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特許7273185ロボット用の座標系アライメント方法及びアライメントシステム並びにアライメント装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ロボット用の座標系アライメント方法及びアライメントシステム並びにアライメント装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20230502BHJP
   B25J 9/10 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B25J13/08 A
B25J9/10 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021562554
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042870
(87)【国際公開番号】W WO2021111868
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316007779
【氏名又は名称】ジック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 勇政
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-137840(JP,A)
【文献】特開平08-132373(JP,A)
【文献】特開平11-033962(JP,A)
【文献】特開2018-034272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0080575(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111504183(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10-19/02
G01B 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作点を三次元的に移動するためのロボットの座標系であるロボット座標系と、光切断法を実行可能であり前記動作点に対する位置及び姿勢が不変である三次元計測器の座標系である計測器座標系をアライメントする方法であって、
前記動作点の動作空間の座標系である動作空間座標系における原点に位置する第1基準点、該第1基準点で直交する2つの直線上にそれぞれ位置する第2基準点及び第3基準点に前記動作点を移動させて各基準点の位置をティーチングすることにより、前記動作空間座標系と前記ロボット座標系の関係を決定し、
前記動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に配置された板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対し、前記三次元計測器からシート状のスリット光を照射して、該スリット光による前記参照物体への投映線を取得し、
前記投映線のプロファイルに基づいて、前記参照物体に対する前記三次元計測器の姿勢を求め、
前記三次元計測器の姿勢が所定の基準姿勢範囲内に入るように前記三次元計測器を移動させる
工程を有するものであって、
前記動作空間座標系として、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定し、
前記動作点を、前記基準動作空間座標系の原点と前記参照動作空間座標系の原点の間で移動させて並進変位及び回転変位を取得し、
前記並進変位及び回転変位に基づいて、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を求め、
前記基準動作空間座標系と前記参照動作空間座標系のそれぞれにおいて、前記三次元計測器の姿勢が前記所定の基準姿勢範囲内に入るように該三次元計測器を移動させて対象物の三次元計測データを取得し、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記変換行列を用いて前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して該基準動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データと統合する
ことを特徴とするロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項2】
前記三次元計測器の姿勢が所定の基準姿勢範囲内に入るように前記三次元計測器を移動させたあと、さらに、
前記参照物体の所定位置の、前記動作空間座標系における座標と、前記計測器座標系における座標を比較して差分を求め、
前記計測器座標系を前記差分だけシフトさせる
工程を有することを特徴とする請求項1に記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項3】
前記動作空間座標系において、前記第1基準点が原点であり、前記第2基準点及び前記第3基準点が該座標系の軸上の点である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項4】
前記参照物体の三辺が前記動作空間座標系の三軸に平行になるように該参照物体が配置されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項5】
前記スリット光が、前記計測器座標系の一軸方向に幅を有し、該計測器座標系の別の一軸方向に発せられる光である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項6】
複数のロボットのそれぞれについて、複数の前記動作空間座標系であって、そのうちの1つが少なくとも別の1つのロボットについて設定される動作空間座標系と共通である、複数の動作空間座標系を設定し、
前記複数のロボットに設定された全ての動作空間座標系のうちの1つを前記基準動作空間座標系、他を参照動作空間座標系とし、
前記複数のロボットに設定された座標系のうち、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を作成し、
前記複数のロボットのそれぞれについて設定された前記複数の動作空間座標系のそれぞれにおいて前記対象物の三次元計測データを取得し、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して統合する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項7】
前記基準動作空間座標系が前記複数のロボットの全てに対して設定される
ことを特徴とする請求項6に記載のロボット用の座標系アライメント方法。
【請求項8】
動作点を三次元的に移動するためのロボットの座標系であるロボット座標系と、光切断法を実行可能であり前記動作点に対する位置及び姿勢が不変である三次元計測器の座標系である計測器座標系をアライメントするシステムであって、
前記動作点の動作空間の座標系である動作空間座標系における原点に位置する第1基準点、該第1基準点を通り直交する2つの直線上にそれぞれ位置する第2基準点及び第3基準点に前記動作点を移動させて各基準点の位置をティーチングすることにより、前記動作空間座標系と前記ロボット座標系の関係を決定する動作空間座標系設定部と、
