(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】列車制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20230508BHJP
B61L 25/02 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
B60L15/40 D
B61L25/02 A
(21)【出願番号】P 2019026762
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 純子
(72)【発明者】
【氏名】射場 智
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽平
(72)【発明者】
【氏名】宮島 康行
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220859(JP,A)
【文献】特開2014-144754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/40
B61L 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駅のホームを撮像するカメラから出力される撮像データを用いてホーム上の人数を推定する混雑状況推定部と、前記混雑状況推定部の推定結果に基づいて乗降時間を予測し、乗降時間予測情報を生成する乗降時間予測部と、前記予測情報を列車に通知する通信装置と、を有する混雑監視装置と、
自列車の速度と位置を検出する列車速度位置検出部と、路線情報、車両情報及び運行情報を記憶する記憶部と、前記自列車の停車予定の駅ホームにおける乗降時間の予測結果が入力され、前記予測結果と、前記記憶部に記憶された運行情報と、に基づいて目標走行時間を設定する走行目標設定部と、前記列車速度位置検出部の検出結果、前記記憶部に記憶された路線情報、車両情報及び前記目標走行時間に基づいて、駆動/制動制御装置への制御指令を算出する制御指令算出部と、を有する列車制御装置と、
を備え、
前記制御指令算出部は、駅到着までの残り時間を推定し、前記混雑監視装置に通知し、
前記乗降時間予測部は、ホーム上の人数の増加度合いと、通知された前記駅到着までの残り時間と、に基づいて列車到着時の人数を予測し、この人数が所定値以上の場合に、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する、
列車制御システム。
【請求項2】
前記乗降時間予測部は、前記ホーム上の人数が所定値以上となると、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する、
請求項1記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記混雑状況推定部は、前記撮像データを用いて乗降弱者を検出し、
前記乗降時間予測部は、前記乗降弱者が検出された場合は乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する、
請求項1又は請求項2に記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記走行目標設定部は、前記乗降時間の予測結果が所定停車時間を超過するとされたときは一定時間の早着となるように現在位置から次停車駅までの前記目標走行時間を設定し、
前記乗降時間の予測結果が所定停車時間を超過しないとされたときは、定刻での到着となるように、前記目標走行時間を設定する、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項5】
前記制御指令算出部は、自列車の駅到着までの残り時間を推定して、前記混雑監視装置に通知し、
前記乗降時間予測部は、ホーム上の人数の増加度合いと、通知された列車の駅到着までの残り時間に基づいて列車到着時の人数を予測し、この人数が所定値以下の場合に、乗降時間が所定停車時間を一定時間以上下回ると予測する、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項6】
前記走行目標設定部は、乗降時間が所定停車時間を一定時間以上下回ると予測されたときは一定時間の遅着となるように、現在位置から次停車駅までの目標走行時間を設定する、
請求項5記載の列車制御システム。
【請求項7】
前記制御指令算出部は、自列車の駅到着までの残り時間を推定して、前記混雑監視装置に通知し、
前記乗降時間予測部は、ホーム上の人数の増加度合いと、通知された列車の駅到着までの残り時間に基づいて列車到着時の人数を予測し、この人数に基づいて乗降時間予測値を算出する、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項8】
混雑状況推定部は、列車到着後のカメラの撮像データに基づいて乗降時間実績値を計測し、
前記乗降時間予測部は、前記列車到着時のホーム上の人数の履歴と、列車到着後の乗降時間実績値の履歴と、列車到着時のホーム上の人数の予測値と、に基づいて、乗降時間予測値を算出する、
請求項7記載の列車制御システム。
【請求項9】
前記列車制御装置は、乗車率を推定する乗車率推定部を備え、
前記乗降時間予測部は、列車到着時のホーム上の人数の履歴と、列車到着後の乗降時間実績値の履歴と、前記乗車率の履歴と、列車到着時のホーム上の人数の予測値と、前記乗車率と、に基づいて、乗降時間予測値を算出する、
請求項8記載の列車制御システム。
【請求項10】
前記走行目標設定部は、乗降時間予測値が所定停車時間を下回るときは下回る分だけ遅着となるように、それ以外の場合は定刻での到着となるように、現在位置から次停車駅までの目標走行時間を設定する、
請求項1乃至請求項9のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項11】
前記混雑状況推定部は、駅のホームを撮像するカメラから出力される撮像データ中の旅客案内表示装置の表示から運転種別、行き先、発車時刻を抽出し、
前記走行目標設定部は、混雑状況推定部が抽出した運転種別、行き先と、自列車に設定された運転種別、行き先と、に基づいて、自列車の到着予定番線を推定して、走行目標を設定する、
請求項1乃至請求項10のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項12】
前記混雑状況推定部は、駅のホームを撮像するカメラから出力される撮像データを用いて、停車中の列車の乗降者数を推定し、
