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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】高親和性抗VEGF抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/22 20060101AFI20230502BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 5/12 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C07K16/22 ZNA
C07K16/46
C12N5/12
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P9/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P27/02
A61P27/06
C12N15/13
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021112701
(22)【出願日】2021-07-07
(62)【分割の表示】P 2017560400の分割
【原出願日】2017-01-05
(65)【公開番号】P2021169475
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2016001277
(32)【優先日】2016-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512319944
【氏名又は名称】株式会社オーダーメードメディカルリサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】村上 康文
(72)【発明者】
【氏名】向畑 成紀
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘匡
(72)【発明者】
【氏名】許斐 康嗣
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/166112(WO,A1)
【文献】特表2012-504943(JP,A)
【文献】国際公開第2014/193191(WO,A1)
【文献】特表2014-516026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0061988(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00419858(EP,A1)
【文献】SCHLAEPPI JM et al.,Characterization of a new potent, in vivoneutra lizing monoclonal antibody to human vascular endothelial growth factor.,J. Cancer Res. Clin. Oncol.,1999年,Vol.125,p.336-342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1 x 10-11 mol/L以下の解離定数にて血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に結合し、VEGFと血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR1)及び血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2)との結合を阻害する、VEGFに対するモノクローナル抗体であって、
配列番号14のアミノ酸配列からなるCDR-H1、配列番号16のアミノ酸配列からなるCDR-H2及び配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR-H3を含み、かつ、
配列番号20のアミノ酸配列からなるCDR-L1、アミノ酸配列Trp-Ala-SerからなるCDR-L2及び配列番号22のアミノ酸配列からなるCDR-L3を含む、
前記モノクローナル抗体。
【請求項2】
配列番号34のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号36のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体がキメラ抗体、ヒト型化抗体又はイヌ型化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
さらにヒトIgG1重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列及びヒトIgG1軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
ヒトIgG1重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号42のアミノ酸配列を含むものであり、かつ、ヒトIgG1軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号44のアミノ酸配列を含むものである、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
配列番号34のアミノ酸配列及び配列番号42のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに
配列番号36のアミノ酸配列及び配列番号44のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
イヌIgGB重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列、及び
イヌIg軽鎖(κ鎖)定常領域又はイヌIg軽鎖(λ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列
をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
イヌIgGB重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号46のアミノ酸配列を含むものであり、イヌIg軽鎖(κ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号48のアミノ酸配列を含むものであり、かつ、イヌIg軽鎖(λ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号50のアミノ酸配列を含むものである、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号34のアミノ酸配列及び配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに
配列番号36のアミノ酸配列及び配列番号48又は50のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体の抗原結合断片。
【請求項11】
抗原結合断片が単鎖抗体又は二本鎖抗体である、請求項10に記載の抗原結合断片。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【請求項14】
VEGF媒介性疾患の治療又は予防に使用するための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
VEGF媒介性疾患が、癌又はVEGF媒介性眼疾患である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防が、血管新生又は血管透過性亢進の阻害によるものである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
血管新生が病的な血管新生である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
癌が固形癌又は血液腫瘍である、請求項15又は16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
癌が、結腸直腸癌、直腸癌、乳癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵臓癌、軟組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド腫瘍、頭頚部癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫及び多発性骨髄腫からなる群より選択される、請求項15又は16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
VEGF媒介性眼疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、病的近視に伴う脈絡膜血管新生、翼状片、ルベオーシス、パンヌス、粘膜皮膚眼症候群及び眼における移植組織の免疫拒絶から選ばれる少なくとも1種である、請求項15又は16に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項1~11のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む、血管新生阻害剤。
【請求項22】
請求項1~11のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む、試薬。
【請求項23】
請求項1~11のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む、キット。
【請求項24】
癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療又は予防するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高親和性抗VEGF抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、生体内において血管形成(血管新生)を誘導することが可能であり、血管内皮細胞において特異的に発現しているヘパリン結合型の増殖因子である。ヒトVEGFタンパク質は、1989年に精製ならびに同定がなされ、またその遺伝子がクローニングされることによって、その遺伝子配列の決定がなされた。
【0003】
VEGFは、血管形成を促進することが可能であり、VEGFファミリーに属するすべてのメンバーが、細胞膜表面上に存在している各々のファミリー分子に対応した受容体(VEGFR)に結合することで、細胞を活性化する。これら受容体群は、VEGFが結合することにより二量体化された結果、自己リン酸化を受けることで活性化される。VEGFRは、7個の免疫グロブリン様細胞外ドメイン、1個の膜貫通ドメイン及びチロシンキナーゼ領域を含む1個の細胞内ドメインからなる。VEGF-Aは、VEGF受容体-1(受容体Flt-1)及びVEGF受容体-2(KDR/Flk-1)と結合することが可能である。VEGF受容体の中でも、特に、VEGF受容体-2は、VEGFの既知のほぼすべての生物学的機能を媒介する。VEGFの生理活性、ならびにその受容体に関しては、Martiら(非特許文献1:Angiogenesis in ischemic desease. Thromb. Haemost. 1999. 補遺1:44-52)及びMatsumotoら(非特許文献2:VEGF Receptor Signal Transduction. Sci. STKE. 2001. re21)によって、詳細に研究がなされてきた。
【0004】
米国及び欧州において、結腸直腸癌、乳癌、非小細胞肺癌、中枢神経系における神経膠腫及び加齢黄斑変性(AMD)の治療に遺伝子組み換え型抗VEGFヒト型化モノクローナル抗体であるアバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)が使用されている。アバスチンの2013年において売上高は、67億4600万USドルに達するが、VEGFに対する高い親和性を有してはいない(非特許文献3:Aflibercept as a Treatment for Age-related Macular Degeneration. US Ophthalimic Rev. 2013. 6:58-63)。さらに、アバスチンの独占的な製造、販売形態により、その使用を必要としている患者は、高額な医療費を支払っている。したがって、患者への負担を軽減し、その治療費を削減するといった観点からも、新たな抗VEGFモノクローナル抗体を開発することが求められている。
そして、現在までにアバスチンよりもVEGFに対する親和性が高い抗体が開発されており、この抗体は、アバスチンと比較して優位に高い腫瘍抑制を示している(特許文献1:特表2013-502445号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-502445号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Marti et al., Thromb. Haemost. 1999. 補遺1:44-52
【文献】Matsumoto et al., VEGF Receptor Signal Transduction. Sci. STKE. 2001. re21
【文献】US Ophthalimic Rev., 2013. 6:58-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、
従来技術と比較して高い親和性で血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と結合し、VEGFとVEGF受容体との結合を阻害することで、VEGFの生理活性を阻害する新規抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、VEGFと高い親和性で結合する抗体を作製し、該抗体がVEGFの生理作用を阻害することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
(1)1 x 10-11 mol/L以下の解離定数にて血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に結合する、VEGFに対するモノクローナル抗体。
