(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】サージング抑制装置、排気タービン式の過給機およびサージング抑制方法
(51)【国際特許分類】
F02B 37/00 20060101AFI20230502BHJP
F02B 37/10 20060101ALI20230502BHJP
F02M 26/07 20160101ALI20230502BHJP
【FI】
F02B37/00 301F
F02B37/10 A
F02M26/07 301
(21)【出願番号】P 2021505454
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010555
(87)【国際公開番号】W WO2020183703
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 豊
(72)【発明者】
【氏名】岡 信仁
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 誠
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-158936(JP,U)
【文献】特開2013-053547(JP,A)
【文献】特開2009-052488(JP,A)
【文献】特開平09-032562(JP,A)
【文献】特開2018-168823(JP,A)
【文献】特開2015-086810(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154106(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/165772(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0222874(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第19747394(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013220036(DE,A1)
【文献】特開2006-266216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 37/10
F02M 26/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気タービン式の過給機におけるサージングを抑制するためのサージング抑制装置であって、
大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された高圧タンクと、
前記過給機のコンプレッサより上流側の上流側吸気通路と前記高圧タンクとを結ぶ高圧気体導入ラインと、
前記高圧気体導入ラインを開閉可能に構成された開閉バルブと、
前記過給機の前記コンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、前記開閉バルブを制御するように構成された制御装置と、
前記圧力比と前記吸気流量との関係性から規定される前記コンプレッサの運転点に関する情報を取得可能な少なくとも一つのセンサを含む運転点取得装置と、を備え
、
前記制御装置は、
前記運転点取得装置で取得された前記運転点に関する情報から前記運転点を取得するように構成された運転点取得部と、
前記運転点取得部で取得した前記運転点が、サージングが発生する危険がある運転領域である低流量運転領域に位置するか否かを判定する判定部と、
前記判定部が、前記運転点が前記低流量運転領域内に位置していると判定したときに、前記開閉バルブを開くように指示する開閉指示部と、を含む、
サージング抑制装置。
【請求項2】
前記過給機のタービンより上流側の上流側排気通路と前記タービンより下流側の下流側排気通路とを繋ぐ迂回通路における、前記迂回通路に設けられるウエイストゲートバルブより下流側の下流側迂回通路と、前記高圧タンクとを結ぶ排ガス取込ラインをさらに備える
請求項1に記載のサージング抑制装置。
【請求項3】
前記過給機のタービンより下流側の下流側排気通路と前記上流側吸気通路とを繋ぐEGRガス通路と、前記高圧タンクとを結ぶEGRガス取込ラインをさらに備える
請求項1又は2に記載のサージング抑制装置。
【請求項4】
エンジンから排出されたブローバイガスを前記高圧タンクに送るように構成されたブローバイガス取込ラインをさらに備える
請求項1乃至3の何れか1項に記載のサージング抑制装置。
【請求項5】
前記コンプレッサより下流側の下流側吸気通路と前記高圧タンクとを結ぶ燃焼用気体取込ラインをさらに備える
請求項1乃至4の何れか1項に記載のサージング抑制装置。
【請求項6】
前記高圧タンクに前記高圧気体を圧送するように構成された電動コンプレッサをさらに備える
請求項1乃至5の何れか1項に記載のサージング抑制装置。
【請求項7】
前記高圧気体導入ラインは、前記高圧気体導入ラインを流れる前記高圧気体と、前記上流側吸気通路を流れる燃焼用気体と、の合流点において、前記高圧気体を前記コンプレッサの軸方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かうように前記上流側吸気通路に導入するように構成された少なくとも一つの導入口を含む
請求項1乃至6の何れか1項に記載のサージング抑制装置。
【請求項8】
前記高圧気体導入ラインは、前記高圧気体導入ラインを流れる前記高圧気体と、前記上流側吸気通路を流れる燃焼用気体と、の合流点において、前記高圧気体を前記コンプレッサの回転方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かうように前記上流側吸気通路に導入するように構成された少なくとも一つの導入口を含む
請求項1乃至7の何れか1項に記載のサージング抑制装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載のサージング抑制装置を備える排気タービン式の過給機。
【請求項10】
排気タービン式の過給機におけるサージングを抑制するサージング抑制装置を用いたサージング抑制方法であって、
前記サージング抑制装置は、
大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された高圧タンクと、
コンプレッサより上流側の上流側吸気通路と前記高圧タンクとを結ぶ高圧気体導入ラインと、
前記高圧気体導入ラインを開閉可能に構成された開閉バルブと、
前記コンプレッサの圧力比と吸気流量との関係性から規定される前記コンプレッサの運転点に関する情報を取得可能な少なくとも一つのセンサを含む運転点取得装置と、を備え、
前記サージング抑制方法は、
前記高圧タンクに前記高圧気体を蓄圧する
蓄圧ステップと、
前記運転点取得装置で取得された前記運転点に関する情報から前記運転点を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにて取得した前記運転点が、サージングが発生する危険がある運転領域である低流量運転領域に位置するか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記運転点が前記低流量運転領域内に位置していると判定されたときに、前記開閉バルブを開くように指示する指示ステップと、を備える
