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特許7273577車両の制御装置、車両の制御方法及び車両の制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置、車両の制御方法及び車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20230508BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20230508BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20230508BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20230508BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20230508BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B60W40/068
B60W40/02
B60W30/182
B60W50/14
B60W60/00
G08G1/16 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019060785
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157988
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章也
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英行
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-309961(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230174(WO,A1)
【文献】特開2018-106757(JP,A)
【文献】特開2018-149934(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
G08G 1/00 ~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動不安定度を取得する挙動不安度取得部と、
前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得する過去情報取得部と、
自動運転を行っている場合に、前記自動運転の継続可否を判断する自動運転可否判断部と、
前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切換時間を定める切換時間設定部と、
を備え
前記挙動不安定度取得部は、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得する現在周辺環境情報取得部を更に備え、
前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、
前記自動運転可否判断部は、前記現在周辺環境情報取得部によって取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記過去情報取得部によって取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記切換時間設定部は、前記挙動不安定度が高いほど前記切換時間を長くする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記挙動不安度取得部は、前記車両が走行する路面の摩擦係数を算出する算出部を更に備え、
前記挙動不安定度は、前記算出部によって算出された摩擦係数である、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記自動運転可否判断部は、前記自動運転の継続が不可であると判断した場合に、手動運転に切り換える旨の注意喚起を前記車両の乗員に通知する、請求項1~のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記切換時間は、前記自動運転から手動運転への切り換えを開始してから、手動運転への切り換えが完了するまでの時間である、請求項1~のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
車両の制御装置が、前記車両の挙動不安定度を取得するステップと、
前記制御装置が、前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得するステップと、
前記制御装置が、自動運転を行っている場合に、前記自動運転の継続可否を判断するステップと、
前記制御装置が、前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切換時間を定めるステップと、
を含む処理を遂行し、
前記挙動不安定度を取得するステップでは、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得するステップが行われ、
前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、
前記自動運転の継続可否を判断するステップでは、前記車両の周辺の環境を取得するステップにおいて取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記車両が走行する予定経路の環境を取得するステップにおいて取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断する、車両の制御方法。
【請求項7】