前記動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に配置された板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対し、前記三次元計測器からシート状のスリット光を照射して、該スリット光による前記参照物体への投映線を取得する投映線取得部と、
前記投映線のプロファイルに基づいて、前記参照物体に対する前記三次元計測器の姿勢を求める計測器姿勢算出部と、
前記三次元計測器を移動させる計測器移動部と
を備え、
前記動作空間座標系設定部が、前記動作空間座標系として、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定するものであり、
さらに、
前記動作点を、前記基準動作空間座標系の原点と前記参照動作空間座標系の原点の間で移動させて並進変位及び回転変位を取得する変位取得部と、
前記並進変位及び回転変位に基づいて、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を求める変換行列算出部と、
前記基準動作空間座標系と前記参照動作空間座標系のそれぞれにおいて、前記計測器移動部により前記三次元計測器の姿勢が所定の基準姿勢範囲内に入るように該三次元計測器を移動させ、対象物の三次元計測データを取得する三次元計測データ取得部と、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記変換行列を用いて前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して該基準動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データと統合する三次元計測データ統合部と
を備えることを特徴とするロボット用の座標系アライメントシステム。
【請求項9】
さらに、
複数のロボット
を備え、
前記動作空間座標系設定部が、前記複数のロボットのそれぞれについて、複数の前記動作空間座標系であって、そのうちの1つが少なくとも別の1つのロボットについて設定される動作空間座標系と共通である複数の動作空間座標系を設定するとともに、該複数のロボットに設定した動作空間座標系のうちの1つを前記基準動作空間座標系、他を参照動作空間座標系として設定し、
前記変換行列算出部が、前記複数のロボットに設定された座標系のうち、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を作成し、
前記三次元計測データ統合部が、前記複数のロボットのそれぞれについて設定された前記複数の動作空間座標系のそれぞれにおいて前記対象物の三次元計測データを取得し、
前記三次元計測データ統合部が、前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して統合する
ことを特徴とする請求項8に記載のロボット用の座標系アライメントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に対して所定の動作を実行するロボットの動作を制御する基準となる座標系と、該ロボットに取り付けて用いられる三次元計測器の座標系をアライメントする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の製造ラインでは、製品の組み立てや加工の効率を高めるために産業用ロボットが用いられている。産業用ロボットは、先端部を三次元的に移動可能なアームと、該先端部に取り付けられ被処理物に所定の処理を施す治具とを備えている。また、アームの先端部には三次元計測器が取り付けられており、例えば光切断法により被処理物を三次元的に計測してその位置及び向きを特定する。
【0003】
産業用ロボットには、製造時等に予めメーカによって座標系が設定されており、アームの動作はその座標系に基づいて制御される。一方、前記三次元計測器は、該三次元計測器自身が有する座標系に基づく計測結果を出力する。従って、三次元計測器により位置及び向きが特定された被処理物の処理対象の位置に治具を移動するには、ロボットの座標系と三次元計測器の座標系を整合させる(アライメントする、又はキャリブレーションするとも言う)必要がある。
【0004】
従来、両座標系のアライメントには行列演算によるアフィン変換が用いられている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載のアライメント方法では、アームの先端に取り付けた三次元計測器を、同一直線上にない3つの位置に移動させ、それぞれの位置で対象物の同一箇所を計測して、三次元計測器の座標系での座標値を取得する。そして、前記3つの位置のロボットの座標系での座標値と、各位置で取得した三次元計測器の座標系での座標値を用いて行列を作成し、それらの行列から得られる方程式を解くことにより三次元計測器の座標系をロボットの座標系に変換する変換行列を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-132373号公報
【文献】特開2019-184340号公報
【文献】特開平7-239219号公報
【文献】特開2010-91540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のアライメント方法では、変換行列を得るために、3つの位置のそれぞれに対応する行列の式を展開して複雑な方程式を解く必要がある。また、ロボットの動作を制御するプログラムの開発環境(開発言語)はメーカによって異なる。そのため、種々のプログラム言語を理解して行列演算を行うことが可能な熟練者でなければアライメントを行うことが難しいという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熟練者でなくても容易にロボット座標系のアライメントを行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、動作点を三次元的に移動するためのロボットの座標系であるロボット座標系と、光切断法を実行可能であり前記動作点に対する位置及び姿勢が不変である三次元計測器の座標系である計測器座標系をアライメントする方法であって、
前記動作点の動作空間の座標系である動作空間座標系における原点に位置する第1基準点、該第1基準点で直交する2つの直線上にそれぞれ位置する第2基準点及び第3基準点に前記動作点を移動させて各基準点の位置をティーチングすることにより、前記動作空間座標系と前記ロボット座標系の関係を決定し、
前記動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に配置された板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対し、前記三次元計測器からシート状のスリット光を照射して、該スリット光による前記参照物体への投映線を取得し、
前記投映線のプロファイルに基づいて、前記参照物体に対する前記三次元計測器の姿勢を求め、
前記三次元計測器の姿勢が所定の基準姿勢範囲内に入るように前記三次元計測器を移動させる
工程を有することを特徴とする。
【0009】
