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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】テアニン捕集剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20230508BHJP
   B01J 20/12 20060101ALI20230508BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20230508BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230508BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230508BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20230508BHJP
   C01B 33/14 20060101ALI20230508BHJP
   C07C 231/24 20060101ALI20230508BHJP
   C07C 237/06 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/12 A
B01J20/10 A
B01J20/10 C
B01D15/00 K
B01J20/34 G
C01B33/12 A
C01B33/14
C07C231/24
C07C237/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019020743
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2019193927
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018083936
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】森谷 まどか
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大補
(72)【発明者】
【氏名】田中 智則
(72)【発明者】
【氏名】村上 達朗
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特許第7076276(JP,B2)
【文献】特開2004-010545(JP,A)
【文献】特開2000-344513(JP,A)
【文献】特開2010-095436(JP,A)
【文献】特開2006-212597(JP,A)
【文献】特開2004-049297(JP,A)
【文献】特開2009-072759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 15/00-15/42
C01B 33/20-39/54
C07B 31/00-61/00,63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.15以上の範囲にある多孔質無機材料からなり、前記多孔質無機材料が、ジオクタヘドラル型スメクタイトもしくはその焼成物、ジオクタヘドラル型スメクタイトの酸処理物、シリカ、或いはシリカマグネシアであることを特徴とするテアニン有機溶媒溶液からのテアニン捕集剤。
【請求項2】
窒素吸着法により測定されるBET比表面積の値が10m/g以上の範囲にある請求
に記載のテアニン捕集剤。
【請求項3】
溶解度パラメータ(SP値)が8.3以上の極性有機溶媒を用意し、
含テアニン物質を、前記極性有機溶媒と混合することにより、テアニンを該極性有機溶媒中に溶出せしめ、
前記テアニンが溶出している極性有機溶媒に、請求項1または2の何れかに記載のテアニン捕集剤を混合することにより、該テアニン捕集剤にテアニンを吸着せしめ、
次いで、固液分離により、テアニンが吸着されているテアニン捕集剤を回収し、
回収されたテアニン捕集剤を水と混合し、該捕集剤からテアニンを溶出させてテアニン水溶液を得ること、
を特徴とするテアニンの捕集方法。
【請求項4】
前記極性有機溶媒として、アルコールを使用する請求項に記載のテアニンの捕集方法。
【請求項5】
前記含テアニン物質として、茶葉或いは茶抽出物を使用する請求項またはに記載の捕集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉中に含まれるアミノ酸の一種であるテアニンの捕集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テアニン、即ち、γ-グルタミルエチルアミドは、茶葉中に多く含まれ、お茶の旨味成分の一つとして知られている。また、テアニンは、リラックス効果、抗ストレス効果、睡眠の質改善効果を有していることも報告されており、例えば、特許文献1には、テアニンを脳機能改善剤として使用することが提案されており、さらに、各種サプリメントや飲料などに添加して販売もされている。
