(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】パーマネント施術処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20230508BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20230508BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20230508BHJP
A61Q 5/04 20060101ALI20230508BHJP
A45D 7/04 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/41
A61K8/46
A61Q5/04
A45D7/04
(21)【出願番号】P 2022111065
(22)【出願日】2022-07-11
【審査請求日】2022-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518203308
【氏名又は名称】有限会社ナップヘアー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】保坂 上一郎
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-28564(JP,A)
【文献】特開2000-139546(JP,A)
【文献】特開2015-166341(JP,A)
【文献】特開2004-196681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A45D 7/02-7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪のパーマネント施術処理方法であって、
アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤により、毛髪をアルカリ処理に供する工程と、
還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤により、前記アルカリ処理後の毛髪を還元処理に供する工程と、
酸化剤を含有する第3剤により、前記還元処理後の毛髪を酸化処理に供する工程とを
含み、
前記第1剤において、
0.1N塩酸標準溶液の消費量で規定されるアルカリ度が3ml~7mlであ
り、かつ、pHが8.0~9.5であり、前記アルカリ剤が、アンモニア、炭酸水素アンモニウム及びモノエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ剤である、前記方法。
【請求項2】
前記パーマネント施術処理方法が、縮毛矯正処理方法又はパーマネントウェーブ処理方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1剤において、前記還元剤の含有量がチオグリコール酸換算値で0質量%~
2質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2剤において、アルカリ度が0ml~3mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2剤において、前記還元剤の含有量がチオグリコール酸換算値で
3質量%~
7質量%であり、かつ、pHが4.0~9.2である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
毛髪の縮毛矯正処理方法又はパーマネントウェーブ処理方法において使用される第1剤であって、
アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有せず、
0.1N塩酸標準溶液の消費量で規定されるアルカリ度が3ml~7mlであ
り、かつ、pHが8.0~9.5であり、前記アルカリ剤が、アンモニア、炭酸水素アンモニウム及びモノエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ剤である、前記剤。
【請求項7】
前記還元剤の含有量が、チオグリコール酸換算値で0質量%~
2質量%である、請求項
6に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪のパーマネント施術処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪形成処理として行われているパーマネント施術処理としては、一般に、縮毛を直毛に矯正する縮毛矯正処理と、毛髪を任意のウェーブ形状に形成するパーマネントウェーブ処理とが挙げられる。
いずれのパーマネント施術処理においても、任意に形成した毛髪の物理的形状状態を長期間にわたって保持することが目的であり、そのために毛髪に対して化学的な処理も施される。
【0003】
化学的処理としては、具体的には、毛髪を構成するタンパク質の結合を一旦切断して、毛髪本来の形状を保持する力を低減(軟化)させ、その状態で毛髪を任意の形状に物理的に形成させると共にタンパク質を再結合することにより、その形状の保持力を上昇させる。
【0004】
ここで、毛髪を構成するタンパク質の結合としては、主に、ペプチド結合、シスチン(S-S)結合、イオン結合、及び水素結合が挙げられる。
ペプチド結合は、アミノ酸の基本的な結合であり、過度のアルカリ剤で加水分解することにより、切断される。
シスチン(S-S)結合は、シスチンの2分子間の結合であり、還元剤により切断されると共に、酸化剤により再結合される。
イオン結合は、マイナスイオンとプラスイオンとの結合であり、pHがアルカリ性に傾くと切断され、pHが弱酸性(4.5~5.5)の状態(=等電帯)で強く結合する。
水素結合は、水に濡れることにより切断されると共に、乾燥することにより再結合される。
【0005】
