(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20230508BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230508BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20230508BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20230508BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20230508BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230508BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230508BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20230508BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20230508BHJP
B60W 10/101 20120101ALI20230508BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/543
B60W10/02 900
B60W20/30
B60L50/16
F16H61/02
F16H61/66
F16H63/50
B60W10/00 122
B60W10/02
B60W10/101
(21)【出願番号】P 2019052795
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 朋亮
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】町田 拓也
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116936(JP,A)
【文献】特開2012-250602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/10
B60K 6/48
B60K 6/543
B60W 10/02
B60W 20/30
B60L 50/16
F16H 61/02
F16H 61/66
F16H 63/50
B60W 10/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの出力軸と接続される無段変速機と、
駆動輪と接続される駆動用モータと、
前記無段変速機の出力軸と前記駆動輪及び前記駆動用モータとの間の動力の伝達を断接する出力クラッチと、
を備える車両の制御装置であって、
前記出力クラッチを開放させた状態で前記駆動用モータから出力される動力により前記駆動輪を駆動するEV走行モードと、前記出力クラッチを締結させた状態で前記エンジン及び前記駆動用モータから出力される動力により前記駆動輪を駆動するHEV走行モードとを切り替えて実行可能な制御部を有し、
前記制御部は、前記EV走行モード
で前記車両が走行している間において、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記出力クラッチを締結させるとともに前記無段変速機の変速比の調整を開始し、その後、
前記車両が停止する前、かつ、前記変速比が目標変速比に到達する前に前記出力クラッチを開放させる、
車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の調整を開始した後における前記出力クラッチを開放させるタイミングを、前記無段変速機を収容するケース内のオイルの温度である油温に基づいて変化させる、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記車両の車速が閾値を下回った場合に、前記変速比を前記目標変速比としての最低速変速比に調整する、
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の変化速度を、前記車両の減速度に基づいて変化させる、
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の調整を開始した後における前記出力クラッチを開放させるタイミングを、前記減速度に基づいて変化させる、
請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記閾値を第1閾値とした場合、
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記車速が前記第1閾値より大きい第2閾値を上回った場合に、前記変速比を前記目標変速比としての高速側変速比に調整する、
請求項3~5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン及び駆動用モータを駆動源として備えるハイブリッド自動車(HEV)と呼ばれる車両が知られている。このような車両として、例えば、特許文献1に開示されているように、エンジンと、エンジンの出力軸と接続される無段変速機と、駆動輪と接続される駆動用モータと、無段変速機の出力軸と駆動輪及び駆動用モータとの間の動力の伝達を断接する出力クラッチとを備える車両がある。
【0003】
上記の出力クラッチを備える車両では、出力クラッチを開放させた状態で駆動用モータから出力される動力により駆動輪を駆動するEV走行モードと、出力クラッチを締結させた状態でエンジン及び駆動用モータから出力される動力により駆動輪を駆動するHEV走行モードとを切り替えて実行可能となっている。それにより、EV走行モード中に、出力クラッチが開放されることにより駆動輪と無段変速機及びエンジンとの間の動力の伝達が遮断されるので、無段変速機及びエンジンが連れ回されることに伴うエネルギ損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のEV走行モード中には、無段変速機による動力の変速は行われないものの、無段変速機の変速比の調整が行われることが考えられる。例えば、変速比が過度に高速側になっている状態で停車した後にエンジンから出力される動力を用いて再発進する場合、駆動輪に伝達される動力が不足して発進性が低下するおそれがある。ゆえに、再発進時の発進性の低下を抑制するために、停車するより前に事前に変速比を最低速変速比に調整しておくことが考えられる。
【0006】
