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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】内燃機関の運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/12 20060101AFI20230502BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20230502BHJP
   F02M 25/03 20060101ALI20230502BHJP
   F02M 25/025 20060101ALI20230502BHJP
   F02B 47/02 20060101ALI20230502BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
F02D19/12 A
F02D23/00 N
F02M25/03
F02M25/025 S
F02B47/02
B01D53/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022080132
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2020016340の分割
【原出願日】2013-09-26
(65)【公開番号】P2022116074
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2012217815
(32)【優先日】2012-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013099738
(32)【優先日】2013-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】清水 敦
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】新濱 智広
(72)【発明者】
【氏名】塚本 雅弘
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-303305(JP,A)
【文献】特開2007-016792(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026472(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0191260(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 28/00
F02M 25/00 - 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、
前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、
前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程と、
を有し、
前記酸素濃度低減工程において、
気体透過膜の一方の面に空気を接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させる工程を含み、
前記気体透過膜による空気加湿は行わず、
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程が、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する工程であり、
前記酸素濃度低減工程において酸素濃度が10mol%以上で、且つ20.5mol%以下とされた前記空気を前記燃焼室に導入し、
運転条件として、前記エマルション中の水含有量が水/炭化水素系燃料比(容量比)50/100~80/100の範囲または水/炭化水素系燃料比(重量比)8.8/91.2~30.0/70.0の範囲となるようにして前記燃焼室に導入し、前記内燃機関に吸気される空気の圧力が84.7kPa~186.7kPaとなるようにし、且つ、前記内燃機関に吸気される空気の温度が36.9℃~43.9℃となるようにして運転を行う、内燃機関の運転方法。
【請求項2】
前記気体透過膜が、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す気体透過膜である、請求項1に記載の内燃機関の運転方法。
【請求項3】
前記酸素濃度低減工程により酸素濃度が低減した前記空気を前記内燃機関の過給機に供給することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の運転方法。
【請求項4】
前記酸素濃度低減工程において、
気体透過膜の一方の面の側の全圧が他方の面の側より低圧になるように、減圧手段により減圧することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の運転方法。
【請求項5】
前記気体透過膜により酸素富化される側を、気体を流してスイープすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関の運転方法。
【請求項6】
前記エマルションは乳化剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の運転方法。
【請求項7】
前記エマルションは、前記内燃機関の燃料供給装置の直前で製造されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転方法および空気供給装置に関する。より詳しくは、内燃機関の排気中の窒素酸化物を低減できる内燃機関の運転方法および空気供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等に代表される内燃機関は、燃焼効率が高く、二酸化炭素の発生も少ないため、幅広い分野で使用されている。しかし、内燃機関の排気には窒素酸化物(以下、NOxという。)が含まれており、近年の環境意識の高まりから、NOx排出規制が強化される方向にある。
【0003】
舶用ディーゼル機関から排出されるNOxは、2016年から国際海事機関(IMO)によるTier III規制が予定されており、この規制では、現行のTier II規制値から75%低減が求められる。そのため、効果が高く、かつ安価なNOx除去技術の開発が求められており、NOxの低減に関する様々な検討がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
排気後処理によるNOx低減技術の具体例として、ディーゼルエンジンの排気中のNOxを選択的に触媒で還元する選択的触媒還元(SCR)技術が挙げられる(非特許文献1参照)。しかし、SCR技術はNOxを還元するために尿素やアンモニア等の化学薬品が必要であり、薬品の管理や過大なコストに課題がある。また、数百~数千ppmの高いNOx濃度の排気に適用した場合、装置が大型化すると予想されることも課題である。
【0005】
燃焼制御によるNOx低減技術の具体例として、水を噴霧して加湿した給気を内燃機関に供給することによって、NOxを低減する方法(非特許文献2参照)提案されている。この方法では水蒸気の希釈効果を利用し、給気中の酸素濃度を効率的に下げることができる。しかし水蒸気圧力は温度のみの関数であるため、同一温度で過給圧が高くなると相対的に加湿量が低下することが欠点である。また、加湿量を多くするために、給気の温度を上げすぎると燃費が低下する可能性があることが課題である。
【0006】
水蒸気で燃焼を制御するその他の方法として、水蒸気透過膜を用いて排気から水蒸気を給気側に移行させる方法(特許文献1参照)が提案されている。この方法では、移行する水蒸気量が少ないので、NOx低減効果が小さいという欠点がある。
【0007】
その他、膜を用いたNOx低減方法が提案されている。例えば、特許文献2には、酸素選択透過膜を用いて空気の窒素濃度を富化し、その窒素富化空気を内燃機関に供給することによって、NOxが低減されることが記載されている。
【0008】
さらに、燃料中に水を添加し、エマルションとしてエンジン等に供給する方法や、エンジンシリンダーに直接水を噴射する方法も提案されている(非特許文献1)。この方法は、単位重量あたりの水によるNOx低減効果が高い利点がある。しかし、この方法単独でTier III水準までのNOx低減はできない。
【0009】
また、排気の一部を給気中に循環させ、給気中の酸素濃度を低減させることにより排気中のNOxを低減させる技術(EGR)が開発されている(非特許文献1)。排気には燃料中のイオウが酸化して生成するSOxが含まれる、これは、排気中の水に吸収されると硫酸になる。EGRでは、排気が循環する部分の機器配管の硫酸腐食を避けるために排気の水スクラバーによる脱硫やスクラバー排水処理設備が必要になる。このため、装置が複雑になり、装置初期費用、運転コスト、維持コストの点で課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平03-61658号公報
【文献】特開平4-231670号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】マリンエンジニアリング、Vol46, No.6, 2011, p1-54.
【文献】J. Hupli, “Humidification method for reduction of NOx emission”, CIMAC Congress, 2004, No.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、内燃機関の排気中の窒素酸化物を低減できる内燃機関の運転方法および空気供給装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、排気を含まない低酸素濃度空気を内燃機関に導入し、さらに炭化水素系燃料に水を混合したエマルション燃料を内燃機関の燃焼室に噴射することで、従来に比して大幅なNOxの低減が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
[1]
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程と、を有し、前記酸素濃度低減工程において、気体透過膜の一方の面に空気を接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させる工程を含み、前記気体透過膜による空気加湿は行わず、前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程が、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する工程である、内燃機関の運転方法。
【0016】
[2]
前記酸素濃度低減工程において、前記空気を加圧して加圧空気とする空気加圧工程を含む[1]に記載の内燃機関の運転方法。
【0017】
[3]
前記気体透過膜が、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す気体透過膜である、[1]または[2]に記載の内燃機関の運転方法。
【0018】
[4]
前記酸素濃度低減工程において、前記空気の酸素濃度が、10mol%以上20.5mol%以下である、請求項[1]~[3]のいずれかに記載の内燃機関の運転方法。
【0019】
[5]
前記空気加圧工程において、前記空気は、前記内燃機関に付属する過給機により加圧され、さらに当該過給機と直列に配置された圧縮機により加圧される、請求項2に記載の内燃機関の運転方法。
