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  • 特許-医薬組成物 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20230502BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230502BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230502BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/46
A61P1/02
A61P29/00
A61P31/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023513124
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2022043861
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021194010
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 和洋
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 雄也
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-15479(JP,A)
【文献】特表2001-514216(JP,A)
【文献】米国特許第2752393(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0237611(US,A1)
【文献】BIBI, Marjan Razavi et al.,A review and new insights to antimicrobial action of local anesthetics,European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases,2019年,No.38,pp. 991-1002,doi:10.1007/s10096-018-03460-4
【文献】CREVELING, C. R. et al.,Batrachotoxin-Induced Depolarization and [3H]Batrachotoxinin-A 20α-Benzoate Binding in a Vesicular,MOLECULAR PHARMACOLOGY,1983年,No. 23,pp. 350-358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/167
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/26
A61K 47/46
A61P 1/02
A61P 29/00
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N-ジメチル-2-オキソ-N-(2-オキソ-2-(フェニルアミノ)エチル)-2-(フェニルアミノ)エタン-1-アミニウム(以下、化合物A)及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、口腔及び/又は咽頭に適用するための、局所用医薬組成物。
【請求項2】
塩酸、乳酸、酒石酸、及び、炭素数4以上の糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの炭素数4以上の糖アルコールを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分を含む、請求項1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分、及び
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩基性成分
を含む、請求項1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの糖アルコールが、キシリトール、マンニトール、及びソルビトールからなる群より選択される、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記有効成分として、化合物Aの塩化物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
pHが3~7である、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
さらに、スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
さらに、グリセリン、及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1つの多価アルコールを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
化合物Aの塩化物、
塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分、任意で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩基性成分、