【0003】
上記の特許文献1には、テアニンは、植物または微生物などの培養法により生合成されることや茶葉から抽出されること、さらには化学合成できることも記載されている。しかるに、生合成や化学合成などによりテアニンを得ることは、高コストとなってしまうため、工業的には茶葉からの抽出によりテアニンを得ることが望まれる。
【0004】
ところで、特許文献2には、活性炭、酸性白土、活性白土を用いて緑茶(茶成分抽出水性液)を精製することにより、カテキンとテアニンを高濃度で含む緑茶が開示されている。このことから理解されるように、酸性白土(ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土)や活性白土(酸性白土の酸処理物)は、テアニンに対して吸着性を有していない。
【0005】
また、本出願人は、先に、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなり、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.90~5.00の範囲にあるテアニン吸着剤を提案した(特願2017-148422号)。
かかる吸着剤は、酸処理の程度が調整されて得られたジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物がテアニンの水溶液からテアニンを有効に吸着し得るという知見に基づいてなされたものであり、酸処理されていないジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(所謂、酸性白土)、高度に酸処理されたジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(所謂、活性白土)、或いはシリカなどと比較しても、より効果的にテアニンの水溶液からテアニンを有効に吸着し得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平05-068578号
【文献】特開2009-274969号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、上記のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物が有するテアニン吸着性についての研究をさらに推し進めた結果、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が一定値以上にある多孔質無機材料は、適宜の極性有機溶媒にテアニンが溶解したテアニン溶液からテアニンを有効に吸着し、さらには、吸着したテアニンを水により容易に捕集し得ることを見出した。
【0008】
従って、本発明の目的は、テアニンの有機溶媒溶液からテアニンを有効に吸着することができ、さらに吸着したテアニンを水により容易に捕集することが可能なテアニン捕集剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.15以上の範囲にある多孔質無機材料からなり、前記多孔質無機材料が、ジオクタヘドラル型スメクタイトもしくはその焼成物、ジオクタヘドラル型スメクタイトの酸処理物、シリカ、或いはシリカマグネシアであることを特徴とするテアニン有機溶媒溶液からのテアニン捕集剤が提供される。
【0010】
本発明のテアニン捕集剤においては、素吸着法により測定されるBET比表面積の値が10m/g以上の範囲にあること、が好適である。
【0011】
本発明によれば、また、溶解度パラメータ(SP値)が8.3以上の極性有機溶媒を用意し、
含テアニン物質を、前記極性有機溶媒と混合することにより、テアニンを該極性有機溶媒中に溶出せしめ、
前記テアニンが溶出している極性有機溶媒に、前記テアニン捕集剤を混合することにより、該テアニン捕集剤にテアニンを吸着せしめ、
次いで、固液分離により、テアニンが吸着されているテアニン捕集剤を回収し、
回収されたテアニン捕集剤を水と混合し、該捕集剤からテアニンを溶出させてテアニン水溶液を得ること、
を特徴とするテアニンの捕集方法が提供される。
【0012】
かかる捕集方法においては、
(1)前記極性有機溶媒として、アルコールを使用すること、
