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特許7273300薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230508BHJP
   B22D 11/108 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/108 B
B22D11/108 H
B22D11/108 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019131760
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021016861
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】村尾 武政
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-286991(JP,A)
【文献】特開2002-273551(JP,A)
【文献】特開2000-246402(JP,A)
【文献】特開2015-062948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する前記溶融金属プール部のエッジ部から30mmまでの幅端部領域のメニスカスにCaO含有物を添加し、
前記幅端部領域に位置するスカムを低融点化して優先的に巻き込ませることを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記幅端部領域の前記メニスカス近傍に、前記CaO含有物を添加することを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項3】
前記幅端部領域に位置する前記溶融金属プール部の湯面に、前記CaO含有物を添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項4】
前記幅端部領域に位置する前記冷却ロールの外周面に、前記CaO含有物を添加することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項5】
前記CaO含有物の粉粒体を添加することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項6】
前記CaO含有物の固形物を前記冷却ロールの外周面に押圧して添加することを特徴とする請求項4に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項7】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する前記溶融金属プール部のエッジ部から30mmまでの幅端部領域のメニスカスにCaO含有物を添加するCaO添加機構を備えていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項8】
前記CaO添加機構は、粉粒体からなるCaO含有物を添加する構造とされていることを特徴とする請求項7に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【請求項9】
前記CaO添加機構は、前記CaO含有物の固形物を前記冷却ロールの外周面に押圧する構造とされていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の溶融金属プール部においては、酸化物等が溶融金属プール部の湯面上に浮上して、スカムと称する皮膜状の異物が形成される。スカムの主な組成は、脱酸、あるいは雰囲気による酸化で生じる酸化物であり、アルミナ(Al)が主成分である。このスカムが冷却ロールの周面(詳細には、冷却ロールの周面と凝固シェルとの間。以降、単に冷却ロールの周面と記載する場合がある。)に断続的に巻き込まれると、冷却ロール/凝固シェル間の凝固冷却不均一を生じるので、薄肉鋳片の表面割れ、しわの原因となる。したがって、双ロール式連続鋳造装置においては、鋳片欠陥を防止するために、スカム生成防止や、スカム巻込み防止が大きな課題である。
そこで、上述の双ロール式連続鋳造装置を用いて薄肉鋳片を鋳造する際に、湯面上のスカムが冷却ロールの周面に巻き込まれることを抑制する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溶融金属プール部を覆うシールチャンバー内を不活性ガス雰囲気として、雰囲気酸素分圧を低下させ、スカムの発生を抑制する技術が提案されている。なお、不活性ガスとしては、ArやNが用いられる。
しかし、脱酸時に生成する介在物は溶融金属中に懸濁しているため、シールチャンバーではこの介在物に起因するスカムの発生を抑制することができなかった。
【0005】