(2)血管内皮増殖因子(VEGF)と、血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR1)及び血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2)からなる群から選択される少なくとも1つの受容体との結合を阻害する、上記(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3)上記(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体が結合する部位に結合するモノクローナル抗体。
(4)モノクローナル抗体がキメラ抗体又はヒト型化抗体である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
(5)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-H1、配列番号16のアミノ酸配列を含むCDR-H2及び配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(6)配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR-L1、アミノ酸配列Trp-Ala-Serを含むCDR-L2及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(7)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-H1、配列番号16のアミノ酸配列を含むCDR-H2及び配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含み、かつ、配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR-L1、アミノ酸配列Trp-Ala-Serを含むCDR-L2及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(8)配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR-H1、配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR-H2及び配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(9)配列番号30のアミノ酸配列を含むCDR-L1、アミノ酸配列Gly-Thr-Asnを含むCDR-L2及び配列番号32のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(10)配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR-H1、配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR-H2及び配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含み、かつ、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDR-L1、アミノ酸配列Gly-Thr-Asnを含むCDR-L2及び配列番号32のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の抗体。
(11)さらにヒトIgG1重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列及びヒトIgG1軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む、上記(7)又は(10)に記載の抗体。
(12)ヒトIgG1重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号42のアミノ酸配列を含むものであり、かつ、ヒトIgG1軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号44のアミノ酸配列を含むものである、上記(11)に記載の抗体。
(13)配列番号34又は38のアミノ酸配列及び配列番号42のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号36又は40のアミノ酸配列及び配列番号44のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、上記(12)に記載の抗体。
(14)イヌIgGB重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列、及びイヌIg軽鎖(κ鎖)定常領域又はイヌIg軽鎖(λ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列をさらに含む、上記(7)又は(10)に記載の抗体。
(15)イヌIgGB重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号46のアミノ酸配列を含むものであり、イヌIg軽鎖(κ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号48のアミノ酸配列を含むものであり、かつ、イヌIg軽鎖(λ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列が配列番号50のアミノ酸配列を含むものである、上記(14)に記載の抗体。
(16)配列番号34又は38のアミノ酸配列及び配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号36又は40のアミノ酸配列及び配列番号48又は50のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む上記(15)に記載の抗体。
(17)上記(1)~(16)のいずれかに記載のモノクローナル抗体の断片。
(18)断片が抗原結合断片である上記(17)に記載の断片。
(19)抗原結合断片が単鎖抗体又は二本鎖抗体である、上記(18)に記載の断片。
(20)上記(1)~(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(21)上記(1)~(19)のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む医薬組成物。
(22)VEGF媒介性疾患の治療又は予防に使用するための、上記(21)に記載の医薬組成物。
(23)VEGF媒介性疾患が、癌又はVEGF媒介性眼疾患である、上記(22)に記載の医薬組成物。
(24)癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防が、血管新生又は血管透過性亢進の阻害によるものである、上記(23)に記載の医薬組成物。
(25)血管新生が病的な血管新生である、上記(24)に記載の医薬組成物。
(26)癌が固形癌又は血液腫瘍である、上記(23)又は(24)に記載の医薬組成物。
(27)癌が、結腸直腸癌、直腸癌、乳癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵臓癌、軟組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド腫瘍、頭頚部癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫及び多発性骨髄腫からなる群より選択される、上記(23)又は(24)に記載の医薬組成物。
(28)VEGF媒介性眼疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、病的近視に伴う脈絡膜血管新生、翼状片、ルベオーシス、パンヌス、粘膜皮膚眼症候群及び眼における移植組織の免疫拒絶から選ばれる少なくとも1種である、上記(23)又は(24)に記載の医薬組成物。
(29)上記(1)~(19)のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む、血管新生阻害剤。
(30)上記(1)~(19)のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む、試薬。
(31)上記(1)~(19)のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む、キット。
(32)治療上有効量の上記(1)~(19)のいずれかに記載の抗体又はその断片を被験者に投与する工程を含む、癌又はVEGF媒介性眼科疾患の治療又は予防方法。
(33)癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法において使用するための、上記(1)~(19)のいずれかに記載の抗体又はその断片。
(34)癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療又は予防するための医薬の製造において使用するための、上記(1)~(19)のいずれかに記載の抗体又はその断片。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対して、従来技術と比較して非常に高い親和性で結合し、その受容体との結合を阻害する、VEGFに対する新規抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の抗体のVEGFとVEGFR2との結合阻害能を検討した結果を示す図である。
図2】本発明の抗体の細胞増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図3】本発明の抗体であるKLHa505のin vivoにおける腫瘍増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図4】本発明の抗体であるKLHb1501のin vivoにおける腫瘍増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図5】本発明のヒト型キメラ抗体であるKLHb1501HCのin vivoにおける腫瘍増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図6】本発明のイヌ型キメラ抗体であるKLHb1501CCのイヌVEGFAに結合する結果を示す図である。
図7】本発明のイヌ型キメラ抗体であるKLHb1501CCのin vivoにおけるヒト由来がん細胞に対する腫瘍増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図8】本発明のイヌ型キメラ抗体であるKLHb1501CCのin vivoにおけるイヌ由来がん細胞に対する腫瘍増殖阻害効果を検討した結果を示す図である。
図9】本発明のヒト型キメラ抗体であるKLHa505HCの、VEGF165、VEGF121及びVEGF165bに対する結合能を検討した結果を示す図である。
図10】本発明のヒト型キメラ抗体であるKLHb1501HCの、VEGF165、VEGF121及びVEGF165bに対する結合能を検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。また、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる2016年1月6日に出願された日本国特許出願(特願2016-001277号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0013】
1.概要
現在、癌や加齢黄斑変性の治療に有効な抗VEGF抗体としてアバスチンが知られているが、アバスチンはVEGFに対する親和性が低いことが知られている。
これに対し、本発明者は、VEGFに対し、従来技術と比較して顕著に親和性の高い抗体を開発し、この抗体が血管新生の抑制及び癌の治療に有効であることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
2.血管内皮増殖因子(VEGF)
VEGFは、血管新生において重要な役割を果たしているタンパク質である。VEGFは、その受容体と結合することで、細胞内にシグナルを伝達し、細胞分裂や遊走、分化誘導、血管透過性の亢進、単球やマクロファージの活性化等に関与している。
【0015】
本発明において、VEGFとしては、例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PIGF-1、PIGF-2などが挙げられるが、好ましくはVEGF-Aである。
【0016】
本発明におけるVEGFは、任意の哺乳動物に由来するものであってもよく、そのような哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヤギ、サル、ヒトが挙げられ、好ましくは、マウス、ラット、イヌ、ヒトである。
【0017】
また、ヒトVEGF-Aとしては、例えば、165アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF165)、その亜型である121アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF121)、145アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF145)、183アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF183)、189アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF189)、206アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF206)、前記VEGF165とはC末端領域のアミノ酸配列が異なるVEGF(VEGF165b)、並びにそれらの天然に生じる対立遺伝子型及びプロセシング型が挙げられる。本発明において、ヒトVEGF-Aとしては、VEGF121、VEGF165が好ましい。VEGFは染色体6p12にコードされ、mRNAは16,272bpの長さである。VEGFは、エクソン1~5と、6a、6b、7a、7b、8a及び8bからなる。VEGF165は、NRP1、VEGFR1及びVEGFR2の全てに結合する。