(2)前記含テアニン物質として、茶葉或いは茶抽出物を使用すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)(以下、水蒸気BETと呼ぶことがある)と、窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)(以下窒素BETと呼ぶことがある)との比(A/B)が0.1以上である多孔質無機材料がテアニンの捕集剤として使用される。このようなBET比を有する多孔質無機材料は、水蒸気BETが、窒素BETと同程度或いはそれ以上の大きな値を示す。このことは、この多孔質無機材料が親水性であることを示す。
本発明では、このような親水性を示す多孔質無機材料を、テアニンの有機溶媒溶液中に投入して混合することにより、該溶液中のテアニンを有効に吸着することができる。テアニンは水溶性であるため、有機溶媒中に溶解しているテアニンは、容易に親水性の多孔質無機材料に吸着されるものと考えられる。
また、このことは、水溶液中では、テアニンに対する吸着性が低いジオクタヘドラル型スメクタイトであっても、有機溶媒を用いて含テアニン物質からテアニンを抽出しておくことにより、効果的にテアニンを吸着することができることを意味し、これは本発明の大きな利点である。即ち、所定のBET比を満足している限り、ジオクタヘドラル型スメクタイトを格別の酸処理に供することなく、そのまま、テアニンの捕集剤として使用することができる。
テアニンの有機溶媒溶液中からテアニンを吸着した本発明の捕集剤は、固液分離した後、水中に投入し、適宜撹拌・振とうすることにより、容易に吸着されているテアニンを放出し、これにより、テアニンを水溶液の形で捕集することができる。
【0014】
このように本発明によれば、所定の親水性(BET比)を示す多孔質無機材料を選択することにより、水溶液中のテアニンに対しては吸着性を示さなかった材料であっても、有機溶媒中のテアニンに対しては良好な吸着性を示し、テアニンの捕集を効果的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<多孔質無機材料>
本発明において、テアニンの捕集に使用する多孔質無機材料は、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A/B)が0.1以上、特に0.2以上のものである。このBET比が大きい程、水蒸気吸着量が大きいということであり、親水性が増大していることを意味する。即ち、上記でも説明したように、このようなBET比を有する多孔質無機材料は、水溶性であるテアニンを有機溶媒中に存在している状態で捕集、即ち、吸着することができる。例えば、BET比が上記範囲よりも小さい場合には、この多孔質無機材料の親水性が乏しいため、有機溶媒中に存在しているテアニンを吸着できるものの脱離せず、効率よく捕集することができない。
【0016】
また、本発明で用いる多孔質無機材料の上記BET比は、10以下、特に3以下であることが好適である。このBET比が必要以上に大きくなると、濾過性が低下する傾向があるからである。
【0017】
さらに、かかる多孔質無機材料は、BET比が上記範囲内にあることを条件として、窒素吸着法によるBET比表面積が10m/g以上、特に20~700m/gの範囲にあることが好ましい。即ち、水蒸気吸着法によるBET比表面積は、例えば、無機材料の粒子の内部(例えば層間や細孔内)まで水蒸気が浸透して保持されることにより表面積が測定されるが、液体窒素を用いて測定する窒素吸着法では、液体窒素が水蒸気ほどには粒子内部には浸透していない。このため、窒素吸着法によるBET比表面積は、実質的な表面積を示し、多孔質無機材料のテアニンに対する捕集性(吸着性)、かかるBET比表面積値にも依存する。例えば、窒素吸着法によるBET比表面積値が過度に低い場合には、テアニンとの接触面積が低く、有機溶媒中でのテアニン捕集性が低くなる傾向がある。また、窒素吸着法によるBET比表面積が非常に大きくなると、粒子径が微細になり、水蒸気吸着法によるBET比表面積の割合が大きく低下し、上記のようなBET比を満足することができなくなる。
【0018】
本発明においては、上記のようなBET比を有している限り、任意の多孔質無機材料を使用することができるが、代表的には、ジオクタヘドラル型スメクタイト、シリカマグネシア及びシリカを挙げることができる。
【0019】
