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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】電解用電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20210101AFI20230502BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230502BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20230502BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20230502BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20230502BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230502BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20230502BHJP
【FI】
C25B11/04
C25B9/00 A
C25B11/053
C25B11/061
C25B11/077
C25B11/081
C25B11/093
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020505004
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008289
(87)【国際公開番号】W WO2019172160
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018040569
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】光島 重徳
(72)【発明者】
【氏名】黒田 義之
(72)【発明者】
【氏名】永島 郁男
(72)【発明者】
【氏名】谷口 達也
(72)【発明者】
【氏名】錦 善則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昭博
(72)【発明者】
【氏名】ジャエナル アワルディン
(72)【発明者】
【氏名】辻井 文哉
(72)【発明者】
【氏名】中井 貴章
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190476(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064644(WO,A1)
【文献】Sho Fujita et al.,The Effect of LixNi2-xO2/Ni with Modification Method on Activity and Durability of Alkaline Water Electrolysis Anode,Electrocatalysis,2017年11月28日,9,162-171
【文献】J. C. Botejue Nadesan and A. C. C. Tseung,Oxygen Evolution on Nickel Oxide Electrodes,J. Electrochem. Soc.,1985年,Vol. 132, No. 12,2957-2959
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
C25B 9/00
C25B 11/053
C25B 11/061
C25B 11/077
C25B 11/081
C25B 11/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、
前記導電性基体の表面上に形成された、組成式LiNi2-x(0.3≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層と、
前記中間層の表面上に形成された触媒層と、を備え、
前記触媒層が、ニッケルコバルトスピネル酸化物、ランタノイドニッケルコバルトペロブスカイト酸化物、イリジウム酸化物、ルテニウム酸化物、及びリチウムニッケルコバルト酸化物からなる群より選択される少なくとも一種の触媒を含み、
前記中間層の層平均密度が、5.1g/cm 以上6.67g/cm 以下である電解用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電解用電極の製造方法であって、
少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体の表面に、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を塗布する工程と、
前記水溶液を塗布した前記導電性基体を熱処理して、前記導電性基の表面上に組成式LiNi2-x(0.3≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を形成する工程と、