サージング抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気タービン式の過給機におけるサージングを抑制するためのサージング抑制装置、該サージング抑制装置を備える排気タービン式の過給機および該サージング抑制装置を用いたサージング抑制方法に関する。
【0002】
自動車などに用いられるエンジンには、エンジンの出力を向上させるために排気タービン式の過給機が搭載されることがある。排気タービン式の過給機は、エンジンからの排ガスによりタービンを回転させることで、回転シャフトを介してタービンに連結されたコンプレッサ(遠心圧縮機)を回転させ、回転駆動するコンプレッサにより燃焼用気体を圧縮してエンジンに供給するようになっている。
【0003】
特許文献1には、コンプレッサと吸気スロットル弁とを繋ぐインレットパイプに接続され、インレットパイプと連通する取入口と、コンプレッサに蓄積過給圧を噴射する噴射口と、を有する圧力タンクと、取入口および噴射口の夫々に設けられる制御弁と、制御弁の開閉を制御する制御装置と、を備える補助過給圧供給装置が開示されている。補助過給圧供給装置は、急加速時におけるコンプレッサの立ち上りの遅れを防止するために、圧力タンク内に蓄積された蓄積過給圧をコンプレッサに噴射するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンプレッサには広い作動範囲が求められるが、コンプレッサの流量が減少するとサージングという不安定現象が発生して流量範囲が制限されることが知られている。この点、特許文献1には、低流量時におけるサージングを抑制するための知見については何ら開示されていない。
【0006】
また、従来、コンプレッサの下流側から抜き出した燃焼用気体を、コンプレッサの下流側と上流側とを繋ぐ再循環流路を経由して、即座にコンプレッサの上流側に送ることが行われている。この場合には、コンプレッサの上流側に送られる燃焼用気体の量は、コンプレッサの運転状態の影響を受けるので、コンプレッサの運転状態如何によって低流量時におけるサージングを抑制することができない虞がある。
【0007】
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、サージングの発生を安定的に抑制することができ、コンプレッサの低流量域における作動範囲を広げることができるサージング抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態にかかるサージング抑制装置は、
排気タービン式の過給機におけるサージングを抑制するためのサージング抑制装置であって、
大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された高圧タンクと、
上記過給機のコンプレッサより上流側の上流側吸気通路と上記高圧タンクとを結ぶ高圧気体導入ラインと、
上記高圧気体導入ラインを開閉可能に構成された開閉バルブと、
上記過給機の上記コンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、上記開閉バルブを制御するように構成された制御装置と、を備える。
【0009】
上記(1)の構成によれば、制御装置は、過給機のコンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、開閉バルブを制御するように構成されているので、上記関係性におけるサージングが発生する可能性の高い運転領域において、開閉バルブに対して開くように指示することができる。高圧気体導入ラインを開閉する開閉バルブを開くと、高圧タンクに蓄圧された高圧気体は、上流側吸気通路を流れる燃焼用気体よりも高圧であるため、高圧タンクに蓄圧された高圧気体が高圧気体導入ラインを通り、上流側吸気通路に流入する。ここで、低流量時には、過給機のケーシングのシュラウド部(ケーシングのうちインペラ翼の先端に対向する部分)近傍は、流れがシュラウド部から剥離して負圧領域が形成される。上流側吸気通路に流入した高圧気体は、上記負圧領域に流れを誘起され、負圧領域に向かって軸方向における下流側に流れるので、上流側吸気通路における導入口より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることができる。サージング抑制装置により、コンプレッサの入口近傍の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることで、流れのインペラ翼やシュラウド部からの剥離を防止することができるので、サージングの発生を抑制することができる。よって、サージング抑制装置により、コンプレッサの低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0010】
また、上記(1)の構成によれば、サージング抑制装置は、高圧気体を高圧タンクに蓄圧しておけるので、エンジンや過給機の運転状態に左右されずに、意図したタイミングで高圧気体を上流側吸気通路に流すことができる。また、サージング抑制装置は、制御装置が開閉バルブの開閉を制御することで、必要量の高圧気体を上流側吸気通路に流すことができる。よって、上記の構成によれば、サージング抑制装置は、高圧タンクを設けない場合に比べて、サージングの発生を安定的に抑制することができ、且つ、制御装置による開閉バルブの開閉制御の複雑化を防止することができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のサージング抑制装置は、上記過給機のタービンより上流側の上流側排気通路と上記タービンより下流側の下流側排気通路とを繋ぐ迂回通路における、上記迂回通路に設けられるウエイストゲートバルブより下流側の下流側迂回通路と、上記高圧タンクとを結ぶ排ガス取込ラインをさらに備える。
【0012】
上記(2)の構成によれば、サージング抑制装置は、排ガス取込ラインを介して、下流側迂回通路から高圧タンクに、排ガスを取り込むことができる。このため、サージング抑制装置は、本来、外部に排出されるはずの排ガスを有効活用することができ、上記排ガスからエネルギを回収することができる。ここで、上流側排気通路と下流側排気通路とを繋ぐ迂回通路を流れる排ガスは、タービンを経由して下流側排気通路を流れる排ガスよりも、タービンによりエネルギが回収されていない分だけ高圧である。したがって、サージング抑制装置は、迂回通路を流れる排ガスを上流側吸気通路に導入することで、コンプレッサの入口近傍の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることができる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載のサージング抑制装置は、上記過給機のタービンより下流側の下流側排気通路と上記上流側吸気通路とを繋ぐEGRガス通路と、上記高圧タンクとを結ぶEGRガス取込ラインをさらに備える。
【0014】
上記(3)の構成によれば、サージング抑制装置は、EGRガス取込ラインを介して、EGRガス通路から高圧タンクに、EGRガスを取り込むことができる。このため、EGRガスを有効活用することができる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)~(3)の何れかに記載のサージング抑制装置は、エンジンから排出されたブローバイガスを上記高圧タンクに送るように構成されたブローバイガス取込ラインをさらに備える。
