(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】移動体移動装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/41 20150101AFI20230502BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230502BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20230502BHJP
E05F 15/622 20150101ALI20230502BHJP
【FI】
E05F15/41
B60J5/00 D
B60J5/10 K
E05F15/622
(21)【出願番号】P 2020143142
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2019159142
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上甲 篤
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-132333(JP,A)
【文献】特開平10-169310(JP,A)
【文献】特開2007-239281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0112677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
B60J 5/00- 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、
前記移動体を移動させる駆動部と、
前記移動体の位置を検知するセンサと、
前記移動体の移動を所定の移動とする移動速度則に基づき前記駆動部の駆動を制御する制御部と
を備えた移動体移動装置であって、
前記制御部は、
前記移動体の位置に応じて、前記駆動部に対して予め定めた許容負荷トルク則に基づき挟み込みを判定し、
前記許容負荷トルク則は、
前記移動体の移動開始位置あるいは時間に基づく前記移動体の移動あるいは経過時間に応じた補正値により、前記許容負荷トルク則を補正する、
移動体移動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記移動体の移動として、前記移動体の移動速度を把握して、当該移動速度に基づき前記補正値を算出する、
請求項1に記載の移動体移動装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記移動体の移動開始直後から所定時間の経過後に前記補正値を算出し、
前記所定時間の経過中、前記移動体の位置に応じた前記許容負荷トルク則の値をマスクする、
請求項1または請求項2に記載の移動体移動装置。
【請求項4】
前記補正値は、前記移動体が移動を開始してからの経過時間に応じて繰り返し算出される、
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の移動体移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動部の駆動によって移動体を移動させる移動体移動装置の一例として、例えば車両のテールゲートに用いられる後部ドアの開閉装置が挙げられる。
このような移動体移動装置においては、CPU等からなる制御部によって、予め定められた所定の目標移動速度則に基づき、駆動部に設けられる駆動モータの回転速度を制御しつつ、正転方向または逆転方向に当該駆動モータを回転駆動させる。これにより、移動体は、全開位置から全閉位置に向かって、或いは全閉位置から全開位置に向かって移動する。
【0003】
ところで、全開位置にある移動体を全閉位置に向かって移動させる場合において、移動中の移動体に予期せぬ物体が干渉等して発生する挟み込みを検知する制御方法を含む装置の一例として、駆動部における駆動の回転に同期するパルスの周期に基づいて挟み込みを判定する装置が知られている(「特許文献1」を参照)。
【0004】
このような挟み込みの検知としては、開閉体の位置および駆動電圧に応じた閾値をテーブルから得て、実際の駆動電圧がその閾値以下となったときに挟み込みを検知する制御方法の検知制御を向上するために、パルス信号の周期の平均値を更新的に求めて、予め設定されたテーブルから対応する閾値を得て、その閾値以上になったときに挟み込みと判断する検知方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この挟み込みの検知方法では、開閉体の全開時から全閉時までの移動に対して、開閉体の開閉位置およびパルス周期の平均値に対する閾値を逐次読み出して、異物の挟み込みを判断する。また、前述は読み出したパルス周期による判断を用いたものであるが、読み出したトルク値(読み出した電流値、或いは駆動している電圧値、モータ回転速度等から算出)と前述同様に開閉位置に応じた閾値を比較して異物の挟み込みを判断する方法も考えられる。
しかし、開閉体は、全閉位置や全開位置からの開閉を行うだけではなく、天候やスペースの都合等によって全開できない場合もあり、そのような場合には、制御装置による駆動、人の手による操作如何に関わらず、開閉体を途中の位置で止めた状態にして、開口等からの取り出し作業などをする必要がある。
このような場合には、開閉体を、全開位置ではなく、全閉位置と全開位置との間の位置である途中位置から移動を開始しなければならないので、開閉体が途中位置から移動を始めた場合には、開閉体の絶対位置に対する移動速度やトルク値は全閉(全開)位置から全開(全閉)位置に駆動した場合と、停止している途中位置から開(閉)作動を行う場合とでは、停止状態から移動開始後、所定の速度に達するまでの期間において異なることになる。
特に、後述の挟み込みを判断する方法がトルク値の場合、モータの回転速度に反比例して突入電流が発生するため、電流値、電流値と比例関係にあるトルク値は、開閉体駆動開始直後から所定の速度に達するまで大きな値となる。
そのため、開閉体が途中位置から移動を開始した場合には、開閉体の絶対位置に応じた閾値による判断では、挟み込みに対して誤った判断をすることになるため、途中位置からの開始を考慮して、閾値全体を誤判断しないように緩和する、或いは動作開始から一定時間判断自体を行わないようにする等、挟み込みの検出性能を劣化させる措置をしなければならない。
【0007】
