(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】圧粉体の製造方法、及び圧粉体
(51)【国際特許分類】
B22F 5/00 20060101AFI20230502BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20230502BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230502BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230502BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230502BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20230502BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
B22F5/00 Z
B22F3/02 A
B22F3/00 F
H01F41/02 G
H01F1/057 130
H01F1/057 160
H01F1/059 160
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2020561392
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019049065
(87)【国際公開番号】W WO2020129867
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018235935
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-011508(JP,A)
【文献】米国特許第03492120(US,A)
【文献】特開昭63-250404(JP,A)
【文献】特公昭40-025042(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体の内周面で
構成される中空部を
有するダイと、前記中空部に挿入される下パンチと、前記中空部に挿入される上パンチとを備える金型を準備する第一の工程を備え、
前記ダイの内周面は、
球帯状の第一内周面と、
前記第一内周面の軸方向の一端側に設けられる円筒状の第二内周面と、
前記第一内周面の軸方向の他端側に設けられる円筒状の第三内周面とを有し、
前記第一内周面は、軸方向の一端から他端に向かって小さくなる内径を有し、
前記第二内周面は、前記第一内周面の最大内径に対応する内径を有し、
前記第三内周面は、前記第一内周面の最小内径に対応する内径を有し、
前記下パンチは、前記第一内周面につながることで半球面を構成する球冠状の端面を有し、
前記下パンチの前記端面は、前記第三内周面の内径に対応する外径を有し、
前記上パンチは、
円筒状の第一上パンチと、
前記第一上パンチの内側に挿通される円柱状の第二上パンチとを有し、
前記第一上パンチは、平面で構成される円環状の端面を有し、
前記第一上パンチの前記端面は、前記第二内周面の内径に対応する外径を有し、
前記第二上パンチは、前記下パンチに向かって突出する半球状の端面を有し、
前記第二上パンチの前記端面は、前記第一上パンチの内径に対応する外径を有し、
更に、
前記ダイの前記第一内周面、前記第二内周面及び前記第三内周面で囲まれる前記中空部において、前記下パンチの端面が前記第三内周面で囲まれる領域内に位置し、且つ、前記第一上パンチの端面が前記第二内周面の開口部に位置すると共に、前記第二上パンチの端面と円柱面との境界が前記第一上パンチの端面と同じ位置にある状態で
、前記中空部内に原料粉末が充填された状態とする第二の工程と、
前記ダイに対して前記第一上パンチ及び前記第二上パンチを下降させると共に前記下パンチを上昇させ、前記原料粉末を上下から圧縮して中空半球状の圧粉体を得る第三の工程と、を備
え、
前記第二の工程は、
前記第一内周面で囲まれる領域内に前記下パンチの端面の周縁を突出させた状態で、前記中空部内に前記原料粉末を充填する工程と、
前記中空部内に前記原料粉末を充填した後、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面の他端よりも下側に下降させ、前記下パンチの端面を前記第三内周面で囲まれる領域内に位置させる工程と、
前記中空部内に前記原料粉末を充填した後、前記第一上パンチの端面を前記第二内周面の開口部の位置まで下降させると共に、前記第二上パンチを下降させて前記第二上パンチの端面を前記中空部内に挿入し、前記第二上パンチの端面と前記円柱面との境界を前記第一上パンチの端面の位置と一致させる工程と、を有する、
圧粉体の製造方法。
【請求項2】
前記第一上パンチと前記ダイとの間で圧縮される前記原料粉末の圧縮率と、前記第二上パンチと前記下パンチとの間で圧縮される前記原料粉末の圧縮率との差が50%以下である請求項1に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程は、前記ダイの前記中空部内に前記原料粉末を充填した後、前記第二上パンチの端面を前記ダイの前記中空部内に挿入する前に、前記第一上パンチの端面で前記第二内周面の開口部を部分的に塞ぐ工程を有する請求項1
又は請求項2に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項4】
前記第二の工程は、前記第二内周面の開口部を部分的に塞いだ後、前記第二上パンチを下降させて前記第二上パンチの端面を前記中空部内に挿入し、前記第二上パンチの端面と前記円柱面との境界を前記第一上パンチの端面の位置と一致させる工程を有する請求項
3に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項5】
前記ダイの前記第一内周面と前記下パンチの端面とで半球面を構成するときの前記第二内周面の開口部から前記下パンチの端面の周縁までの距離を100とするとき、
前記第二の工程において、
前記原料粉末を充填する際、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面で囲まれる
領域内に突出させる突出量を10以上70以下とする請求項
1から請求項4のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項6】
前記第二の工程において、
前記原料粉末を充填した後、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面の他端から下降させる下降量を1mm以上10mm以下とする請求項
1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項7】
前記第二上パンチの外径に対する前記下パンチの外径の比が0.8以上1.2以下である請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項8】
前記第三の工程において、前記原料粉末を圧縮する成形圧力を980MPa以上とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項9】
前記第三の工程において、圧縮終了時における前記下パンチの端面の周縁の位置を前記第一内周面の他端から下側に0.1mm以下の範囲内とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項10】
前記第三の工程において、圧縮終了時における前記下パンチの端面の周縁の位置を前記第一内周面の他端から下側に0.1mm超0.3mm以下の範囲内とする請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項11】
前記原料粉末は、希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金を水素化処理した水素化粉末からなる磁石粉末を含み、
前記第三の工程の後、前記圧粉体を脱水素処理する工程を備える請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項12】
中空半球状の形状を有し、
前記中空半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と平行で、且つ、前記中空半球の開口端面の内周縁を通る線
に沿った面を分割
面としたとき、前記分割
面よりも前記中心軸線側に位置する部分を頂部、前記分割
面よりも前記中心軸線とは反対側に位置する残りの部分を裾部とし、
前記頂部と前記裾部との相対密度の差が5%以下である、
圧粉体。
【請求項13】
前記圧粉体全体の相対密度が80%以上である請求項
12に記載の圧粉体。
【請求項14】
前記圧粉体の外周面に0.1mm以下の段差が設けられている請求項
12又は請求項
13に記載の圧粉体。
【請求項15】
前記圧粉体の外周面に0.1mm超0.3mm以下の段差が設けられている請求項
12又は請求項
13に記載の圧粉体。
【請求項16】
前記圧粉体の厚みが、前記開口端面の外周半径の1/30倍以上1/2倍以下である請求項
12から請求項
15のいずれか1項に記載の圧粉体。
【請求項17】
希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金の磁石粉末を含む請求項
12から請求項
16のいずれか1項に記載の圧粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉体の製造方法、及び圧粉体に関する。
本出願は、2018年12月17日付の日本国出願の特願2018-235935に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末を金型に充填して圧縮成形することによって、圧粉体を製造することが行われている。特許文献1には、半球形凹部を有する固定型と、この固定型に嵌入されて半球形成形部を形成する半球形凸部を有する可動型とを備える中空半球体の成形装置が記載されている。特許文献2には、磁極面がボンド磁石部で形成され、磁極面が略球状に形成された磁極面球状ボンド磁石が記載されている。
【0003】
