(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】脂肪由来幹細胞を含む生体材料およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20230508BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230508BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230508BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230508BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20230508BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20230508BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20230508BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20230508BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20230508BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20230508BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/22
A61L27/38 111
A61L27/38 112
A61L27/54
A61L27/36 110
A61L27/38
A61P19/00
A61L27/36 311
A61L27/36 312
A61L27/44
A61L27/36 130
A61L27/10
A61K35/32
A61K35/28
(21)【出願番号】P 2020537864
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2018075545
(87)【国際公開番号】W WO2019057862
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-29
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520097216
【氏名又は名称】ノヴァディップ バイオサイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】ダフレーン,デニス
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170117(US,A1)
【文献】Medicine,2015年,Vol.94, No.50, e2220,pp.1-11
【文献】Stem Cells International,2016年,Vol.2016, Article ID 1934270,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00 -33/18
A61K 35/00 -35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞(ASC)から分化させた骨原性細胞とセラミック材料と細胞外基質とを含む多次元構造を有し、オステオプロテジェリン(OPG)を分泌し、インスリン様成長因子(IGF1)と間質細胞由来因子1アルファ(SDF-1α)とを含む、生体材料であり、
前記セラミック材料が粒子の形態であり、
前記生体材料の前記多次元構造が、前記
骨原性細胞による前記細胞外基質の合成に起因し、かつ、
前記骨原性細胞および前記セラミック材料が前記細胞外基質に包埋されている、生体材料。
【請求項2】
OPGを少なくとも生体材料1g当たり5ng分泌する、請求項1に記載の生体材料。
【請求項3】
OPGを少なくとも生体材料1g当たり10ng分泌する、請求項1に記載の生体材料。
【請求項4】
IGF1を生体材料1g当たり少なくとも50ng含む、請求項1に記載の生体材料。
【請求項5】
IGF1を生体材料1g当たり少なくとも75ng含む、請求項1に記載の生体材料。
【請求項6】
SDF-1αを生体材料1g当たり最大100ng含む、請求項1に記載の生体材料。
【請求項7】
SDF-1αを生体材料1g当たり最大75ng含む、請求項1に記載の生体材料。
【請求項8】
前記セラミック材料がリン酸カルシウムの粒子である、請求項1に記載の生体材料。
【請求項9】
前記リン酸カルシウムの粒子が、50μm~1500μmの範囲の平均サイズを有する、請求項8に記載の生体材料。
【請求項10】
前記リン酸カルシウムの粒子が、ヒドロキシアパタイト(HA)および/またはβリン酸三カルシウム(β-TCP)の粒子である、請求項8に記載の生体材料。
【請求項11】
前記リン酸カルシウムの粒子が、10/90~90/10の範囲の比のHA/β-TCPの粒子である、請求項8に記載の生体材料。
【請求項12】
前記リン酸カルシウムの粒子が、20/80~80/20の範囲の比のHA/β-TCPの粒子である、請求項8に記載の生体材料。
【請求項13】
VEGFを少なくとも生体材料1g当たり10ng含む、請求項1に記載の生体材料。
【請求項14】
三次元のものである、請求項1に記載の生体材料。
【請求項15】
請求項1に記載の多次元生体材料を含む、医療装置。
【請求項16】
請求項1に記載の多次元生体材料を作製する方法であって、
脂肪由来幹細胞(ASC)増殖の段階と、
第4継代
のASC
を骨原性
細胞に分化
させる段階と、
前記骨原性細胞にセラミック材料を加え、多次元誘導
させる段階と
を含む、方法。
【請求項17】
前記多次元誘導が3D誘導である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
骨欠損および/または軟骨欠損の治療に使用するための、請求項1に記載の生体材料を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞および多次元生体材料の作製へのその使用の分野に関する。具体的には、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)を含む生体材料、そのような生体材料を治療用に調製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨欠損とは、通常であれば骨であるべき身体領域に骨組織がないことである。骨欠損は様々な外科的方法によって治療することができる。しかし、多くの場合、糖尿病、免疫抑制療法、運動状態の不良および処置を計画する際に考慮に入れる必要のあるその他の因子など、骨治癒の障害となる因子が存在する。
【0003】
骨欠損を再建する外科的方法としては、特に皮質剥離、切除および固定、海綿骨移植ならびにイリザロフの介在骨輸送法が挙げられる。ただし、患者の歩行障害の期間が長くなり、機能面および審美面からみた結果も最適ものとならないことが多い。
【0004】
組織工学では、生細胞の使用によって組織の構造または機能を回復させる。一般的工程は、細胞の単離および増殖と、それに続く足場材料を使用する再移植処置とからなる。間葉系幹細胞(MSC)は、成熟組織の細胞の優れた代替物となり、骨および軟骨の組織再生の細胞供給源として多数の利点がある。
【0005】
定義によれば、幹細胞は、自己再生することが可能であり、多系列に分化し、最終的に分化細胞を形成することが可能であることを特徴とするものである。理想的には、再生医療に適用する幹細胞は、以下の基準を満たすべきである:(i)大量に(数百万~数十億個の細胞が)存在するべきである;(ii)低侵襲性の方法によって収集および回収することができる;(iii)再現可能に複数の細胞系列経路に沿って分化することができる;(iv)自家宿主または同種宿主に安全かつ効率的に移植することができる。
【0006】
複数の研究で、幹細胞には中胚葉、内胚葉および外胚葉起源の細胞に分化する能力があることが明らかにされている。MSCの可塑性はほとんどの場合、幹細胞内に保持している、系列の境界を越え、他の組織に固有の細胞の表現型の特性、生化学的特性および機能的特性を取り入れる先天的能力を指す。成体間葉系幹細胞は、例えば骨髄および脂肪組織から単離することができる。
【0007】
脂肪由来幹細胞は多能性であり、著明な再生能がある。この同じ脂肪組織細胞集団を識別するのに以下の用語:脂肪由来幹細胞/間質細胞(ASC);脂肪由来成体幹(ADAS)細胞、脂肪由来成体間質細胞、脂肪由来間質細胞(ADSC)、脂肪間質細胞(ASC)、脂肪間葉系幹細胞(AdMSC)、脂肪芽細胞、周皮細胞、脂肪前駆細胞、処理吸引脂肪組織(Processed Lipoaspirate)(PLA)細胞が用いられている。文献にこのように多様な命名法が用いられることにより、大きな混乱を招いた。この問題に対処するため、International Fat Applied Technology Societyは、単離されており、可塑性のある付着性の多能性細胞集団を識別するのに「脂肪由来幹細胞」(ASC)という用語を採用することで意見が一致した。
【0008】
骨原性分化ASCは様々な前臨床モデルで、様々な足場、例えばβリン酸三カルシウム(β-TCP)、ヒドロキシアパタイト(HA)、I型コラーゲン、ポリ-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)およびアルギン酸などに播種すると大きな治癒能を示すことが明らかにされている。国際特許出願第2013/059089号は、幹細胞と、リン酸三カルシウムおよびヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムセメントの混合物とを含む、骨ペーストに関するものである。米国特許出願公開第2011/104230号には、合成セラミック材料と間葉系幹細胞とシグナル伝達分子とを含む足場材料を含む、骨パッチが開示されている。
【0009】
しかし、小動物モデルでは有望な結果が得られているものの、足場に搭載したASCを用いる臨界サイズの骨再建は未だ、骨欠損のサイズが大きいことによる、したがって、設計する移植片の大きさによる制約を受けている。播種細胞の細胞生着についても、酸素および栄養素の拡散不良による制約を受けている。さらに、足場内での細胞の位置が、細胞のin vitroおよびin vivoでの生存率に対する大きな制約となっている。細胞をより均一に分布させる移植片内での細胞遊走、移植片の中心部に酸素および栄養素を送達することによる細胞生存ならびに、(流体せん断力による)骨原性細胞分化が改善されるように、足場のフロー灌流を備えたバイオリアクターが設計されている。これらの技術は有望なものではあるが、大型動物モデルでの関連する前臨床および臨床データが少ない。
【0010】
このように、当該技術分野では依然として、完全に生体に適合し、指定された用途に適した機械的特徴をもたらす、骨組織再生のための組織設計材料が必要とされている。したがって、本発明は、セラミック材料を有する多次元骨原性構造物に分化したASCから作製される、移植片に関するものである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、骨原性分化脂肪由来幹細胞(ASC)とセラミック材料と細胞外基質とを含む多次元構造を有し、オステオプロテジェリン(OPG)を分泌し、インスリン様成長因子(IGF1)と間質細胞由来因子1アルファ(SDF-1α)とを含む、生体材料に関する。
【0012】
一実施形態では、生体材料は、OPGを少なくとも生体材料1g当たり約5ng、好ましくは少なくとも約10ng/g分泌する。
【0013】
一実施形態では、生体材料は、IGF1を少なくとも生体材料1g当たり約50ng、好ましくは少なくとも75ng含む。
【0014】
一実施形態では、生体材料は、SDF-1αを最大で生体材料1g当たり約100ng、好ましくは最大で75ng含む。
【0015】
一実施形態では、セラミック材料は粒子の形態である。一実施形態では、セラミック材料はリン酸カルシウムの粒子である。
【0016】
一実施形態では、リン酸カルシウムの粒子は、約50μm~約1500μmの範囲の平均サイズを有する。一実施形態では、リン酸カルシウムの粒子は、ヒドロキシアパタイト(HA)および/またはβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)の粒子である。
【0017】
一実施形態では、リン酸カルシウムの粒子は、約10/90~約90/10の範囲の比のHA/β-TCPの粒子である。別の実施形態では、HA/β-TCPの粒子は、約20/80~約80/20の比である。別の実施形態では、HA/β-TCPの粒子は、約30/70~約70/30の比である。別の実施形態では、HA/β-TCPの粒子は、約40/60~約60/40の比である。別の実施形態では、HA/β-TCPの粒子は約50/50の比である。別の実施形態では、HA/β-TCPの粒子は65/35の比である。
【0018】
一実施形態では、生体材料は、VEGFを少なくとも生体材料1g当たり約10ng含む。
【0019】
一実施形態では、生体材料は三次元のものである。
【0020】
ある特定の実施形態では、生体材料は成形可能または形成可能なものである。
【0021】
本発明は、本発明の多次元生体材料を含む、医療装置または医薬組成物にも関する。
【0022】
本発明のまた別の目的は、本発明の多次元生体材料を作製する方法であって、
脂肪由来幹細胞(ASC)増殖の段階と、
第4継代でのASC骨原性分化の段階と、
多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階と
を含む、方法である。
【0023】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られる多次元生体材料に関する。
【0024】
本発明のまた別の目的は、骨欠損または軟骨欠損の治療に使用する、本明細書に記載される生体材料である。
【0025】
定義
本発明では、以下の用語は以下のような意味を有する:
【0026】
値の前に記載される「約」という用語は、前記値±10%の値を意味する。
【0027】
「脂肪組織」という用語は、任意の脂肪組織を指す。脂肪組織は、皮下、大網/内臓、乳房、性腺またはその他の脂肪組織部位に由来する、褐色脂肪組織または白色脂肪組織であり得る。好ましくは、脂肪組織は皮下白色脂肪組織である。このような細胞は、初代細胞培養物または不死化細胞系列を含み得る。脂肪組織は、脂肪組織を有し、生存している、または死亡した任意の生物に由来するものであり得る。好ましくは、脂肪組織は動物、より好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくは、脂肪組織はヒトである。脂肪組織の便利な供給源として脂肪吸引術由来のものがあるが、脂肪組織の供給源も脂肪組織単離の方法も本発明にとって重要なものではない。
【0028】
本明細書で使用される「脂肪由来幹細胞」(「脂肪組織由来幹細胞」とも呼ばれる)という用語は、脂肪組織の「非脂肪細胞」分画を指す。細胞は、新鮮なものであっても、培養したものであってもよい。「脂肪由来幹細胞」(ASC)は、脂肪組織に由来し、様々な異なる細胞型、例えば、特に限定されないが、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などへの前駆体としての役割を果たし得る、間質細胞を指す。
【0029】
本明細書で使用される「セラミック材料」という用語は、無機非金属固体材料を指す。セラミック材料は、リン酸カルシウム(CaP)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム(Ca[OH]2)またはその組合せであり得る。セラミック材料は粒子の形態であり得る。セラミック材料は、粉末、ビーズまたは顆粒の形態であり得る。セラミック材料は多孔性であり得る。
【0030】
「再生」または「組織再生」という用語は、特に限定されないが、本開示のASCからの新たな細胞型または組織の成長、発生または再建を含む。一実施形態では、細胞型または組織としては、特に限定されないが、骨原性細胞(例えば、骨芽細胞)、軟骨細胞、内皮細胞、心筋細胞、造血細胞、肝細胞、脂肪細胞、神経細胞および筋管が挙げられる。特定の実施形態では、「再生」または「組織再生」という用語は、本開示のASCからの骨原性細胞(例えば、骨芽細胞)の発生または再建を指す。
【0031】
本明細書で使用される「成長因子」という用語は、組織成長、細胞増殖、血管新生などを促進する分子のことである。特定の実施形態では、「成長因子」という用語は、骨組織形成を促進する分子を含む。
【0032】
本明細書で使用される「培養された」という用語は、in vitro、in vivoまたはex vivoの環境で細胞分裂の過程にある、または細胞分裂の過程にない1つまたは複数の細胞を指す。in vitroの環境は、in vitroで細胞を維持するのに適した当該技術分野で公知の任意の培地、例えば、適切な液体培地または寒天などであり得る。細胞培養に適したin vitroの環境の具体例が、Culture of Animal Cells:a manual of basic techniques(3rd edition),1994,R.I.Freshney(ed.),Wiley-Liss,Inc.;Cells:a laboratory manual(vol.1),1998,D.L.Spector,R.D.Goldman,L.A.Leinwand(eds.),Cold Spring Harbor Laboratory Press;およびAnimal Cells:culture and media,1994,D.C.Darling,S.J.Morgan John Wiley and Sons,Ltd.に記載されている。
【0033】
「コンフルエンシー」という用語は、細胞培養表面(培養皿またはフラスコなど)の付着細胞の数、すなわち、細胞によって覆われている表面の割合を指す。100%のコンフルエンシーは、表面が細胞によって完全に覆われていることを意味する。一実施形態では、「細胞がコンフルエンスに達する」または「細胞がコンフルエントである」という表現は、細胞が表面の80~100%を覆っていることを意味する。一実施形態では、「細胞がサブコンフルエントである」という表現は、細胞が表面の60~80%を覆っていることを意味する。一実施形態では、「細胞がオーバーコンフルエントである」という表現は、細胞が少なくとも表面の100%を覆っている、かつ/または数時間または数日以来、100%のコンフルエントであることを意味する。
【0034】
「冷蔵すること」または「冷蔵」という用語は、対象の正常な生理的温度未満の温度にする処理を指す。例えば、長期間にわたって、例えば、少なくとも約1時間、少なくとも約1日、少なくとも約1週間、少なくとも約4週間、少なくとも約6か月などにわたって、約-196℃~約+32℃の範囲内で選択される1つまたは複数の温度で。一実施形態では、「冷蔵すること」または「冷蔵」は、0℃未満の温度にする処理を指す。冷蔵することは、手作業で実施しても、好ましくは、冷蔵プログラムを実行することが可能な特別の装置を用いて実施してもよい。一実施形態では、「冷蔵」という用語は、当該技術分野で「凍結すること」および「凍結保存」として知られる方法を含む。当業者には、冷蔵方法が、冷蔵目的で試薬を添加することを含めた他の段階を含み得ることが理解されよう。
【0035】