上記のジオクタヘドラル型スメクタイトは、火山岩や溶岩等が海水の影響下で変成したものと考えられており、主要成分であるジオクタヘドラル型スメクタイトはSiO四面体層-AlO八面体層-SiO四面体層からなり、且つこれらの四面体層と八面体層が部分的に異種金属で同形置換された三層構造を基本構造(単位層)としており、このような三層構造の積層層間には、Ca,K,Na等の陽イオンや水素イオンとそれに配位している水分子が存在している。また、基本三層構造の八面体層中のAlの一部にMgやFe(II)が置換し、四面体層中のSiの一部にAlが置換しているため、結晶格子はマイナスの電荷を有しており、このマイナスの電荷が基本層間に存在する金属陽イオンや水素イオンにより中和されている。このようなジオクタヘドラル型スメクタイトには、酸性白土、ベントナイト、フラーズアース等があり、基本層間に存在する金属陽イオンの種類や量、及び水素イオン量等によってそれぞれ異なる特性を示す。例えば、ベントナイトでは、基本層間に存在するNaイオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが高く、一般に高アルカリサイドにあり、また、水に対して高い膨潤性を示し、さらにはゲル化して固結するという性質を示す。一方、酸性白土では、基本層間に存在する水素イオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが低く、一般に酸性サイドにあり、また、水に対して膨潤性を示すものの、ベントナイトと比較すると、その膨潤性は総じて低く、ゲル化には至らない。
【0020】
本発明において、多孔質無機材料として使用されるジオクタヘドラル型スメクタイト(以下、単にスメクタイト系粘土と呼ぶことがある)は、前述したBET比を有している限り、特に限定されるものではなく、上述した各種の何れをも使用することができる。また、かかるスメクタイト系粘土は、粘土の成因、産地及び同じ産地でも埋蔵場所(切羽)等によっても相違するが、一般的には、酸化物換算で以下のような組成を有している。
SiO;50~75質量%
Al;11~25質量%
Fe;2~20質量%
MgO;2~7質量%
CaO;0.1~3質量%
NaO;0.1~3質量%
O;0.1~3質量%
その他の酸化物(TiO等);2質量%以下
Ig-loss(1050℃);5~11質量%
【0021】
また、スメクタイト系粘土は、産地等によっては、石英等の不純物を多く含んでいることもある。従って、上記のスメクタイト系粘土は、必要により石砂分離、浮力選鉱、磁力選鉱、水簸、風簸等の精製操作に賦して不純物をできるだけ除去して使用に供される。
【0022】
尚、所定のBET比表面積を満足しないスメクタイト系粘土については、その特有の結晶構造を破壊しない程度に、それ自体公知の酸処理を行うことにより、BET比表面積を本発明で規定する範囲に増大させることができる。
かかる酸処理は、酸水溶液中にスメクタイト系粘土を投入し、混合攪拌することにより行われる。酸処理に用いる酸水溶液は、特に限定されるものではないが、コスト、環境への影響等の観点から硫酸水溶液が一般に使用される。このような酸処理によって、スメクタイト系粘土中のNa分やCa分が取り除かれ、さらに、酸処理の進行に伴ってAl分やMg分が溶出し、表面積や細孔が増大し、BET比表面積の増大がもたらされるものである。
【0023】
このような酸処理により得られるスメクタイト系粘土は、該粘土に特有のX線回折ピーク(例えば、2θ=62度(d=1.49~1.50Å)付近に生じる面指数(06)に由来する回折ピーク)を有しているが、その酸処理の程度に応じて、所謂活性白土、半活性白土などと呼ばれる。例えば、高濃度の酸水溶液を用いて長時間の酸処理を行って得られるものが活性白土であり、低濃度の酸水溶液を用いたり或いは処理時間を短くしてえられるものが半活性白土と呼ばれ、さらに弱い酸処理条件で酸処理したものは弱酸処理白土と呼ばれることもある。何れにしろ、酸処理により窒素吸着法によるBET比表面積やBET比は増大するが、必要以上に強く酸処理を行うと、窒素吸着法によるBET比表面積は増大するものの、BET比が低下し、場合によってはスメクタイト系粘土に特有の結晶構造が破壊されるため、注意を要する。
【0024】
上述したジオクタヘドラル型スメクタイト及び酸処理物は、粉砕、分級等により、後述するテアニンの捕集に適した粒径に粒度調整して使用に供することができる。
また、このようなジオクタヘドラル型スメクタイト及び酸処理物は、所定のBET比が損なわれない限りにおいて、その焼成物を多孔質無機材料として使用することもできる。かかる焼成は、通常、1000℃以下で行われ、これにより熱収縮等によりBET比の低下をもたらす細孔容積の低下が生じるが、粒子強度や濾過性が向上するため、取扱い易くなるという利点がある。
【0025】
本発明において、多孔質無機材料として使用されるシリカマグネシアは、シリカ粒子とマグネシア粒子とが一体複合化した粒子であり、シリカ粒子とマグネシア粒子とが非常に微細なレベル(例えばナノレベル)で粒子同士が密着し、分離せずに一体化した構造を有しているものである。即ち、シリカマグネシアは、ケイ酸マグネシウムのように、シリカとマグネシアとの反応物ではなく、親水性のシリカ成分が独立した粒子の形態で存在しているため、上述したBET比を満足することができ、テアニンの捕集に用いる多孔質無機材料として使用することができる。
