(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】コンクリート部材の品質評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/46 20060101AFI20230508BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20230508BHJP
G01N 29/14 20060101ALI20230508BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01N29/46
G01N29/12
G01N29/14
G01H3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019005915
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018006277
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本保全学会 第15回学術講演会 要旨集 発行者 :一般社団法人 日本保全学会 発行日 :2018年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】小川 良太
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 充行
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 宏彰
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-55092(JP,A)
【文献】特開2002-55089(JP,A)
【文献】特開2001-208733(JP,A)
【文献】特開2010-071748(JP,A)
【文献】特開2003-185542(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092869(WO,A1)
【文献】特開2001-021336(JP,A)
【文献】特開2002-350409(JP,A)
【文献】特開2005-345116(JP,A)
【文献】特開2003-035703(JP,A)
【文献】松永嵩、他,ガードレール支柱の経年劣化検査技術の開発,土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),日本,2015年08月01日,Vol.70th,331-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - G01H 17/00
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打音検査によってコンクリート部材の品質を評価するコンクリート部材の品質評価方法であって、
評価対象のコンクリート部材における種々の品質の状態を模擬した複数種類の試験体のそれぞれに対して打音を行い、前記打音により生じた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、抽出された固有振動ピークに基づいて評価指標を設定すると共に、前記評価指標におけるそれぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する評価基準設定工程と、
評価対象のコンクリート部材を打音して得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、前記評価指標に基づく評価値を取得する評価値取得工程と、
前記評価基準値と前記評価値とを比較して、評価対象のコンクリート部材の品質を評価する品質評価工程とを備えており、
前記評価指標が、ピーク高さ、半値幅、ピーク面積、ピークの有無、および複数の固有振動ピーク群の面積のいずれかであり、
前記評価値取得工程で取得された評価値をコンクリート部材の施工時におけるコンクリート母材の圧縮強度を確認するために使用することを特徴とす
るコンクリート部材の品質評価方法。
【請求項2】
前記評価基準設定工程が、
評価対象のコンクリート部材における種々の品質の状態を模擬した複数種類の試験体を作製する試験体作製ステップと、
作製された各試験体を打音して振動波形を取得する振動波形取得ステップと、取得された各振動波形を周波数解析して周波数分布を取得する周波数分布取得ステップと、
取得された各周波数分布からコンクリート部材の固有振動ピークを抽出する固有振動ピーク抽出ステップと、
抽出された固有振動ピークに基づいて評価指標を設定すると共にそれぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する評価基準設定ステップとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート部材の品質評価方法。
【請求項3】
前記評価値取得工程が、
前記評価対象のコンクリート部材を打音して振動波形を取得する振動波形取得ステップと、
取得された各振動波形を周波数解析して周波数分布を取得する周波数分布取得ステップと、
取得された各周波数分布から前記評価対象のコンクリート部材の固有振動ピークを抽出する固有振動ピーク抽出ステップと、
抽出された固有振動ピークに基づいて前記評価基準設定工程において設定された評価指標に基づく評価値を取得する評価値取得ステップとを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート部材の品質評価方法。