本明細書で使用される「非胚細胞」という用語は、胚から単離されるものではない細胞を指す。非胚細胞は、分化したものであっても未分化のものであってもよい。非胚細胞は、ほぼあらゆる体細胞、例えば子宮外の動物から単離した細胞などを指し得る。一実施形態では、非胚細胞は生殖細胞を含む。これらの例は、限定することを意図するものではない。
【0036】
本明細書で使用される「分化細胞」という用語は、特殊化していない表現型から特殊化した表現型に発生した前駆細胞を指す。例えば、脂肪由来幹細胞は骨原性細胞に分化し得る。
【0037】
本明細書で使用される「分化培地」という用語は、分化細胞を作製するのに本発明の培養系で使用する化合物の集合物の1つを指す。化合物の作用機序に関しては、いかなる限定も意図されない。例えば、薬剤は、表現型の変化を誘導または補助する、特定の表現型を有する細胞の増殖を促進する、または他の細胞の増殖を遅らせることによって、分化過程を補助するものであり得る。薬剤は、培地中に存在するか、細胞集団によって合成され、望ましくない細胞型への経路に沿って分化を指令する可能性のある他の因子に対して、阻害剤として作用し得るものであってもよい。
【0038】
「治療」、「治療すること」または「軽減」という用語は、骨欠損を予防すること、または速度を低下させる(減少させる)ことを目的とする、治療的処置を指す。治療を必要とする者には、既に障害を有する者および障害を発症しやすい者または骨欠損を予防するべき者が含まれる。治療量の本発明の方法による生体材料を入れた後、患者に、骨欠損の軽減および/または骨欠損による1つもしくは複数の症状のある程度の緩和;罹病率および死亡率の低下ならびに生活の質の改善のうち1つまたは複数のものについて観察可能かつ/または測定可能な軽減または不在がみられる場合、対象の骨欠損が良好に「治療された」ことになる。疾患の良好な治療および改善を評価するための上記パラメータは、医師がよく知るルーチンの方法によって容易に測定可能なものである。
【0039】
本開示の生体材料の治療的使用に関連して、「同種」療法では、ドナーとレシピエントが同じ種に属する異なる個体であるのに対して、「自家」療法では、ドナーとレシピエントが同じ個体であり、「異種」療法では、ドナーは、レシピエントと異なる種に属する動物に由来するものである。
【0040】
「有効量」という用語は、臨床結果を含めた有益な結果または所望の結果を得るのに十分な量を指す。有効量を1回または複数回の投与で投与することができる。
【0041】
「対象」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。対象の例としては、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシおよびそのトランスジェニック種が挙げられる。一実施形態では、対象は「患者」、すなわち、医療を受けるのを待っているか受けている、または医療処置の対象であった/である/となる、または疾患の発症を監視している温血動物、より好ましくはヒトであり得る。一実施形態では、対象は成体(例えば、18歳超のヒト対象)である。別の実施形態では、対象は子供(例えば、18歳未満のヒト対象)である。一実施形態では、対象は雄である。別の実施形態では、対象は雌である。
【0042】
「生体適合性」という用語は、細胞、細胞培養物、組織または生物体などの生体系に適合する、無毒性材料を指す。
【0043】
「多次元」という用語は、2以上の次元、例えば二次元(2D)または三次元(3D)を指す。一実施形態では、多次元構造を有する生体材料は、2Dまたは3D構造を有する生体材料を指す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、脂肪組織由来幹細胞(ASC)とセラミック材料と細胞外基質とを含む多次元構造を有し、オステオプロテジェリン(OPG)を含み、インスリン様成長因子(IGF1)と間質細胞由来因子1アルファ(SDF-1α)とを含む、生体材料に関する。
【0045】
本明細書で使用される「多次元構造を有する生体材料」という用語は、本発明全体を通して「多次元生体材料」という用語に置き換えられ得る。
【0046】
一実施形態では、細胞は、脂肪組織から単離されるものであり、以降、脂肪由来幹細胞(ASC)と呼ぶ。
【0047】
一実施形態では、ASC組織は動物起源、好ましくは哺乳動物起源、より好ましくはヒト起源のものである。したがって、一実施形態では、ASCは動物ASC、好ましくは哺乳動物ASC、より好ましくはヒトASCである。好ましい実施形態では、ASCはヒトASCである。
【0048】
脂肪組織から幹細胞を単離する方法は当該技術分野で公知であり、例えばZukら(Tissue Engineering.2001,7:211-228)に開示されている。一実施形態では、脂肪吸引術によって脂肪組織からASCを単離する。
【0049】
例として、針生検または脂肪吸引術による吸引によって脂肪組織を収集し得る。最初に、任意選択で抗生物質、例えば1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で組織試料を徹底的に洗浄することによって、脂肪組織からASCを単離し得る。次いで、試料を組織消化用のコラゲナーゼ(例えば、2%P/Sを含有するPBSで調製したI型コラゲナーゼ)とともに無菌組織培養プレートに入れ、37℃、5%CO2で30分間インキュベートし得る。培地(例えば、10%血清を含有するDMEM)を添加することによってコラゲナーゼ活性を中和し得る。崩壊後、試料をチューブに移し得る。試料を(例えば、2000rpmで5分間)遠心分離することによって、ASCが含まれる間質血管細胞群(SVF)が得られる。間質細胞と初代脂肪細胞との分離を完了させるため、試料を激しく振盪して、ペレットを徹底的に破壊し、細胞をかき混ぜ得る。遠心分離段階を反復し得る。遠心分離しコラゲナーゼ溶液を吸引した後、ペレットを溶解緩衝液に再懸濁させ、氷上で(例えば10分間)インキュベートし、(例えばPBS/2%P/Sで)洗浄し、(例えば、2000rpmで5分間)遠心分離し得る。次いで、上清を吸引し、細胞ペレットを培地(例えば、間質培地、すなわち、20%FBS、1%L-グルタミンおよび1%P/Sを添加したα-MEM)に再懸濁させ、細胞懸濁液を(例えば70μmのセルストレーナーで)ろ過し得る。最後に、細胞が含まれる試料を培養プレートに播き、37℃、5%CO2でインキュベートし得る。
【0050】
一実施形態では、脂肪組織の間質血管細胞群から本発明のASCを単離する。一実施形態では、吸引脂肪組織を使用前に室温で数時間もしくは+4℃で24時間、または長期保存に0℃未満、例えば-18℃で保持し得る。
【0051】
一実施形態では、ASCは、新鮮なASCまたは冷蔵したASCであり得る。新鮮なASCとは、冷蔵処理を実施していない単離ASCのことである。冷蔵ASCとは、冷蔵処理を実施した単離ASCのことである。一実施形態では、冷蔵処理は、0℃未満の任意の処理を意味する。一実施形態では、冷蔵処理を約-18℃、-80℃または-180℃で実施し得る。特定の実施形態では、冷蔵処理は凍結保存であり得る。
【0052】
冷蔵処理の例として、ASCを80~90%のコンフルエンスで回収し得る。洗浄および皿からの剥離の段階の後、細胞を冷蔵保存培地とともに室温でペレット化し、バイアルに入れ得る。一実施形態では、冷蔵保存培地は、80%ウシ胎児血清またはヒト血清、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)および10%DMEM/Ham’s F-12を含む。次いで、バイアルを-80℃で一晩保管し得る。例えば、バイアルを-80℃に達するまで毎分約1℃で徐々に冷却するアルコール凍結容器に入れ得る。最後に、凍結したバイアルを長期保存用の液体窒素容器に移し得る。
【0053】
一実施形態では、ASCは分化ASCである。好ましい実施形態では、ASCは骨原性分化ACSである。換言すれば、好ましい実施形態では、ASCを骨原性細胞に分化させる。特定の実施形態では、ASCを骨芽細胞に分化させる。
【0054】
骨原性分化を制御および評価する方法は当該技術分野で公知である。例えば、オステオカルシンおよび/または(例えばフォン・コッサで)リン酸塩を染色することによって;(例えばアリザリンレッドで)リン酸カルシウムを染色することによって;磁気共鳴画像法(MRI)によって;ミネラル化基質形成の測定によって;あるいはアルカリホスファターゼ活性の測定によって、本発明の細胞または組織の骨分化を評価し得る。
【0055】
一実施形態では、ASCを骨原性分化培地(MD)で培養することによって、ASCの骨原性分化を実施する。
【0056】
一実施形態では、骨原性分化培地はヒト血清を含む。特定の実施形態では、骨原性分化培地はヒト血小板溶解物(hPL)を含む。一実施形態では、骨原性分化培地は他のいかなる動物血清も含まず、好ましくは、骨原性分化培地はヒト血清以外の血清を含まない。
【0057】
一実施形態では、骨原性分化培地は、デキサメタゾン、アスコルビン酸およびリン酸ナトリウムを添加した増殖培地を含むか、これよりなるものである。一実施形態では、骨原性分化培地は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンおよび/またはアンホテリシンBなどの抗生物質をさらに含む。一実施形態では、いずれの培地も動物タンパク質を含まない。
【0058】
一実施形態では、増殖培地は、細胞の成長を補助するよう考案された当業者に公知の任意の培地であり得る。本明細書で使用される増殖培地は、「成長培地」とも呼ぶ。成長培地の例としては、特に限定されないが、MEM、DMEM、IMDM、RPMI 1640、FGMもしくはFGM-2、199/109培地、HamF10/HamF12またはMcCoy’s 5Aが挙げられる。好ましい実施形態では、増殖培地はDMEMである。
【0059】
一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン(Ala-Gln、「Glutamax(登録商標)」または「Ultraglutamine(登録商標)」とも呼ばれる)、hPL、デキサメタゾン、アスコルビン酸およびリン酸ナトリウムを添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン、hPL、デキサメタゾン、アスコルビン酸およびリン酸ナトリウムならびに抗生物質、好ましくはペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンおよび/またはアンホテリシンBを添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。
【0060】
一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン、hPL(約5%、v/v)、デキサメタゾン(約1μM)、アスコルビン酸(約0.25mM)およびリン酸ナトリウム(約2.93mM)を添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン、hPL(約5%、v/v)、デキサメタゾン(約1μM)、アスコルビン酸(約0.25mM)およびリン酸ナトリウム(約2.93mM)、ペニシリン(約100U/mL)およびストレプトマイシン(約100μg/mL)を添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。一実施形態では、骨原性分化培地はアンホテリシンB(約0.1%)をさらに含む。
【0061】
一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン、hPL(約5%、v/v)、デキサメタゾン(約1μM)、アスコルビン酸(約0.25mM)およびリン酸ナトリウム(約2.93mM)を添加したDMEMよりなる。一実施形態では、骨原性分化培地は、L-アラニル-L-グルタミン、hPL(約5%、v/v)、デキサメタゾン(約1μM)、アスコルビン酸(約0.25mM)およびリン酸ナトリウム(約2.93mM)、ペニシリン(約100U/mL)、ストレプトマイシン(約100μg/mL)およびアンホテリシンB(約0.1%)を添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。
【0062】
一実施形態では、ASCは後期継代脂肪由来幹細胞である。本明細書で使用される「後期継代」という用語は、少なくとも継代4以降に分化した脂肪由来幹細胞を意味する。本明細書で使用される継代4は第4継代、すなわち、細胞を培養容器の表面から剥離することによって分けた後、新鮮培地に再懸濁させる4回目の行為を指す。一実施形態では、後期継代脂肪由来幹細胞を継代4、継代5、継代6またはそれ以降に分化させる。好ましい実施形態では、ASCを継代4以降に分化させる。
【0063】
本明細書で使用される「容器」という用語は、任意の細胞培養表面、例えばフラスコまたはウェルプレートなどを意味する。
【0064】
初代細胞の初期継代は継代0(P0)と呼ばれた。本発明では、継代P0は、ペレット化した間質血管細胞群(SVF)の細胞懸濁液を培養容器に播種することを指す。したがって、継代P4は、細胞を培養容器の表面から(例えば、トリプシンでの消化によって)4回(P1、P2、P3およびP4に)剥離し、新鮮培地に再懸濁させたことを意味する。
【0065】
一実施形態では、本発明のASCを第4継代まで増殖培地で培養する。一実施形態では、本発明のASCを第4継代以降、分化培地で培養する。したがって、一実施形態では、継代P1、P2およびP3で、ASCを培養容器の表面から剥離し、次いで、増殖培地で適切な細胞密度まで希釈する。さらにこの実施形態では、継代P4でASCを培養容器の表面から剥離し、次いで、分化培地で適切な細胞密度まで希釈する。したがって、この実施形態では、P4で、本発明のASCを分化させる(すなわち、分化培地で培養する)前に、これを増殖培地に再懸濁させ、コンフルエンスに達するまで培養するのではなく、分化培地に直接再懸濁させ、培養する。
【0066】
一実施形態では、細胞を少なくともコンフルエンス、好ましくは70%~100%のコンフルエンス、より好ましくは80%~95%のコンフルエンスに達するまで骨原性分化培地で維持する。一実施形態では、細胞を少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも15日間、骨原性分化培地で維持する。一実施形態では、細胞を5~30日間、好ましくは10~25日間、より好ましくは15~20日間、骨原性分化培地で維持する。一実施形態では、分化培地を2日毎に交換する。ただし、当該技術分野で公知のように、細胞成長速度はドナーによってわずかに異なる可能性がある。したがって、骨原性分化の継続期間および培地交換の回数は、ドナーによって異なるものとなり得る。
【0067】
一実施形態では、細胞を少なくとも類骨、すなわち、骨組織成熟の前に形成される骨基質の非ミネラル化有機部分の形成まで、骨原性分化培地で維持する。
【0068】
一実施形態では、本発明のセラミック材料は、本明細書でセラミック粒子と呼ぶ粒子の形態である。一実施形態では、粒子は、ビーズ、粉末、球状物、マイクロスフェアなどであり得る。
【0069】
一実施形態では、本発明のセラミック材料は、リン酸カルシウム(CaP)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウムもしくは水酸化カルシウム(Ca[OH]2)またはその組合せの粒子である。
【0070】
リン酸カルシウム粒子の例としては、特に限定されないが、ヒドロキシアパタイト(HA、Ca10(PO4)6(OH)2)、リン酸三カルシウム(TCP、Ca3[PO4]2)、αリン酸三カルシウム(α-TCP、(α-Ca3(PO4)2)、βリン酸三カルシウム(β-TCP、β-Ca3(PO4)2)、リン酸四カルシウム(TTCP、Ca4(PO4)2O)、リン酸八カルシウム(Ca8H2(PO4)6.5H2O)、非晶質リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、ヒドロキシアパタイト/βリン酸三カルシウム(HA/β-TCP)、ヒドロキシアパタイト/リン酸四カルシウム(HA/TTCP)などが挙げられる。
【0071】
一実施形態では、本発明のセラミック材料は、ヒドロキシアパタイト(HA)、リン酸三カルシウム(TCP)、ヒドロキシアパタイト/βリン酸三カルシウム(HA/β-TCP)、硫酸カルシウムまたはその組合せを含むか、これよりなるものである。一実施形態では、本発明のセラミック材料は、ヒドロキシアパタイト(HA)、βリン酸三カルシウム(β-TCP)、ヒドロキシアパタイト/βリン酸三カルシウム(HA/β-TCP)、αリン酸三カルシウム(α-TCP)、硫酸カルシウムまたはその組合せを含むか、これよりなるものである。
【0072】
一実施形態では、本発明のセラミック粒子はヒドロキシアパタイト(HA)の粒子である。別の実施形態では、本発明のセラミック粒子はβリン酸三カルシウム(β-TCP)の粒子である。別の実施形態では、本発明のセラミック粒子はヒドロキシアパタイト/βリン酸三カルシウム(HA/β-TCP)の粒子である。換言すれば、一実施形態では、本発明のセラミック粒子は、ヒドロキシアパタイト粒子とβリン酸三カルシウム粒子の混合物(HA/β-TCP粒子と呼ぶ)である。一実施形態では、本発明のセラミック粒子は、ヒドロキシアパタイト粒子とβリン酸三カルシウム粒子(HA/β-TCP粒子と呼ぶ)よりなる。
【0073】
一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、顆粒、粉末またはビーズの形態である。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、多孔性の顆粒、粉末またはビーズの形態である。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、多孔性セラミック材料である。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、粉末粒子である。特定の実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、多孔性顆粒の形態である。別の特定の実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、粉末の形態である。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、予め定められた3Dの形状または足場、例えば立方体などを形成するよう構築されていない。一実施形態では、本発明のセラミック材料は、3D足場ではない。一実施形態では、セラミック材料は予め定められた形状でも足場でもない。一実施形態では、本発明のセラミック材料は立方体の形状ではない。一実施形態では、本発明の生体材料は足場がない。
【0074】
一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、約50μmより大きく、好ましくは約100μmより大きい。一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、約50μmより大きい、好ましくは約100μmより大きい平均径を有する。
【0075】
一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、少なくとも約50μm、好ましくは少なくとも約100μm、より好ましくは少なくとも約150μmの平均径を有する。別の実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、少なくとも約200μm、好ましくは少なくとも約250μm、より好ましくは少なくとも約300μmの平均径を有する。
