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特許7273170コバルト又は銅合金の電着、及びマイクロエレクトロニクスにおける使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】コバルト又は銅合金の電着、及びマイクロエレクトロニクスにおける使用
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20230502BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20230502BHJP
   C25D 3/58 20060101ALI20230502BHJP
   C25D 7/12 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C25D3/56 A
C25D5/50
C25D3/58
C25D7/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546683
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2020053018
(87)【国際公開番号】W WO2020161256
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】1901264
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】2000297
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508084928
【氏名又は名称】アヴニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】メベレック, ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】カイヤール, ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ティアム, ミカイユー
(72)【発明者】
【氏名】サー, ドミニク
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2003-0054471(KR,A)
【文献】特開昭63-114997(JP,A)
【文献】特開2004-068138(JP,A)
【文献】国際公開第2017/127197(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0064243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00- 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトである第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金を電着するための電解液であって、
質量濃度が1g/L~5g/LのコバルトIIイオン、
質量濃度が1g/L~10g/Lの塩化物イオン、
マンガンIIイオン及び亜鉛IIイオンから選択される金属イオンであって、コバルトIIイオンの質量濃度と金属イオンの質量濃度との比が1/10~25/1となるような質量濃度の金属イオン(前記コバルトIIイオン、前記塩化物イオン、前記マンガンIIイオン、及び、前記亜鉛IIイオンにおける各質量濃度は、塩化コバルト、塩化コバルト六水和物、塩化マンガン、塩化亜鉛を水に溶解することによって得られるものである)
上記電解液のpHを1.8~4.0に維持する、十分な量の有機酸又は無機酸、及び
ポリマーではない2つ以下の有機添加物であって、上記2つ以下の有機添加物の少なくとも1つは、水溶液中に上記有機酸として存在上記有機酸は、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、シュウ酸、及び、2-ヒドロキシ酪酸から選択されるα-ヒドロキシカルボン酸であり、上記2つ以下の有機添加物の濃度が、5mg/L~200mg/Lである有機添加物
を含む水溶液であることを特徴とする電解液。
【請求項2】
上記無機強酸が塩酸であることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
上記pHが2.0~3.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
上記有機添加物が単一の有機添加物を含み、該単一の有機添加物は酒石酸であることを特徴とする請求項に記載の電解液。
【請求項5】
空洞を充填するための電気化学プロセスであって、
上記空洞の開口部における平均幅又は平均直径は15nm~100nmであり、深さは50nm~250nmであり、
上記空洞の導電性表面に、請求項1~のいずれか1項に記載の電解液を接触させる工程、
コバルトである第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金を堆積させて上記空洞のコンフォーマルかつ完全な充填を実施するのに十分な時間、上記導電性表面を分極する工程、及び
上記分極工程の終了時に得られた合金の堆積物をアニーリングする工程であって、上記アニーリングは、上記第2の金属を移動させることで、上記第2の金属を主に含み、かつ上記導電性表面と接触している厚さが0.5nm~2nmの第1の層と、本質的にコバルトを含み、かつ上記第1の層の表面を被覆する第2の層であって、上記導電性表面と接触していない第2の層とを形成できる温度で行われる工程