本発明の目的は、2点間の任意の位置にて途中停止した移動体を、一方の位置に向かって移動させる場合であっても、モータを駆動するトルク値による挟み込み等の移動阻害に関する異常を検知することができる移動体移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、本発明の移動体移動装置は、移動体と、前記移動体を移動させる駆動部と、前記移動体の位置を検知するセンサと、前記移動体の移動を所定の移動とする移動速度則に基づき前記駆動部の駆動を制御する制御部とを備えた移動体移動装置であって、前記制御部は、前記移動体の位置に応じて、前記駆動部に対して予め定めた許容負荷トルク則に基づき挟み込みを判定し、前記許容負荷トルク則は、前記移動体の移動開始位置に基づく前記移動体の移動に応じた補正値により、前記許容負荷トルク則を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明の移動体移動装置によれば、全開位置と全閉位置とに代表される2点間の任意の位置にて途中停止した移動体を、全閉位置などの一方の位置に向かって移動させる場合であっても、容易に挟み込み等の移動阻害に関する異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る移動体移動装置を備えた車両の概略構成を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る移動体移動装置を備えた車両を説明するための図であって、当該車両の後部を側方から見た図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る移動体移動装置の制御体系を示した図である。
【
図5】主に演算処理部の構成を示したブロック図である。
【
図6】全開位置からバックドアの閉動作を行う場合の、ドア速度及び負荷トルクの変化をグラフによって示した図であって、(a)はバックドアのドア開度とドア速度との関係を示した図であり、(b)はバックドアのドア開度と駆動装置の負荷トルクとの関係を示した図である。
【
図7】全開位置と全閉位置との間の途中位置からバックドアの閉動作を行う場合の、ドア速度及び負荷トルクの変化をグラフによって示した図であって、(a)はバックドアのドア開度とドア速度との関係を示した図であり、(b)はバックドアのドア開度と駆動装置の負荷トルクとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の一実施形態に係る移動体移動装置1について、
図1乃至
図7を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては便宜上、
図1及び
図2に示した矢印の方向によって、車両100の上下方向、前後方向、左右方向を規定して記述する。
また、
図3中に示した矢印Aの方向を、駆動部2における作動部材22Aの進出方向と規定し、矢印Aの方向とは反対の方向を、駆動部2における作動部材22Aの後退方向として記述する。
【0013】
[移動体移動装置1の全体構成]
先ず、移動体移動装置1の全体構成について、
図1、
図2及び
図4を用いて説明する。
本実施形態における移動体移動装置1は、駆動モータを備える駆動部によって、対象物である移動体を所定方向に移動させる装置である。
このような移動体移動装置1の一例として、例えば
図1に示すような、車両100の車体101において、後背面の開口部101a(
図2を参照)を開閉するバックドア102を移動体とし、当該バックドア102を上下方向に移動(回動)させるバックドア開閉装置が挙げられる。
【0014】
なお、移動体移動装置1の構成については、本実施形態におけるバックドア開閉装置に限定されるものではなく、例えば、車体101の側面において、前後方向にスライド移動可能に備えられたスライドドアを開閉させる、スライドドア開閉装置としても採用することができる。
また、移動体移動装置1は、例えば、店舗やガレージ等の構造物に設置されるシャッター、引き戸、開き扉、或いは、構造物正面の開口の上方に配置される折り畳み式の庇等を移動体とする開閉装置としても採用することができる。
即ち、本発明の実施形態である移動体移動装置1は、上述したような、バックドア102を開閉させるバックドア開閉装置に限定されるものではなく、移動対象物である物品又は構造を、上下方向、左右方向、又は斜め方向に移動させる、様々な装置に適用することが可能である。
【0015】
移動体移動装置1は、主に、移動体の一例であるバックドア102、バックドア102を開方向と閉方向とに移動させる駆動部2、駆動部2に設けられる回転センサ3(
図5を参照)、及び駆動部2の駆動を制御する制御部4などを備える。
【0016】
バックドア102は、
図2に示すように、車両100の車体101に対して、上端部においてヒンジ103等を介して上下方向に移動(回動)可能に設けられている。
また、駆動部2は、長さ方向に先端側の部材(具体的には、後述する作動部材22A)が進退可能に構成されており、車体101後部の左右両側にそれぞれ配置されている(
図1を参照)。
なお、駆動部2の構成の詳細については、後述する。
【0017】
そして、車両100後部の左右両側において、2基の駆動部2は、バックドア102と各々回動可能に連結される。
具体的には、駆動部2は、後述する保持部材22Bの第2連結部27を介して、車体101と回動可能に連結される。また、駆動部2は、保持部材22Bに対して相対的に進退する作動部材22Aの第1連結部26を介して、バックドア102と回動可能に連結される。
【0018】
回転センサ3は、バックドア102の位置を検知するセンサの一例であって、バックドア102の開閉速度(ドア速度)、移動方向(開方向または閉方向)、及び位置(ドア開度)を検知する。回転センサ3は、ドア開度の検知部として、制御部4にドア開度に関する情報を伝達することができる。
回転センサ3は、例えば、駆動部2に設けられる駆動モータ21の駆動軸21a(
図3を参照)に貫設された円盤と、周方向に異なる間隔で当該円盤に配置された磁石と、当該磁石に対向する位置に配置されたホール素子などにより構成されている。
【0019】
そして、駆動モータ21が作動して駆動軸21aが回転されると、ホール素子は、駆動軸21aの回転に伴い移動する磁石を補足して、当該駆動軸21aの回転数に応じた周期でパルス信号を出力する。
【0020】
ホール素子から出力されたパルス信号は、制御部4に送られる。
そして、パルス信号が入力された制御部4は、当該パルス信号の周期に基づき、駆動モータ21の回転速度、つまりバックドア102の開閉速度(ドア速度)を検知するようになっている。
【0021】
また、制御部4は、ホール素子から入力されたパルス信号の出現タイミングに基づき、駆動モータ21の回転方向、つまりバックドア102の移動方向(開方向または閉方向)を検知するようになっている。
【0022】
さらに、制御部4は、バックドア102が基準位置(全開位置P1または全閉位置P2)となった時を起点としてパルス信号を積算することにより、バックドア102の位置(ドア開度)を検知するようになっている。
ここで、「全開位置P1」とは、バックドア102が完全に開かれた「開位置」の状態となる位置を意味する。また、「全閉位置P2」とは、バックドア102が完全に閉じられた「閉位置」の状態となる位置を意味する。
