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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】超音波画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20230508BHJP
【FI】
A61B8/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019235570
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104095
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英司
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-212522(JP,A)
【文献】特開2017-364(JP,A)
【文献】特開2014-184145(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051577(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/018575(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193099(US,A1)
【文献】特開2018-149055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エコーデータに基づいて生成される弾性画像上において、特定組織を探索するための特定のパターンを有するテンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、前記各走査位置において前記特定組織の存在確率を表す係数を演算する係数演算部と、
前記弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の係数に基づいて、特定組織分布像を生成する分布像生成部と、
を含むことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波画像処理装置において、
前記エコーデータに基づいて生成されるBモード断層画像上に前記特定組織分布像を合成して合成画像を生成する合成部を含む、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波画像処理装置において、
前記係数演算部は、前記テンプレートの実空間内サイズが固定されるように、前記弾性画像のスケールに応じて前記弾性画像に対する前記テンプレートの相対的なサイズを変更する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波画像処理装置において、
前記特定のパターンには、一次元配列又は二次元配列された複数のパターン要素が含まれる、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項4記載の超音波画像処理装置において、
前記各パターン要素は、緩やかな凸状の関数、又は、緩やかな凹状の関数に相当する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項4記載の超音波画像処理装置において、
前記複数のパターン要素は、第1方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素列を構成しており、
前記各パターン要素列は、前記第1方向に直交する第2方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素により構成され、
奇数番目のパターン要素列と偶数番目のパターン要素列が前記第2方向に半ピッチずれている、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
請求項4記載の超音波画像処理装置において、
前記複数のパターン要素は、第1方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素列を構成しており、
前記各パターン要素列は、前記第1方向に直交する第2方向に一様性を有するパターンである、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項8】
請求項1記載の超音波画像処理装置において、
前記係数演算部は、前記弾性画像上において、第1組織を探索するための第1パターンを有する第1テンプレートを走査しながら、前記各走査位置において前記第1組織の存在確率を表す第1係数を演算する第1係数演算部であり、
前記分布像生成部は、前記弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の第1係数に基づいて、第1組織分布像を生成する第1分布像生成部であり、
当該超音波画像処理装置は、更に、
前記弾性画像上において、第2組織を探索するための第2パターンを有する第2テンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、前記各走査位置において前記第2組織の存在確率を表す第2係数を演算する第2係数演算部と、
前記弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の第2係数に基づいて第2組織分布像を生成する第2分布像生成部と、