【0020】
[6]
前記空気加圧工程において、前記空気は、前記内燃機関に付属する過給機により加圧された空気と、当該過給機と並列に配置された圧縮機により加圧された空気とを加えた空気である、請求項2に記載の内燃機関の運転方法。
【0021】
[7]
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、前記空気を、前記内燃機関に付属する過給機により加圧し、前記過給機により加圧された空気を当該過給機と直列に配置された圧縮機により圧縮し、または当該過給機により加圧された空気に当該過給機と並列に配置された圧縮機により加圧された空気を加え、加圧された前記空気を気体透過膜の一方の面に接触させ当該空気から酸素を所定量除去して得られる低酸素濃度空気を前記内燃機関に導入し、前記気体透過膜による空気加湿は行わず、前記炭化水素系燃料は、水を混合されてエマルションとして前記内燃機関に導入される、内燃機関の運転方法。
【0022】
[8]
前記酸素濃度低減工程により酸素濃度が低減した前記空気を前記内燃機関の過給機に供給することを特徴とする[1]に記載の内燃機関の運転方法。
【0023】
[9]
前記酸素濃度低減工程への給気が大気圧以下であることを特徴とする[1]に記載の内燃機関の運転方法。
【0024】
[10]
前記酸素濃度低減工程において、気体透過膜の一方の面の側の全圧が他方の面の側より低圧になるように、減圧手段により減圧することを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載の内燃機関の運転方法。
【0025】
[11]
前記気体透過膜により酸素富化される側を、気体を流してスイープすることを特徴とする[1]~[10]のいずれかに記載の内燃機関の運転方法。
【0026】
[12]
前記エマルションは乳化剤を含まないことを特徴とする[1]に記載の内燃機関の運転方法。
【0027】
[13]
前記エマルションは、前記内燃機関の燃料供給装置の直前で製造されることを特徴とする[1]に記載の内燃機関の運転方法。
【0028】
[14]
過給機と、空気圧縮機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記過給機と前記空気圧縮機と前記酸素濃度低減モジュールを直列に接続し、空気を前記気体透過膜の一方の面に接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させ、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、加湿手段が存在せず、前記内燃機関には、水が混合された炭化水素系燃料がエマルションとして導入されている、ことを特徴とする、空気供給装置。
【0029】
[15]
過給機と、空気圧縮機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記過給機と前記酸素濃度低減モジュールを直列に接続し、前記空気圧縮機を前記過給機と前記酸素濃度低減モジュールとの間に、前記過給機と並列に接続し、空気を前記気体透過膜の一方の面に接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させ、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、加湿手段が存在せず、前記内燃機関には、水が混合された炭化水素系燃料がエマルションとして導入されている、ことを特徴とする、空気供給装置。
【0030】
[16]
過給機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記酸素濃度低減モジュールと前記過給機を直列に接続し、空気を前記気体透過膜の一方の面に接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させ、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、加湿手段が存在せず、前記内燃機関には、水が混合された炭化水素系燃料がエマルションとして導入されている、ことを特徴とする、空気供給装置。
【0031】
[17]
過給機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記酸素濃度低減モジュールと前記過給機を直列に接続し、前記気体透過膜の一方の面に接触させて酸素濃度を低下させた空気を、前記過給機により圧縮して加圧空気として前記内燃機関に供給し、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、加湿手段が存在しないことを特徴とする、空気供給装置。
【0032】
[18]
前記酸素濃度低減モジュールの上流側に過給機を備えていることを特徴とする[13]~[17]のいずれかに記載の空気供給装置。
【0033】
[19]
前記酸素濃度低減モジュールの上流側が大気圧以下であることを特徴とする[17]または[18]に記載の空気供給装置。
【0034】
[20]
前記気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように、減圧する減圧手段を備えることを特徴とする[17]に記載の空気供給装置。
【0035】
[21]
前記気体透過膜の酸素富化側を、気体を流してスイープすることを特徴とする[14]~[20]のいずれかに記載の空気供給装置。
【0036】
なお、参考として下記の発明とすることもできる。
【0037】
(1)
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程と、を有する内燃機関の運転方法。
【0038】
(2)
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程が、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する工程である、(1)に記載の内燃機関の運転方法。
【0039】
(3)
前記酸素濃度低減工程において、前記空気を加圧して加圧空気とする空気加圧工程と、気体透過膜の一方の面に前記加圧空気を接触させ、当該加圧空気の酸素濃度を低下させる工程と、を含む(1)または(2)に記載の内燃機関の運転方法。
【0040】
(4)
前記酸素濃度低減工程において、前記気体透過膜の他方の面に前記加圧空気を加湿する加湿用水を接触させ、当該加圧空気に水蒸気を添加する水蒸気添加工程を含む(3)に記載の内燃機関の運転方法。
【0041】
(5)
前記酸素濃度低減工程において、水蒸気を前記空気に添加し、当該空気の酸素濃度を低下させる水蒸気添加工程を含む(1)または(2)に記載の内燃機関の運転方法。
【0042】
(6)
前記水蒸気添加工程において、前記空気を加圧し、加圧空気とする空気加圧工程と、水蒸気透過膜の一方の面に前記加圧空気を接触させ、当該水蒸気透過膜の他方の面に加湿用水を接触させ、当該加圧空気に水蒸気を添加する工程と、を含む(5)に記載の内燃機関の運転方法。
【0043】
(7)
前記気体透過膜が、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す気体透過膜である、(3)または(4)に記載の内燃機関の運転方法。
【0044】
(8)
前記水蒸気透過膜が、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す気体透過膜である、(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0045】
(9)
前記水蒸気透過膜が、疎水性微多孔膜である、(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0046】
(10)
前記酸素濃度低減工程において、前記空気の酸素濃度が、10mol%以上20.5mol%以下である、(1)~(9)のいずれかに記載の内燃機関の運転方法。
【0047】
(11)
前記加湿用水が、電解質を含む、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0048】
(12)
前記加湿用水が、塩化ナトリウムを含む、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0049】
(13)
前記加湿用水の温度が、20℃以上95℃以下である、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0050】
(14)
前記加湿用水を、循環させて使用する、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0051】
(15)
加湿された前記空気の水の含有量が1mol%以上であり、かつ加湿された前記空気の湿度が100%RH未満である、(4)から(6)のいずれかに記載の内燃機関の運転方法。
【0052】
(16)
前記空気加圧工程において、前記空気は、前記内燃機関に付属する過給機により加圧され、さらに当該過給機と直列に配置された圧縮機により加圧される、(3)、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0053】
(17)
前記空気加圧工程において、前記空気は、前記内燃機関に付属する過給機により加圧された空気と、当該過給機と並列に配置された圧縮機により加圧された空気とを加えた空気である、(3)、(4)または(6)に記載の内燃機関の運転方法。
【0054】
(18)
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、前記空気を、前記内燃機関に付属する過給機により加圧し、前記過給機により加圧された空気を当該過給機と直列に配置された圧縮機により圧縮し、または当該過給機により加圧された空気に当該過給機と並列に配置された圧縮機により加圧された空気を加え、加圧された前記空気を気体透過膜の一方の面に接触させ当該空気から酸素を所定量除去して得られる低酸素濃度空気を前記内燃機関に導入する、内燃機関の運転方法。
【0055】
(19)
過給機と、空気圧縮機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記過給機と前記空気圧縮機と前記酸素濃度低減モジュールを直列に接続することを特徴とする、空気供給装置。
【0056】
(20)
過給機と、空気圧縮機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記過給機と前記酸素濃度低減モジュールを直列に接続し、前記空気圧縮機を前記過給機と前記酸素濃度低減モジュールとの間に、前記過給機と並列に接続することを特徴とする、空気供給装置。
【0057】
(21)
過給機と、酸素濃度低減モジュールとを備える内燃機関の空気供給装置において、前記酸素濃度低減モジュールは、気体透過膜と、当該気体透過膜を収納するケースとを備え、前記酸素濃度低減モジュールと前記過給機を直列に接続することを特徴とする、空気供給装置。
【0058】
(22)
前記気体透過膜が、水蒸気透過膜である、(19)から(21)のいずれかに記載の空気供給装置。
【0059】
(23)
前記気体透過膜が、中空糸または平膜である、(19)から(22)のいずれかに記載の空気供給装置。
【0060】
(24)
前記酸素濃度低減工程により酸素濃度が低減した前記空気を前記内燃機関の過給機に供給することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の内燃機関の運転方法。
【0061】
(25)
前記酸素濃度低減工程において、気体透過膜の一方の面の側の全圧が他方の面の側より低圧になるように、減圧手段により減圧することを特徴とする(1)または(2)に記載の内燃機関の運転方法。
