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特許7273322薄片状チタン酸及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】薄片状チタン酸及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20230508BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230508BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20230508BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230508BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C01G23/00 Z
C09C1/36
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/61
C09D11/037
C08L101/00
C08K3/24
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020500499
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019004978
(87)【国際公開番号】W WO2019159923
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018025821
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植薄 祐介
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-007173(JP,A)
【文献】国際公開第2003/016218(WO,A1)
【文献】特開2013-184883(JP,A)
【文献】米国特許第09249166(US,B1)
【文献】特開2008-247712(JP,A)
【文献】SUKPIROM, N. et al.,Materials Science and Engineering: A,2001年11月09日,Vol.333,pp.218-222,<DOI:10.1016/S0921-5093(01)01846-9>
【文献】粒子径測定における個数分布と質量(体積)分布との違いとは?,MICROTRAC MRBウェブサイト, [online],[令和4年9月26日検索], インターネット<URL:https://microtrac.com/jp/applications/knowledge-base/difference-mass-distribution/>
【文献】GENG, F. et al.,Journal of the American Chemical Society,2014年03月17日,Vol.136,pp.5491-5500,<DOI:10.1021/ja501587y>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00 - 23/08
C08K 3/24
C08L 101/00
C09C 1/36
C09C 3/08
C09D 1/00 - 10/00
C09D 11/037
C09D 17/00
C09D 101/00 - 201/10
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性有機化合物を含み、
その塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、
塗膜としたときの変角測色値ΔL が150以上である
薄片状チタン酸であって、
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50が1.5以下であり、
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmである、
薄片状チタン酸
【請求項2】
塩基性有機化合物を含み、
その塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、
塗膜としたときの変角測色値ΔL が60以上である
薄片状チタン酸であって、
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50が1.5以下であり、
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmである、
薄片状チタン酸
【請求項3】
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、累積10%粒子径をD10、メジアン径をD50、累積90%粒子径をD90と表した時に、(D90-D10)/D50が1.5以下である薄片状チタン酸であって、
レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmであり、
平均厚みが0.05~0.4μmである、
薄片状チタン酸
【請求項4】
さらに、塩基性有機化合物を含み、その塩基性官能基含有量が2.4%以下である、請求項3に記載の薄片状チタン酸。
【請求項5】
塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸を分級して体積粒度分布における(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程
を含む薄片状チタン酸の製造方法であって、
前記薄片状チタン酸は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmであり、平均厚みが0.05~0.4μmである、
製造方法
【請求項6】
体積粒度分布において(D90-D10)/D50が1.5以下である層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で剥離する工程
を含む薄片状チタン酸の製造方法であって、
前記薄片状チタン酸は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmであり、平均厚みが0.05~0.4μmである、
製造方法
【請求項7】
体積粒度分布において(D90-D10)/D50が1.5以下であるチタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程と、
前記層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で剥離する工程と、
を含む薄片状チタン酸の製造方法であって、
前記薄片状チタン酸は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、D50が10~40μmであり、平均厚みが0.05~0.4μmである、
製造方法
【請求項8】
層間及び/又は表面に塩基性有機化合物を含む薄片状チタン酸をpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含む、
請求項5~7のいずれかに記載の薄片状チタン酸の製造方法
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸を含む光輝性顔料
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸と分散媒とを少なくとも含む分散液
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸と樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物
【請求項12】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸と樹脂とを少なくとも含む塗料組成物
【請求項13】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸とプラスチック樹脂とを少なくとも含むプラスチック樹脂組成物
【請求項14】
請求項1~4のいずれかに記載の薄片状チタン酸と樹脂と溶媒とを少なくとも含むインキ組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片状チタン酸及びその製造方法並びにその用途に関し、詳しくは該薄片状チタン酸を含む光輝性顔料、分散液及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面に意匠性を付与するものとして、光輝性顔料を含んだ光輝性塗膜が知られている。従来、天然マイカ、合成マイカ、鱗片状アルミナ等の鱗片状基材の表面に、酸化チタン層を設けた光輝性顔料が多くの分野で使用されている。これらの従来の光輝性顔料は光輝感(光輝感とはメタリック調の輝きをいう)が強く、かつ粒子感(粒子感とは粒子それぞれが単独で輝きキラキラとしているように見える意匠をいう)を有するものであり、塗膜にパール光沢を付与する顔料として用いられている。
【0003】
近年では、より高級感を有する意匠として、パール光沢よりも粒子感を抑えたシルクのような深みのある落ち着いた緻密な輝きを与える緻密感(緻密感とは絹のような継ぎ目のない滑らかな意匠をいう)、いわゆるシルキー感を示す意匠が提案されている。このようなシルキー感を付与することができる光輝性顔料として、薄片状チタン酸が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、層状チタン酸塩を酸で処理し、次いで塩基性の有機化合物を作用させて層間を膨潤又は剥離した薄片状チタン酸であり、かつその薄片状チタン酸の平均長径が5~30μmであり、平均厚みが0.5~300nmである光輝性顔料が開示されている。
【0005】
また、本出願人も特許文献2において、薄片状チタン酸を光輝性顔料として用いた、柔らかな白銀色の金属調光沢をもち、滑らかで質感の高い色調の塗膜を提案している。具体的には、比較的高い温度で原料混合物を焼成してチタン酸金属塩を得、該チタン酸金属塩を酸で処理し、次いで塩基性の有機化合物を作用させて層間を剥離することで、薄片面の平均長径が35μmよりも大きく、塩基性の有機化合物を少なくとも表面に有する薄片状チタン酸を製造することが記載されている。
【0006】
特許文献3においては、ハードコート膜の形成に有用な薄片状チタン酸懸濁液が開示されている。本文献では、層状チタン酸金属塩を酸等で処理し、次いで層間膨潤作用を有する塩基性化合物を作用させ、層間を剥離した後、液のpHを6~9の範囲に調整することが記載されている。
【0007】
特許文献4においては、透明性に優れたチタン酸ナノシートの分散液が開示されている。本文献では、アミン類を含有するチタン酸ナノシート分散液をカチオン交換樹脂と接触させて製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-257179号公報
【文献】特開2013-184883号公報
【文献】特開2006-206841号公報
