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特許7273400加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用組成物、退色抑制方法および退色抑制用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用組成物、退色抑制方法および退色抑制用キット
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3526 20060101AFI20230508BHJP
   A23L 3/3553 20060101ALI20230508BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20230508BHJP
   A23L 19/00 20160101ALN20230508BHJP
【FI】
A23L3/3526
A23L3/3553
A23B7/154
A23L19/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019072332
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020167970
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】井上 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】山本 純
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0128860(US,A1)
【文献】特開2001-095479(JP,A)
【文献】特開平08-056610(JP,A)
【文献】特開2018-023323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制するための組成物であって、核酸関連化合物を含み、
該核酸関連化合物が、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、組成物。
【請求項2】
アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物が、該加熱を通じて、クロロフィル合成に関与する酵素が失活したクロロフィル含有野菜類またはその抽出物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制する方法であって、
核酸関連化合物をクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する工程、および
該核酸関連化合物が付与されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程、
を包含し、
該核酸関連化合物が、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、方法。
【請求項5】
前記クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に、アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を付与する工程
を包含する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制する方法であって、
クロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程、および
該加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に核酸関連化合物を付与する工程、
を包含し、
該核酸関連化合物が、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、方法。
【請求項7】
前記クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に、アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を付与する工程
を包含する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用キットであって、
(i)核酸関連化合物と、(ii)アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とを、相互に混ざり合わない形態で含み、
該核酸関連化合物が、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用組成物、退色抑制方法および退色抑制用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばボイルした緑色野菜を材料とした総菜食品は、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等において、照明下にて商品棚に陳列される。しかし、このような総菜食品は、蛍光灯などの照明に長時間曝されることにより、その食品中の野菜の緑色が退色して白化し得る。特に、近年は保存技術の向上により保存期間がより長くなっており、保存期間がより長い食品(例えばチルド食品)では照明に曝される時間がより長くなり、このような白化を生じる頻度が高くなる。このような退色は、照明以外の光照射(例えば、薄明かりまたは自然光)下でも生じ得る。
【0003】