上記姿勢とは、座標系の軸や所定面などの基準に対する傾きや向きを意味する。また、光切断法を実行可能な三次元計測器とは、計測器座標系に対する姿勢が既知であるスリット光を対象物に照射し、該スリット光による対象物の各面への投映線のデータを取得して、該対象物の三次元形状に関する情報を取得可能な計測器をいう。さらに、上記動作空間とは、ロボットの動作点が動作する空間をいう。
【0010】
本発明の第1の態様に係るアライメント方法では、まず、動作空間座標系における原点に位置する第1基準点、該第1基準点で直交する2つの直線上にそれぞれ位置する第2基準点及び第3基準点のそれぞれにロボットの動作点を移動させて各基準点の位置をティーチングし、ロボット座標系と動作空間座標系の関係を決定する。つまり、第1基準点及び第2基準点により動作空間座標系の第1軸が規定され、第1基準点及び第3基準点により第2軸が規定され、さらに、これらの二軸に直交する軸として第3軸が規定される。
【0011】
次に、動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対して、三次元計測器からスリット光を照射して、該スリット光による参照物体の各面への投映線を取得する。そして、取得した投映線のプロファイルに基づいて参照物体に対する三次元計測器の姿勢を求める。この投映線のプロファイルには、参照物体の上面への投映線の長さ、及び該参照物体の上面への投映線と板状部材の面(参照物体が載置されている面)への投映線の間の距離、及び三次元計測器の座標軸に対するそれらの投映線の傾きが含まれる。そして、三次元計測器の姿勢が所定の基準姿勢範囲内に入るように三次元計測器を移動させる。投映線のプロファイルから三次元計測器の姿勢を求める具体的な方法は後述する。
【0012】
ここで、理解を容易にするため、参照物体が動作空間座標系の二軸(これをX軸及びY軸とする)を含む平面上に、Z軸とも平行になるように配置されており、また、シート状のスリット光が計測器座標系X'軸方向に幅を有してZ'軸方向に照射され、さらに、三次元計測器の姿勢が参照物体に対して略平行となる(即ち、この例ではロボット座標系と計測器座標系の3軸が相互に略平行である)ように基準姿勢範囲が設定されている場合の具体的な一例を説明する。このとき、計測器座標系の三軸が動作空間座標系の三軸と平行に(従って、参照物体の三辺とも平行に)なっていれば、参照物体の上面に照射されるスリット光の長さは該参照物体の上面の幅と一致する。また、参照物体の上面への投映線と板状部材の面(参照物体が載置されている面)への投映線の間の距離は、参照物体の高さに基づく所定の値となる。さらに、これらの投映線は三次元計測器のX'軸に対して平行になる。
【0013】
一方、計測器座標系が、動作空間座標系のZ軸周りに大きく回転しているほど参照物体の上面に照射されるスリット光の長さが長くなる。また、計測器座標系が前記平面内の一軸(これをY軸とする)周りに動作空間座標系に対して傾いていると、参照物体の上面への投映線と板状部材の表面(参照物体が固定されている面)への投映線の、三次元計測器のX’軸に対する傾きが大きくなる。また、参照物体の側面にスリット光が照射された切断線が現れうる。さらに、計測器座標系が水平方向の別の軸(これをX軸とする)周りに動作空間座標系に対して大きく傾いているほど、参照物体の上面への投映線と板状部材の面への投映線の間の距離が長くなる。従って、これらの情報から、参照物体に対する三次元計測器の姿勢(この例では動作空間座標系の三軸のそれぞれに対する計測器座標系の軸の傾き)が求められる。
【0014】
そして、いずれかの傾きが予め決められた閾値よりも大きい場合には、該傾きの全てが該閾値を下回るように三次元計測器を移動させる。これは、例えば、使用者が参照物体に対する三次元計測器の姿勢を視認しつつコントローラを操作して参照物体に対して平行になるように三次元計測器を移動させ、その位置で前記傾きが全て前記閾値を下回っていることを確認することにより行うことができる。これにより、三次元計測器の姿勢が基準姿勢範囲内に入るように(この例では参照物体の三辺が延びる方向と計測器座標系の三軸を平行に)することができる。
【0015】
上記のとおり、本発明の第1の態様に係るアライメント方法ではプログラミング言語を用いた行列演算を行う必要がないため、熟練者でなくても容易にロボット座標系のアライメントを行うことができる。
【0016】
上記アライメント方法は、例えば1つの動作空間座標系の直交三軸のそれぞれに各辺が平行になるように配置された直方体状の参照物体に対して所定の基準姿勢となるように三次元計測器の姿勢を決定し、該位置及び姿勢で対象物を三次元計測する。つまり、上記アライメント方法では、1つの動作空間座標系に対して三次元計測器の1つの位置及び姿勢を決定し、当該位置及び姿勢で対象物の三次元計測データを取得することになる。工場の製造ライン等で組立や加工を行う対象物は、多くの場合、立体形状を有しており、1つの位置及び姿勢で対象物の三次元計測データを取得するのみでは陰になる部分が存在し、該部分について対象物の形状の情報を得ることができない。そこで、対象物の形状の情報を複数の方向から取得することが求められる。
【0017】
そこで、本発明の第2の態様に係るアライメント方法では、上記第1の態様において、
前記動作空間座標系として、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定し、
前記動作点を、前記基準動作空間座標系の原点と前記参照動作空間座標系の原点の間で移動させて並進変位及び回転変位を取得し、
前記並進変位及び回転変位に基づいて、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を求め、
前記基準動作空間座標系と前記参照動作空間座標系のそれぞれにおいて、前記三次元計測器の姿勢が前記所定の基準姿勢範囲内に入るように該三次元計測器を移動させて対象物の三次元計測データを取得し、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記変換行列を用いて前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して該基準空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データと統合する
ように構成することが好ましい。
【0018】
上記第2の態様のアライメント方法では、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定する。そして、両座標系の原点の間でロボットの動作点を移動させ、該移動による並進変位及び回転変位を取得し、該変位に基づいて参照動作空間座標系を基準動作空間座標系に変換する変換行列を求める。その後、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系のそれぞれにおいて三次元計測器により対象物の三次元計測データを取得し、上記変換行列を用いて参照動作空間座標系で取得した当該三次元計測データを基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して統合する。この態様のアライメント方法では、複数の位置及び姿勢で対象物を三次元計測し、陰になる部分のない対象物の形状の情報を得ることができる。
【0019】
ロボットの動作点の可動範囲はアームの長さによって決まり、ロボットに対して対象物が大きいと、1台のロボットのみでは当該対象物の反対側までアームが届かず、当該対象物の一部の三次元計測データを取得することができない場合がある。
【0020】
そこで、本発明の第3の態様に係るアライメント方法では、上記第2の態様において、
