(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】超音波脱気方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B01D 19/00 20060101AFI20230508BHJP
C02F 1/36 20230101ALI20230508BHJP
【FI】
B01D19/00 C
C02F1/36
(21)【出願番号】P 2019152391
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 義幸
(72)【発明者】
【氏名】安田 啓司
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-031173(JP,A)
【文献】特開平11-197406(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111802(WO,A1)
【文献】特開平09-000806(JP,A)
【文献】特開平09-299709(JP,A)
【文献】特開平08-033877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00-19/04
C02F 1/20-1/26,1/30-1/38
B01F 29/00-33/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内の被処理液に対して超音波を照射することにより、前記被処理液中の溶存気体を脱気する方法であって、
前記被処理液の液面の揺れ動きを抑える液面揺動抑制部材を
、前記液面揺動抑制部材を用いない場合において前記液面の揺れ動きに起因して脱気率が低下するパワー条件下にて用いるとともに、
当該前記液面揺動抑制部材を前記液面上に浮かべた状態で、前記処理槽の外側から前記被処理液に対して200kHz以上
2MHz以下の超音波を間接的に照射する
ことを特徴とする超音波脱気方法。
【請求項2】
前記液面揺動抑制部材は、前記被処理液よりも比重及び固有音響インピーダンスが小さい材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波脱気方法。
【請求項3】
前記液面揺動抑制部材は、自身が上下動することによって前記液面の揺れ動きを前記超音波の1/4波長の範囲内に抑えることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波脱気方法。
【請求項4】
減圧条件下で前記超音波を照射することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の超音波脱気方法。
【請求項5】
前記被処理液を請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の方法によって脱気する装置であって、
前記被処理液を内部に溜めておく処理槽と、
前記処理槽の外側に設けられ、200kHz以上
2MHz以下の超音波を発生する超音波振動子と、
前記被処理液の液面の揺れ動きを抑える液面揺動抑制部材と
を備えた超音波脱気装置。
【請求項6】
前記処理槽内を減圧する減圧装置をさらに備えた請求項
5に記載の超音波脱気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内の被処理液に対して超音波を照射することにより、被処理液中の溶存気体を脱気するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、液体中には気体(二酸化炭素、酸素、窒素など)が溶存しており、その液体の用途に応じて、溶存気体を取り除く脱気処理を行うことが必要とされる場合がある。従来における脱気処理としては液体を煮沸する手法などが知られているが、液温の変化が大きい等の不具合があるため、これに替わる手法が必要とされていた。
【0003】
そこで、液体に対して超音波を照射することにより溶存気体を脱気する方法が従来から実施されており、そのための装置もいくつか提案されている(例えば、非特許文献1参照)。超音波の照射は、煮沸に比べて、液温の変化が小さい、照射した直後より脱気効果が得られる、比較的簡単に脱気を行うことができる等の利点があるため、好ましいと考えられている。また、脱気の効率化を図るために、液体を攪拌子で攪拌しながら超音波を照射する方法も従来提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】オタリ株式会社のホームページ「超音波洗浄と脱気のススメ」のサイト(http://otari-datuki.access21-co.jp/002.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には以下のような問題があった。即ち、攪拌子を用いる超音波脱気方法の場合、液体と攪拌子とが直接接触することから、異物の混入(コンタミネーション)につながるという欠点があった。また、例えば比較的低周波数の超音波を発生する超音波振動子が振動板を介して処理槽に設置された装置による超音波脱気方法の場合、液体と振動板とが直接接触することからエロージョンが起きやすく、同様にコンタミネーションにつながるという欠点があった。
【0006】