【文献】特開2008-247712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし近年、これまでにない独特の意匠感を持つ塗膜が探求されており、それを実現可能な光輝性顔料が求められている。具体的には、光輝感が強く、そして陰影感のあるシルキー感(すなわち、粒子感が低く、緻密感が高いもの)を有する塗膜が付与でき、塗膜にしても高い耐候性を示すことができる光輝性顔料であって、工業生産等の点で実用に供することが可能な顔料が求められている。
【0010】
本出願人は、前記の本出願人の技術を改良して、塩基性有機化合物を作用させて層状チタン酸の剥離を促進し、厚みを一定範囲にした薄片状チタン酸を製造すると、光輝感が強く、かつ陰影感のあるシルキー感を塗膜に付与できることを確認した。一方で、塗膜の耐候性が著しく低下するという問題が生じることも確認した。
【0011】
特許文献1では、層間に残存する塩基性有機化合物をセシウムイオンで置換して低減させることにより、塗膜の変色を抑制できることが記載されている。しかしながら、セシウム化合物は高価であり、工業生産に適しているとは言い難い。また、平均長径や平均厚みは記載されているものの、粒度分布に関する記載はなく、粒度分布を調整する方法に関する開示もない。粒度分布が塗膜の耐候性や意匠感に与える影響についても何の示唆もない。
【0012】
特許文献2では、塩基性有機化合物の使用量を少量として層状チタン酸の剥離を少なくし、薄片状チタン酸を比較的厚めにすることで、塗膜に柔らかな白銀色の金属調光沢を付与できる薄片状チタン酸を得ている。この技術は、本願が目的としている光輝性顔料とは異なる色調を志向しており、陰影感や光輝感が低い。また、残存する塩基性有機化合物量は一定以上であり、耐候性は十分でなく、屋外で長期間用いると塗膜の黄変が認められた。
【0013】
特許文献3では、酸で中和して薄片状チタン酸懸濁液のpHを6~9以内にすることで、チタン酸膜の耐光性を向上でき、変色を抑制できるとされている。しかしながら、この技術は透明性等に優れたハードコート膜に関するものであり、光輝性を付与させないことが求められる。また、当該方法は、光輝性を示すような比較的厚めの薄片状チタン酸を含む光輝性塗膜では、十分な耐候性向上効果が認められなかった。
【0014】
特許文献4では、アミン類を含有するチタン酸ナノシート分散液をカチオン交換樹脂と接触させることで、樹脂等の変色の原因となるアミン類を低減できることが記載されている。しかしながら、この技術も透明性等に優れたチタン酸ナノシートによる機能性膜に関するものであり、光輝性塗膜とは根本的に要求される機能が異なる。また、当該方法は、光輝性を示すような比較的厚めの薄片状チタン酸を含む光輝性塗膜では、十分な耐候性向上効果が認められなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記のような従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った。そして、塩基性官能基の量を特定の範囲とし、塗膜に配合したときに変角測色値が特定範囲を示す薄片状チタン酸とすること、及び/又は粒度分布を特定の範囲とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の発明を含む。
(1) 塩基性有機化合物を含み、
その塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、
塗膜としたときの変角測色値ΔL 1が150以上である
薄片状チタン酸である。
(2) 塩基性有機化合物を含み、
その塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、
塗膜としたときの変角測色値ΔL が60以上である
薄片状チタン酸である。
(3) レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、累積10%粒子径をD10、メジアン径をD50、累積90%粒子径をD90と表した時に、(D90-D10)/D50が1.5以下である薄片状チタン酸である。
(4) 塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸を分級して、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布における(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法である。
(5) 体積粒度分布において(D90-D10)/D50が1.5以下である層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で剥離する工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法である。
(6) 体積粒度分布において(D90-D10)/D50が1.5以下であるチタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程と、
前記層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で剥離する工程と、
を含む薄片状チタン酸の製造方法である。
(7) 層間及び/又は表面に塩基性有機化合物を含む薄片状チタン酸をpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含む、(4)~(6)のいずれかの薄片状チタン酸の製造方法である。
(8) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸を含む光輝性顔料である。
(9) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸と分散媒とを少なくとも含む分散液である。
(10) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸と樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物である。
(11) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸と樹脂とを少なくとも含む塗料組成物である。
(12) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸とプラスチック樹脂とを少なくとも含むプラスチック樹脂組成物である。
(13) (1)~(3)のいずれかの薄片状チタン酸と樹脂と溶媒とを少なくとも含むインキ組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光輝感が強く、かつ陰影感があるシルキー感を塗膜に付与できると同時に、高い耐候性を示す薄片状チタン酸及び安価で工業生産に適したその製造方法を提供できる。また、更に緻密感を高め粒子感を低減した、より高いシルキー感を塗膜に付与できる。従って、本発明の薄片状チタン酸は光輝性顔料として好適であり、塗料組成物、インキ組成物、プラスチック樹脂組成物等に配合して用いることができる。これにより、従来にない独特の意匠感を持つ物品を実用に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、塩基性有機化合物を含み、塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、塗膜としたときの変角測色値ΔL 1が150以上である薄片状チタン酸である。あるいは、塩基性官能基含有量が2.4%以下であり、塗膜としたときの変角測色値ΔL が60以上である薄片状チタン酸である。
このように、本発明の薄片状チタン酸の「チタン酸」は、組成物として、TiとOとH原子から構成される一般的に「チタン酸」と呼ばれているものに加えて塩基性有機化合物を更に含むチタン酸(いわゆる、「チタン酸組成物」)のことである。そのため、本発明の薄片状チタン酸は、TiとOとH原子から構成される一般的な「チタン酸」と組成的に区別して「薄片状チタン酸組成物」と称することもできる。
また、本発明の薄片状チタン酸(薄片状チタン酸組成物)の形態は、本発明の目的を達成することができればよく、その粒子を、例えば、粉末とした形態、溶液とした形態(具体的には、本発明の薄片状チタン酸を粒子として分散媒中に分散させた分散液(いわゆる「分散体」と呼ばれる形態)、ケーキ状とした形態などが挙げられる。
【0019】
チタン酸は種々の結晶構造を持つものが知られているが、層状の結晶構造を有するチタン酸を用いるのが好適である。
【0020】
層状の結晶構造を有するチタン酸にも、種々の結晶構造が存在する。その結晶形は結晶学的にA型(アナタース型)やR型(ルチル型)の酸化チタンとは異なるものである。層状の結晶構造を有するチタン酸としては例えば、TiO八面体が稜共有してa軸及びc軸方向に2次元的に広がったシートを作り、その間にカチオンを含んで積層した構造の、レピドクロサイト構造を有する層状の結晶構造を有するチタン酸を用いることができる。結晶構造は粉末X線回折により確認することができる。
【0021】
本発明において、「薄片状」とは、チタン酸粒子の形状に関して、板状、シート状、フレーク状、鱗片状と呼ばれるものを包含する概念であり、厚みに対する幅及び長さの比が比較的大きな形状を有するものである。
【0022】
本発明の薄片状チタン酸は、塩基性有機化合物を含み、その塩基性有機化合物がもつ塩基性官能基の含有量を下記式で算出した値が2.4%以下である。層状の結晶構造を有するチタン酸の層間を塩基性有機化合物で膨潤及び/又は剥離して得られる薄片状チタン酸は、表面と層間の両方に塩基性有機化合物を含む。この塩基性有機化合物に存在する塩基性官能基がチタン-酸素ユニットに対して何らかの作用をすることが薄片状チタン酸を含む塗膜の耐候性低下の一因と考えられる。塩基性有機化合物に由来する塩基性官能基含有量を2.4%以下とすることで、薄片状チタン酸を含む塗膜の耐候性の低下を低減することができる。その含有量は2.1%以下とすることが好ましく、2.0%以下とすることがより好ましく、1.7%以下とすることがより一層好ましく、1.3%以下とすると更に好ましい。塩基性官能基含有量の下限値には特に制限はなく、少ないほどよいが、0.01%以上の塩基性有機化合物に由来する塩基性官能基を通常含む。塩基性官能基の含有量は、CHN分析により測定した炭素量(質量%)をもとに次の計算式から求める。
塩基性官能基含有量(%)=(塩基性有機化合物1分子あたりの塩基性官能基の数)×(炭素量(質量%))/{(炭素の原子量×化合物1個あたりの炭素数)/(TiOの式量)}
(式中、炭素の原子量=12.0、TiOの式量=79.9とする。塩基性有機化合物が高分子の場合、それを構成するモノマーを1分子と見なして炭素の数と塩基性官能基の数を決定し算出する。)
【0023】
塩基性有機化合物としては、例えば、(1)水酸化4級アンモニウム化合物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、(2)アルキルアミン化合物(プロピルアミン、ジエチルアミン等)、(3)アルカノールアミン化合物(エタノールアミン、アミノメチルプロパノール等)等が挙げられる。
【0024】