さらに、イヌVEGFとしては、例えば、164アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF164)、120アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF120)、144アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF144)、147アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF147)、162アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF162)、182アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF182)、188アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF188)、205アミノ酸残基からなるVEGF(VEGF205)、前記VEGF164とはC末端領域のアミノ酸配列が異なるVEGF(VEGF164b)、並びにそれらの天然に生じる対立遺伝子型及びプロセシング型が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明において、マウス、ラット、イヌ及びヒトのVEGF、並びにVEGF121及びVEGF165のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2、4、6、8、10及び12で表される。また、マウス、ラット、イヌ及びヒトのVEGF、並びにVEGF121及びVEGF165をコードするDNAの塩基(ヌクレオチド)配列は、それぞれ、配列番号1、3、5、7、9及び11で表される。各アミノ酸配列及び塩基配列は、それぞれGenBankデータベースにおいて、所定のアクセッション番号(Accession No.)により登録されている。
【0019】
マウスVEGFのアミノ酸配列:NP_001020421.2(配列番号2)
ラットVEGFのアミノ酸配列:NP_114024.2(配列番号4)
イヌVEGFのアミノ酸配列:NP_001003175 (配列番号6)
ヒトVEGF-Aのアミノ酸配列:NP_001020537.2(配列番号8)
VEGF121のアミノ酸配列:ABO26344.1(配列番号10)
VEGF165のアミノ酸配列:AAM03108.1(配列番号12)
マウスVEGFをコードするDNAの塩基配列:NM_001025250.3(配列番号1)
ラットVEGFをコードするDNAの塩基配列:NM_031836.2(配列番号3)
イヌVEGFをコードするDNAの塩基配列:NM_001003175.2 (配列番号5)
ヒトVEGF-AをコードするDNAの塩基配列:NM_001025366.2(配列番号7)
VEGF121をコードするDNAの塩基配列:EF424789.1(配列番号9)
VEGF165をコードするDNAの塩基配列:AF486837.1(配列番号11)
【0020】
本発明で用いられるVEGFには、以下の(a)~(c)のタンパク質が含まれる。
(a) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつVEGF受容体と結合する活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列を含み、かつVEGF受容体と結合する活性を有するタンパク質
【0021】
本発明において、「配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質」には、配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が含まれる。
また、「配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、
(i) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号2、4、6、8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)~(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0022】
本発明において「VEGF受容体」は、血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR1(別名Flt-1))、血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2(別名KDR))及び血管内皮増殖因子受容体-3(VEGFR3)からなる群から選択される少なくとも1つのVEGF受容体であるが、好ましくは血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR1)及び/又は血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2)であり、より好ましくは血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2)である。また、「VEGF受容体と結合する活性」とは、VEGF受容体と特異的に結合する活性を意味する。当該結合活性の有無については、公知の方法、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロッティング、EIA(enzyme immunoassay)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの免疫学的手法やプルダウンアッセイ等の方法を用いることにより測定することができる。また、「VEGF受容体と結合する活性」とは、配列番号2、4、6、8、10又は12に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を100としたときと比較して、少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
【0023】
また、本発明におけるVEGFには、配列番号2、4、6、8、10又は12で表されるアミノ酸配列のほか、配列番号2、4、6、8、10又は12で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列を有し、かつVEGF受容体と結合する活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号2、4、6、8、10又は12で表されるアミノ酸配列に対して、約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつVEGF受容体と結合する活性を有するもの(配列番号2、4、6、8、10又は12で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列)も含まれる。相同性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイト、例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI-BLAST等の相同性検索を利用できる。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いた検索を行うこともできる。
【0024】
上記の変異を有するタンパク質を調製するために、該タンパク質をコードするDNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等に記載された部位特異的変異誘発法等の方法を用いることができる。
【0025】
3.VEGFに対する抗体
本発明において、VEGFに対する抗体(以下「抗VEGF抗体」とも称する。)とは、上記VEGFと特異的に結合する抗体を意味する。本発明の抗VEGF抗体は、VEGFに対し、従来技術と比較して高い親和性で結合し、VEGFとVEGF受容体(VEGFR)との結合を阻害する。
なお、抗VEGF抗体として広く知られているベバシズマブ(アバスチン(登録商標))のVEGFとの解離定数は、47.9nmol/Lであることが知られている。
【0026】
本発明において「結合を阻害する」とは、必ずしもVEGFとVEGFRとの結合を100%阻害することを意味するものではない。本発明の抗体は、VEGFとVEGFRとの結合を、例えば50%以上、好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上阻害する。
結合阻害効果は、結合阻害試験に関する公知の方法、例えば本明細書の実施例2で用いた方法を用いて評価することができる。
【0027】
本発明の抗体は、VEGFに特異的に結合し、VEGFの活性を中和する中和抗体である。本発明において、「特異的に結合する」とは、標的分子には結合する(反応する)が、標的分子以外には実質的に結合しない(反応しない)ことを意味する。また、本発明において、「中和する」とは、少なくとも、VEGFのVEGFRに結合する活性を阻害(抑制)することを意味する。結合が特異的か否かであることの確認は、免疫学的手法、例えばELISA法、ウエスタンブロット法、又は免疫組織学的染色等によって確認することができる。
【0028】
以下、抗VEGF抗体の調製方法について説明する。
(1)抗原の調製
VEGFは、本発明の抗体を作製するための免疫原として使用される。
免疫原としてVEGFを用いる場合、VEGFの全長配列のうち一部のアミノ酸配列を含むペプチドを使用することもできる。抗原又は免疫原として用いられるVEGF及び変異の導入方法等の説明については、上記「2.VEGF」に記載した通りである。
【0029】
VEGFは、マウス、ラット、イヌ、ヒト等の組織や細胞から精製された天然型のVEGFでもよいし、遺伝子工学的に生産されたVEGFでもよい。例えば、VEGFが認められる生体試料を各種界面活性剤、例えばTriton-X、Sarkosylなどを用い、可溶性画分と不溶性画分に分画する。さらに不溶性画分を尿素やグアニジン塩酸などに溶解し、各種カラム、例えばヘパリンカラムあるいは結合樹脂に結合させることによりVEGFを得ることができる。また、抗原として用いるVEGFは、そのアミノ酸配列を指定することにより、固相法などの公知のタンパク質合成法又は市販のタンパク質合成装置を用いて合成することもできる。合成したペプチドは、Keyhole Limpet Hemocyanin(KLH)又はThyroglobulinなどの担体タンパク質と結合させ、免疫原として用いることができる。
【0030】
(2)ポリクローナル抗体の作製
前記のようにして作製したVEGF又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体、希釈剤と共に非ヒト哺乳動物、例えばウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヤギ等に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いるときは0.1~10 mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下又は腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1~2週間間隔で、2~10回、好ましくは3~5回免疫を行う。免疫の間隔は、当業者であれば得られる抗体価を勘案して設定することができる。3~4回皮下免疫を行った時点で試採血を行い、抗体価を測定することが好ましい。血清中の抗体価の測定は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、放射性免疫測定法(RIA; radioimmuno assay)等によって行うことができる。抗体価が十分上昇したことを確認した後、全採血し、通常行われる方法により抗体を分離精製することができる。分離精製は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより、精製することができる。具体的には、目的の抗体を含有する血清を、VEGF以外のタンパク質を結合したカラムに通し、素通り画分を採取することにより、VEGFに対する特異性を向上させたポリクローナル抗体を得ることができる。
【0031】
(3)モノクローナル抗体の作製
(i) 抗体産生細胞の採取
ポリクローナル抗体の作製と同様に、VEGF又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体及び希釈剤と共に非ヒト哺乳動物に投与することにより免疫する。動物1匹当たりの抗原の投与量、用いられるアジュバントの種類、免疫方法、免疫の間隔はポリクローナル抗体の作製と同様である。最終の免疫日から1~30日後、好ましくは2~5日後に、抗体価の認められた個体を選択し抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又はリンパ節細胞が好ましい。
【0032】
(ii) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。融合操作は既知の方法、例えばKohlerらの方法に従い実施できる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3-x63-Ag8U.1、SP2/O-Ag14、PAI、P3U1、NSI/1-Ag4-1、NSO/1などのマウスミエローマ細胞株、YB2/0などのラットミエローマ細胞株などが挙げられる。
【0033】
上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞との細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×108~5×108個の抗体産生細胞と2×107~10×107個のミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比10:1~1:1)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000~6000ダルトンのポリエチレングリコール又はセンダイウイルス等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0034】