前記乗降時間予測部は、混雑状況推定部が推定した乗降者数から、乗降完了までの残り時間を推定し、
走行目標設定部は、前記記憶部に記憶された路線情報、運行情報と、乗降時間予測部が推定した残り時間と、に基づいて、先行列車の駅停車により後続列車が保安ブレーキを受ける位置と速度を目標位置と目標速度に、先行列車の出発により後続列車が駅進入可能となるまでの時間を予測して目標走行時間を設定する、
請求項1乃至請求項11のいずれか一項記載の列車制御システム。
【請求項13】
前記走行目標設定部は、前記混雑状況推定部が抽出した番線の運転種別、行き先と、前記記憶部に記憶された路線情報に基づいて、各番線に停車中の列車が駅を進出する経路を推定する、
請求項12記載の列車制御システム。
【請求項14】
地上側に設置される混雑監視装置と、自列車の速度と位置を検出する列車速度位置検出部及び路線情報、車両情報及び運行情報を記憶する記憶部を有し、列車に搭載される列車制御装置と、を備えた列車制御システムで実行される方法であって、
駅のホームを撮像するカメラから出力される撮像画像に基づいてホーム上の人数を推定する過程と、
前記推定の結果に基づいて乗降時間を予測する過程と、
前記予測の結果と、前記記憶部に記憶された運行情報と、に基づいて目標走行時間を設定する過程と、
前記列車速度位置検出部の検出結果、前記記憶部に記憶された路線情報、車両情報及び前記目標走行時間に基づいて、駆動/制動制御装置への制御指令を算出する過程と、
を備え、
前記制御指令を算出する過程
は、駅到着までの残り時間を推定し、前記混雑監視装置に通知し、
前記乗降時間を予測する過程
は、ホーム上の人数の増加度合いと、通知された前記駅到着までの残り時間と、に基づいて列車到着時の人数を予測し、この人数が所定値以上の場合に、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、列車制御装置、列車制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動列車運転(ATO)装置の導入が進んでいる。運転士の負担軽減、ワンマン運転化による人件費削減、および、運転士の技量によらず安定してホームドア位置に合わせて列車を停止させることにより停止位置修正による遅延発生を防止するなど列車運行を安定化することが目的である。
【0003】
列車運行の安定化のためには、ATOが所定の駅間走行時間を守るように列車を駅間走行させることも必要である。そのためには、あらかじめ走行試験を繰り返して駅間の走り方に関する制御パラメータを調整しておく、列車位置と速度に応じて所定駅間走行時間を守る走行計画を立てる機能を持たせる、などの方法が採られる(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。さらには、乗降客の多い混雑時間帯には、あらかじめATOを回復運転モードに設定しておくことで、停車時間が延びて定刻通りに出発できない場合には、駅間走行時間を短縮し、出発遅れによる遅延の回復を図るようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5414810号公報
【文献】特許第5292202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回復運転モードで走行しても、先行列車が遅延していると、次駅接近時に先行列車が未だ駅停車中で、次駅構内に進入できない場合があり、駅の手前でいったん減速ないし停止し、先行列車出発後に再力行して駅に到着することになり、加減速による乗り心地の悪化や消費エネルギー増大の原因となっていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、乗降客が多かったり乗降弱者がいたりしても、後続列車に遅延を伝播させず、消費エネルギーの増大を抑制することが可能な列車制御装置、列車制御システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の列車制御装置は、駅のホームを撮像するカメラから出力される撮像データを用いてホーム上の人数を推定する混雑状況推定部と、前記混雑状況推定部の推定結果に基づいて乗降時間を予測し、乗降時間予測情報を生成する乗降時間予測部と、前記予測情報を列車に通知する通信装置と、を有する混雑監視装置と、自列車の速度と位置を検出する列車速度位置検出部と、路線情報、車両情報及び運行情報を記憶する記憶部と、前記自列車の停車予定の駅ホームにおける乗降時間の予測結果が入力され、前記予測結果と、前記記憶部に記憶された運行情報と、に基づいて目標走行時間を設定する走行目標設定部と、前記列車速度位置検出部の検出結果、前記記憶部に記憶された路線情報、車両情報及び前記目標走行時間に基づいて、駆動/制動制御装置への制御指令を算出する制御指令算出部と、を有する列車制御装置と、を備え、前記制御指令算出部は、駅到着までの残り時間を推定し、前記混雑監視装置に通知し、前記乗降時間予測部は、ホーム上の人数の増加度合いと、通知された前記駅到着までの残り時間と、に基づいて列車到着時の人数を予測し、この人数が所定値以上の場合に、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
【
図5】
図5は、第4実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態の列車制御システムの処理フローチャートである。
【
図7】
図7は、目標位置、目標速度及び目標走行時間の設定処理フローチャートである。
【
図9】
図9は、従来の自列車が先行列車の駅停車により停止信号を受けた場合に保安ブレーキが掛かってしまった場合の説明図である。
【
図11】
図11は、保安系がデジタルATCやCBTCである場合の第4実施形態の動作説明図である。
【
図13】
図13は、第5実施形態の処理フローチャートである。
【
図14】
図14は、第6実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]第1実施形態
次に図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
列車制御システム100は、大別すると列車10と、列車10と通信を行い、駅ホームを撮影した画像から駅ホームの混雑状況を推定し、混雑状況の推定結果に基づいて乗降時間を予測し、列車10に乗降時間情報として通知する混雑監視装置11と、を備えている。