を含む電気化学プロセス。
【請求項6】
上記導電性表面が、金属シード層の第1の表面であり、上記金属シード層が、上記第2の金属とは異なる第3の金属からなり、上記金属シード層の厚さが1nm~10nmであり、上記金属シード層が、二酸化ケイ素を含む誘電体材料と接触している第2の表面を有することを特徴とする請求項に記載のプロセス。
【請求項7】
上記第3の金属が、コバルト、銅、タングステン、チタン、タンタル、ルテニウム、ニッケル、及これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト、銅及びこれらの混合物から選択される第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金を導電性表面に電着するための電解液及びその使用に関する。本発明はまた、集積回路においてコバルト又は銅の電気相互接続部を作製するために使用できる、上記電解液を用いる製造プロセスに関する。最後に本発明は、第2の金属の層と接触している第1の金属の層を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相互接続部をコバルトで充填するための従来のプロセスでは、コバルト塩と、相補的な機能を有する抑制剤及び促進剤を含む多数の有機添加物とを含む電解液を用いて、いわゆるボトムアップ充填を行う。良質なコバルト塊、より具体的には材料空隙のないコバルト塊を得るためには、一般的にこれらの添加物を組み合わせる必要がある。抑制剤は、コバルト表面に吸着することで、又はコバルトイオンと錯体を形成することで、空洞の開口部、及び空洞を取り囲む基板の平坦表面においてコバルトの堆積を制御する。したがって、この化合物は、空洞内で拡散できないポリマー等の高分子量分子であってもよく、コバルトイオンと錯体を形成する物質であってもよい。一方、促進剤は、空洞の底部に拡散し、深い空洞では一層その存在の必要性が増す。促進剤は、空洞の底部及びその壁部へのコバルトの堆積速度を上昇させることができる。ボトムアップ機構による充填方法は、コバルト堆積物が中空パターンの底部及び壁部に同じ速度で成長する「コンフォーマル」又は「連続的」と呼ばれる充填方法と対照的である。
【0003】
これらの電着浴及びその使用には、製造される電子デバイスの良好な動作を最終的に制限したり、電子デバイスの製造コストが過剰に高くしたりする多くの欠点がある。その理由は、コバルト相互接続部が、コバルト中の充填孔の形成を制限するために必要な有機添加物で汚染されてしまうからである。さらに、これらの化学反応で得られる充填速度は遅すぎるため、工業規模の生産に適合しない。
【0004】
特許文献1には、相互接続部における、より具体的には、MOSFETトランジスタの格子を製造するためのコバルト/誘電体混合基板上へのコバルトの接着を向上させるためのマンガンの使用が記載されている。しかしながら、記載されたプロセスにおいて、マンガン及びコバルトは、2つの連続する独立した材料堆積工程、すなわち、気相でのマンガンの化学蒸着工程と、それに続くコバルトの電着工程とにおいて堆積される。
【0005】
したがって、性能が向上したコバルト堆積物、すなわち、不純物含有量が極端に減少したコバルト堆積物であって、電子デバイスを製造するのに有利となり、及び/又は、コバルトと例えば二酸化ケイ素をベースとする絶縁基板との間の窒化タンタル等のコバルト拡散障壁材料の層の厚さを低減できるか、あるいはその堆積を回避できる十分な速度で形成されるコバルト堆積物をもたらす電解浴が依然として求められている。
【0006】
本発明者らは、コバルトIIイオンと、マンガンIIイオン及び亜鉛IIイオンから選択される金属イオンとを含むpH1.8~4.0の溶液でこの目的を達成できることを見出した。
【0007】
特にコンフォーマル電着プロセスにおいてα-ヒドロキシカルボン酸を使用して、4未満のpHでコバルト合金を堆積できる可能性はこれまで示唆されていなかったことから、本発明の結果はさらに驚くべきものとなる。これに加えて、コバルトの堆積前に化学又は物理蒸着工程を必要とせずに、マンガン又は亜鉛をベースとする薄層を形成できる可能性はこれまで提案されたことはなかった。
【0008】
本発明者らは、コバルトIIイオンに代えて銅IIイオンを用いても同じ結果が得られることを見出した。そのため、本発明は、性能が向上した銅堆積物、すなわち、不純物含有量が極端に減少した銅堆積物であって、電子デバイスを製造するのに有利となり、及び/又は、銅と例えば二酸化ケイ素をベースとする絶縁基板との間の窒化タンタル等のコバルト拡散障壁材料の層の厚さを低減できるか、あるいはその堆積を回避できる十分な速度で形成される銅堆積物の製造を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2015/0179579号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、コバルト、銅及びこれらの混合物から選択される第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金を電着するための電解液であって、
・質量濃度が1g/L~5g/LのコバルトIIイオン又は銅IIイオン、
・質量濃度が1g/L~10g/Lの塩化物イオン、
・マンガンIIイオン及び亜鉛IIイオンから選択される金属イオンであって、コバルトIIイオン又は銅IIイオンの質量濃度と金属イオンの質量濃度との比が1/10~25/1となるような質量濃度の金属イオン、
・上記電解液のpHを1.8~4.0とするのに十分な量の有機酸又は無機酸、及び