【請求項4】
前記評価基準設定工程において設定された評価基準値を、コンクリート部材の品質と関係付けられたデータベースとして構築することを特徴とする請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法。
【請求項5】
打音にテストハンマを使用することを特徴とする請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法。
【請求項6】
打音により生じた振動波形をAEセンサを用いて取得することを特徴とする請求項1ないし請求項
5のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート道路橋などに用いられるRC床板や、現場施工されたコンクリート製の橋脚や梁などのコンクリート部材の品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道や道路、その他の建造物等において、コンクリート内部における空洞の発生や強度低下の発生等により、コンクリート部材の品質の低下が生じて、コンクリート片の剥離や落下等の事故の発生を招いていることが問題となっており、コンクリート部材の品質を適宜、点検して、劣化により品質の低下が判明した場合には、適切に対処することが求められている。
【0003】
このようなコンクリート部材の品質の低下は、粗骨材が集まることによって発生する豆板と称される空隙部、コールドジョイント、空洞等の内部欠陥、砂すじ、表面気泡、打ち重ね線、型枠継ぎ目のノロ漏れ等の初期欠陥や、ひび割れ、浮き、剥離等の材料劣化などにより、コンクリート部材の中性化や内部鉄筋の腐食などが引き起こされることにより、強度低下を招いて発生する。また、コンクリート施工時の練混ぜ温度、養生条件、養生温度、セメントの種類、水セメント比、スランプ種類、乾燥条件等により、圧縮強度が変化することが知られている。
【0004】
そこで、コンクリート部材の品質を確認する手法として、従来より、施工段階でコンクリート部材の表面を目視して、ひび割れや豆板の有無などを確認する目視検査や、コンクリート部材の表面をハンマ等で打撃しその打音を聴き取ることにより品質についての判断を行う打音検査が用いられている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、目視検査は、コンクリート部材の表面だけを目視する検査であるため、コンクリート部材内部に発生している不良や欠陥が見逃されてしまう恐れがあり、また、検査員の熟練度によって検査結果がばらつく恐れもある。そして、打音検査も、同様に、検査員の熟練度によって検査結果がばらつく恐れがある。また、これらの検査は、あくまで、定性的な評価であって、定量的かつ客観的な指標に従って行われているものではないため、不良や欠陥がどの程度の状態かを定量的に知ることができない。さらに、検査結果の評価は、各事業者独自の維持・管理指針に基づいて行われているため、必ずしも、客観的な評価とは言えない。
【0006】
そこで、コンクリートの表面性状を確認するための試験である表面透気試験や表面吸水試験を、コンクリート部材の表層品質の評価に適用する検討がなされている(例えば、特許文献3)が、これらの手法は計測時間の制約から、施工面のごく一部しか評価することができず、施工面の全体を短時間で広範囲に検査を行うという観点からは採用することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-340869号公報
【文献】特開2003-43021号公報
【文献】特開2013-238415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術における問題点に鑑み、コンクリート施工面の全体を、短時間で広範囲にわたって、定量的な指標をもって品質を評価することにより、客観的な評価を行うことができるコンクリート部材の品質評価技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
打音検査によってコンクリート部材の品質を評価するコンクリート部材の品質評価方法であって、
評価対象のコンクリート部材における種々の品質の状態を模擬した複数種類の試験体のそれぞれに対して打音を行い、前記打音により生じた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、抽出された固有振動ピークに基づいて評価指標を設定すると共に、前記評価指標におけるそれぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する評価基準設定工程と、
評価対象のコンクリート部材を打音して得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、前記評価指標に基づく評価値を取得する評価値取得工程と、
前記評価基準値と前記評価値とを比較して、評価対象のコンクリート部材の品質を評価する品質評価工程とを備えており、
前記評価指標が、ピーク高さ、半値幅、ピーク面積、ピークの有無、および複数の固有振動ピーク群の面積のいずれかであり、
前記評価値取得工程で取得された評価値をコンクリート部材の施工時におけるコンクリート母材の圧縮強度を確認するために使用することを特徴とするコンクリート部材の品質評価方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記評価基準設定工程が、
評価対象のコンクリート部材における種々の品質の状態を模擬した複数種類の試験体を作製する試験体作製ステップと、