【0026】
本発明において、多孔質無機材料として使用されるシリカマグネシアは、シリカ成分とマグネシア成分とが、下記式(1):
R=Sm/Mm (1)
式中、Smは、SiO換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比(R)が0.1≦R≦3.5となる割合で含有していることが好適である。
即ち、シリカとマグネシアとが上記の量比で存在していることにより、複合一体化した状態が安定に保持される。例えば、上記の質量比(R)が3.5を超える場合或いは0.1未満の場合、シリカ或いはマグネシアの脱落を生じ易く、このため、テアニンに対する捕集性が不安定となり、バラツキを生じ易くなるからである。
【0027】
さらに、かかるシリカマグネシアは、シリカ成分とマグネシア成分が互いに遊離しておらず、緊密に複合化しているために、通常、その5質量%濃度の懸濁液のpH(25℃)は6.0~10.0の範囲にある。
【0028】
本発明において、使用される上記のシリカ・マグネシア複合粒子は、シリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)とを、水分の存在下で均質に混合して水性スラリーとし(均質混合)、次いで熟成を行い、さらに、水分を除去することにより製造することができる。
尚、シリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)との量比は、前述した式(1)で表される質量比(R)が0.1~3.5となるように設定すればよい。
尚、傾向として、シリカの含有量が多くなるに従い、親水性が増大し、BET比が増大し、シリカの含有量が少ないとBET比が低下するする傾向がある。従って、この点を考慮して、予めラボ実験を行い、上記の質量比(R)を設定して所定のBET比を満足するシリカマグネシアを得ることができる。
【0029】
原料のシリカ(A)としては非晶質の含水タイプのものが好適であり、ゲル法或いは沈降法の何れで製造されたものであってもよいが、一次粒子の小さいものが好適であり、所定のBET比を有するシリカマグネシアを得るためには、40m/g以上、特に140m/g以上であるものが好適である。
また、マグネシアもしくはその水和物(B)としては、結晶子の小さく且つ経時による炭酸化が進んでいないものがよい。例えば、BET比表面積が2m/g以上、好ましくは20m/g以上、特に好ましくは50m/g以上であるマグネシア粉末が使用される。
【0030】
上記のシリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)との水分の存在下、例えば水中での均質混合では、原料の一つであるシリカ(二酸化ケイ素)がコロイド粒子乃至微細凝集粒子(1次乃至2次粒子)まで解れる。他方のマグネシア(酸化マグネシウム)も、水中に投入されて撹拌もしくは粉砕されると、溶解は殆ど起こらないが、マグネシア粒子表面の部分的な水和により、その結晶(もしくは新たに生成した水和物の結晶)の一部分或いは全部が崩壊もしくは剥離して、マグネシア(酸化マグネシウム)及び/又は酸化マグネシウム水和物からなる微細な粒子となって水中に分散される。
【0031】
上記のような水分存在下での水性スラリーの調製では、各原料(A)、(B)や水の投入順序等に制限はないが、凝集やゲル化現象(増粘)が起こると、前述した微細粒子化(ナノ粒子化)や一体複合化の進行が妨げられる虞がある。このため、水性スラリーの固形分濃度は低い方が好ましい。一方で、生産性や経済性の見地からは固形分濃度は高い方がよい。従って、固形分濃度は3~15質量%、特に8~13質量%であることが好ましい。
【0032】
熟成工程では、これらの微細粒子が均質に分散したスラリーから水分が除去され、固形分濃度が上昇していくと、シリカの粒子(A)とマグネシアの粒子(B)とが徐々に或いは急激に接近し、原子の交換や組み換えを伴うような化学結合を伴うことなく、一体複合化した形態に至り(一体複合化完了)、目的とするシリカ・マグネシア複合粒子が得られる。
【0033】
上記のような均質混合及び熟成は、100℃以下で行い、50~97℃で行うことが好ましく、50~79℃で行うことが、ゲル化を有効に防止し且つ短時間で複合一体化を行う上で好適である。
【0034】
尚、均質混合及び熟成は、攪拌翼を備えた攪拌槽中で攪拌下に行うのが一般的であるが、湿式ボールミルやコロイドミルによる粉砕もしくは分散下で行うこともできる。
また、温度やスラリーの仕込み容量等によっても異なるが、少なくとも0.5時間かけて均質混合及び熟成を行うことが必要である。また、温度が高いほど、ナノ粒子の流動性が高くなり効率よく均質化するため、より短時間で行うことができる。一般には、1~24時間、特に3~10時間程度かけて混合及び熟成が行われる。
