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  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図1A
  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図1B
  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図1C
  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図2A
  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図2B
  • 特許-複合材料、及び複合材料の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】複合材料、及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 26/00 20060101AFI20230508BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20230508BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20230508BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230508BHJP
   C01B 32/28 20170101ALI20230508BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230508BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230508BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C22C26/00 Z
C22C1/05 P
C22C1/10 E
H01L23/36 M
C01B32/28
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C9/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020501758
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005901
(87)【国際公開番号】W WO2019163721
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018029077
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】松儀 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岩山 功
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-115096(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035795(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0319900(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 6/00
B22F 1/02
B22F 3/26
C01B 32/28
C22C 1/05
C22C 1/10
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドからなる炭素系粒子と、前記炭素系粒子の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを備える被覆粒子と、
前記被覆粒子同士を結合する銅相とを備え、
前記炭化物層は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む炭化物からなり、
前記炭素系粒子の平均粒径が1μm以上100μm以下であり、
前記被覆粒子は、前記炭化物層の一部に銅成分を内包する粒子を含み、
断面において、前記被覆粒子の合計断面積に対して、前記銅成分を内包する前記粒子の合計断面積の割合が30%以上であり、
前記銅成分を内包する前記粒子における前記炭化物層中の前記銅成分の合計含有量が1体積%以上70体積%以下である、
複合材料。
【請求項2】
前記炭化物層の最大厚さが3μm以下である請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記炭化物層の一部に銅成分を内包する粒子は、前記銅成分の内包箇所が局所的に厚く、前記局所的に厚い箇所が前記炭化物層の周方向に離間して複数存在する請求項1または請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記炭化物層の一部に銅成分を内包する粒子は、前記銅成分の内包箇所のうち、1μm以上の厚さを有する箇所において、前記炭化物と銅とを含めた合計面積が30μm 以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
断面において、前記炭素系粒子の輪郭長さをこの炭素系粒子の等価面積円の円周長さで除した値を凹凸度とし、前記凹凸度が1.2以上である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記銅相における前記元素の含有量が1質量%以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記炭素系粒子の含有量が40体積%以上85体積%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
熱伝導率が200W/m・K以上である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
線膨張係数が4×10-6/K以上15×10-6/K以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項10】
第一の層と、第二の層とを積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱する工程とを備え、
前記第一の層は、
ダイヤモンドからなる第一の粉末と、
Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物及び前記元素単体の少なくとも一方を含む第二の粉末とを含み、
前記第二の層は、
Cu及び不可避不純物からなる銅素材と、
前記第二の粉末とを含み、
前記加熱する工程では、
1Pa以下の真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気、かつ無加圧の状態での加熱によって、溶融された前記銅素材と、前記第一の粉末とを複合する、
複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記積層体を形成する工程では、
前記第一の粉末に対する前記第二の粉末の添加量を、Cと前記元素との合計量に対する前記元素の質量割合が0.1質量%以上15質量%以下を満たす範囲とし、
前記銅素材に対する前記第二の粉末の添加量を、Cuと前記元素との合計量に対する前記元素の質量割合が0.1質量%以上1質量%以下を満たす範囲とする請求項10に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記銅素材は、酸素濃度が10質量ppm以下の無酸素銅からなる小切片を含む請求項10又は請求項11に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料、及び複合材料の製造方法に関する。
本出願は、2018年02月21日付の日本国出願の特願2018-029077に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体素子のヒートシンク(放熱部材)に適した材料として、ダイヤモンドと金属との複合材料を開示する。この複合材料は、ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層を備えた被覆ダイヤモンド粒子が銀(Ag)と銅(Cu)との合金(Ag-Cu合金)中に分散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-197153号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の複合材料は、
炭素系物質からなる炭素系粒子と、前記炭素系粒子の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを備える被覆粒子と、
前記被覆粒子同士を結合する銅相とを備え、
前記炭化物層は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む炭化物からなり、
前記炭素系粒子の平均粒径が1μm以上100μm以下である。
【0005】
本開示の複合材料の製造方法は、
第一の層と、第二の層とを積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱する工程とを備え、
前記第一の層は、
炭素系物質からなる第一の粉末と、
Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物及び前記元素単体の少なくとも一方を含む第二の粉末とを含み、
前記第二の層は、
Cu及び不可避不純物からなる銅素材と、
前記第二の粉末とを含み、
前記加熱する工程では、
1Pa以下の真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気、かつ無加圧の状態での加熱によって、溶融された前記銅素材と、前記第一の粉末とを複合する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、実施形態の複合材料を模式的に示す断面図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す破線円B内を拡大して示す部分断面図である。
図1C図1Cは、図1Aに示す破線円C内を拡大して示す部分断面図である。
図2A図2Aは、試験例1で作製した試料No.45の断面を顕微鏡で観察した顕微鏡写真の一例である。
図2B図2Bは、図2Aに示す顕微鏡観察像を用いて炭化物層の厚さの測定方法を説明する図である。
図3図3は、試験例1で作製した試料No.45の断面を顕微鏡で観察した顕微鏡写真の別例である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
上述の半導体素子の放熱部材等といった放熱部材の素材として、熱特性に優れつつ、製造性にも優れる複合材料が望まれている。特に、放熱部材としての使用初期に高い熱伝導率を有することに加えて、冷熱サイクルを受けた場合でも熱伝導率の低下が少なく、高い熱伝導率を維持し易い複合材料が望まれる。
