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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】植生領域判定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230508BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230508BHJP
   G06T 7/90 20170101ALI20230508BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G06T7/00 640
G06T7/90 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019112168
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020204523
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(73)【特許権者】
【識別番号】519219519
【氏名又は名称】株式会社ディープ・センシング・イニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 林
(72)【発明者】
【氏名】坂元 光輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】正宗 綾子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 ゆり
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161058(JP,A)
【文献】特開2008-242508(JP,A)
【文献】特開2011-024471(JP,A)
【文献】特開2013-054660(JP,A)
【文献】特開2015-141118(JP,A)
【文献】特開2017-169511(JP,A)
【文献】特開2011-069757(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173577(WO,A1)
【文献】UAV Remote Sensing for Urban Vegetation Mapping Using Random Forest and Texture Analysis,Remote Sensing,スイス,MDPI,2015年01月19日,Vol. 7,pp. 1074-1094,doi: 10.3990/rs70101074
【文献】MODIS-GRVI時系列データによる常緑針葉樹林の秋季・冬季の植物季節と成長期間の推定,農業情報研究,第25巻、第4号,日本,農業情報協会,2016年12月28日,第130-136頁,doi: 10.3173/air.25.130
【文献】衛星センサの分光仕様が草原の植生指数観測に与える影響,筑波大学陸域環境研究センター報告,日本,筑波大学陸域環境研究センター,2011年,No. 12,pp. 13-19,doi: 10.15068/00147081
【文献】Mapping urban forest tree species using IKONOS imagery: preliminary results,Environ Monit Asses,Springer,2010年02月06日,Vol.172,pp. 199-214,doi: 10.1007/s10661-0140-1327-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G06T 1/00-G06T 7/00
G01V 8/00-G01V 8/26
G01W 1/00-G01W 1/18
G06V 20/00-G06V 20/90
A01G 7/00-A01G 7/06
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
SpringerLink
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空から撮影された可視光画像に基づいて、植生領域を判定する植生領域判定装置であって、
前記可視光画像の画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データから植生領域が示す緑波長帯域の成分及び赤波長帯域の成分からなる第一指標を算出する第一指標算出部と、
前記画像データから植生領域が示す青波長帯域の成分及び緑波長帯域の成分からなる第二指標を算出する第二指標算出部と、
前記第一指標と前記第二指標を重み付け線形結合した判定指標を算出し、前記判定指標により植生領域を判定する判定部と、