一般に、パーマネント施術処理においては、アルカリ剤及び還元剤を含有する第1剤により、アルカリ処理及び還元処理に供し、タンパク質の結合を切断し、酸化剤を含有する第2剤により、酸化処理に供し、タンパク質の切断を再結合することが行われている。より具体的には、第1剤に含有されるアルカリ剤によってペプチド結合が緩むと共に、毛髪のpHがアルカリ性に移行することによってイオン結合が切断され、第1剤に含有される還元剤によってシスチン結合が切断される。また、アルカリ剤によって還元剤が活性されることにより毛髪は軟化し膨潤する。その後、第2剤に含有される酸化剤によってシスチン結合が再結合されると共に、pHを等電帯に戻すことによってイオン結合が再結合される。
【0006】
パーマネント施術処理のうち、特に縮毛矯正処理においては、縮毛の形状を保持するタンパク質の結合を十分に切断し、毛髪が十分に膨潤及び軟化されるように、毛髪を過度なアルカリ性の状態にする必要があるとされている。
例えば特許文献1には、縮毛矯正剤として、還元剤と共に、毛髪を強いアルカリ性の状態に維持させるためのアルカリ剤を含有する第1剤が記載されている。
しかし、毛髪が過膨潤及び過軟化となった場合においては、強度と水分量とが過度に低下されるため、大きなダメージを与えてしまうと共に、結果的に直毛形状の保持力も低下されてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、例えば特許文献2には、アルカリ剤を使用しない縮毛矯正処理方法として、マレイン酸含有液剤を塗布する工程と、アルカリ剤を含有せず還元剤を含有する第1剤を塗布する工程と、炭酸カリウム含有水溶液を塗布した状態で直毛にする工程と、酸化剤を含有する第2剤を塗布する工程と、アミン系化合物を塗布する工程とを実行する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-256258号公報
【文献】特許第6910670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載の方法のような、アルカリ剤を使用しない縮毛矯正処理方法においては、毛髪のダメージをある程度抑制することができるものの、毛髪が十分に膨潤及び軟化していない状態で毛髪を還元処理と酸化処理とに供するため、直毛形状の保持力に欠け、縮毛矯正効果が低いという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、毛髪のダメージを抑制しながら、毛髪形状の保持効果が高い、特に縮毛矯正処理において、縮毛矯正効果の高い方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行う中で、毛髪にダメージを与えるとされているアルカリ剤の使用方法を見直し、試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、アルカリ剤によるアルカリ処理と、還元剤による還元処理とを個別に行ったところ、驚くべきことに、毛髪のダメージを抑制しながらも、高い毛髪形状の保持効果が得られた。本発明はこのような成功例や、本発明者によって初めて見出された知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0012】
したがって、本発明の一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]毛髪のパーマネント施術処理方法であって、
アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤により、毛髪をアルカリ処理に供する工程と、
還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤により、前記アルカリ処理後の毛髪を還元処理に供する工程と、
酸化剤を含有する第3剤により、前記還元処理後の毛髪を酸化処理に供する工程とを
含む、前記方法。
[2]前記パーマネント施術処理方法が、縮毛矯正処理方法又はパーマネントウェーブ処理方法である、[1]に記載の方法。
[3]前記第1剤において、前記還元剤の含有量がチオグリコール酸換算値で0質量%~3質量%である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の方法。
[4]前記第1剤において、アルカリ度が3ml~7mlであり、かつ、pHが8.0~9.5である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記第2剤において、アルカリ度が0ml~3mlである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記第2剤において、前記還元剤の含有量がチオグリコール酸換算値で2質量%~質量7%であり、かつ、pHが4.0~9.2である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]毛髪の縮毛矯正処理方法又はパーマネントウェーブ処理方法において使用される第1剤であって、
アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない、前記剤。
[8]前記還元剤の含有量が、チオグリコール酸換算値で0質量%~3質量%である、[7]に記載の剤。
[9]アルカリ度が3ml~7mlであり、かつ、pHが8.0~9.5である、[7]~[8]のいずれか1項に記載の剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様の方法によれば、アルカリ剤によるアルカリ処理と、還元剤による還元処理とを個別に行うことにより、毛髪のダメージを抑制しながら、高い毛髪形状の保持効果、特に縮毛矯正処理においては、高い縮毛矯正効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一態様の方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、後述の実施例において毛髪試料として使用した毛髪の画像を示す。
