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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/365 20180101AFI20230508BHJP
   F21S 41/675 20180101ALI20230508BHJP
   F21S 41/33 20180101ALI20230508BHJP
   F21S 41/265 20180101ALI20230508BHJP
   F21W 102/13 20180101ALN20230508BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230508BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20230508BHJP
【FI】
F21S41/365
F21S41/675
F21S41/33
F21S41/265
F21W102:13
F21Y115:10
F21Y115:30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019100115
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020194723
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】本多 貴彦
【審査官】上尾 敬彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/002630(WO,A1)
【文献】特開2017-174737(JP,A)
【文献】特開2016-115582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/365
F21S 41/675
F21S 41/33
F21S 41/265
F21W 102/13
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、投影レンズと、傾動自在な反射面をそれぞれ備えた複数の反射素子を備えるとともに光源の光を投影レンズに反射する空間光変調器と、光源の光を前記空間光変調器に導く光学系と、を備えた灯具ユニットを有する車両用灯具において、
前記光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から上方または下方のいずれかにオフセットした位置に集光し、前記空間光変調器に光度分布を持つ光を照射するように形成されたことを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記灯具ユニットは、第1ユニットと第2ユニットによって形成され、
第1灯具ユニットの光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から下方にオフセットした位置に集光するように形成され、
第2灯具ユニットの光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から上方にオフセットした位置に集光するように形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記第1灯具ユニットの第1空間光変調器は、その中心が第1投影レンズの後方焦点の上方に位置するように配置され、
前記第2灯具ユニットの第2空間光変調器は、その中心が第2投影レンズの後方焦点の下方に位置するように配置されたことを特徴とする、請求項2に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配光可変型前照灯または路面描画を行う車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、段落番号[0017]と図1等に光源からの光を空間光変調器によって変調しつつ投影レンズに反射して所定形状の配光パターンを車両の前方に表示する灯具ユニットが開示されている。
【0003】
灯具ユニットに含まれるDMD(Digital Micromirror Device)のような空間光変調器は、光源からの光を多数の反射素子毎に独立して変調しつつ反射して投影レンズに透過させることにより、車両の前方に所定の形状及び濃淡を有する前方表示、即ち前照灯表示や路面表示を行うことが出来る。
【0004】