なお、比較的低周波数の超音波を発生する超音波振動子が処理槽の外側に設置された超音波脱気装置も従来提案されており、このような装置による超音波脱気方法の場合、液体と振動板とが直接接触せずエロージョンが回避される点で好ましいと考えられる。しかし、超音波の間接照射による脱気方法の場合、超音波照射に起因して微細な気泡であるUFB(ウルトラファインバブル)が生成されやすく、UFBのコンタミネーションが多いという欠点があった。また、UFBは液体中で安定して存在するためなかなか消泡しにくい反面、UFBの発生を抑えたり消泡したりする有効な方法や装置が提案されておらず、現状では自然に消泡するのを待たざるを得なかった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、被処理液中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる超音波脱気方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、処理槽の外側から被処理液に対して従来よりも比較的高い周波数の超音波を間接的に照射することがUFB等を含む異物の低減に有効であり、また、被処理液の液面の揺れ動きを抑えた条件下や減圧した条件下で超音波を照射することが脱気効率の向上に有効であることを知見した。そして、これらの知見を発展させることにより、最終的に下記の発明を完成させるに至ったのである。
【0009】
即ち、請求項1に記載の発明は、処理槽内の被処理液に対して超音波を照射することにより、前記被処理液中の溶存気体を脱気する方法であって、前記被処理液の液面の揺れ動きを抑える液面揺動抑制部材を、前記液面揺動抑制部材を用いない場合において前記液面の揺れ動きに起因して脱気率が低下するパワー条件下にて用いるとともに、当該前記液面揺動抑制部材を前記液面上に浮かべた状態で、前記処理槽の外側から前記被処理液に対して200kHz以上2MHz以下の超音波を間接的に照射することを特徴とする超音波脱気方法をその要旨とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の発明によると、処理槽の外側から被処理液に対して超音波を間接的に照射するので、振動板や攪拌子等のような、異物を発生しうる他部材と被処理液との接触が回避される。また、200kHz以上2MHz以下の比較的高い超音波を照射することから、UFBの発生量を少なくすることができる。しかも、液面揺動抑制部材を液面上に浮かべた状態で超音波を照射することで、被処理液の液面の揺れ動きが抑えられ、気液界面における気相から液相への気体の混入が防止される。よって、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、被処理液中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる。
通常、脱気率の向上を図りたい場合には、投入する超音波のパワーをある程度大きくすることが望ましいと考えられる。しかし、本発明者らが実施した試験によると、投入する超音波のパワーが大きくなるほど液面の揺れ動きが大きくなり、その揺れ動きの拡大に起因して気液界面における気相から液相への気体の混入量が多くなる結果、かえって脱気率が低下することが確認されている。従って、本発明のような条件下(即ち、液面揺動抑制部材を用いない場合において液面の揺れ動きに起因して脱気率が低下するパワー条件下)で液面の揺れ動きを抑制するべく液面揺動抑制部材を用いることで、脱気率を確実に向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記液面揺動抑制部材は、前記被処理液よりも比重及び固有音響インピーダンスが小さい材料によって形成されていることをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項2に記載の発明によると、被処理液よりも比重及び固有音響インピーダンスが大きい金属等の材料によって当該部材を形成した場合とは異なり、液面上に浮きやすくて自然に上下動しやすいものとなる。よって、当該部材自体が被処理液に接触していてもエロージョンが起こらず、しかも被処理液上部が気相である場合と同じような液高さの条件で超音波を駆動することができ、制御が比較的容易になる。この場合において、例えば前記液面揺動抑制部材は、自身が上下動することによって前記液面の揺れ動きを前記超音波の1/4波長の範囲内に抑えるものであることが好ましい(請求項3)。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、請求項1乃至3のいずれか1項において、減圧条件下で前記超音波を照射することをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項4に記載の発明によると、常温における被処理液の蒸気圧以下に減圧すると、沸騰して脱気が促進される。また、減圧すると、被処理液上部の気相から被処理液内へ溶け込む気体が減り、脱気されやすくなる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記被処理液を請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法によって脱気する装置であって、前記被処理液を内部に溜めておく処理槽と、前記処理槽の外側に設けられ、200kHz以上2MHz以下の超音波を発生する超音波振動子と、前記被処理液の液面の揺れ動きを抑える液面揺動抑制部材とを備えた超音波脱気装置をその要旨とする。
【0022】
