(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】制震装置及びこれを用いた制震方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230508BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
E04H9/02 341B
F16F15/02 C
F16F15/02 L
E04H9/02 341E
(21)【出願番号】P 2018205216
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】523098256
【氏名又は名称】目黒 公郎
(73)【特許権者】
【識別番号】523096975
【氏名又は名称】沼田 宗純
(73)【特許権者】
【識別番号】523096986
【氏名又は名称】メヘルダード・サデグザーデ・ナザリ
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】目黒 公郎
(72)【発明者】
【氏名】沼田 宗純
(72)【発明者】
【氏名】メヘルダード・サデグザーデ・ナザリ
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-118382(JP,A)
【文献】特開平06-147258(JP,A)
【文献】特開平01-275867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 -15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、回転体と、集中荷重部とを備えており、
前記支持体は、下方に凸とされた略凹曲面形状の支持面を備えており、
前記回転体は、前記支持面の上に、前記支持面に沿って転動可能なように配置されており、
これによって、前記回転体は、前記支持体の振動に応じて受動的に前記支持面に沿って転動するように構成されており、
前記集中荷重部は、前記
回転体に配置されて、前記回転体の重心位置を、前記回転体の転動時における自転軸から偏心させるように構成されている
ことを特徴とする制震装置。
【請求項2】
前記回転体の外周面は、略円筒面形状とされている
請求項1に記載の制震装置。
【請求項3】
前記支持体の支持面は、略円筒面形状とされている
請求項1又は2に記載の制震装置。
【請求項4】
さらに滑り防止部を備えており、
前記滑り防止部は、前記支持面と前記回転体の外周面との相対的な滑りを低減させる構成とされている
請求項1~3のいずれか1項に記載の制震装置。
【請求項5】
前記滑り防止部は、前記支持面の表面と前記回転体の外周面とに取り付けられたギアベルトである
請求項4に記載の制震装置。
【請求項6】
前記集中荷重部は、
前記支持面の中間部において位置エネルギが最も低い位置である、前記回転体の転動前の静止位置にあるときの前記回転体の重心位置を上方に偏心させる構成となっている
請求項1~5のいずれか1項に記載の制震装置。
【請求項7】
さらに保持部を備えており、
前記保持部は、前記回転体が前記支持面から離間することを規制する構成とされている
請求項1~6のいずれか1項に記載の制震装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の制震装置を用いた制震方法であって、
前記制震装置の固有周期は、制震の対象となる構造物の固有周期の一次モード又は二次モードに対応している
制震方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の複数の制震装置を用いた制震方法であって、
前記複数の前記制震装置は、前記回転体の自転軸方向が互いに異なるように構造物に配置されている
制震方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の制震装置を用いて、複数のフロアを持つ構造物の制震を行う方法であって、
前記制震装置は、前記構造物における異なるフロアにそれぞれ設置されている
制震方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の制震装置が配置された構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震装置及びこれを用いた制震方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高層ビルをはじめとする長周期の固有周期を持つシステムが長周期地震動を受けた場合の共振現象に伴う大変位振動の制御は大きな問題になっている。この改善策として、従来から、多くの場合、振り子式質量ダンパーや並進型同調質量ダンパーが用いられている。