キシリトール、マンニトール、及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1つの糖アルコール、
スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される少なくとも1つ、
グリセリン、及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1つの多価アルコール、及び
0~5重量%の添加剤
を含み、残部が水である、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N-ジメチル-2-オキソ-N-(2-オキソ-2-(フェニルアミノ)エチル)-2-(フェニルアミノ)エタン-1-アミニウム(以下、化合物Aという)及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む医薬組成物、特に、口腔及び/又は咽頭の疼痛を緩和するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口内炎は、口の中や周辺(例えば、頬の内側、歯ぐき、舌、唇、及び口蓋など)の粘膜に起こる炎症として知られており、重度の口内炎では、強い痛みのため、歯磨き、飲食、及び会話にまで支障が生じることがある。このような重度の口内炎は、例えば、抗がん剤治療や、放射線治療などのがん治療を受けた患者に生じる場合が多く、その痛みにより、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく損なう。また、頭頸部の同時化学放射線療法などによって、重篤な口腔咽頭粘膜炎が生じることが知られており、この場合は、口腔だけでなく咽頭にも痛みが生じるため、飲食物を飲み込む際に強い嚥下痛が生じる。
【0003】
このような口内炎及び/又は咽頭炎による強い痛みを緩和するため、鎮痛薬の内服が行われており、特に痛みがひどい場合は、鎮痛薬と医療用麻薬(モルヒネなど)との併用が行われている。しかしながら、内服薬は全身に影響を及ぼし得るため、より安全な局所用製剤が望まれている。
【0004】
口内炎などによる痛みを直接緩和するために使用できる局所用製剤として、特許文献1には、局所麻酔薬(リドカインなど)と弱酸(クエン酸やリン酸など)とを含む口内用または咽頭部用製剤が開示されており、特許文献2には、リン酸またはその薬学上許容される塩と、局所麻酔薬物とを含むゼリー剤が開示されている。しかしながら、今なお、口腔及び/又は咽頭の疼痛を緩和するのに好適な、局所用の疼痛緩和剤に対する需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-015479号公報
【文献】特開2006-160607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、本発明は、口腔や咽頭の疼痛を緩和するのに適した局所用医薬組成物を提供することを課題とする。特に、本発明は、有効成分を安定に維持することができる局所用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、局所麻酔薬である化合物A(特に、化合物Aの塩化物)に着目し、化合物A及び/又はその塩を、口腔や咽頭に局所適用することにより、口腔や咽頭の疼痛を改善することができることだけでなく、その抗菌作用により、口腔内の衛生状態を改善できることを見出した。さらに、化合物Aはリドカインとは異なる性質を示すため、特許文献1及び2と同様のアプローチで安定な製剤を提供することはできなかったが、鋭意検討によって、化合物A及び/又はその塩を安定に保つことができる成分も見出した。
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1] N,N-ジメチル-2-オキソ-N-(2-オキソ-2-(フェニルアミノ)エチル)-2-(フェニルアミノ)エタン-1-アミニウム(以下、化合物A)及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む、口腔及び/又は咽頭に適用するための、局所用医薬組成物。
[2] 塩酸、乳酸、酒石酸、及び、炭素数4以上の糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]に記載の医薬組成物。
[3] 少なくとも1つの炭素数4以上の糖アルコールを含む、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4] 塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[5] 塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分、及び
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩基性成分