従って、請求項5に記載の発明によると、比較的簡単な構造であるにもかかわらず、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、被処理液中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる上記方法を確実に実施することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記処理槽内を減圧する減圧装置をさらに備えた超音波脱気装置をその要旨とする。
【0024】
従って、請求項6に記載の発明によると、処理槽内が減圧される結果、被処理液中に溶存できる気体の体積が低減され、より短時間で効率よく脱気することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、請求項1~4に記載の発明によると、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、処理液中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる超音波脱気方法を提供することができる。請求項5~6に記載の発明によると、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、被処理液中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる超音波脱気装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明を具体化した第1の実施形態の超音波脱気装置を示す概略構成図。
【
図2】実施例1において、パワーを一定(15W)にして周波数を変えた場合における溶存酸素量の時間的変化を示すグラフ。
【
図3】実施例1において、パワーを一定(15W)にして照射時間を5、10、30分とした場合における脱気率の周波数依存性を示すグラフ。
【
図4】実施例1において、周波数を一定(1MHz)にしてパワーを5、10、15、20Wに変えた場合における溶存酸素量の時間的変化を示すグラフ。
【
図5】実施例1において、空気中または窒素中にて、周波数を一定(1MHz)にしてパワーを変えた場合における照射30分後の脱気率を示すグラフ。
【
図6】実施例1において、周波数を一定(1MHz)にしてパワーを変えた場合におけるKI法によるI
3
-の生成速度を示すグラフ。
【
図7】実施例1において、照射時間を一定にして周波数を変えた場合における脱気率の超音波パワー依存性を示すグラフ。
【
図8】実施例2において用いた超音波脱気装置の要部を示す概略構成図。
【
図9】実施例2において、パワーを一定(30W)にした場合における、液面揺動抑制部材が有るときまたは無いときの脱気率の違いを示すグラフ。
【
図10】実施例2において、周波数を一定(209kHz)にしてパワーを変えた場合における、液面揺動抑制部材が有るときまたは無いときの脱気率の違いを示すグラフ。
【
図11】実施例3において用いた超音波脱気装置の要部を示す概略構成図。
【
図12】実施例3において、減圧条件下(5kPa)でパワーを一定(15W)にして周波数を変えた場合における溶存酸素量の時間的変化を示すグラフ。
【
図13】実施例3において、減圧条件下(5kPa)でパワーを一定(15W)にして照射時間を5、10、30分とした場合における脱気率の周波数依存性を示すグラフ。
【
図14】実施例3において、減圧条件下(5kPa)で照射10分後に生成したUFBの数密度の周波数依存性を示すグラフ。
【
図15】実施例3において、大気圧条件下(101kPa)または減圧条件下(5kPa)にて、照射10分後に生成したUFBのサイズの周波数依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の超音波脱気方法及び装置を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1には、本実施形態の超音波脱気装置11の概略構成図が示されている。この超音波脱気装置11は、水W1(被処理液)に対して超音波を照射することにより、水W1中の溶存気体を脱気するための装置であり、処理槽12、超音波振動子13、駆動装置を備えている。
【0029】
処理槽12は上部が開口した有底の容器であって、その内部に水W1が溜められるようになっている。本実施形態では、本体部12aの下部にフランジ部12bを有する二重円筒状の処理槽12が用いられている。フランジ部12bの下端側には、本体部12aよりも大径かつ円筒状の支持体16が取り付けられている。本体部12aにおける2箇所には、処理槽12の内部空間に冷却水を取り入れるための取入口14と、内部空間から冷却水を排出するための排出口15とがそれぞれ設けられている。なお、冷却水は図示しない恒温槽に溜められており、図示しないポンプの駆動によって常時処理槽12に対して循環供給される。その結果、処理槽12内の温度が常温(ここでは25℃)に保たれるようになっている。
【0030】
超音波振動子13は、処理槽12内の水W1に超音波を照射するための手段であって、処理槽12の底部に固定されている。本実施形態における超音波振動子13としては、例えば、直径45mmの低周波用振動子(22kHz用、43kHz用、97kHz用、129kHz用)や、直径50mmの高周波用振動子(208kHz用、309kHz用、400kHz用、514kHz用、1MHz用、2MHz用)などが使用可能である(いずれも本多電子社製)。なお、これらの振動子のうち低周波用についてはボルト締めランジュバン型振動子を使用することが好ましく、高周波用についてはセラミック素子単体からなる振動子を使用することが好ましい。ただし、本願発明の課題を解決するうえでは、低周波用振動子ではなく高周波用振動子を選択することが好ましいが、この理由については後述する。