・ポリマーではない1つのみ又は多くとも2つの有機添加物であって、上記1つの有機添加物、上記2つの有機添加物のうちの1つ、又は上記2つの有機添加物は、組成物中に上記有機酸が存在する場合は上記有機酸であってもよく、上記1つの有機添加物の濃度又は上記2つの有機添加物の濃度の合計が、5mg/L~200mg/Lである有機添加物
を含む水溶液であることを特徴とする電解液に関する。
【0011】
コバルトIIイオン(又は銅IIイオン)の質量濃度と金属イオンの質量濃度との比は、1/10、1/5、1/3、1/2、1/1、2/1、3/1、5/1、10/1、15/1、及び20/1からなる群から選択される値より高くてもよい。コバルトIIイオン(又は銅IIイオン)の質量濃度と金属イオンの質量濃度との比は、1/5、1/3、1/2、1/1、2/1、3/1、5/1、10/1、15/1、20/1、及び25/1からなる群から選択される値より低くてもよい。
【0012】
本発明は、同様に、コバルト又は銅で空洞を充填するためのプロセスであって、上記電解液を使用して合金をコンフォーマルに堆積させる第1の工程と、上記合金をアニーリングしてコバルト又は銅堆積物を得る第2の工程とを含むプロセスに関する。
【0013】
本発明の電解液及びプロセスは、工業的用途に適合する製造時間内で高純度のコバルト又は銅の連続的な堆積物を得ることを可能にする。
【0014】
上記コバルト又は銅の堆積物の利点は非常に高純度であることであり、これは本質的に3つの理由による。
【0015】
従来技術で追求されている目的の1つは、導電性金属を充填するくぼみに入り込まずに、基板の平坦表面に特異的に吸着する抑制剤(表面抑制剤)を使用して、空洞の入口での金属堆積を遅くすることである。これらの有機添加物は、従来技術において大量に使用され、良質の充填を確保するために必要であるが、コバルト又は銅堆積物の汚染を引き起こす。しかしながら、本発明の電解液によって採用される電着プロセスは、これらの添加物の使用を必要としないコンフォーマルな空洞充填方法に従う。
【0016】
したがって、本発明の電解液及びプロセスは、有機分子の濃度、高濃度の緩衝物質の存在、及び電着中の水酸化コバルト又は水酸化銅の形成を制限することによって、コバルト又は銅堆積物の汚染を大幅に制限することが可能である。
【0017】
さらに、本発明の電解液及びプロセスは、より速い堆積速度で形成されるが、不純物割合は非常に低い、好ましくは1000原子ppm未満であるコバルト又は銅相互接続部を得ることが可能である。
【0018】
最後に、本発明の電解液及びプロセスは、コバルトとマンガンとの合金、コバルトと亜鉛との合金、銅とマンガンとの合金、又は銅と亜鉛との合金をアニーリングし、上記合金を電着により1工程で堆積させることによって、マンガン又は亜鉛を含む薄層を形成することができる。
【0019】
1つの特定の実施形態では、コバルト-マンガン合金又は銅-マンガン合金が、絶縁材料を被覆する金属材料からなるシード層の表面に堆積される。その後、上記合金に熱処理を行うことで、コバルト及びマンガンを或いは銅及びマンガンを分離でき、コバルト又は銅を含む層とマンガンを含む層とを作製できる。合金のアニーリング中に、合金内に分布したマンガン原子は、金属層と絶縁材料との間の界面に移動して、金属層と絶縁材料との間に介在するマンガンの薄層を形成する。その結果、マンガンの薄層で被覆された絶縁基板と、金属薄層と、コバルト又は銅の堆積物との積層体が得られる。アニーリングによって、コバルト又は銅の相互接続部を含む電子デバイスの製造収益性及び信頼性が向上する。
【0020】
最後に、本発明のプロセスは、コバルトの場合、コバルトと二酸化ケイ素をベースとする絶縁基板との間の窒化タンタル等のコバルト拡散障壁材料の層の厚さを低減すること、又は上記層を堆積させないことを可能にする。銅の場合も同様の結果が得られる。
【0021】
<定義>
「電解液」とは、電着プロセスにおいて使用される金属コーティングの前駆体を含む液体をいう。
【0022】
「連続的充填」とは、空隙のないコバルト塊又は銅塊をいう。従来技術では、パターンの壁部と金属堆積物との間のコバルト又は銅堆積物中に材料の孔又は空隙(「側壁部空隙」)が観察され得る。また、パターンの壁部から等距離に位置する孔又は線(「継ぎ目」)の形態の空隙も観察され得る。これらの空隙は、堆積物の断面を得て、透過型又は走査型電子顕微鏡法で観察及び定量することができる。本発明の連続的堆積物は、平均空隙率が好ましくは10体積%未満、好ましくは5体積%以下である。充填される構造内の空隙率の測定は、倍率50000~350000での電子顕微鏡観察、又はTEMによって実施できる。
【0023】
空洞の「平均直径」又は「平均幅」とは、充填される空洞の開口部で測定する寸法をいう。空洞は、例えばテーパ状のチャネル又はシリンダの形態である。
【0024】
「コンフォーマル充填」とは、中空パターンの底部及び壁部において、コバルトとマンガンとの合金、コバルトと亜鉛との合金、銅とマンガンとの合金、又は銅と亜鉛との合金の堆積物が同じ速度で成長する充填様式をいう。この充填様式は、合金の堆積速度が空隙の底部において高くなる、底部から上部への充填(「ボトムアップ」充填)と対照的である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、コバルト、銅及びこれらの混合物から選択される第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金であって、マンガン及び亜鉛から選択される金属を含む合金を電着するための電解液であって、
・質量濃度が1g/L~5g/LのコバルトIIイオン又は銅IIイオン、
・質量濃度が1g/L~10g/Lの塩化物イオン、
・マンガンIIイオン及び亜鉛IIイオンから選択される金属イオンであって、コバルトIIイオン又は銅IIイオンの質量濃度と金属イオンの質量濃度との比が1/10~10/1となるような質量濃度の金属イオン、