【
図3】
図3は、後述の実施例の例1において得られた、処理後の毛髪束〔1〕の写真画像を示す。
【
図4】
図4は、後述の実施例の例2において得られた、処理後の毛髪束〔2〕の写真画像を示す。
【
図5】
図5は、後述の実施例の例3において得られた、処理後の毛髪束〔3〕の写真画像を示す。
【
図6】
図6は、後述の実施例の例4における未処理の毛髪束〔4〕の写真画像を示す。
【
図7】
図7は、後述の実施例の例1において得られた、処理後の毛髪束〔1〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図8】
図8は、後述の実施例の例2において得られた、処理後の毛髪束〔2〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図9】
図9は、後述の実施例の例3において得られた、処理後の毛髪束〔3〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図10】
図10は、後述の実施例の例4における未処理の毛髪束〔4〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図11】
図11は、後述の実施例の例5において得られた、処理後の毛髪束〔5〕の写真画像を示す。
【
図12】
図12は、後述の実施例の例6において得られた、処理後の毛髪束〔6〕の写真画像を示す。
【
図13】
図13は、後述の実施例の例7において得られた、処理後の毛髪束〔7〕の写真画像を示す。
【
図14】
図14は、後述の実施例の例8において得られた、処理後の毛髪束〔8〕の写真画像を示す。
【
図15】
図15は、後述の実施例の例9において得られた、処理後の毛髪束〔9〕の写真画像を示す。
【
図16】
図16は、後述の実施例の例5において得られた、処理後の毛髪束〔5〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図17】
図17は、後述の実施例の例6において得られた、処理後の毛髪束〔6〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図18】
図18は、後述の実施例の例7において得られた、処理後の毛髪束〔7〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図19】
図19は、後述の実施例の例8において得られた、処理後の毛髪束〔8〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【
図20】
図20は、後述の実施例の例9において得られた、処理後の毛髪束〔9〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0016】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常使用される意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0017】
「含有量」との用語は、本明細書において、濃度と同義であり、剤の全体量(例えば、体積)に対する成分の量(例えば、質量)の割合(例えば、質量%)を意味する。
「含む(含有)」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0018】
[パーマネント施術処理方法]
本発明の一態様の方法は、毛髪のパーマネント施術処理方法であって、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤により、毛髪をアルカリ処理に供する工程(アルカリ処理工程)と、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤により、アルカリ処理後の毛髪を還元処理に供する工程(還元処理工程)と、酸化剤を含有する第3剤により、還元処理後の毛髪を酸化処理に供する工程(酸化処理工程)とを含む。
本発明の一態様の方法は、具体的には、縮毛矯正処理方法又はパーマネントウェーブ処理方法に適用可能である。
【0019】
従来のパーマネント施術処理方法においては、第1剤としてアルカリ剤と還元剤との混合剤により、アルカリ処理及び還元処理が同時進行で行われる、又は、第1剤として還元剤のみによる還元処理のみが行われる一方で、本発明の方法においては、アルカリ剤によるアルカリ処理と、還元剤による還元処理とを個別に行うというこれまでにない全く新しい手法である。
【0020】
本発明の一態様の方法においては、アルカリ処理工程と、還元処理工程と、酸化処理工程とが、この順で別個独立の工程によって行われれば、本発明の課題を解決し得る限り、各工程の前段、後段及び/又は工程中において、適宜、種々の工程や操作を加入することができる。これらの工程等としては、例えば、第1剤、第2剤及び/又は第3剤の除去工程、毛髪の乾燥工程、毛髪の物理的処理工程(例えば、縮毛矯正工程やカール形成工程)、中間処理剤塗布工程等が挙げられる。
【0021】
[アルカリ処理工程]
アルカリ処理工程は、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤により、毛髪をアルカリ処理に供する。具体的には、施術者は、被施術者の毛髪に対して、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤を塗布して、所定時間放置し、毛髪をアルカリ処理に供する。本発明の方法におけるアルカリ処理工程においては、従来のパーマネント施術処理において行われるアルカリ処理及び還元処理のうち、還元処理は実質的に行われず、アルカリ処理を主に行う。