前記第1組織分布像と前記第2組織分布像とを重畳表示する表示部と、
を含むことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項9】
エコーデータに基づいて生成される弾性画像上において、特定組織を探索するための特定のパターンを有するテンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、前記各走査位置において前記特定組織の存在確率を表す係数を演算する機能と、
前記弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の係数に基づいて、特定組織分布像を生成する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波画像処理装置に関し、特に、弾性画像の解析に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像処理装置は、超音波画像を処理する機能を備えた装置である。超音波画像処理装置は、例えば、超音波を送受波する機能を備えた超音波診断装置により構成され、あるいは、超音波診断装置で生成されたデータを処理する情報処理装置により構成される。以下、超音波画像処理装置としての超音波診断装置について説明する。
【0003】
超音波診断装置は、通常、その動作モードとしてのBモードを有する。Bモードでは、生体内において超音波ビームが走査され、これにより形成されるビーム走査面から得られたエコーデータに基づいてBモード断層画像(以下、単に断層画像という。)が生成され、それが動画像として表示される。その断層画像は、エコー強度を輝度で表現した白黒画像である。一方、超音波診断装置の中には、エラストグラフィー機能を備えたものがある。エラストグラフィー機能は、ビーム走査面から得られたエコーデータに基づいて、生体組織の硬さ(又は軟らかさ)を色相で表現した画像(以下、弾性画像という。)を形成する機能である。弾性画像もビーム走査面上の断面を表した画像であり、その点においては上記断層画像と同じである。
【0004】
超音波の送受波を利用したエラストグラフィーに関しては幾つかの方式が知られている。その内で、第1の方式は、各観測位置で組織の変位又は歪みを計測するものであり、それはストレインエラストグラフィー(Strain elastography)と呼ばれている。第2の方式は、生体内でせん断波を生じさせ、各観測位置でせん断波の速度を計測するものであり、それはせん断波エラストグラフィー(Shear wave elastography)と呼ばれている。
【0005】
断層画像によれば、生体内の組織構造を比較的に明瞭に観察することができる。しかし、断層画像は、音響インピーダンスの異なる境界面での反射波の強度を画像化したものであるため、そこから組織の硬さ情報は得られない。一方、弾性画像は、組織の硬さあるいは硬さパターンを表現した画像であるが、その画像を見慣れていない者にとって、弾性画像から組織性状を正確に読み取ることは困難である。
【0006】
特許文献1には、ストレインエラストグラフィーを実行する超音波診断装置が開示されている。特許文献2には、複数種類の病変パターンの中から、評価対象となった医用画像に該当する病変パターンを特定する画像処理装置が記載されている。いずれの特許文献にも、特定組織が有する特有の弾性パターンを利用して特定組織の空間的分布を求めることについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-146625号公報
【文献】特開2019-33966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、特定組織の存否又は分布を容易に判断できる超音波画像を提供することにある。あるいは、本開示の目的は、Bモード断層画像と弾性画像の両画像の利点を備えた超音波画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る超音波画像処理装置は、エコーデータに基づいて生成される弾性画像上において、特定組織を探索するための特定のパターンを有するテンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、前記各走査位置において前記特定組織の存在確率を表す係数を演算する係数演算部と、前記弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の係数に基づいて、特定組織分布像を生成する分布像生成部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、特定組織の存否又は分布を容易に判断できる超音波画像を提供できる。あるいは、本開示によれば、Bモード断層画像と弾性画像の両画像の利点を備えた超音波画像を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る超音波診断装置のブロック図である。
図2】実施形態に係る画像処理方法を示す模式図である。
図3】2つのテンプレートを利用するパターンマッチング法を示す模式図である。
図4】合成画像の第1例を示す図である。
図5】合成画像の第2例を示す図である。
図6】合成画像の第3例を示す図である。
図7】熟化組織探索用のテンプレートを用いた画像処理方法を示す模式図である。
図8】熟化組織探索用の他のテンプレートを示す図である。