【0010】
上記構成において、列車制御システム100を構成する列車10には、列車10の制御を行う列車制御装置12と、運転士が操作により列車10の制御を行う主幹制御器13と、列車制御装置12及び主幹制御器13からの力行指令、制動(ブレーキ)指令等の制御指令を伝送する制御伝送装置14と、制御伝送装置14を介して伝送された制御指令に基づいてモータ15、ブレーキ装置16等を制御する駆動/制動制御装置17と、速度発電機(TG)18と、地上子検知情報を出力する車上子19と、軌道回路を構成しているレールRLを介してATC信号を受電する受電器20と、列車10の速度及び走行位置を検出し、速度位置検出信号SPを出力する速度位置検出装置21と、架線LNとの間で電力の授受を行うための集電器(パンタグラフ)22と、混雑監視装置11との間で通信を行う通信装置23と、列車10の自動速度制御を行うATC車上装置24と、を備えている。
【0011】
混雑監視装置11は、カメラCMが駅ホームの画像を撮像して出力した撮像データDIが入力され、撮像データDIに対応する画像の画像解析を行って駅ホームの混雑状況(駅ホームの滞在人数)を推定し混雑情報CIを出力する混雑状況推定部31と、混雑状況推定部31が推定した駅ホームの混雑状況(駅ホームの滞在人数)に対応する混雑情報CIに基づいて、乗降時間を予測し、列車10に対応する所定の停車時間を超過するか否かを予測するとともに、予測した乗降時間を乗降時間情報RTとして通信装置CDを介して列車10に通知する乗降時間予測部32と、を備えている。
【0012】
また、列車制御装置12は、列車10の自動運転を行う制御指令算出部[ATO(Automatic Train Operation)装置]12Aと、路線情報RD、運行情報OP、車両性能等の車両情報TR等の各種情報を記憶した記憶部12Bと、記憶部12Bから読み出した路線情報RD、運行情報OP、車両性能等の車両情報TR等及び速度位置検出信号SPに基づいて走行目標を設定し目標走行時間TRTを出力する走行目標設定部12Cと、を備えている。
【0013】
上記構成において、記憶部12Bは、路線情報RDとして、各駅の停止目標位置、路線の勾配と曲線(曲率半径)、各閉塞区間の制限速度情報と閉塞長(閉塞区間の距離)を記憶している。また記憶部12Bは、運行情報OPとして、運転種別ごとの停車駅と、各駅の発着予定時刻と到着予定番線を記憶している。さらに記憶部12Dは、車両情報TRとして、自列車の列車長と、力行指令及びブレーキ指令に対応した加速度の特性並びに力行指令、ブレーキ指令及び列車10の運転曲線毎に対応した基準となる時定数データである基準時定数データを更新可能に記憶している。
【0014】
また、速度位置検出部21は、速度発電機(TG)18の出力したTGパルスTPや、地上子25から車上子19を介して受信する地上子検知情報GDに基づいて、列車の速度と位置を検出し、速度位置情報SPとしてATC車上装置24及び制御指令算出部12Aに出力する。
【0015】
また、ATC車上装置24は、速度位置検出装置21からの速度位置情報SPと、レールRL及び受電器20を介して入力されたATC地上装置26の送信したATC信号(信号現示)SAとに基づいて列車10を先行列車10Aとの間の距離を確保して走行速度を制限するために、ATC信号SAに基づく制限速度と、速度位置検出装置21の出力した速度位置情報SPに対応する列車10の速度と、を比較する。この場合において、ATC地上装置26は、軌道回路を構成しているレールRLを介して列車10が在線していることを検知するための在線検知情報SRLを取得している。
【0016】
そしてATC車上装置24は、列車10の速度が制限速度を超過している場合に、制御伝送装置14を介して駆動/制動制御装置17にブレーキ指令BC1を出力する。ここで、ATC地上装置26は、軌道回路を構成しているレールRLを介して各閉塞区間の列車在線有無を検知し、在線状況に応じて各閉塞区間のATC信号SAを決定し、決定したATC信号SAをレールRLを介してATC車上装置24に送信している。
【0017】
次に駆動/制動制御装置17の概要構成について説明する。
駆動/制動制御装置17は、ATC車上装置24からのブレーキ指令BC1と、制御指令算出部12Aからの力行指令DC2及びブレーキ指令BC2と、図示しない運転士の操作する図示しない主幹制御器(マスコン)13からの力行指令DC3及びブレーキ指令BC3のうち、ブレーキ側に最も高位の指令(駆動指令DCX又はブレーキ指令BCX)に基づいて、モータ15を制御し、ブレーキ時は、モータ15での回生トルク発生量に関する情報をブレーキ装置16に通知する。
【0018】
また、駆動/制動制御装置17は、ATC車上装置24からのブレーキ指令BC1、制御指令算出部12Aからのブレーキ指令BC2、あるいは、運転士の操作する主幹制御器(マスコン)13からのブレーキ指令BC3のうち、ブレーキ側に最も高位のブレーキ指令(制動力が最も大きくなるブレーキ指令)と、主回路装置からの回生トルク発生量情報とに基づいて、モータ15の回生ブレーキだけで賄いきれない制動力を補足(補助)するよう、ブレーキ装置16を制御する。
【0019】
列車10は、駆動/制動制御装置17の制御下で、モータ15及びブレーキ装置16により車輪Wが駆動あるいは制動されてレールRL上を走行する。
【0020】
次に第1実施形態の動作について説明する。
まず、混雑状況監視装置11の混雑状況推定部31が、駅ホームに設置されたカメラCMの撮像データDIを取り込み、画像処理を行って、駅ホームの混雑度(ホーム滞在人数)を推定して、混雑情報CIとして出力する。この場合において、カメラCMは、駅ホーム全体の画像を取り込めるよう複数台設置しておくのが好ましい。
【0021】
ここで、混雑度(駅ホームにおける単位面積当たりの滞在人数等)の推定には、画像認識処理を用いた人物抽出処理及び人物抽出処理結果に基づく混雑度解析処理(人数解析処理)が用いられ、例えば、RECAIUS(登録商標)人物ファインダ等の処理プログラム等が利用できる。
【0022】
次に、混雑状況監視装置11の乗降時間予測部32は、混雑状況推定部31が推定した駅ホームの混雑度と所定の第1閾値とを比較する。ここで、第1閾値は、推定した混雑度がこの値を超えると乗車時間が所定の停車時間を超過すると予測される値を有している。
【0023】
したがって、混雑状況監視装置11は、推定した駅ホームの混雑度が第1閾値を超えた場合には、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測し、乗降時間情報RTとして、通信装置CDを介して列車10に通知する。