このアルカリ処理工程において、第1剤のアルカリ剤によってペプチド結合が緩むと共に、毛髪のpHがアルカリ性に移行することによってイオン結合が切断される。その結果、毛髪は膨潤状態となる。この工程S1においては、シスチン(S-S)結合は切断していない状態となり、毛髪は軟化状態とはならない。
【0022】
[第1剤]
アルカリ処理工程において使用する第1剤は、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない。アルカリ剤としては、従来公知のものを使用することができる。アルカリ剤としては、具体的には、アンモニア、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム等の無機系アンモニウム塩、有機系アンモニウム塩、有機アミン類、無機アルカリ剤、アルギニン等の塩基性アミノ酸等が挙げられるが、被施術者の毛髪の状態(ダメージの程度)や適用部位等に応じて適宜選択することができる。
【0023】
なお、従来のパーマネント施術処理、例えば縮毛矯正処理において使用されるアルカリ剤及び還元剤を含有する第1剤においては、通常、還元剤の含有量は、チオグリコール酸換算値で5質量%~7質量%程度である。
本発明における「還元剤を実質的に含有しない」とは、第1剤として、還元剤の含有量が、チオグリコール酸換算値で0質量%~3質量%であることをいう。すなわち、本発明においては、後述の実施例の通り、第1剤として還元剤を含有しなくても、パーマネント施術処理(縮毛矯正処理)を施すことができることを確認している(例1及び例5)が、第1剤として、微量の還元剤が含有されていてもパーマネント施術処理(縮毛矯正処理)を施すことができることも確認している(例9)。
【0024】
ここで、「チオグリコール酸換算値」(以下、「チオ換算値」ともいう。)は、平成5年2月10日薬発第111号薬務局長通知「パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準について」における「〔別紙〕パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準」に添付の「[別添]パーマネント・ウェーブ用剤品質規格」の「1.チオグリコール酸又はその塩類を有効成分とするコールド二浴式パーマンネント・ウェーブ用剤」の「(1)第1剤」に記載の「(ウ)酸性煮沸後の還元性物質」に定められている手法によって求められる「酸性煮沸後の還元性物質の含量(チオグリコール酸として)(%)」である。
【0025】
アルカリ処理工程において使用する第1剤としては、毛髪のダメージの抑制及び毛髪形状保持効果の観点から、アルカリ度が3ml~7mlであり、かつ、pHが8.0~9.5であることが好ましい。
【0026】
ここで、「アルカリ度」とは、平成5年2月10日薬発第111号薬務局長通知「パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準について」における「〔別紙〕パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準」に添付の「[別添]パーマネント・ウェーブ用剤品質規格」の「1.チオグリコール酸又はその塩類を有効成分とするコールド二浴式パーマンネント・ウェーブ用剤」の「(1)第1剤」に記載の「(イ)アルカリ」に定められている通り、0.1N塩酸標準溶液の消費量で規定されるアルカリ度を示し、所定量の第1剤を0.1N(0.1mol/L)塩酸標準溶液で滴定してメチルレッド試液の変色するときの上記標準溶液の消費量から、次の式により求められる。
アルカリ度(ml)=0.1N塩酸標準溶液消費量(mL)/第1剤(g)
また、「pH」は、平成5年2月10日薬発第111号薬務局長通知「パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準について」における「〔別紙〕パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準」に添付の「[別添]パーマネント・ウェーブ用剤品質規格」の「1.チオグリコール酸又はその塩類を有効成分とするコールド二浴式パーマンネント・ウェーブ用剤」の「(1)第1剤」に記載の「(ア)pH」に定められている通り、ガラス電極pH計を用いて25℃で測定した値である。
【0027】
アルカリ処理工程において使用する第1剤には、アルカリ剤の他、水、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等が含有されるが特に限定されない。また、必要に応じて、仕上がりの質感を向上させるため、第1剤に、ケラチンやコラーゲン等を添加してもよい。
なお、アルカリ処理工程において使用する第1剤として、微量の還元剤を含有させる場合においては、還元剤としては、従来公知のものを使用することができる。
【0028】
アルカリ処理工程において、放置時間は、被施術者の毛髪の状態(ダメージの程度)や適用部位等に応じて適宜設定することができるが、例えば、5分間~10分間程度である。放置時間の間は、必要に応じて加温機で毛髪を加温してもよい。
【0029】
アルカリ処理工程の後、施術者は、被施術者の毛髪に対して第1剤が塗布された毛髪から第1剤を除去する。具体的には、毛髪に対する湯温によるすすぎ処理によって、第1剤を洗い流すことにより除去する。
【0030】
[還元処理工程]
還元処理工程は、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤により、アルカリ処理後の毛髪を還元処理に供する。具体的には、施術者は、被施術者の第1剤が除去された毛髪に対して、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤を塗布して、所定時間放置し、還元処理に供する。本発明の方法における還元処理工程においては、従来のパーマネント施術処理において行われるアルカリ処理及び還元処理のうち、還元処理は、アルカリ処理後に行われる。
この還元処理工程において、還元剤によってシスチン(S-S)結合が切断される。
