油精製プロセスは、原油を液化石油ガス(LPG)、ガソリン、灯油、ジェット燃料、ディーゼル油および燃料油などの有用な生成物に変換する石油精製所(オイル精製所とも呼ぶ)で使用される化学工学プロセスおよびその他の設備である。石油化学製品は石油由来の化学生成物であり、その例としては、オレフィン(エチレン、プロピレンおよびブタジエンを含む)と芳香族化合物(ベンゼン、トルエンおよびキシレン異性体を含む)が挙げられる。製油所では、石油留分の流動接触分解によってオレフィンと芳香族化合物が生成される。化学プラントでは、例えば、天然ガス液の水蒸気分解によって、エタンやプロパンなどのオレフィンが生成される。芳香族化合物は、例えば、ナフサの接触改質によって生成される。
【0006】
今日では、石油精製プロセス、例えば水蒸気分解装置が稼働する産業プラントは、石油化学プロセス、例えば原油蒸留装置(CDU)が稼働する産業プラントから分離されている。こうした分離は、実際には、これらのプロセス間、すなわち石油精製プロセスと石油化学プロセス間で熱統合されていないことを意味する。
【0007】
原油蒸留装置の原油加熱炉では、オイルは約350℃に加熱される。熱は、通常、ガスまたはオイルの燃焼により提供される。原油常圧蒸留(あるいはトッピング)プラントでは、同族成分の混合物を物理的に分離することによって、留出物(塔頂生成物と側留分から構成される)と残油が得られる。成分の分配が気相と液相とで異なることを利用するこの分離は、平衡に近い条件で実施されるステージで行われる。留出物の種々の留分の分離は、留出物の蒸気の分別凝縮によって達成されるが、これは熱除去が必要な操作である。蒸留塔(あるいは蒸留器)の場合、この熱除去は、縮合塔頂生成物の一部から成る外部還流、蒸留塔からの引抜き液から成る中間還流、および引抜きされた位置より上部に戻されることによる最終冷却、の一連の還流によって行われる。中間還流は、一般に循環還流あるいはポンプアラウンドと呼ばれる。貯溜タンクからの供給物は、熱交換器によって、塔頂蒸気、側留分、中間還流および常圧残油から回収された熱で予備加熱されたヒータに、ポンプで送り込まれる。供給物は、ヒータ内で操作条件に必要な温度に加熱された後、移送ラインで常圧塔のフラッシュゾーンに移送されて、蒸発留分(全留出物に相当)と液残留物とに分離される。
【0008】
水蒸気分解装置炉では、炭化水素供給物は800℃超に加熱された後、少なくとも600℃未満に急速に冷却(間接的に焼入れ)されて、超高圧蒸気が生成される。ガスは、高圧発生蒸気生成とその他の熱回収方法により、最終的には水焼入れ、エアクーラおよびウォータークーラでさらに冷却される。
【0009】
水蒸気分解はエネルギー集約的プロセスである。水蒸気分解プロセスには、超高温熱が必要である。このプロセスから低温熱が回収される(回収できる)。しかしながら、この分離プロセスでは主に冷却が必要であり、200~400℃の温度範囲の(低エクセルギー)熱は殆ど必要なく、特に軽質原料の水蒸気分解装置に適用される。
【0010】
また、原油精製では200~400℃の温度範囲の熱が必要であり、原油は、原油加熱炉内で約350℃に加熱された後、常圧塔に入る。オイルまたはガス(高エクセルギー)は、原油加熱炉内で燃焼して、比較的(低エクセルギー)温和な温度(水蒸気分解と比較して)での加熱が得られる。こうした原油加熱炉はエネルギー効率が良好であり得るが、エクセルギー効率はやや悪い。
【0011】
本発明のある目的は、石油精製プロセス(例えば水蒸気分解装置)と石油化学プロセス(例えば原油蒸留装置(CDU))との熱の統合方法を提供することである。
【0012】
従って、本発明のある目的は、化学プロセス側の熱生成装置からの流れを熱が必要な製油所流れにリンクさせることである。
【0013】