ここで、上記のEV走行モード中には、基本的には出力クラッチは開放されているので、無段変速機のプライマリ軸及びセカンダリ軸の回転は停止している。ゆえに、変速比を調整する際に、出力クラッチを締結させる必要性が生じるので、少なくとも無段変速機が連れ回されることに伴うエネルギ損失が生じる。このような変速比の調整により生じるエネルギ損失は、車両のエネルギ効率(つまり、燃費や電費)を低下させる要因となる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、EV走行モード中の無段変速機の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、エンジンと、前記エンジンの出力軸と接続される無段変速機と、駆動輪と接続される駆動用モータと、前記無段変速機の出力軸と前記駆動輪及び前記駆動用モータとの間の動力の伝達を断接する出力クラッチと、を備える車両の制御装置であって、前記出力クラッチを開放させた状態で前記駆動用モータから出力される動力により前記駆動輪を駆動するEV走行モードと、前記出力クラッチを締結させた状態で前記エンジン及び前記駆動用モータから出力される動力により前記駆動輪を駆動するHEV走行モードとを切り替えて実行可能な制御部を有し、前記制御部は、前記EV走行モードで前記車両が走行している間において、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記出力クラッチを締結させるとともに前記無段変速機の変速比の調整を開始し、その後、前記車両が停止する前、かつ、前記変速比が目標変速比に到達する前に前記出力クラッチを開放させる、車両の制御装置が提供される。
【0009】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の調整を開始した後における前記出力クラッチを開放させるタイミングを、前記無段変速機を収容するケース内のオイルの温度である油温に基づいて変化させてもよい。
【0010】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記車両の車速が閾値を下回った場合に、前記変速比を前記目標変速比としての最低速変速比に調整してもよい。
【0011】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の変化速度を、前記車両の減速度に基づいて変化させてもよい。
【0012】
前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記無段変速機の変速比を調整する際、前記変速比の調整を開始した後における前記出力クラッチを開放させるタイミングを、前記減速度に基づいて変化させてもよい。
【0013】
前記閾値を第1閾値とした場合、前記制御部は、前記EV走行モード中に、前記車速が前記第1閾値より大きい第2閾値を上回った場合に、前記変速比を前記目標変速比としての高速側変速比に調整してもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、EV走行モード中の無段変速機の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載される車両の動力伝達系の概略構成を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る動力伝達系におけるHEV走行モード中の動力の伝達状態を示す模式図である。
【
図4】同実施形態に係る動力伝達系におけるEV走行モード中の動力の伝達状態を示す模式図である。
【
図5】同実施形態に係る制御装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】EV走行モード中に変速比の最低速変速比への調整が行われた際の車両の各状態量の推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<1.動力伝達系の構成>
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置50が搭載される車両の動力伝達系1の構成について説明する。
【0018】
図1は、動力伝達系1の概略構成を示す模式図である。
図2は、制御装置50の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0019】
動力伝達系1は、車両に搭載され、
図1に示されるように、エンジン11と、エンジン11の出力軸であるクランクシャフト111と接続されるCVT(Continuously Variable Transmission)23と、駆動輪97と接続される駆動用モータ31と、CVT23の出力軸であるセカンダリ軸235と駆動輪97及び駆動用モータ31との間の動力の伝達を断接する出力クラッチ24とを備える。CVT23は、本発明に係る無段変速機の一例に相当する。
【0020】
詳細には、動力伝達系1では、エンジン11は、CVT23を含む自動変速装置2を介して駆動輪97と接続されている。自動変速装置2では、トルクコンバータ21、前後進切替機構22、CVT23及び出力クラッチ24がエンジン11側からこの順に連接されている。エンジン11から出力される動力は、トルクコンバータ21を介して前後進切替機構22へ伝達され、前後進切替機構22により回転方向を前進方向又は後退方向に切り替えられてCVT23へ伝達される。CVT23に伝達された動力は、CVT23により変速されて駆動輪97側へ出力される。CVT23から出力された動力は、出力クラッチ24、駆動軸94、ディファレンシャルギヤ95及び車軸96を介して駆動輪97へ伝達される。
【0021】
エンジン11は、ガソリン等を燃料として動力を生成する内燃機関である。エンジン11は、出力軸としてのクランクシャフト111を有しており、クランクシャフト111は、トルクコンバータ21と接続される。
【0022】
トルクコンバータ21は、エンジン11のクランクシャフト111にフロントカバー213を介して連結されるポンプインペラ212と、ポンプインペラ212に対向するとともにタービン軸215に連結されるタービンランナ211とを備える。トルクコンバータ21内には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ212からタービンランナ211にエンジン11から出力される動力が伝達される。また、トルクコンバータ21内には、エンジン11のクランクシャフト111とタービン軸215とを直結するロックアップクラッチ214が設けられている。タービン軸215は、前後進切替機構22と接続される。
【0023】
ロックアップクラッチ214が開放されている場合(換言すると、トルクコンバータ21のロックアップ状態が解除されている場合)には、エンジン11から出力される動力は作動油を介して前後進切替機構22へ伝達される。一方、ロックアップクラッチ214が締結されている場合(換言すると、トルクコンバータ21がロックアップ状態である場合)には、エンジン11から出力される動力が直接的に前後進切替機構22へ伝達される。
【0024】