を有することを特徴とする植生領域判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記重み付けを撮影条件に応じて設定することを特徴とする請求項1記載の植生領域判定装置。
【請求項3】
コンピュータを、
上空から撮影された可視光画像の画像データを取得する手段、
前記画像データから植生領域が示す緑波長帯域の成分及び赤波長帯域の成分からなる第一指標を算出する手段、
前記画像データから植生領域が示す青波長帯域の成分及び緑波長帯域の成分からなる第二指標を算出する手段、
前記第一指標と前記第二指標を重み付け線形結合した判定指標により植生領域を判定する手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植生領域判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上空から地表面を撮像した航空写真及び衛星写真などを解析して植生領域を判定し、その経年変化、季節変化及び/又は生育状況の判断を行う技術がある。植生領域の判定指標としては、従来、緑葉による赤色光の吸収を利用して、赤色光と赤外光の反射光量の違いを検出するNDVI(Normalized difference vegetation index)が知られている。
【0003】
しかしながら、特に、航空写真などのように逐次飛翔体を飛翔させての撮影などでは、可視光撮影に加えて赤外光の検出に係る撮影機材を別途用意して撮影を行うことは、可視光のみの撮影に比して手間やコストを要する。また、赤外光は水蒸気の影響を受けやすく、適切な撮影条件が限られたり、撮影条件に応じて値が大きく変化したりするという問題がある。これに対し、可視光内で赤色光と緑色光の反射強度の違いを検出するGRVI(Green-red ratio vegetation index)を用いる技術がある(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】村上和隆、外4名、「衛星センサの分光仕様が草原の植生指数観測に与える影響」、筑波大学陸域環境研究センター報告、筑波大学陸域環境研究センター、2011年12月、第12号、pp.13-19
【文献】清水庸、大政謙次、「MODIS-GRVI時系列データによる常緑針葉樹林の秋季・冬季の植物季節と成長期間の推定」、農業情報研究、農業情報学会、2016年12月、第25巻、第4号、pp.130-136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、可視光のGRVI計測では、植生領域に近い色の屋根などの人工物を適切に植生領域と分別することができないという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より適切に植生領域を特定することのできる植生領域判定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
上空から撮影された可視光画像に基づいて、植生領域を判定する植生領域判定装置であって、
前記可視光画像の画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データから植生領域が示す緑波長帯域の成分及び赤波長帯域の成分からなる第一指標を算出する第一指標算出部と、
前記画像データから植生領域が示す青波長帯域の成分及び緑波長帯域の成分からなる第二指標を算出する第二指標算出部と、
前記第一指標と前記第二指標を重み付け線形結合した判定指標を算出し、前記判定指標により植生領域を判定する判定部と、
を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、
コンピュータを、
上空から撮影された可視光画像の画像データを取得する手段、
前記画像データから植生領域が示す緑波長帯域の成分及び赤波長帯域の成分からなる第一指標を算出する手段、
前記画像データから植生領域が示す青波長帯域の成分及び緑波長帯域の成分からなる第二指標を算出する手段、
前記第一指標と前記第二指標を重み付け線形結合した判定指標により植生領域を判定する手段、
として機能させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従うと、より適切に植生領域を特定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】処理装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】可視光画像の例を示す図である。
図3】値P1、P2の関係を示した図である。
図4】本実施形態で値P1及び値P2を用いた場合についてのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線をGRVIに係る値P1のみを用いた場合のROC曲線と比較して示したグラフ図である。
図5】植生領域判別処理の制御手順を示すフローチャートである。
図6】GRVIの値と色相の関係を示した図である。
