(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】分子の結晶化のためのマイクロ流体チップ、調製方法、前記チップを備えるデバイス、および分子の結晶化のための方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/58 20060101AFI20230508BHJP
C30B 7/08 20060101ALI20230508BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C30B29/58
C30B7/08
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2018529041
(86)(22)【出願日】2016-12-02
(86)【国際出願番号】 FR2016053185
(87)【国際公開番号】W WO2017093689
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-12-02
(32)【優先日】2015-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516065504
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】522064694
【氏名又は名称】ローディア・ラボラトアール・デュ・フュチュール
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・スパノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-バティスト・サルモン
(72)【発明者】
【氏名】ニエル・アンズ・ジュニュ
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-538163(JP,A)
【文献】国際公開第2007/069586(WO,A1)
【文献】特表2013-538178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/58
C30B 7/08
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの透析結晶化セル(11)を備えるマイクロ流体チップ(1)であって、前記セル(11)は
PMMAから作られた基材(1111)と、
前記基材(1111)によって、およびセルの外壁(1112)によって少なくとも部分的に画成されるタンク(111)を備える第1のレベルであって、前記タンク(111)は
結晶化されるべき分子を結晶化するための方法が実装されることを可能にする溶液の入口用のチャネルおよび出口用のチャネルと流体連通する、第1のレベルと、
前記基材(1111)と接触することなくセルの内壁(1113)によって、および前記タンク(111)と透析室(113)との間に界面を形成する透析膜(112)によって、少なくとも部分的に画成される透析室(113)を備え、前記内壁(1113)は前記膜(112)の周囲が封止されて保たれる少なくとも1つの一個片部分を備え、前記膜の周囲の上面および下面は、透明な感光性樹脂から形成された、前記内壁の同じ一個片部分内に封止されており、前記膜の周囲は前記一個片部分内に一体化されており、前記膜は前記透明な感光性樹脂で非化学的接着により固定されている、第2のレベルとを具備するマイクロ流体チップ(1)。
【請求項2】
前記透析室は結晶化されるべき分子の溶液を収容することと、前記透析室はPMMA(1115)から作られた層によって封止されることとを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ(1)。
【請求項3】
前記チップの主表面(1114)上に開いている前記外壁(1112)と内壁(1113)との間の空間があることと、この空間は、前記チップの表面で
、流体の流れを制御するため
のシステムにコネクタを介して接続されることとを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ流体チップ(1)。
【請求項4】
前記透析膜は、セルロース、有利には再生セルロースから作られることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ(1)。
【請求項5】
前記透析室の容積は、0.1から1μLの間にあることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ(1)。
【請求項6】
行列で整列されている複数の透析結晶化セルを備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ(1)。
【請求項7】
以下の連続する段階、すなわち、
空
気に対して透過性を有する架橋ポリマーから作られた2つの構造ブロックを作製し、それにより前記透析室を画成する上側部分および前記チャネルと前記タンクとを画成す
る下側部分の前記
空気に対して透過性を有する架橋ポリマーから作られる3Dバッファを取得する段階と、
前記チャネルおよび前記タンクを伴う前記構造ブロック上に、1つまたは複数の乾燥透析膜を堆積する段階と、
チャネルのない前記構造ブロックを、前記膜が挟装されるように前記チャネルを有する前記構造ブロックに対応する配置に置く段階と、
透明な感光性樹脂を前記2つの構造ブロックの間の3つ面に堆積し、次いで、前記透明な感光性樹脂
の架橋を開始し、それにより前記膜の周囲の上面および下面は、前記透明な感光性樹脂で非化学的接着により封止される、段階と、
架橋された前記透明な感光性樹脂とともに前記構造ブロックの前記上側部分を、前記
2つの構造ブロック
の前記下側部分から両方とも一緒に剥がすことによって取り除く段階と、
前記空気に対して透過性を有する架橋ポリマーのない見えている部
分をPMMAの細長片で再封止する段階と、
前記透明な感光性樹脂の前記架橋を最終化する段階と、
最後の構造ブロックを取り除く段階とを含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ(1)を調製する方法。
【請求項8】
結晶化されるべき分子を結晶化するためのデバイスであって、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の少なくとも1つのマイクロ流体チップと、
前記透析室内に、結晶化されるべき前記分子および任意選択で少なくとも1つのバッファを含む溶液S1を加えるように配置構成されている少なくとも1つの追加手段と、
前記タンク
の室へ通じている前記チャネル内の結晶化剤のおよび/または添加剤および/またはバッファの追加/予定されている取り出しのための少なくとも1つの手段と、
前記タンク内の前記溶液の化学組成を制御するための少なくとも1つの手段、たとえば、前記バッファの濃度を変化させるために、前記結晶化剤および前記添加剤の投与のための手段と、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の前記マイクロ流体チップ
の温度を制御し、変化させるための少なくとも1つの手段と、
任意選択で、前記溶液S1中で結晶化されるべき前記分子の前記濃度を測定するための少なくとも1つの手段と、
少なくとも1つの画像収集手段とを備えるデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子、有利には生体高分子、特にタンパク質の結晶化のためのマイクロ流体チップに関するものである。したがって、本発明は、タンパク質などの、分子、有利には生体高分子の結晶化の分野に関係する。
【背景技術】
【0002】
大部分のタンパク質の生物活性は、その3D構造、すなわち、ポリペプチド鎖のアミノ酸が空間内で互いに関して並べられる仕方によって決定される。たとえば、タンパク質の構造の変性によって、著しい数の分子病が引き起こされる。薬物はタンパク質に結合することによって作用し、その機能構造の変性を引き起こし、それによりその生物活性に影響を及ぼす。薬物の設計および改善は、その高分子ターゲットの3D構造を知ることによって大幅に促進される。したがって、タンパク質の3D構造の明確化は、分子病の発症機序を理解するうえで非常に重要である。この3D構造を研究するために、X線回折の技術が実質的に使用される。
【0003】
回折の技術では、研究対象の高分子が結晶性形状である、より有利には、良好な品質および十分な体積の単結晶の形態である必要がある。
【0004】
本発明の文脈において、良好な品質の単結晶とは、
- 低モザイク性、
- 著しい回折力(すなわち、2オングストローム未満)、
- 1から100μmの間のサイズを有する単結晶であることを意味する。
【0005】
良好な品質および十分な体積の単結晶を得るために、高分子の結晶化(すなわち、結晶生成)を制御することは必須である。結晶化のプロセスは、多次元位相空間における熱力学的特性および動力学的特性の両方を扱う。熱力学的データは、溶解度曲線、準安定相の存在、多形、液体-液体分離などである。そして、これは、温度、pH、溶媒、不純物などの複数のパラメータに依存する。さらに、相図内の動力学的軌跡は、合成された結晶の最終的特性のほとんどを制御することに関連する。相図内で辿られる経路は、結晶の核生成および結晶の成長を制御し、したがって、その個数、サイズ、および形態を制御する。
【0006】
結晶生成は2つの段階を含む。
- 第1段階は核生成段階と呼ばれ、結晶化溶液からの結晶種の出現を伴う。
- 第2段階は成長段階と呼ばれ、核生成時に得られる結晶の種の成長を伴う。
【0007】
結晶化の理解を進めるために、温度、溶質の濃度、および/または沈殿剤の濃度に基づき確立される結晶化されるべき分子の相図を作成することが重要である。そのようなタイプの図では、4つの領域が区別される。
- 溶質がわずかに過飽和し、この方法で結晶の形成なしで非常に長い時間にわたって維持され得るが、種結晶はそこで成長する、準安定領域、
- 準飽和の領域:核生成は生ぜず、種結晶は溶解する。
- 自然核形成の領域:結晶化されるべき分子の過剰分は、結晶の種の形態(すなわち、言い替えると核)の形態で結晶化されるべき分子の溶液から分離される。種結晶はそこで成長する。
- 沈殿領域:過飽和が著しく大きく結晶の形成前に凝集体および沈殿物の形成がそこで促進される領域。形成される構造は無秩序である。これらは凝集体および/または沈殿物である。
【0008】
準安定領域、自然核生成領域、および沈殿領域は、一緒になって、「過飽和領域」と呼ばれる領域を形成する。準安定領域の上限(すなわち、準安定領域と自然核生成領域との間の境界)は、「準安定限界」または「過溶解度曲線」とも呼ばれる。
【0009】
