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  • 特許-乗物用シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20230508BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20230508BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20230508BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 B
B68G7/05 B
B68G7/05 C
B68G7/052 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019079576
(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公開番号】P2020175785
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】日比野 賢藏
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043152(JP,A)
【文献】特開2016-129645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/02
B68G 7/05
B68G 7/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表皮材が縫い合わされてなるトリムカバーと、
前記トリムカバーによって覆われるクッションパッドと、
を備え、
前記クッションパッドは、二枚の表皮材が縫い合わされた縫合部が押し込まれ且つ押し込まれた前記縫合部が接着される溝を有し、
前記縫合部は、
第1ステッチラインと、
前記第1ステッチラインよりも前記二枚の表皮材の端末側に設けられている第2ステッチラインと、
を有し、
前記縫合部は、前記表皮材の端末側の裏面が前記溝に接着されており、
前記第2ステッチラインから前記二枚の表皮材の端末までの縫い代は2mm以下であり、前記第2ステッチラインの縫い糸は、前記第1ステッチラインの縫い糸よりも細い乗物用シート。
【請求項2】
請求項1記載の乗物用シートであって、
前記二枚の表皮材は、
表面材と、
前記表面材の裏面に接合された裏打ち材と、
を有し、
前記裏打ち材は、前記表面材よりも多孔質である乗物用シート。
【請求項3】
請求項2記載の乗物用シートであって、
前記表面材は皮革である乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの乗物に搭載されるシートにおいて、クッションパッドを被覆するトリムカバーは、典型的には、複数の表皮材が縫い合わせられてなる。クッションパッドには溝が設けられており、表皮材同士の縫合部は溝に収容される。縫合部は、例えば溝の底に配置されたワイヤにCリング等の留め具を用いて係止されることにより、溝に引き込まれた状態で固定されている。また、特許文献1に記載された車両用シートでは、縫合部は、溝に押し込まれ、溝の底に接着されることにより、溝に引き込まれた状態で固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-129645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリムカバーの表皮材同士の縫合部がクッションパッドの溝に押し込まれる際に、例えば表皮材の端末部の裏面とクッションパッドの溝の側面とが擦れることによって、表皮材の端末部が互いに離間し、縫合部が開いてしまう場合がある。縫合部が開くと、表皮材の端末部の表面が接着面となり、表皮材の表面が例えば皮革によって形成されている場合に、縫合部を溝の底に接着することが困難になる虞がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、トリムカバーの表皮材同士の縫合部がクッションパッドの溝に押し込まれ且つ溝に接着される乗物用シートにおいて、縫合部の接着を安定して行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の乗物用シートは、複数の表皮材が縫い合わされてなるトリムカバーと、前記トリムカバーによって覆われるクッションパッドと、を備え、前記クッションパッドは、二枚の表皮材が縫い合わされた縫合部が押し込まれ且つ押し込まれた前記縫合部が接着される溝を有し、前記縫合部は、第1ステッチラインと、前記第1ステッチラインよりも前記二枚の表皮材の端末側に設けられている第2ステッチラインと、を有し、前記縫合部は、前記表皮材の端末側の裏面が前記溝に接着されており、前記第2ステッチラインから前記二枚の表皮材の端末までの縫い代は2mm以下であり、前記第2ステッチラインの縫い糸は、前記第1ステッチラインの縫い糸よりも細い

