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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】水系減衰組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230508BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230508BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230508BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230508BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230508BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230508BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230508BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230508BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L63/00 Z
C08K3/013
C09D5/02
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/20
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018190635
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2019073686
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】62/570,707
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キラン・ケイ・バイケリカー
(72)【発明者】
【氏名】レイ・イー・ドラムライト
(72)【発明者】
【氏名】ツェンウェン・フー
(72)【発明者】
【氏名】ジャスティン・ジンバル
(72)【発明者】
【氏名】クレッグ・エフ・ゴリン
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ランギル
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/026645(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006052282(DE,A1)
【文献】国際公開第2007/034933(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0049697(US,A1)
【文献】米国特許第04391857(US,A)
【文献】特表2009-508972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系減衰組成物であって、
2~100の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーであって、リン含有酸性基を有する水系エマルションポリマーと、
エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%固形分の酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物からなる群から選択される150℃より高い沸点を有する液体化合物と、固形充填剤と、を含み、
前記酸性基反応性液体化合物がエポキシ官能性樹脂であり、前記酸性基非反応性液体化合物が合体剤又は可塑剤であり、
前記水系減衰組成物が、25%~85%のパーセント顔料体積濃度を有し、前記水系減衰組成物が、6重量%~25重量%の含水量を有する、水系減衰組成物。
【請求項2】
前記ポリマーの算出上の酸価が、2~65である、請求項1に記載の水系減衰組成物。
【請求項3】
前記水系減衰組成物の前記含水量が、6重量%~20重量%である、請求項1に記載の水系減衰組成物。
【請求項4】
前記酸性基反応性液体化合物が、105~250の算出上のエポキシド当量を有するエポキシ官能性樹脂である、請求項1に記載の水系減衰組成物。
【請求項5】
コーティング基材を提供するための方法であって、
(a)水系減衰組成物であって、
2~100の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーであって、リン含有酸性基を有する水系エマルションポリマーと、エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%固形分の酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物からなる群から選択される150℃より高い沸点を有する液体化合物と、固形充填剤と、を含み、