特許文献1の灯具ユニットによる前方表示は、空間光変調器の中心が投影レンズの光軸上に位置するように空間光変調器を配置しているため、車両前方に前方表示を照射すると仮定したテストスクリーン(灯具ユニットの光源の光軸に直交する仮想鉛直面)のHV点(投影レンズの光軸を仮想スクリーンに直交させた交点)を中心として上下左右に均等な範囲に照射される。
【0005】
このような前方表示により、特許文献1の灯具ユニットは、テストスクリーンにおけるH-H線(テストスクリーンの面に沿ってHV点を通る水平線)より上方への表示によって所定形状を有する可変型の配光パターンを車両の前方に表示する一方、H-H線より下方への表示によって、車両前方かつ斜め下方の路面に所定形状の路面表示を描画する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-219279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示す灯具ユニットは、テストスクリーンにおいてH-H線から上方または下方のいずれかへ前方表示を行うことで配光可変型前照灯、または路面描画ユニットの双方の機能を実現出来る。しかし、特許文献1の灯具ユニットは、H-H線の上方及び下方エリアに光を半分ずつ照射するため、可変型配光パターン及び路面描画表示の双方において光量不足が発生する問題がある。
【0008】
本願は、上記問題に鑑みて、可変型配光パターンまたは路面描画の双方の前方表示において十分な明るさを確保した車両用灯具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光源と、投影レンズと、傾動自在な反射面をそれぞれ備えた複数の反射素子を備えるとともに光源の光を投影レンズに反射する空間光変調器と、光源の光を前記空間光変調器に導く光学系と、を備えた灯具ユニットを有する車両用灯具において、前記光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から上方または下方のいずれかにオフセットした位置に集光するようにした。
【0010】
(作用)光学系によって空間光変調器の照射領域の中心から上方に集光された光は、テストスクリーンのH-H線の下方に照射されて、路面描画用の照射光の光束を増加させ、光学系によって空間光変調器の照射領域の中心から下方に集光された光は、テストスクリーンのH-H線の上方に照射されて、可変型配光パターンの照射光の光束を増加させる。
【0011】
また、前記灯具ユニットは、第1ユニットと第2ユニットによって形成され、第1灯具ユニットの光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から下方にオフセットした位置に集光するように形成され、第2灯具ユニットの光学系は、空間光変調器に入射する光源の光を空間光変調器の照射領域の中心から上方にオフセットした位置に集光するように形成されることが望ましい。
【0012】
(作用)第1灯具ユニットが照射光の光束を増加させた路面描画を車両の前方に表示し、第2灯具ユニットが照射光の光束を増加させた可変型配光パターンを車両の前方に表示する。
【0013】
また、前記第1灯具ユニットの第1空間光変調器は、その中心が第1投影レンズの後方焦点の上方に位置するように配置され、前記第2灯具ユニットの第2空間光変調器は、その中心が第2投影レンズの後方焦点の下方に位置するように配置されることが望ましい。
【0014】
(作用)第1空間光変調器の中心を第1投影レンズの後方焦点の上方に配置することで、第1灯具ユニットは、前方表示の照射エリアの半分以上を利用して路面描画を車両の前方路面に表示すると共にホットスポットの全域がテストスクリーンの中央におけるH-H線の直下に位置することで路面描画を車両からより遠くの前方路面に表示させ、第2空間光変調器の中心を第2投影レンズの後方焦点の下方に配置することで、第2灯具ユニットは、前方表示の照射エリアの半分以上を利用して可変型配光パターンを車両の前方空間に照射すると共にホットスポットの全域がテストスクリーンの中心(HV点)に位置することで可変型配光パターンを車両からより遠くの前方路面に表示させる。
【発明の効果】
【0015】
灯具ユニットによれば、可変型配光パターンまたは路面描画の双方の前方表示において十分な明るさが確保される。
【0016】
また、灯具ユニットによれば、可変型配光パターン及び路面描画を同時に車両の前方に表示する際に十分な明るさが確保される。
【0017】
また、灯具ユニットによれば、第1灯具ユニットによる路面描画の照射範囲と第2灯具ユニットによる可変型配光パターンの照射範囲を広く出来ると共に、可変型配光パターンと路面描画の双方をより車両前方においてより遠くに照射出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両用灯具の実施形態に関する正面図。