最初に、可溶化され精製され得るタンパク質は、結晶が比較的容易であると想定される。しかしながら、結果は、タンパク質の溶解度および純度は、重要な要素であるけれども、結晶の有用な生成源であることを保証しないことを示していた。結晶化のときのタンパク質の挙動は、複合的であることが実証されている。
【0010】
しかしながら、今日、高分子結晶の成長、およびしたがってタンパク質、核酸、およびウイルスの結晶の成長生産は、分子および構造生物学者の一手段となっている。構造-機能の相関関係は、現在、ちょうど複合体の結晶構造に基づく薬物の設計が欠くことのできないものとなってきているのと同様に酵素学では必須のものである。自然現象を説明し記述するための結晶学的結果の使用は成長を続けており、より複雑な構造問題へのこれらの方法の拡張により、なおいっそう多くの高分子を結晶化する試みが増えている。このため、これらの結晶を成長させるためのより効率的で速い技術が必要になってきている。
【0011】
タンパク質結晶化実験および結果の分析のセットアップは大部分自動化されている。したがって、結晶化実験室は、次の使用を伴い得る。
- 分配ロボット:タンク溶液の分配、結晶化小滴の分配、タンク溶液および結晶化小滴の分配
- 半自動顕微鏡から完全自動化インキュベータまで変わる撮像ロボット。
【0012】
結晶が見つかったときに、結晶が本当にタンパク質の結晶であるか、非タンパク質タイプの結晶(たとえば、塩の結晶)であるかを決定するために評価が実行されなければならない。そして、結晶の品質、さらには回折データの収集に対する有用性が評価されなければならない。この分析は、好ましくはその場で実行される。この数年間に、この分野では、3つの新しい技術、すなわち、回折のその場分析(Skarzynski、2009年、Le Maireら、2011年)、UV検出(Judgeら、2005年、Deboisら、2013年)、および第二高調波の顕微鏡法(SONICC、Wamplerら、2008年、Kissickら、2011年)が開発された。
【0013】
多数の結晶化実験室を伴う自動化と平行して、タンパク質の分析の「パイプライン」内の最後のリンクは、X線のビームにおける回折の分析である。そして、この部分も自動化されている。今日、ロボットアーム(Heidari Khajepourら、2012年)上に取り付けられているカプトンから作られたグリッパーを使用し、SBSフォーマットの標準結晶化プレートを使用して結晶の組み立ておよび凍結すら可能である。使用者の実験室内で組み立てられた結晶は、特定のデュワーでパッケージされ、その組み立ては結晶が分析される光の線のロボットのアームと親和性があり、これらはシンクロトロンに送られる。
【0014】
蒸気拡散プレート(Bingel-Erlenmeyerら、2011年、Axfordら、2012年、Ciprianiら、2012年)、マイクロ流体チップ(Pinkerら、2013年、Heymannら、2014年、Perryら、2014年)、音響的負荷がかかったループ(acoustically loaded loop)(Yinら、2014年)、マイクロキャピラリー(Pineda-Molinaら、2012年)をナノドロップ(nanodrop)(Maekiら、2012年)とともに備える結晶化プラットフォームは、少なくとも原理的には、X線回折の質のスクリーニングの際の重要な考慮事項である、その場で結晶を試験することを可能にする。
【0015】
強シンクロトロン放射、低温結晶学、および直接フェージング法(direct phasing method)により、単結晶で十分な場合がある。しかし、これは、小さい(約=10μm)だとしても、非常に良好な結晶(非常に良好な結晶品質の結晶)でなければならない。強放射線は、タンパク質の結晶を、それがたとえ凍結されていても破壊することができる。凍結それ自体は、結晶を細かく割るか、またはそのモザイク性を高め得る。直接法は、結晶が非常に高い分解能で回折しない場合には使用され得ない。したがって、あまり需要が高くない構造であっても、問題は残る。
【0016】
結晶化の微細化に向けて:マイクロ流体結晶化
流体微細化ツールは、相図内で受ける動力学的経路の一意的な制御を可能にし、無機および生体分子の結晶の核生成のプロセスおよび成長を深く調べることを可能にする。
【0017】
マイクロ流体力学の利点は、結晶化が特定の目標を定めて研究される点である、すなわち、熱力学的および動力学的データを収集するか、または回折研究を実施することを目標にして使用され得る結晶を成長させることが望ましいことがある。
【0018】
実際、マイクロ流体力学は、実験を倍増し、および/または特定のポイントを強調し、基本的機構を明らかにするのに有用な様々な手段を提供する。マイクロ流体技術は、長さのスケールが1~100μmであるマイクロチャネルのネットワーク内の液体を取り扱うためのツールボックスである。これらのネットワークは、実験室で実行される従来の実験を模倣したものであるが、輸送現象に関して類のない制御を行う(Squires & Quake、2005年、Vilknerら、2004年、Stoneら、2004年)。結晶化の特定の文脈において(Van der Woerdら、2003、Sauterら、2007)、これらのマイクロ流体ツールは、周囲温度程度の水溶液の操作を実質的に可能にする。元々、この使用分野はかなり限定されていたが、マイクロ流体技術には一定の進捗があり、今では、科学者が以下のことを行うことを可能にする独自機能を提供する。
1.1nLと少ない体積での結晶化試験を使用することによって高い帯域幅でデータの収集を実行する。
2.長さに関するスケールの縮小によって引き起こされる質量の移動および熱の移動の優れた制御を使用し、チップ上にセンサおよびアクチュエータを集積化することによって特定の動力学的経路を設計する。
3.乱流がない、重力効果がないかまたはほとんどない状態で、結晶化、閉じ込め、および高い表面/体積比を研究するための新しい実験条件を提供する。さらに、マイクロ流体力学で使用される低体積Vは、核生成にとって特に重要である。平均核生成時間(∝1/V)は、結晶の成長の動力学を超える可能性があり(Kashchievら、1991年)、単一の核生成事象は、したがって、統計学的に観察される。この単核生成機構は、核生成の動力学を推定し、多形を研究するうえで本質的である。
【0019】
多くの薬物ターゲットは、実験的に特に需要の高い内在性膜タンパク質である。そのような難しい対象について、少数の結晶化プラットフォームが存在し、少数の構造が解決される(Huangら、2015年)。数百個もの非常に小さい結晶は、多くの場合に、照射または凍結によって引き起こされる損傷があるので、完全なデータセットが収集され得る前に試験される。こうして得られたデータの品質は、多くの場合に、周囲温度でその場回折を介して試験される、より大きい(Riceら、2000年)または凍結していない結晶で収集され得るものよりも低い。周囲温度で複数の同形結晶から取得される、不完全な回折データを組み合わせることによって、3D構造を決定するために、完全なデータセットが得られ得る。このアプローチでは、結晶を回復し、それらを凍結させる必要をなくし、それと同時に、周囲温度で直列での回折データの収集で照射によって引き起こされる悪影響を防ぐ。その結果、したがって、結晶のサイズ、結晶および結晶のその後の操作をなくしその場回折実験を可能にするこれらの結晶の成長に対する設計サポートの品質を高め、それにより回折実験を著しく容易にし、高速化し、コストを低減することができる必要がある。
【0020】
透析は、逆浸透、限外濾過、および電気透析と同様に溶液中の分子またはイオンを膜分離するための方法である。これらの技術は、化学種またはイオンが半透膜、すなわち、2つの液状媒質を分離する比較的薄い障壁を横切ることができるようにするために使用される力によって異なる。これらの力は、透析における濃度の勾配である。後者の利点は、エネルギー消費を生じず、膜内の成分の蓄積を防ぐという事実にあり、これは連続運転を可能にする。透析は、分子濾過の一形態である、すなわち、半透膜を使用することによってサイズに応じて分子が分離されることを可能にし、その微細孔は高分子寸法よりも小さいサイズを有する。これらの微細孔は、溶媒、塩、および小代謝産物の分子などの小分子を膜を通して拡散させるが、それよりも大きい分子の通過を阻止する。
【0021】
透析を介した結晶化は、透析膜を介して封止されるデバイス内に結晶化されるべき分子の留置を伴う。そこで、これは、水、結晶化剤、添加剤、またはバッファが、分子をデバイス内で結晶化されるのを保ちながら、透析膜のいずれかの側に拡散することを可能にする。デバイスは、結晶化剤、添加剤、およびバッファを封じ込める好適な容器内に留置される。透析を介したこの技術は、また、「塩溶」効果(低いイオン力において、イオン力が大きくなったときに結晶化されるべき分子の溶解度が高くなる)および「塩析」効果(高いイオン力で、イオン力が大きくなったときに結晶化されるべき分子の溶解度は減少する)の両方、さらにはpHも考慮する。
【0022】
国際出願第WO2012/035268号は、結晶化デバイスを説明しており、そこでは、結晶化は、制御されながら、その場で、結晶化溶液の組成を変化させることによって実施される。結晶化のこの実施は、後からそれを再利用できる従来の結晶化技術よりも小さい単一の実験において使用される分子の一定体積のサンプルが結晶化される必要があることの利益をもたらす。実際、サンプルは、結晶化に際して消費されず、結晶化条件は、タンパク質が選択された結晶化条件の下で損傷(たとえば、変性)しない回数だけ可逆的に変化させられ得る。このデバイスは、透析セルおよびタンクを備え、これにより、制御された組成を有する溶液に対する連続流での透析を可能にし、化学的組成(たとえば、沈殿剤の濃度、pH、添加剤...)の制御を可能にする。デバイスは、結晶化溶液をリアルタイムで観察しながら温度の正確な制御も可能にする。システムは、タンパク質の同じサンプル(実験1回当たり15μLのタンパク質)による多数の結晶化条件の探索を可能にする。このアプローチは、並列実験の代わりに直列での実験を可能にする。
【0023】
本発明の目標は、そのようなデバイスをマイクロ流体チップの形態で微細化する段階と、したがって高分子を結晶化するための効率的な方法に到達する段階とを伴う。
【0024】
このチップは、シンクロトロンの放射の中に直接留置されてよく、これはチップ内に置かれている多数の同形結晶に関する回折データが収集されること、および大型結晶を取得する必要性をなくすことを可能にする。X線の回折は、チップ上で、制御された温度(ほとんどの場合周囲温度)で、直接行われるものとしてよく、したがって、結晶をさらに劣化させ得る、凍結段階の必要性をなくすことができる。
【0025】
本発明によりチップで実装される、透析を介した結晶化のための方法は、さらに次のことを可能にする。
- 結晶化条件に近づく瞬間が識別されること、
- 形成された後の、結晶化されるべき分子の溶液中に存在する種結晶の挙動が知られること。