形成された前記中間層の表面上に触媒層を形成する工程と、を含み、
前記触媒層が、ニッケルコバルトスピネル酸化物、ランタノイドニッケルコバルトペロブスカイト酸化物、イリジウム酸化物、ルテニウム酸化物、及びリチウムニッケルコバルト酸化物からなる群より選択される少なくとも一種の触媒を含む電解用電極の製造方法。
【請求項3】
カルボン酸ニッケル及びカルボン酸リチウムの少なくとも一方を水に溶解させて前記水溶液を調製する請求項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記触媒層を形成した後に450℃以上600℃以下で熱処理する工程をさらに含む請求項又はに記載の電解用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用電極、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、貯蔵及び輸送に適しているとともに、環境負荷が小さい二次エネルギーであるため、水素をエネルギーキャリアに用いた水素エネルギーシステムに関心が集まっている。現在、水素は主に化石燃料の水蒸気改質などにより製造されているが、地球温暖化や化石燃料枯渇問題の観点から、再生可能エネルギーを動力源に用いたアルカリ水電解の重要性が増している。
【0003】
水電解は大きく2つに分けられる。1つはアルカリ水電解であり、電解質に高濃度アルカリ水溶液が用いられている。もう1つは、固体高分子型水電解であり、電解質に固体高分子膜(SPE)が用いられている。大規模な水素製造を水電解で行う場合、高価な貴金属を多量に使用した電極を用いる固体高分子型水電解よりも、ニッケル等の鉄系金属などの安価な材料を用いるアルカリ水電解の方が適していると言われている。
【0004】
高濃度アルカリ水溶液は、温度上昇に伴って電導度が高くなるが、腐食性も高くなる。このため、操業温度の上限は80~90℃程度に抑制されている。高温及び高濃度のアルカリ水溶液に耐える電解槽の構成材料や各種配管材料の開発、低抵抗隔膜、及び表面積を拡大し触媒を付与した電極の開発により、電解性能は、電流密度0.3~0.4Acm-2において1.7~1.9V(効率78~87%)程度にまで向上している。
【0005】
アルカリ水電解用陽極として、高濃度アルカリ水溶液中で安定なニッケル系材料が使用されており、安定な動力源を用いたアルカリ水電解の場合、ニッケル系陽極は数十年以上の寿命を有することが報告されている(非特許文献1及び2)。しかし、再生可能エネルギーを動力源とすると、激しい起動停止や負荷変動などの過酷な条件となる場合が多く、ニッケル系陽極の性能劣化が問題とされている(非特許文献3)。
【0006】
ニッケル酸化物の生成反応、及び生成したニッケル酸化物の還元反応は、いずれも金属表面にて進行する。このため、これらの反応に伴い、金属表面に形成された電極触媒の脱離が促進される。電解のための電力が供給されなくなると、電解が停止し、ニッケル系陽極は酸素発生電位(1.23Vvs.RHE)より低い電位、かつ、対極である水素発生用陰極(0.00Vvs.RHE)より高い電位に維持される。セル内では種々の化学種による起電力が発生しており、電池反応の進行により陽極電位は低く維持され、ニッケル酸化物の還元反応が促進される。
【0007】
電池反応によって生じた電流は、複数のセルを組み合わせた電解槽の場合、セル間を連結する配管を介してリークする。このような電流のリークを防止する対策として、例えば、停止時に微小な電流を流し続けるようにする方法などがある。しかし、停止時に微小な電流を流し続けるには特別な電源制御が必要になるとともに、酸素及び水素を常に発生させることになるため、運用管理上の過度の手間がかかるといった問題がある。また、逆電流状態を意図的に避けるために、停止直後に液を抜いて電池反応を防止することは可能であるが、再生可能エネルギーのような出力変動の大きい電力での稼動を想定した場合、必ずしも適切な処置であるとはいえない。
【0008】
従来、アルカリ水電解に使用される酸素発生用陽極の触媒(陽極触媒)として、白金族金属、白金族金属酸化物、バルブ金属酸化物、鉄族酸化物、ランタニド族金属酸化物などが利用されている。その他の陽極触媒としては、Ni-Co、Ni-Feなどニッケルをベースにした合金系;表面積を拡大したニッケル;スピネル系のCo、NiCo、ペロブスカイト系のLaCoO、LaNiOなどの導電性酸化物(セラミック材料);貴金属酸化物;ランタニド族金属と貴金属からなる酸化物なども知られている(非特許文献4)。
【0009】
高濃度アルカリ水電解に使用される酸素発生用陽極として、リチウム含有ニッケル酸化物層をニッケル基体表面に予め形成した陽極が知られている(特許文献1及び2)。また、リチウムとニッケルを所定のモル比で含むリチウム含有ニッケル酸化物触媒層をニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献3)や、ニッケルコバルト系酸化物と、イリジウム酸化物又はルテニウム酸化物とを含む触媒層をニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】英国特許出願公開第864457号明細書
【文献】米国特許第2928783号明細書
