(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】水中騒音による水中生物影響の緩和方法
(51)【国際特許分類】
E02D 13/02 20060101AFI20230508BHJP
【FI】
E02D13/02
(21)【出願番号】P 2019162595
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇一朗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 侑理恵
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-158745(JP,A)
【文献】実開平01-119431(JP,U)
【文献】特表2017-504844(JP,A)
【文献】特開平08-065220(JP,A)
【文献】特開2005-207902(JP,A)
【文献】特開2016-151460(JP,A)
【文献】竹山佳奈、磯貝哲也,海上工事で発生する海底振動が周辺生物へおよぼす影響,建設の施工企画,Vol. 742,日本,日本建設機械化協会,2011年12月,44-48
【文献】塩苅 恵 他3名,洋上風力発電施設からの水中放射音に関する研究,海上技術安全研究所報告,第15巻第1号,日本,海上技術安全研究所,2015年07月30日,101-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中騒音が発生する工事を実施する際に、前記工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認
する工程と、
前記
水中騒音の測定結果および前記水中生物の行動確認結果に基づいて
、前記水中騒音による前記水中生物に対する影響の有無を判定する工程と、
前記影響ありと判定された場合、前記工事を中断し、騒音対策を講じたうえ前記工事を再開する工程と、を含む水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項2】
前記騒音対策は、バブルカーテンの形成、パイルスリーブの設置、打設コントロール、または、ソフトスタートの実施である請求項1に記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項3】
前記水中騒音による水中生物への影響を事前に調査し予測し、悪影響が予測される場合、予め対策を施す請求項1
または2に記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項4】
前記予測において騒音発生位置から離れた位置での影響を水中における音圧の距離減衰に基づいて判断する請求項
3に記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項5】
前記対象とする水中生物の行動を確認するため魚群探知機とバイオロギング・バイオテレメトリーとの少なくともいずれかを用いる請求項1~
4のいずれかに記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項6】
前記行動確認結果から得た前記水中生物の水中騒音時の回避行動に基づいて前記水中騒音による前記水中生物に対する影響の有無を判断する請求項1~
5のいずれかに記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【請求項7】
前記行動確認結果から前記水中生物の死亡・損壊・異常行動のいずれかが確認されたときには前記工事を中断し対策を施す請求項1~
6のいずれかに記載の水中騒音による水中生物影響の緩和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事により発生する水中騒音による水中生物影響の緩和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中での杭打設や発破等の水中工事の騒音による水中生物に対する影響が懸念されている。これまでに、生物に対して影響のある周波数や杭打音の影響がある距離(たとえば、低周波で20kmまで)等が報告されている(非特許文献1)。また、魚類については損傷を受けるレベル(220dB以上)、忌避(回避)行動を示す威嚇レベル(140~160dB)等があることや、水中騒音が距離とともに減衰すること等が明らかとなっている(非特許文献2)。