複数のロボットのそれぞれについて、複数の前記動作空間座標系であって、そのうちの1つが少なくとも別の1つのロボットについて設定される動作空間座標系と共通である、複数の動作空間座標系を設定し、
前記複数のロボットに設定された全ての動作空間座標系のうちの1つを前記基準動作空間座標系、他を参照動作空間座標系とし、
前記複数のロボットに設定された座標系のうち、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を作成し、
前記複数のロボットのそれぞれについて設定された前記複数の動作空間座標系のそれぞれにおいて前記対象物の三次元計測データを取得し、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して統合する
ように構成するとよい。
【0021】
上記第3の態様のアライメント方法では、複数のロボットを用いて対象物の三次元計測データを取得するため、ロボットに比べて対象物が大きい場合でも陰になる部分がない、三次元形状の情報を得ることができる。
【0022】
上記課題を解決するために成された本発明の第4の態様は、動作点を三次元的に移動するためのロボットの座標系であるロボット座標系と、光切断法を実行可能であり前記動作点に対する位置及び姿勢が不変である三次元計測器の座標系である計測器座標系をアライメントするシステムであって、
前記動作点の動作空間の座標系である動作空間座標系における原点に位置する第1基準点、該第1基準点を通り直交する2つの直線上にそれぞれ位置する第2基準点及び第3基準点に前記動作点を移動させて各基準点の位置をティーチングすることにより、前記動作空間座標系と前記ロボット座標系の関係を決定する動作空間座標系設定部と、
前記動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に配置された板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対し、前記三次元計測器からシート状のスリット光を照射して、該スリット光による前記参照物体のへの投映線を取得する投映線取得部と、
前記投映線のプロファイルに基づいて、前記参照物体に対する前記三次元計測器の姿勢を求める計測器姿勢算出部と、
前記三次元計測器を移動させる計測器移動部と
を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の第5の態様に係るアライメントシステムは、上記第4の態様において、
前記動作空間座標系設定部が、前記動作空間座標系として、基準動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定するものであり、
さらに、
前記動作点を、前記基準動作空間座標系の原点と前記参照動作空間座標系の原点の間で移動させて並進変位及び回転変位を取得する変位取得部と、
前記並進変位及び回転変位に基づいて、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を求める変換行列算出部と、
前記基準動作空間座標系と前記参照動作空間座標系のそれぞれにおいて、前記計測器移動部により前記三次元計測器の姿勢が前記所定の基準姿勢範囲内に入るように該三次元計測器を移動させ、対象物の三次元計測データを取得する三次元計測データ取得部と、
前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記変換行列を用いて前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して該基準空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データと統合する三次元計測データ統合部と
を備えるものとすることができる。
【0024】
また、本発明の第6の態様に係るアライメントシステムは、上記第5の態様において、さらに、
複数のロボット
を備え、
前記動作空間座標系設定部が、前記複数のロボットのそれぞれについて、複数の前記動作空間座標系であって、そのうちの1つが少なくとも別の1つのロボットについて設定される動作空間座標系と共通である複数の動作空間座標系を設定するとともに、該複数のロボットに設定した動作空間座標系のうちの1つを前記基準動作空間座標系、他を参照動作空間座標系として設定し、
前記変換行列算出部が、前記複数のロボットに設定された座標系のうち、前記参照動作空間座標系を前記基準動作空間座標系に変換する変換行列を作成し、
前記三次元計測データ統合部が、前記複数のロボットのそれぞれについて設定された前記複数の動作空間座標系のそれぞれにおいて前記対象物の三次元計測データを取得し、
前記三次元計測データ統合部が、前記参照動作空間座標系で取得した前記対象物の三次元計測データを、前記基準動作空間座標系の三次元計測データに変換して統合する
ものとすることができる。
【0025】
上記課題を解決するために成された本発明の第7の態様は、動作点を三次元的に移動するためのロボットの座標系であるロボット座標系に予め対応付けられた前記動作点の動作空間の座標系である動作空間座標系と、光切断法を実行可能であり前記動作点に対する位置及び姿勢が不変である三次元計測器の座標系である計測器座標系をアライメントするために用いられる装置であって、
前記動作空間座標系を規定する直交三軸のうちの二軸が載る平面に対して平行に配置された板状部材の表面に、該直交三軸のそれぞれに対して各辺が平行になるように固定された直方体状の参照物体に対し、前記三次元計測器からシート状のスリット光を照射して、該スリット光による前記参照物体への投映線を取得する投映線取得部と、
前記投映線のプロファイルに基づいて、前記参照物体に対する前記三次元計測器の姿勢を求める計測器姿勢算出部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るロボット用の座標系アライメント方法、アライメントシステム、又はアライメント装置を用いることにより、熟練者でなくても容易にロボット座標系のアライメントを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るロボット用の座標系アライメント装置及びアライメントシステムの第1実施例を含むロボットシステムの概略構成図。
図2】第1実施例の三次元センサの構成を説明する図。
図3】三次元センサのスリット光照射部とエリアセンサの配置を説明する図。
図4】本発明に係るロボット用の座標系アライメント方法の第1実施例に関するフローチャート。
図5】第1実施例において用いるアライメント治具について説明する図。
図6】第1実施例におけるスリット光によるブロックへの投映線について説明する図。
図7】第1実施例において得られる投映線のプロファイルの一例。
図8】本発明に係るロボット用の座標系アライメント装置及びアライメントシステムの第2実施例を含むロボットシステムの概略構成図。
図9】第2実施例のロボットシステムにおける制御・処理部の構成を説明する図。
図10】本発明に係るロボット用の座標系アライメント方法の第2実施例に関するフローチャート。
図11】第2実施例における動作空間座標系の関係を説明する図。
図12】第2実施例のロボットシステムを用いて対象物の三次元計測データを統合した結果。
図13】本発明に係るロボット用の座標系アライメント装置及びアライメントシステムの第3実施例を含むロボットシステムの概略構成図。