【0023】
なお、回転センサ3の構成については、本実施形態に限定されるものではなく、例えばレゾルバやロータリーエンコーダ等により構成することとしてもよい。
また、近接センサ、過電流変位センサ、光電センサ、またはレーザセンサ等によって、回転センサ3を構成することとしてもよい。
さらに、バックドア102の開閉速度(ドア速度)、及び移動方向(開方向または閉方向)については、後述する制御部4の電圧検出回路部42(
図4を参照)を介して検出される、駆動モータ21への供給電圧または供給電流等に基づき、把握することとしてもよい。
【0024】
制御部4は、例えば、車両100(
図1を参照)の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)により構成され、移動体移動装置1の各部の制御と監視を行う。
制御部4は、
図4に示すように、演算処理部41、及び当該演算処理部41と各々の駆動部2とを接続する複数の電圧検出回路部42などを有する。
【0025】
なお、本実施形態においては、2基の駆動部2が設けられていることから、適宜、一方の駆動部2を駆動部2Xと記載し、他方の駆動部2を駆動部2Yと記載する。
また、便宜上、駆動部2Xに対応づけて特定の構成要素に言及する場合、その構成要素の参照符号に記号「X」を付し、駆動部2Yに対応づけてその構成要素に言及する場合、その構成要素の参照符号に記号「Y」を付す。
【0026】
演算処理部41は、CPU(Central Processing Unit)により構成され、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等からなる制御信号演算部41C(
図5を参照)を有する。
そして、演算処理部41は、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと協働して各種制御を実行する。
なお、演算処理部41の構成の詳細については後述する。
【0027】
各電圧検出回路部42は、抵抗R1~R5を含む電気回路によって構成される。
そして、制御部4は、電圧検出回路部42Xを介して、駆動部2Xの駆動モータ21Xにおける電圧信号を検出し、また電圧検出回路部42Yを介して、駆動部2Yの駆動モータ21Yにおける電圧信号を検出することにより、これらの駆動部2X・2Yの負荷トルクを監視する。
【0028】
なお、駆動部2X・2Yが発揮するトルク値は、当該駆動部2X・2Yに各々供給される電流値に比例することから、制御部4は、駆動部2Xの駆動モータ21Xにおける電流信号を検出し、また駆動部2Yの駆動モータ21Yにおける電流信号を検出することにより、これらの駆動部2X・2Yの負荷トルクを監視することとしてもよい。
【0029】
以上のような構成からなる移動体移動装置1において、例えば、制御部4からの制御信号を受けて駆動部2の作動部材22Aが進出することにより、バックドア102は、当該作動部材22Aによって下方から押し上げられて、開方向へと移動する。
また、制御部4からの制御信号を受けて駆動部2の作動部材22Aが後退すると、バックドア102は、当該作動部材22Aの作動に応じて閉方向へと移動する。
【0030】
なお、本実施形態においては、これら2基の駆動部2X・2Yが互いに同期して同一方向に駆動する構成(具体的には、作動部材22AX・22AYが同一方向に進出または後退する構成)となっているが、これに限定されるものではない。
即ち、車体101に対して、バックドア102の開方向への移動(開口部101aが開状態となる方向への移動)、及び閉方向への移動(開口部101aが閉状態となる方向への移動)を可能とする限りにおいて、例えば、これらの駆動部2X・2Yが互いに同期して異なる方向に駆動する構成(具体的には、作動部材22AX・22AYが異なる方向に進出または後退する構成)であってもよく、また、これらの駆動部2X・2Yが互いに異なる駆動量で駆動する構成(具体的には、作動部材22AX・22AYの移動量が互いに異なる構成)であってもよい。
【0031】
また、本実施形態においては、2基の駆動部2を設けることとしているが、これに限定されるものではない。
例えば、何れか一方の駆動部2を、当該駆動部2の構成から動力源である駆動モータ21を省いた構成からなる支持部、或いはダンバー機構等によって代替することも可能である。
つまり、移動体移動装置1においては、少なくとも1基の駆動部2が設けられていればよい。
【0032】
[駆動部2の構成]
次に、駆動部2の構成の詳細について、
図3を用いて説明する。
駆動部2は、伸縮可能な棒状のアクチュエータからなり、軸方向の一方側に配置される駆動本体部、及び軸方向の他方側に配置され、当該駆動本体部から出没可能に設けられる進退部などにより構成される。
また、駆動部2は、駆動本体部における一方の端部側にて車体101と回動可能に連結され、且つ進退部における他方の端部側にてバックドア102と回転可能に連結される。
【0033】
そして、駆動部2は、駆動モータ等の回転運動を軸方向の直進運動に変換し、駆動本体部に対して進退部を出没させることにより伸縮可能に構成されている。
このような構成からなる駆動部2において、駆動本体部に対して、進退部を軸方向の他方側に向って進出させることにより、バックドア102(
図1を参照)は全開位置P1(
図2を参照)に向かって移動されることとなる。
また、駆動本体部に対して、進退部を軸方向の一方側に向って後退させることにより、バックドア102は全閉位置P2(
図2を参照)に向かって移動されることとなる。
【0034】
なお、駆動部2は、バックドア102の開閉動作を可能とするものであれば、その構造、形状、及び配置位置等について、本実施形態に特に限定されるものではない。
【0035】
駆動部2は、例えば、動力源である駆動モータ21、駆動モータ21の駆動により進退方向(
図3中の矢印Aの方向と平行な方向)に作動する作動部材22A、作動部材22Aとともにハウジング22を構成する保持部材22B、保持部材22Bに対して作動部材22Aを付勢する付勢部材23、及び駆動モータ21の駆動により回転するスピンドル24などを備える。
また、作動部材22Aは、スピンドル24と螺合するスピンドルナット25などを有する。
ここで、本実施形態においては、駆動モータ21、保持部材22B、付勢部材23、及びスピンドル24等が駆動本体部に対応し、作動部材22A及びスピンドルナット25等が進退部に対応する。
【0036】
なお、以下の説明においては、保持部材22Bに対して、作動部材22Aが相対的に離間する方向側(矢印Aの方向側)を、適宜「進出方向側」と記載し、作動部材22Aが相対的に近接する方向側(矢印Aの反対方向側)を、適宜「後退方向側と記載する。
【0037】
作動部材22Aは、軸方向の一方側の端面が開放面となった有底円筒形状の部材からなり、その閉鎖端面22A1には、例えばボールジョイントからなる第1連結部26が設けられている。
