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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】積層体およびそれを用いた封止部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230508BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230508BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230508BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230508BHJP
   B65D 65/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B32B15/08 Q
B32B9/00 A
B32B27/00 101
B32B27/30 102
B65D65/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018180200
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020049736
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147137(WO,A1)
【文献】特開2001-113646(JP,A)
【文献】特開2008-105727(JP,A)
【文献】特開2000-063751(JP,A)
【文献】特開2017-202602(JP,A)
【文献】特開平07-164591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0195259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C23C 14/00 - 14/58
C23C 16/00 - 16/56
C08J 7/04 - 7/06
B65D 65/00 - 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層及び保護層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、
前記無機層は単一層(無機層内に組成による界面が存在しない層)であり、
前記無機層は、少なくとも前記基材フィルムと接する表面に金属を含み、少なくとも前記保護層と接する表面に金属酸化物を含み、
かつ前記保護層は、ビニル系樹脂及び直鎖構造が5量体以上の直鎖状ポリシロキサンを含み、
前記金属がアルミニウム、前記金属酸化物が酸化アルミニウム、前記ビニル系樹脂がビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)であり、
前記無機層中の金属元素の元素濃度をM、酸素元素の元素濃度をO、それらの比をM/Oとすると、前記M/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さが10nm以上となる領域を有し、
前記保護層の平均厚みは10nm以上1000nm以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記M/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さが5nm以上となる領域を有することを特徴とする、請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記ビニル系樹脂は、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ビニル系樹脂は、ラクトン構造を有するビニル系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記保護層中の全てのビニル系樹脂の合計の含有率が、20~80wt%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の積層体を含むことを特徴とする、真空断熱用封止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた酸素及び水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有する積層体およびそれを用いた封止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物、医薬品、日用品など様々なものを包装するために、各種包装材料が用いられてきたが、これらの包装材料には、内容物の劣化を防止するために酸素バリア性、水蒸気バリア性が必要とされる。優れたガスバリア性を有するアルミニウム箔は、レトルト食品用包装材料や、冷蔵庫用の断熱材、住宅用の断熱パネル等の真空断熱材用外層包装材料として用いられている。しかし、アルミニウム箔を用いた包装材料は、ピンホールが発生しやすいことからアルミニウム箔の取り扱いが難しく、用途が限定される。
【0003】
これらの問題を解決するため、ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムに真空蒸着法等の物理気相成長法を用いてアルミニウムや酸化アルミニウムを蒸着したフィルムが使用されている。しかし、アルミニウム蒸着フィルムは、ボイル・レトルト食品用途にはガスバリア性能が不十分であり、さらにボイル・レトルト殺菌時に蒸着アルミニウム層が消失し、ガスバリア性能が大幅に悪化することから使用できるものではなかった。
【0004】
ボイル・レトルト食品用途のためのガスバリア性フィルムとして、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したガスバリア性フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、アルミニウム蒸着フィルムの耐アルカリボイル性、耐酢酸レトルト性を向上させ、アルミニウム蒸着層の外観変化を抑えるため、基材(a)、金属蒸着層(b)および保護層(c)がこの順序で積層されてなる積層体であり、保護層(c)が特定のダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するものが開示されているが、ガスバリア性能が十分なものではなかった(特許文献2)。
【0006】
一方で、アルミニウムの熱伝導率は約200W/m・Kであり、代表的な包装材料の素材であるポリエチレンテレフタレートの熱伝導率の約0.14W/m・Kや空気の熱伝導率約0.02W/m・Kに比べ大きいことから、アルミニウム箔を積層した断熱材は、熱がアルミニウム箔部分を伝って移動するヒートブリッジが発生し、真空断熱材の断熱性能が大幅に低下するという問題があった。また、真空断熱材用フィルムは、外部からのガス(空気)の侵入を防ぎ、長期間の真空状態を保持するために優れたガスバリア性能が求められる。さらに、近年、真空断熱材の周囲のヒレ部(溶着シールした部分)は、芯材が入っている部分に比べて断熱性能が低く、全体の断熱性能を保つために、ヒレ部は折り曲げられ、また、真空断熱材自体も、複雑な形状(例えば、円弧形状や直角形状)の箇所に用いられる場合、収納スペースの形状に従って変形されるようになっている。以上のことより、真空断熱材用フィルムには、折り曲げや変形に際してガスバリア性能が低下しないことも求められている。またレトルトパウチなどのレトルト食品用包装材料でも同様に、包装体の成型加工時の折り曲げや変形時のガスバリア性能維持が求められている。
【0007】
この問題を解消するため、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したガスバリア性フィルムが開示されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-131756号公報
【文献】特開2012-210744号公報
【文献】特開2005-132004号公報
【文献】特開2013-202822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