【0016】
上記(4)の構成によれば、サージング抑制装置は、ブローバイガス取込ラインを介して、エンジンから排出されたブローバイガスを高圧タンクに取り込むことができる。このため、サージング抑制装置は、本来、外部に排出されるはずのブローバイガスを有効活用することができ、上記ブローバイガスからエネルギを回収することができる。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)~(4)の何れかに記載のサージング抑制装置は、上記コンプレッサより下流側の下流側吸気通路と上記高圧タンクとを結ぶ燃焼用気体取込ラインをさらに備える。
【0018】
上記(5)の構成によれば、サージング抑制装置は、下流側吸気通路から高圧タンクに、コンプレッサにおいて圧縮された燃焼用気体を取り込むことができる。例えば自動車のブレーキの作動時などの、コンプレッサによる圧縮が必要ない場合に、圧縮された燃焼用気体を高圧タンクに送ることで、圧縮された燃焼用気体を有効活用することができる。
【0019】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)~(5)の何れかに記載のサージング抑制装置は、上記高圧タンクに上記高圧気体を圧送するように構成された電動コンプレッサをさらに備える。
【0020】
上記(6)の構成によれば、電動コンプレッサにより高圧気体を高圧タンクに圧送することができる。この場合には、高圧タンクに高圧気体をより確実に蓄圧することができるので、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)~(6)の何れかに記載のサージング抑制装置であって、上記高圧気体導入ラインは、上記高圧気体導入ラインを流れる上記高圧気体と、上記上流側吸気通路を流れる燃焼用気体と、の合流点において、上記高圧気体を上記コンプレッサの軸方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かうように上記上流側吸気通路に導入するように構成された少なくとも一つの導入口を含む。
【0022】
上記(7)の構成によれば、高圧気体は、上流側吸気通路を流れる燃焼用気体との合流点において、コンプレッサの軸方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かって流れるので、上流側吸気通路における導入口より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることができる。よって、上記の構成によれば、コンプレッサの入口近傍の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることにより、流れのインペラ翼やシュラウド部からの剥離をより確実に防止することができ、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0023】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)~(7)の何れかに記載のサージング抑制装置であって、上記高圧気体導入ラインは、上記高圧気体導入ラインを流れる上記高圧気体と、上記上流側吸気通路を流れる燃焼用気体と、の合流点において、上記高圧気体を上記コンプレッサの回転方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かうように上記上流側吸気通路に導入するように構成された少なくとも一つの導入口を含む。
【0024】
上記(8)の構成によれば、高圧気体は、上流側吸気通路を流れる燃焼用気体との合流点において、コンプレッサの回転方向における下流側へ向かう成分を有する方向に向かって旋回して流れるので、上流側吸気通路における導入口より下流側の流れにコンプレッサの回転方向における下流側へ向かう流速成分(旋回成分)を効果的に増加させることができる。よって、上記の構成によれば、コンプレッサの入口近傍の流れに旋回成分を効果的に増加させることにより、流れのインペラ翼やシュラウド部からの剥離をより確実に防止することができ、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0025】
(9)本発明の少なくとも一実施形態にかかるタービン式の過給機は、上記(1)~(8)の何れかに記載のサージング抑制装置を備える。
【0026】
上記(9)の構成によれば、タービン式の過給機は、上記サージング抑制装置を備えるので、サージングの発生を安定的に抑制することができ、ひいてはコンプレッサの低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0027】
(10)本発明の少なくとも一実施形態にかかるサージング抑制方法は、
排気タービン式の過給機におけるサージングを抑制するサージング抑制装置を用いたサージング抑制方法であって、
上記サージング抑制装置は、
大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された高圧タンクと、
コンプレッサより上流側の上流側吸気通路と上記高圧タンクとを結ぶ高圧気体導入ラインと、
上記高圧気体導入ラインを開閉可能に構成された開閉バルブと、を備え、
上記サージング抑制方法は、
上記高圧タンクに上記高圧気体を蓄圧するステップと、
上記過給機の上記コンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、上記開閉バルブを制御するステップと、を備える。
【0028】
上記(10)の方法によれば、サージング抑制方法は、コンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、開閉バルブを制御するステップを備えるので、上記関係性におけるサージングが発生する可能性の高い運転領域において、開閉バルブに対して開くように指示することができる。高圧気体導入ラインを開閉する開閉バルブを開くと、高圧タンクに蓄圧された高圧気体が上流側吸気通路に流入し、シュラウド部近傍に形成された負圧領域に流れを誘起され、負圧領域に向かって軸方向における下流側に流れるので、上流側吸気通路における導入口より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることができる。上記開閉バルブを制御するステップにより、コンプレッサの入口近傍の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることで、流れのインペラ翼やシュラウド部からの剥離を防止することができるので、サージングの発生を抑制することができる。よって、サージング抑制方法により、コンプレッサの低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0029】