図2】DMD灯具ユニットを縦に切断した図1におけるI-I断面図
図3】(a)左用DMD灯具ユニットのDMDモジュールと第1レンズを示す部分拡大断面図。(b)右用DMD灯具ユニットのDMDモジュールと第1レンズを示す部分拡大断面図。
図4】(a)本実施形態の光学系の第1変形例を示す図2の部分拡大断面図。(b)本実施形態の光学系の第2変形例を示す部分拡大断面図。(c)本実施形態の光学系の第3変形例を示す部分拡大断面図。
図5】(a)DMD灯具ユニットによる従来の照射範囲に関する説明図。(b)本実施形態のDMD灯具ユニットによる可変型配光パターンの照射範囲を示す説明図。(c)本実施形態のDMD灯具ユニットによる路面描画表示の照射範囲を示す説明図。
図6】左右一対のDMD灯具ユニットによる合成された照射範囲を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図1から図6に基づいて説明する。各図においては、車両用灯具の搭載車両(図示せず)のドライバーから見た道路の方向を(上方:下方:左方:右方:前方:後方=Up:Lo:Le:Ri:Fr:Re)として説明する。
【0020】
図1図2に示す車両用灯具(1、1’)は、左右一対の前照灯の一例を示すものであり、車両前方側に開口部を有するランプボディ(2,2’)と、前記開口部を閉塞する透明または半透明の前面カバー(3,3’)とを備える。ランプボディ(2、2’)と前面カバー(3、3’)の内側に形成された灯室Sの内側には、DMD(Digital Micromirror Device)灯具ユニット(4、4’)と、ロービーム用灯具ユニット(5、5’)、エイミングブラケット6(右用は図示せず)、スイブルユニット(7、7’),複数のエイミングスクリュー(8,8’)、エクステンションリフレクタ(9,9’)、及び制御装置10(右用は図示せず)が収容される。本実施形態における右用の車両用灯具1’は、左用の車両用灯具1に対して左右対称となる形態を備え、右用のDMD(Digital Micromirror Device)灯具ユニット4’以外、左用の車両用灯具1と共通の構成を有する。
【0021】
図1及び図2に示される左用のDMD灯具ユニット4(第1ユニット)は、制御装置10、スイブルブラケット12,LEDやレーザーダイオード等の発光素子からなる光源13,自由曲面形状の反射面14aを備えたリフレクタ14,DMDモジュール15、投影レンズモジュール16によって構成される。
【0022】
図2に示す制御装置10は、光源13のオン/オフ制御と、スイブルユニット7の動作制御を行う。スイブルブラケット12には、光源13、リフレクタ14,DMDモジュール15、投影レンズモジュール16が搭載される。光源13とリフレクタ14は、それぞれスイブルブラケット12の取付孔12aの内壁に取り付けられ、DMDモジュール15は、基板18に空間光変調器17を搭載することによって構成され、基板18は、空間光変調器17を前方に向けた状態でスイブルブラケット12の後端部から上方に伸びる立壁部12bに取り付けられ、投影レンズモジュール16は、スイブルブラケット12の前端部近傍に取り付けられる。図2に示すリフレクタ14は、光源13の光を反射して空間光変調器17に導く光学系として構成される。
【0023】
図2に示す空間光変調器17は、格子状に上下左右に配列された多数の微細な傾動可能な可動式反射面17aを備えたマイクロミラー群によって構成される。各可動式反射面17aは、制御装置10によって独立して稼働制御されることでオン(マイクロミラーの反射により、光源の光を投影レンズに入射させる状態)とオフ(光源の光を投影レンズに入射させない状態、即ちマイクロミラーによって光源の光を投影レンズの外側に反射して投影レンズへの入射を無効化した状態)とを切り換えられ、点灯箇所の合成からなる光像を表示する。
【0024】
図2の投影レンズモジュール16は、後方から前方に両凸となる第1レンズ16a、両凹となる第2レンズ16b、平凸となる第3レンズ16c、レンズホルダー16d、及び台座部16eを有し、第1~第3レンズ(16a~16c)は、互いに間隔を開けて後方から順番に配置された状態でレンズホルダー16dに固定される。レンズホルダー16dは、台座部16eを介してスイブルブラケット12に搭載される。尚、投影レンズモジュール16を構成するレンズの枚数、形状、光源13の数、光源13から投影レンズモジュール16への光の入射方向等は、図2に図示した内容に限られない。
【0025】
