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特許7273206プレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法及びこれによって製造された溶融亜鉛めっき鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】プレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法及びこれによって製造された溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20230502BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022004970
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2019531475の分割
【原出願日】2017-12-13
(65)【公開番号】P2022050635
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2016-0170339
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ソン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ムン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】チャン、 ドゥ-チャン
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1677390(KR,B1)
【文献】特開2002-266062(JP,A)
【文献】特開2006-265614(JP,A)
【文献】特開2006-061953(JP,A)
【文献】特開2001-323358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0345339(US,A1)
【文献】WYKO Surface Profilers Technical Reference Manual,Veeco Metrology Group,1999年09月,Version 2. 2. 1,pp. 3-9~3-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、前記素地鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層とを含む溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、粗さスキューネス(Rsk)が-0.26以上であり、オイルポケット面積(V2)が350nm以上であり、変形率5%で加工した後の表面のろ波うねり(Wsa1-5)が0.35μm以下であり、単位長さ当たりのピーク数(RPc)が75個/cm以上である、プレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板(但し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を除く)。
【請求項2】
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、繰り返し摩擦係数が0.2以下である、請求項1に記載のプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板(但し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車外板などに用いられる溶融亜鉛めっき鋼板に関し、より詳細には、プレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法及びこれによって製造された溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき鋼板、特に溶融亜鉛めっき鋼板(GI)は、耐食性、溶接性、及び塗装性に優れ、自動車外板用鋼板として多く使用されている。そのため、優れたプレス成形性だけでなく、塗装後鮮映性が求められている。
【0003】
ところが、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層は、合金化過程で表面に微細な凹凸が形成される合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)とは異なり、純粋な亜鉛(イータ相、η相)で構成されており、めっき後の表面が平滑であり、被膜自体が柔らかいため、プレス成形時のプレス金型との凝着発生が原因となってめっき層が脱落するかじり(galling)現象が発生しやすいという欠点がある。
【0004】