を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[6] 前記少なくとも1つの糖アルコールが、キシリトール、マンニトール、及びソルビトールからなる群より選択される、[2]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[7] 前記有効成分として、化合物Aの塩化物を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[8] pHが3~7である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[9] さらに、スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[10] さらに、グリセリン、及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1つの多価アルコールを含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[11] 化合物Aの塩化物、
塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分、任意で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩基性成分、
キシリトール、マンニトール、及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1つの糖アルコール、
スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される少なくとも1つ、
グリセリン、及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1つの多価アルコール、及び
0~5重量%の添加剤
を含み、残部が水である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び1Bは、酸性成分又は塩基性成分が、化合物Aの塩化物の加水分解に与える影響を示すグラフである。化合物Aの安定性が低いほど、加水分解物の生成量は多くなる。
図2図2は、糖アルコール(ソルビトール又はキシリトール)が、化合物Aの塩化物の加水分解に与える影響を示すグラフである。
図3図3は、糖アルコール(マンニトール又はエリスリトール)が、化合物Aの塩化物の加水分解に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、医薬組成物である。医薬組成物としては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定される医療用医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品、又は医薬部外品に該当する組成物が挙げられる。
【0011】
本発明の組成物は、化合物A及びその医薬上許容される塩から選択される少なくとも1つを、有効成分として含む。特に、以下の構造式で示される化合物Aの塩化物を有効成分として含む組成物が好ましい。
【化1】
【0012】
化合物A及び/又はその塩の含有率は、0.1~5重量%であることが好ましく、0.5~2.5重量%であることがより好ましく、1~2重量%であることが特に好ましい。
本明細書において、本発明の組成物に含まれる各成分の含有率は、組成物の全重量を100とした場合の、各成分の重量の割合を意味する。
【0013】
化合物Aやその塩は、局所麻酔作用を有する。さらに、化合物Aやその塩が、複数の細菌や真菌に対して抗菌作用を有することが明らかになった。口内炎や咽頭炎等によって、口腔や咽頭に疼痛が生じている患者は、その痛みにより歯磨きやうがいを十分に行うことが困難なため、口腔内が不衛生になりやすい。その結果、菌が増えて、唾液と一緒に菌が気管に入り込み、肺炎を起こす等の症例が報告されている。また口内炎の潰瘍部分から菌が血管に入り込み、血管を通して全身に広がり、高熱を出すケースも報告されている。したがって、局所麻酔作用に加えて抗菌作用を有する化合物A/その塩を有する組成物は、痛みを緩和できることに加えて、菌によりもたらされる疾患を予防することができるため、上記の患者の口腔や喉頭に局所適用するのに、非常に適している。このようなことから、本発明の組成物は、特に、抗がん剤や放射線を用いたがん治療によって生じる口内炎及び/又は咽頭炎による疼痛を緩和するのに適しており、頭頸部の同時化学放射線療法などによって生じる口腔咽頭粘膜炎に起因する疼痛を緩和するのに適している。
【0014】
また、本発明の組成物は、局所麻酔作用を有するため、胃カメラ検査を行う際などに口腔、咽頭、及び/又は鼻腔等を麻酔するための局所用組成物として用いることもできる。
【0015】
医薬組成物については、保存中の薬効の低下を抑制するため、組成物中で有効成分を安定に維持すること(有効成分の分解を抑制すること)が重要である。本発明者らは、化合物A及び/又はその塩を含む組成物に、pH調節剤として広く使用されているクエン酸やリン酸等を添加すると、化合物Aやその塩の加水分解が促進されるため、有効成分を安定に保つことが困難であることを見出した。他方、本発明者らは、酸性成分及び塩基性成分のうちでも、化合物Aやその塩の加水分解を促進させにくいものがあることを見出した。なお、局所麻酔薬として使用される代表的な薬物であるリドカインやその塩ではこのような事象は見られず、添加する酸性成分/塩基性成分の種類で加水分解の速度が大きく異なるという事象は、化合物Aやその塩に特有であると考えられる。
【0016】