前記酸性基反応性液体化合物がエポキシ官能性樹脂であり、前記酸性基非反応性液体化合物が合体剤又は可塑剤であり、
前記水系減衰組成物が、25%~85%のパーセント顔料体積濃度を有し、前記水系減衰組成物が、6重量%~25重量%の含水量を有する、前記水系減衰組成物を形成することと、
(b)前記水系減衰組成物を基材に適用することと、
(c)前記適用された水系減衰組成物を25℃~250℃の温度で乾燥させることと、を含む、方法。
【請求項6】
前記ポリマーの前記酸価が、2~65である、請求項5に記載のコーティング基材を提供するための方法。
【請求項7】
前記水系減衰組成物の前記含水量が、6重量%~25重量%である、請求項5に記載のコーティング基材を提供するための方法。
【請求項8】
前記酸性基反応性液体化合物が、105~250の算出上のエポキシド当量を有するエポキシ官能性樹脂である、請求項5に記載のコーティング基材を提供するための方法。
【請求項9】
前記コーティングの48時間の水回収率が、25重量%未満である、請求項5に記載のコーティング基材を提供するための方法。
【請求項10】
前記コーティングの24時間の水回収率が、15重量%未満である、請求項5に記載のコーティング基材を提供するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系減衰組成物に関する。本発明は、特に、水系液体消音組成物、基材に消音及び振動減衰を提供するための方法、ならびにこの方法によって形成されたコーティング基材に関する。より詳細には、本発明は、2~100の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーと、エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%固形分の酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物、またはそれらの混合物からなる群から選択される150℃より高い沸点を有する液体化合物と、固形充填剤と、を含む水系減衰組成物に関し、ここで、水系減衰組成物は、25%~85%のPVCを有し、水系減衰組成物は、6重量%~25重量%の含水量を有する。
【0002】
本発明は、水系減衰組成物、すなわち、水系液体消音及び振動減衰組成物、基材に減衰組成物を適用するための方法、ならびにそのように形成されたコーティング基材を提供し、乾燥コーティングは、好ましくは、本発明のものではないエマルションポリマーベースのコーティングと比較して十分に改善された耐水性、良好な外観特性、及び良好な減衰特徴を有する。
【0003】
米国特許出願第2016/0168411A1号及び同第2016/0168413A1号は、消音及び振動減衰、ならびに耐水性のための、ポリマー成分及び反応性希釈剤を含む、95%を超える測定固形含量を有する非水性コーティング組成物を開示している。
【0004】
しかしながら、水系液体消音及び振動減衰組成物が依然として所望されている。従来の水系コーティングと比較して、乾燥/硬化されたときに改善された耐水性を有する、水系エマルションポリマーを含む水系減衰組成物が提供されている。水系減衰組成物はまた、環境及び安全性の懸念を最小にする。さらに、水系コーティングは、軽量材料を必要とする自動車用途に有益な非水性コーティングと比較して、所定の厚さに対してより軽量であり、これは、そのような用途のための好ましいベーキングプロセスが、コーティングの膨張及び消音の既知の厚さ依存性を引き起こすという事実に起因する。本発明者らが直面する問題は、乾燥/硬化コーティングとして、望ましいレベルの消音性能、外観、及び耐水性を有する水系液体消音組成物を提供することである。
【0005】
本発明の第1の態様において、2~100の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーと、エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%固形分の酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物からなる群から選択される150℃より高い沸点を有する液体化合物と、固形充填剤と、を含む水系減衰組成物が提供され、ここで、該水系減衰組成物は、25%~85%のPVCを有し、該水系減衰組成物は、6重量%~25重量%の含水量を有する。
【0006】
本発明の第2の態様において、(a)水系減衰組成物であって、2~100の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーと、エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%固形分の酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物からなる群から選択される150℃より高い沸点を有する液体化合物と、固形充填剤と、を含み、該水系減衰組成物は、25%~85%のPVCを有し、該水系減衰組成物は、6重量%~25重量%の含水量を有する、水系減衰組成物を形成することと、(b)該水系減衰組成物を基材に適用することと、(c)該適用された水系減衰組成物を25℃~250℃の温度で乾燥させることと、を含む、コーティング基材を提供するための方法が提供される。