車両の挙動不安定度を取得する挙動不安度取得部と、前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得する過去情報取得部と、自動運転を行っている場合に、前記車両の周辺の環境と、前記車両が走行する予定経路の環境とに基づいて前記自動運転の継続可否を判断する自動運転可否判断部と、前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切り換え時間を定める切換時間設定部と、を有する前記車両の制御装置と、
前記車両が走行する予定経路の環境に関する情報を蓄積し、前記車両の制御装置へ当該情報を送信するサーバと、
を備え
前記挙動不安定度取得部は、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得する現在周辺環境情報取得部を更に備え、
前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、
前記自動運転可否判断部は、前記現在周辺環境情報取得部によって取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記過去情報取得部によって取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断する、車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置、車両の制御方法及び車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1には、自動操舵制御中にドライバが操舵を行った場合や低摩擦係数路走行時等のような走行状況において、目標とする走行車線上に自車両を誘導する自動操舵制御をそのまま維持することによる操舵違和感や車両挙動の不安定等の弊害を除去することを想定した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-115356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転が可能な自動車の普及に伴い、自動運転から手動運転へ切り換える場面が多く出現することが想定される。この際、自動運転から手動運転に瞬時に切り換わると、乗員が手動運転に対応しきれない場合が想定され、運転者が急な操作を行った場合に車両挙動が不安定になる可能性がある。更に、車両側の処理においても、自動運転から手動運転に切り換える際には、切り換えを開始してから終了するまでの間の準備期間が必要である。上記特許文献に記載された技術は、自動運転から手動運転に切り換える際の遷移時間については、何ら考慮していなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、自動運転から手動運転への切り換え時に、車両の挙動を安定させることが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置、車両の制御方法及び車両の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両の挙動不安定度を取得する挙動不安度取得部と、前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得する過去情報取得部と、自動運転を行っている場合に、前記自動運転の継続可否を判断する自動運転可否判断部と、前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切換時間を定める切換時間設定部と、を備え、前記挙動不安定度取得部は、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得する現在周辺環境情報取得部を更に備え、前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、前記自動運転可否判断部は、前記現在周辺環境情報取得部によって取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記過去情報取得部によって取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断する、車両の制御装置が提供される。
【0007】
また、前記切換時間設定部は、前記挙動不安定度が高いほど前記切換時間を長くするものであっても良い。
【0009】
また、前記挙動不安度取得部は、前記車両が走行する路面の摩擦係数を算出する算出部を更に備え、前記挙動不安定度は、前記算出部によって算出された摩擦係数であっても良い。
【0012】
また、前記自動運転可否判断部は、前記自動運転の継続が不可であると判断した場合に、手動運転に切り換える旨の注意喚起を前記車両の乗員に通知するものであっても良い。また、前記切換時間は、前記自動運転から手動運転への切り換えを開始してから、手動運転への切り換えが完了するまでの時間であっても良い。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両の制御装置が、前記車両の挙動不安定度を取得するステップと、前記制御装置が、前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得するステップと、前記制御装置が、自動運転を行っている場合に、前記自動運転の継続可否を判断するステップと、前記制御装置が、前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切換時間を定めるステップと、を含む処理を遂行し、前記挙動不安定度を取得するステップでは、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得するステップが行われ、前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、前記自動運転の継続可否を判断するステップでは、前記車両の周辺の環境を取得するステップにおいて取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記車両が走行する予定経路の環境を取得するステップにおいて取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断する、車両の制御方法が提供される。