また、特許文献2には、溶融金属プール部内の注湯ノズルと冷却ロールの間隙に、板形状のスカム堰を配設し、スカムの巻き込みを抑制する手段が開示されている。この場合、スカム堰によって湯面に浮上したスカムを堰止めるので、スカムの巻き込みを大幅に抑制できる。なお、溶融金属は浸漬したスカム堰の先端下部を通ってメニスカス(湯面と冷却ロールとの接触開始部位、凝固開始点)に到達後に冷却ロール周面上で凝固し、スカム巻込みが少ない鋳片が製造される。
【0006】
しかし、鋳造時間が長くなるほど、スカム堰と注湯ノズルとの間の湯面に徐々にスカムが蓄積されるため、生産量が多く鋳造時間が長くなりがちな鉄鋼の鋳造では、スカム巻込み対策について、一層の対策が必要とされている。
また、スカム巻込みを防止するために、できるだけ幅広いスカム堰を設置することになるが、サイド堰とスカム堰を物理的に結合することは実用上困難なので、両エッジにはサイド堰との間に隙間が残る。蓄積したスカムは、やがて、スカム堰のエッジ部から、冷却ロールとスカム堰に挟まれた領域に溢れ、冷却ロールに断続的に巻込まれるようになる場合がある。
【0007】
一般に、スカムの主成分は、強脱酸元素であるAlが酸化して生じたアルミナ(Al)であるので高融点であり、したがって固相である場合が多く、また液相であっても粘度が高い場合が多いので、メニスカスに達しても直ちには冷却ロールに巻き込まれにくい。冷却ロールには、スカムにひび割れが生じて切断された後の破片が巻き込まれることになるため、巻き込みは断続的に発生することが多い。
ここで、スカムのひび割れは不規則に生じるので、時に粗大なスカム片が巻き込まれることがあり、その場合に著しい凝固不均一が生じやすい。その結果、鋳片表面の割れやへこみが生じ、あるいは鋳片内部に粗大なポロシティが発生することがある。
【0008】
そこで、スカムを固相化して、スカムの巻き込みを抑制する技術が特許文献3に開示されている。具体的には、スカムを何らかの固体に付着させる方法と、スカム自体を固相化する方法が開示されている。前者では、板状の固体酸化物で湯面の少なくとも一部を覆い、溶鋼に接した固体酸化物の下面で、湯面に浮上してきたスカムを捕捉する。後者では、湯面に冷却ガスを吹き付けたり、冷却用固化材、例えば粉末状のMgOやCaOを湯面に添加したりする。
【0009】
また、特許文献4には、タンディッシュまたは溶融金属プール部に、スカムの組成を調整するためのCaO、MgO、CaF、SiO,Alなどを添加し、スカムの固相率を5%以上60%以下に制御することにより、スカムが巻き込まれてもスカム疵が発生せず無害化できる技術が開示されている。添加材の形態として、粉末、小塊状、棒状、板状、鉄製被覆ワイヤーなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平05-261490号公報
【文献】特開平04-158959号公報
【文献】特開2002-273551号公報
【文献】特開2000-246402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献3に開示された方法においては、スカム固相化により、巻き込みは大幅に抑制されるが、長時間鋳造のうちに多量のスカムが蓄積されるため、蓄積量に限界があり、その結果、鋳造時間が制約される。蓄積限度を超えると、固相化したスカムが不規則に、時には粗大なスカム片が巻き込まれて、スカム疵や鋳片割れを引き起こしやすい。また、多量の固相スカムが湯面全面を覆うと、湯面レベルの正確な検知が困難になるので操業に支障が出る可能性がある。したがって、薄肉鋳片を双ロール式連続鋳造装置にて長時間鋳造するには、スカム固相化では課題がある。
【0012】
また、特許文献4に開示された方法においては、湯面上のスカムと共に、スカムの原因である溶鋼中に懸濁した介在物を含めた、溶鋼全体の介在物とスカム(以後、スカムと記載する)を改質する必要がある。スカムが巻き込まれてもスカム疵が生じないようにするためには、湯面上に限らず溶鋼中全てのスカムの組成を目標範囲に制御する必要がある。スカム組成が不均一であると、スカム組成調整添加材を添加しても、部位によってはスカムの固相率が目標範囲である5%以上60%以下を満たさない可能性がある。スカム流入量と排出量(巻き込まれ量)のバランスを考慮して、スカム組成調整添加材の添加量を正確に調整する必要があるが、均一に改質しづらい。また、添加材によりスカム量そのものが増加する。
【0013】
さらに、正確にスカム全体の組成を制御できたとして、固相率を5%以上60%以下に制御するので液相が残り、むしろ巻き込まれ易くなる。したがって、冷却ロール全幅のどこからでも巻き込まれ易くなる。少なからずスカム疵が生じる可能性が残るので、近年ますます厳しくなる品質要求を十分には満たすことができないことも考えられる。そのほか、鋳片表面にスカムが付着すると凝固時の冷却不均一が生じるので、結晶粒サイズが不均一となりスカム巻込み部では結晶粒が粗大化し、材質不均一や光沢むらを引き起こし易くなる。また、外観品質が厳しい製品では、付着したスカムを従来以上に除去するために、例えば鋳片の酸洗処理等の負荷が増している場合がある。以上の理由から、製品に用いる部位の鋳片では、スカム巻込み自体を防ぐことが一層重要になっている。