図2及び図3(a)に示すようにリフレクタ14は、光源13とDMDモジュール15の空間光変調器17の双方に対向するように配置され、空間光変調器17は、第1レンズ16aに対向するように配置される。また、図3(a)に示すように空間光変調器17の中心17bは、第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の光軸L0上に位置する共通する後方焦点P1よりも下方に配置される。
【0026】
尚、全体的な縦断面を図示していないが、図1に示す右用のDMD灯具ユニット4’(第2ユニット)は、リフレクタ14’の反射面14a’の形状と、第1レンズ16aに対する空間光変調器17’の配置が左用のDMD灯具ユニット4のものと異なる他、左用のDMD灯具ユニット4と共通した構成を有する。具体的には、図3(b)に示すようにリフレクタ14’は、光源13とDMDモジュール15’の空間光変調器17’の双方に対向するように配置され、図1図3(b)に示すように空間光変調器17’の中心17b’は、第1レンズから第3レンズ(第1レンズ16aのみ図示)の光軸L0上に位置する共通する後方焦点P1よりも上方に配置される。
【0027】
図2のスイブルブラケット12は、スイブルユニット7の上下に伸びる軸線L1周りに自動的に回動するモーター駆動軸7aの上に一体に搭載され、レンズホルダー16dの上面には、モーター駆動軸7aと同軸(軸線L1)となる支持軸16fが設けられる。スイブルユニット7は、スイブルブラケット12を支持した状態でエイミングブラケット6の下端部6aに支持され、レンズホルダー16dの支持軸16fは、エイミングブラケット6の上端部6bの支持孔6cに回動可能に支持される。下端部6aは、制御装置10を搭載した基端部6dを介して上端部6bに一体化され、基端部6dは、複数(本実施例では3つ)のエイミングスクリュー8によって、ランプボディ2に対して傾動自在に取り付けられる。
【0028】
図2のスイブルブラケット12上に一体化された光源13、リフレクタ14,DMDモジュール15、投影レンズモジュール16は、制御装置10によって制御されるスイブルユニット7のモーター駆動軸7aの回動に伴って一体となって軸線L1周りに回動し、左右にスイブルする。図1のロービーム用灯具ユニット5と、投影レンズモジュール16の第1から第3レンズ(16a~16c)を除いた灯室の内側は、図2(a)のエクステンションリフレクタ9によって前方から目隠しされる。
【0029】
図2図3(a)に示す自由曲面形状を有する光学系であるリフレクタ14は、反射面14aによって光源13による出射光B1を後述する所定の光度分布としつつ空間光変調器17の全域に反射する。また、図3(b)に示す自由曲面形状を有する光学系であるリフレクタ14’は、反射面14a’によって光源13による出射光B2を後述する所定の光度分布としつつ空間光変調器17’の全域に反射する。
【0030】
尚、光源による出射光を後述する所定の光度分布とする光学系は、図2に示すようなリフレクタ14のみによって構成することに限られず、図4(a)の符号21に示すように自由曲面形状の反射面19aを備えたリフレクタ19と自由曲面形状の光入射面または光出射面を有する集光レンズ20との組み合わせから構成されてもよい。集光レンズ20は、図示しない構造によってスイブルブラケット12に取り付けられることによってリフレクタ19の反射面19aと空間光変調器17の間に設置される。また、集光レンズ20は、光源13から出射してリフレクタ19によって反射された光B3を透過させ、反射面19aと協働し、または単独で後述する所定の光度分布を備える透過光を空間光変調器17の全域に照射する。
【0031】
尚、図4(b)は、光学系21の変形例として自由曲面形状の反射面19a’をリフレクタ19’と集光レンズ20'によって構成された光学系21’を示す。空間光変調器17に対して所定の光度分布の光を照射する集光レンズ20’は、図示しない構造によってスイブルブラケット12に取り付けられ、光源13とリフレクタ19’の反射面19a’との間に設置される。集光レンズ20’は、光源13から出射した光B3’をリフレクタ19'の反射面19a’に向けて透過させ、反射面19a’と協働し、または単独で後述する所定の光度分布を備える透過光を空間光変調器17の全域に照射する。
【0032】
また、光源による出射光を後述する所定の光度分布とする光学系は、図4(c)に示すように空間光変調器17と光源13’との間に設置された自由曲面形状の出射面または入射面を有する集光レンズ22のみによって構成されても良い。集光レンズ22は、図示しない構造によってスイブルブラケット12’に取り付けられると共に空間光変調器17に対向するようにスイブルブラケット12'の取付孔12a’に設置された光源13’の光路上に設置され、光源13'からの出射光B4を透過させ、後述する所定の光度分布を備える透過光を空間光変調器17の全域に照射する。