図9】実施形態に係る画像処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波画像処理装置は、係数演算部、及び、分布像生成部を有する。係数演算部は、エコーデータに基づいて生成される弾性画像上において、特定組織を探索するための特定のパターンを有するテンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、各走査位置において特定組織の存在確率を表す係数を演算する。分布像生成部は、弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の係数に基づいて、特定組織分布像を生成する。
【0014】
弾性画像においては、少なからずの組織像がそれ固有のパターン(弾性パターン又は硬軟パターン)を呈する。例えば、肝臓中において、脂肪肝の病態に至る可能性がある又はその可能性の高い部位はそれ固有の軟性の弾性パターンを有し、肝硬変の病態に至る可能性がある又はその可能性の高い部位はそれ固有の硬性の弾性パターンを有する。同様に、子宮頚部において熟化(ripening)した部位又はそれに至る可能性がある部位はそれ固有の多層状(縞模様状)の弾性パターンを有する。しかし、弾性画像の読影経験の浅い者にとって、弾性画像中の個々の局所部位の弾性パターンから、疾患又はその可能性を評価することは非常に困難である。
【0015】
上記構成によれば、探索対象となる特定組織に対応するテンプレート(つまり特定組織それ自体の典型的弾性パターン)を利用して、弾性画像に対してテンプレートパターンマッチングを適用することにより、特定組織の分布を特定し、それを表現した特定組織分布像を生成し、それをユーザーに提供できる。ユーザーが特定組織の性状や弾性パターンを知っていない場合でも、ユーザーは、特定組織分布像から特定組織の存否やその分布の広がりを容易に認識することが可能となる。特定組織分布像は基本的に二次元像であるが、それを三次元像として構築する変形例も考えられる。
【0016】
実施形態におけるテンプレートは、基本的に、弾性画像に含まれる個々の組織中の硬さ模様にフィッテイングされるものである。その点において、組織像の外形だけにフィッテイングされるテンプレートとは異なる。特定組織分布像は、汎用的な画像ではなく、特定組織診断用の画像である。もっとも、複数のテンプレートが同時に使用されてもよい。
【0017】
弾性画像の全体に対してテンプレートパターンマッチングが適用されてもよいし、弾性画像中の関心領域内に対してテンプレートパターンマッチングが適用されてもよい。弾性情報に加えて、他の情報を参照することにより、特定組織分布像が生成されてもよい。弾性画像はストレインエラストグラフィー法又はせん断波エラストグラフィー法により生成され得る。
【0018】
実施形態に係る超音波画像処理装置は、更に、合成部を有する。合成部は、エコーデータに基づいて生成されるBモード断層画像上に特定組織分布像を合成して合成画像を生成する。Bモード断層画像は、断面それ全体の組織構造を認識し易い画像である。上記構成によれば、Bモード断層画像を背景として、特定組織の分布をより具体的に認識できる。実施形態において、Bモード断層画像は白黒画像であり、特定組織分布像はカラー画像である。白黒画像へのカラー画像の重畳に際し、カラー画像に半透明処理を施してもよい。
【0019】
実施形態において、係数演算部は、テンプレートの実空間内サイズが固定されるように、弾性画像のスケールに応じて弾性画像に対するテンプレートの相対的なサイズを変更する。テンプレートは実組織の弾性パターン(換言すれヴば実寸)をモデルとするものである。上記構成によれば、弾性画像のスケール(倍率)が変化しても、特定組織を正しく抽出することが可能となる。
【0020】
実施形態において、特定のパターンには、一次元配列又は二次元配列された複数のパターン要素が含まれる。実施形態において、各パターン要素は、緩やかな凸状の関数、又は、緩やかな凹状の関数に相当する。実施形態において、複数のパターン要素は、第1方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素列を構成している。各パターン要素列は、第1方向に直交する第2方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素により構成される。奇数番目のパターン要素列と偶数番目のパターン要素列が第2方向に半ピッチずれている。このようなテンプレートを利用することにより、多層状(縞模様状)の組織又は市松模様(Checkered pattern)のような構造を有する特定組織を精度よく識別できる。組織の方向に応じてテンプレートを回転させなくても、一定の探索精度を得られる。もちろん、テンプレートを回転させつつ、各角度位置でテンプレートパターンマッチングを行うようにしてもよい。
【0021】
実施形態において、複数のパターン要素は、第1方向に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素列を構成している。各パターン要素列は、第1方向に直交する第2方向に一様性を有するパターンである。例えば、特定組織が多層状の構造を有し、その方向が既知であれば、その方向に合わせてテンプレートを最初から傾けておけばよい。その場合、弾性画像から求められた角度又はユーザー指定された角度に基づいてテンプレートを回転させてもよい。テンプレートのサイズを段階的に拡大又は縮小させる変形例も考えられる。
【0022】