【0008】
特許文献1に記載されるAg-Cu合金におけるAgの含有量は、72質量%である。このAg-Cu合金の融点は低い。そのため、溶浸温度を低くすることができる。また、上記Ag-Cu合金では、Cuよりも高い熱伝導率を有するAgが多い。このようなAg-Cu合金を含む複合材料は、熱伝導率を高められる。しかし、上記Ag-Cu合金は、Cuよりも重いAgを多く含むため、重量の増大を招く。また、上記Ag-Cu合金は、高価なAgを多く含むため、原料コストの増大も招く。従って、Agを用いなくても熱特性に優れる上に製造性にも優れる複合材料が望まれる。
【0009】
そこで、本開示は、熱特性に優れる上に製造性にも優れる複合材料を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、熱特性に優れる複合材料を生産性よく製造できる複合材料の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の複合材料は、熱特性に優れる上に製造性にも優れる。本開示の複合材料の製造方法は、熱特性に優れる複合材料を生産性よく製造できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る複合材料は、
炭素系物質からなる炭素系粒子と、前記炭素系粒子の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを備える被覆粒子と、
前記被覆粒子同士を結合する銅相とを備え、
前記炭化物層は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む炭化物からなり、
前記炭素系粒子の平均粒径が1μm以上100μm以下である。
以下、「Si(珪素),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),及びHf(ハフニウム)からなる群より選択される1種以上の元素」を「特定元素」と呼ぶことがある。
【0012】
本開示の複合材料は、以下に説明するように熱特性に優れる上に、製造性にも優れる。また、本開示の複合材料は、熱特性に優れる上に、炭素系物質とCu(銅)との中間の線膨張係数を有する。代表的には本開示の複合材料の線膨張係数は、半導体素子の線膨張係数や半導体素子の周辺部品(例、絶縁基板等)の線膨張係数に近い。そのため、本開示の複合材料は、これらとの線膨張係数の整合性に優れる。このような本開示の複合材料は、半導体素子の放熱部材の素材に好適に利用できる。
【0013】
(熱特性)
本開示の複合材料は、以下の理由(a)~(c)により、熱伝導性に優れる。
(a)本開示の複合材料は、ダイヤモンド等に代表される高熱伝導率を有する炭素系粒子と、高熱伝導率を有するCuとを主体とする。
(b)代表的には、被覆粒子は、銅相中に分散した状態で存在する。また、炭素系粒子と銅相とが炭化物層を介して密着する。そのため、炭素系粒子と銅相との間に気孔が非常に少ない。従って、気孔に起因して、炭素系粒子と銅相との二者間において熱伝達が低下することを低減できる。
(c)炭素系粒子の平均粒径が1μm以上であり、炭素系粒子が小さ過ぎない。そのため、複合材料中における炭素系粒子の粉末粒界が多過ぎることに起因して熱伝導率が低下することを低減できる。
【0014】
本開示の複合材料は、冷熱サイクルを受けても、熱伝導率の低下が少なく、高い熱伝導率を有する、即ち冷熱サイクル特性にも優れると考えられる。この理由の一つとして、炭素系粒子の平均粒径が100μm以下であり、炭素系粒子が大き過ぎないことが挙げられる。詳細な理由は後述する。
【0015】
(製造性)
(d)本開示の複合材料は、例えば後述する(10)の複合材料の製造方法を利用して製造することが挙げられる。この場合、製造過程では、上記の炭化物層は、炭素系粒子の外周に適切に形成される。この炭化物層は溶融状態の銅(以下、溶融銅と呼ぶことがある)に濡れ易い。そのため、形成された炭化物層を介して、炭素系粒子に対して溶融銅を良好に、かつ自動的に溶浸することができる。
(e)本開示の複合材料は、切削等の加工性に優れる。上述のように炭素系粒子の平均粒径が大き過ぎないからである。そのため、製造過程で研削や研磨等によって寸法や形状を調整することが容易である。
(f)金属相がCu及び不可避不純物からなり、Agが添加されていない。そのため、原料コストを低減することができる。
【0016】
(2)本開示の複合材料の一例として、
前記炭化物層の最大厚さが3μm以下である形態が挙げられる。
【0017】
上記形態では、炭素系物質やCuよりも熱伝導性に劣る炭化物層が薄い。そのため、上記形態は、炭化物層に起因する熱伝導率の低下を低減でき、熱伝導性に優れる。
【0018】
(3)本開示の複合材料の一例として、
前記被覆粒子は、前記炭化物層の一部に銅成分を内包する粒子を含み、
断面において、前記被覆粒子の合計断面積に対して、前記銅成分を内包する前記粒子の合計断面積の割合が30%以上であり、
前記銅成分を内包する前記粒子における前記炭化物層中の前記銅成分の合計含有量が1体積%以上70体積%以下である形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、炭素系物質やCuよりも熱伝導性に劣る炭化物層中に、熱伝導率が高い銅成分を含む被覆粒子が多く存在するといえる。そのため、上記形態は、炭化物層の含有に起因する熱伝導率の大幅な低下を低減できる。特に、上記形態は、炭化物層中の銅成分の含有量が上述の特定の範囲を満たすため、特定元素を含む炭化物と銅成分との双方をバランスよく含むといえる。従って、上記形態は、銅成分の含有による高熱伝導性の効果と、特定元素を含む炭化物層による濡れ性改善の効果とをバランスよく得られて、熱特性に優れる上に製造性にも優れる。
【0020】
(4)本開示の複合材料の一例として、
断面において、前記炭素系粒子の輪郭長さをこの炭素系粒子の等価面積円の円周長さで除した値を凹凸度とし、前記凹凸度が1.2以上である形態が挙げられる。
【0021】
上記凹凸度が1.2以上である炭素系粒子は、炭化物層との接触面積を大きく確保できる。この炭素系粒子は、炭化物層と強固に結合できる上に、この炭化物層を介して銅相と強固に接合される。その結果、炭素系粒子と炭化物層と銅相との三者の界面強度が高い。このような上記形態は、冷熱サイクル特性により優れると期待される。また、上記形態は、製造過程で切削等を行う場合に炭素系粒子の脱落等を低減し易いため、製造性にも優れる。
【0022】
(5)本開示の複合材料の一例として、
前記銅相における前記元素の含有量が1質量%以下である形態が挙げられる。
【0023】
上記形態では、Cuよりも熱伝導率が低い特定元素が銅相中に少ない。そのため、上記形態は、銅相中の特定元素の含有に起因する熱伝導率の低下を低減でき、熱伝導性に優れる。
【0024】
(6)本開示の複合材料の一例として、
前記炭素系物質は、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維からなる群より選択される1種以上の材料である形態が挙げられる。
【0025】
上記に列挙される炭素系物質では、方向にもよるが、熱伝導率が高い。そのため、上記形態は熱伝導性に優れる。
【0026】
(7)本開示の複合材料の一例として、
前記炭素系粒子の含有量が40体積%以上85体積%以下である形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、炭素系粒子を適切に含むことで熱伝導性に優れる。製造過程では炭素系粒子が多過ぎないことで、溶融銅が炭素系粒子間に溶浸し易い。そのため、上記形態は、未溶浸部分の発生等を抑制できて製造性にも優れる。
【0028】
(8)本開示の複合材料の一例として、
熱伝導率が200W/m・K以上である形態が挙げられる。ここでの熱伝導率は大気圧下、室温(5℃以上25℃以下程度)での値とする。
【0029】
上記形態は、熱伝導率が高いため、高い放熱性が求められる半導体素子の放熱部材等の素材に好適に利用できる。
【0030】
(9)本開示の複合材料の一例として、
線膨張係数が4×10-6/K以上15×10-6/K以下である形態が挙げられる。ここでの線膨張係数は30℃から800℃の範囲についての測定値とする。
【0031】
上記形態は、半導体素子の線膨張係数や半導体素子の周辺部品の線膨張係数との整合性に優れるため、半導体素子の放熱部材等の素材に好適に利用できる。
【0032】
(10)本開示の一態様に係る複合材料の製造方法は、
第一の層と、第二の層とを積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱する工程とを備え、
前記第一の層は、
炭素系物質からなる第一の粉末と、
Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物及び前記元素単体の少なくとも一方を含む第二の粉末とを含み、
前記第二の層は、
Cu及び不可避不純物からなる銅素材と、
前記第二の粉末とを含み、
前記加熱する工程では、
1Pa以下の真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気、かつ無加圧の状態での加熱によって、溶融された前記銅素材と、前記第一の粉末とを複合する。
【0033】
本開示の複合材料の製造方法は、以下に説明するように熱特性に優れる複合材料を生産性よく製造できる。
【0034】
(熱特性)
本開示の複合材料の製造方法は、原料に、ダイヤモンド等に代表される高熱伝導率を有する炭素系物質と、高熱伝導率を有するCuとを用いて、炭素系物質とCuとを主体とする複合材料を製造する。このような複合材料は、熱伝導性に優れるといえる。
【0035】
特に、以下の理由(A),(B)から、本開示の複合材料の製造方法は、熱伝導性に優れる複合材料を製造できる。
(A)溶浸時の雰囲気が真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気であるため、銅素材や溶融状態の銅素材(溶融銅)に含まれるCuの酸化、及び第二の粉末に含まれる特定元素の酸化を低減することができる。真空雰囲気や還元雰囲気は、Cuや特定元素を還元できる。そのため、Cuの酸化や特定元素の酸化がより低減され易い。その結果、Cuや特定元素の酸化物の介在に起因する熱伝導率の低下を低減することができる。
【0036】
(B)第一の層と、第二の層との双方が第二の粉末を含む。第二の粉末が比較的多いため、炭化物層が形成され易い。また、炭化物層が適切な厚さに形成され易い(上述の(2)も参照)。上述のように特定元素の酸化を低減できることからも、炭化物層が適切な厚さに形成され易い。炭化物層を介して、第一の粉末をなす炭素系物質からなる粒子と溶融銅とが良好に溶浸されるため、複合材料を緻密化し易い。緻密な複合材料は熱伝導性に優れる。
【0037】
また、本開示の複合材料の製造方法は、炭化物層を適切に形成できることで、冷熱サイクル特性にも優れる複合材料を製造できる。炭化物層によって、上記炭素系粒子に溶融銅が濡れ易いため、炭化物層を介して炭素系粒子と銅相とが密着できる。この密着は、冷熱サイクル特性の向上に寄与する。
【0038】
(生産性)