いずれの特許文献も、金属や金属化合物層で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したものである。例えば特許文献4では、基材上に第1層としてガスバリア層を設け、さらに第2層として水溶性高分子とケイ素化合物とを含むガスバリア性被膜層を設けてガスバリア性積層フィルムとしている。しかしながら、いずれの特許文献も、バリア性を発現する金属や金属化合物層の表層の状態とその表層に接する樹脂層の結合状態を考慮していないため樹脂層との密着性が不足する場合があり、また樹脂層に直鎖状構造のポリシロキサンを含まないため、樹脂層が剥離したり耐屈曲性や耐引張性が不十分となる課題があった。
【0010】
本発明では、この課題を鑑み、積層体の好ましい状態を明らかにすることで、優れた酸素及び水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性に優れた積層体を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層及び保護層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記無機層は単一層(無機層内に組成による界面が存在しない層)であり、前記無機層は、少なくとも前記基材フィルムと接する表面に金属を含み、少なくとも前記保護層と接する表面に金属酸化物を含み、かつ前記保護層は、ビニル系樹脂及び直鎖構造が5量体以上の直鎖状ポリシロキサンを含むことを特徴とする積層体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた酸素及び水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の積層体について、さらに詳しく説明する。
【0014】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層及び保護層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記無機層は単一層(無機層内に組成による界面が存在しない層)であり、前記無機層は、少なくとも前記基材フィルムと接する表面に金属を含み、少なくとも前記保護層と接する表面に金属酸化物を含み、かつ前記保護層は、ビニル系樹脂及び直鎖構造が5量体以上の直鎖状ポリシロキサンを含むことを特徴とする積層体である。
【0015】
本発明の積層体は、無機層と接する保護層がビニル系樹脂とともに特定のケイ素化合物として直鎖構造が5量体以上の直鎖状ポリシロキサンを含むことで緻密で強靭な構造の保護層となり、さらに無機層が、少なくとも基材フィルムと接する表面に金属を含み、かつ少なくとも保護層と接する表面に金属酸化物を含むことで、前記緻密で強靭な構造の保護層との高い密着性が得られることで、結果、高い耐屈曲性と耐引張性を発現することができると推定している。
【0016】
[基材フィルム]
本発明にかかる基材フィルムを構成する樹脂は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、無機化合物層との密着力やハンドリングの観点からポリエステルフィルムが好ましい。基材フィルムは、未延伸であっても、延伸(一軸又は二軸)されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0017】
基材フィルムの厚みは、特に制限はないが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がさらに好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましい。
【0018】
基材フィルムの表面には、無機化合物層との密着性を向上させるため、必要に応じて、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理等を施してもよい。
【0019】
[無機層]
本発明にかかる無機層は単一層であり、また少なくとも基材フィルムと接する表面に金属を含み、さらには少なくとも保護層と接する表面に金属酸化物を含む。なお、このことはつまり、無機層は基材フィルム及び保護層と接することも意味する。無機層が基材フィルムと接する表面に金属を含むことで、高いガスバリア性と耐屈曲性や耐引張性を両立することができ、また無機層が保護層と接する表面に金属酸化物を含むことで、保護層との密着性を発現することができる。
【0020】
なお、無機層が単一層であるとは、無機層内に組成による界面が存在しない層のことである。すなわち無機層内の保護層と接する表面側に存在する金属酸化物と、無機層内の基材フィルムと接する表面側に存在する金属とが、無機層の厚み方向において界面が存在することなく1つの層中存在していることを意味する。例えば、無機層の断面を観察した際に、組成の異なる複数の層を積層した場合では層内の断面に界面が観察されるが、このような多層積層の無機層では、界面での密着性が不十分で剥離による耐屈曲性・耐引張性が不足したり、ガスバリア性不足が生じる課題がある。それに対し、本発明のように同一層内に組成の異なる部分を有すると、高い密着性を有し、高い耐屈曲性・耐引張性・ガスがリア性の積層体となる。なお、基材フィルムと接する表面に金属を含み、保護層と接する表面に金属酸化物を含むような単一層の無機層は、後述するように、真空槽内などである金属からなる金属層からその金属の酸化物層に連続的に組成変化する蒸着層を、1工程で形成するような方法によって得ることができる。
【0021】
無機層中の金属としては、特に限定されないが、アルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素、亜鉛を挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。さらに無機層中の金属酸化物としては、金属酸化物でありさえすれば特に限定されないが、例えばアルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素、亜鉛の酸化物等が挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。さらに無機層は、別の化合物を含んでもよく、例えばアルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素、亜鉛の窒化物などの別の金属化合物を含んでもよい。加工コストやガスバリア性能および前述した真空断熱材に使用した際の熱伝導率の観点から、無機層中の金属としてはアルミニウムが好ましい。無機層中の金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素が、金属窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機酸化物を含む無機化合物は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。これらの中でも加工コストやガスバリア性能および前述した真空断熱材に使用した際の熱伝導率の観点から、無機層中の金属酸化物としては、酸化アルミニウムが好ましい。
【0022】
無機層の形成方法に特に制限はなく、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等、公知の方法で形成できるが、生産性の観点から真空蒸着法が好ましい。
【0023】
無機層の総厚みは、5nm以上150nm以下が好ましい。5nm以下ではバリア性が不十分となる場合がある一方、150nm以上では凝集力が低下し、金属層内での凝集破壊し無機層が割れたり剥離したりする場合がある。
【0024】
本発明の無機層は、無機層中の金属元素の元素濃度をM、酸素元素の元素濃度をO、それらの比をM/Oとした時に、無機層の厚み方向の少なくとも一部の領域において、M/Oの値に連続的な増加又は減少があることが好ましい。連続的に組成変化する無機層に保護層を設けることで、金属層の不完全なガスバリア性能を補うだけではなく、金属層とガスバリア樹脂層との密着強化の効果を発揮し、高いガスバリア性と耐屈曲性や耐引張性を両立することができる。
【0025】