【0024】
上記構成において、第1閾値は、事前に混雑度と乗降時間の関係を調査して決定してもよいし、列車の駅到着後に混雑状況推定部31がホーム画像から実際の乗降時間を計測し、その結果に基づいて、乗降時間予測部32が自動的に調整するようにしてもよい。
【0025】
これにより、乗降時間情報RTを受信した列車制御装置の走行目標設定部12Cは、乗降時間予測部32から通信装置CDを介して乗降時間情報RTを受信する。
走行目標設定部12Cは、受信した乗降時間情報RTに基づいて、乗降時間が所定停車時間を超過しないと予測された場合は、駅間の所定走行時間から、駅出発からの時間を差し引いて、次駅までの目標走行時間を設定する。
【0026】
これに対し、走行目標設定部12Cは、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測された場合は、運転モードを回復運転モードに設定して処理を行う。
ここで、回復運転モードについて詳細に説明する。
【0027】
図2は、回復運転モードの説明図である。
図2(a)に示すように、予測した乗降時間TGが所定停車時間TS0を超過し、列車10の遅延が発生する虞があるとされた場合は、走行目標設定部12Cは、運転モードを回復運転モードに設定する。
回復運転モードにおいては、走行目標設定部12Cは、予測した乗降時間TGが停車時間(=列車10が駅に到着した時刻から所定の出発時刻tstまでの時間)に収まるように、例えば、駅間の所定走行時間TRTから駅出発後の経過時間を差し引いた所定の駅間走行時間TRTの残時間である目標走行時間TR0を算出し、さらに一定時間(例えば、5秒)を差し引いて、
図2(b)に示すように、通常より時間Δtだけ短縮された目標走行時間TR1を設定する。
この場合において、走行目標設定部12Cは、駅間の所定走行時間TRTを一定割合で減じてから(例えば、5%短縮)、駅出発後の経過時間を差し引いて、次駅までの通常より時間Δtだけ短縮された目標走行時間TR1を設定するようにしてもよい。
【0028】
これらの結果、制御指令算出部12Aは、通常より時間Δtだけ短縮された目標走行時間で次駅に到着するように走行計画を更新する。そして制御指令算出部12Aは、更新した走行計画に従って走行するよう力行指令DC2及びブレーキ指令BC2を算出し、制御伝送装置14を介して駆動/制動制御装置17に通知する。
【0029】
この結果、列車10は、駅に時間Δtだけ早着することができるので、所定の停車時間TS0と比較して、停車時間を時間Δt(=乗降遅延予測時間+α)だけ長くすることができ、混雑により乗降時間が通常より延びても駅出発の遅れを抑制できる。
したがって、
図2(a)に示すように、定刻に到着して駅出発が乗降時間により遅れる場合と比較して、後続列車への遅延の伝播を低減あるいは無くすことができる。
【0030】
また、制御指令算出部12Aは、目標速度が許容速度を超過する等により許容される走行計画の範囲内では目標走行時間を守れない場合は、許容される走行計画の範囲内で最短時間で次駅に到着するよう、力行指令DC2及びブレーキ指令BC2を算出し、制御伝送装置14を介して駆動/正義道制御装置17に通知する。
【0031】
この場合には、列車は駅に早着することはできない可能性があるものの、可能な限り停車時間を長くすることができ、混雑により乗降時間が通常より延びても駅出発の遅れを抑制できるので、後続列車への遅延の伝播を低減することができる。
【0032】
以上の説明では、混雑状況推定部31は、混雑情報として、混雑度を推定していたが、ホーム滞在人数を推定し、乗降時間予測部32は、ホーム滞在人数に基づいて、乗降時間が停車時間を超過するかどうか予測するようにしてもよい。
【0033】
また、駅ホーム全体の混雑度を第1閾値と比較することに代えて、駅ホームを複数のエリアに分割し、各エリアの混雑度を第1閾値と比較するようにしてもよい。この場合第1閾値を超えるエリアが一つでもあれば、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測するようにすればよい。
【0034】
また、混雑状況推定部31が、駅ホームの混雑度を推定するだけでなく、車椅子利用者、ベビーカー利用者、杖を突いたお年寄りの利用者など、乗降に時間の掛かる可能性のある利用者である乗降弱者を検出するようにしてもよい。
【0035】
すなわち、乗降時間予測部32は、乗降弱者が検出された場合は、乗降時間が所定停車時間を超過する可能性が高いと予測し、乗降時間が所定停車時間を超過する可能性がある旨を乗降時間情報として、通信装置CDを介して列車10に通知する。
【0036】
この結果、混雑度が高くない場合であっても、混雑以外の要因で発生する乗降時間の延びを見越すことができ、列車10を可能な限り早着させることにより駅出発の遅れを抑制できる。
したがって、後続列車への遅延の伝播を低減することができる。
さらに、乗降弱者が慌てて乗降しようとすることによる転倒や、乗降が間に合わずドアに挟まれる、などの可能性も低減させることができ、より一層安全に定時運転の可能性を向上させることができる。
【0037】
また、列車10の到着可能な番線(トラック)が複数ある場合は、混雑状況推定部31は、駅ホームの画像内の旅客案内表示装置の表示の画像認識及び文字認識を行い、運転種別、行き先、発車時刻を抽出する。
乗降時間予測部32は、番線毎の、乗降時間が所定停車時間を超過するか否かの情報(例えば、遅延予測時間。0ならば遅延なし)を、到着予定列車の情報と併せて走行目標設定部12Cに通知する。
【0038】
走行目標設定部12Cは、自列車に設定された運転種別と行き先に基づいて、自列車の到着予定番線を推定し、当該番線の乗降時間情報を選択することが可能となる。
したがって、列車10の到着可能な番線(トラック)が複数ある場合でも、正確な乗降時間情報に基づいて駅出発の遅れを抑制し、後続列車への遅延の伝播を低減することができる。
【0039】
[2]第2実施形態
次に第2実施形態について説明する。
上記第1実施形態は、混雑状況推定部31で推定した駅ホームの混雑度に基づいて、乗降時間が所定停車時間を超過するか否かを予測する実施形態であったが、本第2実施形態は、列車の駅到着時の混雑度を予測し、この予測値に基づいて、乗降時間が所定停車時間を超過するか否かを予測する実施形態である。
【0040】
図3は、第2実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
図3において、