【0031】
[第2剤]
還元処理工程において使用する第2剤は、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない。還元剤としては、従来公知のものを使用することができ、アルカリ処理工程で使用する第1剤(アルカリ剤)の種類や所望する仕上がりの質感等に応じて適宜選択することができる。
【0032】
本発明における「アルカリ剤を実質的に含有しない」とは、第2剤において、アルカリ度が0ml~3mlであることをいう。すなわち、本発明においては、後述の実施例の通り、第2剤としてアルカリ剤を含有しなくても、パーマネント施術処理(縮毛矯正処理)を施すことができることを確認している(例1及び例5)が、第2剤として、微量のアルカリ剤が含有されていてもパーマネント施術処理(縮毛矯正処理)を施すことができることも確認している(例7)。
【0033】
第2剤に含有される還元剤としては、仕上がりの質感の観点から、酸性からアルカリ性の還元剤が好ましい。酸性からアルカリ性の還元剤のpHは、具体的には、4.0~9.2程度とされる。酸性からアルカリ性の還元剤としては、具体的には、チオ乳酸又はその塩、チオグリコール酸又はその塩、システイン又はその塩、アセチルシステイン又はその塩、システアミン又はその塩、チオグリコール酸グリセリル、ブチロラクトンチオール等が挙げられる。
【0034】
第2剤に含有される還元剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、チオグリコール酸換算値で3質量%~7質量%程度が好ましい。
【0035】
還元処理工程において使用する第2剤には、還元剤の他、水、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等が含有されるが特に限定されない。
なお、還元処理工程において使用する第2剤として、微量のアルカリ剤を含有させる場合においては、アルカリ剤としては、従来公知のものを使用することができる。
【0036】
還元処理工程において、放置時間は、所望する仕上がりの質感等に応じて適宜設定することができるが、例えば、10分間~20分間程度である。放置時間の間は、必要に応じて加温機で毛髪を加温してもよい。
【0037】
還元処理工程の後、施術者は、被施術者の毛髪に対して第2剤が塗布された毛髪から第2剤を除去する。具体的には、毛髪に対する湯温によるすすぎ処理によって、第2剤を洗い流すことにより除去する。
【0038】
その後、施術者は、被施術者の第2剤が除去された毛髪を任意の形状に物理的処理に供する。物理的処理としては、例えば、縮毛矯正処理においては、毛髪を乾燥し、例えば設定温度180℃程度のヘアアイロンによって、直毛に矯正し、また例えば、パーマネントウェーブ処理においては、ロッド等を用いて、カール状に形成し、加温機等で加温する。
【0039】
[酸化処理工程]
酸化処理工程は、酸化剤を含有する第3剤により、還元処理後の毛髪を酸化処理に供する。具体的には、施術者は、被施術者の直毛に矯正された毛髪に対して、酸化剤を含有する第3剤を塗布して、所定時間放置し、酸化処理に供する。
この酸化処理工程において、酸化剤によって、切断されたシスチン(S-S)結合が再結合され、毛髪形状が保持される。
【0040】
[第3剤]
酸化処理工程において使用する第3剤としては、酸化剤を含有する。酸化剤としては、従来公知のものを使用することができる。具体的には、臭素酸又はその塩、過酸化水素水等が挙げられるが、還元処理工程で使用する第2剤(還元剤)の種類や所望する仕上がりの質感等に応じて適宜選択することができる。
【0041】
酸化処理工程において使用する第3剤には、酸化剤の他、水、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等が含有されるが特に限定されない。
【0042】
酸化処理工程において、放置時間は、使用する酸化剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、例えば、5分間~15分間程度である。
【0043】
酸化処理工程の後、施術者は、被施術者の毛髪に対して、第3剤が塗布された毛髪から第3剤を除去する。具体的には、毛髪に対する湯温によるすすぎ処理によって、第3剤を洗い流すことにより除去する。
【0044】
最後に、施術者は、被施術者の第3剤(酸化剤)が除去された毛髪を乾燥して終了する。乾燥によって切断された水素結合が再結合され、毛髪形状が保持される。
【0045】
本発明のパーマネント施術処理方法によれば、アルカリ剤によるアルカリ処理と、還元剤による還元処理とを個別に行うことにより、毛髪のダメージが抑制されると共に、毛髪形状の保持力を確保することができるので、高い毛髪形状保持効果が得られる。このように、アルカリ剤によるアルカリ処理と、還元剤による還元処理とを、単独の工程でそれぞれ毛髪に対して作用させることから、特に毛髪に対してダメージを与えるとされるアルカリ処理工程について、毛髪の状態(ダメージの程度)や適用部位によって使用するアルカリ剤の種類や放置時間を適宜調整することができるので、毛髪のダメージを抑制しながら、高い毛髪形状保持効果が得られると考えられる。
【0046】
本発明の一態様のパーマネント施術処理方法の非限定的な具体的態様として、例えば、以下の縮毛矯正処理方法が挙げられる:
(S1)毛髪に対して、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤を塗布して、所定時間放置してアルカリ処理に供する工程と、
(S2)第1剤が塗布された毛髪から第1剤を除去する工程と、
(S3)第1剤が除去された毛髪に対して、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤を塗布して、所定時間放置して還元処理に供する工程と、
(S4)第2剤が塗布された毛髪から第2剤を除去する工程と、