また本発明の無機層においては、高いガスバリア性を発現するために前記M/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さが10nm以上となる領域を有することが好ましく、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは40nm以上である。なお、M/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さは、無機層の総厚みに近づくほど高いガスバリア性を発現するため好ましいが、M/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さが150nmを超えると、前述の通り凝集力が低下し金属層内での凝集破壊し無機層が割れたり剥離したりする場合があるため、150nm以下が好ましい。
【0026】
さらに本発明の無機層においては、高い密着性を発現するために前記M/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さが5nm以上となる領域を有することが好ましく、より好ましくはM/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さは10nm以上である。なお、M/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さが30nmを超えると密着性は発現しやすいが、硬い層になりやすく逆に耐屈曲性や耐引張性を損ねる場合があるため、30nm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明における無機層の厚み方向の少なくとも一部の領域において、前記M/Oの値に連続的な増加又は減少があるように無機層を形成する方法の一例として、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層の形成方法を説明する。この場合、真空槽内でアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層が形成される方法が好ましい。蒸着のための方式は蒸着やスパッタリング等の公知の方法により行えばよいが、蒸着による方式が生産性の点から好ましく、そのためのアルミニウムの加熱蒸発も抵抗加熱、高周波加熱、電子ビーム加熱などの方法が適用できる。これら蒸着による方法において、反応性蒸着によりアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する無機層を形成することが好ましい。すなわち、基材フィルムは一般に長尺であって、ロール状で供給され、真空槽中でロールから巻き出され蒸着が行われて再びロール状に巻き取られるが、蒸着の初期の段階で通常のアルミニウム金属層が形成され、蒸着の後半部分に酸素が導入され、金属アルミニウムと酸素の反応により酸化アルミニウムが形成されるというものである。蒸着の後半部分に導入した酸素は、基材フィルムの巻取り側から巻出し側に向って拡散するため、金属アルミニウム層と酸化アルミニウム層が厳密に分離して形成されるのではなく、基材フィルムが通過する蒸着ゾーンの位置に従ってアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に酸素の反応が連続的に進み、組成が膜厚方向に連続的に変化する傾斜構造を形成することができ、無機層の厚み方向の少なくとも一部の領域において、M/Oの値に連続的な増加又は減少を設けることができる。
【0028】
また、M/Oの値を適宜調整して、M/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さが10nm以上となる領域を有するような態様としたり、M/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さが5nm以上となる領域を有するような態様とする方法としては、前述した蒸着の後半部分に酸素を導入する際の酸素量や導入速度、酸素ノズルなどの導入口の位置・形状・導入口数、基材フィルムの搬送速度、等を調整・変更することで、制御することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
[保護層]
保護層は、ビニル系樹脂及び直鎖状ポリシロキサンを含む。ビニル系樹脂と直鎖状ポリシロキサンを含み、保護層中でネットワークを形成し固定することで、保護層を構成する成分の分子鎖の動きを抑制し、温度等の環境変化による酸素や水蒸気の透過経路の拡大を抑えることができるため、緻密で強靭な構造の保護層になると考えられる。
【0030】
ビニル系樹脂としては例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよいが、好ましくはビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)である。ビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。けん化度が低く、立体障害の大きい酢酸基を多く含むと、層の自由体積が大きくなる場合がある。ビニルアルコール系樹脂の重合度は、1,000以上3,000以下が好ましく、1,000以上2,000以下がより好ましい。重合度が低い場合、ポリマーが固定されにくく、耐屈曲性や耐引張性が低下する場合がある。
【0031】
さらに、特に好ましいビニル系樹脂としては、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である。保護層中のビニル形樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂を含むことで、環状構造による疎水化と、カルボニル基による樹脂周囲の相互作用にて緻密な構造の膜となり、耐水性が向上し、親水性の低い緻密な構造の保護層となり、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくし、ガス分子の透過経路を遮断することで、優れたガスバリア性を発現すると考えられる。尚、本発明の環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂は、保護層中の全ビニル系樹脂100wt%に対し20~100wt%であることが好ましい。20wt%未満であると、ガスバリア性の向上効果が乏しい場合があり、全てのビニル系樹脂が環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である100wt%が最も好ましい。
【0032】
環状構造としては、三員環以上(例えば、三~六員環)であれば特に限定されるわけではなく、また環状構造内に例えば炭素以外の窒素、酸素、硫黄、リンなどのヘテロ元素等を有する複素環のような環状構造であってもよい。また、この環状構造中におけるカルボニル基を有する部位は、ビニル系樹脂における主鎖や側鎖、または架橋鎖のうちどちらに存在していてもよい。これら環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂として、具体的には例えば環状エステルであるラクトン構造や環状アミドであるラクタム構造が挙げられ、これらは単独であっても、2種以上を含んであってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくはラクトン構造である。ビニル系樹脂としてラクトン構造を有するビニル系樹脂を用いると、後述する金属アルコキシドの加水分解に使用する酸触媒に対し安定でありガスバリア性が維持しやすい。ラクトン構造を有するビニル系樹脂をとしては例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0033】
直鎖状ポリシロキサンとは、下記化学式(1)で示されるものであり、ここで化学式(1)中のnは2以上の整数である。化学式(1)中のRは低級アルキル基として例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基や、分岐アルキル基としてiso-プロピル基、t-ブチル基などが挙げられる。直鎖状ポリシロキサンは、分子鎖に細孔が少なく、分子鎖同士は高い密度で存在できるため酸素や水蒸気が通過できる経路を遮断でき、バリア性が高くなると考えられる。本発明において、直鎖状ポリシロキサンの直鎖構造が長いと保護層中でネットワークを形成し固定しやすくなるため、nは好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