また、希土類磁石に関する技術が、例えば、特許文献3から特許文献5に開示されている。特許文献3から特許文献5には、希土類-鉄系合金を水素化処理した磁石用粉末を圧縮成形して圧粉体とし、その圧粉体を脱水素処理することで、希土類-鉄系合金の圧粉体からなる希土類-鉄系磁石、即ち圧粉磁石を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-11508号公報
【文献】特開2006-41138号公報
【文献】特開2011-236498号公報
【文献】特開2011-137218号公報
【文献】特開2012-241280号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の圧粉体の製造方法は、
筒状体の内周面で中空部を構成するダイと、前記中空部に挿入される下パンチと、前記中空部に挿入される上パンチとを備える金型を準備する第一の工程を備え、
前記ダイの内周面は、
球帯状の第一内周面と、
前記第一内周面の軸方向の一端側に設けられる円筒状の第二内周面と、
前記第一内周面の軸方向の他端側に設けられる円筒状の第三内周面とを有し、
前記第一内周面は、軸方向の一端から他端に向かって小さくなる内径を有し、
前記第二内周面は、前記第一内周面の最大内径に対応する内径を有し、
前記第三内周面は、前記第一内周面の最小内径に対応する内径を有し、
前記下パンチは、前記第一内周面につながることで半球面を構成する球冠状の端面を有し、
前記下パンチの前記端面は、前記第三内周面の内径に対応する外径を有し、
前記上パンチは、
円筒状の第一上パンチと、
第一上パンチの内側に挿通される円柱状の第二上パンチとを有し、
前記第一上パンチは、平面で構成される円環状の端面を有し、
前記第一上パンチの前記端面は、前記第二内周面の内径に対応する外径を有し、
前記第二上パンチは、前記下パンチに向かって突出する半球状の端面を有し、
前記第二上パンチの前記端面は、前記第一上パンチの内径に対応する外径を有し、
更に、
前記下パンチの端面が前記第三内周面で囲まれる領域内に位置し、且つ、前記第一上パンチの端面が前記第二内周面の開口部に位置すると共に、前記第二上パンチの端面と円柱面との境界が前記第一上パンチの端面と同じ位置にある状態で、前記ダイの前記第一内周面、前記第二内周面及び前記第三内周面で囲まれる前記中空部内に原料粉末が充填された状態とする第二の工程と、
前記ダイに対して前記第一上パンチ及び前記第二上パンチを下降させると共に前記下パンチを上昇させ、前記原料粉末を上下から圧縮して中空半球状の圧粉体を得る第三の工程と、を備える。
【0006】
本開示の圧粉体は、
中空半球状の形状を有し、
前記中空半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と平行で、且つ、前記中空半球の開口端面の内周縁を通る線を分割線としたとき、前記分割線よりも前記中心軸線側に位置する部分を頂部、前記分割線よりも前記中心軸線とは反対側に位置する残りの部分を裾部とし、
前記頂部と前記裾部との相対密度の差が5%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係る圧粉体の製造方法に使用する金型の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る圧粉体の製造方法における第二の工程を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、第二の工程におけるA工程を説明する概略断面図である。
【
図4】
図4は、第二の工程におけるB工程を説明する概略断面図である。
【
図5】
図5は、第二の工程におけるC工程を説明する概略断面図である。
【
図6】
図6は、第二の工程におけるD工程を説明する概略断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る圧粉体の製造方法における第三の工程を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る圧粉体の一例を示す概略斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る圧粉体の一例を示す概略断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る圧粉体の別の一例を示す概略斜視図であり、圧粉体の外周面に段差を有する形態を示す。
【
図11】
図11は、実施形態に係る圧粉体の別の一例を示す概略断面図であり、圧粉体の外周面に段差を有する形態を示す。
【
図12】
図12は、圧粉体の外周面に段差を有する別の一例を示すものであり、頂部側に段差が設けられている場合を示す概略断面図である。
【
図13】
図13は、圧粉体の外周面に段差を有する別の一例を示すものであり、裾部側に段差が設けられている場合を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
原料粉末を金型で圧縮成形して中空半球状の圧粉体を製造した場合、部分的に密度の異なる部位が発生することがある。特に、頂部と裾部との間で密度の差が生じ易い。以下、「中空半球状」を単に「半球状」という場合がある。圧粉体において部分的に密度差が生じると、部位によって物理的特性が異なることになる。例えば、原料粉末として磁石粉末や軟磁性粉末を用いた半球状の圧粉体で圧粉磁石や圧粉磁心を構成した場合、密度が不均一であると、残留磁束密度(Br)や飽和磁束密度(Bs)といった磁気特性が不均一になるなど、性能に影響を及ぼす。
【0009】
したがって、半球状の圧粉体において密度を均一化することが望まれている。
【0010】
本開示は、中空半球状の圧粉体の密度を均一化できる圧粉体の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、頂部と裾部との密度差が小さい中空半球状の圧粉体を提供することを目的の一つとする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の圧粉体の製造方法は、中空半球状の圧粉体の密度を均一化できる。また、本開示の圧粉体は、中空半球状であり、頂部と裾部との密度差が小さい。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の実施形態に係る圧粉体の製造方法は、
筒状体の内周面で中空部を構成するダイと、前記中空部に挿入される下パンチと、前記中空部に挿入される上パンチとを備える金型を準備する第一の工程を備え、
前記ダイの内周面は、
球帯状の第一内周面と、
前記第一内周面の軸方向の一端側に設けられる円筒状の第二内周面と、
前記第一内周面の軸方向の他端側に設けられる円筒状の第三内周面とを有し、
前記第一内周面は、軸方向の一端から他端に向かって小さくなる内径を有し、
前記第二内周面は、前記第一内周面の最大内径に対応する内径を有し、
前記第三内周面は、前記第一内周面の最小内径に対応する内径を有し、
前記下パンチは、前記第一内周面に繋がることで半球面を構成する球冠状の端面を有し、
前記下パンチの前記端面は、前記第三内周面の内径に対応する外径を有し、
前記上パンチは、
円筒状の第一上パンチと、
第一上パンチの内側に挿通される円柱状の第二上パンチとを有し、
前記第一上パンチは、平面で構成される円環状の端面を有し、
前記第一上パンチの前記端面は、前記第二内周面の内径に対応する外径を有し、
前記第二上パンチは、前記下パンチに向かって突出する半球状の端面を有し、
前記第二上パンチの前記端面は、前記第一上パンチの内径に対応する外径を有し、
更に、
前記下パンチの端面が前記第三内周面で囲まれる領域内に位置し、且つ、前記第一上パンチの端面が前記第二内周面の開口部に位置すると共に、前記第二上パンチの端面と円柱面との境界が前記第一上パンチの端面と同じ位置にある状態で、前記ダイの前記第一内周面、前記第二内周面及び前記第三内周面で囲まれる前記中空部内に原料粉末が充填された状態とする第二の工程と、
前記ダイに対して前記第一上パンチ及び前記第二上パンチを下降させると共に前記下パンチを上昇させ、前記原料粉末を上下から圧縮して中空半球状の圧粉体を得る第三の工程と、を備える。
【0014】
本開示の圧粉体の製造方法によれば、上記特定の金型を使用し、上記第二の工程、及び上記第三の工程によって中空半球状の圧粉体の密度を均一化できる。
【0015】
第一の工程で準備する上記金型は、ダイの第一内周面及び下パンチの端面で半球状の圧粉体の外周面を成形すると共に、第一上パンチの端面及び第二上パンチの端面で圧粉体の開口端面及び内周面を成形するように構成されている。ダイの第一内周面は、圧粉体の半球状の外周面のうち、球帯面を成形し、圧粉体における裾部の外側を成形する。下パンチの端面は、圧粉体の外周面のうち、残りの球冠面を成形し、圧粉体における頂部の外側を成形する。
【0016】
球帯とは、半球の端面と平行な平面、即ち半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と直交する平面で半球を切ったとき、半球の端面と平面とで挟まれる半球面の部分をいう。球冠とは、半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と直交する平面で半球を切ったとき、この平面の頂点側にある半球面の部分をいう。また、圧粉体における頂部とは、中空半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と平行で、且つ、中空半球の開口端面の内周縁を通る線を分割線としたとき、この分割線よりも中心軸線側に位置する部分をいう。圧粉体における裾部とは、上記分割線よりも中心軸線とは反対側に位置する残りの部分をいう。
【0017】
第二の工程では、下パンチの端面が第三内周面で囲まれる領域内に位置し、且つ、第一上パンチの端面が第二内周面の開口部に位置すると共に、第二上パンチの端面と円柱面との境界が第一上パンチの端面と同じ位置にある状態とする。そして、その状態で、ダイの第一内周面、第二内周面及び第三内周面で囲まれる中空部内に原料粉末が充填された状態とする。これにより、後述する第三の工程で原料粉末を圧縮するとき、第二上パンチと下パンチとで挟まれる中空部の中心側、即ち下パンチの上側と、第一上パンチとダイの第一内周面とで挟まれる中空部の外周側、即ち第一内周面側とで原料粉末の圧縮率の差を小さくすることが可能である。双方の圧縮率の差が小さいことで、圧粉体の密度の均一化を図ることができる。
【0018】