【0062】
(26)
前記気体透過膜により酸素富化される側を、気体を流してスイープすることを特徴とする(3)、(4)、(7)、(18)または(25)に記載の内燃機関の運転方法。
【0063】
(27)
前記酸素濃度低減モジュールの上流側に昇圧手段を備えていることを特徴する(21)に記載の空気供給装置。
【0064】
(28)
前記気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように、減圧する減圧手段を備えることを特徴とする(19)から(21)のいずれかに記載の空気供給装置。
【0065】
(29)
前記気体透過膜の酸素富化側を、気体を流してスイープすることを特徴とする(19)から(21)のいずれかに記載の空気供給装置。
【0066】
(30)
前記エマルションは乳化剤を含まないことを特徴とする(2)に記載の内燃機関の運転方法。
【発明の効果】
【0067】
本発明に係る内燃機関の内燃機関の運転方法によれば、内燃機関の排気中のNOxを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本実施形態の膜モジュールの一実施形態の斜視図である。
図2】本実施形態の膜モジュールの別の一実施形態の斜視図である。
図3】本実施形態の膜モジュールの別の一実施形態の斜視図である。
図4】本実施形態で用いる中空糸型膜モジュールの一実施形態の概念図である。
図5】本実施形態で用いる平膜型モジュールの一実施形態の概念図である。
図6】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図7】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図8】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図9】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図10】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図11】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図12】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図13】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図14】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図15】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
図16】本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また、添付図面は実施形態の一例を示したものであり、形態はこれに限定して解釈されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、全図中、同一または相当部分には同一符号を付すこととする。
【0070】
本実施形態は、炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程と、を有する、内燃機関の運転方法である。内燃機関の種類は特に限定されず、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどが例示できる。これらの中で、ディーゼルエンジンは熱効率に優れ、軽油や重油等の一般的な燃料の他にも、種々の液体燃料が使用可能であり、汎用性が高い。ディーゼルエンジンは燃料より過剰の酸素を燃焼室に導入するため、排気中の窒素酸化物(NOx)が多い。かかるディーゼルエンジンの排気中のNOxの含有量を低減できることは、環境面において大きな意義がある。ディーゼルエンジンとしては、4-ストローク高速エンジン、4-ストローク中速エンジン、2-ストローク低速エンジンが例示できる。ディーゼルエンジンの用途は特に限定されず、船舶、自動車、発電機、飛行機、各種重機等の動力源として用いられているものが挙げられる。
【0071】
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程としては、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する方法、前記燃焼室に燃料噴射手段とは別の水噴射手段を設ける方法が例示できる。後者の方法は、燃焼室の火炎に向けて水が噴射される。これらの中では前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する手段が簡便で好ましい。
【0072】
本実施形態においてエマルションとは、分散質が、分散媒中に液滴状に中に微分散した状態を指すものとし、乳化剤は含まないものでも良く、ディスパージョンも含むものとする。たとえば、水が液滴状に燃料中に分散したW/O型エマルション燃料であり、この場合は、乳化剤を含まない、W/O型ディスパージョンも含む。なお、乳化剤は無い方が、好ましい。特に、内燃機関の燃焼室に導入する空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と併用した場合には燃費向上効果が認められる。
【0073】
これは、排気を含む場合と異なり、特に膜によって酸素濃度を低減した場合には、燃焼室中は不純物が少ないが、低酸素環境下で燃焼しにくい条件では、乳化剤のように難燃性の物質の混入は燃焼悪化への悪影響が大きくなる可能性があるが、乳化剤を用いないことにより、水エマルション併用等での燃費改善効果が大きくなるものと推察される。
【0074】
エマルション中の水の量は、水/燃料(重量)の下限が、0.1以上、更には0.2以上、更には0.3以上、更には0.4以上、更には0.5以上、更には0.6以上、更には0.7以上であることが好ましく、水/燃料(重量)の上限が、1.2以下、更には1.0以下であることが好ましい。
【0075】
上記低酸素濃度空気を内燃機関の給気として用いることで、NOxの発生を低減できる。その作用については定かではないが、下記(1)~(3)によって、NOxの発生を低減できると推測される(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない)。
【0076】
(1)酸素濃度が低下した空気を用いることにより、燃焼温度が下がりNOx生成を抑制できる。
【0077】
(2)三原子分子である水(水蒸気)は、相対的に比熱が高く、燃焼時の発熱温度を下げることができる。そのため、NOx生成を抑制できる。
【0078】
(3)エンジンシリンダー内に噴射されたエマルション燃料中の液体の水、あるいは、直接燃焼室に噴射された液体の水が蒸発する過程で蒸発潜熱により周囲の温度を下げることにより燃焼温度が低下してNOx生成を抑制できる。
【0079】
本実施形態におけるエマルション燃料は、水と炭化水素系燃料を攪拌混合することで得られる。内燃機関には燃料供給装置が付属するが、エマルション燃料はこの燃料供給装置の直前で製造される。ディーゼル機関の場合、エマルション燃料製造工程は燃料噴射ポンプの上流に設置される。炭化水素系燃料と水の攪拌は、槽型、インライン型などが使用できる。炭化水素系燃料の性状や、乳化剤の要不要、その種類等によるエマルションの生成しやすさにより、攪拌機の種類は適宜選択され、その剪断力は高いものから低いものまで適宜選択される。エマルションは水中油エマルションであっても油中水エマルションであっても使用可能である。エマルションを安定化させるために乳化剤を使用してもよい。水/炭化水素系燃料比(容量比)は1/99~90/10が通常使用される範囲であり、好ましくは10/90~80/20であり、より好ましくは、20/80~70/30、さらに好ましくは、20/80~50/50である。なお、本明細書において、“~”の表記は、上限値および下限値を含むものである。
【0080】
本実施形態では、給気に排気を含まない。排気を含まないとは、内燃機関に給気と排気を混合する目的の装置を付属させて、給気中に排気を混合させて給気中の酸素濃度を低減させる方法を実施しないことを意味する。燃料中にイオウが含まれる場合は、排気には燃料由来のSOxが含有される。EGRでは給気に排気を混合するため、内燃機関の部品類の腐食原因となる可能性があり、脱硫装置が必要となる欠点がある。排気を使用しないことで、内燃機関の給気が極めて清浄であり、内燃機関部品の耐久性向上や取り扱いが容易になる利点がある。
【0081】
低酸素濃度空気中の酸素濃度は、20.5mol%以下10mol%以上であることが好ましい。20.5mol%を超えるとNOxの発生が多く、10mol%未満ではエンジン出力が低下し燃料消費率が悪化する。より好ましくは15mol%以上、より好ましくは16mol%以上、より好ましくは17mol%以上、より好ましくは18mol%以上、より好ましくは18.5mol%以上、より好ましくは19mol%以上、さらに好ましくは19.5mol%以上である。
【0082】
本実施形態では、酸素濃度低減工程において低酸素濃度空気を調整するために二種類の方法がある。第一の方法は、加圧された空気を気体透過膜の一方の面に接触させ空気から所定量の酸素を除去して低酸素濃度空気(窒素富化空気)を調整する方法であり、空気を加圧して加圧空気とする空気加圧工程と、気体透過膜の一方の面に加圧空気を接触させ、当該加圧空気の酸素濃度を低下させる工程と、を含むものである。第二の方法は、空気に水蒸気を添加(加湿)することで希釈する方法であり、水蒸気を空気に添加し、当該空気の酸素濃度を低下させる水蒸気添加工程を含むものである。本実施形態においては、これらの方法を単独または組み合わせて低酸素濃度空気を調整し、これを内燃機関に導入する。使用する空気中の酸素、窒素、水蒸気、炭酸ガス、一酸化炭素等の成分の濃度は特に限定されない。
【0083】
第一の方法では、加圧された空気を、気体透過膜の一方の面(一次側)に接触させ、当該気体透過膜のもう一方の面(二次側)から酸素富化空気を排出させることで、一次側から窒素富化空気が得られる。
【0084】
第一の方法で使用する気体透過膜は、クヌッセン流(Knudsen Flow)等の気体が透過することができる程度の孔が実質的に無い非多孔質膜であり、膜中で気体が溶解・拡散機構により透過する膜である。つまり、気体透過膜は、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す膜である。気体透過膜の種類としては、特に限定されず、有機系高分子または無機系の気体透過膜が挙げられる。本実施形態において、気体透過膜としては、酸素透過速度/窒素透過速度が1より大きいことが好ましい。
【0085】
第一の方法で使用する気体透過膜の非透過側(一次側)には加圧空気が導入される、このため一次側の窒素分圧と酸素分圧は、透過側(二次側)の窒素分圧と酸素分圧よりも高くなり、その差圧を駆動力として、一次側から二次側に気体が透過する。このとき、窒素よりも酸素の透過速度が高いので、一次側は窒素富化空気となり二次側は酸素富化空気となる。一次側の圧力は二次側の圧力よりも高い方が、酸素の透過速度が速くなるので好ましい。また二次側を空気で掃気(スイープ)すると、二次側の酸素分圧を下げることができ、気体分離膜の気体分離性能が向上するので好ましい。
【0086】
有機系高分子の気体透過膜材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコ-ン系樹脂、TRポリマー系樹脂、PIMS系樹脂、PPO系樹脂が挙げられる。それらの中でも、気体透過係数が大きいフッ素樹脂系樹脂、シリコーン系樹脂か、気体選択性が高いポリイミド系樹脂が好ましく、フッ素樹脂系樹脂がより好ましい。