【0034】
【化1】
【0035】
直鎖状ポリシロキサンは、Si(OR)で表される金属アルコキシドから得ることができる。金属アルコキシド中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。金属アルコキシドとしては具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。金属アルコキシドは、例えば直鎖状ポリシロキサンを得るために加水分解することができる。金属アルコキシドは、Si(OR)、水、触媒、有機溶媒の存在下で加水分解される。加水分解に使用される水は、Si(OR)のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量が0.8当量より少ないと、十分に加水分解が進行せず、直鎖状ポリシロキサンを得ることができなかったりする場合がある。水の量が5当量より多いと、後述する金属アルコキシドの反応がランダムに進行して、直鎖状でないポリシロキサンを多量に形成し直鎖状ポリシロキサンを得ることができない場合がある。
【0036】
加水分解に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されるものではない。通常、金属アルコキシドの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができるが、酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状になりやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構であるため、反応がランダムに進行し反応生成物は空隙の多い状態になりやすい。触媒の使用量は、金属アルコキシド総モル量に対して、0.1モル%以上0.05モル%以下であることが好ましい。
【0037】
加水分解に使用する有機溶媒は、水および金属アルコキシドと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0038】
加水分解温度は20℃以上45℃以下であることが好ましい。20℃未満で反応させた場合は、反応性が低く、Si(OR)の加水分解が進みづらい場合がある。一方、45℃を超える温度で反応させた場合は、急激に加水分解、重縮合反応が進行し、ゲル化したり、直鎖状ではないランダムで疎なポリシロキサンになったりする場合がある。
【0039】
尚、本発明の保護層には、ビニル系樹脂と直鎖状ポリシロキサンの他に、金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)を別途含んでいてもよい。
【0040】
本発明において、保護層中の全てのビニル系樹脂の合計の含有率が、保護層100wt%中に20~80wt%であることが好ましい。ビニル系樹脂の含有率が20~80wt%であると、緻密で強靭な構造の保護層となりやすく高い耐屈曲性と耐引張性を発現しやすい。ビニル系樹脂の含有率が20wt%未満であると保護層が硬くなりやすく、クラックが生じてガスバリア性が低下する場合がある。ビニル系樹脂の含有率が80wt%より多いとビニル系樹脂を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。ビニル系樹脂の含有率はより好ましくは30~60wt%、さらに好ましくは35~50wt%である。なお、保護層中の全ての直鎖状ポリシロキサンの合計の含有率も、保護層100wt%中に20~80wt%であることも可能であるが、前述の通り金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)を別途含んでいてもよいため、含有比率は、直鎖状ポリシロキサンおよび金属アルコキシドをSiO換算し、保護層中の無機成分(以後、保護層中の無機成分を、保護層無機成分、と記す。)の合計含有率が、保護層100wt%中に20~80wt%であることが好ましい。尚、保護層中のビニル系樹脂と保護層無機成分の含有率は後述する方法で測定することができる。
【0041】
さらに、保護層無機成分中における直鎖状ポリシロキサンと金属アルコキシドの混合比率を調整することも可能であり、直鎖状ポリシロキサンおよび金属アルコキシドの、それぞれのSiO2換算した質量比率で、直鎖状ポリシロキサン/金属アルコキシド=15/85~90/10の範囲が好ましく、50/50~85/15の範囲がより好ましく、60/40~85/15の範囲がさらに好ましい。この値が90/10を超える場合は、直鎖ポリシロキサン同士の相互作用が強くなり有機成分を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、金属アルコキシド由来のSi-OH結合が多くなることで親水性が高くなりバリア性が低下する場合がある。無機成分中における直鎖状ポリシロキサンと金属アルコキシドの混合比率は後述する方法で測定することができる。
【0042】
尚、直鎖状ポリシロキサンとして、あらかじめSi(OR)が複数結合したオリゴマー原料を使用することで、前記有機成分と無機成分の含有比率および直鎖状ポリシロキサンおよび金属アルコキシドの混合比率を容易に調整することができる。あらかじめSi(OR)が複数結合したオリゴマー原料としては、例えば化学式(1)中のRがメチル基であるメチルシリケートや、Rがエチル基であるエチルシリケートなどのアルキルシリケートが数量体となった直鎖状オリゴマーが挙げられる。
【0043】
本発明において、保護層に含まれる直鎖状ポリシロキサンおよび金属アルコキシドを熱によって重縮合反応を進行させて保護層を形成することができる。重縮合反応が進行した場合、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシドに含まれるアルコキシ基および/またはヒドロキシル基が減少し、緻密で強靭な構造の保護層となる。また、重縮合反応によって、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシドの分子量が大きくなるため、ビニル系樹脂を固定する能力が高くなる。したがって、保護層は熱によって反応を進行させることでガスバリア性、耐屈曲性、耐引張性を向上できるため、温度は高い方が好ましい。しかしながら、温度が200℃を超える場合は、基材フィルムが熱によって収縮したり、無機層のひずみやクラックが発生したりしてバリア性が低下する場合がある。
【0044】
保護層は、ビニル系樹脂と無機成分である直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)を含む塗液(以下、保護層塗液と略す。)を、無機層上に塗工、乾燥して得ることができる。したがって、前記重縮合反応を進行させるための温度である塗膜の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましく、150℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。100℃未満の場合は、後述の溶媒として含まれる水が十分に蒸発せず、層を硬化できない場合がある。
【0045】
保護層塗液は、ビニル系樹脂を水または水/アルコール混合溶媒に溶解したものと、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシドを含む溶液とを混合して得ることができる。溶媒で使用されるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0046】
保護層塗液を、無機層上に塗工する方法としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。
【0047】
本発明にかかる保護層には、バリア性を損なわない限りにおいて、レベリング剤、架橋剤、硬化剤、密着剤、安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含んでもよい。架橋剤の一例としては例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属アルコキシドおよびその錯体等が挙げられる。