図7】植生領域判別処理の他の例の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、植生領域判定装置の実施形態である処理装置1の機能構成を示すブロック図である。処理装置1は、制御部11と、記憶部12と、通信部13と、操作受付部14と、表示部15などを備える。
【0012】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)及びRAM(Random Access Memory)などを備え、各種演算処理を行って処理装置1の動作を統括制御するプロセッサとして機能する。
【0013】
記憶部12は、不揮発性メモリを備え、各種プログラム121、設定データ122、画像データ123及びその解析結果などが記憶される。不揮発性メモリは、例えば、フラッシュメモリであり、また、HDD(Hard Disk Drive)であってもよい。プログラム121には、植生領域判別処理に係るプログラムが含まれる。また、ここでは、プログラム121には、植生領域判別処理で用いられる判定基準を設定するための基準設定プログラムが含まれていてよい。設定データ122には、植生領域判別処理において植生領域と他の領域とを判別するための各種パラメータ及び/又はパラメータを設定するための条件データが含まれる。
【0014】
画像データ123は、可視光波長帯域で撮影された地表の航空写真及び/又は衛星写真などであり、後述の植生領域判定処理の開始時に取得されて記憶部12に記憶される。画像データ123は、赤(R)、緑(G)、青(B)の各波長帯域における輝度値を有するデジタルカラー画像であり、ここでは、直接RGB各波長帯域について撮影されたものであってよい。各画像データには、撮影エリアの位置情報及び撮影日時などの情報が付されていてもよい。
【0015】
通信部13は、外部機器との通信を制御する、例えば、ネットワークカードなどである。通信部13は、例えば、外部機器との間での所定の通信規格(TCP/IPなど)に従ったLANによる通信を制御して、外部機器から画像データ123を取得したり、解析結果を出力したりする。通信回線には、無線LANなど他のものが含まれていてもよい。また、通信部13は、USBケーブルなどにより直接接続された外部機器との間で行うデータ通信の制御、及びCDROM、DVD、USBメモリなどの可搬型記憶媒体との間のデータの送受信が可能であってもよい。
【0016】
操作受付部14は、ユーザなどの外部からの操作を受け付けて制御部11に信号を出力する。操作受付部14としては、例えば、マウス又はタッチパネルなどのポインティングデバイス及びキーボードなどを備える。
【0017】
表示部15は、制御部11の制御に基づいて表示画面に各種表示を行う。表示画面は、例えば、液晶表示画面であり、表示内容には、画像データ123及びその処理結果が含まれてよい。
【0018】
次に、本実施形態の処理装置1における植生領域判別動作について説明する。
本実施形態の処理装置1では、航空写真などの上空から撮影した地表面の可視光帯域の撮影データ(上空から撮影した可視光画像のデータ)に基づいて、所定数の画素を含む対象領域の画素ごとに植生領域か否かの判別(植生領域の判定)を行う。対象領域の範囲は、得られた可視光画像の解像度などに応じて判別対象(すなわち、植生領域、建築構造物など)を区分可能な実際のサイズ、例えば、1m四方に対応する画素数となるように定められてよい。植生領域の判定には、上述のGRVIに係る緑波長帯域の輝度G(緑波長帯域の成分。ここでは、輝度をそのまま各成分の大きさ(階調値)としてよいが、輝度と階調値とが異なる場合に適宜換算してもよい)と赤波長帯域の輝度R(赤波長帯域の成分)との差(差異)の値P1(植生領域が正の値を示す第一指標)に加えて、青波長帯域の輝度B(青波長帯域の成分)と緑波長帯域の輝度Gとの差P2(植生領域が負の値を示す第二指標)を併用する。値P1は、P1=(G-R)/(G+R)により算出され(輝度R、G、Bは、それぞれ対象領域内の各画素の値である)、植生領域での輝度Rの低下(吸収)に応じて正の値となるので、植生領域を識別可能である。同じように、値P2は、P2=(B-G)/(B+G)により算出される。青波長帯域の光も緑葉に吸収されやすく、緑波長帯域の輝度Gより小さくなるので、通常では赤波長帯域と特性の異なる(すなわち、値P1と異なる特性を有する)値P2は、植生領域では負の値となる。
【0019】
図2は、可視光画像の例を示す図である。
図2(a)に示す画像(元画像はRGBカラー画像)では、多数の住宅の間に工場や学校などの大型建築物(構造物)があり、所々に木々が存在している。建物からは図内上向きに影が伸びている。
【0020】
この画像に対して、値P1を示した(正の場合に白くなる)画像が図2(b)である。ここでは、対象領域を設定せずに各画素の値P1をそのまま用いている。領域A1、A2などの植生領域(一部白実線枠で示す)が正しい傾向を示していることが分かる。一方で、建築物のうち一部(植生領域外)にもやはり白く特定されている領域B1~B4(白破線枠で示す)がある。これらは、建築物の青色~緑色(青系色)の屋根部分であり、GRVI(値P1)のみでは必ずしも植生と区別が付かない場合がある。