【0014】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであって、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることにより、トリム幅の部位以外ではスカムの巻き込みを防止し、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する前記溶融金属プール部のエッジ部から30mmまでの幅端部領域のメニスカスにCaO含有物を添加し、前記幅端部領域に位置するスカムを低融点化して優先的に巻き込ませることを特徴としている。
【0016】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する幅端部領域に位置する前記溶融金属プール部のメニスカスに対してCaOが供給されるように、CaO含有物を添加する構成とされているので、幅端部領域のメニスカス近傍のスカム(主にAl)がCaOと反応して低融点化する。これにより、薄肉鋳片のトリム幅の部分にスカムが優先的に巻き込まれることになり、スカムの蓄積が抑制され、トリム幅以外の部位でのスカムの巻き込みを防止することができる。よって、鋳造時間が長くなっても、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片を製造することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記幅端部領域の前記メニスカス近傍に、前記CaO含有物を添加することが好ましい。
この場合、幅端部領域のメニスカス近傍にCaOを効率的に供給することができ、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることが可能となる。なお、本発明においては、メニスカス近傍とは、溶融金属プール部を上面視して、メニスカスから冷却ロール側及び溶融金属プール側にそれぞれ30mmまでの領域とする。
【0018】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記幅端部領域に位置する前記溶融金属プール部の湯面に、前記CaO含有物を添加してもよい。
この場合、溶融金属プール部の湯面の流れによって、CaOが幅端部領域のメニスカスに供給されることになり、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記幅端部領域に位置する前記冷却ロールの外周面に、前記CaO含有物を添加してもよい。
この場合、冷却ロールの回転に伴って、CaOが幅端部領域のメニスカスに供給されることになり、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることが可能となる。
【0020】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記CaO含有物の粉粒体を添加する構成としてもよい。
あるいは、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記CaO含有物の固形物を前記冷却ロールの外周面に押圧して添加する構成としてもよい。
【0021】
本発明に係る双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する前記溶融金属プール部のエッジ部から30mmまでの幅端部領域のメニスカスにCaO含有物を添加するCaO添加機構を備えていることを特徴としている。
【0022】
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、前記薄肉鋳片のトリム幅に対応する幅端部領域に位置する前記溶融金属プール部のメニスカスに対してCaOが供給されるように、CaO含有物を添加するCaO添加機構を備えているので、薄肉鋳片のトリム幅の部分にスカムを優先的に巻き込ませることができ、トリム幅以外の部位でのスカムの巻き込みを抑制することができる。よって、鋳造時間が長くなっても、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片を製造することが可能となる。
【0023】
ここで、本発明の双ロール式連続鋳造装置においては、前記CaO添加機構は、粉粒体からなるCaO含有物を添加する構造とされていてもよい。
あるいは、本発明の双ロール式連続鋳造装置においては、前記CaO添加機構は、前記CaO含有物の固形物を前記冷却ロールの外周面に押圧する構造とされていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、本発明によれば、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることにより、トリム幅の部位以外ではスカムの巻き込みを防止し、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ロール式連続鋳造装置の一部拡大説明図である。