【文献】特開2015-86420号公報
【文献】特開2017-190476号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】P.W.T.Lu, S.Srinivasan, J.Electrochem.Soc.,125,1416(1978)
【文献】C.T.Bowen, Int.J.Hydrogen Energy,9,59(1984)
【文献】光島重徳、松澤幸一、“水素エネルギーシステム”、36,11(2011)
【文献】J.P.Singh, N.K.Singh, R.N.Singh, Int.J.Hydrogen Energy,24,433(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1~4で提案されたアルカリ水電解用陽極であっても、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合には性能が低下しやすく、長期間にわたって安定的に使用することが困難であるといった問題があった。
【0013】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持される電解用電極を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記電解用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、導電性基体の表面上に、所定の組成式で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を介して触媒層を配置することによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下に示す電解用電極が提供される。
[1]少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、前記導電性基体の表面上に形成された、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層と、前記中間層の表面上に形成された触媒層と、を備える電解用電極。
[2]前記中間層の層平均密度が、5.1g/cm以上6.67g/cm以下である前記[1]に記載の電解用電極。
[3]前記触媒層が、ニッケルコバルトスピネル酸化物、ランタノイドニッケルコバルトペロブスカイト酸化物、イリジウム酸化物、ルテニウム酸化物、及びリチウムニッケルコバルト酸化物からなる群より選択される少なくとも一種の触媒を含む前記[1]又は[2]に記載の電解用電極。
【0016】
また、本発明によれば、以下に示す電解用電極の製造方法が提供される。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の電解用電極の製造方法であって、少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体の表面に、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を塗布する工程と、前記水溶液を塗布した前記導電性基体を熱処理して、前記導電性基材の表面上に組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を形成する工程と、形成された前記中間層の表面上に触媒層を形成する工程と、を含む電解用電極の製造方法。
[5]カルボン酸ニッケル及びカルボン酸リチウムの少なくとも一方を水に溶解させて前記水溶液を調製する前記[4]に記載の電解用電極の製造方法。
[6]前記触媒層を形成した後に450℃以上600℃以下で熱処理する工程をさらに含む前記[4]又は[5]に記載の電解用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持される電解用電極を提供することができる。また、本発明によれば、上記電解用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の電解用電極の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】試料1の中間体断面のSEM画像である。
図3】試料2の中間体断面のSEM画像である。
図4】試料3の中間体断面のSEM画像である。
図5】試料4の中間体断面のSEM画像である。
図6】試料5の中間体断面のSEM画像である。
図7】試料6の中間体断面のSEM画像である。
図8】試料7の中間体断面のSEM画像である。
図9】試料8の中間体断面のSEM画像である。
図10】試料9の中間体断面のSEM画像である。
図11】試料10の中間体断面のSEM画像である。
図12】試料11の中間体断面のSEM画像である。
図13】試料12の中間体断面のSEM画像である。
図14】シャットダウン回数とセル電圧との関係を示すグラフである。
図15】加速寿命試験による各試験サンプルの電流密度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<電解用電極>