(iii) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えば10~20%のウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に限界希釈法で計算上0.3 個/well程度まき、各ウェルにHAT培地などの選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0035】
次に、生育してきたハイブリドーマをさらにスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマを培養したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等によって、スクリーニングすることができる。具体的には、96ウエルプレートに抗原を吸着させた後、仔牛血清でブロッキングする。ハイブリドーマ細胞の培養上清を固相化した抗原に37℃で1時間反応させた後、ペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgGを37℃で1時間反応させ、オルトフェニレンジアミンを基質として用いて発色させる。酸で反応を停止させた後、490nmの波長における吸光度を測定することにより、スクリーニングすることができる。上記測定法により陽性を示したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等によりクローニングする。そして、最終的に、VEGFに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0036】
(iv) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7~14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物、例えばマウス(BALB/c)の腹腔内にハイブリドーマを約5×106 ~2×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1~2週間後に腹水を採取する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0037】
本発明の抗体としては、例えば、重鎖可変領域(VH)が、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域(CDR)1(CDR-H1)、配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR2(CDR-H2)及び/又は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR3(CDR-H3)を含み、かつ/又は軽鎖可変領域(VL)が、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR1(CDR-L1)、トリプトファン(W)-アラニン(A)-セリン(S)からなるアミノ酸配列(「アミノ酸配列WAS」、「アミノ酸配列Trp-Ala-Ser」とも称する)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR2(CDR-L2)及び/又は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR3(CDR-L3)を含む抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
また別の態様において、本発明の抗体としては、例えば、重鎖可変領域が、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR1(CDR-H1)、配列番号26で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR2(CDR-H2)及び/又は配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR3(CDR-H3)を含み、かつ/又は軽鎖可変領域が、配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR1(CDR-L1)、グリシン(G)-トレオニン(T)-アスパラギン(N)からなるアミノ酸配列(「アミノ酸配列GTN」、「アミノ酸配列Gly-Thr-Asn」とも称する)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR2(CDR-L2)及び/又は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR3(CDR-L3)を含む抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
さらに別の態様において、本発明の抗体としては、例えば、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号34又は38で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなり、かつ/又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号36又は40で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
(4)遺伝子組換え抗体の作製
本発明の抗体の好ましい態様の一つとして、遺伝子組換え抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体としては、限定はされないが、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体、イヌ型化抗体等が挙げられる。
【0040】
キメラ抗体は、異種の動物の免疫グロブリン遺伝子断片を連結して作製された抗体をいう。本発明において、キメラ抗体としては、例えば、ヒト型キメラ抗体、イヌ型キメラ抗体等が挙げられるが、キメラ抗体の可変領域および定常領域が由来する動物の種類は限定されるものではない。ヒト型キメラ抗体は、例えば、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に連結(接合)した抗体であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 等を参照)、イヌ型キメラ抗体は、例えば、マウス由来抗体の可変領域をイヌ由来の定常領域に連結した抗体である。キメラを作製する場合は、そのように連結した抗体が得られるよう、遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。ここで、マウス由来抗体の可変領域としては、重鎖可変領域が、例えば配列番号34又は38で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられ、軽鎖可変領域が、例えば配列番号36又は40で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
ヒト型化抗体を作製する場合は、いわゆるCDRグラフティング(CDR移植)と呼ばれる手法を採用することができる。CDRグラフティングとは、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものでCDRはマウス由来のものからなる、再構成した可変領域を作製する方法である。次に、これらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。このようなヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である(Nature, 321, 522-525 (1986);J. Mol. Biol., 196, 901-917 (1987);Queen C et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 10029-10033 (1989);特許第2828340号公報等を参照)。
ここで、本発明のヒト型化抗体に用いることができるマウス由来のCDRのアミノ酸配列としては、例えば、重鎖可変領域のCDR1~3(CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)として、それぞれ配列番号14、16及び18で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられ、軽鎖可変領域のCDR1~3(CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)として、それぞれ配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるもの、トリプトファン(W)-アラニン(A)-セリン(S)からなるアミノ酸配列(アミノ酸配列Trp-Ala-Ser)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるもの及び/又は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられるが、これらに限定されない。
また別の態様において、本発明のヒト型化抗体に用いることができるマウス由来のCDRのアミノ酸配列としては、例えば、重鎖可変領域のCDR1~3(CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)として、それぞれ配列番号24、26及び28で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられ、軽鎖可変領域のCDR1~3(CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)として、それぞれ配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるもの、グリシン(G)-トレオニン(T)-アスパラギン(N)からなるアミノ酸配列(アミノ酸配列Gly-Thr-Asn)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるもの及び/又は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるものが挙げられるが、これらに限定されない。
イヌ型化抗体についても、上記のヒト型化抗体の作製方法と同様の手法により作製することができる。
【0042】
本発明において、キメラ抗体及びヒト型化抗体に用いることができるヒト重鎖定常領域としては、ヒトIgG1重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含むもの、例えば、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるヒト重鎖定常領域が挙げられ、ヒト軽鎖定常領域としては、ヒトIgG1軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含むもの、例えば、配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるヒト軽鎖定常領域が挙げられるが、これらに限定されない。また、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAとしては、例えば、配列番号41で示される塩基配列を含むか若しくは該塩基配列からなるDNAが挙げられ、ヒト軽鎖定常領域をコードするDNAとしては、例えば、配列番号43で示される塩基配列を含むか若しくは該塩基配列からなるDNAが挙げられるが、これらに限定されない。
また、本発明において、キメラ抗体及びイヌ型化抗体に用いることができるイヌ重鎖定常領域としては、イヌIgGB重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含むもの、例えば、配列番号46で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるイヌ重鎖定常領域が挙げられるが、これらに限定されない。また、キメラ抗体及びイヌ型化抗体に用いることができるイヌ軽鎖定常領域としては、イヌIg軽鎖(κ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列又はイヌIg軽鎖(λ鎖)定常領域に由来するアミノ酸配列を含むもの、例えば、配列番号48で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるイヌ軽鎖(κ鎖)定常領域又は配列番号50で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなるイヌ軽鎖(λ鎖)定常領域が挙げられるが、これらに限定されない。また、イヌ重鎖定常領域をコードするDNAとしては、例えば、配列番号45で示される塩基配列を含むか若しくは該塩基配列からなるDNAが挙げられ、イヌ軽鎖(κ鎖又はλ鎖)定常領域をコードするDNAとしては、例えば、配列番号47又は49で示される塩基配列を含むか若しくは該塩基配列からなるDNAが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明においては、ハイブリドーマ又は当該ハイブリドーマから抽出したDNA若しくはRNAなどを原料として、上述した周知の方法に準じてキメラ抗体、ヒト型化抗体、イヌ型化抗体を作製することができる。
さらに、本発明の抗体が融合したタンパク質は、抗体の可変領域とその他のタンパク質を公知の遺伝子組換え方法を用いることにより作製することができる。また、当該融合タンパク質は、モノクローナル抗体と他のタンパク質とをクロスリンカーを用いて架橋することにより作製することができる。
【0043】
(5)抗体断片の作製
本発明で使用されるVEGFに対する抗体の断片は、VEGFに特異的に結合する。
抗体の断片は、本発明の抗体の一部分の領域を含むポリペプチドを意味する。抗体の断片としては、抗原結合断片が好ましい。抗原結合断片としては、例えば、単鎖抗体(scFv(single chain Fv))、sc(Fv)2)、二本鎖抗体(Fab、Fab'、ダイアボディ(diabody(dibodies)、dsFv)、F(ab')2などが挙げられるが、これらに限定されない。上記抗体断片は、本発明の抗体を目的に応じて各種タンパク質分解酵素で切断することにより得ることができる。
例えば、Fabは、抗体分子をパパインで処理することにより、F(ab')2は、抗体分子をペプシンで処理することによりそれぞれ得ることができる。また、Fab'は、上記F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することで得ることができる。