本発明の別の目的は、石油精製プロセスのエネルギー節約方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、原油加熱炉の負荷のすべてあるいは一部を置換できる原油の加熱方法を提供することである。
【0015】
従って、本発明は、原油塔入口、減圧塔入口、接触改質装置入口、コーカー入口、熱分解装置入口および水素化分解装置入口の群から選択される製油プロセスからの1つまたは複数の流れの加熱方法に関し、この方法は、水蒸気分解装置充填ガス、プロパン脱水素化充填ガスおよびブタン脱水素化充填ガスの群から選択される石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れからの熱を、熱交換器内で製油プロセスからの1つまたは複数の流れに伝達して1つまたは複数の加熱流を得るステップを備え、ここで、前記熱交換ステップが行われる前の石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れの温度は、製油プロセスからの1つまたは複数の流れの温度より高い。
【0016】
本明細書での「充填ガス」は、特定のプロセス装置からのガス流、すなわち高温の出口ガス流、すなわち流出流あるいは生成物流を指す。例えば、「水蒸気分解装置充填ガス」は、水蒸気分解装置炉からのガス流を指す。「プロパン脱水素化充填ガス」および「ブタン脱水素化充填ガス」は、それぞれ、プロパン脱水素化炉からのガス流とブタン脱水素化炉からのガス流を指す。こうしたガス流には複数の化学成分が含まれていてもよい。
【0017】
上記の段落は、こうした熱交換器が1つまたは複数の熱交換装置を備えていてもよいことを意味する「熱交換器」を示す。これらの装置は、並列運転されても、直列運転されても、あるいはこれらの組み合わせで運転されてもよい。本発明は、熱交換装置の数や、その運転方法、すなわち並列運転、直列運転あるいはこれらの組み合わせ運転には限定されない。
【0018】
従って、本発明は、熱交換器を用いて、石油精製プロセス(例えば原油蒸留装置(CDU)、減圧蒸留装置(VDU)、水素化分解装置、コーカー、接触分解装置)からの熱を石油化学プロセス(例えば水蒸気分解装置、脱水素化装置)に伝達して、炉の負荷のすべてあるいは一部を置換する方法を提供する。本発明者らは、こうした方法によって、炉の運転時間の長期化や資本コストの低減などの有益な効果が得られると考える。本発明は、製油装置と石油化学装置との間のプロセス流の統合に関するのではなく、熱の統合に関することに留意のこと。
【0019】
本方法の好適な実施形態では、水蒸気分解装置充填ガスからの熱を、熱交換器内で原油塔入口に伝達することによって原油塔入口を加熱して、加熱された原油塔入口が得られる。
【0020】
伝熱によって所望の最終温度を直接得ない実施形態では、追加の加熱ステップが必要である。こうしたステップは、水蒸気分解装置充填ガスからの熱伝達後に行われる、原油塔入口を原油加熱炉内でさらに加熱するステップを備える。別の実施形態では、この加熱ステップは、さらに、水蒸気分解装置充填ガスからの熱伝達前に行われる、原油塔入口を原油加熱炉内でさらに加熱するステップを備える。
【0021】
石油精製プロセスの流れの熱容量が十分に高い実施形態では、その熱を原油塔入口に伝達できるだけでなく、石油化学プロセスからの他の流れにも同様に伝達できる。そのある例では、水蒸気分解装置充填ガスからの熱を、熱交換器内で減圧塔入口に伝達することによって減圧塔入口を加熱して、加熱された減圧塔入口流が得られる。
【0022】
前記熱交換器の入口での温度、すなわち石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れの温度は、熱交換器の出口での温度、すなわち製油プロセスからの1つまたは複数の流れの温度より少なくとも10℃、好適には少なくとも50℃高いことが好ましい。
【0023】