【0021】
図3は、値P1とP2の関係を示した図である。図2に示した画像内から植生領域と建築物とをそれぞれ目視で判定して、25点ずつ抽出している。これらのうち、黒丸で示した点は、正しく植生領域であると判定された点(真陽性のデータ)であり、白丸で示した点は、誤って植生領域と判定された点(偽陽性のデータ)及び植生領域以外であると判定された点(真陰性のデータ)である。なお、図3では、真陽性のデータを樹木と表記し、偽陽性のデータ及び真陰性のデータをいずれも建物と表記している。
【0022】
この図3から、値P1が植生領域よりも大きくても植生領域ではない部分(植生領域外)が混じっていることが分かる。一方で、植生領域は、値P1が正であり、また、値P2が負である場合に限られ、いずれの値でも例外を生じていない。すなわち、値P1、P2に対し、いずれも植生領域の検出漏れを起こさない基準を設定しやすいが、これらの基準の各々では、植生領域に近い色の人工物などを除外することができず、過剰検出になる。
【0023】
植生領域における緑波長帯域の光の反射光量は、葉の生育度合と太陽光の強度及び波長に依存する。すなわち、同一の撮影機材により同一設定で撮影された場合、同一日時の同一エリアで撮影された画像では、植生領域の値P1、P2は、それぞれ近い値となる。その結果、植生領域は、図3のグラフ上で一部の領域に偏って存在する。一方で、屋根などの人工物では、緑葉と類似した色のものであっても、2種類の値P1、P2がいずれも植生領域と同じ傾向を示すことは稀である。したがって、植生領域の判定に係るこれら2種類のパラメータを組み合わせることで、植生領域と、植生領域(葉の色)に近い色の人工物などとの判別がより正確に可能となる。
【0024】
ここでは、例えば、値P1、P2を所定の重みを付けて加算(線形結合)した値Pc=(αP1+βP2)(α、βは係数)を統合パラメータ(判定指標)として定めることができる。この値Pcと基準値Pth(所定の基準)との比較により植生領域が判定される。すなわち、図3のグラフにおいて、傾きが-α/β、切片がPth/βの直線(点線で図示)の右下側が植生領域として判定される。
【0025】
係数α、β及び基準値Pthは、画像内の所定のサンプルエリアのデータから求められてよい。すなわち、係数α、β及び基準値Pthは、画像ごとに各々定められてよい。具体的には、例えば、サンプルエリアの各対象領域と対応付けて目視で植生領域か否かを定め、係数α、β及び基準値Pthを変化させながら各々ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線、すなわち、真陽性のデータのうち各割合のデータを得るために生じる偽陽性のデータのROC曲線下面積(AUC)を算出する。AUCが最大になる値として、係数α、β及び基準値Pthを特定する。サンプルエリアは、係数α、β及び基準値Pthに必要な精度が得られる対象領域数が設定可能であれば、可視光画像の領域に比して十分に狭くてよい。
【0026】
図4は、値P1及び値P2を用いた本実施形態についてのROC曲線をGRVIに係る値P1のみを用いた場合のROC曲線と比較して示したグラフ図である。
値P1(GRVI)のみの場合と比較して、本実施形態の基準では、ROC曲線が左上側に拡張し、すなわち、AUCがより大きくなっている。すなわち、本実施形態の基準では、誤って植生領域ではない部分を植生領域と認定される可能性が低下する。
【0027】
これら特定された係数α、β及び基準値Pthが他の画像に流用されることがあってもよい。上述のように、撮影エリア、撮影条件及び撮影機材に応じて最適な係数α、β及び基準値Pthは変化するが、近隣エリア(隣接エリアなど)の画像を同一機材により同一設定で天気状況が変わらないうちに続けて撮影した場合などでは、いずれも大きく変化しないと想定される。したがって、このような場合には、これら係数α、β及び基準値Pthが流用されても概ね精度が維持される。また、長時間連続して同一機材で撮影が行われる場合には、適宜な間隔で係数α、β及び基準値Pthを更新し、これらの間の画像での基準値を線形補間などで求めてもよい。
【0028】
なお、上記では、値P1、P2の線形結合による統合パラメータを用いることとしたが、値P1、P2について独立に基準を満たすか否かが判断されてもよい。また、統合パラメータにより定められた条件を満たす第4象限のデータのみ、すなわち、P1>0かつP2<0であってさらに条件を満たす点のみが植生領域として特定されてもよい。
【0029】
図5は、本実施形態の処理装置1で実行される植生領域判別処理の制御部11による制御手順を示すフローチャートである。この処理は、ユーザの操作受付部14への所定の入力操作などに基づいて開始されてよい。開始時には、取得対象の画像データが指定されてもよいし、予め定められた位置に記憶されたデータが自動的に用いられることとされてもよい。
【0030】
