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特許7273528プレス加工の金型、プレス加工装置およびプレス加工の金型のパンチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】プレス加工の金型、プレス加工装置およびプレス加工の金型のパンチ
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/14 20060101AFI20230508BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20230508BHJP
   B21D 28/02 20060101ALI20230508BHJP
   B21D 22/20 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
B21D37/14 G
B21D28/14 Z
B21D28/02 Z
B21D28/14 A
B21D22/20 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019019234
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020124731
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592244114
【氏名又は名称】株式会社ウイング
(73)【特許権者】
【識別番号】594162515
【氏名又は名称】阪和興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129573
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博正
(72)【発明者】
【氏名】小林 一宏
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147289(JP,A)
【文献】特開2017-192947(JP,A)
【文献】米国特許第03939033(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/14
B21D 28/14
B21D 28/02
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工の金型であって、パンチとパンチを支持する2つの支持部材と振動を発生させる振動子とを含む金型において、
前記パンチには、
プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を第1の方向に押圧する側の端部である加工端と、
前記加工端に対向する端部であって、前記振動子が固定され、振動が加えられる端部である加振端と、
前記加工端および前記加振端の間の面である側面に、前記第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部と
が形成され、
前記振動子は、前記加振端に装着されて、前記加振端に振動を加え、
前記支持部材は、前記凹部のそれぞれに対応する形状に形成され、前記凹部のそれぞれに嵌り、前記パンチに前記第1の方向の力を伝達し、
前記パンチの前記凹部と前記凹部に嵌る前記支持部材との隙間の前記第1の方向の距離は、前記振動子で加えられる振動の振幅以上である
プレス加工の金型。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス加工の金型において、
前記振動子は、振幅の方向が前記第1の方向となる振動を前記加振端に加える
プレス加工の金型。
【請求項3】
請求項1に記載のプレス加工の金型を備えるプレス加工装置。
【請求項4】
プレス加工の金型のパンチにおいて、
プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を第1の方向に押圧する側の端部である加工端と、
前記加工端に対向する端部であって、振動が加えられる端部である加振端と、
前記加工端および前記加振端の間の面である側面に、前記第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部と
が形成されていて、
前記2つの凹部のそれぞれは、前記凹部に嵌る支持部材であって、前記第1の方向の力を伝達する支持部材と前記凹部との隙間の前記第1の方向の距離が、前記加振端に加えられる前記振動の振幅以上となるように形成されている
プレス加工の金型のパンチ。
【請求項5】
請求項4に記載のプレス加工の金型のパンチにおいて、
前記加工端から前記加振端に至る平たい仮想的な面であって、2つの前記凹部からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の形状に形成されている
プレス加工の金型のパンチ。
【請求項6】
請求項4に記載のプレス加工の金型のパンチにおいて、
前記第1の方向に直交する平たい仮想的な面であって、前記加工端からの距離と前記加振端からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の外形形状に形成されている
プレス加工の金型のパンチ。
