(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】インジェクタ
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20230508BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
F02M51/06 C
F02M51/06 D
F16K31/06 305J
F16K31/06 305L
(21)【出願番号】P 2018166295
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 嵩之
(72)【発明者】
【氏名】村上 努
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-091998(JP,A)
【文献】特開平07-324663(JP,A)
【文献】特表昭63-503079(JP,A)
【文献】特開2014-066177(JP,A)
【文献】特開昭57-195858(JP,A)
【文献】実開昭57-204457(JP,U)
【文献】特開昭56-044450(JP,A)
【文献】米国特許第3702683(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/06
F02M 61/00~61/20
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルと、
前記電磁コイルの中心に配置されたドーナツ型の固定コアと、
前記固定コアに対向して吸着可能に配置された円筒状の可動コアと、
前記可動コアに固着された逆T字状のフランジ付き円筒状の弁体と、
前記弁体のストローク方向に沿って前記固定コアと前記可動コアの間に配設されたコイルばねと、
前記弁体のストローク方向に対し直角に設けられた板ばねと、を備え、
前記電磁コイルへの非通電時は前記コイルばねにより前記弁体が常時閉弁方向に付勢され、前記電磁コイルへの通電時に前記可動コアが前記固定コアに吸引されて開弁される電磁駆動式のインジェクタにおいて、
前記可動コアと前記弁体は、
前記可動コアと前記弁体により前記板ばねの中心部を挟み込むとともに前記弁体の
円筒箇所が前記可動コアに挿入された状態で、前記可動コアの内周面と前記弁体の外周面の接触箇所を固定箇所として溶接されており、
前記コイルばねの座面が、前記可動コアの内周面における前記固定箇所に掛からない位置に突出形成されていることを特徴とするインジェクタ。
【請求項2】
本体と、ロワープレートと、前記可動コアと前記弁体との間に挟まれて配置されるインナーカラーと、前記本体と前記ロワープレートとの間に挟まれて配置されるアウターカラーとをさらに備え、
前記板ばねが一対の板ばねであって、前記インナーカラーおよび前記アウターカラーを挟んで配設されており、各前記板ばねの内周縁が前記インナーカラーによって固定され、各前記板ばねの外周縁が前記アウターカラーによって固定されることを特徴とする請求項1記載のインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンが要求する流量の燃料を噴射する電磁駆動式のインジェクタ、殊に、開閉弁(燃料調量バルブ)の弁体がコイルばねのばね荷重により弁座に押しつけられて閉弁時のシール性を確保する、常閉式のインジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁コイルに通電して励磁させることにより可動鉄心を吸引して開閉弁を開弁させる電磁駆動式のインジェクタが用いられているが、開閉弁を作動させる電気信号は0.001~0.02秒程度の作動信号に設定されており、このようにきわめて短い作動時間の繰返しによって燃料を正確に制御する、という目的を達成させるために燃料噴射弁自身に高度の応答性が要求され、また近年はユーザーの高い品質へのニーズから非常に高い耐久性も要求されている。
【0003】
そして、インジェクタの弁体を閉弁のための弁ばねとして、固定鉄心と可動鉄心との間に装入したコイルばねを用いたものと、外側周縁部を固定して変位可能な中心に可動鉄心と弁体とを固着させた燃料通過可能な薄肉板状の板ばねを用いたものがあり、天然ガス(CNG)などの気体燃料を噴射するインジェクタにおいては、液体燃料を噴射するインジェクタのように潤滑油が無いため、摺動部無しで浮遊状態に支持し直線動させることが可能な板ばねを用いた構造が耐久性及び応答性において有利であるとされている。