(S5)第2剤が除去された毛髪を乾燥して、加熱しながら直毛に矯正する工程と、
(S6)直毛に矯正された毛髪に対して、酸化剤を含有する第3剤を塗布して、所定時間放置して酸化処理に供する工程と、
(S7)第3剤が塗布された毛髪から第3剤を除去する工程と、
(S8)第3剤が除去された毛髪を乾燥する工程とを順に行う。
【0047】
以上の具体的態様について、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明の一態様の方法を示すフロー図である。
【0048】
まず、アルカリ処理工程(S1)において、施術者は、被施術者の毛髪に対して、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤を塗布して、5分間~10分間放置する。
次に、第1剤除去工程(S2)において、施術者は、被施術者の毛髪に対してシャンプー等を行った後、湯温によるすすぎ処理によって、第1剤を洗い流すことにより除去する。
次に、還元処理工程(S3)において、施術者は、被施術者の第1剤が除去された毛髪に対して、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤を塗布して、10分間~20分間放置する。
次に、第2剤除去工程(S4)において、施術者は、被施術者の毛髪に対してシャンプー等を行った後、湯温によるすすぎ処理によって、第2剤を洗い流すことにより除去する。
次に、矯正工程(S5)において、施術者は、被施術者の第2剤が除去された毛髪をドライヤーによって乾燥して、例えば設定温度180℃のヘアアイロンによって縮毛を直毛に矯正する。
次に、酸化処理工程(S6)において、施術者は、被施術者の直毛に矯正された毛髪に対して、酸化剤を含有する第3剤を塗布して、5分間~15分間放置する。
次に、第3剤除去工程(S7)において、施術者は、被施術者の毛髪に対してシャンプー等を行った後、湯温によるすすぎ処理によって、第3剤を洗い流すことにより除去する。
最後に、乾燥工程(S8)において、施術者は、被施術者の第3剤が除去された毛髪をドライヤーによって乾燥して終了する。
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0050】
[毛髪試料]
同一人から採取した化学処理履歴(ヘアカラー)のある日本人の癖毛の毛髪を、毛髪の固有差が出ないようによく混ぜ合わせた後、9つの毛髪束〔1〕~〔9〕を作製した。これらを使用して、以下例1~9の縮毛矯正処理を施した。
なお、採取した毛髪は、
図2に示すように、後頭部内側付近(
図1においては、破線部分)のものである。
【0051】
例1~9において使用した薬剤及び毛髪束を以下表1にまとめる。
【0052】
【0053】
[例1:アルカリ処理後に還元処理に供する例]
1-1.アルカリ処理工程
毛髪束〔1〕に対して、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を含有しない第1剤〔1〕を塗布して、10分間放置した。
なお、第1剤〔1〕(pH9.0、アルカリ度6ml、チオ換算値0質量%)は、アルカリ剤として、アンモニア、炭酸水素アンモニウム及びアルギニンを含有するものを使用した。
【0054】
1-2.第1剤除去工程
第1剤〔1〕が塗布された毛髪束〔1〕について、シャンプーで洗浄した後、タオルドライした。
【0055】
1-3.還元処理工程
第1剤〔1〕が除去された毛髪束〔1〕に対して、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を含有しない第2剤〔1〕を塗布して、15分間放置した。
なお、第2剤〔1〕(pH5.9、チオ換算値5.16質量%、、アルカリ度0ml)は、還元剤としてチオグリコール酸グリセリル(GMT)を含有するものを使用した。
【0056】
1-4.第2剤除去工程及び矯正工程
第2剤〔1〕が塗布された毛髪束〔1〕について、シャンプーで洗浄し、すすぎ処理した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥し、温度180℃に設定したヘアアイロンで直毛に矯正した。
【0057】
1-5.酸化処理工程
直毛に矯正された毛髪束〔1〕に対して、酸化剤を含有する第3剤〔1〕を塗布して、15分間放置した。
なお、第3剤〔1〕(pH6.0)は、酸化剤としてブロム酸(濃度10%)を含有するものを使用した。
【0058】
1-6.第3剤除去工程及び乾燥工程
第3剤〔1〕が塗布された毛髪束〔1〕について、シャンプーで洗浄し、すすぎ処理した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥した。
【0059】
[例2:アルカリ処理及び還元処理に供する例]
2-1.アルカリ還元処理工程
毛髪束〔2〕に対して、アルカリ剤及び還元剤を含有する第1剤〔2〕を塗布して、15分間放置した。
なお、第1剤〔2〕(pH9.0、アルカリ度3.25ml、チオ換算値6.9質量%)は、アルカリ剤としてモノエタノールアミン、還元剤としてチオグリコール酸アンモニウムを含有するものを使用した。
【0060】
2-2.第1剤除去工程及び矯正工程
第1剤〔2〕が塗布された毛髪束〔2〕について、シャンプーで洗浄し、すすぎ処理した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥し、温度180℃に設定したヘアアイロンで直毛に矯正した。
【0061】
2-3.酸化処理工程
直毛に矯正された毛髪束〔2〕に対して、酸化剤を含有する第2剤〔2〕を塗布して、15分間放置した。
なお、使用した第2剤〔2〕は、上記例1における1-5.酸化処理工程で使用した第3剤〔1〕と同様のものである。
【0062】
2-4.第2剤除去工程及び乾燥工程
第2剤〔2〕が塗布された毛髪束〔2〕について、シャンプーで洗浄し、すすぎ処理した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥した。