植生領域判別処理が開始されると、制御部11は、対象の画像データを取得して、画像データ123として記憶部12に記憶させる(ステップS101;画像データ取得部)。制御部11は、記憶部12から読み出した画像データ123におけるサンプルエリアを設定して、当該設定を記憶部12に記憶させる(ステップS102)。制御部11は、例えば、記憶部12から読み出した画像データ123を表示部15に表示させ、当該画像の表示位置の一部に対して操作受付部14が受け付けた操作に応じてサンプルエリアの設定を行い、設定を記憶部12に記憶させる。サンプルエリアのサイズは固定されていてもよいし、ユーザが操作時に任意に設定してもよい。また、設定されるエリアは、単一である必要はなく、例えば、対象領域ごとに各々分散してもよい。ユーザが任意に設定する場合には、ステップS102の処理が省略されてもよい。
【0031】
制御部11は、操作受付部14が受け付けた入力操作に応じてサンプルエリアの植生領域の目視による判定結果を取得し、記憶部12に記憶させる(ステップS103)。判定結果は、サンプルエリア内の各対象領域についてインタラクティブに順次取得されてもよいし、サンプルエリア内の全対象領域の判定結果のリストが一括して通信部13を介して取得されてもよい。
【0032】
制御部11は、サンプルエリア内の各対象領域における値P1、P2を算出し、係数α、β及び基準値Pthを特定して記憶部12に記憶させる(ステップS104)。制御部11は、上述のように係数α、β及び基準値Pthに応じたROC曲線を求めて、これらの各パラメータを最適化する。最適化の手法としては、従来周知の各手法のいずれかが用いられてよい。
【0033】
制御部11は、画像データ123の各対象領域について値P1を算出する(ステップS105:第一指標算出部)。制御部11は、当該対象領域について値P2を算出する(ステップS106;第二指標算出部)。制御部11は、値P1、P2を上述の係数α、βと組み合わせて統合した値Pcを算出する。制御部11は、この値Pcと基準値Pthを比較して、対象領域が植生領域であるか否かを判別し、判別結果(植生領域の判定結果)を記憶部12に記憶させる(ステップS107;判定部)。ステップS105~S107の処理は、まとめてなされてもよい。また、ステップS105、S106の処理が画素ごとに並列になされてもよい。
【0034】
制御部11は、順次又はまとめて、全ての対象領域について判定が終了した後、記憶部12から判定結果を読み出して出力する(ステップS108)。出力としては、制御部11は、例えば、画像データ123中の植生領域に重ねて強調表示をしてもよいし、植生領域の範囲を数値的にリスト表示させてもよい。植生領域の範囲は、画素位置として出力されてもよいし、画像データ123に付された位置情報に基づいて地理的位置(緯度経度)に換算されて出力されてもよい。そして、制御部11は、植生領域判別処理を終了する。
【0035】
ここで、値P2に加えて、植生領域が所定の範囲の値を示す他のパラメータがさらに用いられても(第二指標が複数であっても)よい。この場合、3値又はこれ以上の結合により統合パラメータが設定される。この統合パラメータが、当該3値以上の各成分がなす3次元以上の座標空間において定められた植生領域の判定に係る基準面(平面/超平面であってもよい)と比較されてもよい。植生領域の範囲が適切に示されるパラメータが増えることで、より精度が向上する。
【0036】
また、3つ目以降のパラメータとして、各位置の色に係るパラメータの他に、各画素と周囲の画素との輝度の関係(注目画素を中心とした所定範囲の分布)、例えば、微分値(一階又は二階など)や所定範囲の分散値などが考慮されてもよい。図2などでも示されているように、屋根部分では、輝度が一定値又は周期的な変化を示しやすいのに対し、植生領域では枝の広がりや葉のつき具合に応じたむらが生じる。したがって、ばらつき度合の小さい部分、微分値の大きい領域が直線状に存在するなどの条件により植生領域から除外されてもよい。このようなばらつき度合及び/又は周期性の検出には、テクスチャ解析の結果が用いられてもよい。色に係るパラメータとは異なる基準で植生領域か否かを判別するパラメータを追加することで、多面的な評価が可能になり、偽陽性の除外や偽陰性の発生をより効果的に抑えることが可能になる。このような性質の異なるパラメータが含まれる場合であっても、上述のように統合パラメータを設定することができる。あるいは、各々別個に条件判定がなされて判定結果の論理積などにより最終的な特定がなされてもよい。
【0037】
次に、植生領域判別動作の他の例について説明する。
上記では、緑波長帯域の輝度Gに対する赤波長帯域の輝度R及び青波長帯域の輝度Bとの差を組み合わせて植生領域の判定を行ったが、他のパラメータが用いられてもよい。ここでは、値P1に対し、色相Hを第二指標として組み合わせて植生領域の判定を行う。色相H(色相成分)は、RGBからの各値から得られる。HSV色空間を表す他の彩度S及び明度Vは利用されないので、これら2成分は算出されなくてもよい。
【0038】