製油プロセスからの1つまたは複数の流れ由来の熱と石油化学プロセスからの1つまたは複数の流れ由来の熱との熱交換効率から、石油化学プロセスからの少なくとも1つまたは複数の流れの温度が350℃~600℃の範囲にあることが好ましい。
【0024】
本方法における製油所熱消費装置の例としては、原油塔(380℃)、減圧塔(420℃)、接触改質装置(550℃)、コーカー(460℃)、熱分解装置(540℃)および水素化分解装置(430℃)が挙げられる(括弧内は最高温度要件)。
【0025】
本方法における石油化学熱生成装置の例としては、第1のTLE後の水蒸気分解装置炉(600℃)とプロパン-ブタン脱水素化装置(PDH/BDH)からの流出物リアクタ(600℃)が挙げられる(括弧内は平均温度)。
【0026】
アルカンからオレフィンへの変換プロセスとして非常に一般的なものは「水蒸気分解」を含む。本明細書における「水蒸気分解」は、飽和炭化水素を小さな、多くの場合不飽和の炭化水素(エチレンやプロピレンなど)に分解する石油化学プロセスに関する。蒸気分解では、エタン、プロパン、ブタンあるいはこれらの混合物のようなガス状炭化水素供給物(ガス分解)、あるいはナフサや軽油のような液体炭化水素供給物(液体分解)は、蒸気で希釈され、酸素非存在下で炉内で短時間加熱される。典型的には、反応温度は約850℃と非常に高いが、反応は、滞留時間が通常50~500msと非常に短い間だけ起こる。好ましくは、炭化水素化合物であるエタン、プロパンおよびブタンは最適条件で確実に分解されるように、別々に、従って専用の炉内で分解される。分解温度に達すると、クエンチングオイルを用いてガスを急冷し、移送ライン熱交換器内あるいはクエンチングヘッダ内で反応を停止させる。水蒸気分解によって、炭素の形態のコークスがリアクタ壁上にゆっくり堆積する。デコーキングでは、炉をプロセスから切り離す必要があり、その後、蒸気流または蒸気/空気混合物を炉コイルを通過させる。これによって、硬い固体カーボン層を一酸化炭素と二酸化炭素に変換する。この反応が完了すると、炉は使用可能となる。水蒸気分解で生成される生成物は、供給物の組成および炭化水素と蒸気との比に、また分解温度と炉内滞留時間に依存する。エタン、プロパン、ブタンあるいは軽質ナフサなどの軽質炭化水素供給物では、エチレン、プロピレンおよびブタジエンを含むより軽質なポリマーグレードオレフィンリッチな生成物流が得られる。より重質な炭化水素(全範囲および重質ナフサと軽油留分)でも、芳香族炭化水素リッチな生成物が得られる。
【0027】
水蒸気分解によって生成された種々の炭化水素化合物を分離するために、分解ガスを分別装置に投入する。こうした分別装置は当分野では周知であり、重質留分(「カーボンブラックオイル」)と中間留分(「分解留出油」)を軽質留分とガスから分離する、所謂ガソリン分別装置が挙げられ得る。以降の急冷塔では、水蒸気分解で生成された軽質留分(「分解ガソリン」あるいは「pygas」)の大部分は、軽質留分を液化させることによりガスから分離してもよい。その後、ガスを多段圧縮ステージにかけて、軽質留分の残りを圧縮ステージ間でガスから分離させてもよい。また、酸性ガス(COとHS)を圧縮ステージ間で除去してもよい。次のステップで、熱分解で生成されたガスを、カスケード冷凍システムのステージ上で、気相には水素だけが残る程度までに部分的に液化させてもよい。異なる炭化水素化合物はその後、単蒸留で分離してもよく、ここでは、エチレン、プロピレンおよびC4オレフィンが水蒸気分解で生成された最も重要な高価値化学物質となる。水蒸気分解で生成されたメタンは燃料ガスとして一般に使用され、水素は分離されて、水素化分解プロセスなどの水素消費プロセスに再循環されてもよい。水蒸気分解で生成されたアセチレンは、好ましくは選択的に水素化されてエチレンになる。分解ガス中に含まれるアルカンは、アルカンをオレフィンに変換するプロセスに再循環されてもよい。
【0028】