より具体的には、化合物Aやその塩の加水分解から生じる分解物(加水分解物)を測定したところ、塩酸(HCl)、乳酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、又は酒石酸ナトリウム水和物等を添加した場合、分解物は少量であった(すなわち、化合物Aやその塩が安定であった)が、クエン酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は酢酸ナトリウム等の他の酸性又は塩基性成分を添加した場合、分解物が有意に増加した。よって、本発明の組成物のpHを調節する場合は、化合物Aやその塩の分解を促進させにくい成分を選択することが好ましく、例えば、塩酸(HCl)、乳酸、酒石酸のうち少なくとも1種以上の酸性成分を単独で使用する、又は塩酸(HCl)、乳酸、酒石酸のうち少なくとも1種以上の酸性成分と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、酒石酸ナトリウム(水和物を含む)のうち少なくとも1種以上の塩基性成分とを併用してpHを調節することが好ましい。
【0017】
本発明の組成物のpHは3~7が好ましく、3~6がより好ましく、4.5~5.5が特に好ましい。このように、本発明の組成物のpHは、酸性寄りであることが好ましいため、本発明の組成物のpHは、塩酸(HCl)、乳酸、酒石酸、及び、フマル酸一ナトリウムから選択される酸性成分の少なくとも1つを使用して調節されることが好ましい(より好ましくは、塩酸、乳酸、及び酒石酸から選択される酸性成分、特に好ましくは塩酸)。また、上記酸性成分に加えて塩基性成分を使用する場合、塩基性成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、酒石酸ナトリウム(水和物を含む)、及びコハク酸二ナトリウム(水和物を含む)から選択されることが好ましい(より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムから選択される塩基性成分、特に好ましくは、水酸化ナトリウム、及び/又は水酸化カリウム)。特に、塩酸を使用することが好ましく、塩酸と水酸化ナトリウムを併用することがより好ましい。本明細書において、塩酸とは、塩化水素(HCl)の水溶液を意味し、塩化水素の濃度は特に限定されず、例えば、濃塩酸(塩化水素を35~38w/v%含む)であっても、希塩酸(塩化水素を9.5~10.5w/v%含む)であってもよい。
【0018】
前述の酸性成分/塩基性成分の1つ又は複数を使用する場合、組成物中の前記酸性成分/塩基性成分の濃度は合計で、0.001~1重量%が好ましく、0.005~0.1重量%がより好ましく、0.008~0.05重量%が特に好ましい。
【0019】
さらに、本発明者らは、糖アルコールに、化合物Aやその塩の加水分解を抑制する作用があることを見出した。よって、本発明の組成物は、糖アルコールを含むことが好ましい。前記糖アルコールとして、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、及び還元パラチノースなどの炭素数4~12の糖アルコールが挙げられる。炭素数4~6の糖アルコール(エリスリトール[C4]、キシリトール[C5]、ソルビトール[C6]、又はマンニトール[C6])が好ましく、炭素数5又は6の糖アルコールがより好ましく、炭素数6の糖アルコールが特に好ましい。特に、ソルビトール(D-ソルビトール)やマンニトールは、高い化合物Aの加水分解抑制作用を有するため、本発明の組成物は、ソルビトール及び/又はマンニトール(特に、ソルビトール)を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の組成物中に含まれる前記糖アルコールの含有率は、合計で0.4~20重量%が好ましく、1~15重量%がより好ましく、2~10重量%が特に好ましく、3~7重量%がさらに好ましい。
【0021】
化合物Aやその塩は強い苦味を有するため、本発明の組成物は、その苦味を軽減するために、さらに、前記糖アルコール以外の甘味料を含んでもよい。なお、甘味料の中でも、サッカリンナトリウム水和物、及びグリチルリチン酸二カリウムは、組成物中の有効成分(化合物A及び/又はその塩)の溶解度を低下させることが見出された。よって、甘味料を使用する場合、有効成分が析出しやすいと予想される状況(例えば、組成物が低温で保存される場合)でも有効成分の溶解度を低下させない甘味料を選択することが特に好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される甘味料を含むことが好ましく、スクラロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、及びソーマチンからなる群より選択される甘味料を含むことがより好ましく、スクラロース及び精製ステビア抽出物を含むことが特に好ましい。本明細書において、ステビア抽出物とは、ステビアの葉から抽出して得られたステビオール配糖体4種(ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA)を合計で80.0重量%以上含むものを意味する。本明細書において、精製ステビア抽出物とは、医薬品添加物規格(Japanese Pharmaceutical Excipients)2018に記載されているように、ステビアの葉を水で抽出し、精製したものであって、ステビオール配糖体5種(ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド)を合計で90.0~96.0重量%含むものを意味する。組成物中のこれらの甘味料の含有率は合計で、0.01~3重量%が好ましく、0.05~2重量%がより好ましく、0.1~1重量%が特に好ましく、0.2~0.6重量%がさらに好ましい。