図1は、本発明の電解用電極の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の電解用電極10は、導電性基体2と、導電性基体2の表面上に形成された中間層4と、中間層4の表面上に形成された触媒層6とを備える。以下、本発明の電解用電極の詳細につき、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(導電性基体)
導電性基体2は、電気分解のための電気を通すための導電体であり、中間層4及び触媒層6を担持する担体としての機能を有する部材である。導電性基体2の少なくとも表面(中間層4が形成される面)は、ニッケル又はニッケル基合金で形成されている。すなわち、導電性基体2は、全体がニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよく、表面のみがニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよい。具体的に、導電性基体2は、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属材料の表面に、めっき等によりニッケル又はニッケル基合金のコーティングが形成されたものであってもよい。
【0021】
導電性基体の厚さは、0.05~5mmであることが好ましい。導電性基体の形状は、生成する酸素や水素等の気泡を除去するための開口部を有する形状であることが好ましい。例えば、エクスパンドメッシュや多孔質エクスパンドメッシュを導電性基体として使用することができる。導電性基体が開口部を有する形状である場合、導電性基体の開口率は10~95%であることが好ましい。
【0022】
(中間層)
中間層4は、導電性基体2の表面上に形成される層である。中間層4は、導電性基体2の腐食等を抑制するとともに、触媒層6を導電性基体2に安定的に固着させる。また、中間層4は、触媒層6に電流を速やかに供給する役割も果たす。中間層4は、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成されている。上記組成式中のxが0.02未満であると、導電性が不十分になる。一方、xが0.5を超えると物理的強度及び化学的安定性が低下する。上記組成式で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成された中間層4は、電解に十分な導電性を有するとともに、長期間使用した場合でも優れた物理的強度及び化学的安定性を示す。
【0023】
中間層の厚さは、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。中間層の厚さが0.01μm未満であると、上述した機能が発現しない。一方、中間層の厚さを100μm超としても、中間層での抵抗による電圧損失が大きくなって上述の機能が発現しにくくなるとともに、製造コスト等の面でやや不利になる場合がある。
【0024】
中間層の層平均密度は、5.1g/cm以上6.67g/cm以下であることが好ましく、5.1g/cm以上6.0g/cm以下であることがさらに好ましく、5.5g/cm以上6.0g/cm以下であることが特に好ましい。中間層は、内部に形成されている気孔の割合が少なく、緻密であることが好ましい。具体的には、中間層の気孔率(中間層の全体に占める、気孔(空隙)の面積の比の値)は、0.29以下であることが好ましく、0.18以下であることがさらに好ましい。なお、中間層の気孔率は、中間層の断面写真(SEM画像)を画像解析用の市販のCCDデジタルマイクロスコープ(例えば、モリテックス社製の商品名「MSX-500Di」)に付属する画像処理ソフト等を使用して画像解析することにより算出することができる。
【0025】
導電性基体の表面上に形成された中間層の層平均密度(見かけ密度D)は、以下の手順にしたがって測定及び算出することができる。まず、中間層の断面写真(SEM画像)を画像解析し、中間層の気孔率を算出する。ここで、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)の真密度は、6.67g/cmである。このため、下記式(1)から層平均密度(見かけ密度D)を算出することができる。
層平均密度(g/cm)=6.67×(1-気孔率) ・・・(1)
【0026】
(触媒層)
触媒層6は、中間層4の表面上に形成される触媒能を有する層である。中間層4を介在させることで、触媒層6は導電性基体2上に十分な強度で固定されている。触媒層6に含まれる触媒の種類は特に限定されず、目的に応じた触媒能を有する触媒を選択して用いることができる。例えば、電解用電極10がアルカリ水電解用陽極である場合には、アルカリ水電解用陽極に用いる触媒で触媒層6を構成することができる。また、電解用電極10がアルカリ水電解用陰極である場合には、アルカリ水電解用陰極に用いる触媒で触媒層6を構成することができる。
【0027】