【0007】
本発明の第3の態様において、本発明の第2の態様の方法によって形成されたコーティング基材が提供される。
【0008】
本発明の水系減衰組成物は、水系エマルションポリマーを含み、ポリマーは、2~100、あるいは2~65の算出上の酸価を有する。本明細書では、「水系」は、水系減衰組成物及び水系エマルションポリマーの各々が、70重量%~100重量%の水からなる単一の連続相を有することを意味する。その相における任意の追加成分は、典型的には水混和性である。「エマルションポリマー」は、水性エマルション重合プロセスにおけるエチレン性不飽和モノマーのフリーラジカル付加重合によって調製されたポリマーを意味する。エマルションポリマーは、2~100、あるいは2~65の算出上の酸価を有する。本明細書では、「酸価」は、乾燥エマルションポリマー固形分中の酸1グラム当たりのミリ当量の数を決定し、水酸化カリウムの分子量を乗算することによって算出される。エマルションポリマーの酸価は、カルボン酸モノマー、硫黄含有酸性基モノマー、リン含有酸性基モノマー、それらの各グループの塩、及び上記のモノマーのいずれかの混合物を含む群から選択される1つ以上の酸性基含有モノマーの共重合によって提供される。典型的なカルボン酸モノマーには、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸モノメチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノブチル、及び無水マレイン酸が含まれる。典型的な硫黄含有モノマーには、例えば、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、ならびにビニルスルホン酸及びスチレンスルホン酸ナトリウムが含まれる。典型的なリン含有酸モノマーには、アルコールのリン酸二水素エステルなどのリン酸二水素官能性モノマーが含まれ、ここで、アルコールは、重合性ビニルまたはオレフィン基、例えば、リン酸アリル、ビス(ヒドロキシ-メチル)フマレートまたはイタコネートのモノホスフェートまたはジホスフェート、(メタ)アクリル酸エステルの誘導体、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのホスフェートも含有する。他の好適なリン酸モノマーには、例えば、Rhodia,Inc.から入手可能であるSIPOMER(商標)PAM-100、SIPOMER(商標)PAM-200、SIPOMER(商標)PAM-300、及びSIPOMER(商標)PAM-4000などの、CH2=C(R)-C(O)-O-(R1O)n-P(O)(OH)2(式中、R=HまたはCH3であり、R1=アルキルである)が含まれる。他の好適なリン含有酸モノマーは、WO99/25780 A1に開示されているホスホネート官能性モノマーであり、これには、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸、α-ホスホノスチレン、2-メチルアクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸が含まれる。さらに好適なリン含有モノマーは、US4,733,005に開示されているHarcross T-Mulz 1228及び1,2-エチレン性不飽和(ヒドロキシ)ホスフィニルアルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、これには、(ヒドロキシ)ホスフィニルメチルメタクリレートが含まれる。好ましいリン酸モノマーは、2-ホスホエチル(メタ)アクリレート、2-ホスホプロピル(メタ)アクリレート、3-ホスホプロピル(メタ)アクリレート、及び3-ホスホ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを含むリン酸二水素モノマーである。2-ホスホエチル(メタ)アクリレート、2-ホスホプロピル(メタ)アクリレート、3-ホスホプロピル(メタ)アクリレート、3-ホスホ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、SIPOMER(商標)PAM-100、及びSIPOMER(商標)PAM-200が好ましい。
【0009】
酸性基含有モノマーに加えて、本発明のエマルションポリマーには、少なくとも1つの非イオン性共重合モノエチレン性不飽和モノマー、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど、ならびにそれらのアルコキシル化類似体を含む(メタ)アクリル酸エステルモノマーなど;(メタ)アクリル酸のウレイド官能性(メタ)アクリレート及びアセトアセテート、アセトアミド、またはシアノアセテート;スチレンまたは置換スチレン;ビニルトルエン;例えば、米国特許第5,162,415号に教示されているようなモノエチレン性不飽和アセトフェノンまたはベンゾフェノン誘導体;ビニルアセテートまたは他のビニルエステル;ビニルモノマー、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N-ビニルピロリドン;さらに(メタ)アクリロニトリルが含まれる。本開示を通して使用される用語「(メタ)」に続く(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドのような別の用語の使用は、それぞれアクリレート及びメタクリレート、ならびにアクリルアミドまたはメタクリルアミドの両方を指す。