【0003】
魚類をはじめ海生哺乳類等に対する水中騒音の影響を緩和する方法として、水中ノイズ低減装置および展開システム(特許文献1)、バブル・カーテン(特許文献2)、パイル・スリーブ(非特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-504844号公報
【文献】実開平01-119431号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】赤松友成・木村里子・市川光太郎「水中生物音響学―声で探る行動と生態-」コロナ社(2019年1月)
【文献】日本埋立浚渫協会「港湾工事環境保全技術マニュアル Doctor of the Sea(改訂第3版)」(2015年)
【文献】国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」(2018年3月)https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
杭打設等による水中音が威嚇レベルに達すると、魚類等の水中生物は周辺海域から逃げ出し、騒音が収まった後に戻ってくると言われているが、実際の水中騒音を測定して魚群や個体の行動を追跡した例は無く、水中騒音による行動への影響は明らかとなっていない。また、このため、効果的な対策が取られていない。
【0007】
魚類については、一般的な聴覚の魚と、音に対して鈍感な魚(浮袋の無いヒラメ・カレイ等)がいることが知られており、種によって威嚇レベル等は異なると考えられるが、対象とする種の音に対する感受性が明らかにならないと、効果的な対策を講じることが難しい。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、工事施工における水中騒音による水中生物への影響を調査し効果的に抑制し緩和できる水中騒音による水中生物影響の緩和方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための水中騒音による水中生物影響の緩和方法は、水中騒音が発生する工事を実施する際に、前記工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認する工程と、前記水中騒音の測定結果および前記水中生物の行動確認結果に基づいて、前記水中騒音による前記水中生物に対する影響の有無を判定する工程と、前記影響ありと判定された場合、前記工事を中断し、騒音対策を講じたうえ前記工事を再開する工程と、を含むものである。
【0010】
この水中騒音による水中生物影響の緩和方法によれば、工事施工により水中騒音が発生しても、工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認し、水中騒音の測定結果および水中生物の行動確認結果に基づいて工事を行い、音源音圧が想定よりも大きい場合や対象水中生物の行動に異常等が確認された場合には騒音低減対策を施すことができるので、水中騒音による水中生物への影響を効果的に抑制し緩和できる。また、対象とする水中生物の行動をその都度確認し、水中生物に応じて影響を適切に評価できるので、水中生物への影響を効果的に抑制できる。
【0011】
上記水中騒音による水中生物影響の緩和方法において、前記騒音対策は、バブルカーテンの形成、パイルスリーブの設置、打設コントロール、または、ソフトスタートの実施であることが好ましい。
また、前記水中騒音による水中生物への影響を事前に調査し予測し、悪影響が予測される場合、予め騒音低減等の対策を施すことが好ましい。
【0012】
また、前記予測において騒音発生位置から離れた位置での影響を水中における音圧の距離減衰に基づいて判断することが好ましい。
【0013】
また、前記対象とする水中生物の行動を確認するため魚群探知機(漁業用ソナー等を含む)とバイオロギング・バイオテレメトリーとの少なくともいずれかを用いることが好ましい。
【0014】
また、前記行動確認結果から得た前記水中生物の水中騒音時の回避行動に基づいて前記水中騒音による前記水中生物に対する影響の有無を判断することが好ましい。たとえば、水中騒音発生時に対象水中生物が水中騒音を回避して離れた場所に移動したことが確認された場合は水中騒音による影響がないと判断できる。
【0015】