図14】本発明に係るロボット用の座標系アライメント方法の第3実施例に関するフローチャート。
図15】第3実施例における動作空間座標系の関係を説明する図。
図16】第3実施例の変形例におけるロボットの配置及び動作空間座標系の関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施例>
本発明に係るロボット用の座標系アライメント方法、アライメントシステム、及びアライメント装置の第1実施例について、以下、図面を参照して説明する。図1は、第1実施例のロボット用の座標系アライメントシステム及び装置(以下、「アライメントシステム」及び「アライメント装置」と呼ぶ。)を含むロボットシステム1の要部構成図である。
【0029】
第1実施例のロボットシステム1は、ロボット2と、該ロボット2を操作するためのコントローラ3を備えている。
【0030】
ロボット2は、先端に動作点20が設けられたアーム部21と、該アーム部21を三次元的に移動させるための直動機構22a~22c及び回転機構23a~23cを備えている。直動機構22a~22c及び回転機構23a~23cは、コントローラ3による制御の下で動作する。コントローラ3は後述するティーチングによって動作空間座標系とロボット座標系の関係を決定するための動作空間座標系設定部31を、機能ブロックとして有している。
【0031】
アーム部21の動作点20の近傍には、三次元センサ4が着脱可能に取り付けられている。三次元センサ4は、図2に示すように、対象物にスリット光を照射するスリット光照射部41と、該スリット光の対象物への投映線を撮影するエリアセンサ42を備えている。これらには計測器座標系が定義されており、図3に示すように、光照射部41は計測器座標系のX’-Z’平面に対して角度θ1傾いた状態で配置され、エリアセンサ42は、X’-Z’平面を挟んでスリット光照射部41とは反対側に、同平面に対して角度θ2傾いた状態で配置されている。第1実施例におけるθ1は0であるが、これは本発明に必須の要件ではなく、θ1の角度が既知でありさえすれば、対象物への投映線がどのようにエリアセンサ42に捉えられるかを把握することができる。従って、該既知の角度に基づく適宜の演算処理によって以降に説明する処理を行うことができる。
【0032】
第1実施例ではスリット光照射部41はX’-Z’平面上に配置され、X’-Z’平面に沿ってスリット光を(X’軸方向に幅を有するスリット光をZ’軸方向に向かって)対象物に照射する。θ2は、例えば、30°から40°の範囲内の適宜の角度に設定される。第1実施例では、三次元センサ4として、該センサ4が有する光学系に含まれるレンズによって生じる収差や奥行き収差(カメラを斜め方向に向けたときに画角内で遠近法により生じる収差)を補正するものを使用する。これにより、後述する光切断法において正確な計測が行われ、座標系のアライメント精度が高くなる。
【0033】
三次元センサ4には、さらに、制御・処理部43が設けられている。制御・処理部43は、記憶部431の他に、機能ブロックとして、投映線取得部432、計測器姿勢算出部433、及び座標系シフト部434を備えている。第1実施例の制御・処理部43は三次元センサ4の内部に組み込まれた演算処理機構として構成されている。また、この制御・処理部43は、所定の通信インターフェース44を介して、使用者が適宜の入力指示を行うための入力部45と、計測結果等を表示するための表示部46に接続されている。制御・処理部43は、その他、三次元センサ4と別体で設けられ該三次元センサ4と通信可能に構成された携帯型端末等で構成することもできる。
【0034】
次に、図4のフローチャートを参照して第1実施例のアライメント方法の手順を説明する。
【0035】
まず、アライメント用の治具を用意する。アライメント用の治具5は、板状部材51と、該板状部材51の上に固定されたブロック52を含む。図5に示すように、板状部材51は、その上面が、ロボット2の動作点20を動作させる空間の座標系である動作空間座標系の二軸(X軸及びY軸)を含む平面と合致する位置に固定される。また、板状部材51の上面の、動作空間座標系の原点に対応する位置に基準点Aを、動作空間座標系のX軸上の所定の位置に基準点Bを、動作空間座標系のY軸上の所定の位置に基準点Cを、それぞれ設定する。即ち、基準点A及びBにより動作空間座標系のX軸方向が規定され、基準点A及びCにより動作空間座標系のY軸が規定される。
【0036】
ブロック52の大きさは、X軸方向の長さがW(mm)、Y軸方向の長さがL(mm)、Z軸方向の長さがH(mm)である。ブロック52のX軸方向の長さは、エリアセンサ42の視野に入る範囲内で、できるだけ長いことが好ましい。これにより、後述する処理を行う際にブロック52の上面に映るスリット光の投映線が長くなり、ブロック52に対する三次元センサ4の姿勢を求める際の精度が高くなる。
【0037】
一方、ブロック52のY軸方向の長さは、例えば10~100mmであり、ロボットの大きさ等を考慮して適宜に決めればよい。ブロック52のY軸方向を長くすることにより、ブロック52にスリット光を照射したときにスリット光の投映線とブロック52の一辺(動作空間座標系のX軸に平行な辺)が平行であるか否かを視認しやすくなる。ブロック52のY軸方向を短くしすぎると、スリット光の投映線がブロック52の一辺(動作空間座標系のX軸に平行な辺)を横切ってしまい、ブロック52の上面を横断する投映線を得ることが難しくなる。
【0038】
従来の座標系のアライメント方法では、動作点を正確に位置させるために可能な限り先端が尖った治具を用いることがあったが、先端が尖った治具を用いると光の拡散反射が生じやすく、動作点と治具の先端の位置関係を確認する際の撮像が困難になる場合があった。これに対し、第1実施例では後述する方法及び装置によって座標系のアライメントを行うため、先端が尖った治具を用いる必要がなく、直方体状のブロック52を用いればよいため拡散反射は生じず、容易かつ正確に後述する投映線等が撮像される。
【0039】
また、ブロック52の表面には、光の乱反射を抑えるための、つや消し処理が施されている。ブロック52には、例えばつや消しアルマイトからなるものを好適に用いることができる。ブロック52は、動作空間座標系において該ブロック52の底面の中心が予め決められた座標に位置するように、動作空間座標系の三軸に平行に配置される。こうしてアライメント用の治具が設置される(ステップ1。図5参照)。
【0040】
続いて、コントローラ3によりアーム部21を動かし、動作点20を基準点Aに移動させ、ロボット2に基準点Aの位置をティーチングする。同様に、動作点20を基準点B及びCにも移動させ、それらの位置をロボット2にティーチングする(ステップ2)。このとき、コントローラ3を使用者が自ら操作してもよく、あるいは動作空間座標系設定部31により動作点20を各基準点に移動させてもよい。その後、動作空間座標系設定部31は、基準点A、B、及びCの、動作空間座標系における座標をロボット2に登録し、該ロボット2に予め(例えば出荷時に)登録されているロボット座標系と動作空間座標系の関係を決定する。こうして、ロボット2に動作空間座標系が設定される(ステップ3)。
【0041】
ロボット2に動作空間座標系を設定した後、コントローラ3によりアーム部21を移動し、図5に示すように、三次元センサ4をブロック52の上方に位置させる(ステップ4)。図5では、ロボット2のうちアーム部21以外の図示を省略している。続いて、スリット光照射部41からブロック52に対してスリット光を照射し(ステップ5)、エリアセンサ42によりブロック52への投映線を取得する(ステップ6)。