ポンプインペラ212には、ギヤ列91を介して機械式オイルポンプ25が連結されている。機械式オイルポンプ25は、エンジン11のクランクシャフト111の回転により駆動されて、自動変速装置2に設けられているバルブユニット27へ供給される油圧を発生させる。バルブユニット27は、トルクコンバータ21、前後進切替機構22、CVT23及び出力クラッチ24と油路を介して接続されており、これらの各装置へ供給される油圧を調整可能である。バルブユニット27には、各装置へ供給される油圧を制御するための制御弁(例えば、比例電磁制御弁)が設けられる。
【0025】
自動変速装置2では、電動オイルポンプ26によってもバルブユニット27に供給される油圧を発生することができるようになっている。具体的には、電動オイルポンプ26は、モータを有しており、当該モータにより駆動される。
【0026】
前後進切替機構22は、プラネタリギヤ221と、前進クラッチ222と、後退ブレーキ223とを備える。また、前後進切替機構22は、CVT23のプライマリ軸234と接続される。前後進切替機構22では、前進クラッチ222及び後退ブレーキ223の締結状態に応じて、CVT23のプライマリ軸234の回転方向が切り替え可能になっている。前進クラッチ222が締結され後退ブレーキ223が開放されることにより、タービン軸215と接続された入力軸224がプライマリ軸234に対して直結されるため、プライマリ軸234が正転方向に回転し、車両の前進走行が可能となる。また、前進クラッチ222が開放され後退ブレーキ223が締結されることにより、入力軸224がプラネタリギヤ221を介してプライマリ軸234に連結されるため、プライマリ軸234が逆転方向に回転し、車両の後退走行が可能となる。
【0027】
また、前進クラッチ222及び後退ブレーキ223がともに開放されることにより、エンジン11からプライマリ軸234へ動力が伝達されない状態になる。一方、上述したように、前進クラッチ222又は後退ブレーキ223のいずれか一方が締結されることにより、エンジン11からプライマリ軸234へ動力が伝達される状態になる。ゆえに、前後進切替機構22によって、エンジン11とCVT23との間の動力の伝達が断接される。前進クラッチ222及び後退ブレーキ223がともに開放された状態は前後進切替機構22が開放された状態に相当し、前進クラッチ222又は後退ブレーキ223のいずれか一方が締結された状態は前後進切替機構22が締結された状態に相当する。
【0028】
CVT23は、プライマリプーリ231と、セカンダリプーリ232と、チェーン233と、動力が入力される入力軸としてのプライマリ軸234と、動力が出力される出力軸としてのセカンダリ軸235とを備える。プライマリ軸234及びセカンダリ軸235は互いに並行に配設され、プライマリプーリ231はプライマリ軸234に固定され、セカンダリプーリ232はセカンダリ軸235に固定されている。プライマリプーリ231及びセカンダリプーリ232には、プライマリプーリ231とセカンダリプーリ232との間で動力を伝達するチェーン233が巻回されている。各プーリには固定シーブ及び可動シーブが設けられており、固定シーブ及び可動シーブによってチェーン233が挟持されている。
【0029】
チェーン233は、各プーリへ供給される油圧により可動シーブが固定シーブ側へ押圧されることによって挟持されている。各プーリへ供給される油圧が調整されることにより、各プーリにおけるチェーン233の挟持圧が調整されて、各プーリ上でのチェーン233の巻き掛け半径が調整される。それにより、CVT23の変速比が調整される。CVT23は、プライマリ軸234へ入力される動力を、このように調整される変速比で変速してセカンダリ軸235へ出力する。セカンダリ軸235は、出力クラッチ24及びギヤ列92を介して、駆動軸94と接続されており、駆動軸94には、ギヤ列93を介して駆動用モータ31が接続されている。
【0030】
出力クラッチ24は、具体的には、セカンダリ軸235と駆動軸94との間の動力の伝達を断接する。例えば、出力クラッチ24は、摩擦式のクラッチである。出力クラッチ24が締結されている場合には、セカンダリ軸235と駆動軸94との間で動力が伝達される。一方、出力クラッチ24が開放されている場合には、セカンダリ軸235と駆動軸94との間で動力の伝達が遮断される。
【0031】
駆動用モータ31は、例えば、多相交流式(例えば、三相交流式)のモータであり、インバータ32を介してバッテリ33と接続されている。駆動用モータ31は、バッテリ33の電力を用いて駆動(力行駆動)されて動力を生成する機能を有する。駆動用モータ31から出力される動力は、ギヤ列93を介して駆動軸94へ伝達される。なお、駆動用モータ31は、車両の減速時に回生駆動されて駆動輪97の運動エネルギを用いて発電する発電機としての機能を有してもよい。このように駆動用モータ31により発電される電力は、インバータ32を介してバッテリ33へ供給され、バッテリ33の充電に用いられる。
【0032】
駆動軸94は、ディファレンシャルギヤ95及び車軸96を介して駆動輪97と接続される。駆動用モータ31から出力され駆動軸94へ伝達された動力及びエンジン11から出力され出力クラッチ24を介して駆動軸94へ伝達された動力は、ディファレンシャルギヤ95によって車軸96を介して左右の駆動輪97へ分配されて伝達される。なお、駆動輪97、前輪であっても、後輪であってもよい。また、駆動軸94には図示しないプロペラシャフトが接続されていてもよく、その場合、駆動軸94へ伝達された動力は、前輪及び後輪の双方へ伝達される。
【0033】
動力伝達系1には、種々のセンサが設けられる。具体的には、動力伝達系1は、アクセル開度センサ61と、車速センサ62と、加速度センサ63と、プライマリ回転センサ64と、セカンダリ回転センサ65と、油温センサ66とを備える。
【0034】
アクセル開度センサ61は、運転者によるアクセルペダルの操作量に相当するアクセル開度を検出し、検出結果を出力する。
【0035】
車速センサ62は、車両の速度である車速を検出し、検出結果を出力する。
【0036】
加速度センサ63は、車両の加速度を検出し、検出結果を出力する。
【0037】
プライマリ回転センサ64は、プライマリ軸234の回転数を検出し、検出結果を出力する。
【0038】
セカンダリ回転センサ65は、セカンダリ軸235の回転数を検出し、検出結果を出力する。
【0039】
油温センサ66は、CVT23を収容するケース(つまり、自動変速装置2のケース)内のオイルの温度である油温を検出し、検出結果を出力する。
【0040】
制御装置50は、動力伝達系1における各装置の動作を制御する。
【0041】
具体的には、制御装置50は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する記憶素子であるROM(Read Only Memory)及びCPUの実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する記憶素子であるRAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0042】