【0048】
保護層の平均厚みは10nm以上1,000nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上600nm以下、さらに好ましくは350nm以上500nm以下である。平均厚みが10nm未満の場合、無機層のピンホールやクラックを十分に埋めることができず、十分なガスバリア機能を発現できない場合がある。一方、厚みが1,000nmを超えると、厚みによるクラックが生じたりする場合がある。
【0049】
保護層は、前述の通り熱によって縮合反応が進行し、バリア性が高くなる。したがって、バリア性を向上させるために保護層を形成した後、積層体をさらに熱処理することも好ましい。熱処理温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度が30℃未満の場合は、反応促進に必要な熱エネルギーが不十分で効果が小さい場合があり、100℃を超える場合は、基材のカールやオリゴマーが発生したり、設備や製造のためのコストが高くなったりする場合がある。
【0050】
[積層体の分析]
本発明にかかる保護層中における直鎖状ポリシロキサンは、レーザーラマン分光法にて存在を確認することができる。レーザーラマン分光法では、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)の結合状態として直鎖状ポリシロキサンと、5員環以上の環構造を含み分岐も存在する構造であるランダムネットワーク構造と、4員環構造のラマンバンドは400~500cm-1に観測される。これらのラマンバンドは重畳するため、4員環構造は495cm-1、直鎖状ポリシロキサンは488cm-1、ランダムネットワーク構造は単一の規則構造ではないため450cm-1以下に広がりをもつバンドとして観測され、これらをガウス関数近似でフィッティングしてピーク分離することができる。
【0051】
保護層中のビニル系樹脂と保護層無機成分の含有率を求める方法を記載する。無機成分である直鎖ポリシロキサンや金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)の量は、前述の通りケイ素量に置き換えることが可能であり、ケイ素量は、蛍光X線分析によって得ることができる。まず、ケイ素量が既知でケイ素量の異なる5種類の標準サンプルを用意し、各サンプルの蛍光X線分析を実施する。蛍光X線分析は、X線照射によって元素に固有の蛍光X線を発生させ、それを検出する。発生するX線量は、測定対象に含まれる元素の量に比例するため、測定によって得られるケイ素のX線強度S(単位:cps/μA)とケイ素量は比例関係にある。ここで、標準サンプルの厚みを後述の平均厚みTと同様の方法で算出し、蛍光X線分析で求めたX線強度Sを標準サンプルの厚みで除して単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、既知のケイ素量と単位厚み当たりのX線強度Sをプロットし検量線を作成する。その後、本発明の積層体において、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求めて、検量線とその値からケイ素量を算出する。このケイ素量から、直鎖状ポリシロキサンおよび金属アルコキシドに含まれるケイ素原子の合計モル数を求めSiO質量に換算することで、保護層無機成分の合計質量比率Sを求め、ビニル系樹脂と保護層無機成分の含有率を求めることができる。
【0052】
保護層における保護層無機成分中における直鎖状ポリシロキサンと金属アルコキシドの混合比率は、前記レーザーラマン分光法で測定して得られる、ランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と、直鎖状ポリシロキサンを示すラマンバンドの面積A2の比であるA2/A1が直鎖状ポリシロキサン/金属アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比)となる。
【0053】
[用途]
本発明の積層体は、優れた酸素及び水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有する積層体、さらにはそれを含む真空断熱用の封止部材として好適に用いることができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0055】
(1)無機層の分析、M/O値(金属元素濃度Mと酸素濃度Oの比)
X線光電子分光法(XPS)を用いて、深さ方向に組成分析評価を行い、デプスプロファイルにより無機の膜構成を確認した。尚、金属元素については、酸化物成分と金属成分の成分を分離してプロファイル化した。保護層側の表層からイオンエッチングを行いながら基材フィルムに到達するまでデータを収集し、得られた各元素のデプスプロファイルからM/O値の連続的な増加又は減少の有無を確認した。尚、連続的な増加又は減少の有無については、前記増加又は減少の長さが2nm以上存在する場合に、続的な増加又は減少が有ると判断した。
測定条件は下記の通りとした。
・装置:X線光電子分光装置(PHI社製Quantera SXM)
・励起X線:monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
・X線径:100μm
・光電子脱出角度:45°(試料表面に対する検出器の傾き)
・イオンエッチング条件:Arイオン3kV
ラスターサイズ 2×2mm(エッチング領域)
エッチングレート 12.0nm/分
次いで、後述する方法にて無機層の総厚みを求めた。無機層の総厚みとデプスプロファイルの無機層に該当する領域から、M/O値が20以上となる部分の厚み方向の長さ、および1以下となる部分の厚み方向の長さを算出した。
【0056】
(2)保護層の成分分析・構造同定
サンプルから保護層を剥離し、溶解可能な溶剤に溶解した。必要に応じ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、液体高速クロマトグラフィー等に代表される一般的なクロマトグラフィー等を適用し、保護層に含まれる成分を、それぞれ単一物質に分離精製した。その後、各単一物質にDMSO-dを加え、60℃に加温して溶解させ、この溶液を核磁気共鳴分光法として、H-NMR、13C-NMR測定を行った。次いで各単一物質について、IR法(赤外分光法)、各種質量分析法(ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、熱分解ガスクロマトグラフィー-質量分析法(熱分解GC-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、飛行時間型質量分析法(TOF-MS)、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF-MS)、ダイナミック二次イオン質量分析法(Dynamic-SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を適宜組み合わせて定性分析用を行い、サンプル中に含まれる成分の特定と構造同定を行った。尚、これらの定性分析を組み合わせる場合には、より少ない組み合わせで測定できるものを優先して適用した。
【0057】
(3)保護層の平均厚み、無機層の総厚み
保護層の平均厚みおよび無機層の総厚みは、その断面をTEMにより観察した。まず、断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。次いで、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H-9000UHRII)を用いて、加速電圧300kVで観察を行い、得られた断面を観察画像における層の厚みが占める割合が30~70%となるように観察倍率を調整し観察した。同様に計5サンプルを測定し計5点の平均値を算出し、nmに単位換算した値を平均厚みおよび無機層の総厚みとした。
【0058】
(4)保護層中のビニル系樹脂、保護層無機成分(直鎖状ポリシロキサン、金属アルコキシド)の含有比率の測定