【0042】
第1実施例におけるスリット光は、三次元センサ4の出力信号の基準となる計測器座標系の一軸(X'軸)方向に幅を持つ光であり、該計測器座標系の別の一軸(Z'軸)方向に発せられる。即ち、計測器座標系のX'-Z'平面に沿ったシート状のスリット光である(図6参照)。第1実施例の三次元センサ4は、該センサ4が有する光学系に含まれるレンズによって生じる収差や奥行き収差(カメラを斜め方向に向けたときに画角内で遠近法により生じる収差)を補正する。具体的には、二次元的に配列された画素のどの位置にスリット光が入射しているかを特定し、続いてその位置をキャリブレーションにより補正する。そして補正後の画素の位置から投映線のプロファイルを取得する。
【0043】
上述のとおり、ブロック52の三辺は動作空間座標系の三軸に平行に配置されており、また、スリット光はX'-Z'平面に沿ったシート状の光である。従って、動作空間座標系のX軸、Y軸、及びZ軸と、計測器座標系のX’軸、Y’軸、及びZ’軸がそれぞれ平行になっていると、ブロック52の上面への投映線は該ブロック52のX軸に平行な一辺の長さWと同一になる。また、ブロック52の上面への投映線と、板状部材51への投映線の間の距離は、ブロック52の高さH(及び三次元センサ4のエリアセンサ42がブロック及び板状部材51を捉える角度)に応じたものとなる。
【0044】
一方、計測器座標系が動作空間座標系に対して傾いている場合には、上記と異なる長さ及び距離を有する投映線が現れる。そうした場合に現れる、投映線について、図6及び7を参照して説明する。図6は、治具5(板状部材51及びブロック52)を基準にスリット光が斜方から照射された状態を示している。なお、図6では、角度α、β、及びγを分かりやすくするため、これらの角度を実際よりも大きくして投映線を示している。図7は、エリアセンサ42により計測された投映線に基づいて作成された表示例である。
【0045】
第1実施例の場合、エリアセンサ42がX’-Z'平面に対して角度θ2傾いた位置に配置され、斜め上方から投映線を撮影する。そのため、エリアセンサ42により捉えられる、ブロック52の上面への投映線と板状部材51への投映線の間の距離は実際よりも短くなる。そこで、投映線取得部432は、スリット光照射部41及びエリアセンサ42の配置(X’-Z’平面に対する角度θ1及びθ2)及び実際に計測された上記距離に基づいて該距離を補正し測定値hを求める。一方、ブロック52の上面への投映線の長さはそのまま測定値wとする。そして、図7に示すように測定値w, hを表示部46に表示する。
【0046】
ここで、図6及び7に示すように、ブロック52の上面への投映線の一端(ブロック52の側面への投映線も撮影されている場合は投映線の屈曲点)を通り計測器座標系のZ‘軸に平行な直線と、該一端を通り動作空間座標系のZ軸と平行な直線とがなす角度をα、エリアセンサ42の画角の一方向(横方向)と該エリアセンサ42で捉えられた投映線がなす角度をβ、ブロック52の上面への投映線と、該投映線の一端を通り動作空間座標系のX軸に平行な直線がなす角度をγ、と規定する。
【0047】
上記のように角度α、β、及びγを規定すると、ブロック52のX軸方向の長さW及びZ軸方向の長さHと、上記測定値w及びhとから、次式により角度α及びγが求められる。
α=cos-1(H/h)…(1)
γ=cos-1(W/w)…(2)
また、角度βは、上記の通りエリアセンサ42画角の横方向と、板状部材51への投映線がなす角度として求められる。
【0048】
計測器姿勢算出部433は、上記のようにして投映線のプロファイルから上記の角度α、β、及びγを算出し(ステップ7)、表示部46の画面にそれぞれの角度を表示する。
【0049】
上記角度α、β、及びγを算出すると、計測器姿勢算出部433は、それらの値が全て予め決められた値(所定値)以下であるかを判定する(ステップ8)。この所定値は、動作空間座標系の各軸と計測器座標系の各軸とが実質的に互いに平行であるであるとみなせる値に設定される。所定値は、例えば0.2度である。角度α、β、及びγが全て所定値以下であれば(ステップ8でYES)、後述するステップ10に進む。
【0050】
一方、いずれかの角度が所定値を上回っている場合には(ステップ8でNO)、使用者がコントローラ3を用いて三次元センサ4の姿勢を調整する(ステップ9)。そして、ステップ5に戻って再びブロック52にスリット光を照射し、上記角度α、β、及びγを算出して表示部46に表示するとともに、それらが全て所定値以下であるかを判定する(ステップ5~8)。これらの処理は、角度α、β、及びγが全て所定値以下になるまで繰り返し行う。第1実施例では、角度α、β、及びγを算出するごとに表示部46にそれらの値が表示されるため、使用者は角度α、β、及びγを確認し、計測器座標と動作空間座標がどの程度ずれているのかを直感的に把握することができる。また、その値の変化を確認しながら、ロボット2を用いて行おうとしている作業に求められる精度を考慮するなどして、どの程度まで両座標を合致させる必要があるかを判断することもできる。
【0051】
上記角度α、β、及びγが全て所定値以下になると(ステップ8でYES)、座標系シフト部434は、三次元センサからのスリット光をY'軸(動作空間座標系と計測器座標系が相互に平行であるため実質的にY軸と同じ)方向に走査してブロック52全体の三次元計測データを取得し、ブロック52の所定の位置(例えば動作空間座標系のX-Y平面上に位置する、ブロック52の底面の中心)の、計測器座標系における座標位置を求める(ステップ10)。そして、動作空間座標系におけるブロック52の上記所定の位置座標位置と比較して差分(シフト量)を求める(ステップ11)。最後に、計測器座標系を上記シフト量の大きさだけシフトさせることにより、計測器座標系と動作空間座標系を合致させる。
【0052】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。図8に示すように、第2実施例のロボットシステム100は、第1実施例のアライメントシステム1の構成に加えて制御・処理装置6を備えている。制御・処理装置6は、ロボット2、三次元センサ4、及びコントローラ3との間で通信可能に設けられている。
【0053】
図9に示すように、制御・処理装置6は、記憶部61のほかに、機能ブロックとして、変位取得部621、変換行列作成部622、三次元計測データ取得部623、及び三次元計測データ統合部624を備えている。制御・処理装置6の実体は、例えば一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた三次元計測データ処理用プログラム62を実行することにより上記の各機能ブロックが具現化される。ここでは三次元センサ4が有する制御・処理部43と制御・処理装置6をそれぞれ備えた構成としたが、三次元センサ4の制御・処理部43の機能の一部又は全部を制御・処理装置6に組み込んだ構成を採ることもできる。
【0054】
第2実施例における各部の動作及びデータ処理の流れについて、図10のフローチャートを参照して説明する。第1実施例と共通する動作や処理については適宜、説明を省略する。
【0055】
第1実施例では、1つの動作空間座標系に対して三次元センサ4の1つの位置及び姿勢を決定し、当該位置及び姿勢で対象物の三次元で計測データを取得する。そのため、対象物が立体形状である場合には、対象物を挟んで三次元センサ4と反対側の部分が陰になり、その部分を三次元計測することができない。
【0056】