【0010】
種々の実施形態において、エマルションポリマーは、エマルションポリマー固形分の重量に基づいて、0重量%~6重量%、または代替的には、0重量%~1重量%、もしくは0重量%0.2重量%の共重合した多エチレン性不飽和モノマーを含む。ある特定の実施形態において、エマルションポリマーは、独立して、共重合した多エチレン性不飽和モノマーを含まない。多エチレン性不飽和モノマーには、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ブタジエン、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びジビニルベンゼンが含まれる。
【0011】
エマルションポリマーの算出上のガラス転移温度(「Tg」)は、典型的には0℃~110℃、好ましくは5℃~70℃である。所望の減衰温度範囲は、エマルションポリマーの算出上のTgに依存すると考えられる。ポリマーのTgは、モノマーM1及びM2のコポリマーのTgを算出するための、Fox式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,Volume 1,Issue No.3,page 123(1956))を使用することによって本明細書において算出され、
1/Tg(算出値)=w(M1)/Tg(M1)+w(M2)/Tg(M2)、
式中、
Tg(算出値)は、コポリマーについて算出上のガラス転移温度であり、
w(M1)は、コポリマー中のモノマーM1の重量分率であり、
w(M2)は、コポリマー中のモノマーM2の重量分率であり、
Tg(M1)は、M1のホモポリマーのガラス転移温度であり、
Tg(M2)は、M2のホモポリマーのガラス転移温度であり、
全ての温度は、°Kである。
【0012】
ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.Brandrup and E.H.Immergut,Interscience Publishersによって編集された“Polymer Handbook”に見ることができる。
【0013】
水系エマルションポリマーは、望ましくは、重量基準で50%を超える固形分を有し、好ましくは、固形含量は、重量基準で56%を超える。
【0014】
例えば、米国特許第4,325,856号、同第4,654,397号、及び同第4,814,373号に開示されているような、そのような水系エマルションポリマーを調製するために使用される重合技法が、当該技術分野で周知される。従来の界面活性剤、例えば、アニオン性及び/または非イオン性乳化剤、例えば、アルカリ金属またはアンモニウムアルキルスルフェート、アルキルスルホン酸、脂肪酸、及びオキシエチル化アルキルフェノールなどが使用され得る。使用される界面活性剤の量は、全モノマーの重量に基づいて、通常0.1重量%~6重量%である。サーマルまたはレドックス開始プロセスのいずれかが使用され得る。例えば、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、過硫酸アンモニウム、及び/または過硫酸アルカリなどの従来のフリーラジカル開始剤は、典型的には、全モノマーの重量に基づいて0.01重量%~3.0重量%のレベルで使用され得る。例えば、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、及び重亜硫酸ナトリウムなどの好適な還元剤と結合した同じ開始剤を使用するレドックス系は、任意に金属のための錯化剤をさらに含む、金属イオン、例えば、鉄及び銅と任意に組み合わせて、同様のレベルで使用され得る。レドックスプロセスが好ましい。段階のためのモノマー混合物は、そのまま、または水中のエマルションとして添加され得る。段階のためのモノマー混合物は、均一なまたは様々な組成物を使用して、その段階のために割り当てられた反応期間にわたって、一回の添加もしくはそれ以上の添加で、または連続的に添加され得、第1及び/または第2のポリマーモノマーエマルションを単一の添加で添加することが好ましい。例えば、フリーラジカル開始剤、酸化剤、還元剤、連鎖移動剤、中和剤、界面活性剤、及び分散剤などの追加成分が、この段階の前、最中、または後に添加され得る。
【0015】
中和剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸塩、有機アミン、例えば、ヒドロキシアルキルアミン、及びアンモニアなどの無機塩基から選択され得る。
【0016】
種々の粒子形態を促進する多段階プロセスによるエマルションポリマーの形成は、当該技術分野において周知され、本発明においても企図されており、この場合、エマルションポリマー全体の酸価は、粒子内に存在し得る種々の組成物にかかわらず決定される。