scFvの場合は、抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、scFvを製造することができる。
diabodyの場合は、抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードするcDNAを取得し、ペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるようにscFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、diabodyを製造することができる。
dsFvの場合は、抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、dsFvを製造することができる。
【0044】
本発明において、重鎖可変領域をコードするDNAの塩基配列としては、例えば配列番号33又は37で示される塩基配列を含むか又は該塩基配列からなるものが挙げられ、軽鎖可変領域をコードするDNAの塩基配列としては、例えば配列番号35又は39で示される塩基配列を含むか又は該塩基配列からなるものが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の抗体断片の具体例としては、例えば、重鎖可変領域(VH)が、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR1(CDR-H1)、配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR2(CDR-H2)及び/又は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR3(CDR-H3)を含み、かつ/又は軽鎖可変領域(VL)が、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR1(CDR-L1)、トリプトファン(W)-アラニン(A)-セリン(S)からなるアミノ酸配列(アミノ酸配列Trp-Ala-Ser)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR2(CDR-L2)及び/又は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR3(CDR-L3)を含む抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。
また別の態様において、本発明の抗体断片の具体例としては、例えば、重鎖可変領域が、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR1(CDR-H1)、配列番号26で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR2(CDR-H2)及び/又は配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる重鎖CDR3(CDR-H3)を含み、かつ/又は軽鎖可変領域が、配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR1(CDR-L1)、グリシン(G)-トレオニン(T)-アスパラギン(N)からなるアミノ酸配列(アミノ酸配列Gly-Thr-Asn)を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR2(CDR-L2)及び/又は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むか若しくは該アミノ酸配列からなる軽鎖CDR3(CDR-L3)を含む抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。
さらに、本発明の抗体断片としては、重鎖可変領域が配列番号34又は38で示されるアミノ酸配列を含むか該アミノ酸配列からなり、かつ/又は軽鎖可変領域が配列番号36又は40で示されるアミノ酸配列を含むか該アミノ酸配列からなる抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
CDRを含む抗体断片(ペプチド)は、VH又はVLのCDR(CDR1~3)の少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含む抗体断片は、直接又は適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。CDRを含む抗体断片は、抗体のVH及びVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入して、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させて、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)及びtBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。
VHのCDR1~3をコードするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号13、15及び17で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNAが挙げられ、VLのCDR1~3をコードするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号19で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNA、チミン(T)-グアニン(G)-グアニン(G)-グアニン(G)-シトシン(C)-アデニン(A)-チミン(T)-シトシン(C)-シトシン(C)からなる塩基配列(「塩基配列TGGGCATCC」とも称する)を含むか該塩基配列からなるDNA及び配列番号21で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNAが挙げられるが、これらに限定されない。
また別の態様において、VHのCDR1~3をコードするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号23、25及び27で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNAが挙げられ、VLのCDR1~3をコードするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号29で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNA、グアニン(G)-グアニン(G)-チミン(T)-アデニン(A)-シトシン(C)-シトシン(C)-アデニン(A)-アデニン(A)-シトシン(C)からなる塩基配列(「塩基配列GGTACCAAC」とも称する)を含むか該塩基配列からなるDNA及び配列番号31で示される塩基配列を含むか該塩基配列からなるDNAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
(6)結合親和性
結合親和性は、結合定数(KA)及び解離定数(KD)により決定することができる。親和性平衡定数(K)はKA/KDの比で表される。その結合親和性は、以下のようにして検出することができる。
結合定数(KA)及び解離定数(KD)は、表面プラスモン共鳴(SPR)を用いて測定することができ、結合率をリアルタイムで検出し、さらにモニタリングする公知の機器及び方法を採用することができる(例えばBiacore(登録商標)-3000 (GE Healthcare社)、ProteON XPR36 (Bio-Rad社)など)。
【0047】
本発明の抗体は、1×10-7mol/L以下(例えば1×10-7mol/L以下、1×10-8mol/L以下、1×10-9mol/L以下であり、好ましくは1×10-10 mol/L以下、より好ましくは1x10-11 mol/L以下である)のIC50でその標的を阻害しうる。
【0048】
本発明は、本発明のVEGFに対する抗体が結合する部位に結合する抗体を提供する。具体的には、本発明のVEGFに対する抗体には、1x10-11 mol/L以下の解離定数にてVEGFに結合するVEGFに対するモノクローナル抗体が結合する部位に結合する抗体が含まれる。
本発明の抗VEGF抗体が結合する部位は、抗原であるVEGFの少なくとも一部の領域であればよく、限定されない。本発明の抗VEGF抗体が結合する部位としては、エクソン1、2、3、4、5、6a、6b、7a、7b、8aからなる群から選択される少なくとも1つの領域が挙げられるが、エクソン1~5の領域が好ましい。当業者であれば、Genbank等の公知の情報に基づいて各種VEGFのエクソン1~5の領域を特定することができる。例えば、マウス、ラット、イヌ、ヒトのVEGFのエクソン1~5のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号51、52、53及び54で示される。
本発明の抗VEGF抗体が結合する部位(領域、エピトープ等)又はこれを含むポリペプチドは、当業者であれば、本明細書の記載及びエピトープマッピングやX線構造解析などの公知の手法に基づいて特定することができる。
また、上記モノクローナル抗体が結合する部位に結合する抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体である場合は、遺伝子組換え抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体、イヌ型化抗体であってもよい。
【0049】
本発明のVEGFに対する抗体が結合する部位に結合する抗体は、VEGFとの結合について本発明のVEGFに対する抗体と競合する抗体である。当業者であれば、VEGFとの結合について本発明のVEGFに対する抗体と競合する抗体は、本発明の抗体(すなわち、1x10-11 mol/L以下の解離定数にてVEGFに結合する、VEGFに対するモノクローナル抗体)と同等の特異性及び/又は活性を有するものと理解できる。
抗体を用いた競合試験は、一組の抗体が同じ(又は重複する)部位に結合するかどうかを調べるための手法として抗体の技術分野において確立された手法である(Ju-Won Kwak et al., Journal of Immunological Methods 191 (1996) 49-54等を参照)。そして、競合試験において、本発明のVEGFに対する抗体が、試験対象の抗VEGF抗体により結合が競合阻害される場合には、当該試験対象の抗VEGF抗体は、本発明のVEGFに対する抗体が結合する部位に結合する抗体であると同定することができる。また、この試験方法においては、一組の抗体が同じ(又は重複する)部位に結合するかどうかを調べる上で、その部位がどのような構造であるかという情報を必要としない。
すなわち、本発明のVEGFに対する抗体が結合する部位に結合する抗体は、当業者であれば、本発明のVEGFに対する抗体を用いて競合試験を行うことにより、過度の実験を伴うことなく得ることができる。
【0050】
4.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、上記「3.VEGFに対する抗体」に記載した抗体又はその断片を有効成分として含有し、対象疾患に対する医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、対象疾患の予防又は治療に使用され、当該予防又は治療に有効である。
本発明の医薬組成物の対象となる疾患は、VEGFが関与する疾患(症状を含む)であれば限定されるものではなく、このような疾患としては、固形腫瘍、特に問題となる転移性腫瘍を含む癌、VEGF媒介性眼疾患が挙げられ、その他免疫性の疾患も対象となる。
【0051】
腫瘍の血管構造は、血液を供給することが知られているが、癌幹細胞を支える血管ニッチ環境としても機能する。血管ニッチ環境とは、血液や血管の元となる造血幹細胞の維持や増殖、分化に関わる環境を示しており、癌幹細胞の増殖においても重要な環境であると考えられている。
【0052】
癌細胞は、正常細胞に比べ、高い増殖力や細胞分裂の回数に制限がない、周辺組織への浸潤や転移を起こすという特徴を持っている。近年、癌組織の中の癌細胞全てがこのような性質を持つのではなく、一部の限られた細胞がこのような性質を持つと考えられるようになった。すなわち、これらの一部の癌細胞は、自らと全く同じ細胞を作り出す自己複製能と、多種類の細胞に分化しうる多分化能という、胚性幹細胞や体性幹細胞などの幹細胞に共通して見られる特徴を持つ細胞であり、癌組織中で自己複製により自分と同じ細胞を維持しながら、分化によって周辺の大多数の癌細胞を生み出すもとになっている癌幹細胞であると考えられている。
【0053】
癌幹細胞は、癌の再発や転移の主要な原因と考えられており、癌治療において癌幹細胞を標的にすることの重要性が指摘されている。腫瘍組織内における癌幹細胞の増殖を有意に阻害することが可能になれば、効果的に癌細胞全体を殺傷することができる新たな治療法の開発が可能になると考えられる。
【0054】
本発明において「癌幹細胞性」とは、癌幹細胞の性質を示す細胞の集団の性質を意味する。すなわち、癌幹細胞性とは、幹細胞に特有の自己複製と多分化能を有し、癌の元になる細胞の性質を持つ性質を意味する。
【0055】
本発明において、癌としては、脳腫瘍、頚癌、食道癌、舌癌、肺癌、乳癌、膵癌、胃癌、小腸の癌、十二指腸癌、大腸癌、膀胱癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、胆嚢癌、咽頭癌、肉腫、メラノーマ、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などが挙げられる。
【0056】
本発明において、VEGF媒介性眼疾患とは、眼における病的な血管新生あるいは血管透過性亢進に起因する疾患であり、VEGFが関与する疾患である。すなわち、VEGF媒介性眼疾患は、抗VEGF抗体を用いてVEGFとVEGF受容体との結合を阻害することにより、治療又は予防が可能である。このような疾患としては、例えば、加齢黄斑変性(ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖などの特殊型を含む)、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、病的近視に伴う脈絡膜血管新生、翼状片、ルベオーシス、パンヌス、粘膜皮膚眼症候群、眼における移植組織(例えば角膜組織等)の免疫拒絶などが挙げられる。