【0033】
図2から図4の各図に示す空間光変調器17(または17’)は、制御装置10の制御に基づいてオンにされた多数の可動式反射面17a(または17a’)によって光B1(または光B2~B4)を投影レンズモジュール16の第1レンズ16aに向けて反射する。反射された光B1(または光B2~B4)は、第1~第3レンズ(16a~16c)及び前面カバー3を順に透過し、図示しない車両の前方にオンにされた多数の可動式反射面17aの反射箇所(点灯箇所)の合成に基づき後述する所定形状の可変型配光パターンを照射し、または路面描画を行う。
【0034】
次に図5図6により、本実施形態の車両用灯具1のDMD灯具ユニット(4、4’)における空間光変調器への照射光の光度分布と、車両用灯具(1,1’)によって車両(図示せず)の前方等に照射される可変型配光パターンまたは路面描画表示の照射範囲について説明する。
【0035】
尚、図5及び図6の上図は、DMD灯具ユニット4の後方から見たと仮定した空間光変調器17等の図である。図5各図及び図6の上図は、DMD灯具ユニットの光源から空間光変調器に入射する光の光度分布と、投影レンズの後方焦点に対する空間光変調器の中心の位置関係を示しており、図5各図及び図6の下図は、符号Lhで示される二点鎖線の範囲が、図1の左右のロービーム用灯具ユニット5によるロービーム用配光パターンを示し、符号Dh0は、従来のDMD灯具ユニットによる光の照射範囲を示し、符号Dh1は、左用のDMD灯具ユニット4による光の照射範囲を示し、符号Dh2は、右用のDMD灯具ユニット4’による光の照射範囲を示す。
【0036】
また、図5(a)から図5(c)の上下の図にそれぞれ示す符号Dh01~Dh03、符号Dh11~Dh13及び符号Dh21~Dh23は、所定の基点から放射状に拡散する光の光度分布の変化を符号中の数字の小さな順にイメージとして示すものであると共に、空間光変調器上への光の光度分布と空間光変調器による反射光の光度分布の対応関係を示すものである。
【0037】
図5(a)の上図は、従来のDMD灯具ユニットによる投影レンズの後方焦点に対する空間光変調器の中心の位置関係と、空間光変調器上の光の光度分布を示し、図5(a)の下図は、空間光変調器から車両(図示せず)の前方に照射される光の照射範囲及びロービーム用配光パターンを示すものである。図5(a)の上図に示すように従来の空間光変調器17の中心17bは、投影レンズの光軸L0上の後方焦点P1と一致するように配置され、光源から出射した光は、リフレクタや集光レンズ等の光学系を介して空間光変調器17の中心17bを焦点とするように照射され、空間光変調器17の可動式反射面17a上の光度分布は、中心17bを基点として放射状に拡散するような態様となっていた。
【0038】
その結果、図5(a)の下図に示すように、従来のDMD灯具ユニットは、光の照射範囲Dh0のうち、符号Dh0’で示される上半分の範囲を可変型配光パターンの表示に使用し、符号Dh0’’で示される下半分の範囲を路面描画の表示に使用しており、その場合、DMD灯具ユニットによる光の照射範囲Dh0は、符号Dh01で示すホットゾーン近傍領域がHV点を中心としてH-H線の上下に均等に発生するため可変型配光パターンと路面描画表示の双方が車両(図示せず)から遠方まで表示される利点を有する反面、可変型配光パターンと路面描画表示のいずれにおいても半分ずつしか使用出来ず、照射範囲が狭くなるという問題があった。
【0039】
尚、可変型配光パターンは、路面の形状や歩行者、対向車の有無等に応じて形状が変化する前照灯表示であり、路面描画表示は、車両用灯具を搭載した車両(図示せず)の進行方向にいる対向車のドライバーや歩行者等に車両接近の事実や車両の進行方向を知らせるために進行方向の道路の路面等に所定形状の図形や文字等を光によって照射した表示を言う。
【0040】
そこで、本実施形態の車両用灯具(1、1’)においては、図3(a)に示す左用のDMD灯具ユニット4における空間光変調器17に照射される光B1の光度分布が図5(b)に示す態様となるようにリフレクタ14の反射面14aを形成し、図3(b)に示す右用のDMD灯具ユニット4’における空間光変調器17’に照射される光B2の光度分布が図5(c)に示す態様となるようにリフレクタ14’の反射面14a’を形成し、左側のDMD灯具ユニット4が可変型配光パターンを車両(図示せず)の前方に表示し、右側のDMD灯具ユニット4'が路面描画表示を車両(図示せず)前方の路面等に表示することとしている。
【0041】