【0003】
振り子式質量ダンパーでは、その周期が振り子の長さ(l)で決まるため、長周期の大規模システムの制御には長い振り子と大きな質量が必要になる。並進型同調質量ダンパーでは、その周期が質量(m)とバネの剛性(K)の比(m/K)の平方根で決まるため、長周期の大規模システムの制御には剛性の低いバネと大きな質量が必要になる。ゆえにこれらのダンパーは大規模な施設となり、それを設置する空間としても大規模なものが必要であった。
【0004】
また、下記特許文献1には、転動型の制震装置が記載されている。しかしながら、この装置の動作は基本的には既存の同調質量ダンパーと同じであり、同様の問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的の一つは、長周期システムの共振現象に伴う大変位振動の制御を、従来の手法に比べて大幅に小さい施設と空間を用いて実現することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0008】
(項目1)
支持体と、回転体と、集中荷重部とを備えており、
前記支持体は、下方に凸とされた略凹曲面形状の支持面を備えており、
前記回転体は、前記支持面の上に、前記支持面に沿って転動可能なように配置されており、
前記集中荷重部は、前記ローラに配置されて、前記回転体の重心位置を、前記回転体の転動時における自転軸から偏心させるように構成されている
ことを特徴とする制震装置。
【0009】
(項目2)
前記回転体の外周面は、略円筒面形状とされている
項目1に記載の制震装置。
【0010】
(項目3)
前記支持体の支持面は、略円筒面形状とされている
項目1又は2に記載の制震装置。
【0011】
(項目4)
さらに滑り防止部を備えており、
前記滑り防止部は、前記支持面と前記回転体の外周面との相対的な滑りを低減させる構成とされている
項目1~3のいずれか1項に記載の制震装置。
【0012】
(項目5)
前記滑り防止部は、前記支持面の表面と前記回転体の外周面とに取り付けられたギアベルトである
項目4に記載の制震装置。
【0013】
(項目6)
前記集中荷重部は、前記回転体の重心位置を上方に偏心させる構成となっている
項目1~5のいずれか1項に記載の制震装置。
【0014】
(項目7)
さらに保持部を備えており、
前記保持部は、前記回転体が前記支持面から離間することを規制する構成とされている
項目1~6のいずれか1項に記載の制震装置。
【0015】
(項目8)
項目1~7のいずれか1項に記載の制震装置を用いた制震方法であって、
前記制震装置の固有周期は、制震の対象となる構造物の固有周期の一次モード又は二次モードに対応している
制震方法。
【0016】
(項目9)
項目1~7のいずれか1項に記載の複数の制震装置を用いた制震方法であって、
前記複数の前記制震装置は、前記回転体の自転軸方向が互いに異なるように構造物に配置されている
制震方法。
【0017】
(項目10)
項目1~7のいずれか1項に記載の制震装置を用いて、複数のフロアを持つ構造物の制震を行う方法であって、
前記制震装置は、前記構造物における異なるフロアにそれぞれ設置されている
制震方法。
【0018】
(項目11)
項目1~7のいずれか1項に記載の制震装置が配置された構造物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、支持体の支持面上を回転体が転動することにより、制御対象のシステムにおける振動をパッシブ制御することができる。また、本発明は、従来の振り子式質量ダンパーや並進型同調質量ダンパーに比べて、錘の動きを構造物に伝える構造がシンプルであるとともに、はるかに小さなサイズで長周期の制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る制震装置の概略的な構成を示す模式的な説明図である。
【
図2】
図1の制震装置の動作を説明するための説明図である。
【
図3】
図1の制震装置の動作を説明するための説明図である。
【
図4】
図1の制震装置の動作を説明するための説明図である。
【
図5】
図1の制震装置の具体例及び比較例の制振装置の大きさを模式的に説明するための説明図である。
【
図6】
図5に示した各例の制振装置における固有周期を示すグラフであって、横軸は回転体が転動し始める角度(公転角度)θ、縦軸は固有周期である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る制震装置の概略的な構成を示す模式的な説明図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る制震装置の概略的な構成を示す模式的な説明図である。