【0004】
ところが、前記板ばねにより弁体を付勢する構成のインジェクタにおいては、板ばねの弾性反発力によるばね荷重により閉弁時のシール性が確保されるが、板ばねを構成する素材の経年劣化等を原因として板ばねの弾性反発力の低下による伴うばね荷重の減少により開閉弁のシール性が不充分な状態となり、閉弁時における燃料漏れの問題が生じやすくなる。
【0005】
そこで、前記弁体のストローク方向に沿ってコイルばねを設置して閉弁時に板ばねとコイルばねの2つのばねが協働することにより二重のばね荷重で閉弁状態を維持することにより弁ばねのばね荷重により弁体の閉弁状態を長期間にわたって確保できるようにしたインジェクタが特開2009-91998号公報に提示されている。
【0006】
また、一般的に気体燃料を噴射するインジェクタは、液体燃料と同じエンジン出力を得ようとすると、液体燃料より大きな燃料通過断面積を必要とするため、弁体の変位量が大きくなる。そのため板ばね構造を用いると板ばねにかかる応力の関係から必然的にインジェクタ本体が大型になってしまうが、特開2008-144693号公報に提示されているように弁体を浮遊状態である開閉弁の中間で支持し、戻しばねとしてコイルばねを用いることによって、板ばね構造の利点を損なわず大型化を防ぐことができることが知られている。
【0007】
この公報に提示されているようなインジェクタは
図2に示すように、インジェクタ1aは、電磁コイル3aおよび固定鉄心11a、可動鉄心5aを備え、可動鉄心5aの下側(下流側)には弁体21aが設けられており、これらが弁ストローク方向に対し直角に設けられた一つの円盤状の板ばね6aにより支持されており、弁体21aの上方にはコイルばね7aが弁ストローク方向に沿って設けられ、開閉弁2aの弁体21aを閉弁方向に付勢するように上下に圧縮状態とされて配設されている。
【0008】
更に、板ばね6aは周縁部がノズル9aとヨーク4aとに挟み込まれて固定されているとともに中心部が弁体21aと可動コア5aとに挟み込んで固定されていることにより弁体21aのストロークと直角方向に支持されている。
【0009】
しかしながら、この従来のインジェクタは、可動コア5aの内周面および弁体21aの外周面にあたる双方の固定箇所12aに形成した組付ねじ部により螺着することで板ばね6aを挟み込み支持する構成であり、弁体をプランジャーに支持する方式のインジェクタのように高度の応答性や耐久性を備えて正確な開閉を行わせるには個々の部品に高い精度が求められるとともに組み付け作業にも精度が求められ、更に、組付ねじ部を形成するためのねじ切り加工をしなければならず手間が掛かるとともに切粉も生じるので大量生産が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-91998号公報
【文献】特開2008-144693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、弁体がストローク方向に直角な方向に配置される板ばねに支持され弁体のストローク方向に沿ってコイルばねのばね荷重で閉弁状態を維持する常閉式のインジェクタにおいて、組み付けが容易で大量生産により製造可能であるばかりか廉価で且つ正確な開閉動作を行うことを可能にすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明であるインジェクタは、電磁コイルと、前記電磁コイルの中心に配置されたドーナツ型の固定コアと、前記固定コアに対向して吸着可能に配置された円筒状の可動コアと、前記可動コアに固着された逆T字状のフランジ付き円筒状の弁体と、前記弁体のストローク方向に沿って前記固定コアと前記可動コアの間に配設されたコイルばねと、前記弁体のストローク方向に対し直角に設けられ、中心部に通孔を形成した板ばねと、を備え、前記電磁コイルへの非通電時は前記コイルばねにより前記弁体が常時閉弁方向に付勢され、前記電磁コイルへの通電時に前記可動コアが前記固定コアに吸引されて開弁される電磁駆動式のインジェクタにおいて、前記可動コアと前記弁体は、前記可動コアと前記弁体により前記板ばねの中心部を挟み込むとともに前記弁体の円筒箇所が前記可動コアに挿入された状態で、前記可動コアの内周面と前記弁体の外周面の接触箇所を固定箇所として溶接されており、前記コイルばねの座面が、前記可動コアの内周面における前記固定箇所に掛からない位置に突出形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明において、前記コイルばねが前記固定コアと前記弁体との間に架設されており、前記弁体における前記コイルばねの座面が前記溶接箇所に掛からない位置に形成されていることにより、レーザー溶接により前記コイルばねの座面が変形する心配がない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、組み付けが容易で大量生産により製造可能であるばかりか廉価で且つ正確な開閉動作を行う常閉式のインジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における実施の形態であるインジェクタの閉弁状態を示す縦断面部分図。