本明細書における「プロパン脱水素化装置」は、プロパン供給物流をプロピレンと水素を含む生成物に変換する石油化学プロセス装置に関する。従って、「ブタン脱水素化装置」は、ブタン供給物流をC4オレフィンに変換するプロセス装置に関する。プロパンやブタンなどの低級アルカンの脱水素化プロセスは、共に低級アルカン脱水素化プロセスとして記載される。低級アルカンの脱水素化プロセスは当分野では周知であり、酸化的水素化プロセスと非酸化的脱水素化プロセスが挙げられる。酸化的脱水素化プロセスでは、プロセス加熱は、供給物中の低級アルカンの部分酸化によって得られる。本発明の文脈では好適な非酸化的脱水素化プロセスでは、吸熱性の脱水素化反応用のプロセス加熱は、燃料ガスの燃焼または蒸気で得られる高温燃焼排ガスなどの外部熱源から得られる。例えば、UOP Oleflexプロセスでは、流動床リアクタ内でアルミナ上に担持された白金を含む触媒の存在下、プロパンの脱水素化によってプロピレンが形成され、(イソ)ブタンの脱水素化によって(イソ)ブチレン(あるいはこれらの混合物)が形成される;例えば米国特許第4,827,072号参照。Uhde STARプロセスでは、亜鉛-アルミナスピネル上に担持された促進白金触媒の存在下で、プロパンの脱水素化によってプロピレンが形成され、ブタンの脱水素化によってブチレンが形成される;例えば米国特許第4,926,005号参照。STARプロセスは、最近、オキシ脱水素化の原理を適用することによって改良された。リアクタ内の第2の断熱ゾーンでは、中間生成物からの水素の一部が、添加された酸素と共に選択的に変換されて水が形成される。これによって熱力学的平衡がより高い変換にシフトし、より高い収率が達成される。また、吸熱性の脱水素化反応に必要な外部熱の一部は、発熱を伴う水素変換によって供給される。Lummus Catofinプロセスでは、周期的に稼働する多くの固定床リアクタが用いられている。触媒は、18~20質量%のクロムを含浸させた活性アルミナである;例えば、欧州特許第EP0192059A1号および英国特許第GB2162082A号参照。Catofinプロセスは耐久性があり、白金触媒の作用を減じ得る不純物に対応できるとされる。ブタン脱水素化プロセスで生成される生成物は、使用されたブタン供給物とブタン脱水素化プロセスの特質に依存する。また、Catofinプロセスでは、ブタンの脱水素化によってブチレンが形成される;例えば米国特許第US7,622,623号参照。
【0029】
以下、添付図を参照して本発明をさらに詳細に説明する。図面中、同じまたは同様の要素は同じ参照番号で示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のプロセスの実施形態の概略図である。
図2】本発明のプロセスの別の実施形態である。
図3】本発明のプロセスの別の実施形態である。
【0031】
図1は、原油の加熱方法101のプロセスと装置を概略的に示す。原油1は原油予熱器20で予熱され、こうして予熱された原油4は、ライン9経由で原油加熱炉2に直接送られ得る。温度が約350℃の加熱された原油12は、装置11に送られる。このルートは、原油を最終温度に加熱する標準ルートである。装置11は、例えばCDU、VDU、HYC、コーカーあるいはFCCなどの製油装置に関し、ここでは、流れ1は熱要求製油所流れ、すなわち装置11に送られる前に温度を上昇させなければならない流れとして識別できる。この実施形態の以下の議論では、装置11を常圧塔とするが、本発明はこうした製油装置に限定されない。
【0032】
図1に示す本方法では、分解炉からの、温度が約800℃の分解ガス3は、温度が約500~400℃の流出物5を供給する熱交換器(TLE)21に送られる。予熱された原油4は、ライン8経由で熱交換器6内で流出物5と接触して加熱され、原油10となる。こうして加熱された原油10は常圧塔11に送られる。熱交換器6からの分解ガス7の温度は、今や150~250℃の範囲である。本方法では、石油化学プロセスからの熱、すなわち水蒸気分解炉からの分解ガス3は、製油プロセス、すなわち常圧塔11からの流れに統合される。