本発明の薄片状チタン酸は、下記条件で作製した塗膜において、下記条件で測定した変角測色値ΔL 1が150以上である。変角測色値ΔL 1とは、塗膜面に対する法線方向を0°とした時に、入射光(-45°)に対するハイライトのL値の最大値(受光角40°のL値と受光角50°のL値のうち大きい方の値)とシェード(受光角-65°)のL値の差である。ΔL 1は目視での陰影感を反映しており、ΔL 1が大きいほど塗膜の陰影感も強く感じられる。変角測色値ΔL 1は160以上であると好ましく、170以上であるとより好ましい。ΔL 1の上限値には特に制限はないが、200以下で十分である。
【0025】
塗膜の変角測色値ΔL 1は以下のようにして求める。まず薄片状チタン酸を含む塗料を作製する。表1の組成の通り、樹脂、添加剤、及び溶媒を秤量し、ペイントシェーカーで5分間分散することでアクリルシリコン樹脂配合物を作製する。顔料1.25g、アクリルシリコン樹脂配合物11.9g、純水9.40gをガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合し、塗料を作製する。このようにして作製した塗料を、3ミルのドクターブレードでPETフィルム上に塗布し、60℃で30分間強制乾燥させることで塗膜を作製する。このようにして作製した塗膜に、白黒チャート紙の黒地を裏面に当て、変角分光測色システム(株式会社村上色彩研究所製、GCMS-3型)を用いて-45°から入射光を照射し、ハイライト(受光角40°及び50°)及び、シェード(受光角-65°)のL値を測定する。ハイライトのL値の最大値からシェードのL値を引き、塗膜の変角測色値ΔL 1とする。
【0026】
本発明の薄片状チタン酸は、上記とは異なる下記条件で作製した塗膜において、上記とは異なる下記条件で測定した変角測色値ΔL が60以上である。変角測色値ΔL とは、塗膜面に対する法線方向を0°とした時に、入射光(-45°)に対するハイライトのL値(受光角30°)とシェード(受光角-65°)のL値の差である。ΔL もまた上記ΔL と同様に目視での陰影感を反映しており、ΔL が大きいほど塗膜の陰影感も強く感じられる。変角測色値ΔL は65以上であると好ましく、70以上であるとより好ましい。ΔL の上限値には特に制限はないが、90以下で十分である。
【0027】
塗膜の変角測色値ΔL は以下のようにして求める。まず薄片状チタン酸を含む塗料を作製する。表1の組成の通り、樹脂、添加剤、及び溶媒を秤量し、ペイントシェーカーで5分間分散することでアクリルシリコン樹脂配合物を作製する。顔料5.0g、アクリルシリコン樹脂配合物11.9gをガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合後、塗料粘度が200mPa・sとなるよう純水を加え、塗料を作製する。このようにして作製した塗料を、PETフィルム上にスプレーガンで塗布し、60℃で30分間強制乾燥を行い、膜厚10μmの塗膜を作製する。このようにして作製した塗膜に、白黒チャート紙の白地を裏面に当て、多角度測色計(ビックガードナー社製、BYK-mac i)を用いて光源を-45°の方向から照射し、ハイライト(受光角30°)及び、シェード(受光角-65°)のL値を測定する。ハイライトのLからシェードのLを引き、塗膜の変角測色値ΔL とする。
【0028】
ある程度の厚みまでは、薄片状チタン酸の厚みが薄いほどΔL (あるいはΔL )の値は大きくなる、つまり陰影感が強くなる。一方で、薄片状チタン酸の厚みを薄くしすぎるとΔL (あるいはΔL )の値は小さくなる、つまり陰影感が低下し始める。ΔL (あるいはΔL )が前記範囲となるような十分厚みの薄い薄片状チタン酸を得る場合、その製造時に剥離剤である塩基性有機化合物を多く使用することになり、残存量(塩基性官能基含有量)が多くなり易く、結果として耐候性が低くなり易い。本発明の薄片状チタン酸は、ΔL (あるいはΔL )と塩基性有機官能基含有量をそれぞれ特定の範囲とすることで、塗膜に強い陰影感と同時に高い耐候性を付与することができる。
【0029】
薄片状チタン酸の平均厚みは0.05~0.4μmの範囲とすることが好ましく、0.05~0.3μmの範囲とするとより好ましい。平均厚みは、薄片状チタン酸を含む塗膜を作製し、その塗膜をミクロトームで切断し、その断面を電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した50個以上の粒子の厚みを測定し、測定値を平均して求める。
【0030】
本発明の薄片状チタン酸は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、累積10%粒子径をD10、メジアン径をD50、累積90%粒子径をD90として、それぞれを体積粒度分布から求め、計算式(D90-D10)/D50で算出した値を指標とする。レーザー回折/散乱法による体積粒度分布の測定は、本発明の薄片状チタン酸を粒子(薄片状チタン酸粒子)として分散媒に分散させた分散液を測定する湿式法により行う。上記の計算式は、薄片状チタン酸の粒度分布のシャープさを示す指標であり、この値が小さいと粒度分布がよいことを示し、大きいと粒度分布がブロードであることを示す。この計算式(D90-D10)/D50で算出した値が1.5以下であると好ましい。粗大粒子は長手方向と厚み方向の長さの比(アスペクト比)が大きいため光輝感を高める作用を持つが、同時に粒子感も強くなり、緻密感も低下する。従って、粗大粒子の存在比率を減らすと、粒子感の小さく緻密感の高い塗膜となるが光輝感・陰影感は悪化する。ここで、微細粒子の存在比率も合わせて低減すると、低粒子感・高緻密感は維持したまま光輝感・陰影感を高めることができ、加えて、耐候性も高めることができる。(D90-D10)/D50は1.2以下であると特に好ましい。薄片状チタン酸のレーザー回折/散乱法による粒度分布の測定は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)を使用し、屈折率2.50に設定して行う。
【0031】
具体的な粒度は、(D90-D10)/D50が1.5より大きくならない範囲で、必要とされる塗膜の意匠感や耐候性のレベル等を総合的に勘案して決定すればよい。例えば、D10は9μm以上であると好ましい。上記の通り、D10が9μm以上であれば9μm未満の微細粒子の存在比率が10%未満と充分低くでき、光輝感、陰影感の低下、耐候性の低下を抑制できる。D10は10μm以上であるとより好ましい。D90は65μm以下であると好ましい。上記の通り、D90が65μm以下であれば65μmより大きい粗大粒子の存在比率が10%未満と充分低くでき、塗膜の粒子感の発現を抑制できる。D90は55μm以下であるとより好ましい。特に、D99(累積99%粒子径)が110μm以下であることが好ましく、90μm以下であるとより好ましく、80μm以下であると更に好ましい。D99が110μm以下であれば110μmより大きい粗大粒子の存在比率が1%未満と低くでき、D99が90μm以下であれば90μmより大きい粗大粒子の存在比率が1%未満と充分低くでき、D90と同じく塗膜の粒子感の発現を抑制できる。D50は10~40μmの範囲であると好ましく、10~30μmの範囲であるとより好ましい。
【0032】
本発明の薄片状チタン酸は、窒素元素を含んでいてもよい。その含有量は、2~5質量%としてよい。窒素の含有量は、CHN分析により求めることができる。
【0033】
本発明の薄片状チタン酸はアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。特許文献1と同様、20質量%程度のアルカリ金属を含んでいてもよい。本発明の薄片状チタン酸は、そのアルカリ金属含有量の合計は薄片状チタン酸に対して5質量%以下であっても充分な耐候性が得られ、1質量%以下としてもよい。特に、セシウムの含有量を0.01質量%以下としてもよい。アルカリ金属の含有量は蛍光X線分析により確認することができ、MO/TiO(Mはアルカリ金属)として計算した数値とする。
【0034】
次に、本発明の薄片状チタン酸の製造方法を説明するにあたり、薄片状チタン酸の製造方法全体をひととおり説明する。
【0035】
まず、チタン酸金属塩を製造する。チタン酸金属塩は、出発原料として、金属酸化物又は加熱により金属酸化物に分解される化合物と、酸化チタン又は加熱により酸化チタンを生ずる化合物とを用い、これら出発原料を混合し、焼成することによって得られる。その後、必要に応じて解砕してもよい。また、均一で単相のチタン酸金属塩を得るためには、前記混合を十分に行うことが好ましく、原料粉末を自動乳鉢等で摩砕混合することが好ましい。
【0036】
チタン酸金属塩は、次のようにして製造したチタン酸混合アルカリ金属塩が好ましい。すなわち、アルカリ金属酸化物MO及びM’O(M、M’は各々相異するアルカリ金属である)又は加熱により各々MO及びM’Oに分解される各化合物と、二酸化チタン又は加熱により二酸化チタンを生ずる化合物とを、好ましくは、M/M’/Tiのモル比で3/1/5から3/1/11の割合で混合し、焼成して製造する。
【0037】
アルカリ金属酸化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの酸化物の中から少なくとも1種を用いることができる。また、加熱によりアルカリ金属酸化物に分解される化合物としては、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩等が使用できる。なかでも炭酸塩、水酸化物が好ましい。また、加熱により酸化チタンを生ずる化合物としては、メタチタン酸、オルトチタン酸等の含水酸化チタン、チタンアルコキシド等の有機チタン化合物が挙げられる。なかでも含水酸化チタンが好ましい。
【0038】
上記で得られたチタン酸混合アルカリ金属塩は、ホスト骨格中のTi4+席の一部が、層間のアルカリ金属とは異なるアルカリ金属イオンで置換された、組成式M[M’x/3Ti2-x/3]O(式中のM、M’は各々相違するアルカリ金属であり、xは0.50~1.0である)で示される、斜方晶の層状構造(レピドクロサイト型の結晶構造)を有する化合物であると好ましい。組成式中のxは、出発原料の混合比を変化させることにより、コントロールできる。
【0039】
前記焼成温度はチタン酸金属塩の種類によって異なるが、概ね1050~1200℃とすればよい。本発明においては、(チタン酸金属塩の融点-150℃)~チタン酸金属塩の融点未満の温度とするのが好ましい。焼成温度をこの範囲とすると、チタン酸金属塩の粒成長が促進され、分級工程での収率を高めることができる。特に、最終的にメジアン径が10~40μm(好ましくは10~30μm)の範囲の粒子径(レーザー回折/散乱法)を有する薄片状チタン酸が高い収率で得られ易くなる。例えば、M=K、M’=Liのチタン酸混合アルカリ金属塩の場合、焼成温度は1050~1200℃とするのが好ましい。代表的な組成、すなわちM=K、M’=Liで、x=0.8の場合、1050~1200℃がより好ましく、1100~1180℃が更に好ましい。その他の焼成条件、例えば、昇降温速度、焼成時間、焼成雰囲気等には特に制限はなく、適宜設定してよい。また、焼成の際に融剤を添加する所謂フラックス法を採用してもよい。その場合、焼成温度を下げることができ、800~1200℃とすることができる。融剤としては、例えば塩化ナトリウムが挙げられる。
【0040】
次に、前記工程で得られたチタン酸金属塩を酸性化合物と接触させて、層状の結晶構造を有するチタン酸化合物(以降、「層状チタン酸」と記載することもある)を製造する。酸性化合物は酸水溶液とするのが好ましい。具体的には、例えば、チタン酸金属塩を水溶媒に懸濁した後、酸水溶液を添加し、金属イオンを抽出(チタン酸金属塩中の金属イオンと、酸中の陽イオンとをイオン交換)することによって層状チタン酸を生成させる方法が挙げられる。