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両の挙動不安定度を取得する挙動不安度取得部と、前記車両が走行する予定経路の環境をサーバから取得する過去情報取得部と、自動運転を行っている場合に、前記車両の周辺の環境と、前記車両が走行する予定経路の環境とに基づいて前記自動運転の継続可否を判断する自動運転可否判断部と、前記自動運転を継続できないと判断された場合に、前記挙動不安定度に基づいて前記自動運転から手動運転への切り換え時間を定める切換時間設定部と、を有する前記車両の制御装置と、前記車両が走行する予定経路の環境に関する情報を蓄積し、前記車両の制御装置へ当該情報を送信するサーバと、を備え、前記挙動不安定度取得部は、前記車両が走行する路面状態を含む前記車両の周辺の環境に関する情報を取得する現在周辺環境情報取得部を更に備え、前記挙動不安定度は、前記車両が走行する路面状態から定まり、前記自動運転可否判断部は、前記現在周辺環境情報取得部によって取得された前記車両の周辺の環境よりも、前記過去情報取得部によって取得された前記車両が走行する予定経路の環境が悪化する場合に、前記自動運転の継続が不可であると判断することを特徴とする、車両の制御システムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動運転から手動運転への切り換え時に、車両挙動を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る車両システムの構成を示す模式図である。
図2A】路面摩擦係数算出部が路面状態を判定する際に使用するマップを示す模式図である。
図2B図3Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
図2C図3Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
図2D図3Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
図2E図3Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
図3】路面状態と摩擦係数の関係を予め規定したデータベースの例を示す模式図である。
図4】挙動不安定度取得部が取得した情報を示す模式図である。
図5】スコア化による得られた情報を示す模式図である。
図6】路面摩擦係数に応じた切換時間係数の値を示す模式図である。
図7】路面摩擦係数に応じた切換時間係数の値を示す模式図である。
図8】切換時間Tを説明するための模式図である。
図9】本実施形態の車両システムで行われる処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
先ず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両システム1000の構成について説明する。この車両システム1000は、自動車などの車両に搭載される。本実施形態において、車両システム1000が搭載される車両は、自動運転と手動運転が可能な車両である。図1に示すように、本実施形態に係る車両システム1000は、車外センサ150、車速センサ170、制御装置200、車両制駆動装置300、操舵装置400、情報提示装置500、ナビゲーション装置700、通信装置800、データベース950を有して構成されている。車両システム1000は、外部のサーバ2000と通信可能に構成されている。
【0019】
制御装置200は、車両システム1000の全体を制御する。制御装置200は、挙動不安定度取得部202、自動運転可否判断部220、車両制御部230、情報提示処理部250、運転切換部260、切換時間設定部270を有している。なお、図1に示す制御装置200の構成要素は、回路(ハードウェア)、またはCPUなどの中央演算処理装置とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成することができる。
【0020】
車外センサ150は、車両前方を撮像するカメラ、温度センサ(外気温センサ、路面温度センサ)、近赤外線センサ、ミリ波レーダ、レーザレーダ(LiDAR)、レーザ光センサ(TOF(Time of Flight)センサ)、風力センサ等から構成され、車両前方の画像、温度、路面状態等の環境情報を検出する。なお、車外センサ150による路面状態の判別の際に、例えば特開2006-46936号公報に記載されている方法を採用しても良い。
【0021】
車両制駆動装置300は、車両を制駆動する装置である。具体的には、車両制御装置300は、車両の車輪を駆動するとともに回生により発電するモータ、エンジン(内燃機関)、摩擦ブレーキ等の装置である。操舵装置400は、操舵により主に車両の前輪を転舵する装置である。操舵装置400はアクチュエータの駆動力により、前輪を転舵することができる。
【0022】
情報提示装置500は、車内に設置されたディスプレイ、スピーカ等から構成され、情報提示処理部250の指示に基づき、自動運転から手動運転へ切り換える旨の情報提示等を車両の乗員に対して行う。
【0023】
通信装置800は、車両外部のサーバ2000と通信を行い、各種情報を送受信する。ナビゲーション装置700は、地図情報に基づいて、現在地から目的地までの予測経路を検索する。このため、ナビゲーション装置700は、グローバル・ポジショニング・システム(GPS:Global Positioning System)等により車両の現在位置を取得することができる。また、ナビゲーション装置700は現在地まで車両が走行してきた経路を記憶している。
