IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7273311溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法
<>
  • 特許-溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法 図1
  • 特許-溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法 図2
  • 特許-溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/10 20060101AFI20230508BHJP
   C25D 13/20 20060101ALI20230508BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20230508BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B05D3/10 P
C25D13/20 C
G01R27/02 R
B23K31/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019183584
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021058829
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松葉 正寛
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一貴
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126657(WO,A1)
【文献】特開平8-033997(JP,A)
【文献】特開平2-275371(JP,A)
【文献】特開昭61-096473(JP,A)
【文献】特開昭58-106470(JP,A)
【文献】特開昭63-139258(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163862(WO,A1)
【文献】特開昭60-104269(JP,A)
【文献】特開2004-291088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/10
C25D 13/20
G01R 27/02
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに、絶縁抵抗計の第1端子を接触させる工程と、
前記溶接継手の母材に、前記絶縁抵抗計の第2端子を接触させる工程と、
前記第1端子及び前記第2端子との間に、50~500Vの電圧を印加する工程と、
前記第1端子及び前記第2端子との間の電気抵抗値を測定する工程と、
を備える溶接継手の電着塗装性の評価方法。
【請求項2】
前記電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間の長さを30秒以上とし、
前記期間における電気抵抗の測定値の平均を、前記第1端子と前記第2端子との間の前記電気抵抗値とみなす
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法。
【請求項3】
前記期間において、前記第1端子を前記溶接スラグに一定荷重で押し付ける
ことを特徴とする請求項2に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法。
【請求項4】
前記第1端子の軸方向を、前記溶接ビードの表面に対して垂直にすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法。
【請求項5】
第1端子及び第2端子を有し、50~500Vの電圧を印加可能である絶縁抵抗計と、
ステージと、
前記第1端子と前記ステージとの間の位置関係を制御可能な位置制御手段と、
を備える、溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項6】
前記第1端子に印加される荷重を一定にする荷重一定化手段をさらに備える請求項5に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項7】
前記荷重一定化手段が、
前記第1端子又は前記ステージを支持する弾性体と、
前記弾性体の変位を測定する変位測定手段と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項8】
前記位置制御手段が、垂直方向に沿って、前記第1端子に対する前記ステージの位置を制御可能となるように構成されていることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項9】
前記位置制御手段が、水平縦方向及び水平横方向に沿って、前記第1端子に対する前記ステージの位置を制御可能となるように構成されていることを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項10】
前記位置制御手段が、前記第1端子と前記ステージとの間の相対角度を制御可能となるように構成されていることを特徴とする請求項5~9のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置。