【0087】
フッ素樹脂系樹脂としては、非晶質の含フッ素重合体を用いたものが好ましい。このような非晶質の含フッ素重合体としては、例えば、主鎖に含フッ素脂環構造を有する重合体が挙げられる。主鎖に含フッ素脂環構造を有する重合体は、例えば、ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)、ペルフルオロ(2-メチル-1,3-ジオキソール)、ペルフルオロ(2-エチル-2プロピル-1,3-ジオキソール)、ペルフルオロ(2,2-ジメチル-4メチル-1,3-ジオキソール)等のジオキソール環を有する単量体と、フッ素、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等のフッ素置換アルキル基を有するペルフルオロジオキソール類、ペルフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)(MMD)、ペルフルオロ(2-メチル-1,4-ジオキシン)等の含フッ素脂環構造を有する単量体と、これらと共重合可能な単量体の中から一種以上を重合させることにより得られる。
【0088】
上記共重合可能な単量体としては、C-H結合のHが全てFに置換された化合物が好ましい。含フッ素重合体の気体の透過性を向上させる観点から、含フッ素重合体における含フッ素脂環構造を有する単量体の重合単位の割合は30モル%以上であることが好ましい。これにより環状構造を多く有することとなり、分子間隙が大きくなり、気体の透過速度を一層上昇させることができる。
【0089】
C-H結合のHが全てFに置換された(C-H結合を含まない)ラジカル重合性単量体としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0090】
C-H結合を含まない非晶質の含フッ素重合体としては、ペルフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとテトラフルオロエチレンとの共重合体等が挙げられる。これらは市販品を用いることもでき、例えば、商品名「テフロン(登録商標)AF1600」(デュポン社製)、商品名「テフロン(登録商標)AF2400」(デュポン社製)、商品名「HYFLON AD」(アウジモント社製)、Cytop(旭ガラス社製)等が挙げられる。
【0091】
気体透過膜(以下、単に「膜」と総称する場合がある。)は、支持層上に気体透過性能を有する薄膜が形成された構造でもよい。膜強度を保つ機能と気体分離機能を分離することにより、膜の機械的強度が向上し気体透過速度を向上させることができる。支持層の材質は、微細な貫通孔を有する材料であれば特に限定されず、有機系、無機系の微多孔膜が使用可能である。例えば、織布、不織布、微多孔膜等を用いることができる。これらの中では微多孔膜が好ましい。微多孔膜としては、ポリイミド微多孔膜、PVDF微多孔膜、PTFE微多孔膜、ポリオレフィン微多孔膜、限外ろ過膜(UF膜)として使用されるポリスルホン微多孔膜やポリエーテルスルホン微多孔膜、ポリアクリルニトリル系微多孔膜等が挙げられる。微多孔膜には、対象構造の孔を有する場合と非対称構造の孔を有する場合があり、両者が使用可能である。
【0092】
有機系材料における孔形成の方法として、湿式相分離法、乾式法(ラメラ開孔法、界面剥離法等)によるものが例示される。
【0093】
気体分離性樹脂薄膜は、支持体の片面あるいは両面に形成される。中空糸膜の場合は、支持層である中空糸膜の内側の表面または外側の表面に、膜が形成された形態等も使用可能である。
【0094】
無機系の気体透過膜としては、窒化ケイ素系、炭素系等の気体透過膜が挙げられる。支持層であるセラミック膜の上に気体透過膜を水熱合成で形成したものや、化学蒸着(CVD)により薄膜形成したものが挙げられる。
【0095】
低酸素濃度空気を得るための第二の方法である空気に水蒸気を添加(加湿)する方法としては、水を噴霧する方法、スチームを導入する方法、膜加湿法が例示できる。これらの中では、水の蒸発表面積が広く効率的に加湿ができる膜加湿が好ましい。膜加湿法としては、水により湿潤した多孔質膜を用いる方法、水蒸気透過膜を用いる方法、気体透過膜を用いる方法などが例示できる。
【0096】
膜加湿には、液体の加湿用水を透過させず、水蒸気を透過させる性質を有する、水蒸気透過膜が使用できる。膜の構造や材料については特に限定されず、用途や使用環境に応じて適宜好適なものを選択できる。水蒸気透過膜は、クヌッセン流(Knudsen Flow)等の気体が透過することができる程度の孔が実質的に無い非多孔質膜であり、膜中で気体が溶解・拡散機構により透過する膜、親水性膜、疎水性微多孔膜が使用可能である。親水性膜は、膜中に液体の水が存在し、この水が蒸発することで加湿ができる。疎水性微多孔膜では、孔の中を気体の水は透過するが、液体の水は透過できない。水蒸気透過膜の種類としては、特に限定されず、有機系高分子または無機系の気体透過膜が挙げられる。より具体的には、前記の第一の方法における気体透過膜材料が使用可能であり、第一の方法において記載した、支持体の上に前記気体透過膜材料が薄膜で形成された気体透過膜が使用可能である。また膜中に水が含まれる膜としては、イオン基を有する膜も使用でき、イオン交換樹脂膜が例示できる。
【0097】
疎水性微多孔膜とは、液体の水は透過しないが、水蒸気は透過する膜をいう。ここで、疎水性とは、ポリマーとしての吸水率が0.5質量%以下のものを指す。吸水率は0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。ここで、ポリマーとしての吸水率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0098】
疎水性微多孔膜の種類としては特に限定されず、有機系、無機系の微多孔膜が使用可能である。疎水性微多孔膜の種類は、特に限定されず、例えば、フッ素樹脂系微多孔膜等が挙げられ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)微多孔膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微多孔膜、ポリイミド微多孔膜、ポリオレフィン微多孔膜、ポリスルホン微多孔膜、ポリエーテルスルホン微多孔膜、ポリアクリロニトリル系微多孔膜等が使用可能である。さらに不織布、織布なども使用できる。フッ素系微多孔膜は、疎水性が強いので好ましい。その他の微多孔膜であっても、表面の疎水性を高める加工をすることが好ましい。
【0099】
有機系材料における孔形成の方法として、湿式相分離法、乾式法(ラメラ開孔法、界面剥離法等)によるものが例示される。
【0100】
水蒸気透過膜による加湿においては、空気を水蒸気透過膜の一方の面に接触させ、水(加湿用水)を当該水蒸気透過膜のもう一方の面に沿って流し、当該空気に所定量の水蒸気を添加することで空気を希釈して低酸素濃度空気(加湿空気)が得られる。水蒸気圧力は温度のみの関数であり、系の全圧に依存しないので、系の全圧が低いほど水蒸気による空気の希釈効果は高くなり、空気の温度が高いほど水蒸気による空気の希釈効果は高くなる。水蒸気透過膜および後述する窒素富化と加湿を同時に実施する膜の表面の水接触角としては、90°以上が好ましく、より好ましくは95°以上、更に好ましくは100°以上である。
【0101】
加湿用水は、水蒸気透過膜の被加湿気体と膜を挟み対抗側(二次側)に流される。膜を介することにより、被加湿側(一次側)には水蒸気のみが添加される。加湿された空気が僅かな温度変化で結露することを防ぐ観点から、被加湿側空気の湿度は100%RH未満が好ましく、95%RH以下がより好ましい。二次側に流す加湿用水の温度と流量を制御することで、水蒸気透過膜を通して加湿する空気の湿度を高精度に制御できる。一次側の空気の流れと二次側の空気の流れを押し出し流れとする場合は、一次側流れと二次側流れを対向流とすることが好ましい。加湿用水に変えて、水蒸気を使用することも可能である。
【0102】
本実施態様では、加湿用水としては特に限定されず、純水、上水、中水等であってもよく、イオンや微粒子を夾雑物として含む加湿用水であってもよい。本実施形態で用いる加湿用水は、電解質を含むものであっても優れた加湿効果を得ることができ、例えば、塩化ナトリウムを含む加湿用水(例えば、海水等)であっても優れた加湿効果を得ることができる。特に、イオン性官能基を持たない有機系高分子を用いた水蒸気透過膜では、これらの夾雑物は空気供給側に漏れることを効果的に抑制できるので、よりクリーンな加湿が可能である。
【0103】
従来、内燃機関の給気を加湿する方法として、SAM法(Scavenge Air Moisturizing)が知られている。この方法は、船舶用ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物を低減するために用いられる方法であり、給気を海水で加湿した後に、淡水で処理して、給気中に含まれる海水ミストを除去する脱塩工程を経て、給気を加湿する方法である。脱塩が完全に行なわれない場合は、内燃機関に塩が入り、内燃機関の故障の原因となるため、脱塩を入念に行う必要がある。本実施形態の方法では、水蒸気透過膜により水蒸気が添加されることにより、空気は希釈されて酸素濃度が低下する。膜加湿では、ミスト飛散がないので、加湿用水中に含まれる塩類等の溶解成分に関わらず、極めて清浄な加湿が実施できることが特徴である。従って、加湿後の空気の脱塩工程は不要である。清浄な加湿により、エンジンの信頼性向上とトラブル防止が図れる。
【0104】
本実施形態では、加湿用水(水蒸気も含む)を水蒸気透過膜に沿って流すことで、空気を加湿するため、上記した各水蒸気透過膜の性能に合わせて、加湿用水の流量および温度を制御することにより、容易に空気の湿度を調整できる。
【0105】
本実施形態で用いる加湿用水の状態は特に限定されず、液体であってもよいし、気体(水蒸気)であってもよい。水蒸気を用いることにより、窒素富化膜および加湿窒素富化膜の窒素富化能力を低下することなく加湿を行うことができる。
【0106】
加湿用水が水蒸気である場合は、必要に応じて他の物質をキャリアーとして併用してもよい。特に、空気をキャリアーとして用いることが好ましい。キャリアーを用いることにより、水蒸気の流量や温度をより正確に制御できる。内燃機関の排気をキャリアーとして用いることも可能である。さらに、空気と加湿用水の混相流を膜の二次側に流してもよい。
【0107】
水蒸気透過膜を通して加湿を行う際、空気が流れる方向と加湿用水が流れる方向は特に限定されないが、被加湿空気が流れる方向と、加湿用水または水蒸気が流れる方向とが、膜を隔てて対向することが好ましい。両者が逆の方向で流れることによって、加湿を効率良く行うことができる。
【0108】
膜加湿において、空気の圧力(空気圧)と加湿用水の圧力(水圧)の関係は特に限定されない。加湿のみを行う場合、加湿用水が、加圧された空気以上に高い圧力で加圧されていることが好ましい。すなわち、加湿される側の空気圧力と同じかそれ以上の圧力を維持して加湿用水を流すことが好ましい。それによって、加圧された空気を加湿することが容易となる。また、加湿用水の圧力を加湿される側の圧力以上とすることで、加湿される側の空気が水蒸気透過膜を通して抜けるのを防ぎ、空気量およびエネルギーの損失を抑えることができる。窒素富化と加湿を同時に行う場合は、二次側の圧力は一次側の圧力よりも低くすることが好ましい。
【0109】