下パンチの端面が第三内周面で囲まれる領域内に位置しているため、下パンチの端面が第一内周面の他端よりも下側に位置する。これにより、後述する第三の工程において、下パンチと第二上パンチとで原料粉末を上下から圧縮することができ、圧粉体の密度を高め易い。また、原料粉末の圧縮前に、仮に下パンチの端面を第一内周面で囲まれる中空部内に突出させた状態とすると、原料粉末を圧縮した際に下パンチの端面の周縁が変形して破損し易くなる。下パンチの端面を第三内周面で囲まれる領域内に位置させておくことで、圧縮時における下パンチの端面の周縁の破損を抑制できる。
【0019】
第三の工程では、ダイに対して第一上パンチ及び第二上パンチを下降させる共に下パンチを上昇させ、原料粉末を上下から圧縮して中空半球状の圧粉体を得る。上記第二の工程の状態から原料粉末を圧縮して半球状の圧粉体を成形することで、密度を均一化でき、頂部と裾部との密度差を小さくできる。
【0020】
(2)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第一上パンチと前記ダイとの間で圧縮される前記原料粉末の圧縮率と、前記第二上パンチと前記下パンチとの間で圧縮される前記原料粉末の圧縮率との差が50%以下であることが挙げられる。
【0021】
第一上パンチとダイとの間で圧縮される原料粉末の圧縮率と、第二上パンチと下パンチとの間で圧縮される原料粉末の圧縮率との差の絶対値が上記範囲内であることで、圧粉体の密度を均一化でき、頂部と裾部との密度差を小さくできる。
【0022】
それぞれの圧縮率は、第二の工程での原料粉末を圧縮する前の金型の状態と、第三の工程での原料粉末を圧縮後の金型の状態とから求めることができる。具体的には、次のようにして求めることができる。
【0023】
圧縮前の金型の状態において、第一上パンチの端面とダイの第一内周面との最大距離をA1とし、第二上パンチの端面と下パンチの端面との頂点間距離をA2とする。また、圧縮後の金型の状態において、第一上パンチの端面とダイの第一内周面との最大距離をB1とし、第二上パンチの端面と下パンチの端面との頂点間距離をB2とする。第一上パンチの端面とダイの第一内周面との最大距離B1は、第一上パンチの端面と第一内周面の他端との距離をいう。そして、圧縮前における上記最大距離A1と、圧縮後における上記最大距離B1との比率([B1/A1]×100)を、第一上パンチとダイとの間での原料粉末の圧縮率C1(%)とする。また、圧縮前における上記頂点間距離A2と、圧縮後における上記頂点間距離B2との比率([B2/A2]×100)を、第二上パンチと下パンチとの間での原料粉末の圧縮率C2(%)とする。
【0024】
(3)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二の工程は、前記ダイの前記中空部内に前記原料粉末を充填した後、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面の他端よりも下側に下降させ、前記下パンチの端面を前記第三内周面で囲まれる領域内に位置させる工程を有することが挙げられる。
【0025】
原料粉末の充填は、ダイの中空部に下パンチを挿入して第三内周面に下パンチを嵌合させ、中空部内に原料粉末を充填して行う。原料粉末の充填後、下パンチの端面を第一内周面の他端よりも下側に下降させることで、下パンチの上側に充填された原料粉末の上面を第二内周面の開口部より沈下させて凹状の空間を設けることができる。このような凹状の空間を設けることによって、第二上パンチの端面をダイの中空部内に挿入し易くなる。
【0026】
(4)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二の工程は、前記ダイの前記中空部内に前記原料粉末を充填した後、前記第二上パンチの端面を前記ダイの前記中空部内に挿入する前に、前記第一上パンチの端面で前記第二内周面の開口部を部分的に塞ぐ工程を有することが挙げられる。
【0027】
第二上パンチの端面をダイの中空部内に挿入する前に、第一上パンチの端面で第二内周面の開口部を部分的に塞いでおくことで、第二上パンチの端面を中空部内に挿入した際に、原料粉末が第二内周面の開口部から漏れることを抑制できる。また、第二上パンチの端面をダイの中空部内に挿入することで、第二上パンチの端面を原料粉末に押し付けることができる。第二上パンチの端面を原料粉末に押し付けることで、下パンチの上側に充填された原料粉末をダイの第一内周面側に流動させる。これにより、下パンチの上側とダイの第一内周面側とで原料粉末の充填量を均一に制御することが可能であり、充填量の差がより小さくなる。
【0028】
(5)上記(4)に記載の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二の工程は、前記第二内周面の開口部を部分的に塞いだ後、前記第二上パンチを下降させて前記第二上パンチの端面を前記中空部内に挿入し、前記第二上パンチの端面と前記円柱面との境界を前記第一上パンチの端面の位置と一致させる工程を有することが挙げられる。
【0029】
第一上パンチの端面で第二内周面の開口部を部分的に塞いだ状態で、第二上パンチを下降させて第二上パンチの端面を原料粉末に押し付けることにより、下パンチの上側に充填された原料粉末をダイの第一内周面側に流動させることができる。この状態では、原料粉末が圧縮されておらず、密度が低い。そのため、下パンチの上側の原料粉末を外周側に流動させることが可能である。第二上パンチの端面を原料粉末に押し付けることで、下パンチの上側とダイの第一内周面側とで原料粉末の充填量を均一に制御することが可能であり、充填量の差がより小さくなる。
【0030】
(6)上記(3)に記載の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二の工程は、前記ダイの前記第一内周面で囲まれる前記中空部内に前記下パンチの端面の周縁を突出させた状態で、前記第一内周面及び前記第二内周面で囲まれる前記中空部内に前記原料粉末を充填する工程を有することが挙げられる。
【0031】
原料粉末を充填する際、ダイの第一内周面と下パンチの端面とで半球面を構成するように下パンチを位置させた場合、第一内周面及び下パンチの端面により構成される空間は半球状になる。ダイの第一内周面と下パンチの端面とで半球面を構成するときの下パンチの位置を基準位置とする。下パンチを基準位置に位置させた状態で中空部内に原料粉末を充填すると、中空部の中心側、即ち下パンチの上側の充填深さの方が、中空部の外周側、即ち第一内周面側の充填深さよりも大きくなる。これに対し、原料粉末を充填する際、第一内周面で囲まれる中空部内に下パンチの端面の周縁を突出させた状態とした場合、第二内周面の開口部、即ちダイの上面の開口から下パンチの端面までの距離が小さくなる。そのため、下パンチの上側での充填深さを小さくできる。よって、下パンチの上側とダイの第一内周面側とで原料粉末の充填量の差が小さくなる。
【0032】
(7)上記(6)に記載の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記ダイの前記第一内周面と前記下パンチの端面とで半球面を構成するときの前記第二内周面の開口部から前記下パンチの端面の周縁までの距離を100とするとき、
前記第二の工程において、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面で囲まれる前記中空部内に突出させる突出量を10以上70以下とすることが挙げられる。
【0033】
上記基準位置に対する下パンチの突出量を10以上70以下とすることで、下パンチの上側とダイの第一内周面側とで原料粉末の充填量の差を十分に小さくできる。
【0034】
(8)上記(3)、(6)又は(7)に記載の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二の工程において、前記下パンチの端面の周縁を前記第一内周面の他端から下降させる下降量を1mm以上10mm以下とすることが挙げられる。
【0035】
下パンチの下降量を1mm以上とすることで、下パンチの上側に充填された原料粉末の上面に上記凹状の空間を十分に確保し易い。一方、下パンチを下げ過ぎると、上述したように第二上パンチの端面を原料粉末に押し付ける場合、下パンチの上側に充填された原料粉末をダイの第一内周面側に流動させ難くなる。また、下パンチを下げ過ぎると、第三の工程で原料粉末を圧縮する際に下パンチの上側とダイの第一内周面側とで原料粉末の圧縮率の差が大きくなることから、半球状の圧粉体の頂部と裾部との境界に割れが発生し易くなる。そのため、下パンチの下降量は10mm以下とすることが好ましい。これにより、押し付け時の原料粉末の流動性を確保しつつ、圧縮時の圧縮率を均一化し易い。
【0036】
(9)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第二上パンチの外径に対する前記下パンチの外径の比が0.8以上1.2以下であることが挙げられる。
【0037】
第二上パンチの外径に対する下パンチの外径の比が0.8以上1.2以下であることで、上述したように第二の工程で下パンチを下降させる場合、下パンチの上側に充填された原料粉末の上面に第二上パンチの外径に対応した大きさの上記凹状の空間を設け易い。
【0038】
(10)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第三の工程において、前記原料粉末を圧縮する成形圧力を980MPa以上とすることが挙げられる。
【0039】
成形圧力を980MPa以上とすることで、圧粉体を高密度化できる。これにより、圧粉体の物理的特性を向上させることができる。
【0040】
(11)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第三の工程において、圧縮終了時における前記下パンチの端面の周縁の位置を前記第一内周面の他端から下側に0.1mm以下の範囲内とすることが挙げられる。
【0041】
圧縮終了時における下パンチの端面の周縁を第一内周面の他端よりも下側に位置させることで、下パンチの端面の周縁の破損を抑制し易い。また、下パンチの端面の周縁の位置を第一内周面の他端から下側に0.1mm以下の範囲内とすることで、半球状の圧粉体の外周面に設けられる段差を0.1mm以下とすることができる。外周面の段差が0.1mm以下であれば、段差がないとみなすことができ、圧粉体の外周面を円滑な半球面で構成できる。圧粉体の外周面の段差が0.1mm以下であることで、圧粉体の外側に半球状の別部材を組み付けたときに、圧粉体の外周面と別部材の内周面との間に隙間が設けられることを抑制できる。