【請求項11】
母材を溶接して溶接継手を得る工程と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法を用いて、前記溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグの電気抵抗を測定する工程と、
電気抵抗の測定値が400MΩ以上である溶接スラグを前記溶接ビードの前記表面から除去する工程と、
前記溶接継手に電着塗装する工程と
を備える溶接継手の製造方法。
【請求項12】
前記電気抵抗の前記測定値が300MΩ以上である溶接スラグを前記溶接ビードの前記表面から除去することを特徴とする請求項11に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項13】
請求項5~10のいずれか一項に記載の電着塗装性評価装置を用いて、前記溶接継手の前記電着塗装性の評価方法を実施する
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手の電着塗装性の評価方法、及び溶接継手の電着塗装性評価装置、及び溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造部材の耐食性を向上させるために有効な手段として、電着塗装がある。電着塗装とは、電着塗料が入ったタンクの中に被塗物と電極とを入れ、両者の間に電位を生じさせ、電着塗料の塗膜成分を電気泳動させる事により被塗物の表面に塗膜を析出させる方法である。電着塗装は、密着力が高い塗膜を形成することができるので、高い防錆効果を被塗物に付与することができる。さらに電着塗装は、大量の被塗物を塗装処理する際の経済性が高い。加えて電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物にも高い均一性を有する塗膜を形成可能である。
【0003】
しかしながら、母材及び溶接ビードを備える溶接継手に電着塗装を適用するにあたっては、溶接ビードに電着塗装不良が生じやすいという問題がある。この電着塗装不良は、溶接ビード表面に付着する溶接スラグに起因する。特に、母材が自動車用鋼板である場合、自動車用鋼板に含まれるSi及びMnに由来する絶縁性のSi,Mn系溶接スラグが溶接ビードに付着し、これが電着塗装時の通電を妨げ、電着塗装不良を招く。
【0004】
以上の事情に鑑みて、高い電着塗装性を有する溶接継手の開発が進められているが、その中で、溶接継手の電着塗装性をどのように評価するかという問題が生じている。
【0005】
溶接継手の電着塗装性を最も確実に評価する方法は、溶接継手に実際に電着塗装を施すことである。電着塗装後の溶接継手のビード外観を観察したり、電着塗装後の溶接継手に耐食性試験(例えば塩水噴霧試験や複合サイクル試験(CCT)など)をしたりすることで、溶接継手の電着塗装性の良否を判断可能である。しかしながら、電着塗装の実施のためには時間及びコストが必要とされる。従って、溶接継手の電着塗装性を、電着塗装なしに精度良く予想可能な方法が求められる。
【0006】
特許文献1は、アーク溶接を行うために用いられるソリッドワイヤに関する。特許文献1では、溶接後に実施される電着塗装において、スラグが剥離することによって塗装が剥離してしまう危険性を評価するために、ビード上に生じたスラグの面積率が測定されている。具体的には、ビードの表面積に対するスラグの合計面積の割合(スラグの被包率)を測定することによって、そのビードの材料であるソリッドワイヤの電着塗装性が評価されている。
【0007】
特許文献2は、シールドガスを供給しながら裸鋼板と亜鉛系めっき鋼板とを隅肉溶接するガスシールドアーク溶接方法、及び、このガスシールドアーク溶接方法によって得られた溶接構造部品であって、前記裸鋼板側の溶接ビード部のスラグ被覆率が1%以下、前記亜鉛系めっき鋼板側の溶接ビード部のスラグ被覆率が15%以下であることを特徴とする溶接構造部品を開示している。スラグ被覆率とは、溶接ビード全体の面積に対する溶接ビード上に存在(被覆)するスラグ面積の割合のことであり、溶接ビードを溶接線に沿って2分割(亜鉛めっき鋼板側の溶接ビード及び裸鋼板側の溶接ビードに分割)し、それぞれの部分におけるスラグ面積の、ビード面積に対する割合を100倍することによって算出することができるとされる。
【0008】
特許文献1及び特許文献2のいずれも、溶接スラグの付着面積と電着塗装性との関係に着目して、溶接継手の電着塗装性を評価している。しかしながら、電着塗装性は、溶接スラグの付着面積のみならず溶接スラグの電気的性質にも影響される。例えば特許文献3には、消耗電極を有する溶接トーチを用いて二枚の鋼板をアーク溶接する消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法において、溶接ビード及び溶接ビード止端部の表面を導電性の鉄酸化物スラグ(特許文献3では、鉄酸化物スラグという語が記載されているが、正しくは、鉄酸化物あるいは、スケールである。以下、鉄酸化物またはスケールと呼ぶ。)で覆うことで、電着塗装不良の発生を抑制しうる旨が開示されている。特許文献1及び特許文献2に開示の電着塗装性の評価方法は、溶接スラグの電気的性質を考慮した評価を行うことができない。
【0009】
