(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置および車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20230508BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20230508BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/14
F16H61/662
(21)【出願番号】P 2019236743
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓市郎
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127950(JP,A)
【文献】特開2013-152008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡された無端環状部材と、を有し、前記駆動源から入力軸に入力される回転速度を変速して出力軸から出力する無段変速機と、を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記無段変速機の目標とする変速比である目標変速比と、前記駆動源から前記無段変速機に入力される入力トルクの推定値である第1入力トルクと、に基づいて、前記目標変速比を実現するための前記プライマリプーリの目標とする推力であるプライマリ目標推力及び前記セカンダリプーリの目標とする推力であるセカンダリ目標推力を設定し、
前記無段変速機の実際の変速比である実変速比を前記目標変速比に近づけるために前記プライマリプーリの実際の推力である実プライマリ推力を調整し、
前記実変速比が前記目標変速比になったときの前記実プライマリ推力と前記プライマリ目標推力とに基づいて、前記第1入力トルクを補正する補正値を演算する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載された車両の制御装置において、
前記制御装置は、
前記第1入力トルクと前記補正値との関係を学習してマップを作成し、
前記マップに基づいて、前記第1入力トルクを補正する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載された車両の制御装置において、
前記制御装置は、
外気温に応じて、前記補正値を補正する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1つに記載された車両の制御装置において、
前記補正値の演算は、前記目標変速比が一定である場合に行われる、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項
4に記載された車両の制御装置において、
前記目標変速比が一定である場合とは、車速が一定かつアクセル開度が一定の状態が所定時間継続した場合である、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項
4に記載された車両の制御装置において、
前記目標変速比が一定である場合とは、前記無段変速機において変速段を選択できるマニュアルモードがON状態になっている場合である、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
駆動源と、
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡された無端環状部材と、を有し、前記駆動源から入力軸に入力される回転速度を変速して出力軸から出力する無段変速機と、を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
制御装置が、
前記無段変速機の目標とする変速比である目標変速比と、前記駆動源から前記無段変速機に入力される入力トルクの推定値である第1入力トルクと、に基づいて、前記目標変速比を実現するための前記プライマリプーリの目標とする推力であるプライマリ目標推力及び前記セカンダリプーリの目標とする推力であるセカンダリ目標推力を設定し、
前記無段変速機の実際の変速比である実変速比を前記目標変速比に近づけるために前記プライマリプーリの実際の推力である実プライマリ推力を調整し、
前記実変速比が前記目標変速比になったときの前記実プライマリ推力と前記プライマリ目標推力とに基づいて、前記第1入力トルクを補正する補正値を演算する、
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置および車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無段変速機の入力軸に入力されるトルクの推定値である推定入力トルクと無段変速機の実変速比とに基づいて、ベルトとプーリとの間に滑りを生じさせることのない値となるようなセカンダリプーリの目標推力を算出し、この目標推力を用いて、無段変速機を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン制御装置から得られる推定入力トルクは推定値であり、実際に無段変速機に入力されるトルクである実入力トルクとの間にずれがあることがある。このため、例えば、実入力トルクが推定入力トルクより大きくなるようなずれが生じている場合には、ベルトとプーリとの間に滑りが生じるおそれがある。
【0005】