また、ペットボトル入りの緑茶飲料は、例えば、茶葉から抽出され、加熱殺菌を通じて製造される。ペットボトル入りの緑茶飲料は、単に茶葉から抽出された状態のみでは、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等において遮光下での保存および照明下での陳列の間に飲料が退色することがある。このため、抗酸化剤であるビタミンCが緑茶飲料に添加されている。さらに、紙製またはアルミ製のような遮光容器入りの野菜飲料もまた、単に茶葉から抽出された状態のみでは、野菜飲料の色(例えば緑色)が経時的に退色することがある。
【0004】
このように、野菜を原材料とした飲食品および緑茶飲料のような飲食品において、光照射下または遮光下で保存されている間に、飲食品自体の色彩が変動、淡色化または白化するという現象が生じる。このような現象により、たとえその総菜食品が保存期間内にある場合であっても飲食品の見た目を損ない、消費者の購買意欲を低下させるという問題がある。
【0005】
したがって、光照射下または遮光下に保存されている間に飲食品の色彩を保持またはその色彩の変動を抑制することができる組成物および方法が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む種々の飲食品において生じ得る、光照射下または遮光下の保存中の退色を抑制するための組成物、方法およびキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制するための組成物を提供し、この組成物は、核酸関連化合物を含む。
【0008】
1つの実施形態では、上記核酸関連化合物は、プリン骨格を含む核酸関連化合物である。
【0009】
1つの実施形態では、上記プリン骨格を含む核酸関連化合物は、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0010】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含む。
【0011】
1つの実施形態では、上記加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物は、加熱を通じて、クロロフィル合成に関与する酵素が失活したクロロフィル含有野菜類またはその抽出物である。
【0012】
本発明はさらに、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制する方法を提供し、この方法は、
核酸関連化合物をクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する工程、および
該核酸関連化合物が付与されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程、
を包含する。
【0013】
1つの実施形態では、アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を上記クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する工程をさらに包含する。
【0014】
本発明はまた、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制する方法を提供し、この方法は、
クロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程、および
該加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に核酸関連化合物を付与する工程、
を包含する。
【0015】
1つの実施形態では、アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を上記クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する工程をさらに包含する。
【0016】
本発明はさらに、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用キットを提供し、このキットは、
(i)核酸関連化合物と、(ii)アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とを、相互に混ざり合わない形態で含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、照明下および遮光下での保存期間にわたって、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の色彩を保持または色彩の変動を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1.用語の定義)
まず、本明細書に用いる用語について定義する。
【0019】