上述の問題を解決するために、溶接スラグを溶接ビードから採取して、その電気抵抗値を測定することが検討された。しかしながら、溶接ビードから採取された溶接スラグの形状は不均一であり、かつ量も少ない(例えば自動車用鋼板が母材である場合、マグ溶接だとビード12cmあたり0.01~0.04g)。一般に、酸化物の電気抵抗値を正確に測定するためには、少なくとも1g以上の酸化物を採取しなければならない。1g以上の溶接スラグを採取するためには長時間の溶接及び採取作業を行う必要があり、評価のために多くの労力を要する。さらに、溶接スラグのような複合酸化物は様々な結晶相を有する酸化物の混合体であるので、結晶相の割合で電気抵抗値が変化すると共に、その導電経路は複雑であるため電気抵抗値の安定的な測定は困難である。従って、溶接ビードから採取された溶接スラグの電気的性質を評価することは容易ではない。
【0010】
上述の特許文献3には、ガスシールドアーク溶接方法の効果を評価するために、溶接ビードと溶接止端部の表面の溶接スラグとされるもの(実際はスケールであると考えられる)と鋼板間の抵抗を10箇所にわたって、汎用テスター(POCKET TESTER MODEL:CDM-03D)をあてて導通を測定した旨が開示されている。また、特許文献3の実施例の評価結果において、溶接スラグの上に鉄酸化物(スケール)があると、電着不良の面積率が小さいことが記載されている。
【0011】
特許文献3に開示の評価方法によれば、溶接スラグ等を溶接ビードに付着させたままで簡便に電着塗装性の評価を実施可能である。しかしながら本発明者らは、特許文献3に開示された評価方法をもってしても、溶接継手の電着塗装性を精度良く評価することが難しい場合があることを知見した。
【0012】
その理由の一つは、特許文献3の評価方法における印加電圧が低すぎる点にある。特許文献3で溶接継手の電着塗装性の評価をするために用いられている汎用テスターの印加電圧は0.17Vであると予想される。特許文献3で評価対象とされる溶接継手に付着する鉄酸化物は、40Ω~1kΩと、導電性が高いので、上述の印加電圧でも評価可能である。しかしながら、導電性が低いSi,Mn系溶接スラグ等を上述の印加電圧で評価することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2008-178906号
【文献】特開2017-164798号
【文献】国際公開第WO2017/126657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記事情に鑑みて、本発明は、様々な種類の溶接継手の電着塗装性を簡便に予想可能な、溶接継手の電着塗装性の評価方法及び電着塗装性評価装置を提供することを課題とする。さらに本発明は、電着塗装性が高い溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決することができる本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る溶接継手の電着塗装性の評価方法は、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに、絶縁抵抗計の第1端子を接触させる工程と、前記溶接継手の母材に、前記絶縁抵抗計の第2端子を接触させる工程と、前記第1端子及び前記第2端子との間に、50~500Vの電圧を印加する工程と、前記第1端子及び前記第2端子との間の電気抵抗値を測定する工程と、を備える。
(2)上記(1)に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法では、前記電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間の長さを30秒以上とし、前記期間における電気抵抗の測定値の平均を、前記第1端子と前記第2端子との間の前記電気抵抗値とみなしてもよい。
(3)上記(2)に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法では、前記期間において、前記第1端子を前記溶接スラグに一定荷重で押し付けてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法では、前記第1端子の軸方向を、前記溶接ビードの表面に対して垂直にしてもよい。
(5)本発明の別の態様に係る溶接継手の電着塗装性評価装置は、第1端子及び第2端子を有し、50~500Vの電圧を印加可能である絶縁抵抗計と、ステージと、前記第1端子と前記ステージとの間の位置関係を制御可能な位置制御手段と、を備える。
(6)上記(5)に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置は、前記第1端子に印加される荷重を一定にする荷重一定化手段をさらに備えてもよい。
(7)上記(6)に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置では、前記荷重一定化手段が、前記第1端子又は前記ステージを支持する弾性体と、前記弾性体の変位を測定する変位測定手段と、を含んでもよい。
(8)上記(5)~(7)のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置では、前記位置制御手段が、垂直方向に沿って、前記第1端子に対する前記ステージの位置を制御可能となるように構成されていてもよい。
(9)上記(5)~(8)のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置では、前記位置制御手段が、水平縦方向及び水平横方向に沿って、前記第1端子に対する前記ステージの位置を制御可能となるように構成されていてもよい。