【0076】
別の実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、最大約2500μm、好ましくは最大約2000μm、より好ましくは最大約1500μmの平均径を有する。一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、最大約1000μm、900μm、800μm、700μmまたは600μmの平均径を有する。
【0077】
一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、約50μm~約1500μm、好ましくは約50μm~約1250μm、より好ましくは約100μm~約1000μmの範囲の平均径を有する。一実施形態では、本発明のセラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子は、約100μm~約800μm、好ましくは約150μm~約700μm、より好ましくは約200μm~約600μmの範囲の平均径を有する。
【0078】
一実施形態では、HA/β-TCP粒子は、約50μm~約1500μm、好ましくは約50μm~約1250μm、より好ましくは約100μm~約1000μmの範囲の平均径を有する。一実施形態では、HA粒子およびβ-TCP粒子は、約100μm~約800μm、好ましくは約150μm~約700μm、より好ましくは約200μm~約600μmの範囲の平均径を有する。
【0079】
一実施形態では、粒子中のHAとβ-TCPの比(HA/β-TCP比)は、約0/100~約100/0、好ましくは約10/90~約90/10、より好ましくは約20/80~約80/20の範囲内にある。一実施形態では、粒子中の比HA/β-TCPは、約30/70~約70/30、約35/65~約65/35または約40/60~約60/40の範囲内にある。
【0080】
一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は0/100である、すなわち、粒子はβリン酸三カルシウムの粒子である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は100/0である、すなわち、粒子はヒドロキシアパタイトの粒子である。一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約10/90である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約90/10である。一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約20/80である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約80/20である。一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約30/70である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約70/30である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約35/65である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約65/35である。一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約40/60である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約60/40である。別の実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は約50/50である。
【0081】
一実施形態では、粒子中のHA/β-TCP比は、100:0、99:1、98:2、97:3、96:4、95:5、94:6、93:7、92:8、91:9、90:10、89:11、88:12、87:13、86:14、85:15、84:16、83:17、82:18、81:19、80:20、79:21、78:22、77:23、76:24、75:25、74:26、73:27、72:28、71:29、70:30、69:31、68:32、67:33、66:34、65:35、64:36、63:37、62:38、61:39、60:40、59:41、58:42、57:43、56:44、55:45、54:46、53:47、52:48、51:49、50:50、49:51、48:52、47:53、46:54、45:55、44:56、43:57、42:58、41:59、40:60、39:61、38:62、37:63、36:64、35:65、34:66、33:67、32:68、31:69、30:70、29:71、28:72、27:73、26:74、25:75、24:76、23:77、22:78、21:79、20:80、19:81、18:82、17:83、16:84、15:85、14:86、13:87、12:88、11:89、10:90、9:91、8:92、7:93、6:94、5:95、4:96、3:97、2:98、1:99または0:100である。
【0082】
一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA、β-TCPおよび/またはHA/β-TCPの量は、生体材料に3D構造を与えるのに最適なものである。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子を150cm2の容器に対して約0.1cm3~約5cm3、好ましくは約0.5cm3~約3cm3、より好ましくは約1cm3~約2cm3の範囲の濃度で加える。好ましい実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子を150cm2の容器に対して約1.5cm3の濃度で加える。
【0083】
一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子を培地1mL当たり約7×10-3~7×10-2cm3の範囲の濃度で加える。一実施形態では、セラミック粒子、好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子を容器1cm2当たり約3.3×103~3.3×10-2cm3の範囲の濃度で加える。
【0084】
一実施形態では、細胞の分化後に本発明のセラミック材料を培地に加える。一実施形態では、細胞がサブコンフルエントであるときに本発明のセラミック材料を加える。一実施形態では、細胞がオーバーコンフルエントであるときに本発明のセラミック材料を加える。一実施形態では、細胞が分化後にコンフルエンスに達したとき、本発明のセラミック材料を加える。換言すれば、一実施形態では、細胞が分化培地中でコンフルエンスに達したとき、本発明のセラミック材料を加える。一実施形態では、P4の少なくとも5日後、好ましくは10日後、より好ましくは15日後に本発明のセラミック材料を加える。一実施形態では、P4の5~30日後、好ましくは10~25日後、より好ましくは15~20日後に本発明のセラミック材料を加える。
【0085】
一実施形態では、本発明による生体材料は二次元のものである。この実施形態では、本発明の生体材料は、1mm未満の薄膜を形成し得る。
【0086】
別の実施形態では、本発明による生体材料は三次元のものである。この実施形態では、本発明の生体材料は、厚さが少なくとも1mmの厚膜を形成し得る。生体材料の大きさを使用に適合させ得る。
【0087】
一実施形態では、本発明の生体材料は足場を含まない。本明細書で使用される「足場」という用語は、ヒトおよび動物の組織を含めた天然の哺乳動物組織、例えば天然の哺乳動物の骨または細胞外基質などの多孔性、孔径および/または機能を模倣する構造を意味する。このような足場の例としては、特に限定されないが、人工骨、コラーゲンスポンジ、ヒドロゲル、例えばタンパク質ヒドロゲル、ペプチドヒドロゲル、ポリマーヒドロゲルおよび木材系ナノセルロースヒドロゲルなどが挙げられる。一実施形態では、本発明の生体材料は人工骨を含まない。一実施形態では、本発明のセラミック材料は人工骨ではない。
【0088】
一実施形態では、本発明の生体材料の多次元性は、天然の細胞外基質構造を模倣する足場によるものではない。一実施形態では、本発明の生体材料は、天然の細胞外基質構造を模倣する足場を含まない。
【0089】
一実施形態では、本発明の生体材料の多次元性は、本発明の脂肪組織由来幹細胞による細胞外基質の合成によるものである。
【0090】
一実施形態では、本発明の生体材料は細胞外基質を含む。一実施形態では、本発明の細胞外基質は、ASCに由来するものである。一実施形態では、本発明の細胞外基質は、ASCによって産生されるものである。
【0091】
本明細書で使用される「細胞外基質」(ECM)という用語は、非細胞三次元高分子ネットワークを意味する。ECMの基質成分が互いに結合するとともに細胞接着受容体とも結合し、それにより複合体ネットワークを形成し、その中で細胞が組織または本発明の生体材料中に存在する。
【0092】
一実施形態では、本発明の細胞外基質は、コラーゲン、プロテオグリカン/グリコサミノグリカン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニンおよび/またはその他の糖タンパク質を含む。特定の実施形態では、本発明の細胞外基質はコラーゲンを含む。別の特定の実施形態では、本発明の細胞外基質はプロテオグリカンを含む。別の特定の実施形態では、本発明の細胞外基質は、コラーゲンとプロテオグリカンとを含む。一実施形態では、本発明の細胞外基質は、成長因子、プロテオグリカン、分泌因子、細胞外基質調節因子および糖タンパク質を含む。
【0093】
一実施形態では、本発明の生体材料の中にあるASCが、本明細書でASC組織と呼ぶ組織を形成する。一実施形態では、本発明の生体材料の中にあるASCならびにセラミック材料、好ましくはセラミック粒子、より好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子が細胞外基質中の包埋されている。一実施形態では、好ましくは骨細胞に分化したASCが、セラミック材料、好ましくはセラミック粒子、より好ましくはHA粒子、β-TCP粒子および/またはHA/β-TCP粒子とともに、細胞外基質を有する3D構造を形成する。一実施形態では、ASC組織は血管新生した組織である。一実施形態では、本発明の生体材料は血管新生したものである。
【0094】
一実施形態では、ASC組織は細胞化された相互結合組織である。一実施形態では、細胞化された相互結合組織にセラミック粒子が組み込まれている。一実施形態では、ASC組織内にセラミック粒子が分散している。
【0095】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック粒子の間で形成される、相互結合組織を特徴とする。一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック粒子周囲でのミネラル化を特徴とする。一実施形態では、形成された生体材料の組織としての性質を組織退縮が起きることによって確認し得る。
【0096】
一実施形態では、本発明の生体材料は、オステオカルシン発現およびミネラル化特性に関して実骨と同じ特性を有する。一実施形態では、本発明の生体材料は骨細胞を含む。一実施形態では、本発明の生体材料は骨細胞と細胞外基質とを含む。一実施形態では、本発明の生体材料は骨細胞とコラーゲンとを含む。特定の実施形態では、コラーゲンは、石灰化しミネラル化したコラーゲンである。一実施形態では、本発明の生体材料は骨基質を含む。
【0097】
一実施形態では、本発明の生体材料は、生体材料の細胞の分化が終点に達したものであり、生体材料の表現型は、移植しても変化しないままである。
【0098】
一実施形態では、本発明の生体材料は成長因子を含む。一実施形態では、生体適合材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料による成長因子の含有量または分泌を評価する。
【0099】
破骨細胞形成阻害因子(OCIF)または腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー11B(TNFRSF11B)としても知られるオステオプロテジェリン(OPG)は、サイトカイン受容体の1つである。マウスでは、OPGの過剰発現または投与によって破骨細胞形成が鈍化することがわかっている。同様に、OPGが欠如した動物では破骨細胞形成が促進され、重度の骨粗鬆症が発症することが確認されている。OPGは現在、RANKL(腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー11(TNFSF11)、TNF関連活性化誘導サイトカイン(TRANCE)、オステオプロテジェリンリガンド(OPGL)または破骨細胞分化因子(ODF)としても知られる核因子カッパBリガンドの受容体活性化因子)に関してRANKと競合する可溶性デコイ受容体であることが知られている。RANK/RANKL/OPGシグナル伝達経路は、破骨細胞の分化および活性化を調節することが明らかにされている。したがって、破骨細胞形成の刺激因子であるRANKLの発現と阻害剤であるOPGの発現のバランスが、再吸収される骨の量を決定する。
【0100】
一実施形態では、好ましくは生体適合材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のOPGの含有量および/または分泌を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0101】
一実施形態では、本発明の生体材料はOPGを含む。一実施形態では、本発明の生体材料はOPGを分泌する。一実施形態では、本発明の生体材料のASCはOPGを分泌する。一実施形態では、本発明の細胞設計生体材料はOPGを分泌する。
【0102】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり少なくとも約1000pg、1250pg、1500pg、1750pgまたは2000pg分泌する。一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり少なくとも約2100pg、2200pg、2300pg、2400pgまたは2500pg分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり少なくとも約2550pg、2600pg、2650pgまたは2700pg分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり少なくとも約2750pg、2800pg、2850pg、2900pgまたは2950pg分泌する。
【0103】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり少なくとも約2750pg分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり約2500pg分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり約3000pg分泌する。
【0104】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり約1000~約10000pg、好ましくは約1250~約7500pg/106個、より好ましくは約1500~約5000pg/106個分泌する。一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを細胞106個当たり約1000~約5000pg、好ましくは約1250~約4500pg/106個、より好ましくは約1500~約4000pg/106個分泌する。好ましい実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを約2000~約3500pg/106個の範囲の濃度で分泌する。特定の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを約3000または3500pg/106個の濃度で分泌する。
【0105】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり少なくとも約5ng、好ましくは少なくとも約10ng/g、より好ましくは少なくとも約15ng/g分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり少なくとも約20ng、好ましくは少なくとも約25ng/g、より好ましくは少なくとも約30ng/g分泌する。
【0106】
別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり少なくとも約50ng、好ましくは少なくとも約60ng/g、より好ましくは少なくとも約70ng/g分泌する。一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり少なくとも約75ng分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり少なくとも約80ng分泌する。
【0107】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり約5~約200ng、好ましくは約10~約175ng/g、より好ましくは約15~約150ng/g分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを生体材料1g当たり約10~約200ng、好ましくは約15~約175ng/g、より好ましくは約20~約150ng/g、さらにより好ましくは約25~約125ng/g分泌する。一実施形態では、本発明の生体材料は、約20~約100ng/g生体材料、分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、約25~約100ng/g生体材料、分泌する。別の実施形態では、本発明の生体材料は、約30~約100ng/g生体材料、約30~約90ng/g生体材料または約30~約85ng/g生体材料、分泌する。
【0108】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを約30ng/g生体材料の濃度で分泌する。別の特定の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを約75ng/g生体材料の濃度で分泌する。別の特定の実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを約85ng/g生体材料の濃度で分泌する。
【0109】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、OPGを本明細書で上に記載した濃度で分泌する。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、OPGを本明細書で上に記載した濃度で分泌する。
【0110】
一実施形態では、好ましくはセラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のRANKLの含有量および/または分泌を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0111】