実施形態において、係数演算部は、弾性画像上において、第1組織を探索するための第1パターンを有する第1テンプレートを走査しながら、各走査位置において第1組織の存在確率を表す第1係数を演算する第1係数演算部である。また、分布像生成部は、弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の第1係数に基づいて、第1組織分布像を生成する第1分布像生成部である。そのような構成を前提として、実施形態に係る超音波画像処理装置は、更に、第2係数演算部、第2組織分布像生成部、及び、表示器を有する。第2係数演算部は、弾性画像上において、第2組織を探索するための第2パターンを有する第2テンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、各走査位置において第2組織の存在確率を表す第2係数を演算する。第2分布像生成部は、弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の第2係数に基づいて第2組織分布像を生成する。表示部には、第1組織分布像と第2組織分布像が重畳表示される。
【0023】
上記構成によれば、第1組織及び第2組織の分布を表す第1組織分布像及び第2組織分布像を同時に得られる。それらの観察により注目臓器を総合的に評価できる。3つ以上のテンプレートが同時に又は段階的に利用されてもよい。
【0024】
実施形態に係る超音波画像処理方法は、係数演算工程、及び、分布像生成工程を有する。係数演算工程は、エコーデータに基づいて生成される弾性画像上において、特定組織を探索するための特定のパターンを有するテンプレートを走査しながら、各走査位置でパターンマッチングを行うことにより、各走査位置において特定組織の存在確率を表す係数を演算する工程である。分布像生成工程は、弾性画像上の複数の走査位置で演算された複数の係数に基づいて、特定組織分布像を生成する工程である。
【0025】
上記方法は、ハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として実現され得る。後者の場合、上記方法を実行するプログラムが、ネットワークを介して又は可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置にインストールされる。情報処理装置の概念には、超音波画像処理装置、超音波診断装置、超音波診断システム等が含まれる。
【0026】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波画像処理装置の構成がブロック図として示されている。図示された超音波画像処理装置は超音波診断装置である。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体(被検者)に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する医療用の装置である。超音波診断対象となる臓器は、例えば、肝臓であり、あるいは、子宮である。
【0027】
プローブ10は、超音波を送受波する手段として機能するものである。プローブ10は、可搬型送受波器であり、それはユーザー(医師、検査技師等)によって保持及び操作される。肝臓の超音波診断に際しては、プローブの10の送受波面(音響レンズ表面)が被検者の腹部表面に当接され、その状態で超音波が送受波される。産科の超音波検査に際しては、プローブ10として、体腔内挿入型プローブとしての経腟プローブが用いられる。
【0028】
プローブ10は、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイによって超音波ビームが形成され、超音波ビームの電子的な走査により走査面が形成される。走査面は観察面であり、すなわち二次元データ取込領域である。超音波ビームの電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。超音波ビームのコンベックス走査が行われてもよい。超音波プローブ内に2D振動素子アレイを設け、生体内からボリュームデータが取得されてもよい。
【0029】
送受信部12は電子回路により構成される。送信時において、送受信部12は、複数の振動素子に対して複数の送信信号を並列的に供給する送信ビームフォーマーとして機能する。受信時において、送受信部12は、複数の振動素子から並列的に出力される複数の受信信号を整相加算(遅延加算)する受信ビームフォーマーとして機能する。送受信部12は、複数のA/D変換器等を備えている。送受信部12での複数の受信信号の整相加算によりビームデータが生成される。
【0030】
ちなみに、1回の電子走査当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが生成され、それらが受信フレームデータを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。送受信部12の後段にはビームデータ処理部が設けられているが、その図示が省略されている。
【0031】
断層画像生成部14は、受信フレームデータに基づいて断層画像(Bモード断層画像)を生成する電子回路である。それはDSC(Digital Scan Converter)を有している。DSCは、座標変換機能、補間機能、フレームレート変換機能等を有し、ビーム走査方向に並ぶ複数のビームデータからなる受信フレームデータに基づいて、断層画像を形成する。断層画像のデータが表示処理部16へ送られている。