【0026】
われわれは、その場回折を可能にしながら、特に生物学的な、高分子の結晶化の最適化を微細化することを目的としている。微細化は、新しい実験条件の下で様々な現象を再調査し、高精度制御(たとえば、沈殿剤の温度、濃度)要素を一体化することを可能にし、したがって、動力学的経路が高い精度で、相図に従って制御されることを可能にする。この自動化されたマイクロ流体結晶化プラットフォームは、加速されるべき結晶の取得および必要なサンプルの体積を最小にしながら前記結晶が受けた操作を減らしつつ結晶品質を高めることを可能にする。
【0027】
マイクロ加工のこの作業の寄与を超え、特に透析膜の組込に関して、プロジェクトの成功は、何よりもまず構造生物学に関係している。マイクロ流体プラットフォームはタンパク質の多数の結晶からその場で結晶学的データを収集することができるので、直列の結晶学的手法だけでなく時間分割結晶学的手法(ラウエ回折)、したがって、生化学的反応の力学の構造研究のためにシンクロトロン放射を使用することが可能である。重要な問題点は、連続流が動的結晶学的分析に対する酵素反応をトリガすることを可能にする流体を処理する能力の統合に由来する。
【0028】
ラルース辞書にあるマイクロ流体の定義は、次のとおりである。「数マイクロメートルの直径を有するチャネル内で循環する流体を研究する流体力学の一分野。」マイクロ流体システムは、その特性長の1つが1μmから1mmの間に入った瞬間からそのようなものとして定義され得ることが企図され得る。
【0029】
マイクロチャネル内の流れ:
マイクロ流体力学では、マイクロチャネル内の流れの効果を考慮する必要がある。しかしながら、おおよそ1マイクロメートルから1ミリメートルの作業寸法が与えられた場合、接触力が巨視的スケールに比べてこのスケールに対してより重要な役割を果たすとしても、従来の物理学が必要である。
【0030】
流体力学アプローチにおける単相流体の移動は、2つの方程式によって決まる。運動量の保存の方程式(1)および質量保存の方程式(2)。
【0031】
【0032】
ただし、式中、
ρ=ρ(x,t) 密度(kg.m-3)
u=u(x,t) 速度(m.s-1)
【0033】
【0034】
粘性応力テンソル
F 外向きの力(N)
【0035】
【0036】
【0037】
は、空間と時間の関数fを考えることによって見つけられる粒子微分である。xに沿ったdtに対する流体粒子の移動のときに、粒子はdx=x+vdtだけ移動し、したがって次のようになる。
【0038】
【0039】
したがって、
【0040】
【0041】
それ故(3)
【0042】
【0043】
流体力学では、流体はその速度が音速よりかなり遅いときに非圧縮性であること考えられることが多い。しかしながら、いくつかの場合において、流体を非圧縮性であると考えることは不可能であるであり得る。この方程式系は、研究されるシステムに従って熱力学状態方程式または他の保存方程式によって完全なものとなり得る。
【0044】
ニュートン流体の場合、運動量の保存の方程式は次のように修正され得る。
【0045】
【0046】
ここで、粘性応力テンソルは、単純な仕方で速度に関連付けられるが、それは、これが特定の場合だからであり、μは流体の動粘度を表す。方程式(4)は、ナビエ-ストークス方程式と呼ばれる。
【0047】
矩形の断面、幅ω、高さh、および長さL(ωおよびhに対して非常に長い)を有するチャネルの場合、流体が非圧縮性と考えられ、方向xの流速を有する永続的な流れがあれば、
【0048】
【0049】
と推論される。
【0050】
圧力は、縦方向に変化し、チャネルの長さLに対する圧力低下Δpは、
【0051】
【0052】
と導入され得る。
【0053】
この特定の場合、(6)を解くことによって、速度に対する平面ポアズイユの結果が得られる。矩形断面上で積分することによって、体積流量率Qと圧力低下との間の関係が見つけられる。
【0054】
これは、
【0055】
【0056】
を与える。
【0057】
電気回路との類似性により、流体力学的抵抗の概念は、最終的に、Q=RΔp←→U=Riであると考えることによって定義され得る。
【0058】
本発明の目標は、タンパク質の結晶化において最も広く使用されている、すなわち再生セルロースから作られたものから透析膜を一体化するマイクロ流体チップを設計する段階を伴う。このチップは、いくつかの制約条件も充足していなければならず、これは
- シンクロトロンで使用されるエネルギーにおいてX線を「透過する」材料から設計されなければならない(X線の著しい拡散または吸収を引き起こさない)、
- 生体物質と親和性がなければならない、
- おおよそ1マイクロリットルまたは1マイクロリットル未満と少ない量のタンパク質が含まれることを可能にしなければならない、
- 新しい条件の下で働くように結晶化方法の実装を可能にする溶液が導入され修正され得るチャネルを有していなければならない、
- 温度制御されなければならない。
【0059】
実際、本発明の目標は、結晶化成長の制御および最適化を可能にする既存の機器の小型化であるタンパク質の結晶化のためのマイクロ流体ツールを設計することである[国際出願第WO2012/035268号で説明されているデバイス]。
【0060】
本発明の目標は、使い勝手のよい設備で透析の方法を介して結晶化方法の実装を可能にする溶液の温度および化学組成の制御を組み合わせるタンパク質などの高分子の結晶化のための順次的マイクロ流体プラットフォームの開発であり、これはi)結晶化条件およびその最適化の調査、ii)実験的に決定された相図に基づきその場で行う結晶化の監視、iii)X線解析を介してその場で行う結晶の分析、およびiv)X線を介した同形結晶の「オンチップ」回折を介したタンパク質の構造の解決を考慮している。
【0061】
目標は、特に、微小透析と、温度の制御を介して結晶化を正確に可逆的に制御することである。これは特に、タンパク質および洗浄剤の両方が高価である膜タンパク質の結晶化に対する大きな利点をもたらす。そのようなデバイスは、立方相における結晶化に対しても極端に高価なものとなり、相の空間を深く理解することで、結晶を得る最良の方法を見つけることが可能になる。
【0062】
米国特許出願第2014/080206号では、比較例1に対応する方法により製造されたマイクロ流体チップを説明している。そのようなチップは、一体成形され、膜の周囲が封止されたままである少なくとも1つの部分を備える内壁を具備しない。しかしながら、このシステムは、チップ上に液体が注がれたときに膜が抵抗しない(剥がれた)ことが観察されたので満足の行くものではない。
【0063】
longuetらの論文、「spatially-controlled protein crystallization in microfluidic chambers」、journal of crystal growth、第386巻、179~182頁では、PDMSから作られたマイクロ流体チップを説明しており、ここでは、膜は、糊付けで封止された2つのブロックの間に維持される。そのようなチップは、一体成形され、膜の周囲が封止されたままである少なくとも1つの部分を備える内壁を具備しない。しかしながら、このシステムは、チップ上に液体が注がれたときに膜が抵抗しない(剥がれた)ことが観察されたので満足の行くものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【文献】国際出願第WO2012/035268号
【文献】米国特許出願第2014/080206号
【非特許文献】
【0065】
【文献】Skarzynski、2009年
【文献】Le Maireら、2011年
【文献】Judgeら、2005年
【文献】Deboisら、2013年
【文献】SONICC、Wamplerら、2008年
【文献】Kissickら、2011年
【文献】Heidari Khajepourら、2012年
【文献】Bingel-Erlenmeyerら、2011年
【文献】Axfordら、2012年
【文献】Ciprianiら、2012年
【文献】Pinkerら、2013年
【文献】Heymannら、2014年
【文献】Perryら、2014年
【文献】Yinら、2014年
【文献】Pineda-Molinaら、2012年
【文献】Maekiら、2012年
【文献】Squires & Quake、2005年
【文献】Vilknerら、2004年
【文献】Stoneら、2004年
【文献】Van der Woerdら、2003
【文献】Sauterら、2007
【文献】Kashchievら、1991年
【文献】Huangら、2015年
【文献】longuetら、「spatially-controlled protein crystallization in microfluidic chambers」、journal of crystal growth、第386巻、179~182頁
【文献】Escodaら、2010年
【文献】Savignac、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0066】
本発明の目的は、少なくとも1つの透析結晶化セル(dialysis crystallization cell)11を備えるマイクロ流体チップ1であり、前記セル11は
- PMMAから作られた基材1111と、
- 前記基材1111によって、およびセルの外壁1112によって少なくとも部分的に画成されるタンク111を備える第1のレベルであって、前記タンク111は結晶化方法が実装されることを可能にする溶液の入口用のチャネルおよび出口用のチャネルと流体連通する、第1のレベルと、
- 基材1111と接触することなくセルの内壁1113によって、およびタンク111と透析室113との間に界面を形成する透析膜112によって、少なくとも部分的に画成される透析室113を備え、内壁1113は前記膜112の周囲が封止されて保たれる少なくとも1つの一個片部分を備える、第2のレベルとを具備する。
【0067】
有利には、透析室は結晶化されるべき分子の溶液を収容し、そこで、透析室はPMMA1115から作られたポリマーの層によって封止される。
【0068】
有利には、チップの主表面1114上に開いている外壁1112と内壁1113との間の空間があり、そこで、この空間は、チップの表面で、流体1116の流れを制御するためのシステムにコネクタを介して接続される。
【0069】
透析膜は、有利には、セルロース、より有利には再生セルロースから作られる。
【0070】
透析室の容積は、有利には0.1から1μLの間である。本発明によるマイクロ流体チップ1は、有利には、行列の形で整列されている複数の透析結晶化セルを備える。
【0071】
本発明の目的は、本発明によるマイクロ流体チップ1を作製するための方法でもあり、これは次の連続する段階を含むことを特徴とする。