一実施形態では、培地中での本発明の生体材料中または生体材料の上清中のRANKLのレベルは検出不可能なものである。一実施形態では、RANKLのレベルを上清1mL当たりのpg数で表す。一実施形態では、本発明の生体材料が1mL当たり200pg未満、好ましくは156pg/mL未満、好ましくは100pg/mL未満、より好ましくは78pg/mL未満、さらにより好ましくは50pg/mL未満、さらにより好ましくは10pg/mL未満、さらにより好ましくは7.8pg/mL未満のRANKLを含むか、生体材料のASCがこれを分泌する。
【0112】
一実施形態では、本発明の生体材料は実質的にRANKLを含まない。一実施形態では、本発明の生体材料のASCは実質的にRANKLを分泌しない。
【0113】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、RANKLを本明細書で上に記載した濃度で分泌する。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、RANKLを本明細書で上に記載した濃度で分泌する。
【0114】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを分泌し、かつRANKLを分泌しないか、検出可能なレベルのRANKLを分泌しない。
【0115】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを少なくとも本明細書で上に記載した濃度で分泌し、かつRANKLを最大でも本明細書で上に記載した濃度で分泌する。
【0116】
一実施形態では、本発明の生体材料は骨吸収阻害活性を示す。一実施形態では、骨吸収阻害活性はオステオプロテジェリン(OPG)の分泌を含む。一実施形態では、骨吸収阻害活性は、OPGの分泌およびRANKLの低分泌または無分泌を含む。
【0117】
インスリン様成長因子(IGF-1)は、骨ミネラル密度の維持およびのちの骨折リスクを低下させる高いピーク骨量の獲得と正の相関がある。
【0118】
一実施形態では、好ましくはセラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のIGF-1含有量を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0119】
一実施形態では、本発明の生体材料はIGF-1を含む。特定の実施形態では、本発明の生体材料は高レベルのIGF-1を含む。
【0120】
一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を少なくとも約50ng/g生体材料、好ましくは少なくとも約60ng/g、より好ましくは少なくとも約70ng/g、さらにより好ましくは少なくとも約80ng/gの濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を少なくとも約90ng/g生体材料、91ng/g生体材料、92ng/g生体材料、93ng/g生体材料、94ng/g生体材料、95ng/g生体材料、96ng/g生体材料、97ng/g生体材料、98ng/g生体材料、99ng/g生体材料または100ng/g生体材料の濃度で含む。
【0121】
一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を約10ng/g~約500ng/g生体材料、好ましくは約20ng/g~約400ng/g、より好ましくは約30ng/g~約300ng/g、さらにより好ましくは約40ng/g~約250ng/gの範囲の濃度で含む。
【0122】
一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を約50ng/g~約200ng/g生体材料、好ましくは約60ng/g~約175ng/g、より好ましくは約70ng/g~約150ng/gの範囲の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を約80ng/g~約150ng/g生体材料、好ましくは約85ng/g~約125ng/g、より好ましくは約90ng/g~約100ng/gの範囲の濃度で含む。
【0123】
一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を約90ng/g~約500ng/g生体材料、約90ng/g~約400ng/g、約90ng/g~約300ng/g、約90ng/g~約200ng/g、約90ng/g~約150ng/g、約90ng/g~約125ng/gまたは約90ng/g~約100ng/gの範囲の濃度で含む。
【0124】
一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を約90ng/g生体材料、91ng/g生体材料、92ng/g生体材料、93ng/g生体材料、94ng/g生体材料、95ng/g生体材料、96ng/g生体材料、97ng/g生体材料、98ng/g生体材料、99ng/g生体材料または100ng/g生体材料の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を生体材料1g当たり約90ng含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を生体材料1g当たり約95ng含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、IGF-1を生体材料1g当たり約100ng含む。
【0125】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、IGF-1を本明細書で上に記載した濃度で含む。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、IGF-1を本明細書で上に記載した濃度で含む。
【0126】
間質細胞由来因子1アルファまたはCXCL12とも呼ばれるSDF-1αは、破骨細胞の分化および活性化を刺激する役割を果たす。破骨細胞、特に破骨細胞前駆体は、SDF-1αに対する固有の受容体であるCXCR4に対して強い陽性を示す。SDF-1αは破骨細胞形成を直接誘導するが、最近、SDF-1αがRANKL発現のアップレギュレーションを介して間接的に破骨細胞形成に影響を及ぼし得ることがわかった。破骨細胞およびその前駆体上にRANKが存在することから、間質細胞上に存在する破骨細胞分化因子がRANKLである可能性が示唆された。
【0127】
一実施形態では、好ましくはセラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のSDF-1α含有量を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0128】
一実施形態では、本発明の生体材料はSDF-1αを含む。特定の実施形態では、本発明の生体材料は低レベルのSDF-1αを含む。
【0129】
一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約300ng/g生体材料、好ましくは最大約250ng/g、より好ましくは最大約200ng/g、さらにより好ましくは最大約150ng/gの濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約100ng/g生体材料、好ましくは最大約90ng/g、より好ましくは最大約80ng/gの濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約75ng/g生体材料、約70ng/g、約65ng/g、約60ng/gまたは約55ng/gの濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約59ng/g生体材料、58ng/g生体材料、57ng/g生体材料、56ng/g生体材料、55ng/g生体材料、54ng/g生体材料、53ng/g生体材料、52ng/g生体材料または51ng/g生体材料の濃度で含む。
【0130】
一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約50ng/g生体材料の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約49ng/g生体材料、48ng/g生体材料、47ng/g生体材料、46ng/g生体材料、45ng/g生体材料、44ng/g生体材料、43ng/g生体材料、42ng/g生体材料または41ng/g生体材料の濃度で含む。特定の実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約40ng/g生体材料の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約39ng/g生体材料、38ng/g生体材料、37ng/g生体材料、36ng/g生体材料、35ng/g生体材料、34ng/g生体材料、33ng/g生体材料、32ng/g生体材料または31ng/g生体材料の濃度で含む。特定の実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを最大約30ng/g生体材料の濃度で含む。
【0131】
一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを約5ng/g~約100ng/g生体材料、好ましくは約10ng/g~約90ng/g、より好ましくは約15ng/g~約90ng/gの範囲の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを約20ng/g~約80ng/g生体材料、好ましくは約25ng/g~約70ng/g、より好ましくは約25ng/g~約60ng/gの範囲の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを約25ng/g~約55ng/g生体材料の範囲の濃度で含む。一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを約30ng/g~約100ng/g生体材料、約30ng/g~約90ng/g、約30ng/g~約80ng/g、約30ng/g~約70ng/g、約30ng/g~約60ng/g、約30ng/g~約55ng/gまたは約30ng/g~約50ng/gの範囲の濃度で含む。
【0132】
一実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを生体材料1g当たり約30ng含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを生体材料1g当たり約40ng含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、SDF-1αを生体材料1g当たり約50ng含む。
【0133】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、SDF-1αを本明細書で上に記載した濃度で含む。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、SDF-1αを本明細書で上に記載した濃度で含む。
【0134】
一実施形態では、本発明の生体材料は、OPGを本明細書で上に記載した濃度で分泌し、IGF1を本明細書で上に記載した濃度で含み、SDF-1αを本明細書で上に記載した濃度で含む。
【0135】
特定の実施形態では、本発明の生体材料は、
-OPGを少なくとも生体材料1g当たり約5ng、好ましくは少なくとも約10ng/g、より好ましくは少なくとも約15ng/g分泌し、
-IGF1を少なくとも生体材料1g当たり約10ng、好ましくは少なくとも約25ng/g、より好ましくは少なくとも約50ng/g含み、
-SDF-1αを最大で生体材料1g当たり約200ng、好ましくは最大約150ng/g、より好ましくは最大約100ng/g含む。
【0136】
別の特定の実施形態では、本発明の生体材料は、
-OPGを少なくとも生体材料1g当たり約10ng、好ましくは少なくとも約20ng/g、より好ましくは少なくとも約30ng/g分泌し、
-IGF1を少なくとも生体材料1g当たり約50ng、好ましくは少なくとも約75ng/g、より好ましくは少なくとも約90ng/g含み、
-SDF-1αを最大で生体材料1g当たり約100ng、好ましくは最大約75ng/g、より好ましくは最大約50ng/g含む。
【0137】
一実施形態では、本発明の生体材料は血管内皮成長因子(VEGF)を含む。特定の実施形態では、本発明の生体材料は高レベルのVEGFを含む。
【0138】
一実施形態では、好ましくはセラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のVEGF含有量を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0139】
一実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを少なくとも約10ng/g生体材料、好ましくは少なくとも約20ng/g、より好ましくは少なくとも約30ng/gの濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを少なくとも約50ng/g生体材料、約60ng/g、約70ng/gまたは約75ng/gの濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを少なくとも約95または100ng/g生体材料の濃度で含む。
【0140】
一実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約10ng/g~約150ng/g生体材料、好ましくは約20ng/g~約125ng/g、より好ましくは約25ng/g~約100ng/gの範囲の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約20ng/g~約100ng/g生体材料の範囲の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約30ng/g~約100ng/g生体材料の範囲の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約35ng/g~約100ng/g生体材料の範囲の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約35ng/g~約95ng/g生体材料の範囲の濃度で含む。
【0141】
一実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約35ng/g生体材料の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約75ng/g生体材料の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約95ng/g生体材料の濃度で含む。別の実施形態では、本発明の生体材料は、VEGFを約100ng/g生体材料の濃度で含む。
【0142】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、VEGFを本明細書で上に記載した濃度で含む。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、VEGFを本明細書で上に記載した濃度で含む。
【0143】
骨形成タンパク質2またはBMP2は、骨の発達の刺激に重要な役割を果たす。例えば、BMP2は骨芽細胞分化を強力に誘導することが示されている。
【0144】
骨形成タンパク質7またはBMP7は、具体的には、次に多数の骨原性遺伝子の転写を誘導するSMAD1およびSMAD5のリン酸化を誘導することによって、間葉細胞の骨へ転換に鍵となる役割を果たす。
【0145】
一実施形態では、好ましくはセラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後、本発明の生体材料のBMP2およびBMP7の含有量を当該技術分野で公知の任意の方法により、例えばELISAなどにより定量化し得る。
【0146】
一実施形態では、培地中での本発明の生体材料中または生体材料の上清中のBMP2のレベルは検出不可能なものである。一実施形態では、本発明の生体材料は実質的にBMP2を含まない。一実施形態では、本発明の生体材料のASCは実質的にBMP2を分泌しない。
【0147】
一実施形態では、BMP2のレベルを上清1mL当たりのpg数で表す。一実施形態では、本発明の生体材料が1mL当たり100pg未満、好ましくは85pg/mL未満、より好ましくは75pg/mL未満、さらにより好ましくは62.5pg/mL未満のBMP2を含むか、生体材料のASCがこれを分泌する。
【0148】
一実施形態では、培地中の本発明の生体材料中または生体材料の上清中のBMP7のレベルは検出不可能なものである。一実施形態では、本発明の生体材料は実質的にBMP7を含まない。一実施形態では、本発明の生体材料のASCは実質的にBMP7を分泌しない。
【0149】
一実施形態では、BMP7のレベルを上清1mL当たりのpg数で表す。一実施形態では、本発明の生体材料が1mL当たり50pg未満、好ましくは40pg/mL未満、より好ましくは35pg/mL未満、さらにより好ましくは31.2pg/mL未満のBMP7を含むか、生体材料のASCがこれを分泌する。
【0150】
一実施形態では、本発明の生体材料は、セラミック材料を加えてから4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、BMP2および/またはBMP7を本明細書で上に記載した濃度で含む。換言すれば、一実施形態では、本発明の生体材料は、多次元誘導の開始から4週間後、5週間後、6週間後、7週間後または8週間後に、BMP2および/またはBMP7を本明細書で上に記載した濃度で含む。
【0151】
一実施形態では、本発明による生体材料はミネラル化されている。本明細書で使用される「ミネラル化」または「骨組織ミネラル密度」という用語は、生体材料によって形成された骨または「骨様」組織の1平方センチメートル当たりのミネラル物質の量を指し、百分率で表されることもある。したがって、本明細書で使用される「ミネラル化」または「骨組織ミネラル密度」という用語は、生体材料の1平方センチメートル当たりのミネラル物質の量を指し、百分率で表されることもある。
【0152】
生体材料のミネラル化度を評価する方法は当該技術分野で公知である。このような方法の例としては、特に限定されないが、マイクロコンピュータ断層撮影法(マイクロCT)解析、イメージング質量分析、カルセインブルー染色、骨ミネラル密度分布(BMDD)解析などが挙げられる。
【0153】
一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は約1%以上である。一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は約1%超である。
【0154】
別の実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%である。別の実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約30%、さらにより好ましくは少なくとも約35%である。一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、少なくとも約30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%または38%である。