また、前記行動確認結果から前記水中生物の死亡・損壊・異常行動のいずれかが確認されたときには前記工事を中断し騒音低減等の対策を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、工事施工における水中騒音による水中生物への影響を効果的に抑制し緩和できる水中騒音による水中生物影響の緩和方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態による水中騒音による海洋生物影響の緩和方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
【
図2】本実施形態において工事施工により発生する水中騒音の測定および対象海洋生物の行動確認を行う測定システムを概略的に示す図である。
【
図3】各種の水中騒音源の周波数および水中生物の可聴域を示すグラフである(非特許文献1の
図6.1参照)。
【
図4】水中音の音圧レベル(a)と魚類の反応(b)を示す図である(非特許文献2参照)。
【
図5】魚類の種類別の音圧レベルと反応レベルを示す図である(非特許文献2参照)。
【
図6】水中における音圧の距離減衰モデルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による水中騒音による海洋生物影響の緩和方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
図2は、本実施形態において工事施工により発生する水中騒音の測定および対象海洋生物の行動確認を行う測定システムを概略的に示す図である。
図3は、各種の水中騒音源の周波数および水中生物の可聴域を示すグラフである(非特許文献1の
図6.1参照)。
図4は、水中音の音圧レベル(a)と魚類の反応(b)を示す図である(非特許文献2参照)。
図5は、魚類の種類別の音圧レベルと反応レベルを示す図である(非特許文献2参照)。
図6は、水中における音圧の距離減衰モデルを示すグラフである。
【0019】
最初に、本実施形態における測定システムについて
図2を参照して説明する。
図2のように、杭打船SPによりハンマーHで杭Pを海底に打設する工事を行うと水中騒音が発生するが、この打設の際に水中騒音計M1により打設地点における水中騒音の測定を行う。また、杭打船SPまたは測定船MSに搭載した魚群探知機S1またはS2により打設位置における魚群の行動状況を確認する。
【0020】
また、周辺海域において測定船MSが打設地点から離れた位置で水中騒音計M2により水中騒音を測定し、また、魚群探知機S2により魚群の行動状況を確認する。また、魚FIにセンサーSEを取り付けて放流した後、水中に配置した受信器R1,R2がセンサーSEからの信号を受信し、魚FIの位置等を解析する。
【0021】
魚群探知機S1,S2を用いて打設地点およびその周辺海域において騒音発生前、発生中、発生後に魚類の行動を確認し、水中騒音の発生時に打設地点・周辺海域において対象海洋生物とした魚群が水中騒音を避けて移動した状況を確認する。なお、魚群探知機S1,S2には、海底面に向けて水平方向360°探査可能な漁業用ソナー、マルチビームソナーやグラフ魚探(体長や個体量が計測可能)を含む。また、バイオロギング・バイオテレメトリーにより魚等の水中生物にセンサーSE(ピンガー、加速度、水圧、水温、データロガー等)を取り付けて打設地点の海域に放流し個体の移動状況を確認できる。
【0022】
なお、バイオロギング・バイオテレメトリーとは、生物に小型の発信機・ビデオカメラ・センサー等を取り付けて行動データを取得し、行動や生態を調査する研究手法であり、アザラシ、ウミガメ、ペンギン、クジラ等の大型の生物にセンサーを取り付けることが多いが、装置の小型化が進み、鳥や魚を対象とした研究も進められている。こうした技術を利用することにより、杭打設時等における騒音による魚類等への影響を確認できる。このようなバイオロギング・バイオテレメトリーによる行動確認のために、対象海洋生物にセンサーを取り付け、放流し、センサーから受信した信号を表示する受波器により、またはセンサー回収後の解析により、行動確認を行う。
【0023】
図2の測定システムにより、打設地点および打設地点から離れた位置で水中音圧測定を行い、水中騒音の発生源と周辺海域の複数地点において、騒音発生前、発生中、発生後に水中騒音の測定を行うとともに、対象海洋生物の行動確認を行うことができる。
【0024】
図1~
図6を参照し、本実施形態による水中騒音による海洋生物影響の緩和方法を説明する。まず、事前検討により、対象地およびその周辺海域の状況、対象地の特性(海底地形、漁場、捕獲対象種、保護対象種等)、工事に使用する工法、存在する対象海洋生物等を確認する(S01)。