- 空気PLに対して透過性を有する架橋ポリマーから作られた2つの構造ブロックを作製し、それにより透析室を画成する上側部分およびチャネルとタンクとを画成するチップの下側部分の前記ポリマーPLから作られる3Dバッファを形成する段階、
- チャネルおよびタンクを伴う構造ブロック上に、1つまたは複数の乾燥透析膜を堆積する段階、
- チャネルのない構造ブロックを、膜が挟装されるようにチャネルを有する構造ブロックに対応する配置に置く段階、
- NOA81(登録商標)感光性樹脂を2つの構造ブロックの間の3つ面に堆積し、次いで、前記NOA81(登録商標)樹脂の架橋を開始する段階、
- 架橋樹脂から作られているアセンブリとともに構造ブロックの上側部分を、下側構造ブロックから両方とも一緒に剥がすことによって取り除く段階、
- PMMAの細長片で見えている部分(PLなし)を再封止する段階、
- 前記NOA81(登録商標)樹脂の架橋を最終化する段階、
- 最後の構造ブロックを取り除く段階。
【0072】
本発明の目的は、結晶化されるべき分子を結晶化するためのデバイスでもあり、これは
- 本発明による少なくとも1つのマイクロ流体チップと、
- 透析室内に、結晶化されるべき分子および任意選択で少なくとも1つのバッファを含む溶液S1を加えるように配置構成されている少なくとも1つの追加手段と、
- 結晶化剤のおよび/または添加剤および/またはバッファの、およびしたがってタンクの室へ通じているチャネル内で結晶化方法の実装を可能にする溶液の組成物の追加/予定されている取り出しのための少なくとも1つの手段と、
- タンク内の溶液の化学組成を制御するための少なくとも1つの手段、たとえば、バッファの濃度を変化させるために、結晶化剤および添加剤の投与のための手段と、
- 本発明によるマイクロ流体チップの温度を制御し、変化させるための少なくとも1つの手段と、
- 任意選択で、溶液S1中で結晶化されるべき分子の濃度を測定するための少なくとも1つの手段と、
- 少なくとも1つの画像収集手段とを備える。
【0073】
本発明の目的は、結晶化されるべき分子を結晶化するための方法でもあり、これは次の連続する段階を含むことを特徴とする。
a)結晶化されるべき分子を含む溶液S1が、本発明により定義されているようにマイクロ流体チップ1の透析室113内に加えられ、次いでカプセル化される。
b)必要ならば、溶液S2が前記マイクロ流体チップ1のチャネル内に連続注入され、前記溶液S2はバッファのみを含み、マイクロ流体チャネルにおける注入圧力は400mbar未満に維持される。
c)結晶化溶液S3が前記マイクロ流体チップ1のチャネル内に連続注入され、マイクロ流体チャネルにおける注入圧力は400mbar未満に維持される。
【課題を解決するための手段】
【0074】
結晶化溶液S3は、少なくとも1つの結晶化剤、および必要ならば1つまたは複数の添加剤、および任意選択でバッファを含む。方法の段階b)が実行されたときに、溶液S3は溶液S2のバッファおよび少なくとも1つの結晶化剤、必要ならば1つまたは複数の添加剤を含む。
【0075】
有利には、段階a)において、透析室は、PMMAの細長片、次いでKAPTON(登録商標)コーティングの堆積を介してカプセル化される。
【0076】
有利には、
- 段階a)において、必要ならば段階b)で、結晶化されるべき前記分子を含む透析室に収容される溶液は、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の濃度および温度のパラメータに従って確立される結晶化されるべき前記分子の相図の準飽和領域(溶解度曲線の下の領域)内にあるような第1の温度T1および結晶化されるべき分子の濃度C1を有する。段階b)において、溶液S2中に存在するバッファは、透析室内に収容されている溶液中に拡散し、結晶化されるべき分子はそのまま前記準飽和領域内にある。
- 段階c)において、前記結晶化溶液S3は、結晶化剤および必要ならば添加剤が透析室内に収容される溶液中に拡散するように、また結晶化されるべき分子が自然核形成領域内にあるか、または結晶化されるべき前記分子の相図の準安定領域の上限にあり、結晶化されるべき分子の種が出現するように、必要ならばバッファに加えて、少なくとも1つの結晶化剤および必要ならば1つまたは複数の添加剤を一定濃度Pで含む。
【0077】
そして、方法は、次いで、次の連続する段階を含む。
d)結晶化セル11の温度が、核生成が停止され、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の相図の準安定領域内にあるように、温度T2まで高められる。
e)段階c)で形成される結晶が多すぎる場合、結晶化セル11の温度が、結晶化されるべき分子が再び、溶解度曲線の真下の、準飽和領域内にあり、小さい結晶の過剰分が完全に溶解されるように温度>T2まで高められ得る。より大きいサイズを有するいくつかの選択された結晶は、完全な溶解を回避しながら部分的溶解を受け、次いで、温度を温度T2まで下げることで準安定領域内に成長する。
f)結晶種が、結晶のサイズが一定のままになる第1の平衡点E1が得られるまで温度T2で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C2となる。
g)結晶化セル11の温度が、透析室113内に存在する結晶が結晶化されるべき分子の相図の準安定領域内にまだあるように温度T3まで下げられる。
h)結晶種および結晶が、結晶のサイズが一定のままになる第2の平衡点E2が得られるまで温度T3で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C3となる。
i)段階f)からh)は、任意選択で繰り返される。
j)段階h)またはi)の後に得られる結晶を含むチップは、X線回折実験のためにその場で回収される。
【0078】
有利には、
- 段階a)において、必要ならば段階b)で、透析室に収容される溶液は、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の濃度および結晶化剤の濃度および必要ならば添加剤の濃度のパラメータに従って確立される結晶化されるべき前記分子の相図の準飽和領域(溶解度曲線の下の領域)内にあるような結晶化セル11の一定温度Tおよび結晶化されるべき分子の濃度C1を有し、段階b)において、溶液S2中に存在するバッファは、透析室内に収容されている溶液中に拡散し、結晶化されるべき分子はそのまま前記準飽和領域内にある。
- 段階c)において、前記結晶化溶液S3は、結晶化剤および必要ならば添加剤が透析室内に収容される溶液中に拡散するように、また結晶化されるべき分子が自然核形成領域内にあるか、または結晶化されるべき前記分子の相図の準安定領域の上限にあり、結晶化されるべき分子の種が出現するように、必要ならばバッファに加えて、少なくとも1つの結晶化剤および必要ならば1つまたは複数の添加剤を一定濃度P1で結晶化セルのタンク内に含む。
- 結晶の制御された自然核形成を得るために次の手順が使用される。流体の流れを制御するためのシステムを使用することで、濃度P1では数個の結晶しか形成されないように、結晶化溶液S3が結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度勾配で連続流内に注入される。
そして、方法は、次いで、次の連続する段階を含む。
d)結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度が、核生成が停止され、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の前記相図の準安定領域内にあるように、濃度P2に下げられる。
e)結晶種が、結晶のサイズが一定のままになる第1の平衡点E1が得られるまで結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度P2で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C2となる。
f)結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度が、結晶化セル11内に存在する結晶が結晶化されるべき分子の前記相図の準安定領域内にまだあるように濃度P3まで高められる。
g)結晶種および結晶が、結晶のサイズが一定のままになる第2の平衡点E2が得られるまで結晶剤および必要ならば添加剤の濃度P3で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C3となる。
h)段階d)からf)は、任意選択で繰り返される。
i)段階g)またはh)の後に得られる結晶を含むチップは、X線回折実験のためにその場で回収される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】本発明による透析結晶化セル11の図である。
【
図2】本発明による透析結晶化セル11の特定の実施形態の図である。
【
図4】比較例2による透析結晶化セルのタンパク質タンクを充填する段階を示す図である。交差は、閉じられた入口を表す。
図4A:結晶化されるべき分子を含む溶液の充填を示す図である。
図4B:セルが結晶化されるべき分子を含む溶液を充填されることを示す図である。
図4C:パラフィン油がセルの第1の側で循環している図である。
図4D:パラフィン油がセルの他の側で循環している図である。
【
図5】ペルチェ素子上に置かれている本発明によるマイクロ流体チップを示す図である。一方のペルチェモジュールと他方のペルチェモジュールとで、温度が異なり得る。1:本発明によるチップ-2 ペルチェモジュール-21:銅ブロック-211:水交換器-212:ペルチェ配線
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明の目的は、少なくとも1つの透析結晶化セル11を備えるマイクロ流体チップ1であり、前記セル11は
- PMMAから作られた基材1111と、
- 前記基材1111によって、およびセルの外壁1112によって少なくとも部分的に画成されるタンク111を備える第1のレベルであって、前記タンク111は結晶化方法が実装されることを可能にする溶液の入口用のチャネルおよび出口用のチャネルと流体連通する、第1のレベルと、
- 基材1111と接触することなくセルの内壁1113によって、およびタンク111と透析室113との間に界面を形成する透析膜112によって、少なくとも部分的に画成される透析室113を備え、前記内壁1113は前記膜112の周囲が封止されて保たれる少なくとも1つの一個片部分を備える、第2のレベルとを具備する。
【0081】
チップ1の必要な特徴は、これが光学顕微鏡法を介しておよびXRを用いた結晶の分析を介して高分子の結晶化の分析および監視を可能にするという点である。したがって、これは、少なくとも顕微鏡を通して観察されシンクロトロン放射線中に留置される領域内の、光学顕微鏡法およびX線に関して透明な材料からなるものでなければならない。