溶浸に供する素材は、第一の粉末と銅素材とのそれぞれに第二の粉末を含む層を積層させるという単純な工程によって製造できる。また、上述のように特定元素等の酸化を防止して、炭化物層が適切に形成されるため、炭素系粒子と溶融銅とを良好に溶浸することができる。更に、無加圧で溶浸するため、MPaレベル、更にはGPaレベルの圧力を加えて焼結する場合に比較して、高圧印加可能な専用設備等が不要である。
【0039】
(11)本開示の複合材料の製造方法の一例として、
前記積層体を形成する工程では、
前記第一の粉末に対する前記第二の粉末の添加量を、Cと前記元素との合計量に対する前記元素の質量割合が0.1質量%以上15質量%以下を満たす範囲とし、
前記銅素材に対する前記第二の粉末の添加量を、Cuと前記元素との合計量に対する前記元素の質量割合が0.1質量%以上1質量%以下を満たす範囲とする形態が挙げられる。
【0040】
上記形態は、第二の粉末の添加量が上述の特定の範囲を満たすため、炭化物層を適切な厚さに形成できる(上述の(2)も参照)。従って、上記形態は、上述のように良好な溶浸によって緻密化できて、熱伝導性に優れる複合材料を製造できる。また、上記形態は、上述のように良好な溶浸によって、炭化物層を介して炭素系粒子と銅相とが密着できて、冷熱サイクル特性にも優れる複合材料を製造できる。
【0041】
(12)本開示の複合材料の製造方法の一例として、
前記銅素材は、酸素濃度が10質量ppm以下の無酸素銅からなる小切片を含む形態が挙げられる。
【0042】
上記の小切片では、酸素濃度が少ない上に、比表面積が小さい。このような銅素材は、高温状態でのCuの酸化を低減し易く、ひいては特定元素の酸化を低減し易い。特定元素の酸化が低減されることで、上述のように炭化物層が適切に形成される。そのため、良好な溶浸による緻密化、及び炭化物層を介した炭素系粒子と銅相との密着がなされる。また、酸化物の介在による熱伝導率の低下も低減される。更に、無酸素銅自体の熱伝導率が高い。これらのことから、上記形態は、熱特性により優れる複合材料を製造できる。
【0043】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照して、本開示の実施形態に係る複合材料、及び複合材料の製造方法を説明する。
図1は、炭化物層3が分かり易いように炭化物層3を厚く示す。
図2図3は、後述する試験例1で作製した複合材料(試料No.45)を切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した観察像である。
【0044】
[複合材料]
実施形態の複合材料1は、非金属と金属とが複合されたものである。複合材料1は、主たる非金属として被覆粒子4を含み、主たる金属として銅相5を含む。具体的には、実施形態の複合材料1は、図1Aに示すように、被覆粒子4と、被覆粒子4同士を結合する銅相5とを備える。被覆粒子4は、炭素系物質からなる炭素系粒子2と、炭素系粒子2の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層3とを備える。炭化物層3は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素(特定元素)を含む炭化物からなる。代表的には、銅相5中に複数の被覆粒子4が分散した状態で存在する(図2図3の顕微鏡写真も参照)。そのため、複合材料1は、隣り合う被覆粒子4,4間に若干の隙間を有する。この隙間に介在する銅相5によって各被覆粒子4は一体に保持される。複合材料1は、例えば平面視で長方形の平板等に成形されて、半導体素子の放熱部材等に利用される。
【0045】
特に、実施形態の複合材料1では、炭素系粒子2の平均粒径が1μm以上100μm以下である。以下、より詳細に説明する。上記平均粒径等の各パラメータの測定方法は、後でまとめて説明する。
【0046】
なお、図2図3において、黒色の粒子は炭素系粒子2を示す。炭素系粒子2を覆う濃い灰色の膜状のものは炭化物層3を示す。炭化物層3中の薄い灰色の粒状のものは銅成分50(後述)を示す。炭素系粒子2の周囲を覆う薄い灰色の領域は銅相5を示す。
【0047】
(被覆粒子)
<炭素系粒子>
実施形態の複合材料1は、複数の炭素系粒子2を主要な構成要素の一つとする。
【0048】
≪組成≫
炭素系粒子2をなす炭素系物質としては、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、及び炭素繊維から選択される1種以上の材料が挙げられる。ダイヤモンドは、熱伝導に関する異方性を実質的に有しておらず、代表的には1000W/m・K以上といった高い熱伝導率を有する。また、種々の粒径のダイヤモンド粉末が市販されており、原料粉末を入手し易い。これらの点で、ダイヤモンドを含む複合材料1は、放熱部材等の素材に利用し易い上に、製造性にも優れる。
【0049】
グラファイトは切削等の加工を行い易い。そのため、グラファイトを含む複合材料1は、加工性に優れる。カーボンナノチューブにおける軸方向に沿った熱伝導率は、ダイヤモンドにおける軸方向に沿った熱伝導率よりも高い場合がある。そのため、カーボンナノチューブを含む複合材料1は、熱伝導性により優れると期待される。炭素繊維は機械的強度に優れる。そのため、炭素繊維を含む複合材料1は、機械的強度に優れる。
【0050】
上記に列挙する2種又は3種以上の炭素系物質を含む複合材料1は、上述の効果を併せ持つ。例えば、炭素系物質として、主としてダイヤモンドを含み、一部にグラファイトを含む複合材料1は、熱伝導性に優れる上に、切削等の加工も行い易いと期待される。
【0051】
≪大きさ≫
複合材料1中の炭素系粒子2の平均粒径は1μm以上100μm以下である。上記平均粒径が1μm以上であれば、複合材料1中の炭素系粒子2の粉末粒界を低減でき、熱伝導性に優れる。例えば、熱伝導率が200W/m・K以上を満たす複合材料1とすることができる。
【0052】
特に、上記平均粒径が100μm以下であると、冷熱サイクルを受けても熱伝導率の低下が少なく、冷熱サイクル後でも高い熱伝導率を有し易い。即ち、冷熱サイクル前後において熱伝導率の変化が小さく、冷熱サイクル特性に優れる複合材料1とすることができる。上記平均粒径が100μm以下であれば、例えば300μm以上といった粗粒である場合に比較して、冷熱サイクルに起因する応力が生じても、この応力が炭素系粒子2と銅相5との界面に集中することを抑制できると考えられるからである。また、複合材料1中の各炭素系粒子2は、その表面の少なくとも一部が炭化物層3に覆われている。しかし、代表的には、隣り合う炭素系粒子2同士は、炭化物層3をなす炭化物によって結合された一体化物ではない。各炭素系粒子2は銅相5中に独立して存在する。そのため、各炭素系粒子2は、銅相5中における位置をある程度変動可能である。このことからも、上記の界面の応力集中が抑制され易いと考えられる。上記界面の応力集中が抑制されると、冷熱サイクルに伴う熱膨張及び熱伸縮に起因する炭素系粒子2(被覆粒子4)と銅相5との界面剥離が低減される。その結果、複合材料1は、冷熱サイクル後においても、冷熱サイクル前の高い熱伝導率を維持し易いと考えられる。
【0053】
更に、上記平均粒径が100μm以下であれば、製造過程において切削等の加工を行い易く、複合材料1は加工性に優れる。そのため、製造過程で研削や研磨等を行うことで、複合材料1からなる板材等を所定の形状や所定の寸法に調整することが容易である。また、研磨等で仮に被覆粒子4が脱落した場合でも、研磨後の表面の凹凸が小さくなり易い。そのため、例えば研磨面に金属めっき層を均一的な厚さに設け易い、半田等によって絶縁基板を接合し易い、といった効果も期待できる。その他、上記平均粒径が100μm以下であれば、複合材料1を薄い板材等に形成し易い。薄い板状の複合材料1は、薄い放熱部材の素材に好適に利用できる。
【0054】
上述の熱伝導性の向上等を望む場合には、上記平均粒径は5μm以上、更に10μm以上、15μm以上、20μm以上でもよい。上述の冷熱サイクル特性の向上、加工性の向上、薄型化等を望む場合には、上記平均粒径は90μm以下、更に80μm以下、70μm以下、60μm以下でもよい。
【0055】
複合材料1は、上記平均粒径が1μm以上100μm以下を満たす範囲で、相対的に微細な粒子と相対的に粗大な粒子とを含んでもよい。微細な粒子と粗大な粒子とを含む形態は、緻密になり易く、相対密度が高い複合材料1とし易い。
【0056】
≪含有量≫
複合材料1中の炭素系粒子2の含有量は例えば40体積%以上85体積%以下であることが挙げられる。上記含有量が40体積%以上であれば、上述のように熱伝導性に優れる炭素系粒子2を多く含むため、熱伝導性に優れる上に、複合材料1の線膨張係数がCuよりも小さくなり易い。上記含有量が85体積%以下であれば、炭素系粒子2が多過ぎず、銅相5をある程度含むため、複合材料1の線膨張係数が小さくなり過ぎることを防止できる。例えば、熱伝導率が200W/m・K以上、かつ線膨張係数が4×10-6/K以上15×10-6/K以下である複合材料1とすることができる。この複合材料1は、熱伝導率が高い上に、半導体素子(例、GaN(窒化ガリウム):5.5×10-6/K程度)やその周辺部品(例、絶縁基板やパッケージ部品等)の線膨張係数に近いため、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。また、上記含有量が85体積%以下であれば、製造過程では炭素系粒子2間に溶融銅が溶浸し易い。そのため、未溶浸部分の発生を抑制することができる。また、緻密化、複合化を良好に行うことができる。これらの点から、複合材料1は製造性にも優れる。
【0057】
熱伝導性の向上等を望む場合には、上記含有量は例えば45体積%以上、更に50体積%以上、55体積%以上、60体積%以上でもよい。製造性等を望む場合には、上記含有量は例えば80体積%以下、更に75体積%以下でもよい。なお、複合材料1の残部(15体積%超60体積%未満)は主として銅相5であり、炭化物層3は僅かである(例、4体積%以下)。
【0058】
≪形状≫
炭素系粒子2の形状は、特に問わない。図1に示す炭素系粒子2の形状は、模式的に多角形状であるが、図2図3に例示するように、不定形な断面形状をとり得る。
【0059】
炭素系粒子2の表面はある程度荒れており、凹凸を有することが挙げられる(図1B図2図3)。定量的には、例えば複合材料1の断面において、以下の凹凸度が1.2以上であることが挙げられる。凹凸度は、炭素系粒子2の輪郭長さLをこの炭素系粒子2の等価面積円の円周Lで除した値(L/L)とする。図1Bは、凹凸度合いが分かり易いように凹凸を強調して示す。
【0060】
凹凸度が1.2以上であれば、炭素系粒子2の表面がある程度荒れているといえる。このような炭素系粒子2は、炭化物層3との接触面積を大きく確保して、炭化物層3と強固に結合できる。炭素系粒子2はこの炭化物層3を介して銅相5とも強固に接合される。このような複合材料1は、炭素系粒子2と炭化物層3と銅相5との三者の界面強度に優れる。そのため、冷熱サイクルを受けても界面状態が変化し難い。従って、この複合材料1は冷熱サイクル特性に優れると期待される。また、上記三者が強固に一体化されることで、複合材料1は機械的強度にも優れる。更に、銅相5が炭素系粒子2を強固に保持できる。そのため、製造過程で切削等を行う場合に炭素系粒子2(被覆粒子4)の脱落等が低減され易い。この点から、複合材料1は製造性にも優れる。
【0061】