そこで、第2実施例では、まず、使用者が、第1実施例と同様の手順で、ロボット2の姿勢に対応する複数の動作空間座標系を設定する。これら複数の動作空間座標系は、第1実施例における三次元計測では陰になる部分も三次元計測することができるように設定する。そして、これら複数の動作空間座標系のうちの1つを基準動作空間座標系とし、それ以外の動作空間座標系を参照動作空間座標系とする(ステップ21)。以下、参照動作空間座標系を2つ(第1参照動作空間座標系と第2参照動作空間座標系)、設定した場合を一例に説明する。以下、基準動作空間座標系をΣA、第1参照動作空間座標系をΣB、及び第2参照動作空間座標系をΣCと表記する。参照動作空間座標系の数は1つであっても良く、3つ以上であってもよい。
【0057】
次に、基準動作空間座標系ΣA、第1参照動作空間座標系ΣB、及び第2参照動作空間座標系ΣCのそれぞれについて、第1実施例と同様の手順により、三次元センサ4の位置及び姿勢を決定する(ステップ22)。
【0058】
基準動作空間座標系や参照動作空間座標系を設定する三次元空間に存在する点に関して座標系ΣBで表される位置ベクトルBrと座標系ΣAで表される位置ベクトルArの関係は次式で表される。
【数1】
【0059】
ここで、ATBは同次変換行列であり、回転変換BRAと平行移動BPAを要素として含む以下の行列で表すことができる。
【数2】
【0060】
この同次変換行列の行列要素を求めるには、座標系ΣAにおける、座標系ΣBの原点の位置と姿勢を求めればよい。
【0061】
具体的には、変位取得部621により、ロボット2の動作点20を、基準動作空間座標系ΣAの原点(xA=0, yA=0, zA=0, rxA=0, ryA=0, rzA=0)にセットし、続いて該動作点20を参照動作空間座標系ΣBの原点(xB=0, yB=0, zB=0, rxB=0, ryB=0, rzB=0)に移動させる(ステップ23)。そして、動作点20が参照動作空間座標系ΣBの原点にあるときの、基準動作空間座標系ΣAにおける並進変位及び回転変位を取得する。これは、ロボット2の動作を制御するコントローラ3から読み出すことができる。変換行列作成部622は、これらの並進変位及び回転変位に基づいて同次変換行列ATBを作成する(ステップ24)。この同次変換行列ATBは基準動作空間座標系ΣBにおける座標を参照動作空間座標系ΣAにおける座標に変換するものである。
【0062】
第2参照動作空間座標系ΣCについても上記同様の処理を行うことにより、第2参照動作空間座標系ΣCを基準動作空間座標系ΣAに変換する同次変換行列ATCが得られる。
【0063】
次に、三次元計測データ取得部623は、基準動作空間座標系ΣA、第1参照動作空間座標系ΣB、及び第2参照動作空間座標系ΣCのそれぞれにおいて、対象物の三次元計測データを取得する(ステップ25)。そして、三次元計測データ統合部624が、第1参照動作空間座標系ΣB及び第2参照動作空間座標系ΣCにおける対象物の三次元計測データをそれぞれ、同次変換行列ATBATCによって基準動作空間座標系ΣAの三次元計測データに変換する(ステップ26。図11)。三次元計測データ統合部624は、こうして得られた基準動作空間座標系ΣAにおける対象物の三次元計測データと基準動作空間座標系ΣAで取得した対象物の三次元計測データを統合し(ステップ27)、表示部66の画面に表示する(ステップ28)。使用者は、入力部65を通じた適宜の操作により、表示部66の画面に表示される対象物の三次元計測データを回転させる等して該対象物の形状を任意の方向から確認することができる。
【0064】
図12に、3つの異なる動作空間座標系にそれぞれ対応する位置及び姿勢で三次元センサ4により取得した、対象物の三次元計測データを統合した結果を示す。図12(a)は対象物の光学画像であり、図12(b)は3つの異なる座標系で取得した対象物の三次元計測データを統合した結果である。第2実施例では、ロボット2の動作点20を基準動作空間座標系の原点と参照動作空間座標系の原点の間で移動させて並進変位及び回転変位を取得し、該変位に基づいて参照動作空間座標系を基準動作空間座標系に変換する変換行列を求めるのみで、異なる動作空間座標系に対応する位置及び姿勢により三次元センサ4で取得した3つの三次元計測データを簡便に統合することができる。
【0065】
三次元計測データを処理する技術として、例えば特許文献2-4に記載のものが従来提案されている。しかし、これらの方法では、例えばせん断変形やスケーリングによって三次元計測データの分解能が低下する場合がある。また、これらの技術では、データ統合の際に同次変換行列の要素を求める複雑な計算を行う必要があり、例えば、ロボットの動作空間座標系とは別に、複数の位置の座標値を求め、それらから同次変換行列を得る必要がある。しかし、ロボットシステムが多く用いられている工場等の作業現場においてオペレータがそのように高度な演算処理を行うことは困難である。
【0066】
これに対し、第2実施例では、第1実施例と同様に、アライメント用の治具5を使って、動作空間座標系を設定する。そのため、特許文献2-4のようにせん断変形やスケーリングが生じることがなく、高い分解能及び精度を保ちつつ簡便に三次元計測データを統合することができる。
【0067】
<第3実施例>
第3実施例について説明する。図13に示すように、第3実施例のロボットシステム200は、複数のロボット2a、2b、各ロボット2a、2bの動作を制御するコントローラ3a、3b、及び制御・処理装置7を備えている。ロボット2a、2b、及びコントローラ3a、3bは第1実施例及び第2実施例におけるロボット2及びコントローラ3と同様の構成を備えている。また、制御・処理装置7は第2実施例における制御・処理装置6と同様の構成及び機能ブロックを備えている。ここでは、説明を簡単にするために2つのロボットを備えた構成としているが、3つ以上のロボット2を備えたシステムとしてもよい。
【0068】
第2実施例におけるロボット2の動作点20の可動範囲はアーム部21を移動させる直動機構22a~22cの長さによって決まり、ロボット2に対して対象物が大きいと、1台のロボット2のみでは当該対象物の反対側までアームが届かず、当該対象物の一部の三次元計測データを取得することができない場合がある。また、1台のロボット2のみを用いるシステムでは、同時に複数の方向から対象物の三次元計測データを得ることはできない。
【0069】
そこで、第3実施例では複数のロボット2を用いて対象物の三次元計測データを取得する。第3実施例における各部の動作及びデータ処理の流れについて、図14のフローチャートを参照して説明する。第1実施例又は第2実施例と共通する動作や処理については適宜、説明を省略する。
【0070】
はじめに、ロボット2aについて、連結動作空間座標系ΣAと参照動作空間座標系ΣBを設定する。また、ロボット2bについても、連結動作空間座標系ΣAと参照動作空間座標系ΣCを設定する。つまり、複数のロボット2に共通する連結動作空間座標系を設定し、各ロボット2に独自の参照動作空間座標系を設定する(ステップ31。図15参照)。連結動作空間座標系ΣAは、本発明の第3の態様及び第6の態様における基準動作空間座標系に相当する。なお、いずれか一方のロボットについては、連結動作空間座標系ΣAと参照動作空間座標系ΣBを同一の座標系としてもよい。
【0071】
次に、第1実施例と同様の手順により、各動作空間座標系における三次元センサ4の位置及び姿勢を決定する(ステップ32)。
【0072】