【0033】
図2は、別の実施形態に係る原油加熱プロセス102を示しており、分解炉からの、温度が約800℃の分解ガス3は熱交換器(TLE)21に送られ、温度が約400~500℃の流出物5になる。原油1は原油予熱器20に送られ、その流出物4は、熱交換器6内で流出物5と接触して、加熱された原油18になる。原油18は、必要に応じて原油加熱炉2内でさらに加熱されて、最終温度が約350℃の原油12になる。この実施形態では、原油12は常圧塔11に送られる。別の実施形態(図示せず)では、流出物4を最初に原油加熱炉2に送り、その後こうして加熱された原油を熱交換器6に送って、加熱された原油と流出物5間でさらに伝熱させることもできる。最後の実施形態では、炉2内でさらに加熱するステップは、水蒸気分解装置充填ガス3からの熱伝達前に行われる。
【0034】
図3は、別の実施形態に係る原油加熱プロセス103を示しており、流れ5の熱容量も常圧塔11の底部流14の加熱に使用される。従って、底部流14は、熱交換器22によって、減圧蒸留塔17への供給物16としての所望の入口温度にさらに加熱され得る。供給物16は、減圧蒸留塔17内で頂部流19と底部流18に分離される。熱交換器22の出口流を熱交換器6の出口流7と混合して、さらに潜在的な熱統合に使用する混合流を形成できる。図3は2つの異なる熱交換器6、22を示しているが、これら2つの熱交換器は、好適な実施形態では単一の熱交換器に統合される。別の実施形態では、熱交換器6、22は、並列運転されても、直列運転されても、あるいはそれらの組み合わせで運転されてもよい。
【0035】
上記に示したように、熱交換器6を用いて分解ガス3からの熱を既に予熱した原油に伝達して、原油加熱炉2の負荷のすべてあるいは一部を置換できる。図2に示すように、エクセルギー上の利点は、原油予熱器20内の対流伝熱部で原油を予熱し、その後、熱交換器6内で原油4を所望の最終温度に加熱することによって達成される。図3は、化学プロセス側の熱生成装置からの流れを、熱が必要な製油所流とさらにリンクさせた好適な実施形態を示す。
【実施例
【0036】
本実施例では、エチレン炉との統合による原油加熱の適用について言及する。
【0037】
関連するデータは次の通りである:分解炉エタン供給量:100t/h、分解炉蒸気:オイル比:0.33、分解炉流出物温度:850℃、原油加熱炉への原油供給量:230t/h、原油供給温度:150℃、原油最終温度:350℃。
【0038】
最新のプロセスでは、原油加熱と分解ガス冷却間の熱交換はない(スキーム1参照)。
【0039】
【化1】
【0040】
本発明を用いた熱統合の例をスキーム2に示す。
【0041】
【化2】
【0042】
上記の実施例は、第2および第3のTLEからの熱回収は、150~350℃の原油230t/hを加熱および一部蒸発させる原油加熱器からの熱回収によって置換できることを示している。これによって、原油加熱炉に対する要件が回避される。しかしながら、第2および第3のTLEにより生成される蒸気は、従来の蒸気ボイラーなどの他の方法によって生成されなければならないだろう。この実施例はTLEの使用に言及しているが、例えば、プロパン脱水素化装置やブタン脱水素化装置などの脱水素化装置起源の高温流などの他の高温流も同様に使用できる。
【0043】
独立型の蒸気発生器は独立型の原油予熱器より効率的であり、エネルギーを節約できる:原油加熱炉の典型的な熱効率は85%だが、蒸気ボイラーの典型的な効率は90%であり、エネルギーは、39.9/85%-39.9/90%=2.6MW(燃料ガス)節約できる。
【0044】
エネルギーは、廃熱ボイラーを備えた背圧蒸気タービンやガスタービンなどの、熱と動力との技術を組み合わせることによってさらに節約できる。
図1
図2
図3