【0155】
一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、約5%~約50%、好ましくは約10%~約45%、より好ましくは約15%~約40%の範囲内にある。別の実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、約20%~約50%、好ましくは約25%~約45%、より好ましくは約30%~約40%の範囲内にある。一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は、約35%~約40%の範囲内にある。1つの特定の実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度は約38%である。
【0156】
一実施形態では、本発明の生体材料のミネラル化度はOPG分泌に比例する。一実施形態では、生体材料がOPGを多く含むほど、生体材料がミネラル化されている。
【0157】
本発明は、骨原性細胞に分化した脂肪組織由来幹細胞(ASC)と、セラミック材料と、細胞外基質とを含み、生体材料がオステオプロテジェリン(OPG)を含む、多次元生体材料を作製する方法にも関する。
【0158】
一実施形態では、本発明による生体材料を作製する方法は、
細胞増殖の段階と、
細胞分化の段階と、
多次元誘導、例えば3D誘導の段階と
を含む。
【0159】
一実施形態では、本発明による生体材料を作製する方法は、
ASC増殖の段階と、
ASCの骨原性分化の段階と、
多次元誘導、好ましくは3D誘導と
を含む。
【0160】
一実施形態では、本発明による生体材料を作製する方法は、
-細胞、好ましくはASCを増殖させる段階と、
-増殖した細胞、好ましくはASCを分化させる段階と、
-分化した細胞、好ましくはASCをセラミック材料の存在下で培養する段階と
を含む。
【0161】
一実施形態では、本発明による生体材料を作製する方法は、
対象から細胞、好ましくはASCを単離する段階と、
細胞、好ましくはASCを増殖させる段階と、
増殖した細胞、好ましくはASCを分化させる段階と、
分化した細胞、好ましくはASCをセラミック材料の存在下で培養する段階と
を含む。
【0162】
一実施形態では、本発明の生体材料を作製する方法は、細胞増殖の段階の前に実施する、細胞、好ましくはASC、より好ましくは自家ASCの単離の段階をさらに含む。一実施形態では、本発明の生体材料を作製する方法は、細胞増殖の段階の前に実施する、細胞、好ましくはASCを単離する段階をさらに含む。
【0163】
一実施形態では、増殖の段階を増殖培地で実施する。特定の実施形態では、増殖培地はDMEMである。一実施形態では、増殖培地にAla-Glnおよび/またはヒト血小板溶解物(hPL)を添加する。一実施形態では、増殖培地は、ペニシリンおよび/またはストレプトマイシンなどの抗生物質をさらに含む。
【0164】
一実施形態では、増殖培地は、Ala-GlnおよびhPL(5%)を添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。一実施形態では、増殖培地は、Ala-Gln、hPL(5%、v/v)、ペニシリン(100U/mL)およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加したDMEMを含むか、これよりなるものである。
【0165】
一実施形態では、増殖の段階を本明細書で上に記載される通りに実施する。一実施形態では、増殖の段階をP8まで実施する。一実施形態では、増殖の段階がP4、P5、P6、P7またはP8まで継続する。したがって、一実施形態では、細胞増殖の段階は少なくとも3継代を含む。一実施形態では、細胞増殖の段階は最大7継代を含む。一実施形態では、細胞増殖の段階は3~7継代を含む。1つの特定の実施形態では、増殖の段階をP4まで実施する。したがって、一実施形態では、細胞増殖の段階は、継代P1、P2およびP3で、培養容器の表面から細胞を剥離し、次いで、それを増殖培地で希釈することを含む。P6までの増殖の一実施形態では、細胞増殖の段階は、継代P1、P2、P3、P4およびP5で、培養容器の表面から細胞を剥離し、次いで、それを増殖培地で希釈することを含む。
【0166】
一実施形態では、増殖の段階は、細胞を3回、4回、5回、6回または7回継代するのに必要な長さだけ継続する。特定の実施形態では、増殖の段階は、細胞を3回継代するのに必要な長さだけ継続する。一実施形態では、増殖の段階は、最後の継代後に細胞がコンフルエンス、好ましくは70%~100%のコンフルエンス、より好ましくは80%~95%のコンフルエンスに達するまで継続する。一実施形態では、増殖の段階は、第3継代、第4継代、第5継代、第6継代または第7継代後に細胞がコンフルエンスに達するまで継続する。
【0167】
有利な実施形態では、生体適合性粒子を加える前に、細胞、好ましくはASCを分化培地で培養することが、本発明の方法の鍵となる段階である。このような段階は、ASCを骨原性細胞に分化させるのに必要なものである。さらに、この段階は、多次元構造を得るのに必要なものである。
【0168】
一実施形態では、P4、P5、P6、P7またはP8の後に分化の段階を実施する。一実施形態では、細胞がコンフルエンスでないときに分化の段階を実施する。特定の実施形態では、P4、P5、P6、P7またはP8の後、細胞をコンフルエンスまで培養せずに分化の段階を実施する。
【0169】
一実施形態では、P4、P5、P6、P7またはP8で分化の段階を実施する。一実施形態では、細胞がコンフルエンスでないときに分化の段階を実施する。特定の実施形態では、P4、P5、P6、P7またはP8で、細胞をコンフルエンスまで培養せずに分化の段階を実施する。
【0170】
一実施形態では、細胞を分化培地、好ましくは骨原性分化培地でインキュベートすることによって、分化の段階を実施する。一実施形態では、培養容器の表面から剥離した細胞を分化培地、好ましくは骨原性分化培地に再懸濁させることによって、分化の段階を実施する。
【0171】
一実施形態では、骨原性分化培地でのASCのインキュベーションを少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも15日間実施する。一実施形態では、骨原性分化培地でのASCのインキュベーションを5~30日間、好ましくは10~25日間、より好ましくは15~20日間実施する。一実施形態では、分化培地を2日毎に交換する。
【0172】
一実施形態では、本明細書で上に明記したセラミック材料を分化培地に加えることによって、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階を実施する。一実施形態では、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階において、細胞を分化培地で維持する。
【0173】
一実施形態では、細胞が分化培地でコンフルエンス、好ましくは70%~100%のコンフルエンス、より好ましくは80%~95%のコンフルエンスに達したとき、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階を実施する。
【0174】
別の実施形態では、形態学的変化、例えば小結節の前形成などがみられたとき、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階を実施する。一実施形態では、類骨小結節が少なくとも1つ形成されたとき、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階を実施する。本明細書で使用される「類骨」という用語は、骨組織成熟の前に形成される骨基質の非ミネラル化有機部分を意味する。
【0175】
別の実施形態では、細胞がコンフルエンスに達したとき、形態学的変化がみられたとき、および類骨小結節が少なくとも1つ形成されたとき、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階を実施する。
【0176】
一実施形態では、本発明の細胞およびセラミック材料を少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも15日間インキュベートする。一実施形態では、本発明の細胞およびセラミック材料を10日間~30日間、好ましくは15~25日間、より好ましくは20日間インキュベートする。一実施形態では、多次元誘導、好ましくは3D誘導の段階において、培地を2日毎に交換する。
【0177】
本発明は、本発明による方法によって入手可能な多次元生体材料にも関する。一実施形態では、多次元生体材料を本発明による方法によって得る。一実施形態では、多次元生体材料を本発明による方法によって作製する。一実施形態では、本発明の方法によって入手可能な、または得られる生体材料は、ヒトまたは動物の体内に移植することを意図するものである。一実施形態では、移植する生体材料は、自家起源または同種異系のものであり得る。一実施形態では、本発明の生体材料を骨または軟骨の領域に移植し得る。一実施形態では、この生体材料をヒトまたは動物身体の不規則な形の領域に移植し得る。
【0178】
一実施形態では、本発明の生体材料は均質なものであり、このことは、生体材料の構造および/または構成が組織全体を通じてほぼ同じであることを意味する。一実施形態では、生体材料は、天然の疾患領域への移植に必要な望ましい取扱適性および機械的特性を有する。一実施形態では、本発明の方法によって入手可能な、または得られる生体材料は、裂けることなく手術器具で持つことができるものである。
【0179】
本発明の別の目的は、本発明による生体材料を含む医療装置である。
【0180】
また別の目的は、本発明による生体材料と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物である。
【0181】
本発明は、薬物として使用する、本発明による生体材料または医薬組成物にも関する。
【0182】
本発明は、本発明の生体材料の医療装置としての、または医療装置もしくは医薬組成物に含める、任意の使用に関する。ある特定の実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、使用前に操作および成形し得るパテ様材料である。
【0183】
本発明はさらに、必要とする対象の骨欠損または軟骨欠損を治療する方法であって、対象に治療有効量の本発明による生体材料、医療装置または医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0184】
本明細書で使用される「骨欠損」という用語は、通常であれば骨であるべきである身体領域または骨組織の形成が治療上望まれる身体領域に骨組織がないことを意味する。
【0185】
本明細書で使用される「軟骨欠損」という用語は、通常であれば軟骨であるべきである身体領域または軟骨組織の形成が治療上望まれる身体領域に軟骨組織がないことを意味する。
【0186】
本発明の別の目的は、必要とする対象の骨欠損または軟骨欠損の治療に使用する、本発明による生体材料、医療装置または医薬組成物である。本発明のまた別の目的は、必要とする対象の骨欠損の治療への本発明による生体材料、医療装置または医薬組成物の使用である。
【0187】
骨欠損の例としては、特に限定されないが、骨折、骨脆弱、骨ミネラル密度の低下、関節炎、先天性偽関節などの偽関節、骨粗鬆症、脊椎分離症、脊椎すべり症、骨軟化症、骨減少症、骨癌、パジェット病、硬化性病変、骨の浸潤性障害、海綿骨および皮質骨の壊死、二分脊椎症、遷延治癒、骨形成不全症、(例えば、腫瘍切除または出血後の)頭蓋欠損、骨壊死ならびに代謝性骨喪失が挙げられる。
【0188】
軟骨欠損の例としては、特に限定されないが、身体領域内の軟骨損傷または軟骨欠損が挙げられる。軟骨欠損の原因は、外傷、骨壊死、骨軟骨炎およびその他の病態によるものであり得る。軟骨欠損は、膝関節にもっともよくみられ、その場合、外傷を原因とし、前十字靭帯(ACL)断裂などの靭帯損傷に付随してみられることが多い。
【0189】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、骨折、骨脆弱、骨ミネラル密度の低下、関節炎、先天性偽関節などの偽関節、骨粗鬆症、脊椎分離症、脊椎すべり症、骨軟化症、骨減少症、骨癌、パジェット病、硬化性病変、骨の浸潤性障害、海綿骨および皮質骨の壊死、二分脊椎症、遷延治癒、骨形成不全症、(例えば、腫瘍切除または出血後の)頭蓋欠損、骨壊死および代謝性骨喪失を含むか、これよりなる群から選択される骨欠損を治療する、またはその治療に使用するものである。
【0190】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、骨折、関節炎、先天性偽関節、骨粗鬆症、脊椎分離症、脊椎すべり症、骨癌、パジェット病、硬化性病変、海綿骨および皮質骨の壊死ならびに代謝性骨喪失を含むか、これよりなる群から選択される骨欠損を治療する、またはその治療に使用するものである。
【0191】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、脊椎分離症および/または脊椎すべり症を治療する、またはその治療に使用するものである。脊椎分離症とは、椎弓の関節突起間部にみられる欠損または疲労骨折のことである。脊椎すべり症またはすべり症は、1つの椎骨が隣接する椎骨に対して並進移動する、または非解剖学的に整列することであり、脊椎分離症のある患者の約30%に認められる。
【0192】
一実施形態では、脊椎すべり症は、異形成性、分離性、変性、外傷性、病的および/または術後/医原性脊椎すべり症である。一実施形態では、脊椎すべり症は、第5腰椎の上方仙骨椎間関節または下方椎間関節の先天性異常による異形成性脊椎すべり症(1型とも呼ばれる)である。別の実施形態では、脊椎すべり症は、関節突起間部の欠損を原因とする分離性脊椎すべり症(2型とも呼ばれる)であるが、伸長部とともにみられることもある。別の実施形態では、脊椎すべり症は、椎間関節炎および関節再構築によって起こる変性脊椎すべり症(3型とも呼ばれる)である。別の実施形態では、脊椎すべり症は、部以外の神経弓の急性骨折によって起こる外傷性脊椎すべり症(4型とも呼ばれる)である。別の実施形態では、脊椎すべり症は、感染症または悪性腫瘍を原因とする病的脊椎すべり症(5型とも呼ばれる)である。別の実施形態では、脊椎すべり症は、術後合併症を原因とする術後/医原性脊椎すべり症(6型とも呼ばれる)である。
【0193】
一実施形態では、脊椎すべり症は、マイヤーディング分類によるグレードI、グレードII、グレードIII、グレードIVまたはグレードVのものである。一実施形態では、脊椎すべり症は、椎体の幅に対する割合として測定されるすべり度0~25%に対応する、グレードIのものである。別の実施形態では、脊椎すべり症は、すべり度25%~50%に対応するグレードIIのものである。別の実施形態では、脊椎すべり症は、すべり度50%~75%に対応するグレードIIIのものである。別の実施形態では、脊椎すべり症は、すべり度75%~100%に対応するグレードIVのものである。別の実施形態では、脊椎すべり症は、すべり度100%超に対応するグレードVのものである。
【0194】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、必要とする対象の椎体間隙および/または移植する固定ケージ(1つまたは複数)を充填するものである。
【0195】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、先天性偽関節を治療する、またはその治療に使用するものである。特定の実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、先天性脛骨偽関節症(CPT)を治療する、またはその治療に使用するものである。CPTは、自発的に、または軽度の外傷の後に発症する脛骨骨折による偽関節を指し、脛骨には、骨の前外側湾曲を生じる部分的異形成の領域がみられる。CPTは通常、神経線維腫症を伴い、未だ小児整形外科が直面する最も厄介で恐ろしい病態である。この疾患は通常、生後1年以内に明らかになるが、12歳まで発見されないこともある。
【0196】
一実施形態では、CPTは、クロフォード分類によるI型、II型、III型またはIV型のものである。一実施形態では、CPTは、皮質密度の増大および髄質の狭小化を伴う前弯に対応するI型のものである。別の実施形態では、CPTは、髄質が狭小化し硬化した前弯に対応するII型のものである。別の実施形態では、CPTは、嚢胞または骨折の前兆を伴う前弯に対応するIII型のものである。別の実施形態では、CPTは、脛骨と腓骨を結ぶことが多い偽関節を伴う前弯および明白な骨折に対応する、IV型のものである。
【0197】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、小児患者の先天性脛骨偽関節症を治療する、またはその治療に使用するものである。一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物は、小児先天性脛骨偽関節症を治療する、またはその治療に使用するものである。
【0198】
本発明は、整形外科、特に顎顔面外科手術または形成外科手術への本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物の使用にも関する。本発明の生体材料は、リウマチ学でも使用し得る。
【0199】
本発明はさらに、先天性もしくは後天性の関節、頭蓋顔面上顎骨の異常、歯科矯正障害、外科手術後の(例えば、置換を必要とする)骨もしくは関節骨の障害、外傷またはその他の先天性もしくは後天性の異常を治療、是正または軽減するために、ならびに他の筋骨格移植片、具体的には人工移植片および合成移植片を補助するために、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を使用する方法に関する。
【0200】
別の態様では、本発明は、骨再建に使用する、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物に関する。一実施形態では、本発明の生体材料は、ヒトまたは動物の体内に骨空洞を充填するのに使用するものである。
【0201】
さらに別の態様では、本発明は、再建手術または美容外科手術に使用する、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物に関する。
【0202】
一実施形態では、本発明は、再建手術に使用する、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物に関する。別の実施形態では、本発明は、美容外科手術に使用する、本発明の生体材料に関する。
【0203】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を同種異系移植片または自家移植片として使用し得る。一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を異種移植片として使用し得る。一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を組織移植に使用し得る。
【0204】
本発明の生体材料はさらに、血管新生を刺激するのに有利である。実際、生体材料のASCは、新たな血管の成長を刺激する血管内皮成長因子(VEGF)を放出する。
【0205】