図1の第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付すものとする。
本第2実施形態の列車制御システム100Aが、第1実施形態の列車制御システム100と異なる点は、走行目標設定部12Cが混雑監視装置11に対し、駅間走行残り時間SRTを通知し、混雑監視装置11の乗降時間予測部32が通知された駅間走行残り時間SRTに基づいて乗降時間を予測する点である。
【0041】
まず、制御指令算出部12Aは、走行計画と自列車位置から駅到着までの残り時間を算出し、算出した駅到着までの残り時間を通信装置23を介して駅間走行残り時間情報SRTとして乗降時間予測部32に通知する。この場合において、制御指令算出部12Aは、自列車の運転種別を駅間走行残り時間情報SRTに含めて乗降時間予測部32に通知するようにしてもよい。
【0042】
乗降時間予測部32は、ホーム滞在人数の増加度合いと、通知された駅間走行残り時間情報SRTに対応する駅到着までの残り時間(と到着予定の列車の運転種別)と、に基づいて列車到着時のホーム滞在人数を予測する。そして乗降時間予測部32は、予測した列車到着時のホーム滞在人数が第1閾値を超えた場合には、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測し、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測される旨を乗降時間情報RTとして、通信装置CDを介して列車10に通知する。
【0043】
この結果、列車10の走行目標設定部12Cは、より早いタイミングで回復運転モードを設定することでき、列車10はより早く駅に到着することができるので、第1実施形態と比較して、後続列車への遅延の伝播をさらに低減することができる。
【0044】
さらに、乗降時間予測部32は、列車到着時のホーム滞在人数の予測値が第2閾値を下回ると、乗降時間が所定停車時間を一定時間以上下回ると予測し、乗降時間が所定停車時間を一定時間以上下回ると予測した旨を乗降時間情報RTとして、通信装置CDを介して列車に通知するようにしてもよい。
【0045】
乗降時間情報RTに基づき、走行目標設定部12Cは、乗降時間TGが所定停車時間TS0を一定時間以上下回ると予測された場合には、列車10が目標到着時刻tgより所定時間遅延して到着したとしても出発時刻の遅延は発生しないと判断し、運転モードを遅速運転モードに設定する。
図4は、遅速運転モードの説明図である。
図4(a)に示すように、予測した乗降時間TGが所定停車時間TS0を一定時間以上下回ると予測された場合には、走行目標設定部12Cは、運転モードを遅速運転モードに設定する。
遅速運転モードにおいては、走行目標設定部12Cは、駅間の所定走行時間から駅出発からの時間を差し引いた値に、一定時間Δt1(例えば5秒)を追加して、目標走行時間TR2を設定することとなる。
【0046】
制御指令算出部12Aは、通常運転モードにおける目標走行時間TR0より延長された目標走行時間TR2で次駅に到着するように、走行計画を更新し、これに従って走行するよう力行指令DC2及びブレーキ指令BC2を算出する。
この結果、同一の走行距離で走行時間が延びるので、通常より省エネルギーに走行することができる。この場合に、列車10は、駅に遅着することとなるが、乗降時間が短くて済むので実効的な停車時間を短縮することができ、駅出発の遅れにはつながらないこととなる。
【0047】
また、乗降時間予測部32は、ホーム滞在人数全体を予測して第1閾値及び第2閾値と比較する代わりに、ホームを複数のエリアに分割し、各エリアのホーム滞在人数ないし混雑度を予測して第1閾値及び第2閾値と比較するようにしてもよい。
この場合において、乗降時間予測部32は、到着予定のホームにおいて第1閾値を超えるエリアが一つでもあれば、乗降時間が所定停車時間を超過すると予測する。また、乗降時間予測部32は、到着予定のホームのすべてのエリアで第2閾値を下回れば、乗降時間が所定停車時間を一定時間以上下回ると予測する。
【0048】
これにより、駅ホームの混雑具合が一様ではない場合にも、乗降時間予測部32は、乗降時間が所定停車時間を超過するか、下回るかを、より正確に予測できる。
【0049】
[3]第3実施形態
以上の各実施形態においては、乗降時間が所定停車時間を超過するか否かを予測していたが、本第3実施形態は、列車の駅到着後の乗降時間を予測するようにした実施形態である。
【0050】
本第3実施形態においては、乗降時間予測部32は、列車の駅到着時のホーム滞在人数を予測し、ホーム滞在人数と乗降時間の関係を示す情報を用いて、列車の駅到着後の乗降時間を予測し、乗降時間情報RTとして、通信装置CDを介して列車10に通知する。
【0051】
この場合において、ホーム滞在人数と乗降時間の関係を示す情報は、ホーム滞在人数を代入して乗降時間を求める関係式や、ホーム滞在人数と乗降時間の対応を示すテーブルとして混雑状況推定部31において予め記憶されている。
これらの関係式あるいはテーブルに関する情報は、事前にホーム滞在人数と乗降時間の関係を調査して決定すればよい。
【0052】
また、これらの関係式あるいはテーブルに関する情報は、列車の駅到着後に混雑状況推定部31がホーム画像から実際の乗降時間を計測し、その結果に基づいて、乗降時間予測部32が自動的に調整するようにすることも可能である。
【0053】
さらに、応荷重装置LD(
図1参照:乗車率推定部に相当)で推定(検出)した乗車率を乗降時間予測部32に通知し、乗降時間予測部32が、ホーム滞在人数と乗車率と乗降時間の関係を示す情報を記憶しておき、この記憶した情報を用いて、列車の駅到着後の乗降時間を予測するようにしてもよい。
【0054】
この場合において、ホーム滞在人数と乗車率と乗降時間の関係を示す情報は、事前にホーム滞在人数と乗車率と乗降時間の関係を調査して決定してもよい。
【0055】
また、ホーム滞在人数と乗車率と乗降時間の関係を示す情報は、列車の駅到着後に混雑状況推定部31がホーム画像から実際の乗降時間を計測し、その結果に基づいて、乗降時間予測部32が自動的に調整するようにしてもよい。
【0056】
たとえば、他路線との接続駅で、朝ラッシュ時は他路線からの乗り換え客に比べて他路線への乗り換え客がずっと多い場合、駅ホームで待つ乗客はやや多い程度でも、満車状態の列車から降車する人数が非常に多く、結果として乗降時間は長くなる。
したがって、乗換元の列車の乗車率も考慮することで、乗降時間予測部32は、このような駅での乗降時間もより正確に予測することができる。
【0057】