【0025】
次に、事前検討により得た資料やデータにより工事施工に伴い発生する水中騒音による影響を予測する(S02)。たとえば、
図3のように、杭打設の場合には、魚の可聴域の周波数の騒音が発生すること、
図4(a)(b)のように、その騒音の音圧レベルによって魚類の反応が異なること、
図5のように、魚類別に音圧レベルにより反応が異なること、
図6のように、水中において音源からの距離に応じて音圧レベルが減衰すること等から対象海洋生物への影響を予測する。
【0026】
次に、上記影響予測ステップS02の予測結果に基づいて対象海洋生物への影響の有無を判定する(S03)。ここで、後述のステップS05での対策選定を実施した場合を含めて水中騒音発生時に対象海洋生物への影響が無い状況としては、以下の内容がある。
【0027】
ステップS03で影響なし(NO)と判定する場合
(1)騒音発生源の周辺海域に対象とする海洋生物がいない。この場合は、対象海洋生物が存在しないとして(S04)、以降のステップには進まず、フロー終了(end)とする。
(2)音源音圧が威嚇レベル未満。あるいは、対象海洋生物の生息の存在範囲では威嚇レベル未満。
(3)騒音発生源の周辺海域に存在した対象海洋生物が、威嚇レベルの範囲から影響の無い海域に移動すると想定される。
(4)周辺海域に対象海洋生物の生息場所(岩礁等)や漁場が存在する場合等、騒音発生源から生息場所や漁場までの騒音の距離減衰により対象海洋生物に影響が無い音圧まで騒音が低下する。
【0028】
ステップS03で影響あり(YES)と判定され、ステップS05で選定した対策を実施する場合
(5)騒音発生源の水中騒音低減対策を実施し、対象海洋生物に影響の無い威嚇レベル未満まで騒音が低下すると想定される。
(6)騒音発生源の水中騒音低減対策を実施し、威嚇レベル以下(より望ましくは誘致レベル以下)まで騒音が低下し、威嚇レベルの場合には影響の無い海域に移動すると想定される。
(7)周辺海域に対象海洋生物の生息場所(岩礁等)や漁場が存在する場合、発生源の水中騒音低減対策を実施し、対象海洋生物に影響が無い音圧まで騒音が低下すると想定される。
ただし、杭打設以外による周辺海域で発生する暗騒音が高く、威嚇レベル以上で海洋生物が生息している場合や、周辺に誘致レベルの海域が無いときには、別途対策を検討することが好ましい。
なお、ここでの影響が無い音圧・海域とは、海洋生物に対する
図4(b)の威嚇レベル以下(より望ましくは誘致レベル以下)を指す。
【0029】
たとえば、
図6の実線A~Cの距離減衰モデルにより対象地点の予想音圧レベルを予測し、たとえば、音源音圧が200dBのとき距離減衰モデルAでは音源から1000mの対象地点で140dBに減衰するが、この1000m地点に
図4(b)のように回避行動を取る威嚇レベルの下限が140dBの対象海洋生物である魚の生息域がある場合、この対象海洋生物が音源から1000mよりも遠方に移動することから影響なし(NO)と判定する。なお、対象海洋生物によって音圧レベルが異なるが、対象海洋生物の生息域で威嚇レベル以下(より望ましくは誘致レベル以下)の音圧となることが望ましい。
【0030】
また、たとえば、ヒラメやカレイ等の浮袋の無い、音に対して鈍感な魚が対象海洋生物の場合、仮に威嚇レベルの下限を180dBとすると、音源音圧が200dBのとき
図6の距離減衰モデルAから影響範囲は10mとなり、工事での発生源近傍に限定されることから影響なし(NO)と判定する。以上の場合は、次のステップS06に進む。
【0031】
また、次のような場合は影響あり(YES)と判定する。たとえば、音源音圧が240dBのとき
図6の距離減衰モデルCから音圧が140dBとなるのは音源から100km地点となり、広域に水中騒音の影響が及び、そこまでの移動能力が無い魚もいる。また、音源から10mまでの範囲は損傷レベルである220dBとなり、その範囲内に魚がいると損傷が生じるので、影響あり(YES)と判定する。なお、
図6の距離減衰モデルCは、音源音圧240dBの球面拡散モデルによる推定値である。
【0032】
また、たとえば、音源音圧が200dBのとき
図6の距離減衰モデルAでは音源から500mの対象地点で146dBとなるが、仮に500m地点に対象海洋生物としての魚類がいて、当該魚類の移動性が小さく影響が懸念される場合や当該500m地点に漁場等があり対策が求められる場合は、影響あり(YES)と判定する。
【0033】