触媒の具体例としては、ニッケルコバルトスピネル酸化物(NiCo)、ランタノイドニッケルコバルトペロブスカイト酸化物、イリジウム酸化物、ルテニウム酸化物、及びリチウムニッケルコバルト酸化物などを挙げることができる。ランタノイドニッケルコバルトペロブスカイト酸化物は、構造式XNiCo1-a(Xは、ランタン、セリウム及びプラセオジムから選ばれた少なくとも1種以上の金属、0<a<1)である。これらの触媒のうち、1種類を用いて触媒層を形成してもよいし、複数の触媒を用いて触媒層を形成してもよい。複数の触媒を用いる場合、成分を混合して1層の触媒層とすることができる。また、各触媒成分の層を積層させて触媒層とすることもできる。積層する場合は、各層を1種類の触媒で構成してもよいし、複数の触媒を混合した層で構成してもよい。例えば、触媒層6として、中間層4上にニッケルコバルトスピネル酸化物からなる層を形成した後、その上にイリジウム酸化物からなる層を積層させてもよい。触媒層の厚さや密度等についても特に限定されず、電極の用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
<電解用電極の製造方法>
次に、本発明の電解用電極の製造方法について説明する。以下で説明する電解用電極の製造方法は、前述の電解用電極を製造する方法であり、中間層を熱分解法により形成する。なお、中間層を形成する方法は熱分解法に限定されず、例えばスパッタリングやイオンプレーティング、プラズマ溶射なども採用することができる。
【0029】
熱分解法を用いる本発明の電解用電極の製造方法は、導電性基体の表面に、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を塗布する工程(塗布工程)と、水溶液を塗布した導電性基体を熱処理して、導電性基材の表面上に組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を形成する工程(中間層形成工程)と、形成された中間層の表面上に触媒層を形成する工程(触媒層形成工程)とを含む。
【0030】
(前処理工程)
塗布工程を行う前に、表面の金属や有機物などの汚染粒子を除去するために、導電性基体を予め化学エッチング処理することが好ましい。化学エッチング処理による導電性基体の消耗量は、30g/m以上400g/m以下程度とすることが好ましい。また、中間層との密着力を高めるために、導電性基体の表面を予め粗面化処理することが好ましい。粗面化処理としては、粉末を吹き付けるブラスト処理;基体可溶性の酸を用いたエッチング処理;プラズマ溶射などがある。
【0031】
(塗布工程)
塗布工程では、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する前駆体水溶液を導電性基体の表面に塗布する。中間層は、いわゆる熱分解法によって形成される。熱分解法により中間層を形成するに際しては、まず、中間層の前駆体水溶液を調製する。リチウム成分を含む前駆体としては、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、カルボン酸リチウムなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸リチウムとしては、ギ酸リチウムや酢酸リチウムを挙げることができる。ニッケル成分を含む前駆体としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、カルボン酸ニッケルなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸ニッケルとしては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルを挙げることができる。特に、カルボン酸リチウム及びカルボン酸ニッケルの少なくとも一方を前駆体として用いることにより、後述するように低温で焼成した場合であっても緻密な中間層を形成することができるので特に好ましい。
【0032】
リチウム及びニッケルのモル比が、Li:Ni=0.02:1.98~0.5:1.5の範囲となるように、リチウムイオン源及びニッケルイオン源を水に溶解させれば、前駆体水溶液を調製することができる。なお、溶解度及び保存時の安定性などを考慮して、カルボン酸ニッケル等のニッケルイオン源の濃度は0.1mol/L以上1mol/L以下とすることが好ましく、0.1mol/L以上0.6mol/L以下とすることがさらに好ましい。
【0033】
リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を、導電性基体の表面に塗布する。塗布方法としては、刷毛塗り、ローラー塗布、スピンコート、静電塗装などの公知の方法を利用することができる。次いで、必要に応じて、水溶液を塗布した導電性基体を乾燥させる。乾燥温度は、急激な溶媒の蒸発を避ける温度(例えば、60~80℃程度)とすることが好ましい。
【0034】
(中間層形成工程)
中間層形成工程では、水溶液を塗布した導電性基体を熱処理する。これにより、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を導電性基材の表面上に形成することができる。
【0035】