そこで、このようなずれを考慮し、目標推力に対して、あらかじめ油圧を高めに設定することが考えられる。しかしながら、目標推力に対して油圧を高めに設定すると、その分高い油圧が必要となり、エネルギ効率が悪化してしまう。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、推定入力トルクを実入力トルクに相当するように補正して変速制御を行う制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、車両の制御装置は、駆動源と、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに掛け渡された無端環状部材と、を有し、駆動源から入力軸に入力される回転速度を変速して出力軸から出力する無段変速機と、を備えた車両を制御する。さらに、無段変速機の目標とする変速比である目標変速比と、駆動源から無段変速機に入力される入力トルクの推定値である第1入力トルクと、に基づいて、目標変速比を実現するためのプライマリプーリの目標とする推力であるプライマリ目標推力及びセカンダリプーリの目標とする推力であるセカンダリ目標推力を設定し、無段変速機の実際の変速比である実変速比を目標変速比に近づけるためにプライマリプーリの実際の推力である実プライマリ推力及びセカンダリプーリの実際の推力である実セカンダリ推力を調整し、実変速比が目標変速比になったときの実プライマリ推力とプライマリ目標推力とに基づいて、第1入力トルクを補正する補正値を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この形態によれば、補正値を用いて第1入力トルクを補正することにより、例えば第1入力トルクが第2入力トルクより大きい場合に、プライマリ目標推力及びセカンダリ目標推力を小さくできる。これにより、プライマリ目標推力及びセカンダリ目標推力を発生されるために必要な油圧を低くすることができる。よって、エネルギ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、本発明に係る変速制御のフローチャートである。
【
図3】
図3は、目標変速比と、伝達トルク比と、推力比との関係を示すマップである。
【
図4】
図4は、変形例における変速制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る車両の制御装置及び車両の制御方法について説明する。
【0012】
図1は、車両100の概略構成図である。車両100は、エンジン1と、無段変速機としての自動変速機3と、オイルポンプ5と、駆動輪6と、制御装置としてのコントローラ20と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン、軽油等を燃料とする内燃機関であり、走行用駆動源として機能する。エンジン1は、コントローラ20からの指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
自動変速機3は、トルクコンバータ2と、締結要素31と、バリエータ30と、油圧コントロールバルブユニット40(以下では、単に「バルブユニット40」ともいう。)と、オイル(作動油)を貯留するオイルパン32と、を備える。
【0015】
トルクコンバータ2は、エンジン1と駆動輪6の間の動力伝達経路上に設けられる。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。また、トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ2aを締結することで、エンジン1からの駆動力の動力伝達効率を高めることができる。
【0016】
締結要素31は、トルクコンバータ2とバリエータ30の間の動力伝達経路上に配置される。締結要素31は、図示しない前進クラッチ及び後進ブレーキを備える。締結要素31は、コントローラ20からの指令に基づき、オイルポンプ5の吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧されたオイルによって制御される。締結要素31としては、例えば、多板クラッチが用いられる。
【0017】
バリエータ30は、動力伝達経路上におけるトルクコンバータ2の下流であって、締結要素31と駆動輪6との間に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比を無段階に変更する。バリエータ30は、プライマリプーリ30aと、セカンダリプーリ30bと、両プーリ30a,30bに巻き掛けられたベルト30cと、を備える。プーリ圧によりプライマリプーリ30aの可動プーリとセカンダリプーリ30bの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルト30cのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更する。なお、プライマリプーリ30aに作用するプーリ圧及びセカンダリプーリ30bに作用するプーリ圧は、オイルポンプ5からの吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧される。なお、以下では、プライマリを「PRI」、セカンダリを「SEC」ともいう。
【0018】
バリエータ30のSECプーリ30bの出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル12が接続される。ディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して駆動輪6が接続される。
【0019】
オイルポンプ5は、エンジン1の回転がベルトを介して伝達されることによって駆動される。オイルポンプ5は、例えばベーンポンプによって構成される。オイルポンプ5は、オイルパン32に貯留されるオイルを吸い上げ、バルブユニット40にオイルを供給する。バルブユニット40に供給されたオイルは、ロックアップクラッチ2aの駆動、各プーリ30a,30bの駆動や、締結要素31の駆動、自動変速機3の各要素の潤滑などに用いられる。