さらに、混雑状況推定部31が、乗降に時間の掛かる可能性のある乗降弱者を検出した場合、乗降時間予測部32が、予測した乗降時間をさらに延長する側に補正(例えば、5秒延長)して設定するようにしてもよい。
【0058】
そして、走行目標設定部12Cは、乗降時間の予測値が所定停車時間を超過する場合は、駅間の所定走行時間から駅出発後の経過時間を差し引いた値から、さらに、乗降時間の予測値が所定停車時間を超過する分の時間を差し引いて、目標走行時間を設定する。
また、走行目標設定部12Cは、乗降時間の予測値が所定停車時間を下回る場合は、駅間の所定走行時間から、駅出発からの時間を差し引いた値に、乗降時間の予測値が所定停車時間を下回る分の時間を追加して、目標走行時間を設定して、制御指令算出部12Aに通知する。
【0059】
これらの結果、制御指令算出部12Aは、乗降時間予測部32が予測した乗降時間の予測値と所定停車時間との差に応じて延長あるいは短縮された目標走行時間で次駅に到着するよう、走行計画を更新し、これに従って走行するよう力行指令・ブレーキ指令を算出する。
【0060】
そして、制御指令算出部12Aは、乗降時間が所定停車時間よりも長くなると予測される場合には、停車時間の延びによる遅延を相殺する以上に列車10を早着させることがないため、早着させるために必要とされる消費エネルギーの無駄な増加を回避することができる。
また、制御指令算出部12Aは、乗降時間が所定停車時間よりも短いと予測される場合には、出発が遅延しない範囲で遅着できるため、より省エネルギーに走行することができる。
【0061】
[4]第4実施形態
上記各実施形態においては、先行列車の状況については考慮していなかったが、本第4実施形態は、駅停車中の先行列車の混雑状況を考慮して制御を行う場合の実施形態である。
【0062】
図5は、第4実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
図5において、
図3の第2実施形態と同様の部分には同一の符号を付すものとする。
本第4実施形態の列車制御システム100Bが、第2実施形態の列車制御システム100Aと異なる点は、走行目標設定部12Cが先行列車が出発してホームトラックを進出完了するまでの時間及び先行列車の駅停車により保安ブレーキを受ける位置(保安ブレーキが作動してしまう位置)に達するまでの時間に基づいて目標位置TRP、目標速度TRS、目標走行時間TRRを設定する点である。
【0063】
まず、第4実施形態の動作を説明する。
図6は、第4実施形態の列車制御システムの処理フローチャートである。
列車制御システム100Bを構成している混雑監視装置11の混雑状況推定部31は、駅ホーム画像から、列車から降車する人数、列車に乗車する人数を推定し、混雑情報CIを乗降時間予測部32に出力する(ステップS11)。
【0064】
これにより、乗降時間予測部32は、混雑情報CIに対応する先行列車から降車する人数と乗車する人数の増減に基づいて、乗降完了までの時間を予測する(ステップS12)。
【0065】
この場合において、乗降人数の増減だけでなく、先行列車到着前に受信していた乗車率や運転種別も参考に予測してもよい。
乗降時間予測部32における予測には、予め記憶した乗降人数の増減と乗降完了までの時間との関係を示す情報を用いることができる。この場合において、乗降人数の増減については、運転種別(普通、快速、急行等)を考慮するようにしてもよい。
【0066】
また、乗降時間予測部32における予測には、乗降人数の増減に加えて、乗車率を考慮するようにしてもよい。
【0067】
乗降時間予測部32における予測に用いる情報としては、事前に乗降人数の増減と乗降時間の関係を調査して決定すればよい。
また、乗降時間予測部32における予測に用いる情報としては、列車10の駅到着後に混雑状況推定部31がホーム画像から実際の乗降時間を計測し、その結果に基づいて、乗降時間予測部32が自動的に調整して決定するようにしてもよい。
【0068】
これらの結果、走行目標設定部12Cは、乗降時間予測部32から通知された先行列車の乗降完了までの時間の予測値に、ドア閉と安全確認に掛かる時間、先行列車が出発してホームトラックを進出完了する(先行列車後端がホームトラックから進出する)までの時間を加算して予測し、目標位置TRP、目標速度TRS及び目標走行時間TRRを設定する(ステップS13)。
【0069】
ここで、ドア閉と安全確認に掛かる時間は、予め設定した標準値を用いればよい。また、先行列車出発からホームトラック進出完了までの時間は、基準運転曲線に基づいて求めることができる。
【0070】
ここで、目標位置TRP、目標速度TRS及び目標走行時間TRRの設定処理について詳細に説明する。
図7は、目標位置、目標速度及び目標走行時間の設定処理フローチャートである。
まず、走行目標設定部12Cは、先行列車10Fが出発してホームトラックを進出完了するまでの時間を予測する(ステップS21)。
【0071】
続いて、走行目標設定部12Cは、停止信号を受けて保安ブレーキがかかる位置PEBを求め、保安ブレーキがかかる位置PEBに達する迄の残り時間を予測する(ステップS22)。
【0072】
図8は、第4実施形態の動作説明図である。
より具体的には、走行目標設定部12Cは、12Bに記憶された路線情報から、先行列車10Fの駅停車により停止信号を受けて保安ブレーキが掛かる位置PEB(
図8(a)に示す閉そく区間(2T)の始端)を求め、自列車10の走行計画に基づいて、この位置PEBに達するまでの時間を予測することとなる。
【0073】
次に走行目標設定部12Cは、先行列車10Fが駅ホームの番線(トラック)を進出完了するまでの時間と、当該列車10が先行列車の駅停車により停止信号を受けた場合に保安ブレーキが掛かる位置に達するまでの時間と、を比較し、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了したか、又は、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間が自列車10が先行列車10の駅停車に起因して保安ブレーキが掛かる位置PEBに達する迄の時間以下であるか否かを判断する(ステップS23)。
【0074】
ステップS23の判断において、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了したか、又は、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間が自列車10が先行列車10の駅停車に起因して保安ブレーキ保安ブレーキがかかる(作動する)虞はないので、目標位置TRP=ホームにおける停止目標位置とし、目標速度TRS=0km/h(減速)とし、目標走行時間TRR=駅間走行時間の残り時間として処理を終了する(ステップS24)。