界面強度の向上、加工性の向上等を望む場合には、凹凸度は1.3以上、更に1.4以上、1.5以上でもよい。凹凸度の上限は特に設けないが、例えば3以下程度が挙げられる。凹凸度が1.2以上を満たす複合材料1は、例えば、後述する実施形態の複合材料の製造方法によって製造することが挙げられる。
【0062】
<炭化物層>
≪組成≫
複合材料1中の各炭素系粒子2は、代表的には、被覆粒子4として存在する。被覆粒子4をなす炭素系粒子2の表面の少なくとも一部、代表的には実質的に全てが炭化物層3によって覆われる。炭化物層3をなす炭化物は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素(特定元素)を含む。1種の特定元素を含む炭化物として、SiC(炭化珪素),TiC(炭化チタン),ZrC(炭化ジルコニウム),HfC(炭化ハフニウム)が挙げられる。炭化物層3をなす炭化物は、複数種の特定元素を含んでもよい。上記炭化物をなすC(炭素)は、代表的には炭素系粒子2に由来する。このような炭化物層3は炭素系粒子2に密着する。また、炭化物層3は、製造過程で溶融銅に濡れ易く、銅相5とも密着する。炭化物層3が炭素系粒子2及び銅相5の双方に密着することで、気孔が少なく、緻密な複合材料1とすることができる。このような複合材料1は気孔に起因する熱伝導率の低下が少なく、熱伝導性に優れる。また、炭化物層3の介在による炭素系粒子2と銅相5との密着によって、炭化物層3を有しない複合材料に比較して、複合材料1は冷熱サイクル特性に優れる。上述の密着によって、冷熱サイクルを受けても、炭素系粒子2と炭化物層3と銅相5との三者の界面状態が変化し難いからである。
【0063】
複合材料1は、炭化物層3の一部に銅成分50を内包する被覆粒子4(以下、銅内包粒子と呼ぶ)を含んでもよい(図2図3も参照)。銅内包粒子を含む複合材料1は、以下に説明するように熱伝導性に優れて好ましい。炭化物層3をなす炭化物の熱伝導率は、炭素系粒子2をなすダイヤモンド等の炭素系物質の熱伝導率や、銅相5をなすCuの熱伝導率よりも低い。このような炭化物層3に、熱伝導率が高いCuを主体とする銅成分50を内包すれば、炭素系粒子2と銅相5との二者間に炭化物層3のみが存在する複合材料に比較して、二者間の熱伝達が良好に行われる。そのため、炭化物層3の含有に起因する熱伝導率の大幅な低下が低減されるからである。また、相対的に脆い炭化物に相対的に柔らかいCuを含むことで、炭化物層3は強度や靭性を高められる。この点から、複合材料1は界面強度の向上も期待できる。
【0064】
複合材料1中の被覆粒子4のうち、上述の銅内包粒子が多いほど、熱伝導性に優れて好ましい。定量的には、例えば複合材料1の断面において、被覆粒子4の合計断面積に対して、銅内包粒子の合計断面積の割合が30%以上であることが挙げられる。複合材料1の断面に存在する被覆粒子4の合計断面積を100%として、銅内包粒子の面積割合が30%以上であれば、銅内包粒子が多いといえる。このような複合材料1は、上述の熱伝導率の低下を低減する効果を良好に得られ、熱伝導性に優れる。この効果は上記面積割合が大きいほど得易い。熱伝導性の観点からは、上記面積割合は35%以上、更に40%以上、50%以上が好ましい。更に、上記面積割合は60%以上、更に70%以上、80%以上がより好ましい。被覆粒子4の実質的に全てが銅内包粒子であることが更に好ましい。
【0065】
また、上述の銅内包粒子に着目すると、一つの銅内包粒子における銅成分50の含有量が多いほど熱伝導性に優れる。銅成分50の含有量が多過ぎないことで、特定元素を含む炭化物が適切に存在して、製造過程で濡れ性を改善し易い。定量的には、例えば銅内包粒子における炭化物層3中の銅成分50の合計含有量が1体積%以上70体積%以下であることが挙げられる。
【0066】
上述の炭化物層3中の銅成分50の合計含有量が1体積%以上であれば、銅成分50の含有量がより少ない銅内包粒子に比較して、銅成分50の内包による熱伝達の改善効果が適切に得られる。この効果は上記合計含有量が多いほど得易い。熱伝導性の観点からは、上記合計含有量は5体積%以上、更に10体積%以上、15体積%以上、20体積%以上が好ましい。更に、上記合計含有量は30体積%以上、40体積%以上がより好ましい。
【0067】
上述の炭化物層3中の銅成分50の合計含有量が70体積%以下であれば、製造過程で、銅成分50の介在に起因する濡れ性の低下を低減して溶融銅を良好に溶浸し易く、製造性に優れる。また、炭化物層3における銅成分50の内包箇所40が厚くなることを低減し易い。ここで、図1図3に示すように、炭化物層3において銅成分50の内包箇所40の厚さであって、銅成分50を含めた厚さは、局所的に厚い傾向がみられる。特に図3に示すように銅成分50が多いほど、内包箇所40の厚さが局所的に厚くなり易い。上述の合計含有量が70体積%以下であれば、このような厚膜化を低減でき、炭化物層3の最大厚さが薄くなり易い(例、3μm以下。後述参照)。厚膜化の低減の観点からは、炭化物層3は、Cu粒を若干含みつつ、その厚さが数十nm~数百nmオーダー程度であることが好ましいと考えられる。上述の濡れ性の改善や厚膜化の低減等の観点からは、上記合計含有量は65体積%以下、更に60体積%以下、55体積%以下が好ましい。
【0068】
一つの銅内包粒子の炭化物層3において、銅成分50の内包箇所40が局所的に厚く、この厚膜箇所が炭化物層3の周方向に離間して複数存在することがある(図2図3参照)。この場合に、各内包箇所40における1μm以上の厚さを有する箇所について、特定元素を含む炭化物と銅成分50とを含めた合計面積が30μm以下であれば、炭化物層3の最大厚さが薄くなり易く好ましい(例、3μm以下。後述参照)。更に、上記1μm以上の厚さを有する箇所における炭素系粒子2の周方向に沿った長さが比較的短いと、炭化物層3における厚膜箇所が小さい。このような複合材料1は熱伝導性により優れる。
【0069】
上記銅内包粒子の面積割合が30%以上であること、及び炭化物層3中の銅成分50の合計含有量が1体積%以上70体積%以下であることの双方を満たすことが好ましい。この場合、特定元素を含む炭化物と銅成分50との双方をバランスよく含むことができる。そのため、複合材料1は、銅成分50の含有による高熱伝導性の効果と、上記炭化物からなる炭化物層3による濡れ性改善の効果とをバランスよく得られる。銅内包粒子を含む複合材料1は、例えば、後述する実施形態の複合材料の製造方法によって製造することが挙げられる。
【0070】
≪厚さ≫
上述のように炭化物層3は上述の濡れ性改善の効果を得られる範囲で薄いことが好ましい。定量的には、例えば炭化物層3の最大厚さが3μm以下であることが挙げられる。上記最大厚さが3μm以下であれば、炭化物層3に局所的に厚い箇所があっても、全体的には炭化物層3は薄いといえる。そのため、炭化物層3に起因する熱伝導率の低下が低減されて、複合材料1は熱伝導性に優れる。上記最大厚さが薄いほど、炭化物層3による熱伝導率の低下が低減され易い。上記最大厚さは1.8μm以下、更に1.5μm以下、1.0μm以下が好ましい。なお、炭化物層3において最大厚さを有する箇所の一例として、上述の銅成分50の内包箇所40が挙げられる。
【0071】
上述の最大厚さが薄いことに加えて、炭化物層3の平均厚さが薄いことがより好ましい。上記平均厚さは、0.50μm未満、更に0.40μm以下、0.30μm以下、0.20μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましい。但し、平均厚さが薄過ぎると、炭化物層3による濡れ性改善の効果が適切に得られ難い。そのため、上記平均厚さは0.01μm以上、更に0.03μm以上、0.05μm以上であることが挙げられる。炭化物層3が局所的に厚い箇所を有しても、全体的には薄いことで、炭素系粒子2の平均粒径が100μm以下であっても、高い熱伝導率を有する複合材料1とすることができる。
【0072】
炭化物層3の厚さを調整するには、例えば炭化物層3の原料に用いる粉末(後述の第二の粉末)の添加量、溶浸条件等を調整することが挙げられる。概ね、上記添加量が少ないほど、又は溶浸温度が低いほど炭化物層3の厚さが薄い傾向がある。
【0073】
≪その他≫
複合材料1中の炭素系粒子2はいずれも、炭化物層3を備えた被覆粒子4であることが好ましい。各被覆粒子4は、炭素系粒子2の表面積の90面積%以上、更に95面積%以上、特に実質的に表面全体が炭化物層3で覆われていると、より緻密な複合材料1となって好ましい。炭素系粒子2の表面積に対する炭化物層3が被覆する面積割合は、簡易的には複合材料1の断面において、炭素系粒子2の周長に対する炭化物層3の内周長の割合と見なすことが挙げられる。また、複合材料1が、隣り合う被覆粒子4同士の一部が炭化物層3(炭化物)によって結合されてなる連結箇所を含むことを許容する。但し、複合材料1は、上記連結箇所を実質的に有さず、いずれの被覆粒子4もバラバラに分散して銅相5に存在すると、冷熱サイクル特性に優れて好ましい。被覆粒子4が銅相5中に分散して存在する複合材料1は、上述の連結箇所が多い複合材料に比較して靭性にも優れ、例えば反り付け加工等も施し易い。
【0074】
<金属相>
複合材料1は、銅相5を主要構成要素の一つとする。
銅相5は、主として、いわゆる純銅からなる。ここでの純銅は、代表的にはCuを99.0質量%以上含み、残部が不可避不純物からなる。複合材料1は、上述のように高熱伝導率を有する炭素系粒子2と、約400W/m・Kという高い熱伝導率を有するCuとを主体とすることで、熱伝導性に優れる。
【0075】
銅相5における特定元素の含有量が1質量%以下であることが好ましい。ここで、製造条件等によっては銅相5中に特定元素を含む場合がある。しかし、上記特定元素の含有量が1質量%以下であれば、Cuよりも熱伝導率が低い特定元素が銅相5中に少ないといえる。このような複合材料1は、銅相5中の特定元素の含有に起因する熱伝導率の低下が低減されて、熱伝導性に優れる。この効果は上記特定元素の含有量が少ないほど得易い。上記特定元素の含有量は0.9質量%以下、更に0.8質量%以下、0.7質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。上記特定元素の含有量を低減するには、例えば、炭化物層3の原料に用いる粉末の添加量を少なくすること、溶浸温度を低くすること等が挙げられる。
【0076】
<測定方法>
複合材料1中における炭素系粒子2の平均粒径の測定は、複合材料1の断面観察像を用いて行うことが挙げられる。断面観察像において、各炭素系粒子2の面積に相当する円(等価面積円)を求める。この等価面積円の直径を炭素系粒子2の粒径とする。10個以上の粒径の平均値を炭素系粒子2の平均粒径とする。
【0077】
複合材料1中における炭素系粒子2の含有量の測定は、複合材料1の断面観察像を用いて行うことが挙げられる。断面観察像において、炭素系粒子2の合計断面積を求める。複合材料1の断面積に対する炭素系粒子2の合計断面積の比率を体積比率と見なす。
【0078】
凹凸度の測定は、複合材料1の断面観察像を用いて行うことが挙げられる。断面観察像において、各炭素系粒子2の輪郭長さL及び等価面積円の円周長さLを求める。凹凸度(L/L)を算出する。10個以上の被覆粒子4について凹凸度を求めて平均をとる。この平均の凹凸度を炭素系粒子2の凹凸度とする。
【0079】