本明細書において、「クロロフィル含有野菜類」とは、少なくともその表層を構成する細胞内にクロロフィルを含有し、クロロフィルによりその表層から所定の色彩を呈する部分を含む食用の植物体およびその乾燥物、ならびに当該乾燥物からの水または湯戻し品をいう。本明細書において「植物体」とは、細胞内にクロロフィルを含有し、クロロフィルによりその表層から所定の色彩を呈する部分を含む海藻類もまた包含する。クロロフィル「クロロフィル含有野菜類」は、例えば、緑色を呈し、そのような緑色を呈する野菜は緑色野菜とも呼ばれる。クロロフィルは葉緑素とも呼ばれ、植物体の葉および茎に多く存在する。クロロフィル含有野菜類としては、クロロフィルを含有し、クロロフィルによる色彩を呈する茎または葉を可食部として、または飲食品の原材料として用いることができる植物体(例えば、野菜)が挙げられる。またクロロフィルは、例えば、緑色を呈するような成熟または未熟果実にも存在し、クロロフィル含有野菜類としては、このような成熟または未熟果実を可食部として、または飲食品の原材料として用いることができる植物体(例えば、野菜)もまた挙げられる(例えば、ピーマン)。クロロフィル含有野菜類としては、例えば、緑色野菜(例えば、小松菜、ホウレンソウ、アスパラガス、ピーマン、インゲン、春菊、チンゲン菜、行者菜、ブロッコリー、大根の葉、万能葱、おかひじき、ししとう、明日葉、クレソン、えんどう豆、青菜、大葉、ケール、高菜、せり、なずな、よもぎ、ニラ、野沢菜、ニンニクの芽、パセリ、わけぎ、モロヘイヤ、みつば、芽キャベツ、バジルなど)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本明細書における「クロロフィル含有野菜類」は、野菜として通常分類されないものであっても、クロロフィルを含有し、クロロフィルによる色彩を呈する部分(例えば、葉、茎または成熟もしくは未熟果実)を可食部として、または飲食品の原材料として用いることができるものを包含し、例えば、茶葉(例えば、緑茶用の茶葉として販売されるような不発酵の茶葉)、あるいは海藻類(例えば、ワカメ、ひじき、コンブおよび海苔)が挙げられる。「飲食品の原材料に用いることができるもの」とは、記載の箇所(例えば、葉、茎または成熟もしくは未熟果実)自体を飲食品の原材料として用いることができること、ならびにその成分(例えば、葉、茎または成熟もしくは未熟果実からの抽出物)を飲食品の原材料として用いることができることもあわせていう。
【0020】
本明細書において、「加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物」とは、「加熱されたクロロフィル含有野菜類」、「加熱されたクロロフィル含有野菜類から抽出された抽出物」または「クロロフィル含有野菜類から抽出された抽出物を加熱したもの」をいう。
【0021】
クロロフィル含有野菜類について「加熱」の方法としては、例えば、茹でる(「ボイル」)、煮る、焼く、炒める、蒸す、揚げる(フライ)、乾燥などが挙げられる。抽出物について「加熱」の方法としては、クロロフィル含有野菜類の加熱抽出(例えば、熱水抽出)であってもよく、あるいはクロロフィル含有野菜類を非加熱下で抽出して得られた抽出物を加熱したもの(例えば、水出し煎茶を殺菌加熱したもの)であってもよい。「加熱」は、食品工場、食品店舗(スーパーマーケットのバックヤードなどを含む)でのクロロフィル含有野菜類を原材料とする飲食品の製造段階における処理での加熱に加えて、家庭および飲食店における調理の加熱も包含する。本明細書において、「加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物」は、加熱後に冷却されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物もまた包含する。例えば、「ブランチング」は、クロロフィル含有野菜類を加熱(例えば、熱湯もしくは高温の蒸気を用いる)した後に冷却(例えば、冷水または低温空気を用いる)する処理をいう。ブランチングは、好ましくは、クロロフィル含有野菜類に含まれる酵素を失活させる温度および時間で行われる。「加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物」は、例えば、食品工場などにて、殺菌のために加熱され、必要に応じてその後冷却されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物も包含する。本発明においてクロロフィル含有野菜類またはその抽出物は、単独種であっても、あるいは複数の種類の混合物であってもよい。
【0022】
本明細書において、「飲食品」は、食品および飲料の両方を包含していう。「加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品」は、クロロフィルに基づく色彩を呈し得る。加熱されたクロロフィル含有野菜類を含む飲食品は、製造直後、少なくとも当該クロロフィル含有野菜類に基づく部分について、例えば、緑色を呈する。加熱されたクロロフィル含有野菜類から抽出された抽出物を含む飲食品の色彩は、製造直後は、例えば、抽出に用いる溶媒、抽出物と共存する成分(例えば、クロロフィルと他の成分との混合物)に依存して、例えば、緑色~黄色を呈していてもよい。「加熱されたクロロフィル含有野菜類を含む飲食品」は、加熱されたクロロフィル含有野菜類を、必要に応じて切断(カット)、破砕、調味等を行って喫食する場合もまた包含する。「加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品」としては、例えば、クロロフィル含有野菜類を原材料に用いて加熱により得られる総菜食品(例えば、ボイル物、煮物、炒め物、焼き物、蒸し物、またはこれらの組み合わせ、あるいはこれらを含む食品)、乾燥物、乾燥粉末、ジュース、スムージー、ゼリー、緑茶飲料などが挙げられる。
【0023】
本明細書における「退色」は、飲食品のうち、少なくとも、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物の色彩が変動(例えば、淡色化、消失)することをいう。このような色彩の変動のうち、消失を「白化」ということがある。このような退色は、飲食品に含まれる加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物中のクロロフィルの変化(例えば、分解または化合)により生じ得る。「退色の抑制」は、例えば、退色の程度を減少させることおよび退色の進行を遅らせることを包含していう。「退色の抑制」は、飲食品のうち、少なくとも、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物の色の程度や、飲食品中のクロロフィルの量の測定によって評価することができる。