図6(a)は、図3に示した例の各点について、値P1を横軸とし、色相Hを縦軸としてプロットしたグラフ図である。
図3でも説明したように、植生領域では、当該植生領域を識別可能な各パラメータの値がいずれも狭い範囲に偏る。上述のように、植生領域では、緑波長帯域の成分が赤波長帯域の成分及び青波長帯域の成分よりも強いので、植生領域の色相Hは、60°<H<180°(0.167<H/360<0.5)に収まる。ここでは、植生領域の色相Hが値P1と同様に上記範囲内で更に狭い範囲に収まっている。
【0039】
図6(b)には、植生領域であると特定された複数の対象領域の図6(a)のグラフ上(色相Hと値P1とを直交する2軸とした空間)における座標の重心座標(ここではP1=0.09、H/360=0.34)から各対象領域の座標への距離(上記空間におけるユークリッド距離)を示している。植生領域と特定されている対象領域の座標への距離が、植生領域外の対象領域の座標への距離に比して明確に小さくなっている。ここでは、この距離の偏りを利用して植生領域との判定範囲を決定する。
【0040】
サンプルエリアについての目視での判定により植生領域と植生領域外とが特定されると、各領域の色相Hと値P1の分布に基づき、色相Hと値P1の空間上で植生領域を囲む円形領域C1を定める。なお、ここでは、色相Hと値P1とに大きな重みの差が不要であるので、値が正規化されるとよい。なお、厳密な正規化ではなく、図6(a)に示したように、ファクター2程度の範囲に収まるように調整されてもよい。又は、円形領域の代わりに各値の分布幅に応じた楕円形領域が定められてもよい。
【0041】
円形領域C1の重心座標(P1r,Hr/360)及び半径Rfは、上記の係数α、β及び基準値Pthと同様に、サンプルエリアの各データから画像ごとに最適に定められればよい。数値的に最適解が求められてもよいし、RBF(放射基底関数)などに基づく学習モデルを用いて求めてもよい。そして、画像データ全体の各対象領域に対して、半径Rfの円形領域C1内の座標の対象領域が植生領域であり、半径Rfの円形領域C1外が植生領域外であると判定される。植生領域の特徴を踏まえたこのような領域設定により、より確実に植生領域外の対象領域を除外する(偽陽性とならない)ことができる。
【0042】
図7は、植生領域判別処理の他の例の制御手順を示すフローチャートである。
この植生領域判別処理は、上記処理のステップS104、S106~S107がそれぞれステップS104a、S106a~S107aに変更された点を除き同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
ステップS103の処理で目視判定データが取得されると、制御部11は、植生領域を示す円形領域C1の重心座標(P1r,Hr/360)及び半径Rfを設定する(ステップS104a)。制御部11は、各対象領域の値P1を算出し(ステップS105)、また、色相Hを算出して(ステップS106a)、これらの値で示される座標が設定された円形領域C1の内部にあるか否かの判別結果に応じて植生領域内であるか否かを判別する(ステップS107a)。判定は、例えば、重心座標(P1r,Hr/360)と対象領域の座標(P1、H/360)のユークリッド距離((P1-P1r)+(H/360-Hr/360)1/2を、第一指標P1及び第二指標Hを結合した統合パラメータ(判定指標)として算出して、これが半径Rf(基準値)より小さいか否かによりなされる。ステップS105~S107aの処理は、まとめてなされてもよい。また、ステップS105、S106aの処理が画素ごとに並列になされてもよい。その後、制御部11の処理は、ステップS108に移行する。
【0044】
以上のように、本実施形態の処理装置1は、制御部11を備える。制御部11は、上空から撮影した地表面の可視光による撮影画像(可視光画像)の画像データを外部機器などから取得する画像データ取得部と、取得した画像データ123から、緑波長帯域の輝度Gと赤波長帯域の輝度Rとからなり、植生領域が正の範囲を示す値P1を算出する第一指標算出部と、値P1とは異なる指標であって、画像データ123から植生領域が負の範囲を示す値P2を算出する第二指標算出部と、取得された値P1及び値P2を結合した統合パラメータとして値Pcを算出し、この値Pcを用いて植生領域を判定する判定部と、として動作する。
このように、植生領域では所定の範囲を示すが、植生領域でないものも各々同範囲に含まれ得る複数のパラメータを組み合わせて、統合パラメータ(値Pc)と基準値Pthとの比較により植生領域の判定を行うことで、単一のパラメータでは植生領域と紛らわしいエリア、例えば、建築物の青系色の屋根などをより確実に除外することができる。したがって、この処理装置1では、精度のよい判定を行ってより適切に植生領域を特定することができる。また、可視光画像内での処理なので、赤外光や他の計測値を取得するための構成が必要なく、効率よく判定精度を向上させることができる。これにより、例えば、上空からの俯瞰写真で森林などを宅地に変更するなどの変更がなされた土地の検出及び評価や、災害などで消失した緑地帯の検出などを精度よく、かつ容易に行うことが可能になる。