一実施形態では、対象はヒト対象である。別の実施形態では、対象は動物対象、例えば、ペット、家畜または生産動物などである。一実施形態では、対象は哺乳動物対象である。
【0206】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物をヒトおよび/または動物に使用し得る。一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物をヒト医学および獣医学で使用し得る。
【0207】
一実施形態では、対象は骨欠損および/または軟骨欠損に罹患している。
【0208】
特定の実施形態では、対象は脊椎分離症および/または脊椎すべり症に罹患している。別の特定の実施形態では、対象は先天性脛骨偽関節症(CPT)に罹患している。特定の実施形態では、対象は小児先天性脛骨偽関節症(CPT)に罹患している。
【0209】
一実施形態では、対象は、既に骨欠損および/または軟骨欠損の治療を受けている。
【0210】
特定の実施形態では、対象は、既に脊椎分離症および/または脊椎すべり症の治療を受けている。脊椎分離症および/または脊椎すべり症の他の治療法の例としては、特に限定されないが、保存的治療、例えば固定具装着、活動制限、伸展運動、屈曲運動および深腹部強化など;ならびに外科手術、例えば脊椎固定および椎弓切除などが挙げられる。
【0211】
別の特定の実施形態では、対象は、既にCPTの治療を受けている。CPTの他の治療の例としては、特に限定されないが、固定具装着および外科手術、例えば骨移植を伴う髄内釘固定、血管柄付き骨移植、イリザロフ法、誘導膜および海綿自家移植などが挙げられる。
【0212】
一実施形態では、対象は、少なくとも1つの他の骨欠損および/または軟骨欠損治療に不応である。
【0213】
一実施形態では、対象は乳児または小児である。したがって、一実施形態では、対象は小児対象である。一実施形態では、対象は18歳未満、好ましくは15歳未満、12歳未満または10歳未満である。
【0214】
別の実施形態では、対象は成人である。したがって、一実施形態では、対象は18歳以上である。
【0215】
一実施形態では、必要とする対象に骨欠損および/または軟骨欠損の処置、例えば脊椎固定処置などの過程で、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を投与する。
【0216】
一実施形態では、本発明の生体材料、医療装置または医薬組成物を創面清掃、1つもしくは2つの椎体間ケージの設置および両側椎弓根スクリュー固定ならびに/あるいはリハビリテーションとともに使用する。
【0217】
本発明は、本発明による生体材料、医薬組成物または医療装置と、適切な固定手段とを含む、キットにも関する。適切な固定手段の例としては、特に限定されないが、外科用接着剤、組織接着剤または外科手術に使用し、生体適合性、無毒性であり、任意選択で生体吸収性である、任意の接着組成物が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【
図1】3種類の異なる濃度(1.5cm
3、2.85cm
3および5.91cm
3)のHA/β-TCPと間接的に接触させたhASCの細胞生存率を未処理細胞と比較した百分率で示すヒストグラムである。
【
図2】HA/β-TCP(A)、HA(B)またはβ-TCP(C)を用いて形成した生体材料を肉眼的に見たものを示す一連の写真である。
【
図3】HA/β-TCPを用いて形成した生体材料を肉眼的に見たものを示す一連の写真である。
【
図4】HA/β-TCPを用いて形成した生体材料のヘマトキシリン-エオシン染色(A)、マッソン・トリクロム染色(B)およびオステオカルシン染色(C)を示す一連の写真である。
【
図5】HA/β-TCPを用いて形成した生体材料に関するマイクロCT解析を3種類の異なる縮尺(A、BおよびC)で示す一連の写真である。
【
図6】HA/β-TCPを用いて形成した生体材料のIGF1(暗灰色)、VEGF(明灰色)およびSDF-1(中灰色)の含有量を示すヒストグラムである。
【
図7】MP培地およびMD培地の2D培養物中ならびにHA/β-TCPを用いて形成した生体材料の培地中でのASCによるOPG分泌を細胞10
6個当たりのpg数で示すヒストグラムである。
【
図8】2D培養MD培地中ならびにHA/β-TCP、HAおよびβ-TCPを用いて形成した生体材料の培養物中でのASCによるOPG分泌を材料1g当たりのng数で示すヒストグラムである。
【
図9】HA/β-TCPを用いて形成した本発明の生体材料(生体材料)での遺伝子FGFR1(A)、IGFR1(B)、RUNX2(C)、TWIST1(D)、TGFBR1(E)、SMAD2(F)、SMAD4(G)、SMAD5(H)の発現をMP(MP)中およびMD(MD)中のASCと比較して示す一連のグラフである。
*:p<0.05、
**:p<0.01、
***:p<0.001。
【
図10】HA/β-TCPを用いて形成した本発明の生体材料(生体材料)での遺伝子ANG(A)、EFNA1(B)、EFNB2(C)、VEGFA(D)、FGF1(E)、LEP(F)の発現をMP(MP)中およびMD(MD)中のASCと比較して示す一連のグラフである。
*:p<0.05、
**:p<0.01。
【
図11】HA/β-TCPを用いて形成した本発明の生体材料(生体材料)の低酸素状態(1%)または酸素正常状態(21%)でのVEGF(A)およびSDF-1α(B)分泌をMP(MP)中およびMD(MD)中のASCと比較して示す一連のヒストグラムである。
【
図12】本発明の生体材料の外植片のフォン・ヴィルブランド因子に対する免疫染色を示す写真である。HA/β-TCP粒子が記号
*によって示されており、血管が黒矢印によって示されている。
【
図13】本発明の生体材料の血管面積の百分率(A)および血管数/mm
2(B)を示す一連のヒストグラムである。
【
図14】ラットに移植後第28日の本発明の生体材料におけるHLA/ヒト白血球抗原免疫染色のペルオキシダーゼ顕色によって褐色で示されたヒト細胞の存在(図中、黒矢印によって示されている)を示す写真である。HA/β-TCP粒子が記号
*によって示されている。
【
図15】本発明の生体材料(左上および左下)およびHA/β-TCP粒子単独(右上および右下)をラットに移植してから1か月後の大腿骨のマイクロCTスキャンを示す一連の写真である。下の写真は上の写真を拡大したものである。点線の四角形は移植部位を示している。
【
図16】HA/β-TCP粒子の移植から1か月後の骨欠損の組織学的検査を示す一連の写真である:ヘマトキシリン-エオシン染色、元の倍率5倍(A);マッソン・トリクロム染色、元の倍率20倍(B)。白矢印は、製品が統合されておらず、重大な線維症があることを示している。黒矢印は、天然の骨とHA/β-TCPの移植片との間の境界にある欠損に軟骨内骨化がみられないことを示している。
【
図17】本発明の生体材料の移植から1か月後の骨欠損の組織学的検査を示す一連の写真である:ヘマトキシリン-エオシン染色、元の倍率5倍(A);マッソン・トリクロム染色、元の倍率20倍(B);HLA-I免疫染色、元の倍率10倍(C)。白矢印は、製品の統合および骨融合を示している。黒矢印は、骨統合過程を示す、天然の骨と生体材料との間に直接接する軟骨内骨化を示している。
【0219】
(実施例)
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0220】
実施例1:本発明の生体材料の作製
hASCの単離
インフォームドコンセントおよび血清学的スクリーニングの後、コールマン法による腹部領域の脂肪吸引によってヒト皮下脂肪組織を回収した。
【0221】
入ってくる脂肪組織から迅速にヒト脂肪由来幹細胞(hASC)を単離した。吸引脂肪組織は、+4℃で24時間、または-80℃でさらに長期間保管することができる。
【0222】
最初に、品質管理の目的で吸引脂肪組織の一部を単離し、残りの吸引脂肪組織の体積を測定した。次いで、吸引脂肪組織をHBSSで(最終濃度約8U/mLに)調製したコラゲナーゼ溶液(NB1、Serva Electrophoresis社、ハイデルベルク、ドイツ)により消化した。消化に使用した酵素溶液の体積は、脂肪組織の体積の2倍とした。消化を37℃±1℃で50~70分間にわたって実施した。15~25分後、1回目の断続的振盪を実施し、35~45分後、2回目の断続的振盪を実施した。MP培地(増殖培地または成長培地)の添加により消化を停止させた。MP培地は、5%ヒト血小板溶解物(hPL)(v/v)を添加したDMEM培地(4.5g/Lグルコースおよび4mM Ala-Gln;Sartorius Stedim Biotech社、ゲッティンゲン、ドイツ)を含むものとした。DMEMは、塩、アミノ酸、ビタミン、ピルビン酸塩およびグルコースを含有し、炭酸塩緩衝剤で緩衝した標準培地であり、生理的pH(7.2~7.4)を示す。使用したDMEMは、Ala-Glnを含有するものとした。ヒト血小板溶解物(hPL)は、間葉系幹細胞(hASCなど)のin vitroでの成長を刺激するのに用いる成長因子の豊富な供給源となる。
【0223】
消化した脂肪組織を遠心分離(500g、10分、室温)し、上清を除去した。ペレット化した間質血管細胞群(SVF)をMP培地中に再懸濁させ、200~500μmメッシュのフィルターに通した。ろ過した細胞懸濁液をもう一度遠心分離した(500g、10分、20℃)。hASCを含有するペレットをMP培地中に再懸濁させた。細胞懸濁液のごく一部を細胞カウント用に取っておくことができ、残りの細胞懸濁液を全部用いて1つの75cm2Tフラスコに播種した(継代P0と呼ぶ)。播種した細胞の数を推定するため、(情報のみを目的として)細胞カウントを実施した。
【0224】
単離段階の翌日(第1日)、75cm2Tフラスコから成長培地を除去した。細胞をリン酸塩緩衝液で3回すすぎ、次いで、新たに調製したMP培地をフラスコに加えた。
【0225】
ヒト脂肪由来幹細胞の成長および拡大
工程ののちの諸段階に十分な量の細胞を得るため、増殖期にhASCを4回継代した(P1、P2、P3およびP4)。
【0226】
P0から第4継代(P4)までの間、細胞をTフラスコで培養し、新鮮なMP培地を供給した。70%以上100%以下のコンフルエンス(目標コンフルエンス:80~90%)に達したとき、細胞を継代した。1つのバッチの全細胞培養レシピエントを同時に継代した。継代毎に、細胞を組換え動物無細胞解離酵素であるTrypLE(Select 1X;75cm2フラスコに9mLまたは150cm2フラスコに12mL)で培養容器から剥離した。TrypLe消化は37℃±2℃で5~15分間実施し、MP培地の添加により停止させた。
【0227】
次いで、細胞を遠心分離(500g、5分、室温)し、MP培地に再懸濁させた。均一な細胞懸濁液を確保するため、回収した細胞をプールした。再懸濁後、細胞をカウントした。
【0228】
次いで、継代P1、P2およびP3で、残りの細胞懸濁液を適切な細胞密度までMP培地で希釈し、さらに大きい組織培養表面に播種した。これらの段階で、75cm2フラスコには体積15mLの細胞懸濁液を播種し、150cm2フラスコには体積30mLの細胞懸濁液を播種した。各継代で、細胞を0.5×104~0.8×104細胞/cm2で播種した。異なる継代間で、培地を3~4日毎、交換した。細胞の挙動および成長速度はドナーによってわずかに異なる可能性がある。このため、2継代間の期間および継代間の培地交換の回数はドナーによって異なってもよい。
【0229】
骨原性分化
継代P4(すなわち、第4継代)で、細胞をもう一度遠心分離し、MD培地(分化培地)に再懸濁させた。再懸濁後、細胞をもう一度カウントした後、適切な細胞密度までMD培地で希釈し、150cm2フラスコに体積70mLの細胞懸濁液を播種し、骨原性MD培地を供給した。第4継代の後は、この方法に従い、細胞を直接、骨原性MD培地で培養した。したがって、細胞がコンフルエンスに達していないうちに骨原性MD培地を加えた。
【0230】
骨原性MD培地は、デキサメタゾン(1μM)、アスコルビン酸(0.25mM)およびリン酸ナトリウム(2.93mM)を添加した増殖培地(DMEM、Ala-Gln、hPL5%)からなるものとした。
【0231】
細胞の挙動および成長速度がドナーによってわずかに異なる可能性がある。このため、骨原性分化段階の期間および培地交換の回数がドナーによって異なってもよい。
【0232】
細胞の多次元誘導
細胞がコンフルエンスに達したとき、形態学的変化がみられ、フラスコ内に類骨小結節(すなわち、骨組織成熟の前に形成される骨基質の非ミネラル化有機部分)が少なくとも1つ観察された場合にASCの多次元誘導を開始した。
【0233】
骨原性MD培地に曝露した後、付着骨原性細胞のコンフルエントな単層が含まれる培養容器に様々なセラミック材料:
HA/β-TCP粒子:150cm2フラスコに65/35の比で1.5cm3(Teknimed社、フランス)、
HA粒子:150cm2フラスコに1.5cm3(Biocetis社、フランス)または
β-TCP粒子:150cm2フラスコに1.5cm3(Biocetis社、フランス)
をゆっくりと均一に撒いた。
【0234】
細胞をMD培地で維持した。多次元誘導の間、3~4日毎に定期的な培地交換を実施した。この培地交換は、セラミック材料粒子および発達中の構造物(1つまたは複数)が除去されないようにして慎重に実施した。
【0235】
実施例2:生体材料の特徴付け
材料および方法
細胞毒性
この方法の目的は、細胞-材料間の間接的な接触(培地中での滲出可能な化学物質の拡散)の毒性を評価することであった。この方法では、hASCを2つの24ウェルプレートに8000細胞/cm2(1ウェル当たり15200個)で播種し、37℃で72時間インキュベートした。次いで、細胞がコンフルエンスに達したとき、培地を除去し、底部微小孔膜を含むトランスウェルインサートにセラミック材料:
150cm2の容器に3種類の異なる量、すなわち、1.5cm3、2.85cm3および5.91cm3のHA/β-TCP、
150cm2の容器に1.5cm3のHA粒子または
150cm2の容器に1.5cm3のβ-TCP粒子
を負荷し、次いで個々のウェルに入れ、37℃/5%CO2で24時間インキュベートした。
【0236】
インキュベーション後、増殖および細胞傷害性アッセイで生細胞数を定量化する「CCK-8キット」(Sigma社)を供給業者の指示通りに用いて、細胞生存率を評価した。簡潔に述べれば、培地を除去し、プレートの各ウェルに体積100μLのCCK-8溶液を加えた。混合物を37℃/5%CO2で2~4時間インキュベートした。複雑な細胞機序により、安定なテトラゾリウム塩が可溶性ホルマザン色素に切断される。この生体内還元は、生細胞内での解糖によるNAD(P)H生成に大きく依存する。したがって、形成されるホルマザン色素の量は、培養物中の代謝活性のある細胞の数と直接相関する。ホルマザン色素の量は、分光光度計プレートリーダーを用いて450nmでの吸光度(OD)を測定することにより評価する。
【0237】
相対細胞生存率(%)を未処理対照細胞に対する百分率で表した。この値は以下のように求めた:
相対細胞生存率=(OD-ブランク)処理/(OD-ブランク)未処理×100
(OD-ブランク)未処理:陰性対照(未処理細胞)の(OD-ブランク)の平均値。
【0238】
セラミック材料を撒いていない細胞を陰性対照(未処理細胞)として用いた。Triton 1%溶液で処理した細胞を陽性対照として用いた。
【0239】
組織学的解析
セラミック粒子の添加から4週間後および8週間後、MD培地中で形成された構造物の生検試料を採取した。
【0240】
構造/細胞充実度/細胞外基質の存在
ヘマトキシリン-エオシン染色およびマッソン・トリクロム染色を実施した後、組織の構造、細胞充実度および細胞外基質の存在を評価した。
【0241】
骨分化およびミネラル化
組織の骨分化およびミネラル化をそれぞれオステオカルシンおよびマイクロCTで評価した。
【0242】
Skyscan 1172G(Bruker社)(Erwan Plougonven、ULg、リエージュ)を用いて取得を実施した。Bruker社のマイクロCTソフトウェアであるNRecon、v.1.6.10.1で再構築を実施した。調整後、約1700×1700×700ボクセル(3Dピクセル)の3D画像を再構築した。上記の解像度で、1ボクセルの体積は985μm3である。減衰領域の体積および厚さの平均測定値を総体積の%で記録した。減衰領域はミネラル化領域と一致した。
【0243】
成長因子含有量
形成された組織の生物活性を評価するため、セラミック粒子の添加から4週間後および8週間後、タンパク質の抽出および定量化に生検試料を採取した。比色分析(BCA Protein Assay Kit、ThermoFisher Scientific社)およびBMP2、BMP7、VEGF、SDF1α、IGF1に関するELISA(Human Quantikine ELISAキット、RD Systems社)により、供給業者の指示通りに総タンパク質および成長因子含有量を定量化した。
【0244】
破骨細胞活性
無hPL条件で72時間培養した後、(MD培地またはMP培地での)2D培養物のASCおよび(HA/βTCPの添加により約8週間にわたって誘導した)多次元培養物のASCの上清を回収し、のちの定量化にそのまま-20℃で保管した。セラミック粒子単独のタンパク質も抽出して、OPGおよびRANKLのレベルを定量化した。
【0245】
ELISAキット(Human TNFSF11/RANKL/TRANCE ELISAキット;Human Osteoprotegerin ELISAキット;LS Bio社)を供給業者の指示通りに用いてOPGおよびRANKLを定量化した。
【0246】
結果
細胞毒性
低濃度(10mg/cm
2)では、hASCとHA/β-TCP粒子との間接的な接触によって細胞生存率が改善した(細胞単独と比較して111.1%の細胞生存率)。これとは対照的に、19mg/cm
2および39.4mg/cm
2の濃度では、細胞生存率がそれぞれ10%および52.3%に低下した(
図1)。
【0247】
組織学的解析
生体適合性粒子との4週間または8週間のインキュベーション後、構造物間に有意差は認められなかった。
【0248】
構造/細胞充実度/細胞外基質の存在
セラミック材料添加の数日後、骨原性細胞および分散したセラミック材料粒子がミネラル化細胞外基質の中に徐々に閉じ込められていった。
【0249】
その後、骨原性細胞およびセラミック材料粒子が、一部ミネラル化した黄褐色の成形可能なパテの大きな三次元パッチ(または少数のこれより小さいパッチ)を形成し、各培養容器から剥離し始める。約15日後には、多次元生体材料が発達し、フラスコから剥離し得る。
【0250】
hASCと様々な粒子(HA/β-TCP、HAおよびβ-TCP)のいずれかとを骨原性分化培地で共培養したところ、多次元構造の形成がみられた。この構造物は鉗子でつまむことができ、機械的強度に耐性を示すものであった(
図2)。
図3に、HA/β-TCPを用いて形成した生体材料の肉眼写真を示す。
【0251】
HA/β-TCPを用いて形成した生体材料は、細胞充実度が262±205細胞/mm2であることがわかった(n=7)。
【0252】
ヘマトキシリン-エオシンおよびマッソン・トリクロム染色による組織学的解析では、細胞および粒子の間に相互結合組織が存在し、細胞化された相互結合組織に粒子が組み込まれていることが明らかになった(
図4A~4B)。
【0253】
骨分化/ミネラル化
細胞外基質のオステオカルシン染色が陽性であり(
図4C)、ASCが適切に骨原性細胞に分化したことが示された。
【0254】
マイクロCT解析では、HA/β-TCPを用いて形成した生体材料のミネラル化度が1.9%であることが明らかになった(
図5)。
【0255】
成長因子含有量