そして、作動部材22Aは、第1連結部26を介して、バックドア102に設けられた取付部材(図示せず)と回動可能に連結される。
【0038】
なお、第1連結部26の構成については、本実施形態に示されるような、バックドア102と直接的に連結される構成に限定されるものではなく、例えばリンク機構等のような他の機構を介して、バックドア102と連結される構成であってもよい。
【0039】
保持部材22Bは、軸方向の他方側の端面が開放面となった有底円筒形状の部材からなり、その内径は、作動部材22Aの外径に比べて大きく設定されている。
また、保持部材22Bの閉鎖端面22B1には、上述の第1連結部26と同様、例えばボールジョイントからなる第2連結部27が設けられており、当該第2連結部27を介して、保持部材22Bは、車体101(
図1を参照)の後部に設けられた取付部材(図示せず)と回動可能に連結される。
【0040】
なお、第2連結部27の構成についても、本実施形態に示されるような、車体101の後部と直接的に連結される構成に限定されるものではなく、例えばリンク機構等のような他の機構を介して、車体101の後部と連結される構成であってもよい。
【0041】
そして、これらの作動部材22A及び保持部材22Bは、ともに同軸上に配置され、保持部材22Bの内側において、作動部材22Aが当該保持部材22Bに対して軸方向に相対移動可能に構成されている。
【0042】
ここで、保持部材22Bの内部空間は、閉鎖端面22B1と平行に設けられる隔壁部22B2によって、閉鎖端面22B1側に位置する閉鎖端面側空間部22B3と、開放面側に設けられる開放面側空間部22B4とに隔絶されている。
また、作動部材22Aの内側空間部22A2は、当該作動部材22Aの一方側の端部が保持部材22Bの内側に挿入されることにより、保持部材22Bの開放面側空間部22B4と連通された状態となっている。
【0043】
このように、作動部材22A及び保持部材22Bによって、ハウジング22の外部に対して画定される空間部29は、閉鎖端面側空間部22B3からなる第1空間部29A、並びに開放面側空間部22B4及び内側空間部22A2からなる第2空間部29Bによって構成される。
【0044】
そして、ハウジング22の第1空間部29Aには、駆動モータ21が、作動部材22A側(進出方向側)に駆動軸21aを向けた状態にて配置される。
また、ハウジング22の第2空間部29Bには、後述するように、付勢部材23、スピンドル24、及びスピンドルナット25等とともに、作動部材22Aの回転動作を規制する中空円筒形状の回転規制部材28が、保持部材22Bと同軸上に配置される。
【0045】
回転規制部材28は、保持部材22Bの開放面側空間部22B4において、作動部材22Aの半径方向外側、且つ当該作動部材22Aと同軸上に配置される。
また、回転規制部材28は、後退方向側の端部において、保持部材22Bの隔壁部22B2に固定されている。
【0046】
回転規制部材28の側面には、軸方向に延びるスリット28aが形成されている。
一方、作動部材22Aの外周面において、後退方向側の端部には、前記スリット28aと嵌合可能な凸部22A3が形成されている。
【0047】
そして、作動部材22Aは、凸部22A3が回転規制部材28のスリット28aに嵌合しつつ、当該回転規制部材28に対して軸方向に摺動可能となっている。
これにより、作動部材22Aは、保持部材22Bに対して、軸回り方向への移動を規制されつつ、確実に軸方向に相対移動可能な構成となっている。
【0048】
付勢部材23は、例えばコイルスプリングからなる弾性部材によって構成されており、その外径は、作動部材22Aの内径に比べて小さく設定される一方、その内径は、スピンドル24やスピンドルナット25の外径に比べて十分大きく設定されている。
【0049】
そして、付勢部材23は、第2空間部29Bにおいて、作動部材22A(または、保持部材22B)と同軸上に配置される。
また、付勢部材23は、一方側の端部(本実施形態においては、後退方向側の端部)において、保持部材22Bの隔壁部22B2と当接し、且つ他方側の端部(本実施形態においては、進出方向側の端部)において、作動部材22Aの閉鎖端面22A1と当接した状態にて配置される。
これにより、作動部材22Aは、付勢部材23によって、保持部材22Bに対して軸方向の進出方向側へと移動するように、常に付勢された状態となっている。
【0050】
なお、付勢部材23は、軸方向に所定の付勢力を生じるように、一端部が保持部材22Bの隔壁部22B2と固定され、他端部が作動部材22Aの閉鎖端面22A1に固定されていてもよい。
【0051】
スピンドル24は、丸棒形状の部材からなり、その外周面には、軸方向に向かって螺旋状に形成された凸状の雄ネジ部24aが設けられている。
【0052】
スピンドル24は、第2空間部29Bにおいて、駆動モータ21の駆動軸21aと同軸上、且つ付勢部材23の半径方向内側に位置するように配置される。
また、スピンドル24は、後退方向側の端部24bにおいて、隔壁部22B2に固定された第1軸受部材11を介して、軸回り方向に回転可能に支持され、且つ進出方向側の端部24cにおいて、後述するスピンドルナット25の内周面を軸方向に摺動可能な第2軸受部材12を介して、軸回り方向に回転可能に支持される。
【0053】
そして、スピンドル24は、端部24bの先端において、市販の軸継手13を介して、駆動モータ21の駆動軸21aと連結されている。
これにより、後述する制御部4(
図4を参照)からの制御信号に基づき電力が供給されて駆動モータ21が駆動すると、スピンドル24は、軸回り方向に回転される。
【0054】
スピンドルナット25は、中空円筒形状の部材からなり、作動部材22Aの内側空間部22A2において、スピンドル24と同軸上、且つ付勢部材23の半径方向内側に位置するように配置される。
また、スピンドルナット25の内周面において、後退方向側の端部には、軸方向に向かって螺旋状に形成された雌ネジ部25aが設けられている。
【0055】
そして、スピンドルナット25は、一方の端部(後退方向側の端部)において、雌ネジ部25aを介してスピンドル24の雄ネジ部24aと螺合されるとともに、他方の端部(進出方向側の端部)において、作動部材22Aの閉鎖端面22A1と固定されている。
これにより、駆動モータ21の駆動によってスピンドル24が軸回り方向に回転されると、スピンドルナット25は、スピンドル24に対して相対回転され、作動部材22Aとともにスピンドル24の軸方向へと移動する。
【0056】
具体的には、スピンドル24が軸回り方向の所定側に回転されると、スピンドルナット25は、作動部材22Aとともに当該スピンドル24の軸方向の進出方向側へと移動する。
また、スピンドル24が、軸回り方向の所定側との反対側に回転されると、スピンドルナット25は、作動部材22Aとともに当該スピンドル24の軸方向の後退方向側へと移動する。