作製された各試験体を打音して振動波形を取得する振動波形取得ステップと、
取得された各振動波形を周波数解析して周波数分布を取得する周波数分布取得ステップと、
取得された各周波数分布からコンクリート部材の固有振動ピークを抽出する固有振動ピーク抽出ステップと、
抽出された固有振動ピークに基づいて評価指標を設定すると共にそれぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する評価基準設定ステップとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート部材の品質評価方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記評価値取得工程が、
前記評価対象のコンクリート部材を打音して振動波形を取得する振動波形取得ステップと、
取得された各振動波形を周波数解析して周波数分布を取得する周波数分布取得ステップと、
取得された各周波数分布から前記評価対象のコンクリート部材の固有振動ピークを抽出する固有振動ピーク抽出ステップと、
抽出された固有振動ピークに基づいて前記評価基準設定工程において設定された評価指標に基づく評価値を取得する評価値取得ステップとを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート部材の品質評価方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、
前記評価基準設定工程において設定された評価基準値を、コンクリート部材の品質と関係付けられたデータベースとして構築することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、
打音にテストハンマを使用することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
打音により生じた振動波形をAEセンサを用いて取得することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のコンクリート部材の品質評価方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、コンクリート施工面の全体を、短時間で広範囲にわたって、定量的な指標をもって品質を評価することにより、客観的な評価を行うことができるコンクリート部材の品質評価技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】コンクリート部材への打音により取得された振動波形の一例を示す図である。
【
図2】周波数分布において評価の基準となるピーク周波数(評価ピーク周波数)の抽出を説明する図である。
【
図3】コンクリート橋脚における面的な振動波形の取得を説明する図である。
【
図4】
図3において抽出された各評価ピーク周波数を計測点毎にプロットして作成されたコンター図の一例である。
【
図5】アスファルトが被覆されたコンクリート部材における振動波形の取得箇所を説明する図である。
【
図6】
図5に示すコンクリート部材において取得された周波数分布である。
【
図7】実施例1における施工不良試験体の概念図である。
【
図8】実施例1において取得された周波数分布である。
【
図9】実施例1において第1ピークおよび第2ピークのそれぞれにおける各試験体の固有周波数を比較した図である。
【
図10】実施例2においてひび割れと計測点の位置関係を示す図である。
【
図11】実施例2において取得された周波数分布である。
【
図12】実施例2において計測点において抽出された第1ピークを比較した図である。
【
図13】実施例3において得られたコンター図である。
【
図14】実施例4における評価ピーク周波数とコンクリート圧縮強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1]本発明の概要
本発明者は、上記した課題の解決について鋭意検討する中で、まず、具体的な評価手法として、短時間での作業が可能な打音による評価を採用することとした。そして、種々の実験と検討を進める中で、従来のように、打音を単に聴き取るのではなく、打音により生じた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た場合、その周波数分布の固有振動ピークには、施工不良や材料劣化に対する指標となる種々の情報が含まれていることが分かった。
【0029】
具体的には、固有振動ピークから抽出されたピーク周波数、ピーク高さ、半値幅、ピーク面積、ピークの有無、および複数の固有振動ピーク群の面積などが、施工不良や材料劣化の変化の程度と相関して変化することが分かり、これらを評価の指標として用いることにより、コンクリート施工面の全体を、短時間で広範囲にわたって、定量的な指標をもって品質を評価して、客観的な評価を行うことができることに思い至った。
【0030】
具体的には、まず、評価対象のコンクリート部材における種々の品質の状態を模擬した複数種類の試験体のそれぞれに対して打音を行い、打音により生じた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、抽出された固有振動ピークに基づいて上記したピーク周波数、ピーク高さ、半値幅、ピーク面積、ピークの有無、および複数の固有振動ピーク群の面積などの内から評価指標を設定すると共に、この評価指標におけるそれぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する(評価基準設定工程)。
【0031】