【0035】
熟成後には、スプレー乾燥機やスラリー乾燥機等を用いての蒸発乾燥により水分を除去するが、ろ過や遠心分離等の手段によりある程度の脱水を行った後に、箱形乾燥機、バンド乾燥機、流動層乾燥機等を用いて乾燥を行ってもよい。このとき、原料(B)の水和が少なくとも一部乃至は全部解消される。
【0036】
上記のようにして、例えば水分含有率が10質量%以下であり、脱水により原料粒子である二酸化ケイ素(シリカ)粒子とマグネシア粒子とが緊密に複合化したシリカ・マグネシア複合粒子が、顆粒状、粉状、ケーキ状或いは団塊状で得られる。これらは、必要により、粉砕・分級、或いは成形を行い、後述するテアニンの捕集に好適な粒子形状として使用に供される。
このようなシリカマグネシアは、例えば水澤化学工業株式会社より、「ミズカライフF-1G」、「ミズカライフF-2G」の商品名で市販されている。
【0037】
さらに、本発明においては、シリカも多孔質無機材料として使用することができる。このようなシリカとしては、種々のものが知られているが、特にケイ酸ソーダ等のケイ酸アルカリを酸と反応させることにより得られる所謂湿式法シリカが好適に使用される。例えば、四塩化ケイ素等を燃焼することにより得られる乾式シリカもしくはヒュームドシリカは、著しく微細であり、窒素吸着法BET比表面積が極めて大きいが、細孔を殆ど有しておらず、所定のBET比を満足することができないため、本発明では使用することができない。
【0038】
本発明においては、前述したBET比が所定の範囲にある多孔質材料である限り、上記以外にも各種の鉱物や無機化合物、例えばスチブンサイトやケイ酸マグネシウムなども使用することができるが、テアニンの捕集性という点で、ジオクタヘドラル型スメクタイト或いはその酸処理物(もしくは焼成物)やシリカマグネシアが最も好適に使用される。
また、後述するテアニン脱離時の液のpH調整などのために、例えば硫酸アルミニウムなどの添加剤を、テアニンの捕集性に悪影響を与えない限り、混合して使用することもできる。
【0039】
<テアニンの捕集>
本発明においては、茶葉に代表される含テアニン物質から有機溶媒を用いてテアニンを抽出し、このテアニンの有機溶媒溶液に、前述した多孔質無機材料を投入し、混合撹拌することにより、テアニンを捕集することができる。
即ち、テアニンは水溶性であると共に、前述したように、用いる多孔質無機材料は水に対する親和性が高い。このため、有機溶媒溶液中に存在しているテアニンは、有機溶媒中から多孔質無機材料側に容易に移行し、この結果、テアニンを効果的に吸着して捕集することができる。例えば、テアニンを水で抽出して得られるテアニンの水溶液中に多孔質無機材料を投入して混合撹拌した場合には、テアニンの吸着量は極めて少ないが、有機溶媒を用いてテアニンの抽出を行った場合には、テアニンの吸着量は著しく増大する。
尚、興味深いことは、活性炭(BET比が著しく小さい)を用いた場合には、テアニンを吸着するが、本発明における多孔質無機材料とは異なり、テアニンの脱離量は極めて少なくなっていることである。恐らく、活性炭の場合には、親水性が著しく低いために水が活性炭中に侵入し難くテアニンが放出されないのではないかと考えられる。
【0040】
本発明において、上記の有機溶媒としては、溶解度パラメータが8.3以上、特に10~20の範囲にあるものが使用される。この溶解度パラメータは、Smallにより提唱された算出方法で計算される溶解度パラメータ(δ)と呼ばれる指数であり、分子を構成する原子または原子団とその結合型などについてのモル牽引力定数、分子容から算出される(σ=(ΔE/V)1/2;P.A.J.Small:J.Appl Chem.,3,71(1953))。溶解度パラメータは、SP値とも呼ばれ、この値が大きい程、極性が高く(因みに水は21.0(cal/ml)1/2である)、物質同士の相溶性を評価するための尺度として広く利用されており、この値が差が小さいほど、両物質は高い親和性を示し、相溶性が高いことを意味している。
即ち、このSP値が上記範囲にあるものは極性有機溶媒として知られているものであり、このような極性有機溶媒を使用することにより、茶葉等の含テアニン物質からテアニンを抽出することができる。また、SP値が、過度に高いものは、テアニンの抽出を行うことはできても、親水性が高く、この結果、この極性有機溶媒中のテアニンを、多孔質無機材料で吸着することが困難となる。さらに、SP値が上記範囲よりも低いもの(例えばn-ヘキサン、SP値7.3)は、テアニン抽出性が乏しく、本発明では使用することができない。
【0041】
因みに、本発明において好適に使用される極性有機溶媒は、以下のとおりである。尚、括弧内の値は、SP値(単位:(cal/ml)1/2