【0024】
制御装置200の挙動不安定度取得部202は、現在の車両の周辺環境の情報を取得する現在周辺環境情報取得部212と、過去の周辺環境をサーバ2000から取得する過去情報取得部214を有している。また、現在周辺環境情報取得部212は、現在の路面状態として、路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出部210を含む。
【0025】
現在周辺環境情報取得部212は、車外センサ150が検出した情報に基づいて、車両周辺の天候、気温、風力、路面状態(乾燥、ウェット、凍結など)等の情報を取得する。なお、車両周辺の天候は、車外センサ150が撮影した空の画像に基づいて取得することができる。現在周辺環境情報取得部212が取得したこれらの情報は、車両の位置情報とともに、通信装置800を介してサーバ2000に送信され、サーバ2000のデータベース2010に蓄積される。これにより、サーバ2000にアクセスした他の車両は、これらの情報を取得して利用することができる。
【0026】
路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150により車両前方の画像、温度等が検出されると、これに基づいて路面の摩擦係数をリアルタイムに算出する。具体的に、路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150のカメラの画像から車両前方の路面の色、路面粗さ等を取得する。また、路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150の非接触式温度計から、外気温、路面温度を取得する。
【0027】
また、路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150の近赤外線センサの検出値から、路面の水分量を取得する。近赤外線を路面に照射した際に、路面に水分が多いと近赤外線の反射量が少なくなり、路面に水分が少ないと近赤外線の反射量が多くなる。従って、路面摩擦係数算出部210は、近赤外線センサの検出値に基づいて、路面の水分量を取得することができる。
【0028】
また、路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150のレーザ光センサから、路面の粗さを取得する。より詳細には、レーザ光を照射してからその反射光が検出されるまでの時間に基づいて、車両前方の路面の粗さ(凹凸)を取得することができる。なお、路面摩擦係数算出部210は、車両速度に基づいて、車両走行に伴う路面の移動分を考慮して、車両前方の領域の路面の粗さを取得する。
【0029】
路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150から取得したこれらの情報から、路面状態がドライ(D)、ウェット(W)、雪(S)、氷(I)であるかを判定する。図2Aは、路面摩擦係数算出部210が路面状態を判定する際に使用するマップを示す模式図である。図2Aに示すマップは、路面温度、路面凹凸、及び路面の水分量のそれぞれを正規化した値をパラメータとする、3次元マップとされている。図2B図2Eは、図2Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。図2Bは、路面温度(Z軸)、路面凹凸(X軸)、及び路面の水分量(Y軸)の座標系を、図2C図2Bの(1)面の2次元マップを、図2D図2Bの(2)面の2次元マップを、図2E図2Bの(3)面の2次元マップを、それぞれ示している。路面摩擦係数算出部210は、車外センサ150による検出値から取得した路面温度、路面凹凸、路面水分量を図2Aのマップに当てはめて、路面状態を判定する。
【0030】
そして、路面摩擦係数算出部210は、図2Aのマップから判定した路面状態を、路面状態と路面摩擦係数の関係を予め規定したデータベースに反映させることで、路面摩擦係数μNを算出する。図3は、路面状態と摩擦係数の関係を予め規定したデータベースの例を示す模式図である。図3に示すデータベースでは、縦方向では、路面状況である「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」、「氷」、「雪」に応じた摩擦係数が示されている。また、横方向では、路面状況として、乾(ドライ(D))、濡(ウェット(W))に応じた摩擦係数が示されている。
【0031】
路面摩擦係数算出部210は、図2Aのマップから判定した路面状態を図3のデータベースに当てはめ、路面摩擦係数μを算出する。この際、「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」の判定については、車外センサ150のカメラから取得した路面の画像と、予め取得しておいた「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」の各画像との類似度を判定した結果から、車両前方の路面が「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」のいずれであるかを判定する。
【0032】
更に、路面摩擦係数算出部210は、車両前方の路面が「アスファルト」であると判定した場合に、車外センサ150のカメラから取得した路面の画像と、予め取得しておいた「新舗装」、「普通舗装」、「舗装摩減」、「タール過剰」の各画像との類似度を判定した結果から、車両前方の路面が「アスファルト」であり、「新舗装」、「普通舗装」、「舗装摩減」、「タール過剰」ののいずれであるかを判定する。路面摩擦係数算出部210は、車両前方の路面が「コンクリート」、「砂利」であると判定した場合も同様に、更に細分化した判定を行うことができる。
【0033】