【0031】
この超音波脱気装置11における駆動装置は、信号発生器21、パワーアンプ22及び制御手段としてのPC(パーソナル・コンピュータ)23によって構成されている。信号発生器21は、パワーアンプ22を介して超音波振動子13に電気的に接続されている。信号発生器21は、所定周波数(本実施形態では22kHz以上)の連続正弦波の発振信号を出力する。この発振信号は、パワーアンプ22で信号増幅された後、超音波振動子13に供給され、超音波振動子13を駆動する。図示しないが、パワーアンプ22と超音波振動子13との間にインピーダンス・マッチング回路が設けられていてもよい。そして、超音波振動子13は、信号発生器21の発振周波数に応じた周波数の超音波を発生する。この結果、処理槽12内の水W1に対し、処理槽12の底部外側から上方に向けて超音波が照射される。なお、PC23は信号発生器21に電気的に接続されており、超音波振動子13から発生される超音波の出力を調整して駆動するべく、信号発生器21の発振信号の信号レベルを制御するようになっている。なお、PC23にはオシロスコープ24が電気的に接続されている。オシロスコープ24は、パワーアンプ22から出力された信号の電圧及び電流を読み取り、電圧波形及び電流波形として画面上に表示するようになっている。
【0032】
次に、上記のように構成された超音波脱気装置11を用いて水W1を脱気する処理について説明する。
【0033】
まず、作業者は、超音波脱気装置11の処理槽12内に水W1を溜めておくとともに、あらかじめ冷却水を循環させて槽内の温度を一定に保つようにしておく。ここで、図示しない開始スイッチをオンすると、駆動装置としてのPC23がそのスイッチ操作に基づき信号発生器21を駆動させる。このとき、信号発生器21は、例えば200kHz以上の発振信号をパワーアンプ22を介して出力し、超音波振動子13から所定の超音波を発生させる。超音波振動子13から発生された超音波は、処理槽12内の水W1を伝搬して槽内全体に音場を形成する。このようにして上記周波数の超音波を照射することにより、水W1が脱気される。
【0034】
ここで、脱気のメカニズムについて説明する。水W1に対して超音波を照射すると、水W1中のゴミや処理槽12の壁の表面にある気泡核は、水W1中の圧力の高低変化により膨張及び収縮を繰り返す。そして膨張時には、水W1に溶けている空気が気体となり気泡内に入る。これに対して収縮時には、気泡内の空気が水W1中に溶ける。気泡の表面積は膨張時のほうが大きく、水W1に溶けている空気が気体となって気泡内に入るものが多くなる。そのため、膨張及び収縮を繰り返すことで気泡は徐々に大きくなり、共振サイズに近づくと気泡は崩壊する(即ちキャビテーションが起こる)。崩壊した気泡は互いに凝集したり合一したりして大きな気泡となり、水W1中から気相及び処理槽12の壁に移動する。また、崩壊した気泡の一部は、再び様々な大きさの気泡になり、再び膨張及び収縮を繰り返す。その結果、水W1中に溶けている空気の量が減少していく。その一方で、水W1中の溶存気体が減ると、溶存気体が飽和した状態に戻るために、気相から液相(水W1中)に空気が入り込んで溶けるようになる。そして、気泡の膨張及び収縮による溶存気体の減少量のほうが気相から液相に溶け込む気体の量よりも多いときのことを、「脱気」状態ということができる。
以下、上記の実施形態をより具体化した実施例を紹介する。
【実施例】
【0035】
[実施例1]:
図1の超音波脱気装置11を用いた超音波照射による脱気試験(予備的試験)
【0036】
本実施例では、以下の方法により脱気試験を行った。超純水である水W1を
図1に示した超音波脱気装置11の処理槽12内に100mL入れた状態で、大気圧条件下(101kPa)において超音波の照射を行った。このとき、超音波の周波数を22kHz~2MHzの範囲で変更し、超音波パワーを0W~50Wの範囲で変更し、さらに照射時間を0分~30分に変更して、溶存気体量あるいは脱気率を求めるようにした。なお、水に溶けている空気の量は容易に測定することができないため、水に溶けている空気の一部である酸素の量(mg/L)を溶存酸素計(Hq40d,HACH)で測定することをもって、溶存気体量の大小を評価することとした。そしてこの溶存酸素量(DO;dissolved oxygen)の値に基づいて脱気率を求めた。
【0037】
試験1-1では、超音波パワーを15Wに設定して、周波数を22kHz、43kHz、129kHz、208kHz、309kHz、400kHz、514kHz、1MHz、2MHzに設定した場合における溶存酸素量の時間的変化を調査した。その結果を
図2のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は超音波の照射時間(分)であり、縦軸は溶存酸素量(mg/L)である。ここで、超音波パワーとは、水W1に投入される単位時間(s)当たりのエネルギー(J)のことを指す。従って、その単位はJ/s、つまりWとなり、超音波振動子に印加される電力のことを指すものではない。今回、超音波パワーについてはカロリメトリにて求めた。
【0038】