)である。
アセトン(9.4)
ジオキサン(9.8)
イソプロピルアルコール(10.2)
エタノール(11.2)
ジメチルホルムアミド(11.5)
アセトニトリル(11.8)
メタノール(12.9)
本発明においては、取扱いが容易であり、且つ容易に入手できることから、アルコール類(具体的には、イソプロピルアルコール、エタノール及びメタノール)が好適に使用され、最も好適にはエタノールが使用される。
【0042】
上述した極性有機溶媒、特にアルコール類は、水を含んでいる場合が多く、水との混合溶媒として使用される場合が多いが、本発明では、このような水の含有量は、有機溶媒中、50%以下に抑制されていることが好ましい。水が多く混合されている場合には、多孔質無機材料へのテアニンの吸着が阻害されるからである。
【0043】
本発明において、上記の極性有機溶媒の使用量は、例えば、茶葉1g当り、50ml以上であり、通常は、100~500ml程度である。
また、極性有機溶媒を用いてのテアニンの抽出は、室温下(例えば15~30℃程度)の温度で、極性有機溶媒中に茶葉等の含テアニン物質を投入し、撹拌下に1時間以上保持すればよく、これにより、茶葉中に含まれるテアニンを、例えば10~100mg/L程度の量で極性有機溶媒中に抽出することができる。
さらに、茶葉の代わりに市販の茶抽出物(例えば、株式会社伊藤園製テアフランや太陽化学株式会社製サンフェノン)も利用可能である。
【0044】
上記のようにして抽出されたテアニンを含む極性有機溶媒中に、前述した多孔質無機材料を投入し、同様に室温下(15~30℃程度)で混合撹拌すればよく、特に加熱等は必要でない。極性有機溶媒の使用量は、通常、極性有機溶媒中に存在しているテアニン1g当り10~30L程度であり、1時間以上、混合撹拌を続けることにより、極性有機溶媒中のテアニンの50質量%以上を多孔質無機材料に吸着することができる。
【0045】
上記のようにして多孔質無機材料にテアニンを吸着した後は、遠心分離、濾過等によりテアニンが吸着されている多孔質無機材料を固液分離する。
固液分離された多孔質無機材料は、例えば、多孔質無機材料1g当り30ml以上の純水中に投入し、超音波振動等により撹拌処理することにより、多孔質無機材料に吸着保持されているテアニンを純水中に溶出することができる。純水中に捕集されたテアニンは、加熱等により濃縮することにより捕集され、サプリメントや医薬品等の用途に使用される。
【0046】
かかる本発明によれば、テアニンの水溶液中からはテアニンを効果的に吸着することができないような多孔質無機材料であっても、極性有機溶媒によりテアニンを抽出することによりテアニンを吸着して捕集することができるという大きな利点を有する。
また、極性有機溶媒を用いてテアニンを抽出し、このテアニンを多孔質無機材料で吸着して捕集した後、純水を用いて多孔質無機材料からテアニン溶出させるという手段を用いることにより、テアニンと共に抽出される不純有機物を排除でき、高純度のテアニンを捕集することができることも、本発明の大きな利点である。
【実施例
【0047】
本発明の優れた効果を、次の実験例により説明する。
【0048】
(1)窒素吸着法によるBET比表面積(B)
マイクロメリティクス社製TriStar 3000を用いて窒素吸着法により測定を行い、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
【0049】
(2)水蒸気吸着法によるBET比表面積(A)
日本ベル株式会社製BELSORPを用いて水蒸気吸着法により測定を行ない、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
【0050】
(3)テアニン吸着試験
先ず、L―テアニン(和光純薬工業(株)製)を99.5%エタノール(試薬1級、和光純薬工業(株)製)に溶かし、51mg/L濃度のテアニン溶液を得た。
このテアニン溶液30gを50ml容量の遠沈管に採取し、吸着剤0.5g(対液1.7質量%)を加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製7780II)により遠心加速度10000rpmで10分処理した液の上澄みをメンブレンフィルター(ADVANTEC製C045A025A)で濾過した液(試料液)を得た。試料液の201nm波長光の吸光度を分光光度計((株)島津製作所製UV―2600)により測定した。このとき、吸着剤の溶解性塩類等の影響を差し引くため、あらかじめテアニン未溶解のエタノール30gに0.5gの吸着剤を加えて同様の操作をしたときの吸光度を試料液の吸光度から差し引き、試料液の補正吸光度とした。そして、予め作成したテアニン濃度と201nm波長光の吸光度の関係を示す検量線を用いて試料液のテアニン残存量を算出し、吸着剤添加前のテアニン量から差し引いた値をテアニン吸着量とした。