・pHを1.8~4.0とするのに十分な量の有機酸又は無機酸、及び
・ポリマーではない1つのみ又は多くとも2つの有機添加物であって、上記2つの有機添加物のうちの1つは上記酸であってもよく、当該酸が有機酸である場合、上記1つの添加物の濃度又は上記2つの添加物の濃度の合計が、5mg/L~200mg/Lである有機添加物
を含む水溶液であることを特徴とする電解液に関する。
【0026】
上記有機添加物は、硫黄含有添加物でないことが好ましく、上記添加物のうちの少なくとも1つ、又はその両方がα-ヒドロキシカルボン酸であることが好ましい。上記電解液は、単一の有機添加物を含むことが好ましい。
【0027】
上記有機添加物は、分子量が250g/mol未満、好ましくは200g/mol未満であり、50g/molより大きく、より好ましくは100g/molより大きいことが好ましい。
【0028】
上記1つの添加物の濃度又は上記2つの添加物の濃度の合計は、5mg/L~200mg/Lであることが好ましい。当該実施形態において、上記添加物はそれぞれ、硫黄を含有しないα-ヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0029】
上記有機添加物のうちの少なくとも1つは、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、マレイン酸、フマル酸、グリセリン酸、オロト酸、マロン酸、L-アラニン、アセチルサリチル酸及びサリチル酸から選択することができる。
【0030】
コバルトIIイオン又は銅IIイオンの質量濃度は1g/L~5g/L、例えば2g/L~3g/Lであってよい。塩化物イオンの質量濃度は1g/L~10g/Lであってよい。
【0031】
高酸性pHにおいて比較的高濃度のコバルトイオン又は銅イオンは、pHが塩基性又は弱酸性で、コバルトイオン又は銅イオン濃度がより低い従来技術の電解浴に対して多くの利点を有する。
【0032】
その理由は、本発明者らが、堆積物中のコバルト又は銅の腐食を制限するために4を超えるpHで作用させる必要がないことを見出したからである。コバルトイオン又は銅イオンの濃度を上昇させること、及びpHの値を低下させることによって、水溶液中に存在するイオンの濃度を実質的に上昇させて、金属コバルト又は銅を安定化させることが可能であると考えられる。本発明者らは、このようにして、従来技術の堆積速度よりも堆積速度が大きくなるとともに、アニーリング工程後の堆積物中のコバルト又は銅の粒径が大きくなる、典型的には20nmよりも大きくなることを確認した。
【0033】
上記金属イオンは、マンガンIIイオン及び亜鉛IIイオンから選択される。その質量濃度は、コバルトイオン又は銅イオンの質量濃度と金属イオンの質量濃度との比が1/10~25/1、又は1/10~10/1となるような濃度である。
【0034】
上記塩化物イオンは、(i)塩化コバルト又は塩化銅、又はこれらの水和物(塩化コバルト六水和物等)の1つと、(ii)塩化マンガン又は塩化亜鉛とを水に溶解することによって得ることができる。
【0035】
上記組成は、コバルト又は銅堆積物の硫黄汚染という好ましくない現象を引き起こす硫酸塩を含む塩を溶解することでは得られないことが好ましい。
【0036】
上記有機添加物は、硫黄を含有しないものが好ましく、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、マレイン酸、シュウ酸及び2-ヒドロキシ酪酸等のα-ヒドロキシカルボン酸から選択されることが好ましい。
【0037】
上記電解液は、グリシン又はエチレンジアミン等、α-ヒドロキシカルボン酸以外の有機添加物を含んでもよい。ボトムアップ充填効果が生じない限り、いかなる種類のものであってもよい。実際に、本発明の電解液は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン又はポリエチレンイミン等の表面抑制ポリマーを含まないことが好ましい。
【0038】
コバルトIIイオン又は銅IIイオン及び金属イオン(マンガンII又は亜鉛II)は、有利には遊離形態である。これは、当該イオンが有機添加物と複合体を形成しないことを意味する。より具体的には、pHが3未満の場合、分極の非存在下又は導電性表面の分極時のいずれであっても、有機添加物と複合体を形成しないことを意味する。
【0039】
相当量のコバルト又は銅複合体、若しくは有機分子との他の金属複合体を有しないことで、以下のような多くの利点が得られる。まず、浴中の有機分子の濃度が非常に低くなり得るため、金属堆積物の有機汚染を低減できる。同様に、コバルト又は銅が構造中に堆積する間、溶液を不安定化し得るpHの無制御の変動を回避できる。また、コバルトイオン又は銅イオンは複合体により安定化されず、より容易に還元されるため、コバルト又は銅の堆積速度が上昇する。最後に、非常に高濃度のコバルト又は銅イオンは、空洞の導電性表面を腐食から保護する。この効果は、基板が、電着時に導電性表面となる非常に薄い層(シード層)で覆われている際に発揮される。
【0040】
本発明の電解液は、以下の特徴を単独で又は組み合わせて有利に含む。
・パターンの底部におけるコバルト又は銅の成長の促進剤を含まない。
・電解液は、電着時に空洞の開口部における基板の平坦部に堆積するコバルト又は銅に特異的に吸着することにより、当該部位上のコバルト又は銅の成長を遅らせることができる有機抑制分子を含まない。
・ボトムアップ充填機構を生じさせる添加物の組み合わせ、特に抑制剤と促進剤との組み合わせ、又は抑制剤と、促進剤と、平坦化剤との組み合わせを含まない。
・ポリマーを含まない(ポリマーとは、少なくとも4つの繰り返し単位を有する分子を意味する)。