また、制御装置50は、動力伝達系1における各装置と通信を行う。制御装置50と各装置との通信は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて実現される。例えば、制御装置50は、エンジン11、電動オイルポンプ26、バルブユニット27、インバータ32及び動力伝達系1における各センサと通信を行う。
【0043】
なお、制御装置50が有する機能は複数の制御装置により分割されてもよく、その場合、当該複数の制御装置は、CAN等の通信バスを介して、互いに接続されてもよい。例えば、制御装置50が有するエンジン11の制御に関する機能と、自動変速装置2の制御に関する機能と、駆動用モータ31の制御に関する機能とは、互いに異なる制御装置に分割されてもよい。
【0044】
制御装置50は、例えば、
図2に示されるように、取得部51と、制御部52とを備える。
【0045】
取得部51は、制御装置50が行う処理において用いられる各種情報を取得する。また、取得部51は、取得した情報を制御部52へ出力する。例えば、取得部51は、動力伝達系1における各センサと通信することによって、各センサから出力される検出結果を取得する。
【0046】
制御部52は、取得部51により取得された情報を用いて各処理を実行する。制御部52は、具体的には、車両の走行状態に応じて、エンジン11、自動変速装置2及び駆動用モータ31の動作をそれぞれ制御する。
【0047】
制御部52は、例えば、エンジン制御部521と、変速装置制御部522と、モータ制御部523とを備える。
【0048】
エンジン制御部521は、エンジン11の動作を制御する。具体的には、エンジン制御部521は、エンジン11における各装置の動作を制御することによって、スロットル開度、点火時期及び燃料噴射量等を制御する。それにより、エンジン11の出力が制御される。
【0049】
変速装置制御部522は、自動変速装置2における各装置の動作を制御する。具体的には、変速装置制御部522は、バルブユニット27の動作を制御することによって、トルクコンバータ21、前後進切替機構22、CVT23及び出力クラッチ24の動作を制御する。それにより、トルクコンバータ21のロックアップクラッチ214の締結状態、前後進切替機構22の締結状態、CVT23の変速比及び出力クラッチ24の締結状態がそれぞれ制御される。ここで、変速装置制御部522によるCVT23の変速比の制御は、具体的には、プライマリ軸234の回転数及びセカンダリ軸235の回転数の検出結果を用いることによって実現される。また、変速装置制御部522は、電動オイルポンプ26のモータの動作を制御することによって、電動オイルポンプ26の駆動を制御する。
【0050】
モータ制御部523は、駆動用モータ31の動作を制御する。具体的には、モータ制御部523は、インバータ32の動作を制御することによって、駆動用モータ31とバッテリ33との間の電力の供給を制御する。それにより、駆動用モータ31による動力の生成及び発電が制御される。
【0051】
制御部52は、エンジン11、自動変速装置2及び駆動用モータ31の動作を上記のように制御することによって、車両の走行モードとして、EV走行モードと、HEV走行モードとを切り替えて実行可能である。EV走行モードは、出力クラッチ24を開放させた状態で駆動用モータ31から出力される動力により駆動輪97を駆動する走行モードである。HEV走行モードは、出力クラッチ24を締結させた状態でエンジン11及び駆動用モータ31から出力される動力により駆動輪97を駆動する走行モードである。
【0052】
本実施形態に係る制御装置50によれば、制御部52が行うEV走行モード中のCVT23の変速比の調整に関する制御によって、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。このようなEV走行モード中のCVT23の変速比の調整に関する制御については、後述にて詳細に説明する。
【0053】
<2.制御装置の動作>
続いて、
図3~
図6を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置50の動作について説明する。
【0054】
[2-1.走行モードの切り替えに関する制御]
まず、
図3及び
図4を参照して、制御装置50が行う走行モードの切り替えに関する制御について説明する。
【0055】
上述したように、制御部52は、車両の走行モードとして、EV走行モードと、HEV走行モードとを切り替えて実行可能である。
【0056】
具体的には、制御部52は、駆動輪97に伝達される動力の要求値である要求駆動力に基づいて、車両の走行モードを切り替える。例えば、制御部52は、要求駆動力が基準駆動力より大きい場合に、車両の走行モードをHEV走行モードに切り替える。一方、制御部52は、要求駆動力が基準駆動力以下である場合に、車両の走行モードをEV走行モードに切り替える。基準駆動力は、駆動用モータ31から駆動輪97に伝達可能な動力の最大値より小さい値に設定され、例えば、電費を向上させる観点で、駆動用モータ31の仕様等に応じて設定される。なお、制御部52は、例えば、アクセル開度及び車速に基づいて要求駆動力を算出することができる。
【0057】
図3は、動力伝達系1におけるHEV走行モード中の動力の伝達状態を示す模式図である。なお、
図3及び後述する
図4では、動力の伝達経路が太線矢印によって示されている。
【0058】
HEV走行モードでは、制御部52の変速装置制御部522は、前後進切替機構22及び出力クラッチ24を締結させる。そして、制御部52のエンジン制御部521及びモータ制御部523は、駆動輪97に伝達される動力が要求駆動力になるように互いに協調して、エンジン11及び駆動用モータ31の出力をそれぞれ制御する。それにより、
図3に示されるように、エンジン11から出力される動力がCVT23を通って駆動輪97に伝達されるとともに、駆動用モータ31から出力される動力が駆動輪97に伝達される。このように、HEV走行モードでは、出力クラッチ24を締結させた状態で、エンジン11及び駆動用モータ31から出力される動力により駆動輪97が駆動される。
【0059】
また、制御部52の変速装置制御部522は、HEV走行モード中に、車速及びアクセル開度に基づいて変速比の目標値である目標変速比を決定し、CVT23の変速比を目標変速比に近づけるように制御する。
【0060】
図4は、動力伝達系1におけるEV走行モード中の動力の伝達状態を示す模式図である。
【0061】
EV走行モードでは、制御部52の変速装置制御部522は、基本的に、前後進切替機構22及び出力クラッチ24を開放させる。そして、制御部52のエンジン制御部521は、エンジン11を停止させ、モータ制御部523は、駆動輪97に伝達される動力が要求駆動力になるように駆動用モータ31の出力を制御する。それにより、
図4に示されるように、エンジン11が停止した状態で、駆動用モータ31から出力される動力が駆動輪97に伝達される。このように、EV走行モードでは、出力クラッチ24を開放させた状態で、駆動用モータ31から出力される動力により駆動輪97が駆動される。EV走行モード中に出力クラッチ24が開放されることによって、CVT23及びエンジン11が連れ回されることに伴うエネルギ損失を低減することができる。