また、上記(10)の方法によれば、サージング抑制方法は、高圧タンクに高圧気体を蓄圧するステップを備えるので、エンジンや過給機の運転状態に左右されずに、意図したタイミングで高圧気体を上流側吸気通路に流すことができる。また、開閉バルブの開閉を制御することで、必要量の高圧気体を上流側吸気通路に流すことができる。よって、上記の方法によれば、高圧タンクを設けない場合に比べて、サージングの発生を安定的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、サージングの発生を安定的に抑制することができ、コンプレッサの低流量域における作動範囲を広げることができるサージング抑制装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図2】コンプレッサにおける圧力比と吸気流量との関係性を説明するためのグラフである。
【
図3】一実施形態における制御装置のブロック図である。
【
図4】一実施形態におけるコンプレッサの軸線に沿った概略断面図である。
【
図5】他の一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図6】他の一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図7】一実施形態にかかるサージング抑制方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0033】
図1は、一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
図1に示されるように、幾つかの実施形態にかかるサージング抑制装置4は、排気タービン式の過給機1におけるサージングの発生を抑制するための装置であり、過給機1に搭載される。
【0034】
過給機1は、
図1に示されるように、過給機本体3(ターボチャージャ)と、上記サージング抑制装置4と、エンジン11に供給される燃焼用気体が流れる吸気通路12と、エンジン11から排出される排ガスが流れる排気通路13と、を備える。燃焼用気体としては、新気やEGRガス、これらの混合気などが挙げられる。
【0035】
過給機本体3は、
図1に示されるように、吸気通路12に設けられるコンプレッサ31と、排気通路13に設けられるタービン32と、コンプレッサ31とタービン32を機械的に連結する回転シャフト33と、コンプレッサ31、タービン32および回転シャフト33を収容するように構成されたケーシング34と、を含む。コンプレッサ31およびタービン32は、回転シャフト33を介して一体的に回転可能に構成されている。
過給機本体3は、エンジン11から排出された排ガスによりタービン32が回転駆動し、タービン32に連動して同軸上で回転駆動するコンプレッサ31により、吸気通路12を流れる燃焼用気体を圧縮するように構成されている。
【0036】
図1に示されるように、吸気通路12におけるコンプレッサ31より上流側を上流側吸気通路12Aとし、コンプレッサ31より下流側を下流側吸気通路12Bとする。下流側吸気通路12Bは、コンプレッサ31の下流側とエンジン11の上流側とを接続している。また、
図1に示されるように、排気通路13におけるタービン32より上流側を上流側排気通路13Aとし、タービン32より下流側を下流側排気通路13Bとする。上流側排気通路13Aは、エンジン11の下流側とタービン32の上流側とを接続している。
【0037】
図1に示される実施形態では、過給機1は、上流側吸気通路12Aに燃焼用気体から塵や埃などを取り除くエアクリーナ14が設けられている。また、
図1に示される実施形態では、下流側吸気通路12Bには、コンプレッサ31により圧縮されて昇温した燃焼用気体を冷却するエアクーラ15が設けられている。
【0038】
図示される実施形態では、過給機1は、
図1に示されるように、エンジン11から排出された排ガスを、タービン32を経由させずにタービン32の上流側から下流側に送るように構成された迂回通路16と、迂回通路16に設けられるウエイストゲートバルブ17と、を備える。迂回通路16のウエイストゲートバルブ17より下流側を下流側迂回通路16Aとする。
【0039】
図1に示される実施形態では、迂回通路16は、
図1に示されるように、上流側排気通路13Aに設けられる分岐部131および下流側排気通路13Bに設けられる合流部132に接続される。ウエイストゲートバルブ17は、迂回通路16を開閉可能に構成されている。
ウエイストゲートバルブ17を開放し、タービン32に向かって流れる排ガスの一部を迂回通路16に分流させることで、タービン32に導入される排ガスの量やエネルギが低減させることができ、ひいては燃焼用気体の過給圧を低減させることができる。
【0040】
サージング抑制装置4は、
図1に示されるように、大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された高圧タンク5と、上流側吸気通路12Aと高圧タンク5とを結ぶ高圧気体導入ライン6と、高圧気体導入ライン6を開閉可能に構成された導入側開閉バルブ7と、導入側開閉バルブ7の開閉を制御するように構成された制御装置10と、を備える。
【0041】
導入側開閉バルブ7は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10から送られる信号に応じて作動する不図示のモータおよびアクチュエータを有し、制御装置10の指示に応じて開閉可能に構成されている。導入側開閉バルブ7は、開閉弁であってもよく、開度を調整可能な開度調整弁であってもよい。
図示される実施形態では、導入側開閉バルブ7は、開度調整弁であり、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度に変更可能に構成されている。この場合には、導入側開閉バルブ7は、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度にすることで、高圧気体導入ライン6の導入側開閉バルブ7より下流側を流れる高圧気体の流量を調整可能である。
【0042】
図示される実施形態では、高圧タンク5は、過給機本体3およびエンジン11の外部に位置するように構成されている。
【0043】
図示される実施形態では、高圧気体導入ライン6は、
図1に示されるように、上流側吸気通路12Aのエアクリーナ14より下流側、且つ、ケーシング34内に設けられた合流部121と、高圧タンク5とを接続している。なお、他の幾つかの実施形態では、上記合流部121は、上流側吸気通路12Aのケーシング34より上流側に設けられていてもよい。
【0044】
図2は、一実施形態にかかるコンプレッサマップを示す図である。
図2に示されるコンプレッサマップMは、横軸をコンプレッサ31の吸気流量Wとし、縦軸をコンプレッサ31の圧力比PF(入口圧力PIに対する出口圧力POの圧力比)とするマップである。コンプレッサマップMは、予め定常試験により作成されている。コンプレッサ31の運転点R1のコンプレッサマップM上の位置により、過給機本体3の作動領域や効率が判断可能となっている。
【0045】
図2には、過給機本体3の設計上のサージラインL1と、設計上のエンジン作動線L2とを示している。サージラインL1およびエンジン作動線L2は、上述したサージング抑制装置4を考慮していないものである。図示されるように、サージラインL1を境に、サージ運転領域RS(図中左側)と正常運転領域RN(図中右側)とに区画される。ここで、サージ運転領域RSは、サージングが発生する可能性が高い領域であり、正常運転領域RNは、過給機本体3が正常に作動する領域である。エンジン作動線L2は、サージラインL1との間に低流量側マージンLMを有するように設定されている。