かじり(galling)は、めっき層の一部が剥離された後、金型表面に冷間圧接され、新しい素材が続いて成形されるとき、素材の表面にスクラッチ(scratch)またはデント(dent)を発生させるか、成形における素材との摩擦により、金型表面に圧接されためっき層が剥離し、金型素材の一部をともに剥離させる現象を言う。
【0005】
このように、溶融亜鉛めっき鋼板のプレス成形時に発生するかじりは、めっき鋼板を素材として用いたプレス成形品の表面品質及び金型の寿命に多大な影響を与えるため、プレス加工コストを上昇させる要因となる。
【0006】
さらに、溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車部品などに加工してから塗装処理されるが、上記溶融亜鉛めっき鋼板の表面は、亜鉛の凝固組織であるスパングル(spangle)の形成による、粒界や表面凹凸の屈曲などという表面不均一を有するため、塗装後にもかかる不均一が残留し、塗装表面に物体を映した際に、像が歪曲して塗装後鮮映性を低下させる。
【0007】
塗装後鮮映性に影響を及ぼす要因は、塗装材料である溶融亜鉛めっき鋼板のオレンジピールや屈曲欠陥などの素材要因と、塗料や塗装条件などの塗装要因に区分することができる。
【0008】
最近では、塗装及び塗料技術の画期的な進歩に伴い、自動車会社では、コスト削減のために、電着塗装の下塗、プライマー塗装の中塗、ベースコーティング及びクリアコーティングの上塗で構成された従来の3コート塗装システムから、プライマー塗装の中塗を省略させたプライマー工程省略形2コート塗装システムへの適用を積極的に推進しつつある。
【0009】
ところが、上記プライマー塗装の目的は、塗装される溶融亜鉛めっき鋼板の表面に存在する可能性がある凹凸やオレンジピールなどの表面不均一性を調整する役割を果たすことであるが、かかるプライマー工程が省略されることによって塗装システム全厚さが大きく減少するだけでなく、プライマー塗装の機能を発揮できなくなり、結果として、溶融亜鉛めっき鋼板の不均一性が塗装後にもそのまま露出するおそれがある。
【0010】
そこで、プライマー工程省略形の2コート塗装システムの適用に伴い、塗装素材である溶融亜鉛めっき鋼板に対し、より厳格な表面品質が要求されているのが実情である。
【0011】
上述のように、溶融亜鉛めっき鋼板の自動車外板用として用いられるためには、プレス成形性及び塗装後鮮映性がともに要求されているが、従来技術では、以下のように個別の技術で対応するだけであった。
【0012】
例えば、特許文献1には、レーザ加工により規則的な凹凸を有する調質圧延ロールで圧延して溶融亜鉛めっき鋼板の単位面積当たりの凹部体積の合計が0.0001~0.01mmを有するようにすることで、溶融亜鉛めっき鋼板のプレス成形性を向上させることができることが開示されている。
【0013】
一方、溶融亜鉛めっき鋼板の塗装後鮮映性を向上させるための技術として、特許文献2~4が挙げられる。このうち、特許文献2は、固体粒子を溶融亜鉛めっき鋼板の表面に投射することで、溶融亜鉛めっき鋼板の平均表面粗さ(Ra)を0.3~3μm、ピーク数(PPI)を250/inch以上(RPcの場合、98個/cm以上)、及び平均波形度(Wca)を0.8μmに調整した技術である。特許文献3には、レーザ加工(LT)により、特許文献4には、電子ビーム加工(EBT)により調質圧延ロールを加工することで、ロールの粗さ及び波形度を調整したロールを用いて調質圧延しためっき鋼板の平均表面粗さ(Ra)、単位長さ当たりのピーク数(RPc)、及び平均波形度(Wca)を制御する方法が提案されている。
【0014】
ところが、上記特許文献1では、溶融亜鉛めっき鋼板の単位面積当たりの凹部体積の合計を一定値以上に調整しても、表面凹凸の形状に応じたオイル含有量及び摩擦特性を示すため、プレス成形時に非常に異なるかじり挙動を示すようになる。また、特許文献2~4では、様々な方法で調質圧延ロールに付与された、粗さによる溶融亜鉛めっき鋼板の形状プロファイルが除去されても、プレス成形後のめっき層に残存する素地原板の形状プロファイルが再び示され、塗装後にも維持されて写像性を阻害するという問題が発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平7-136701号公報
【文献】韓国公開特許第2002-0068525号公報
【文献】特開平6-75728号公報
【文献】特開平11-302816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の一側面は、塗装後の塗装欠陥が発生することなく、プレス加工時の摩擦の減少によるかじりが発生しない、溶融亜鉛めっき鋼板のプレス成形性及び塗装後鮮映性を向上させることができる方法及びこれによって製造されたプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することである。
【0017】