【請求項7】
請求項4に記載のプレス加工の金型のパンチにおいて、
2つの前記凹部からの距離が同じとなるように2つの前記凹部に挟まれ、前記第2の方向に直交し前記第1の方向に沿う平らな面状の切れ込みであって、対向する側面を貫通し、前記加工端から前記加振端までの長さより短い長さの切れ込みがさらに形成されている
プレス加工の金型のパンチ。
【請求項8】
請求項4に記載のプレス加工の金型のパンチにおいて、
前記パンチに形成されている2つの前記凹部は、それぞれ、前記第1の方向および前記第2の方向に直交する方向が長さ方向となる直線的な溝状とされている
プレス加工の金型のパンチ。
【請求項9】
請求項4に記載のプレス加工の金型のパンチを備えるプレス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス加工の金型、プレス加工装置およびプレス加工の金型のパンチに関し、特に、振動を用いたプレス加工の金型、プレス加工装置およびプレス加工の金型のパンチに関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工は、塑性加工の一種として、金属の材料から製品を形成する手法として広く用いられている。
【0003】
下型と上型の間に被加工材を置き、上型を下型に向けて第1の方向に押圧し、被加工材を加工するプレス加工装置の金型において、上型は、被加工材に接触して型押しする作用端と、第1の方向に沿って作用端の反対側に設けられ振動が与えられる振動端と、第1の方向と直交する第2の方向に離間して作用端と振動端の間に設けられ、上型を固定するとともに上型に第1の方向の駆動力を伝える一対の保持部と、第1の方向および第2の方向とそれぞれ直交する第3の方向に上型を貫通して、前記一対の保持部の間に設けられた孔とを有するようにしたものもある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-147289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の上型では、孔を形成しなければならないので、形状の制約が大きい。また、孔によって振動が減衰してしまう。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、加工の形状の制約をより小さくして、より簡単な構成で、振動がより伝達しやすいようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面のプレス加工の金型は、プレス加工の金型であって、パンチとパンチを支持する2つの支持部材と振動を発生させる振動子とを含む金型であって、パンチには、プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を第1の方向に押圧する側の端部である加工端と、加工端に対向する端部であって、振動子が固定され、振動が加えられる端部である加振端と、加工端および加振端の間の面である側面に、第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部とが形成され、振動子は、加振端に装着されて、加振端に振動を加え、支持部材は、凹部のそれぞれに対応する形状に形成され、凹部のそれぞれに嵌り、パンチに第1の方向の力を伝達し、パンチの凹部と凹部に嵌る支持部材との隙間の第1の方向の距離は、振動子で加えられる振動の振幅以上である。
【0008】
パンチに、加工端および加振端の間の面である側面に、第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部が形成され、支持部材が、凹部のそれぞれに対応する形状に形成され、凹部のそれぞれに嵌り、パンチに第1の方向の力を伝達するようにしたので、より簡単な構成とすることができ、加工端の形状の制約が少なくなる。また、振動の向きが変わらず、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。このように、加工の形状の制約をより小さくして、より簡単な構成で、振動がより伝達しやすくなる。パンチの凹部と凹部に嵌る支持部材との隙間の第1の方向の距離を、振動子で加えられる振動の振幅以上とすることで、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0010】
振動子には、振幅の方向が第1の方向となる振動を加振端に加えさせることができる。このようにすることで、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0011】
プレス加工の金型をプレス加工装置に設けることができる。
【0012】
本発明の一側面のプレス加工の金型のパンチには、プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を第1の方向に押圧する側の端部である加工端と、加工端に対向する端部であって、振動が加えられる端部である加振端と、加工端および加振端の間の面である側面に、第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部とが形成されていて、2つの凹部のそれぞれは、凹部に嵌る支持部材であって、第1の方向の力を伝達する支持部材と凹部との隙間の第1の方向の距離が、加振端に加えられる振動の振幅以上となるように形成されている。