【0023】
本発明の組成物は、グリセリン(濃グリセリンを含む)、及びプロピレングリコールから選択される多価アルコールを含むことが好ましく、グリセリンを含むことが特に好ましい。本明細書において、多価アルコールには、炭素数4以上の糖アルコールは含まれない。組成物中の多価アルコールの含有率は、合計で2~30重量%が好ましく、3~20重量%がより好ましく、5~15重量%が特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、水(好ましくは精製水)を含むことが好ましい。組成物中の水の含有率は、50重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、70~95重量%が特に好ましく、80~90重量%がさらに好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、上述した成分以外の添加剤(保存剤及び増粘剤等)を含んでもよく、含まなくてもよい。本発明の組成物における添加剤の含有率は、0~5重量%が好ましく、0~3重量%がより好ましく、0~1重量%が特に好ましい。
【0026】
保存剤の例としては、特に限定されないが、チモール、ジブチルヒドロキシトルエン、クエン酸水和物、ホウ酸、パラオキシ安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル)、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、クロロブタノール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、サリチル酸、エデト酸ナトリウム水和物、エデト酸四ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム又は乾燥亜硫酸ナトリウム等が挙げられ、1つのみを用いても、2つ以上を用いてもよい。化合物Aやその塩が、細菌や真菌に対する抗菌作用を示すため、本発明の組成物は保存剤を含まなくてもよい。
【0027】
増粘剤の例としては、特に限定されないが、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、グリセリンモノオレエート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール又はキサンタンガム等が挙げられ、1つのみを用いても、2つ以上を用いてもよい。本発明の組成物は、このような増粘剤を含まなくてもよい。
【0028】
本発明の組成物は、特に、口腔、咽頭、及び鼻腔等の内腔の粘膜に適用される局所用製剤であることが好ましい。剤形は、液体状製剤(液剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤、シロップ剤、及びローション剤等を含む)、ゲル状製剤(ゼリー剤を含む)又はスプレー剤など、内腔粘膜に接触させやすい形態が好ましい。例えば、本発明の組成物は、口腔及び/又は咽頭粘膜用のスプレー剤や、口腔用の含嗽剤又は洗口液であってもよい。また、本発明の組成物は、口腔や咽頭の粘膜に適用された後は、うがい等により洗い流されないことが好ましい。例えば、口内炎や咽頭炎を有する患者は、飲食の前に前記組成物を口腔内に適用し、そのまま飲食することができる。本発明の組成物は、局所麻酔作用に加えて、抗菌作用も有するため、洗い流さず使用することにより、麻酔作用による疼痛緩和に加えて、抗菌作用により口腔内を衛生に保つことが期待される。
【0029】
本発明の組成物の好ましい例として、液体状組成物が挙げられる。液体状組成物は粘性が低く、その粘度は通常3000mPa・s以下であり、好ましくは2000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下、最も好ましくは300mPa・s以下である。液体状組成物は、増粘剤を含まなくてもよい。本発明において、粘度とはコーンプレート型粘度計(モジュラーコンパクトレオメーター)にて、測定温度25℃、コーンプレートNo.50-1、回転数5rpmで、回転を始めてから60秒後の粘度を意味する。
【0030】
前記液体状組成物は、ノズル付きスプレー容器(噴射剤を使用せずポンプにより容器内の液体状組成物を吐出又は噴霧できる容器)に収納され、ノズル先端の吐出孔から口腔に吐出又は噴霧されてもよい。ノズル付きスプレー容器として、例えば、容器本体とその上部に取り付けられた吐出器とを有し、吐出器には、水平方向に延びるノズルが設けられており、吐出器の頂部を容器本体側に押し下げることにより、容器本体内の液体状組成物を、ノズル先端の吐出孔から吐出又は噴霧できる容器を使用することができる。このような容器を用いることにより、患部に液体状組成物を命中させることができる。また喉の奥に向けて液体状組成物を吐出又は噴霧すると、液体状組成物がその流動性により、口腔から下咽頭部に流れるため、口腔だけでなく、咽頭部の疼痛を緩和することができる。
【0031】
本発明の組成物の好ましい例として、
・化合物A及び/又はその医薬上許容される塩(特に、化合物Aの塩化物)、