【0042】
(12)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記第三の工程において、圧縮終了時における前記下パンチの端面の周縁の位置を前記第一内周面の他端から下側に0.1mm超0.3mm以下の範囲内とすることが挙げられる。
【0043】
圧縮終了時における下パンチの端面の周縁を第一内周面の他端よりも下側に位置させることで、下パンチの端面の周縁の破損を抑制し易い。また、下パンチの端面の周縁の位置を第一内周面の他端から下側に0.1mm超0.3mm以下の範囲内することで、半球状の圧粉体の外周面に0.1mm超0.3mm以下の段差を設けることができる。圧粉体の外周面に0.1mm超の段差があることによって、圧粉体の外側に半球状の別部材を組み付けるときに、この段差を別部材に対する位置決めに利用できる。この場合、別部材の内周面に上記段差に対応する段差部を設けておく。圧縮終了時における下パンチの端面の周縁の位置を第一内周面の他端から下側に位置させた場合、下パンチの上側での圧縮率が低下するが、0.3mm以内であれば、圧縮率への影響がほとんどなく、実質的に問題がない。
【0044】
(13)本開示の圧粉体の製造方法の一形態として、
前記原料粉末は、希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金を水素化処理した水素化粉末からなる磁石粉末を含み、
前記第三の工程の後、前記圧粉体を脱水素処理する工程を備えることが挙げられる。
【0045】
原料粉末として希土類-鉄系合金の水素化粉末からなる磁石粉末を用いることで、水素化粉末を含む高密度の圧粉体を得ることができる。そして、この水素化粉末の圧粉体を脱水素処理することで、希土類-鉄系合金の粉末を含む高密度の圧粉体を得ることができる。希土類-鉄系合金の圧粉体は希土類-鉄系磁石として使用可能である。
【0046】
希土類-鉄系合金の水素化粉末を用いることで、圧粉体を高密度化できる理由は次のとおりである。希土類-鉄系合金を水素化処理すると、不均化反応を生じ、希土類元素の水素化物と鉄を含有する鉄含有物との相に分解される。つまり、水素化処理した合金は、希土類元素の水素化物の相と鉄を含有する鉄含有物の相とが混在する組織を有する。希土類-鉄系合金の水素化粉末は、組織中に柔らかい鉄含有物の相が存在することから、水素化処理していない希土類-鉄系合金の粉末に比べて塑性変形し易く、成形性に優れる。したがって、希土類-鉄系合金の水素化粉末を用いた場合、圧粉体の高密度化が可能である。
【0047】
また、水素化粉末の圧粉体を脱水素処理することで、希土類元素の水素化物から水素が放出されて再結合反応が生じ、元の希土類-鉄系合金の状態に戻る。したがって、希土類-鉄系合金の圧粉体からなる半球状の希土類-鉄系合金磁石が得られる。
【0048】
(14)本開示の実施形態に係る圧粉体は、
中空半球状の形状を有し、
前記中空半球の中心と頂点を結ぶ中心軸線と平行で、且つ、前記中空半球の開口端面の内周縁を通る線を分割線としたとき、前記分割線よりも前記中心軸線側に位置する部分を頂部、前記分割線よりも前記中心軸線とは反対側に位置する残りの部分を裾部とし、
前記頂部と前記裾部との相対密度の差が5%以下である。
【0049】
本開示の圧粉体によれば、中空半球状であり、頂部と裾部との相対密度の差が5%以下であることで、頂部と裾部との密度差が小さい。したがって、本開示の圧粉体は、密度が均一であり、物理的特性が均一である。
【0050】
(15)本開示の圧粉体の一形態として、
前記圧粉体全体の相対密度が80%以上であることが挙げられる。
【0051】
相対密度が80%以上の圧粉体は、高密度であり、物理的特性に優れる。
【0052】
(16)本開示の圧粉体の一形態として、
前記圧粉体の外周面に0.1mm以下の段差が設けられていることが挙げられる。
【0053】
圧粉体の外周面に設けられる段差が0.1mm以下であることで、段差が実質的になく、圧粉体の外周面を円滑な半球面で構成できる。圧粉体の外周面の段差が0.1mm以下でることで、圧粉体の外側に半球状の別部材を組み付けたときに、圧粉体の外周面と別部材の内周面との間に隙間が設けられることを抑制できる。
【0054】
(17)本開示の圧粉体の一形態として、
前記圧粉体の外周面に0.1mm超0.3mm以下の段差が設けられていることが挙げられる。
【0055】
圧粉体の外周面に0.1mm超の段差が設けられていることで、圧粉体の外側に半球状の別部材を組み付けるときに、この段差を別部材に対する位置決めに利用できる。圧粉体の外周面の段差が0.3mm以下であれば、圧粉体の外周面と別部材の内周面との間に設けられる隙間を小さくできる。
【0056】
(18)本開示の圧粉体の一形態として、
前記圧粉体の厚みが、開口端面の外周半径の1/30倍以上1/2倍以下であることが挙げられる。
【0057】
圧粉体の厚みが上記範囲内であることで、密度の均一化と高密度化を図り易い。
【0058】
(19)本開示の圧粉体の一形態として、
希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金の粉末を含むことが挙げられる。
【0059】
希土類-鉄系合金の粉末を含む半球状の圧粉体は、希土類-鉄系磁石として使用可能である。希土類-鉄系合金の圧粉体からなる半球状の希土類-鉄系合金磁石は、例えば、ロボットの関節に利用される球面モータを構成する磁石として利用可能である。
【0060】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る圧粉体の製造方法、及び圧粉体の具体例を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0061】
<実施形態>
[圧粉体の製造方法]
図1A、
図1B、
図2から
図7を参照して、実施形態に係る圧粉体の製造方法について説明する。実施形態に係る圧粉体の製造方法は、原料粉末100pを金型1で圧縮成形して、中空半球状の圧粉体100(
図8、
図9参照)を製造するものである。実施形態に係る圧粉体の製造方法は、使用する金型1、及び金型1の動作に特徴を有する。まず初めに、
図1A、
図1Bを参照して金型1の構成について説明し、次いで、
図2から
図7を主に参照して金型1の動作について説明する。
【0062】
(金型)
金型1は、
図1Aに示すように、中空部10hを有するダイ10と、中空部10hに挿入される下パンチ20と、中空部10hに挿入される上パンチ30とを備える。ダイ10は、筒状体であり、筒状体の内周面10iで中空部10hを構成する(
図1Bも参照)。内周面10iは、
図1Bに示すように、第一内周面11と、第二内周面12と、第三内周面13とで構成されている。上パンチ30は、
図1Aに示すように、第一上パンチ31と第二上パンチ32とを有する。金型1は、ダイ10の第一内周面11及び下パンチ20の凹状端面21で半球状の圧粉体100(
図8、
図9参照)の外周面102を成形すると共に、第一上パンチ31の円環状端面31c及び第二上パンチ32の凸状端面32hで圧粉体100の開口端面103及び内周面101を成形する。以下、各要素について詳しく説明する。
【0063】
ダイ10の内周面10iは、
図1Bに示すように、第一内周面11と、第二内周面12と、第三内周面13とを有する。第一内周面11は、軸方向の一端11aから他端11bに向かって内径が小さくなる球帯状の面である。軸方向とは、第一内周面11の中心軸線C
10の方向をいう。この中心軸線C
10は、
図1B中の一点鎖線で示す。この中心軸線C
10の方向は、
図1Bの紙面上下方向である。第一内周面11の一端11a側とは、
図1Bの紙面上側である。第一内周面11の他端11b側とは、
図1Bの紙面下側である。第二内周面12は、第一内周面11の一端11a側に設けられる。第二内周面12は、第一内周面11の最大内径と同じ内径(
図1B中のd
12)を有する円筒状の面である。第三内周面13は、第一内周面11の他端11b側に設けられる。第三内周面13は、第一内周面11の最小内径と同じ内径(
図1B中のd
13)を有する円筒状の面である。以下の説明では、第一内周面11の内径が大きい一端11a側、即ち第二内周面12側を上、内径が小さい他端11b側、即ち第三内周面13側を下とする。
【0064】
ダイ10の第一内周面11は、圧粉体100(
図8、
図9参照)の半球状の外周面102のうち、球帯面を成形し、圧粉体100における裾部120の外周面を成形する。第二内周面12の上下方向の長さは、例えば、2mm以上10mm以下とすることが挙げられる。第三内周面13の上下方向の長さは、例えば、5mm以上、更に40mm以上とすることが挙げられる。
【0065】
下パンチ20は、円柱状の部材である。下パンチ20は、ダイ10の中空部10hの下側から挿入され、第三内周面13に嵌合される。下パンチ20は、
図1Aに示すように、第一内周面11につながることで半球面を構成する球冠状の凹状端面21を有する。下パンチ20の凹状端面21は、圧粉体100(
図8、
図9参照)の外周面102のうち、ダイ10の第一内周面11によって成形される球帯面を除く残りの球冠面を成形し、圧粉体100における頂部110の外周面を成形する。下パンチ20は、ダイ10の第三内周面13の内径d
13(
図1B参照)に対応する外径D
20を有する。下パンチ20の外径D
20は、第三内周面13の内径d
13と実質的に同一である。この実質的に同一とは、誤差が-0.3%~-0.02%以内であることをいう。
【0066】
金型1では、ダイ10の第一内周面11と下パンチ20の凹状端面21とで圧粉体100の外周面102を成形する半球状の面を構成する(
図7参照)。ダイ10の第一内周面11の半径R
11及び下パンチ20の凹状端面21の半径R
21は、成形する圧粉体100の外周面102の半径に等しい。第一内周面11の半径R
11と凹状端面21の半径R
21とは実質的に同一である。
図1Aに示すように、ダイ10の第一内周面11と下パンチ20の凹状端面21とで半球面を構成するときの下パンチ20の位置を基準位置P
0とする。
【0067】
第一上パンチ31は、円筒状の部材である。第一上パンチ31は、円環状端面31cを有する。円環状端面31cは、平面で構成される。円環状端面31cの形状は、円環状である。第一上パンチ31の円環状端面31cは、圧粉体100(
図8、
図9参照)の円環状の開口端面103を成形する。第一上パンチ31は、ダイ10の第二内周面12の内径d
12(
図1B参照)に対応する外径D