図3図1に示す双ロール式連続鋳造装置の溶鋼プール部近傍の断面説明図である。
図4図2に示す溶鋼プール部の上面説明図である。
図5】本発明の実施形態におけるCaO添加機構の一例を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態におけるCaO添加機構の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。なお、鋼種としては、例えば0.001~0.01%C極低炭鋼、0.01~0.10%C低炭鋼、0.10~0.4%C中炭鋼、0.4~1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、0.1~6.5%Si鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0028】
本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ロール式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12,12及び13,13と、一対の冷却ロール11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ロール11、11とサイド堰15とによって形成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ17と、このタンディッシュ17から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する注湯ノズル18と、を備えている。
【0029】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0030】
ここで、図3に示すように、本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼プール部16及び冷却ロール11,11の上方には、シールチャンバー20が配設されており、シールチャンバー20内が非酸化性雰囲気とされている。
また、溶鋼プール部16には、溶鋼3が貯留されており、溶鋼面には、アルミナ皮膜等からなるスカムXが形成されている。
【0031】
このスカムXが冷却ロール11に巻き込まれることを抑制するために、溶鋼プール部16には、スカム堰19が配設される。詳述すると、図2及び図3に示すように、スカム堰19は、矩形平板状をなしており、注湯ノズル18と冷却ロール11、11との間に配置され、その一部が溶鋼3内に浸漬されている。
【0032】
そして、本実施形態においては、図4に示すように、薄肉鋳片1のトリム幅Tに対応する幅端部領域Dに位置するメニスカスMに対してCaOが供給されるように、CaO含有物を添加する構成とされている。なお、CaO含有物としては、CaO単体の他、CaO-SiO系酸化物、CaO-CaF系フラックスなどが挙げられる。
このようにCaO含有物を添加することにより、薄肉鋳片1のトリム幅Tに対応する幅端部領域Dに位置するメニスカスMの近傍に位置するスカムXがCaOと反応して低融点化し、薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位にスカムXが優先的に巻き込まれることになる。なお、スカムXを優先的に巻き込ませる薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位を、スカム排出領域と称す。
【0033】
ここで、薄肉鋳片1のトリム幅Tは、一般的には、最大30mm程度であることから、CaO含有物を添加する幅端部領域Dは、溶鋼プール部のエッジ部から最大30mmの領域となる。
また、CaO含有物の添加位置は、幅端部領域DのメニスカスM近傍(図4の領域A)、幅端部領域Dの冷却ロール11の外周面(図4の領域B)、幅端部領域Dの溶鋼プール部16の湯面(図4の領域C)のいずれか1箇所又は2箇所以上とする。なお、幅端部領域DのメニスカスM近傍(図4の領域A)は、溶鋼プール部16を上面視して、メニスカスMから冷却ロール11側及び溶鋼プール部16側にそれぞれ30mmまでの領域となる。なお、領域Bには領域Aの冷却ロール11の外周面部分が含まれており、領域Cには領域Aの湯面部分が含まれている。
【0034】
幅端部領域DのメニスカスM近傍(図4の領域A)にCaO含有物を添加する場合には、例えば図5に示すように、CaO含有物の粉粒体をスクリューフィーダー30で供給してメニスカス近傍に落下させる方法や、CaO含有物の粉粒体をArやN等不活性ガスと共に吹き付けるなどが利用できる。なお、不活性ガスに混合して吹付ける場合には、溶鋼温度の低下を抑えるために熱伝導率が低いArガスを用いることが好ましい。なお、上記の粉粒体とは、篩下の粒径が5mm以下のものを意味している。CaO含有物の粒径が5mm以下であれば、溶鋼に溶解し易いためである。一方、粒径が小さいほど溶鋼に溶解し易いため、その下限値は特に限定されないが、実用的には10μm以上であることが好ましい。