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トリムカバーの表皮材同士の縫合部がクッションパッドの溝に押し込まれ且つ溝に接着される乗物用シートにおいて、縫合部の接着を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例を示す斜視図である。
図2図1のトリムカバーの縫合部の断面図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4図2のトリムカバーの縫合部を図3のクッションパッドの溝に接着する方法を説明する模式図である。
図5図2のトリムカバーの縫合部を図3のクッションパッドの溝に接着する方法を説明する模式図である。
図6図2のトリムカバーの縫合部を図3のクッションパッドの溝に接着する方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、車両用シートの一例を示す。
【0010】
図1に示す乗物用シート1は、自動車等の車両に搭載されるシートである。シート1は、シート1に着座した乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション2と、着座者の腰部及び背部を支持するシートバック3とを備える。
【0011】
シートクッション2は、シートバックの骨格を形成するフレームと、フレームによって支持されるクッションパッド4と、フレーム及びクッションパッド4を被覆するトリムカバー5とを備える。シートバック3もまた、フレームと、クッションパッド6と、トリムカバー7とを備える。
【0012】
トリムカバーは複数の表皮材が縫い合わされてなり、例えばシートクッション2の着座面を覆うトリムカバー5の前身頃は、4枚の表皮材10a~10dが縫い合わされてなる。表皮材10aは、シート幅方向中央部のシート前側に配置されており、表皮材10bは、シート幅方向中央部のシート後側に配置されており、表皮材10aと表皮材10bとの縫合部11aは、シート前後方向中央部をシート幅方向に延びている。表皮材10c及び表皮材10dは、表皮材10a,10bをシート幅方向に挟んで配置されており、表皮材10cと表皮材10a,10bとの縫合部11b、及び表皮材10dと表皮材10a,10bとの縫合部11cは、いずれもシート前後方向に延びている。これらの縫合部11a~11c及びその近傍はクッションパッド4に引き込まれており、シートクッション2の着座面に起伏が形成されている。
【0013】
クッションパッド4,6は、ウレタンフォームなどの比較的軟質な樹脂発泡材からなる。トリムカバー5,7の表皮材は、例えば皮革(天然皮革、合成皮革)、織布、不織布、編物等である。表皮材は、皮革、織布、不織布、編物等の単層構造であってもよいし、皮革、織布、不織布、編物等を表面材とし、表面材の裏面に、ワディング(例えば弾性変形可能な軟質ポリウレタンフォームなどの樹脂発泡体)等の裏打ち材が積層された多層構造であってもよい。そして、トリムカバーは、一種の表皮材によって形成されてもよいし、部位に応じて異なる複数種の表皮材によって形成されてもよい。
【0014】
図2は、二枚の表皮材が縫い合わされてなるトリムカバーの縫合部を示し、図3は、縫合部が押し込まれ且つ接着されるクッションパッドの溝を示す。
【0015】
図2に示す二枚の表皮材10は、表面材12と、表面材12の裏面に積層された裏打ち材13とを有する。表面材12は皮革であり、裏打ち材13はワディングである。表皮材10それぞれの表面材12同士が接するように重ねられた状態で、二枚の表皮材10の端末部が縫い合わされている。縫合部11は、二枚の表皮材10の端末部を縫い合わせている第1ステッチライン14及び第2ステッチライン15を有する。
【0016】
第1ステッチライン14は、主として、二枚の表皮材10を縫い合わせ、それらの接合強度を確保するものであり、典型的には直線縫いである。第1ステッチライン14から表皮材10の端末までの縫い代W1は、表皮材10の引裂強度等を考慮して適宜設定されるが、例えば5mm前後が好適である。第2ステッチライン15は、第1ステッチライン14よりも表皮材10の端末側に設けられており、主として、縫合部11の開きを抑制するものである。
【0017】
クッションパッド4,6は溝16を有する。トリムカバー5,7がクッションパッド4,6に被せられた際に、縫合部11は溝16に沿って配置される。溝16の底には接着剤17が配置されている。縫合部11は、溝16に押し込まれており、接着剤17によって溝16の底に接着されている。
【0018】
縫合部11が溝16に押し込まれる際に、縫合部11を形成する二枚の表皮材10それぞれの端末部の裏面が溝16の側面と擦れるが、第2ステッチライン15によって縫合部11の開きが抑制されている。したがって、表皮材10の端末部の表面が溝16の底に対して露出せず、又は表面の露出が抑制され、表皮材10の端末部の裏面を接着面として、縫合部11は溝16の底に接着される。これにより、接着剤17が、少なくとも表皮材10の裏面に対して接着性を発現させる接着剤であれば、縫合部11を溝16の底に安定して接着できる。
【0019】