(10)上記(5)~(9)のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性評価装置では、前記位置制御手段が、前記第1端子と前記ステージとの間の相対角度を制御可能となるように構成されていてもよい。
(11)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、母材を溶接して溶接継手を得る工程と、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の溶接継手の電着塗装性の評価方法を用いて、前記溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグの電気抵抗を測定する工程と、電気抵抗の測定値が400MΩ以上である溶接スラグを前記溶接ビードの前記表面から除去する工程と、前記溶接継手に電着塗装する工程とを備える。
(12)上記(11)に記載の溶接継手の製造方法では、前記電気抵抗の前記測定値が300MΩ以上である溶接スラグを前記溶接ビードの前記表面から除去してもよい。
(13)上記(11)又は(12)に記載の溶接継手の製造方法では、上記(5)~(10)のいずれか一項に記載の電着塗装性評価装置を用いて、前記溶接継手の前記電着塗装性の評価方法を実施してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、様々な種類の溶接継手の電着塗装性を簡便に予想可能である。本発明は例えば、電着塗装性を向上させるための種々の手段を検討する際に、その効果測定を効率化することができ、ひいては溶接継手の電着塗装性の向上に寄与する。さらに本発明によれば、電着塗装性を阻害する溶接スラグを除去することにより、電着塗装性が高い溶接継手を高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電気抵抗の測定値のばらつきの例を示す模式図である。
図2】本発明の一態様に係る溶接継手の電着塗装性評価装置の一例を示す模式図である。
図3】端子間電気抵抗値と電着塗装不良面積率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
溶接継手の電着塗装性を簡便に評価するための手段として、溶接ビードに付着した溶接スラグの電気抵抗を評価することが考えられた。しかしながら、従来技術による電着塗装性の評価方法は、例えば電気抵抗が比較的低い鉄酸化物が付着した溶接継手にしか適用することができなかった。
【0019】
本発明者らは、検討の結果、溶接スラグに50V以上の高電圧を付加することにより、高い電気抵抗を有する溶接スラグ(例えばSi,Mn系溶接スラグ等)が付着した溶接継手の電着塗装性をも評価可能であることを知見した。
【0020】
しかしながら、電圧が高すぎる場合、絶縁破壊によって溶接スラグの電気抵抗が評価不可能となることも見いだされた。そのため、溶接スラグを評価するための端子間に印加する電圧を約500V以下にすべきことも見いだされた。
【0021】
また、端子間の電気抵抗値の測定の際に、端子をスラグに一定荷重で押し付けることが好ましいことも見いだされた。この場合、電気抵抗の測定値のばらつきを抑制し、電着塗装性の評価精度を一層高めることができる。
【0022】
上述の知見に基づいて完成した、本発明の一態様に係る電着塗装性の評価方法は、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに、絶縁抵抗計の第1端子を接触させる工程S1と、溶接継手の母材に、絶縁抵抗計の第2端子を接触させる工程S2と、第1端子及び第2端子との間に、50~500Vの電圧を印加する工程S3と、第1端子及び第2端子との間の電気抵抗値を求める工程S4と、を含む。以下、本実施形態に係る溶接継手の電着塗装性の評価方法について詳細に説明する。
【0023】
本実施形態に係る溶接継手の電着塗装性の評価方法では、まず、(S1)溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに、絶縁抵抗計の第1端子を接触させ、(S2)溶接継手の母材に、絶縁抵抗計の第2端子を接触させる。S1及びS2を実施する順序は特に限定されない。
【0024】
絶縁抵抗計は、二つの端子を備え、これら端子の間の電気抵抗値を測定する器具である。便宜上、絶縁抵抗計が有する二つの端子のうち、溶接スラグに接触させるものを第1端子と称し、母材に接触させるものを第2端子と称するが、絶縁抵抗計が有する二つの端子(正極端子および負極端子)のうちいずれを第1端子としてもよい。電着塗装性を評価するためには、溶接スラグの電気抵抗の評価が必要とされるが、この電気抵抗が極めて大きい場合がある。例えば母材が自動車用鋼板である場合、溶接スラグは高い電気抵抗を有するもの(例えばSi,Mn系溶接スラグ等)となる。従って、絶縁抵抗計は、大きい電気抵抗値を測定するために、第1端子と第2端子との間に50~500Vもの高電圧を印加可能なものとされる必要がある。印加電圧の詳細については後述する。
【0025】
上述の要件が満たされる限り、絶縁抵抗計の構成は特に限定されない。後述するように、電着塗装性を正確に評価するためには、電気抵抗値の測定時間を30秒以上とし、測定時間中の測定値の平均値を算出することが好ましい。従って、絶縁抵抗計は、測定値の経時変化を記録可能であることが好ましい。