・含硫化合物を含まない。
【0041】
表面抑制剤としては、カルボキシメチルセルロース、ノニルフェノールポリグリコールエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、オクタンジオールビス(ポリアルキレングリコールエーテル)、オクタノールポリアルキレングリコールエーテル、オレイン酸のポリグリコールエステル、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ステアリン酸のポリグリコールエステル、ステアリルアルコールのポリグリコールエーテル、ブチルアルコール-エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、2-メルカプト-5-ベンズイミダゾールスルホン酸、2-メルカプトベンズイミダゾール等の化合物が挙げられる。
【0042】
促進剤は、一般に、硫黄原子を含む化合物であり、例えば、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸の3-スルホプロピルエステル、3-メルカプトプロピルスルホン酸の3-スルホプロピルエステル、3-スルファニル-1-プロパンスルホネート、ジチオカルボン酸エステル、o-エチルエステル、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸のカリウム塩のsエステル、ビススルホプロピルジスルフィド、3-(ベンゾチアゾリル-s-チオ)プロピルスルホン酸のナトリウム塩、ピリジニウムプロピルスルホベタイン、1-ナトリウム-3-メルカプトプロパン-1-スルホネート、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸の3-スルホエチルエステル、3-メルカプトエチルプロピルスルホン酸の3-スルホエチルエステル、3-メルカプトエチルスルホン酸のナトリウム塩、ピリジニウムエチルスルホベタイン又はチオウレアである。
【0043】
第1の実施形態では、電解液のpHは1.8~4.0であることが好ましい。特定の一実施形態では、pHは2.0~3.5、又は2.0~2.4である。
【0044】
上記組成のpHは、当業者に公知の塩基又は酸で任意に調節することができる。酸は有機酸又は無機酸であってよい。塩酸等の無機強酸を用いることが好ましい。
【0045】
溶媒の性質は、(溶液の活性種を十分に溶解し、電着を妨げない限り)原理的には制限されないが、水であることが好ましい。一実施形態によれば、溶媒は、体積比で主に水を含む。
【0046】
一変形例によれば、本発明の電解液は、pHが1.8~4.0、例えば2.0~4.0であり、コバルトIIイオン又は銅IIイオン、マンガンII又は亜鉛IIの金属イオン、塩化物イオン、及び5~200mg/Lの、pKaが1.8~3.5、好ましくは2.0~3.5、より好ましくは2.2~3.0である1つ以上の化合物を水溶液中に含む。
【0047】
上記化合物の分子量は、250g/mol未満、好ましくは200g/mol未満であることが好ましく、50g/molより多く、好ましくは100g/molより多いことが好ましい。
【0048】
特定の場合において、pKa値が1.8~3.5の化合物は、第1の実施形態で使用される有機添加物の少なくとも1つと同一であり得る。より具体的には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸及びマンデル酸から選択することができる。
【0049】
また、フマル酸(pKa=3.03)、グリセリン酸(pKa=3.52)、オロト酸(pKa=2.83)、マロン酸(pKa=2.85)、L-アラニン(pKa=2.34)、リン酸(pKa=2.15)、アセチルサリチル酸(pKa=3.5)及びサリチル酸(pKa=2.98)等の化合物から選択してもよい。
【0050】
従来技術のコバルト充填プロセスは、例えば、pHが4を超えるアルカリ電解液を使用する一方で、非常に低い電流密度及びコバルトに特異的な抑制化合物を適用する。これにより、トレンチ(溝)内部のpHが充填工程を通して4より高いままであるため、得られるコバルト堆積物中に水酸化コバルトが実質的に形成される。この水酸化コバルトは、コバルト相互接続部の導電性を低下させ、集積回路の性能レベルを低下させる。
【0051】
本発明の電解液及び本発明のプロセスは、この水酸化コバルトの形成を大幅に制限して、堆積されたコバルト中の水酸化コバルト量をごくわずかに抑えることで、上記問題を解決することを特に目的とする。この問題の解決策には、pHが1.8~4.0、例えば2.0~4.0である電解液であり、好ましくは下記特徴のうちの少なくとも1つ、又は全てを示す添加物を添加した電解液を使用する。
・基板分極時間の間、電解液のpHを1.8又は2.0より高く、3.5より低い、好ましくは2.5より低い値に維持できるような、溝内の表面上での局所緩衝能。
・開口部の平均直径が小さい構造又は平均幅が小さい構造に添加物が拡散することができるような低分子量。
・分極の開始前に電解液中に存在する添加物のほぼ全量が構造の空洞内に拡散し、添加物が局所緩衝能を有するような、非常に低い電解液中の濃度。
【0052】
この種の添加物を含む電解液は、例えば基板の平坦表面ではなく、構造の空洞のみにおいて、pHの上昇を選択的に制限し、4.0未満、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.0~2.5とすることができる。したがって、上記添加物は、その効果を局所的に、すなわち空洞内でのみ発揮することにより、緩衝剤の機能を有利に果たすことができる。pKaが1.8~3.5又は2.0~3.5の有機添加物又は化合物は、局所緩衝剤として作用することができ、その効果は空洞内でのみ観察される。