炭化物層3の最大厚さの測定は、複合材料1の断面観察像を用いて行うことが挙げられる。具体的には、以下のように行う。図2Aに示すように断面観察像から被覆粒子4を抽出する。図2Bに示すように一つの被覆粒子4について炭素系粒子2の外接円をとる。更にこの外接円について、等間隔(6°)に60本の直径をとる。図2Bは、上記外接円及び上記直径を白色で示す。各直径に沿った線、又は直径に沿った延長線において、炭化物層3を分断する線分をとる。各線分の長さ(図2Bに示す白色矢印を参照)を測定する。測定した60本の線分の長さのうち、長い方から上位5本の線分について平均をとる。この平均値をこの被覆粒子4における炭化物層3の最大厚さとする。上述の測定作業を10個以上の被覆粒子4について行う。10個以上の炭化物層3の最大厚さの平均をとる。この平均厚さを炭化物層3の最大厚さとする。
【0080】
炭化物層3の平均厚さの測定は、以下のように行う。上述の60本の線分の長さについて平均をとる。この平均値を一つの被覆粒子4における炭化物層3の平均厚さとする。10個以上の炭化物層3の平均厚さを求めてその平均をとる。この平均値を炭化物層3の平均厚さとする。
【0081】
銅内包粒子の面積比率の測定は、複合材料1の断面観察像を用いて行うことが挙げられる。まず、複合材料1の断面をとる。この断面から所定の大きさの測定領域(例、80μm×120μm)の断面観察像をとる。この測定領域から被覆粒子及び銅内包粒子を全て抽出する。抽出した被覆粒子の合計面積、抽出した銅内包粒子の合計面積を求める。(抽出した銅内包粒子の合計面積/抽出した被覆粒子の合計面積)×100で表される面積比率を算出する。この面積比率を銅内包粒子の面積比率とする。一つの断面又は複数の断面から複数(例、3以上)の測定領域をとり、複数の面積比率の平均値をとることができる(この点は後述する銅成分50の合計含有量についても同様である)。なお、炭化物層3中に銅成分50を内包することは、図2図3のSEM像に示すように、色の違いで確認することが挙げられる。
【0082】
銅内包粒子において、炭化物層3中の銅成分50の合計含有量の測定は、複合材料1の断面観察像を用いて面積比率を求め、この面積比率を体積比率に見なすことで行う。具体的には、以下のように行う。上述の測定領域から抽出した全ての銅内包粒子について、銅成分50の合計面積と、炭化物層3の面積(特定元素を含む炭化物と銅成分50との合計面積)とを測定する。各銅内包粒子について、(銅成分50の合計面積/上述の炭化物層3の面積)×100で表される銅成分50の面積比率を求める。抽出した全ての銅内包粒子について銅成分50の面積比率の平均をとる。この平均値を銅成分50の面積比率とし、体積比率と見なす。
【0083】
上述の銅成分50の体積比率が1体積%以上70体積%以下を満たす炭化物層を有する銅内包粒子の面積比率は、以下のようにして求める。銅内包粒子のうちから、銅成分50の体積比率が上述の範囲を満たす銅内包粒子を抽出する。抽出した銅内包粒子の合計面積を求める。更に、(抽出した銅内包粒子の合計面積/抽出した被覆粒子の合計面積)×100を算出すればよい。
【0084】
銅相5中における特定元素の含有量の測定は、複合材料1の断面をとり、この断面においてエネルギー分散型X線分光法(EDX)等を利用して、局所的な成分分析を行うことが挙げられる。この成分分析には、SEM-EDX、特にEDX装置としてシリコンドリフト検出器(SDD)等が利用できる。
【0085】
上述の断面観察像を用いる場合、測定対象の抽出、上述の各パラメータの測定は市販の画像処理装置を用いると容易に行える。
【0086】
なお、複合材料1中の炭素系粒子2の平均粒径、含有量は、原料に用いた炭素系物質からなる粉末(後述の第一の粉末)の粒径、添加量に依存する。原料に用いた粉末の粒子の一部が炭化物層3の形成に利用されるものの、複合材料1中の炭素系粒子2の粒径、含有量は、上記原料の粉末の粒径、添加量に概ね等しい。
【0087】
(特性)
<熱特性>
実施形態の複合材料1は、上述のように熱伝導性に優れており、例えば170W/m・K以上の熱伝導率を有することが挙げられる。更には、複合材料1の熱伝導率は200W/m・K以上であることが挙げられる。熱伝導率が高いほど、熱伝導性に優れるため、複合材料1は半導体素子の放熱部材等に好適に利用できる。従って、複合材料1の熱伝導率は220W/m・K以上、更に240W/m・K以上、250W/m・K以上が好ましく、300W/m・K以上、350W/m・K以上、400W/m・K以上がより好ましい。上記熱伝導率は、代表的には炭素系粒子2の平均粒径が大きかったり、炭素系粒子2の含有量が多かったりすると高くなり易い。複合材料1を放熱部材の素材とする場合、上記熱伝導率は高いほど好ましいため特に上限は設けない。上記熱伝導率が800W/m・K以下程度であれば、製造過程で炭素系物質からなる粉末が多過ぎず、溶浸し易いことで、複合材料1を製造し易い場合がある。
【0088】
実施形態の複合材料1は、上述のように炭素系物質とCuとの中間の線膨張係数を有する。定量的には、複合材料1の線膨張係数が4×10-6/K以上15×10-6/K以下であることが挙げられる。上記線膨張係数は、代表的には炭素系粒子2の含有量が多いほど小さくなり易い。炭素系粒子2の含有量等にもよるが、上記線膨張係数は4.5×10-6/K以上13×10-6/K以下、4.5×10-6/K以上10×10-6/K以下が挙げられる。
【0089】
熱伝導率が200W/m・K以上を満たし、かつ線膨張係数が4×10-6/K以上15×10-6/K以下を満たす複合材料1は、上述のように熱伝導性に優れる上に、半導体素子やその周辺部品の線膨張係数との整合性に優れる。そのため、この複合材料1は、半導体素子の放熱部材の素材に好適に利用できる。
【0090】
<相対密度>
実施形態の複合材料1では、上述のように代表的には気孔が少なく緻密であるため、相対密度が高い。定量的には、例えば、複合材料1の相対密度は80%以上であることが挙げられる。上記相対密度が高いほど緻密な複合材料1であり、気孔に起因する熱伝導率の低下が生じ難く、熱伝導性に優れる。そのため、上記相対密度は85%以上、更に90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、とりわけ98%以上が好ましい。上記相対密度は、製造過程において炭素系物質からなる粉末の大きさや量、炭化物層3の原料に用いる粉末の添加量、溶浸条件等を調整することで高めることが挙げられる。
【0091】
<酸素濃度>
実施形態の複合材料1は、代表的には後述する実施形態の複合材料の製造方法によって製造されることで、酸素の含有量が少ない。このような複合材料1は、酸化物の介在に起因する熱伝導率の低下が低減されて、熱伝導性に優れる。複合材料1中の酸素の含有量が少なければ、製造過程ではCu及び特定元素の酸化が低減されたと考えられる。そのため、炭化物層3が適切に形成され易く、製造性にも優れる。炭化物層3が適切に形成されれば、上述のように冷熱サイクル特性にも優れる。定量的には、例えば、複合材料1中の酸素の含有量は0.05質量%以下であることが挙げられる。上記酸素の含有量が少ないほど、酸化物が少なく、酸化物による熱伝導率の低下を低減し易い。そのため、上記酸素の含有量は0.04質量%以下、更に0.03質量%以下が好ましい。上記酸素の含有量は、例えば製造過程において溶浸時の雰囲気中の酸素濃度を低減したり、銅素材として無酸素銅や比表面積が大きなものを用いたりすると低減し易い。
【0092】
(用途)
実施形態の複合材料1は、上述のように熱伝導性に優れており放熱部材の素材に好適に利用できる。特に、半導体素子やその周辺部品との線膨張係数の整合性に優れる複合材料1は、半導体素子の放熱部材の素材に好適に利用できる。実施形態の複合材料1からなる板状の放熱部材を備える半導体装置は、例えば、各種の電子機器、特に高周波パワーデバイス(例、LDMOS(Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor))、半導体レーザ装置、発光ダイオード装置、その他、各種のコンピュータの中央処理装置(CPU)、グラフィックス プロセッシング ユニット(GPU)、高電子移動形トランジスタ(HEMT)、チップセット、メモリーチップ等に利用できる。
【0093】
(主要な効果)
実施形態の複合材料1は、熱伝導率が高く熱伝導性に優れる。この効果を後述の試験例1で具体的に説明する。また、実施形態の複合材料1を放熱部材の素材とした場合にこの放熱部材は冷熱サイクルを受けても、冷熱サイクル前後の熱伝導率の変化が小さく、冷熱サイクル後でも高い熱伝導率を有すると期待される。このような実施形態の複合材料1は、例えば後述する実施形態の複合材料の製造方法によって製造できるため、製造性にも優れる。その他、上述のように切削等の加工性にも優れることからも、複合材料1は製造性に優れる。
【0094】
[複合材料の製造方法]
<概要>
実施形態の複合材料の製造方法は、実施形態の複合材料1のような炭素系粒子2と炭化物層3と銅相5とを備える複合材料の製造に利用されるものであり、以下の工程を備える。
(第一の工程)第一の層と、第二の層とを積層した積層体を形成する。
第一の層は、炭素系物質からなる第一の粉末と、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種以上の元素(特定元素)を含む化合物及び特定元素単体の少なくとも一方を含む第二の粉末とを含む。
第二の層は、Cu及び不可避不純物からなる銅素材と、第二の粉末とを含む。
(第二の工程)上記積層体を加熱する。
この工程では、1Pa以下の真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気、かつ無加圧の状態で、積層体を加熱することで、溶融された銅素材と、第一の粉末とを複合する。
【0095】
実施形態の複合材料の製造方法は、溶浸時に炭素系粒子の表面のCと第二の粉末の特定元素との反応によって、炭素系粒子の表面に特定元素を含む炭化物からなる炭化物層を自動的に形成しつつ、炭素系粒子と溶融状態の銅素材(溶融銅)とを複合する。特に、実施形態の複合材料の製造方法では、真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気とすることで、銅素材中のCu及び第二の粉末中の特定元素の酸化が低減される。また、第一の粉末と銅素材との双方に第二の粉末を含むことで、第二の粉末を多くしつつ、上述の炭化物層が適切に形成される。
【0096】
ここで、金属相をいわゆる純銅とする場合、上述のCu-Ag合金と比較して溶浸温度(金属の溶融温度)を高くする必要がある。CuはAgよりも高温環境で酸化し易い。そのため、溶浸温度を高くすると、所定の溶浸温度に達するまでの間であって、ある程度の高温状態では、雰囲気や原料等に由来する酸素によってCuが酸化し易く、溶浸時では酸化銅中の酸素によって特定元素が酸化されると考えられる。これに対し、実施形態の複合材料の製造方法は、溶浸時の雰囲気を真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気とすることで、Cu及び特定元素の酸化を低減する。特に、真空雰囲気又は還元雰囲気とすれば、Cu及び特定元素を還元することで、これらの酸化がより低減される。
【0097】