以上により、路面摩擦係数算出部210は、路面状況と車両速度に基づいて、図3のデータベースから、車両前方の路面摩擦係数μfを算出する。例えば、車外センサ150のカメラの画像から、路面が「アスファルト」の「新舗装」であることが判定され、車速センサ170から検出される車両速度が40km/hであり、図2Aのマップから路面状況が乾(ドライ(D))と判定された場合、路面摩擦係数μfの値は0.82~1.02として算出される。
【0034】
過去情報取得部214は、通信装置800を介してサーバ2000と通信を行うことにより、様々な情報を取得する。過去情報取得部214は、ナビゲーション装置700から予測経路を取得し、予測経路における様々な情報をサーバ2000から取得する。過去情報取得部214がサーバ2000から取得する情報として、予測経路における天候、気温、風力、路面状態などの情報が挙げられる。サーバ2000は複数の車両と通信を行うことで、通信相手の各車両の位置に応じた、天候、気温、風力、路面状態などの情報を予め蓄積し、データベース2010に保存している。
【0035】
図4は、挙動不安定度取得部202が取得した情報を示す模式図である。図4に示す情報のうち、現在周辺データ10は、現在周辺環境取得部210により取得される。また、クラウド情報過去データ12は、過去情報取得部214により取得される。なお、図4では、路面摩擦係数算出部210が算出した路面摩擦係数の値については図示を省略している。図4に示すように、クラウド情報過去データ12として、予測経路に沿って、車両の1.0km先、5.0km先、10.0km先のデータがサーバ2000から取得される。
【0036】
自動運転可否判断部220は、挙動不安定度取得部202が取得した情報に基づいて、自動運転の可否を判断する。具体的に、自動運転可否判断部220は、図4に示した現在周辺データ10とクラウド情報過去データ12とに基づいて、これから車両が走行する経路で車両挙動が不安定になることが見込まれる場合は自動運転が不可であると判断する。例えば、現在周辺データ10からは風が弱く、クラウド情報過去データ12からは5.0km先の風が強いことが認識される場合、これから先の予測経路上で横風などの風が強くなっていることが見込まれる。このような場合、自動運転が不可であると判断され、手動運転への切り換えが行われる。
【0037】
自動運転可否判断部220は、現在周辺データ10とクラウド情報過去データ12とを比較するため、図4に示す情報をスコア化する。図5は、スコア化による得られた情報を示す模式図である。図5に示す現在周辺データ20とクラウド情報過去データ22は、図4に示す現在周辺データ10とクラウド情報過去データ12をスコア化したものである。
【0038】
図6は、図4に示す情報から図3に示す情報へスコア化する際に参照するテーブルを示す模式図である。図6に示すように、例えば天候については、「晴れ」、「くもり」、「雨」、「雪」のそれぞれについて、0~3のスコアが定められている。風力、気温、路面状態についても同様に、図6のテーブルでスコアが定められている。
【0039】
図5に示す現在と過去の差分24は、図5に示すスコア化した現在周辺データ20とクラウド情報過去データ22との差分を示している。また、図5に示す自動運転可否26は、スコア化した現在周辺データ20とクラウド情報過去データ22との差分24に基づいて、自動運転の可否を判断した結果を示しており、〇印は自動運転が可の場合を、×印は自動運転が不可の場合を示している。現在のスコアから過去のスコアを減算して得られる差分の値が、“-2”以下の項目が1つでも存在する場合、自動運転が不可であると判断する。
【0040】
図5に示す例では、現在周辺データ20と車両の1.0km先のクラウド情報過去データ22との差分24は、全ての項目が“0”である。従って、1.0km先までの走行については、自動運転が可であると判断される。また、現在周辺データ20と車両の5.0km先のクラウド情報過去データ22との差分24は、路面状態の項目が“-3”である。従って、5.0km先までの走行については、自動運転が不可であると判断される。同様に、現在周辺データ20と車両の10.0km先のクラウド情報過去データ22との差分24は、路面状態の項目が“-3”である。従って、10.0km先までの走行についても、自動運転が不可であると判断される。
【0041】
車両制御部230は、車両制駆動装置300、操舵装置400を制御する。情報提示処理部250は、自動運転が不可と判断された場合に、情報提示装置500を制御して、手動運転へ切り換える旨の情報提示を車両の乗員に対して行う。運転切換部260は、自動運転が不可と判断された場合に、自動運転から手動運転へ運転モードを切り換える。
【0042】
切換時間設定部270は、自動運転が不可と判断された場合に、自動運転から手動運転へ切り換える際の切換時間を設定する。自動運転から手動運転へ切り換える場合に、瞬時に切り換えを行うと、乗員が手動運転に対応しきれない場合が想定される。また、車両側の処理においても、自動運転から手動運転に切り換える際には、切り換えを開始してから終了するまでの間の準備期間が必要である。例えば、自動運転から手動運転に切り換える際には、自動運転の割合を徐々に減らす一方、手動運転の割合を徐々に増加させる処理が行われることが想定される。切換時間設定部270は、自動運転から手動運転への切り換えを開始した時点から、手動運転へ完全に切り換わった時点までの時間を切換時間Tとして設定する。例えば、切換時間Tは、自動運転が100%である状態から手動運転が100%である状態までの遷移時間とすることもできる。
【0043】
本実施形態において、切換時間Tは、路面の路面摩擦係数に応じて設定され、路面摩擦係数が低いほど、長い時間に設定される。図7は、路面摩擦係数に応じた切換時間係数の値を示す模式図である。図7に示す切換時間係数は、所定の基準時間に対して乗算される値であり、基準時間に切換時間係数が乗算されることで切換時間Tが算出される。
【0044】