【0032】
弾性情報演算部18は、図示の構成例では、ストレインエラストグラフィー法に従って、走査面上の各点において弾性情報を演算するものである。具体的には、各点において、フレーム間で変位を演算し、それを空間微分することにより、弾性情報としての歪み(ストレイン)を演算している。弾性画像生成部20は、走査面上の複数の点で求められた複数の弾性情報に基づいて弾性画像を生成する。なお、せん断波エラストグラフィー法に従って弾性画像を生成する場合、弾性情報演算部18において、走査上の各点ごとに弾性情報としてせん断波の速度が演算される。弾性画像生成部20は、走査面上の複数の点で求められた複数の速度に基づいて弾性画像を生成する。一般に、弾性画像は、変位、歪み、ヤング率、せん断波速度、粘性等の弾性情報を表す複数の画素値により構成され得る。
【0033】
弾性画像は組織の弾性情報を表した画像であり、一方、上記の断層画像(Bモード断層画像)はエコー強度を表した画像である。両画像において画像化されている情報は互いに異なる。弾性画像のデータが表示処理部16へ送られている。
【0034】
係数演算部22は、弾性画像に対して、テンプレートを利用したパターンマッチングを適用し、これにより各点ごとに、特定組織である可能性の大きさを示す係数を演算する。特定組織は、例えば、後述するように、脂肪肝に至る可能性がある部分、肝硬変に至る可能性がある部分、子宮頚部において熟化の可能性がある又はそれが認められる部分、等である。個々の特定組織ごとに、当該特定組織が有する典型的な弾性パターンを有するテンプレートが用意されている。実際には、テンプレート記憶部25の中に、複数の特定組織に対応した複数のテンプレートが格納されている。格納された複数のテンプレートの中から、診断対象となった特定組織に対応する特定のテンプレートが選択される。係数演算部22は、テンプレート選択手段として機能する。
【0035】
個々のテンプレートは、特定組織を探索又は検出するフィルタ又はウインドウとして機能する。過去において取得された弾性画像群に基づいて学習器に学習を行わせることによりテンプレートが生成されてもよい。学習器として、ニューラルネットワークを用いたものを採用し得る。
【0036】
係数演算部22は、弾性画像のスケールに応じて、テンプレートのサイズを調整するサイズ調整手段としても機能する。個々のテンプレートは、実際の組織における硬軟パターンに適合したパターンを有している。弾性画像のスケールの変化に伴って、テンプレートの実空間内サイズが維持されるように、テンプレートのサイズが変更される。
【0037】
係数演算部22は、弾性画像に対してテンプレートをラスタースキャンしながら、スキャン経路上の各位置で、弾性画像とテンプレートの間でパターンマッチングを実行し、マッチング度を示す係数を演算する。マッチングに際しては、例えば、相関演算が実行され、類似度を示す係数が演算される。弾性画像上の複数の位置で演算された複数の係数により係数分布が構成される。この一連の処理がフレーム単位で実行される。これにより、複数のフレームから複数の係数分布が生成される。なお、演算された係数は、特定組織である確率を示す数値である。パターンマッチングが関心領域内でのみ実行されてもよい。
【0038】
分布像生成部24は、係数分布に基づいて特定組織分布像を生成する。例えば、係数の大きさに所定色相の輝度を対応付けることにより、カラーの特定組織分布像が生成される。その画像データが分布像生成部24から表示処理部16へ送られている。特定組織分布像の生成に際して、上記係数と共に、他の情報(例えば、エコー強度情報、平均弾性情報、歪み情報、粘性値等)が基礎とされてもよい。
【0039】
表示処理部16は、グラフィック画像生成機能、カラー演算機能、画像合成機能等を有する。図1には、画像合成機能が合成部17として示されている。合成部17は、白黒のBモード断層画像上にカラーの特定組織分布像を重畳して合成画像を形成する。2つの画像の合成はリアルタイムで行われており、これにより動画像としての合成画像が生成される。その合成画像が表示器26に表示される。表示器26には、断層画像、弾性画像、等も表示され得る。表示器26は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。
【0040】
画像記憶部27には、複数の断層画像からなる断層画像列、及び、複数の弾性画像からなる弾性画像列が格納される。画像記憶部27は、例えば、リングバッファ構造を有する。画像記憶部27に格納された弾性画像列を係数演算部22に与えることにより、特定組織分布像が動画像として事後的に生成される。その場合には、画像記憶部27に格納された断層画像列が表示処理部16内の合成部17へ送られ、合成部17により、動画像としての合成画像が生成される。
【0041】
画像処理モジュール31は超音波画像処理部に相当するものである。画像処理モジュール31は、プログラムを実行する1又は複数のプロセッサで構成され得る。画像処理モジュール31の全部又は一部が超音波画像処理装置として機能する情報処理装置により構成されてもよい。
【0042】
制御部28は、図1に示された各要素の動作を制御するものである。制御部28は、実施形態において、CPU及びプログラムによって構成される。CPUが画像処理モジュール31として機能してもよい。制御部28には操作パネル30が接続されている。操作パネル30は入力デバイスであり、それは複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を有する。
【0043】