【0020】
コントローラ20は、自動変速機3を制御するATCU21、エンジン1の制御を行うECU22、及びシフトレンジを制御するSCU(図示せず)等を備える。ATCU21及びECU22は、それぞれ、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ20は、複数のマイクロコンピュータによって構成されているが、1つのマイクロコンピュータによって構成されていてもよい。
【0021】
ATCU21には、エンジン1の回転速度Neを検出する第1回転速度センサ51、トルクコンバータ2の出力軸側であるタービンの回転速度(出力側回転速度Ntout)を検出する第2回転速度センサ52、プライマリプーリ30aの回転速度(プライマリ回転速度Npri)を検出する第3回転速度センサ53、セカンダリプーリ30bの回転速度(セカンダリ回転速度Nsec)を検出する第4回転速度センサ54、車速Vを検出する車速センサ55、締結要素31のセレクトレンジ(前進、後進、ニュートラル及びパーキングを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ56、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ57、ブレーキの踏力を検出する踏力センサ58等、からの信号が入力される。ATCU21は、入力されるこれら信号に基づき、自動変速機3の各種動作を制御する。なお、プライマリプーリ30aの回転速度(プライマリ回転速度Npri)は、締結要素31の出力回転速度に相当する。
【0022】
ところで、変速比を制御する変速制御を行う際、ATCU21は、ECU22によってエンジン1のスロットル開度に基づいて演算されたエンジン1の出力トルク(以下では、「推定入力トルクTin1」という。)に基づいて、PRIプーリ30aの目標とする推力であるPRI目標推力Pt1及びSECプーリ30bの目標とする推力であるSEC目標推力Pt2を算出し、このPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2になるように、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bに供給される油圧を制御する。なお、ここでいう推力とは、プーリに供給される圧力と可動プーリの受圧面積との積であり、各プーリ30a,0bがベルト30cを挟持する際の挟持力に相当する。
【0023】
ECU22から得られるエンジン1の出力トルクは推定値であり、実際に自動変速機3に入力されるトルクである実入力トルクTin2との間にずれがある。このため、例えば、実入力トルクTin2が推定入力トルクTin1より大きくなるようなずれが生じている場合には、ベルト30cとプーリ30a,30bとの間に滑りが生じるおそれがある。
【0024】
このため、このようなずれを考慮し、あらかじめPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2に対して、油圧を高めに設定することが考えられる。しかしながら、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2に対して、油圧を高めに設定すると、その分高い油圧が必要となり、エネルギ効率が悪化してしまう。
【0025】
そこで、本実施形態では、実入力トルクTin2を演算によって求め、この実入力トルクTin2に基づいて変速制御を行う。以下に、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態における変速制御について説明する。なお、
図2は、本実施形態の変速制御のフローチャートである。また、
図3は、目標変速比と、伝達トルク比と、推力比との関係を示すマップである。
【0026】
まず、ステップS1において、推定入力トルクTin1を補正する。具体的には、ATCU21は、作成した補正マップを参照して、ECU22から送信された推定入力トルクTin1を補正する。なお、補正マップが存在していない場合(初期時)には、補正値を0として補正(推定入力トルクTin1をそのまま出力)する。
【0027】
ステップS2では、SEC目標推力Pt2を演算する。SEC目標推力Pt2とは、SECプーリ30bの目標とする推力である。ATCU21は、あらかじめ記憶された推定入力トルクTin1とSEC目標推力Pt2との関係を示すマップ(図示せず)を参照して、ECU22から入力された推定入力トルクTin1に対応するSEC目標推力Pt2を算出する。なお、推定入力トルクTin1が大きくなるほど、ベルト30cの滑りが発生しやすくなるため、マップにおいては、推定入力トルクTin1が大きいほどSEC目標推力Pt2が大きくなるような特性に設定される。
【0028】
ステップS3では、目標推力比Rptを演算する。目標推力比Rptとは、PRIプーリ30aの目標とする推力であるPRI目標推力Pt1と、SEC目標推力Pt2との比(Pt1/Pt2)である。ATCU21は、あらかじめ記憶された目標変速比Rtと、推力比Rpと、伝達トルク比Trとの関係を示すマップ(
図3参照)に基づいて、目標推力比Rptを演算する。なお、伝達トルク比Trとは、推定入力トルクTin1とSEC目標推力Pt2との比(Tin1/Pt2)である。また、目標変速比Rtは、車速とアクセル開度等に基づいて算出される。
【0029】
ステップS4では、PRI目標推力Pt1を演算する。具体的には、ATCU21は、ステップS3において算出した目標推力比RptとステップS2において算出されたSEC目標推力Pt2とに基づいて、PRI目標推力Pt1を算出する。
【0030】