【0082】
チップの基材は、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))から作られる。PMMAは、光学顕微鏡法およびX線に対する透過性のために選択される。このポリマーは、また、結晶化されるべき高分子を含む溶液の堆積の後に透析室113を封止するためにも使用され得る。
【0083】
有利には、本発明によるマイクロ流体チップ1は、透析室は結晶化されるべき分子の溶液を収容すること、および透析室はX線および光学顕微鏡法に対して透過的なポリマー1115、PMMAから作られた層によって封止されることを特徴とする。
【0084】
この分子は、有利には高分子、より有利には生体高分子、特にタンパク質である。しかしながら、本発明によるチップおよび方法は、たとえばコロイド粒子または結晶化が困難である分子などの、他の分子にも使用され得る。
【0085】
PMMAは、3つの主要な利点を含む、多数の利点を有し、空気に対して透過的で不浸透性であり、強く、
- 非常に高い透明度を有し、非常にクリアである、
- 優れた光学特性を有する(ガラスよりも高く、近紫外線、透過性、透明度、明度までの光透過率)。屈折率は1.49であり、これはX線を透過する(X線の著しい拡散または吸収を引き起こさない)。
- 大気中作用物質に対する優れた抵抗性、
- 紫外線および腐食に対する優れた抵抗性。
【0086】
この基材上で、パターン、すなわち、タンク111、チャネル、透析室113は、有利には光学顕微鏡法に対して透過的である感光性樹脂から形成される。
【0087】
現在、NOA81(登録商標)が使用されている。Norland Optical Adhesive 81(登録商標)またはNOA81(登録商標)は、数秒以内に架橋する感光性樹脂である。これは透明であり、その利点は、この場合、高分子網目を構築するために使用される遊離基の重合を酸素が阻害することに由来する。この特性は、有利には複数のレベルを有するチップまたは接着剤カプトンの細かい層がその上に付着されるPMMAの薄細長片を使用して再封止されるべきチップを有することを可能にする。
【0088】
タンク111は、結晶化方法が実装されることを可能にする溶液を受け入れることを意図したものである。そのような溶液は、結晶化剤、添加剤、およびバッファからなる群から選択された少なくとも1つの成分を含む。
【0089】
本発明の文脈において、結晶化剤は、結晶化されるべき分子の結晶化を促進する作用物質を意味する。これらは、
- 硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、リン酸カリウムなどの塩、
- イソプロパノールおよび2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)などの有機化合物、
- PEG 4000、PEG 6000、またはPEG 8000などのポリエチレングリコール
であるものとしてよい。
【0090】
本発明の文脈において、添加剤は、結晶化されるべき分子の安定性および/またはその立体構造の均質性が高められることを可能にする成分を意味する。これらは、洗浄剤、還元剤、基材、およびn-アルキル-グルコシドまたはn-アルキル-マルトシド、ジチオトレイトール(DTT)、脂質、サブユニット、または補欠分子団などの補因子であってよい。
【0091】
本発明の文脈において、バッファは、これが添加された溶液が固定pHに維持されることを可能にする成分を意味する。これは、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(これ以降「MES」と略す)、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(これ以降「Tris」と)略す)、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(「Bicine」と略す)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(「Hepes」と略す)、またはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、もしくはカコジル酸ナトリウムであってよい。
【0092】
結晶化方法が実装されることを可能にする溶液は、有利には塩を含む。実際、塩の存在下で中性溶質(たとえば、PEG)が膜を通って移動することは、単独で溶液中にあるときにその移動に関して著しい影響を受けることが明らかにされた(Escodaら、2010年、Savignac、2010年)。塩析または細孔膨張(pore swelling)の効果は、透析法では考慮されなければならないが、それは、これらの方法で使用される溶液が塩を含む、特に高い塩濃度である場合に、PEGなどの中性溶質の立体排除に影響を及ぼし得るからである。
【0093】
タンク111は、結晶化方法の実装を可能にする溶液が、有利には連続流の形態で循環することを可能にする入口チャネルおよび出口チャネルと連通している。チップ1が複数の透析結晶化セル11を含むときに、後者は互いに接続されるものとしてよく、したがって、様々なタンク111は同じ主チャネルによって接続される。
【0094】
結晶化方法の実装を可能にする溶液は、有利には、完全なマイクロ流体の組み立てが実行された後に、流量または課される圧力を介してタンクへの流体の流れを制御するためのシステムを使用して連続流として注入される。
【0095】
結晶化方法において、マイクロ流体チャネルのところで維持される注入圧力は、有利には、400mbarであり、これは有利には100から300mbarまで変化する。注入圧力が400から450mbarよりも大きい場合、透析膜の破れまたは剥がれが生じる危険性がある。
【0096】
透析膜は、有利にはセルロース(たとえば、クプロファン、すなわち、再生セルロースから作られる)、酢酸セルロース、ヘモファン、または合成変性セルロースなどの変性セルロースから作られる。
【0097】
セルロースから作られた膜は、薄いこと、低分子量の物質の排除を可能にする直径の小さい細孔、低いコスト、高い化学反応性(水酸基を有するので)、低い生体適合性を特性として有する。
【0098】
変性セルロースは、化学反応性が低いこと、良好な生体適合性、水酸基の置換、細孔のサイズの増大、透水率の増大、分子量の大きい物質を排除することを特性として有する。
【0099】
標準的な再生セルロース(RC)は、コットンリンターから天然セルロースのポリマーからなるので、これらの膜は、広範な実験室透析に完全に適している。対称的な多孔性を有するこのタイプの透明で柔軟な膜は、経済的で強く、脱塩、バッファ交換、高分子精製、および他の一般用途にとって理想的である。この広範囲にわたる化学的適合性により、標準的なRC膜は、希釈された強酸および塩基、濃縮された弱酸および塩基、ほとんどのアルコールおよび特定の媒質またはDMSOを含む希釈された溶媒とともに使用され得る。RCは、2から12のpH、および4℃から121℃の間温度で使用され得る。
【0100】
有機膜の場合、多孔質構造は、ポリマー鎖の間に空間が生じる結果として得られる。膜の多孔度は、マトリックスの全体積に関する何もない空間の体積の比として定義される。この値は、マトリックスの基本的な成分のサイズに依存するが、膜を作製する方法にも依存する。多孔質膜は、高い浸透流量をもたらすことができる一方で非常に良好な機械的強度を有していなければならない。分離は、立体効果(すなわち、保持されるべき化学種のサイズによる区別)に依存するが、膜材料の化学的性質から結果として得られる電荷の効果にも依存する。
【0101】
本発明の文脈において、膜の多孔度は、結晶化されるべき分子のサイズに応じて選択される。透析膜は、結晶化剤の通過を許さなければならないが、結晶化されるべき分子を阻止しなければならない。
【0102】
膜は、内壁1113内に、有利にはNOA81(登録商標)樹脂内に、有利には化学的接着なしで一体化される。後で述べる圧力において、膜の細孔に漏れも変性も観察されない。
【0103】
本発明の意味において、膜の周囲は、内壁の一個片部分内に封止されるが、これは膜の周囲が単一ブロック内に挿入されることを意味し、これは有利には鋳込まれた樹脂の架橋の際に形成される。この実施形態は、膜が互いに押し付けられた状態に維持される2つの異なるブロックの間に捕捉された状態に維持される2つの実施形態、または膜がブロック上に堆積される実施形態とは正反対である。本発明において、膜の周囲の上相および下相は、内壁の同じ一個片部分内に、すなわち、有利には、鋳込まれた樹脂の架橋時に形成される単一ブロック内に、封止される。
【0104】
したがって、「一個片部分」は、モノリシック部分、すなわち、2つの最初に異なっている部分の接着または組み立てから結果として得られない、部分を意味する。
【0105】
透析室113は、有利には溶液S1の形態で、結晶化されるべき分子を受け入れることを意図したものである。この分子は、有利には高分子である。
【0106】
また、本発明の文脈において、高分子は、数千ダルトンから数十万ダルトンの分子量を有する分子を意味する。これらは、DNAもしくはRNAの核酸、ウイルスの断片、タンパク質、タンパク質複合体、タンパク質-RNA複合体、タンパク質-リガンド複合体、またはポリペプチドの配列であってよい。さらに、本発明は、コロイド粒子などの他のタイプの分子の結晶化に適用されることにも成功し得る。
【0107】
有利には、結晶化されるべき分子は、DNAもしくはRNAの核酸、ウイルスの断片、タンパク質、特に膜タンパク質、タンパク質複合体、タンパク質-RNA複合体、タンパク質-リガンド複合体、またはポリペプチドの配列から選択される。
【0108】
本発明によるチップは、膜タンパク質および高分子複合体などの結晶化が困難であるタンパク質の結晶化に、または結晶の回折品質の最適化がいぜんとして困難であるプロジェクトに、特に適している。
【0109】
本発明の文脈において結晶化されたタンパク質の一例は、鶏卵の卵白のリゾチームである。
【0110】
たとえば、リゾチームは、100mMの濃度でバッファ、すなわち、酢酸ナトリウム中に可溶化される。これは、溶液のpHを4に維持することを可能にする。リゾチームの濃度は、30mg/mLである。結晶化方法の実装を可能にする溶液は、0.9MのNaCl、およびpHが4である100mMの酢酸ナトリウムのバッファを含む溶液である。
【0111】
結晶化されるべき分子の溶液の堆積が生じた後、透析室113は、有利には、XRに対して透過的なポリマー、有利にはPMMAの層によって封止される。
【0112】