ビニル系樹脂としてポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)および無機成分としてテトラアルコキシシラン(以下、TEOSと略することもある)の加水分解物からなり、ビニル系樹脂/無機成分の含有比率(無機成分はSiO質量換算)が80/20、65/35、50/50、35/65、20/80となるように混合して得た膜を、含有率が異なる標準サンプルとして用意した。
【0059】
次いで、各標準サンプルを、株式会社島津製作所製蛍光X線分析装置EDX-700を用いて、ケイ素の特定X線Kαの強度を測定、得られたX線強度S(単位:cps/μA)を求めた。前記(3)に記載の方法で、各標準サンプルの厚みを測定し、単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、ビニル系樹脂と保護層無機成分の含有率(無機成分はSiO質量換算)との検量線を作成した。
【0060】
次いで、本発明の積層体について、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求め、検量線からビニル系樹脂と保護層無機成分の含有率を求めた。
【0061】
(5)ケイ素の結合状態の分析(直鎖状ポリシロキサン有無)、(直鎖状ポリシロキサン/金属アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比))
積層体の保護層を切削により分離し、以下の条件を用いてラマン分光法で分析した。
測定装置:Jobin Yvon/愛宕物産製 T-6400
測定モード:顕微ラマン
対物レンズ:100倍
ビーム径:1μm
光源:Arレーザー/514.5nm
レーザーパワー:200mW
回折格子:Single 600gr/mm
スリット:100μm
検出器:CCD/Jobin Yvon製 1,024×256
金属アルコキシドからなるランダムネットワーク構造を表す面積A1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積A2を算出するための、ラマンスペクトルの解析条件は次の通りである。得られたラマンスペクトルを、スペクトル解析ソフトGRAMS/Thermo Scientificを使用して解析した。ラマンスペクトルを直線近似でベースライン補正した後、600~250cm-1の範囲でフィッティングした。フィッティングは、4員環構造(ピーク波数495cm-1、半値幅35cm-1)、直鎖状ポリシロキサン(ピーク波数488cm-1、半値幅35cm-1)、金属アルコキシドからなるランダムネットワーク構造の3成分に分離した。金属アルコキシドからなるランダムネットワーク構造は連続構造を反映したブロードなピークになるため、4員環構造、直鎖状ポリシロキサンと合わせた3成分にガウス関数近似で分離するとして自動フィッティングした。
【0062】
得られたバンドと、ベースラインで囲まれた領域の面積を算出することで、直鎖状ポリシロキサンの有無を判断するとともに、金属アルコキシドをからなるランダムネットワーク構造を表す面積をA1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積をA2とし、A2/A1(直鎖状ポリシロキサン/金属アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比))を算出した。
【0063】
(6)酸素透過率
酸素透過率(以下、OTRと略すこともある)は、温度23℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(OX-TRAN(登録商標) 2/21)を使用してJIS K7126(2006年)に記載のB法に基づいて測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を酸素透過率の値とした。
【0064】
(7)水蒸気透過率
水蒸気透過率(以下、WVTRと略すこともある)は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(PERMATRAN(登録商標)-W 3/31)を使用してJIS K7126(2006年)に記載のB法に基づいて測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を水蒸気透過率の値とした。
【0065】
(8)ラミネート強度(密着性)
積層体に、ポリエステルウレタン系主剤(DIC(株)製、LX500)と芳香族イソシアネート硬化剤(DIC(株)製、KW75)からなる接着剤を介して、シーラントフィルムとして40μm膜厚の直鎖状低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネート法により積層し、積層フィルムを作製した。次に積層フィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、引っ張り試験機(テンシロン)を使用して積層体と直鎖状低密度ポリエチレンフィルム間を界面として、Tピール法により引っ張り速度50mm/minで剥離強度(ラミネート強度)を測定した。密着性の判断は剥離強度の値が3.0N/15mm以上で密着性ありとした。
【0066】
同様の測定を計5サンプルについて実施し、5サンプル全てで密着性ありの場合を合格1、3サンプル以上4サンプル以下で密着がある場合を合格2とし、合格1が最も良好な密着性を有していることを示す。尚、いずれも剥離強度の値が3.0N/15mmよりも大きい場合は不合格として、合格1、合格2、不合格のいずれにも該当しない場合を、合格3とした。
【0067】
(9)引張伸度試験後の酸素透過率、水蒸気透過率
積層体を140mm×90mmの試験片にサンプルカットし、試験片の90mm辺の両端から、速度5mm/minで5%(7mm)引っ張った試験片を用いて、酸素透過率と水蒸気透過率を測定した。
【0068】
耐引張性の合否判断は、引張伸度試験前後における酸素透過率値および水蒸気透過率値の変化量について下記基準で判断し、合格1が最も高い耐引張性を有し、次いで合格2、合格3の順に耐引張性を有していることを示す。
(合格1)
・酸素透過率値の変化量が0.1cc/m・24hr・atm以下、かつ水蒸気透過率値の変化量が0.1g/m・24hr・atm以下を満たす。
(合格2)
・酸素透過率値の変化量が0.1cc/m・24hr・atmより大きく0.3cc/m・24hr・atm以下、及び水蒸気透過率値の変化量が0.1g/m・24hr・atmより大きく0.3g/m・24hr・atm以下のいずれかを満たす。
(合格3)
・酸素透過率値の変化量が0.3cc/m・24hr・atmより大きく0.5cc/m・24hr・atm以下、及び水蒸気透過率値の変化量が0.3g/m・24hr・atmより大きく0.5g/m・24hr・atm以下のいずれかを満たす。
(不合格)
・合格1~3のいずれの条件も満たさない場合。
【0069】
(10)屈曲疲労試験後の酸素透過率、水蒸気透過率
積層体を200mm×300mmの試験片にサンプルカットし、試験片の300mm辺の両端を貼り合せて円筒状に丸め、筒状にした試験片の両端を固定ヘッドと駆動ヘッドで保持し、440度のひねりを加えながら固定ヘッドと駆動ヘッドの間隔を7インチから3.5インチに狭めて、さらにひねりを加えたままヘッドの間隔を1インチまで狭め、その後ヘッドの間隔を3.5インチまで広げて、さらにひねりを戻しながらヘッドの間隔を7インチまで広げるという往復運動を40回/minの速さで、3回行なう屈曲疲労試験の前後の試験片を用いて、酸素透過率と水蒸気透過率を測定した。
【0070】
耐屈曲性の合否判断は、屈曲疲労試験前後における酸素透過率値および水蒸気透過率値の変化量について、前記「(9)引張伸度試験後の酸素透過率、水蒸気透過率」に記載と同様の基準で判断し、合格1が最も高い耐屈曲性を有し、次いで合格2、合格3の順に耐引張性を有していることを示す。尚、本評価においての不合格は、合格1~3のいずれの条件も満たさない場合とした。
【0071】
[実施例1]
<無機層>