【0062】
ここで、EV走行モード中には、エンジン11が停止することに伴い、機械式オイルポンプ25が停止する。ゆえに、制御部52の変速装置制御部522は、電動オイルポンプ26を駆動させることによって、バルブユニット27に供給される油圧を発生させる。それにより、自動変速装置2における各装置の動作を制御することができる。
【0063】
また、制御部52の変速装置制御部522は、EV走行モード中に、特定の条件下(例えば、後述するように、車速が閾値を下回った場合等)において、CVT23の変速比を調整する。ここで、変速装置制御部522は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、後述するように、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の調整を開始し、その後、変速比が目標変速比(つまり、変速比の目標値)に到達する前に出力クラッチ24を開放させる。
【0064】
[2-2.EV走行モード中の変速比の調整に関する制御]
次に、
図5及び
図6を参照して、制御装置50が行うEV走行モード中のCVT23の変速比の調整に関する制御について説明する。
【0065】
図5は、制御装置50が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。具体的には、
図5に示される制御フローは、EV走行モード中に実行され、例えば、走行モードがHEV走行モードからEV走行モードに切り替わった際に開始される。
【0066】
図5に示される制御フローが開始されると、まず、ステップS501において、制御部52は、車速が閾値を下回ったか否かを判定する。車速が閾値を下回ったと判定された場合(ステップS501/YES)、ステップS503に進む。一方、車速が閾値を下回ったと判定されなかった場合(ステップS501/NO)、ステップS501の判定処理が繰り返される。
【0067】
閾値は、具体的には、車両が停車することが予測される程度に車速が低くなっているか否かを判断し得る値(例えば、35km/h)に設定される。つまり、車速が閾値を下回る場合、車両が停車することが予測される。
【0068】
ステップS501でYESと判定された場合、ステップS503において、制御部52の変速装置制御部522は、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の最低速変速比への調整を開始する。
【0069】
最低速変速比は、車速に対するエンジン回転数の変化率が最も大きい変速比であり、EV走行モード中に車速が閾値を下回った場合に行われる変速比の調整における目標変速比に相当する。
【0070】
上記のように、車速が閾値を下回った場合(つまり、車両が停車することが予測される場合)に、停車するより前に事前に変速比を最低速変速比に調整しておくことによって、変速比が過度に高速側になっている状態で停車した後にエンジン11から出力される動力を用いた再発進が行われることを抑制することができる。ゆえに、再発進時に駆動輪97に伝達される動力が不足して発進性が低下することを抑制することができる。また、車速が比較的低いときに変速比が過度に高速側になっている状態でHEV走行モードへの切り替えが行われてエンジン11から出力される動力を用いた再加速が行われることも抑制することができるので、再加速時に駆動輪97に伝達される動力が不足して加速性が低下することを抑制することができる。
【0071】
上述したように、EV走行モード中には、基本的には出力クラッチ24は開放されているので、プライマリ軸234及びセカンダリ軸235の回転は停止している。ここで、出力クラッチ24が締結されると、駆動輪97からCVT23に出力クラッチ24を介して動力が伝達されるようになる。それにより、プライマリ軸234及びセカンダリ軸235を回転させることができるので、プライマリ軸234の回転数及びセカンダリ軸235の回転数の検出結果を用いて適切に変速比を調整することができる。
【0072】
ここで、車両が停車するより前に変速比の調整を適切に完了させる観点では、変速装置制御部522は、変速比を調整する際、変速比の変化速度を車両の減速度に基づいて変化させることが好ましい。具体的には、変速装置制御部522は、車両の減速度が大きいほど、変速比の調整が開始してから車両が停車するまでの時間が短くなるので、変速比の変化速度を速くすることが好ましい。なお、制御装置50は、加速度センサ63から出力される検出結果に基づいて、車両の減速度を取得することができる。
【0073】
ステップS503で変速比の調整が開始された後、変速比が最低速変速比に向けて増大することに伴って、プライマリ軸234の回転数は上昇していく。
【0074】
次に、ステップS505において、制御部52は、プライマリ軸234の回転数が基準回転数を上回ったか否かを判定する。プライマリ軸234の回転数が基準回転数を上回ったと判定された場合(ステップS505/YES)、ステップS507に進む。一方、プライマリ軸234の回転数が基準回転数を上回ったと判定されなかった場合(ステップS505/NO)、ステップS505の判定処理が繰り返される。
【0075】
後述するように、ステップS505でYESと判定された場合、出力クラッチ24が開放される。ここで、上記の基準回転数は、変速比が目標変速比としての最低速変速比に到達する前に出力クラッチ24が開放され得るような値に設定される。そして、出力クラッチ24が開放された後、CVT23のプーリが回転運動を保ち続けようとする回転の慣性を利用して変速比の調整が行われる。
【0076】
上記のように、
図5に示される制御フローでは、変速比の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングは、基準回転数に依存する。具体的には、基準回転数が低いほど、変速比が最低速変速比から遠いタイミング(つまり、早いタイミング)で出力クラッチ24が開放され、基準回転数が高いほど、変速比が最低速変速比に近くなっているタイミング(つまり、遅いタイミング)で出力クラッチ24が開放される。基準回転数は、具体的には、出力クラッチ24が開放された後、少なくとも変速比の調整が完了するまでCVT23のプーリが回転運動を保ち続けられるような値に設定される。
【0077】
ステップS505でYESと判定された場合、ステップS507において、制御部52の変速装置制御部522は、出力クラッチ24を開放させる。それにより、駆動輪97からCVT23への動力の伝達が遮断されるので、CVT23のプーリが慣性で回転運動を続ける状態で、変速比の調整が継続して行われる。
【0078】