これにより、制御指令算出部12Aは、先行列車出発後、第1実施形態~第3実施形態のように、ホーム滞在人数(あるいは混雑度)(の予測値)に応じて、目標走行時間を調整する。
【0075】
ここで、第4実施形態の効果について説明する。
図9は、従来の自列車が先行列車の駅停車により停止信号を受けた場合に保安ブレーキが掛かってしまった場合の説明図である。
【0076】
図9(a)に示すように、本来の走行計画に対応する走行曲線RPL0に対し、先行列車10Fが駅に停車している場合に、自列車10が保安ブレーキが掛かる位置PEBに到った場合には、走行曲線PRL1で示すように保安ブレーキが掛かり、自列車10が停車させられてしまい、乗り心地が低下する。
【0077】
また、
図9(b)に示すように、先行列車10Fが駅を出発し、ホームトラックを進出完了する前に自列車10が保安ブレーキが掛かる位置PEBに到った場合には、保安ブレーキが掛かるが自列車10が停止する前に先行列車10Fがホームトラックを進出完了した場合には、走行曲線PRL1で示すように自列車10は、停車することはないが、再び力行に移行し、加速することとなるため、やはり、乗り心地が低下する。
【0078】
そこで、ステップS23の判断において、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了しておらず、かつ、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間が自列車10が先行列車10の駅停車に起因して保安ブレーキが掛かる位置に達する迄の時間を超えている場合には(ステップS23;No)、保安ブレーキがかかる保安ブレーキがかかる(作動する)虞があるので、目標位置TRP=先行列車10Fの駅停車により保安ブレーキを受ける位置PEBとし、目標速度TRS=先行列車10Fがホームトラックを進出完了したときの目標位置TRPにおける制限速度とし、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間として処理を終了する(ステップS25)。
【0079】
制御指令算出部12Aは、目標位置・目標速度に、目標走行時間後に到達するための走行計画を算出し直し、これに従って列車が走行するよう、力行指令・ブレーキ指令を算出することとなる。
【0080】
図10は、第4実施形態の動作説明図である。
図9に示した場合と異なり、本第4実施形態によれば、目標位置TRP=先行列車10Fの駅停車により保安ブレーキを受ける位置PEBとし、目標速度TRS=先行列車10Fがホームトラックを進出完了したときの目標位置TRPにおける制限速度とし、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間としている。
【0081】
したがって、
図10(a)に示すように、本来の走行計画に対応する走行曲線RPL0に対し、新しい走行計画に対応する走行曲線PRL1は、蛇行で減速し、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了するまでに保安ブレーキが掛かる位置PEBに到ることはない。
【0082】
そして、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了した後に保安ブレーキが掛かる位置PEBに到るので、
図10(b)に示すように、
図9(b)の場合と比較して、列車の速度低下が少なく、先行列車10Fがホームトラックの進出を完了した時点で加速して容易に本来の走行計画に沿った走行曲線PRL0に近づけることができ、乗り心地の低下を抑制し、さらに減速と再力行による消費エネルギーの増加を抑制してホームに停車することができる。
【0083】
この結果、列車10が目標位置に達するタイミングで、先行列車がホームトラックを進出完了し、自列車10がホーム進入可能となるので、目標位置を停止目標位置、目標速度を0km/h、目標走行時間を駅間走行時間の残り時間に設定し、走行計画を算出し直してこれに従うよう列車10を駅まで走行させる。この場合においては、残り時間がないので最速の走行計画が算出されることとなる。
【0084】
上記構成において、保安系がデジタルATCやCBTCである場合は、先行列車の駅停車により停止信号を受けて保安ブレーキが作動しないようにするためには、目標位置、目標速度、目標走行時間を、以下のように設定すればよい。
【0085】
図11は、保安系がデジタルATCやCBTCである場合の第4実施形態の動作説明図である。
先行列車10Fの駅停車中に場内進路外方に設定される停止パターン(
図11(a)に示す閉そく区間(2T)の停止パターン)は、先行列車10Fがホームトラックを進出完了すると、
図11(b)に示すように、場内進路終端の閉そく区間に移動する。
【0086】
そして、走行目標設定部12Cは、先行列車10Fがホームトラックを進出完了するまでの時間を目標走行時間、目標走行時間後に列車が停止パターンに達する場合の位置と速度を目標位置と目標速度に設定する。
【0087】
これにより、列車10は、保安系がデジタルATCやCBTCである場合であっても、先行列車の駅停車により停止信号を受けて保安ブレーキが作動することなく走行を継続することが可能となる。
【0088】
[5]第5実施形態
次に第5実施形態について説明する。
図12は、第5実施形態の説明図である。
図12に示すように、自列車到着予定以外の番線に停車中の他の列車10Gが、先行列車10Fの駅出発より先に、先行列車の出発進路と競合する進路で出発する場合は、先行列車の乗降が完了するタイミングだけでなく、この列車が出発進路から進出しきって先行列車が出発可能となるタイミングも予測する必要がある。
【0089】
このため、本第5実施形態においては、まず混雑状況推定部31は、ホーム滞在人数だけでなく、各番線のホーム画像の旅客案内表示装置の表示から運転種別、行き先、発車時刻と、停車中の列車Gの有無を検出する。
そして、乗降時間予測部32は、各番線の乗降時間情報として、停車中の列車がない番線については乗降時間が所定停車時間を超えるか否か(または乗降時間の予測値)を、停車中の列車がある番線については、乗降完了までの残り時間の予測値を、運転種別、行き先、発車時刻、停車列車有無と併せて、走行目標設定部12Cに通知する。
【0090】