・希塩酸、乳酸、及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸性成分(特に、希塩酸)、任意で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩基性成分、
・少なくとも1つの炭素数5又は6の糖アルコール(より好ましくは、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールからなる群より選択される糖アルコール、特に、ソルビトール)、
・スクラロース、スクロース、ステビア抽出物、精製ステビア抽出物、ソーマチン、及びアセスルファムカリウムからなる群より選択される少なくとも1つの甘味料(特に、スクラロース、及び/又は精製ステビア抽出物)、
・少なくとも1つの多価アルコール(特に、グリセリン)、及び
・任意で少なくとも1つの添加剤
を含み、残部が水(特に、精製水)である医薬組成物が挙げられる。この組成物は、特に、口腔、咽頭、及び/又は鼻腔に適用される疼痛緩和用又は局所麻酔用の組成物であることが好ましく、特に、口腔及び/又は咽頭の疼痛緩和用の組成物であることが好ましい。この組成物のpHは、3~7(より好ましくは3~6、特に4.5~5.5)であることが好ましい。
【0032】
前記好ましい例のうちでも、
・前記化合物A及び/又はその医薬上許容される塩の含有率が、0.1~3重量%(より好ましくは0.5~2.5重量%、特に、1~2重量%)であり、
・前記少なくとも1つの酸性成分、及び任意の少なくとも1つの塩基性成分の合計含有率が、0.001~1重量%(より好ましくは0.005~0.1重量%、特に好ましくは0.008~0.05重量%)であり、
・前記少なくとも1つの糖アルコールの含有率が、0.4~20重量%(より好ましくは1~15重量%、特に2~10重量%、又は3~7重量%)であり、
・前記少なくとも1つの甘味料が0.01~3重量%(より好ましくは0.05~2重量%、特に好ましくは0.1~1重量%、さらに好ましくは0.2~0.6重量%)であり、
・前記少なくとも1つの多価アルコールの含有率が、2~30重量%(より好ましくは3~20重量%、特に5~15重量%)であり、
・前記添加剤の含有率が、0~5重量%(より好ましくは0~3重量%、特に0~1重量%)である組成物が特に好ましい。
【0033】
本発明の組成物のより好ましい例として、
・0.1~3重量%(より好ましくは0.5~2.5重量%、特に、1~2重量%)の、化合物Aの塩化物、
・0.001~1重量%(より好ましくは0.005~0.1重量%、特に好ましくは0.008~0.05重量%)の、希塩酸、及び任意で水酸化ナトリウム(特に、希塩酸及び水酸化ナトリウム)、
・0.4~20重量%(より好ましくは1~15重量%、特に2~10重量%、又は3~7重量%)の、ソルビトール及び/又はキシリトール(特に、ソルビトール)、
・0.01~3重量%(より好ましくは0.05~2重量%、特に好ましくは0.1~1重量%、さらに好ましくは0.2~0.6重量%)の、スクラロース及び/又は精製ステビア抽出物(特に、スクラロース及び精製ステビア抽出物)、
・2~30重量%(より好ましくは3~20重量%、特に5~15重量%)の、グリセリン、及び
・0~5重量%(より好ましくは0~3重量%、特に0~1重量%)の添加剤
を含み、残部が水(特に、精製水)である医薬組成物が挙げられる。この組成物は、口腔及び/又は咽頭の疼痛緩和用の組成物であることが好ましい。この組成物のpHは、3~7(より好ましくは3~6、特に4.5~5.5)であることが好ましい。
【0034】
前記組成物は、使用時に水で希釈した際(例えば2~10倍又は2~5倍に希釈した際)に上述の濃度となる濃縮液剤の形態で提供されてもよい。
【0035】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
0.2重量%の酸性成分を精製水に溶かし、そこに水酸化ナトリウムを添加してpH6に調節した水溶液、又は、0.2重量%の塩基性成分を精製水に溶かし、そこに塩酸を添加してpH6に調節した水溶液に、10mg/10mlになるように化合物Aの塩化物を添加した。その後、水溶液を60℃で2週間保管し、化合物Aの塩化物の加水分解から生じる加水分解物の生成量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。加水分解物の生成量(重量)を、添加した化合物Aの塩化物の重量で除し、100を乗じることによって、生成した加水分解物の%を求めた。酸性成分としては、塩酸、クエン酸、リン酸、乳酸、酒石酸、又はリン酸二水素ナトリウムを使用し、塩基性成分としては、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、又はリン酸三ナトリウムを使用した。
【0037】
結果を図1Aに示す。図1Aから明らかなように、加水分解物の量は、添加した酸性成分/塩基性成分の種類により、大きく異なった。具体的には、クエン酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムは、化合物Aの塩化物の加水分解を大きく促進し(2%以上加水分解物が生じた)、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、又はリン酸三ナトリウムも化合物Aの塩化物の加水分解を促進した(1%以上加水分解物が生じた)。これに対して、塩酸、乳酸、酒石酸、又は水酸化ナトリウムを添加した場合は、加水分解物の生成量が少なく、これは化合物Aの塩化物の加水分解が生じにくいことを示唆する。他方、化合物Aと同じく局所麻酔作用を有するリドカイン塩酸塩では、使用するpH調節剤の種類によって加水分解の速度が大きく異なるという事象は認められなかった。