チップの主表面1114上に開いている外壁1112と内壁1113との間の空間は、有利には、流体1116の流れを制御するために、チップの表面に配置されているコネクタを介してシステムに接続される。このコネクタを介して、結晶化剤の溶液は、チップ内に注入され得る。このコネクタは、エラストマーまたは金属(たとえば、針)から作られるものとしてよい。この表面は、XRを介して分析されず、したがって、XRに対して透過的でない材料を使用することが可能である。
【0113】
透析室を保護するために、結晶化されるべき高分子を含む溶液を導入し、有利にはPMMAの層を堆積した後、たとえば、KAPTON(登録商標)から作られた、接着剤の追加の層1116を堆積することが可能である。このKAPTON(登録商標)接着剤層は、空気に対する透析室の不浸透性を保証する。
【0114】
KAPTON(登録商標)は、広い温度範囲にわたって安定したままであり得るDuPont社によって開発されたポリイミド(イミドを含有するポリマー)のフィルムである。
【0115】
【0116】
透析室の容積は、有利には0.1から1μLの間である。
【0117】
タンクの容積は、透析室の容積と同じである。有利には、その内容物は、数百さらには数千倍を超える体積に達するために、また透析方法を改善するために連続流を介して回復される。
【0118】
「XからXXまでの間にある」という表現を使用するので、端点XおよびXXは含まれる。
【0119】
本発明の有利な代替的形態によれば、マイクロ流体チップは、行列の形で整列されている複数の透析結晶化セルを備える。
【0120】
したがって、一方の行から別の行へ、沈殿溶液中の結晶化剤および/または添加剤の濃度を変化させ、一方の列から別の列へ、温度を変えることが可能である。したがって、濃度一定での温度の効果、または温度一定での濃度の効果、または温度および濃度の変化の組合せ効果を分析することが可能である。
【0121】
一方のセルから別のセルへの温度を変化させられることを可能にするために、結晶化デバイスは、マイクロ流体チップ1のほかに、温度を制御するためのシステムを備え、温度が制御され、変化することを可能にし、特に、一方の列と別の列とで異なる一定温度が適用されることを可能にする。本発明の一実施形態において、温度を制御するためのシステムは、ペルチェ技術に基づく。これは、熱電モジュールとも呼ばれる、ペルチェ効果セル(PEC)であってよい。そのような例が、
図5に示されている。
【0122】
本発明の目的は、本発明によるマイクロ流体チップ1を作製するための方法でもあり、これは次の連続する段階を含むことを特徴とする。
- 2つのPDMS構造ブロックを作製し、それにより透析室を画成する上側部分およびチャネルとタンクとを画成するチップの下側部分のPDMSから作られる3Dバッファを取得する段階、
- チャネルおよびタンクを伴うPDMSのブロック上に、1つまたは複数の乾燥透析膜を堆積する段階、
- チャネルのないPDMS構造ブロックを、膜が挟装されるような仕方でチャネルを有するPDMSのブロックに対応する配置に置く段階、
- PDMSの2つのブロックの間の3面上にNOA81(登録商標)を堆積する段階、
- NOA81(登録商標)の架橋を開始する段階、
- NOA81(登録商標)から作られているアセンブリとともにPDMSで作られている上側部分を、PDMSの下側ブロックから両方とも一緒に剥がすことによって取り除く段階、
- PMMAの細長片で見えている部分(PDMSなし)を再封止する段階、
- NOA81(登録商標)の架橋を最終化する段階、
- PDMSの最後のブロックを取り除く段階。
【0123】
NOA81(登録商標)の架橋を開始する段階は、NOA81(登録商標)が最低でも硬化している間に操作され得る材料を取得するように十分に重合されることを可能にしなければならない。実際、樹脂中の膜の接着および膜の良好な凝集を可能にするために可能な限り少ない架橋でなければならない。方法は、膜が樹脂中に一体化されることを特徴とする。これは、したがって、非化学的接着と呼ばれ得る。樹脂の追加の架橋時間が続くPMMAの細長片の後での追加は、膜の接着を助ける。
【0124】
ポリ(ジメチルシロキサン)は、PDMSとも呼ばれ、目に対して透過的な粘稠液の形態をとるポリマーである。その化学式は、
【0125】
【0126】
として示されている。
【0127】
架橋(固化)した後、これは、空気に対して透過性を有し、十分な弾性を有するという詳細を有する。
【0128】
Dow Corningからの2タイプのPDMS、RTV-615 PDMSおよびSylgard 184 PDMSがある。両方の場合において、それを架橋剤と混合し、次いで、それを加熱して、材料の架橋を活性化する必要がある。混合は、一般的に、1:10(架橋剤:PDMS)の重量比で実行されるが、この比は、PDMSの使用に応じて変わり得る。
【0129】
本発明の目的は、結晶化されるべき分子を結晶化するためのデバイスでもあり、これは
- 本発明による少なくとも1つのマイクロ流体チップと、
- 透析室内に、結晶化されるべき分子および任意選択で少なくとも1つのバッファを含む溶液S1を加えるように配置構成されている少なくとも1つの追加手段(上で説明されているように、透析室のカプセル化を介したチップの最終化)と、
- 任意選択で、本発明によるマイクロ流体チップの温度を制御し、変化させるための少なくとも1つの手段と、
- 任意選択で、結晶化剤のおよび/または添加剤および/またはバッファの(およびしたがってタンクの室へ通じているチャネル内で結晶化方法の実装を可能にする溶液の化学組成物の)追加/予定されている取り出しのための少なくとも1つの手段と、
- 任意選択で、タンク内の溶液の化学組成を制御するための少なくとも1つの手段、たとえば、バッファの濃度を変化させるために、結晶化剤および添加剤の投与のための手段と、
- 少なくとも1つの画像収集手段とを備える。
【0130】
追加手段および/または取り出し手段があるので、タンク内に注入された溶液が含む成分(結晶化剤、添加剤、バッファ)の性質およびこれらの成分の濃度は、結晶化の際に変わり得る。タンク内に注入される溶液の組成は、結晶化を実行する操作者によって正確に調整され得る。タンク内に注入される溶液の組成のバリエーションを決定するために、操作者は、特に、結晶化されるべき分子の相図に従って決定された物理化学的概念を参照する。
【0131】
結晶化方法の実装を可能にする溶液は、有利には、完全なマイクロ流体の組み立てが実行された後に、流量または課される圧力を介してタンクへの流体の流れを制御するためのシステムを使用して連続流として注入される。
【0132】
本発明による結晶化デバイスがあるので、核生成および結晶成長の最適化は、透析法を結晶化の際に実行される結晶化パラメータ(温度、結晶化されるべき分子の濃度、およびタンク内に注入される溶液の組成)の制御に基づき操作者によって決定されるタンク内に注入される溶液の温度および組成の正確な変化とを組み合わせることによって達成され得る。
【0133】
したがって、本発明は、結晶化のための単一プラットフォームを提供し、すべてのパラメータおよびその自動化の正確な制御を可能にし、マイクロ流体技術を介した微細化のプロセスを促進する。本発明を実施する段階は、生物学的プロセスのマルチスケールアプローチにおける重要段階である、生体高分子の3次元構造を決定するコストを著しく軽減する。
【0134】
結晶化方法の実装前に、本発明によるマイクロ流体チップを調整することが可能である。たとえば、クリーニングのためにチップをプラズマ中に液体なしで置き、(たとえば真空ポンプを使用することによって)真空にし、室から空気を排出し、次いで、所望の圧力に達した後(本発明の文脈では、0.7mbarの真空が適切である)電気コイルがプラズマを発生させることが可能である。プラズマは、電子、イオン、および中性の原子もしくは分子からなる部分的電離したガスである。プラズマは、一緒にされたときに、永久的結合を形成することができるいくつかの材料(たとえば、ガラスおよびPDMS)の表面上に反応種を生成する。本発明の文脈において、プラズマは膜の表面を、親水性湿潤を円滑にするように変換し、液体の追加を円滑にする。さらに、プラズマは、マイクロ流体デバイスを滅菌する。チップは、たとえば、1分間、プラズマで処理されてよい。
【0135】
チップの事前調整は、膜の表面の湿潤性が高められ、結晶化されるべき分子の溶液との良好な接着が保証されることを可能にする。
【0136】
本発明は、結晶化されるべき分子を結晶化するための方法にも関係し、これは次の連続する段階を含むことを特徴とする。
a)結晶化されるべき分子を含む溶液S1が本発明によるマイクロ流体チップ1の透析室113内に加えられ、次いで有利には透析室113が封止される。
b)必要ならば、溶液S2が前記マイクロ流体チップ1のチャネル内に連続注入され、前記溶液S2はバッファのみを含み、マイクロ流体チャネルにおける注入圧力は400mbar未満に維持される。
c)結晶化溶液S3が前記マイクロ流体チップ1のチャネル内に連続注入され、マイクロ流体チャネルにおける注入圧力は400mbar未満に維持される。
【0137】
結晶化溶液S3は、少なくとも1つの結晶化剤、および必要ならば1つまたは複数の添加剤、および任意選択でバッファを含む。方法の段階b)が実行されたときに、溶液S3は溶液S2のバッファおよび少なくとも1つの結晶化剤、および必要ならば1つまたは複数の添加剤を含む。
【0138】
段階b)において、溶液S2中に存在するバッファは、透析室内に収容されている溶液中に拡散する。
【0139】
段階b)の前に、バッファは、特に溶解度パラメータを考慮しながら、結晶化されるべき分子に応じて選択される。段階a)では、透析室113は、有利には、カプセル化を介して、すなわち、PMMAの細長片などの層1115の体積を介して封止される。
【0140】
段階a)の後、および有利には、溶液がタンク内に注入された後に、透析室113、および有利にはPMMA1115の層は、有利にはKAPTON(登録商標)接着剤1116の層でコーティングされる。
【0141】
この方法では、結晶化セルのタンク内に注入された溶液の組成は、この方法において結晶化剤の、必要ならば添加剤の、任意選択でバッファの必要量に従って十分に変わる(または言い替えれば、調整される)ものとしてよい。したがって、化学的な仕方で、結晶化の際に変化し得るが、それは、透析膜を通じて、注入された溶液の成分を拡散させるからである。
【0142】
本発明による方法は、溶液の濃度または各透析結晶化セル11内の温度で沈殿させることによって濃度を変化させる。結晶化方法の第1の代替的形態によれば、直接的可溶性(タンパク質の溶解度は温度とともに上昇する)を有するタンパク質系の場合、
- 段階a)において、必要ならば段階b)で、透析室に収容される溶液は、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の濃度および結晶化剤の濃度および必要ならば1つまたは複数の添加剤のパラメータに従って確立される結晶化されるべき前記分子の相図の準飽和領域(溶解度曲線の下の領域)内にあるような結晶化セル11の一定温度Tおよび結晶化されるべき分子の濃度C1を有し、段階b)において、溶液S2中に存在するバッファは、透析室内に収容されている溶液中に拡散し、結晶化されるべき分子はそのまま前記準飽和領域内にある。