【0041】
酸水溶液としては、無機酸、有機酸の水溶液が挙げられ、特に制限はない。無機酸としては塩酸、硫酸等が挙げられる。有機酸としては酢酸、シュウ酸等が挙げられる。濃度は任意に調整することができる。0.5規定から6規定であると、反応に要する時間が適当であり好ましく、1規定から3規定であるとより好ましい。
【0042】
チタン酸金属塩には、前述のチタン酸混合アルカリ金属塩を用いることが好ましい。このチタン酸混合アルカリ金属塩中のMとM’で示されたアルカリ金属イオンは活性であるので、他の陽イオンとの交換反応や有機物のインターカレーションによるとり込みを起こす。このため、酸性化合物と接触させると、層間(M)及びホスト骨格中(M’)のアルカリ金属イオンが、短時間で他の陽イオンと交換され、工業的に生産する場合に、効率がよく、低い生産コストで層状チタン酸を得ることができる。M及びM’の組み合わせとして、(M、M’)=(カリウム、リチウム)、(ルビジウム、リチウム)、(セシウム、リチウム)が好ましく、(カリウム、リチウム)の組合せが特に好ましい。
【0043】
酸性化合物との反応を効率よく行う方法として、チタン酸金属塩と酸性化合物を混合して酸性スラリーとした後、フィルタープレスやブフナー等の吸引濾過器でケーキ状にし、そのまま吸引しながら新鮮な酸を通ずる方法を採ることができる。また、酸性化合物との接触・反応後、イオン交換水等で洗浄して余分な酸を取り除くことが好ましい。その後、必要に応じて粗粒分離等を行ってもよい。また、該チタン酸金属塩を酸性化合物と接触させる工程を複数回行ってもよい。
【0044】
上記層状チタン酸として、層と層との間の金属イオンが水素イオンで置換され、かつ、ホスト骨格中のTi4+席の一部も置換された組成式
4x/3Ti2-x/3・nH
(式中xは0.50~1.0であり、nは0~2である)で示される、斜方晶の層状構造を有する化合物が好ましい。すべての金属イオンが水素イオンに置換されている必要はなく、本発明の効果が得られる範囲で金属イオンが残存していてもよい。
【0045】
前記方法により、M元素を水素イオンで高い効率で置換することができる。具体的には、MO/TiO換算で1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下とすることができる。
【0046】
次に、前記工程で得られた層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させる。これにより、層状チタン酸に含まれる水素イオンと塩基性有機化合物の交換反応により塩基性有機化合物が層間に挿入され、少なくとも一部の層を膨潤及び/又は剥離して薄片状チタン酸が得られる。接触させる方法については特に制限はなく、任意の方法を採用することができる。特に、媒液中で層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させると効率が高いため好ましい。
【0047】
媒液への層状チタン酸及び塩基性有機化合物の添加の順序は特に限定されない。例えば媒液に層状チタン酸と塩基性有機化合物を加え、撹拌して混合することができる。又は、層状チタン酸を媒液に分散させたスラリーに塩基性有機化合物を加えてもよい。又は、塩基性有機化合物溶液に層状チタン酸を加えてもよい。
【0048】
接触中、必要に応じて外力を印加させてもよい。外力を印加すると、層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離が進行し易くなる。外力の印加方法としては、例えば、層状チタン酸と塩基性有機化合物を含む媒液を撹拌する方法が挙げられる。このとき、撹拌条件は適宜設定してよい。撹拌以外の外力の印加方法として、媒液を入れた容器を振とうしてもよい。振とうには、振とう器、ペイントコンディショナー、シェーカー等を用いることができる。その場合の振とう条件も適宜設定してよい。
【0049】
前記媒液には特に制限はなく、任意の媒液を用いてよい。具体的には、水、又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物が挙げられる。工業的には水を主体とする水性媒液を用いるのが好ましい。
【0050】
塩基性有機化合物には特に制限はなく、任意の塩基性有機化合物を1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。具体例としては、(1)水酸化4級アンモニウム化合物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、(2)アルキルアミン化合物(プロピルアミン、ジエチルアミン等)、(3)アルカノールアミン化合物(エタノールアミン、アミノメチルプロパノール等)等が挙げられる。中でもアルカノールアミン化合物が好ましく、アミノメチルプロパノールを用いるとより好ましい。(1)は層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離の進行が比較的早い。(2)は層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離の進行が比較的遅い。(3)は概ねその中間である。
【0051】
接触させる温度には特に制限はなく、適宜設定できる。反応温度を室温下(20~30℃)とすると剥離状態を制御し易くなるため好ましい。反応速度にも特に制限はなく、適宜設定できる。層状チタン酸と塩基性有機化合物を、一度に混合してもよく、少しずつ連続して混合してもよく、少しずつ断続的に混合してもよい。反応時間にも特に制限はなく、反応温度と目的とする膨潤及び/又は剥離状態に応じて適宜設定できる。例えば反応温度20~30℃の場合、30分~12時間程度とするのが好ましい。温度が高いほうが、また、連続的又は断続的に混合するほうが、また、時間が長いほうが、層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離が進行し易くなる。
【0052】
層状チタン酸と接触させる塩基性有機化合物の量は、層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.01~10中和当量の範囲とすると好ましい。塩基性有機化合物の量が少なすぎると水素イオンが十分脱離せず剥離が進まず、一方、塩基性有機化合物の量が多いほど層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離が進行し易くなるが、多すぎると膨潤して却って層間の剥離が困難になることから、前記の範囲が好ましい。
【0053】
媒液に対する層状チタン酸の濃度は、1~20質量%とするのが好ましく、3~15質量%とするとより好ましく、5~15質量%とすると更に好ましい。濃度が低いほど層状チタン酸の層間の膨潤及び/又は剥離が進行し易くなり、一方、濃度が高いほど生産効率が高くなることから、前記の範囲が好ましい。
【0054】
層状チタン酸化合物の剥離の程度の制御は、用いる塩基性有機化合物の種類及びその使用量、層状チタン酸の濃度、剥離を抑制するカチオン種の層間への挿入、両者を接触させる温度や速度や時間、外力の印加方法や外力の程度等、条件を適宜設定することによって行うことができる。これにより、得られる薄片状チタン酸の厚みを所望の厚みに制御することができる。また、その分散安定性が保たれる。
【0055】
このようにして薄片状チタン酸分散液を得ることができる。また、例えば以下のような方法で薄片状チタン酸を固形分として分取することができる。
【0056】
例えば、上記薄片状チタン酸分散液から薄片状チタン酸を固液分離して固形分を得ることができる。固液分離には公知のろ過方法を用いてよく、例えば、通常、工業的に用いられるロータリープレス、フィルタープレス等のろ過装置を用いることができる。その際に、必要に応じて洗浄を行い、可溶性塩類等を除去してもよい。その後、必要に応じて乾燥を行ってもよい。洗浄には、例えば純水を用いることができる。乾燥も任意の装置を用いることができ、乾燥温度及び時間も適宜設定することができる。乾燥温度としては50~300℃が好ましく、100~300℃がより好ましい。
【0057】
又は、上記薄片状チタン酸分散液を凍結乾燥して凍結乾燥物として固形分を得ることもできる。凍結乾燥には通常の凍結乾燥機を用いることができる。得られた凍結乾燥物は、引き続き真空下において氷を昇華してもよい。
【0058】
又は、上記薄片状チタン酸分散液を遠心分離して、沈降物と媒液を分取し、乾燥して固形分を得ることもできる。遠心分離には通常の遠心分離器を用いることができる。遠心分離を2回以上繰り返してもよい。
【0059】
又は、上記薄片状チタン酸分散液を噴霧乾燥して、固形分を得ることもできる。噴霧乾燥には通常の噴霧乾燥機を用いることができる。
【0060】
又は、上記の固形分分取方法を複数組み合わせて実施して、固形分を得ることもできる。洗浄と固形分分取を複数組み合わせて実施してもよい。
【0061】
得られた固形分に必要に応じて粉砕を行うことができる。粉砕には前述の公知の粉砕機を用いることができる。薄片状チタン酸の形状(薄片面の寸法、大きさ)維持の観点からは粉砕力は弱いほうが好ましい。そのような粉砕機としては、例えば、ハンマーミル、ピンミルが挙げられる。
【0062】
本発明の第2の発明は、塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸を分級して、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程を含む薄片状チタン酸の製造方法である。
【0063】
一つの態様としては例えば、塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸を準備又は購入し、それを分級してレーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする薄片状チタン酸の製造方法が挙げられる。
【0064】
別の態様としては、チタン酸金属塩を得る工程、前記チタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程、前記層状チタン酸と塩基性有機化合物を混合し、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程、前記工程で得られる層間が剥離及び/又は膨潤された、層間及び/又は表面に塩基性有機化合物を含む薄片状チタン酸を分級して、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法が挙げられる。
【0065】
このようにして製造した薄片状チタン酸は、そのレーザー回折/散乱法で測定したメジアン径が10~40μm程度(好ましくは10~30μm程度)であると、それを配合した塗膜に陰影感や緻密感が現れるようになる。ここで、薄片面の寸法が数十μmのチタン酸金属塩を合成すると、その粒度分布は非常にブロードであるため、最終的に得られる薄片状チタン酸の粒度分布も同様にブロードになる。チタン酸金属塩の合成時にフラックスを用いることで粒径バラツキを多少低減できることは知られているが、それでも粒度分布はブロードであり、特に粗大粒子の生成は避けられない。本発明は、分級工程を追加し、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とするものである。