【0026】
第1端子を溶接スラグに接触させる際の状態については特に限定されない。しかしながら、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに絶縁抵抗計の第1端子を接触させる際には、第1端子と溶接スラグとの接触面積を一定にすることが、後述する測定値のばらつきを一層抑制することができるので好ましい。例えば、第1端子の軸方向を、溶接ビードの表面に対して実質的に垂直にすることで、第1端子と溶接スラグとの接触面積を一定にすることが容易となる。第1端子の軸方向を、溶接ビードの表面に対して垂直にするための手段は特に限定されない。例えば評価者が第1端子を手で握持し、目視で第1端子の接触角を調整してもよい。一方、評価精度を一層向上させるために、何らかの固定手段及び位置決め手段を用いて第1端子の接触角を制御してもよい。第1端子の固定手段及び位置決め手段の具体例は後述される。
【0027】
第1端子及び第2端子の構成も特に限定されず、通常の形状及び材質とすればよい。一方、評価精度及び評価効率を向上させるための種々の構成を、第1端子及び第2端子に適用することができる。例えば、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに絶縁抵抗計の第1端子を接触させる際に、接触面積を一定にするような形状を第1端子に適用することが好ましい。一方、溶接継手の母材に絶縁抵抗計の第2端子を接触させる際には、両者の接触を確実かつ容易にするための手段を用いることが、評価精度及び評価効率の観点から望ましい。第1端子及び第2端子の具体例は後述される。
【0028】
次に、(S3)第1端子と第2端子との間に、50~500Vの電圧を印加する。印加電圧が50V未満である場合、高い電気抵抗を有する溶接スラグ(例えばSi,Mn系溶接スラグ等)が付着した溶接継手の電着塗装性を評価することができない。一方、印加電圧が500V超である場合、絶縁破壊が生じるおそれが増大する。絶縁破壊が生じた場合、溶接スラグの電気抵抗の測定値が低く表示され、電着塗装性が良好であるという誤った評価結果が導かれ、溶接継手の電着塗装性を正確に評価することができない。好ましくは、印加電圧は250V以下である。
【0029】
さらに、(S4)第1端子と第2端子との間の電気抵抗値を求める。端子間の電気抵抗値が小さいほど、溶接継手の電着塗装性が良好であると判断する。端子間の電気抵抗値は、溶接スラグの電気抵抗値と一致しない場合があるが、本発明者らの種々の検討の結果、端子間の電気抵抗値と電着塗装性との間に良好な相関関係が確認された。本実施形態に係る電着塗装性の評価方法では、評価精度、及び評価の簡便性の両方を考慮して、端子間の電気抵抗値に基づいて電着塗装性を評価することとした。
【0030】
なお、溶接ビードに付着した溶接スラグに電圧を印加した場合、端子間の電気抵抗の測定値が大きくばらつく場合がある。例えば溶接スラグが小さい場合、及び溶接スラグの電気抵抗値が高いので高電圧を端子間に印加した場合等に、測定値のばらつきが生じる傾向にある。
【0031】
図1は、電気抵抗の測定値のばらつきの例を示す模式図である。図1のグラフの横軸は電圧印加開始からの経過時間であり、縦軸は絶縁抵抗計が出力した端子間の電気抵抗の測定値である。図1に一点鎖線で示されたグラフのように、端子間の電気抵抗の測定値が経時的に大きくばらつく場合がある。この場合は、測定開始から測定終了までの期間における電気抵抗の測定値の平均値を、端子間の電気抵抗値であるとみなせばよい。測定開始から測定終了までの期間における電気抵抗の測定値の平均は、以下の式によって求めることができる。
【数1】
Rave:測定開始から測定終了までの期間における電気抵抗の測定値の平均
R(t):測定開始から測定終了までの期間における電気抵抗の測定値
a :測定開始時点
b :測定終了時点
なお、上記数式を用いて電気抵抗の測定値の平均Raveを求める場合、測定時間(=a-b)を30秒以上とすることが好ましい。測定を、電圧の印加と同時に開始してもよいし、電圧の印加から所定時間(例えば30秒以上)経過してから開始してもよい。
【0032】
発明者らの検討によれば、測定値のばらつきを生じさせる要因のひとつは、第1端子の揺動である。第1端子を溶接スラグに接触させるための手段は特に限定されず、評価者の手技によってこれを実施しても良いのであるが、第1端子および溶接継手は、少なくとも端子間の電気抵抗値の測定の間は、任意の治具を用いて固定されることが好ましい。第1端子および溶接継手の固定手段の具体例は後述される。
【0033】
溶接スラグがきわめて小さい場合は、治具を用いて第1端子および溶接継手を固定したとしても、電気抵抗の測定値のばらつきを十分に抑制できないおそれがある。このような場合、少なくとも電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間において、第1端子を溶接スラグに一定荷重で押し付けることが好ましい。これにより、例えば図1に実線で示されたグラフのように、電気抵抗の測定値のばらつきを一層抑制することができる。
【0034】