【0053】
第1の実施形態によれば、第1の金属はコバルトであり、第2の金属はマンガンである。第2の実施形態によれば、第1の金属はコバルトであり、第2の金属は亜鉛である。第3の実施形態によれば、第1の金属は銅であり、第2の金属はマンガンである。第4の実施形態によれば、第1の金属は銅であり、第2の金属は亜鉛である。
【0054】
例えば、電解液は、
・質量濃度が1g/L~5g/LのコバルトIIイオン、
・質量濃度が1g/L~5g/Lの塩化物イオン、
・コバルトIIイオンの質量濃度と亜鉛IIイオンの質量濃度との比が15/1~20/1となるような質量濃度の亜鉛IIイオン、
・pHを2.0~2.4とするのに十分な量の無機酸、及び
・濃度が10mg/L~20mg/Lの1つのみの有機添加物
を含む水溶液である。
【0055】
この例では、有機添加物は酒石酸であってもよい。
【0056】
同様に、本発明は、空洞を充填するための電気化学プロセスであって、上記空洞の開口部における平均幅又は平均直径は15nm~100nmであり、深さは50nm~250nmであり、
・上記空洞の導電性表面に、上記記載に従った電解液を接触させる工程、
・コバルト、銅及びこれらの混合物から選択される第1の金属と、マンガン、亜鉛及びこれらの混合物から選択される第2の金属との合金を堆積させて上記空洞のコンフォーマルかつ完全な充填を実施するのに十分な時間、上記導電性表面を分極する工程、及び
・上記分極工程の終了時に得られた合金の堆積物をアニーリングする工程であって、上記アニーリングは、上記金属を移動させることで、上記金属を主に含み、厚さが0.5nm~2nmの第1の層と、本質的にコバルト又は銅を含む第2の層とを形成する温度で行われる工程
を含むプロセスに関する。
【0057】
上記アニーリング工程はまた、コバルト又は銅の結晶性を改善し、堆積物中の材料空隙を抑制することができる。
【0058】
特定の一実施形態では、上記導電性表面は、厚さが1nm~10nmの金属シード層の第1の表面であり、上記金属シード層は、二酸化ケイ素を含む誘電体材料と接触する第2の表面を有する。上記金属シード層は、コバルト、銅、タングステン、チタン、タンタル、ルテニウム、ニッケル、窒化チタン及び窒化タンタルからなる群から選択される金属を含むことができる。
【0059】
特定の一実施形態では、上記シード層はコバルトシード層である。本発明のプロセスは、1つ又は2つの非ポリマー有機添加物を含む、若しくはpKaが1.8~3.5、好ましくは2.0~3.5、より好ましくは2.2~3.0である1つ以上の化合物を5mg/L~200mg/L含む上述の電解液の1つを用いて実施することができる。
【0060】
本発明のプロセスの充填工程が実施される間、空洞内のpHは、使用する電解液の種類に応じて、有利には3.5未満、又は3.0未満に維持される。
【0061】
空洞は、ダマシンプロセス又はデュアルダマシンプロセスの実施を考慮して設計することができる。空洞は、特に、以下の工程を実施することによって得ることができる。
・シリコン基板に構造体をエッチングする工程
・構造体のシリコン面に酸化ケイ素の層を形成し、酸化ケイ素面を形成する工程
・上記酸化ケイ素の層の上に金属の層を堆積させて、空洞に導電性表面を付与する工程
【0062】
上記金属層は、好ましくは、厚さが1nm~10nmの金属シード層である。上記金属シード層は、好ましくは、シリコンと接触している酸化ケイ素の層の上に堆積される。上記金属は、コバルト、銅、タングステン、チタン、タンタル、ルテニウム、ニッケル、窒化チタン及び窒化タンタルからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含んでもよい。上記金属層はコバルト層を含むことが好ましい。第1の実施形態では、上記金属層はコバルト層から構成される。第2の実施形態では、上記金属層は、コバルト層と、コバルト拡散障壁性を有する材料の層とを含む。上記金属層は、当業者に公知の任意の適切な方法によって堆積できる。
【0063】
本発明のプロセスは、従来の「ボトムアップ」又は「スーパーコンフォーマル」プロセスとは対照的に、「コンフォーマル」プロセスであり、本発明のコンフォーマル充填プロセスでは、コバルト合金又は銅合金堆積物は、充填される中空パターンの底部及び壁部において同じ速度で成長する。この充填モードは、コバルト合金の堆積速度が空洞の壁部よりも空洞の底部において高い従来技術の他のプロセスと対照的である。
【0064】
電着工程の終了時に堆積した合金のマンガン含有量又は亜鉛含有量は、好ましくは0.5原子%~10原子%であり、例えば1.0原子%~5.0原子%、又は1.5原子%~2.5原子%である。
【0065】
上記電気工程で行われる分極の強度は、好ましくは2mA/cm~50mA/cmであるが、アルカリ電解液を使用する従来技術のプロセスでは、一般に0.2mA/cm~1mA/cmである。
【0066】
本発明のプロセスの電気工程は、1つのみ又は複数の分極工程を含んでもよい。当該分極工程において、当業者は一般的な知識に基づいて変数を選択できる。
【0067】
上記電気工程を、ランプモード、ガルバノスタティックモード及びガルバノパルスモードからなる群から選択される少なくとも1つの分極モードを使用して実行してもよい。
【0068】
したがって、電気工程は、ガルバノパルスモードでの電着を少なくとも1工程、ガルバノスタティックモードでの電着を少なくとも1工程含むことができる。ガルバノスタティックモードでの電着工程は、好ましくはガルバノパルスモードでの電着工程の後に行われる。
【0069】