【0046】
図2に示されるように、コンプレッサマップMにおいて、サージングが発生する可能性の高い運転領域である低流量運転領域LFを予め設定する。図示される実施形態では、低流量運転領域LFは、サージラインL1を含む領域である。また、
図2に示される実施形態では、低流量運転領域LFは、サージ運転領域RSのサージラインL1に隣接する部分、および正常運転領域RNのサージラインL1に隣接する部分の両方を含む領域である。なお、他の幾つかの実施形態では、低流量運転領域LFは、サージ運転領域RSのサージラインL1に隣接する部分、又は正常運転領域RNのサージラインL1に隣接する部分の何れか一方を含む領域であってもよい。
【0047】
図3は、一実施形態における制御装置のブロック図である。
図示される実施形態では、過給機1は、
図1に示されるように、コンプレッサ31の運転点R1に関する情報を取得するように構成された運転点取得装置18をさらに備える。
制御装置10は、
図3に示されるように、運転点取得装置18に電気的に接続され、コンプレッサ31の運転点R1に関する情報が運転点取得装置18から送られるように構成されている。制御装置10は、コンプレッサ31の運転点R1に関する情報から運転点R1を取得するように構成されている運転点取得部101を備える。
【0048】
図1に示される実施形態では、運転点取得装置18は、上流側吸気通路12Aに設けられてコンプレッサ31の入口圧力PIを検出可能な入口圧力センサ18Aと、下流側吸気通路12Bに設けられてコンプレッサ31の出口圧力POを検出可能な出口圧力センサ18Bと、上流側吸気通路12Aに設けられてコンプレッサ31に導入される吸気流量Wを検出可能な流量センサ18Cと、を含む。この場合には、運転点取得部101は、入口圧力センサ18Aが検出した入口圧力PIおよび出口圧力センサ18Bが検出した出口圧力POから圧力比PFを算出し、算出した圧力比PFおよび流量センサ18Cが検出した吸気流量Wから運転点R1を取得するようになっている。なお、制御装置10がコンプレッサ31の運転点R1を取得可能であれば、上述したセンサ類とは異なるセンサを用いてもよい。
【0049】
制御装置10は、コンプレッサ31における圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、導入側開閉バルブ7の開閉を制御するように構成されている。図示される実施形態では、制御装置10は、中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、及びI/Oインターフェイスなどからなるマイクロコンピュータとして構成されている。或る実施形態では、制御装置10は、エンジン11を制御するための電子制御ユニット(ECU装置)からなる。
【0050】
制御装置10は、
図3に示されるように、上述した運転点取得部101と、運転点R1が上述した低流量運転領域LF内に位置するか否かを判定するように構成された判定部102と、導入側開閉バルブ7に対して開閉動作を指示するように構成された開閉指示部103と、上述したコンプレッサマップMが記憶された記憶部104と、を備える。図示される実施形態では、運転点R1を入力値として導入側開閉バルブ7の開度を出力値とする制御マップM2が記憶部104に予め記憶されている。
【0051】
判定部102は、運転点取得部101で取得した運転点R1が、コンプレッサマップMの低流量運転領域LF内に位置するか否かを判定する。判定部102は、上記運転点R1と記憶部104に記憶されたコンプレッサマップMとを比較することにより、運転点R1がコンプレッサマップMにおける低流量運転領域LF内に位置するか否かを判定する。
【0052】
開閉指示部103は、運転点R1が低流量運転領域LF内に位置していると判定部102が判定したときに、導入側開閉バルブ7に開くように指示する。図示される実施形態では、開閉指示部103は、制御マップM2に基づいて、運転点R1から取得される導入側開閉バルブ7の開度を導入側開閉バルブ7に指示する。
【0053】
図4は、一実施形態におけるコンプレッサの軸線に沿った概略断面図である。
図4に示されるように、上述した高圧気体導入ライン6は、高圧気体導入ライン6を流れる高圧気体と上流側吸気通路12Aを流れる燃焼用気体との合流点Pにおいて、高圧気体を導入する少なくとも一つの導入口61を含む。
図4に示されるように、コンプレッサ31に導入される燃焼用気体の流量が低い場合には、過給機本体3のケーシング34のシュラウド部37(ケーシング34のうちコンプレッサ31のインペラ35のインペラ翼36の先端に対向する部分)近傍は、流れFがシュラウド部37から剥離して負圧領域Nが形成されるようになっている。
【0054】
幾つかの実施形態にかかるサージング抑制装置4は、例えば
図1に示されるように、大気圧に比べて高圧の高圧気体を蓄圧するように構成された上述した高圧タンク5と、上述した上流側吸気通路12Aと高圧タンク5とを結ぶ上述した高圧気体導入ライン6と、高圧気体導入ライン6を開閉可能に構成された上述した導入側開閉バルブ7(開閉バルブ)と、過給機本体3のコンプレッサ31における圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、導入側開閉バルブ7を制御するように構成された上述した制御装置10と、を備える。
【0055】
上記の構成によれば、制御装置10は、過給機本体3のコンプレッサ31における圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、導入側開閉バルブ7を制御するように構成されているので、上記関係性におけるサージングが発生する可能性の高い運転領域(低流量運転領域LF)において、導入側開閉バルブ7に対して開くように指示することができる。高圧気体導入ライン6を開閉する導入側開閉バルブ7を開くと、高圧タンク5に蓄圧された高圧気体は、上流側吸気通路12Aを流れる燃焼用気体よりも高圧であるため、高圧タンク5に蓄圧された高圧気体が高圧気体導入ライン6を通り、上流側吸気通路12Aに流入する。ここで、低流量時には、過給機本体3のケーシング34のシュラウド部37近傍は、流れFがシュラウド部37から剥離して負圧領域Nが形成される。上流側吸気通路12Aに流入した高圧気体は、負圧領域Nに流れを誘起され、負圧領域Nに向かって軸方向における下流側に流れるので、上流側吸気通路12Aにおける導入口61より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることができる。サージング抑制装置4により、コンプレッサ31の入口近傍の流れFの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることで、流れFのインペラ翼36やシュラウド部37からの剥離を防止することができるので、サージングの発生を抑制することができる。よって、サージング抑制装置4により、コンプレッサ31の低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0056】