熱処理温度は適宜設定することができる。前駆体の分解温度と生産コストとを考慮すると、熱処理温度は450℃以上600℃以下とすることが好ましく、450℃以上550℃以下とすることがさらに好ましい。例えば、硝酸リチウムの分解温度は430℃程度であり、酢酸ニッケルの分解温度は373℃程度である。熱処理温度を450℃以上とすることにより、各成分をより確実に分解することができる。熱処理温度を600℃超とすると、導電性基体の酸化が進行しやすく、電極抵抗が増大して電圧損失の増大を招く場合がある。熱処理時間は、反応速度、生産性、触媒層表面の酸化抵抗等を考慮して適宜設定すればよい。
【0036】
前述の塗布工程における水溶液の塗布回数を適宜設定することで、形成される中間層の厚さを制御することができる。なお、水溶液の塗布と乾燥を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよく、水溶液の塗布及び熱処理(前処理)を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよい。前処理の温度と全体の熱処理の温度は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、前処理の時間は、全体の熱処理の時間よりも短くすることが好ましい。
【0037】
水溶液を塗布した導電性基体を熱処理することで、リチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層が形成される。比較的低温で熱処理することで中間層を形成することができるため、導電性基体に含まれるニッケルと、中間層を形成する成分との反応を抑制することができる。すなわち、中間層を構成するリチウム含有ニッケル酸化物中のリチウム及びニッケルのモル比は、水溶液中のリチウム及びニッケルのモル比と実質的に同一である。
【0038】
(触媒層形成工程)
触媒層形成工程では、前述の中間層形成工程で形成された中間層の表面上に触媒層を形成する。触媒層を形成する方法は、触媒層を構成する触媒の種類に応じて従来公知の技術が適宜選択され、特に限定されない。例えば、上記の中間層を形成する方法と同様の熱分解法の他、スパッタリングやアークイオンプレーティング等の方法によっても触媒層を形成することができる。上述したように、複数の触媒を用いて触媒層を形成する場合には、各成分を混合して1層の触媒層を形成することができる。混合触媒層を形成するにあたっては、例えば熱分解法を用いる場合、各触媒の前駆体をすべて混合した塗布液を調製して、中間層上にこの塗布液を塗布して熱処理する。また、各層を構成する触媒の前駆体を含む塗布液をそれぞれ準備し、これらを重ねて塗布することによって触媒層を形成することもできる。
【0039】
(熱処理工程)
本発明の電解用電極の製造方法は、触媒層を形成した後に450℃以上600℃以下で熱処理する工程をさらに含むことが好ましい。触媒層の形成後に熱処理することで、電解性能の劣化がさらに抑制されるといった効果を得ることが期待される。熱処理温度は適宜設定することができる。前駆体の分解温度や生産コストなどを考慮すると、熱処理温度は450℃以上600℃以下とすることが好ましく、450℃以上550℃以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
<電解セル>
本発明の電解用電極は、例えば、電解用の陽極だけでなく、電解用の陰極としても用いることができる。さらに、本発明の電解用電極は、アルカリ水電解用陽極の他、アルカリ水電解用陰極としても用いることができる。すなわち、本発明の電解用電極を用いれば、アルカリ水電解セル等の電解セルを構成することができる。以下、本発明の電解用電極をアルカリ水電解用陽極として用いてアルカリ水電解セルを構成する場合における、陽極以外の構成材料について説明する。
【0041】
陰極としては、アルカリ水電解に耐えうる材料製の基体と、陰極過電圧が小さい触媒とを選択して用いることが好ましい。陰極基体としては、ニッケル基体、又はニッケル基体に活性陰極を被覆形成したものを用いることができる。陰極基体の形状としては、板状の他、エクスパンドメッシュや多孔質エクスパンドメッシュなどを挙げることができる。
【0042】
陰極材料としては、表面積の大きい多孔質ニッケルや、Ni-Mo系材料などがある。
その他、Ni-Al、Ni-Zn、Ni-Co-Znなどのラネーニッケル系材料;Ni-Sなどの硫化物系材料;TiNiなど水素吸蔵合金系材料などがある。触媒としては、水素過電圧が低い、短絡安定性が高い、被毒耐性が高い等の性質を有するものが好ましい。その他の触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなどの金属、及びこれらの酸化物が好ましい。
【0043】
電解用隔膜としては、アスベスト、不織布、イオン交換膜、高分子多孔膜、及び無機物質と有機高分子の複合膜などを用いることができる。具体的には、リン酸カルシウム化合物やフッ化カルシウム等の親水性無機材料と、ポリスルホン、ポリプロピレン、及びフッ化ポリビニリデン等の有機結合材料との混合物に、有機繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。また、アンチモンやジルコニウムの酸化物及び水酸化物等の粒状の無機性親水性物質と、フルオロカーボン重合体、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルブチラール等の有機性結合剤とのフィルム形成性混合物に、伸張された有機性繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。