【0017】
乳化重合したポリマー粒子の平均粒径は、典型的には30~500ナノメートル、好ましくは80~200ナノメートルである。例えば、米国特許第4,384,056号及び同第4,539,361号に開示されているものなどの、多峰性粒径分布を生じる方法が代わりに使用され得る。
【0018】
本発明の水系減衰組成物はまた、エマルションポリマー固形分に基づいて0.1%~50%、好ましくは1%~20%、より好ましくは3%~10%固形分の150℃超、あるいは175℃超、またはさらにあるいは200℃超の沸点を有する液体化合物も含む。液体は、ASTM D445によって測定した場合、典型的には25℃で25,000mPa*s未満、好ましくは16,000mPa*s未満の粘度を有する。液体化合物は、酸性基反応性液体化合物及び酸性基非反応性液体化合物からなる群から選択される。本明細書では、「酸性基反応性液体化合物」は、エマルションポリマーの酸性基モノマーとの反応の程度が、150℃の温度で30分以内で、化学量論的に可能な反応の5%よりも大きいことを意味する。本明細書では、「酸性基非反応性液体化合物」とは、エマルションポリマーの酸性基モノマーとの反応の程度が、150℃の温度で30分以内で、化学量論的に可能な反応の0%~5%であることを意味する。典型的な酸性基非反応性液体化合物には、例えば、合体剤及び可塑剤として一般的に既知の化合物が含まれる。本明細書における可塑剤及び合体剤は、エマルションポリマーの 小膜形成温度を低下させる液体化合物を指す。典型的な酸性基反応性液体化合物には、例えば、エポキシ官能性樹脂などの官能性化合物が含まれる。105~250の算出上のエポキシド当量を有するエポキシ官能性樹脂が好ましい。算出上のエポキシド当量は、エポキシ官能性樹脂の全分子量をエポキシ官能性樹脂中のエポキシ基の数で除算することによって、樹脂の名目上の構造に基づいて決定される。2つ以上のエポキシド樹脂の混合物については、各成分の算出上のエポキシド当量が、特許請求された範囲内にあることが好ましい。液体化合物は、それ自体で水系分散液であり得、エマルションポリマーに直接または充填剤含有エマルションポリマーに添加され得る。
【0019】
本発明の水系減衰組成物は、水系減衰組成物が25%~85%、好ましくは50%~85%の顔料体積濃度(「PVC」)を有するようなレベルの固形充填剤を含む。
【0020】
顔料体積濃度は、以下の式によって算出される。
【0021】
【数1】
【0022】
典型的な充填剤には、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、カオリン、ケイ酸塩、酸化鉄などの無機粒子;ポリマー粒子、例えば、ポリスチレン及びポリ塩化ビニルビーズ、発泡性ポリマー微粒子、合成または天然繊維、ならびに空隙または小胞を含む微粒子顔料などの有機粒子が含まれる。微粒子顔料は、例えば、ROPAQUE(商標)不透明ポリマー及び揮発性ポリマー粒子などの1つ以上の空隙を含むポリマー粒子を含む。
【0023】
水系減衰組成物は、6重量%~25重量%、好ましくは6重量%~20重量%、より好ましくは6重量%~16重量%の含水量を有する。
【0024】
水系減衰組成物は、コーティング分野で周知の技法によって調製される。第1に、1つ以上の充填剤(複数可)が、水系媒体もしくは予め分散された充填剤(複数可)中に分散されるか、またはそれらの混合物が使用される。次いで、所望される場合、水系エマルションポリマーが他のコーティングアジュバントと共に低剪断攪拌しながら添加される。あるいは、エマルションポリマーは、分散段階中、充填剤と共に存在し得る。液体化合物は、どの段階で添加してもよい。水系減衰組成物は、例えば、凍結防止剤、硬化剤、緩衝剤、中和剤、増粘剤、レオロジー調整剤、保湿剤、湿潤剤、殺生物剤、消泡剤、UV吸収剤、蛍光増白剤、光または熱安定剤、殺生物剤、キレート剤、分散剤、着色剤、ワックス、撥水剤、及び酸化防止剤などの従来のコーティングアジュバントを加えて含有し得る。
【0025】
水系減衰組成物は、典型的には、例えば、金属、プラスチック、予め塗装されたまたは下塗りされた表面、及び風化した表面のような基材に適用される。水系減衰組成物は、例えば、エアーアトマイズスプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高容量低圧スプレー、及びエアアシストエアレススプレーなどの従来のコーティング適用方法を使用して基材に適用され得る。
【0026】
水系減衰組成物の乾燥は、例えば、25℃~250℃、好ましくは100℃~200℃で行われ得る。特定の理論に拘束されるものではないが、ある特定の実施形態において、水系エマルションポリマーの酸性基は、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ官能性などの液体化合物の反応性基と、好ましくは、例えば、150℃~180℃の温度で反応し、乾燥した水系減衰組成物の耐水性が改善されることが予測される。
【0027】
以下の非限定的な実施例は、本発明を説明するために提示される。
【0028】
試験方法:
耐水性