ステップS5では、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bの推力をPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2になるように制御する。具体的には、ATCU21は、バルブユニット40を制御してPRIプーリ30a及びSECプーリ30bの油圧が、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を発生する圧力となるように制御する。
【0031】
ステップS6では、実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなったか否かを判定する。具体的には、ATCU21は、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bに供給される圧力を検出する圧力センサ(図示せず)によって検出された圧力に基づいて、実際のPRIプーリ30aの推力である実PRI推力Pr1及び実際のSECプーリ30bの推力である実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2に到達したか否かを判定する。なお、ステップS6では、実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、あらかじめ定められた範囲に到達したときに、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなったと判定する。実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなっていれば、ステップS8に進み、実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなっていなければ、ステップS7に進み、実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2がそれぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなるように、バルブユニット40を制御する。
【0032】
ステップS8では、実変速比Rrが目標変速比Rtに等しくなったか否かを判定する。具体的には、ATCU21は、第3回転速度センサ53によって検出されたプライマリ回転速度Npriと第4回転速度センサ54によって検出されたセカンダリ回転速度Nsecとに基づいて自動変速機3の実際の変速比である実変速比Rrを算出し、算出された実変速比Rrが目標変速比Rtに等しくなったか否かを判定する。なお、ステップS8では、実変速比Rrがあらかじめ設定された範囲に到達したときに、目標変速比Rtと等しくなったと判定する。実変速比Rrが目標変速比Rtに等しくなければ、ENDに進み、実変速比Rrが目標変速比Rtに等しくなっていれば、ステップS9に進む。
【0033】
ステップS9では、実入力トルクTin2を演算する。実入力トルクTin2とは、自動変速機3に入力される実際のトルクに相当するトルクの演算値である。ここで、実入力トルクTin2の算出方法について、
図3の具体例を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
上述のステップS2において設定されたSEC目標推力Pt2と、ステップS4において設定されたPRI目標推力Pt1と、の比、つまり、目標推力比RptがRp1で、目標変速比がRtnである場合には、目標とする伝達トルク比TrはTr1となる。
【0035】
実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなったときに、例えば、実変速比RrがRtn-1である場合には、実変速比Rrと目標変速比Rtnとの間にずれが生じていることになる。実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しいにもかかわらず、変速比がRtn-1であるということは、伝達トルク比TrはTr1からΔTrずれたTr2であると判断することができる。
【0036】
さらに、実際の伝達トルク比TrがTr2であれば、SEC目標推力Pt2から実際の入力トルクである実入力トルクTin2を算出することができる。
【0037】
ATCU21は、このようにして実入力トルクTin2を演算する。
【0038】
ステップS10では、学習条件が成立したか否かを判定する。具体的には、ATCU21は、目標変速比Rtが一定になる条件を満たしているか否かを判定する。目標変速比Rtが一定になる条件としては、例えば、車速が一定かつアクセル開度が一定の状態が所定時間継続したとき、あるいは、変速段を選択できるマニュアルモードがON状態になっているときなどである。学習条件が成立していれば、ステップS11に進み、学習条件が成立していなければ、ステップS1に戻る。
【0039】
ステップS11では、ずれ量を学習するとともに、補正値D1を演算して補正マップを作成する。具体的には、ATCU21は、ステップS9において算出された実入力トルクTin2と、ECU22から送信された推定入力トルクTin1と、のずれ量を学習し、実入力トルクTin2と推定入力トルクTin1との差を補正する補正値D1を算出する。さらに、ATCU21は、推定入力トルクTin1と、算出された補正値D1との関係を示すマップを作成する。なお、補正値D1は、外気温によって補正してもよい。また、マップを外気温毎に作成してもよい。
【0040】
ステップS11ですれ量の学習が完了すると、ステップS1に戻る。以降は、このフローを繰り返す。
【0041】
なお、補正マップが作成されたあとは、ステップS1において、推定入力トルクTin1が補正される。具体的には、ATCU21は、作成した補正マップを参照して補正値D1を求め、ECU22から送信された推定入力トルクTin1を補正する。そして、補正された推定入力トルクTin1(補正入力トルクTa1)に基づいて、再びステップS2以下のフローを実行する。