【0038】
[実施例2]
0.2重量%の塩基性成分(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム水和物(C4H4Na2O6・2H2O)、又はジイソプロパノールアミン)を精製水に溶かし、そこに塩酸を添加してpH6に調節した水溶液に、10mg/10mlになるように化合物Aの塩化物を添加した。その後、実施例1と同様に、水溶液を60℃で2週間保管し、化合物Aの塩化物の加水分解から生じる加水分解物の生成量を、HPLCで測定した。
【0039】
結果を図1Bに示す。図1Bから明らかなように、化合物Aの加水分解物の量は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酒石酸ナトリウム水和物、及びジイソプロパノールアミンを使用した場合は低かったが、酢酸ナトリウムを使用した場合は高かった。
【0040】
実施例1及び2の結果から、pH調節のために使用される酸性成分/塩基性成分のうちでも、化合物Aの分解を生じさせやすいものと、生じさせにくいものがあることが分かった。さらに、組成物のpHが、化合物Aの塩化物の安定性に与える影響を調べたところ、pH3~7の範囲がより好ましく、pH3~6の範囲がより好ましく、pH約5が最も好ましかった。
【0041】
[実施例3]
甘味料が、化合物Aの塩化物の安定性に与える影響を調べた。甘味料として、炭素数4以上の糖アルコール(D-ソルビトール、キシリトール、マンニトール)、スクラロース、精製ステビア抽出物、サッカリンNa水和物、アセスルファムカリウム、又はグリチルリチン酸二カリウムを使用した。ホウ酸、クエン酸水和物及びリン酸三ナトリウム十二水和物からなるpH8緩衝液に、各甘味料を、表1に示す濃度で添加することにより調製した水溶液に、化合物Aの塩化物を10mg/10mlとなるように添加した。
【0042】
その後、実施例1と同様に、水溶液を60℃で2週間保管し、化合物Aの塩化物の加水分解から生じる加水分解物の生成量を、HPLCで測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0043】
表1-1に示す通り、炭素数4以上の糖アルコールを添加した場合、60℃・2週間後のカルボン酸体の量は、緩衝液のみの場合と比べて、大きく減少した。これに対して、表1-2に示す通り、スクラロース、精製ステビア抽出物、グリチルリチン酸二カリウムを添加した場合、カルボン酸体の量は、緩衝液のみの場合と比べて減少したが、減少の程度は炭素数4以上の糖アルコールと比べて小さかった。サッカリンナトリウム水和物とアセスルファムカリウムを緩衝液に添加した場合は、化合物Aが溶解せず、製剤の調製が不可能であった。糖アルコールを添加した場合も、その他の甘味料を添加した場合も、60℃・2週間後のpH値は、約5.5~6.5の範囲内であり、大きな差はなかった。
【0044】
この結果から、炭素数4以上の糖アルコールが、化合物Aの安定性を高める(化合物Aの分解を抑制する)ために、有用であることが分かった。
【0045】
[実施例4]
表2に示す組成物(pH約4.5~5.5)を調製し、糖アルコールの種類及び濃度が、化合物Aの塩化物の安定性に与える影響を試験した。糖アルコールとしては、D-ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、又はマンニトールを使用した。化合物Aの塩化物の安定性は、調製した組成物を50℃で2週間保存した後、実施例1と同様、化合物Aの塩化物の加水分解から生じる加水分解物の生成量を測定することによって試験した。
【表2】
【0046】
結果を図2及び図3に示す。図2及び図3から明らかなように、炭素数4以上の糖アルコールを添加することにより、化合物Aの塩化物の分解が抑制された。いずれの糖アルコールも、その添加量が多くなるにつれ、分解抑制効果が高くなる傾向が見られたが、分解抑制の程度は、糖アルコールの種類により異なった。分解抑制作用は、D-ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトールの順で高かった。
【0047】
[実施例5]
特定の甘味料を添加することにより、化合物Aの塩化物の溶解度が低下したため、化合物Aの塩化物と甘味料との適合性を調べた。より具体的には、各甘味料について、0.2重量%の水溶液を調製し、その水溶液を撹拌しながら、化合物Aの塩化物を、不溶物が生じるまで徐々に投入した。その後撹拌を停止し、水溶液を一晩静置した後、フィルターで水溶液をろ過して、溶解している化合物Aの塩化物の濃度をHPLCで測定した。
結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示すように、化合物Aの塩化物の溶解度は、非イオン性甘味料では低下しないが、イオン性甘味料では低下する傾向が観察された。他方、リドカイン塩酸塩では、このような事象は認められなかった。イオン性甘味料の濃度を高くすると、化合物Aの塩化物の溶解度はさらに低下した。このため、例えば、室温が低い場合のように、化合物Aの塩化物が析出しやすいと予想される状況下では、非イオン性甘味料を用いたほうが好ましい。