- 段階c)において、前記結晶化溶液S3は、結晶化剤および必要ならば添加剤が透析室内に収容される溶液中に拡散するように、また結晶化されるべき分子が自然核形成領域内にあるか、または結晶化されるべき前記分子の相図の準安定領域の上限にあり、結晶化されるべき分子の種が出現するように、必要ならばバッファに加えて、少なくとも1つの結晶化剤および必要ならば1つまたは複数の添加剤を一定濃度Pで含む。
【0143】
そして、方法は、次いで、次の連続する段階を含む。
d)結晶化セル11の温度が、核生成が停止され、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の相図の準安定領域内にあるように、温度T2まで高められる。
e)段階c)で形成される結晶が多すぎる場合、結晶化セル11の温度が、結晶化されるべき分子が再び、溶解度曲線の真下の、準飽和領域内にあり、小さい結晶の過剰分が完全に溶解されるように温度>T2まで高められ得る。より大きいサイズを有するいくつかの選択された結晶は、完全な溶解を回避しながら部分的溶解を受け、次いで、温度を温度T2まで下げることで準安定領域内に成長する。
f)結晶種が、結晶のサイズが一定のままになる第1の平衡点E1が得られるまで温度T2で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C2となる。
g)結晶化セル11の温度が、透析室113内に存在する結晶が結晶化されるべき分子の相図の準安定領域内にまだあるように温度T3まで下げられる。
h)結晶種および結晶が、結晶のサイズが一定のままになる第2の平衡点E2が得られるまで温度T3で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C3となる。
i)段階f)からh)は、任意選択で繰り返される。
j)段階h)またはi)の後に得られる結晶を含むチップは、X線回折実験のためにその場で回収される。
【0144】
結晶化方法の第2の代替的形態によれば、
- 段階a)において、必要ならば段階b)で、透析室に収容される溶液は、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の濃度および結晶化剤の濃度および必要ならば添加剤のパラメータに従って確立される結晶化されるべき前記分子の相図の準飽和領域(溶解度曲線の下の領域)内にあるような結晶化セル11の一定温度Tおよび結晶化されるべき分子の濃度C1を有し、段階b)において、溶液S2中に存在するバッファは、透析室内に収容されている溶液中に拡散し、結晶化されるべき分子はそのまま前記準飽和領域内にある。
- 段階c)において、前記結晶化溶液S3は、結晶化剤および必要ならば添加剤が透析室内に収容される溶液中に拡散するように、また結晶化されるべき分子が自然核形成領域内にあるか、または結晶化されるべき前記分子の相図の準安定領域の上限にあり、結晶化されるべき分子の種が出現するように、必要ならばバッファに加えて、少なくとも1つの結晶化剤および必要ならば1つまたは複数の添加剤を一定濃度P1で結晶化セルのタンク内に含む。
- 結晶の制御された自然核形成を得るために次の手順が使用される。流体の流れを制御するためのシステムを使用することで、濃度P1では数個の結晶しか形成されないように、結晶化溶液S3が結晶化剤の、および必要ならば添加剤の濃度勾配で連続流内に注入される。
そして、方法は、次いで、次の連続する段階を含む。
d)結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度が、核生成が停止され、結晶化されるべき分子が結晶化されるべき分子の前記相図の準安定領域内にあるように、濃度P2に下げられる。
e)結晶種が、結晶のサイズが一定のままになる第1の平衡点E1が得られるまで結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度P2で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C2となる。
f)結晶化剤および必要ならば添加剤の濃度が、結晶化セル11内に存在する結晶が結晶化されるべき分子の前記相図の準安定領域内にまだあるように濃度P3まで高められる。
g)結晶種および結晶が、結晶のサイズが一定のままになる第2の平衡点E2が得られるまで結晶剤および必要ならば添加剤の濃度P3で成長するままにされ、到達する透析室内に収容される溶液中の結晶化されるべき分子の濃度がこうして濃度C3となる。
h)段階d)からf)は、任意選択で繰り返される。
i)段階g)またはh)の後に得られる結晶を含むチップは、X線回折実験のためにその場で回収される。
【0145】
これらの方法は、チップに含まれる結晶化の異なるセル11内において、チップ1上で平行に使用され得る。
【0146】
次の例は、制限することなく本発明を例示している。
【0147】
(実施例)
次の方法が使用された。
【0148】
SU8型の設計:
ここで、2つのレベルを有するSU8から作られた型を製作するためのプロトコルが説明される。次いで、この型は、PDMSから作られた構造ブロックの準備に使用される。
【0149】
リソグラフィ用のマスクの設計:
SU8から作られた型を製作するために、型のパターンを定義するために使用される1つまたは複数のマスクがなければならない。このために、ソフトウェアCleWin3が使用された。これは、ネガまたはポジで透明シート上に印刷され得るチャネル網を設計することを可能にする。複数のマスクが同じチップに対して作製される場合、複数の層を有する型を製作することが可能である。
【0150】
マスクを容易に整列させるための技術は、一方のレベルでは正方形を、別のレベルではより小さい正方形を作図することによってclewinで使用されるものとしてよく、したがって整列時に、正方形は単純に重ね合わされなければならない。
【0151】
SU-8:
SU8は、粘性液の形態のポリマーであるネガ型感光性樹脂である。架橋のプロセスをトリガするために、これはUVに露光され、次いで加熱されなければならない。加熱した後、これは、PGMAの槽内で現像されなければならない。すべての露光部分が固化され、未露光部分は現像とともに見えなくなる。その化学式は、
【0152】
【0153】
として示されている。
【0154】
SU8は、特にシリーズSU8-20XXおよびSU8-30XXを含む、様々なシリーズで存在する。樹脂は、露光される前にスピンコータ上に広げられる。選択された樹脂および望まれているSU8の厚さにより、製造者によって提供されるプログラムは異なる。この樹脂は、一般的に、型設計で使用されるが、完全なチップを製造するためにも使用され得る。
【0155】
型の設計:
まず第一に、SU8 3000は、周囲温度になるように、冷蔵庫から早めに、好ましくは1時間前から2時間前の間に取り出されなければならない。
【0156】
かなり頻繁に行われる第1の段階は、イソプロパノール、アセトン、次いで再びイソプロパノールを使用してシリコンのウェハをクリーニングすることである。次いで、ウェハの表面は、表面の湿潤性を高めるためにプラズマで活性化され、SU8との良好な接着を保証しなければならない。このために、ウェハは、高露出(High Exposure)でプラズマ内に45秒間置かれなければならない。最大500mTorrまでの真空を発生させる。真空が500mTorrと1000mTorrの間で振動するように少量の窒素を中に入れる。
【0157】
ウェハをスピンコータ(SPIN150)上に置き、センタリングする。1mLのSU8を置き、SPIN150を、所望の高さとなるように調整する(Microchem SU-8 3000プロトコルを参照)。
【0158】
ウェハ+SU8を回収して、それを加熱する(「ソフトベーク(Soft Bake)」、Microchem SU-8 3000プロトコル参照)。時間は、厚さに依存する。SU8 2000樹脂では、樹脂のひび割れを回避するために65℃の温度安定期が必要であることに留意されたい。SU8 3000の文脈では、この安定期は必要でない。しかしながら、すべての加熱について、樹脂を最高温度で直接堆積する段階は回避される。ホットプレートから1~2cm上の配置が取られ、最終温度でプレート上にウェハを完全に置く前に1分が経過する。冷却するのを待つ(5~15分)。
【0159】
アライナー上で上記の正しい方向に書き込みがあるように第1のマスクをガラスプレート(下)上に貼り付ける。
【0160】
UV照射器内にプレートを置き、ウェハをこのプレートの下に置く。
【0161】
WEC(ウェッジエラー補償)は、最初に、低減されなければならず、次いで、ウェハ、専用レバーを使用して持ち上げられなければならない。次のものは、WECの調整に関係する。プログラムの「Settings」→「WEC settings」でWECを調整する。調整が完了するまでWECのボタンを使用することによってプレートを上げる。
【0162】
次いで、「位置合わせおよび露光(Align and expose)」を、オプション「ソフトコンタクト(Soft Contact)」および露光時間とともに、プロトコル(Microchem SU-8 3000プロトコル参照)に従って選択する。これを行うために、ランプの1cm2当たりの出力に露光時間を掛けて、堆積される1cm2当たりのエネルギーを求めなければならない。10秒の時間が適用される35mW/cm2の出力により350mJ/cm2を得るための例:35mW/cm2×10s=350mJ/cm2。
【0163】
「露光後ベーク(Post exposure bake)」のためにウェハを回収する。プロトコル(Microchem SU-8 3000プロトコル参照)で示される時間。パターンの出現は、15秒の加熱から始めて観察される。
【0164】
次の段階は、SU8の新しい層上の始まりからすべての段階を再開する段階を伴う(加熱後に少し休ませた後)。
【0165】
UVへの露光の段階に到達した後、修正がある。
【0166】
マスクを整列させ、これのために、おおよそでよいから、第2のマスクを前のと同様に可能な限りよい位置に置く。SU8のブロックがマスクに固着しないようにWECを「少し」下げる。
【0167】
顕微鏡を下げる(「microscope is down」が表示されるであろう)。全体的焦点距離、各顕微鏡の2つの独立した焦点距離、xおよびy位置、各顕微鏡の独立したx位置、zに沿った2つの顕微鏡の回転を調整することによって顕微鏡を左および右に整列させる。
【0168】
この調整が行われた後、ウェハを上げて、新しいマスクを通じてSU8内のパターンを観察する。目標は、整列マークを重ね合わせることによってCleWin3の作図ヒントを使用することである。