【0057】
以上のような構成からなる駆動部2において、駆動モータ21が駆動すると、スピンドル24が軸回り方向に回転され、スピンドルナット25を介して、作動部材22Aは軸方向に移動する。
つまり、駆動モータ21の駆動によって、進退部は、駆動本体部に対して軸方向に移動する。
【0058】
進退部を構成する作動部材22Aには、バックドア102と連結する第1連結部26が設けられることから、進退部の移動に伴い、バックドア102は開方向、或いは閉方向へと移動することとなり、当該バックドア102を全開位置P1、或いは全閉位置P2に位置させることができる。
【0059】
また、バックドア102は、進退部を構成するスピンドルナット25を介して、駆動本体部を構成するスピンドル24と螺合した構成からなり、且つ進退部を構成する作動部材22Aを介して、駆動本体部を構成する付勢部材23によって、常に開方向に付勢された構成となっている。
従って、バックドア102は、全開位置P1、或いは、移動途中位置にあっても、外的要因が無ければ閉方向に移動しない。駆動部2は、移動体であるバックドア102が途中位置で保持が可能な構成とされている。
【0060】
さらに、駆動モータ21は、電源オフの場合においてフリー状態となる。
駆動モータ21がフリー状態となると、駆動部2によって支持されるバックドア102は、手動によって移動させることが可能となる。
即ち、バックドア102に対して負荷を掛けて、当該バックドア102と連結された作動部材22Aを軸方向に移動させようとすると、スピンドルナット25の軸方向への移動に追従して、スピンドル24がフリーな状態で軸回り方向に回転することから、手動によってバックドア102を開方向または閉方向に移動することができる。
【0061】
[演算処理部41の構成]
次に、演算処理部41の構成の詳細について、
図5を用いて説明する。
なお、本実施形態においては、前述したように、2基の駆動部2が設けられているが、これら2基の駆動部2の制御系は互いに同等な構成であるため、
図5においては、簡略化のため1基の駆動部2のみ記載する。
【0062】
演算処理部41は、前述したように、制御部4に設けられ、各駆動部2の駆動について、制御及び監視を行う。
演算処理部41は、回転センサ3及び電圧検出回路部42と電気的に接続される信号入力部41A、電圧検出回路部42を介して駆動モータ21と電気的に接続される信号出力部41B、並びにこれらの信号入力部41A及び信号出力部41Bと電気的に接続され、信号入力部41Aから入力される信号に基づき演算処理を実行した後、演算結果に基づく信号を信号出力部41Bに出力する制御信号演算部41Cなどにより構成される。
【0063】
制御信号演算部41Cには、フィードバック制御の一種であるPI(Proportional Integral)制御を実行するためのプログラム、並びにバックドア102の目標とする開閉速度に関する速度用デジタルマップ、及び駆動部2の負荷トルクに関するトルク用デジタルマップなどが予め格納されている。
【0064】
ここで、前記速度用デジタルマップは、移動するバックドア102の位置(ドア開度)に応じて、バックドア102の開閉速度(ドア速度)を予め定めた「移動速度則」の一例であり、制御信号演算部41Cは、前記プログラム及び前記速度用デジタルマップに基づき演算処理を実行し、駆動部2の駆動、即ち駆動モータ21の回転速度を制御するように設定されている。
【0065】
また、前記トルク用デジタルマップは、移動するバックドア102の位置(ドア開度)に応じて、駆動部2の駆動モータ21に許容される負荷トルクを予め定めた「許容負荷トルク則」の一例であり、制御信号演算部41Cは、前記プログラム及び前記トルク用デジタルマップに基づき演算処理を実行し、移動中のバックドア102に発生する挟み込みの有無を判定して監視するように設定されている。
【0066】
さらに、信号出力部41Bは、PWM回路、及びPWM回路によって駆動されるパワー半導体からなるモータ駆動回路などにより構成され、制御信号演算部41Cから入力される信号に基づきPWM回路のデューティ比を可変させて、電圧検出回路部42を介して駆動モータ21に供給される供給電圧または供給電流等を変化させることにより、駆動モータ21の回転速度を制御する。
【0067】
そして、信号入力部41Aには、回転センサ3から出力されるパルス信号が入力され、当該信号入力部41Aは、入力されたパルス信号に基づき、バックドア102の実際の開閉速度(ドア速度)を示す実速度信号、及びバックドア102の位置(ドア開度)を示す位置信号を、制御信号演算部41Cにそれぞれ出力する。
【0068】
信号入力部41Aから出力される実速度信号及び位置信号を入力した制御信号演算部41Cは、これらの信号に基づき、バックドア102の実際の開閉速度(ドア速度)を、その位置での目標とする開閉速度に到達させるために、駆動モータ21に対して出力すべき制御信号を演算する。
【0069】
具体的には、制御信号演算部41Cは、予め格納されているプログラム及び上記速度用デジタルマップ(移動速度則)に基づき演算処理を実行し、バックドア102の目標とする開閉速度に対応した基準信号に対して、バックドア102の実際の開閉速度(ドア速度)と、目標とする開閉速度との差に所定の比例項定数を乗じた補正量を加減したものを制御信号として出力する。
【0070】
そして、制御信号演算部41Cから出力される制御信号を入力した信号出力部41Bは、当該制御信号に基づき、PWM回路のデューティ比を可変させて、電圧検出回路部42を介して駆動モータ21に供給される供給電圧または供給電流等を変化させ、駆動モータ21の回転速度を制御する。
【0071】
また、バックドア102の移動が開始されると、信号入力部41Aには、電圧検出回路部42を介して検出される電圧信号が入力され、当該信号入力部41Aは、入力された電圧信号を、駆動モータ21の実際の負荷トルクを示す実負荷トルク信号に変換し、制御信号演算部41Cに出力する。
【0072】
信号入力部41Aから出力される実負荷トルク信号を入力した制御信号演算部41Cは、当該実負荷トルク信号を用いて、駆動モータ21の実際の負荷トルクと、バックドア102のドア開度に応じて駆動モータ21に許容される許容負荷トルクとを比較し、移動中のバックドア102に発生する挟み込みの有無を判定する。
【0073】
具体的には、制御信号演算部41Cは、予め格納されているプログラム及び上記トルク用デジタルマップ(許容負荷トルク則)に基づき、入力された実負荷トルク信号と、バックドア102のドア開度に応じた許容負荷トルクとの比較演算を実行する。
【0074】
その結果、実負荷トルク信号が許容負荷トルク以下である場合、制御信号演算部41Cは、挟み込みが発生していない正常状態であると判定し、再び信号入力部41Aから負荷トルク信号を入力して、移動中のバックドア102に発生する挟み込みの有無を判定する。