このように、制御装置50の制御部52によれば、CVT23の変速比の調整が開始された後、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24が開放される。それにより、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整において、CVT23のプーリの回転の慣性を利用して変速比の調整を継続しつつ、出力クラッチ24が締結されている時間を短縮することができる。ゆえに、EV走行モード中の変速比の調整において、CVT23が連れ回されることに伴うエネルギ損失を低減することができる。よって、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。
【0079】
上述したように、
図5に示される制御フローでは、変速比の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングは、基準回転数に依存する。ゆえに、基準回転数を変化させることによって、出力クラッチ24を開放させるタイミングを変化させることができる。
【0080】
ここで、出力クラッチ24を開放させるタイミングが過度に早いと、変速比が最低速変速比から過度に遠いタイミングでCVT23のプーリの慣性による回転が開始されることになるので、変速比の調整が完了するまでCVT23のプーリが回転運動を保ち続けにくくなる。一方、出力クラッチ24を開放させるタイミングが過度に遅いと、変速比が最低速変速比から過度に近いタイミングでCVT23のプーリの慣性による回転が開始されることになるので、CVT23が連れ回されることに伴うエネルギ損失を低減する効果が小さくなってしまう。よって、出力クラッチ24を開放させるタイミングを、過度に早い又は遅いタイミングにならないように、適正化することが望ましい。
【0081】
例えば、出力クラッチ24を開放させるタイミングを適正化する観点では、変速装置制御部522は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、CVT23の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングを、CVT23を収容するケース内のオイルの温度である油温に基づいて変化させることが好ましい。ここで、油温が高いほど、オイルの粘度は低くなるので、ケース内でオイルと接触しているCVT23のプーリが慣性で回転運動を保ち続けやすくなる。ゆえに、変速装置制御部522は、具体的には、出力クラッチ24を開放させるタイミングを、油温が高いほど早めることが好ましい。例えば、油温が高いほど基準回転数を低くすることによって、出力クラッチ24を開放させるタイミングを早めることができる。
【0082】
また、例えば、上記と同様の観点では、変速装置制御部522は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、CVT23の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングを、車両の減速度に基づいて変化させることが好ましい。上述したように、車両が停車するより前に変速比の調整を適切に完了させる観点では、減速度が大きいほど、変速比の変化速度を速くすることが好ましい。このように減速度に基づいて変速比の変化速度を変化させる場合、変速装置制御部522は、具体的には、出力クラッチ24を開放させるタイミングを、減速度が大きいほど早めることが好ましい。例えば、減速度が大きいほど基準回転数を低くすることによって、出力クラッチ24を開放させるタイミングを早めることができる。
【0083】
次に、ステップS509において、制御部52は、CVT23の変速比が目標変速比(具体的には、最低速変速比)に到達したか否かを判定する。変速比が目標変速比に到達したと判定された場合(ステップS509/YES)、ステップS511に進む。一方、変速比が目標変速比に到達したと判定されなかった場合(ステップS509/NO)、ステップS509の判定処理が繰り返される。
【0084】
ステップS509でYESと判定された場合、ステップS511において、制御部52の変速装置制御部522は、CVT23の変速比の調整を終了する。
【0085】
【0086】
上記のように、
図5に示される制御フローでは、制御部52は、EV走行モード中に、車速が閾値を下回った場合に、CVT23の変速比を目標変速比としての最低速変速比に調整する。それにより、エンジン11から出力される動力を用いた再発進の際の発進性又は再加速の際の加速性の低下を抑制することができる。
【0087】
なお、EV走行モード中に、車速が閾値を下回るという条件以外の他の条件が満たされる場合に、変速比の調整を行ってもよい。例えば、上記の閾値を第1閾値とした場合、制御部52は、EV走行モード中に、車速が第1閾値より大きい第2閾値(例えば、45km/h)を上回った場合に、CVT23の変速比を目標変速比としての高速側変速比に調整してもよい。
【0088】
高速側変速比は、車速に対するエンジン回転数の変化率が小さい側の変速比に相当する。なお、高速側変速比としては、例えば、最高速変速比(つまり、車速に対するエンジン回転数の変化率が最も小さい変速比)が用いられてもよく、最高速変速比の近傍の変速比が用いられてもよい。
【0089】
EV走行モード中に、車速が第2閾値を上回ったことをトリガとして変速比を高速側変速比に調整することによって、車速が比較的高いときに、変速比が過度に低速側になっている状態でHEV走行モードへの切り替えが行われることを抑制することができる。ゆえに、HEV走行モードへの切り替えに伴ってプライマリ軸234の回転数が過度に高くなる過回転が生じることを抑制することができる。
【0090】
また、車速が第2閾値を上回ったことをトリガとして行われる変速比の調整の際においても、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の調整を開始し、その後、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24を開放させることによって、CVT23が駆動輪97に連れ回されることを抑制することができる。ゆえに、EV走行モード中の変速比の調整において、CVT23が連れ回されることに伴うエネルギ損失を低減することができるので、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。
【0091】
なお、上記では、
図5に示される制御フローを参照して、変速比の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングを決定するためのパラメータとしてプライマリ軸234の回転数が用いられる例を説明したが、出力クラッチ24を開放させるタイミングを決定するためのパラメータとして他のパラメータが用いられてもよい。例えば、変速比の調整を開始した後において、変速比が基準変速比に到達した場合に出力クラッチ24を開放させてもよく、変速比の調整が開始された時点から基準時間が経過した場合に出力クラッチ24を開放させてもよい。なお、上記基準変速比及び上記基準時間は、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24が開放され得るような値に設定され、上述した基準回転数と同様に、油温や減速度等に基づいて変化することが好ましい。