本発明の技術的課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全般から理解されることができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の追加的な課題を明確に理解するのに何の難しさもない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一側面は、素地鋼板を溶融亜鉛めっきすることで溶融亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、上記溶融亜鉛めっき鋼板を調質圧延機に装入して調質圧延する段階と、を含み、上記調質圧延する段階は、粗さスキューネス(Rsk)が-0.2以下、平均粗さ(Ra)が2μm以下であり、単位長さ当たりのピーク数(RPc)が140個/cm以上のロールを用いるプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。上述した条件を満たすロールとして、スーパーフィニッシングロールを挙げることができる。
【0019】
本発明の他の一側面は、上述した方法によって製造され、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層と、を含む溶融亜鉛めっき鋼板であって、上記溶融亜鉛めっき鋼板は、粗さスキューネス(Rsk)が-0.33以上であり、オイルポケット面積(V2)が350nm以上であるプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、プレス成形時のプレス金型との摺動摩擦抵抗を効果的に低減させることにより、プレス成形時にめっき層が脱落するというかじり(galling)現象を防止することができる溶融亜鉛めっき鋼板を提供するという効果を奏する。
【0021】
また、塗装後にも、オレンジピール(orange peel)のような塗装欠陥が発生しない、塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、調質圧延時に用いられたロールの粗さ付与方法による、5%加工後の溶融亜鉛めっき鋼板のろ波うねり(Wsa1-5)の測定結果を示すものである。
図2図2は、調質圧延時に用いられたロールの粗さ付与方法による、溶融亜鉛めっき鋼板の繰り返し摩擦係数の測定結果を示すものである。
図3図3は、ロールの平均粗さ(Ra)値による、5%加工後の溶融亜鉛めっき鋼板のろ波うねり(Wsa1-5)の測定結果を示すものである。
図4図4は、ロールの平均粗さ(Ra)値による、溶融亜鉛めっき鋼板の単位長さ当たりのピーク数(RPc)の測定結果を示すものである。
図5図5は、平均粗さ(Ra)値による、溶融亜鉛めっき鋼板の繰り返し摩擦係数の測定結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、自動車外板用溶融亜鉛めっき鋼板に要求される特性である、プレス成形性及び塗装後鮮映性をともに満たすことができる方案について深く研究した結果、上記プレス成形性及び塗装後鮮映性は調質圧延と密接な関係にあることが確認された。
【0024】
そこで、調質圧延ロールの形状、ロールの粗さ、及び操業条件を変更させながら、調質圧延した溶融亜鉛めっき鋼板の表面圧痕の形状及びサイズなど、溶融亜鉛めっき鋼板の塗装後鮮映性の関連因子である5%加工後のろ波うねりであるWsa1-5値、及びプレス成形性(かじり性)の関連因子である繰り返し摩擦係数の挙動を詳細に検討した。
【0025】
その結果、図1及び図2に示すように、ロールの平均粗さ(Ra)が2.8μmの調質圧延ロールの粗さ付与方法に応じて調質圧延した、溶融亜鉛めっき鋼板の5%加工後のろ波うねり(Wsa1-5)値及び繰り返し摩擦係数は、互いに異なる挙動を示すことが分かる。すなわち、Wsa1-5値は、クロムめっきによりロールの表面に陽刻で粗さを付与したクロムめっきロール(TCT、TopoChrom Texturing)を用いて調質圧延した溶融亜鉛めっき鋼板が、放電によりロールの表面に粗さを付与した放電ロール(EDT、Electro Discharge Texturing)及び放電ロールの微細凹凸の山(peak)部分を研磨したロールを用いて調質圧延した溶融亜鉛めっき鋼板に比べて小さい値を示すため、塗装後鮮映性に優れている。しかし、繰り返し摩擦係数は、山の部分を研磨したロールを用いて調質圧延した溶融亜鉛めっき鋼板が、クロムめっきロールまたは放電ロールを用いて調質圧延した場合に比べて小さい値を示すため、優れたプレス成形性を示した。
【0026】
特に、図2に示すように、クロムめっきロールまたは放電ロールを用いて調質圧延した溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、それぞれのロール加工条件及び操業条件を調整しても、かじりが発生しない繰り返し摩擦係数0.2以下に管理することが不可能であった。
【0027】
これに対し、山の部分を研磨したロールの場合には、微細凹凸の山(peak)部分の研磨レベル及び粗さを調整することにより、塗装後鮮映性及びかじり性をともに確保することが可能であることが確認できた。
【0028】
したがって、本発明では、溶融亜鉛めっき鋼板の調質圧延時に用いられるロールを制御し、上記溶融亜鉛めっき鋼板の粗さスキューネス(Roughness Skewness、Rsk)を調整することにより、潤滑油が残留する可能性があるオイルポケットの面積であるV2を大きくするとともに、ろ波うねり(Wsa1-5)値を制御することで、プレス成形性及び塗装後鮮映性を優れて確保することができる方法を提案する。