一方、実負荷トルク信号が許容負荷トルクを超える場合、制御信号演算部41Cは、挟み込みが発生した異常状態であると判定し、直ちに信号出力部41Bに制御信号を出力して駆動部2の規制制御を実行し、バックドア102の移動を規制する。
【0075】
ここで、駆動部2の規制制御については、例えば、駆動部2の駆動モータ21を短絡回路に接続したり、或いは、駆動モータ21にパルス波形の逆電圧/逆電流を与えたりする等により行うことができる。
この短絡回路は、例えば、制御部4が有する電圧検出回路部42とは別に、電圧検出回路部42の抵抗R4に相当するFETをスイッチ操作することによって短絡可能なブリッジ回路を設けてもよい。
【0076】
なお、駆動部2の規制制御は、上記のような駆動モータ21の電気的な操作による規制に限定されるものではなく、作動部材22Aやスピンドル24(
図3を参照)等を摩擦力で拘束して、駆動部2の移動を規制するといった方法であってもよい。
【0077】
[移動体移動装置1の制御方法]
次に、本実施形態における移動体移動装置1において、バックドア102の開閉動作を行う場合の、当該バックドア102の制御方法について、
図2、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0078】
例えば
図2に示すように、移動体移動装置1において、バックドア102を全開位置P1から全閉位置P2に移動させて、当該バックドア102の閉動作を行う場合、バックドア102の移動速度(ドア速度)は、前述した移動速度則に基づき、制御部4によって次のように制御される。
【0079】
即ち、
図6(a)に示すように、制御信号演算部41C(
図5を参照)に格納された速度用デジタルマップからなる移動速度則Vsは、停止状態から移動を開始するバックドア102を、所定速度V1の移動へと移動速度(ドア速度)を増速する増速領域Vs1を有しており、バックドア102の移動速度(ドア速度)は、移動速度則Vsに基づき制御部4によって、当該バックドア102の位置(ドア開度)が全開位置P1から全閉位置P2側に向かって所定距離だけ離れた位置X1に到達するまでの間、一定の加速度によって徐々に上昇するように制御される。
【0080】
また、位置X1にバックドア102が到達した後、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)は、移動速度則Vsに基づき制御部4によって、全閉位置P2から全開位置P1側に向かって所定距離だけ離れた位置X2に到達するまでの間、所定速度V1を維持するように制御される。
【0081】
そして、位置X2にバックドア102が到達した後、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)は、移動速度則Vsに基づき制御部4によって、全閉位置P2に到達するまでの間、一定の減速度(負の値の加速度)によって徐々に下降するように制御される。
【0082】
一方、全開位置P1から全閉位置P2に向かって、バックドア102が移動している間、制御部4は、前述した許容負荷トルク則に基づき、挟み込みの有無を継続して判定する。
ここで、制御信号演算部41Cに格納されたトルク用デジタルマップからなる許容負荷トルク則Tsは、バックドア102の移動速度(ドア速度)とともに変化する、駆動モータ21の実際の負荷トルク(実負荷トルク)Tqに基づき、予め設定されている。
【0083】
即ち、
図6(b)に示すように、通常の場合、駆動部2における駆動モータ21の実負荷トルクTqは、バックドア102が閉動作を開始した直後に突発的に上昇し、その後、バックドア102の移動速度(ドア速度)が一定の加速度によって徐々に上昇するのに伴い、実負荷トルクTqは徐々に減少する。
【0084】
また、バックドア102が位置X1に到達し、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)が所定速度V1によって維持されると、これに伴い、駆動モータ21の実負荷トルクTqも、所定の負荷トルクQa1に略維持される。
【0085】
そして、バックドア102が位置X2に到達し、その後、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)が一定の減速度(負の値の加速度)によって徐々に下降するのに伴い、実負荷トルクTqは徐々に上昇する。
【0086】
駆動モータ21の実負荷トルクTqは、移動速度則Vsに基づき制御されるバックドア102の移動速度(ドア速度)とともに変化する。駆動モータ21の実負荷トルクTqに対して、許容負荷トルク則Tsは、バックドア102の位置の全開位置P1と全閉位置P2とを基準とした位置ではなく、開作動または閉作動を開始した位置を基準として設定される。これにより、途中位置からの作動開始時の突入電流や、作動開始時に設定される速度に応じた電流に対応した挟み込み判断のための閾値を設定することができる。
【0087】
また、許容負荷トルク則Tsは、全開位置P1と位置X1との間において、実負荷トルクTqに対して略一定のトルク値分上回りつつ、当該実負荷トルクTqに沿って徐々に減少する減少領域Ts1、位置X1と位置X2との間において、実負荷トルクTqに対して略一定のトルク値分上回る負荷トルクQ1にて維持される維持領域Ts2、及び位置X2と全閉位置P2との間において、実負荷トルクTqに対して略一定のトルク値分上回りつつ、当該実負荷トルクTqに沿って徐々に増加する増加領域Ts3を有することができる。
【0088】
前述したように、制御部4は、バックドア102の位置(ドア開度)に応じて、実負荷トルクTqのトルク値と、許容負荷トルク則Tsのトルク値との比較演算を継続して実行し、当該演算の結果、実負荷トルクTqのトルク値が、許容負荷トルク則Tsのトルク値以下となる場合には(Tq≦Ts)、挟み込みが発生していない正常状態であると判定する。
また、制御部4は、前記演算の結果、実負荷トルクTqのトルク値が、許容負荷トルク則Tsのトルク値を超える場合には(Tq>Ts)、挟み込みが発生した異常状態であると判定する。
【0089】
ここで、都合によりバックドア102を全開位置P1と全閉位置P2との間の途中位置にてバックドア102を閉動作させる場合には、バックドア102の作動開始は、通常であれば所定の速度で移動しているはずの位置である、前記途中位置より行うこととなる。
この場合、バックドア102の移動速度(ドア速度)は、前述した移動速度則Vsの増速領域Vs1に基づき、制御部4によって前記途中位置より上昇するように制御される。
【0090】
具体的には、
図7(a)に示すように、例えば、位置X1と位置X2との間の位置P3においてバックドア102が保持されていた場合、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)は、移動速度則Vsの増速領域Vs1に基づき、制御部4によって、一定の加速度にて徐々に上昇するように制御され、全閉位置P2側の位置P4にて所定速度V1に到達すると、所定速度V1を維持するように制御される。