【0063】
[例3:アルカリ処理を行わず還元処理のみに供する例]
3-1.還元処理工程
毛髪束〔3〕に対して、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を含有しない第1剤〔3〕を塗布して、15分間放置した。
なお、第1剤〔3〕(pH5.9、チオ換算値5.16質量%、アルカリ度0ml)は、還元剤としてチオグリコール酸グリセリル(GMT)を含有するものを使用した。
【0064】
3-2.第1剤除去工程及び矯正工程
第1剤〔3〕が塗布された毛髪束〔3〕について、シャンプーで洗浄し、すすぎ処理した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥し、温度180℃に設定したヘアアイロンで直毛に矯正した。
【0065】
3-3.酸化処理工程
直毛に矯正された毛髪束〔3〕に対して、酸化剤を含有する第2剤〔2〕を塗布して、15分間放置した。
なお、第2剤〔2〕は、上記例1における1-5.酸化処理工程で使用した第3剤〔1〕と同様のものである。
【0066】
3-4.第2剤除去工程及び乾燥工程
第2剤〔2〕が塗布された毛髪束〔3〕について、シャンプーで洗浄した後、タオルドライした。その後、ドライヤーで乾燥した。
【0067】
[例4:未処理の例]
毛髪束〔4〕に対しては、何も処理を施さなかった。
【0068】
図3~6に、処理後の毛髪束〔1〕~〔3〕及び未処理の毛髪束〔4〕の写真画像を示す。具体的には、
図3は、処理後の毛髪束〔1〕の写真画像を示し、
図4は、処理後の毛髪束〔2〕の写真画像を示し、
図5は、処理後の毛髪束〔3〕の写真画像を示し、
図6は、未処理の毛髪束〔4〕の写真画像を示す。
【0069】
また、毛髪束〔1〕~〔4〕について、それぞれ毛髪を3本選出して、1本ごとに毛髪表面の状態を、レーザー顕微鏡「VK-X3000」(キーエンス社製)を用いて観察した。各顕微鏡画像を
図7~10に示す。具体的には、
図7は、処理後の毛髪束〔1〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図8は、処理後の毛髪束〔2〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図9は、処理後の毛髪束〔3〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図10は、未処理の毛髪束〔4〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
また、各レーザー顕微鏡画像について、画像解析ソフトを使用して、表面粗さ及び最も低い位置から高い位置までの距離を測定した。結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
図3~6の結果より、例1(毛髪束〔1〕)の本発明の方法によれば、毛髪のダメージを抑制しながら、直毛形状が十分に保持され、高い縮毛矯正効果が得られることがわかった(
図3)。また、例2(毛髪束〔2〕)によれば、直毛形状が保持されているが、毛先がパサついており、毛髪のダメージが抑制されていないことがわかった(
図4)。さらに、例3(毛髪束〔3〕)によれば、毛先のパサつきは抑制されているが、直毛形状が十分に保持されていないことがわかった(
図5)。
【0072】
以上のことから、例2は、アルカリ処理と還元処理とが同時に行われることから、毛髪の膨潤・軟化、水素結合の切断、イオン結合の切断、ペプチド結合の切断、及びシスチン結合の切断が同時に行われるため、毛髪のダメージを抑制することができないと考えられる。また、例3は、アルカリ処理を行わず還元処理のみが行われることから、毛髪が膨潤・軟化していない状態で、還元処理に供するため、縮毛矯正効果が低くなると考えられる。一方、本発明の例1は、アルカリ処理と、還元処理とが個別の工程であることにより、アルカリ処理よる作用と、還元処理による作用とを個別に毛髪に作用させることから、毛髪のダメージを抑制しながら、高い縮毛矯正効果が得られると考えられる。
【0073】
また、上記の結果は、
図7~10の顕微鏡画像及び表2の結果によっても裏付けられる。すなわち、例1(毛髪束〔1〕)の本発明の方法によれば、未処理の毛髪束〔4〕と同様に、キューティクルの剥離が抑制されており、表面粗さの程度も抑制されていることがわかった(
図7及び表2)。また、例2(毛髪束〔2〕)によれば、キューティクルがダメージを受け薄くなっており、表面粗さの程度も増大していることがわかった(
図8及び表2)。さらに、例3(毛髪束〔3〕)によれば、キューティクルの剥離がある程度抑制されており、表面粗さの程度もある程度抑制されていることがわかった(
図9及び表2)。
【0074】
[例5:アルカリ処理後に還元処理に供する例]
上記例1において、毛髪束〔5〕を使用し、1-3.還元処理工程において使用した第2剤〔1〕を、「スピエラ(登録商標)」(昭和電工社製)(還元剤:ブチロラクトンチオール、pH6.0、チオ換算値2.59質量%)に変更したことの他は、同様にして縮毛矯正処理を施した。
【0075】
[例6:アルカリ処理を行わず還元処理のみに供する例]
上記例3において、毛髪束〔6〕を使用し、3-1.還元処理工程において使用した第1剤〔3〕を、「スピエラ(登録商標)」(昭和電工社製)(還元剤:ブチロラクトンチオール、pH6.0、チオ換算値2.59質量%)に変更したことの他は、同様にして縮毛矯正処理を施した。
【0076】
[例7:アルカリ処理後に、還元処理(還元剤と共に微量のアルカリ剤を含む)に供する例]
上記例1において、毛髪束〔6〕を使用し、1-3.還元処理工程において使用した第2剤〔1〕を、第2剤〔3〕(pH8.0、チオ換算値6.9質量%、アルカリ度2ml、還元剤:チオグリコール酸アンモニウム、アルカリ剤:アルギニン)に変更したことの他は、同様にして縮毛矯正処理を施した。
【0077】
[例8:アルカリ処理及び還元処理に供する例]