【0035】
幅端部領域Dの冷却ロール11の外周面(図4の領域B)にCaO含有物を添加する場合には、例えば図5に示すように、CaO含有物の粉粒体をスクリューフィーダー30で供給して冷却ロール11の外周面上に落下させてもよい。あるいは、例えば図6に示すように、押圧機構40を用いて、CaO含有物の固形物(棒材、板材など)を冷却ロール11の外周面に押し付けて、冷却ロール11の外周面に付着させてもよい。なお、シールチャンバー20の内部と外部は耐熱性布などで区切られているので、冷却ロール11の外周面への添加はシールチャンバー20内で行うことが好ましい。
なお、押圧機構40は、CaO含有物の添加量が調整することができるように、CaO含有物の固形物(棒材、板材など)の押し付け力を調整する機能を備えることが好ましい。例えば、ばね等の付勢部材41を介してCaO含有物を冷却ロール11の外周面に押し付ける構造とし、この付勢部材41の付勢力を調整することで、CaO含有物の固形物の押し付け力を調整する構成としてもよい。
【0036】
幅端部領域Dの溶鋼プール部16の湯面(図4の領域C)にCaO含有物を添加する場合には、CaO含有物の粉粒体をスクリューフィーダー30で供給して溶鋼プール部16の湯面に落下させる方法や、CaO含有物の粉粒体をArやN等不活性ガスと共に吹き付けるなどが利用できる。
【0037】
ここで、CaOの添加量としては、スカムXを優先的に巻き込ませる薄肉鋳片1の片側のトリム幅Tに対応する鋳片質量に対して、10~500g/t-steelを添加することが好ましい。
CaOの添加量を10g/t-steel以上とすることで、スカムXがCaOと反応して十分に低融点化し、スカムXを優先的に巻き込ませることが可能となる。一方、CaOの添加量を500g/t-steel以下とすることで、CaOの高濃度化によるスカムXの高融点化を抑制でき、スカムXを安定して巻き込ませることが可能となる。
なお、20~300g/t-steelの範囲であれば,通常の溶鋼のトータル酸素の範囲(T.[O]=10~70質量ppm)で、融点が十分に低い50質量%Al-50質量%CaO付近の組成に改質でき、スカムXをさらに安定して巻き込ませることが可能となる。
【0038】
具体的な添加量は,スカム排出領域の幅に応じた鋳造量に対し,上記の添加比率を乗ずれば算出できる。例えば、スカム排出領域の幅を片側あたり30mm、鋳片厚み2mm、鋳造速度50m/minであれば、片側30mm幅あたりの鋳造量は、23.4kg/minである。100g/t-steelの添加量の場合、鋳片片側で1分間あたり2.34gと計算される。
【0039】
幅端部領域DのメニスカスM近傍(図4の領域A)または幅端部領域Dの冷却ロール11の外周面(図4の領域B)に添加する場合には、片側あたり2ヶ所、鋳片全幅では合計4ヶ所で添加することになる。
一方、幅端部領域Dの溶鋼プール部16の湯面(図4の領域C)に添加する場合には、片側あたり1ヶ所、鋳片全幅では合計2ヶ所である。
上述の添加箇所数を考慮して、1ヶ所あたりの添加量を算出すれば良い。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態に係る双ロール式連続鋳造装置10及び薄肉鋳片1の製造方法によれば、薄肉鋳片1のトリム幅Tに対応する幅端部領域に位置するメニスカスMに対してCaOが供給されるように、CaO含有物を添加する構成とされているので、幅端部領域のメニスカスM近傍のスカムX(主にAl)がCaOと反応して低融点化する。これにより、薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位(スカム排出領域)にスカムXを優先的に巻き込ませることができ、スカムの蓄積が抑制され、トリム幅T以外の部位でのスカムXの巻き込みを防止することができる。よって、鋳造時間が長くなっても、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片1を製造することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態において、幅端部領域DのメニスカスM近傍(図4の領域A)にCaO含有物を添加した場合には、メニスカスMにCaOを効率的に供給することができ、薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位にスカムXを優先的に巻き込ませることが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態において、幅端部領域Dの冷却ロール11の外周面(図4の領域B)にCaO含有物を添加した場合には、冷却ロール11の回転に伴って、CaOが幅端部領域のメニスカスMに供給されることになり、薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位にスカムXを優先的に巻き込ませることが可能となる。