上述のように特定元素が酸化し得ることに対して、第二の粉末を多くすることが考えられる。しかし、特許文献1に記載されるように、多量の第二の粉末を第一の粉末にのみ混合すると、炭化物層が厚くなり過ぎる。上述のように溶浸温度が高い場合には、炭化物層が更に厚くなり易い。実施形態の複合材料の製造方法は、第一の粉末と銅素材との双方に第二の粉末を含むことで、第二の粉末を多くしつつ、上述の炭化物層を適切な厚さに形成できる。この理由の一つとして、添加する第二の粉末の全量のうち、一部のみを第一の粉末に混合し、炭素系粒子の周囲に存在する特定元素の量をある程度少なくしていることが考えられる。この結果、所定の溶浸温度に達するまでの間に炭素系粒子のCと、特定元素との固相焼結によって炭化物層が形成されることを低減できると考えられる。別の理由の一つとして、上述のように特定元素の酸化を低減して、炭素系粒子のCと、特定元素とが良好に反応できるためと考えられる。
【0098】
以下、工程ごとに説明する。
(第一の工程:溶浸に供する素材を準備する工程)
この工程では、原料に用いる第一の粉末、第二の粉末、銅素材を用意して、上記の積層体を形成する。
【0099】
<原料>
第一の粉末は、上述の炭素系物質からなる粉末であって、所定の粒径の粉末を利用することが挙げられる。市販のダイヤモンド粉末等を利用することができる。第一の粉末の粒径は、上述の炭素系粒子の平均粒径の項を参照するとよい。第一の粉末の粒径の測定には、例えば、市販の粒子画像分析装置や粒度分布測定装置等が利用できる。
【0100】
第二の粉末は、特定元素単体のみの形態、特定元素を含む化合物からなる化合物粉末のみの形態、その双方を含む形態のいずれの形態も利用できる。特に、第二の粉末は、上記化合物粉末を含み、この化合物が溶浸時に還元作用等の酸素低減作用や酸素除去作用を有するものであることが好ましい。このような化合物粉末は、溶浸前の段階では化合物であることで特定元素の酸化を防止できる。また、この化合物粉末は、溶浸時では還元作用等の作用によって、酸化した銅表面等から酸素を低減、除去できる。特定元素を含む化合物として、硫化物、窒化物、水素化物、ホウ化物等が挙げられる。複数種の化合物粉末を利用することもできる。
【0101】
銅素材は、いわゆる純銅からなるものとする。特に、銅素材は、Cuを99.8質量%以上含み、残部が不可避不純物からなるものが好ましい。また、銅素材は、酸素濃度が低いものが好ましい。銅素材自体の熱伝導率が高く、熱伝導性に優れる複合材料を製造できるからである。また、溶浸時、銅素材中の酸素によって、第二の粉末の特定元素の酸化が低減されることからも熱伝導性に優れる複合材料を製造できるからである。定量的には、銅素材の酸素濃度は、例えば350質量ppm以下であることが好ましい。上記酸素濃度が低いほど、熱伝導率が高く、特定元素の酸化を低減し易い。そのため、上記酸素濃度は300質量ppm以下、更に250質量ppm以下が好ましく、200質量ppm以下、150質量ppm以下、100質量ppm以下がより好ましい。
【0102】
酸素濃度が低い銅素材として、酸素濃度が10質量ppm以下の無酸素銅からなるものが挙げられる。無酸素銅は、Cuを99.96質量%以上含むことで熱伝導率が高い上に、酸素が少なく、酸化物の介在に起因する熱伝導率の低下を低減できる。そのため、無酸素銅からなる銅素材を利用することで熱伝導性により優れる複合材料が製造される。
【0103】
その他の銅素材として、タフピッチ銅等からなるものが挙げられる。
【0104】
銅素材は、種々の形状、大きさのものを利用できる。例えば、種々の形状の粉末、小切片、板材等が挙げられる。小切片とは、例えば最大長さが5mm以上である小塊等が挙げられる。小切片の一例として、線径1mm~10mm程度の線材を長さ5mm~120mm程度に短く切断したものや、厚さ1mm~10mm程度の板材を細かく分断したもの等が挙げられる。小切片や板材では、粉末粒子(代表的には最大粒径が300μm以下程度)に比較して比表面積が小さい。そのため、高温状態での酸化が低減され易い。結果として、上述の特定元素の酸化を低減することができて好ましい。特に小切片は、板材に比較して体積が小さい。この点で、小切片は、成形型に充填し易い上に溶融状態となり易いため、板材よりも溶浸性に優れて好ましい。小切片の最大長さが15mm~60mm程度であると、上述した特定元素の酸化の低減効果、充填容易性や溶融容易性に優れるといった効果が得られ易い。小切片自体も準備し易いと考えられる。
【0105】
上述の特定元素の酸化を低減する観点からは、銅素材は、無酸素銅からなる小切片を含むことが好ましい。
【0106】
<積層体>
炭素系粒子の原料となる第一の粉末の量及び銅相の原料となる銅素材の量は、作製する複合材料中の炭素系粒子の含有量(上述参照)、銅相の含有量が所望の量となるように調整する。炭化物層の原料となる第二の粉末の添加量は、主として第一の粉末の量に応じて調整する。ここで、第二の粉末の特定元素は、溶浸を行う第二の工程で炭素系粒子のC(炭素)と反応して炭化物を形成し、複合材料中では主として炭化物層として存在する。第二の粉末の添加量が多過ぎると炭化物層が厚くなり易い。そのため、炭化物層が適切に形成されるように、第二の粉末の添加量を調整する。また、炭化物層を形成し易いように、炭素系粒子の周囲に特定元素が存在する環境を形成する。ここでは、第二の粉末を第一の粉末に添加する。炭素系粒子の周囲に特定元素が存在することで、未反応の特定元素が残存することも防止し易い。特に、実施形態の複合材料の製造方法では、第二の粉末を第一の粉末のみに混合するのではなく二つに分け(等分でなくてよい)、銅素材にも添加する。そして、第一の粉末と第二の粉末とを含む第一の原料と、銅素材と第二の粉末とを含む第二の原料とを順に成形型に充填する。成形型内で第一の原料による第一の層と、第二の原料による第二の層とを積層した積層体を形成することが挙げられる。
【0107】
第一の原料(第一の層)において、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量は、例えば、C(炭素)と特定元素との合計量に対する特定元素の質量割合が0.1質量%以上15質量%以下を満たす範囲とすることが挙げられる。上記質量割合は、(特定元素の質量/(Cの質量+特定元素の質量))×100である。上記の質量割合が0.1質量%以上であれば、溶浸時、上述のように炭化物層を適切に形成できる。上記質量割合が大きいほど、炭化物層をより確実に形成でき、濡れ性の改善を良好に行うことができる。そのため、上記質量割合は0.2質量%以上、更に0.5質量%以上、1.0質量%以上でもよい。溶浸条件等によっては、上記質量割合は5.0質量%以上、更に5.5質量%以上、6.0質量%以上でもよい。上記の質量割合が15質量%以下であれば、特定元素の増大に起因する炭化物層の厚膜化を低減することができる。そのため、炭化物層に起因する熱伝導率の低下を低減しつつ、炭化物層が適切な厚さに形成される。上記質量割合が小さいほど、炭化物層の厚膜化、特に上述の固相反応に起因する厚膜化を低減し易いと考えられる。そのため、上記質量割合は14質量%以下、更に13質量%以下、12質量%以下、10質量%以下でもよい。
【0108】
第二の原料(第二の層)において、銅素材に対する第二の粉末の添加量は、例えば、Cuと特定元素との合計量に対する特定元素の質量割合が0.1質量%以上1質量%以下を満たす範囲とすることが挙げられる。上記質量割合は、(特定元素の質量/(Cuの質量+特定元素の質量))×100である。上記の質量割合が0.1質量%以上であれば、溶浸時、溶融銅が特定元素を取り込み、特定元素を含む状態で炭素系粒子に接触することで特定元素を含む炭化物を形成し、以降、上記炭化物を形成し易くする傾向にある。上記質量割合が大きいほど、溶融銅が特定元素を取り込み易く、上記炭化物を形成し易い。そのため、上記質量割合は0.15質量%以上、更に0.20質量%以上でもよい。上記の質量割合が1質量%以下であれば、特定元素の増大に起因する炭化物層の厚膜化が低減されて、炭化物層に起因する熱伝導率の低下が低減され易い。また、銅素材中の第二の粉末は、上述のように溶浸初期に上記炭化物を形成できる程度に含めばよいといえる。上記質量割合が小さいほど、炭化物層の厚膜化を低減し易いと考えられる。そのため、上記質量割合は0.95質量%以下、更に0.90質量%以下、0.85質量%以下でもよい。
【0109】
積層体は、例えば、第一の層を重力方向下方、第二の層を重力方向上方に配置した二層構造とすることが挙げられる。比重が大きい銅の自重によって、溶融銅が第一の粉末側に自動的に、かつ容易に溶浸できる。積層体を収納する成形型は、カーボン製のものが挙げられる。この成形型は、還元性が高く、溶融銅や特定元素の酸化を低減し易い。
【0110】
第一の原料は、適宜な混合装置を用いて混合してから成形型に充填することが挙げられる。混合によって、炭素系粒子の周囲に第二の粉末の粒子が均一的に存在して好ましい。一方、銅素材と第二の粉末とは比重差が比較的大きいことから混合し難い。そのため、第二の原料については、例えば、銅素材を成形型に充填後、銅素材の隙間に第二の粉末を充填したり、銅素材の充填中に第二の粉末を適宜充填したりすることが挙げられる。成形型に原料を充填後、適宜、プレスしたり(ハンドプレス程の小さな圧力でよい)、タッピングしたりすることができる。
【0111】
(第二の工程:溶浸工程)
この工程は、成形型に充填した積層体を加熱して銅素材を溶融し、この溶融銅と第一の粉末とを複合する。
【0112】
溶浸温度(ここでは積層体の加熱温度)は、銅素材が溶融可能な温度であるCuの融点(1083℃)以上とする。溶浸温度は1100℃以上、更に1150℃以上とすることができる。特に溶浸温度が1200℃以上と比較的高いと、炭素系粒子のCと第二の粉末の特定元素との反応性を高められる。また、溶浸温度が高いと、銅素材が小切片といった比較的大きなものであっても良好に溶融銅を形成できて好ましい。但し、溶浸温度が高過ぎると、溶浸温度に達するまでの昇温過程で銅素材に含まれるCuが酸化され易い。ひいては上述のように特定元素が酸化され易くなる。そのため、溶浸温度は1300℃以下が好ましい。保持時間は、複合材料の大きさ等にもよるが、例えば10分以上3時間以下程度が挙げられる。
【0113】
特に、溶浸工程の雰囲気は、1Pa以下の真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気とする。上記真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気とすることで、上述のCu及び特定元素の酸化が低減される。真空雰囲気では、雰囲気圧力が低いほど、還元性が高く、上記酸化をより確実に低減できる。そのため、上記圧力は0.1Pa以下、更に0.01Pa以下が挙げられる。還元性雰囲気は、水素雰囲気、又は水素とアルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられる。不活性雰囲気は、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気が挙げられる。いずれの雰囲気においても、酸素濃度が低いことが好ましい。
【0114】
溶浸工程では、上述のように溶融銅が第二の粉末中の特定元素を取り込み、この状態で炭素系粒子に接触することで特定元素を含む炭化物を形成すると、以降、炭化物層が自動的に形成されて、炭素系粒子と溶融銅との複合が自動的に進む。そのため、溶浸工程は、別途、加圧する必要が無く、無加圧とする。