【0042】
ECU22から得られる推定入力トルクTin1は推定値であり、実際に自動変速機3に入力されるトルクである実入力トルクTin2との間にずれがあることがある。このため、例えば、実入力トルクTin2が推定入力トルクTin1より大きくなるようなずれが生じている場合には、ベルト30cとプーリ30a,30bとの間に滑りが生じるおそれがある。このため、このようなずれを考慮し、目標推力(PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2)に対して、あらかじめ油圧を高めに設定することが考えられる。しかしながら、目標推力(PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2)に対して油圧を高めに設定すると、その分高い油圧が必要となり、エネルギ効率が悪化してしまう。
【0043】
そこで、本実施形態の変速制御では、推定入力トルクTin1と実入力トルクTin2とのずれ量に基づいて、推定入力トルクTin1を補正する補正値D1を演算し、補正マップを作成する。そして、推定入力トルクTin1をマップを用いて補正した補正入力トルクTa1に基づいて、すなわち、実入力トルクTin2に相当する補正入力トルクTa1に基づいて、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を設定する。これにより、目標推力(PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2)に対して、あらかじめ油圧を高めに設定する必要が無いので、適正な油圧に基づいて制御を行うことができ、エネルギ効率(燃費)が向上する。
【0044】
具体的には、例えば、
図3に示す例のように、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より大きい場合に、SEC目標推力Pt2を小さくできる。さらに、SEC目標推力Pt2が小さくなると、PRI目標推力Pt1も小さくなる。これにより、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を発生されるために必要な油圧を低くすることができるので、エネルギ効率(燃費)が向上する。
【0045】
また、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より小さい場合には、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が高めに設定されることから、過剰な推力が作用するおそれがある。しかしながら、本実施形態の変速制御を実行することによって、実入力トルクTin2に相当する補正入力トルクTa1に基づいてPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が設定されるので、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bに過剰な推力が発生することが防止され、燃費向上に繋がる。
【0046】
さらに、補正マップを作成することにより、推定入力トルクTin1を補正した補正入力トルクTa1(実入力トルクTin2)に基づいて、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を設定することができる、つまり、フィードフォワード制御として変速制御を行うことができるので、フィードバック制御による変速制御を行う場合に比べ、目標変速比Rtに到達するまでの時間を短くすることができる。
【0047】
次に、
図4を参照しながら、変形例に係る変速制御について説明する。
図4に示すステップS101-S108は、
図2に示すフローチャートのステップS1-S8と同じであるので、説明を省略する。
【0048】
図4に示す変形例では、ステップS108において、実変速比Rrが目標変速比Rtと等しくないと判定された場合には、ステップS110に進む。ステップS110では、PRI目標推力Pt1を補正する。具体的には、ATCU21は、実変速比Rrと目標変速比Rtとの間にずれを補正するために、PRI目標推力Pt1をフィードバック制御する。このとき、ATCU21は、SEC目標推力Pt2は変化させずに、PRI目標推力Pt1を変化させる。これにより、例えば、
図3に示すように、伝達トルク比Trは変化せずに、推力比RpがRp1からRp2に変化するようにPRI目標推力Pt1をPRI目標推力Pt1aに補正する。ステップS110において、PRI目標推力Pt1を補正すると、ステップS106に戻る。
【0049】
これに対し、ステップS108において、実変速比Rrが目標変速比Rtと等しいと判定された場合には、ステップS109に進む。ステップS109では、学習条件が成立したか否かを判定する。ステップS109の判定方法は、
図2におけるステップS10と同じであるので、説明を省略する。ステップS109において、学習条件が成立していなければ、ENDに進み、学習条件が成立していればステップS111に進む。
【0050】
ステップS111では、実入力トルクTin2を演算する。ここで、ステップS111における実入力トルクTin2の算出方法について、
図3の具体例を参照しながら説明する。
【0051】
実PRI推力Pr1及び実SEC推力Pr2が、それぞれPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2と等しくなったときに、例えば、実変速比RrがRtn-1である場合には、実変速比Rrと目標変速比Rtnとの間にずれが生じていることになる。このようなずれがあると、ATCU21は、上述のステップS110において、実変速比Rrを目標変速比Rtnとするために、PRIプーリ30aの目標推力をPRI目標推力Pt1aに補正している。