【0057】
本発明において、「病的な血管新生」とは、病的状態又は病的状態を引き起こす状態において、正常な生理的血管新生(血管形成)と比較して、新しい血管が過剰に、不十分に又は不適切に(例えば、血管形成の医学的見地から見て望ましくない位置、時期又は発生において)成長するときに生じる血管新生をいう。
【0058】
本発明において、「治療」とは、疾患の発症後に本発明の抗体若しくはその断片又はそれを含む医薬組成物(以下「本発明の医薬組成物等」とも称する)を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、当該疾患の症状を軽減することを意味し、必ずしも疾患の症状を完全に抑制することを意味するものではない。疾患の発症とは、疾患の症状が身体に現れることを意味する。
本発明において、「予防」とは、疾患の発症前に本発明の医薬組成物等を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、疾患の発症後の症状を軽減することを意味し、必ずしも発症を完全に抑制することを意味するものではない。
【0059】
本発明の医薬組成物は、本発明のVEGFに対する抗体のほか、薬学的に許容できる担体を含むことができる。「薬学的に許容できる担体」とは、免疫疾患に対する医薬組成物に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、着香料、又は甘味料を指す。
【0060】
本発明の医薬組成物等は、注射剤、凍結乾燥品、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、坐剤、バップ剤、軟膏剤、クリーム剤、点眼剤等の剤型をとることができる。注射剤などの液体製剤は、使用前に生理食塩水等で溶解する用時調製用粉末(例えば凍結乾燥粉末)の形態であってもよい。
【0061】
本発明の医薬組成物等は、当業者に既知である任意の手段によって局所的又は全身に投与することができる。本発明の医薬組成物の投与経路としては、経口投与及び非経口投与のいずれも可能であり、非経口投与の場合は、組織内投与(皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、皮内投与、局所投与(経皮投与など)又は経直腸的に投与することができる。本発明の医薬組成物は、これらの投与経路に適した投与形態で投与することができる。
【0062】
本発明の医薬組成物等の投与量は、被験者の年齢、体重、健康状態、性別、症状、動物種、投与経路、投与回数、剤型などの要因に応じて変化し、具体的な投与手順は当業者により設定することができる。癌の治療のための本発明の抗体の投与量としては、被験者の体重1 kgあたり、例えば0.1mg~100mg/日、好ましくは1mg~15mg/日、より好ましくは2-12mg/日であるが、これに限定されない。投与回数としては、一日に1~5回投与することができる。VEGF媒介性眼疾患の治療のための本発明の抗体の投与量としては、例えば0.01mg~100mg/眼であり、より好ましくは、0.1mg~10mg/眼である。投与回数としては、1日~2ヶ月に1回投与することができるが、これに限定されない。
【0063】
投与時期は、症状に応じて適宜定めることができ、複数回分を同時に又は時間を置いて別々に投与することができる。また、本発明の医薬組成物は、疾患の発症前に被験者に投与してもよいし、疾患の発症後に投与してもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物は、哺乳動物を被験者として投与することができる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどが挙げられる。
【0065】
5.癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法
本発明においては、VEGFに対する抗体若しくはその断片又はこれを含む医薬組成物を被験者に投与することにより、癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療又は予防することができる。すなわち、本発明は、治療上有効量の本発明の抗体若しくはその断片又はそれを含む医薬組成物を被験者に投与する工程を含む、癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法を提供する。本発明の抗体若しくはその断片又はそれを含む医薬組成物の治療上の有効量は、被験者の年齢、体重、健康状態、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型などの要因に応じて変化する。当業者であれば、癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療、又は予防に必要な治療上の有効量を容易に決定することができる。本発明において、「被験者」には、癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防を必要とする被験者が含まれる。また、「被験者」として治療又は予防の対象となる哺乳動物は、上記の通りである。
本発明の癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法において、「癌」、「VEGF媒介性眼疾患」、「治療」及び「予防」についての説明は上記の通りである。また、本発明の抗体若しくはその断片又はそれを含む医薬組成物の剤形、投与経路、投与量、投与時期などの説明についても上記の通りである。
【0066】
6.血管新生阻害剤
本発明の抗体は、VEGFとVEGF受容体との結合を阻害するため、当該結合によって生じる血管新生を阻害することができる。すなわち、本発明は、上記「3.VEGFに対する抗体」に記載された抗体又はその断片を有効成分として含む血管新生阻害剤を提供する。
本発明の血管新生阻害剤は、試薬として、あるいは哺乳動物の治療に用いることができ、その投与形態、添加物、投与経路、投与対象、投与量などは、上記「4.医薬組成物」の記載に準じて適宜選択することができる。ただし、本発明の血管新生阻害剤は、本発明の抗体又はその断片のみを含有するものであってもよい。
【0067】
7.抗体の使用
本発明の抗体又はその断片は、癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法において、あるいは癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療又は予防するための医薬の製造において、使用することができる。すなわち、本発明は、癌又はVEGF媒介性眼疾患の治療又は予防方法において使用するための、本発明の抗VEGF抗体又はその断片を提供する。また、本発明は、癌又はVEGF媒介性眼疾患を治療又は予防するための医薬の製造において使用するための、本発明の抗VEGF抗体又はその断片を提供する。さらに、本発明は、血管新生阻害剤の製造において使用するための、抗VEGF抗体又はその断片を提供する。
これらの態様における、「癌」、「VEGF媒介性眼疾患」、「治療」及び「予防」についての説明は上記の通りである。
【0068】
8.併用療法
本発明の医薬組成物は、他の抗癌剤の少なくとも1種と併用投与するために用いることができる。本発明に使用される抗癌剤としては、例えば、ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、スニチニブ(スーテント(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、シスプラチン(cDDP)、カルボプラチン(パラプラチン(登録商標))、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、塩酸ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、ゲフィチニブ(イレッサ(登録商標))、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、塩酸イリノテカン(CPT-11)、5-フルオロウラシル(5-FU)などが挙げられる。
【0069】
本発明の医薬組成物と抗癌剤の少なくとも1種とを併用投与することにより、それぞれ単独で用いるよりもさらに優れた効果が期待される。優れた効果には、治療効果を維持しつつ従来よりも副作用を軽減するという効果が含まれる。
本発明において「併用」とは、本発明の医薬組成物と前記抗癌剤の少なくとも1種とを、同時又は別々に投与することを意味する。「同時」とは、一つの投与スケジュールにおいて同一のタイミングで投与されることを意味し、投与の時分が完全に同一である必要はない。「別々」とは、一つの投与スケジュールにおいて異なるタイミングで投与されることを意味する。
本発明の併用療法に用いる医薬組成物等及び抗癌剤の投与形態、投与経路、投与対象は特に限定されず、上記「4.医薬組成物」の記載に準じて適宜選択することができる。また、併用する薬剤の投与形態又は投与量が互いに異なっていてもよく、その併用する組み合わせにより、適宜調整することができる。
本発明の医薬組成物を他の抗癌剤と併用する場合は、投与量を適宜減らすことも可能である。従って、本発明の医薬組成物と他の抗癌剤との組合せにおいては、
(i) 本発明の医薬組成物の有効量と、他の抗癌剤の有効量、
(ii) 本発明の医薬組成物の有効量と、他の抗癌剤の非有効量、
(iii) 本発明の医薬組成物の非有効量と、他の抗癌剤の有効量、及び
(iv) 本発明の医薬組成物の非有効量と、他の抗癌剤の非有効量
の組合せを採用することができる。
医薬組成物及び抗癌剤の一方又は両者が非有効量の使用態様であっても、併用により薬理効果を発揮することができる場合は、そのような態様により併用投与することができる。
【0070】
9.試薬、キット
本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、VEGFの検出試薬又はキットに含めることができる。すなわち、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその断片を含む試薬及びキットを提供する。本発明の試薬及びキットは、例えば、VEGFの検出用試薬又はキットとして使用することができる。
本発明の試薬及びキットにおいて、本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、例えば凍結などの方法により扱いやすくした後、そのまま若しくは賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、公知の添加剤(緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等が含まれる)などと混合してもよい。
本発明のキットには、本発明のモノクローナル抗体又はその断片のほか、緩衝液、酵素液、二次抗体、希釈用溶液、使用説明書などを含めることもできる。
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
モノクローナル抗体の作製
(1)抗原の調製
CHO細胞で発現させたヒト組換え体VEGF165(以下「VEGF」、「rhVEGF165」又は「rhVEGF」とも称する)(PROSPEC社)を抗原として用いた。VEGFによるマウスへの影響を抑制する目的で、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)に結合させた抗原を準備した。この場合、VEGFとKLHとが、モル比で4:1となるようPBS(-)(0.01M sodium-phosphate buffer、0.138M NaCl、0.0027M KCl、pH 7.4)に混合した後、1%のグルタルアルデヒドを添加し、1時間、室温で反応させることにより、KLHとrhVEGF165とを架橋した。このように調製したタンパク質を、以下「KLH-VEGF」とも称する。
【0073】
(2)免疫
rhVEGF又はKLH-VEGFをフロイント完全アジュバントと等量混合し、BALB/cマウスの腹腔内に100μl(約40μg/マウス)投与した。次いで、動物を不完全フロイントアジュバントとともに約40μgのKLH-VEGF又はrhVEGFを3週間に一回腹腔内に投与することにより、追加免疫を実施した。追加免疫は、12回を超えない範囲で行った。最終的な免疫刺激は、脾臓摘出の3日前に約40μgのKLH-VEGFあるいはrhVEGFを含む生理食塩水を、尾静脈内投与により実施した。
【0074】
(3)細胞融合
単離した脾細胞とマウス骨髄腫細胞株であるP3-x63-Ag8U.1(DSファーマバイオメディカル社)とを5:1の細胞数で混合し、50%ポリエチレングリコール3350(Sigma社)を用いて細胞融合を行った。細胞はHAT培地(1/2×HT(MP社)、1/2×HAT(MP社)、10%FBS、50ng/L mouseI L-6、500mg/mL D-Glucoseを添加したRPMI1640培地)に懸濁し、96穴のマイクロカルチャープレートに分注して培養した。
【0075】
(4)ELISA
ハイブリドーマが増殖してきたウェルの培養上清を回収し、rhVEGF165に反応するモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマを選択した。rhVEGF165をPBS(-)で希釈し、96ウェルのELISAプレート(Nunc社)に1ウェル当たり1μgとなるよう分注して、4℃で一晩放置することでプレート表面に結合させた。次に、0.05%Tween 20を含むPBS(-)(以下、「PBS-T」と記載する)350μLで3回洗浄した後、1%スキムミルクを含むPBS-Tを300μLずつ各ウェルに分注し、1時間、室温でブロッキングした。PBS-Tで洗浄後、ハイブリドーマの培養上清をrhVEGF165を固相化したELISAプレートに分注し、1時間、室温で反応させた。PBS-Tで洗浄後、ペルオキシダーゼ(以下、「POD」と記載する)標識抗マウス免疫グロブリン抗体(BETHYL社製)を10000倍希釈したものを各ウェル100μL分注し、1時間、室温で反応させた。同様の洗浄を行った後、1 mg/mL PODとなるよう調製したPOD基質を加え、室温、5分間発色させた。1.5Nの硫酸で反応を停止した後、490nmの吸収をプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)を用いて測定した。