図2のグラフから明らかなように、溶存酸素量は、いずれの周波数においても時間経過とともに指数関数的に減少することがわかった。また、このときの減少量は、周波数依存性を有することもわかった。
【0039】
図3のグラフは、超音波パワーを15Wに設定して上記のとおり周波数を22kHz~2MHzに設定した場合における、5、10、30分後の脱気率を示している。このグラフにおいて、横軸は超音波の周波数(kHz)であり、縦軸は脱気率(%)である。これによると、脱気率は比較的高い周波数(200kHz~2MHz)のときに大きくなり、比較的低い周波数(約130kHz以下)のときに小さくなる傾向が見られた。特に周波数が約300kHzのときに脱気率が最大(約70%)となることがわかった。
【0040】
次に行った試験1-2では、周波数を1MHzに設定して超音波パワーを5、10、15、20Wに設定した場合における溶存酸素量の時間的変化を調査した。その結果を
図4のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は超音波の照射時間(分)であり、縦軸は溶存酸素量(mg/L)である。
【0041】
図4のグラフから明らかなように、溶存酸素量は、超音波パワーの大小にかかわらず時間経過とともに指数関数的に減少することがわかった。また、このときの減少量は、超音波パワーが大きくなるほど多くなることから、少なくとも今回行った試験の条件の範囲内(5W~20W)では超音波パワー依存性を有することもわかった。
【0042】
次に行った試験1-3では、空気中にて、周波数を1MHzに設定して超音波パワーを0W~50Wの範囲で変えて超音波を30分間照射したときの脱気率を調査した。また、空気を窒素に置換した状態(即ち酸素を殆ど含まない状態)にして同様の超音波を照射したときの脱気率も調査した。その結果を
図5に示す。このグラフにおいて、横軸は超音波パワー(W)であり、縦軸は脱気率(%)である。
【0043】
図5のグラフから明らかなように、液面31にて液相と接している気相が空気である場合、超音波パワーが0W~35Wまでの範囲では、超音波パワーの増加とともに脱気率が上昇し、35Wにて最大(約77%)となることがわかった。しかし、超音波パワーが40W以上になると、超音波パワーの増加とともに脱気率が低下することがわかった。それに対し、液面31にて液相と接している気相が窒素である場合、超音波パワーが0W~15Wまでの範囲では、超音波パワーの増加とともに脱気率が低下し、15Wにて100%近くになることがわかった。また、超音波パワーが15Wを超えて大きくなっても脱気率に変化はなく、100%近くの値を維持することもわかった。
【0044】
これらの結果から、液面31において気相の気体が液相である水W1に入ったと考えられた。これは気相が窒素の場合、水W1に窒素が入って溶けても,溶存酸素量が変化しないからである。
【0045】
図6のグラフは、液面31にて液相と接している気相が空気である場合、周波数を約1MHzに設定して超音波パワーを0W~50Wの範囲で変えて超音波を30分間照射したときのKI法によるI
3
-の生成速度(mol/s)を示している。このグラフにおいて、横軸は超音波パワー(W)であり、縦軸はI3-の生成速度(mol/s)である。ここで、I
3
-の生成速度はキャビテーション量の大小を示す指標として扱っている。
【0046】
これによると、超音波パワーが5W以上のときに超音波パワーの増加とともに生成速度が増加することがわかった。これは、キャビテーション量も5W以上のときに超音波パワーの増加とともに増加することを意味している。よって、
図5において気相が空気である場合、超音波パワーが40W以上になると、空気が水に入った量が超音波による脱気の量より多くなり、脱気率の低下につながったと考えられる。その理由としては、超音波パワーが大きくなると超音波振動子13から液面31方向への放射力が大きくなり、液面31が大きく揺れ動くため、気相と液相との接触面積の増加等により気相の空気が水W1に溶ける速度が増加するからであると考えられる。
【0047】
次に行った試験1-4では、空気中にて、周波数を22kHz、209kHz、308kHz、514kHz、1MHzに設定し、超音波パワーを0W~50Wの範囲で変えて超音波を30分間照射したときの脱気率を求め、脱気率の超音波パワー依存性を調査した。その結果を
図7に示す。このグラフにおいて、横軸は超音波パワー(W)であり、縦軸は脱気率(%)である。
【0048】
図7のグラフから明らかなように、22kHz照射区では、少なくとも超音波パワー0W~25Wの範囲内において超音波パワーの増加とともに脱気率が上昇することがわかった。これに対し、
図7に示した試験1-3と同じく1MHz照射区では、超音波パワーの増加とともに脱気率が上昇した後、減少に転じることがわかった。また、209kHz照射区、308kHz照射区、514kHz照射区においても、1MHz照射区と同様の傾向が見られた。また、脱気率の低下が見られた各周波数の照射区において液面31の様子を観察したところ、脱気率の低下が始まるポイントを超えて超音波パワーを上げたとき、液面31の揺れ動きが顕著になることがわかった。
【0049】
以上の結果から、周波数が200kHz~2MHzの範囲で超音波を照射することにより脱気を比較的効率よく行うことができ、その際に液面31が大きく揺れ動かない範囲で超音波パワーを大きく設定することで脱気率のさらなる向上が達成可能であるとの結論に至った。
【0050】
[実施例2]:
図8の超音波脱気装置11Aを用いた超音波照射による脱気試験
【0051】
実施例2では、超音波照射時に液面31の揺れ動きを抑えることによる脱気率の向上効果を検証すべく、
図8の超音波脱気装置11Aを用いて脱気を行う試験を行った。この超音波脱気装置11Aは、基本的に実施例1の超音波脱気装置11と同じ構成を備えているが、さらに液面揺動抑制部材32を備えている点が異なっている。この液面揺動抑制部材32は、液面31上に浮かべた状態で使用されることで超音波照射時の液面31の揺れ動きを抑えるための部材であって、具体的には発泡スチロール製の薄い(厚さ数mmの)円板状のカバー部材を用いた。即ちここでは、被処理液である水W1よりも比重及び固有音響インピーダンスが小さいため、液面31上に浮きやすくて自然に上下動しやすい材料を選択した。なお、液面揺動抑制部材32は、液面31の面積の半分以上の面積を占めていることが好ましく、70%~95%の面積を占めていることがより好ましい。この液面揺動抑制部材32の上面中央部には、容易に把持できるように突起32aが形成されている。ちなみに、液面揺動抑制部材32は、気液界面において気相から液相への空気の移動を妨げるための障壁部材であると把握してもよい。
【0052】
試験2-1では、大気圧下かつ空気中でパワーを30Wに設定して超音波を30分間照射し、液面揺動抑制部材32が有るときまたは無いときの脱気率を比較した。その結果を
図9のグラフに示す。
図9のグラフにおいて、左に位置するバーは液面揺動抑制部材32を用いずに308kHzを照射したときの脱気率、中央に位置するバーは液面揺動抑制部材32を用いずに209kHzを照射したときの脱気率、右に位置するバーは液面揺動抑制部材32を用いて209kHzを照射したときの脱気率をそれぞれ示している。
【0053】
これによると、液面揺動抑制部材32を用いないで308kHを照射した場合には脱気率が約80%であったのに対し、液面揺動抑制部材32を用いないで209kHを照射した場合には脱気率が約10%となり極めて低かった。これは、超音波パワーが30Wの場合、前者においては液面31の揺れ動きがまだそれほど大きくないのに対し、後者においては液面31の揺れ動きが顕著であることに起因する(
図7を参照)。そこで、液面揺動抑制部材32を用いて209kHを照射した場合には、約10%であった脱気率を60%強まで改善できることがわかった。また、液面31の様子を観察したところ、配置した液面揺動抑制部材32の配置によって揺れ動きが抑えられるとともに、液面揺動抑制部材32がわずかに上下動(具体的には超音波の1/4波長の範囲内で上下動)していることがわかった。
【0054】
試験2-2では、大気圧下かつ空気中にて、周波数を209kHzに設定しかつ超音波パワーを0W~40Wの範囲に設定して超音波を30分間照射し、液面揺動抑制部材32が有るときまたは無いときの脱気率を比較した。その結果を
図10のグラフに示す。
【0055】
図10のグラフに示すように、液面揺動抑制部材32が無いときの脱気率は、比較的超音波パワーが弱いとき(5、10、15W)には高い値(約55%~60%)を示したのに対し、それよりも超音波パワーが強くなると(即ち20W以上になると)急激に低下することがわかった。これに対し、超音波パワーが20W以上のときに液面揺動抑制部材32を用いることにより、脱気率を大幅に向上させることができることが実証された。特に超音波パワーが25、30Wのときには、液面揺動抑制部材32が無いときの最高値である60%を超える脱気率を達成することが可能であった。
【0056】
以上の結果から、液面揺動抑制部材32は、液面揺動抑制部材32を用いない場合において液面31の揺れ動きに起因して脱気率が低下するパワー条件下にて用いることが効果的であることがわかった。つまり、液面揺動抑制部材32の配置によって液面31の揺れ動きが抑えられたことで気相と液相との接触面積が減少し、気相の空気が水W1に溶ける速度が減少したことが、脱気率の向上につながったと推察された。
【0057】
ちなみに、
図7のグラフを参照すると、308kHzの照射時には35W以上、514kHzの照射時には25W以上、1MHzの照射時には40W以上の超音波パワー条件下で、それぞれ液面揺動抑制部材32を使用すれば、脱気率の向上が期待できると考えられる。
【0058】
[実施例3]:
図11の超音波脱気装置11Bを用いた超音波照射による脱気試験
【0059】
実施例3では、減圧による脱気率の向上効果を検証すべく、
図11の超音波脱気装置11Bを用いて脱気を行う試験を行った。この超音波脱気装置11Bは、外槽41と内槽42とを有する二重構造の処理槽12を備えている。内槽(セル)42は外槽41内のほぼ中央部に配置されていて、その内部に被処理液である水W1が溜められるようになっている。外槽41の上部開口には閉塞部材43が設けられるとともに、その閉塞部材43には複数の減圧用吸気口44が設けられている。これらの減圧用吸気口44は図示しない減圧装置(真空ポンプ)に流路的に接続されている。外槽41における2箇所には、外槽41と内槽42とがなす内部空間45に冷却水46(脱気水)を取り入れるための取入口14と、内部空間45から冷却水46を排出するための排出口15とがそれぞれ設けられている。なお、冷却水46は図示しない恒温槽に溜められており、図示しないポンプの駆動によって常時処理槽12に対して循環供給される。その結果、処理槽12内の温度が常温(ここでは25℃)に保たれるようになっている。
【0060】