ここで、「一定荷重で押し付ける」とは、第1端子に印加される荷重を厳密に一定値にすることを意味しない。荷重の一定化の精度は、求められる評価精度、及び端子間の電気抵抗の測定値のばらつきに応じて、適宜選択することができる。溶接スラグが大きく、測定値が安定しているのであれば、第1端子を評価者が手で握持し、荷重を手技によって一定化させれば、第1端子を溶接スラグに一定荷重で押し付けたということができる。一方、溶接スラグが小さく、測定値が安定しない場合は、何らかの荷重一定化手段を用いて荷重を制御することが好ましい。この場合、電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間における、第1端子を溶接スラグに押し付ける荷重のばらつきを、例えば2N以下の範囲内にすることが好ましい。荷重一定化手段の具体例は後述される。
【0035】
本実施形態に係る溶接継手の電着塗装性の評価方法を実施するための装置は特に限定されず、溶接スラグの性状、量、及び必要な評価精度に応じて適宜選択することができる。端子間の電気抵抗の測定値が安定している場合、電着塗装性の評価を評価者の手技によって実施してもよい。即ち、第1端子及び第2端子を評価者の手で握持してもよい。しかしながら、評価作業の安全性、評価精度、及び評価の効率性等を考慮すると、何らかの評価装置を用いることが好ましい。
【0036】
以下に、本発明の別の実施形態に係る、溶接継手の電着塗装性評価装置について説明する。図2に示されるように、本実施形態に係る電着塗装性評価装置1は、第1端子111及び第2端子112を有し、50~500Vの電圧を印加可能である絶縁抵抗計11と、固定手段121を有するステージ12と、第1端子111とステージ12との間の位置関係を制御可能な位置制御手段13とを備える。
【0037】
<絶縁抵抗計11>
上述の通り、絶縁抵抗計11は50~500Vの電圧を印加可能なものとされる必要がある。この要件が満たされる限り、絶縁抵抗計11の構成は特に限定されない。一方、絶縁抵抗計11を、端子間の電気抵抗の測定値の経時変化を記録可能なものとすることが好ましい。これによれば、電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間の長さを30秒以上とし、この期間における電気抵抗の測定値の平均を、第1端子と第2端子との間の電気抵抗値とみなす評価方法を実施することができ、評価精度を一層高めることができる。
【0038】
絶縁抵抗計11は、第1端子111及び第2端子112を有する。第1端子111は、溶接継手2の溶接ビード22に付着した溶接スラグ23に接触させるものであり、第2端子112は、溶接継手2の母材21に接触させるものである。図2に例示されるように、第1端子111及び第2端子112は同一形状であってもよい。一方、第1端子111及び第2端子112の構成を、それぞれの用途に応じて好適に変更してもよい。
【0039】
<第1端子111>
溶接継手2の溶接ビード22の表面に付着した溶接スラグ23に絶縁抵抗計11の第1端子111を接触させる際に、溶接スラグ23と第1端子111との接触面積を一定にすることが好ましい。そのためには、第1端子111の先端が鋭角であることが好ましい。例えば、第1端子111の先端の曲率半径を0.3~0.7mmとしてもよい。ただし、溶接継手2の溶接ビード22の形状、及び溶接スラグ23の性状に応じて、測定値のばらつきを抑制するための第1端子111の最適形状は相違すると考えられる。なお、第1端子111の揺動は測定値のばらつきを招くので、第1端子111は電着塗装性評価装置1に直接的に固定されるか、又は後述する荷重一定化手段14を介して間接的に固定されることが好ましい。第1端子111を固定する手段は特に限定されず、例えばクランプ等を用いればよい。
【0040】
<第2端子112>
一方、母材21に接触する第2端子112においては、その先端を鋭角にする必要はない。むしろ、母材21と第2端子112との導通を安定化させることが好ましい。例えば、後述するステージ12の固定手段121と第2端子112とを電気的に接続してもよい。この構成によれば、溶接継手2を電着塗装性評価装置1にセットすると同時に、溶接継手2の母材21に絶縁抵抗計11の第2端子112を接触させられるので、測定効率が一層向上する。
【0041】
<ステージ12>
ステージ12は、試料である溶接継手2を配置可能な構成を有する。ステージ12の形状は、評価対象となる溶接継手2の形状及び大きさに応じて適宜変更することができる。図2に例示されるように、溶接継手2の母材21が薄板であるならば、ステージ12は平坦な頂面を有することが好ましい。一方、母材21が丸棒であるならば、ステージ12に丸棒を固定するための溝部を設けてもよい。
【0042】
ステージ12は、図2に例示されるように、ステージ12に配置された溶接継手2を固定可能な固定手段121を有してもよい。固定手段121の構成は特に限定されず、評価対象となる溶接継手2の形状及び大きさに応じて適宜変更することができる。一方、溶接継手2が小さい場合、両面テープ等を用いて溶接継手2をステージ12に接着してもよい。従って、固定手段121を電着塗装性評価装置1から省略してもよい。また、固定手段121の材質を導体とし、固定手段121と第2端子112とを電気的に接続してもよい。固定手段121と第2端子112とが一体化されていてもよい。
【0043】
<位置制御手段13>
位置制御手段13は、第1端子111とステージ12との間の位置関係を制御可能に構成される。ここで、位置関係とは、相対位置及び相対角度を含む概念である。位置制御手段13は、ステージ12に配置された溶接継手2の溶接スラグ23に、第1端子111を接触させるために用いられる。位置制御手段13を用いることにより、第1端子111の揺動を抑制して、評価精度を向上させることができる。