【0044】
本発明の電解用電極を構成要素とするアルカリ水電解セルを用いれば、高濃度のアルカリ水溶液を電解することができる。電解液として用いるアルカリ水溶液としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は1.5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は15質量%以上40質量%以下であることが、電気伝導度が大きく、電力消費量を抑えることができるために好ましい。さらに、コスト、腐食性、粘性、操作性等を考慮すると、アルカリ水溶液の濃度は20質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0046】
<中間層の形成(中間体の製造)>
(試料1)
硝酸リチウム(純度99%)及び酢酸ニッケル四水和物(Ni(CHCOO)・4HO、純度98.0%)を純水に溶解させて、リチウム(Li)とニッケル(Ni)のモル比がLi:Ni=0.1:1.9である水溶液を得た。水溶液の酢酸ニッケル濃度は0.56mol/Lとした。
【0047】
陽極基体として、ニッケル製のエクスパンドメッシュ(10cm×10cm、LW×3.7SW×0.9ST×0.8T)を用意した。このエクスパンドメッシュを17.5質量%塩酸に浸漬し、沸点近傍で6分間化学エッチング処理した。化学エッチング処理後の陽極基体の表面に上記の水溶液を刷毛で塗布した後、60℃で10分間乾燥させた。次いで、大気雰囲気下、500℃で15分間熱処理した。水溶液の塗布から熱処理までの処理を20回繰り返して、陽極基体の表面上に中間層(組成:Li0.1Ni1.9)が形成された中間体(試料1)を得た。得られた中間体に形成された中間層の厚さは3.8μmであり、層平均密度は5.6g/cmであった。試料1の中間体断面のSEM画像を図2に示す。
【0048】
<試料2~12>
表1に示す条件としたこと以外は、前述の試料1と同様にして中間層を形成して、試料2~12の中間体を得た。得られた各中間体の中間層(酸化物)の特性を表2に示す。また、得られた各中間体断面のSEM画像を図3~13に示す。中間層の層平均密度は、中間層の断面写真(SEM画像)を画像解析して算出した中間層の気孔率を用いて、式(1)から算出した。なお、中間層の気孔率は、画像処理ソフト(モリテックス社製、商品名「MSX-500Di」に付属する画像処理ソフト)を使用し、二値化したSEM画像のピクセル数から、「気孔率=気孔面積/総面積」の値として算出した。
【0049】
【0050】
【0051】
表2及び図2~13に示すように、試料1~6のように酢酸塩(カルボン酸塩)を前駆体として用いることで、組成(Li及びNiのモル比)や熱処理温度を変更した場合であっても、気孔が少なく、より緻密な中間層を形成できることがわかる。また、試料7~12では、中間層の気孔率が大きく、中間層の表面積を増大させることができた。このため、これらの中間層上に触媒層を設けた場合には、触媒層の有効面積を拡大できるといった効果を得ることができる。
【0052】
<アルカリ水電解用陽極の製造>
(実施例1)
硝酸リチウム及び酢酸ニッケル四水和物を純水に溶解させて、リチウム(Li)とニッケル(Ni)のモル比がLi:Ni=0.5:1.5である水溶液を得た。水溶液の酢酸ニッケル濃度は0.56mol/Lとした。
【0053】
陽極基体として、ニッケル製のエクスパンドメッシュ(10cm×10cm、LW×3.7SW×0.9ST×0.8T)を用意した。このエクスパンドメッシュを60メッシュのアルミナ粒子でブラスト処理(0.3MPa)した後、20質量%塩酸に浸漬し、沸点近傍で6分間化学エッチング処理した。化学エッチング処理後の陽極基体の表面に上記の水溶液を刷毛で塗布した後、80℃で15分間乾燥させた。次いで、大気雰囲気下、600℃で15分間熱処理した。水溶液の塗布から熱処理までの処理を20回繰り返して、陽極基体の表面上に中間層(組成:Li0.5Ni1.5)が形成された中間体を得た。得られた中間体に形成された中間層の厚さは5.1~8.3μmであり、層平均密度は5.8~5.9g/cmであった。
【0054】
硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを純水に溶解させて、ニッケル(Ni):コバルト(Co)のモル比がNi:Co=33.3:66.7である塗布液を得た。得られた塗布液を、塗布1回当たりのメタル量が1g/mとなるように上記の中間体の中間層の表面に塗布した後、室温で10分間及び60℃で10分間乾燥させた。次いで、空気循環式の電気炉中、350℃で15分間熱処理する熱分解を行った。塗布液の塗布から熱分解までの処理を4回繰り返して、中間層の表面上に触媒層(組成:NiCo)が形成されたアルカリ水電解用陽極(n=1及び2)を得た。形成された触媒層のメタル量は4g/mであった。
【0055】
(実施例2)