【0013】
加工端および加振端の間の面である側面に、第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部が形成され、パンチに第1の方向の力を伝達するようにしたので、より簡単な構成とすることができ、加工端の形状の制約が少なくなる。また、振動の向きが変わらず、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。このように、加工の形状の制約をより小さくして、より簡単な構成で、振動がより伝達しやすくなる。凹部と凹部に嵌る支持部材との隙間の第1の方向の距離を、加振端に加えられる振動の振幅以上とすることで、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0014】
パンチを、加工端から加振端に至る平たい仮想的な面であって、2つの凹部からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の形状に形成することができる。このようにすることで、振動が減衰しにくくなり、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0015】
パンチを、第1の方向に直交する平たい仮想的な面であって、加工端からの距離と加振端からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の外形形状に形成することができる。このようにすることで、振動が減衰しにくくなり、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0016】
パンチに、2つの凹部からの距離が同じとなるように2つの凹部に挟まれ、第2の方向に直交し第1の方向に沿う平らな面状の切れ込みであって、対向する側面を貫通し、加工端から加振端までの長さより短い長さの切れ込みをさらに形成することができる。このようにすることで、振動が減衰しにくくなり、振動が加振端から加工端により伝達しやすくなる。
【0017】
パンチに形成されている2つの凹部を、それぞれ、第1の方向および第2の方向に直交する方向が長さ方向となる直線的な溝状とすることができる。このようにすることで、より加工しやすく、より組み立てやすい、より簡単な構成とすることができる。
【0018】
プレス加工の金型のパンチをプレス加工装置に設けることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、加工の形状の制約をより小さくして、より簡単な構成で、振動がより伝達しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態のプレス加工の金型11の構成の例を示す図である。
図2】パンチ51の形状を示す斜視図である。
図3】パンチ51の正面の形状を示す正面図である。
図4】パンチ51の上面の形状を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明の構成要件と、発明の詳細な説明に記載の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、本発明をサポートする実施の形態が、発明の詳細な説明に記載されていることを確認するためのものである。従って、発明の詳細な説明中には記載されているが、本発明の構成要件に対応する実施の形態として、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が構成要件に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件以外の構成要件には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0022】
本発明の一側面のプレス加工の金型は、プレス加工の金型であって、パンチとパンチを支持する2つの支持部材と振動を発生させる振動子とを含む金型であって、パンチ(例えば、図1のパンチ51)には、プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を第1の方向に押圧する側の端部である加工端と、加工端に対向する端部であって、振動子が固定され、振動が加えられる端部である加振端と、加工端および加振端の間の面である側面に、第1の方向と直交する第2の方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている同じ形状の2つの凹部とが形成され、振動子(例えば、図1の振動子52)は、加振端に装着されて、加振端に振動を加え、支持部材(例えば、図1の支持部材53-1および53-2)は、凹部のそれぞれに対応する形状に形成され、凹部のそれぞれに嵌り、パンチに第1の方向の力を伝達し、パンチの凹部と凹部に嵌る支持部材との隙間の第1の方向の距離は、振動子で加えられる振動の振幅以上である。
【0023】
以下、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態のプレス加工の金型11の構成の例を示す図である。図1に示されるプレス加工の金型11は、パンチを振動させる。
【0025】