上記影響判定ステップS03で影響あり(YES)と判定された場合、影響軽減のための対策を選定する(S05)。たとえば、音源音圧が240dBの場合、音源音圧の低減対策が必要となる。
【0034】
また、音源音圧が200dBのとき音源から500mの対象地点で対象海洋生物としての魚類への影響が懸念される場合や音源から500m地点に漁場等がある場合、音源音圧を190dBにすれば、
図6の距離減衰モデルBから音源から500mの対象地点で音圧は魚類の回避行動をする威嚇レベルの下限の140dB未満となるので、音源音圧を少なくとも10dB下げるような低減対策を講じる。
【0035】
次に、上記対策選定ステップS05における対策の準備や事前状況の確認を行う(S06)。たとえば、音源音圧の低減対策の準備、
図2の測定システムにより、水中騒音の測定(工事施工前)、対象海洋生物の行動の確認等を行う。
【0036】
また、必要に応じて、杭打設等の施工前に防音対策を行い騒音発生源の音圧レベルを低減することにより、影響の対象範囲を狭くすることが可能である。また、打設前に人工的に水中で音を発生させ、打設地点付近に生息する対象海洋生物を周辺海域へ回避させる等の対策がある。
【0037】
次に、工事の施工が始まると水中騒音が発生する(S07)。施工の開始とともに、水中騒音の測定および対象海洋生物の行動確認を行う(S08)。すなわち、
図2の測定システムにより、杭打設で発生する水中騒音の測定を水中騒音の発生源(打設位置)と周辺海域の複数地点において行う。
【0038】
また、ステップS08では、
図2の測定システムにより、魚群探知機による対象海洋生物群の回避等の行動確認、バイオロギングやバイオテレメトリーでの対象海洋生物(個体)の追跡による回避等の行動確認を行う。かかる行動確認には、対象海洋生物の死亡・損壊状況や異常行動等の発生状況の確認も含まれる。
【0039】
たとえば、音源音圧が200dBのとき
図6の距離減衰モデルAでは音源から500mの対象地点で146dBとなるが、500m地点に対象海洋生物としての魚類がいた場合、
図2の魚群探知機等によってその魚類の移動状況を確認する。
【0040】
上記測定・行動確認ステップS08における測定確認結果に基づいて水中騒音による影響の有無を判定する(S09)。たとえば、対象海洋生物の死亡・損壊・異常行動が発生した場合、想定よりも音源音圧が大きい場合、実施した対策の効果が小さく対象海洋生物への影響が予測される場合等は、影響あり(YES)と判定する。また、たとえば、対象海洋生物の死亡・損壊・異常行動が発生しなかった場合や、対象海洋生物が水中騒音を回避して離れた場所に移動したような場合は、影響なし(NO)と判定する。
【0041】
上記水中騒音による影響判定ステップS09で影響あり(YES)と判定された場合は、施工をいったん中断し、対策を選定する(S10)。かかる騒音対策として、前述のバブル・カーテンやパイル・スリーブの他に、影響が少ない音圧となるよう打設をコントロールする方法、ソフトスタート(最初は弱い力で打設し、徐々に強くしていく)などがある。
【0042】
上記ステップS10で選定した対策を講じてから施工を再開し(S07)、同様のステップS08,S09を繰り返す。
【0043】
上記水中騒音による影響判定ステップS09で影響なし(NO)と判定された場合、施工前のステップS01~S06における事前検討・準備・対策が良好であった、または、施工開始後に影響ありと判定された場合でもステップS10での対策が良好であったからと考えられる。次に、工事が終了してから、水中騒音を回避して海洋生物が離れた場所に移動したような場合は事後測定を行う(S11)。かかる事後測定としては、ステップS08と同様の水中騒音の測定、魚群探知機等による対象海洋生物群の行動確認、バイオロギングやバイオテレメトリーでの対象海洋生物(個体)の追跡による行動確認などがある。ここでは、威嚇レベル等の騒音が無くなった段階での周辺海域の影響のない範囲から杭打設周辺への対象海洋生物の移動・回復状況等を確認する。
【0044】