【0092】
ここで、
図6を参照して、EV走行モード中に上記で
図5を参照して説明した制御フローが実行される場合における車両の各状態量の推移の一例について説明する。
【0093】
図6は、EV走行モード中に変速比の最低速変速比への調整が行われた際の車両の各状態量の推移の一例を示す図である。なお、
図6では、CVT23の変速比の調整が開始された後、変速比が目標変速比(つまり、最低速変速比)に到達するまで出力クラッチ24を締結させ続ける場合の車両の各状態量の推移が比較例として破線によって示されている。
【0094】
具体的には、
図6では、車両の各状態量として、車速、変速比、プライマリ軸234の回転数、セカンダリ軸235の回転数、CVT回転持ち上げ損失、攪拌損失及びポンプ損失の各推移が示されており、さらに、出力クラッチ24の締結状態の推移が示されている。ここで、CVT回転持ち上げ損失及び攪拌損失は、CVT23が駆動輪97に連れ回されることに伴って生じるエネルギ損失の例に相当する。具体的には、CVT回転持ち上げ損失は、CVT23のプーリの回転数を上昇させるために消費されるエネルギに相当し、攪拌損失は、CVT23が自動変速装置2のケース内のオイルを攪拌することによって消費されるエネルギに相当する。また、ポンプ損失は、電動オイルポンプ26を駆動するために消費されるエネルギに相当する。
【0095】
図6に示されるように、EV走行モード中に車両が減速する過程で、時刻T1において、車速が閾値を下回ったことをトリガとして、出力クラッチ24が締結されるとともに、CVT23の変速比の最低速変速比への調整が開始される。なお、時刻T1以前では、出力クラッチ24が開放され、CVT23の回転が停止した状態となっている。ゆえに、時刻T1以前では、プライマリ軸234及びセカンダリ軸235の回転は停止しており、変速比が維持された状態となっている。よって、CVT回転持ち上げ損失及び攪拌損失は基本的に生じておらず、ポンプ損失も比較的小さくなっている。
【0096】
時刻T1に出力クラッチ24が締結されることによって、駆動輪97からCVT23に出力クラッチ24を介して動力が伝達され、
図6に示されるように、時刻T1以後において、プライマリ軸234の回転数及びセカンダリ軸235の回転数が上昇する。なお、出力クラッチ24が締結された状態では、セカンダリ軸235の回転数は、
図6に示されるように、出力クラッチ24の出力側の回転数と一致する。
【0097】
ここで、
図6では、CVT23が回転し始める時刻T1の直後において、CVT回転持ち上げ損失が急峻に立ち上がっている様子が示されている。また、時刻T1以後において、CVT23が回転することに伴って、CVT回転持ち上げ損失の他に攪拌損失も発生する状態になる。さらに、時刻T1以後には、出力クラッチ24の締結及びCVT23の変速比の調整のために、電動オイルポンプ26が駆動されるので、ポンプ損失も比較的大きくなっている。
【0098】
時刻T1の後、変速比の上昇に伴ってプライマリ軸234の回転数が上昇し、時刻T2において、プライマリ軸234の回転数が基準回転数を上回ったことをトリガとして、出力クラッチ24が開放される。ここで、出力クラッチ24が開放される時刻T2では、変速比が目標変速比としての最低速変速比に到達していない。しかしながら、出力クラッチ24が開放された後において、CVT23のプーリは慣性で回転運動を続けるので、時刻T2以後、CVT23のプーリの回転の慣性を利用して変速比の調整を継続して行うことができる。ゆえに、
図6に示されるように、時刻T2以後において、プライマリ軸234の回転数及びセカンダリ軸235の回転数が低下するもののCVT23のプーリが慣性で回転運動を続ける状態で、変速比の調整が継続して行われ、変速比が継続して上昇する。その後、時刻T3において、変速比が目標変速比としての最低速変速比に到達し、変速比の調整が終了する。
【0099】
ここで、仮に、変速比が目標変速比に到達するまで出力クラッチ24を締結させ続ける比較例では、
図6において破線で示されるように、CVT23の変速比の調整が開始された時刻T1の後、変速比が目標変速比(つまり、最低速変速比)に到達して変速比の調整が終了する時刻T3において、出力クラッチ24が開放される。ゆえに、
図6において破線で示されるように、CVT23が連れ回されることに伴って生じるエネルギ損失であるCVT回転持ち上げ損失及び攪拌損失は、時刻T3において、低下することになる。なお、
図6では、上記の比較例において、出力クラッチ24が開放される時刻T3からプライマリ軸234の回転数及びセカンダリ軸235の回転数が低下し始めている様子が破線によって示されている。
【0100】
一方、制御装置50の制御部52によれば、CVT23の変速比の調整が開始された時刻T1の後、変速比が目標変速比(つまり、最低速変速比)に到達する時刻T3よりも前の時刻T2において、出力クラッチ24が開放される。ゆえに、上記の比較例と異なり、時刻T2から時刻T3の間において、出力クラッチ24が開放された状態にすることができるので、出力クラッチ24が締結されている時間を短縮することができる。よって、
図6に示されるように、時刻T2から時刻T3の間において、CVT23が連れ回されることに伴って生じるエネルギ損失であるCVT回転持ち上げ損失及び攪拌損失を低減することができる。
【0101】
さらに、上記の比較例では、
図6において破線で示されるように、CVT23の変速比の調整が開始された時刻T1の後、ポンプ損失は、出力クラッチ24が開放される時刻T3において、低下することになる。一方、制御装置50の制御部52によれば、時刻T2から時刻T3の間において、出力クラッチ24が開放された状態にすることができるので、上記の比較例と比較して、時刻T2から時刻T3の間におけるポンプ損失を低減することができる。
【0102】
<3.制御装置の効果>
続いて、本発明の実施形態に係る制御装置50の効果について説明する。
【0103】
本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の調整を開始し、その後、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24を開放させる。それにより、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整において、CVT23のプーリの回転の慣性を利用して変速比の調整を継続しつつ、出力クラッチ24が締結されている時間を短縮することができる。ゆえに、EV走行モード中の変速比の調整において、CVT23が連れ回されることに伴うエネルギ損失(具体的には、上述したCVT回転持ち上げ損失及び攪拌損失)の発生を抑制することができる。さらに、出力クラッチ24を締結させるために電動オイルポンプ26を駆動する必要がある場合には、ポンプ損失を低減することができる。よって、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。