処理槽12を構成する外槽41の底部下側面には超音波振動子13が固定されており、この超音波振動子13により、超音波伝達媒体でもある冷却水46を介して内槽42内の水W1に超音波が間接的に照射されるようになっている。本実施形態における超音波振動子13としては、例えば、直径45mmの低周波用振動子(22kHz用、43kHz用、97kHz用、129kHz用)や、直径50mmの高周波用振動子(208kHz用、309kHz用、400kHz用、514kHz用、1MHz用、2MHz用)などが使用可能である(いずれも本多電子社製)。
【0061】
試験3-1では、5kPaの減圧条件下で超音波パワーを15Wに設定して、周波数を22kHz、43kHz、129kHz、514kHz、1MHz、2MHzに設定して超音波を0~30分間照射したときの溶存酸素量を調査した。また、比較のために、大気圧条件下で超音波パワーを15Wに設定して、攪拌子による攪拌(400rpm)を行いながら、超音波を0~30分間照射したときの溶存酸素量も調査した。その結果を
図12に示す。このグラフにおいて、横軸は照射時間(分)であり、縦軸は溶存酸素量(mg/L)である。
【0062】
図12に示されるように、減圧条件下で超音波を照射して脱気を行った場合、大気圧条件下で攪拌しながら超音波を照射して脱気を行った場合に比べて、より短時間で脱気できることがわかった。具体的にいうと、例えば、減圧条件下で超音波を照射して脱気を行った場合、いずれの照射区においても5分以内に溶存酸素量を2mg/L以下に低下させることができた。これに対し、大気圧条件下で攪拌しながら超音波を照射して脱気を行った場合、溶存酸素量を2mg/L以下に低下させるのに10分以上必要であった。
【0063】
試験3-2では、5kPaの減圧条件下で超音波パワーを15Wにして、周波数を22kHz~2MHzの範囲に設定し、かつ超音波を0~30分間照射したときの溶存酸素量を調査した。その結果を
図13のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は周波数(kHz)であり、縦軸は脱気率(%)である。これによると、いずれの周波数においても10分間以上の超音波照射を行えば、十分な脱気率(90%以上)が達成できることがわかった。
【0064】
試験3-3では、5kPaの減圧条件下で超音波パワーを15Wにして、周波数を22kHz~2MHzの範囲に設定したとき、照射10分後に生成したUFBの数密度を測定した。また、比較のために、大気圧条件下で超音波パワーを15Wにして、周波数を22kHz~2MHzの範囲に設定したとき、照射10分後に生成したUFBの数密度も測定した。その結果を
図14のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は周波数(kHz)であり、縦軸はUFBの数密度(個/mL)である。なお、水W1中のUFBの数密度については、ナノ粒子ブラウン運動追跡装置(NanoSight,Malvern)を用いて測定した。また、5kPaの減圧条件下で超音波パワーを15Wにして、周波数を22kHz~2MHzの範囲に設定したとき、照射10分後に生成したUFBのサイズ(平均径、モード径)についても測定した。その結果を
図15のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は周波数(kHz)であり、縦軸はUFBの直径(nm)である。
【0065】
図14のグラフに示されるように、水W1に超音波を照射すると、減圧・大気圧どちらの条件下においてもUFBが生成し、周波数が低いとUFBの数密度の値が高く、周波数が高くなるほどUFBの数密度の値が指数関数的に低くなることがわかった。つまり、UFBの数密度について周波数依存性があることが認められた。また、
図15のグラフに示されるように、水W1に超音波を照射すると、平均径120~140nm程度かつモード径90~110nm程度のUFBが生成し、周波数が高くなると平均径及びモード径のいずれも小さくなる傾向があった。つまり、UFBのサイズについても周波数依存性があることが認められた。
【0066】
また、減圧条件下で超音波を照射した場合、大気圧条件下で超音波を照射した場合に比べてUFBの数密度の値を低くすることができることがわかった。特に、5kPaの減圧条件下で超音波パワーを15Wにして、周波数を1MHz以上に設定することにより、10分以内にUFBの数密度を現段階での検出限界以下(107個/mL以下)の値に抑えることができることが実証された。従って、この超音波照射条件によれば、UFBのコンタミネーションを非常に少なくしつつ、短時間で脱気することが可能であった。
【0067】
[結論]
【0068】
従って、以上詳述したように、本実施形態によれば次のような効果を得ることができる。
【0069】
(1)実施例2の超音波脱気方法では、液面揺動抑制部材32を液面31上に浮かべた状態で、処理槽12の外側から水W1に対して200kHz以上の超音波を間接的に照射することを特徴としている。従って、振動板や攪拌子等のような、異物を発生しうる他部材と水W1との接触が回避される。また、比較的高い超音波を照射することから、UFBの発生量を少なくすることができる。しかも、液面揺動抑制部材32を液面31上に浮かべた状態で超音波を照射することで、液面31の揺れ動きが抑えられ、気液界面における気相から液相への気体の混入が防止される。よって、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、水W1中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる。