【0050】
[実施例6]
表4に示す組成物(pH約5)を調製し、3種類の細菌:大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する、組成物の抗菌効果を試験した。
【表4】
【0051】
また、表5に示すように、化合物Aの塩化物の濃度を2%に増加させた組成物(pH約5)を調製し、上記3種類の細菌及び、2種類の真菌(カンジダ[Candida albicans]、及びアスペルギルス[Aspergillus brasiliensis])に対する効果を調べた。
【表5】
【0052】
[試験手順]
試験菌株は、Staphylococcus aureus(NBRC13276)、Pseudomonas aeruginosa(NBRC13275)、Escherichia coli(NBRC3972)、Candida albicans(NBRC1594)及びAspergillus brasiliensis(NBRC9455)を使用した。Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa及びEscherichia coliは、SCDA(ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン培地)平板培地を用いて、30~35℃で18~24時間培養した。Candida albicansは、NSDA(サブロー・ブドウ糖カンテン培地)平板培地を用いて、20~25℃で48時間培養した。Aspergillus brasiliensisは、NSDA(サブロー・ブドウ糖カンテン培地)平板培地を用いて、20~25℃で6~10日間培養した。この際、前培養培地の無菌性は、SCDA及びNSDA平板培地を各1枚用いて、同条件で培養後、菌の発育の有無により確認した。
試験菌液は、培養菌体を生理食塩液に浮遊させ,遠心分離後、1mL当たり約108CFUとなるように調製し、Aspergillus brasiliensisは、胞子を0.05%ポリソルベート80添加生理食塩液に浮遊させ,遠心分離後、1mL当たり約108CFUとなるように調製し、これらを各試験菌液とした。各組成物を滅菌ガラス製容器に20mL取り、各試験菌液0.1mLを接種し、混合試料を調製した。混合試料は、遮光し、20~25℃で28日間保存した。
各測定日(0、14及び28日後)に、各混合試料から1mLずつを採取した。
各混合試料を、レシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地9mLに加えよく撹拌し、希釈試料液を調製した。これを必要に応じてヘプトン食塩緩衝液を用いて10倍段階希釈を繰り返し、各希釈混合試料とした。 各希釈混合試料1 mLを2枚のペトリ皿にそれぞれ分注し、細菌はSCDLPA(レシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン)、真菌はNSDLPA(レシチン・ポリソルベート80添加サブロー・ブドウ糖カンテン)を加え、混釈した。その後、SCDLPAは30~35℃、NSDLPAは20~25℃で5日間培養後、出現集落数(CFU)を計測した。
【0053】
表4に示す組成物を使用した場合の、0日、14日、28日目における1mL当たりの生菌数を表6に示す。
【表6】
【0054】
表6に示す通り、化合物Aの塩化物を含まない比較組成物と比べて、化合物Aの塩化物を含む組成物は、0日目から、各細菌に対して有意に高い抗菌効果を示した。また、0.1%組成物より、0.8%組成物のほうが、高い抗菌効果を示した。
【0055】
表5に示す組成物を使用した場合の、0日、14日、28日目における1mL当たりの生菌数を表7に示す。
【表7】
【0056】
表7に示すように、2%組成物を細菌に添加した場合、0日目の生菌数は、接種菌数より一桁以上少なくなり、高い抗菌作用が認められた。また、真菌に対しても、接種菌数に対して、0日目から生菌数の減少が観察された。
【0057】
本発明の組成物は、抗がん剤や放射線療法等により、重度の口内炎や咽頭炎が生じている患者の口腔内に適用することにより、疼痛を緩和することができるが、疼痛緩和作用に加えて、口内の細菌や真菌に対して抗菌作用も発揮する。そのため、疼痛により歯磨き等の口腔ケアが十分できず、口腔内の衛生状態が悪化している患者に適用することにより、口腔環境を改善して、菌によりもたらされる疾患の予防に役立つと考えられる。
【0058】
[実施例8]
本発明の組成物の処方例を以下に示す。表に示す組成物は液体状組成物であり、例えば、ノズル付きスプレー容器で口腔内にスプレーすることにより、口腔及び/又は咽頭の疼痛を緩和するために用いることができる。
【表8】
【要約】
口腔及び/又は咽頭の疼痛を緩和するのに適した局所用医薬組成物を提供することを課題とする。
本発明の局所用医薬組成物は、N,N-ジメチル-2-オキソ-N-(2-オキソ-2-(フェニルアミノ)エチル)-2-(フェニルアミノ)エタン-1-アミニウム及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含む。前記医薬組成物は、塩酸、乳酸、酒石酸、及び、炭素数4以上の糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
図1A
図1B
図2
図3