【0024】
(2.退色抑制用組成物)
本発明は、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制するための組成物(本明細書においては、この組成物を「退色抑制用組成物」ともいう)を提供する。この組成物は、核酸関連化合物を含む。
【0025】
本明細書において、「核酸関連化合物」とは、核酸(デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA))に由来あるいは類似する化合物をいい、例えば、核酸の構成成分である塩基と五炭糖が1単位ずつ結合した化合物であるヌクレオシド、その五炭糖に部分にリン酸が結合した化合物であるヌクレオチド、ならびに核酸塩基が挙げられる。ヌクレオチドには、ピリミジンヌクレオチドおよびプリンヌクレオチドがある。ヌクレオチドとしては、例えば、2’-、3’-または5’-のアデニル酸、グアニル酸、イノシン酸、シチジル酸、ウリジル酸、チミジル酸、およびこれらの塩、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩が挙げられる。ヌクレオシドとしては、例えば、シチジン、ウリジン、グアノジン、アデノシンおよびイノシンが挙げられる。核酸塩基としては、例えば、アデニン、グアニル、ウラシル、シトシル、チミンおよびヒポキサンチンが挙げられる。核酸関連化合物は、飲食品に利用可能な化合物が用いられる。
【0026】
1つの実施形態では、上記核酸関連化合物は、プリン骨格を含む核酸関連化合物である。上記プリン骨格を含む核酸関連化合物としては、例えば、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ヒポキサンチンおよびそれらの塩、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。プリン骨格を含む核酸関連化合物は、ピリミジン骨格を含む核酸関連化合物と比べて、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色をより効果的に抑制することができる点で好ましい。
【0027】
1つの実施形態では、本発明の退色抑制用組成物は、アスコルビン酸またはその塩(例えば、L-アスコルビン酸ナトリウム)、あるいはそれらの任意の組み合わせ(単に「アスコルビン酸等」ともいう)をさらに含む。アスコルビン酸等としては、例えば、食品添加剤として入手可能な化合物を用いることができる。本発明の組成物は、アスコルビン酸等をさらに含むことにより、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色をより効果的に抑制することができる。核酸関連化合物とアスコルビン酸等との含有量比は、核酸関連化合物1重量部に対し、アスコルビン酸等が、例えば0.1重量部~50重量部、好ましくは0.1重量部~30重量部である。含有量比がこのような範囲内であることにより、加熱された緑色野菜または緑色野菜抽出物を含む飲食品の退色をより効果的に抑制することができる。
【0028】
1つの実施形態では、上記加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物は、加熱を通じて酵素(例えば、クロロフィル合成に関与する酵素)が失活しているクロロフィル含有野菜類またはその抽出物である。クロロフィル含有野菜類の加熱により、そのクロロフィル含有野菜類中の酵素を失活させることができる。加熱温度および時間は、クロロフィル含有野菜類の種類、加熱方法等に依存して当業者が適宜設定することができる。加熱温度は、例えば60℃~100℃、好ましくは80℃~100℃である。例えば、ブランチングの場合、クロロフィル含有野菜類中の酵素を失活させるには、例えば、60℃~100℃にて20秒以上(好ましくは、20秒以上かつ20分以下)水中でボイルすることが好ましい。酵素(例えば、クロロフィル合成に関与する酵素)が失活しているクロロフィル含有野菜類の抽出物は、例えば、加熱により酵素を失活させたクロロフィル含有野菜類からの抽出、抽出物自体の加熱などによって得ることができる。未加熱の野菜類では、酵素が関与してクロロフィルの生合成が行われており、分解されるクロロフィルに対し新たな生合成により生成されたクロロフィルが補われることにより、クロロフィルに基づく色彩(例えば緑色)を維持し続けるが、酵素は概ね60℃以上で失活することから加熱された野菜類ではクロロフィル生合成は行われずに当該色彩を維持することができない。
【0029】
本発明の退色抑制用組成物はまた、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品一般に使用されるその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、水、醤油、食塩、味噌、食酢、酒精、みりん、食用油脂、エキス類、酸味料、甘味料、香辛料、アミノ酸類、無機塩類、ビタミン類、食物繊維類、着香料、着色料、乳化剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤(但しアスコルビン酸等を除く)および保存料が挙げられる。このようなその他の成分の含有量は、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制効果を阻害しない範囲にて当業者によって適宜設定され得る。