31を有する。第一上パンチ31の外径D
31は、第二内周面12の内径d
12と実質的に同一である。この実質的に同一とは、誤差が-2%以内であることをいう。第二内周面12の内径d
12は、成形する圧粉体100の外周面102の直径、開口端面103の外径に等しい。第一上パンチ31の厚さは、圧粉体100の開口端面103の厚み、即ち径方向の幅と実質的に同一である。この実質的に同一とは、誤差が+5%以内であることをいう。第一上パンチ31の厚さは、第一上パンチ31の内外径の差の1/2をいう。
【0068】
第二上パンチ32は、円柱状の部材である。第二上パンチ32は、下パンチ20に向かって突出する半球状の凸状端面32hを有する。第二上パンチ32の凸状端面32hは、圧粉体100(
図8、
図9参照)の半球状の内周面101を成形する。第二上パンチ32は、第一上パンチ31の内径d
31に対応する外径D
32を有する。第二上パンチ32の外径D
32は、第一上パンチ31の内径d
31と実質的に同一である。実質的に同一とは、誤差が-0.3%~-0.02%以内であることをいう。第二上パンチ32の外径D
32は、圧粉体100の内周面101の直径、開口端面103の内径に等しい。
【0069】
第二上パンチ32の凸状端面32hの半径は、原料粉末の圧縮時(
図7参照)、第一内周面11の一端11aと、第一上パンチ31の円環状端面31cと、第二上パンチ32の凸状端面32hである半球面と円柱面との境界32dとが同じ位置になったとき、第一内周面11及び下パンチ20の凹状端面21で構成される半球面の中心と、凸状端面32hの半球面の中心とが合致するような半径とすることが好ましい。この場合、厚みが一様な中空半球状の圧粉体100を成形できる。ここでは、圧粉体100の頂点を通る周方向に沿った線上で等間隔に3点の厚みを測定して、最小値と最大値の差が0.3mm以下であれば、実質的に厚みが一様とみなす。また、原料粉末の圧縮時(
図7参照)、第一内周面11及び凹状端面21で構成される半球面の中心と、凸状端面32hの半球面の中心とが合致しないようにしてもよく、圧粉体100の厚みが一様でなくてもよい。つまり、圧粉体100(
図8、
図9参照)の内周面101と外周面102とが相似形状でなくてもよい。
【0070】
第二上パンチ32は、第一上パンチ31の内側に摺動自在に嵌合されている。第一上パンチ31と第二上パンチ32とは、独立して上下動することが可能である。
【0071】
第二上パンチ32は、下パンチ20と対向するように設けられている。第二上パンチ32の外径D
32に対する下パンチ20の外径D
20の比(D
20/D
32)は、例えば、0.8以上1.2以下、更に0.9以上1.2以下であることが挙げられる。
図1Aでは、第二上パンチ32の外径D
32と下パンチ20の外径D
20とが実質的に同一であり、D
20/D
32が1である。
【0072】
実施形態に係る圧粉体の製造方法は、上述した金型1(
図1参照)を準備する第一の工程と、更に、次に示す第二の工程と、第三の工程とを備える。
・第二の工程は、下パンチ20、並びに、第一上パンチ31及び第二上パンチ32がダイ10に対して特定の位置にある状態で、ダイ10の中空部10h内に原料粉末100pが充填された状態とする(
図2参照)。
・第三の工程は、ダイ10に対して第一上パンチ31及び第二上パンチ32を下降させる共に下パンチ20を上昇させ、原料粉末100pを上下から圧縮する(
図7参照)。
以下、第二の工程と第三の工程について詳しく説明する。
【0073】
(第二の工程)
第二の工程では、
図2に示すように、下パンチ20の凹状端面21と、第一上パンチ31の円環状端面31cと、第二上パンチ32の境界32dとを特定の状態とする。下パンチ20の凹状端面21が第三内周面13で囲まれる領域内に位置する。第一上パンチ31の円環状端面31cが第二内周面12の開口部12oに位置する。第二上パンチ32の凸状端面32hである半球面と円柱面との境界32dが第一上パンチ31の円環状端面31cと同じ位置にある。下パンチ20の凹状端面21は、具体的には、凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11bよりも1mm以上10mm以下、更に2mm以上8mm以下下方に位置させることが挙げられる。その状態で、ダイ10の第一内周面11、第二内周面12及び第三内周面13で囲まれる中空部10h(
図1A参照)内に原料粉末100pが充填された状態とする。
【0074】
第二の工程は、次に示すA工程からD工程のいずれかを含んでもよい。
・A工程は、ダイ10の第一内周面11で囲まれる中空部10h(
図1A参照)内に下パンチ20の凹状端面21を突出させた状態で、ダイ10の中空部10h内に原料粉末100pを充填する(
図3参照)。
・B工程は、下パンチ20の凹状端面21をダイ10の第一内周面11の他端11bよりも下側に下降させる(
図4参照)。
・C工程は、第一上パンチ31の円環状端面31cでダイ10の第二内周面12の開口部12oを部分的に塞ぐ(
図5参照)。
・D工程は、第二上パンチ32の凸状端面32hをダイ10の中空部10h(
図1A参照)内に挿入する(
図6参照)。
本例では、第二の工程が上記A工程から上記D工程の全てを有する場合を説明する。
【0075】
(A工程)
A工程では、
図3に示すように、ダイ10の中空部10h(
図1A参照)の下側から下パンチ20を挿入して第三内周面13に嵌合させた状態で、ダイ10の第一内周面11及び第二内周面12で囲まれる中空部10h内に原料粉末100pを充填する。そして、A工程では、原料粉末100pを充填する際、ダイ10の第一内周面11で囲まれる中空部10h内に下パンチ20の凹状端面21の周縁を突出させた状態とする。つまり、下パンチ20を基準位置P
0(
図1A参照)よりも上側に位置させる。
【0076】
図1Aに示すように、下パンチ20を基準位置P
0に位置させて、第一内周面11及び凹状端面21により半球状の空間を構成した場合、中空部10hの中心側、即ち下パンチ20の上側の充填深さの方が、中空部10hの外周側、即ち第一内周面11側の充填深さよりも大きくなる。これに対し、
図3に示すように、第一内周面11で囲まれる中空部10h(
図1A参照)内に下パンチ20の凹状端面21の周縁を突出させた状態とすることで、下パンチ20を基準位置P
0に位置させた場合に比較して、第二内周面12の開口部12o、即ちダイ10の上面の開口から下パンチ20の凹状端面21までの距離が小さくなる。つまり、下パンチ20の上側での充填深さが小さくなる。そのため、原料粉末100pを充填したとき、下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末100pの充填量の差が小さくなる。
【0077】
下パンチ20を基準位置P
0に位置させたときの第二内周面12の開口部12oから下パンチ20の凹状端面21の周縁までの距離L
0(
図1A参照)を100とする。このとき、第二の工程のA工程において、下パンチ20の凹状端面21の中空部10h(
図1A参照)内に突出させる突出量P
1は、基準位置P
0から10以上70以下とすることが挙げられる。これにより、下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末100pの充填量の差を十分に小さくできる。下パンチ20の凹状端面21の突出量P
1は、好ましくは15以上65以下、更に20以上60以下とすることが挙げられる。
【0078】
下パンチ20の外径D
20は、例えば、成形する圧粉体100(
図8、
図9参照)の厚さに応じて決定するとよい。具体的には、厚い場合は下パンチ20の外径D
20を小さくし、薄い場合は下パンチ20の外径D
20を大きくすることが挙げられる。また、下パンチ20の外径D
20と第二上パンチ32の外径D
32とは一致させるようにするとよい。
【0079】
(B工程)
B工程では、ダイ10の中空部10h(
図1A参照)内に原料粉末100pを充填した後、
図4に示すように、下パンチ20の凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11bよりも下側に下降させ、下パンチ20の凹状端面21を第三内周面13で囲まれる領域内に位置させる。つまり、下パンチ20を基準位置P
0(
図1A参照)よりも下側に位置させる。これにより、下パンチ20の上側に充填された原料粉末100pの上面を第二内周面12の開口部12oより沈下させて凹状の空間15を設ける。このような凹状の空間15を設けることによって、D工程(
図6参照)で第二上パンチ32の凸状端面32hを中空部10h内に挿入し易くなる。更に、下パンチ20の凹状端面21を第一内周面11の他端11bよりも下降させておくことで、第三の工程(
図7参照)において、下パンチ20と第二上パンチ32とで原料粉末を上下から圧縮することができ、圧粉体100の密度を高め易い。また、下パンチ20の凹状端面21を第一内周面11で囲まれる中空部10h内に突出させた状態とすると、原料粉末100pを圧縮した際に下パンチ20の凹状端面21の周縁が変形して破損し易くなる。下パンチ20の凹状端面21を第三内周面13で囲まれる領域内に位置させておくことで、圧縮時における凹状端面21の周縁の変形を抑制できる。よって、凹状端面21の周縁の破損を抑制できる。
【0080】
第二の工程のB工程において、下パンチ20の凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11bから下降させる下降量P
2は、1mm以上10mm以下、更に2mm以上8mm以下とすることが挙げられる。下パンチ20の下降量P
2を1mm以上とすることで、下パンチ20の上側に充填された原料粉末100pの上面に凹状の空間15を十分に確保し易い。一方、下パンチ20を下げ過ぎると、D工程(
図6参照)で第二上パンチ32の凸状端面32hを原料粉末100pに押し付けた際に、下パンチ20の上側に充填された原料粉末100pをダイ10の第一内周面11側に流動させ難くなる。また、下パンチ20を下げ過ぎると、第三の工程(
図7参照)で原料粉末100pを圧縮する際に下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末100pの圧縮率の差が大きくなる。そのため、圧粉体100(
図8、
図9参照)の頂部110と裾部120との境界に割れが発生し易くなる。そこで、下パンチ20の下降量P
2は10mm以下とすることが好ましい。これにより、押し付け時の原料粉末100pの流動性を確保しつつ、圧縮時の圧縮率を均一化し易い。