【0052】
目標変速比Rtnであって、目標推力比RpがRp1であるときに、PRIプーリ30aの目標推力をPRI目標推力Pt1aに補正して、実変速比Rrが目標変速比Rtnと等しくなったということは、実際の推力比RpがRp2になっているということになる。そして、
図3における変速比Rtnの線における推力比Rp1とRp2とのずれから、伝達トルク比TrがTr1からΔTrずれたTr2であると判断することができる。別の言い方をすると、この変形例では、補正されたPRI目標推力Pt1a、つまり、実際のPRIプーリ30aの推力(実プライマリ推力Pr1)とPRI目標推力Pt1とのずれに基づいて、伝達トルク比TrがTr1からΔTrずれたTr2であると判断することができる。
【0053】
実際の伝達トルク比TrがTr2であれば、SEC目標推力Pt2から実際の入力トルクである実入力トルクTin2を算出することができる。
【0054】
本変形例では、ATCU21は、このようにして実入力トルクTin2を演算する。
【0055】
ステップS112では、ずれ量を学習するとともに、補正値D1を演算して補正マップを作成する。具体的には、ATCU21は、ステップS111において算出された実入力トルクTin2と、ECU22から送信された推定入力トルクTin1と、のずれ量を学習し、実入力トルクTin2と推定入力トルクTin1との差を補正する補正値D1を算出する。さらに、ATCU21は、推定入力トルクTin1と、算出された補正値D1との関係を示すマップを作成する。なお、補正値D1は、外気温によって補正してもよい。また、マップを外気温毎に作成してもよい。
【0056】
ステップS112ですれ量の学習が完了すると、ステップS101に戻る。以降はこのフローを繰り返す。
【0057】
なお、補正マップが作成されたあとは、ステップS101において、推定入力トルクTin1が補正される。具体的には、ATCU21は、作成した補正マップを参照して補正値D1を求め、ECU22から送信された推定入力トルクTin1を補正する。そして、補正された推定入力トルクTin1(補正入力トルクTa1)に基づいて、再びステップS102以下のフローを実行する。
【0058】
このように、この変形例においても、推定入力トルクTin1を補正する補正値D1を演算し、補正マップを作成する。そして、実入力トルクTin2に相当する補正入力トルクTa2に基づいて、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を設定する。これにより、例えば、
図3に示す例のように、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より大きい場合に、SEC目標推力Pt2を小さくできる。さらに、SEC目標推力Pt2が小さくなると、PRI目標推力Pt1も小さくなる。これにより、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を発生されるために必要な油圧を低くすることができるので、エネルギ効率(燃費)が向上する。
【0059】
また、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より小さい場合には、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が高めに設定されることから、過剰な推力が作用するおそれがある。しかしながら、本変形例の変速制御を実行することによって、実入力トルクTin2に相当する補正入力トルクTa1に基づいてPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が設定されるので、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bに過剰な推力が発生することが防止され、燃費向上に繋がる。
【0060】
なお、上記実施形態及び変形例では、ATCU21において、推定入力トルクTin1を補正する場合を例に説明したが、補正マップをECU22に送信し、ECU22において推定入力トルクTin1を補正するようにしてもよい。さらに、ECU22において、補正マップを作成するようにしてもよい。
【0061】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0062】
制御装置(コントローラ20)は、駆動源(エンジン1)と、プライマリプーリ30aと、セカンダリプーリ30bと、プライマリプーリ30aおよびセカンダリプーリ30bに掛け渡された無端環状部材(ベルト30c)と、を有し、駆動源(エンジン1)から入力軸に入力される回転速度を変速して出力軸から出力する無段変速機(自動変速機3)と、を備えた車両100を制御する。
【0063】
制御装置(ATCU21)は、無段変速機(自動変速機3)の目標とする変速比である目標変速比Rtと、駆動源(エンジン1)から無段変速機(自動変速機3)に入力される入力トルクの推定値である第1入力トルク(推定入力トルクTin1)と、に基づいて、目標変速比Rtを実現するためのプライマリプーリ30aの目標とする推力であるプライマリ目標推力Pt1及びセカンダリプーリ30bの目標とする推力であるセカンダリ目標推力Pt2を設定する。
【0064】
制御装置(ATCU21)は、プライマリ目標推力Pt1及びセカンダリ目標推力Pt2に相当する推力が発生したときの無段変速機(自動変速機3)の実際の変速比である実変速比Rrに基づいて、無段変速機(自動変速機3)に入力される実際の入力トルクである第2入力トルク(実入力トルクTin2)を演算し、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)と第2入力トルク(実入力トルクTin2)とのずれ量に基づいて、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正する補正値D1を演算する。