【0030】
本発明の退色抑制用組成物は、固形または液体の製剤として調製され得る。本発明の組成物をクロロフィル含有野菜類に付与する方法としては、加熱方法に依存して、例えば、組成物を固形製剤(例えば、粉末)としてクロロフィル含有野菜類と混ぜ合わせる、あるいはこの組成物を含有する水溶液中にクロロフィル含有野菜類を浸漬する、または当該水溶液をクロロフィル含有野菜類の表面に噴霧または塗布することが挙げられる。本発明の組成物を抽出物に付与する方法は、例えば、固形製剤(例えば、粉末)またはこの組成物を含有する水溶液と抽出物を混合することである。付与のタイミングは、例えば、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物の加熱前、加熱中および加熱後のいずれでもよい。
【0031】
本発明の退色抑制用組成物は、例えば、クロロフィル含有野菜類100重量部に対し、核酸関連化合物が例えば、0.01重量部~30重量部、好ましくは、0.5重量部~10重量部付与されるように、クロロフィル含有野菜類に付与される。例えば、本発明の退色抑制用組成物は、クロロフィル含有野菜類からの抽出物100重量部に対し、核酸関連化合物が例えば、0.01重量部~30重量部、好ましくは、0.05重量部~10重量部付与されるように、当該抽出物に付与される。また、本発明の退色抑制用組成物がアスコルビン酸等をさらに含む場合は、例えば、クロロフィル含有野菜類100重量部に対し、アスコルビン酸等が例えば、0.1重量部~50重量部、好ましくは、0.5重量部~20重量部付与されるように、クロロフィル含有野菜類に付与される。例えば、本発明の退色抑制用組成物は、クロロフィル含有野菜類からの抽出物100重量部に対し、核酸関連化合物が例えば、0.01重量部~30重量部、好ましくは、0.05重量部~10重量部付与されるように、当該抽出物に付与される。このような範囲内にあることにより、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色をより効果的に抑制することができる。
【0032】
(3.退色抑制方法)
発明はさらに、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制する方法(本明細書においては、このような方法を「退色抑制方法」ともいう)を提供する。本発明においては、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色を抑制するために、上記核酸関連化合物をクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与されればよい。このために、本発明の退色抑制用組成物を用いてもよく、あるいは核酸関連化合物、または上記核酸関連化合物をアスコルビン酸等と併用して用いてもよい。
【0033】
核酸関連化合物は、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物の加熱前、加熱中または加熱後のいずれの段階で、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与してもよい。加熱されたクロロフィル含有野菜類の抽出物を含む飲食品に関しては、抽出物への核酸関連化合物の付与は、核酸関連化合物をクロロフィル含有野菜類に付与し、このクロロフィル含有野菜類から抽出物を得ることによって行ってもよい。
【0034】
1つの方法では、核酸関連化合物をクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する工程、および該核酸関連化合物が付与されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程を包含する。この方法は、核酸関連化合物のクロロフィル含有野菜類またはその抽出物への付与を先に行った後に加熱を行う場合、言い換えれば、野菜類またはその抽出物の加熱前に核酸関連化合物を付与する場合(加熱前の付与)を包含する。
【0035】
この方法において、抽出物への核酸関連化合物の付与および加熱は、例えば、核酸関連化合物の野菜類への付与後に抽出して得られた抽出物を加熱してもよく、および核酸関連化合物を含有する溶液(例えば、水溶液)に野菜類を浸漬して、核酸関連化合物の野菜類への付与と抽出とをまとめて行い、得られた抽出物を加熱してもよい。また、野菜類に核酸関連化合物を付与した後に、その野菜類の加熱下でまたは加熱後に抽出を行ってもよい。
【0036】
別の方法は、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物を加熱する工程、および該加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に、核酸関連化合物を付与する工程を包含する。この方法は、核酸関連化合物のクロロフィル含有野菜類またはその抽出物への付与を行いながらクロロフィル含有野菜類またはその抽出物の加熱を行う場合(加熱中の付与)と、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物の加熱後に核酸関連化合物をこの加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与する場合(加熱後付与)とを包含する。加熱中の付与としては、例えば、核酸関連化合物を含む溶液(例えば水溶液)に野菜類を浸漬して加熱を行うことにより核酸関連化合物を野菜類に付与する場合、ならびに野菜類の加熱中に核酸関連化合物を付与する場合が挙げられる。