【
図9】
図8の制震装置に用いられる回転体の正面図である。
【
図11】
図8の制震装置に用いられる集中荷重部の斜視図である。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る制震装置の模式的な説明図である。
【
図13】本発明の第4実施形態に係る制震装置の配置状態を示す模式的な説明図である。
【
図14】本発明の第4実施形態に係る制震装置の配置状態を示す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態に係る制震装置を、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
(本実施形態の構成)
この制震装置は、支持体1と、回転体2と、集中荷重部3とを主な構成要素として備えている。また、本実施形態の説明においては、この制震装置が、構造物(例えば建築物)の表面としての床面10の上に据え付けられて使用されることを前提として説明する。
【0023】
(支持体)
支持体1は、下方に凸とされた略凹曲面形状の支持面11を有する。本実施形態の支持面11は、
図1の紙面に直交する方向に軸線方向が延長された円筒面形状とされている。支持面11は、上方が開放された半円筒形状とされている。
【0024】
(回転体)
回転体2は、支持体1の支持面11の上に、支持面11に沿って転動可能なように配置されている。本実施形態の回転体2の外周面21は、
図1の紙面に直交する方向に延長された軸線方向が延長された中空の円筒面形状とされている。つまり、本実施形態における回転体2の軸線方向は、支持面11の軸線方向と平行とされている。また、回転体2は、支持面11の軸線を中心として公転しながら、回転体2の軸線を中心として自転することにより、支持面11上を転動できるようになっている。
【0025】
(集中荷重部)
集中荷重部3は、回転体2の内部に配置されており、回転体2の重心位置を、回転体2の転動時における自転軸から偏心させるように構成されている。本実施形態の集中荷重部3は、回転体2の重心位置(すなわち、回転体2に集中荷重部3が配置された状態での重心位置)を上方に偏心させるように構成されている(
図1参照)。
【0026】
また、本実施形態の集中荷重部3としては、回転体2の内部であってかつ偏心した位置に取り付けられた錘として構成されている。集中荷重部3の構成としては、例えば次のようなものが考えられるが、これらには制約されない。
・回転体2と一体として構成され、回転体2の内部を径方向に対して非対称にくり抜いた形状とすることで重心位置を偏心させる構成、
・回転体2の内部の偏心位置に、回転体2よりも比重の重い材質の錘を集中荷重部として取り付けることで重心位置を偏心させる構成、
・これらを組み合わせた構成。
【0027】
(本実施形態の動作)
次に、本実施形態の制震装置の基本的な動作について説明する。以下の説明では、床面10が、支持面11の軸線方向に交差する方向に振動すると仮定する。異なる方向への振動が想定される場合は、制震装置の設置方向を予め調整しておくか、向きの異なる複数の制震装置を用いる。
【0028】
本実施形態の制震装置においては、床面10が振動すると、回転体2は、支持体1の支持面11に沿って転動する。回転体2の転動周期(固有周期)は、集中荷重部3を含めた制震装置の構成によって固有の値となる。この転動周期が構造物の振動の周期と一致あるいは実用上十分に近似する場合、構造物の振動に対する制震作用を持つ。したがって、この転動周期を、対象となる構造物において想定される振動(例えば一次モードや二次モード)に対応して設定しておくことにより、構造物への制震を行うことができる。
【0029】
また、本実施形態では、集中荷重部3を設けたことにより、回転体2の重心が偏心していない場合に比較して、回転体2の転動周期を長くすることができる。つまり、システムの重量やサイズをほぼ同一としながら、本実施形態の制震装置によれば、従来の転動型の制震装置に比較して、長い固有周期を得ることができる。したがって、同じ固有周期を前提とすると、装置の小型化や軽量化が可能になるという利点がある。すると、同じ構造物の複数個所にこの装置を設置することや、異なる向きに複数の装置を配置することが容易になるという利点もある。
【0030】
さらに、本実施形態においては、回転体2及び集中荷重部3を、その軸線方向に延長した形状とすることにより、回転体2及び集中荷重部3の重量を増加させて、制震性能を向上させることも可能である。
【0031】