また、第2実施例と同様の手順により、各ロボット2a、2bに設定した参照動作空間座標系ΣB, ΣCを連結動作空間座標系ΣAに変換する同次変換行列を求める(ステップ33)。
【0073】
その後、各ロボット2a、2bのそれぞれにおいて参照動作空間座標系ΣB, ΣCで対象物の三次元計測データを取得する(ステップ34)。そして、参照動作空間座標系ΣB, ΣCにおける対象物の三次元計測データをそれぞれ、同次変換行列ATBATCによって連結動作空間座標系ΣAの三次元計測データに変換する(ステップ35。図15)。こうして、異なるロボット2a、2bに取り付けた三次元センサ4で取得した対象物の三次元計測データを、基準動作空間座標系ΣAにおける対象物の三次元計測データと統合することができる(ステップ36)。統合されたデータは表示部66の画面に表示される(ステップ37)。
【0074】
第3実施例では、複数のロボット2a、2bを使用するため、ロボット2のアームの長さによる制約を受けることなく、大きな対象物の全体の三次元計測データを取得することができる。また、同時に複数の方向から対象物の三次元計測データを得ることができる。
【0075】
上記の説明では、2台のロボット2について共通する連結動作空間座標系ΣAを設定したが、搬送される対象物を多数のロボット2に取り付けた三次元センサ4で計測する場合、全てのロボット2に共通する連結動作空間座標系を設定することが困難な場合がある。そうした場合には、複数のロボット2のそれぞれについて、複数の動作空間座標系であって、そのうちの1つが少なくとも別の1つのロボットについて設定される動作空間座標系と共通である、複数の動作空間座標系を設定すればよい。
【0076】
図16に第3実施例の変形例のロボットシステム300を示す。このロボットシステム300では、ベルトコンベア8により搬送される対象物9をモニタする。ベルトコンベア8を挟む一方の側には、対象物9の搬送方向に沿って複数のロボット2a、2b…が配置され、他方の側にも複数のロボット2e、2f…が配置されている。
【0077】
ロボット2aには基準動作空間座標系ΣAのみを設定する。また、ロボット2bには、連結動作空間座標系ΣAと参照動作空間座標系ΣBを設定する。ロボット2c以下についても、隣接配置されたロボット2と共通する連結動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定する。また、ベルトコンベア8を挟んでロボット2aの反対側に位置するロボット2eには、連結動作空間座標系ΣAと参照動作空間座標系ΣEを設定する。ロボット2f以下については、隣接配置されたロボット2と共通する連結動作空間座標系と参照動作空間座標系を設定する。
【0078】
第3実施例において説明した通り、これらの座標系は、それぞれに対応する同次変換行列を用いて相互に変換することができる。例えば、図16に示すとおり、ロボット2fの参照動作空間座標系ΣFで取得した三次元計測データは、2つの同次変換行列ETF及びATEで順に変換することにより基準動作空間座標系ΣAの三次元計測データに変換することができる。このように、変形例のシステム300では、1乃至複数の同次変換行列を用いて、全ての参照動作空間座標系で取得した対象物9の三次元計測データを基準動作空間座標系ΣAの三次元計測データに変換し、それらを結合する。これにより、搬送等により移動する対象物9を広い範囲でモニタすることが可能になる。
【0079】
上記実施例で説明した具体的な構成や数値はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0080】
上記実施例では、治具5を使用して両座標系のシフト量を求めた、同座標系をシフトさせて一致させる処理まで行ったが、これらの処理は必須ではない。例えば、実際にロボットを動作させる際に、計測器座標系で取得された位置に上記シフト量を加えて(あるいは減じて)動作空間座標系の位置に変換する処理を、実際にロボットを動作させる毎に行ってもよい。あるいは、動作空間座標系の三軸と計測器座標系の三軸を互いに平行にした後、別の治具を配置し、動作空間座標系と計測器座標系のそれぞれにおける、その治具の所定位置の座標の差からシフト量を求めることもできる。シフト量を求めるために使用する治具は必ずしも直方体状のものである必要はなく、上記所定位置を規定可能な適宜の形状のものを用いることができる。例えば、直方体状のブロック52の全体のプロファイルを取得する際にエッジ部分の形状を正確に計測することが難しい場合には、円筒状のブロックを用いるとよい。また、シフト量の算出に用いる治具はブロックに限らず、所定位置(例えばX-Y平面上に位置する中心と該中心からの高さの座標が既知であり、三次元センサ4によって三次元計測データを取得可能な、適宜のものを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
現在、製造業の現場では、人口の減少により、人力に代わるロボットの普及が急務とされている。しかし、ロボットと三次元計測器を使ったシステムの統合には高度な知識が必要とされるため、現場の作業員にとって必ずしも容易ではない。特に、様々なロボットメーカにより製造されたロボットが用いられる自動車産業などでは、ロボットメーカによって操作性が異なるために、その操作を熟知した専門の技術者の派遣が必要となる場合があり、人材の確保が難しく、また人材の育成も難しい。例えば、ロボットの使用中に、予期しない衝突等が起こり三次元計測器の取り付け位置がずれてしまうことがある。現場では速やかな復旧が求められるため、高度な知識を有することなく様々なロボットメーカにより製造されたロボットに共通して適用可能なアライメント技術が必要とされており、本発明を好適に用いることができる。
【0082】
産業用ロボットの普及と、産業用ロボットを制御するために用いるカメラなどのセンシング技術の高度化に伴い、外観検査やリバースエンジニアリングなどを目的として、対象物の外観だけでなく内観も含めたあらゆる三次元形状のデータを精度良く取得したいというニーズが増えてきている。また、その対象物のサイズも大きくなり、電車や自動車を丸ごとスキャンするようなニーズもある。しかし、従来技術をそのまま高度化したシステムは演算処理等の工程が複雑化し、ロボットだけでなく三次元計測に関するプログラミング等の技術にも精通したエンジニアではなければ対応することが困難になりつつある。
上記第2実施例や第3実施例では、ロボットに取り付けた三次元センサ等の計測器を用いて光切断法により対象物の三次元計測データを統合する際に、従来のように複雑な演算プログラムを必要とすることなく、オペレータが簡便な工程で、異なる座標系で取得した三次元計測データを統合することができる。
【符号の説明】
【0083】
1、100、200、300…ロボットシステム
2…ロボット
20…動作点
21…アーム部
22a~22c…直動機構
23a~23c…回転機構
3…コントローラ
31…動作空間座標系設定部
4…三次元センサ
41…スリット光照射部
42…エリアセンサ
43…制御・処理部
431…記憶部
432…投映線取得部
433…計測器姿勢算出部
44…通信インターフェース
45…入力部
46…表示部
5…治具
51…板状部材
52…ブロック
6、7…制御・処理装置
61…記憶部
62…三次元計測データ処理用プログラム
621…変位取得部
622…変換行列作成部
623…三次元計測データ取得部
624…三次元計測データ統合部 45…入力部
65…入力部
66…表示部
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