【0169】
上記と同じ手順を介してWECを上げる。
【0170】
好適な時間の間露光し、「露光後ベーク」で加熱し、PGMEAで現像する(警告、ドラフトの中で作業すること!)(Microchem SU-8 3000プロトコル参照)。
【0171】
警告:現像しすぎないこと。現像しすぎると、SU8の剥がれが生じ得るが、それでも白色マークが出ない十分な現像でなければならない。プロセスを停止するために、槽から水を取り出し、イソプロパノールを「ふんだんに」施す。窒素で乾かす。
【0172】
リソグラフィの分析:
リソグラフィの厚さは、Dektak表面形状測定装置で分析された。装置は、興味深いことに65μmまたは252μmであってよい2つの範囲最大値を有する。次いで、分析されるべき長さ、分析時間、および「丘」または「谷」であることを意図された表面形状のタイプが選択されなければならない。
【0173】
(実施例1)
本発明によるマイクロチップ
複数の条件の並行しての使用を可能にし、温度勾配による試験を可能にする設計がなされた。
【0174】
結晶化方法の実装を可能にする溶液は、チャネル内に導入され、タンパク質は、チップの「上から」直接タンク内に堆積される。
【0175】
このチップでは、タンパク質をカプセル化することは望ましくないが、結晶化方法の流れの実装を可能にする溶液を手で、またはロボットを使用することによって現在堆積されているタンパク質のカプセル化を損ねるほど連続的に流させることが望ましい。タンパク質の溶液からの蒸発を防ぐために、透析室は、有利には、カプセル化を介して、すなわち、KAPTON(登録商標)接着剤の層でコーティングされたPMMAの層の堆積を介して素早く封止されるか、またはチップを充填する手順全体が、制御された大気(湿度レベルおよび温度)の下で室の中で実行されなければならない。
【0176】
本発明によりチップを調製するためのプロトコルは、以下に説明されている。
【0177】
まず最初に、PDMSから作られた2つの構造ブロックが製作される。これらのブロックは、従来の方法を介して準備され得る。たとえば、次の方法が使用され得る。
【0178】
PDMSから作られた構造ブロックを準備するための方法:
類似する特性を有する2タイプのPDMFS、すなわち、Dow Corning社のSylgard 184およびBayer Silicones社のRTV 615がある。
【0179】
PDMS:架橋剤の、質量に関する10:1の比で混合する(一般に、ペトリ皿では、20g:2g)。
【0180】
気泡を均質化し形成するような仕方で棒を使い混合物を攪拌する。
【0181】
完全にガス抜きされるまですべてを真空ベルジャーの下に置く。泡をたてて、次いで10~20分待つ。より強い真空の下に置き、徐々にガス抜きする。最後に、気泡が消えるのを待つ。
【0182】
PDMSを型内に注ぎ込む。
【0183】
炉内に約1時間残す。
【0184】
型はSU8型であり、その準備方法は例の前置きのところで説明されている。
【0185】
チップの上側部分と下側部分のPDMSから作られた3Dバッファを得るために、PDMSの2つのブロックが製作される。
【0186】
ブロックをチャネルとともにガラススライド上に置く。
【0187】
乾燥透析膜(または幾何学的形状により複数)をチャネルとともにPDMSのブロック上に置く。透析室の容積は0.7μLであり、チャネルの高さは100μmであり、チャネルの幅は500μmである。
【0188】
膜が配置されるPDMSのブロックは、そこに載るブロックよりも大きくなければならない。
【0189】
チャネルのないブロックを、膜が挟装されるような仕方でチャネルを有するブロックに対応する配置に置く。
【0190】
アセンブリを30分間、真空ベルジャーの下に置く。
【0191】
アセンブリを回収し、次いでPDMSの2つのブロックの間の空間内の3面上にNOA81(登録商標)を堆積する。
【0192】
毛管現象を介してNOA81(登録商標)で空間を埋める。
【0193】
空間が埋められた後(数分)、アセンブリをUVランプの下に置く。
【0194】
フラッド露光を6秒間実行する(ランプ35mW/cm2、λ385nm)(または210mJ/cm2の露光)。
【0195】
NO81(登録商標)でいっぱいにされたものを切断する。
【0196】
NOA81(登録商標)から作られているアセンブリとともにPDMSで作られている上側部分を、PDMSの下側ブロックから両方とも一緒に剥がすことによって取り除く。
【0197】
気泡を徐々に排出しながらPMMAの細長片で「見えている」部分(PDMSなし)を再封止する。この段階の警告は長くなることがあるが、それは、気泡を捕捉しないためには忍耐強くなければならないからである。
【0198】
フラッド露光、60秒(同じランプ条件)。
【0199】
PDMSの最後のブロックを取り出す。
【0200】
次いで、洗浄ビンを使用して、イソプロパノール、アセトン、次いで再びイソプロパノールをふんだんに施すことによってバッファをクリーニングする。スコッチテープを使用して、残っている可能性のあるマークを取り除く。
【0201】
膜が堆積されるこの段階において、PDMSの2つのブロックは対応する配置になければならない。しかしながら、実際には、特にチップのパターンはより複雑になるので、完全に対応させることは非常に困難であるか、不可能であることすらある。このような理由から、2つのブロックが、最初に裸眼で整列され、次いで、光学顕微鏡で整列される。しかしながら、2つの部分の間の有害でないオフセットはそれでも残る。
【0202】
比較例1:内壁の高さにおける非一体化膜を有するマイクロチップ
この方法では、PDMSの単一の構造ブロック、すなわち、チャネルおよびタンクが画成されることを可能にするブロックが使用される。
【0203】
これの前に、そのリソグラフィが準備されていなければならず、架橋PDMSがその上に堆積されていなければならない。剥き出しのウェハ上に注がれたPDMSの第2のブロックが必要である。
【0204】
成形ウェハとパターンを有するブロックより大きいPDMSの「フラット」ブロックとからPDMSを切断する。上記から、それ自体ガラススライド上に置かれている、PDMSのフラットブロック上の中心タンクのサイズにほぼ等しい透析膜を堆積する。中心孔および膜を対応する配置に置くことによって上記のパターンとともにPDMSのブロックを置く。30分間ガス抜きして、次の段階を円滑にする。
【0205】
毛管現象を介して中に入れるためにチップの縁の3にNOA81を導入する。次いで、「フラッド露光」モードで6秒間露光する。アセンブリを回収し、PDMSの上側ブロックを剥ぎ取る(パターンのあるもの)。NOA81でいっぱいにされたものを切断する。ガラスを上に置き、アセンブリを「フラッド露光」モードで60秒間露光する。PDMSからガラススライドを剥ぎ取る。
図3に示されているようなシステムが得られる。
【0206】
しかしながら、このシステムは、チップ上に液体が注がれたときに膜が抵抗しない(剥がれる)ことが観察されたので満足の行くものではない。
【0207】
比較例2:結晶されるべき分子のカプセル化を行うマイクロチップ
上述のすべての目標を達成するために、チャネル内の流れの特性および特にチャネルのサイズが縮小されたときの流体力学的抵抗の増大を使用することを伴う、第1の設計が企図された。
【0208】
したがって、このチップは、タンパク質を、保護するために、特に蒸発を防ぐためにカプセル化することが望ましいという点で異なる。
【0209】
チップは、2つのレベルで作られ、したがって、2つのマスクを有する必要がある。チャネルは、幅0.5mmの寸法を有し、中心タンク内への入口に対する穴のチャネル長は約18.6mmである。中心タンクへの供給を行うチャネルは、幅0.4mm、長さ0.1mmである。中心タンクは、3mmの直径を有する。2つの異なるリソグラフィが実行されたが、第1のリソグラフィは1層当たり50μmのSU8の高さ、すなわち、合計100μm、第2のリソグラフィは50μmの全厚に対して1層当たり25μmを有する。
【0210】
この設計は、
図4の図に従ってタンパク質を送達することを目標として選択された。
【0211】
第1に、タンクはタンパク質を充填されなければならない。このために、2つの筋向かいの入口が閉じられ、液体が導入される。タンクが充填された後、同じ側に配置されている2つの入口が閉じられ、パラフィン油が注入され、チップの一方の側を「閉じる」。このプロセスは、チップの他方の側について繰り返される。結局、一滴のタンパク質が中心タンク内にカプセル化されているべきである。
【0212】
理論から、流体力学的抵抗は、矩形チャネルの場合に、幅と高さの3乗との積の逆数に比例することが知られている。これは、
R∝ω□h3
を与えるが、
ただし、ωはチャネルのμm単位の幅であり、
hはチャネルのμm単位の高さである。
【0213】
これらのパラメータのみを考慮する定性的計算が実行される場合、溶液の入口に対するチャネルの抵抗Rsolとタンク内への入口に対するチャネルの抵抗Rresとの比が計算され得る。100μmの高さを仮定し、このチップについて上述の幅を使用することによって、式
【0214】
【0215】
が得られる。
【0216】
この比は、タンクのチャネルにおけるチップの高さを縮小することによって大幅に高めることも可能であるが、これは製造を大きく複雑化する。
【0217】
実際、異なる結果が得られた。まず第一に、タンパク質のタンクは、気泡を取り込むことなく充填されることはなく、これらの気泡が形成されると、タンクから追い出すことはほとんど不可能になる。
【0218】
さらに、
図4Bの図のような単一のチャネルの充填は、空気の圧縮性のせいで可能でない。したがって、すべてのチャネルが充填されるが、プラグなしのチャネルが好まれる。
【0219】
最後に、閉じる段階において、パラフィン油の一連の流れが中心タンクを通過し、タンパク質の溶液(われわれの図中の着色剤の溶液)をその油で置き換える。この効果は、湿潤に関して解釈され得る。実際、NOA81(登録商標)から作られたチップの表面上に水滴と油滴とを堆積することによって、接触角θ(oil)が接触角θ(water)より小さいことが明らかに観察される。これは、NOA81(登録商標)に関する油の親和性が水よりもよいものとして現れる。したがって、油は、常に、水と比較してNOA81(登録商標)に可能な限り適合する傾向が大きく、したがって中心タンクから水を追い出す。
【符号の説明】
【0220】
C1 濃度
C2 濃度
C3 濃度
E1 第1の平衡点
E2 第2の平衡点
P1 濃度
P2 濃度
S1 溶液
S2 溶液
S3 結晶化溶液
T1 温度
T2 温度
T3 温度
11 透析結晶化セル
111 タンク
112 透析膜
113 透析室
150 SPIN
1111 基材
1112 外壁
1113 内壁
1114 主表面
1115 PMMA
1116 流体