基材フィルムとして、厚み12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 “ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、ロール・ツー・ロール真空蒸着機により高周波誘導加熱のるつぼ方式のアルミニウム蒸発源を用い、アルミニウム金属層膜厚が40nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が4nmになるように連続的に無機層を形成した。基材フィルムには、冷却された回転ドラム上で基材フィルム進行方向の一定幅のゾーン内でその位置に応じた組成の膜が厚さ方向に順次形成される。蒸着を最後に受ける位置から酸素を供給することで、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に変化する蒸着層(無機層)を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%のPVA溶液を得た。
【0072】
次いで、直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート40(平均5量体の直鎖状オリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体シリケート加水分解液を得た。
【0073】
次いで、PVAの固形分として含有率が19wt%になるように、PVA溶液と5量体シリケート加水分解液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分12質量%の保護層塗液を得た。この塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後180℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み550nmの保護層を形成し、積層体とした。
【0074】
[実施例2]
<無機層>
アルミニウム金属層膜厚が9nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が7nmになるように無機層を形成したこと以外は実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
PVAの固形分として含有率が22wt%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層塗液を得た。この塗液を乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成したこと以外は実施例1と同様に積層体を得た。
【0075】
[実施例3]
<無機層>
アルミニウム金属層膜厚が15nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が7nmになるように無機層を形成したこと以外は実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
PVAの固形分として含有率が83wt%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層塗液を得た。この塗液を乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成したこと以外は実施例1と同様に積層体を得た。
【0076】
[実施例4]
<無機層>
アルミニウム金属層膜厚が25nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が7nmになるように無機層を形成したこと以外は実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
PVAの固形分として含有率が77wt%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層塗液を得た。この塗液を乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成したこと以外は実施例1と同様に積層体を得た。
【0077】
[実施例5]
<無機層>
アルミニウム金属層膜厚が40nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が13nmになるように無機層を形成したこと以外は実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
PVAの固形分として含有率が35wt%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層塗液を得た。この塗液を乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成したこと以外は実施例1と同様に積層体を得た。
【0078】
[実施例6]
<無機層>
アルミニウム金属層膜厚が80nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が13nmになるように無機層を形成したこと以外は実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
PVAの固形分として含有率が61wt%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層塗液を得た。この塗液を乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成したこと以外は実施例1と同様に積層体を得た。
【0079】
[実施例7]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート48(平均10量体の直鎖状オリゴマー)としたこと以外は、実施例5と同様に乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0080】
[実施例8(参考例)
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
実施例1と同様に固形分10質量%のPVA溶液を得た。
【0081】
次いで、TEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。一方で、直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製メチルシリケート51(平均4量体の直鎖状オリゴマー)としたこと以外は、実施例1と同様に4量体シリケート加水分解液を得た。4量体シリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO換算固形分の質量比が60/40になるように混合し、4量体シリケート・TEOS加水分解混合液を得た。
【0082】
次いで、PVAの固形分として含有率が58wt%になるように、PVA溶液と4量体シリケート・TEOS加水分解混合液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分12質量%の保護層塗液を得た。この塗液を実施例5と同様に、グラビアコート法により無機層上に塗工後180℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み350nmの保護層を形成し、積層体とした。
【0083】
[実施例9]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製メチルシリケート53A(平均7量体の直鎖状オリゴマー)を使用し、またPVAの固形分として含有率が46wt%になるようにしたこと以外は、実施例8と同様に保護層塗液を得た。この塗液を実施例5と同様に、グラビアコート法により無機層上に塗工後180℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み350nmの保護層を形成し、積層体とした。
【0084】
[実施例10]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート48(平均10量体の直鎖状オリゴマー)を使用し、またPVAの固形分として含有率が35wt%になるようにしたこと以外は、実施例8と同様に保護層塗液を得た。この塗液を実施例5と同様に、グラビアコート法により無機層上に塗工後180℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み350nmの保護層を形成し、積層体とした。
【0085】