【0045】
また、制御部11は第二指標算出部として、画像データ123から、青波長帯域の輝度B(階調値)と緑波長帯域の輝度G(階調値)とからなり、植生領域が所定の範囲(輝度Bから輝度Gを引いたものが負)の値を示す値P2を第二指標として算出する。植生領域に対して値P1と同様の傾向(符号が反転)を示すこの値P2を用いることで、青系色の屋根を植生領域と区別して検出し、より適切に植生領域の判定を行うことができる。
【0046】
また、制御部11は第二指標算出部として、画像データ123から、色相H(これを定数倍した(ここでは1/360倍)値などであってもよい)を第二指標として算出してもよい。色相Hは、角度がRGB間の色の偏りを示し、特に、植生領域では、緑波長帯域の輝度が他の波長帯域の輝度より大きく、60°<H<180°内でほぼ同じように定まるので、安定して類似した値を示しやすく、したがって、植生領域の判定に利用しやすい。また特に、本実施の形態では、2つのパラメータそれぞれの植生領域内における類似度の高さを利用して、代表値からのユークリッド距離の上限を基準値として定めるので、従来よりも効果的に植生領域と紛らわしい青系色の屋根の領域などを除外することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態の植生領域判別処理に係るプログラム121は、処理装置1のコンピュータを、上空から撮影した地表面の可視光画像の画像データを外部から取得して記憶部12に画像データ123として記憶させる手段、画像データ123から、緑波長帯域の輝度Gと赤波長帯域の輝度Rとからなり、植生領域が正の範囲を示す値P1を算出する手段、値P1とは異なる指標であって、画像データ123から植生領域が負の範囲を示す値P2を算出する手段、取得された値P1及び値P2を結合した統合パラメータとして値Pcを算出し、この値Pcを用いて植生領域を判定する手段、として機能させる。すなわち、プログラム121をインストールして制御部11に実行させ、外部などから取得して記憶部12に記憶させた画像データ123を解析処理することで、特殊な構成を必要とせずに容易に植生領域を判別する処理が可能となり、撮影機材と合わせてより効率的に植生領域の判定を行うことができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、直線の基準線又は平面の基準面、円又は楕円の領域を設定して植生領域か否かの判別を行ったが、曲線状の基準線又は曲面状の基準面などが設定されてもよい。例えば、第4象限に収まるような双曲線が基準線として設定されてもよい。また、値P2として青波長帯域の輝度Bと緑波長帯域の輝度Gの差を用いた場合でも、色相Hを用いた場合と同様に、ユークリッド距離などに基づいて円形状領域(楕円などを含む)を定めて植生領域の判定を行ってもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、GRVIの値P1を植生領域に対しては同様の傾向(符号が反転)を示す値P2と組み合わせることとして説明したが、2つの色指標の組み合わせでなく、他の値、例えば、濃度のばらつきなどの指標を組み合わせてもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、青系色の屋根が除外される対象として説明したが、同様の色の庇や広げられたシートなども対象とすることができる。
【0051】
また、上記実施の形態では、赤、青、緑の3波長帯域に分けて処理を行ったが、帯域内の特定波長に限定して処理を行ってもよい。また、例えば、青~緑の中間波長帯域(例えば500nm程度)の波長を更に選択して両側の波長の輝度(階調値)と比較するなどしてもよい。
【0052】
また、可視光画像は、航空機などの飛翔体からの撮影に限られず、塔などから撮影された画像(定点撮影など)であってもよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、プログラム121を記憶する記憶部12として、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ及び/又はHDDなどを例に挙げて説明したが、これに限られない。プログラム121は、CDROM又はDVDなどの光学ディスクといった可搬型記憶媒体に記憶されてよい。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した構成、処理内容、処理順などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 処理装置
11 制御部
12 記憶部
121 プログラム
122 設定データ
123 画像データ
13 通信部
14 操作受付部
15 表示部
C1 円形領域
H 色相
Pth 基準値
Rf 半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7