一方、評価対象のコンクリート部材に対しては、打音して得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出し、先に設定した評価指標に基づく評価値を取得する(評価値取得工程)。
【0032】
得られた評価値は、前記したように、施工不良や材料劣化の変化の程度と相関して変化することが分かっているため、上記で設定された評価基準値と比較することにより、評価対象のコンクリート部材における品質を、検査員の熟練度や主観に左右されることなく、定量的、客観的に評価することができる。そして、打音作業は、短時間で多くの箇所で行うことができるため、面積の広いコンクリート施工面の全体であっても、効率的に、短時間で評価することができる。
【0033】
[2]本発明の実施の形態
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて具体的に説明する。
【0034】
1.評価基準設定工程
評価基準設定工程は、以下の各ステップに従って行われる。
【0035】
(1)試験体作製ステップ
現場での品質評価に先立って、まず、評価対象のコンクリート部材と同様に作製されて、施工不良や経年劣化など、種々の品質の状態が模擬された試験体を複数種類準備する。
【0036】
(2)振動波形取得ステップ
次に、各試験体の所定の箇所に、センサを取り付けた後、ハンマを用いて打音を加える。この打音に応じて生じた振動波形をセンサにより取得する。取得された振動波形の一例を
図1に示す。なお、
図1において、縦軸は振幅(Amplitude:mV)、横軸は加振開始からの経過時間(Time:ms)であり、時間の経過に伴って振動が減衰していくことが分かる。
【0037】
なお、打音に際して使用する治具としては、打音点検用に一般的に用いられており、重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマが好ましいが、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、テストハンマ以外の鉄ハンマなど、対象に振動を与えることができて振動波形が取得可能なハンマであれば、テストハンマに替えて使用してもよい。
【0038】
また、センサとしては、打撃により発生した振動を高精度で取得するという観点から、AE(Acoustic Emission)センサを使用することが好ましいが、診断の精度によっては、振動を取得可能な加速度計などを用いてもよく、また、打撃音をマイクロフォンで取得してもよい。
【0039】
(3)周波数分布取得ステップ
次に、得られた各振動波形に対して高速フーリエ変換(FFT変換)などを用いて周波数解析を行って周波数分布を取得する。
【0040】
(4)固有振動ピーク抽出ステップ
次に、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出する。
【0041】
(5)評価基準設定ステップ
次に、抽出された固有振動ピークに基づいて、ピーク周波数、ピーク高さ、半値幅、ピーク面積、ピークの有無、および複数の固有振動ピーク群の面積などの内から、評価したい品質に適応して適切な感度を有する情報を評価指標として設定する。そして、設定された評価指標に基づいて、品質が健全な状況、軽く低下している状態、激しく低下している状態など、それぞれの品質の状態に対応する評価基準値を設定する。
【0042】
上記した評価指標の内でも、ピーク周波数は、周波数分布から直接得ることができ、十分な感度を有しているため、評価に際して手間が掛からず効率的な品質評価を行うことができるため、評価指標として特に好ましい。
【0043】
図2は、周波数分布において好ましい評価指標であるピーク周波数(評価ピーク周波数)の取得の一例を説明する図であり、横軸は周波数(Frequency:Hz)、縦軸は規格化された振動の強度(Magnitude)である。
図2に示すように、周波数分布には多くのピークが現れているが、通常は、予めしきい値として決められた強度(一般的には「0.5」に設定)を超える固有振動ピークの周波数の内、最小(最も低周波側)のピーク周波数(
図2では2641Hz)を評価指標として設定し、それぞれの品質の状態に対応するピーク周波数を求めて、各状態における評価基準値として設定する。なお、ピーク周波数の取得は、上記に限定されず、他の方法を用いて行ってもよい。
【0044】
以上により、評価指標および評価基準の設定が完了する。なお、上記においては、具体的に試験体を作製して評価基準値の取得を行っているが、FEM解析モデルなどのPC上に解析モデルを作製して行ってもよい。
【0045】
なお、この評価基準設定工程において設定された評価基準値を、コンクリート部材の品質と関係付けられたデータベースとして予め構築しておくことにより、評価の都度、評価基準値を設定する必要がなくなり、より効率的に品質の評価を行うことができるため好ましい。
【0046】
2.評価値取得工程
次に、評価対象のコンクリート部材に対して、上記と同様に、振動波形取得ステップ、周波数分布取得ステップ、固有振動ピーク抽出ステップを経由して、打音して得られた振動波形を周波数解析して、周波数分布を得、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出する。その後、評価値取得ステップにおいて、抽出された固有振動ピークに基づいて、ピーク周波数など、評価基準設定工程において設定された評価指標に基づく評価値を取得する。
【0047】
3.品質評価工程
次に、評価基準設定工程において設定された評価基準値と、評価対象のコンクリート部材において取得された評価値とを比較する。これにより、評価対象のコンクリート部材の品質を定量的に評価することができる。