加湿にあたり、加湿用水の蒸発潜熱を供給することが必要であるが、膜の二次側(加湿用水側)に流す加湿用水の顕熱を利用することが好ましい。この場合、加湿装置の入り口と出口の温度差と加湿用水の循環量で供給される蒸発潜熱に見合う顕熱が決定される。また、この温度差と循環量で空気の湿度および温度が容易に制御できる。流す加湿用水の温度は、20℃以上95℃以下であることが好ましい。この温度範囲とすることで、空気を一層効率的に加湿することができ、NOxの低減に一層有効である。また供給される加圧された空気の温度に対しては、-10℃~+50℃と設定することが好ましい。
【0110】
本実施形態では、湿度50%RH以上の加湿された空気を得ることができる。加湿された空気の湿度は、80%RH以上であることがより好ましく、90%RH以上であることが更に好ましい。かかる湿度の空気を内燃機関の運転に用いた場合、内燃機関の排気中のNOxの含有量を大幅に低減できる。また、加湿された空気の湿度は、結露しない程度であることが好ましく、湿度は100%RH未満であることが好ましく、95%RH以下であることがより好ましい。これによって、僅かな温度変化で結露することを防ぐことができる。
【0111】
本実施形態の内燃機関の運転方法では、加湿された空気中における水の含有量が1mol%以上であることが好ましい。加湿された空気中の水分子の量が多いほど、内燃機関におけるNOx発生を抑制できるため好ましい。より好ましくは3mol%以上であり、更に好ましくは6mol%以上であり、より更に好ましくは9mol%以上であり、より一層好ましくは10mol%以上である。
【0112】
本実施形態では、加湿用水を循環させて使用することが好ましい。循環させる態様としては特に限定されないが、例えば、水蒸気透過膜の表面を流れた加湿用水を加熱後、再び水蒸気透過膜の表面に沿って流すことにより加湿用水を循環させることが好ましい。これによって、節水できるので経済性の観点からも好ましい。
【0113】
本実施形態の方法では、窒素富化および/または加湿により空気中の酸素を低下させる。空気中の酸素を低下させる方法としては、窒素富化のみを使用する場合、加湿のみを使用する場合、両者を使用する場合がある。両者を使用する場合は、窒素富化した空気を加湿する方法、加湿した空気を窒素富化する方法、および窒素富化と同時に加湿する方法が挙げられる。窒素富化と加湿を同時に実施する場合は、気体透過膜と水蒸気透過膜を同一の膜にすることで可能となる。気体透過膜の一次側に被処理空気を流し、膜の二次側に加温した加湿用水や水空気混相流を流すことで、窒素富化と加湿が同時にできる。
【0114】
窒素富化と加湿を同時に行う場合、作業工程が少なく、かつ簡易な装置構造にて実施できるという利点がある。このときに使用する気体透過膜は、酸素を選択的に透過し、かつ水蒸気透過速度が高く、気体の透過が溶解・拡散により行われる膜が使用される。このような気体透過膜としては、前記した低酸素濃度空気を調整する第一の方法で例示した、気体の溶解拡散による気体分離性能を示す非多孔質膜が使用可能である。
【0115】
窒素富化と加湿を同時に行う場合、一次側(被加湿側)の圧力と二次側(気体透過側)の圧力については特に限定されないが、二次側の圧力は一次側の圧力以下であることが好ましい。それによって、酸素が透過し易くなる。二次側の圧力は大気圧に近いかあるいは大気圧以下であることが好ましい。
【0116】
窒素富化と加湿を同時に行う場合、一次側の空気の流れと、二次側の空気や加湿用水の流れは対向することが、窒素富化・加湿を効率的に実施できる点で好ましい。
【0117】
好ましい湿度の範囲に関しては、加湿方法において上記したとおりである。
【0118】
その他、加湿用水または水蒸気の温度や流量、循環等は、加湿することによる内燃機関の運転方法において上記した事項が当てはまる。特に、加湿および窒素富化を行う際であっても、加湿用水または水蒸気を流すことによって、加圧された空気の温度および湿度を容易に制御できる。
【0119】
本実施形態では、加圧された空気が、内燃機関に付属する過給機により圧縮された後、さらに過給機と直列に配置された圧縮機により圧縮された空気であることが好ましい。過給機は、特にディーゼルエンジンで多用される排気ガスのエネルギーを回収使用する装置である。タービンとコンプレッサーが直結され、排気のエネルギーでタービンを回転させ、コンプレッサーにより給気を圧縮する形式と、エンジンの軸動力を利用してコンプレッサーを作動させて給気を圧縮する方法等が代表的である。気体透過膜では、その二次側から酸素富化空気が系外に排出されるが、この分は給気量が減るため、排気量も減る。過給機のタービンを回す排気の量を維持するために、過給機と直列に配置された圧縮機により空気の圧力と量を増加させることが、熱機関の燃費を悪化させない点で好ましい。この場合、当該圧縮機はブースターの役割を受け持つ。前記圧縮機の動力としては、電気、内燃機関の排気、内燃機関の軸動力が使用できる。電気の場合は、電動モーターの使用が例示でき、内燃機関の排気の場合は、過給機の使用が例示でき、内燃機関の軸動力の場合は、機械的方法が例示できる。
【0120】
過給機のタービンを回す排気の量を維持するための別の方法として、加圧された空気が、内燃機関に付属する過給機により圧縮された空気に、過給機と並列に配置された圧縮機により圧縮された空気を加えた空気であることも熱機関の燃費を悪化させない点で好ましい。
【0121】
さらに別の方法として、空気加圧工程において、前記空気は、内燃機関に付属する過給機の軸に動力を供給する機構を有する過給機により圧縮された空気であることも好ましい。この機構としては、過給機の軸に電動モーターを接続して動力を供給する方法、過給機の軸に油圧により前記内燃機関の軸動力の一部を供給する方法、過給機の軸に機械的に前記内燃機関の軸動力の一部を供給する方法などが例示できる。この方法により排気量が足りない場合でも過給機の圧縮能力を向上させることが可能である。
【0122】
本実施形態において、空気が内燃機関に付属する過給機により圧縮された後、さらに過給機と直列に配置された圧縮機により圧縮され、この二段階で圧縮された空気を気体透過膜の一方の面に接触させ空気から酸素を所定量除去して得られる低酸素濃度空気(窒素富化空気)を内燃機関に導入することでも窒素酸化物を効率的に低減可能である。二段目の圧縮機はブースターとしての役割を受け持ち、窒素富化工程で系外に排出された酸素富化空気の量をある程度補償することができるので、燃費の悪化を抑制できる。
【0123】
また、本実施形態において、空気を内燃機関に付属する過給機により圧縮し、当該空気に過給機と並列に配置された圧縮機により圧縮された空気を加えた空気を気体透過膜の一方の面に接触させ、この空気から酸素を所定量除去して得られる低酸素濃度空気(窒素富化空気)を内燃機関に導入することでも窒素酸化物を効率的に低減可能である。
【0124】
さらに、本実施形態では、気体透過膜により酸素を所定量除去された低酸素濃度空気を過給機の吸込み側に供給するようにしてもよい。この場合、気体透過膜により低酸素濃度とされる空気側(一次側)の出口(窒素富化空気出口)を過給機の吸込み側に接続する。一次側の入口(気体透過膜への給気側)は大気解放(大気圧)であっても良いし、さらに圧縮機等の昇圧手段を備えていても良い。この場合、昇圧手段の配置は、膜モジュール(酸素濃度低減モジュール)の上流側となる。
【0125】
気体透過膜を過給機の吸込み側、吐出側の何れに設置した場合も、気体透過膜として窒素富化膜を用いる場合、窒素富化膜の二次側は、一次側より酸素分圧が低くなるようにする。具体的には、二次側の全圧が一次側より低圧になるように、真空ポンプ、吸引ブロワ吸引等の減圧手段により減圧してもよい。または、空気や低酸素濃度の混合気体を二次側に流してスイープする方法でもよい。
【0126】
加湿膜を用いる場合は、単独で用いても良いし、窒素富化膜と併用しても良い。窒素富化膜と併用する場合は、窒素富化膜の下流に設置するのが好ましい。
【0127】
さらに、別の本実施形態の内燃機関の窒素酸化物の削減方法は、内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物の削減方法であって、大気圧以下の空気を水蒸気透過膜の一方の面に接触させ、水を前記水蒸気透過膜のもう一方の面に沿って流すことで、前記空気を加湿する工程(加湿工程)と、前記加湿された空気を内燃機関に導入する工程(導入工程)と、を有する。内燃機関に導入される空気を加湿することにより、内燃機関での燃焼時に発生する窒素酸化物を削減することができる。
【0128】
上記加湿された空気を内燃機関の給気として用いることで、NOxの発生を低減できる。その作用については定かではないが、下記(1)および(2)によって、NOxの発生を低減できると推測される(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない)。
【0129】
(1)燃焼に用いられる空気中に水蒸気が含まれることにより、空気の酸素濃度が低下し、燃焼反応を抑制することで、燃焼温度を下げることができる。そのため、NOxが生成する副反応を抑制できる。
【0130】
(2)三原子分子である水は、相対的に比熱が大きく、燃焼時の発熱温度を下げることができる。そのため、NOxが生成する副反応を抑制できる。
【0131】
(3)内燃機関に用いられる作動流体の比熱が大きくなる結果、燃焼時の温度が低下して、圧縮時の圧力が低下するが、着火前の圧縮圧力も低下するので、燃料消費は増加せず、燃費の悪化を抑制することができる。
【0132】
まず、本実施形態の内燃機関の窒素酸化物の削減方法では、大気圧以下の空気を水蒸気透過膜の一方の面に接触させ、水を前記水蒸気透過膜のもう一方の面に沿って流すことで、前記空気を加湿する工程(加湿工程)を行う。
【0133】
本実施形態では、大気圧以下の空気を用いる。大気圧以下の空気は、後述する水蒸気透過膜の一方の面に接触させる。その際、水蒸気透過膜の反対側の面で通水されている水が水蒸気透過膜から浸透することにより、空気が加湿される。本実施形態では、大気圧以下の空気を水蒸気透過膜の面に沿って流すとともに、水を水蒸気透過膜のもう一方の面に沿って流すことで、膜の水蒸気透過性能を高く維持しつつ空気を効率よく十分に加湿できる。そのため、本実施形態では、加湿しようとする空気を加圧する必要はなく、加湿工程の前に過給機等の空気加圧装置を設置する必要もない。本実施形態の方法は、簡便な方法でありながら、NOxの発生を十分に低減することができる。
【0134】
また、水蒸気透過膜を用いて加湿する際、水の圧力は空気の圧力と同等か若干高い条件を選択することが好ましい。これは、水蒸気透過膜から空気が水側に透過して損失することを防ぐためである。本実施形態では、空気が加圧されておらず大気圧以下であるため、水(水蒸気)をより低圧で流して加湿することができる。液体の水の場合、流す水の圧力を低く抑えることができ、加圧にかかるエネルギーやコストを抑えることができる。また、加湿用の水は水蒸気であっても良い。
【0135】
また、本実施形態では、大気圧以下の空気を加湿して、内燃機関に導入する方法であるため、空気を加圧しない自然吸気エンジンや、低負荷で過給機が実質的に作動しない運転に対しても有効である。さらに、大気圧以下の空気を水蒸気透過膜に接触させて加湿を行うため、水蒸気透過膜やこれを有する装置に特段に高い耐圧性や耐熱性を付与する必要がないため、これらの構造を簡素にすることができる。また、通常、エンジンの周辺はスペースが限られていることが多いため、水蒸気透過膜やこれを有する装置をコンパクトにできるメリットは非常に大きい。さらに、水蒸気透過膜やこれを有する装置に使用する材料等の選択の自由度が広がるという利点もある。
【0136】
空気の圧力は大気圧以下であればよいが、給気に要するエネルギー損失を少なくする観点から、好ましくは-50kPaG以上、大気圧(0kPaG)以下、より好ましくは-20kPaG以上、大気圧以下、更に好ましくは-10kPaG以上、大気圧以下である。