【0066】
前記分級は、粗大粒子及び微細粒子の両方の存在比率をそれぞれ低減させるものであると好ましく、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50が1.5以下であると、耐候性に優れ、粒子感のない、独特のシルキー感を持つ塗膜を提供できる。前記の値が1.2以下であるとより好ましい。
【0067】
剥離剤として用いた塩基性有機化合物は、薄片状チタン酸に残存する。塩基性有機化合物は、一部はカチオンとして薄片状チタン酸の層間に含まれ、一部は薄片状チタン酸粒子表面に存在すると考えられる。本願発明者らは、残存塩基性有機化合物は微細な粒子表面に多く存在し、粒子が微細であるほど相対的な塩基性有機化合物含有量が多い傾向にあることを見出した。そして、分級を行い微細な粒子の量を低減させることにより、最終的に製造する薄片状チタン酸粉末に含まれる塩基性有機化合物の量を低減することができ、ひいては塩基性官能基含有量を低減することができ、塗膜の耐候性を著しく高めることができる。
【0068】
また、このような薄片状チタン酸を光輝性顔料として用いた塗膜は、陰影感と緻密感に加え、より強い光輝感を示すようになる。これは、微細な粒子はアスペクト比が低く、粒子端部の散乱によって光輝感が低下することから、微細な粒子が相対的に少なくなる効果と考えられる。同様の理由で、塗膜のシルキー感も更に高くなるという効果も得られる。除去する粒子の閾値、除去量は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50が1.5より大きくならない範囲で、必要とされる塗膜の光輝性や耐候性のレベルと収率等を総合的に勘案して決定すればよい。例えば、分級工程終了後の薄片状チタン酸をレーザー回折/散乱法により測定した体積粒度分布において、D10(累積10%粒子径)が9μm以上となるように分級することが好ましい。
【0069】
分級を行い粗大な粒子を低減させることにより、塗膜の見た目の粒子感を著しく低減又は目視では認知できない程度にまで低減させることができる。ここで、本明細書における「粗大な粒子の分級」とは、後述のような各種分級装置を用いて粗大な粒子を除去しその含有割合を低減する操作のみに限られず、製造過程で薄片状チタン酸に加わる外力(例えば、層状チタン酸の剥離時の剪断力、分級装置を用いた薄片状チタン酸の微細粒子の分級時に薄片状チタン酸に加わる外力、薄片状チタン酸分散液の遠心分離時の遠心力、あるいは薄片状チタン酸分散液の噴霧乾燥時の剪断力など)の強度を調整することにより、粗大な粒子を低減することも含まれる。もちろん、分級装置による分級と薄片状チタン酸に加わる外力の強度調整による分級とを併用してもよい。
これにより強い陰影感と高い光輝感を持ちながら、粒子感のない独特のシルキー感を持つ塗膜を提供できる。除去する粒子の閾値、除去量は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50が1.5より大きくならない範囲で、必要とされる塗膜の光輝性のレベルと収率等を総合的に勘案して決定すればよい。例えば、分級工程終了後の薄片状チタン酸をレーザー回折/散乱法により測定した体積粒度分布において、D90(累積90%粒子径)が65μm以下となるように分級することができる。特に、D99(累積99%粒子径)が90μm以下となるように分級することができる。
【0070】
分級装置を用いた分級は、湿式で行ってもよく、乾式で行ってもよい。分級に用いる装置には特に制限はなく、任意の分級装置を用いることができる。湿式分級機としては、例えば振動篩、重力場分級(シックナー等)、遠心力場分級(液体サイクロン等)が挙げられる。乾式分級機としては、例えば振動篩、遠心力場分級(乾式サイクロン等)、慣性力場分級(クラシファイア等)が挙げられる。層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させて層状チタン酸を剥離した後そのまま湿式で分級を行えば、工程が簡略化できるため好ましい。
【0071】
分級装置を用いた分級による粒度分布の調整は、公知の方法により行うことができる。例えば、篩の目開きの選択により調整が可能である。その他、試料の供給速度、篩上の滞留時間、振とう条件等、採用する分級方式に応じて適宜条件を設定することにより調整してよい。
【0072】
例えば、湿式篩で分級を行う場合、スラリースクリーナー(アコージャパン株式会社製)を使用し、大きい側の目開きのメッシュに分級対象となるスラリーを投入することで網上、網下に分級することができる。次いで、網下のスラリーを、小さい側の目開きのメッシュに投入することで、網上、網下に分級することができる。このようにして3水準に分級したスラリーが得られる(以降、「篩上」「篩中」「篩下」と記載することもある。)。これらの操作は一般的な振動篩を用いて行うことも可能である。本発明の効果が得られる限り、任意の目開きの篩を用いることができる。大きい側の篩の目開きは例えば、75μm以下のものを用いることができ、53μm以下であると好ましく、45μm以下であるとより好ましい。小さい側の篩の目開きは例えば、6μm以上のものを用いることができ、10μm以上であると好ましく、20μm以上であるとより好ましい。
【0073】
本発明の第3の発明は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とした層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で膨潤及び/又は剥離する工程を含む薄片状チタン酸の製造方法である。
レーザー回折/散乱法による層状チタン酸の体積粒度分布測定は、当該層状チタン酸の分散液を用いて、上述の、「薄片状チタン酸」のレーザー回折/散乱法による体積粒度分布測定と同じように行い、粒子径(D10、D50、D90など)の算出も、上述の、「薄片状チタン酸」のレーザー回折/散乱法による粒子径の算出と同じように行う。
【0074】
例えば、層状チタン酸を準備又は購入し、それを分級してレーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程、分級された層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で膨潤及び/又は剥離する工程を含む薄片状チタン酸の製造方法が挙げられる。
【0075】
別の態様としては、例えば、分級によりレーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とした層状チタン酸を準備又は購入し、それの層間を塩基性有機化合物で膨潤及び/又は剥離する工程を含む薄片状チタン酸の製造方法が挙げられる。
【0076】
また別の態様としては、例えば、チタン酸金属塩を得る工程、前記チタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程、該層状チタン酸を分級してレーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程、分級した層状チタン酸と塩基性有機化合物を混合し、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程、を含む薄片状チタン酸の製造方法が挙げられる。
【0077】
前述の通り、剥離後の塩基性有機化合物の存在量(塩基性官能基含有量)も微細なチタン酸粒子ほど多い傾向にあること、微細な粒子を減らすことによって光輝感、シルキー感が高まることは同様である。粗大なチタン酸粒子が少ないと粒子感が低減することも同様である。そのため、層状チタン酸の微細粒子と粗大粒子の比率が少ない場合、例えば層状チタン酸を分級した場合でも、同様に本発明の効果が得られる。
【0078】
分級は、湿式で行ってもよく、乾式で行ってもよい。チタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得た後そのまま湿式で分級を行えば、工程が簡略化できる。分級装置や分級方法には特に制限はなく、任意の方法で行うことができる。例えば、前述の、塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸の分級と同様にして行うことができる。
【0079】
層状チタン酸に対して分級を行い、かつ、膨潤及び/又は剥離後の薄片状チタン酸に対して分級を行ってもよい。
【0080】
本発明の第4の発明は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下としたチタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程、前記層状チタン酸の層間を塩基性有機化合物で膨潤及び/又は剥離する工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法である。
レーザー回折/散乱法によるチタン酸金属塩の体積粒度分布測定は、当該チタン酸金属塩の分散液を用いて、上述の、「薄片状チタン酸」のレーザー回折/散乱法による体積粒度分布測定と同じように行い、粒子径(D10、D50、D90など)の算出も、上述の、「薄片状チタン酸」のレーザー回折/散乱法による粒子径の算出と同じように行う。
【0081】
例えば、チタン酸金属塩を得る工程、該チタン酸金属塩を分級してレーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布において、(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程、分級したチタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程、前記層状チタン酸と塩基性有機化合物を混合し、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程を含む薄片状チタン酸の製造方法である。
【0082】
前述の通り、剥離後の塩基性有機化合物の存在量(塩基性官能基含有量)も微細なチタン酸粒子ほど多い傾向にあること、微細な粒子を減らすことによって光輝感、シルキー感が高まることは同様である。粗大なチタン酸粒子が少ないと粒子感が低減することも同様である。そのため、チタン酸金属塩の微細粒子と粗大粒子の比率が少ない場合、例えばチタン酸金属塩を分級した場合でも、同様に本発明の効果が得られる。
【0083】
チタン酸金属塩に対して分級を行い、かつ、膨潤及び/又は剥離後の薄片状チタン酸に対して分級を行ってもよい。また、チタン酸金属塩、層状チタン酸、膨潤及び/又は剥離後の薄片状チタン酸のそれぞれに対して分級を行ってもよい。
【0084】
分級工程の前に、チタン酸金属塩、層状チタン酸又は薄片状チタン酸を粉砕する工程を含んでいてもよい。これらの粒子に粗大粒子が多く含まれている場合、事前に粉砕することで収率を高めることができる。このとき、粉砕しすぎると微細粒子が多くなりすぎるため、目的とする粒径範囲の粒子の比率が高くなるように粉砕条件を適宜調整することが好ましい。剥離工程で剥離しつつ粉砕を行ってもよい。
【0085】
粉砕は、湿式で行ってもよく、乾式で行ってもよく、特に制限はない。粉砕装置にも特に制限はなく、所望の粉砕強度に応じて公知の粉砕装置を選択して用いることができる。例えば、縦型サンドミル、横型サンドミル、ボールミル等の湿式粉砕機、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いることができる。