【0081】
第二上パンチ32の外径D
32に対する下パンチ20の外径D
20の比(D
20/D
32)が0.8以上1.2以下である場合(
図1A参照)、B工程で下パンチ20を下降させたときに、下パンチ20の上側に充填された原料粉末100pの上面に第二上パンチ32の外径D
32に対応した大きさの凹状の空間15を設け易い。
【0082】
(C工程)
C工程では、B工程(
図4参照)での下パンチ20の位置を維持した状態、具体的には、下パンチ20の凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11bよりも下側に位置させた状態で、
図5に示すように、第一上パンチ31の円環状端面31cで第二内周面12の開口部12oを部分的に塞ぐ。具体的には、第一上パンチ31の円環状端面31cを第二内周面12の開口部12oの位置まで下降させ、第一上パンチ31の円環状端面31cを原料粉末100pに接触させる。これにより、D工程(
図6参照)で第二上パンチ32の凸状端面32hを中空部10h(
図1A参照)内に挿入した際に、原料粉末100pが第二内周面12の開口部12oから漏れることを抑制できる。
図5では、第一上パンチ31の円環状端面31cとダイ10の上面とが面一になっている。なお、第一上パンチ31の円環状端面31cは、第二内周面12の開口部12oから若干下側に位置してもよい。第一上パンチ31の円環状端面31cは、例えば、第二内周面12の開口部12oから0.5mm~1mm程度下側に位置してもよい。C工程では、第二上パンチ32の凸状端面32hが原料粉末100pに接触しないようにする。
【0083】
(D工程)
D工程では、C工程(
図5参照)での第一上パンチ31の位置を維持した状態、具体的には、第一上パンチ31の円環状端面31cで第二内周面12の開口部12oを部分的に塞いだ状態で、
図6に示すように、第二上パンチ32を下降させて凸状端面32hを中空部10h(
図1A参照)内に挿入する。第二上パンチ32の凸状端面32hである半球面と円柱面との境界32dを第一上パンチ31の円環状端面31cの位置と一致させる。第二上パンチ32の凸状端面32hを原料粉末100pに押し付けることにより、下パンチ20の上側に充填された原料粉末100pをダイ10の第一内周面11側に流動させる。
図6は、説明の便宜上、原料粉末100pの流動方向を黒塗り矢印で示す。なお、黒塗り矢印の方向は、例示である。この状態では、原料粉末100pが圧縮されておらず、密度が低い。そのため、下パンチ20の上側の原料粉末100pを外周側に流動させることが可能である。第二上パンチ32の凸状端面32hを原料粉末100pに押し付けることで、下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末の充填量を均一に制御することが可能であり、充填量の差がより小さくなる。
【0084】
第二上パンチ32の外径D
32に対する下パンチ20の外径D
20の比(D
20/D
32)が0.8以上1.2以下である場合(
図1A参照)、第二上パンチ32の凸状端面32hを原料粉末100pに押し付けることによって、下パンチ20の上側の原料粉末100pを外周側に流動させ易い。そのため、下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末の充填量の差を調整し易い。
【0085】
上記A工程から上記D工程を経ることにより、上述した第二の工程(
図2参照)の状態に至ることができる。
【0086】
(第三の工程)
第三の工程では、
図7に示すように、ダイ10に対して第一上パンチ31及び第二上パンチ32を下降させる共に下パンチ20を上昇させ、原料粉末100p(
図2参照)を上下から圧縮して中空半球状の圧粉体100を得る。具体的には、下パンチ20の凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11b側まで上昇させる。また、第一上パンチ31の円環状端面31cを第一内周面11の一端11a側まで下降させると共に、第二上パンチ32の凸状端面32hを第一内周面11で囲まれる中空部10h(
図1A参照)内に挿入する。
【0087】
第一上パンチ31の円環状端面31cは、第一内周面11の一端11aから若干上側で止めることが好ましい。第一上パンチ31の円環状端面31cは、例えば、第一内周面11の一端11aから0.5mm~1mm程度上側で止めることが好ましい。これにより、第一上パンチ31の円環状端面31cが第一内周面11に干渉することを防止して、円環状端面31c及び第一内周面11の双方が疵付くことを抑制できる。
【0088】
また、第二上パンチ32は、凸状端面32hである半球面と円柱面との境界32dが第一内周面11の一端11aの位置と一致するように下降させることが好ましい。第二上パンチ32を下降させ過ぎると、圧粉体100の内周面101(
図8、
図9参照)の開口側に円筒面が形成されることになる。一方、第二上パンチ32を十分に下降させないと、第二上パンチ32の凸状端面32hと第一上パンチ31の内周面との間に隙間ができ、圧粉体100の開口端面103にバリが生じ易くなる。
【0089】
本例では、第二上パンチ32の境界32dと第一上パンチ31の円環状端面31cとの位置を一致させ、第一上パンチ31から第二上パンチ32の凸状端面32hが突出した状態で第一上パンチ31と第二上パンチ32とを同期して下降させている。
【0090】
上記第二の工程、及び上記第三の工程を経て半球状の圧粉体100を成形することで、圧粉体100の密度の均一化を図ることができる。
【0091】
原料粉末100p(
図2参照)を圧縮する際、第一上パンチ31とダイ10との間で圧縮される原料粉末100pの圧縮率と、第二上パンチ32と下パンチ20との間で圧縮される原料粉末100pの圧縮率との差の絶対値は、50%以下であることが挙げられる。圧縮率の差が上記範囲内にあることで、圧粉体100の密度を均一化でき、頂部110と裾部120との密度差を小さくできる。
【0092】
それぞれの圧縮率は、第二の工程(
図2参照)での原料粉末100pを圧縮する前の金型1の状態と、第三の工程(
図7参照)での圧縮後の金型1の状態とから求めることができる。圧縮前の金型1の状態において、第一上パンチ31の円環状端面31cとダイ10の第一内周面11との最大距離をA1とし、第二上パンチ32の凸状端面32hと下パンチ20の凹状端面21との頂点間距離をA2とする。また、圧縮後の金型1の状態において、第一上パンチ31の円環状端面31cとダイ10の第一内周面11との最大距離をB1とし、第二上パンチ32の凸状端面32hと下パンチ20の凹状端面21との頂点間距離をB2とする。第一上パンチ31の円環状端面31cと第一内周面11との最大距離とは、円環状端面31cと第一内周面11の他端11bとの距離をいう。そして、圧縮前における最大距離A1と、圧縮後における最大距離B1との比率([B1/A1]×100)を、第一上パンチ31とダイ10との間での原料粉末100pの圧縮率C1(%)とする。また、圧縮前における頂点間距離A2と、圧縮後における頂点間距離B2との比率([B2/A2]×100)を、第二上パンチ32と下パンチ20との間での原料粉末100pの圧縮率C2(%)とする。
【0093】
圧縮率の差(C1-C2)が上記範囲内であれば、下パンチ20の上側とダイ10の第一内周面11側とで原料粉末100pの圧縮率の差を小さくできるので、圧粉体100の密度の均一化を図ることができる。圧縮率の差は、好ましくは40%以下、更に30%以下であることが挙げられる。
【0094】
第三の工程において、原料粉末100pを圧縮する成形圧力は、980MPa以上、更に1176MPa以上とすることが挙げられる。これにより、圧粉体100を高密度化でき、圧粉体100の物理的特性を向上させることができる。
【0095】
第三の工程において、圧縮終了時における下パンチ20の凹状端面21の周縁の位置は、第一内周面11の他端11bから下側に0.1mm以下の範囲内、或いは0.1mm超0.3mm以下の範囲内とすることが挙げられる。圧縮終了時において、下パンチ20の凹状端面21の周縁を第一内周面11の他端11bよりも下側に位置させることで、圧縮時における下パンチ20の凹状端面21の周縁の破損を抑制し易い。
【0096】
下パンチ20の凹状端面21の周縁の位置を第一内周面11の他端11bから下側に0.1mm以内とした場合、圧粉体100(
図8、
図9参照)の外周面102に設けられる段差を0.1mm以下とすることができる。0.1mm以内には、0が含まれる。外周面102に設けられる段差が0.1mm以下であれば、段差がないとみなすことができ、圧粉体100の外周面102を円滑な半球面で構成できる。
【0097】
一方、下パンチ20の凹状端面21の周縁の位置を第一内周面11の他端11bから下側に0.1mm超0.3mm以下の範囲内とした場合、圧粉体100(
図10、
図11参照)の外周面102に0.1mm超0.3mm以下の段差130を設けることができる。この段差130は、例えば、圧粉体100の外側に半球状の別部材を組み付けるときに、別部材に対する位置決めに利用できる。下パンチ20の凹状端面21の周縁の位置を第一内周面11の他端11bから下側に0.3mm以内であれば、第二上パンチ32と下パンチ20との間、即ち下パンチ20の上側における圧縮率への影響もほとんどない。
【0098】
ここで、圧粉体100の外周面102に段差130を設ける場合、段差130の位置は、下パンチ20の外径D
20(
図1A参照)よって変わる。本例は、第二上パンチ32の外径D
32と下パンチ20の外径D
20とが実質的に同一であり、D
20/D
32が1である。この場合、
図10、
図11に示すように、圧粉体100の外周面102のうち、頂部110と裾部120との間に段差130が設けられる。第二上パンチ32の外径D
32と下パンチ20の外径D
20とを異ならせることもできる。第二上パンチ32の外径D
32に対して下パンチ20の外径D
20が小さく、D
20<D
32である場合、頂部110側に段差130が設けられる(
図12参照)。一方、第二上パンチ32の外径D
32に対して下パンチ20の外径D
20が大きく、D
20>D
32である場合、裾部120側に段差130が設けられる(
図13参照)。
【0099】
(原料粉末)
原料粉末100p(
図2参照)は、製造する圧粉体100(
図8、
図9参照)の使用目的に応じて適宜選択できる。例えば、圧粉体100で圧粉磁石を構成する場合、原料粉末100pとして磁石粉末を用いることが挙げられる。また、圧粉体100で圧粉磁心を構成する場合、原料粉末100pとして軟磁性粉末を用いることが挙げられる。