【0037】
この方法において、抽出物への核酸関連化合物の付与は、例えば、野菜類の加熱抽出の間に核酸関連化合物を付与してもよく、あるいは核酸関連化合物を含む溶液(例えば、水溶液)を抽出溶媒として野菜類を加熱抽出することにより、核酸関連化合物の付与と加熱と同時に行ってもよい。加熱後に抽出するか、または加熱下で抽出し、得られた抽出物に核酸関連化合物を付与してもよい。加熱後に組成物を抽出するか、または加熱下で抽出し、得られた抽出物に核酸関連化合物を付与してもよい。野菜類の加熱後に核酸関連化合物を付与し、次いで抽出を行ってもよい。
【0038】
上記の方法における核酸関連化合物として、退色抑制用組成物を用いることもできる。
【0039】
1つの実施形態では、退色抑制方法は、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物にアスコルビン酸等を付与する工程をさらに包含する。「クロロフィル含有野菜類またはその抽出物にアスコルビン酸等を付与する工程」は、アスコルビン酸等を核酸関連化合物と一緒に付与する場合、ならびに別途付与する場合を包含する。アスコルビン酸等は、核酸関連化合物と共にアスコルビン酸等をさらに含む本発明の退色抑制用組成物を用いることにより、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与してもよい。別途の付与の場合、アスコルビン酸等は、好ましくは、核酸関連化合物の付与の後に、クロロフィル含有野菜類またはその抽出物に付与される。また、アスコルビン酸等は、熱に弱いとの理由から加熱後に付与することが好ましい。加熱されたクロロフィル含有野菜類の抽出物を含む飲食品に関しては、抽出物へのアスコルビン酸等の付与は、アスコルビン酸等をクロロフィル含有野菜類に付与し、このクロロフィル含有野菜類から抽出物を得ることによって行ってもよい。
【0040】
クロロフィル含有野菜類またはその抽出物の加熱、および退色抑制用組成物のクロロフィル含有野菜類またはその抽出物への付与は、上記2.に記載したように、混合、浸漬、噴霧および塗布等の方法を用いて行うことができる。退色抑制用組成物、核酸関連化合物およびアスコルビン酸等のクロロフィル含有野菜類またはその抽出物への添加量は、上記2.に記載したとおりである。さらに、抽出物を得るためのクロロフィル含有野菜類への退色抑制用組成物または核酸関連化合物またはアスコルビン酸等の付与は、例えば、クロロフィル含有野菜類を切断または粉砕し、固形状の退色抑制用組成物または核酸関連化合物またはアスコルビン酸等(例えば、粉末形態)と混合してもよく、退色抑制用組成物または核酸関連化合物またはアスコルビン酸等を含有する溶液(例えば水溶液)中にクロロフィル含有野菜類を浸漬してもよい。この浸漬によって、抽出物の調製と、退色抑制用組成物または核酸関連化合物またはアスコルビン酸等の当該抽出物への付与とを併せて行ってもよい。例えば、退色抑制用組成物または核酸関連化合物を含有する水溶液を抽出溶媒として用いてクロロフィル含有野菜類を加熱下で抽出して抽出物を得ることにより、クロロフィル含有野菜類の抽出と、加熱と、退色抑制用組成物または核酸関連化合物の付与とをまとめて行ってもよい。
【0041】
(4.退色抑制用キット)
本発明はさらに、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色抑制用キットを提供し、このキットは、(i)核酸関連化合物と、(ii)アスコルビン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物(「アスコルビン酸等」)とを、相互に混ざり合わない形態で含む。核酸関連化合物とアスコルビン酸等との量比は、核酸関連化合物1重量部に対し、アスコルビン酸等が、例えば0.1重量部~50重量部、好ましくは0.1重量部~30重量部である。量比がこのような範囲内であることにより、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の退色をより効果的に抑制することができる。
【0042】
本発明の退色抑制用キットは、上記のような、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品一般に使用されるその他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分は、予め核酸関連化合物に添加した形態で含まれてもよく、予めアスコルビン酸等と混合した形態で含まれていてもよく、あるいは核酸関連化合物およびアスコルビン酸等とは独立した状態で含まれていてもよい。
【0043】
本発明の退色抑制用キットでは、(i)核酸関連化合物と(ii)アスコルビン酸等とが各々所定量が計量され、別々の容器(例えば樹脂製袋)内に収容されている。使用に際し、核酸関連化合物およびアスコルビン酸等は予め一緒になるように混合されるか、あるいはクロロフィル含有野菜類またはその抽出物に対して個別に添加することにより使用される。
【0044】
本発明の組成物、方法およびキットを用いることにより、光照射下および遮光下において、保存期間にわたって、加熱されたクロロフィル含有野菜類またはその抽出物を含む飲食品の色彩を保持または色彩の変動を抑制することができる。これにより、このような飲食品の保存期間において、例えば、消費者の購買意欲を低下させるような外観劣化を防ぐことができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0046】