【0137】
使用する空気中の成分やその濃度については、特に限定されない。例えば、酸素、窒素、炭酸ガス、一酸化炭素等の成分の濃度は特に限定されず、大気に排気ガス等を混合して成分調整した空気等も使用可能である。
【0138】
本実施形態の窒素酸化物の削減方法は、水蒸気透過膜を通して空気を加湿するので、加湿された空気には水滴が含まれないようにすることができる。加湿された空気が僅かな温度変化で結露することを防ぐ観点から、加湿された空気の湿度は100%RH未満が好ましく、95%RH以下がより好ましい。本実施形態の窒素酸化物の削減方法では、流す水の温度と流量を制御することで、水蒸気透過膜を通して加湿する空気の湿度を高精度に制御できる。
【0139】
酸素濃度低減工程あるいは炭化水素系燃料と水を燃焼室に噴射する工程を単独で用いた場合は、NOx低減とともに、燃費を上昇(悪化)させるような場合でも、本発明のように酸素濃度低減工程と炭化水素系燃料と水を燃焼室に噴射する工程と併せて用いることにより、燃費の上昇(悪化)なく、NOx低減が可能である。
【0140】
以下、本実施形態の膜モジュール(酸素濃度低減モジュール)、内燃機関の空気供給装置について説明する。
【0141】
本実施形態の膜モジュールは、気体透過膜と、前記気体透過膜を収納するケースと、を有する膜モジュールであって、前記ケース内には、前記気体透過膜で仕切られた第一の空間と第二の空間とが形成され、前記ケースは、前記第一の空間に空気を供給する空気供給口と、前記第一の空間から前記空気を排出する空気排出口と、前記第二の空間に空気および/または加湿用水を供給する空気/加湿用水供給口と、前記第二の空間から前記空気および/または加湿用水を排出する空気/加湿用水排出口とを備える。前記加湿用水には水蒸気も含む。
【0142】
本実施形態の膜モジュールは、気体透過膜を組み込み、モジュール化したものである。膜モジュールの第一の空間は、空気を供給する開口部である空気供給口と、気体透過膜により低酸素化された空気を取り出す開口部である空気排出口と、を有する。この第一の空間は上記した空気が流れる空間である。膜モジュールの第二の空間は、空気および/または加湿用水を流すための開口部である空気/加湿用水供給口と空気/加湿用水排出口を備えている。この第二の空間は上記空気および/または加湿用水が流れる空間である。上記の各開口部の数は、特に限定されず、膜モジュールの使用形態等を考慮して好適な数だけ設けることができる。上記加湿用水には水蒸気も含む。
【0143】
膜モジュールの形態としては、特に限定されず、中空糸型膜モジュールまたは平膜型膜モジュール等が例示できる。例えば、平膜を用いたプレート・アンド・フレーム型、プリーツ型、あるいは中空糸型、チューブラー型等の膜モジュールが挙げられる。プリーツ型には、箱型にプリーツを重ねた形状ものと、プリーツを円筒に巻きつけた形状もの等が挙げられる。また、膜モジュールとしては、複数の膜モジュールを連結して使用しても良い。
【0144】
図1は、本実施形態の膜モジュールの一実施形態の斜視図である。膜モジュールαは、箱型にプリーツを重ねた形状の膜モジュールである。気体透過膜α1は、蛇腹状に連続して折りたたまれ、山折りの部分と谷折りの部分が重なり合って形成された複数のひだ部(プリーツ)を有している。プリーツ加工によって、特定のピッチで山折り谷折りを繰り返す構造になっており、接触面積を向上させることができるので効率がよい。ここでは一例として気体透過膜α1を用いる場合について説明したが、α1として水蒸気透過膜、窒素富化と水蒸気透過の両者の性質を有する窒素富化・水蒸気透過膜を用いてもよい。
【0145】
図2は、本実施形態の膜モジュールの別の一実施形態の斜視図である。膜モジュールβは、プリーツを円筒に巻きつけた形状の膜モジュールである。ここでは一例として気体透過膜β1を用いる場合について説明したが、β1として、水蒸気透過膜、窒素富化と水蒸気透過の両者の性質を有する窒素富化・水蒸気透過膜を用いてもよい。
【0146】
図3は、本実施形態の膜モジュールの別の一実施形態の斜視図である。膜モジュールγは、プリーツを円筒に巻きつけ、円筒の中心軸に対して側面視した状態で、反時計回りにプリーツを傾けた(ねじった)形状(スパイラル形状)の膜モジュールである。ここでは一例として気体透過膜γ1を用いる場合について説明したが、γ1として、水蒸気透過膜、窒素富化と水蒸気透過の両者の性質を有する窒素富化・水蒸気透過膜を用いてもよい。
【0147】
上記膜モジュールの中でも、単位容積あたりの膜面積(比表面積)が大きいという観点から中空糸型膜モジュールや、圧力損失が小さいプリーツ型が好ましい。中空糸型膜モジュールは、中空糸の外面側からろ過する外圧式であってもよいし、中空糸の内面側からろ過する内圧式であってもよいが、供給空気を中空糸内面に供給する内圧式がより好ましい。
【0148】
図4は、本実施形態の内燃機関の運転方法で用いる中空糸型膜モジュールの一実施形態の概念図である。膜モジュール1は、気体透過膜11と、気体透過膜11を収容するケース12とを備えている。膜モジュール1は、筒状の中空糸型膜モジュールであり、その内部に中空糸膜である気体透過膜11が組み込まれている。ケース12は、空気供給口121と、空気排出口122と、空気および/または加湿用水供給口123と、空気および/または加湿用水排出口124とを備えている。ケース12内では、気体透過膜11により仕切られた、第一の空間a1と、第二の空間b1とが形成されている。中空糸型膜モジュールの場合、膜(気体透過膜11)の内径側(内側)に第一の空間a1が形成され、外形側(外側)に第二の空間b1が形成されている。第一の空間a1は処理される空気が流れる空気領域であり、第二の空間b1は空気および/または加湿用水が流れる領域である。前記加湿用水には水蒸気も含まれる。中空糸には、水蒸気透過膜、窒素富化と水蒸気透過の両者の性質を有する窒素富化・水蒸気透過膜を用いてもよい。
【0149】
空気は、空気供給口121から気体透過膜11に送り込まれ(矢印F1参照)、低酸素化された空気は、空気排出口122から排出される(矢印F2参照)。酸素富化空気は排出口124から排出される。この場合、供給口123を酸素富化空気排出口として使用することも可能である。第二の空間b1を掃気するためには空気供給口123から空気が導入される。空気を加湿する場合、加湿用水は、加湿用水供給口123から第二の空間b1へ供給され(矢印F3参照)、加湿用水排出口124からケース外へ排出される(矢印F4参照)。空気と加湿用水の両者を同時に供給口123から導入することも可能である。図4では、第一の空間a1内の流れと第二の空間b1内の流れは対向している状態である。膜モジュール1は、空気供給口121、空気排出口122、空気および/または加湿用水供給口123および空気および/または加湿用水排出口124を夫々1ずつ有する形態であるが、本実施形態では必要に応じてこれらの数を2以上とすることもできる。例えば、空気の流速や、空気の加湿(および窒素富化)の効率の観点から、空気供給口121、空気排出口122、空気および/または加湿用水供給口123および加湿用水排出口124の夫々を2以上とすることもできる。上記加湿用水には水蒸気も含まれる。図4は概念的に中空糸一本が記載されているが、通常中空糸は多数本束ねて使用される。
【0150】
図5は、本実施形態の内燃機関の運転方法で用いる平膜型モジュールの一実施形態の概念図である。ここでは、図4で説明した事項と共通する事項については説明を省略し、図4と相違する点を中心に説明する。膜モジュール2は、気体透過膜21と、気体透過膜21を収容するケース22とを備えている。膜モジュール2は、箱型膜モジュールであり、その内部に平膜である気体透過膜21が組み込まれている。ケース22は、空気供給口221と、空気排出口222と、空気および/または加湿用水供給口223と、空気および/または加湿用水排出口224とを備えている。供給口223は酸素富化空気排出口として使用することも可能である。ケース22内では、気体透過膜21により仕切られた、第一の空間a2と、第二の空間b2とが形成されている。箱型膜モジュールの場合、平膜(気体透過膜21)の一方の表面側(図5では上方)に第一の空間a2が形成され、平膜の他方の表面側(図5では下方)に第二の空間b2が形成されている。第一の空間a2は処理される空気が流れる空気領域であり、第二の空間b2は空気および/または加湿用水が流れる加湿用水領域である。平膜には水蒸気透過膜、窒素富化と水蒸気透過の両者の性質を有する窒素富化・水蒸気透過膜を用いてもよい。
【0151】
空気は、空気供給口221から気体透過膜21に送り込まれ(矢印F1参照)、低酸素化された空気は、空気排出口222から排出される(矢印F2参照)。酸素富化空気は排出口224から排出される。この場合、供給口223を酸素富化空気排出口として使用することも可能である。第二の空間b2を掃気するためには空気供給口223から空気が導入される。空気を加湿する場合、加湿用水は、加湿用水供給口223から第二の空間b2へ供給され(矢印F3参照)、加湿用水排出口224からケース外へ排出される(矢印F4参照)。空気と加湿用水の両者を同時に供給口223から導入することも可能である。図5では、第一の空間a2内の流れと第二の空間b2内の流れは対向している状態である。
【0152】
本実施形態の内燃機関の空気供給装置は、上記した膜モジュールと、前記膜モジュールの前記空気供給口に、空気を供給する給気部と、前記膜モジュールの前記空気および/または加湿用水供給口を備え、前記空気供給口には圧縮機が接続される。前記膜モジュールの前記空気排出口から排出される低酸素濃度空気は内燃機関の燃焼室に供給される。本実施形態では、上記した膜モジュールにより処理(窒素富化・加湿)された空気を内燃機関の燃焼室に供給する。内燃機関には、炭化水素系燃料と水よりなるエマルション燃料が供給され、本実施形態の低酸素濃度空気供給装置と併用することで、内燃機関から排出される排気中のNOxの含有量を大幅に低減できる。加湿用水には水蒸気も含まれる。
【0153】
本実施形態では、上記したように加湿水は塩化ナトリウム等の塩やその他の不純物を含有するものであっても使用できる。この観点から、例えば、海水等を容易に入手できる船舶等のディーゼルエンジンにも用いることができる。
【0154】
本実施形態において、空気供給口に接続される空気圧縮機は、窒素富化工程において系外に排出される酸素富化空気により、低酸素濃度空気圧力の低下した量と圧力を補う目的で使用される。この空気圧縮機の動力としては、電気、エンジンの軸動力、排気等のエネルギーを使用できる。またこの空気圧縮機は空気圧縮の能力が適宜選択され、低圧のブロアーから高圧のコンプレッサーまで幅広く選択が可能である。空気圧縮機の空気吸い込み口は、内燃機関の過給機の空気吐出口に接続される場合と、大気に開放されている場合の二通りの形態がある。いずれの形態であっても、窒素富化工程による低酸素濃度空気圧力の低下を補うことができるため、従来から使用されている内燃機関の過給機を使用することができる。空気圧縮機がある場合の空気量の増加量は、空気圧縮機が無い場合に比べ30%以下であることが望ましい。好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。但し、場合によっては空気圧縮機を用いなくてもよい。
【0155】
前者の場合は、過給機と空気圧縮機が直列接続されている状態である。後者の方法では、過給機の吐出口と空気圧縮機の吐出口は窒素富化工程に同時に接続されるので、過給機と空気圧縮機は並列接続されている状態である。直列接続の場合は、過給機で圧縮された空気は一旦インタークーラーにて冷却してから空気圧縮機に導入することが好ましい。空気圧縮機で圧縮された空気は、必要に応じて、インタークーラーで冷却されてから窒素富化工程に導入される。並列接続の場合は、過給機からの圧縮空気と空気圧縮機からの圧縮空気は合流して窒素富化工程に導入される。過給機および空気圧縮機から吐出する圧縮空気は必要に応じてインタークーラーで冷却した後に窒素富化工程に導入される。