【0100】
〈磁石粉末〉
磁石粉末としては、例えば、希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金の粉末といった希土類-鉄系磁石の粉末が挙げられる。希土類-鉄系合金としては、代表的には、Nd2Fe14BやSm2Fe17N3が挙げられる。磁石粉末には、希土類-鉄系磁石の原料となるNd2Fe14BやSm2Fe17といった希土類-鉄系合金を水素化処理した水素化粉末が含まれる。希土類-鉄系合金の圧粉体100からなる希土類-鉄系合金磁石を製造する場合、原料粉末100pとして希土類-鉄系合金の水素化粉末からなる磁石粉末を用いること望ましい。これは、希土類-鉄系合金の水素化粉末を用いた場合、高密度の圧粉体100が得られるからである。
【0101】
〈水素化粉末〉
希土類-鉄系合金の水素化粉末は、希土類-鉄系合金を粉砕した粉末を水素化処理する、或いは、希土類-鉄系合金を水素化処理した後、粉砕することで製造できる。希土類-鉄系合金は、例えば、急冷凝固法により製造できる。急冷凝固法としては、ストリップキャスト法やメルトスパン法などが挙げられる。希土類-鉄系合金に含有する希土類元素としては、ネオジム(Nd)又はサマリウム(Sm)であることが挙げられる。希土類-鉄系合金において、希土類元素の含有量は10質量%以上40質量%未満であることが挙げられる。例えば、希土類元素がNdの場合、Ndの含有量は25質量%以上35質量%以下、更に28質量%以上35質量%以下であることが好ましい。一方、Smの場合、Smの含有量は25質量%以上26.5質量%以下であることが好ましい。Nd又はSmの含有量が上記範囲内であることで、化学量論組成がNd2Fe14B又はSm2Fe17などの希土類-鉄系合金が得られる。
【0102】
希土類-鉄系合金において、希土類元素及び鉄(Fe)以外の元素としては、特にNdを含む組成の場合、ホウ素(B)を含むことが挙げられる。その他、Feの一部をコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)及びにオブ(Nb)から選択される1種以上の元素で置換してもよい。
【0103】
希土類-鉄系合金を水素化処理することで、希土類元素の水素化物の相と、鉄を含有する鉄含有物の相とに相分解した組織を形成する。希土類元素の水素化物としては、例えば、NdH2やSmH2が挙げられる。鉄含有物としては、例えば、Fe、Fe2Bなどの鉄化合物が挙げられる。水素化処理は、水素含有雰囲気中、例えば、400℃以上900℃以下、好ましくは500℃以上850℃以下で熱処理することが挙げられる。水素含有雰囲気としては、例えば、H2ガス雰囲気、又は混合ガス雰囲気とすることが挙げられる。混合ガスとしては、H2ガスと不活性ガスとを混合したものが挙げられる。不活性ガスとしては、ArやN2などが挙げられる。水素含有雰囲気の雰囲気圧力、即ち水素分圧は、例えば、20.2kPa(0.2気圧)以上1013kPa(10気圧)以下、更に50.5kPa(0.5気圧)以上111.1kPa(1.1気圧)以下とすることが挙げられる。水素化処理の時間は、適宜設定すればよく、例えば、30分以上180分以下とすることが挙げられる。
【0104】
粉砕は、例えば、ジェットミル、ボールミル、ブラウンミル、ピンミル、ディスクミル、ジョークラッシャーなどの公知の粉砕機を利用できる。粉砕は、磁石粉末の酸化を抑制するため、Arなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0105】
希土類-鉄系合金の水素化粉末は、組織中に柔らかい鉄含有物の相が存在することから、水素化処理していない希土類-鉄系合金の粉末に比べて塑性変形し易く、成形性に優れる。したがって、希土類-鉄系合金の水素化粉末を用いた場合、圧粉体100の高密度化が可能であり、水素化粉末を含む高密度の圧粉体100を得ることができる。
【0106】
原料粉末100pとして希土類-鉄系合金の水素化粉末からなる磁石粉末を用いて圧粉体100を成形した場合、上記第三の工程の後、圧粉体100を脱水素処理する工程を備える。水素化粉末の圧粉体100を脱水素処理した場合、希土類元素の水素化物から水素が放出されて再結合反応が生じ、元の希土類-鉄系合金の状態に戻る。よって、水素化粉末の圧粉体100を脱水素処理することで、希土類-鉄系合金の粉末を含む高密度の圧粉体100を得ることができる。したがって、希土類-鉄系合金の圧粉体100からなる中空半球状の希土類-鉄系合金磁石が得られる。
【0107】
脱水素処理は、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中、例えば、600℃以上1000℃以下、好ましくは650℃以上800℃以下で熱処理することが挙げられる。不活性雰囲気としては、例えば、ArやN2などの不活性ガス雰囲気とすることが挙げられる。減圧雰囲気としては、例えば、真空度が10Pa以下の真空雰囲気とすることが挙げられる。より好ましい真空雰囲気の真空度は1Pa以下、更に0.1Pa以下である。脱水素処理の時間は、適宜設定すればよく、例えば、30分以上180分以下とすることが挙げられる。
【0108】
希土類-鉄系合金の水素化粉末としては、Sm2Fe17合金の水素化粉末を用いて圧粉体100を成形した場合は、脱水素処理した後、圧粉体100を窒化処理する工程を備えることが挙げられる。具体的には、脱水素処理後のSm2Fe17合金の粉末を含む圧粉体100を窒化処理することで、Sm2Fe17をSm2Fe17N3とすることが挙げられる。窒化処理は、窒素含有雰囲気中で、例えば、200℃以上550℃以下、好ましくは300℃以上550℃以下で熱処理することが挙げられる。窒素含有雰囲気としては、例えば、NH3ガス雰囲気、N2ガス雰囲気、又は混合ガス雰囲気が挙げられる。混合ガスとしては、例えば、NH3ガスとH2ガスとを混合したもの、又はN2ガスとH2ガスとを混合したものが挙げられる。
【0109】
脱水素処理した後、場合によっては脱水素処理して窒化処理した後、希土類-鉄系合金の圧粉体100を磁化する工程を備えることで、中空半球状の希土類-鉄系合金磁石を製造できる。
【0110】
原料粉末100pとして水素化処理していない希土類-鉄系合金からなる磁石粉末を用いる場合、結合剤を加えてもよい。この希土類-鉄系合金としては、例えば、Nd2Fe14BやSm2Fe17N3が挙げられる。結合剤としては、例えば、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0111】
軟磁性粉末としては、例えば、純鉄、又は、Fe(鉄)-Si(シリコン)系合金、Fe(鉄)-Al(アルミニウム)系合金、Fe(鉄)-Cr(クロム)-Al(アルミニウム)系合金、Fe(鉄)-Cr(クロム)-Si(シリコン)系合金から選択される少なくとも一種の鉄基合金からなる粉末が挙げられる。純鉄とは、純度99質量%以上をいう。軟磁性粉末を構成する粒子表面に絶縁被覆を施してもよい。絶縁被覆としては、例えば、リン酸塩被覆、シリカ被覆などが挙げられる。
【0112】
原料粉末100pの平均粒径は、例えば、20μm以上200μm以下、好ましくは50μm以上150μm以下とすることが挙げられる。原料粉末100pの平均粒径を上記範囲内とすることで、取り扱い易く、加圧成形し易い。更に、原料粉末100pの平均粒径を20μm以上とすることで、原料粉末100pの流動性を確保し易い。原料粉末100pの平均粒径を200μm以下とすることで、圧粉体100を高密度化し易い。原料粉末100pの平均粒径は、原料粉末100pを構成する粒子の平均粒径のことであり、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0113】
[圧粉体]
図8から
図13を参照して、実施形態に係る圧粉体100について説明する。実施形態に係る圧粉体100は、上述した実施形態に係る圧粉体の製造方法により製造することができる。圧粉体100の特徴の1つは、中空半球状の形状を有し、頂部110と裾部120との相対密度の差の絶対値が5%以下である点にある。
図9、
図11、
図12、及び
図13中の一点鎖線は、中空半球状の圧粉体100における中心と頂点を結ぶ中心軸線C
100を示している。中心は、図中の点Oで示す。頂点は、図中の点Pで示す。
図9、
図11、
図12、及び
図13中の二点鎖線は、頂部110と裾部120との境界である分割線D
100を示している。なお、
図8、及び
図9に示す圧粉体100は、圧粉体100の外周面102に段差が実質的にない形態を例示するものである。段差が実質的にないとは、0.1mm以下の段差を含む。
図10、
図11、
図12、及び
図13に示す圧粉体100は、圧粉体100の外周面102に段差130を有する形態を例示するものである。
【0114】
(頂部と裾部の相対密度の差)
圧粉体100において、頂部110と裾部120との相対密度の差が5%以下であることで、頂部110と裾部120との密度差が小さい。したがって、圧粉体100は、密度が均一であり、物理的特性が均一である。頂部110と裾部120との相対密度の差は、更に2%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0115】
ここで、中空半球状の圧粉体100における頂部110及び裾部120とは、次のように定義する。中空半球の中心Oと頂点Pを結ぶ中心軸線C100と平行で、且つ、中空半球の開口端面103の内周縁を通る線を分割線D100としたとき、分割線D100よりも中心軸線C100側に位置する部分を頂部110、分割線D100よりも中心軸線C100とは反対側に位置する残りの部分を裾部120とする。
【0116】
(相対密度)
圧粉体100全体の相対密度は、80%以上であることが挙げられる。相対密度が80%以上の圧粉体100は、高密度であり、物理的特性に優れる。圧粉体100の相対密度は、更に85%以上であることが好ましい。
【0117】
(段差)
圧粉体100の外周面102には、段差が設けられていることを許容する。
図8、
図9に示す圧粉体100は、外周面102のうち、頂部110の外周面である球冠面と裾部120の外周面である球帯面との間に0.1mm以下の段差が設けられている。0.1mm以下には、0が含まれる。圧粉体100の外周面102に設けられる段差が0.1mm以下であることで、段差が実質的になく、圧粉体100の外周面102を円滑な半球面で構成できる。圧粉体100の外周面102の段差が0.1mm以下であることで、圧粉体100の外側に半球状の別部材を組み付けたときに、圧粉体100の外周面と別部材の内周面との間に隙間が設けられることを抑制できる。別部材の図示は省略する。