【0048】
即ち、予め、コンクリート部材の品質の状態についてきめ細かく分けておいて、多くの評価基準値を設定しておくことにより、評価対象のコンクリート部材の品質を、より高い精度で評価することができる。
【0049】
4.面としての品質評価
上記した品質評価は、品質の状態が既知のコンクリート部材を試験体として、評価対象のコンクリート部材と比較することにより行っているが、実際のコンクリート部材は現場毎に多種多様の形状であるため、各現場の状況に合わせて試験体を作製することは容易ではない。
【0050】
この場合、計測点をコンクリート施工面の全体にわたって所定の間隔で設けて、複数箇所で振動波形を取得して、それぞれの計測点で評価値を取得する。
【0051】
そして、各評価値をコンクリート施工面の全体に展開させることにより、コンクリート部材に対して面としての相対的な品質評価を短時間で行うことができる。
【0052】
具体的には、各計測点において取得された評価値に基づいてコンター図(等値線図)を作成する。これにより、コンクリート施工面の全体における品質評価結果を相対的に表すことができるため、面としての品質評価を行うことができる。
【0053】
この面としての品質評価の具体的な一例として、コンクリート橋脚における品質評価について説明する。
【0054】
図3は、コンクリート橋脚における面的な振動波形の取得を説明する図である。最初に、コンクリート橋脚の面上の破線で囲まれた区画において、所定の間隔で計測点を設定する(計測点設定工程)。次に、各計測点を打音して得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得た後、得られた周波数分布から固有振動ピークを抽出して、例えば、ピーク周波数を評価値として取得する(評価値取得工程)。次に、各計測点において取得された評価値に基づいて、コンター図を作成する(コンター図作成工程)。
【0055】
図4は、上記において取得された各評価値(ピーク周波数)を計測点毎にプロットして作成されたコンター図の一例である。なお、
図4においては、等値部分を線で表すことに替えて、等値部分を同じ濃さで表している。
図4に示すように、ピーク周波数の違いが濃淡として相対的な変化として表れている。このため、このコンター図を見ることにより、測定された区画における施工不良や経年劣化などが発生している箇所を、相対的に面的な拡がりとして一目で捉えて、品質評価を行うことができる。
【0056】
なお、上記において、面的な品質評価を行うための計測点の間隔は、適宜設定すればよいが、通常は10cm程度の間隔で格子状に設定することが好ましい。また、特定の区画についてより細かく設定してもよく、施工不良や経年劣化などが発生している箇所をより正確に知ることができる。
【0057】
5.表面被覆されたコンクリート部材の品質評価
上記した品質評価は、基本的に、コンクリート部材の表面を露出させた状態で評価を行っているが、実際のコンクリート部材では、表面がアスファルト、モルタル、塗装などの被覆部材によって被覆されている場合もある。
【0058】
本発明者は、このように表面被覆されたコンクリート部材においても、上記と同様に打音検査により、コンクリート部材内部の品質評価が可能であり、さらには、アスファルトなどの表面被覆部材のコンクリート部材表面からの剥離や劣化をも評価できることを見出した。
【0059】
具体的には、打音で異音が生じた箇所では、評価ピーク周波数が低くなる傾向があり、異常が発生していると評価することができる。
【0060】
図5は、アスファルトが被覆されたコンクリート部材における振動波形の取得箇所(No.1~No.10)を説明する図であり、破線の丸で囲んだ箇所が、アスファルトの下のコンクリート部材に異常(床板の土砂化、界面剥離、路床の拘束の緩みなど)が生じている可能性のある箇所である。
【0061】
No.1~No.10の箇所で得られた各振動波形から取得された周波数分布を
図6に示す。なお、
図6において、一番上がNo.1、一番下がNo.10の周波数分布である。
図6より、異常が発生している近傍のNo.2~No.7において、固有振動ピーク(評価ピーク周波数)が低く現れており、この周波数を評価値として使用し、その低下を捉えることにより、異常の発生が検知できることが分かる。
【0062】
なお、表面被覆により打音信号がばらつくことがあるが、その場合には、周囲数点の振動を測定し、平均化した値を指標として使用してもよい。また、振動対象が大きい場合や、表面状態が粗い場合には、打音に使用するハンマのサイズを大きくすることにより、均一に加振することができる。
【0063】
また、被覆部材の下のコンクリート部材の劣化の前に、表面被覆部材自体に劣化が生じる場合もあるが、その場合でも、周波数の低下によって異常の発生を知ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0065】
[1]実施例1(豆板についての評価)
本実施例では、上記した実施の形態に基づいて、豆板について評価した。
【0066】
1.試験体の作製
本実施例においては、健全施工された試験体と、施工不良模擬として豆板を生じさせた試験体(豆板の大きい「施工不良1」、豆板の小さい「施工不良2」)を作製し、品質の評価を行った。なお、
図7に、本実施例における施工不良試験体の概念図を示す。
【0067】
2.打音検査の実施
各試験体の表面中央部にAEセンサを設置し、その近傍をテストハンマで打音し、AEセンサを用いて振動波形を得た後、得られた振動波形を周波数解析して、
図8に示すような周波数分布を取得した。なお、