【0156】
上記内燃機関の過給機としては、ターボチェージャー、スーパーチャージャー、リショルム・コンプレッサ、プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー等が例示できる。
【0157】
本実施形態では、空気を加湿する場合は、給水部によって、膜モジュールの加湿用水供給口に加湿用水を供給する。給水部は、膜モジュールの加湿用水供給口に加湿用水を供給できるものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、膜モジュールの加湿用水供給口に水槽から加湿用水を供給する方法が挙げられる。また、加湿用水を加圧することにより加湿用水供給口に加湿用水を供給することも可能であり、例えば、加湿用水を加圧し、加湿用水供給口に導入する方法としては、加湿用水供給口の手前に、または加湿用水排出口の後ろに加圧ポンプを設置して、加湿用水または水蒸気を導入する方法等が挙げられる。また、上記した膜モジュールの第二の空間(空気領域)を減圧することにより、加湿用水を加湿用水供給口から第二の空間に導入することが好ましい。その具体例としては、加湿用水排出口の後ろに自給式ポンプやエジェクターを設置して第二の空間に加湿用水を導入する方法等が挙げられる。
【0158】
本実施形態では、膜モジュールの第二の空間を空気で掃気することは、膜モジュールの窒素富化能力を向上させるために好ましい方法である。上記第二の空間を空気と加湿用水の混相として導入することも可能である。この方法により、窒素富化と加湿を同一の膜で同時に実施することができる。
【0159】
また、給水部は、膜モジュールの加湿用水排出口から排出される加湿用水を、再び膜モジュールの加湿用水供給口に供給する送液部を有することが好ましい。これにより、膜モジュールに供給する加湿用水を循環させることができ、節水できるので、好ましい。例えば、膜モジュールにおいて、第二の空間の少なくとも2個の開口部が水槽に接続され、その開口部のうちの1個が加湿用水供給装置を経由することにより、加湿用水または水蒸気を循環させることができる。開口部が2個の場合、1個の開口部が加湿用水供給ポンプを経て水槽に接続され、もう1個の開口部が水槽に直接接続される構成が挙げられる。開口部が複数個の場合、複数個の開口部が加湿用水供給ポンプを経て水槽に接続され、それ以外の複数個の開口部が水槽に接続される構成が挙げられる。この構成によって、水槽から加湿用水供給装置を経由して、膜モジュールに加湿用水または水蒸気が供給され、さらに加湿用水排出口から排出され、水槽に戻る経路が確保できるので、加湿用水または水蒸気が循環することができる。水蒸気のときは、排気をキャリアーとしてもよく、内燃機関から排出される排気を水蒸気が通る経路に連結してもよい。
【0160】
本実施形態では、加湿用水の温度を制御する温度制御部、加湿用水の流量を制御する流量制御部、あるいはその両方を更に備えることが好ましい。水槽または加湿用水供給装置に接続される加湿用水の温度制御部または加湿用水の流量制御部により、加湿用水の温度や流量を好適な条件に制御できる。装置構成等は特に限定されず、例えば、水温モニターにより測定された水温に基づいて加湿用水を加熱または冷却する加湿用水温制御部と、流量モニターにより測定された流量に基づいて加湿用水の流量を調節する流量制御部とを備える構成等が挙げられる。水温モニターと流量モニターを用いて、加湿用水をリアルタイムにモニタリングすることで、流す加湿用水の水温および流量を自動制御することが好ましい。加えて、加湿用水を加熱する際に、内燃機関の排熱を利用することが好ましい。排熱は、内燃機関から排出される排気やエンジンオイルから得ることができる。
【0161】
本実施形態の空気供給装置は、熱交換器を有していることが好ましい。空気加圧装置から送られる空気と、膜モジュールから排出される加湿用水とが熱交換することにより、温度調整をすることができ、廃熱を有効利用できることから好ましい。
【0162】
本実施形態の装置では、前処理として、加圧された空気から塵埃を除去するためにプレフィルターを、膜モジュールの前に設けてもよい。
【0163】
以下、図を用いて、本実施形態の内燃機関の空気供給装置について説明する。
【0164】
図6は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置3は、膜モジュール9を有している。膜モジュール9は中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。膜モジュール9は、空気圧縮機36で圧縮された空気が、矢印F5から空気供給口(図4の121、図5の221参照)に送り込まれ、空気排出口(図4の122、図5の222参照)から矢印F25に排出される。膜モジュール9の二次側から矢印F8で排出される酸素富化空気により矢印F25の圧力と流量は低下する。空気圧縮機36は、矢印F25の圧力と流量を増大させるために使用される。空気圧縮機36から流出する圧縮空気は必要に応じてインタークーラー51で冷却される。
【0165】
膜モジュール9の空気排出口(図4の122、図5の222参照)には、温度計31、圧力計32、流量計33、湿度計34および酸素濃度計35が接続されている。空気供給ブロアー37と、膜モジュール9の間に流量計38と、圧力計39が設置されている。矢印F9から導入された空気は、過給機40により圧縮され、空気圧縮機36に導入される。この場合、空気は、内燃機関に付属する過給機40により圧縮された後、さらに過給機40と直列に配置された空気圧縮機36により圧縮されることになる。
【0166】
F16より空気を導入すると、膜モジュール9の二次側の膜近傍にたまった酸素濃度の高い空気を追い出す(掃気する)ことができるので、膜モジュールの分離性能が向上する。この場合、膜モジュール9の一次側の流れと二次側の流れ方向は対向していることが好ましい。矢印F16から空気を導入しなくても使用は可能である。この場合、酸素富化空気はF8から排出することが可能であるが、矢印F7と逆方向の流れで排出させることも可能である。38はこの掃気の流量計であり、39は掃気の圧力計であり、掃気量の調整はバルブV1とV2で制御される。
【0167】
矢印F13で示す燃料は矢印F14に示す加湿用水と、必要に応じて矢印F15に示す乳化剤と、42のエマルション製造装置によりエマルション燃料を調整してからディーゼルエンジン41に導入される。ディーゼルエンジンの排ガスF11は過給機40のタービンを回してコンプレッサーのエネルギーとなり、矢印F12で排出される。過給機40から流出する圧縮空気は必要に応じてインタークーラー50で冷却される。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。
【0168】
図7は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の別の一実施形態の概念図である。空気供給装置4は、膜モジュール10を有している。膜モジュールは中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。膜モジュール10の膜は、気体分離膜、水蒸気透過膜が使用される。気体分離膜を使用した場合は、窒素富化と加湿を同時に実施することが可能である。図6と装置記号および矢印記号が同じものは図6の説明と同じである。温水バス46の加湿用水はポンプ47で膜モジュール10に送り込まれる。ポンプ47の下流には、バルブV4、温度計43、流量計44、圧力計45が設置されており、膜モジュール10の加湿用水供給口(図4の123、図5の223参照)には、矢印F18から膜モジュール10に加湿用水が送り込まれる。膜モジュール10の加湿用水供給口(図4、5参照)の上流には、温度計43と、圧力計45、が接続されている。加湿用水は膜モジュール10の二次側を通り一部が蒸発して膜モジュール10の一次側に移行し残りの加湿用水は温水バス46に戻る。膜モジュール10で蒸発した分の加湿用水は矢印F21で供給される。加湿用水の循環に伴い、温水バス46には加湿用水に含まれる不純物が蓄積するので、必要に応じ矢印F22で加湿用水の一部が廃棄される。膜モジュール10で窒素富化と加湿を同時に実施することも可能である。膜モジュール10の二次側を空気と加湿用水の混相流とすることも可能である。この場合矢印F17で空気が導入され、バルブV4の上部で加湿用水と空気が混合する。膜モジュール10から戻った空気は、矢印F20で系外に廃棄される。
【0169】
膜モジュール10の第一の空間(一次側)と第二の空間(二次側)の流れは対向していることが好ましい。
【0170】
内燃機関の負荷に応じて吸気の最適な酸素濃度と湿度を制御するため、循環加湿用水の圧力および流量をバルブV3およびV4で制御できる。あるいはポンプ47をインバータで制御することもできる。循環加湿用水の温度は、温水バス46にて制御することができる。
【0171】
次に、空気を窒素富化したのちに加湿してさらに低酸素化するための装置を説明する。上記したように、窒素富化および加湿された低酸素濃度空気を得るには、窒素富化と加湿を別工程で行う場合と、窒素富化と加湿を一工程で行う場合が挙げられる。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。
【0172】
図8は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置5は、空気を窒素富化することを主に行う第一の膜モジュール9と、空気を加湿することを主に行う第二の膜モジュール10とを備えている。膜モジュール9では気体透過膜が使用され、膜モジュール10では、気体透過膜、水蒸気透過膜が使用される。膜モジュールは中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。図6図7と装置記号および矢印記号が同じものは図6図7の説明と同じである。膜モジュール9で窒素富化された空気は膜モジュール10で加湿されさらに空気が低酸素化されて、ディーゼルエンジン41に導入される。膜モジュール9から流出する窒素富化空気は必要に応じ熱交換器52で加熱され膜モジュール10に導入される。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。V5、V6は膜モジュール10をバイパスするバルブである。
【0173】
図9は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置6は、膜モジュール9を有している。膜モジュール9は中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。図6と装置記号および矢印記号が同じものは図6の説明と同じである。空気圧縮機49で圧縮された空気F23は、過給機40で圧縮された空気F24に合流し膜モジュール9に導入される。膜モジュール9の二次側から矢印F8で排出される酸素富化空気により矢印F25の圧力と流量は低下する。空気圧縮機49は、矢印F25の圧力と流量を増大させるために使用される。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。
【0174】