なお、以下、プレス加工の金型11に対して前後の方向をY軸で図示し、上下の方向をZ軸で図示し、左右の方向をX軸で図示する。また、以下、X軸方向のうち、図1中の左側を単に左側と称し、X軸方向のうち、図1中の右側を単に右側と称する。さらに、以下、Y軸方向のうち、図1中の手前側を単に前側と称し、Y軸方向のうち、図1中の奥側を単に後側と称する。さらにまた、以下、Z軸方向のうち、図1中の上側を単に上側と称し、Z軸方向のうち、図1中の下側を単に下側と称する。なお、Z軸方向を、単に上下方向とも称し、X軸方向を、単に左右方向とも称し、Y軸方向を、単に前後方向とも称する。また、X軸およびY軸に平行な面に沿う方向を単に水平方向または横方向とも称する。図2乃至図4において、X軸、Y軸およびZ軸を同様に図示する。
【0026】
プレス加工の金型11は、プレス加工装置に装着され、鋼板や鋼材若しくは特殊鋼などの鉄材、アルミニウ、銅、チタン若しくはマグネシウムなどの非鉄金属またはその合金などの非鉄金属材料、プラスチック材料や複合材料などの非金属の材料をプレス加工する。プレス加工装置は、クランク駆動機構、ナックル駆動機構若しくはリンク機構を備えるか、若しくはサーボプレスである機械プレス方式または液圧プレス方式などとすることができる。すなわち、プレス加工装置には、プレス加工の金型11を設けることができる。プレス加工装置は、プレス加工の金型11に加工力を加えて、金属の材料をプレス加工する。
【0027】
プレス加工の金型11は、せん断加工(分断加工、切断加工を含む)、抜き加工(ブランク抜き加工を含む)、トリミング加工、曲げ加工、フランジ成形加工、絞り加工、成形加工、圧縮加工または接合加工などのプレス加工に用いる。以下、抜き加工に用いられるプレス加工の金型11を例に説明する。
【0028】
図1に示されるプレス加工の金型11は、上型21および下型22からなる。上型21および下型22は、いわゆる、ダイセット付きの金型である。上型21は、プレス加工装置のスライドに取り付けられ、プレス加工するとき、プレス加工装置により、Z軸方向(上下方向)に変位させられ、材料を下型22とで挟み付けて押圧し、加工する。下型22は、プレス加工装置のボルスタプレートに取り付けられて、プレス加工するとき、位置が固定される。下型22は、ダイ31、ダイプレート32およびダイホルダ33を含み構成される。
【0029】
上型21は、パンチ51、振動子52、支持部材53-1および53-2、パンチプレート54、パンチプレート55、スペーサ56、パンチホルダ57、ストリッパ58およびガイドピン59を含み構成される。
【0030】
まず、上型21の各部の構成について説明する。パンチ51は、プレス加工装置の加工力により下方向に変位させられ、材料に押し付けられて、材料に形状を転写する。パンチ51は、抜き加工において、材料に押し付けられて、所望の形状に材料を抜く。
【0031】
振動子52は、振幅の方向がZ軸方向となる振動をパンチ51に加える。振動子52は、いわゆる加振装置などであり、圧電素子などの半導体、偏芯した錘が回転軸に装着されている電気モータ、錘を直線的に変位させるソレノイド、または錘を直線的に変位させるエアツール(エアバイブレータ)などからなる。振動子52が発生させる振動の周波数は、音声の可聴帯域または超音波の帯域に相当する20Hzから40kHzとすることができる。振動子52が発生させる振動の周波数は、パンチ51の上下方向に変位する速度や材料の種類、形成する形状や大きさなどにより決められる。振動子52が発生させる振動の振幅は、パンチ51の上下方向に変位する速度や材料の種類、形成する形状や大きさなどにより決められる。例えば、振動子52が発生させる振動の周波数は、振幅の方向における振動による変位の速度(パンチ51の変形の速度(特に、後述する加工端101の変形の速度))がパンチ51の上下方向に変位する速度より早くなるように、決められる。
【0032】
支持部材53-1は、四角柱状に形成されている。支持部材53-1は、パンチ51とパンチプレート54およびパンチプレート55とに噛み合わされて、パンチ51とパンチプレート54およびパンチプレート55とを固定する、いわゆる、キーである。支持部材53-1の右側は、パンチ51の左側面に形成されている凹部に嵌められて、X軸方向およびZ軸方向に固定される。パンチ51の左側面に形成されている凹部の詳細は後述する。また、支持部材53-1の左側は、パンチプレート54およびパンチプレート55によって、挟まれて、X軸方向およびZ軸方向に固定される。
【0033】
支持部材53-2は、四角柱状に形成されている。支持部材53-2は、パンチ51とパンチプレート54およびパンチプレート55とに噛み合わされて、パンチ51とパンチプレート54およびパンチプレート55とを固定する、いわゆる、キーである。支持部材53-2の左側は、パンチ51の右側面に形成されている凹部に嵌められて、X軸方向およびZ軸方向に固定される。パンチ51の右側面に形成されている凹部の詳細は後述する。また、支持部材53-2の右側は、パンチプレート54およびパンチプレート55によって、挟まれて、X軸方向およびZ軸方向に固定される。
【0034】
このように、支持部材53-1および53-2は、パンチ51の側面に形成されている凹部のそれぞれに対応する形状に形成され、凹部のそれぞれに嵌り、パンチプレート54およびパンチプレート55を介して、パンチ51にZ軸方向の力を伝達する。