以上のように、本実施形態による水中騒音による海洋生物影響の緩和方法によれば、杭打設時等の水中騒音が発生する工事を施工する際に、対象地の特性(海底地形、漁場、捕獲対象種、保護対象種等)を考慮した上で事前の確認・検討・準備・対策を行い、工事開始後に水中騒音を測定するとともに、対象とする海洋生物の行動を確認し、水中騒音による海洋生物への影響を抑制し緩和することができる。また、対象とする海洋生物の行動をその都度確認し、海洋生物に応じて影響を適切に評価できるので、海洋生物への影響を効果的に抑制できる。海洋生物を対象としたモニタリングシステムを活用することにより、対象とする海洋生物への影響を抑制した杭打設等の工事施工管理や騒音対策を実施することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、魚群探知機、バイオロギング・バイオテレメトリーを使用するが、魚類に限定したものでなく、探知器やソナーで検出することができる海洋生物、センサーの取り付けが可能な海洋生物全般が対象となり、甲殻類、軟体動物、イルカ、クジラ、ウミガメ、アザラシ、ジュゴン、ペンギン等であってもよい。
【0046】
また、
図1のステップS06,S08,S11では、水中騒音計と、魚群探知機およびバイオロギング・バイオテレメトリーとを使用するが、水中騒音計と、魚群探知機またはバイオロギング・バイオテレメトリーとを使用する運用もある。
【0047】
また、杭打設開始当初は水中騒音計と、魚群探知機およびバイオロギング・バイオテレメトリーとを使用し、その後、水中騒音計と、魚群探知機またはバイオロギング・バイオテレメトリーとを使用する方法、または、水中騒音計や魚群探知機を単独で使用する方法(音源の騒音が低い場合や魚類の回避パターンが確認済みの場合等)もある。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、
図2等では、対象の工事として洋上風力発電の大型の杭打設を想定しているが、本発明は、これに限定されず、水中騒音を発生する工事全般に適用できることはもちろんである。
【0049】
また、魚類については、
図4(b)のような「140~160dB威嚇レベル」等の一般的な情報から確認を始めるが、事前の水槽等での対象海洋生物の騒音影響確認実験の他に水中騒音計とバイオロギング・バイオテレメトリーとの測定により、施工を進める中で対象海洋生物種に影響する音圧レベルを確定することできる。かかる数値を使用することにより、同一工事では施工の途中からより精度の高い予測が可能となる。別工事でも同一種が対象の場合には、基礎データとして活用することができる。すなわち、
図2~
図6のような公知のデータを用いた場合でも、それらに代えて、または、それらとともに、施工前や施工中の調査や測定により新たに取得した独自の各種データを用いてもよい。
【0050】
また、
図2では、打設地点から離れた位置での水中騒音測定を測定船MSで行うようにしたが、これに限定されず、1または複数の定点に水中騒音計を設置して行うようにしてもよい。また、
図2では受信器R1,R2を水中に設置したが、測定船MSに取り付けて使用してもよい。
【0051】
また、本実施形態のような海洋生物を対象としたモニタリングシステムにより、24時間内、数日内、季節毎、気象条件などで、対象海洋生物の移動行動に変化が見られ、騒音非発生時でも工事施工位置から離れ遠ざかるような行動を示す場合には、そのような時に杭打設等を行うという対策も可能である。
【0052】
また、本実施形態において、対象とする海洋生物は、工事実施の海域に生息する生物であり、魚類、甲殻類、軟体動物、イルカ、クジラ、ウミガメ、ペンギン、ジュゴン、アザラシ等である。
【0053】
本発明は、水中騒音による水中生物影響の緩和方法であるが、別の見方をすると、水中騒音が発生する工事の施工管理方法と捉えることもできる。すなわち、この工事施工管理方法は、水中騒音が発生する工事を実施する際に、前記工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認し、前記測定結果および前記水中生物の行動確認結果に基づいて前記工事の管理を行う。水中騒音による対象水中生物への悪影響がないように杭打設等の工事施工管理を確実に行うことができる。
【0054】
また、本実施形態では海洋における工事を対象としたが、本発明はこれに限定されず、陸上の湖や河川における工事にも適用可能である。本発明で対象とする水中生物は海洋生物を含む。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、水中騒音が発生する工事を施工する場合、対象とする水中生物に影響がないように効果的な杭打設等の工事施工管理や騒音対策を実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
M1,M2 水中騒音計
MS 測定船
R1,R2 受信器
S1,S2 魚群探知機
FI 魚
SE センサー
P 杭
H ハンマー
SP 杭打船