生体適合性粒子との4週間または8週間のインキュベーション後、構造物間に有意差は認められなかった。
【0256】
【0257】
【0258】
本発明のセラミック粒子を用いて形成した生体材料はいずれも、VEGF、IGF1およびSDF-1αを含む。SDF-1αにおける含有量はVEGFおよびIGF1におけるものよりも少ない。全組織にBMP2もBMP7も検出されなかった。
【0259】
破骨細胞活性
MP/MD培地、HA/β-TCPを用いて形成した生体材料、HAを用いて形成した生体材料およびβ-TCPを用いて形成した生体材料中のhASCの上清のOPG/RANKL分泌を定量化した。
【0260】
RANKLは検出されなかった。MP培地およびMD培地中の細胞の上清にOPGはみられなかった。
【0261】
これとは対照的に、HA/β-TCPを用いて形成した生体材料は、約3010pg/10
6細胞を分泌する(
図7)。組織1g当たりの濃度に関しては、HA/β-TCPを用いて形成した生体材料が約30ng/g、HAを用いて形成した生体材料が約76ng/g、β-TCPを用いて形成した生体材料が約84ng/gであった(
図8)。
【0262】
HA/β-TCP単独によるOPG分泌も評価し、ほぼ検出不可能なレベルであることがわかった(
図8)。
【0263】
実施例3:骨形成能および血管新生能
材料および方法
Qiazol溶解試薬(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)およびPrecellysホモジナイザー(Bertin instruments社、モンティニー=ル=ブルトンヌー、フランス)を用いて、増殖培地(MP)のASC(n=4、4例の異なるヒト脂肪組織ドナー由来)、分化培地のASC(MD、粒子を含まない古典的な骨原性培地で培養した細胞)(n=4、4例の異なるヒト脂肪組織ドナー由来)および1.5cm3のHA/β-TCPを用いて形成した生体材料(n=4、4例の異なるヒト脂肪組織ドナー由来)から全RNAを抽出した。Rneasy mini kit(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を追加のオンカラムDNアーゼ消化とともに製造業者の指示通りに用いて、RNAを精製した。分光光度計(Spectramax 190、Molecular Devices社、カリフォルニア州、米国)を用いて、RNAの性質および量を明らかにした。市販のPCRアレイによる(Human RT2 Profiler Assay-血管新生;Human RT2 Profiler Assay-骨形成、Qiagen社)骨原性および血管新生の遺伝子発現プロファイルには、RT2RNA first strand kit(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を用いて全RNA0.5μgからcDNAを合成した。増幅産物の検出にはABI Quantstudio 5システム(Applied Biosystems社)およびSYBR Green ROX Mastermix(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を用いた。ΔΔCT法に従って定量化を実施した。各試料の最終結果を3種類のハウスキーピング遺伝子(ACTB、B2MおよびGAPDH)の発現レベルの平均値に対して正規化した。
【0264】
リアルタイムRT-PCR(Human RT2 Profiler Array、Qiagen社)を用いて、mRNAレベルでの骨原性遺伝子および血管新生遺伝子の発現を実施した。
【0265】
結果
本発明の生体材料では、84種類の被験骨原性遺伝子のうち骨格発生に関与する11種類の遺伝子(ACVR1、BMPR1A、BMPR1B、BMPR2、CSF1、EGFR、FGFR1、IGFR1、RUNX2、TGFBR1、TWIST1)、3種類の転写因子(SMAD2、SMAD4、SMAD5)、2種類の成長因子(VEGFA、VEGFB)および3種類の細胞接着分子(ITGA1、ITGB1、ICAM1)がMPのASCまたはMDのASCと比較して調節されることがわかった(
図9)。
【0266】
本発明の生体材料にはMPまたはMDのASCと比較して、軟骨細胞および破骨細胞の骨形成関連遺伝子の発現を促進し、細胞周期進行を調節し、骨微小環境を改善し、機能に影響を及ぼす不可欠な骨形成特異的転写因子(Bruderer M et al,Eur Cell Mater,2014;Xu J et al,Am J Trans Res,2015)であるRunt関連転写因子2(Runx2)が有意に高く発現した(
図9C)。
【0267】
本発明の生体材料にはMDのASCと比較して、骨格間葉に発現し、骨格発生の過程で間葉細胞系列の配分の制御に鍵となる役割を果たすTWIST関連タンパク質1(TWIST1)(Johnson Dら Mech Dev.2000;Rice DP,et al.Mech Dev.2000)も有意に高く発現した(p=0.09)(
図9D)。
【0268】
骨形成に重要な経路の1つにトランスフォーミング成長因子ベータ/骨形成タンパク質(TGF-b/BMP)経路がある。TGF-bは(TGFBR1活性化を介して)SMADなどの細胞内シグナル伝達タンパク質を活性化する。これらの因子は、TGFベータ制御遺伝子の転写を調節し、それにより骨原性遺伝子転写を活性化し、骨芽細胞分化を促進する(Song B,Cytokine Growth Factor Rev.Author,2010)。興味深いことに、本発明の生体材料にはMDのASCと比較して、TGFBR1およびSMAD2/5 mRNAが高く発現することがわかった(
図9E~9H)。
【0269】
MPのASC、MDのASCおよび本発明の生体材料で試験した84種類の血管新生遺伝子のうち、6種類の遺伝子が成長因子に関連するものであり(ANG、EFNA1、EFNB2、VEGFA、FGF1、TGFB1)、2種類のECM分子(LEP、TIMP1)および2種類の細胞接着分子(ENG、THBS1)が調節された(
図10)。
【0270】
本発明の生体材料にはMPのASCと比較して、アンジオポエチン(ANG)mRNAが有意に高く発現することがわかった(
図10A)。アンジオポエチンシグナル伝達は、既存の血管から新たな動脈および静脈を形成する過程である血管新生を促進する(Fagiani E et al,Cancer Lett,2013)。
【0271】
さらに、本発明の生体材料にはMPおよびMDのASCと比較して、胚発生および成体組織での血管新生を調節するエフリンA1(EFNA)mRNA(Pasquale et al.Nat Rev Mol Cell Biol 2005,6(6):462-475)が高く発現することがわかった(
図10Bおよび10C)。
【0272】
本発明の生体材料ではMPまたはMDのASCと比較して、血管内皮成長因子AのmRNA(VEGFA)の発現も有意に改善された(
図10D)。VEGFは、血管発生および血管新生の調節に最も重要な成長因子の1つである。骨は極めて血管が発達した器官である(同時に、血管新生が骨形成の重要な調節因子となっている)ため、VEGFも骨格発生および出生後の骨修復に正に影響を及ぼす(Hu K et al,Bone 2016)。
【0273】
本発明の生体材料にはMPのASCと比較して、線維芽細胞成長因子1(FGF1)mRNA(強力な血管新生促進因子、Murakami M et al,Curr Opin Hematol 2009)およびレプチン(LEP)mRNA(重要な血管新生のエンハンサーおよびVEGF発現のインデューサー;Bouloumie A et al,Circ.Res.1998;Sierra-Honigmann MR et al,Science(New York,N.Y.)1998)の過剰発現もみられた(それぞれ
図10Eおよび10F)。
【0274】
結論として、本発明の生体材料は、移植後、骨分化能とともに細胞生着のために血管新生を促進する能力を分子レベルで発現する細胞が(3D構造内に)存在することによって、骨原性であると定義され得る。
【0275】
実施例4:移植後の線維性環境内での血管新生および骨形成の促進
4.1.in vitro
組織傷害に最もよくみられる要素の1つが低酸素状態の存在である。間質が損傷すると多くの場合、凝固カスケードが活性化し、低酸素状態の領域が生じる。このことに関連して、本発明の生体材料が、移植後の血管新生の鍵となる成長因子であるVEGF(Madrigal M et al.,J Transl Med.2014 Oct 11;12:260)を分泌する能力を評価した。様々な組織で酸素圧が低下すると、血管内皮成長因子(VEGF)などの血管新生遺伝子の転写を誘導する低酸素誘導因子(HIF-1α)(Ahluwalia A et al.,Curr Med Chem.2012;19(1):90-97;Hawkins KE et al.,Regen Med.2013;8(6):771-782)のほかにもMSC化学誘引間質細胞由来因子1(SDF-1α)(Youn SW et al.,Blood.2011;117:4376-4386.Ceradini DJ et al.,Nat Med.2004;10(8):858-864)の活性化が起こることが知られている。
【0276】
材料および方法
低酸素濃度が生体材料の血管新生促進特性に及ぼす影響を評価するため、3例のドナー由来のASCと1.5cm3HA/β-TCPとから形成した生体材料をPBSで2回洗浄し、(培地中に外因性成長因子が存在しないよう)hPLを含まない骨原性分化培地(MD)10mLが入った6ウェルプレートで、二重反復でインキュベートした。プレートを5%CO2、37℃で72時間、低酸素状態(1%O2)または酸素正常状態(21%O2)に置いた。次いで、ELISAによるVEGFおよびSDF-1αの定量化に上清を回収した。
【0277】
さらに、6ウェルプレートに二重反復で入っている3例のドナーに由来する継代4のコンフルエントなASCをPBSで2回洗浄し、hPLを含まない5mLまたは10mLの増殖培地(MP)または骨原性分化培地(MD)に5%CO2、37℃で72時間、低酸素状態(1%O2)または酸素正常状態(21%O2)で入れた。次いで、ELISAによるVEGFおよびSDF-1αの定量化に上清を回収した。
【0278】
結果
低酸素圧では2D(MPおよびMD)での細胞によるVEGF分泌が増大した(1%O
2対21%O
2で、MPがそれぞれ242±51pg/10
5細胞対29±27pg/10
5細胞、MDがそれぞれ565±507pg/10
5細胞対182±216pg/10
5細胞(p<0.05))が、低酸素状態が本発明の生体材料のVEGF分泌に及ぼす影響はみられなかった(1%O
2対21%O
2でそれぞれ、760±594pg/10
5細胞対806±530pg/10
5細胞)(
図11A)。したがって、低酸素圧が本発明の生体材料の使用に対する限定要因となることはない。
【0279】
さらに、1%O
2条件でも21%O
2条件下でも、本発明の生体材料にMPおよびMDのASCより高いVEGF分泌がみられた(
図11A).
【0280】
低酸素刺激後、MDのASCにSDF-1α分泌の刺激が観察され(p=0.009)、21%O
2では、本発明の生体材料よって、MPおよびMDのASCよりも有意に高い量のSDF-1αが放出された(それぞれ、p=0.013および0.025)(
図11B)。
【0281】
さらに、1%O
2では、MDのASCの方がMPのASCおよび本発明の生体材料よりも分泌が低いことが明らかになった(それぞれ、p=0.009および0.013)(
図11B).
【0282】
本発明の生体材料を低酸素圧(線維性組織にみられる1%酸素)に曝露することにより、ASCには脈管形成の鍵となるエフェクターを分泌する能力があることが明らかになった。これらの分泌は、細胞外基質を有する三次元中、すなわち、本発明の生体材料中のASCの方が、二次元で培養した増殖/骨原性培地のASCよりも(低酸素状態および酸素正常状態で)優れていた。
【0283】
4.2.in vivo
低酸素条件下での本発明の生体材料の生物活性を明らかにする目的で、筋壊死の前臨床モデルを実施した。Schubertら(Biomaterials,2011;32(34):8880-91)によって示された異所性モデルは、生体材料の生物活性を検討するゴールドスタンダードであり、腰部領域内の焼灼脊椎傍筋によって形成されたポケットに被験品(生体材料)を移植することにある。
【0284】
材料および方法
ヌードラットに、いかなる移植片拒絶反応も起こらないよう本発明の生体材料(ヒト起源)を移植する、2つの実験を実施した。
【0285】
第一の実験は、移植の1か月後に組織リモデリングに本発明の生体材料が果たす役割を評価するようデザインしたものである。第二の実験は、(移植後第29日に)組織リモデリングを分子レベルで評価するようデザインしたものである。
【0286】
両実験とも、生体材料を10個体のヌードラットに両側移植した。移植した生体材料の体積は約0.3cm3(500mgまたは4.7×106細胞に相当する)であった。
【0287】
第一の実験では、移植後第28日、フォン・ヴィルブランド病に対する免疫染色後に血管新生を組織形態計測によって定量化し、HLAに対する免疫組織化学によってヒト細胞の存在を評価した。
【0288】
第二の実験では、移植後第29日、HLAに対する免疫組織化学によってヒト細胞の存在を評価し、マッソン・トリクロム染色後、組織形態計測解析によって移植片の血管再生を評価した。
【0289】
さらに、Qiazol溶解試薬(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)およびPrecellysホモジナイザー(Bertin instruments社、モンティニー=ル=ブルトンヌー、フランス)を用いて、外植片から全RNAを抽出した。Rneasy mini kit(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を追加のオンカラムDNアーゼ消化とともに製造業者の指示通りに用いて、RNAを精製した。分光光度計(Spectramax 190、Molecular Devices社、カリフォルニア州、米国)を用いて、RNAの性質および量を求めた。市販のPCRアレイ(Human RT2 Profiler Assay-血管新生;Human RT2 Profiler Assay-骨形成、Qiagen社)による骨原性および血管新生の遺伝子発現プロファイルには、RT2 RNA first strand kit(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を用いて全RNA0.5μgからcDNAを合成した。増幅産物の検出にはABI Quantstudio 5システム(Applied Biosystems社)およびSYBR Green ROX Mastermix(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を用いた。ΔΔCT法に従って定量化を実施した。各試料の最終結果を3種類のハウスキーピング遺伝子(ACTB、B2MおよびGAPDH)の発現レベルの平均値に対して正規化した。
【0290】
移植後第29日、本発明の生体材料から得た外植片の間で骨原性遺伝子の発現を比較した。次いで、外植片について48種類の骨原性遺伝子を試験した。
【0291】
結果
第一の実験
移植から1か月後、生体材料の内部に血管内部成長の存在が確認された(
図12)。
【0292】
血管表面積および血管数/mm
2の結果を
図13に示す。
【0293】
本発明の生体材料内のヒト細胞の存在により、本発明の生体材料中のヒトASCが(筋肉領域/移植部位の焼灼の後に)壊死宿主組織内で生き延びることが可能であることが明らかになった(
図14).
【0294】
第二の実験
移植後第29日、本発明の生体材料中にヒト細胞が存在することが明らかになった(データ不掲載)。
【0295】
既に記載したように、第一の生物活性に関する実験では、移植後第29日に移植片の血管再生が確認された(データ不掲載)。
【0296】
in vivo実験から、本発明の生体材料が製品内で血管新生を誘導することが可能であることが明らかになった。
【0297】
実施例5:骨欠損の治療
骨形成における本発明の生体材料の効果を試験するため、ラットモデルの臨界寸法の骨欠損をデザインした。このモデルについては文献(Saxer et al.,Stem Cells 2016-Manassero et al.,Journal of Visualized Experiments 2016)に十分に記載されている。
【0298】
材料および方法
本発明のヒト生体材料のレシピエントには、いかなるT細胞免疫反応も起こらないよう雄ヌードラットを選択した。簡潔に述べれば、ヌードラット14個体(HA/β-TCP粒子単独および生体材料それぞれのレシピエント7個体からなる2つのグループ)にRatFix System(登録商標)(RISystem社、スイス)を用いることによって、ラット大腿骨に臨界寸法の骨欠損を実施した。5mmの欠損を生じさせ、スクリューで固定したプレートを用いることにより、大腿骨の2つのセグメントを連結した。
【0299】
骨欠損誘導から3週間後、X線撮影を実施して、骨欠損の不可逆性を評価し、いかなる自発的骨再生も起こらないようにした。
【0300】
(骨欠損が持続し、いかなる固定材料破損もみられない)ヌードラットレシピエントにHA/β-TCP粒子(500mgに相当する総体積0.344cm3)またはASCと1.5cm3のHA/β-TCP粒子と(500mgに相当する総体積0.313cm3および4.7×106個の細胞)を用いて形成した本発明の生体材料を移植した。
【0301】
移植から1か月後、移植片統合および骨融合のレベルを評価する目的で、各個体にマイクロCTスキャンおよび組織学的検査を実施した。
【0302】
結果
移植から1か月後、本発明の生体材料は大腿骨の両セグメントの間に完全に統合されて、二皮質骨融合(2つの大腿皮質構造物の連続性)が起こっていた(
図15、左上および左下)が、HA/β-TCP粒子単独のものは骨欠損内に位置し、全く統合されていなかった(
図15、右上および右下)。実際、皮質骨とHA/β-TCP粒子との間に架橋はみられず、両側皮質融合(
図15右下の記号
*で示される)および大腿骨欠損端の萎縮様相もみられなかった。
【0303】
以上の結果を組織学的検査により確認した(
図16および17)。HA/β-TCP粒子単独の移植から1か月後、製品は統合されておらず、重大な線維症が観察された(
図16A、白矢印)。天然の骨とHA/β-TCPの移植片との間の境界にある欠損には、軟骨内骨化がみられなかった(
図16B、黒矢印)。本発明の生体材料の移植から1か月後、製品の統合および骨融合が観察された(
図17A、白矢印)。天然の骨と生体材料との間に直接接する形で軟骨内骨化がみられ、骨統合過程が示された(
図17B、黒矢印)。HLA-I染色では、ヒト細胞が存在することがわかる(
図17C)。
【0304】
以上のin vivoの試験から、(i)本発明の生体材料が低酸素環境中で骨形成を改善することが可能であること、および(ii)臨界寸法の骨欠損において骨融合を起こすことが可能であることが明らかになった。本発明の生体材料は、骨形成および骨再建の点でHA/β-TCP粒子単独よりも優れていることが明らかになった。
【0305】
実施例6:脊椎固定ラットモデルを用いた生体材料に関する試験(試験CP-2017025-生体内分布群)
試験の目的
GLP準拠試験(試験CP-2017025)を実施して、(i)治験製品が目的とする臨床使用に関連する条件に従った関連動物モデルでの生体材料の全般的毒性(いわゆる「CP-2017025毒性試験群」)および(ii)治験細胞の生体内分布および異所性組織の継続的発達能(いわゆる「CP-2017025-生体内分布群」)を評価するという2つの目的を遂行した。