【0043】
また、幅端部領域Dの溶鋼プール部16の湯面(図4の領域C)にCaO含有物を添加した場合には、溶鋼プール部16の湯面の流れによって、CaOが幅端部領域DのメニスカスMに供給されることになり、薄肉鋳片1のトリム幅Tの部位にスカムXを優先的に巻き込ませることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態において、CaO含有物の粉粒体を添加する構成とした場合には、スクリューフィーダー30を用いた方法や、ArやN等不活性ガスと共に吹き付ける方法により、CaO含有物を添加することができる。
あるいは、本実施形態において、CaO含有物の固形物を冷却ロール11の外周面に押圧して添加する構成とした場合には、冷却ロール11との摩擦によってCaO含有物の固形物の一部を冷却ロール11の外周面に付着させることができ、冷却ロール11の回転に伴ってCaOを幅端部領域DのメニスカスMに供給することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【実施例
【0046】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0047】
C;0.06質量%、Si;1.6質量%、Mn;2.2質量%、P;0.01質量%、S;0.005質量%、Al;0.056質量%を含有する炭素鋼からなる薄肉鋳片を、上述の実施形態に示す双ロール式連続鋳造装置を用いて製造した。以下に、薄肉鋳片の製造方法の共通の条件を示す。
冷却ロールの直径:1200mm
鋳造幅:800mm
鋳造厚み:平均2.0mm
鋳造速度:平均50m/min(1分間当たりの鋳造量は624kg、10tの鋳造時間は約16分)
鋳造雰囲気:Ar+N
鋳造量:10トン
湯面レベル弧角:40deg
溶鋼プール部の溶鋼温度:1522~1542℃(上記溶鋼の液相線温度1502℃なので、過熱度は20~40℃である。)
鋳片のトリム幅:30mm
【0048】
そして、表1に示す条件で、CaO含有物を添加した。なお、本実施例では、CaO含有物としてCaO単体を添加した。なお、「粉粒体」は篩下粒径5mm以下のものを用いた。「棒」は断面矩形の10mm角、長さ30mmのものを用いた。「板」は幅15mm、厚さ5mm、長さ30mmのものを用いた。
【0049】
上述の条件で薄肉鋳片の鋳造を実施し、得られた薄肉鋳片の表面品質について、以下のように評価した。
【0050】
(トリム部以外の巻き込みスカム最大サイズ)
両端のトリム幅30mm以外の、製品に用いる部位を観察し、巻き込まれたスカムの最大サイズを測定した。評価結果を表1に示す。
【0051】
(薄肉鋳片の表面しわ)
定常部の薄肉鋳片1mを酸洗した後、表面と裏面を目視で観察し、薄肉鋳片1mあたりのしわの発生長さを測定した。評価結果を表1に示す。
【0052】
(薄肉鋳片の表面割れ)
鋳片1mを酸洗した後、その表面と裏面とを観察し、目視、および、8倍ルーペを用いて、長さ1mm以上の割れを調査し、1mあたりの割れの個数を測定した。評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例21は、CaO添加をしなかった例である。トリム幅に限定されたスカム排出促進効果がなかったため、鋳片全幅でスカム巻込みが生じた。そのため、20mmを超える粗大スカムが製品に用いる部位に巻き込まれた。また、表面しわが350mm/m、表面割れが18個/mと多く発生した。
比較例22は,トリム幅の範囲外にCaOを添加してスカム排出を促進した例である。トリム幅の部位でなく、製品に用いる部位でスカムが排出されて巻き込まれたため、製品に用いる鋳片表面には、20mmを超える粗大スカムが巻き込まれ、表面しわは300mm/m、表面割れは14個/mとなった。
【0055】
これに対して、本発明例1~12においては、本発明の規定を満たしたため,スカム巻込み位置はトリム幅の部位に集中し、製品に用いる部位のスカム巻込みは大幅に減少していた。そのため,トリム幅の部位を除く鋳片表面の最大スカムサイズは20mm以下であり、表面しわの長さは200mm/mを下回り、表面割れを5個/m以下に抑えることができた。
【0056】
以上の結果から、本発明によれば、薄肉鋳片のトリム幅の部位にスカムを優先的に巻き込ませることにより、スカムの蓄積が抑制され、トリム幅の部位以外ではスカムの巻き込みを防止し、鋳片欠陥の少ない健全な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法、及び、双ロール式連続鋳造装置を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼
5 凝固シェル
11 冷却ロール
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6