【0051】
(4)テアニン脱離試験
上記吸着試験にて試料液を回収した後に残った吸着剤(テアニン含有吸着剤)にイオン交換水30gを添加し、振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製7780II)により遠心加速度10000rpmで10分処理した液の上澄みをメンブレンフィルター(ADVANTEC製A045A025A)で濾過した液(試料液)を得た。上記吸着試験と同様の操作により補正吸光度を測定し、試料液中のテアニン量を測定した。このテアニン量から残存していた吸着試験液由来のテアニン量を差し引いた値をテアニン脱離量とした。
【0052】
(5)粒度
(株)堀場制作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA―960を用いてエタノール溶媒にて測定を行った。超音波分散は強度1で1分間行った。試料屈折率は実数項1.49、虚数項0.10iとした。アルゴリズムオプションはLA―950互換(標準)を使用し、分布形態は手動(収束強度300)とし、体積基準の10%径(D10)、50%径(D50)、90%径(D90)を測定した。
【0053】
下記の実施例および比較例に示す吸着剤について、物性および各種吸着脱離試験結果を表1~3に示す。
【0054】
(実施例1)
水澤化学工業(株)製酸性白土ミズカエース#20。
【0055】
(実施例2)
山形県鶴岡市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を乾燥(110℃)、粉砕、分級して粘土粉末を得た。ビーカーに5質量%硫酸水溶液220mlを採り、90℃に加熱した。そこへ粘土粉末30gを添加し、液温90℃に維持した状態で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、酸処理物を水でろ過洗浄し、洗浄後のろ過ケーキを110℃にて乾燥し、粉砕、分級して得た弱酸処理白土粉末(D10:5.6μm、D50:31.9μm、D90:147.5μm)。
【0056】
(実施例3)
水澤化学工業(株)製活性白土ガレオンアースV2。
【0057】
(実施例4)
水澤化学工業(株)製ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土粉末ミズカバインダーZ。
【0058】
(実施例5)
実施例1で得た粘土粉末を電気炉(デンケン・ハイデンタル(株)製1500Plus)にて300℃で2時間焼成して得た焼成粘土粉末。
【0059】
(実施例6)
実施例5の焼成温度を500℃にして得た焼成粘土粉末。
【0060】
(実施例7)
実施例5の焼成温度を700℃にして得た焼成粘土粉末。
【0061】
(実施例8)
実施例5の焼成温度を900℃にして得た焼成粘土粉末。
【0062】
(実施例9)
山形県鶴岡市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土に対して硫酸アルミニウム水溶液(濃度8%)を8質量%混合し、110℃にて乾燥し、粉砕、分級して得たアルミ添加粘土粉末。
【0063】
(実施例10)
水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤ミズカライフF―1G。
【0064】
(実施例11)
水澤化学工業(株)製シリカゲル ミズカソーブC―1。
【0065】
(実施例12)
水澤化学工業(株)製酸性白土ミズカエース#20を粒度調整した粉末(D10:4.5μm、D50:17.9μm、D90:31.7μm)。
【0066】
(実施例13)
水澤化学工業(株)製酸性白土ミズカエース#20を粒度調整した粉末(D10:15.7μm、D50:55.1μm、D90:70.0μm)。
【0067】
(実施例14)
新潟県胎内市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土ペレット700gを90℃に加熱した5質量%硫酸水溶液1000mlに投入した。液温90℃に維持した状態で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、水で洗浄したペレットを110℃にて乾燥し、粉砕、分級して弱酸処理白土粉末を得た(D10:4.6μm、D50:41.1μm、D90:97.0μm)。
【0068】
(実施例15)
実施例14にて得られた弱酸処理白土を粒度調整した粉末(D10:3.4μm、D50:12.6μm、D90:24.2μm)。
【0069】
(比較例1)
市販の活性炭粉末。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】