(計算例)
次に、本実施形態の制震装置の基本的な動作特性の計算例を、
図2~
図6をさらに参照しながら説明する。
【0032】
本実施形態の制震装置で実現できる同調周期は下記の式で求められる。
【0033】
【0034】
【0035】
である。上記におけるそれぞれの記号の意味は下記に示すとおりである。また、これらの記号と
図1の構造との対応を
図2~
図4に示した。以下では、集中荷重部3の代わりに偏心錘、支持面11又は支持体1の代わりにボールと称することがある。
【0036】
【0037】
一方、既存システム(回転体の重心が偏心していない転動型制震装置)による同調周期は下記の式で求められる。
【0038】
【0039】
【0040】
である。回転体が偏心していない点を除き、既存システム(比較例)の構成は本実施形態の装置と基本的に同様とした。
【0041】
次に、両者の違いを、サイズの異なる7つの新システム(本実施形態の装置)と4つの既存システムとを比較することで説明する。各ケースの概要を下記表1と
図5に示す。なお、
図5においては、各システムの形状を、比較のために重ね合わせて記載している。また、ケース8の形状は大きすぎるため、
図5には含まれていない。
【0042】
【0043】
表1において、ケース1~4とケース9~11が新システム(本実施形態の具体例)、ケース5~8が既存システム(比較例)である。
【0044】
比較のために、全11ケースにおいて、回転体の質量(新システムでは回転体と偏心錘の合計)は統一しており、具体的には4Kgとしている。ケース1~4では、装置のサイズは固定し、回転体と偏心錘との重量比を変えている。ケース9~11でも同様に、装置のサイズは固定し、回転体と偏心錘との重量比を変えているが、さらに偏心錘の重心を回転体の中心よりも低い位置に設定している。既存システムのケース5~8では、支持面の半径を変化させている。
【0045】
この場合の同調周期を
図6に示す。
図6からわかるように、偏心錘の重心が回転体の中心よりも上部に位置したケース(ケース1~4)では、同じサイズの新システムと既存システム(ケース5)とを比較すると、新システムと既存システムでは同調する周期に大きな差があることが分かる。回転体と偏心錘の質量比の組み合わせによっては、6倍以上長い周期に同調させることが可能になる。また、既存システムで支持面の大きさを変えたケース(5~8)を参照すると、新システムにおける同調周期は、既存システムにおいて支持面のサイズが10倍以上大きな場合よりも長い周期であることが分かる。したがってこの結果は、新システムがコンパクトなサイズでありながら、長周期に同調可能であることを示している。
【0046】
また、本実施形態の装置では、回転体2の解放角度(転動を始める角度)θにより同調周期が変わる。つまり、本実施形態では、回転体2の公転角度によって同調周期が変わる。したがって、本実施形態では、広い固有周期への制震性能を期待できるという利点がある。また、ケース1~4に示されるように、本実施形態では、角度θが小さいときに大きな同調周期を得られるので、大きな同調周期を容易に得ることができる。また、回転体2が取れるθの上限を何らかの機構により制限することもできる。
【0047】
一方、偏心錘の重心が回転体の中心よりも下部に位置した新システム(ケース9~11)では、同じサイズの既存システム(ケース5)よりも短い周期に同調可能なことが分かる。このように、新システムでは、回転体と偏心錘の質量比や、偏心錘の重心と回転体の中心との位置関係を変化させることにより、既存システムに比べて、ずっと長い周期から短い周期までの振動制御が可能となるという利点がある。したがって、多様な構造物の制震制御を、同じ原理の制震装置を用いて、わずかな設計パラメータの変更によって行うことができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る制震装置を、
図7を主に参照しながら説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の要素と基本的に共通する要素については、同じ符号を用いることにより、説明の重複を避ける。
【0049】
第2実施形態の制震装置は、保持部4をさらに備えている。保持部4は、規制ローラ41と、支持部材42とを有している。規制ローラ41は、円筒形状とされており、その外周面が回転体2の外周面21に接している。
【0050】
規制ローラ41は、支持部材42によって、正逆方向に回転可能なように支持されている。支持部材42の端部は支持体1に支持されている。また、規制ローラ41の回転軸心は、回転体2の回転軸心と平行とされている。さらに、本実施形態では、規制ローラ41の回転軸心の位置は、円筒面状とされた支持面11の軸心位置(中心位置)に配置されている。