自動運転から手動運転に切り換える際には、車輪の駆動トルクに変動が生じるなど、切り換えに応じた何らかの車両挙動が発生する可能性がある。このため、路面摩擦係数が低い状態で自動運転から手動運転への切り換えを行うと、車両挙動が一時的に不安定になることも想定される。本実施形態では、路面摩擦係数が低いほど切換時間Tを長くするため、路面摩擦係数が低いほど、より長時間をかけて、自動運転から手動運転へ各種制御量を変化させることができる。これにより、自動運転から手動運転への切り換え時に、車両挙動を確実に安定させることが可能となる。また、自動運転から手動運転への切り換え時に、乗員に違和感が生じることを抑止できる。
【0045】
図8は、切換時間Tを説明するための模式図である。自動運転から手動運転へ切り換えることが決定されると、所定距離を走行する間に手動運転への切り換えが行われる。一例として、車両が5kmを走行する前に手動運転に切り換えるものとする。例えば、図5の例では、1.0km先までの走行については自動運転が可であるが、5.0km先までの走行については自動運転が不可であると判断されている。このため、車両が5kmを走行する前に手動運転への切り換えが完了するようにする。
【0046】
図8の横軸は時間を示しており、現在地点から5kmの地点を通過する予定時刻をt10とする。この場合、安全を見込んで、時刻t10の1分前である時刻t2で自動運転への切り換えが完了するようにする。
【0047】
このため、時刻t2よりも切換時間Tだけ以前の時刻0の時点で、自動運転から手動運転への切り換えを開始する。これにより、切換時間Tにおいて、自動運転から手動運転へ切り換える際の各種処理を実行することができる。路面摩擦係数に応じて切換時間Tを変化させた場合は、時刻t2は変化させずに、自動運転から手動運転への切り換えを開始する時刻t0を切換時間Tに応じて変化させる。これにより、車両が5kmを走行する前に、手動運転への切り換えを確実に完了することができる。
【0048】
なお、図8に示す例では、車両の走行距離に基づき、車両が5kmを走行する前に、手動運転への切り換えを行う例を示したが、車両が所定時間(例えば3分間など)を走行する前に手動運転への切り換えを行うようにしても良い。
【0049】
次に、図9のフローチャートに基づいて、本実施形態の車両システム1000で行われる処理について説明する。図9に示す処理は、主に制御装置200により所定の周期毎に行われる。先ず、ステップS10では、車両システム1000を搭載した車両が自動運転を行う。自動運転は、車外センサ150が検出した情報、ナビゲーション装置700から得られる情報に基づいて、車両制御部230が車両制駆動装置300、操舵装置400を制御することによって行われる。
【0050】
次のステップS12では、車外センサ150が、周辺環境を把握し、路面摩擦係数を算出するための環境情報を検出する。次のステップS14では、過去情報取得部214が、サーバ2000からクラウド情報過去データ12を取得する。次のステップS16では、路面摩擦係数算出部210が、車両の周辺の路面摩擦係数を算出する。
【0051】
次のステップS18では、自動運転可否判断部220が、自動運転の可否判断を行う。自動運転が不可の場合は、ステップS20へ進み、手動運転(非自動運転)に切り換える旨の注意喚起を車両の乗員に通知する。注意喚起は、情報提示処理部250が情報提示装置500へ指令を出すことによって行われる。注意喚起の際には、切換時間Tの情報を乗員に提示しても良い。これにより、車両の乗員は手動運転への切り換えが完了するまでの時間を認識できる。一方、ステップS18で自動運転が可の場合は、ステップS19へ進み、自動運転を継続する。ステップS19の後はステップS12へ戻る。
【0052】
ステップS20の後はステップS22へ進む。ステップS22では、路面摩擦係数算出部210が算出した路面摩擦係数が所定の閾値以下であるか否かを判定し、路面摩擦係数が所定の閾値以下の場合は、ステップS24へ進む。ステップS24では、路面摩擦係数に応じた切換時間Tを設定する。
【0053】
一方、ステップS22において、路面摩擦係数が所定の閾値よりも大きい場合は、ステップS26へ進む。ステップS26では、切換時間Tを通常の時間(基準時間)に設定する。
【0054】
ステップS24,S26の後はステップS28へ進む。ステップS28では、ステップS24,S26で設定した切り換え時間に基づいて、自動運転から手動運転への切り換えを行う。
【0055】
なお、上述した処理では、路面摩擦係数算出部210が算出した路面摩擦係数に基づいて切換時間Tを設定する例を示したが、切換時間Tの設定は路面摩擦係数以外を用いて行っても良く、車両の挙動不安定度を示す情報に基づいて設定することができる。すなわち、切換時間の設定は、挙動不安定度取得部202が取得した情報に基づいて広く行うことができ、現在周辺データ10やクラウド情報過去データ20に基づいて行うことができる。この場合においても、挙動不安定度が高いほど切換時間Tを長くすることで、自動運転から手動運転への切り換え時における車両挙動を安定させるとともに、乗員に違和感が生じないようにすることができる。
【0056】
また、上述した処理では、自動運転から手動運転への切換時間について説明したが、手動運転から自動運転への切り換えにおいても同様に、挙動不安定度に応じて切換時間を設定することも可能である。
【0057】
以上説明したように本実施形態によれば、車両の挙動の不安定度に応じて自動運転から手動運転への切換時間を設定するようにしたため、自動運転から手動運転への切り換え時に、車両挙動を安定させることが可能となる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0059】
200 制御装置
202 挙動不安程度取得部
210 摩擦係数算出部
212 現在周辺環境情報取得部
214 過去情報取得部
220 自動運転可否判断部
270 切換時間設定部
2000 サーバ
図1
図2A
図2B
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図9