実施例1で得たアルカリ水電解用陽極の触媒層の表面上に、塗布1回当たりのメタル(Ir)量が1g/mとなるように、ヘキサアンミンイリジウム溶液を塗布した。その後、空気循環式の電気炉中、350℃で15分間熱処理する熱分解を行った。ヘキサアンミンイリジウム溶液の塗布から熱分解までの処理を4回繰り返して、中間層の表面上に第1の触媒層(組成:NiCo)及び第2の触媒層(組成:IrO)がこの順に形成された積層構造の触媒層を有するアルカリ水電解用陽極を得た。形成された第2の触媒層のメタル量は4g/mであった。
【0056】
(実施例3)
実施例1で得たアルカリ水電解用陽極の触媒層の表面上に、塗布1回当たりのメタル(Ir)量が1.25g/mとなるように、イリジウムヒドロキシアセトクロリド錯体(以下、「IrHAC」と記す)溶液を塗布した。その後、空気循環式の電気炉中、350℃で15分間熱処理する熱分解を行った。IrHAC溶液の塗布から熱分解までの処理を4回繰り返して、中間層の表面上に第1の触媒層(組成:NiCo)及び第2の触媒層(組成:IrO)がこの順に形成された積層構造の触媒層を設けた。形成された第2の触媒層のメタル量は5g/mであった。その後、空気循環式の電気炉中、540℃で60分間熱処理して、アルカリ水電解用陽極を得た。
【0057】
(比較例1)
硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを純水に溶解させて、ニッケル(Ni):コバルト(Co)のモル比がNi:Co=33.3:66.7である塗布液を得た。得られた塗布液を、塗布1回当たりのメタル量が1g/mとなるように、実施例1で作製した化学エッチング処理後の陽極基体の表面に塗布した後、室温で10分間及び60℃で10分間乾燥させた。次いで、空気循環式の電気炉中、350℃で15分間熱処理する熱分解を行った。塗布液の塗布から熱分解までの処理を4回繰り返して、陽極基体の表面上に触媒層(組成:NiCo)が直に形成されたアルカリ水電解用陽極を得た。形成された触媒層のメタル量は4g/mであった。
【0058】
<評価>
(シャットダウン試験)
製造した各アルカリ水電解用陽極をアノードとして用いるとともに、隔膜、及びカソードを用いて小型のゼロギャップ型電解セルを作製した。電極面積は19cmとした。25質量%KOH水溶液を電解液とし、80℃に加温して、電流密度4kA/m(比較例1)、6kA/m(実施例1)、10kA/m(実施例2)、及び10kA/m(実施例3)でそれぞれ6時間電解した。次いで、アノードとカソードを短絡状態(0kA/m)とし、温度を下げて15時間停止させた。上記の電解から停止までの操作を1サイクルとするシャットダウン試験を行った。シャットダウン回数とセル電圧との関係を示すグラフを図14に示す。
【0059】
図14に示すように、実施例1(n=1、n=2)、実施例2、及び実施例3のアルカリ水電解用陽極を用いた電解セルでは、1回停止後のセル電圧はいずれもやや低下し、所定の電圧で安定したことがわかる。また、試験後に電解セルを分解して隔膜を観察したが、析出物等は生成していなかった。これに対して、比較例1のアルカリ水電解用陽極を用いた電解セルでは、停止回数の増加とともにセル電圧も徐々に増加したことがわかる。また、試験後に電解セルを分解して隔膜を観察したところ、触媒及び陽極基体に由来する析出物が付着していることがわかった。
【0060】
(加速寿命試験)
実施例1(n=1)及び比較例1のアルカリ水電解用陽極、並びにニッケル板(比較例2;面積1.0cm、中間層及び触媒層なし)を試験サンプルとし、以下の手順にしたがって加速寿命試験を行った。まず、加速寿命試験前の各試験サンプルにつき、以下に示す条件でSSV(Slow Scan Voltammetry)を行った。SSVの結果から、各試験サンプルの酸素発生時の電圧及び電流密度を算出した。
電解液:25質量%KOH水溶液、温度30℃±1℃
電位範囲:0.5~1.8V
走査速度:5mV/sec
対極:Niコイル
参照極:可逆水素電極(RHE)
測定雰囲気:窒素雰囲気
サイクル数:5回
【0061】
次いで、同じ電解液内で以下に示す条件でCV(Cyclic Voltammetry)を行った。さらに、各サイクル終了後に上記条件でSSVを行った。加速寿命試験による各試験サンプルの電流密度変化を示すグラフを図15に示す。図15では、電圧1.6Vにおける電流密度を示している。
電位範囲:0.5~1.8V
操作速度:1V/sec
サイクル数:0、1,000、3,000、5,000、10,000、15,000、20,000サイクル
【0062】
図15に示すように、実施例1のアルカリ水電解用陽極は、比較例1のアルカリ水電解用陽極及び比較例2のニッケル板と比べて、初期の活性とサイクル数経過後の活性との差が小さく、サイクル経過によっても活性が低下しにくいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の電解用電極は、例えば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とする電解設備等を構成するアルカリ水電解用陽極として好適である。
【符号の説明】
【0064】
2:導電性基体
4:中間層
6:触媒層
10:電解用電極
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図15