【0029】
ここで、微細凹凸(粗さ)の山(peak)と谷(valley)の大きさや形状を示す粗さ形状因子である粗さスキューネス(Rsk)は、山の高さと谷が深さの比(山の高さ/谷の深さ)を示すため、この値が正(+)の値を有する場合には山の高さが谷の深さよりも大きくなり、逆に負(-)の値を有する場合には山の高さが谷の深さよりも小さくなる。
【0030】
また、V2(Lubricant Filled Profile Valley Area)は、微細凹凸の潤滑油などの油が残留する可能性があるプロファイル面積を示す形状因子である。
【0031】
そして、ろ波うねりを示すWsa1-5(SEP1941規定)の数字1及び5は、カットオフ(cut off)値の下限及び上限を示すものである。「1」とは、形状プロファイルにおいて波長1mm以下の粗さ成分を除去する粗さカットオフ値(λc)を意味し、「5」は形状プロファイルにおいて5mm以上の粗大な形状を除去する粗大形状(form)のカットオフ値(λf)を意味する。したがって、形状プロファイルにおいて、塗装後の塗膜によって覆われる粗さ成分、及び、形状が粗大であって、オレンジピール欠陥などで観察されるものではない粗大形状(form)を除去した純粋なろ波うねりだけで示したものである。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0033】
本発明の一側面によるプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、素地鋼板を溶融亜鉛めっきすることでめっき鋼板を製造する段階と、上記溶融亜鉛めっき鋼板を調質圧延機に装入して調質圧延する段階と、を含むことが好ましい。
【0034】
本発明による溶融亜鉛めっき鋼板を製造するにあたり、素地鋼板を溶融亜鉛めっきすることが好ましい。このとき、めっき条件は、一般の溶融亜鉛めっき条件を適用することができるため、特に限定しない。
【0035】
一方、上記素地鋼板として用いることができる鋼板は特に制限されず、溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができるいかなる鋼板も可能であるが、好ましくは冷延鋼板であることができる。
【0036】
上記によって製造された溶融亜鉛めっき鋼板を、一般の調質圧延機内に装入して調質圧延を行うことができる。本発明では、上記調質圧延時に用いられるロールの形状因子を制御することによって行うことが好ましい。
【0037】
本発明において、調質圧延工程は、本発明の最終目標を達成するための非常に重要な工程であって、後述のように、調質圧延条件を適正にすることにより、最終的にプレス成形性及び塗装後鮮映性を向上させた、溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0038】
特に、本発明で目標とするプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、上記調質圧延は、放電ロールの微細凹凸の山(peak)の部分を研磨したロールを用いることが好ましい。本発明の一実施例では、上記微細凹凸の山の部分を研磨したロールとして、スーパーフィニッシングロールを用いることができる。
【0039】
一般のクロムめっきロールや放電ロールなどは、微細凹凸の山と谷の大きさが類似であるか山の高さが大きいため、粗さスキューネスが正(+)の値を有するようになり、かかるロールを用いて調質圧延すると、溶融亜鉛めっき鋼板の表面に転写された圧痕の微細凹凸の粗さスキューネスは負(-)の値を有するようになる。この場合、溶融亜鉛めっき鋼板表面の潤滑油の含有量、すなわち、潤滑油が残留する可能性があるオイルポケットの面積を示すV2(Lubricant Filled Profile Valley Area)の値が小さくなる。
【0040】
ところが、本発明の一実施例によるロールは、放電ロールの微細凹凸の山(peck)の部分が除去されるため、上記ロールの粗さスキューネス(Rsk)は負(-)の値を有するようになるが、これを用いて溶融亜鉛めっき鋼板を調質圧延すると、鋼板表面に転写された圧痕の微細凹凸の粗さスキューネスは正(+)の値、または上記調質圧延ロールの粗さスキューネス値よりも高い負(-)の値を有するようになって(例えば、調質圧延ロールの粗さスキューネスが-0.3であれば、鋼板の粗さスキューネスは-0.2や-0.1の場合を意味する)、潤滑油貯蔵所の役割を果たすV2が大きくなり、その結果、プレス成形時の潤滑作用により繰り返し摩擦係数(μ=摩擦力/荷重)が小さくなってかじりが発生しないようになる。
【0041】
より具体的には、本発明の一実施例によるロールは、粗さスキューネス(Rsk)が-0.2以下、平均粗さ(Ra)が2μm以下(0を除く)であり、単位長さ当たりのピーク数が140個/cm以上であることが好ましい。
【0042】