なお、
図7(a)中における二点鎖線で表した移動速度則Vsは、上述した通常の場合の移動速度則Vsを意味する。
【0091】
ここで、上述したように、駆動部2における駆動モータ21の実負荷トルクTqは、バックドア102が閉動作を開始した直後に突発的に上昇し、その後、バックドア102の移動速度(ドア速度)が一定の加速度によって徐々に上昇するのに伴い、実負荷トルクTqは徐々に減少する。
【0092】
従って、
図7(b)に示すように、バックドア102が閉動作を開始した直後の、位置P3における駆動モータ21の実負荷トルクTqのトルク値は、直ちに許容負荷トルク則Tsのトルク値を超え、その後、バックドア102の移動速度(ドア速度)が徐々に上昇するのに伴って、駆動モータ21の実負荷トルクTqは徐々に減少する。
【0093】
そして、バックドア102の移動速度(ドア速度)が所定速度V1に到達する位置P4の直前付近にて、実負荷トルクTqのトルク値は、許容負荷トルク則Tsのトルク値以下となるものの、前記位置P4の直前付近にバックドア102が到達するまでの間、実負荷トルクTqのトルク値は、許容負荷トルク則Tsのトルク値を超えた状態が維持されることとなる。
その結果、全開位置P1と全閉位置P2とを基準とした開閉体の位置に応じた固有の閾値を異常判断のために設定した場合には、バックドア102が閉動作を開始した直後の、突発的に上昇した実負荷トルクTqのトルク値によって、制御部4が、挟み込みが発生した異常状態であると誤判定する虞がある。
【0094】
このようなことから、従来においては、全開位置P1と全閉位置P2との間の途中位置からバックドア102の移動を開始する場合の対応策の一つとして、例えば、バックドア102の移動の開始直後から、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)が所定速度V1に到達するまでの間、許容負荷トルク則Tsのトルク値をマスクすることとして、挟み込みの誤判定を防止する方法等が取られていた。
しかしながら、このような方法では、実際に挟み込みが発生した場合に、異常状態であると判定することが困難であり、当該挟み込みの検知精度が低下するという問題があった。
【0095】
そこで、本実施形態においては、全開位置P1と全閉位置P2との間の途中位置からバックドア102の移動を開始する場合、制御部4は、バックドア102の移動開始位置(例えば、本実施形態においては位置P3)に基づく、バックドア102の移動に応じた補正値により、許容負荷トルク則Tsを補正したうえで、実負荷トルクTqのトルク値と、補正後の許容負荷トルク則Tsのトルク値との比較演算を実行することにより、挟み込みの有無を判定することとしている。
【0096】
具体的には、制御部4は、バックドア102の移動開始直後から所定時間Taが経過して、当該バックドア102の位置(ドア開度)がPa1に到達した時点より、補正値の算出を開始する。
【0097】
また、制御部4は、補正値の算出を開始した後、少なくとも、実負荷トルクTqのトルク値が許容負荷トルク則Tsのトルク値以下となるまで、予め設定された時間Tbの経過毎に、補正値の算出を繰り返し実行する。
つまり、補正値は、バックドア102が移動を開始してからの経過時間(Ta+ΣTb)に応じて、繰り返し算出される。
【0098】
そして、制御部4は、算出した補正値を、既存の許容負荷トルク則Tsのトルク値に加算することにより、バックドア102の位置(ドア開度)に応じた許容負荷トルク則Tsのトルク値を補正し、その後、実負荷トルクTqのトルク値と、補正後の許容負荷トルク則Tsのトルク値との比較演算を実行することにより、挟み込みの有無を判定する。
【0099】
なお、算出される補正値の値については、バックドア102の位置(ドア開度)に応じて、当該補正値を加算することにより補正された許容負荷トルク則Tsのトルク値が、バックドア102が増速領域Vs1を移動する際の実負荷トルクTqのトルク値に対して、略一定のトルク値分だけ僅かに上回るように設定されている。補正値の値については、バックドア102の目標とする開閉速度として予め設定される目標移動速度に対応させて設定することができる。
【0100】
このように、本実施形態においては、全開位置P1と全閉位置P2との間の途中位置より、バックドア102の閉動作を行う場合、バックドア102の移動開始位置(位置P3)に基づき、当該バックドア102の移動に応じて、補正値の算出を繰り返し実行し、算出した補正値を加算することによって許容負荷トルク則Tsのトルク値を補正したうえで、実負荷トルクTqのトルク値と、補正後の許容負荷トルク則Tsのトルク値との比較演算を実行することにより、挟み込みの有無を判定することとしている。
【0101】
従って、バックドア102が閉動作を開始した直後の、突発的に上昇した実負荷トルクTqのトルク値によって、制御部4が、挟み込みが発生した異常状態であると誤判定するのを防止しつつ、実際に挟み込みが発生した場合には、確実に異常状態であると判定することができる。
【0102】
なお、本実施形態においては、バックドア102の移動開始直後から所定時間Taの経過中、当該バックドア102の位置に応じた許容負荷トルク則Tsのトルク値をマスクするように構成されている。
【0103】
ここで一般的に、バックドア102の移動開始直後から所定時間Ta(具体的には数百ミリ秒~数秒間)が経過するまでの間、駆動部2の駆動モータ21に供給される電流が安定しないことが知られている。
本実施形態においては、このような駆動モータ21に供給される電流が不安定な状況下において、バックドア102の位置に応じた許容負荷トルク則Tsのトルク値をマスクすることによって、一時的に挟み込みの検知を停止して誤検知されるのを防止することとしており、より確実に挟み込みを検知することができる。
【0104】
ところで、モータが発揮するトルク値は、当該モータに供給される電流値に比例することが一般的に知られており、前述したように、電圧検出回路部42(
図5を参照)によって検出された電圧値により、駆動モータ21の実負荷トルクTqを把握するのに替わり、当該駆動モータ21に供給される電流値を検出し、検出された当該電流値により駆動モータ21の実負荷トルクTqを把握することとしてもよい。
【0105】
ここで、回転駆動を行う駆動モータ21においては、当該回転駆動を妨げる方向に働く逆起電圧が回転速度に比例して発生することから、駆動モータ21に印加された電圧と、上記逆起電圧とが略釣り合いの取れた状態となり、駆動モータ21に流れる電流値は、安定した値となる。