図2には、実施形態に係る画像処理方法が模式的に示されている。フレーム単位で以下の一連の処理が実行される。
【0044】
走査面上から得られたエコーデータに基づいて断層画像32が生成される。一方、そのエコーデータに基づいて弾性画像34が生成される。テンプレート記憶部25に格納されたテンプレート36に対して、弾性画像のスケール情報に基づいて、サイズ調整38を行うことにより、実際に使用するテンプレート36Aが生成される。用意された複数のテンプレートの中から、抽出対象組織に応じて、特定のテンプレートが選択される。
【0045】
弾性画像34上において、テンプレート36Aがラスタースキャンされる。各スキャン位置において、例えば、各画素位置において、テンプレート36Aと弾性画像34中の対応部分(重合部分)との間でパターンマッチングが実行される。具体的には、相関演算が実行され、相関値として係数が演算される。弾性画像34から、二次元の係数配列が生成され、それが係数分布を構成する。各係数は類似度を示す。
【0046】
係数分布に基づいてカラー画像としての特定組織分布像40が生成される。図示の例では、特定組織分布像40には、2つの部分44a,44bが含まれる。白黒の断層画像32に対してカラーの特定組織分布像40を合成することにより、合成画像46が生成される。その合成画像46が表示される。
【0047】
実施形態においては、弾性画像の生成、パターンマッチング、及び、特定組織像の生成は、バックグラウンド処理として、つまり水面下で、実行されており、ユーザーにおいてそれらの処理を認識する必要はない。合成画像46を観察することにより、断面上の組織構造を背景として、特定組織の存否やその分布を容易に把握することが可能である。実施形態によれば、断層画像32上では特定困難な部分であっても、その部分が有する弾性パターンを用いてその部分を浮き彫りにすることが可能となる。例えば、集団検診における一次スクリーニングにおいて実施形態に係る技術を活用し得る。
【0048】
図3には、2つのテンプレートを併用する方法が示されている。弾性画像50に対して、第1組織探索用の第1テンプレート52をスキャンさせながら、各スキャン位置においてパターンマッチングが実行される。これにより第1係数分布が得られ、それを基礎として第1組織分布像56が生成される。第1組織分布像56は第1色相(例えば赤色)のカラー画像である。そこには局所的に存在する第1組織像60が含まれる。
【0049】
同様に、弾性画像50に対して、第2組織探索用の第2テンプレート54をスキャンさせながら、各スキャン位置においてパターンマッチングが実行される。これにより第2係数分布が得られ、それを基礎として第2組織分布像58が生成される。第2組織分布像は第2色相(例えば青色)のカラー画像である。そこには局所的に存在する第2組織像62が含まれる。なお、テンプレート52,54を構成する各画素は、カラーバー55で示されているように、組織の硬さを示すカラー値を有する。輝度値の諧調は例えば8ビットである。図3に示されたテンプレート52,54の内容は、それらが互いに異なることを分かり易く示すものに過ぎず、実際の弾性パターンを表したものではない。
【0050】
図4には合成画像64が例示されている。白黒のBモード断層画像66上に、カラーの第1組織分布像及び第2組織分布像を重畳させることにより、合成画像64が生成される。合成画像64には、第1組織像60及び第2組織像62が含まれる。
【0051】
例えば、第1テンプレートは、脂肪肝となる可能性の高い部位を探索するためのテンプレートであり、第2テンプレートは、肝硬変となる可能性の高い部位を探索するためのテンプレートである。その場合、合成画像64を通じて、肝臓の状態を総合的に評価することが可能となる。
【0052】
図5に示されているように、第1組織分布像のみが合成された合成画像68を表示するようにしてもよい。符号70は、脂肪肝の病態となる可能性の高い部位が密集している箇所を示している。図6に示されているように、第2組織分布像のみが合成された合成画像72を表示するようにしてもよい。符号74は、肝硬変の病態となる可能性の高い部位が密集している箇所を示している。もっとも、本明細書に含まれる各画像例は、発明の理解を容易にするためのものであり、実際の病態を正確に表したものではない。
【0053】
図7には、他の画像処理例が示されている。子宮に対する超音波診断により、断層画像76及び弾性画像86が生成される。断層画像76には、子宮像84及び頸管像78が含まれる。符号80は外子宮口を示しており、符号82は内子宮口を示している。
【0054】
頸管機能を評価し又は頸管疾患を診断する上で、頸管の熟化(軟化)の度合いを評価したいとのニーズがある。特に、頸管の熟化は、自然出産において重要な組織変化であり、熟化の度合いを評価したいとの強いニーズがある。
【0055】
テンプレート88は、熟化部位を探索するためのものである。熟化部位が硬軟の多層構造を有していることから、テンプレート88は、そのような多層構造に対応した弾性パターンを有している。図示の例では、パターンマッチング時のテンプレート88の回転を省くために、弾性パターンが二次元配列された複数のパターン要素90により構成されている。具体的には、弾性パターンは、y方向(第1方向)に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素列により構成され、各パターン要素列は、y方向に直交するx方向(第2方向)に均等のピッチで並ぶ複数のパターン要素により構成されている。y方向のピッチ及びx方向のピッチは同一である。y方向に並ぶ複数のパターン要素列の内で、偶数番目のパターン要素列は、奇数番目のパターン要素列に対して、x方向に半ピッチだけシフトしている。