【0306】
免疫適格動物に予想されるヒト細胞拒絶反応が起こらないよう免疫不全(ヌード)ラットモデルを選択した。脊椎固定手術モデルは、文献(Wang et al.,J.Bone and Joint Surg.2003,85:905-911)に記載されており、同様の組織環境中で大腿骨欠損よりも移植体積を大きくすることができる(Belill et al.,Comp.Med.2014,61(3):186-192)ため、同モデルを関連モデルに選択した。さらに、脊椎固定外科処置で生じる移植環境は、大腿骨欠損などの骨非統合モデルで生じる環境と比較して極めて類似していると考えられている。
【0307】
試験デザイン
「生体内分布試験群」の目的には、健常な9週齢ホモ接合ヌード胸腺欠損ラット20個体(雄10個体および雌10個体;Hsd:RH-Foxn1 rnu/rnu)をグループ1および2(1グループ当たり雄5個体および雌5個体)に無作為に割り付けた(表2)。
【0308】
【0309】
D0に、グループ1の個体を下に記載する外科的処置により生体材料(臨床バッチと同じ工程に従って製造した1つのバッチ)で治療した。グループ2の個体には生体材料による治療を実施しなかったが、D0にグループ1の個体と同じ外科的処置を実施した。
【0310】
Wangらによって記載されている外科手術法に従い、第5または第6腰椎に沿って皮膚および筋肉を切開した。背部の筋肉を分けて離し、腰椎が見えるようにした。L5腰椎の横突起に円形の骨欠損を生じさせた。直径が一定のドリルビットを使用することにより骨欠損の大きさを統一して、欠損を直径2.0mm、深さ1mmに制御した。腰椎の両側を欠損させた。グループ1の個体には、腰椎の両側(左および右)に生じさせた穴およびその周囲の領域に生体材料(それぞれ0.56×107個の細胞を含む0.375cm3のものを2片)を移植した。次いで、背部の筋肉および皮膚を縫合した。ラットの体重に基づけば、この生体材料の量は10(250gのラット対30kgの患者)~23.4(250gのラット対70kgの患者)の相対安全域に相当する。
【0311】
D29に、ラットを屠殺し、剖検を実施した。ラット組織内の生体材料ヒト細胞の存在を検出および定量化する目的で、投与部位、骨髄、脳、生殖腺、心臓、腸、腎臓、肝臓、肺、骨格筋および脾臓から全ゲノムDNAを抽出した後、ヒトAluエレメントベースのqPCR法を用いて解析した。
【0312】
器官を採取し、重量を測定し、DNA抽出まで-80℃で保管した。次いで、機械的方法を用いることによって組織を抽出緩衝液中で完全にホモジナイズした後、DNA抽出を実施した。被験ラット組織試料または対照ラット組織試料のゲノムDNAを125ng用いて、qPCR実験を20μlで実施した。各試料を3回反復で試験した。ラットの特定の組織DNA基質125ngに添加したヒトDNAの20fg(全器官の定量化の下限値)または70fg(骨格筋の定量化の下限値)~7ng(定量化の上限値)の範囲の定量化について、AluエレメントベースのqPCR法の妥当性を検証した。
【0313】
結果
グループ1および2の個体の骨髄、脳、生殖腺、心臓、腸、腎臓、肝臓、肺、骨格筋および脾臓ならびにグループ2の個体の投与部位の試料に定量化の限界値以下のヒトDNAが検出されることはなかった。グループ1の個体の全投与部位およびグループ1の10個体のうち1個体の心臓にヒトDNAが検出された。
【0314】
生体材料治療ラットの全移植部位に加えて、生体内分布を目的に解析した生体材料治療ラット10個体のうち1個体にヒトDNAが検出された。原因は明らかでないが、この結果は、それが解析した10個体のうち1個体だけに観察されたものであること、また、検出されたDNAの量が少なかった(心臓中のヒト細胞166個に相当する推定数)ことから、試料採取時の汚染によるものであると思われる。さらに、生体材料治療ラット10個体の心臓に移植してから29日後に実施した組織病理学的解析では、異所性組織形成を思わせる組織病理学的観察結果は認められなかった。
【0315】
実施例7:脊椎固定ラットモデルを用いた生体材料に関する試験(CP-2017025-毒性試験群)
GLP準拠試験2件を含めた以下の動物試験3件により、生体材料開発のための非臨床毒性試験を実施した:
-脊椎固定ラットモデルを用いた生体材料に関する単回投与毒性試験(GLP試験CP-2017025-毒性試験群);
-NSGマウスを用いた生体材料に関する腫瘍形成能試験(GLP試験CP-2017026);および
-NSGマウスを用いて腫瘍形成能を検討した生体材料に関する局所耐容性試験(CP-2017073)。
【0316】
背景および目的
GLP準拠試験(試験CP-2017025)を実施して、(i)治験製品が目的とする臨床使用に関連する条件に従った関連動物モデルでの生体材料の全般的毒性(いわゆる「CP-2017025-毒性試験群)および(ii)治験細胞の生体内分布および異所性組織の継続的発達能(いわゆる「CP-2017025-生体内分布群」)を評価するという2つの目的を遂行した。
【0317】
「毒性試験群」の目的は、潜在的毒性、その発現(急性または遅延)および観察された毒性が消失する可能性を確認し、特徴付け、定量化することであった。
【0318】
免疫適格動物に予想されるヒト細胞拒絶反応が起こらないよう免疫不全(ヌード)ラットモデルを選択した。脊椎固定手術モデルは、文献(Wang et al.2003)に記載されており、同様の組織環境中で大腿骨欠損よりも移植体積を大きくすることができる(Belill et al.2014)ため、同モデルを関連モデルに選択した。さらに、脊椎固定外科処置で生じる移植環境は、大腿骨欠損などの骨非統合モデルで生じる環境と比較して極めて類似していると考えられている。
【0319】
試験デザイン
「毒性試験群」の目的には、健常な9週齢ホモ接合ヌード胸腺欠損ラット40個体(雄20個体および雌20個体;Hsd:RH-Foxn1 rnu/rnu)をグループ1および2(1グループ当たり雄10個体および雌10個体)に無作為に割り付けた(表3)。
【0320】
【0321】
D0に、グループ1の個体を下に記載する外科的処置により生体材料(臨床バッチと同じ工程に従って製造した1つのバッチ)で治療した。グループ2の個体には生体材料による治療を実施しなかったが、D0にグループ1の個体と同じ外科的処置を実施した。
【0322】
Wangらによって記載されている外科手術法に従い、第5または第6腰椎に沿って皮膚および筋肉を切開した。背部の筋肉を分けて離し、腰椎が見えるようにした。L5腰椎の横突起に円形の骨欠損を生じさせた。直径が一定のドリルビットを用い骨欠損の大きさを統一して、欠損を直径2.0mm、深さ1mmに制御した。腰椎の両側を欠損させた。グループ1の個体には、腰椎の両側(左および右)に生じさせた穴およびその周囲の領域に生体材料(それぞれ0.56×107個の細胞を含む0.375cm3のものを2片)を移植した。次いで、背部の筋肉および皮膚を縫合した。ラットの体重に基づけば、この生体材料の量は10(250gのラット対30kgの患者)~23.4(250gのラット対70kgの患者)の相対安全域に相当する。
【0323】
外科手術後、ラットの麻酔後の回復を観察し、次いで、D29まで個体の創傷治癒、運動、罹病率、死亡率および明白な毒性の徴候を毎日モニターした。
【0324】
D0に、次いで少なくとも週2回、無作為化を目的に体重を測定した。体重変化を評価し、グループ1と2の個体の間で比較した。
【0325】
D3およびD29に、絶食させたグループ1および2のラットから血液を採取して、血液学的パラメータ、凝固パラメータおよび生化学的パラメータを測定した。D29に、ラットを屠殺し、剖検を実施した。
【0326】
毒性検査を目的に、1グループ当たり雌雄それぞれ5個体の器官を肉眼で観察し、採取した。脾臓、肝臓、腎臓および心臓の重量を測定した。採取した器官はいずれも、4%のホルマリンに入れて室温で保存し、パラフィンで包埋し、スライドを作製し(1器官当たり3枚;20個体)、顕微鏡で解析した。
【0327】
結果
モニタリング期間中、重要な観察結果は報告されなかった。体重に関して、グループ1と2の個体間に体重の統計的有意差は観察されなかった。第3日および第29日に採取した血液試料に関して実施した解析から、血液学的パラメータ、生化学的パラメータおよび凝固パラメータに関してグループ1と2の個体間に重要な差は報告されなかった。肉眼的には、実施した剖検から重要な事柄は報告されなかった。顕微鏡的には、グループ1の全個体の移植部位に生体材料移植によるものと考えられる異物肉芽腫が観察された。これ以外に生体材料移植に起因すると考えられる組織病理学的な全身変化は観察されなかった。
【0328】
結論として、ヌードラットの関連するモデルを用いた生体材料移植後に毒性は認められなかった。
【0329】
実施例8:細胞形質転換リスクの評価
ヒトでは、骨肉腫を含めた様々な肉腫が間葉起源であることを裏付ける証拠が相当量得られている。一方、MSCについては、長期培養で染色体異常が発現するものの、in vitroで自然形質転換が起こることは示されていない(Aguilar et al.,Stem Cells.2007,25(6):1586-1594;Bernardo et al.,Cancer Res.2007,67(19):9142-9149;Xiao et al.,Clin.Sarcoma Res.2013,3(1):10)。このような奇形はこれまでに記載されており、in vitroの培養条件に対する自然な適応であって、形質転換リスクが高いこととは関係ないことが示唆されている(Tarte et al.,Blood.2010,115(8):1549-1553)。
【0330】
臨床バッチに提案される工程で作製した生体材料の開発バッチを4つ以上製造する過程で、生体材料の原薬の細胞遺伝学的安定性を分子核型分析(aCGH/SNP法)により試験することによって、ASCの自発的細胞形質転換の可能性をin vitroで評価した。アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)と高密度一塩基多型(SNP)の組合せは、負担となる事前の有糸分裂細胞単離を必要とせずに、ゲノム全域にわたってコピー数変化をスクリーニングし、臨床的に重要な染色体異常および染色体障害を検出する代替手段となるのに十分に確立された分子ジェノタイピング法である(Cooper et al.,Nat.Genetics.2011,43(9):838-846;Slavotinek.A.M.,Hum.Genetics.2008,124(1):1-17)。
【0331】
結果から、製造工程でも生体材料の原薬の放出試験に相当する継代レベルでも、hASCが細胞遺伝学的に安定であるものと思われることがわかる。
【0332】
NSGマウスを用いた生体材料に関するin vivoのGLP腫瘍形成能試験(試験CP-2017026)
背景および目的
MSC由来細胞療法を実施する場合、これまでにヒト患者に腫瘍形成が観察されたことはないが、こうして得られた結果は、患者に対する腫瘍形成能のリスクを確認するものでも排除するものでもない(Barkholt et al.,Cytotherapy.2013,15(7):753-759)。
【0333】
研究CP-2017026の目的は、NSG(NODscidガンマ)免疫不全マウスに移植したのち最大6か月にわたって、生体材料に含まれるヒト脂肪由来MSCの細胞形質転換のリスクを腫瘍形成能の点から評価することであった。腫瘍形成能が確認されていることで選択したHT-29細胞系を陽性対照に用いた。
【0334】
試験デザイン
この試験には、健常な7週齢のNSG雌マウス30個体を含めた。マウスを2つのグループ(グループ1には20個体、グループ2には10個体)に無作為に割り付けた。グループ1の個体には、生体材料(1.5×107個の細胞を含む1g(±1cm3))を切開により皮下空隙に移植した(臨床バッチと同じ工程に従って製造し、試験CP-2017025に使用したものと同じバッチ)。グループ2の個体には、HT-29細胞を皮下注射により接種した(0.9%NaCl 200μlで107個/個体)。
【0335】
マウスの生存率、行動および体重を実験終了まで週2回記録した。各個体を週2回観察し、投与部位に新たに形成された小結節を触診した。新たに形成された小結節があれば測定した。グループ1のマウス(生体材料で治療)は最大6か月間観察し、グループ2のマウス(HT-29細胞で治療)は、腫瘍体積が1000mm3に達するか、壊死が観察されるまでモニターした。
【0336】
剖検時、各個体の肉眼観察を実施した。グループ1の個体(試験項目)については、組織病理学的検査用に移植部位、肝臓、脾臓、肺、心臓、腎臓、脳、鼠経リンパ節(目に見える場合)のスライドを作製した。
【0337】
結果
グループ2(HT-29、陽性対照)のマウス10個体に進行性の腫瘍成長がみられ、D27(最初の屠殺の日)の平均腫瘍体積(MTV)が611.6±335.4mm3であった。1個体のマウスを腫瘍の壊死により屠殺し、他の9個体のマウスはTV>1000mm3のため屠殺した。グループ2のマウスの剖検時に実施した器官の肉眼観察で異常はみられなかった。
【0338】
グループ1のマウスのうち1個体については、投与部位の縫合が開いたことによりD0~D1に試験項目が喪失した。グループ1の個体は、移植後(D2)の移植部位の平均体積が1194.6±392.7mm3(N=19)であった。移植後、一部のマウスに投与部位のレベルで治癒しない重度の創傷がみられた。
【0339】
その結果、グループ1のマウス20個体のうち10個体を上記の投与部位における重度の皮膚創傷のため、D3~D27に倫理上の理由で屠殺した。屠殺したグループ1のマウス10個体のうち、5個体では移植部位に乾燥した黄色の皮膚がみられ、他の2個体では移植部位に壊死が観察された。組織病理学的検査では、移植部位に炎症がみられ、腫瘤が壊死性のものもみられた。上を覆う皮膚および周囲の筋組織には炎症および/または潰瘍が観察された。
【0340】
グループ1の個体では、移植部位の平均体積が試験終了時点(D180)で1032.5±245.3(n=9)mm3であり、D2の移植部位の平均体積と比較して体積増大はみられなかった。
【0341】
グループ1のマウスの剖検時に実施した器官の肉眼観察で異常はみられなかった。試験終了時(D180)に屠殺したグループ1のマウスについては、顕微鏡観察で移植部位に多房性腫瘤がみられ、壊死はなく、全般的には組織付近に炎症を伴うものではなかった。解析した移植部位およびその他の器官の組織病理学的検査では、グループ1のいずれのマウスにも腫瘍は観察されなかった。
【0342】
グループ2(HT-29細胞で治療)の10個体のうち少なくとも9個体に進行性に成長する腫瘍がみられたことから、この試験は妥当なものである。約1.5×107個の細胞が含まれる試験項目(生体材料1g)の単回皮下移植後、グループ1の(雌NSG)いずれのマウスにも腫瘍は観察されなかった。
【0343】
組織病理検査報告書には、この実験の条件下で、「NSGマウスに約1g[生体材料]を皮下移植しても、6か月の観察期間にわたって細胞増殖は一切誘導されなかった。移植部位には、試験項目と直接関係のある多房性腫瘤がみられた。それにより、一部のマウスについては局所炎症性反応を伴う皮膚潰瘍のため早期に屠殺した。このことは、固い材料を大量に皮下移植したことを原因とする機械的外傷と関係があるものと考えられた。」と記載されていた。
【0344】
NSGマウスを用いた生体材料に関するin vivoの局所耐容性試験および腫瘍形成能の検討(試験CP-2017073)
背景および目的
GLP腫瘍形成能試験CP-2017026では、生体材料移植片の局所耐容性が低いことが観察され、このことは、NSG免疫不全マウスに固い材料を大量に皮下移植したことを原因とする機械的外傷と関係があるものと考えられた。
【0345】
生体材料1g(±1cm3)の(試験CP-2017026で実施した通り)単一部位(n=8)または2つの部位(1部位当たり0.5g)(n=8)への移植後の局所耐容性を(元の計画の通り2週間の期間で)さらに検討するため、試験CP-2017073を開始した。
【0346】
注目すべきことに、試験CP-2017073では、試験CP-2017026とは対照的に、病変(例えば、筋レベルで融合していない移植部位の黄色皮膚)が観察された場合でも、生体材料1gを移植した個体のうち、投与部位の重度の皮膚創傷により倫理上の理由で屠殺しなければならない個体はみられなかった。次いで、既に試験CP-2017026で得た腫瘍形成能に関するデータを補完するため、最初に定めた2週間の追跡期間を超える期間(最大6か月)にわたってグループ1の個体(n=8)をモニターすることにした。
【0347】
試験デザイン
7週齢の健常なNSG(NOD scidガンマ)免疫不全雌マウス16個体を2つのグループ(1グループ当たり8個体)に無作為化した。グループ1の個体には、生体材料(1.5×107個の細胞を含む1g)を切開により右側腹部の皮下空隙に移植した。グループ2の個体には、生体材料(各部位に0.75×107個の細胞を含む2×0.5g)を切開により右側腹部および左側腹部の皮下空隙に移植した。マウスの生存率、行動および体重を実験終了まで週2回記録した。各個体について毎日、臨床徴候および局所反応を観察した。グループ1のマウス(1部位を試験項目で治療)は最大6か月間観察した。グループ2のマウス(2部位を試験項目で治療)は15日間にわたってモニターした。各個体について肉眼剖検を実施した。グループ1の個体(試験項目)については、組織病理学的検査用に移植部位、肝臓、脾臓、肺、心臓、腎臓、脳、鼠経リンパ節(目に見える場合)のスライドを作製した。
【0348】
結果
グループ1のマウスのうち、D79からD85まで体重減少がみられた1個体を除いて、各マウスの体重はD0から屠殺まで徐々に増加した。前者のマウスはD89に死亡していた。
【0349】
グループ1の個体は、D2の移植部位の平均体積が1228.3±195.3mm3(n=8)であった。試験終了時(D180)には、移植部位の平均体積が945.5±92.7mm3(n=7)に減少し、試験項目の皮下移植後、いずれの移植部位にも試験期間中に大きさの増大は観察されないことが示された。
【0350】
グループ1(1部位)およびグループ2(2部位)のマウスは全個体とも、モニタリングパラメータ(運動および歩行、身のこなし、行動、呼吸、眼球、皮膚(移植部位以外)、体毛、粘膜、排泄および無麻痺)が正常であった。
【0351】
屠殺時、グループ1のマウス(1部位)またはグループ2(2部位)に実施した肉眼観察で異常な器官はみられなかった。D180に屠殺したグループ1のマウスには、組織病理学的解析で細胞増殖は一切認められなかった。移植部位に多房性のミネラル化が観察されたが、上を覆う皮膚および付近の筋組織に炎症はみられなかった。このミネラル化した材料は、移植した試験項目であると解釈される。
【0352】
この実験条件下では、以下のような結論を導くことができる:
・生体材料を1つまたは2つの部位に投与したところ、両群とも、移植部位に黄色の皮膚が観察される場合でも局所耐容性に何ら有意な影響を及ぼすことはなかった。この観察結果に関して、グループ1の個体には、D44に移植部位に最後に黄色の皮膚が観察されて以降、回復がみられた。
・雌NSGマウスに1.5×107個の細胞を含む生体材料を単回皮下移植し、6か月間の追跡後に肉眼および顕微鏡で検討したところ、腫瘍形成の誘導はみられなかった。
・組織病理検査報告書には、1.5×107個の細胞を含む生体材料1gをNSGマウスに皮下移植しても、6か月間にわたって細胞増殖の誘導はみられないことが記載されていた。移植部位には、試験項目と直接関係のある多房性のミネラル化がみられた。