【0044】
図2においては、位置制御手段13はステージ12に接続されており、ステージ12を動かすことによって第1端子111とステージ12との間の位置関係を制御する。一方、位置制御手段13を第1端子111に接続し、第1端子111を動かすことによって第1端子111とステージ12との間の位置関係を制御してもよい。第1端子111及びステージ12の両方に位置制御手段13を接続することも妨げられない。
【0045】
位置制御手段13の構成は特に限定されないが、好ましい具体例を以下に示す。位置制御手段13は、水平横方向(X軸方向)及び/又は水平縦方向(Y軸方向)に沿って、第1端子111に対するステージ12の位置を制御可能に構成されていてもよい。これにより、溶接ビード22の任意の位置に第1端子111を移動させることができる。また、位置制御手段13は、垂直方向(Z軸方向)に沿って、第1端子111に対するステージ12の位置を制御可能に構成されていてもよい。これにより、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグに絶縁抵抗計の第1端子を接触させる手順を、容易に実行できるようになる。加えて、位置制御手段13は、第1端子111とステージ12との間の相対角度(θ)を制御可能に構成されていてもよい。これにより、第1端子の軸方向を溶接ビードの表面に対して垂直にする手順を、容易に実行できるようになる。一方、ステージ12における溶接継手2の配置箇所及び配置角度を調整することにより、上述したX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の移動、並びにθ変更が不要となる場合もある。従って、上述の構成のうち1つ以上を位置制御手段13から省略することもできる。
【0046】
電着塗装性評価装置1は、さらに、第1端子に印加される荷重を一定にする荷重一定化手段14を有してもよい。これにより、電気抵抗値の測定の開始から終了までの期間において、第1端子を溶接スラグに一定荷重で押し付けることができる。
【0047】
荷重一定化手段14の構成は特に限定されないが、好ましい具体例を以下に示す。荷重一定化手段14は、第1端子111又はステージ12を支持する弾性体141と、弾性体141の変位を測定する変位測定手段142とを含んでもよい。弾性体とは、例えばエラストマー、及びばね等である。変位測定手段142とは、例えば弾性体141の変形方向に平行な状態で弾性体141に隣接して配されたスケールである。
【0048】
このような荷重一定化手段14を有する電着塗装性評価装置1を用いて、第1端子111を溶接スラグ23に押し付けると、押し付け荷重の大きさに応じて弾性体141が変形する。弾性体141の弾性定数と、弾性体141の変位の大きさとの乗数が、第1端子111を溶接スラグ23に押し付ける荷重である。従って、弾性体141の変位を一定にすることにより、第1端子111を溶接スラグ23に押し付ける荷重を容易に一定化することができる。また、上述の構成によれば、第1端子111を溶接スラグ23に押し付ける荷重を、溶接継手2の大きさ、並びに溶接スラグ23の量及び性状等に応じて容易に変更することができるので、複数回の評価を実施する際に評価条件を一致させることも容易となる。変位測定手段142の出力に応じて位置制御手段13を作動させるコントローラを、電着塗装性評価装置1がさらに備えてもよい。
【0049】
弾性体141の弾性定数は特に限定されず、押し付け荷重に応じて適宜選択することができる。押し付け荷重の値も特に限定されず、評価対象となる溶接継手2の溶接スラグ23の量及び性状に応じて適宜選択することができる。例えば、溶接継手2の母材21が自動車用鋼板であり、溶接ビード22がガスシールドアーク溶接によって製造されたものである場合、弾性体141の弾性定数を0.1~0.3N/mmとし、弾性体141の変位量を1~10mmとすることが好ましいと考えられる。従って、この場合、第1端子111を押し付ける荷重は、0.1~3Nの範囲内で一定化することが好ましいと考えられる。ここで「一定化」の定義は、上述したものである。
【0050】
なお、図2では弾性体141が第1端子111を支持するものとされているが、弾性体141はステージ12を支持するものであってもよい。弾性体141がステージ12を支持する場合であっても、第1端子111を溶接スラグ23に押し付けた際にステージ12が移動し、弾性体141が変形し、これにより上述の効果が得られるからである。また、トルクメーターによるモーター制御、ロードセルによるモーター制御、梃を用いた制御、及びエアーポンプを用いた制御を行って、押し付け荷重を一定化してもよい。即ち、これらの機構のいずれかを荷重一定化手段14としてもよい。
【0051】
電着塗装性評価装置1が、評価作業を容易にするための別の手段をさらに有してもよい。例えば、溶接ビード22を照らすライト、溶接ビード22を拡大表示するためのCCDカメラ及びモニター、及び評価環境を均一化するための恒温恒湿槽などを、電着塗装性評価装置1がさらに有してもよい。
【0052】
<溶接継手の製造方法>
次に、本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法について以下に述べる。本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、母材を溶接して溶接継手を得る工程と、上述された本実施形態に係る溶接継手の電着塗装性の評価方法を用いて、溶接継手の溶接ビードの表面に付着した溶接スラグの電気抵抗を測定する工程と、電気抵抗の測定値が400MΩ以上である溶接スラグを溶接ビードの表面から除去する工程と、溶接継手に電着塗装する工程とを含む。