【0118】
図10、
図11に示す圧粉体100は、外周面102のうち、頂部110の外周面である球冠面と裾部120の外周面である球帯面との間に0.1mm超0.3mm以下の段差130が設けられている。圧粉体100の外周面102に0.1mm超の段差130が設けられていることで、圧粉体100の外側に半球状の別部材を組み付けるときに、この段差を別部材に対する位置決めに利用できる。この場合、別部材の内周面に段差130に対応する段差部を設けておく。別部材の図示は上述の通り省略する。
【0119】
段差130の位置は、頂部110と裾部120との間に限定されない。例えば、
図12に示すように、圧粉体100の外周面102のうち、頂部110と裾部120との境界である分割線D
100よりも頂部110側に段差130が設けられていてもよい。或いは、
図13に示すように、圧粉体100の外周面102のうち、頂部110と裾部120との境界である分割線D
100よりも裾部120側に段差130が設けられていてもよい。段差130の位置は、圧粉体100において、中心軸線C
100から径方向に、開口端面103の内周半径r
103の0.8倍以上1.2倍以下の位置に設定されていることが挙げられる。つまり、段差130は、頂部110と裾部120との境界である分割線D
100から内周半径r
103の±20%以内の位置に設けられていることが挙げられる。
【0120】
(厚み)
圧粉体100の厚みは、例えば、開口端面103の外周半径R103の1/30倍以上、更に1/25倍以上であり、1/2倍以下であることが挙げられる。圧粉体100の厚みとは、圧粉体100の径方向の長さ、即ち、内外径の差の1/2をいう。圧粉体100の厚みが上記範囲内であることで、密度の均一化と高密度化を図り易い。
【0121】
(材料)
圧粉体100の構成材料としては、例えば、磁石粉末、軟磁性粉末などが挙げられる。磁石粉末としては、例えば、希土類元素と鉄とを含有する希土類-鉄系合金の粉末が挙げられる。希土類-鉄系合金は、例えば、Nd2Fe14BやSm2Fe17N3が挙げられる。希土類-鉄系合金の粉末を含む圧粉体100は、希土類-鉄系磁石として使用可能である。軟磁性粉末を含む圧粉体100は、圧粉磁心として使用可能である。
【0122】
(用途)
希土類-鉄系合金の圧粉体100からなる半球状の希土類-鉄系合金磁石は、例えば、ロボットの関節に利用される球面モータを構成する磁石として利用可能である。希土類-鉄系合金の圧粉体100からなる半球状の磁石を用いて磁気回路を構成する場合、圧粉体100の外側に半球状のヨークを被せることがある。ヨークの図示は省略する。例えば
図8、
図9に示す圧粉体100のように、外周面102に段差がない形態では、圧粉体100の外周面102とヨークの内周面との間に設けられる隙間を小さくでき、磁気抵抗を低減できる。一方、例えば、
図10、
図11に示す圧粉体100のように、外周面102に段差130を有する形態では、この段差130をヨークに対する位置決めに利用できる。希土類-鉄系合金の圧粉体100に対する着磁は、例えば、圧粉体100の中心から径方向に着磁することが挙げられる。
【0123】
軟磁性粉末の圧粉体100からなる半球状の圧粉磁心は、例えば、上述した磁気回路を構成するヨークに利用できる。
【0124】
{実施形態の効果}
上述した実施形態に係る圧粉体の製造方法、及び圧粉体100は、次の効果を奏する。
【0125】
実施形態の圧粉体の製造方法は、金型1を使用し、金型1の動作を上記第二の工程、及び上記第三の工程に従って制御することで、中空半球状の圧粉体100の密度を均一化できる。特に、第二の工程において、上記A工程から上記D工程を実施することにより、均一な密度の圧粉体100を容易に製造できる。
【0126】
実施形態の圧粉体100は、中空半球状であり、頂部110と裾部120との相対密度の差が5%以下であることで、頂部110と裾部120との密度差が小さい。
【0127】
[試験例1]
上述した実施形態の圧粉体の製造方法により中空半球状の圧粉体を製造した。
【0128】
原料粉末には、Nd2Fe14B合金の水素化粉末を用いた。この水素化粉末は、Nd2Fe14B合金の粉末を水素化処理してして得た。水素化処理として、H2ガス雰囲気の大気圧中、850℃で150分間熱処理した。水素化粉末の平均粒径(D50)は130μmである。
【0129】
金型の各要素の寸法は次の通りである。
ダイの第二内周面の内径:30mm
ダイの第二内周面の長さ:5mm
ダイの第三内周面の内径:20mm
ダイの第一内周面の半径(R11):15mm
第一上パンチの外径(D31):30mm
第一上パンチの内径(d31):20mm
第二上パンチの外径(D32):20mm
下パンチの外径(D20):20mm
下パンチの端面の半径(R21):15mm
ダイの第一内周面と下パンチの端面とで構成される半球面の外径:30mm
第二上パンチの半球状の端面の外径:20mm
下パンチを基準位置(P0)に位置させたときの第二内周面の開口部から下パンチの端面の周縁までの距離(L0):16.18mm
【0130】
上記金型を使用して、上述した第二の工程のA工程からD工程、及び上述した第三の工程に従って、外径φ30mm、内径φ20mm、厚みが5mmの半球状の圧粉体を成形した。即ち、圧粉体の外周半径(R103)は15mmであり、内周半径(r103)は10mmである。成形圧力は1960MPaとした。
【0131】
ここでは、第二の工程において、A工程での下パンチの端面の突出量(P1)を9.5mm(P1/L0:0.587)とした。また、第二の工程において、B工程での下パンチの端面の下降量(P2)を2mmとした。第三の工程において、圧縮終了時における下パンチの端面の周縁の位置を、第一内周面の他端から下側に0.1mm以内、又は0.1mm超0.3mm以下の範囲内に設定した。
【0132】
圧縮終了時における下パンチ20の凹状端面21の位置を「0.1mm以内」に設定した圧粉体を試料No.1Aとした。また、圧縮終了時における下パンチ20の凹状端面21の位置を「0.1mm超0.3mm以下の範囲内」に設定した圧粉体を試料No.1Bとした。上述した圧縮率の差(C1-C2)は、約25%~約27%の範囲であった。
【0133】
得られた圧粉体は、Nd2Fe14B合金の水素化粉末のみで構成されている。作製した試料No.1A及び1Bの圧粉体について、全体の相対密度を求めた。相対密度は、体積と質量から実測密度を求め、[実測密度/真密度]の百分率として求めた。実測密度は、アルキメデス法により測定した。真密度は、出発原料のNd2Fe14B合金の密度とした。この密度は、本例では、7.6g/cm3とした。その結果を表1に示す。また、圧粉体における頂部及び裾部のそれぞれの相対密度を求め、頂部と裾部の相対密度の差の絶対値を算出した。その結果も表1に併せて示す。
【0134】
頂部及び裾部の相対密度は、次のようにして求めた。本試験例における相対密度の測定方法を
図9を用いて説明する。圧粉体100の開口端面103を水平に置いた状態で、頂点Pを通り、圧粉体100を4等分する切断線を外周面102上に引く。圧粉体100を頂点P側から頂点Pと中心Oを通る中心軸線C
100方向に透視したときに開口端面103の内周縁と重なる輪郭線を外周面102上に描く。この輪郭線は、圧粉体100の外周面102における頂部110と裾部120との境界である分割線D
100を通る円である。圧粉体100の外周面102上において、この輪郭線と各切断線とのそれぞれの交点をとり、周方向に隣り合う交点を結ぶ円弧線を引く。この円弧線は、圧粉体100の中心Oを中心とする円弧線とする。圧粉体100の中心Oは、開口端面103の中心である。各切断線に沿って圧粉体100を切断して4個の分割片とした後、それぞれの分割片について、円弧線に沿って2つに切断する。円弧線に沿う切断は、各分割片において、圧粉体100の中心Oと外周面102上の上記交点とを含む平面で切断する。つまり、各分割片を円弧線で切断する場合、
図9中の点線で示すように、圧粉体100の中心Oと外周面102上の上記交点とを通るように切断する。得られた切断片のうち、頂点P側の部分を頂部片とし、残りの外周側の部分を裾部片とする。それぞれの頂部片について、実測密度を測定して相対密度を算出して求め、それらの相対密度の平均値を頂部の相対密度とした。また、それぞれの裾部片について、実測密度を測定して相対密度を算出して求め、それらの相対密度の平均値を裾部の相対密度とした。
【0135】
上述した相対密度の測定方法の場合、裾部片は、厳密には
図9に示すように、頂部110の一部を含むことになる。しかしながら、裾部片に含まれる頂部110の体積割合は裾部120の体積割合に比べれば微小であるので、頂部110の一部が裾部片の密度に与える影響は小さい。よって、裾部片に頂部110の一部が含まれていても、その影響は誤差の範囲内であり、裾部片の相対密度を裾部の相対密度とみなしても問題ない。
【0136】
【0137】
表1に示すように、作製した試料No.1A及び1Bの圧粉体は、頂部と裾部との相対密度の差が2%以下であり、密度差が小さい。
【0138】
また、試料No.1A及び1Bの圧粉体のそれぞれの外周面に設けられた段差を測定したところ、圧縮終了時における下パンチの端面の位置の設定値と対応した大きさの段差が設けられていた。更に、試料No.1A及び1Bの圧粉体を100個それぞれ作製した後、下パンチの端面の周縁を確認したところ、端面の周縁に変形や損傷は見られなかった。
【符号の説明】
【0139】
1 金型
10 ダイ
10i 内周面
10h 中空部
11 第一内周面
11a 一端 11b 他端
12 第二内周面
12o 開口部
13 第三内周面
15 空間
20 下パンチ
21 凹状端面
30 上パンチ
31 第一上パンチ
31c 円環状端面
32 第二上パンチ
32h 凸状端面
32d 境界
100 圧粉体
101 内周面
102 外周面
103 開口端面
110 頂部
120 裾部
130 段差
100p 原料粉末
d12、d13 内径
R11、R21 半径
D20 外径
D31、D32 外径
d31 内径
L0 距離
P0 基準位置
P1 突出量
P2 下降量
A1 最大距離
A2 頂点間距離
B1 最大距離
B2 頂点間距離
R103 外周半径
r103 内周半径
O 中心
P 頂点
C10、C100 中心軸線
D100 分割線