【0035】
パンチプレート54およびパンチプレート55は、挟んでいる支持部材53-1および53-2を介して、パンチ51を位置決めして、パンチ51を固定する。また、パンチプレート54およびパンチプレート55は、ボルト71によりスペーサ56に固定される。
【0036】
また、パンチプレート54およびパンチプレート55は、パンチ51とストリッパ58との位置関係を保持する。さらに、パンチプレート54は、ガイドピン59を位置決めして、ガイドピン59を固定する。ストリッパ58は、パンチ51に着いた材料を払う。ストリッパ58は、コイルスプリングであるスプリング60が通されているボルト73であって、パンチプレート54、パンチプレート55およびスペーサ56のそれぞれの孔を通るボルト73により保持される。ストリッパ58は、パンチ51が材料を抜くとき、スプリング60の付勢力に抗して、パンチ51に対して、上側に変位する。ストリッパ58は、パンチ51が材料を抜いた後に上側に変位したとき、スプリング60の付勢力により、パンチ51に対して、下側に変位し、これにより、パンチ51に着いた材料を払う。ストリッパ58の下面には、パンチ51に着いた材料を払いやすいように、上向きに窪んでいる凹部81が形成されている。ガイドピン59は、パンチ51が下方向に変位させられた場合、ダイ31の孔に入り込むことで、パンチ51とダイ31との位置関係を保つ。
【0037】
スペーサ56は、パンチ51とパンチホルダ57との位置を保持する。パンチホルダ57は、スペーサ56に螺合されるボルト72により、スペーサ56に固定される。パンチホルダ57は、上型21全体、すなわち、パンチ51、振動子52、支持部材53-1および53-2、パンチプレート54、パンチプレート55、スペーサ56、ストリッパ58およびガイドピン59を保持する。パンチホルダ57は、図示せぬボルトなどにより、プレス加工装置のスライドに取り付けられる。
【0038】
なお、パンチプレート54およびパンチプレート55並びにストリッパ58は、直接パンチ51に接触しない。
【0039】
次に、下型22について説明する。
【0040】
ダイ31は、パンチ51の受け側となる工具であり、プレス加工装置の加工力により押し付けられたパンチ51と材料を挟んで、材料に形状を転写する。ダイ31は、抜き加工において、プレス加工装置の加工力により押し付けられたパンチ51と材料を挟んで、所望の形状に材料を抜く。
【0041】
ダイプレート32は、ダイ31およびダイホルダ33に挟まれて固定され、ダイホルダ33に対するダイ31の位置を保持する。ダイホルダ33は、ダイプレート32およびダイ31を保持する。ダイホルダ33には、ダイ31の孔およびダイプレート32の孔がそれぞれ通されたボルト41-1乃至41-4(ボルト41-3および41-4は図示せず)が螺合されている。ボルト41-1乃至41-4は、ダイ31、ダイプレート32およびダイホルダ33を相互に固定する。
【0042】
ダイホルダ33は、図示せぬボルトなどにより、プレス加工装置のボルスタプレートに取り付けられる。
【0043】
次に、図2乃至図4を参照して、パンチ51の構成の詳細について説明する。図2は、パンチ51の形状を示す斜視図である。図3は、パンチ51の正面の形状を示す正面図である。図4は、パンチ51の上面の形状を示す上面図である。
【0044】
図3において、一点鎖線で示すAA‘線は、パンチ51の正面におけるX軸方向(左右方向)の中心を示し、一点鎖線で示すBB‘線は、パンチ51の上面におけるZ軸方向(上下方向)の中心を示す。また、図4において、一点鎖線で示すCC‘線は、パンチ51の上面におけるX軸方向(左右方向)の中心を示し、一点鎖線で示すDD‘線は、パンチ51の上面におけるY軸方向(前後方向)の中心を示す。
【0045】
パンチ51は、側面の中央部分に窪んでいる凹部が設けられている、縦長の概ね直方体状に形成されている。パンチ51は、左右対称の形状に形成されている。すなわち、パンチ51は、X軸方向(左右方向)の中心を通るYZ平面に対して、線対称の形状に形成されている。または、パンチ51は、上下対称の外形形状に形成されている。すなわち、パンチ51は、Z軸方向(上下方向)の中心を通るXY平面に対して、線対称の外形形状に形成されている。
【0046】
パンチ51の下側の端部は、加工端101として形成されている。加工端101は、プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料を下方向に押圧する。加工端101は、プレス加工して得たい形状に対応した形状とされている。例えば、抜き加工の場合、加工端101は、材料に押し付けられて、材料に形状を転写することで、所望の形状に材料を抜く。例えば、加工端101は、四角の板材を抜きたい場合、四角状に形成されている。
【0047】
パンチ51の上側の端部は、加振端102として形成されている。加振端102には、振動子52が固定され、振動が加えられる。加振部121は、加振端102のX軸方向(左右方向)およびY軸方向(前後方向)の中心に、ねじ孔として形成されている。加振部121には、振動子52が装着される。振動子52は、加振部121に螺合されて、加振部121のX軸方向(左右方向)およびY軸方向(前後方向)の中心に装着されて、加振部121のX軸方向(左右方向)およびY軸方向(前後方向)の中心に振動を加える。