また、上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、高圧気体を高圧タンク5に蓄圧しておけるので、エンジン11や過給機本体3の運転状態に左右されずに、意図したタイミングで高圧気体を上流側吸気通路12Aに流すことができる。また、サージング抑制装置4は、制御装置10が導入側開閉バルブ7の開閉を制御することで、必要量の高圧気体を上流側吸気通路12Aに流すことができる。よって、上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、高圧タンク5を設けない場合に比べて、サージングの発生を安定的に抑制することができ、且つ、制御装置10による導入側開閉バルブ7の開閉制御の複雑化を防止することができる。
【0057】
図5は、他の一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
図6は、他の一実施形態にかかる排気タービン式の過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
幾つかの実施形態では、サージング抑制装置4は、
図1、5、6に示されるように、上述した高圧タンク5と、上述した高圧気体導入ライン6と、上述した導入側開閉バルブ7と、上述した制御装置10と、高圧気体を高圧タンク5に送るように構成された少なくとも一つの高圧気体取込ライン8と、高圧気体取込ライン8を開閉可能に構成された取込側開閉バルブ9と、を備える。制御装置10は、取込側開閉バルブ9の開閉を制御するように構成されている。
【0058】
取込側開閉バルブ9は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10から送られる信号に応じて作動する不図示のモータおよびアクチュエータを有し、制御装置10の指示に応じて開閉可能に構成されている。取込側開閉バルブ9は、開閉弁であってもよく、開度を調整可能な開度調整弁であってもよい。
図示される実施形態では、取込側開閉バルブ9は、開度調整弁であり、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度に変更可能に構成されている。この場合には、取込側開閉バルブ9は、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度にすることで、高圧気体取込ライン8の取込側開閉バルブ9より下流側を流れる高圧気体の流量を調整可能である。
【0059】
上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、過給機1やエンジン11、エンジン11が搭載された自動車などが保有する高圧気体を蓄圧する高圧部から、高圧気体取込ライン8を介して、高圧タンク5に高圧気体を送ることができる。また、制御装置10が取込側開閉バルブ9の開閉を制御することで、必要量の高圧気体を高圧タンク5に取込むことができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、上述したサージング抑制装置4は、
図1に示されるように、上述した下流側迂回通路16Aと上述した高圧タンク5とを結ぶ上述した排ガス取込ライン8Aを備える。換言すると、上述した少なくとも一つの高圧気体取込ライン8は、排ガス取込ライン8Aを含む。また、上述した取込側開閉バルブ9は、排ガス取込ライン8Aに設けられる取込側開閉バルブ9Aを含む。
図1に示される実施形態では、排ガス取込ライン8Aは、下流側迂回通路16Aに設けられる分岐部161および高圧タンク5に接続される。下流側迂回通路16Aを流れる排ガスは、下流側排気通路13Bを流れる排ガスや大気圧よりも高圧である。
【0061】
上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、排ガス取込ライン8Aを介して、下流側迂回通路16Aから高圧タンク5に排ガスを取り込むことができる。このため、サージング抑制装置4は、本来、外部に排出されるはずの排ガスを有効活用することができ、排ガスからエネルギを回収することができる。ここで、上流側排気通路13Aと下流側排気通路13Bとを繋ぐ迂回通路16を流れる排ガスは、タービン32を経由して下流側排気通路13Bを流れる排ガスよりも、タービン32によりエネルギが回収されていない分だけ高圧である。したがって、サージング抑制装置4は、迂回通路16を流れる排ガスを上流側吸気通路12Aに導入することで、コンプレッサ31の入口近傍の流れFの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、上述した過給機1は、
図5に示されるように、上述した下流側排気通路13Bと上流側吸気通路12Aとを繋ぐEGRガス通路19と、EGRガス通路19を開閉可能に構成されたEGRガスバルブ20と、を備える。過給機1は、EGRガス通路19およびEGRガスバルブ20により、エンジン11から排出されて下流側排気通路13Bを流れる排ガスの一部をEGRガスとして、コンプレッサ31より上流側に還流させるように構成されている。
上述したサージング抑制装置4は、
図5に示されるように、EGRガス通路19と高圧タンク5とを結ぶEGRガス取込ライン8Bを備える。換言すると、上述した少なくとも一つの高圧気体取込ライン8は、EGRガス取込ライン8Bを含む。また、上述した取込側開閉バルブ9は、EGRガス取込ライン8Bに設けられる取込側開閉バルブ9Aを含む。
【0063】
図示される実施形態では、EGRガスバルブ20は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10から送られる信号に応じて作動する不図示のモータおよびアクチュエータを有し、制御装置10の指示に応じて開閉可能に構成されている。EGRガスバルブ20は、開閉弁であってもよく、開度を調整可能な開度調整弁であってもよい。
【0064】
図5に示される実施形態では、EGRガスバルブ20は、開度調整弁であり、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度に変更可能に構成されている。この場合には、EGRガスバルブ20は、制御装置10が指示する指示開度に応じた開度にすることで、上流側吸気通路12Aに還流されるEGRガスの流量を調整可能である。
【0065】
図5に示される実施形態では、過給機1は、EGRガス通路19のEGRガスバルブ20より上流側に設けられて、EGRガス通路19を流れる排ガスを脱硫するように構成された排ガス脱硫装置21を備える。EGRガス通路19は、下流側排気通路13Bの分岐部133および上流側吸気通路12Aの合流部122に接続される。合流部122は、上述した合流部121より上流側に位置する。なお、図示される実施形態では、合流部122は、ケーシング34より上流側に位置しているが、ケーシング34内に位置していてもよい。
【0066】
図5に示される実施形態では、EGRガス取込ライン8Bは、EGRガス通路19のEGRガスバルブ20より上流側、且つ、排ガス脱硫装置21より下流側に設けられた分岐部191および高圧タンク5に接続される。この場合には、EGRガス取込ライン8Bには、EGRガス通路19から排ガス脱硫装置21により脱硫後のEGRガスが送られる。EGRガス通路19を流れる排ガスは、大気圧よりも高圧である。
【0067】
上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、EGRガス取込ライン8Bを介して、EGRガス通路19から高圧タンク5に、EGRガスを取り込むことができる。このため、EGRガスを有効活用することができる。
【0068】