【0056】
例えば、yn(但しnは整数)の位置にあるパターン要素列は輝度分布92を有する。輝度分布92は、周期的に存在する複数の緩やかな凸状(山状)関数94を含み、同時に、周期的に存在する複数の緩やかな凹状(谷状)関数96を含む。それらが交互に連なっている。これに対し、yn+1の位置にあるパターン要素列は、輝度分布92と同じ形態をもった輝度分布を有するが、それは輝度分布92に対してx方向に半ピッチずれている。以上においては、x方向の輝度分布について説明したが、y方向の輝度分布についても上記同様である。個々のパターン要素90は、実際には、三次元の輝度分布を有している。
【0057】
弾性画像86に対して、テンプレート88をスキャンさせながら、各スキャン位置においてパターンマッチングを実行することにより、頸管における個々の局所部位ごとに熟化度合いを示す係数を求めることが可能となる。すなわち、二次元的に広がる係数分布を得ることが可能となる。その係数分布をカラー画像化したものが熟化分布像98である。熟化分布像98には、熟化部位の集団98a,98bが含まれる。
【0058】
白黒の断層画像76に対してカラーの熟化分布像98を合成することにより合成画像100が生成される。合成画像100を観察することにより、頸管における熟化度合いや熟化の広がりを視覚的に把握することが可能となる。熟化分布像98の解析により熟化度合いが定量的に評価されてもよい。上記のテンプレート88は、熟化部位の層構造が有する周期に反応するパターンを有しており、テンプレート88を段階的に回転させることなく、熟化部位を検出し得る。
【0059】
図8には、熟化部位を検出するための他のテンプレート及びそれを利用したパターンマッチング方法が示されている。図示されたテンプレート102は、縞模様のパターンを有している。回転前のテンプレート102において、x方向における任意位置に直交するライン(y方向に平行なライン)に着目すると、そのライン上の輝度分布は、図7に示した輝度分布92と同じである。但し、その輝度分布はx方向に沿って一様である。
【0060】
テンプレート102を利用したパターンマッチングに先立って、画像解析又はユーザー入力により、断層画像76上において頸管の中心軸Cの角度θが特定される。これにより、その角度θに応じてテンプレート102中の縞模様の角度が変更される。すなわち、熟化部位における層構造の方向(各層が伸びる方向)にパターンの向きを合わせる処理が実行される。符号104は回転後のテンプレート104を有している。それが有する縞模様の基準方向は、水平ラインに対して角度θ分、傾いている。
【0061】
回転後のテンプレート104を利用して弾性画像に対してパターンマッチング処理を実行すれば、熟化部位の分布をより正確に特定することが可能である。テンプレート104の外形を維持してその内部の硬軟模様を回転させることに代えて、テンプレート102それ自体を回転させてもよい。いずれにしても検出対象組織の向きにテンプレートのパターンの向きを合わせる処理を実行した上で、パターンマッチング処理を実行すれば、検出対象組織の検出精度を高められる。
【0062】
図9には、実施形態に係る画像処理方法がフローチャートとして示されている。S10では、テンプレートが選択される。観察したい特定組織をユーザーが指定することにより、テンプレートが自動的に選択されてもよい。診療科目や診断部位からテンプレートが自動的に選択されてもよい。S12では、選択されたテンプレートのサイズが弾性画像のスケールに応じて調整される。S14以降の各工程がフレーム単位で実行される。
【0063】
S14では、弾性画像に対してテンプレートがスキャンされ、各スキャン位置においてパターンマッチングが実行される。その結果として係数が演算される。1回のテンプレートのスキャンにより1つの係数分布が生成される。
【0064】
S16では、係数分布に基づくカラー演算によりカラーの特定組織像が生成される。S18では、カラーの特定組織像とBモード断層画像が合成され合成画像が生成される。その合成画像が表示器に表示される。合成に際してはカラーの特定組織像に対して半透明処理が施される。S20では、本処理を継続させるか否かが判断される。本処理を続行させる場合にはS14以降の工程が再び実行される。
【0065】
上記実施形態によれば、観察者(医師、検査技師、被検者等)に対して、特定組織の存否や分布を容易に理解できる超音波画像を提供できる。上記実施形態においては、Bモード断層画像上に特定組織分布像が合成されていたが、他の画像(X線画像、MRI画像)に対して特定組織分布像が合成されてもよい。奥行き方向に並ぶ複数の超音波画像に対して上記方法を適用した上で、三次元の特定組織分布像を構築してもよい。ボリュームデータに対して三次元テンプレートを利用した三次元パターンマッチングを適用し、三次元の特定組織分布像を構築してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 プローブ、14 断層画像生成部、16 表示処理部、17 合成部、18 弾性情報演算部、20 弾性画像生成部、22 係数演算部、24 分布像生成部、25 テンプレート記憶部、32 断層画像、34 弾性画像、36 テンプレート、40 特定組織分布像、46 合成画像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9