【
図2】従来例における実施の形態であるインジェクタの閉弁状態を示す縦断面部分図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の好ましい実施の形態を実施するためのガスエンジンに燃料を供給する電磁駆動式のインジェクタ1の弁体21と弁シート22からなる開閉弁2を中心とした縦断面部分の概略を示すものであり、インジェクタ1は、電磁コイル3およびロワープレート4、可動コア5を備え、可動コア5の下側(下流側)には弁体21が設けられており、これらが弁ストローク方向に対し直角に設けられた一対の円盤状の板ばね6,6により支持されている。
【0018】
また、本実施の形態では前記板ばね6,6は、中心部61が前記弁体21の外周に配置した円柱状のインナーカラー8を介して前記弁体21とこの弁体21に固着された可動コア5とに挟み込まれて固定されており、外周縁62がノズル9とその内周に添って配置した中空円板状のアウターカラー10により前記弁体21のストロークに対して直角方向に支持されており、特に、インナーカラー8とアウターカラー10は同一高さに形成されており互いに所定の間隔を有して並設されている。
【0019】
殊に、本実施の形態では前記板ばね6,6は、中心部61,61を弁体21に支持するために前記弁体21に固着する可動コア5を両者が接触する固定箇所12においてレーザー溶接により固着されて組み付けられている。
【0020】
また、弁体21の上方にはコイルばね7が弁ストローク方向に沿って設けられ、開閉弁2の弁体21を閉弁方向に付勢するように上下に圧縮状態とされて配設されている。殊に本実施の形態では、前記弁体21におけるコイルばね7の座面13が前記溶接した固定箇所12に掛からない位置に形成されていることにより、レーザー溶接により前記コイルばね7の座面13が変形する心配がない。
【0021】
以上の構成を有する本実施の形態は、従来のこの種のインジェクタと同様に、電磁コイル3に通電して励磁させることにより固定コア11に磁力を生じさせて磁性体である可動コア5を吸引して前記コイルばね7と板ばね6,6の付勢力に抗して開閉弁2を開放するものであり、インジェクタに求められる高度の応答性や耐久性を備えて正確な開閉を行わせることが可能である。
【0022】
特に、本実施の形態では、板ばね6,6の中心部61,61を弁体21に支持するために前記弁体21に固着する可動コア5を両者が接触する固定箇所12においてレーザー溶接により固着されて組み付けられているので、従来の組付ねじ部で固着するのに対してねじ切り加工する必要がなく製造工程の省力化と切粉の処理も不要で大量生産が容易であるばかりか殊更に高精度の部品を必要としなくても良く、廉価に提供することが可能で経済的に有利である。
【0023】
尚、本実施の形態では、前記従来の弁体を中央部の1点のみで支える1枚の板ばねを用いた板ばね構造と異なり、所定の間隔を有して配置された2枚の板ばね6,6により支えられる構造としたが、前記
図2に示した従来例においても固定箇所12a部分を組付ねじ部に代わってレーザー溶接手段を用いて可動コア5を弁体21に固着することにより組み立てることで同様な作用・効果を奏することが可能であるが、複数枚の板ばね6を用いる場合には、様々な外乱によって作動が不安定になることもなく、開閉弁時に前記バルブラバー221、ストップラバー51が偏摩耗することもなく、弁体21の変位量が増加、板ばね6,6にかかる応力が大きくなることもなく、板ばね6,6が折損し、更にはインジェクタ1の機能が損なわれてしまう、という事態が生じることもない。
【符号の説明】
【0024】
1 インジェクタ、2 開閉弁、3 電磁コイル、4 ロワープレート、5 可動コア、6 板ばね、7 コイルばね、8 インナーカラー、9 ノズル、10 アウターカラー、11 固定コア、12 固定箇所、13 座面、21 弁体、22 弁座シート、61 中心部、62 外周縁、211 バルブラバー