本例では表皮材10の表面が皮革によって形成されており、接着剤17は皮革に浸み込み難い。これに対し、表皮材10の裏面は、皮革よりも多孔質なワディングによって形成されており、接着剤17はワディングに浸み込み易い。ワディングによって形成されている表皮材10の端末部の裏面を接着面として、縫合部11が溝16の底に接着されることにより、表皮材10の表面が皮革によって形成されていても、縫合部11を確実に接着でき、接着強度を高めることができる。
【0020】
第2ステッチライン15から表皮材10の端末までの縫い代W2は、縫合部11の開きを抑制する観点から、好ましくは2mm以下である。なお、縫い代W2は、縫合部11の開きを抑制する観点では小さいほど好ましいが、縫合の作業性を考慮すれば1mm以上が好適である。また、第2ステッチライン15は、直線縫いでもよいが、縫い糸が表皮材10の端末を回るかがり縫いであってもよく、かがり縫いによれば、縫合部11の開きを一層抑制できる。また、主として縫合部11の開きを抑制する第2ステッチライン15の縫い糸は、二枚の表皮材10の接合強度を確保する第1ステッチライン14の縫い糸よりも細くでき、第2ステッチライン15の縫い糸が細ければ、第2ステッチライン15から表皮材10の端末までの縫い代W2をさらに小さくできる。
【0021】
接着剤17は、特に限定されないが、例えばホットメルト接着剤を用いることができる。図4から図6に、ホットメルト接着剤を用いて縫合部11を溝16の底に接着する場合の接着方法の一例を示す。
【0022】
図4に示すように、ホットメルト接着剤17が、クッションパッド4,6の溝16に予め配置される。押し込み板20が、トリムカバー5,7の表側から、縫合部11の第1ステッチライン14に沿って縫合部11に添えられる。そして、縫合部11は、押し込み板20によって溝16に押し込まれる。押し込み板20には、針状の突起21が板の長手方向に適宜な間隔をあけて複数設けられており、これらの突起21が、トリムカバー5,7の表側から裏側に向けて縫合部11を貫通することにより、縫合部11と押し込み板20とのずれが防止されている。
【0023】
図5に示すように、縫合部11が溝16に押し込まれた後、蒸気ノズル22がクッションパッド4,6に差し込まれ、蒸気ノズル22の先端が溝16の底の近傍に配置される。そして、蒸気ノズル22の先端から高温の蒸気が噴出される。噴出された高温の蒸気によって溝16のホットメルト接着剤17が溶融する。溶融したホットメルト接着剤17は、クッションパッド4,6に浸み込み、また、縫合部11の接着面となる表皮材10の端末部の裏面、すなわちワディングからなる裏打ち材13に浸み込む。そして、ホットメルト接着剤17が、クッションパッド4,6及び裏打ち材13に浸み込んだ状態で冷却固化される。これにより、縫合部11は溝16の底に接着される。
【0024】
最後に、図6に示すように、押し込み板20が縫合部11から引き抜かれ、また蒸気ノズル22がクッションパッド4,6から引き抜かれる。
【0025】
ここまで、自動車等の車両に搭載されるシート1を例にして本発明を説明したが、本発明は、船舶や航空機といった車両以外の乗物用シートにも適用可能である。
【0026】
以上、説明したとおり、本明細書に開示された乗物用シートは、複数の表皮材が縫い合わされてなるトリムカバーと、前記トリムカバーによって覆われるクッションパッドと、を備え、前記クッションパッドは、二枚の表皮材が縫い合わされた縫合部が押し込まれ且つ押し込まれた前記縫合部が接着される溝を有し、前記縫合部は、第1ステッチラインと、前記第1ステッチラインよりも前記二枚の表皮材の端末側に設けられている第2ステッチラインと、を有する。
【0027】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記第2ステッチラインから前記二枚の表皮材の端末までの縫い代が2mm以下である。
【0028】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記第2ステッチラインが、縫い糸が前記二枚の表皮材の端末を回るかがり縫いである。
【0029】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記第2ステッチラインの縫い糸が、前記第1ステッチラインの縫い糸よりも細い。
【0030】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記二枚の表皮材が、表面材と、前記表面材の裏面に接合された裏打ち材と、を有し、前記裏打ち材は、前記表面材よりも多孔質である。
【0031】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記表面材が皮革である。
【符号の説明】
【0032】
1 乗物用シート
2 シートクッション
3 シートバック
4 クッションパッド
5 トリムカバー
6 クッションパッド
7 トリムカバー
10 表皮材
11 縫合部
12 表面材
13 裏打ち材
14 第1ステッチライン
15 第2ステッチライン
16 溝
17 接着剤
W1 縫い代
W2 縫い代
図1
図2
図3
図4
図5
図6