例えば、電気工程は、ガルバノパルスモードでカソード分極を行う第1工程を含み、3mA/cm~20mA/cmの電流、例えば12mA/cm~16mA/cmの電流を、好ましくは5ms~50msの時間(Ton)印加する状態と、好ましくは50ms~150msの時間(Toff)のゼロ分極状態とを交互に行う。
【0070】
この第1工程において、分極の前又は分極の後に基板を電解液と接触させてもよい。空洞との接触は、電圧を印加する前に行い、電解液と接触する金属層の腐食を制限することが好ましい。
【0071】
第2工程では、カソード分極は、3mA/cm~50mA/cmの範囲の電流を用いて、ガルバノスタティックモードで行うことができる。これら2つの工程の持続時間は、実質的に同じであることが好ましい。
【0072】
ガルバノスタティックモードにおける第2工程自体が、2つの工程、すなわち、電流の強度が3mA/cm~8mA/cmである第1工程と、電流の強度が9mA/cm~50mA/cmである第2工程とを含むことができる。
【0073】
この電気工程は、特に、電解液のpHが2.5~3.5である場合に使用され得る。
【0074】
別の例では、電気工程は、好ましくは0mA/cm~15mA/cm、好ましくは0mA/cm~10mA/cmの電流を使用してランプモードでカソード分極を行う第1工程と、その後、10mA/cm~50mA/cm、好ましくは8mA/cm~20mA/cmの電流を印加するガルバノスタティックモードの工程とを含む。この電気工程は、特に、電解液のpHが2.0~2.5である場合に使用され得る。
【0075】
電着工程は一般的に、合金堆積物が基板の平坦表面を覆った時に停止される。この場合、堆積物は、空洞内の物質と、空洞が形成された基板の表面を被覆する物質とを含む。表面を被覆する合金層の厚さは、50nm~400nmであり、例えば125nm~200nmであってよい。
【0076】
コバルト合金又は銅合金の堆積速度は、0.1nm/s~3.0nm/s、好ましくは1.0nm/s~3.0nm/s、より好ましくは1nm/s~2.5nm/sである。
【0077】
本発明のプロセスは、上述のように、充填終了時に得られた合金堆積物をアニーリングする工程を含む。
【0078】
このアニーリング熱処理は、50℃~550℃の温度で行うことができ、好ましくは、N中4%のH等の還元性ガスの下で行うことができる。
【0079】
低不純物含有量と低空隙率とを組み合わせると、抵抗率がより低いコバルト堆積物又は銅堆積物が得られる。
【0080】
アニーリング工程の間、合金中に存在するマンガン原子又は亜鉛原子は、導電性基板の表面に向かって移動し、その結果、2つの層、すなわち、本質的にコバルト又は銅を含む第1の層と、本質的にマンガン又は亜鉛を含む第2の層とが形成される。「本質的に」コバルトを含む層は、最大で100%、最小で95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%、及び99.9%からなる群から選択される量のコバルトを含む層であり得る。「本質的に」銅を含む層は、最大で100%、最小で95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%及び99.9%からなる群から選択される量の銅を含む層であり得る。「本質的に」マンガンを含む層は、最大で100%、最小で95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%及び99.9%からなる群から選択される量のマンガンを含む層であり得る。「本質的に」亜鉛を含む層は、最大で100%、最小で95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%及び99.9%からなる群から選択される量の亜鉛を含む層であり得る。これらのパーセンテージは原子%であり、当業者に公知の任意の方法で測定可能である。
【0081】
一実施形態において、導電性表面はコバルトシード層の表面であり、当該層は二酸化ケイ素を含む絶縁基板を被覆する。この実施形態では、マンガン原子又は亜鉛原子は、アニーリング工程中にコバルトシード層を通って移動し、第1シード層と二酸化ケイ素を含む絶縁基板との間の界面に到達する。
【0082】
本発明の電着及びアニーリングプロセスにより得られるコバルト堆積物又は銅堆積物の全不純物含有量は1000原子ppm未満であり、マンガン又は亜鉛は不純物とはみなされない。不純物は主に酸素を含み、次いで炭素及び窒素を含む。全炭素及び全窒素含有量は300ppm未満である。コバルト又は銅の堆積物は、有利には連続的である。堆積物の平均空隙率は、好ましくは10体積%又は表面積%未満、好ましくは5体積%又は表面積%以下である。コバルト又は銅の堆積物中の空隙率は、当業者に公知の電子顕微鏡法による観察で測定可能であり、当業者は最も適切であると思われる方法を選択する。これらの方法としては、倍率が50000~350000の走査型電子顕微鏡法(SEM)又は透過型電子顕微鏡法(TEM)が挙げられる。空隙容積は、充填された空洞を含む基板の1つ以上の断面で観察される空隙表面積を測定することで評価し得る。2つ以上の断面で2つ以上の表面積が測定される場合、これらの表面積の平均を計算して空隙容積を評価する。
【0083】
本質的にマンガン又は亜鉛を含む層は、平均厚さが0.5nm~2nmの連続層であることが好ましい。「連続」とは、当該層が誘電体基板の表面全体を覆い、誘電体基板の表面が透けて見えないことを意味する。当該層の厚さは、好ましくは、平均厚さに対して±10%変化する。
【0084】
上記プロセスは、基板の表面に存在する自然金属酸化物を低減する目的で、還元プラズマ処理を行う予備工程を含むことができる。プラズマは、溝の表面にも作用し、導電性表面と合金との間の界面の質を改善することができる。その後の電着工程は、自然酸化物の再形成を最小限に抑えるために、プラズマ処理の直後に行うことが好ましい。