上記ロールの粗さスキューネス(Rsk)が-0.2を超えると、調質圧延ロールの微細凹凸が溶融亜鉛めっき鋼板の表面に十分に転写されず、上記溶融亜鉛めっき鋼板の粗さスキューネス(Rsk)の値を-0.33以上に確保することができなくなる。
【0043】
また、上記ロールの平均粗さ(Ra)が2μmを超えると、溶融亜鉛めっき鋼板のろ波うねり(Wsa1-5)及び単位長さ当たりのピーク数(RPc)を意図するレベルに確保することができなくなり、塗装後鮮映性が低下するという問題がある(図3及び図4)。
【0044】
そして、単位長さ当たりのピーク数が140個/cm未満であっても、塗装後鮮映性を阻害するため、好ましくない。
【0045】
本発明では、上記のように、粗さスキューネス、平均粗さ、単位長さ当たりのピーク数(RPc)が制御されたロールを用いて調質圧延を行うことにより、粗さスキューネス(Rsk)が-0.33以上であり、オイルポケット面積(V2)が350nm以上である溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。また、上記溶融亜鉛めっき鋼板を、自動車外板の最大加工率を考慮して、変形率5%で処理した場合には、表面のろ波うねり(Wsa1-5)を0.35μm以下、単位長さ当たりのピーク数(RPc)を75個/cm以上得ることができる。
【0046】
特に、上記のような形状因子が制御されたロールを用いることにより、溶融亜鉛めっき鋼板の塗装後鮮映性を効果的に向上させることができる。
【0047】
すなわち、調質圧延ロールの平均粗さが同一であっても、本発明の一実施例により形状因子が制御されたロールを用いるときには圧痕面積が増加するため、塗装後鮮映性に及ぼすめっき層のスパングル粒界や屈曲などの長波長屈曲(波形度)が多く除去されるためである。これは、本発明の一実施例によるロールの平均粗さが小さいほどロール及び溶融亜鉛めっき鋼板のRPcが急激に増加するため、めっき層のスパングル粒界や屈曲などをより効果的に除去することができる。これにより、加工後も長波長屈曲などが再現されないため、塗装後鮮映性を向上させることができるようになる。
【0048】
以下、本発明の他の一側面であるプレス成形性及び塗装後鮮映性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。
【0049】
本発明による溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層と、を含み、粗さスキューネス(Rsk)が-0.33以上であり、オイルポケット面積(V2)が350nm以上であることが好ましい。
【0050】
上述した本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、上述した本発明による製造方法によって製造されるものである。特に、調質圧延時の粗さスキューネス(Rsk)が-0.2以下、平均粗さ(Ra)が2μm以下、単位長さ当たりのピーク数が140個/cm以上であるロールを用いることにより、粗さスキューネス(Rsk)が-0.33以上、オイルポケット面積(V2)が350nm以上である、プレス成形性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0051】
これにより、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形時の潤滑作用が円滑となってプレス金型との繰り返し摩擦係数が0.2以下と低く、結果として従来の自動車外板用めっき鋼板のプレス成形時に発生するかじり(galling)現象を改善させた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができるという効果を奏する。
【0052】
より具体的には、図5に示すように、ロールの平均粗さ(Ra)が減少するにつれて、繰り返し摩擦係数が比例的に減少することが確認できる。これは、ロールの粗さが減少するにつれて、溶融亜鉛めっき鋼板の粗さスキューネス(Rsk)が負(-)の値から正(+)の値に変わり、プレス成形時の潤滑作用に影響を及ぼすV2の値が比例的に増加することに起因するものである。
【0053】
また、上記粗さスキューネスが制御された溶融亜鉛めっき鋼板を変形率5%で加工する場合には、表面のろ波うねり(Wsa1-5)が0.35μm以下(0を除く)でありながら、単位長さ当たりのピーク数(RPc)が75個/cm以上確保されるため、塗装後鮮映性を優れて確保することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、かかる実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであって、かかる実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0055】
(実施例)
素地鋼板として0.002%のC-0.003%のSi-0.08%のMn-0.028%のAl-0.0114%のP-0.0052%のS(重量%)の成分組成を有する冷延鋼板を設けた後、上記冷延鋼板の片面めっき付着量が60g/mになるように溶融亜鉛めっきを行い、溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0056】