上記例2において、毛髪束〔8〕を使用し、2-1.アルカリ還元処理工程において使用した第1剤〔2〕を、第1剤〔4〕(pH8.0、アルカリ度2ml、チオ換算値6.9質量%、アルカリ剤:アルギニン、還元剤:チオグリコール酸アンモニウム)に変更したことの他は、同様にして縮毛矯正処理を施した。
【0078】
[例9:アルカリ処理(アルカリ剤と共に微量の還元剤を含む)後に、還元処理に供する例]
上記例1において、毛髪束〔9〕を使用し、1-1.アルカリ処理工程において使用した第1剤〔1〕を、第1剤〔5〕(pH9.0、アルカリ度6ml、チオ換算値2.0質量%、アルカリ剤:アンモニア、炭酸水素アンモニウム及びアルギニン、還元剤:チオグリコール酸アンモニウム)に変更したことの他は、同様にして縮毛矯正処理を施した。
【0079】
図11~15に、処理後の毛髪束〔5〕~〔9〕の写真画像を示す。具体的には、
図11は、処理後の毛髪束〔5〕の写真画像を示し、
図12は、処理後の毛髪束〔6〕の写真画像を示し、
図13は、処理後の毛髪束〔7〕の写真画像を示し、
図14は、処理後の毛髪束〔8〕の写真画像を示し、
図15は、処理後の毛髪束〔9〕の写真画像を示す。
【0080】
また、毛髪束〔5〕~〔9〕について、それぞれ毛髪を3本選出して、1本ごとに毛髪表面の状態を、レーザー顕微鏡「VK-X3000」(キーエンス社製)を用いて観察した。各顕微鏡画像を
図16~20に示す。具体的には、
図16は、処理後の毛髪束〔5〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図17は、処理後の毛髪束〔6〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図18は、処理後の毛髪束〔7〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図19は、処理後の毛髪束〔8〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示し、
図20は、処理後の毛髪束〔9〕の毛髪表面の顕微鏡画像を示す。
また、各レーザー顕微鏡画像について、画像解析ソフトを使用して、表面粗さ及び最も低い位置から高い位置までの距離を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【0082】
図11~15の結果より、例5(毛髪束〔5〕)の本発明の方法によれば、還元剤として例1とは異なる還元剤を使用しても、毛髪のダメージを抑制しながら、直毛形状が十分に保持され、高い縮毛矯正効果が得られることがわかった(
図11)。また、例6(毛髪束〔6〕)によれば、還元剤として例3とは異なる還元剤を使用しても、毛先のパサつきは抑制されているものの、例3(毛髪束〔3〕)に比べれば直毛形状が保持されているが、十分ではないことがわかった(
図12)。また、例7(毛髪束〔7〕)の本発明の方法によれば、アルカリ処理後の還元処理において、還元剤と共に微量のアルカリ剤が含有されている場合でも、毛髪のダメージを抑制しながら、直毛形状が十分に保持され、高い縮毛矯正効果が得られることがわかった(
図13)。また、例8(毛髪束〔8〕)によれば、アルカリ剤としてアルカリ度の低いものを使用しているため、例2(毛髪束〔2〕)に比べれば、毛髪のダメージが抑制されているが、直毛形状が十分に保持されていないことがわかった(
図14)。さらに、例9(毛髪束〔9〕)の本発明の方法によれば、アルカリ処理において、アルカリ剤と共に微量の還元剤が含有されている場合でも、毛髪のダメージを抑制しながら、直毛形状が十分に保持され、高い縮毛矯正効果が得られることがわかった(
図15)。
【0083】
また、上記の結果は、
図16~20の顕微鏡画像及び表3の結果によっても裏付けられる。すなわち、例5(毛髪束〔5〕)の本発明の方法によれば、例1の毛髪束〔1〕よりも、キューティクルの剥離が抑制されており、表面粗さの程度も抑制されていることがわかった(
図16及び表3)。また、例7(毛髪束〔7〕)の本発明の方法によれば、未処理の毛髪束〔4〕と同様に、キューティクルの剥離が抑制されており、表面粗さの程度も抑制されていることがわかった(
図18及び表3)。さらに、例9(毛髪束〔9〕)の本発明の方法によれば、未処理の毛髪束〔4〕と同様に、キューティクルの剥離がある程度抑制されており、表面粗さの程度もある程度抑制されていることがわかった(
図20及び表3)。
【0084】
なお、例3で使用した還元剤のチオグリコール酸グリセリルは、エステル剤であり、例5で使用した還元剤のブチロラクトンチオールは、ラクトンである。これらは、毛髪のダメージ抑制の観点からは好ましいが、エステル剤はアルカリ領域ではケン化されエステル特性が失われ、ラクトンもアルカリ領域では結合が切断されるため、効果が失われる。すなわち、これらの還元剤をアルカリ剤と併用(混合)することはできない。従って、これらの還元剤は、単独で使用する必要があるが、例3及び例5の結果からも明らかなように、毛髪のダメージを抑制できても、縮毛矯正効果が不十分である。これに対し、本発明の方法によれば、アルカリ剤の使用後に還元剤を使用することから、上記還元剤によるダメージ抑制効果を確保しながら、縮毛矯正効果を期待できる。
【要約】
【課題】
本発明の目的は、毛髪のダメージを抑制しながら、毛髪形状の保持効果が高い、特に縮毛矯正処理において、縮毛矯正効果の高い方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、毛髪のパーマネント施術処理方法であって、アルカリ剤を含有し、かつ、還元剤を実質的に含有しない第1剤により、毛髪をアルカリ処理に供する工程と、還元剤を含有し、かつ、アルカリ剤を実質的に含有しない第2剤により、前記アルカリ処理後の毛髪を還元処理に供する工程と、酸化剤を含有する第3剤により、前記還元処理後の毛髪を酸化処理に供する工程とを含む、前記方法により解決される。
【選択図】
図1