【0115】
上述の溶浸後、加熱を止めて、冷却することで、銅相中に、炭素系粒子の外周が炭化物層で覆われてなる被覆粒子が分散した複合材料(代表的には実施形態の複合材料1)が得られる。また、上述の第二の原料を用いることで、被覆粒子のうち、少なくとも一部が、炭化物層中に銅成分を含む銅内包粒子である上述の複合材料1(図1図3)が得られる。
【0116】
(その他の工程)
その他、実施形態の複合材料の製造方法は、複合材料の表面に研削等の切削加工を施す加工工程や、加工後の表面に金属めっき層を形成する被覆工程等を備えることができる。
【0117】
(主要な効果)
実施形態の複合材料の製造方法は、以下の理由(A)~(C)により熱特性に優れる複合材料が得られ、かつ以下の理由(a)~(d)により、熱特性に優れる複合材料を生産性よく製造できる。
【0118】
(A)製造される複合材料が炭素系粒子とCuとを主体とする。
(B)特に特定元素の酸化を低減することで、溶浸時、炭素系粒子の表面に特定元素を含む炭化物層が適切に形成されて、炭素系粒子に対する溶融銅の濡れ性が高められる。濡れ性の改善によって、炭素系粒子に対して溶融銅が良好に溶浸される。そのため、炭素系粒子と銅相とが炭化物層を介して密着する。そのため、炭素系粒子と銅相との間に気孔が非常に少なく、緻密な複合材料が製造される。このような複合材料は、気孔に起因する熱伝導率の低下が少なく、熱伝導性に優れるといえる。
(C)Cu及び特定元素の酸化を低減することで、Cuや特定元素の酸化物の含有量が非常に少ない複合材料が製造される。このような複合材料は、上記酸化物の含有による熱伝導率の低下が少なく、熱伝導性に優れるといえる。
【0119】
(a)第一の粉末と銅素材とのそれぞれに第二の粉末を含む原料を成形型に充填することで、溶浸に供する素材が作製される。そのため、混合粉末の粉末成形体や、特定元素を含む炭化物からなる被覆層を備える成形体等を別途作製する必要が無い。
(b)第一の粉末と銅素材とのそれぞれに第二の粉末を添加すると共に、溶浸工程の雰囲気を真空雰囲気、還元雰囲気又は不活性雰囲気とすることで、特別な助剤等が不要でありながら、適切に炭化物層が形成される。
(c)無加圧で溶浸することで、高圧印加可能な専用設備等が不要である。
(d)高価なAgを用いないことで、原料コストを低減することができる。
【0120】
[試験例1]
炭素系物質からなる第一の粉末と、特定元素を含む種々の第二の粉末と、銅素材とを用いて、種々の溶浸条件で複合材料を作製し、熱特性、及び構造を調べた。
【0121】
原料として、以下を用意した。
第一の粉末は、平均粒径が20μmのダイヤモンド粉末である。
銅素材は、銅粉末と、小切片とを用意した。銅粉末は、Cuを99.8質量%以上含有し、残部が不可避不純物からなる。銅粉末の平均粒径が100μm以下である。銅粉末の酸素濃度は240質量ppmである。小切片は、無酸素銅(OFC)からなる。小切片は、線径8mmの線材を長さ15mm程度に切断したものである。無酸素銅の小切片の酸素濃度は10質量ppm以下である。
第二の粉末は、Si,Ti,Zr,及びHfからなる群より選択される1種の元素(特定元素)の硫化物、窒化物、水素化物、ホウ化物、又は特定元素単体からなる。第二の粉末の平均粒径は50μm以下である。
ダイヤモンド粉末及び銅粉末の平均粒径は、市販の粒子画像分析装置、モフォロギG3(Malvern Instruments製)を用いて測定したメジアン粒径である。
【0122】
用意した原料を成形型(ここではカーボン製)に充填して、積層体を形成し、積層体を加熱して溶浸を行った。積層体は、第一の粉末(ここではダイヤモンド粉末)と第二の粉末とが混合された第一の層と、銅素材(ここでは銅粉末又は無酸素銅の小切片)と第二の粉末とを含む第二の層とを備える。ここでは、得られる複合材料における炭素系粒子の含有量が60体積%程度、銅相の含有量が38体積%程度、炭化物層の含有量が2体積%程度となるように、第一の粉末、第二の粉末、銅素材の体積割合を調整した。また、積層体は、第一の層が重力方向下層となり、第二の層が重力方向上層となるように積層して形成した。
【0123】
第一の層において、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量を異ならせると共に、第二の層において、銅素材に対する第二の粉末の添加量を異ならせた。
ここでは、C(炭素)と特定元素との合計量に対する特定元素の質量割合を7質量%以上15質量%以下の範囲から選択する。選択した特定元素の質量割合を満たすように、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量を調整した。
また、Cuと特定元素との合計量に対する特定元素の質量割合を0.2質量%以上1質量%以下の範囲から選択する。選択した特定元素の質量割合を満たすように、銅素材に対する第二の粉末の添加量を調整した。
【0124】
各試料において、第二の粉末の材質、第一の粉末及び銅素材に対する特定元素の質量割合(質量%)、銅素材の形態を表1~表3に示す。ここでは、特定元素がTiである場合を表1,表2に詳細に示す。特定元素がSi,Zr,Hfである場合については、Tiの場合と同様に行い、その結果を一部のみ抜粋して表3に示す。表1~表3では、第二の粉末を被覆形成粉末と示す。また、表1~表3では、特定元素を被覆形成元素と示す。
【0125】
ここでは、1Pa以下の真空雰囲気で、無加圧の状態で成形型を加熱して溶浸を行った。溶浸温度(ここでは成形型の加熱温度)を1200℃又は1300℃とし、保持時間をいずれも2時間とした。各試料の溶浸温度(℃)を表1~表3に示す。保持時間が経過後、加熱を止めると共に冷却して溶浸材を得た。成形型は、直径10mmφ、厚さ10mmの円柱体を成形可能なものを用いた。
【0126】
得られた溶浸材の熱伝導率(W/m・K)を測定した。熱伝導率は、市販の測定器を用いて、室温(ここでは20℃程度)で測定した。その結果を表1~表3に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
表1~表3に示すように、Agを用いず純銅を用いても、熱伝導率が170W/m・K以上、特に200W/m・K以上という熱伝導性に優れる複合材料(試料No.1,4,8~11,14,15,23,24,26,29~31,34,35,38~41,44~46,49,50,53~56,59,60,69,71,74~78(以下、まとめて試料群No.1等と呼ぶことがある))が得られることが分かる。この試験では、熱伝導率が220W/m・K以上の複合材料が多く得られており、400W/m・K程度の複合材料(試料No.45,60)も得られている。また、この試験から、このような高熱伝導率の複合材料(試料群No.1等)は、第一の粉末と銅素材とのそれぞれに第二の粉末を添加すると共に、真空雰囲気で溶浸を行うことで製造できることが分かる。更に、この試験から、第一の粉末の大きさ、含有量、銅素材の形態、第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)、溶浸温度等を調整することで、熱伝導率を更に向上できる条件が存在し得ると考えられる。例えば、第一の粉末の大きさをより大きくしたり、含有量をより多くしたりすることで、熱伝導率がより一層高い複合材料が得られると期待される。
【0131】
以下、熱伝導率が200W/m・K以上である試料群No.1等の溶浸材に着目する。
試料群No.1等の溶浸材の線膨張係数(×10-6/K)を測定したところ、いずれの試料も線膨張係数は5×10-6/K~13×10-6/Kである。このように高熱伝導率で、線膨張係数が半導体素子及びその周辺部品に近いことで、試料群No.1等の溶浸材は、半導体素子の放熱部材の素材に好適に利用できると期待される。線膨張係数は、市販の測定器を用いて、30℃~800℃の範囲で測定した。
【0132】
試料群No.1等の溶浸材について、熱伝導性に優れる理由を考察する。
その理由の一つとして、熱伝導率が高いダイヤモンドと、純銅とを含むことが考えられる。ここでは、原料に無酸素銅の小切片を用いた試料No.14,15,29,30,44,45,59,60,74,75は特に熱伝導率が高く、250W/m・K程度又はそれ以上であり、多くの試料は300W/m・K以上である。このことから、原料に、無酸素銅といった酸素濃度が低い純銅からなる銅素材や、小切片といった比表面積が大きな形態の銅素材を用いると熱伝導性に優れる複合材料を得易いといえる。
【0133】
別の理由の一つとして、緻密であることが考えられる。試料群No.1等の溶浸材の断面をとり、SEMで観察したところ、図2図3に例示するように、いずれの試料も、炭素系粒子2の表面の少なくとも一部(ここでは実質的に全て)が炭化物層3で覆われた被覆粒子4が銅相5中に分散して存在することが分かる。また、いずれの試料も、炭素系粒子2と銅相5とが炭化物層3を介して、隙間なく密着しており、気孔が少ないことが分かる。図2図3は、試料No.45の溶浸材を示す。なお、試料群No.1等の相対密度はいずれも80%以上である。
【0134】
試料群No.1等の溶浸材において、炭素系粒子の平均粒径を求めたところ、いずれの試料も平均粒径が17μmであり、原料に用いた第一の粉末の平均粒径に概ね等しい。このことから、上記平均粒径が小さ過ぎず、粉末粒界が少ないことからも熱伝導性を高められたと考えられる。上記平均粒径は、上述の断面SEM像を用いて測定した。断面SEM像において、10個以上の炭素系粒子について、等価面積円の直径を求める。この直径の平均値を平均粒径とする。この測定には、公知の画像ソフトウェア(Image J)を用いた。
【0135】
試料群No.1等の溶浸材において、炭素系粒子の含有量を求めたところ、いずれの試料も含有量が55体積%程度であり、原料に用いた第一の粉末の量に概ね等しい。熱伝導率が高い炭素系粒子を適量含むことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。上記含有量は、上述の断面SEM像を用いて測定した。断面SEM像において、80μm×120μmの測定領域に存在する炭素系粒子を全て抽出して合計面積を求める。上記測定領域の面積に対する炭素系粒子の合計面積の比率を求める。この面積比率を体積比率と見なした。この測定には、公知の画像ソフトウェア(Image J)を用いた。
【0136】
試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45について炭化物層の最大厚さ及び平均厚さを求めた。ここでは、10個以上の被覆粒子について、各被覆粒子の炭化物層の最大厚さを以下のように測定した。上述のように断面SEM像を用いて、各炭素系粒子の外接円及び60本の直径をとる(図2Bも参照)。上記直径に沿った直線又は上記直径に沿った延長線において炭化物層が分断する線分の長さを求める。求めた線分のうち、長い方から上位5本の線分の長さを求め、平均をとる。上記の上位5本の線分の長さを平均した値を各被覆粒子の最大厚さとする。各被覆粒子の最大厚さについて、最小値が0.19μmであり、最大値が1.46μmである。10個以上の被覆粒子における上記の平均値(最大厚さ)を更に平均した値を試料No.45の最大厚さとすると、最大厚さは3μm以下であり、この試験では更に2μm以下である。
【0137】