しかしながら、停止状態から回転駆動を開始する際の駆動モータ21においては、駆動モータ21に電流を供給して電圧が印加された直後から、実際に回転駆動が開始される直前までの間、駆動モータ21に逆起電力が発生しておらず、また当該回転駆動が開始された直後は、駆動モータ21に発生する逆起電力は極めて小さな値となるため、駆動モータ21に印加された電圧が、逆起電力によって妨げられることもあまりなく、駆動モータ21には、突入電流という極めて大きな電流が発生することとなる。
このようなことから、駆動モータ21の回転速度に基づき、突入電流の発生を、間接的に把握することが可能である。
【0106】
一方、前述したように、駆動モータ21の回転速度は、移動速度則Vsに基づき、バックドア102の移動速度(ドア速度)が、予め設定された当該バックドア102の位置(ドア開度)に応じた目標移動速度となるように制御される。
【0107】
これらのことから、バックドア102の移動に応じて許容負荷トルク則Tsを補正するための手法としては、バックドア102が移動を開始した直後から所定の一定時間(例えば、上述した増速領域Vs1の経過時間)が経過するまでの間において、例えば、上述した所定時間Taが経過した後、予め設定された時間Tbの経過毎に、バックドア102の移動速度(ドア速度)と、移動速度則Vsによって予め設定されている目標移動速度との速度差を算出し、算出された速度差に応じて、駆動モータ21に供給される電流値に基づき、許容負荷トルク則Tsの補正値を算出することとしてもよい。
或いは、バックドア102の移動速度(ドア速度)と、移動速度則Vsによる目標移動速度との速度差を算出することなく、直接的に、バックドア102の移動速度(ドア速度)に応じて、駆動モータ21に供給される電流値に基づき、許容負荷トルク則Tsの補正値を算出することとしてもよい。
つまり、制御部4は、バックドア102の移動として、当該バックドア102の移動速度(ドア速度)を把握して、当該移動速度(ドア速度)に基づき、許容負荷トルク則Tsを補正するための補正値を算出することとしてもよい。
【0108】
なお、上述した、バックドア102が移動を開始した直後からの「所定の一定時間」については、制御信号演算部41Cにおいて実行されるフィードバック制御の応答時間を考慮のうえ、決定することが可能である。
【0109】
以上の説明においては、バックドア102を全開位置P1から全閉位置P2に移動させて、当該バックドア102の閉動作を行う場合について説明したが、バックドア102を全閉位置P2から全開位置P1に移動させて、当該バックドア102の閉動作をおこなう場合においては、バックドア102の移動方向のみが異なり、制御部4による移動速度(ドア速度)、及び挟み込みの有無の判定についての制御方法は略同一であるため、説明の記載は省略する。
【0110】
[効果]
以上のように、本実施形態における移動体移動装置1は、バックドア(移動体)102と、バックドア(移動体)102を移動させる駆動部2と、バックドア(移動体)102の位置を検知する回転センサ(センサ)3と、バックドア(移動体)102の移動を所定の移動とする移動速度則Vsに基づき駆動部2の駆動を制御する制御部4とを備えた移動体移動装置1である。
また、移動速度則Vsは、停止状態から移動を開始するバックドア(移動体)102を、所定速度V1の移動へと移動速度を増速する増速領域Vs1を有する。
【0111】
そして、制御部4は、バックドア(移動体)102の位置に応じて、駆動部2に対して予め定めた許容負荷トルク則Tsに基づき挟み込みを判定し、許容負荷トルク則Tsは、バックドア(移動体)102の移動開始位置に基づく、バックドア(移動体)102の移動、あるいは経過時間に応じた補正値により、許容負荷トルク則Tsを補正する。
【0112】
このように、本実施形態においては、バックドア(移動体)102が増速領域Vs1を移動する場合、バックドア(移動体)102の移動開始位置に基づき、当該バックドア(移動体)102の移動に応じて算出した補正値により許容負荷トルク則Tsを補正することとしている。
従って、途中停止したバックドア(移動体)102を移動させる場合であっても、移動開始直後に発生する過大な負荷トルクが許容負荷トルク則Tsのトルク値を超えることのないように、当該許容負荷トルク則Tsが補正値によって嵩上げされることとなる。
その結果、このようなバックドア(移動体)102の移動開始直後に発生する過大な負荷トルクによる挟み込みの誤検知を防止するとともに、補正値によって嵩上げされた許容負荷トルク則Tsに基づき、容易に挟み込みを検知することができる。なお、バックドア102の移動速度が変化する増速領域Vs1でのバックドア102の移動は、初期からの速度増加があれば、一定速度の移動も含まれる。許容負荷トルク則Tsの補正については、途中位置から移動を開始したバックドア102の移動状況に対応させることで、容易に挟み込みが検知される。
【0113】
また、本実施形態における移動体移動装置1において、制御部4は、上記のバックドア(移動体)102の移動として、バックドア(移動体)102の移動速度(ドア速度)を把握して、当該移動速度(ドア速度)に基づき、許容負荷トルク則Tsを補正するための補正値を算出する。
【0114】
このような構成を有することにより、実際のバックドア(移動体)102の動作に基づき、より現実に見合った許容負荷トルク則Tsの補正を行うことができる。
【0115】
また、本実施形態における移動体移動装置1において、制御部4は、バックドア(移動体)102の移動開始直後から所定時間Taの経過後に前記補正値を算出し、所定時間Taの経過中、バックドア(移動体)102の位置に応じた許容負荷トルク則Tsの値(トルク値)をマスクする。
【0116】
一般的に、バックドア(移動体)102の移動開始直後から所定時間Ta(具体的には数秒間)が経過するまでの間、駆動部2の駆動モータ21に供給される電流が安定しないことが知られている。
本実施形態においては、このような駆動モータ21に供給される電流が不安定な状況下において、バックドア(移動体)102の位置に応じた許容負荷トルク則Tsのトルク値をマスクすることによって、一時的に挟み込みの検知を停止して誤検知されるのを防止することとしており、より確実に挟み込みを検知することができる。
【0117】
また、本実施形態における移動体移動装置1において、前記補正値は、バックドア(移動体)102が移動を開始してからの経過時間(Ta+ΣTb)に応じて繰り返し算出される。
【0118】
このような構成を有することにより、バックドア(移動体)102の移動開始直後から経過時間(Ta+ΣTb)に応じて徐々にトルク値が変化する(減少する)駆動部2の負荷トルクに対して、より適切な補正値を算出して許容負荷トルク則Tsを補正することができ、より確実に挟み込みを検知することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 移動体移動装置
2 駆動部
3 回転センサ(センサ)
4 制御部
102 バックドア(移動体)
Ta 所定時間
Ts 許容負荷トルク則
V1 所定速度
Vs 移動速度則