具体的には、図3(a)及び図5(b)の上図に示すように、左用のDMD灯具ユニット4のリフレクタ14は、中心17bを第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも下方に配置した空間光変調器17の可動式反射面17aに対し、反射面14aを介して光源13からの光B1を中心17bよりも上方にオフセットした位置に集光反射するように形成され、リフレクタ14は、図5(b)の下図に示すように可動式反射面17aによる反射光の領域Dh11がHV点を中心として発生するように形成される。
【0042】
その場合、図5(b)の下図に示すようにDMD灯具ユニット4による光の照射範囲Dh1のほぼ全域が、反転してH-H線の上方に表示され、更に符号Dh11で示される範囲に形成されるホットスポットが、照射範囲Dh1の下端中央部に形成されることで従来と同様にHV点を中心に形成される。その結果、本実施形態のDMD灯具ユニット4によれば、表示範囲のほぼ全域を可変型配光パターンの表示に利用して表示範囲を広くしつつ、より遠くまで可変型配光パターンを明るく表示することが出来る点で利点がある。
【0043】
また、図3(b)及び図5(c)の上図に示すように、右用のDMD灯具ユニット4’のリフレクタ14’は、中心17b’を第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも上方に配置した空間光変調器17’の可動式反射面17a’に対し、反射面14a’を介して光源13からの光B2を中心17b’よりも下方にオフセットした位置に集光反射するように形成され、リフレクタ14’は、図5(c)の下図に示すように可動式反射面17a’による反射光の領域Dh21の上端がH-H線に接しつつH-H線の下方に発生するように形成される。
【0044】
その場合、図5(c)の下図に示すようにDMD灯具ユニット4’による光の照射範囲Dh2の全域が、反転してH-H線より下方に表示され、更に符号Dh21で示される範囲に形成されるホットスポットが、上端部をHV点及びH-H線に接しつつ、照射範囲Dh1の上端中央部に形成されるため、本実施形態のDMD灯具ユニット4’によれば、表示範囲のほぼ全域を路面描画表示に利用して表示範囲を広くしつつ、より遠くの路面にむけて明るい路面描画表示を行うことが出来る点で利点がある。
【0045】
尚、本実施形態においては、図3(a)及び(b)に示すように左用の空間光変調器17の中心17bを第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも下方に配置し、右用の空間光変調器17'の中心17b’を第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも上方に配置しているが、これとは逆に左用の空間光変調器17の中心17bを第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも上方に配置し、右用の空間光変調器17'の中心17b’を第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも下方に配置してもよい。
【0046】
図6の下図は、図1に示す左右一対のDMD灯具ユニット(4、4’)によってそれぞれ照射される光の照射範囲と、図1に示す左右のロービーム用灯具ユニット(5,5’)による合成されたロービーム用配光パターンLhを示す。
【0047】
図6の上図に示されるように空間光変調器17の中心17bを第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも下方に配置した左用の灯具ユニット4は、図6の下図に示すようにH-H線のほぼ上方の範囲Dh1に所定形状の可変型配光パターンを表示し、図6の上図に示されるように空間光変調器17’の中心17b’を第1レンズから第3レンズ(16a~16c)の後方焦点P1よりも上方に配置した右用の灯具ユニット4’は、図6の下図に示すようにH-H線に上端を接する範囲Dh2に所定形状の路面描画表示Dh2を表示する。また、DMD灯具ユニット(4、4’)によって符号Dh11、Dh22の範囲にそれぞれ表示されるホットスポットは、一部が重なりつつHV点の周囲に形成される。このようにすることで、本実施形態の車両用灯具(1,1’)には、可変型配光パターン表示(符号Dh1)と路面描画表示(符号Dh2)の双方が、同時に広範囲にかつ遠くまで照射される点で利点がある。
【符号の説明】
【0048】
1 車両用灯具
4、4’ DMD灯具ユニット
13 光源
16a~16c 第1レンズから第3レンズ(投影レンズ)
17、17’ 空間光変調器
17a、17a’ 可動式反射面
17b、17b’ 中心
P1 投影レンズの後方焦点
図1
図2
図3
図4
図5
図6