また、10個以上の被覆粒子について、各被覆粒子の炭化物層の平均厚さを求めた。各被覆粒子に対して、上述と同様にして60本の線分の長さを求めて平均をとる。この平均値を各被覆粒子の平均厚さとする。各被覆粒子の平均厚さについて、最小値が0.04μmであり、最大値が0.23μmである。10個以上の被覆粒子における上記の平均厚さを更に平均した値を試料No.45の平均厚さとすると、平均厚さは0.50μm未満であり、この試験では更に0.30μm以下である。
【0138】
試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45以外の試料における炭化物層の最大厚さ及び平均厚さは、試料No.45と同等程度であると考えられる。このように炭素系粒子や銅相に比較して熱伝導性に劣る炭化物層が厚過ぎないことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。また、炭化物層が適切な厚さで存在して、製造過程で炭素系粒子に対する溶融銅の濡れ性を高められて緻密化できたことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。
【0139】
図2A図3に例示するように、試料群No.1等の溶浸材では、炭化物層中に銅成分を内包した箇所を含む炭化物層を備える被覆粒子(銅内包粒子)が多数存在した。上述のように熱伝導性に劣る炭化物層が銅成分を含むことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。また、図2A図3に例示するように銅成分50の内包箇所40の厚さは、局所的に厚い場合がみられるものの、この内包箇所40を含んだ炭化物層3の最大厚さが上述のように3μm以下と薄いことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。
【0140】
また、この試験では、銅内包粒子の炭化物層3は、その周方向に離間して複数の内包箇所40を有し、局所的に厚い箇所を含む。しかし、上述した炭化物層3の厚さの測定に利用した60本の線分のうち、内包箇所40を分断する線分に着目すると、各内包箇所40について、1μm以上の長さの線分が隣り合って並ぶ数は5本以下である。そのため、この炭化物層3は、1μm以上という局所的に厚い箇所を有するものの、各厚膜箇所における炭素系粒子の周方向に沿った長さは比較的短いといえる。更に、各内包箇所40について、上記隣り合って並ぶ5本以下の線分のうち、銅内包粒子の周方向に最も離れた位置にある2本の線分に挟まれる領域を厚膜箇所とする。各厚膜箇所の断面積(特定元素を含む炭化物と銅成分50とを含めた合計断面積)を求め、これらの合計を求めたところ、合計断面積は30μm以下である。そのため、この炭化物層3は、厚膜箇所を局所的に有するものの、その合計断面積が小さいといえる。これらのことからも、熱伝導性が高められたと考えられる。更に、銅成分50を含みながらも、特定元素を含む炭化物が存在することで、上述の濡れ性を高められて緻密化でき、熱伝導性を高められたと考えられる。
【0141】
試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45について、銅内包粒子における炭化物層中の銅成分の合計含有量を調べたところ、上記合計含有量は1体積%~20体積%である。また、試料No.45について、被覆粒子の合計断面積に対する銅内包粒子の合計断面積の割合を調べた。その結果、上記割合は50%以上である。試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45以外の試料における銅内包粒子の断面積割合は、試料No.45と同等程度であると考えられる。このことから、銅被覆粒子(銅成分50の内包箇所40)を適量含むことで、熱伝導性がより高められ易くなったと考えられる。
【0142】
上記銅成分の合計含有量は、上述の断面SEM像を用いて測定した。断面SEM像において30μm×40μmの測定領域に存在する銅内包粒子を全て抽出する。抽出した各銅内包粒子について、銅成分の面積比率=(銅成分の合計面積/銅内包粒子の炭化物層の面積)×100を求める。炭化物層の面積は特定元素を含む化合物と銅成分との合計面積とする。抽出した全ての銅内包粒子について、上記銅成分の面積比率を求め、更に平均をとる。この平均値を銅成分の面積比率とし、体積比率と見なす。また、ここでは、銅内包粒子の断面積割合は、銅内包粒子のうち、上述の銅成分の合計含有量が1体積%以上70体積%以下を満たすものを抽出し、(抽出した銅内包粒子の合計面積/被覆粒子の合計面積)×100を求めた。これらの測定には、公知の画像ソフトウェア(Image J)を用いた。
【0143】
試料群No.1等の溶浸材において、銅相中の特定元素の含有量を調べた。ここでは、上述の断面SEM像について、市販のシリコンドリフト検出器(OCTANE SUPERE、EDAX製)を用いて測定したところ、いずれの試料も特定元素が検出されなかった。このことから、銅相中の特定元素の含有量は、上記検出器の定量限界値である1質量%以下であるといえる。銅相中に、Cuよりも熱伝導率が低い特定元素が実質的に含まれていないことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。また、このことから、原料の銅素材に添加した第二の粉末の特定元素は、炭化物層に利用されたと考えられる。
【0144】
試料群No.1等の溶浸材において、炭素系粒子の表面形状を調べたところ、図2の上側のSEM像に示すように、炭素系粒子の表面が荒れた被覆粒子が多数みられた。そこで、上述の断面SEM像を用いて、炭素系粒子の輪郭長さL及び等価面積円の円周長さLを求めて、凹凸度=L/Lを算出した。ここでは、10個以上の炭素系粒子の凹凸度を求め、その平均値を求めた。その結果、上記平均値は1.35~1.59である。いずれの試料においても、凹凸度が1.2以上を満たす。このような試料群No.1等の溶浸材は、炭素系粒子と炭化物層と銅相との三者の界面強度が高く、冷熱サイクル特性に優れると期待される。なお、上記の測定には、公知の画像ソフトウェア(Image J)を用いた。
【0145】
試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45について、酸素の含有量を調べたところ、酸素の含有量は0.03質量%であり、非常に少なかった。試料群No.1等の溶浸材のうち、試料No.45以外の試料における酸素の含有量は、試料No.45と同等程度であると考えられる。このことから、これらの溶浸材は酸化物が少ないといえ、酸化物に起因する熱伝導率の低下が低減できたことからも、熱伝導性を高められたと考えられる。酸素の含有量は市販の酸素分析装置が利用できる。ここではON836(LECO製)を用いて酸素の含有量を測定した。
【0146】
次に、試料群No.1等の溶浸材のような、熱伝導性に優れる複合材料が得られる製造条件を考察する。
真空雰囲気に代えてアルゴン雰囲気とし、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)を2質量%とし、銅素材に対する第二の粉末の添加量(同)を0.1質量%とし、溶浸条件を1100℃×2時間として溶浸を行ったところ、実質的に溶浸しなかった。この理由の一つとして、第二の粉末の添加量が少なかったことが考えられる。このことから、雰囲気に対応して、第二の粉末の添加量や溶浸温度を調整することが好ましいと考えられる。
【0147】
表1~表3に示すように、溶浸温度が同じでも、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量と、銅素材に対する第二の粉末の添加量とが異なることで熱伝導率が異なる。例えば、銅粉末といった酸素の含有量が比較的多い銅素材を用いて、溶浸温度を1300℃とする場合に、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)が15質量%であれば、銅素材に対する第二の粉末の添加量(同)は0.4質量%超1質量%未満であることが好ましいといえる(例えば、試料No.34,35と試料No.32,33,36とを比較参照)。また、溶浸温度を1300℃とする場合に、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)が12質量%であれば、銅素材に対する第二の粉末の添加量(同)が0.2質量%であると熱伝導率が170W/m・K以上である(試料No.1,16,31,46,61参照)。このことから、第二の粉末の添加量をより少なくできる可能性がある。
【0148】
又は、例えば、銅粉末といった酸素の含有量が比較的多い銅素材を用いて、溶浸温度を1200℃とする場合に、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)を10質量%以上とし、銅素材に対する第二の粉末の添加量(同)を0.2質量%以上0.4質量%以下程度とすることが好ましいといえる(熱伝導率が170W/m・K以上である試料No.8~11,23~26,38~41,53~56,68,69,71,76~78参照)。
【0149】
又は、例えば、OFCの小切片といった酸素の含有量が比較的少ない銅素材を用いて、溶浸温度を1200℃とする場合に、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)を10質量%未満、ここでは7質量%とし、銅素材に対する第二の粉末の添加量(同)を0.2質量%以上0.4質量%以下程度とすることが好ましいといえる(試料No.14,15,29,30,44,45,59,60,74,75参照)。この場合に銅素材に対する第二の粉末の添加量をより多くすると、相対密度を向上でき、複合材料が緻密化され易いといえる。例えば、試料No.44,45を比較すれば、熱伝導率が高い試料No.45の方が緻密と考えられる。
【0150】
これらを踏まえると、炭素系粒子の大きさ、溶浸温度、第二の粉末の材質等にもよるが、第一の粉末に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)が0.1質量%以上15質量%以下を満たす範囲、銅素材に対する第二の粉末の添加量(特定元素の質量割合)が0.1質量%以上1質量%以下を満たす範囲で上記添加量を調整すると、熱伝導性に優れる複合材料を得易いと考えられる。また、OFCの小切片といった酸素の含有量が比較的少なく、比表面積が大きな銅素材を用いると、熱伝導性に優れる複合材料を得易いと考えられる。
【0151】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の試験例1において、以下の少なくとも一つの項目に対して、少なくとも一つの要件を変更することが挙げられる。
(1)炭素系物質の種類
(2)第一の粉末の平均粒径・含有量等
(3)銅素材の形態・大きさ・酸素濃度等
(4)炭化物層の形成に利用する第二の粉末の材質・形態・添加量等
(5)溶浸条件(溶浸温度、保持時間、雰囲気等)
(6)溶浸材の形状・大きさ等
【符号の説明】
【0152】
1 複合材料
2 炭素系粒子
3 炭化物層
4 被覆粒子
40 銅成分の内包箇所
5 銅相
50 銅成分
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3