幾つかの実施形態では、上述したサージング抑制装置4は、
図6に示されるように、エンジン11から排出されたブローバイガスを高圧タンク5に送るように構成されたブローバイガス取込ライン8Cを備える。換言すると、上述した少なくとも一つの高圧気体取込ライン8は、ブローバイガス取込ライン8Cを含む。また、上述した取込側開閉バルブ9は、ブローバイガス取込ライン8Cに設けられる取込側開閉バルブ9Cを含む。
図6に示される実施形態では、エンジン11は、エンジン11の燃焼室から排出されたブローバイガスを蓄圧する蓄圧部111を有する。ブローバイガス取込ライン8Cは、蓄圧部111および高圧タンク5に接続される。ブローバイガスは、大気圧よりも高圧である。
【0069】
上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、ブローバイガス取込ライン8Cを介して、エンジン11から排出されたブローバイガスを高圧タンク5に取り込むことができる。このため、サージング抑制装置4は、本来、外部に排出されるはずのブローバイガスを有効活用することができ、上記ブローバイガスからエネルギを回収することができる。
【0070】
幾つかの実施形態では、上述したサージング抑制装置4は、
図6に示されるように、上述した下流側吸気通路12Bと高圧タンク5とを結ぶ燃焼用気体取込ライン8Dを備える。換言すると、上述した少なくとも一つの高圧気体取込ライン8は、燃焼用気体取込ライン8Dを含む。また、上述した取込側開閉バルブ9は、燃焼用気体取込ライン8Dに設けられる取込側開閉バルブ9Dを含む。
図6に示される実施形態では、燃焼用気体取込ライン8Dは、下流側吸気通路12Bに設けられる分岐部123および高圧タンク5に接続される。下流側吸気通路12Bを流れる燃焼用気体は、大気圧よりも高圧である。
【0071】
上記の構成によれば、サージング抑制装置4は、下流側吸気通路12Bから高圧タンク5に、コンプレッサ31において圧縮された燃焼用気体を取り込むことができる。例えば自動車のブレーキの作動時などの、コンプレッサ31による圧縮が必要ない場合に、圧縮された燃焼用気体を高圧タンク5に送ることで、圧縮された燃焼用気体を有効活用することができる。
【0072】
幾つかの実施形態では、上述したサージング抑制装置4は、高圧タンク5に高圧気体を圧送するように構成された電動コンプレッサ22をさらに備える。
【0073】
図示される実施形態では、過給機1は、
図6に示されるように、気体を充満させるように構成された気体タンク23と、気体タンク23に気体を導入するように構成された気体導入ライン24と、を備える。
【0074】
図示される実施形態では、電動コンプレッサ22は、電力により駆動して気体タンク23内の気体を圧縮するように構成されている。サージング抑制装置4は、
図6に示されるように、気体タンク23と高圧タンク5とを結ぶ圧縮空気導入ライン8Eを備える。換言すると、上述した少なくとも一つの高圧気体取込ライン8は、圧縮空気導入ライン8Eを含む。また、上述した取込側開閉バルブ9は、圧縮空気導入ライン8Eに設けられる取込側開閉バルブ9Eを含む。
【0075】
気体タンク23で圧縮されて圧縮空気導入ライン8Eを流れる圧縮気体は、大気圧よりも高圧である。或る実施形態では、気体導入ライン24の一端は開放されており、気体タンク23には気体導入ライン24を介して大気中の空気が導入されるように構成されている。
他の幾つかの実施形態では、上述した電動コンプレッサ22は、高圧タンク5内の気体を圧縮するように構成されていてもよい。
【0076】
上記の構成によれば、電動コンプレッサ22により高圧気体を高圧タンク5に圧送することができる。この場合には、高圧タンク5に高圧気体をより確実に蓄圧することができるので、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。特に、電動コンプレッサ22を過給機1やエンジン11、エンジン11が搭載された自動車などの余剰電力により駆動するように構成することで、消費電力を抑えることができる。
【0077】
幾つかの実施形態では、
図4に示されるように、上述した少なくとも一つの導入口61は、上述した合流点Pにおいて、高圧気体をコンプレッサ31の軸方向における下流側へ向かう成分Aを有する方向Cに向かうように上流側吸気通路12Aに導入するように構成されている。
図4に示される実施形態では、導入口61は、軸方向に沿って高圧気体を導入するように構成されているが、他の幾つかの実施形態では、導入口61は、径方向内側又は径方向外側に傾斜した方向に高圧気体を導入するように構成されていてもよい。
【0078】
図示される実施形態では、
図4に示されるように、上流側吸気通路12Aは、周面に貫通孔344が形成された管状部341を含む。或る実施形態では、上述したケーシング34は管状部341を有する。高圧気体導入ライン6は、導入口61が先端に設けられるとともに、貫通孔344に挿通可能に構成されたノズル部62を含む。つまり、管状部341とノズル部62は、別体である。ノズル部62は、ノズル部62が貫通孔344に挿通された際に、導入口61が上流側吸気通路12A内に位置するように構成されている。
【0079】
図4に示される実施形態では、ノズル部62は、管状部341の外周面342に不図示のボルト(締結具)によって固定されるように構成された鍔部63を含む。
図4に示されるように、管状部341の外周面342に鍔部63が収納されるザグリ穴343であって、貫通孔344に連通するザグリ穴343が形成されていてもよい。
【0080】
上記の構成によれば、高圧気体は、上流側吸気通路12Aを流れる燃焼用気体との合流点Pにおいて、コンプレッサ31の軸方向における下流側へ向かう成分Aを有する方向Cに向かって流れるので、上流側吸気通路12Aにおける導入口61より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることができる。よって、上記の構成によれば、コンプレッサ31の入口近傍の流れFの軸方向下流側に向かう流速成分を効果的に増加させることにより、流れのインペラ翼36やシュラウド部37からの剥離をより確実に防止することができ、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0081】
幾つかの実施形態では、
図4に示されるように、上述した少なくとも一つの導入口61は、上述した合流点Pにおいて、高圧気体をコンプレッサ31の回転方向Rにおける下流側へ向かう成分Bを有する方向Cに向かうように上流側吸気通路12Aに導入するように構成されている。
図4に示される実施形態では、方向Cは上述した成分Aおよび上述した成分Bの両方を有しているが、他の幾つかの実施形態では、方向Cは成分A又は成分Bの一方を有するようになっていてもよい。
【0082】
上記の構成によれば、高圧気体は、上流側吸気通路12Aを流れる燃焼用気体との合流点Pにおいて、コンプレッサ31の回転方向Rにおける下流側へ向かう成分Bを有する方向Cに向かって旋回して流れるので、上流側吸気通路12Aにおける導入口61より下流側の流れにコンプレッサ31の回転方向Rにおける下流側へ向かう流速成分(旋回成分)を効果的に増加させることができる。よって、上記の構成によれば、コンプレッサ31の入口近傍の流れFに旋回成分を効果的に増加させることにより、流れのインペラ翼36やシュラウド部37からの剥離をより確実に防止することができ、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、上述した運転点取得装置18は、上述した入口圧力センサ18Aおよび出口圧力センサ18Bと、コンプレッサ31の回転数を検出可能な回転数センサ18Dと、を含む。また、他の幾つかの実施形態では、上述した運転点取得装置18は、上述した流量センサ18Cと、回転数センサ18Dと、を含む。