図10は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置7は、膜モジュール10を有している。膜モジュール10は中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。図7と装置記号および矢印記号が同じものは図7の説明と同じである。空気圧縮機49で圧縮された空気F23は、過給機40で圧縮された空気F24に合流し膜モジュール10に導入される。膜モジュール10の二次側から矢印F19で排出される酸素富化空気により矢印F25の圧力と流量は低下する。空気圧縮機49は、矢印F25の圧力と流量を増大させるために使用される。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。この場合、内燃機関に付属する過給機40により圧縮された空気に、過給機40と並列に配置された空気圧縮機49により圧縮された空気を加えた空気が膜モジュール10に供給される。
【0175】
図11は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置8は、空気を窒素富化することを主に行う第一の膜モジュール9と、空気を加湿することを主に行う第二の膜モジュール10とを備えている。膜モジュールは中空糸膜モジュールあるいは平膜モジュールが使用される。図8と装置記号および矢印記号が同じものは図8の説明と同じである。膜モジュール9で窒素富化された空気は膜モジュール10で加湿されさらに空気が低酸素化されて、ディーゼルエンジン41に導入される。本実施形態の空気供給装置の構成は、上記した構成を含むものであればよく、内燃機関の用途や使用環境等に応じて適宜に設計することができる。
【0176】
図12は、本実施形態の内燃機関の空気供給装置の一実施形態の概念図である。空気供給装置8’は、膜モジュール9から排出される酸素富化空気量を補うために、空気圧縮機36および空気圧縮機49の両方を使用した例である。
【0177】
内燃機関の運転において使用する給気としては、給気バランスが高い方が好ましい。ここで、給気バランスとは、加湿または窒素富化を行うことによる空気の流量(m/分)の増減のことであり、下記の式で求められる。
給気バランス(%)=(加湿および/または窒素富化された空気の流量-供給された空気の流量)/供給された空気の流量
【0178】
つまり、加湿および/または窒素富化を行うことにより、空気の流量が増加すれば、給気バランスは正の値を示す。具体的には、本実施形態において、-40%以上が好ましい。より好ましくは-15%以上、更に好ましくは-10%以上、より更に好ましくは0%以上、より一層好ましくは10%以上、より更に一層好ましくは15%以上である。加湿および/または窒素富化された空気の給気バランスを上記範囲とすることにより、エネルギー効率も一層向上させることができる。
【実施例
【0179】
以下の実施例により本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0180】
[実施例1~37、比較例1~32]
図8、11、12に示すように各装置を接続した。いずれの装置に接続したかは表に記載した。また、図中の各構成装置の使用の有無を表中で○(接続あり)、×(接続なし)で示した。また、本実施例において、圧力は特に断らない限り、ゲージ圧で表す。
【0181】
すなわち、図8では、空気供給装置5は、空気を窒素富化することを主に行う第一の膜モジュール9と、空気を加湿することを主に行う第二の膜モジュール10とを備えている。第一の膜モジュール9で窒素富化された空気は第二の膜モジュール10で加湿され、さらに空気が低酸素化されて、ディーゼルエンジン41に導入される。第一の膜モジュール9から流出する窒素富化空気は必要に応じ熱交換器52で加熱され第二の膜モジュール10に導入される。
【0182】
図11では、空気供給装置8は、空気を窒素富化することを主に行う第一の膜モジュール9と、空気を加湿することを主に行う第二の膜モジュール10とを備えている。図8と装置記号および矢印記号が同じものは図8の説明と同じである。第一の膜モジュール9で窒素富化された空気は第二の膜モジュール10で加湿されさらに空気が低酸素化されて、ディーゼルエンジン41に導入される。
【0183】
図12についても同様である。
【0184】
図13において101は真空ポンプまたは吸引ブロアーである。その他は、図6の説明と同じである。
【0185】
図14において101は真空ポンプまたは吸引ブロアーである。102は過給機の吸い込み側に設置した膜装置である。F16は空気であり、必要に応じて導入される。F8は排気、F101は空気である。F102は窒素富化空気である。その他は、図6の説明と同じである。
【0186】
図15において101は真空ポンプまたは吸引ブロアーである。その他は、図8の説明と同じである。
【0187】
図16において101は真空ポンプまたは吸引ブロアーである。102は過給機の吸い込み側に設置した膜装置である。F16は空気であり、必要に応じて導入される。F8は排気、F101は空気である。F102は窒素富化空気である。その他は、図8の説明と同じである。
【0188】
なお、いずれの装置の接続の場合においても、実施例1~17、比較例1~21ではエマルション燃料のエンジンへの供給は、エンジン直前で、燃料と水とをそれぞれ計量器を通して混合器(セキエマBF/DND-300HC-ST)に注入して混合、エマルション化して行った。エマルション化に当たり、燃料に対し、乳化剤セキエマールSA0.3容量%、セキエマールLK0.2容量%を添加した。
【0189】
また、実施例18~27、比較例22~28については同様に乳化剤を用いてエマルション化した燃料を用いた。
【0190】
また、実施例28~37、比較例29~32については、乳化剤を用いずに、ナノクス社製スタティックミキサ(ラモンドナノミキサー(登録商標))を用い、乳化剤無しで軽油と水を混合して調整したエマルション燃料を用いた。
【0191】
各実施例、比較例の図8、11、12の内燃機関装置の第一の膜モジュール、第二の膜モジュールには、下記に示す平膜型膜モジュール、中空糸型膜モジュールを用いた(何れを用いたかは本数と共に、表に示した)。平膜型膜モジュールは支持層としてポリエチレン微多孔膜(水銀ポロシメーターによるモード径は90nm)を用い、ポリエチレン微多孔膜を幅300mmに裁断した後、ポリエチレン微多孔膜の片表面のみに、「テフロン(登録商標)AF1600」(デュポン社製)を、マイクログラビア塗工機(康井精機製)を用いて厚さ1μm以下となるようにコーティングし、気体透過膜を得た。
【0192】
次に、スペーサーを2枚用意し、その間に上記気体透過膜を挟み、プリーツ機を用いて、プリーツ高さ60mmの条件でプリーツ加工を行った後、幅120mmに裁断してひだ部の枚数550枚(長さ約380mm)のプリーツ積層体を得た。この端部をエポキシ樹脂で接着し、膜エレメントを得た。スペーサーには、直径約126μmの複数の糸からなるポリエステル製撚糸で作製した平織物であって、糸の交点が熱融着により固定された、厚さ:183μm、オープニング(糸間距離):1mm、幅300mmの平織物を用いた。この膜エレメントを膜の一方(一次側)と他方(二次側)が膜の透過以外でガスが移動しないように気密を保って装填して、平膜型膜モジュールとした。1本当たりの膜面積は7.5mである(平膜Aと呼ぶ)。同様にして、1本当たりの膜面積は15mである平膜型膜モジュールも作成した(平膜Bと呼ぶ)。膜モジュールに装填した膜エレメントは、内径0.7mmφ、外径1.0mmφのポリエーテルスルホン製の中空糸限外ろ過膜(UF膜)を支持層として、その外側に気体透過膜としてフッ素系樹脂である「テフロン(登録商標)AF1600」(商品名、デュポン社製)を厚さ1μm以下となるようにコーティングし、これを芯棒の周りに綾巻にすることで作製した。この膜エレメントは1本当たりの膜面積が10m、外径175mmφ、長さ430mmの円筒形状である。同様に、この膜エレメントを装填して、中空糸型膜モジュールとした。なお、上記気体透過膜の吸水率は、0.01%以下であり、水との接触角は104°であった。吸水率は、ASTM D570に従って、サンプルを23℃の水に24時間浸漬した条件で測定した。水との接触角は、サンプルの表面に脱イオン水の水滴を乗せ、23℃で1分間放置した後、接触角測定装置(協和界面科学社製、「CA-X150型接触角計」)を用いて測定した。
【0193】
実施例1~17、比較例1~21では2ストローク低速ディーゼルエンジンを使用し、その仕様は、定格177rpm(100%負荷時)、出力857kW、ボア400mm、ストローク1360mm、Pme1.7MPaであり、燃料としては、A重油を使用した。エンジンの運転は「舶用ディーゼルエンジンからのNOx排出規制に関するテクニカルコード(2008)」(日本海事協会)に規定されているE3型テストサイクルに準じて行った。
【0194】
噴射時期調整は、噴射ポンプの容量を変化させることにより行い、4°遅延させた。
【0195】
実施例の運転条件および結果を表1に、比較例の運転条件および結果を表2に示した。水としては水道水用いた。酸素濃度は、横河電機製ジルコニア型酸素濃度計YEW ZR202G+ZR20Hを用いて測定した。湿度はテストー製6681型温湿度計を使用して測定した。
【0196】
実施例18~27、比較例22~28では、4-ストローク高速ディーゼルエンジンを使用し、その仕様は、定格2400rpm(100%負荷時)、出力103kW、ボア110mm、ストローク125mm、正味平均有効圧力Pme1.08MPaであり、燃料としては軽油燃料を使用した(エンジン4Aと呼ぶ)。実施例28~37、比較例29~32では、別の4-ストローク高速ディーゼルエンジンを使用し、その仕様は、定格3101rpm(100%負荷時)、出力214kW、ボア100mm、ストローク110mm、Pme1.59MPaであり、燃料としては軽油燃料を使用した(エンジン4Bと呼ぶ)。実施例、比較例の運転条件および結果を表1、表2、表3、表4、及び表5に示した。
【0197】
なお、空気圧縮機(特に空気圧縮機(49))を用いる場合には、過給機および空気圧縮機からの給気の一部を必要により排気して圧力調整、サージング防止を行った。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
【表3】
【0201】
【表4】
【0202】
【表5】
【0203】
以上より、各実施例において内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物を簡便かつ効果的に低減できたことが確認された。また、燃料消費率の上昇も効果的に抑制されることも確認された。また、空気圧縮機の併用が、窒素酸化物の低下、燃料消費率の抑制の両方に効果的であることも確認された。
【符号の説明】
【0204】
1…膜モジュール、2…膜モジュール、3…空気供給装置、4…空気供給装置、5…空気供給装置、6…空気供給装置、7…空気供給装置、8…空気供給装置、8’…空気供給装置、9…膜モジュール、10…膜モジュール、11…気体透過膜、12…ケース、21…気体透過膜、22…ケース、31…温度計、32…圧力計、33…流量計、34…湿度計、35…酸素濃度計、36…空気圧縮機、37…空気供給ブロアー、38…流量計、39…圧力計、40…過給機、41…ディーゼルエンジン、43…温度計、44…流量計、45…圧力計、46…温水バス、47…ポンプ、49…空気圧縮機、50…インタークーラー、51…インタークーラー、52…熱交換器、121…空気供給口、122…空気排出口、123…空気および/または加湿用水供給口、124…空気および/または加湿用水排出口、221…空気供給口、222…空気排出口、223…空気および/または加湿用水供給口、224…空気および/または加湿用水排出口、a1…第一の空間、a2…第一の空間、b1…第二の空間、b2…第二の空間、α…膜モジュール、α1…気体透過膜、β…膜モジュール、β1…気体透過膜、γ…膜モジュール、γ1…気体透過膜。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16