【0048】
パンチ51の左側の側面の中央部分には、凹部105-1が設けられている。パンチ51の右側の側面の中央部分には、凹部105-2が設けられている。凹部105-1および凹部105-2は、X軸方向(左右方向)に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている。凹部105-1が形成されているZ軸方向(上下方向)の位置は、凹部105-2が形成されているZ軸方向(上下方向)の位置と同じである。
【0049】
凹部105-1は、支持部材53-1が嵌められた場合、所定の隙間が生じる形状に形成されている。より詳細には、凹部105-1は、支持部材53-1の右側が嵌められた場合、凹部105-1と凹部105-1に嵌る支持部材53-1との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離が、振動子52で加えられる振動の振幅以上となるように、支持部材53-1の右側の形状に対応する形状に形成されている。例えば、凹部105-1と凹部105-1に嵌る支持部材53-1との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離は、100μm乃至5μmとされる。一例として、凹部105-1と凹部105-1に嵌る支持部材53-1との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離は、20μmとされる。
【0050】
同様に、凹部105-2は、支持部材53-2が嵌められた場合、所定の隙間が生じる形状に形成されている。より詳細には、凹部105-2は、支持部材53-2の左側が嵌められた場合、凹部105-2と凹部105-2に嵌る支持部材53-2との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離が、振動子52で加えられる振動の振幅以上となるように、支持部材53-2の左側の形状に対応する形状に形成されている。例えば、凹部105-2と凹部105-2に嵌る支持部材53-2との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離は、100μm乃至5μmとされる。一例として、凹部105-2と凹部105-2に嵌る支持部材53-2との隙間のZ軸方向(上下方向)の距離は、20μmとされる。
【0051】
凹部105-1の形状と凹部105-2の形状とは、同じ形状とされている。
【0052】
このようにすることで、パンチ51を伝達する振動の向きが変わらず、加振端102に加えられた振動が加工端101まで直接伝達され、加振端102に加えられた振動の減衰がより少なくなり、加振端102に加えられた振動が加工端101により効率的に伝達される。
【0053】
支持部材53-1が凹部105-1に嵌められた場合に生じる隙間は、支持部材53-2が凹部105-2に嵌められた場合に生じる隙間と同じになるように、凹部105-1および凹部105-2並びに支持部材53-1および支持部材53-2は、形成されている。
【0054】
凹部105-1の形状と凹部105-2の形状とは、AA‘線で示されるX軸方向(左右方向)の中心に対して、線対称に形成されている。凹部105-1および凹部105-2は、それぞれ、Y軸方向(前後方向)が長さ方向となる直線的な溝状に形成されている。
【0055】
なお、凹部105-1および凹部105-2は、パンチ51の保持ができる形状であれば、所望の形状に形成することができる。例えば、凹部105-1および凹部105-2は、円柱状または四角柱状の窪みに形成することができる。また、例えば、凹部105-1および凹部105-2は、Z軸およびX軸で規定される平面において、半円状または三角状に形成することもできるし、Z軸およびY軸で規定される平面において、円状、長円状または楕円状に形成することもできる。
【0056】
凹部105-1および凹部105-2の形状を比較的自由に決めることができる。凹部105-1および凹部105-2が深い(X軸方向に大きく抉られている)と、凹部105-1と凹部105-2との間の部分において、振動が集まり、振動に対する抵抗が増えるが、プレス加工装置の加工力をより効率的にパンチ51に伝達することができる。この場合、凹部105-1および凹部105-2のZ軸方向の高さを低くすることで、振動に対する抵抗をより小さくすることができる。
【0057】
凹部105-1および凹部105-2が浅い(X軸方向に小さく抉られている)と、振動に対する抵抗をより小さくすることができる。この場合、凹部105-1および凹部105-2のZ軸方向の高さを高くするなどすることで、プレス加工装置の加工力をより効果的にパンチ51に伝達することができる。
【0058】
パンチ51の正面の中央部分には、Z軸方向(上下方向)に長い切れ込み103が形成されている。図3に示されるように、切れ込み103は、パンチ51の正面におけるX軸方向(左右方向)の中心に沿って形成されている。切れ込み103は、平らな面状の切れ込みである。切れ込み103は、パンチ51の正面および背面を貫通する。すなわち、切れ込み103は、パンチ51の対向する側面を貫通する。
【0059】