【0085】
本発明のプロセスは、特に、表面に沿って延在する溝又は異なる集積レベルを接続するビア等の導電性金属相互接続部の製造時に、半導体デバイスの作成に適用される。
【0086】
最後に、本発明は、誘電体材料の層を含む金属相互接続部を備えた半導体装置に関する。上記誘電体材料の層は、本質的にマンガン又は亜鉛を含む層で覆われるとともに、この層と接触している。この層は、コバルト又は銅の層で覆われている。
【0087】
金属シード層は、本質的にマンガン又は亜鉛を含む層とコバルト又は銅の層との間に挿入されてもよく、これら2つの層の各々と接触していてもよい。
【0088】
相互接続部は、本質的にコバルト又は銅で構成されており、上述のプロセスによって得ることができる。この場合、相互接続部は、空洞を充填するコバルト又は銅の堆積物に相当する。相互接続部は、平均幅が15nm~100nm、平均深さが50nm~250nmであってよい。
【0089】
本質的にマンガン又は亜鉛を含む層は、有利には、厚さが0.5nm~2nmであり、二酸化ケイ素等の誘電体材料と接触している。
【0090】
本明細書では、1つの接着層材料と金属充填材料とを含み、上記接着層材料がマンガン又は亜鉛であり、上記金属充填材料がコバルト又は銅である金属相互接続構造を形成する方法についても述べる。上記接着層は、上記金属充填材料と上記接着層材料とを含む合金を無電解堆積させる第1の工程、及び得られた合金堆積物を熱アニーリング処理して、上記接着層材料と上記金属充填材料とを分離して2つの分離した領域、すなわち接着層と金属充填物とを形成する第2の工程からなる、多くても2つの工程によって形成される。このような方法は、基板内の誘電体層に開口部を形成し、上記開口部は、導電性表面を露出する工程と、コバルト又は銅である第1の金属と、マンガン又は亜鉛である第2の金属とを含む合金で開口部を無電解充填する工程と、上記合金を熱アニーリングする工程とを含む。この実施形態によれば、上記方法は、開口部を上記合金で無電解充填する前に、マンガンを含む接着層を形成する工程を含まない。
【0091】
上述の電解液及びプロセスに関する特徴は、適宜、本発明の半導体装置に適用することができる。
【0092】
実施例1:コバルトシード層を含む基板上への、pH=2.2の溶液からのコバルトと亜鉛との合金の電着
【0093】
コバルトシード層を含む平坦基板上に、コバルトと亜鉛との合金を電着した。コバルト(II)イオンの塩化物含有塩及び亜鉛(II)イオンの塩化物含有塩を含むpH2.2の組成物を用いて、酒石酸の存在下で堆積を行う。
【0094】
A.材料及び機器
基板
この例で使用される基板は、4×4cmのシリコン試験片からなる。このシリコンは、厚さ3nmのタンタル層に接した酸化ケイ素で覆われており、タンタル層自体は厚さ3nmのコバルト層で覆われ、CVDで堆積されている。測定された基板の抵抗率は約168Ω/□である。
【0095】
電着液
この溶液中のCo2+濃度は2.35g/Lであり、CoCl(HO)から得られる。Zn2+濃度は0.136g/Lであり、ZnClから得られる。酒石酸は15mg/Lで含まれる。
この溶液に塩酸を加えてpH=2.2に調整する。
【0096】
機器
本実施例で使用した電解堆積装置は、セル及び回転電極の2つの部分から構成されていた。セルは、電解液を収容するもので、系の流体力学を制御する流体再循環システムを備えていた。回転電極は、使用する試験片の大きさ(4cm×4cm)に適した試料ホルダを備えていた。電解堆積セルは下記2つの電極から構成されていた。
・コバルトアノード
・カソードを構成する、上記層で被覆されたシリコン試験片
リファレンスはアノードに接続される。
コネクタにより電極の電気的接触を可能にし、20V又は2Aまで供給するポテンショスタットに電線で接続した。
【0097】
B.実験プロトコル
準備手順
基板は、一般に、ウエハが古くなっているか、又は保管状態が悪いために、自然酸化コバルト層が大きすぎる場合にのみ、特別な処理を必要とする。保管は通常、窒素下で行われる。この場合、水素(純粋な水素、又は窒素中に4%の水素を含む混合ガスのいずれか)を含むプラズマを発生させる必要がある。
【0098】
電気プロセス
プロセスは以下のように実行される。50mA(又は11mA/cm)~120mA(又は26mA/cm)、例えば100mA(又は22.1mA/cm)の電流範囲で、連続ガルバニックモードでカソード分極を行った。この工程は、60rpmの回転で1時間行った。電解液は、電圧を印加する前に、基板に5秒間接触させる。合金の堆積速度は3.3nm/sである。別の実施形態では、80mA(又は17.6mA/cm)~160mA(又は35.2mA/cm)、例えば130mA(又は28.6mA/cm)の電流範囲で、ガルバノパルスモードでカソード分極を行い、パルス持続時間はカソード分極時には5ms~1000ms、2つのカソードパルス間のゼロ分極時には5ms~1000msであった。
【0099】
アニーリング
400℃、水素含有雰囲気下(窒素中4%水素)で30分間アニーリングを行い、SiOとコバルトとの界面へ亜鉛を移動させた。
【0100】
C.得られた結果
走査電子顕微鏡法によるプロファイル解析の結果、合金の厚さはおよそ200nmであった。この厚さは、アニーリング後にわずかに減少し、190nmとなった。アニーリング前のXPS分析によれば、合金中には2原子%程度の亜鉛が存在していた。しかしながら、アニーリング後に同様の形式で分析を行うと、SiO-コバルト界面及び最も外側の表面の両方に向かって亜鉛が移動していた。一方、酸素、炭素及び窒素による全汚染率が600原子ppmを超えることはなかった。