【0076】
(5)抗VEGFモノクローナル抗体の樹立
rhVEGF165を固相化していないプレートにおける吸光度を基準として、吸光度が3倍以上であったウェルを陽性として、限界希釈法にてクローニングした。単一コロニーを含むウェルの細胞上清の抗体活性を上記(4)の方法で調べ、選択した後に、培養し、rhVEGF165に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株を樹立した。このようにして樹立したハイブリドーマのうち、2つの陽性クローンを選択し、これらのハイブリドーマから産生される抗体を、それぞれKLHa505及びKLHb1501と命名した。
【実施例2】
【0077】
モノクローナル抗体によるVEGFとその受容体との結合阻害能の評価
抗VEGF抗体は、VEGFに結合することで、その受容体であるVEGFR-1及び/又はVEGFR-2へのVEGFの結合を遮断し、VEGFを介したシグナル伝達を阻害することができる。
2つの陽性クローンの培養上清中から、ProteinGを用いて、それぞれKLHa505及びKLHb1501を分離、精製した。
次に、96ウェルELISAプレート上に、IgG Fc-VEGFR-1、あるいはIgG Fc-VEGFR2を固相化し、2%ウシ血清アルブミンでブロッキングし、そこにrhVEGFと混合した精製抗体を添加した後、室温で1時間反応させた。0.05%TWEEN(登録商標)20を含むTBS(TBS:50mM Tris-HCl(pH7.4)、500mM NaCl;以下「TBS-T」と称する)で3回洗浄した。その後、ウサギ抗ヒトVEGFポリクローナル抗体-HRPを用いた発色を通して、rhVEGF含量を決定した。
その結果、KLHa505抗体は、VEGFのVEGFR-1及びVEGFR-2との結合において競合阻害することが示され、KLHb1501抗体は、VEGFのVEGFR-2との結合において競合阻害することが示された(図1)。
すなわち、本実施例において、本発明の抗体であるKLHa505及びKLHb1501が、VEGFに関連するシグナル伝達を遮断できることが示された。
【実施例3】
【0078】
KLHa505及びKLHb1501のrhVEGFとの解離定数の測定
BIAcore-3000を使用して、KLHa505及びKLHb1501のVEGFとのKdを決定した。CM5チップ上にrhVEGFを固相化し、HBS-EP緩衝液で2回段階希釈したのち、各々の抗体を30μL/分の流速で注入した。KdはKoff/Konである。
その結果、KLHa505のrhVEGFとの解離定数は4.23pmol/Lであり、KLHb1501のrhVEGFとの解離定数は0.60pmol/Lであることが示された。
既存抗体の解離定数(例えば、アバスチン(ベバシズマブ)の解離定数は47.9nmol/L)と比較した場合、本発明の抗体の解離定数は、ともに1/1000以下であることから、当該抗体のVEGFとの結合活性は非常に強力である。
すなわち、本実施例において、VEGFに対し極めて高い親和性を有する抗体(高親和性抗VEGF抗体)を得ることができた。
【実施例4】
【0079】
モノクローナル抗体KLHa505及びKLHb1501のHUVEC増殖阻害効果の検討
KLHa505及びKLH1501が、正常ヒト臍帯静脈由来内皮細胞(以下「HUVEC」と称する)に対するVEGFの活性を阻害するか検討した。試験に用いたHUVECは、継代回数が8回を超えない範囲で使用した。1%ウシ胎児血清を含むMedium 200を用いて、96ウェル細胞培養用プレートに10000個ずつ細胞を播種し、終濃度50ng/mLのrhVEGF及び終濃度2500ng/mLのKLHa505又はKLHb1501を添加し、24時間培養した後、細胞数を計測した。
その結果、陽性対照(VEGF及びアイソタイプコントロール抗体(図2中「Control IgG」))と比較して、KLHa505又はKLHb1501を含む細胞では、著しく細胞数が減少することが示された(図2)。
したがって、本実施例により、本発明の高親和性抗体は、VEGFによる血管由来細胞の細胞増殖活性を阻害し、血管新生を抑制できることが示された。
【実施例5】
【0080】
モノクローナル抗体KLHa505及びKLHb1501のin vivoにおける細胞増殖阻害効果の検討
実験の2週間前に、液体窒素中に凍結保存したヒト結腸腺癌LS174T細胞の1つの系統(約1X107細胞)を、37℃温浴中で融解した。次いで、あらかじめ37℃に加温した10%ウシ胎児血清を含むMcCoy's 5A培地を添加した100mm細胞用ディッシュに、融解した細胞懸濁液を添加し、細胞が80%コンフルエンシーになるまで増殖させた。その後、1:5で細胞を継代培養し、連続して3回継代培養した。全細胞が接種に必要とされる細胞数に達したとき、0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて、細胞をディッシュから剥離し、PBSを用いて細胞を洗浄した。そして、洗浄した細胞に50%MatriGel(登録商標)を含む生理食塩水を加えて、2X107/mLに調製し、Balb/Cヌードマウスの腹部皮下に、1匹あたり100μL、すなわち2X106細胞/マウスで接種した。
細胞接種後、翌日からKLHa505及びKLHb1501の投与を開始した。抗体の投与量は、群あたり5匹のマウスに投与し、(i) モデル対照群(生理食塩水のみ)、(ii) 5mg/kgKLHa505群、(iii) 2.5mg/kgKLHa505群及び(iv) 0.5mg/kgKLHa505群を作製した。また、KLHb1501に関しても、同様の投与群を作製した。
投与方法については、生理食塩水に溶解したKLHa505又はKLHb1501を、マウスあたり200μLの容量で、各週の2日及び5日に1回、腹腔内注射により投与し、モデル対照群には、200μLの生理食塩水を、同時かつ同じ方法により投与した。
投与期間は、KLHa505に関しては18日間、KLHb1501に関しては22日間継続した。抗体投与時において、ヌードマウスの腫瘍小結節の最大直径a及び最小直径bを測定し、式V=0.5XaXb2に従って腫瘍体積を計算した。
その結果、KLHa505及びKLHb1501はin vivoにおいて腫瘍増殖を顕著に阻害する能力を有することが示された(図3及び図4)。
すなわち、本実施例により、本発明の高親和性抗体は癌の治療又は予防に有効であることが示された。
【実施例6】
【0081】
モノクローナル抗体の可変領域における塩基配列及びアミノ酸配列の決定
KLHa505及びKLHb1501を産生するハイブリドーマからmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて各々cDNAを調製した。これらcDNAを鋳型として用いて、PCR法によりマウスIgG抗体の重鎖及び軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を増幅し、ヌクレオチド配列を解析することで、軽鎖及び重鎖可変領域に含まれる相補性決定領域のアミノ酸配列を決定した。
さらに、KLHa505及びKLHb1501の可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を、IMGT/V-QUESTソフトウェア、バージョン3.3.0を用いて、「the international ImMunoGeneTics information system (登録商標)」(IMGT/GENE-DB)の免疫グロブリンデータベース上で決定した。
その結果を下記の表1及び2にそれぞれ示す。
【表1】

【表2】

【実施例7】
【0082】
ヒト-IgG1キメラKLHa505抗体(KLHa505HC抗体)の作製
KLHa505抗体を産生するハイブリドーマから、KLHa505抗体の重鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号33、アミノ酸配列: 配列番号34)及び軽鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号35、アミノ酸配列: 配列番号36)をクローニングした。次に、これらの遺伝子をそれぞれヒトIgG1の重鎖定常領域遺伝子、あるいは軽鎖(κ鎖)定常領域遺伝子の塩基配列にインフレームで連結した。重鎖可変領域の5’末端塩基配列とコザック配列と制限酵素MluI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素NheI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。次に、軽鎖可変領域遺伝子の5’末端塩基配列と制限酵素BamHI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素BsiWI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。得られた増幅産物を制限酵素MluI及びNheI、又はBamHI及びBsiWIで処理し、ヒトIgG1重鎖定常領域発現プラスミド(pEF6/G1)のMluI-NheIサイト、あるいはヒトIgの軽鎖(κ鎖)定常領域発現プラスミド(pEF1/G1k)のBamHI-BsiWIサイトに組み込んだ。pEF6/G1は、プラスミドpEF6/myc-His(インビトロジェン社)にヒトIgG1の重鎖定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号41、アミノ酸配列: 配列番号42)が、またpEF1/G1-kには、プラスミドpEF1/myc-His(インビトロジェン社)にヒトIgの軽鎖(κ鎖)定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号43、アミノ酸配列: 配列番号44)がクローニングされている。制限酵素NheIによりマウス重鎖可変領域とヒト重鎖定常領域が連結され、制限酵素BsiWI配列によりマウス軽鎖可変領域とヒト軽鎖定常領域が連結された。
【0083】
FreeStyleTM 293 Expression System(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、プラスミドpEF6/G1-KLHa505及びpEF1/G1-K-KLHa505を293F細胞へ導入し、一過性にヒトIgG1キメラKLHa505抗体(以下「KLHa505HC抗体」とも称する)を発現させた。次に、このキメラ遺伝子を導入した293F細胞の培養上清からProtein G Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いてKLHa505HC抗体を精製した。アミコンウルトラ-15遠心式フィルターユニット(メルクミリポア社)を用いて溶媒をD-PBS(-)に置換した。精製したKLHa505HC抗体の濃度はNano drop 1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて定量した。KLHa505HC抗体のVEGFに対する結合を、上記「モノクローナル抗体の精製(4)ELISA」記載の方法により評価した結果、KLHa505HC抗体がVEGFに特異的に結合することが確認された。
すなわち、本実施例において、本発明の高親和性抗VEGF抗体のキメラ抗体を得ることができた。
【実施例8】
【0084】
ヒト-IgG1キメラKLHb1501抗体(KLHb1501HC抗体)の作製
KLHb1501抗体を産出するハイブリドーマから、KLHb1501抗体の重鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号37、アミノ酸配列: 配列番号38)及び軽鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号39、アミノ酸配列: 配列番号40)をクローニングした。次に、これらの遺伝子をそれぞれヒトIgG1の重鎖定常領域遺伝子、あるいは軽鎖(λ鎖)定常領域遺伝子の塩基配列にインフレームで連結した。重鎖可変領域の5’末端塩基配列とコザック配列と制限酵素XhoI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素NheI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。次に、軽鎖可変領域遺伝子の5’末端塩基配列と制限酵素EcoRI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素AvrII配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。得られた増幅産物を制限酵素XhoI及びNheI、又はEcoRI及びAvrIIで処理し、ヒトIgG1重鎖定常領域発現プラスミド(pFUSE-CHIg-hG1; インビボジェン社)のXhoI-NheIサイト、あるいはヒトIgの軽鎖(λ鎖)定常領域発現プラスミド(pFUSE2ss-CLIg-hl2; インビボジェン社)のEcoRI-AvrIIサイトに組み込んだ。pFUSE-CHIg-hG1は、ヒトIgG1の重鎖定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号41、アミノ酸配列: 配列番号42)が、またpFUSE2ss-CLIg-hl2には、ヒトIgの軽鎖(λ鎖)定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号43、アミノ酸配列: 配列番号44)がクローニングされている。制限酵素NheIによりマウス重鎖可変領域とヒト重鎖定常領域が連結され、制限酵素AvrII配列によりマウス軽鎖可変領域とヒト軽鎖定常領域が連結された。
【実施例9】
【0085】
in vivoにおけるヒトIgG1キメラKLHb1501抗体(KLHb1501HC抗体)の腫瘍増殖阻害効果
ヒト大腸癌細胞株LS174T細胞を、20匹の免疫不全マウスに、マウスあたり2x106細胞の割合で、右側腹部に皮下注射した。注射翌日に、0.9%NaCl(対照群A)又はKLHb1501HC抗体(対照群B)のいずれかを腹腔内に投与した。対照群Bのマウスには、KLHb1501HC抗体を、0.5 mg/Kg、2.5 mg/Kg、あるいは5 mg/Kgにて、週2回投与した。また、抗体と同様に、対照群Aのマウスには、0.9%NaClを週に2回投与した。細胞接種後、1、5、8、12、15、19及び22日目に、腫瘍径を測定し、腫瘍量(Tumor Volume)を、式:V(mm3) = (d: 短径)2 x (D: 長径)/2を用いて算出した。結果を図5に示す。図5においては、A群(0.9%NaCl対照)を(◇)で示し、B群(抗VEGF抗体を接種したマウス)を、(□:0.5 mg/Kg)、(△:2.5 mg/Kg)、(○:5.0 mg/Kg)のいずれかで示した。図5に示されるように、腫瘍量の著しい減少が、KLHb1501HC抗体を接種したマウスで観察された。これらの結果から、本発明のKLHb1501HC抗体は、in vivoにおいても腫瘍の増殖を阻害(抑制)することが示された。このことから、本発明のヒトIgG1キメラ抗VEGF抗体を含む医薬組成物は癌の治療又は予防に非常に有効であることが示された。