【0104】
また、本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、変速比の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングを、CVT23を収容するケース内のオイルの温度である油温に基づいて変化させることが好ましい。それにより、出力クラッチ24を開放させるタイミングを、過度に早い又は遅いタイミングにならないように、オイルの粘度に応じて適正化することができる。
【0105】
また、本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、車両の車速が閾値を下回った場合に、変速比を目標変速比としての最低速変速比に調整することが好ましい。それにより、変速比が過度に高速側になっている状態で停車した後にエンジン11から出力される動力を用いた再発進が行われることを抑制することができる。また、車速が比較的低いときに変速比が過度に高速側になっている状態でHEV走行モードへの切り替えが行われてエンジン11から出力される動力を用いた再加速が行われることも抑制することができる。ゆえに、エンジン11から出力される動力を用いた再発進の際の発進性又は再加速の際の加速性の低下を抑制することができる。
【0106】
また、本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、変速比の変化速度を、車両の減速度に基づいて変化させることが好ましい。それにより、変速比の調整が開始してから車両が停車するまでの時間に応じて変速比の変化速度を変化させることができる。ゆえに、車両が停車するより前に変速比の調整を適切に完了させることができる。
【0107】
また、本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、変速比の調整を開始した後における出力クラッチ24を開放させるタイミングを、車両の減速度に基づいて変化させることが好ましい。それにより、減速度に基づいて変速比の変化速度を変化させる場合において、出力クラッチ24を開放させるタイミングを、過度に早い又は遅いタイミングにならないように、変速比の変化速度に応じて適正化することができる。
【0108】
また、本実施形態に係る制御装置50では、上記の閾値を第1閾値とした場合、制御部52は、EV走行モード中に、車速が第1閾値より大きい第2閾値を上回った場合に、変速比を目標変速比としての高速側変速比に調整することが好ましい。それにより、車速が比較的高いときに、変速比が過度に低速側になっている状態でHEV走行モードへの切り替えが行われることを抑制することができる。ゆえに、HEV走行モードへの切り替えに伴ってプライマリ軸234の回転数が過度に高くなる過回転が生じることを抑制することができる。さらに、このような変速比の調整の際においても、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の調整を開始し、その後、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24を開放させることによって、変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。
【0109】
<4.むすび>
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置50では、制御部52は、EV走行モード中に、CVT23の変速比を調整する際、出力クラッチ24を締結させるとともにCVT23の変速比の調整を開始し、その後、変速比が目標変速比に到達する前に出力クラッチ24を開放させる。それにより、EV走行モード中のCVT23の変速比の調整において、CVT23のプーリの回転の慣性を利用して変速比の調整を継続しつつ、出力クラッチ24が締結されている時間を短縮することができる。ゆえに、EV走行モード中の変速比の調整において、CVT23が連れ回されることに伴うエネルギ損失の発生を抑制することができるので、EV走行モード中の変速比の調整に伴うエネルギ効率の低下を適切に抑制することができる。
【0110】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0111】
例えば、上記では、動力伝達系1に無段変速機としてチェーン233を備えるチェーン式のCVT23が設けられる例を説明したが、動力伝達系1に設けられる無段変速機はこのような例に限定されない。例えば、動力伝達系1に設けられる無段変速機は、動力を伝達する部材としてベルトを備えるベルト式CVTであってもよい。また、例えば、動力伝達系1に設けられる無段変速機は、トロイダル式CVTであってもよい。
【0112】
また、例えば、上記では、
図1を参照して、制御装置50が搭載される車両の動力伝達系1の構成について説明したが、制御装置50が搭載される車両の動力伝達系は、このような例に限定されず、少なくともエンジン、無段変速機、駆動用モータ及び出力クラッチを備えており、これらの構成要素間の接続関係が
図1に示される動力伝達系1と同等のものであればよい。例えば、制御装置50が搭載される車両の動力伝達系として、
図1に示される動力伝達系1の一部の構成要素が省略されたもの、動力伝達系1に追加的な構成要素を付加したもの、又は動力伝達系1の構成要素間の位置関係を部分的に変更したものが用いられてもよい。
【0113】
また、例えば、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしもフローチャートに示された順序で実行されなくてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 動力伝達系
2 自動変速装置
11 エンジン
21 トルクコンバータ
22 前後進切替機構
23 CVT
24 出力クラッチ
25 機械式オイルポンプ
26 電動オイルポンプ
27 バルブユニット
31 駆動用モータ
32 インバータ
33 バッテリ
50 制御装置
51 取得部
52 制御部
61 アクセル開度センサ
62 車速センサ
63 加速度センサ
64 プライマリ回転センサ
65 セカンダリ回転センサ
66 油温センサ
91,92,93 ギヤ列
94 駆動軸
95 ディファレンシャルギヤ
96 車軸
97 駆動輪
111 クランクシャフト
211 タービンランナ
212 ポンプインペラ
213 フロントカバー
214 ロックアップクラッチ
215 タービン軸
221 プラネタリギヤ
222 前進クラッチ
223 後退ブレーキ
224 入力軸
231 プライマリプーリ
232 セカンダリプーリ
233 チェーン
234 プライマリ軸
235 セカンダリ軸
521 エンジン制御部
522 変速装置制御部
523 モータ制御部