切れ込み103の長さ方向の中心位置は、パンチ51のZ軸方向(上下方向)の中心位置と一致する。パンチ51のZ軸方向(上下方向)の中心位置には、パンチ51の正面および背面を貫通する孔104が形成されている。切れ込み103のZ軸方向(上下方向)の長さは、パンチ51のZ軸方向(上下方向)の長さよりも短い。切れ込み103の上端は、加工端101までには到達しない。切れ込み103の下端は、加振端102までには到達しない。
【0060】
切れ込み103は、凹部105-1および凹部105-2からのそれぞれの距離が同じとなるように、凹部105-1および凹部105-2に挟まれている。
【0061】
切れ込み103の幅(X軸方向の長さ)は、5mm乃至0.1mmとすることができる。一例として、切れ込み103の幅(X軸方向の長さ)は、0.5mmとすることができる。
【0062】
切れ込み103を設けることにより、パンチ51に振動を加えると、切れ込み103が左右に動くので、凹部105-1および凹部105-2に挟まれている部分において切れ込み103に振動が集まり、凹部105-1および凹部105-2に挟まれている部分において振動が伝達しやすくなる。このように、加振端102に加えられた振動が加工端101に向かって伝達するように導くことができ、加振端102に加えられた振動が加工端101により効率的に伝達される。また、切れ込み103の幅(X軸方向の長さ)をより狭くすることで、パンチ51全体に対する切れ込み103の体積比率がより小さくなり、これにより、加振端102に加えられた振動の減衰がより少なくなり、加振端102に加えられた振動が加工端101により効率的に伝達される。
【0063】
このように、パンチ51は、加工端101から加振端102に至る平たい仮想的な面であって、凹部105-1および凹部105-2のそれぞれからの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の形状に形成されている。また、パンチ51は、プレス加工のときに変位する方向である上下方向に直交する平たい仮想的な面であって、加工端101からの距離と加振端102からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の外形形状に形成されている。
【0064】
以上のように、上型21は、パンチ51、振動子52並びに支持部材53-1および53-2を含む。パンチ51には、加工端101、加振端102並びに凹部105-1および105-2が形成されている。
【0065】
振動子52は、加振端102に装着されて、加振端102に振動を加える。支持部材53-1および53-2は、凹部105-1および凹部105-2のそれぞれに対応する形状に形成され、凹部105-1および凹部105-2のそれぞれに嵌り、パンチ51にZ軸方向の力を伝達する。
【0066】
加工端101は、プレス加工するとき、プレス加工の対象である材料をZ軸方向に押圧する側の端部である。加振端102は、加工端101に対向する端部であって、振動子52が固定され、振動が加えられる端部である。凹部105-1および凹部105-2は、同じ形状とされ、加工端101および加振端102の間の面である側面に、Z軸方向と直交するX軸方向に所定の距離だけ離れて対向するように設けられている。
【0067】
このようにすることで、より簡単な構成とすることができ、加工端101の形状の制約が少なくなる。また、振動が加振端102から加工端101により伝達しやすくなる。加工の形状の制約をより小さくして、より簡単な構成で、振動がより伝達しやすいようにできる。
【0068】
パンチ51の凹部105-1および105-2と凹部105-1および105-2に嵌る支持部材53-1および53-2との隙間のZ軸方向の距離は、振動子52で加えられる振動の振幅以上である。
【0069】
振動子52は、振幅の方向がZ軸方向となる振動を加振端102に加える。
【0070】
パンチ51は、加工端101から加振端102に至る平たい仮想的な面であって、凹部105-1および105-2からの距離が等しい位置の仮想的な面を挟んで対称の形状に形成されている。
【0071】
なお、プレス加工の金型11は、順配置構造を例に説明したが、逆配置構造にすることもできる。この場合、ダイ31は、上型に設けられ、パンチ51は、下型に設けられる。
【0072】
また、以上で説明した加工端101および加振端102の形状は、一例であり、所望の形状とすることができる。
【0073】
なお、上述のように、抜き加工は一例であり、プレス加工であれば、トリミング加工や曲げ加工などいずれの加工にも適用できる。
【0074】
また、プレス加工される材料は、鉄材、非鉄金属材料または非金属材料などいずれの材料であってもよい。さらに、いずれの方式のプレス加工装置であっても、プレス加工の金型11を用いることができる。
【0075】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
11 金型, 21 上型, 22 下型, 31 ダイ, 32 ダイプレート, 33 ダイホルダ, 51 パンチ, 52 振動子, 53-1および53-2 支持部材, 54および55 パンチプレート, 56 スペーサ, 57 パンチホルダ, 58 ストリッパ, 59 ガイドピン, 101 加工端, 102 加振端, 103 切れ込み, 104 孔, 105-1および105-2 凹部, 121 加振部

図1
図2
図3
図4