【0086】
また、分級工程で、粗大粒子として篩上で分取されたものに対して粉砕を行い、その篩下と混合してもよい。例えば、層間を膨潤及び/又は剥離された薄片状チタン酸を分級する工程、粗大粒子として分級された粒子に対し粉砕を行う工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法である。これにより収率を高めることができる。分級装置や分級方法には特に制限はなく、任意の方法で行うことができる。例えば、前述の、塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸の分級と同様にして行うことができる。粉砕方法や粉砕装置には特に制限はなく、前述の粉砕装置を任意に選択してよい。
【0087】
また、分級工程で、粗大粒子として篩上で分取されたものに対して粉砕を行い、再度分級工程を行ってもよい。例えば、層間を膨潤及び/又は剥離された薄片状チタン酸を分級する工程、粗大粒子として分級された粒子に対し粉砕を行う工程、該粉砕物を再度分級する工程を含む、薄片状チタン酸の製造方法である。再分級によって得られた篩中は、当初の篩中と混合して用いることができる。これにより収率を高めることができる。分級装置や分級方法には特に制限はなく、任意の方法で行うことができる。例えば、前述の、塩基性有機化合物を層間及び/又は表面に有する薄片状チタン酸の分級と同様にして行うことができる。粉砕方法や粉砕装置には特に制限はなく、前述の粉砕装置を任意に選択してよい。
【0088】
また、分級工程で微細粒子として篩下で分取されたものの一部を、その篩上と再度混合して用いてもよい。なお、微細粒子の存在比率が増加するに従い、連続的に耐候性も低下し、且つ、光輝感も低下するため、必要とされる塗膜の光輝性や耐候性のレベルと収率等を総合的に勘案して、適宜、再混合する量を決定すればよい。これにより収率を高めることができる。
【0089】
また、分級工程で粗大粒子として篩上で分取されたものの一部を、その篩下と再度混合して用いてもよい。なお、粗大粒子の存在比率が増加するに従い、塗膜に用いたときの粒子感が連続的に強くなるため、必要とされる塗膜の光輝性のレベルと収率等を総合的に勘案して、適宜、再混合する量を決定すればよい。これにより収率を高めることができる。
【0090】
本発明の薄片状チタン酸の製造方法においては、層間及び/又は表面に塩基性有機化合物を含む薄片状チタン酸を、pHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含むと好ましい。又は、層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程よりも後の工程で、pHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程をさらに含むと好ましい。層間及び/又は表面に塩基性有機化合物を含む薄片状チタン酸とは、例えば、層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、塩基性有機化合物が層間に挿入され、少なくとも一部の層を膨潤及び/又は剥離された薄片状チタン酸が挙げられる。
【0091】
例えば、分級により体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下としたチタン酸金属塩と酸性化合物を接触させて層状チタン酸を得る工程、層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程の後に、pHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含んでもよい。
【0092】
又は、分級により体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とした層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程の後に、pHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含んでもよい。
【0093】
又は、層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程、薄片状チタン酸を分級して体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程の後に、pHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を更に含んでもよい。
【0094】
又は、層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程の後にpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を行い、次いで分級して体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程を行ってもよい。
【0095】
薄片状チタン酸をpHが前記範囲の水系媒液下に存在させる処理は、単独では、十分な耐候性を示す程度まで塩基性官能基含有量を低減することはできないが、分級工程と薄片状チタン酸をpHが前記範囲の水系媒液下に存在させる工程とを組み合わせるとその相乗効果により、残存している塩基性有機化合物の量を更に低減させることができる。すなわち、最終的に製造する薄片状チタン酸粉末に含まれる塩基性官能基含有量を低減することができ、塗膜の耐候性を著しく高めることができる。塩基性官能基含有量の低減は、本来はpHを6未満にするのが効果的であるが、一旦pHを6未満としてしまうと薄片状チタン酸が凝集してしまうため塗膜としたときの意匠感が低下してしまう。pHが6以上10未満であれば、分級工程との組み合わせにより、塗膜の意匠性と耐候性を両立できる。
【0096】
薄片状チタン酸をpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる方法としては、例えば、薄片状チタン酸を含む水系溶媒と、酸性化合物とを接触させ、pHを6以上10未満とする方法が挙げられる。酸性化合物には特に制限はなく、無機酸や有機酸等を任意に用いることができる。無機酸としては塩酸、硫酸等が挙げられ、有機酸としては酢酸、しゅう酸等が挙げられる。これらの酸性化合物を水に溶解して酸性水溶液として薄片状チタン酸を含む水系溶媒と混合してもよい。薄片状チタン酸はこの状態である程度の時間維持することが好ましい。例えば30分以上維持することが好ましい。このとき撹拌を行うと、塩基性有機化合物の除去効率が高まるため好ましい。このときの温度についても特に制限はなく任意に設定してよい。例えば、20~70℃とすることができる。
【0097】
薄片状チタン酸をpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させた後、薄片状チタン酸を洗浄する工程を追加してもよい。洗浄は公知の方法を用いてよく、例えば、ロータリープレス、フィルタープレス等のろ過装置を用いる方法、シックナー、デカンター、遠心分離機等により固形分を沈降させ、上澄みを除去し、固形分を洗浄する方法を用いることができる。特に、上述に記載の方法(層状チタン酸と塩基性有機化合物を接触させ、該層状チタン酸の層間を膨潤及び/又は剥離する工程の後にpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させる工程を行い、次いで分級して体積粒度分布において(D90-D10)/D50を1.5以下とする工程を行う方法)のように、薄片状チタン酸をpHが6以上10未満の水系媒液下に存在させた後、分級操作を行うと、分級により発生した篩下のスラリーに塩基性有機化合物が多く含まれるため、分級により篩下スラリーを除去することで洗浄効果も同時に得られ、製造工程の簡略化が可能である。
【0098】
次に、本発明の第5の発明は、第1の発明の薄片状チタン酸を含む光輝性顔料である。
【0099】
次に、本発明の第6の発明は、第1の発明の薄片状チタン酸と分散媒とを少なくとも含む分散液である。
【0100】
前記分散媒には特に制限はなく、任意の溶媒を用いてよい。具体的には、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物が挙げられる。工業的には水を主体とする水性媒液を用いるのが好ましい。
【0101】
有機溶媒を用いる場合、その種類は用途に応じて適宜選択することができる。特に、誘電率が5以上の有機溶媒であると薄片状チタン酸が分散し易いため好ましく、誘電率が10以上の有機溶媒がより好ましい。このような有機溶媒としてはアセトニトリル(誘電率37、沸点82℃)、メタノール(誘電率33、沸点65℃)、ジメチルスルホキシド(誘電率47、沸点189℃)、エタノール(誘電率24、沸点78.3℃)、2-プロパノール(誘電率18、沸点82.5℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(誘電率38、沸点153℃)、メチルエチルケトン(誘電率18.5、沸点80℃)、1-ブタノール(誘電率17.8、沸点118℃)及びホルムアミド(誘電率109、沸点210℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。また、有機溶媒としては低温度での乾燥が容易になることから、低沸点のものが好ましく、沸点が200℃以下のものがより好ましく、150℃以下のものが更に好ましく、100℃以下のものが更に好ましい。
【0102】
本発明の分散液には、薄片状チタン酸、分散媒以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂バインダー、分散剤、表面調整剤(レベリング剤、濡れ性改良剤)、pH調整剤、消泡剤、乳化剤、着色剤、増量剤、防カビ剤、硬化助剤、増粘剤等の各種添加剤、充填剤等が第三成分として含まれていてもよい。具体的には、樹脂バインダーとしては、(1)無機系バインダー((a)重合性ケイ素化合物(加水分解性シラン又はその加水分解生成物又はその部分縮合物、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン等)、(b)金属アルコキシド類等)、(2)有機系バインダー(アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、変性シリコーン系樹脂)等が挙げられる。分散剤としては、(1)界面活性剤((a)アニオン系(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等)、(b)カチオン系(アルキルアミン塩、アルキルアミンの4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、複素環4級アンモニウム塩等)、(c)両性(ベタイン型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド、含窒素複素環型等)、(d)ノニオン系(エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等)等、(2)シリコーン系分散剤(アルキル変性ポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等)、(3)リン酸塩系分散剤(リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、(4)アルカノールアミン類(アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール等)等が挙げられる。表面調整剤は有機溶剤分散体の表面張力をコントロールして、ハジキ、クレーター等の欠陥を防止するものであり、アクリル系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0103】