これらの結果、走行目標設定部12Cは、まず、自列車10に設定された運転種別と行き先が一致する番線に自列車10が到着すると判断する。
【0091】
図13は、第5実施形態の処理フローチャートである。
この場合において、自列車10が到着する到着予定番線に先行列車10Fがいるか否かを判断する(ステップS31)。
ステップS31の判断において、列車(先行列車)がいないときは(ステップS31;No)、走行目標設定部12Cは、第1実施形態~第3実施形態のように、目標走行時間を設定する(ステップS38)。
【0092】
ステップS31の判断において、到着予定番線に列車(先行列車)が停車中のときは(ステップS31;Yes)、走行目標設定部12Cは、他の番線に列車が停車中か否かを判断する(ステップS32)。
【0093】
ステップS32の判断において、走行目標設定部12Cは、他の番線に列車が停車中ではない場合には(ステップS32;No)、走行目標設定部12Cは、第1実施形態~第3実施形態のように、目標走行時間を設定する(ステップS38)。
ステップS32の判断において、走行目標設定部12Cは、他の番線に列車が停車中であった場合には(ステップS32;Yes)、両番線の旅客案内表示の出発予定時刻を比較する(ステップS33)。
【0094】
走行目標設定部12Cは、出発予定時刻の比較結果に基づいて自列車10の先行列車10Fの方が先に出発する予定か否かを判断する(ステップS34)。
ステップS34の判断において、先行列車10Fの方が先に出発する予定だった場合には(ステップS34;Yes)、走行目標設定部12Cは、当該他の番線に停車中の列車は、自列車10の当該駅までの運行には影響を与えないので、第4実施形態と同様に、目標位置、目標速度、目標走行時間を設定する(ステップS39)。
【0095】
一方、ステップS34の判断において、当該他の番線に停車中の他の列車10Gの方が自列車10の先行列車10Fよりも先に出発する予定だった場合には(ステップS34;No)、走行目標設定部12Cは、当該他の番線に停車中の列車の行き先と、記憶部12Bに記憶された路線情報から、これらの列車10F、10Gの出発進路が競合するか否かを判断する(ステップS35)。
【0096】
ステップS35の判断において、当該他の番線に停車中の列車と、自列車である列車10の到着予定番線に停車中の先行列車の出発進路が競合しない場合は(ステップS35;No)、走行目標設定部12Cは、第4実施形態と同様に、目標位置、目標速度、目標走行時間を設定する(ステップS38)。
【0097】
一方、ステップS35の判断において、当該他の番線に停車中の列車と、自列車である列車10の出発進路が競合する場合は(ステップS35;Yes)、走行目標設定部12Cは、他の番線の列車について乗降時間予測部32が予測した乗降完了までの残り時間の予測値から、実施例4で先行列車がホームトラックを進出完了するまでの時間を予測するのと同様に、他の番線の列車が出発進路を進出完了するまでの時間を予測する(ステップS36)。
【0098】
そして、走行目標設定部12Cは、他の番線の列車10Gが出発進路を進出完了するまでの予測時間と、先行列車10Fの乗降が完了するまでの予測時間と、のうち、長い方を、先行列車10が出発可能となる予測時間として採用する(ステップS37)。
これにより、他の番線に停車中の列車と先行列車の出発進路が競合する場合にも、自列車が駅進入可能となるまでの時間を予測して、駅手前で保安ブレーキを受けることによる乗り心地悪化を回避し、減速と再力行による消費エネルギーの増加を抑制することができる。
【0099】
[6]第6実施形態
図14は、第6実施形態の列車制御システムの概要構成図である。
上記第1実施形態~第5実施形態においては、乗降時間予測部32を、駅の混雑監視装置の構成要素としたが、
図13に示すように、乗降時間予測部32と同様の構成を有する乗降時間予測部12Dを車上に置くこととし、列車制御装置12Xの構成要素とすることが可能である。
【0100】
この場合において、混雑監視装置11Xは、混雑状況推定部31を有し、通信装置CD及び通信装置23を介して、混雑情報CIを乗降時間予測部12Dに通知する構成を採っている。
【0101】
このような構成を採ることにより、混雑状況推定部31と乗降時間予測部12Dとの間での情報授受が通信装置CDを介したものとなり、乗降時間予測部12Dと走行目標設定部12Cとの間での情報授受が通信装置を介さないようになるだけで、作用及び効果は、第1実施形態~第4実施形態と同じである。
【0102】
[7]まとめ
以上の説明のように、上記各実施形態によれば、ホーム画像から次駅停車中の先行列車の出発までの時間を予測して、駅進入可能となるまでの時間を正確に推定することにより、駅進入前の保安ブレーキ動作を回避する列車制御装置を提供できる。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0104】
本実施形態の列車制御装置は、MPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDD、CDドライブ装置などの外部記憶装置と、表示装置と、各種入力装置と、を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0105】
本実施形態の列車制御装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、USBメモリ等の半導体メモリ装置、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0106】
また、本実施形態の列車制御装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の補正情報算出装置11で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0107】
また、本実施形態の列車制御装置のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0108】
10 列車
10F 先行列車
11、11X 混雑監視装置
12 列車制御装置
12A 制御指令算出部
12B 記憶部
12C 走行目標設定部
12D 乗降時間予測部
13 主幹制御器
14 制御伝送装置
15 モータ
16 ブレーキ装置
17 駆動/制動制御装置
18 タイミングジェネレータ
19 車上子
21 速度位置検出装置(速度位置検出部)
22 パンタグラフ
23 通信装置
24 ATC車上装置
26 ATC地上装置
31 混雑状況推定部
32 乗降時間予測部