【0065】
補正値D1を用いて第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正することにより、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より大きい場合に、SEC目標推力Pt2を小さくできる。さらに、SEC目標推力Pt2が小さくなると、PRI目標推力Pt1も小さくなる。これにより、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を発生されるために必要な油圧を低くすることができる。よって、エネルギ効率(燃費)を向上させることができる。また、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より小さい場合には、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が高めに設定されることから、過剰な推力が作用するおそれがある。しかしながら、本変形例の変速制御を実行することによって、実入力トルクTin2に相当する補正入力トルクTa1に基づいてPRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2が設定されるので、PRIプーリ30a及びSECプーリ30bに過剰な推力が発生することが防止される。よって、エネルギ効率(燃費)を向上させることができる。
【0066】
また、制御装置(ATCU21)は、無段変速機(自動変速機3)の実際の変速比である実変速比Rrを目標変速比Rtに近づけるためにプライマリプーリ30aの実際の推力である実プライマリ推力Pr1を調整し、実変速比Rrが目標変速比Rtになったときの実プライマリ推力Pr1とプライマリ目標推力Pt1とに基づいて、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正する補正値D1を演算する。
【0067】
補正値D1を用いて第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正することにより、推定入力トルクTin1が実入力トルクTin2より大きい場合に、SEC目標推力Pt2を小さくできる。さらに、SEC目標推力Pt2が小さくなると、PRI目標推力Pt1も小さくなる。これにより、PRI目標推力Pt1及びSEC目標推力Pt2を発生されるために必要な油圧を低くすることができる。よって、エネルギ効率(燃費)を向上させることができる(請求項1、7に係る発明の効果)。
【0068】
制御装置(ATCU21)は、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)と補正値D1との関係を学習して補正マップを作成し、補正マップに基づいて、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正する。
【0069】
補正マップを作成した後は、補正値D1を都度演算しなくても補正マップに基づいて、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)を補正することができるので、制御負担を軽減することができる(請求項2に係る発明の効果)。
【0070】
制御装置(ATCU21)は、外気温に応じて、補正値D1を補正する。
【0071】
外気温(エンジン1の吸気温度)によって酸素密度が異なるため、駆動源(エンジン1)の出力トルクが変化する。そこで、外気温に応じて補正値D1を補正することにより、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)をより適切な値で補正することができる(請求項3に係る発明の効果)。
【0072】
補正値D1の演算は、目標変速比Rtが一定である場合に行われる。具体的には、車速が一定かつアクセル開度が一定の状態が所定時間継続した場合、あるいは、無段変速機(自動変速機3)において変速段を選択できるマニュアルモードがON状態になっている場合に、制御装置(ATCU21)は、補正値D1の演算を行う。
【0073】
目標変速比Rtが一定である場合に補正値D1の演算を行うことで、入力トルクのずれを精度よく算出することができる。これにより、第1入力トルク(推定入力トルクTin1)をより適切な値で補正できる(請求項4、5、6に係る発明の効果)。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正を成し得ることはいうまでもない。
【0075】
以上の説明では、駆動源としてエンジン1を備えた構成を例に説明したが、駆動源は、電動モータ(例えば、モータジェネレータ)のみであってもよく、内燃エンジンと電動モータとの組合せであってもよい。
【0076】
なお、上記実施形態では、締結要素31がトルクコンバータ2とバリエータ30の間の動力伝達経路上に配置された場合を例に説明したが、締結要素31は、動力伝達経路上におけるセカンダリプーリ30bの下流側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0077】
100 車両
1 エンジン(駆動源)
3 自動変速機(無段変速機)
20 コントローラ(制御装置)
21 ATCU(制御装置)
22 ECU(制御装置)
30 バリエータ
30a プライマリプーリ
30b セカンダリプーリ
30c ベルト
40 油圧コントロールバルブユニット