【実施例10】
【0086】
イヌ-IgGBキメラKLHa505抗体(KLHa505CC抗体)の作製
KLHa505抗体を産生するハイブリドーマから、KLHa505抗体の重鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号33、アミノ酸配列: 配列番号34)及び軽鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号35、アミノ酸配列: 配列番号36)をクローニングした。次に、これらの遺伝子をそれぞれイヌIgGBの重鎖定常領域遺伝子、あるいは軽鎖(κ鎖)定常領域遺伝子の塩基配列にインフレームで連結した。重鎖可変領域の5’末端塩基配列とコザック配列と制限酵素EcoRV配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素NheI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。次に、軽鎖可変領域遺伝子の5’末端塩基配列と制限酵素EcoRI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素XhoI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。得られた増幅産物を制限酵素EcoVびNheI、又はEcoRI及びXhoIで処理し、イヌIgGB重鎖定常領域発現プラスミド(pFUSE2ss-CHIg-dGB)のEcoRV-NheIサイト、あるいはイヌIg軽鎖定常領域発現プラスミド(pFUSE2ss-CHIg-dK)のEcoRI-XhoIサイトに組み込んだ。pFUSE2ss-CHIg-dGBは、プラスミドpFUSE2ss-CLIg-hl2(インビボジェン社)にイヌIgGBの重鎖定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号45、アミノ酸配列: 配列番号46)が、またpFUSE2ss-CHIg-dKには、プラスミドpFUSE2ss-CLIg-hl2にイヌIgの軽鎖(κ鎖)定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号47、アミノ酸配列: 配列番号48)がクローニングされている。制限酵素NheIによりマウス重鎖可変領域とイヌ重鎖定常領域が連結され、制限酵素XhoI配列によりマウス軽鎖可変領域とイヌ軽鎖定常領域が連結された。
【実施例11】
【0087】
イヌ-IgGBキメラKLHb1501抗体(KLHb1501CC抗体)の作製
KLHb1501抗体を産生するハイブリドーマから、KLHb1501抗体の重鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号37、アミノ酸配列: 配列番号38)及び軽鎖可変領域遺伝子(塩基配列: 配列番号39、アミノ酸配列: 配列番号40)をクローニングした。次に、これらの遺伝子をそれぞれイヌIgGBの重鎖定常領域遺伝子、あるいは軽鎖(λ鎖)定常領域遺伝子の塩基配列にインフレームで連結した。重鎖可変領域の5’末端塩基配列とコザック配列と制限酵素EcoRV配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素NheI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。次に、軽鎖可変領域遺伝子の5’末端塩基配列と制限酵素EcoRI配列を有するプライマー、及び3’末端塩基配列の相補配列と制限酵素ScaI配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを実施した。得られた増幅産物を制限酵素EcoVびNheI、又はEcoRI及びScaIで処理し、イヌIgGB重鎖定常領域発現プラスミド(pFUSE2ss-CHIg-dGB)のEcoRV-NheIサイト、あるいはイヌIg軽鎖定常領域発現プラスミド(pFUSE2ss-CHIg-dK)のEcoRI-ScaIサイトに組み込んだ。pFUSE2ss-CHIg-dGBは、プラスミドpFUSE2ss-CLIg-hl2(インビボジェン社)にイヌIgGBの重鎖定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号45、アミノ酸配列: 配列番号46)が、またpFUSE2ss-CHIg-dKには、プラスミドpFUSE2ss-CLIg-hl2にイヌIgの軽鎖(λ鎖)定常領域遺伝子(塩基配列: 配列番号49、アミノ酸配列: 配列番号50)がクローニングされている。制限酵素NheIによりマウス重鎖可変領域とイヌ重鎖定常領域が連結され、制限酵素ScaI配列によりマウス軽鎖可変領域とイヌ軽鎖定常領域が連結された。
【実施例12】
【0088】
イヌ-IgGBキメラKLHb1501抗体(KLHb1501CC抗体)とヒトVEGF165及びイヌVEGFAへの交差性
作製したイヌ-IgGBキメラ抗体が、ヒトVEGF165及びイヌVEGFA(VEGF164)への結合能を有しているか、ELISAで確認した。ヒトVEGF165もしくはイヌVEGFAをTBSで希釈し、96ウェルのELISAプレート(Nunc社)に1ウェル当たり20 ngとなるよう分注して、37℃で1時間インキュベートすることでプレート表面に結合させた。次に、0.02%Tween 20を含むPBS(-)(以下、「PBS-T」と記載する)300μLで3回洗浄した後、3%スキムミルクを含むPBS(-)を300μLずつ各ウェルに分注し、37℃で1時間、ブロッキングした。PBS-Tで洗浄後、1μg/mlの濃度から段階希釈したイヌ-IgGBキメラKLHb1501抗体(KLHb1501CC抗体)をVEGFが固相化されたELISAプレートに分注し、37℃で1時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、100 ng/mlに調製したペルオキシダーゼ標識抗イヌ免疫グロブリン抗体(BETHYL社製)を各ウェル100μL分注し、37℃で1時間反応させた。同様の洗浄を行った後、TMB Single Solutionを加え、室温で発色させた。1Nの硫酸で反応を停止した後、450nmの吸収をプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)を用いて測定した。結果を図6に示す。KLHb1501CC抗体は、イヌVEGFAに対してヒトVEGF165と同程度の親和性で結合することが示された。
このことから、本発明のイヌIgGBキメラ抗VEGF抗体を含む医薬組成物は、イヌにおける疾患の治療又は予防に用いることができることが示された。
【実施例13】
【0089】
in vivoにおけるイヌIgGBキメラKLHb1501抗体(KLHb1501CC抗体)のヒト癌細胞株に対する腫瘍増殖阻害効果
ヒト大腸癌細胞株LS174T細胞を、20匹の免疫不全マウスに、マウスあたり2 x 106細胞の割合で、右側腹部に皮下注射した。注射翌日に、0.9% NaCl(対照群A)又はKLHb1501CC抗体(対照群B)のいずれかを腹腔内に投与した。対照群Bのマウスには、KLHb1501CC抗体を、0.5 mg/Kg、2.5 mg/Kg、あるいは5 mg/Kgにて、週2回投与した。また、抗体と同様に、対照群Aのマウスには、0.9%NaClを週に2回投与した。細胞接種後、5、8、12、15、19及び22日目に、腫瘍径を測定し、腫瘍量(Tumor Volume)を、式:V(mm3) = (d: 短径)2 x (D: 長径)/2を用いて算出した。結果を図7に示す。図7においては、A群(0.9%NaCl対照)を(■)で示し、B群(抗VEGF抗体を接種したマウス)を、(●:0.5 mg/Kg)、(▲:2.5 mg/Kg)、(△:5.0 mg/Kg)のいずれかで示した。図7に示されるように、腫瘍量の著しい減少が、KLHb1501CC抗体を接種したマウスで観察された。
これらの結果から、本発明のKLHb1501CC抗体は、in vivoにおいてもヒトの腫瘍の増殖を阻害(抑制)することが示された。また、このことから、本発明のイヌIgGBキメラ抗VEGF抗体を含む医薬組成物は、癌の治療又は予防に非常に有効であることが示された。
【実施例14】
【0090】
in vivoにおけるイヌIgGBキメラKLHb1501抗体(KLHb1501CC抗体)のイヌ癌細胞株に対する腫瘍増殖阻害効果
イヌ骨肉腫細胞株D-17細胞を、20匹の免疫不全マウスに、マウスあたり1 x 107細胞の割合で、右側腹部に皮下注射した。平均腫瘍量が150 mm3に達してから、0.9%NaCl(対照群A)又はKLHb1501CC抗体(対照群B)のいずれかを腹腔内に投与した。対照群Bのマウスには、KLHb1501CC抗体を、0.5 mg/Kg、2.5 mg/Kg、あるいは5 mg/Kgにて、週2回投与した。また、抗体と同様に、対照群Aのマウスには、0.9% NaClを週に2回投与した。細胞接種後、50、54、57、61、64、67、70、74、77及び81日目に、腫瘍径を測定し、腫瘍量(Tumor Volume)を、式:V(mm3) = (d: 短径)2 x (D: 長径)/2を用いて算出した。結果を図8に示す。図8においては、A群(0.9% NaCl対照)を(■)で示し、B群(抗VEGF抗体を接種したマウス)を、(●:0.5 mg/Kg)、(▲:2.5 mg/Kg)、(△:5.0 mg/Kg)のいずれかで示した。図8に示されるように、腫瘍量の著しい減少が、KLHb1501CC抗体を接種したマウスで観察された。
これらの結果から、本発明のKLHb1501CC抗体は、in vivoにおいてもイヌの腫瘍の増殖を阻害(抑制)することが示された。また、このことから、本発明のイヌIgGBキメラ抗VEGF抗体を含む医薬組成物は、イヌの癌の治療又は予防に非常に有効であることが示された。
【実施例15】
【0091】
本発明の抗体の抗原結合部位に関する検討
VEGFにおける本発明の抗体との結合部位を調べるため、下記の通り、ELISA法に基づく結合実験を行った。
本実施例において、抗VEGF抗体としては、実施例7および8で得られたKLHa505HC及びKLHb1501HCを含む3つの抗VEGF抗体を用いた。
また、VEGFとしては、(i) VEGFのC末端領域であるエクソン8aを含むVEGF165、(ii)ヘパリン結合領域を欠いたVEGF121、(iii) VEGF165のC末端領域とは異なるアミノ酸配列(エクソン8b)を有するVEGF165b、の3つタイプのVEGFを用いた。
結合実験は、具体的には下記のように実施した。
ヒトVEGF165 (エクソン1、2、3、4、5、7と8aからなる)ヒトVEGF165b (エクソン1、2、3、4、5、7と8bからなる)もしくはヒトVEGF121(エクソン1、2、3、4、5と8aからなる)をTBSで希釈し、96ウェルのELISAプレート(Nunc社)に1ウェル当たり20 ngとなるよう分注して、37℃で1時間インキュベートすることでプレート表面に結合させた。次に、0.02%Tween 20を含むPBS(-)(以下、「PBS-T」と記載する)300μLで3回洗浄した後、3%スキムミルクを含むPBS(-)を300μLずつ各ウェルに分注し、37℃で1時間、ブロッキングした。PBS-Tで洗浄後、1 ug/mlの濃度から段階希釈したKLHa505HC抗体もしくはKLHb1501HC抗体をVEGFが固相化されたELISAプレートに分注し、37℃で1時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、100 ng/mlに調製したペルオキシダーゼ標識抗ヒト免疫グロブリン抗体(BETHYL社製)を各ウェル100μL分注し、37℃で1時間反応させた。同様の洗浄を行った後、TMB Single Solutionを加え、室温で発色させた。1Nの硫酸で反応を停止した後、450nmの吸収をプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)を用いて測定した。
その結果、本発明の抗VEGF抗体であるKLHa505HC及びKLHb1501HCを含む3つの抗VEGF抗体のいずれもが、上記VEGF165、VEGF121及びVEGF165bの全てに結合した(図9図10)。
この結果は、本発明の抗体が、VEGFのエクソン1~5の領域に結合することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、従来技術と比較して顕著に高い親和性でVEGFに結合する新規抗体を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成ペプチド
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成ペプチド
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成ペプチド
配列番号19:合成DNA
配列番号20:合成ペプチド
配列番号21:合成DNA
配列番号22:合成ペプチド
配列番号23:合成DNA
配列番号24:合成ペプチド
配列番号25:合成DNA
配列番号26:合成ペプチド
配列番号27:合成DNA
配列番号28:合成ペプチド
配列番号29:合成DNA
配列番号30:合成ペプチド
配列番号31:合成DNA
配列番号32:合成ペプチド
配列番号33:合成DNA
配列番号34:合成ペプチド
配列番号35:合成DNA
配列番号36:合成ペプチド
配列番号37:合成DNA
配列番号38:合成ペプチド
配列番号39:合成DNA
配列番号40:合成ペプチド
配列番号41:合成DNA
配列番号42:合成ペプチド
配列番号43:合成DNA
配列番号44:合成ペプチド
配列番号45:合成DNA
配列番号46:合成ペプチド
配列番号47:合成DNA
配列番号48:合成ペプチド
配列番号49:合成DNA
配列番号50~54:合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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