薄片状チタン酸、分散媒以外の第三成分の添加量は適宜調整することができ、例えば分散剤として前記の界面活性剤、シリコーン系分散剤、リン酸塩系分散剤、アルカノールアミン類を用いる場合は、薄片状チタン酸の重量に対して0.005~5.0質量%程度が好ましく、0.01~2.0質量%程度がより好ましい。表面調整剤としては前記のシリコーン系表面調整剤等を用いることができ、薄片状チタン酸の重量に対して0.005~5.0質量%程度が好ましく、0.01~2.0質量%程度がより好ましい。
【0104】
分散液の作製は、前記材料を混合し、薄片状チタン酸を分散させればよい。分散には、通常の撹拌機、コロイドミル、ボールミル、ビーズミル等の分散機、振とう器、ペイントコンディショナー、シェーカー、ディスパー等を用いることができる。前記材料の混合順序には特に制限はなく、各材料の性質に応じて適宜決定することができる。通常は、薄片状チタン酸を分散媒に投入した後、更に前記第三成分を添加するのが好ましい。
【0105】
次に、本発明の第7の発明は、少なくとも本発明の薄片状チタン酸を含む樹脂組成物である。樹脂組成物としては例えば、プラスチックス樹脂組成物、塗料組成物、インキ組成物が挙げられる。
【0106】
本発明で用いるプラスチックス樹脂としては、例えば以下のものが挙げられ、特に制限はない。更に、耐衝撃性、耐スクラッチ性、耐薬品性、流動性等の物性改良の目的で、下記樹脂の2種以上を併用することもできる。
【0107】
熱可塑性樹脂としては、
(1)汎用プラスチックス樹脂((a)ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、(b)ポリ塩化ビニル樹脂、(c)アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、(d)ポリスチレン樹脂、(e)メタクリル樹脂、(f)ポリ塩化ビニリデン樹脂等)、
(2)エンジニアリングプラスチックス樹脂((a)ポリカーボネート樹脂、(b)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(c)ポリアミド樹脂、(d)ポリアセタール樹脂、(e)変性ポリフェニレンエーテル、(f)フッ素樹脂等)、
(3)スーパーエンジニアリングプラスチックス樹脂((a)ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)、(b)ポリスルホン樹脂(PSF)、(c)ポリエーテルスルフォン樹脂(PES)、(d)非晶ポリアリレート樹脂(PAR)、(e)液晶ポリマー(LCP)、(f)ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、(g)ポリアミドイミド樹脂(PAI)、(h)ポリエーテルイミド樹脂(PEI))等が例示される。
【0108】
薄片状チタン酸とプラスチックス樹脂との配合割合は特に制限されないが、プラスチックス樹脂100質量部に対し、通常は薄片状チタン酸が1~80質量部の範囲、更に好ましくは1~60質量部の範囲であり、マスターバッチであれば、10~900質量部の範囲、更に好ましくは50~500質量部の範囲である。また、用途に応じて当業者に公知のガラス繊維等の補強材や、安定剤、分散剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤等の種々の添加剤を加えてもよい。
【0109】
これらの樹脂組成物は、溶融した樹脂に前記薄片状チタン酸を、混練機を用いて配合して得られる。混練機としては、一般的に使用されるものでよく、例えば一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等のインテンシブルミキサー、ロール成形機等が挙げられる。
【0110】
混練機で得られた薄片状チタン酸配合樹脂組成物は、公知の方法で成型することができる。特に、樹脂中の薄片状チタン酸が配向するような荷重を掛ける方法で成型することで、薄片状チタン酸に起因する光輝性を高めることができる。そのような成型方法としては、例えば、ブロー成形が挙げられる。また、成形品を加熱し、延伸してもよい。この方法によっても、同様に薄片状チタン酸に起因する光輝性を高めることができる。
【0111】
本発明の塗料組成物やインキ組成物は、少なくとも前記の薄片状チタン酸、樹脂成分及び溶媒を含む。樹脂成分としては、例えば、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、フッ素系樹脂、変成シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられ、適宜選択できる。これらの樹脂成分は、有機溶剤溶解型、水溶型、エマルジョン型等特に制限はなく、硬化方式も加熱硬化型、常温硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型等制限は受けない。溶媒には、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等の有機溶剤、水又はそれらの混合溶剤等が挙げられ、溶媒種は樹脂成分との適性に応じて選択する。その他にも、目的に応じて有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、増量剤、界面活性剤、可塑剤、硬化助剤、ドライヤー、消泡剤、増粘剤、乳化剤、フロー調整剤、皮張り防止剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤等の各種添加剤、充填剤等が含まれていてもよい。これらの原料を公知の処方で調合して塗料組成物やインキ組成物とすることができる。あるいは、硬化剤、硬化助剤、硬化性樹脂成分を別に硬化液とし、塗装時に混合して用いる二液性塗料とすることもできる。
【0112】
本発明の塗料組成物を公知の方法で被塗装物に塗布することにより塗膜とすることができる。具体的には、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、液滴を滴下する方法等、一般的な方法を制限なく用いることができる。塗料組成物の塗布に用いる器具は、スプレーガン、ローラー、刷毛、バーコーター、ドクターブレード等公知の器具から適宜選択できる。
【0113】
塗布方法に特に制限はなく、1回で所定の膜厚を塗布してもよく、複数回塗り重ねて所定の膜厚としてもよい。1回当りのウェット膜厚が薄い方が、薄片状チタン酸の運動性(傾き)が制限され、塗膜と平行に配向し易くなる。従って、複数回塗り重ねて所定の膜厚とする塗布方法であると、薄片状チタン酸の配向度が向上し、塗膜の光輝感を更に高くできるため好ましい。光輝感と経済性の観点から、塗布回数は2~15回が好ましく、4~10回がより好ましい。
【実施例
【0114】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
【0115】
(実施例1)
酸化チタン(石原産業製酸化チタンA-100)、炭酸カリウム及び炭酸リチウム(ともに関東化学製試薬)を質量比100:40:9.2でメノウ乳鉢にて充分混合した後、大気中、1150℃で5時間焼成し斜方晶型レピドクロサイト構造のチタン酸リチウムカリウム(K0.8Li0.27Ti1.73)を合成した。得られたチタン酸リチウムカリウムをメノウ乳鉢にて解砕し、チタン酸リチウムカリウム粉末を得た。
【0116】
得られたチタン酸リチウムカリウム粉末と、その4倍質量の1.1規定硫酸水溶液とを混合し30分撹拌してイオン交換を行い、層状チタン酸とした。得られた層状チタン酸固形物をろ過、洗浄し、層状チタン酸ケーキを得た。層状チタン酸ケーキ中に含まれるカリウム量を蛍光X線分析装置(リガク製、RIX2100)で分析した結果、KO/TiOとして0.25%であった。
【0117】
得られた層状チタン酸ケーキをTiO換算で100g/Lとなるように再度純水に分散させ、層状チタン酸分散液とした。当該層状チタン酸分散液とアンモニア水を混合し、pHを7.3に調整した後、TiO100gあたり21.4gの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール90%水溶液(層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.3中和当量)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、薄片状チタン酸分散液を得た。薄片状チタン酸分散液のpHは10.5であった。
【0118】
次に、スラリースクリーナー(アコージャパン株式会社製 SS95×250)に目開き45μmのメッシュを取り付け、得られた薄片状チタン酸分散液を純水で2倍希釈した溶液を30L/時で流し、網上の薄片状チタン酸分散液と網下の薄片状チタン酸分散液をそれぞれ回収した。次に、メッシュを目開き20μmに変更し、45μmの分級で得られた網下の薄片状チタン酸分散液を20L/時で流し、網上の薄片状チタン酸分散液(薄片状チタン酸篩中分散液と表記)と網下の薄片状チタン酸分散液をそれぞれ回収した。
【0119】
薄片状チタン酸篩中分散液、つまり目開き20μm以上45μm以下で分級された薄片状チタン酸分散液を10000rpmで10分間遠心分離し、薄片状チタン酸ケーキを得た。次に、薄片状チタン酸ケーキに純水を加え、固形分8%のスラリーを調製した。当該スラリーを、スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製 L-8i)を用いて、入口温度190℃、出口温度85℃の条件で噴霧乾燥し、薄片状チタン酸粉末を得た。
【0120】
(実施例2)
実施例1の2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール90%水溶液の添加量をTiO100gあたり10.7g(層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.15中和当量)とすること以外は実施例1と同様にして薄片状チタン酸分散液、薄片状チタン酸篩中分散液、薄片状チタン酸ケーキ、薄片状チタン酸粉末を得た。
【0121】
(実施例3)
イオン交換に用いる1.1規定硫酸水溶液の量を調整したこと以外は実施例1と同様の方法でイオン交換を行い、層状チタン酸ケーキを得た。層状チタン酸ケーキ中に含まれるカリウム量を蛍光X線分析装置(リガク製、RIX2100)で分析した結果、KO/TiOとして3.3%であった。
【0122】
得られた層状チタン酸ケーキをTiO換算で8.5%となるように再度純水に分散させ、層状チタン酸分散液とした。当該層状チタン酸分散液とアンモニア水を混合し、pHを8.7に調整した後、TiO100gあたり21.4gの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール90%水溶液(層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.3中和当量)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、薄片状チタン酸分散液を得た。