(実施例1:保存中のボイル小松菜の退色に対する効果)
無添加の水または表1に示すいずれかの核酸関連化合物0.1重量%水溶液を、ボイル水として調製した。小松菜をカットし、得られた根元付近の茎と葉付近の茎とを半分ずつ用いた。小松菜:ボイル水=1:10(重量比)で1分間ボイルし、次いで1分間水冷した。ボイルした小松菜を総菜用トレイに盛り付けし、透明なトレイ蓋で閉じた後、20℃にて蛍光灯照明下(約1600lux;白色光)で24時間または10℃にて完全遮光下で48時間保存した。保存後にボイル小松菜の外観の色彩を官能評価(5段階尺度法)にて評価した。官能評価の評点基準は下記の通りとした:
1 非常に退色し、白に近い色を呈した
2 退色して薄い緑を呈した
3 退色はしているが、緑色は残っていた
4 かなり退色が抑制され、緑色が濃かった
5 かなり退色が抑制され、鮮やかさのある緑色が保持された
【0047】
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す「アデニル酸2Na」「イノシン酸2Na」「グアニル酸2Na」「ウリジル酸2Na」「シチジル酸2Na」は、それぞれ5’-アデニル酸二ナトリウム、5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-グアニル酸二ナトリウム、5’-ウリジル酸二ナトリウム、2’-シチジル酸二ナトリウムである。
【0050】
表1に示されるように、無添加の小松菜を照明下で保存すると退色が見られ、各核酸関連化合物の添加によりこのような退色は抑制された。遮光下でも、無添加の小松菜は照明下ほどではないが退色が見られ、各核酸関連化合物の添加によりこのような退色は抑制された。特に、プリン骨格を含む核酸関連化合物(イノシン酸、グアニル酸、ヒポキサンチン、5’-アデニル酸二ナトリウム、5’-イノシン酸二ナトリウムおよび5’-グアニル酸二ナトリウム)は、より顕著な退色抑制効果を示した。
【0051】
(参考例:保存中のクロロフィルに対する効果)
10重量%エタノール溶媒に溶媒重量に対し各核酸関連化合物1%およびクロロフィルaを45mg/Lになるよう溶解させサンプル液とした。20℃にて24時間の蛍光灯照明下(約1600lux;白色光)、または20℃にて65時間の暗所にてサンプル液を保存し、保存後のクロロフィルの吸収強度を分光度計で測定した。保存後のクロロフィル量を10重量%エタノール中のクロロフィルの吸収極大波長672nmから算出した(クロロフィル量(mg/L)=A672÷クロロフィルのミリモル吸光度係数ε672×893.503)。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、無添加では、照明下のクロロフィル量が半減したのに対し、各核酸関連化合物の添加により、このようなクロロフィル量低下が抑制された。遮光下の無添加のクロロフィル量は、照明下に比べて程度が少ないながらも低下しており、このようなクロロフィル量の低下は、各核酸関連化合物の添加により抑制された。特に、プリン骨格を含む核酸関連化合物(5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-グアニル酸二ナトリウム、および5’-アデニル酸二ナトリウム)は、より高いクロロフィル残存率を示した。
【0054】
(実施例2:L-アスコルビン酸ナトリウムとの併用効果)
無添加の水、各核酸関連化合物0.1重量%水溶液、または各核酸関連化合物0.1重量%とL-アスコルビン酸ナトリウム1.0重量%を含む水溶液をボイル水として調製したこと以外は、実施例1と同様にして、保存後のボイル小松菜の色彩を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示されるように、照明下および遮光下ともに、無添加で生じている小松菜の退色が、各核酸関連化合物単独(5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-グアニル酸二ナトリウム)で抑制された。さらに核酸関連化合物とL-アスコルビン酸ナトリウムとの組合せでは、このような退色が抑制されただけでなく、鮮やかな緑色を呈した。
【0057】
(実施例3:種々のボイル野菜に対する退色抑制効果)
実施例2の小松菜に代えて、アスパラガス、ピーマンまたはインゲンのいずれかを用いたことを除いて、実施例1と同様にして、保存後の各ボイル野菜の色彩を評価した。アスパラガスは、根元部分をカットしたものを用いた。ピーマンは種をとって細切りしたものを用いた。インゲンは、へたの部分をカットして取り除いたものを用いた。結果を表4に示す。表4は、実施例3のボイル小松菜の結果を併せて示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示されるように、野菜の種類に応じて程度に多少の差異を生じているものの、いずれのボイル野菜に対しても、照明下、遮光下に関わらず、無添加で生じる保存中の緑色の退色が、各核酸関連化合物(5’-イノシン酸二ナトリウムまたは5’-グアニル酸二ナトリウム)の添加により顕著に抑制された。L-アスコルビン酸ナトリウムを併用した場合、さらに退色が抑制され、さらに鮮やかさも保持されていた。
【0060】
(実施例4:ボイル前処理の退色抑制効果)
実施例2に用いた各ボイル水を加熱前処理液とし、そして小松菜:加熱前処理液=1:2(重量比)で1時間浸漬処理し、処理液を切って1分間ボイルし、次いで1分間水冷したことを除いて、実施例1と同様にして、保存後のボイル小松菜の色彩を評価した。
【0061】
(実施例5:ボイル後処理の退色抑制効果)