【0070】
(2)実施例3の超音波脱気方法及び装置では、減圧条件下で処理槽12の外側から水W1に対して200kHz以上の超音波を間接的に照射することを特徴としている。従って、処理槽12の外側から水W1に対して超音波を間接的に照射するので、振動板や攪拌子等のような、異物を発生しうる他部材と被処理液との接触が回避される。また、比較的高い超音波を照射することから、UFBの発生量を少なくすることができる。しかも、減圧されることによって、水W1が沸騰しやすくなるとともに水W1内へ溶け込む気体が減り、脱気されやすくなる。よって、UFB等を含む異物の混入を回避しつつ、水W1中の溶存気体を短時間で効率よく脱気することができる。
【0071】
(3)実施例2、3の超音波脱気方法によれば、例えば滅菌水を出発材料として、UFB等のコンタミネーションを殆ど含まない脱気滅菌水を比較的簡単にかつ確実に製造すること等が可能となる。特に、脱気処理に際して常温下(つまり非加熱条件下)で超音波照射を行えばよいため、加熱及び冷却のプロセスを省略することができ、処理の効率化を図ることができる。なお、このような脱気滅菌水は、清浄度が非常に高いものであるため、例えば医療目的(例えば超音波診断における造影剤の用途など)などに好適なものであるということができる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0073】
・実施例2の液面揺動抑制部材32は発泡スチロール製の部材であったが、発泡スチロール以外の発泡樹脂(例えば発泡ウレタン等)を用いたものであってもよい。また、発泡樹脂以外の材料、例えば発泡していない樹脂材料により形成された液面揺動抑制部材32を用いてもよい。その場合には、被処理液である水W1より比重及び固有音響インピーダンスが小さい材料を選択することが好ましく、特には比重が水W1よりも小さく、なおかつ固有音響インピーダンスが空気に近い材料を選択することがより好ましい。ちなみに、空気の固有音響インピーダンスに近い低比重の材料からなる実施例2の液面揺動抑制部材32の場合、水W1より大きい固有音響インピーダンスの材料を用いた場合とは異なり、被処理液である水W1の上部が気相である場合と同じような液高さ(底面から液面31までの距離)の条件で超音波を駆動することができ、制御が比較的容易になるという利点がある。
【0074】
・実施例2の液面揺動抑制部材32は薄い円板状の部材であったが、これに限定されず、例えば中空円板状の樹脂製バッグの中に空気を充填した構造の部材であってもよい。なお、液面揺動抑制部材32は必ずしも板状物でなくてもよい。例えば、処理槽12の内径の1/10以下の直径を有する多数の発泡樹脂製の粒状物を液面揺動抑制部材32として用いることが可能である。あるいは、網目状の部材や、円板状の部材よりも薄いフィルム状の部材などを液面揺動抑制部材32として用いることも可能である。
【0075】
・実施例2の液面揺動抑制部材32は、水W1に浮くことができて自然に上下動することができるものであったが、これに限定されない。例えば、アクチュエータ等の駆動手段により液面揺動抑制部材32を能動的に上下動するように構成してもよい。なお、このように液面揺動抑制部材32が僅かに上下動するような構成であると、超音波の反射条件が時間とともに変化する結果、反射条件の良し悪しが相殺されて平均化され、これが調整や制御の容易性につながるという利点がある。
【0076】
・実施例3では、減圧手段を用いて5kPaの減圧条件下、即ち大気圧(101kPa)の約1/20の圧力条件下にて超音波脱気を行ったが、例えば10kPa程度の減圧条件下にて超音波脱気を行っても勿論よい。
【0077】
・実施例3では、減圧条件下にて液面揺動抑制部材32を用いることなく超音波脱気を行ったが、減圧条件下にて液面揺動抑制部材32を用いて超音波脱気を行っても勿論よい。
【0078】
・上記実施例では、超音波振動子13を処理槽12または外槽41の下面に配置したが、これに限定されず、例えば超音波振動子13を処理槽12または外槽41の側面に複数個配置するようにしてもよい。なお、処理槽12または外槽41の側面に超音波振動子13を複数個配置するにあたっては、曲率を持った形状の超音波振動子13を用いることが好適である。
【0079】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0080】
(1)処理槽内の被処理液に対して超音波を照射することにより、前記被処理液中の溶存気体を脱気する方法であって、気液界面において気相から液相への空気の移動を妨げる障壁部材を前記液面上に浮かべた状態で、前記処理槽の外側から前記被処理液に対して200kHz以上の超音波を間接的に照射することを特徴とする超音波脱気方法。
(2)請求項6において、200kHz以上の超音波を20W以上(好ましくは20W~40W、より好ましくは脱気率60%以上とすべく20W~30W)のパワーで照射すること。
(3)請求項6において、10kPa以下の減圧条件下で、200kHz以上の超音波を照射して、5分以内に脱気率を80%以上にすること。
(4)請求項6において、10kPa以下の減圧条件下で、200kHz以上の超音波を照射して、5分以内に溶存酸素量(DO)を2mg/L以下にすること。
【符号の説明】
【0081】
11、11A、11B…超音波脱気装置
12…処理槽
13…超音波振動子
31…液面
32…液面揺動抑制部材
W1…被処理液としての水