[実施例11]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するイソシアヌル酸構造である1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン、を有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0086】
[実施例12]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するラクタム構造であるγ-ラクタム、を有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0087】
[実施例13]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するラクトン構造であるγ-ブチロラクトン、を有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0088】
[実施例14]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、カルボニル基を有するが環状構造ではない酢酸基を有するけん化度の低いPVA(以下、低けん化PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度88%)としたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0089】
[実施例15]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、環状構造であるがカルボニル基のないテトラヒドロフルフリルを有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0090】
[実施例16]
<無機層>
実施例5と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するラクトン構造であるγ-ブチロラクトン、を有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)としたこと以外は、実施例10と同様にして乾燥後の平均厚み350nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0091】
[比較例1]
保護層を設けずに、実施例1と同様の無機層を設けた基材フィルムのみで評価を行ったところ、積層体のガスバリア性が劣るものとなった。また耐引張性及び耐屈曲性については、クラックが発生したり折れや剥離が発生してしまい、いずれも不合格となった。
【0092】
[比較例2]
蒸着層へ酸素を供給することなくアルミニウム金属層のみで膜厚を50nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にして保護層を設け積層体を得た。保護層を形成したものの、保護層と接する表面に金属酸化物を含まないため剥離が発生してしまい、密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも不合格となった。
【0093】
[比較例3]
蒸着層全面へ酸素ガスを供給しながら金属アルミニウムを蒸発させ、酸化アルミニウム層のみで膜厚を15nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にして保護層を設け積層体を得た。保護層と接する表面に金属酸化物を含むため保護層との密着性は合格3となったが、金属層を有さないため実施例1と比較してガスバリア性が劣るだけでなく、クラックが発生したり折れが発生したため、耐引張性、耐屈曲性ともに不合格となった。
【0094】
[比較例4]
実施例1と同様に形成した無機層上に、ビニル系樹脂ではなくアクリル樹脂(PMMA樹脂)を実施例1と同様の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得たが、ビニル系樹脂及び直鎖状ポリシロキサンを含まないためガスバリア性が劣り、密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも不合格となった。
【0095】
[比較例5]
実施例1と同様に形成した無機層上に、実施例1と同様の固形分10質量%のPVA溶液のみを用いて保護層を形成したが、ビニル系樹脂のみで直鎖状ポリシロキサンを含まないためガスバリア性が劣り、密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも不合格となった。
【0096】
[比較例6]
以下のようにして無機層および保護層を形成して積層体を得た。本比較例の無機層は、アルミニウムからなる金属層上に酸化ケイ素からなる金属酸化物層を有するが、無機層が単一層ではなく異なる金属からなる酸化物層を積層したものであるため、金属層と金属酸化物層との界面で剥離し密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも不合格となった。
<無機層>
蒸着層へ酸素を供給することなく形成したこと以外は、実施例1と同様にして膜厚40nmとなるようにアルミニウム金属層のみを形成した。
【0097】
次いで二酸化ケイ素で形成された焼結材であるスパッタターゲットを用意した。そのスパッタターゲットを用いてスパッタ・CVD装置を使用し、真空度2×10-1Paとなるようにアルゴンガスを導入し、高周波電源により投入電力500Wを印加することにより、アルゴンガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記膜厚40nmのアルミニウム金属層上に酸化ケイ素からなる層を4nmとなるように無機層を形成した。
<保護層>
実施例1と同様にして乾燥後の平均厚み550nmとなるように保護層を形成し積層体を得た。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
以上の各実施例の結果より明らかなように、本発明の積層体は、酸素バリア性能、水蒸気バリア性能に優れ、密着性、耐引張性、耐屈曲性に対してもガスバリア性能が維持できる良好なものであった。
【0103】
実施例1と実施例2を比較すると、M/Oの値が1以下となる部分の厚み方向の長さが長い実施例2では密着性が向上しているのに対し、一方でM/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の長さが長い実施例1のほうが高いガスバリア性を発現していた。実施例3~6では、M/Oの値が1以下もしくはM/Oの値が20以上となる部分の厚み方向の各長さを制御することで、ガスバリア性と密着性、耐引張性、耐屈曲性の調整が可能であった。また保護層に含まれる直鎖状ポリシロキサンの長さを調整することでも、ガスバリア性と密着性、耐引張性、耐屈曲性の調整が可能であった(実施例7~10)。
【0104】
さらに保護層に環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂を含むことで、ガスバリア性だけでなく耐引張性、耐屈曲性も改善し(実施例11~13)、特にラクトン構造を含むビニル系樹脂が良好なガスバリア性、耐引張性、耐屈曲性となった(実施例13)。一方で、環状構造もしくはカルボニル基のない構造を有するビニル系樹脂の場合、通常のビニル樹脂と比較して各種性能の改善は極僅かであった(実施例14、15)。最も好ましい様態である実施例16では、ガスバリア性、密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれにおいても高い性能を示した。
【0105】
一方で、保護層を設けない場合(比較例1)や、金属酸化物層を設けない場合(比較例2)、保護層にビニル系樹脂や直鎖状ポリシロキサンを含まない場合(比較例4、5)は、ガスバリア性、密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも劣るものとなった。金属酸化物層のみで無機層を形成した場合(比較例3)は、保護層との密着性は得られるが、耐引張性、耐屈曲性は不合格となった。無機層が単一層ではなく、無機層の金属層表面に異なる金属からなる酸化物層を積層した場合(比較例6)、金属層と金属酸化物層との界面で剥離し密着性、耐引張性、耐屈曲性のいずれも不合格となった。