その後、上記溶融亜鉛めっき鋼板を平均粗さ(Ra)が1.4~2.8μm、単位長さ当たりのピーク数(RPc)が114~175個/cmであり、粗さスキューネス(Rsk)が-0.524~0.176である調質圧延ワークロール(work roll)を用いることにより、ロール圧下力250トンで調質圧延し、上記溶融亜鉛めっき鋼板の表面に微細な凹凸を転写させた。このとき、上記ワークロールは、クロムめっきロール(TCT)、放電ロール(EDT)、または放電ロールの山の部分を研磨処理したロールのうち、それぞれ選択して用いた。
【0057】
上記により調質圧延された溶融亜鉛めっき鋼板表面の微細凹凸の平均粗さ(Ra)、単位長さ当たりのピーク数(RPc)、ろ波うねり(Wsa1-5)などの粗さ値、及び波形度値は、接触式粗さ計(HOSAKAWA社)によりSEP1941規定に準じて測定した。また、粗さスキューネス(Rsk)及びV2などの形状因子は、表面粗さ計(Veeco社、NT8000)を用いて測定した。
【0058】
このとき、溶融亜鉛めっき鋼板のオイル含有量は、上記鋼板の試験片を30×30mmのサイズに切断した後、脱脂、乾燥、及び秤量し、潤滑油(P-340N)に浸漬した後、15枚を浸漬してプレス機において35トンで10分間圧下し、凹部以外の潤滑油を排出させた後、再び坪量して重量を測定し、これを評価面積で分けて導出した。
【0059】
また、かじり性は、繰り返し摩擦係数及び繰り返し摩擦試験の際にめっき層が脱落する繰り返し摩擦回数で評価した。このとき、繰り返し摩擦係数は、平面繰り返し摩擦係数試験機で、長さ250mmの溶融亜鉛めっき鋼板の表面をサイズ25×35mmのチップ(Tip)に荷重を6.1MPaで毎秒120mmの速度で15回繰り返した後の摩擦係数値として示した。
【0060】
そして、かじりの発生有無は、上記繰り返し摩擦試験の繰り返し回数ごとにめっき層が脱落するか否かを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して評価した。
【0061】
上記の各測定結果を下記表1に示した。
【0062】
一方、各溶融亜鉛めっき鋼板の塗装後鮮映性は、塗装を行わない溶融亜鉛めっき鋼板を成形試験機で評価面の平坦部の変形率が5%になるようにカッピング試験(cupping test)して加工した後、ろ波うねり(Wsa1-5)を測定し、肉眼でオレンジピールの形成有無を評価して、その結果を下記表1に示した。
【0063】
このとき、カッピング試験は、カップの平らに変形された平坦部直径が最小100mmになるようにし、変形率は加工高さに調整した。
【0064】
【表1】
(表1において、TCTはクロムめっきロール、EDTは放電ロール、SFは山の部分を研磨処理して粗さスキューネスを制御したロールを意味する。
また、表1における「欠陥有無」は、オレンジピールの発生有無に関するものであって、発生した場合を○、発生しなかった場合を×で表したものである。なお、「かじり発生有無」は、発生した場合を○、発生しなかった場合を×で示した。)
【0065】
上記表1に示すように、平均粗さ、粗さスキューネス、及び単位長さ当たりのピーク数が本発明で提案することを満たすロールを用いて調質圧延を行った発明例1~6は、溶融亜鉛めっき鋼板の形状因子である粗さスキューネス(Rsk)及びV2がそれぞれ-0.3以上及び500nm以上、繰り返し摩擦係数が0.2以下であり、繰り返し摩擦回数15回までめっき層が脱落しなかったことから、かじりに優れることが分かる。同時に、溶融亜鉛めっき鋼板の5%カッピング加工後のろ波うねり(Wsa1-5)が0.35μm以下であり、肉眼でオレンピールのような長波長屈曲が発生しなかったことから、塗装後鮮映性に優れることが分かる。
【0066】
これに対し、クロムめっきロールを用いて調質圧延を行った比較例1及び2は、ロールの平均粗さが2.8μmと高く、塗装後鮮映性に優れているのに対し、かじり性は非常に劣っていた。
【0067】
また、放電ロールを用いた比較例3~8のうち、平均粗さが2.8μmと高いロールを用いた比較例3及び4は、溶融亜鉛めっき鋼板のかじり性及び塗装後鮮映性がすべて不良であった。平均粗さが1.6μmと低い放電ロールを用いた比較例5~8は、ロール粗さの低下により溶融亜鉛めっき鋼板のRPcが増加し、ろ波うねり(Wsa1-5)値が低いことから塗装後鮮映性に優れることが分かるが、上記溶融亜鉛めっき鋼板の粗さスキューネス(Rsk)が-0.35未満、V2が300nm未満であるため、繰り返し摩擦係数が0.21以上であり、繰り返し摩擦回数が15回のときにめっき層が脱落してかじりが発生したことが確認できる。
【0068】
一方、山の部分を研磨したロールを用いて調質圧延を行ったが、平均粗さが2.8μmと高いロールを用いた比較例9~11は、かじり性には優れているものの、5%のカッピング加工後のろ波うねり(Wsa1-5)は0.35μm以上であり、肉眼でオレンジピールのような長波長欠陥が発生し、塗装後鮮映性が劣っていた。
図1
図2
図3
図4
図5