【0053】
母材の種類、及び溶接の方法は特に限定されない。また、溶接スラグの電気抵抗を測定するための装置も特に限定されない。例えば、上述された本実施形態に係る電着塗装性評価装置を用いて、溶接スラグの電気抵抗を測定し、溶接継手の電着塗装性を評価してもよい。
【0054】
溶接スラグの電気抵抗を測定した後に、電気抵抗の測定値が400MΩ以上である溶接スラグを、溶接ビードの表面から除去する。図3に示される実験結果からわかるように、スラグの電気抵抗の測定値が400MΩ以上になると、塗装不良面積率が、概ね、5%以上となる。よって、このようなスラグを除去してから、電着塗装を行うことが好ましい。また、除去対象とする溶接スラグを、電気抵抗の測定値が300MΩ以上、320MΩ以上、又は350MΩ以上である溶接スラグとしてもよい。除去対象か否かの判断の閾値を下げることにより、電着塗装性の一層の向上が期待できる。除去の方法は問わないが、グラインダによる除去が例示される。電着塗装の手段及び条件は特に限定されない。本実施形態に係る溶接継手の製造方法によれば、電気抵抗の測定値が400MΩ以上(好ましくは300MΩ以上)である溶接スラグを含まず、従って塗装不良面積率が低く(例えば5%以下)、耐食性が高い溶接継手が得られる。さらに、本実施形態に係る溶接継手の製造方法によれば、電着塗装性を阻害する溶接スラグのみを除去することができるので、溶接継手の生産性を向上させることもできる。
【実施例
【0055】
板厚2.6mmの種々の成分の薄鋼板から選択された同種の鋼板2枚を重ねて、種々の成分のソリッドワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することにより、長さ120mmの溶接ビードを作製し、様々な溶接スラグ性状を有する8種類の重ね隅肉溶接継手の試料を作製した。これら溶接継手を、以下の手順で評価した。シールドガスは、20体積%CO、80体積%Arの混合ガスとした。
【0056】
(評価A:本発明の方法及び装置を用いた電着塗装性評価)
まず、絶縁抵抗計と、ステージと、位置制御手段と、荷重一定化手段を有する評価装置を用いて電着塗装性の評価を行った。ステージは、溶接継手の母材を把持するクランプを有するものとした。位置制御手段は、ステージを水平縦方向、水平横方向、及び垂直方向に移動可能であり、且つステージの角度を変更可能なものとした。荷重一定化手段は、第1端子を把持するクランプに取り付けられたばねと、ばねの変位を測定するスケールを有するものとした。ばねは、第1端子の軸方向に伸縮するように配置した。ばね定数が決まっているばねを一定量押し込むことによって荷重を加えているので、第1端子の押し込み力は一定化された。
【0057】
電着塗装性の評価の際の諸条件は、下記の通りとした。
【0058】
ばねのばね定数:0.1N/mm
第1端子の押し込み量:2mm
第1端子の押し込み角度:第1端子の軸方向を、溶接ビードの表面に対して垂直にした
絶縁抵抗計の種類:IR4054(HIOKI製)
端子間電気抵抗値の測定方法:測定を1分間行い、この間の電気抵抗の測定値の平均を端子間電気抵抗値とみなした
端子間電気抵抗値の測定回数:1試料につきランダムに10箇所のスラグを選択し、1箇所のスラグを1回、1分間測定し、5回測定して平均した
端子間電気抵抗値の測定電圧:125V
【0059】
(評価B:電着塗装及び塗装後外観観察による電着塗装性評価)
次に、上記評価Aを行った溶接継手に電着塗装を行い、電着塗装後の外観を観察した。そして、塗装不良箇所の面積を溶接ビード面積で割ることにより、1試料の溶接継手の電着塗装不良面積率を求めた。不良面積率の評価は、特許文献3に記載の方法により行った。
【0060】
評価Aによって得られた各溶接継手に関する端子間電気抵抗値(10箇所での測定値の平均値)、及び評価Bによって得られた各溶接継手の電着塗装不良面積率の関係を、図3に示す。図3によれば、端子間電気抵抗値と塗装不良面積率との間に良好な相関関係があることがわかる。従って、本発明によれば、様々な種類の溶接継手の電着塗装性を簡便に予想可能である。
さらに、図3における電気抵抗値が400MΩ以上の5つの(電着塗装前の)試料において、溶接ビード上のスラグをグラインダで除去した。その後、これらに電着塗装(評価B)を行ったところ、これら試料の塗装不良面積率は、2%以下となった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る、溶接継手の電着塗装性の評価方法及び溶接継手の電着塗装性評価装置によれば、様々な種類の溶接継手の電着塗装性を簡便に予想可能である。本発明は例えば、電着塗装性を向上させるための種々の手段を検討する際に、その効果測定を効率化することができ、ひいては溶接継手の電着塗装性の向上に寄与する。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0062】
1 電着塗装性評価装置
11 絶縁抵抗計
111 第1端子
112 第2端子
12 ステージ
121 固定手段
13 位置制御手段
14 荷重一定化手段
141 弾性体
142 変位測定手段
2 溶接継手
21 母材
22 溶接ビード
23 溶接スラグ
図1
図2
図3