【0051】
この第2実施形態の制震装置によれば、支持面11上を公転しながら自転する回転体2を、規制ローラ41によって支持することができる。これにより、回転体2を支持面11に押し付けることができ、回転体2と支持面11との滑りを防止することができる。滑りを生じた場合、所望の同調周期を得られないおそれがあるので、本実施形態によれば、安定した制震性能を期待することができる。また、本実施形態では、回転体2の上方への移動を規制ローラ41で規制できるので、装置の移動時や大きな衝撃が加わったときにも、支持体1からの回転体2の脱落を防止できるという利点もある。さらに、本実施形態では、回転体2の公転角が過大となったときに、回転体2が支持部材42に当接するように構成することにより、回転体2の支持体1からの脱落を防止することもできる。
【0052】
第2実施形態の制震装置における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0053】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る制震装置を、
図8~11を主に参照しながら説明する。第3実施形態の制震装置は、より具体的な実装例である。この第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態及び第2実施形態の要素と基本的に共通する要素については、同じ符号を用いることにより、説明の重複を避ける。
【0054】
第3実施形態の制震装置は、支持面11と回転体2との相対的な滑りを低減させる滑り防止部5をさらに備えている。この滑り防止部5は、支持面11の表面印取り付けられたギアベルト51と、回転体2の表面に取り付けられてギアベルト51と噛み合うギアベルト52とを有している(図8参照)。
【0055】
本実施形態の回転体2は、内部が中空とされた空洞部22と、集中荷重部3を内部に収納するための収納部23とを有している(
図8及び
図9参照)。また、回転体2としては、比較的軽量な材質(例えば木材や合成樹脂)から構成されている。
【0056】
本実施形態の集中荷重部3は、収納部23に収納される円柱形状に構成されている(
図11参照)。また、この集中荷重部3は、回転体2よりも比重の重い材質(例えば鋼や銅合金などの金属)から構成されている。
【0057】
さらに、本実施形態の保持部4は、回転体2の端面方向への脱落を防止するガイド部材43をさらに有している(
図8参照)。このガイド部材43は、支持体1の側面に固定されており、かつ、常時は回転体2に接しないように、回転体2とは間隔をあけて配置されている。そして、衝撃等で回転体2がその軸方向に過剰に変位したときは、回転体2をガイド部材43が支持して、回転体2の脱落を防止するようになっている。
【0058】
本実施形態の制震装置によれば、滑り防止部5を備えているので、支持面11と回転体2との相対的な滑りを一層確実に抑止することができるという利点がある。
【0059】
また、本実施形態では、ガイド部材43により、回転体2の脱落を確実に防止することができるという利点もある。
【0060】
さらに、本実施形態では、回転体2に空洞部22と収納部23を設け、収納部に集中荷重部3を収納することにより、回転体2の重心位置を大きく偏心させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、回転体2に空洞部22等を形成することで、高い意匠性を得ることも可能になり、装置全体としての美観を向上させることができるという利点もある。
【0062】
第3実施形態の制震装置における他の構成及び利点は、前記した第1及び第2実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0063】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る制震装置を、
図12~
図14を主に参照しながら説明する。第4実施形態の制震装置は、ビルなどの構造体20に配置する例を説明するためのものである。この第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の要素と基本的に共通する要素については、同じ符号を用いることにより、説明の重複を避ける。
【0064】
本実施形態の制震装置の支持体1は、構造体20の床面10に配置されている(