【0123】
次に、スラリースクリーナー(アコージャパン株式会社製 SS95×250)に目開き10μmのメッシュを取り付け、得られた薄片状チタン酸分散液を純水で2倍希釈した溶液を18L/時で流して分級し、網上の薄片状チタン酸分散液と網下の薄片状チタン酸分散液をそれぞれ回収した。
【0124】
網上の薄片状チタン酸分散液に純水を加えて3倍希釈し、遠心分離機(三菱化工機製、SJ10F)で沈降物と上澄みに分離した。遠心分離で得られた沈降物(薄片状チタン酸ケーキ)を、スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製 L-8i)を用いて、入口温度190℃、出口温度85℃の条件で噴霧乾燥し、薄片状チタン酸粉末を得た。
【0125】
(比較例1)
実施例1で得られた薄片状チタン酸分散液について、分級操作を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、遠心分離、スラリー調製、噴霧乾燥を行い、薄片状チタン酸ケーキ、薄片状チタン酸粉末を得た。
【0126】
(比較例2)
実施例2で得られた薄片状チタン酸分散液について、分級操作は行わなかったこと以外は実施例2と同様の方法で、遠心分離、スラリー調製、噴霧乾燥を行い、薄片状チタン酸ケーキ、薄片状チタン酸粉末を得た。
【0127】
(比較例3)
チタン酸リチウムカリウム合成時の焼成温度を1100℃としたこと、剥離剤として、TiO100gあたり3.5gのn-プロピルアミン(層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.08中和当量)を用いたこと以外は実施例1と同様にして薄片状チタン酸分散液を得た。この薄片状チタン酸分散液を10000rpmで10分間遠心分離し、固形分を回収し、薄片状チタン酸ケーキを得た。
【0128】
(粒度分布の測定)
薄片状チタン酸分散液中の薄片状チタン酸の粒度分布をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)を用いて測定した。屈折率は2.50とした。実施例1及び2は分級後の薄片状チタン酸篩中分散液を、実施例3は分級後の網上の薄片状チタン酸分散液をそれぞれ測定に用いた。
【0129】
(炭素量、窒素量の測定)
薄片状チタン酸ケーキを、150℃、16時間乾燥した後のサンプルの炭素量、窒素量を元素分析装置(エレメンター社製 Vario EL III)を用いて分析した。
【0130】
(塗料の作製1)
実施例1、2、比較例1、2で得た薄片状チタン酸粉末1.25g、表1の配合のアクリルシリコン樹脂配合物(固形分42%)11.9g、純水9.40gをガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合し、塗料を作製した。比較例3で得た薄片状チタン酸ケーキは固形分換算で1.25gのケーキを秤量し、表1の配合のアクリルシリコン樹脂配合物(固形分42%)11.9g、純水9.40g(薄片状チタン酸ケーキが保持する水分を含む)をガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合し、塗料を作製した。薄片状チタン酸ケーキの固形分は150℃、16時間乾燥前後の質量変化から算出した。
【0131】
(塗料の作製2)
実施例1、2、3、比較例1、2で得た薄片状チタン酸粉末5.0g、表1の配合のアクリルシリコン樹脂配合物(固形分42%)11.9gをガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合後、塗料粘度が200mPa・sとなるよう純水を加え、塗料を作製した。比較例3で得た薄片状チタン酸ケーキは固形分換算で5.0gのケーキを秤量し、表1の配合のアクリルシリコン樹脂配合物(固形分42%)11.9gをガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで5分間混合後、塗料粘度が200mPa・sとなるよう純水を加え、塗料を作製した。薄片状チタン酸ケーキの固形分は150℃、16時間乾燥前後の質量変化から算出した。
【0132】
【表1】
【0133】
(光輝性評価用塗膜1の作製)
前記「塗料の作製1」の方法にて作製した塗料を、PETフィルム(東レ株式会社製 ルミラーT60)上に、3milのドクターブレードを用いて塗布し、60℃で30分間強制乾燥を行い、光輝性評価用塗膜を作製した。また、光輝性顔料に市販のパールマイカ(メルク社製 Iriodin 6103及びIriodin 6111)を用いた塗膜も同様の処方で作製し、それぞれ参考例1及び2として、後述の光輝感、緻密感、粒子感の各目視評価の3段階評価の評価基準とした。
【0134】
(光輝性評価用塗膜2の作製)
前記「塗料の作製2」の方法にて作製した塗料を、PETフィルム(東レ株式会社製 ルミラーT60)上に、スプレーガンで塗布し、60℃で30分間強制乾燥を行い、膜厚10μmの塗膜を作製した。
【0135】
(陰影感の評価1)
前記「光輝性評価用塗膜1の作製」の方法にて作製した塗膜の裏面に白黒チャート紙の黒地を当て、変角分光測色システム(株式会社村上色彩研究所製、GCMS-3型)を用いて光源を-45°の方向から照射し、ハイライト(受光角40°及び受光角50°)及び、シェード(受光角-65°)のL値を測定した。ハイライトのLの最大値からシェードのLを引いてΔL を算出し、陰影感を評価した。
【0136】
(陰影感の評価2)
前記「光輝性評価用塗膜2の作製」の方法にて作製した塗膜の裏面に白黒チャート紙の白地を当て、多角度測色計(ビックガードナー社製、BYK-mac i)を用いて光源を-45°の方向から照射し、ハイライト(受光角30°)及び、シェード(受光角-65°)のL値を測定した。ハイライトのLからシェードのLを引いた値をΔL とし、陰影感を評価した。
【0137】
(光輝感の評価)
作製した塗膜の光輝感を目視で評価した。光輝感とはメタリック調の輝度を有する程度を示した指標であり、光輝感が強いものから順に1~3の3段階で評価した。
【0138】
(シルキー感(緻密感、粒子感)の評価)
作製した塗膜のシルキー感を目視で評価した。シルキー感の指標としては、緻密感と粒子感の2種とした。緻密感とは絹のような継ぎ目のない滑らかな意匠であり、緻密感があるものから順に、1~3の3段階で評価した。粒子感とは粒子それぞれが単独で輝きキラキラとしているように見える意匠であり、粒子感が感じられないものを1、キラキラ感の強いものを3として、1~3の3段階で評価した。
【0139】
(粒子の厚み計測)
光輝性評価用に作成した塗膜をミクロトームで切断し、断面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)で観察した。観察された薄片状チタン酸粒子50個の厚みを計測し、平均値を薄片状チタン酸粒子の厚みとした。
【0140】
(耐候性評価用塗膜の作製)
ダル鋼板上に、60番のバーコーターを用いて前記塗料を塗布し、60℃で30分間強制乾燥させ、光輝性塗膜を形成した。次に、市販の2液硬化型ウレタン樹脂塗料の主剤と硬化剤を混合しトップコート塗料を作製した。該塗料を60番のバーコーターを用いて前記光輝性塗膜上に塗布し、80℃で30分間強制乾燥させトップコートを形成させ、耐候性評価用塗膜とした。
【0141】
(耐候性の評価)
塗膜のハンター表色系におけるL、a、b値を、分光色彩計(日本電色工業株式会社製、SD 5000)を用いて測定した。塗膜の耐候性は促進暴露試験で評価した。試験は、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機製、WEL-SUN-HC型)を用い、ブラックパネル温度63±3℃、光源カーボンアークランプ、シャワー噴霧1時間中12分間の条件で実施した。一定時間毎にL、a、b値を上記と同様の方法で測定した。促進暴露300時間経過後のL、a、b値と促進暴露試験前のL、a、b値から色差ΔEを算出した。ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)(1/2)として計算した。
【0142】
(Cs含有量の分析)
薄片状チタン酸粉末を蛍光X線分析装置(リガク製、RIX2100)によって分析し、Cs含有量を求めた。
【0143】
実施例及び比較例の粒度分布測定結果を表2に示す。ΔL (およびΔL )と光輝感、シルキー感の評価結果を表3に示す。実施例1の薄片状チタン酸粒子の厚みは0.1μm、比較例1の薄片状チタン酸粒子の厚みは0.1μm、比較例3の薄片状チタン酸粒子の厚みは0.7μmであった。実施例1で得られた薄片状チタン酸粉末のCs量は検出下限(0.01質量%)以下であった。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
実施例1、2、比較例1、2のサンプルはいずれもΔL が150以上(ΔL が60以上)であり、陰影感、光輝感があるが、分級操作によって(D90-D10)/D50を1.5以下とした実施例1~3の方が比較例1、2に比べてシルキー感に優れていた。比較例3は、ΔL (およびΔL )が低く、陰影感、光輝感ともに乏しかった。また目視確認によるシルキー感は最も低かった。参考例として示す通り、市販のパールマイカは光輝感、シルキー感を両立するものはないが、実施例1~3の薄片状チタン酸は光輝感と陰影感を持ちながら、緻密感が高く粒子感がほぼないという独特の意匠感を示すことが分かる。
【0147】
各サンプルの炭素量、塩基性官能基含有量、窒素量、耐候性(ΔE)を表4に示す。剥離剤として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを用いた実施例1の塩基性官能基含有量(%)は、(塩基性有機化合物1分子あたりの塩基性官能基の数)×(炭素量(質量%))/{(炭素の原子量×化合物1個あたりの炭素数)/(TiOの式量)}の一般式において、1×(0.910)/{(12.0×4)/79.9}=1.51%であった。剥離剤としてn-プロピルアミンを用いた比較例3の塩基性官能基含有量(%)は、(塩基性有機化合物1分子あたりの塩基性官能基の数)×{(炭素量(質量%))/(炭素の原子量×化合物1個あたりの炭素数)}/(TiOの式量)の一般式において、1×(1.11)/{(12.0×3)/79.9}=2.46%であった。
【0148】
【表4】
【0149】
実施例1~3は分級操作によって塩基性官能基含有量が2.4%以下に低減され、比較例に比べてΔEが低く、耐候性が改良されていた。比較例はいずれも、2.4%を超える塩基性官能基含有量を有しており、耐候性は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば、光輝感が強く、かつ陰影感があるシルキー感を塗膜に付与できると同時に、高い耐候性を示す薄片状チタン酸及び安価で工業生産に適したその製造方法を提供できる。また、更に緻密感を高め粒子感を低減した、より高いシルキー感を塗膜に付与できる。従って、本発明の薄片状チタン酸は光輝性顔料として好適であり、塗料組成物、インキ組成物、プラスチック樹脂組成物等に配合して用いることができる。これにより、従来にない独特の意匠感を持つ物品を実用に供することができる。