4mmの湿潤厚さ、100mmの長さ、及び80mmの幅の水系減衰試料をアルミニウムパネル上に引き下げることによって水吸収を評価した。試料を、室温で0~48時間の所定の時間の間乾燥させ、次いで150℃のオーブン中に30分間置いた。配合中の質量%の水を、ベーキング前後の試料の重量を測定することによって測定した。試料を周囲室温で冷却し、水道水に完全に48時間浸漬した。コーティングのパネル及び外部をそっと拭いて乾燥させた。24時間及び48時間後の水吸収をコーティング質量のパーセントとして報告した。
【0029】
乾燥した減衰コーティングの外観
外観を、以下に定義するように1~10の尺度で評価した。
10:表面に欠陥なし
8:わずかな隆起、くぼみ、穴/小穴
6:中程度の適度な隆起、くぼみ、穴/小穴
4:かなりの隆起、くぼみ、穴/小穴
2:深刻な隆起、くぼみ、穴/小穴
【0030】
振動減衰
複合損失係数(CLF)は、振動減衰の尺度である。ASTM e-757に従って、厚さ1.6mm×幅12.7mm×長さ200mmの硬質炭素鋼オーバーストバー上にコーティングを形成することによって、CLFを評価した。200Hzの周波数補間についてCLF曲線を報告した。CLFはカバレッジに依存しているため、コーティングカバレッジと厚さをデータの凡例で報告した。
【0031】
【数2】
【0032】
場所:
CLF:複合損失係数(単位なし)
A:定数(単位なし)
E’コーティング:粘弾性層の貯蔵弾性率(MPa)
E’基材:基材の貯蔵弾性率(MPa)
コーティング:粘弾性層の厚さ(mm)
基材:基材の厚さ(mm)
Tanδコーティング:粘弾性層のタンデルタ(単位なし)
【0033】
実施例で使用したエポキシ樹脂。
【0034】
[表]
【0035】
実施例1(比較):液体化合物を含まない水系コーティング組成物
共重合したホスホエチルメタクリレートを含み、7.6(50%固体)の算出上の酸価を有する80gの水系エマルションポリマーを、0.5gのBYK-093(BYK)、0.32gのBAYFERROX(商標)318M、125gのTITAN(商標)-200、0.3gのEXPANCEL(商標)031WUFX40、及び4gのKOLLOTEX(商標)1500と一緒に、標準オーバーヘッドミキサーを使用して15分間混合した。0.4gのACRYSOL(商標)RM12-Wをさらに混合しながら添加した。
【0036】
実施例2~10:水系減衰組成物を、(PVCを同じに保つために添加された成分の充填剤を増加させるための)135gのTITAN(商標)-200及び4gのジイソノニルフタレート(DINP)を含むこと以外、比較例1の方法に従って調製し、OPTIFILM(商標)400、トリエチレングリコールソルビン酸エステル(WO2015157929A1に記載されているようなもの)、HELOXY(商標)61、HELOXY(商標)62、HELOXY(商標)67、HELOXY(商標)68、HELOXY(商標)48、またはC8-C10アルキルグリシジルエーテル(Sigma Aldrich)もまた、それぞれ混合しながら添加した。
【0037】
実施例11を、比較例1の方法に従って調製したが、152gのTITAN(商標)-200及び4gのHELOXY(商標)61も混合しながら添加した。
【0038】
実施例12(比較)及び13(比較)を、比較例1の方法に従って調製したが、98gまたは140gのDURCAL(商標)-10をそれぞれ添加してPVCを調整した。
【0039】
実施例14:0時間の開放時間における比較例1、7~9、及び12~13、ならびに実施例2~6及び10~11の水回収性能。
【0040】
[表]
【0041】
実施例2~11は、比較例と比較して改善された性能を提供する。実施例7及び9は、比較例1と比較して改善された外観を提供するが、改善された水回収は提供せず、好ましい組成物ではない。
【0042】
実施例15比較例1及び実施例2~5のCLF性能
【0043】
[表]
【0044】
本発明の実施例2~5は、望ましいレベルの減衰性能を提供する。
【0045】
実施例16~20:例えば、共重合したホスホエチルメタクリレートを含み、8.4の算出上の酸価を有する水系エマルションポリマーと、ジエポキシ官能性液体化合物(D.E.R.331)とを含む乾燥水系組成物の水吸収の評価
【0046】
[表]
【0047】
本発明の実施例17~20は、液体化合物(二官能性エポキシ)が存在しない比較実施例16と比較して優れた水回収結果を有する乾燥コーティングを提供する。
【0048】
注:ACRYSOL(商標)、TAMOL(商標)、及びROPAQUE(商標)は、The Dow Chemical Companyの商標である。BAYFERROX(商標)は、Lanxess AGの商標である。TITAN(商標)及びDURCAL(商標)は、Omya Inc.の商標である。EXPANCEL(商標)は、AkzoNobel N.V.の商標である。KOLLOTEX(商標)は、Avebe GmbHの商標である。OPTIFILM(商標)は、Eastman Chemical Companyの商標である。HELOXY(商標)は、Hexion,Inc.の商標である。UCD(商標)は、Chromaflo Technologiesの商標である。HUBERCARB(商標)は、JM Huber Corp.の商標である。PENFORD(商標)は、Penland Products Co.の商標である。