図4に示される実施形態では、回転数センサ18Dは、シュラウド部37に取り付けられる。これらの場合には、制御装置10は、運転点取得装置18が取得する情報に基づいて、運転点R1を取得可能である。
【0084】
他の幾つかの実施形態では、上述した運転点取得装置18は、ケーシング34のシュラウド部37近傍の温度を検出可能な温度センサ18Eを含む。
図4に示される実施形態では、温度センサ18Eは、シュラウド部37に取り付けられる。この場合には、シュラウド部37近傍において逆流が生じると温度が上昇するため、温度センサ18Eにより逆流を生じているか否かを把握することができる。よって、運転点取得装置18に温度センサ18Eを含むことによって、サージングの発生をより安定的に抑制することができる。
【0085】
幾つかの実施形態では、上述したタービン式の過給機1は、上述したサージング抑制装置4を備える。この場合には、タービン式の過給機1は、サージング抑制装置4を備えるので、サージングの発生を安定的に抑制することができ、ひいてはコンプレッサ31の低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0086】
図7は、一実施形態にかかるサージング抑制方法のフロー図である。
幾つかの実施形態にかかるサージング抑制方法200は、排気タービン式の過給機1におけるサージングを抑制するサージング抑制装置4を用いたサージング抑制方法である。上述したサージング抑制装置4は、上述した高圧タンク5と、上述した高圧気体導入ライン6と、上述した導入側開閉バルブ7と、を備える。上述したサージング抑制方法200は、
図7に示されるように、高圧タンク5に高圧気体を蓄圧するステップS1と、過給機本体3のコンプレッサ31における圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、導入側開閉バルブ7を制御するステップS2と、を備える。
【0087】
図示される実施形態では、上述したステップS2は、
図7に示されるように、ステップS3~S5を含む。
ステップS3では、コンプレッサ31の運転点R1を取得することが行われる。運転点R1は、上述した運転点取得装置18および制御装置10の運転点取得部101により取得してもよいし、他の方法により取得してもよい。
ステップS4では、運転点R1が、コンプレッサマップMの低流量運転領域LF内に位置するか否かの判定が行われる。上記判定は、制御装置10の判定部102が行ってもよいし、手動で行ってもよい。運転点R1が低流量運転領域LF内に位置していない場合には(ステップS4で「NO」)、フローは終了する。
運転点R1が低流量運転領域LF内に位置する場合には(ステップS4で「YES」)、導入側開閉バルブ7を開くことが行われる(ステップS5)。導入側開閉バルブ7を開動作は、制御装置10の開閉指示部103から信号を受け取った導入側開閉バルブ7が行ってもよいし、手動で行ってもよい。
【0088】
上記の方法によれば、サージング抑制方法200は、コンプレッサ31における圧力比と吸気流量との関係性に基づいて、導入側開閉バルブ7を制御するステップS2を備えるので、上記関係性におけるサージングが発生する可能性の高い運転領域(低流量運転領域LF)において、導入側開閉バルブ7に対して開くように指示することができる。高圧気体導入ライン6を開閉する導入側開閉バルブ7を開くと、高圧タンク5に蓄圧された高圧気体が上流側吸気通路12Aに流入し、シュラウド部37近傍に形成された負圧領域Nに流れを誘起され、負圧領域Nに向かって軸方向における下流側に流れるので、上流側吸気通路12Aにおける導入口61より下流側の流れの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることができる。ステップS2により、コンプレッサ31の入口近傍の流れFの軸方向下流側に向かう流速成分を増加させることで、流れFのインペラ翼36やシュラウド部37からの剥離を防止することができるので、サージングの発生を抑制することができる。よって、サージング抑制方法200により、コンプレッサ31の低流量域における作動範囲を広げることができる。
【0089】
また、上記の方法によれば、サージング抑制方法200は、高圧タンク5に高圧気体を蓄圧するステップS1を備えるので、エンジン11や過給機本体3の運転状態に左右されずに、意図したタイミングで高圧気体を上流側吸気通路12Aに流すことができる。また、導入側開閉バルブ7の開閉を制御することで、必要量の高圧気体を上流側吸気通路12Aに流すことができる。よって、上記の方法によれば、高圧タンク5を設けない場合に比べて、サージングの発生を安定的に抑制することができる。
【0090】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。例えば、過給機1は、迂回通路16およびEGRガス通路19の両方を備えていてもよく、高圧気体取込ライン8は、排ガス取込ライン8AおよびEGRガス取込ライン8Bの両方を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 過給機
3 過給機本体
4 サージング抑制装置
5 高圧タンク
6 高圧気体導入ライン
7 導入側開閉バルブ
8 高圧気体取込ライン
8A 排ガス取込ライン
8B EGRガス取込ライン
8C ブローバイガス取込ライン
8D 燃焼用気体取込ライン
8E 圧縮空気導入ライン
9,9A~9E 取込側開閉バルブ
10 制御装置
11 エンジン
12 吸気通路
12A 上流側吸気通路
12B 下流側吸気通路
13 排気通路
13A 上流側排気通路
13B 下流側排気通路
14 エアクリーナ
15 エアクーラ
16 迂回通路
16A 下流側迂回通路
17 ウエイストゲートバルブ
18 運転点取得装置
18A 入口圧力センサ
18B 出口圧力センサ
18C 流量センサ
18D 回転数センサ
18E 温度センサ
19 EGRガス通路
20 EGRガスバルブ
21 排ガス脱硫装置
22 電動コンプレッサ
23 気体タンク
24 気体導入ライン
31 コンプレッサ
32 タービン
33 回転シャフト
34 ケーシング
35 インペラ
36 インペラ翼
37 シュラウド部
61 導入口
62 ノズル部
63 鍔部
101 運転点取得部
102 判定部
103 開閉指示部
104 記憶部
111 蓄圧部
121,122,132 合流部
123,131,133,161,191 分岐部
200 サージング抑制方法
341 管状部
342 外周面
343 ザグリ穴
344 貫通孔
A,B 成分
C 方向
F 流れ
L1 サージライン
L2 エンジンの作動線
LF 低流量運転領域
LM 低流量側マージン
M コンプレッサマップ
N 負圧領域
P 合流点
PF 圧力比
PI 入口圧力
PO 出口圧力
R 回転方向
R1 運転点
RN 正常運転領域
RS サージ運転領域
S1,S2,S3,S4,S5 ステップ
W 吸気流量