図12参照)。ここで、回転体2の回転軸心方向は、制震の対象となる振動方向に直交するように配置することが好ましい。一般に、構造物は、その構造に起因して、固有振動数や、共振時の振幅の大きさが決まる。ここで、入力振動の方向に応じて異なる固有振動数や振幅となることもある。この固有振動数や想定される振幅に対応して設計された制震装置を構造体20に設置することができる。
【0065】
制震作用を向上させるためには、複数の制震装置を構造体20に設置することも可能である(
図13参照)。
【0066】
また、制震装置における回転体2の軸心方向(自転軸方向)を交差させるように配置することも可能である。
図14の例では、回転体2の軸心方向(図中破線)が直交するように、複数の制震装置を配置している。このようにすると、異なる方向での制震動作を行うことができる。また、同じ構造物において異なるフロアに制震装置を配置することや、それらの制震装置の配置方向を異ならせることも可能である。
【0067】
第4実施形態の制震装置における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0068】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る制震装置を説明する。この第5実施形態は、前記した第2実施形態及び第3実施形態の変形例を説明するためのものである。
【0069】
第2実施形態及び第3実施形態の装置においては、保持部4の規制ローラ41により回転体2を支持することにより、回転体2と支持面11との滑りを防止していた。
【0070】
これに対して、この第5実施形態では、回転体2(集中応力部3を含む)の端面(すなわち回転体2の軸方向両端における端面)に突起(図示せず)を設ける。さらに、支持体1に(より具体的には、転動する回転体2の端面に対向する位置に)、この突起の移動軌跡に沿う方向に延長して形成されかつ突起を内部に収容するガイド溝(図示せず)を設ける。本実施形態では、突起とガイド溝とにより保持部を構成している。
【0071】
このように構成すると、支持面11上を転動する回転体2の移動軌跡をガイド溝により規制することができるので、回転体2と支持面11との滑りや、支持面11からの回転体2の脱落を防止することができる。また、規制ローラ1の設置を省略することができる。
【0072】
例えば、この第5実施形態では、回転体2に取り付けられた集中応力部3の両端面に突起を設け、これらの突起に係合する溝を、適宜な形状の支持体1に形成することができる。集中応力部3は回転体2に対して偏心した位置に配置されるので、回転体2の転動に伴う突起の移動軌跡は、一般に、トロコイド曲線又はサイクロイド曲線となる。移動軌跡の形状は、通常は幾何学的に算出可能であり、実験的に求めることもできる。
【0073】
集中応力部3に突起を形成すると、集中応力部3の重量を増加させることができる。
【0074】
また、回転体2の軸心位置に突起を設けることもできる。この場合は、突起の移動軌跡が単純となるので、突起を案内する溝の形状を単純化でき、装置の製造コストの抑制を図ることができる。
【0075】
なお、突起の位置は、回転体2又は集中応力部3の片面のみとすることも、十分な案内機能があれば、可能である。例えば、突起の先端に、溝からの脱落を防止するフランジを設けることもできる。
【0076】
第5実施形態の制震装置における他の構成及び利点は、前記した第2及び第3実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0077】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0078】
例えば、前記各実施形態では、支持体1を床面に設置するものとしたが、例えば橋に取り付ける場合は、構造物を介して橋の下部に吊り下げるように設置することも可能である。
【0079】
また、前記各実施形態では、支持面11の形状を円弧面状としたが、例えば楕円面状であってもよい。また、実用上十分に低い転がり抵抗を得られるときは、多角形状であってもよい。
【0080】
さらには、支持面11の湾曲形状を工夫することにより、回転体の回転角度θが大きくなるほど高い転がり抵抗を回転体に与える構成であってもよい。このようにすると、回転体の回転角度θを支持面11により制約することができる。
【0081】
また、前記各実施形態では、支持面11の形状を、上部が開放された半円筒面状としたが、上部が開放されない完全な円筒面状であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 支持体
11 支持面
2 回転体
21 外周面
22 空洞部
23 収納部
3 集中荷重部
4 保持部
41 規制ローラ
42 支持部材
43 ガイド部材
5 滑り防止部
51・52 ギアベルト
10 床面
20 構造体