図8において、縦軸はマグニチュード(単位:任意単位a.u.)であり、横軸は周波数(単位:Hz)であり、各試験体に対してそれぞれ10回の打音で計測した結果を平均して記載している。
【0068】
図8より、各試験体は、いずれも、特徴的な2つの固有振動ピーク(低周波数側から順に、第1ピーク、第2ピークと名付ける)を有していることが分かる。そして、第1ピークに着目した場合には、「施工不良2」は「健全」および「施工不良1」と比較して、低い周波数にピークが見られ、一方、第2ピークに着目した場合には、「施工不良1」および「施工不良2」のいずれも「健全」と比較して低い周波数にピークが見られることが分かる。
【0069】
次に、第1ピークおよび第2ピークのそれぞれにおける各試験体の固有周波数(ピーク周波数)を
図9に示す。なお、
図9においては、計測値のバラツキを誤差棒(MAXとMINを結ぶ直線)として併せて記載している。
【0070】
図9より、第1ピークおよび第2ピークのいずれにおいても、豆板の発生に伴う健全施工からのピーク周波数の低下は、計側のばらつきよりも大きく、3つの試験体間におけるピーク周波数には有意差があるため、「健全」におけるピーク周波数を評価基準値として、「施工不良1」、「施工不良2」におけるピーク周波数と比較することにより、豆板の有無および大きさを検出することが可能であり、コンクリート部材の品質評価が可能であることが分かる。
【0071】
[2]実施例2(ひび割れについての評価)
本実施例では、上記した実施の形態に基づいて、ひび割れについて評価した。
【0072】
本実施例においては、ひび割れが生じたコンクリート部材に対し、ひび割れ近傍とその周辺に計測点を設定して打音を行い、各振動波形から周波数分布を取得し、評価値であるピーク周波数と計測点の位置の関係を調べた。
【0073】
図10はひび割れと計測点の位置関係を示す図である。
図10に示すようにひび割れの直上1箇所とひび割れを挟んで±20cm離れた2箇所(
図10では右側が-20cm、左側が+20cm)の合計3箇所に計測点を設け、それぞれ10回の打音を行った。
【0074】
図11に、打音による振動計測から得られた周波数分布を示す。なお、
図11において、縦軸はマグニチュード(a.u.)、横軸は周波数(Hz)である。また、実線、破線、1点鎖線は、それぞれ、ひび割れから+20cm、ひび割れから-20cm、ひび割れ近傍部における計測結果を示している。
【0075】
図11に示すように、各計測点はいずれも1つの固有振動ピークを有していたため、このピーク周波数を評価値(第1ピーク)として取得した。
【0076】
次に、各計測点における第1ピークの変化を
図12に示す。なお、
図12においても、計測値のバラツキを誤差棒として併せて記載している。
【0077】
図12より、ひび割れ近傍では、その周辺より評価値が低く表れることが分かり、この評価値の低下は計側のばらつきよりも大きく有意差があるため、深さや幅で表されるひび割れの状態と評価ピーク周波数との関係を予めデータベース化しておくことにより、ひび割れの定量的な評価が可能であり、コンクリート部材の品質評価に利用できることが分かる。
【0078】
[3]実施例3(剥離についての評価)
本実施例では、コンクリート床板において発生した剥離を面的に評価した。
【0079】
コンクリート床板の裏面に、10cmの間隔で格子状に縦横10列ずつ合計100箇所に計測点を設定した。次に、それぞれの計測点で打音を行い、各振動波形から周波数分布を取得し、評価値(ピーク周波数)を取得した。次に、取得された各評価値を、対応する計測点上にプロットして、コンター図を作成した。得られたコンター図を
図13に示す。
【0080】
図13に示すように、破線で囲まれた2箇所において、評価値(ピーク周波数)が他の部分より低くなっているが、この箇所は、事前に検査員が従来の打音検査によって、剥離が発生していると推測した箇所と一致していた。この結果より、各計測点における評価値を面的に配置させてコンター図を作成することにより、剥離などによって相対的に異常が発生している部位を短時間で効率的に検出できることが分かる。
【0081】
[4]実施例4(評価ピーク周波数と圧縮強度との関係について)
本実施例では、コンクリート部材の施工時における水セメント比を変えることで圧縮強度を変化させ、評価ピーク周波数と圧縮強度との関係を調べた。
【0082】
1.試験体の作製
コンクリート母材と水の比を変化させたNo.1~No.4のモックアップ試験体を作製して、評価を行った。
【0083】
具体的には、縦400mm×横400mm×厚100mmのモックアップ試験体を、No.1は通常施工(適切な水量)で作製し、以下、水量をNo.2は5%、No.3は10%、No.4は15%にして作製した。
【0084】
2.打音検査の実施
各試験体の表面中央部にAEセンサを設置し、その近傍をテストハンマで打音し、AEセンサを用いて振動波形を得た後、得られた振動波形を周波数解析して、周波数分布を取得し、各試験体における評価ピーク周波数を求めた。
【0085】
3.圧縮強度の測定
一方、各試験体を用いて、JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に規定する方法に準拠して、圧縮強度を求めた。
【0086】
図14に、上記で得られた評価ピーク周波数(Hz)とコンクリート圧縮強度(N/mm
2)との関係を示す。
【0087】
図14より、評価ピーク周波数と圧縮強度とは、十分相関しており、評価ピーク周波数の測定結果から、圧縮強度を推測できることが分かった。.
【0088】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。