実施例2に用いた各ボイル水を加熱後処理液とし、ボイル後の小松菜:加熱後処理液=1:2(重量比)で1時間浸漬処理したことを除いて、実施例1と同様にして、保存後のボイル小松菜の色彩を評価した。
【0062】
実施例4および5の結果を表5に併せて示す。
【0063】
【表5】
【0064】
表5に示されるように、ボイル前処理(実施例4)およびボイル後処理(実施例5)ともに、程度に多少の差異を生じているものの、照明下、遮光下に関わらず、無添加で生じる保存中の退色が、各核酸関連化合物(5’-イノシン酸二ナトリウムまたは5’-グアニル酸二ナトリウム)の添加により顕著に抑制され、そしてL-アスコルビン酸ナトリウムを併用した場合、さらに退色が抑制された。また、加熱後処理(実施例5)において、その退色抑制がより効果的であり、L-アスコルビン酸ナトリウムを併用した場合には緑色の鮮やかさも保持されていた。
【0065】
(実施例6:ボイル前イノシン酸二ナトリウム処理およびボイル後L-アスコルビン酸ナトリウム処理によるボイル小松菜の退色抑制効果)
小松菜:5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量%水溶液=1:2で1時間浸漬処理し、液を切って1分間ボイルし、次いで1分間水冷した後、ボイルした小松菜:L-アスコルビン酸ナトリウム1.0重量%水溶液=1:2(重量比)で1時間浸漬処理したことを除いて、実施例1と同様にして、保存後のボイル小松菜の色彩を評価した。
【0066】
(実施例7:ボイル後にイノシン酸二ナトリウムで処理し、次いでL-アスコルビン酸ナトリウムで処理したボイル小松菜の退色抑制効果)
小松菜を1分間ボイルし、次いで1分間水冷後、ボイルした小松菜:5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量%水溶液=1:2(重量比)で1時間浸漬処理し、液を切ってから浸漬処理後の小松菜:L-アスコルビン酸ナトリウム1.0重量%水溶液=1:2(重量比)で1時間浸漬処理したことを除いて、実施例1と同様にして、保存後のボイル小松菜の色彩を評価した。
【0067】
実施例6および7の結果を併せて表6に示す。表6には、イノシン酸二ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウムのいずれでも処理しなかったボイル小松菜(表6中「処理なし」)の色彩評価の結果を併せて示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6に示されるように、ボイル前に5’-イノシン酸二ナトリウム処理し、かつボイル後にL-アスコルビン酸ナトリウムで処理したボイル小松菜(実施例6)、ならびにボイル後に5’-イノシン酸二ナトリウムで処理し、次いでL-アスコルビン酸ナトリウムで処理したボイル小松菜(実施例7)ともに、照明下、遮光下に関わらず、処理なしで生じる保存中の退色がより顕著に抑制され、緑色の鮮やかさも保持されていた。
【0070】
実施例2と実施例4~7との結果を併せて考慮すると、核酸関連化合物(5’-イノシン酸二ナトリウムまたは5’-グアニル酸二ナトリウム)、L-アスコルビン酸ナトリウムとも、ボイル前に比べて、野菜のボイル中またはボイル後に用いることにより、より高い緑色退色抑制効果が得られたことがわかる。特に、L-アスコルビン酸ナトリウムを、ボイル前よりもボイル中またはボイル後に用いることにより、より良好な退色抑制効果が得られた。
【0071】
(実施例8:炒め野菜における退色抑制効果)
小松菜を炒める際に、小松菜100重量部に対し、5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量部、または5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量部およびL-アスコルビン酸ナトリウム1重量部を粉末状態で添加した。炒めた小松菜を総菜用トレイに盛り付けし、透明なトレイ蓋で閉じた後、20℃にて蛍光灯照明下(約1600lux;白色光)で24時間保存し、実施例1と同様に色彩を評価した。
【0072】
(実施例9:蒸し野菜における退色抑制効果)
5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量%水溶液、および5’-イノシン酸二ナトリウム0.1重量%とL-アスコルビン酸ナトリウム1.0重量%とを含む水溶液を処理液として調製した。小松菜を3分間100℃で蒸した後、蒸した小松菜:処理液=1:2(重量比)にて1時間浸漬処理した。蒸した小松菜の処理液を切って総菜用トレイに盛り付けし、透明なトレイ蓋で閉じた後、20℃にて蛍光灯照明下(約1600lux;白色光)で24時間保存し、実施例1と同様に色彩を評価した。
【0073】
実施例8および9の結果を併せて表7に示す。表7には、5’-イノシン酸二ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウムのいずれでも処理しなかった場合の小松菜(表7中「無添加」)の色彩評価の結果を併せて示す。
【0074】
【表7】
【0075】
表7に示されるように、炒め野菜(実施例8)、蒸し調理(実施例9)のいずれにおいても、5’-イノシン酸二ナトリウムで処理することで緑色の退色が抑制された。L-アスコルビン酸ナトリウムを併用することでさらに退色が抑制された。
【0076】
したがって、加熱方法(例えば、ボイル、炒め、蒸し)や、5’-イノシン酸二ナトリウムおよびL-アスコルビン酸ナトリウムの添加方法にかかわらず、高い退色抑制効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品の製造分野、ならびに食品加工分野において有用である。